JP3915249B2 - 車両のブレーキ液圧制御装置 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、電動モータによって液圧ポンプを駆動し、モジュレータを介してホイールシリンダにブレーキ液を吐出して種々の制動制御を行なう車両のブレーキ液圧制御装置に関し、特に、電動モータを駆動する電流によって液圧ポンプの作動状態を監視し得るブレーキ液圧制御装置に係る。
【0002】
【従来の技術】
近時、電動モータによって液圧ポンプを駆動し、モジュレータを介してホイールシリンダにブレーキ液を吐出して種々の制動制御を行なうように構成したブレーキ液圧制御装置が普及しており、液圧ポンプの作動状態を監視し得る技術が希求されている。例えば、特開昭63−145163号公報には、油圧ポンプの吐出圧と電動モータの動作電流値との間に相関があることに着目し、電動モータの動作電流値に基づいて油圧ポンプの吐出圧を検出する車両用油圧装置の制御回路が提案されている。同公報には、電動モータの動作電流値が設定値から外れていることの検出により異常を検出し、それにより、起動信号の出力を停止して電動モータを停止し、動作不良状態のまま制御動作が継続することを回避できる旨記載されている。
【0003】
また、特開昭63−145164号公報には、同様の構成で、異常発生時には、その異常発生を運転者に知らせて注意や修理を促すことを目的として、電動モータの動作電流値が設定値から外れているときには警報を発生するように構成した車両用油圧装置の制御回路が提案されている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
上記のように、近時のブレーキ液圧制御装置においては、電動モータによって液圧ポンプを駆動し、モジュレータを介してホイールシリンダにブレーキ液を吐出して種々の制動制御を行なうことができるように構成されており、電動モータを駆動する電流によって液圧ポンプの作動状態を監視し得るようにすることが要請されている。
【0005】
しかし、前掲の公報に記載の装置においては、電動モータの動作電流値が設定値から外れているときに異常信号を出力する構成であり、電動モータの負荷は、これに接続された液圧ポンプであるので、雰囲気温度等によって油圧ポンプの特性が変動する。この結果、電動モータの電流値が変動するので、液圧ポンプの作動状態を正確に判定することは困難である。また、複数の液圧系統の各々に液圧ポンプが配置されている場合には、各液圧系統毎の判定が困難である。勿論、各液圧系統毎に液圧ポンプの吐出側に圧力センサを配置し、吐出圧力を検出することとすれば各液圧系統毎の判定が可能であるが、コストアップとなり適切な代替手段とは成り得ない。
【0006】
そこで、本発明は、電動モータによって液圧ポンプを駆動し、モジュレータを介してホイールシリンダにブレーキ液を吐出して種々の制動制御を行なう車両のブレーキ液圧制御装置において、電動モータを駆動する電流によって液圧ポンプの作動状態を適切且つ容易に監視し得るようにすることを課題とする。
【0007】
【課題を解決するための手段】
上記の課題を解決するため、本発明の車両のブレーキ液圧制御装置は、請求項1に記載のように、車両の各車輪に装着し制動力を付与するホイールシリンダと、低圧リザーバのブレーキ液を少なくともブレーキペダルの操作に応じて昇圧しマスタシリンダ液圧を出力するマスタシリンダと、前記ホイールシリンダを二組に分割し該二組のホイールシリンダの各々と前記マスタシリンダとの間を第1及び第2のブレーキ液圧系統を介して接続し、該第1及び第2のブレーキ液圧系統の各々に介装し前記ホイールシリンダの各々のブレーキ液圧を調整する二組のモジュレータと、前記第1及び第2のブレーキ液圧系統の各々に介装し前記モジュレータの各々を介して前記ホイールシリンダの各々に昇圧したブレーキ液を吐出する一対の液圧ポンプと、該一対の液圧ポンプを同時に駆動する単一の電動モータと、該電動モータ及び前記モジュレータを制御する制御手段とを備えた車両のブレーキ液圧制御装置において、前記制御手段の出力に応じて前記電動モータを駆動する電流を検出する電流検出手段と、前記電動モータによって前記一対の液圧ポンプのうちの一方のみを負荷状態で駆動しているときに前記電流検出手段が検出した前記電動モータの負荷電流と前記一対の液圧ポンプの両方を無負荷状態で駆動しているときに前記電流検出手段が検出した前記電動モータの無負荷電流との差を演算する電流差演算手段と、該電流差演算手段が演算した負荷電流と無負荷電流との差が所定値を超えておれば前記一対の液圧ポンプのうちの前記負荷状態で駆動している液圧ポンプの吐出ブレーキ液圧を正常として処理する吐出判定手段とを備えることとしたものである。
【0009】
前記第1及び第2のブレーキ液圧系統の各々において、請求項2に記載のように、前記マスタシリンダと前記モジュレータ及び前記液圧ポンプの吐出側とを連通接続する液圧路を開閉すると共に、前記低圧リザーバを直接、又は前記マスタシリンダを介して前記液圧ポンプの吸込側に連通接続する液圧路を開閉する弁装置を備えたものとし、該弁装置によって前記液圧ポンプの吐出側と前記マスタシリンダとの連通を遮断し、且つ前記モジュレータによって前記液圧ポンプの吐出側と前記ホイールシリンダとの連通を遮断した状態で、前記液圧ポンプを駆動して前記負荷状態を設定するように構成するとよい。尚、前記弁装置は単一の3ポート2位置切換弁で構成することができるが、前記マスタシリンダと前記モジュレータ及び前記液圧ポンプの吐出側とを連通接続する液圧路を開閉する常開の第1の開閉弁と、前記低圧リザーバを直接、又は前記マスタシリンダを介して前記液圧ポンプの吸込側に連通接続する液圧路を開閉する常閉の第2の開閉弁によって構成することとしてもよい。
【0010】
また、前記車両のブレーキ液圧制御装置において、請求項3に記載のように、前記負荷電流と無負荷電流との差の比較対象である前記所定値を前記マスタシリンダ液圧に応じた値に設定するように構成するとよい。
【0011】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の望ましい実施形態を図面を参照して説明する。図1は本発明の一実施形態のブレーキ液圧制御装置の全体構成を示し、ブレーキペダルBPの操作に応じてバキュームブースタVBを介してマスタシリンダMCが倍力駆動され、低圧リザーバLRS内のブレーキ液が昇圧されて車輪FR,RL側及び車輪FL,RR側の二つのブレーキ液圧系統にマスタシリンダ液圧が出力されるように構成されている。マスタシリンダMCは二つの圧力室を有するタンデム型のマスタシリンダで、一方の圧力室は車輪FR,RL側のブレーキ液圧系統に連通接続され、他方の圧力室は車輪FL,RR側のブレーキ液圧系統に連通接続されている。
【0012】
車輪FL,FR,RL,RRには夫々ホイールシリンダWfl,Wfr,Wrl,Wrrが装着されており、これらのホイールシリンダWfl等は本発明のモジュレータを構成する開閉弁PC1等を介してマスタシリンダMCに接続されている。尚、車輪FLは運転席からみて前方左側の車輪を示し、以下車輪FRは前方右側、車輪RLは後方左側、車輪RRは後方右側の車輪を示しており、本実施形態では所謂X配管が構成されている。各車輪には車輪速度センサ(図示せず)が配設され、これらが電子制御装置ECUに接続されており、各車輪の回転速度、即ち車輪速度に比例するパルス数のパルス信号が電子制御装置ECUに入力されるように構成されている。更に、図示は省略するが、ブレーキペダルBPが踏み込まれたときオンとなるブレーキスイッチ、車両前方の車輪FL,FRの舵角を検出する前輪舵角センサ、車両の横加速度を検出する横加速度センサ及び車両のヨーレイトを検出するヨーレイトセンサ等が電子制御装置ECUに接続されている。
【0013】
本実施形態の車輪FR,RL側のブレーキ液圧系統においては、一方の圧力室は主液圧路MF及びその分岐液圧路MFr,MFlを介して夫々ホイールシリンダWfr,Wrlに接続されている。主液圧路MFには常開の第1の開閉弁SC1(所謂カットオフ弁として機能するもので、以下、単に開閉弁SC1という)が介装されている。また、一方の圧力室は補助液圧路MFcを介して後述する逆止弁CV5,CV6の間に接続されている。補助液圧路MFcには常閉の第2の開閉弁SI1(以下、単に開閉弁SI1という)が介装されている。これらの開閉弁は何れも2ポート2位置の電磁開閉弁で構成されている。分岐液圧路MFr,MFlには夫々、常開型の2ポート2位置電磁開閉弁PC1及びPC2(以下、単に開閉弁PC1,PC2という)が介装されている。また、これらと並列に夫々逆止弁CV1,CV2が介装されている。
【0014】
逆止弁CV1,CV2は、マスタシリンダMC方向へのブレーキ液の流れを許容しホイールシリンダWfr,Wrl方向へのブレーキ液の流れを制限するもので、これらの逆止弁CV1,CV2及び第1の位置(図示の状態)の開閉弁SC1を介してホイールシリンダWfr,Wrl内のブレーキ液がマスタシリンダMCひいては低圧リザーバLRSに戻されるように構成されている。而して、ブレーキペダルBPが解放されたときに、ホイールシリンダWfr,Wrl内の液圧はマスタシリンダMC側の液圧低下に迅速に追従し得る。また、ホイールシリンダWfr,Wrlに連通接続される排出側の分岐液圧路RFr,RFlに、夫々常閉型の2ポート2位置電磁開閉弁PC5,PC6(以下、単に開閉弁PC5,PC6という)が介装されており、分岐液圧路RFr,RFlが合流した排出液圧路RFはリザーバRS1に接続されている。
【0015】
車輪FR,RL側のブレーキ液圧系統においては、上記開閉弁PC1,PC2,PC5,PC6によって本発明にいうモジュレータが構成されている。また、開閉弁PC1,PC2の上流側で分岐液圧路MFr,MFlに連通接続する液圧路MFpに、液圧ポンプHP1が介装され、その吸込側には逆止弁CV5,CV6を介してリザーバRS1が接続されている。また、液圧ポンプHP1の吐出側は、逆止弁CV7及びダンパDP1を介して夫々開閉弁PC1,PC2に接続されている。液圧ポンプHP1は、液圧ポンプHP2と共に一つの電動モータMによって駆動され、吸込側からブレーキ液を導入し所定の圧力に昇圧して吐出側から出力するように構成されている。リザーバRS1は、マスタシリンダMCの低圧リザーバLRSとは独立して設けられるもので、アキュムレータということもでき、ピストンとスプリングを備え、後述する種々の制御に必要な容量のブレーキ液を貯蔵し得るように構成されている。
【0016】
マスタシリンダMCは液圧路MFcを介して液圧ポンプHP1の吸込側の逆止弁CV5と逆止弁CV6との間に連通接続されている。逆止弁CV5はリザーバRS1へのブレーキ液の流れを阻止し、逆方向の流れを許容するものである。また、逆止弁CV6,CV7は液圧ポンプHP1を介して吐出されるブレーキ液の流れを一定方向に規制するもので、通常は液圧ポンプHP1内に一体的に構成されている。而して、開閉弁SI1は、図1に示す常態の閉位置でマスタシリンダMCと液圧ポンプHP1の吸込側との連通が遮断され、開位置でマスタシリンダMCと液圧ポンプHP1の吸込側が連通するように切り換えられる。
【0017】
更に、開閉弁SC1に並列に、マスタシリンダMCから開閉弁PC1,PC2方向へのブレーキ液の流れを制限し、開閉弁PC1,PC2側のブレーキ液圧がマスタシリンダMC側のブレーキ液圧に対し所定の差圧以上大となったときにマスタシリンダMC方向へのブレーキ液の流れを許容するリリーフ弁RV1と、ホイールシリンダWfr,Wrl方向へのブレーキ液の流れを許容し逆方向の流れを禁止する逆止弁AV1が介装されている。リリーフ弁RV1は、液圧ポンプHP1から吐出される加圧ブレーキ液がマスタシリンダMCの出力液圧より所定の差圧以上大となったときに、マスタシリンダMCを介して低圧リザーバLRSにブレーキ液を還流するもので、これにより液圧ポンプHP1の吐出ブレーキ液が所定の圧力に調圧される。また、液圧ポンプHP1の吐出側にダンパDP1が配設され、後輪側のホイールシリンダWrlに至る液圧路にプロポーショニングバルブPV1が介装されている。
【0018】
車輪FL,RR側のブレーキ液圧系統においても同様に、リザーバRS2、ダンパDP2及びプロポーショニングバルブPV2をはじめ、常開型の2ポート2位置電磁開閉弁SC2(第1の開閉弁)、常閉型の2ポート2位置電磁開閉弁SI2(第2の開閉弁),PC7,PC8、常開型の2ポート2位置電磁開閉弁PC3,PC4、逆止弁CV3,CV4,CV8乃至CV10、リリーフ弁RV2並びに逆止弁AV2が配設されている。液圧ポンプHP2は、電動モータMによって液圧ポンプHP1と共に駆動され、電動モータMの起動後は両液圧ポンプHP1,HP2は連続して駆動される。尚、後述のフローチャートにおいては、二つのブレーキ液圧系統に供される開閉弁等を代表して表すときには符号(*)を用いる。
【0019】
電子制御装置ECUは、図1に一点鎖線の枠内に示す各手段を含む種々の手段を構成し、図示を省略するが、バスを介して相互に接続されたプロセシングユニット(CPU)、メモリ(ROM,RAM)、入力ポート及び出力ポート等から成るマイクロコンピュータを備えており、メモリ(ROM)は図2乃至図5に示したフローチャートを含む種々の処理に供するプログラムを記憶し、プロセシングユニット(CPU)は図示しないイグニッションスイッチが閉成されている間当該プログラムを実行し、メモリ(RAM)は当該プログラムの実行に必要な変数データを一時的に記憶する。
【0020】
而して、図1に示すように電子制御装置ECU内には、電動モータM及びモジュレータ(開閉弁PC1等)を制御する制御手段CTが構成されている。また、電動モータMの駆動電流を検出する電流検出手段SEが構成され、液圧ポンプHP1(又は、HP2)を負荷状態で駆動しているときの電動モータMの負荷電流と液圧ポンプHP1(又は、HP2)を無負荷状態で駆動しているときの電動モータMの無負荷電流との差を演算する電流差演算手段DFが構成され、更に負荷電流と無負荷電流との差が所定値を超えておれば液圧ポンプHP1(又は、HP2)の吐出ブレーキ液圧を正常と判定し所定値以下のときには異常と判定する吐出判定手段CHが構成されている。
【0021】
上記の構成になる実施形態の作用を説明すると、通常のブレーキ作動時においては、各電磁弁は図1に示す常態位置にあり、電動モータMは停止している。この状態でブレーキペダルBPが踏み込まれると、バキュームブースタVBによってマスタシリンダMCが倍力駆動され、マスタシリンダMCの二つの圧力室から、マスタシリンダ液圧が夫々車輪FR,RL側及び車輪FL,RR側のブレーキ液圧系統に出力され、開閉弁SC1,SC2並びに開閉弁PC1乃至PC8を介して、ホイールシリンダWfr,Wrl,Wfl,Wrrに供給される。車輪FR,RL側及び車輪FL,RR側のブレーキ液圧系統は同様の構成であるので、以下、代表して車輪FR,RL側のブレーキ液圧系統について説明する。
【0022】
例えば、ブレーキ作動中にアンチスキッド制御に移行し、例えば車輪FR側がロック傾向にあると判定されると、開閉弁SC1は開位置のままで、開閉弁PC1が閉位置とされると共に、開閉弁PC5が開位置とされる。而して、ホイールシリンダWfrは開閉弁PC5を介してリザーバRS1に連通し、ホイールシリンダWfr内のブレーキ液がリザーバRS1内に流出し減圧される。
【0023】
ホイールシリンダWfrがパルス増圧モードとなると、開閉弁PC5が閉位置とされると共に開閉弁PC1が開位置とされ、マスタシリンダMCからマスタシリンダ液圧が開位置の開閉弁PC1を介してホイールシリンダWfrに供給される。そして、開閉弁PC1が断続制御され、ホイールシリンダWfr内のブレーキ液は増圧と保持が繰り返されてパルス的に増大し、緩やかに増圧される。ホイールシリンダWfrに対し急増圧モードが設定されたときには、開閉弁PC2,PC5が閉位置とされた後、開閉弁PC1が開位置とされ、マスタシリンダMCからマスタシリンダ液圧が供給される。そして、ブレーキペダルBPが解放され、ホイールシリンダWfrの液圧よりマスタシリンダ液圧の方が小さくなると、ホイールシリンダWfr内のブレーキ液が逆止弁CV1及び開位置の開閉弁SC1を介してマスタシリンダMC、ひいては低圧リザーバLRSに戻る。このようにして、車輪毎に独立した制動力制御が行なわれる。
【0024】
そして、トラクション制御に移行し、例えば車輪FRの加速スリップ防止制御が行なわれる場合には、開閉弁SC1が閉位置に切り換えられると共に、開閉弁SI1が開位置に切り換えられ、ホイールシリンダWrlに接続された開閉弁PC2が閉位置とされ、開閉弁PC1が開位置とされる。尚、開閉弁PC1が閉位置とされれば、ホイールシリンダWfrの液圧が保持される。
【0025】
而して、ブレーキペダルBPが非操作状態であっても、例えば車輪FRの加速スリップ防止制御時には、液圧ポンプHP1が駆動され、車輪FRの加速スリップ状態に応じて開閉弁PC1,PC5の断続制御により、ホイールシリンダWfrに対し、パルス増圧、パルス減圧及び保持の何れかの液圧モードが設定される。これにより、車輪FRに制動力が付与されて回転駆動力が制限され、加速スリップが防止され、適切にトラクション制御を行なうことができる。
【0026】
更に、車両の制動操舵制御時においては、例えば過度のオーバーステアを防止する場合には、これに対抗するモーメントを発生させる必要があり、この場合には或る一つの車輪のみに関し制動力を付与すると効果的である。即ち、車輪FR,RL側のブレーキ液圧系統においては、制動操舵制御時に開閉弁SC1が閉位置に切換えられると共に、開閉弁SI1が開位置に切換えられ、電動モータMが駆動され、液圧ポンプHP1からブレーキ液が吐出される。そして、開閉弁PC1,PC2,PC5,PC6が適宜開閉制御され、ホイールシリンダWfr,Wrlの液圧がパルス増圧、減圧又は保持され、車輪FL,RR側のブレーキ液圧系統も含め、前後の車輪間の制動力配分が車両のコーストレース性を維持し得るように制御される。
【0027】
上記のように構成された本実施形態においては、電子制御装置ECUにより制動操舵制御、アンチスキッド制御等の一連の処理が行なわれ、イグニッションスイッチ(図示せず)が閉成されると図2乃至図6等のフローチャートに対応したプログラムの実行が開始する。図2及び図3は車両の制動制御作動を示すもので、先ずステップ100にてマイクロコンピュータCMPが初期化され、各種の演算値がクリアされる。次にステップ101において、車輪速度センサWS1乃至WS4の検出信号が読み込まれると共に、前輪舵角センサSSfの検出信号(舵角δf )、ヨーレイトセンサYSの検出信号(実ヨーレイトγ)及び横加速度センサYGの検出信号(即ち、実横加速度でありGyaで表す)が読み込まれる。
【0028】
次に、ステップ102に進み、各車輪の車輪速度Vw** (**は各車輪FR等を表す)が演算されると共に、これらが微分され各車輪の車輪加速度DVw** が求められる。続いて、ステップ103において各車輪の車輪速度Vw** の最大値が車両重心位置での推定車体速度Vsoとして演算される(Vso=MAX( Vw**))。また、各車輪の車輪速度Vw** に基づき各車輪毎に推定車体速度Vso**が求められ、必要に応じ、車両旋回時の内外輪差等に基づく誤差を低減するため正規化が行われる。更に、推定車体速度Vsoが微分され、車両重心位置での推定車体加速度(符号が逆の推定車体減速度を含む)DVsoが演算される。
【0029】
そして、ステップ104において、上記ステップ102及び104で求められた各車輪の車輪速度Vw** と推定車体速度Vso**(あるいは、正規化推定車体速度)に基づき各車輪の実スリップ率Sa** がSa** =(Vso**−Vw** )/Vso**として求められる。次に、ステップ105おいて、車両重心位置での推定車体加速度DVsoと横加速度センサYGの検出信号の実横加速度Gyaに基づき、路面摩擦係数μが近似的に(DVso2 +Gya2)1/2 として求められる。更に、路面摩擦係数を検出する手段として、直接路面摩擦係数を検出するセンサ等、種々の手段を用いることができる。
【0030】
続いて、ステップ106にて車体横すべり角速度Dβが演算されると共に、ステップ107にて車体横すべり角βが演算される。この車体横すべり角βは、車両の進行方向に対する車体のすべりを角度で表したもので、次のように演算し推定することができる。即ち、車体横すべり角速度Dβは車体横すべり角βの微分値dβ/dtであり、ステップ106にてDβ=Gy /Vso−γとして求めることができ、これをステップ107にて積分しβ=∫(Gy /Vso−γ)dtとして車体横すべり角βを求めることができる。尚、Gy は車両の横加速度、Vsoは車両重心位置での推定車体速度、γはヨーレイトを表す。あるいは、進行方向の車速Vx とこれに垂直な横方向の車速Vy の比に基づき、β=tan-1(Vy /Vx )として求めることもできる。
【0031】
次に、ステップ108において本装置全体の異常判定が行なわれ、液圧ポンプHP1,HP2の吐出チェックを含む異常の有無が判定される。正常であればステップ109以降に進むが、異常と判定された場合には図3のステップ121に進み、全てのソレノイドがオフとされる。尚、液圧ポンプHP1,HP2の異常判定(ポンプ吐出チェック)については図4及び図5を参照して後述する。
【0032】
ステップ108にて本装置が正常と判定されると、ステップ109に進み制動操舵制御モードとされ、後述するように制動操舵制御に供する目標スリップ率が設定され、後述のステップ118の液圧サーボ制御により、車両の運転状態に応じて各車輪に対する制動力が制御される。この制動操舵制御は、後述する全ての制御モードにおける制御に対し重畳される。この後ステップ110に進み、アンチスキッド制御開始条件を充足しているか否かが判定され、開始条件を充足し制動操舵時にアンチスキッド制御開始と判定されると、初期特定制御は直ちに終了しステップ111にて制動操舵制御及びアンチスキッド制御の両制御を行なうための制御モードに設定される。
【0033】
ステップ110にてアンチスキッド制御開始条件を充足していないと判定されたときには、ステップ112に進み前後制動力配分制御開始条件を充足しているか否かが判定され、制動操舵制御時に前後制動力配分制御開始と判定されるとステップ113に進み、制動操舵制御及び前後制動力配分制御の両制御を行なうための制御モードに設定され、充足していなければステップ114に進みトラクション制御開始条件を充足しているか否かが判定される。制動操舵制御時にトラクション制御開始と判定されるとステップ115にて制動操舵制御及びトラクション制御の両制御を行なうための制御モードに設定され、制動操舵制御時に何れの制御も開始と判定されていないときには、図3に示すステップ116にて制動操舵制御開始条件を充足しているか否かが判定される。
【0034】
図3のステップ116において制動操舵制御開始と判定されるとステップ117に進み制動操舵制御のみを行なう制御モードに設定される。そして、これらの制御モードに基づきステップ118にて液圧サーボ制御が行なわれた後ステップ101に戻る。尚、前後制動力配分制御モードにおいては、車両の制動時に車両の安定性を維持するように、後輪に付与する制動力の前輪に付与する制動力に対する配分が制御される。ステップ116において制動操舵制御開始条件も充足していないと判定されると、ステップ119に進み、車両のシフト位置がパーキング位置か否かが判定されると共に、ポンプ吐出チェックが未処理か否かが判定される。
【0035】
ステップ119においてパーキング位置で且つポンプ吐出チェックが未処理と判定された場合にのみ、ステップ120に進みポンプ吐出チェックが行なわれ、チェック後ステップ101に戻る。一方、ステップ119にてパーキング位置でないと判定され、あるいはポンプ吐出チェックが処理済と判定された場合にはステップ121にて全ての電磁弁のソレノイドがオフとされると共に電動モータMがオフとされ、図1に示す定常状態とされた後ステップ101に戻る。即ち、ポンプ吐出チェックは、車両が停止した状態でイニシャルチェックとして一回のみ行なわれるように設定されている。
【0036】
図4及び図5は、図2及び図3のステップ108,120において行なわれるポンプ吐出チェックの具体的処理内容を示すもので、以下、図6のタイムチャートを参照し乍ら説明する。先ず、ステップ201にて電動モータMが起動されると、タイマカウンタTcがスタートし、所定値Kt3以上か否かが判定され、所定値Kt3未満であればステップ203に進む。ここで、タイマカウンタTcが所定値Kt2(<Kt3)以上か否かが判定され、所定値Kt2未満であればステップ204に進み、更に所定値Kt1(<Kt2)以上か否かが判定される。タイマカウンタTcが所定値Kt1未満と判定されるとステップ205に進み、タイマカウンタTcがインクリメント(Tc+1)されてメインルーチンに戻る。
【0037】
このように、タイマカウンタTcは図2乃至図5のルーチンが一回実行される制御周期(例えば、5ms)毎に更新されるので、所定値Kt1乃至Kt3を制御周期の所定の倍数として適宜設定することにより、連続した所定の時間において三種類の異なる処理を行なうことができる。本実施形態では、例えば、所定値Kt1が制御周期の4倍の20ms、所定値Kt2が制御周期の8倍の40ms、所定値Kt3が制御周期の12倍の60msに夫々対応する値に設定される。従って、図6に示すように、開始時刻(0)から所定値Kt1に対応する時間(20ms)を経過した時点まで、この所定値Kt1の時点から所定値Kt2の時点まで、及び所定値Kt2の時点から所定値Kt3の時点までが等時間間隔d(20ms)に設定される。
【0038】
而して、制御開始から所定値Kt1の時点までは、図6に示すように電動モータMはオンとなっているが、図1に示す車輪FRと車輪RLに対する第1のブレーキ液圧系統CA(以下、単に液圧系統CAという)、及び車輪FLと車輪RRに対する第2のブレーキ液圧系統CB(以下、単に液圧系統CBという)における各開閉弁のソレノイドは図1に示すオフの状態となっている。
【0039】
制御開始後、タイマカウンタTcが所定値Kt1以上となるとステップ206に進み、液圧系統CA,CBに関する電動モータMの無負荷電流Ioが既に検出されたか否かが判定され、未だであればステップ207にて電動モータMの無負荷電流Ioが検出される。即ち、液圧系統CA及び液圧系統CBにおける各開閉弁のソレノイドがオフの状態で、電動モータMが駆動されているときの電動モータMの電流が無負荷電流Ioとして検出され、その検出値がメモリ(RAM)に格納される。
【0040】
そして、ステップ208において、液圧系統CAに関し開閉弁SC1,SI1並びに開閉弁PC1,PC2がオンとされ、電動モータMによって駆動される液圧ポンプHP1に対し、低圧リザーバLRSからマスタシリンダMC及び開閉弁SI1を介してブレーキ液が吸い込まれ、液圧ポンプHP1にて昇圧されて吐出される。このとき、開閉弁PC1,PC2がオンとされ閉位置とされており所謂保持モードとなっているので、液圧ポンプHP1の吐出ブレーキ液圧はホイールシリンダWfr,Wrlに付与されず、液圧ポンプHP1に負荷がかかる。この状態でステップ205にてタイマカウンタTcがインクリメント(Tc+1)されてメインルーチンに戻り、再度ステップ204からステップ206に至る。このとき、液圧系統CA,CBに関する電動モータMの無負荷電流Ioは既に検出されているので、更にステップ205にてタイマカウンタTcがインクリメントされてメインルーチンに戻る。
【0041】
このようにして、タイマカウンタTcが所定値Kt2以上となるとステップ203からステップ209に進み、液圧系統CAに関する電動モータMの負荷電流Icaが既に検出されたか否かが判定され、未だであればステップ210にて電動モータMの負荷電流Icaが検出される。即ち、液圧系統CAにおける開閉弁SC1,SI1並びに開閉弁PC1,PC2がオンの状態で、電動モータMが駆動されているときの電動モータMの電流が負荷電流Icaとして検出され、その検出値がメモリ(RAM)に格納される。
【0042】
そして、ステップ211において液圧系統CAに関し全ての開閉弁のソレノイドがオフとされて図1の状態とされると共に、ステップ212において液圧系統CBに関し開閉弁SC2,SI2並びに開閉弁PC3,PC4がオンとされ、電動モータMによって駆動される液圧ポンプHP2に対し、低圧リザーバLRSからマスタシリンダMC及び開閉弁SI2を介してブレーキ液が吸い込まれ、液圧ポンプHP2にて昇圧されて吐出される。このとき、開閉弁PC3,PC4がオンとされ閉位置とされているので液圧ポンプHP2に負荷がかかる。この状態でステップ205にてタイマカウンタTcがインクリメントされてメインルーチンに戻り、再度ステップ203からステップ209に至る。このときは液圧系統CAに関する電動モータMの負荷電流Icaは既に検出されているので、更にステップ205にてタイマカウンタTcがインクリメントされてメインルーチンに戻る。
【0043】
このようにして、タイマカウンタTcが更に所定値Kt3以上となるとステップ202からステップ213に進み、液圧系統CBに関する電動モータMの負荷電流Icbが既に検出されたか否かが判定され、未だであればステップ214にて液圧系統CBにおける開閉弁SC2,SI2並びに開閉弁PC3,PC4がオンの状態(保持モード)で、電動モータMが駆動されているときの電動モータMの電流が負荷電流Icbとして検出され、その検出値がメモリ(RAM)に格納される。そして、ステップ215において液圧系統CBに関し全ての開閉弁のソレノイドがオフとされて図1の状態とされる。
【0044】
以上のようにして検出、格納された無負荷電流Io、負荷電流Ica及び負荷電流Icbに基づき、先ずステップ216にて負荷電流Icaと無負荷電流Ioの差(Ica−Io)が求められ、所定値Ki1と大小比較される。差(Ica−Io)が所定値Ki1より大と判定されると正常であるが、所定値Ki1以下の場合はステップ217に進み、液圧系統CAにおける液圧ポンプHP1の吐出異常と判定され、例えば警報装置(図示せず)が作動し運転者に報知される。
【0045】
続いて、ステップ218にて負荷電流Icbと無負荷電流Ioの差(Icb−Io)が求められ、所定値Ki2と大小比較される。差(Icb−Io)が所定値Ki2以下と判定されるとステップ219に進み、液圧系統CBにおける液圧ポンプHP2の吐出異常と判定され、運転者に報知される。而して、差(Ica−Io)が所定値Ki1より大であって、且つ差(Icb−Io)が所定値Ki2より大であるときに、液圧ポンプHP1,HP2の吐出状態が正常と判定され、ステップ220にてタイマカウンタTcがクリア(0)された後、メインルーチンに戻る。
【0046】
尚、図1におけるリリーフ弁RV1,RV2が所謂絶対圧リリーフ弁であって、マスタシリンダ液圧の変動とは無関係に一定の圧力(絶対圧)で開弁するように構成されているので、ブレーキペダルBPが操作された状態で比較する場合には、比較レベルを変更する必要がある。このため、本実施形態においては、前述のステップ216にて基準とされる所定値Ki1が、図7に示すようにマスタシリンダ液圧に応じて略逆比例するように設定されている(ステップ218において基準とされる所定値Ki2についても同様)。これに対し、相対圧リリーフ弁を用いれば、所定値Ki1,Ki2は一定の値とすることができる。
【0047】
【発明の効果】
本発明は上述のように構成されているので以下の効果を奏する。即ち、本発明の車両のブレーキ液圧制御装置においては、二つのブレーキ液圧系統の各々に液圧ポンプを配置し、これらを単一の電動モータで駆動するように構成されると共に、各ブレーキ液圧系統において電動モータの負荷電流と無負荷電流との差を演算し、その差が所定値を超えておれば液圧ポンプの吐出ブレーキ液圧を正常として処理するように構成されているので、各ブレーキ液圧系統において各液圧ポンプの作動状態を適切且つ容易に監視することができる。
【0049】
更に、請求項2に記載のブレーキ液圧制御装置においては、弁装置によって液圧ポンプの吐出側とマスタシリンダとの連通を遮断し、且つモジュレータによって液圧ポンプの吐出側とホイールシリンダとの連通を遮断した状態で、液圧ポンプを駆動して負荷状態を設定するように構成されているので、簡単且つ容易に各液圧ポンプの作動状態を監視することができる。
【0050】
更に、請求項3に記載のブレーキ液圧制御装置においては、前記所定値をマスタシリンダ液圧に応じた値に設定するように構成されているので、リリーフ弁として絶対圧リリーフ弁を用いた場合にも大きな誤差を惹起することなく、液圧ポンプの作動状態を適切且つ容易に監視することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明のブレーキ液圧制御装置の一実施形態の全体構成図である。
【図2】本発明の一実施形態における車両の制動制御の全体を示すフローチャートである。
【図3】本発明の一実施形態における車両の制動制御の全体を示すフローチャートである。
【図4】本発明の一実施形態におけるポンプ吐出チェックの処理を示すフローチャートである。
【図5】本発明の一実施形態におけるポンプ吐出チェックの処理を示すフローチャートである。
【図6】本発明の一実施形態におけるポンプ吐出チェックのタイムチャートを示すグラフである。
【図7】本発明の一実施形態におけるポンプ吐出チェックに供する電流差の基準をマスタシリンダ液圧に応じて設定するための特性を示すグラフである。
【符号の説明】
BP ブレーキペダル, MC マスタシリンダ
M 電動モータ, HP1,HP2 液圧ポンプ
RS1,RS2 リザーバ
Wfr,Wfl,Wrr,Wrl ホイールシリンダ
WS1〜WS4 車輪速度センサ
FR,FL,RR,RL 車輪
SC1,SC2 第1の開閉弁, SI1,SI2 第2の開閉弁
PC1〜PC8 開閉弁
EG エンジン, ECU 電子制御装置
Claims (3)
- 車両の各車輪に装着し制動力を付与するホイールシリンダと、低圧リザーバのブレーキ液を少なくともブレーキペダルの操作に応じて昇圧しマスタシリンダ液圧を出力するマスタシリンダと、前記ホイールシリンダを二組に分割し該二組のホイールシリンダの各々と前記マスタシリンダとの間を第1及び第2のブレーキ液圧系統を介して接続し、該第1及び第2のブレーキ液圧系統の各々に介装し前記ホイールシリンダの各々のブレーキ液圧を調整する二組のモジュレータと、前記第1及び第2のブレーキ液圧系統の各々に介装し前記モジュレータの各々を介して前記ホイールシリンダの各々に昇圧したブレーキ液を吐出する一対の液圧ポンプと、該一対の液圧ポンプを同時に駆動する単一の電動モータと、該電動モータ及び前記モジュレータを制御する制御手段とを備えた車両のブレーキ液圧制御装置において、前記制御手段の出力に応じて前記電動モータを駆動する電流を検出する電流検出手段と、前記電動モータによって前記一対の液圧ポンプのうちの一方のみを負荷状態で駆動しているときに前記電流検出手段が検出した前記電動モータの負荷電流と前記一対の液圧ポンプの両方を無負荷状態で駆動しているときに前記電流検出手段が検出した前記電動モータの無負荷電流との差を演算する電流差演算手段と、該電流差演算手段が演算した負荷電流と無負荷電流との差が所定値を超えておれば前記一対の液圧ポンプのうちの前記負荷状態で駆動している液圧ポンプの吐出ブレーキ液圧を正常として処理する吐出判定手段とを備えたことを特徴とする車両のブレーキ液圧制御装置。
- 前記第1及び第2のブレーキ液圧系統の各々において、前記マスタシリンダと前記モジュレータ及び前記液圧ポンプの吐出側とを連通接続する液圧路を開閉すると共に、前記低圧リザーバを直接、又は前記マスタシリンダを介して前記液圧ポンプの吸込側に連通接続する液圧路を開閉する弁装置を備え、該弁装置によって前記液圧ポンプの吐出側と前記マスタシリンダとの連通を遮断し、且つ前記モジュレータによって前記液圧ポンプの吐出側と前記ホイールシリンダとの連通を遮断した状態で、前記液圧ポンプを駆動して前記負荷状態を設定するように構成したことを特徴とする請求項1記載の車両のブレーキ液圧制御装置。
- 前記所定値を前記マスタシリンダ液圧に応じた値に設定するように構成したことを特徴とする請求項1記載の車両のブレーキ液圧制御装置。
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