JP3914735B2 - 多重共鳴用nmrプローブ - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、NMR装置に用いられる多重共鳴用NMRプローブに関し、特に、同時に共存同調できる高周波が少なくとも3周波数以上であって、そのうちの少なくとも2つの周波数が広帯域の同調範囲を持つような多重共鳴用NMRプローブに関する。
【0002】
【従来の技術】
NMRの観測対象となる核種は実にさまざまである。また、核種に応じて、その共鳴周波数も実にさまざまである。具体的には、図1に示すような核種がNMRの主な観測対象になっている。図中、左側の化学記号は観測核の種類、右側の数値は、18テスラ(T)の静磁場中に置かれた場合の観測核の共鳴周波数を表わし、単位はメガヘルツ(MHz)である。
【0003】
NMR装置は、その重要な構成要素の1つとして、NMRプローブを備えている。NMRプローブは、サンプルコイルと、このサンプルコイルと組み合わされる同調回路とを備え、静磁場内に配置された試料に高周波パルスを照射すると共に、この照射により試料から発生するNMR信号を検出する目的に用いられる。
このような役割を持ったNMRプローブの1つとして、比較的高い周波数である照射系高周波、比較的低い周波数である観測系高周波、および静磁場のドリフトを補償するために用いられるNMRロック系高周波を、サンプルコイルに対して同時に設定可能な、多重同調回路を備えた多重共鳴用NMRプローブが開発されている。
【0004】
図2は、従来の多重共鳴用NMRプローブの実例を示すものである。このうち、図2(a)は、同時に共存同調できる高周波が3周波数(f、f、f)である多重共鳴用NMRプローブの例で、そのうちの1周波数(f)が1〜3オクターブ程度の広帯域同調、残りの2周波数(f、f)が単同調となっているものである。具体的には、fが、31P核〜15N核の共鳴周波数に同調可能な観測系高周波、fが、H核の共鳴周波数に同調可能な照射系高周波、fが、D核の共鳴周波数に同調可能なNMRロック系高周波に対応している。
【0005】
また、図2(b)は、同時に共存同調できる高周波が4周波数(f、f、f、f)である多重共鳴用NMRプローブの例で、4周波数のすべてが単同調となっているものである。具体的には、fが、13C核の共鳴周波数に同調可能な第1の観測系高周波、fが、H核の共鳴周波数に同調可能な照射系高周波、fが、15N核の共鳴周波数に同調可能な第2の観測系高周波、fが、D核の共鳴周波数に同調可能なNMRロック系高周波に対応している。尚、この高周波の組み合わせは、必ずしも絶対的なものではなく、f/f/f/fの組み合わせの別の例として、例えば、f13C核の共鳴周波数、f19F核の共鳴周波数、fH核の共鳴周波数、fD核の共鳴周波数を、それぞれ割り当てても良い。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
ところで、従来、NMRの測定対象とされてきた試料としては、
▲1▼ 13C核、H核、15N核を含み、重水素(D)核溶媒で溶液化された試料。
▲2▼ 79Br核、13C核、H核を含み、重水素(D)核溶媒で溶液化された試料。
▲3▼ 15N核、H核、31P核、(13C核)を含み、重水素(D)核溶媒で溶液化
された試料。
などがあった。これらの例から明らかなように、31P核〜15N核(15N核〜103Rh核などの場合もある)やH核など異核種を測定対象とした測定試料は、既知/未知を問わず、数多く存在している。
【0007】
このような試料を測定したい場合、従来の技術では、1台のNMRプローブですべての核の観測をカバーすることは不可能であり、面倒ではあっても、所定の核の共鳴周波数に同調可能な複数のNMRプローブを用意して、その都度、NMRプローブをNMRマグネットに装着し、分解能を上げ、測定条件を整えて測定することを繰り返し行なっていた。そして、そのための時間と労力が馬鹿にならない上に、NMRプローブは、プローブごとに分解能や照射効率や検出効率が異なるため、得られたデータに対し、プローブの違いに起因する要素を考慮して、データの補正を行なわねばならないという問題があった。
【0008】
本発明の目的は、上述した点に鑑み、1台のNMRプローブで複数種類の核を同時に観測できる多重共鳴用NMRプローブを提供し、上述したような不都合を解消することにある。
【0009】
【課題を解決するための手段】
この目的を達成するため、本発明にかかる多重共鳴用NMRプローブは、
静磁場中にセットされた試料に複数の異なる周波数の高周波を照射し、この照射高周波に対応して試料から放出される複数の核磁気共鳴信号を検出する多重共鳴用NMRプローブにおいて、
同時に共存同調できる高周波が少なくとも
(1) 19 F核または 1 H核、
(2) 2 D核、
(3) 15 N核〜 31 P核の共鳴領域に共鳴周波数を持つ核、
(4) 199 Hg核〜 31 P核の共鳴領域、または 15 N核〜 31 P核の共鳴領域に共鳴周波数を持つ核、
4核の共鳴周波数に相当する周波数であって、そのうち後者の2核の周波数が広帯域の同調範囲を持つことを特徴としている。
【0011】
【発明の実施の形態】
以下、図面を参照して、本発明の実施の形態を説明する。図3は、本発明にかかる多重共鳴用NMRプローブの一実施例を示したものである。図3に示すように、本発明にかかる多重共鳴用NMRプローブは、同時に共存同調できる高周波が4周波数(f、f、f、f)であり、そのうちの1周波数(f)が1〜3オクターブ程度の広帯域同調、1周波数(f)が1〜2オクターブ程度の広帯域同調、残りの2周波数(f、f)がそれぞれ単同調となっているものである。具体的には、fが、31P核〜15N核の共鳴周波数に同調可能な第1の観測系高周波、fが、31P核〜199Hg核の共鳴周波数に同調可能な第2の観測系高周波、fが、H核または19F核の共鳴周波数に同調可能な照射系高周波、fが、D核の共鳴周波数に同調可能なNMRロック系高周波に対応している。
【0012】
このような構成において、本実施例では、周波数の近接したfとfとが相互に干渉し合わないようにするために、細心の工夫を講じている。図4は、本発明にかかる多重共鳴用NMRプローブのサンプルコイル部分の形状を示したものである。図4から明らかなように、サンプルコイル部分は、同心円状に配置された大小2つのサドル型コイルL、Lから成り、それぞれのコイルが発生する高周波磁界の向きが、異なる方向を向くように構成されている。
【0013】
この大小2つのサドル型コイルL、Lが発生する高周波磁界の向きと、2つのコイル間のアイソレーションの関係を示したものが図5である。図5(a)は、大小2つのサドル型コイルL、Lが発生する高周波磁界の向きを示す模式図、図5(b)は、大小2つのサドル型コイルL、Lが発生する高周波磁界の磁場軸が成す角度θと2つのコイル間のアイソレーションIとの関係を示す図である。図5(b)から明らかなように、大小2つのサドル型コイルL、Lが発生する高周波磁界の磁場軸が成す角度θを変化させると、2つのコイル間のアイソレーションの値Iは角度θに依存して変化し、θがほぼ90゜に近い所定の角度θにおいて、アイソレーションの値Iが極小値を取る。
【0014】
このとき、サドル型コイルLの直径を6.4mmφ、サドル型コイルLの直径を10.5mmφ、2つのコイルL、Lのコイル長を等しいと仮定すると、2つのコイル間のクロストークをなくすことのできる実用的なアイソレーションの値は、約10dB、より好ましくは、約20dBであった。そこで、この20dBを実用的な水準を示すアイソレーションIと定めて、Iを満たすような角度θを調べたところ、θは、θ±10゜程度、より好ましくは、θ±3゜程度の値であることが分かった。最適角θの値は、ネットワーク・アナライザー、あるいは所定の治具を用いて、正確に決定することができるので、このようにして決定された角度θに2つのコイルの高周波磁界の方位角が合致するように、大小2つのサドル型コイルL、Lを配置させた。
【0015】
また、サドル型コイルL(内側コイル)のインダクタンスの値を約60nH、サドル型コイルL(外側コイル)のインダクタンスの値を約150nHと定め、両コイルのインダクタンスの値をわざとアンバランスに設定することで、2つの周波数f、fがクロストークしにくいように構成した。尚、両コイル間の結合インダクタンスκは、図6に示すタンク回路中のκと等価である。この結合インダクタンスκは、
κ = β√(L×L
で表わされる。結合度βは、コイルLの高周波磁界軸とコイルLの高周波磁界軸とが成す角度θと、コイルL・コイルL間の距離の値とによって決まる装置定数である。コイルLの高周波磁界軸とコイルLの高周波磁界軸とが成す角度をθ±3゜に設定すると共に、コイルLとコイルLの直径をそれぞれ6.4mmと10.5mmに設定して、コイルL・コイルL間距離を2.05mmとすることにより、結合度βの値を約0.1程度にまで低減させることができた。その結果、結合インダクタンスκの値は約9.5nHとなって、κ≪L、κ≪Lの条件を実現することができた。結合インダクタンスκの値が、コイルのインダクタンスL、Lの値よりもはるかに小さいので、コイルLに高周波fを注入したとき、およびコイルLに高周波fを注入したときに、コイルLとコイルLの結合点に誘起される高周波電流の値は非常に小さく、fとfが近接した周波数を取った場合でも、両コイル間で相互に干渉することの少ない共振系を実現することができた。
【0016】
尚、上記の例では、内側コイルと外側コイルのインダクタンスの比の値を、ほぼ1:2.5となるように定めたが、この比の値は、1:3、あるいは1:4程度であっても良い。逆に1:1、あるいは1:2程度でも干渉の少ない共振系を得ることが可能であるが、その場合には、それぞれの帯域に、ゴーストと呼ばれるスプリアス成分が出ることがあって、好ましくない。
【0017】
また、上記の例では、コイルLとコイルLの直径をそれぞれ6.4mmと10.5mmに設定して、コイルL・コイルL間距離を2.05mmとすることにより、結合度βの値を約0.1程度にまで低減させたが、2つのコイル間距離を2.05mmよりももっと引き離せば、外側コイルが測定試料から遠ざかることによってNMR装置の感度が犠牲になるものの、結合度βの値を約0.1よりも小さくすることができ、クロストークを更に低減させることが可能である。これは、結合度βが、誘導の要素のみならず、コイル間に発生する結合容量の要素をも含んでいることを意味する。すなわち、コイル間距離を、コイル間角度やコイル形状などと共に適宜に定めてやれば、結合度βを0.1以下に設定することが可能であることを意味するものである。
【0018】
図7は、本発明にかかる多重共鳴用NMRプローブの一実施例として、分離回路の部分を含めた回路構成を示したものである。入力端子Aからは、H核、または19F核の共鳴周波数に相当する周波数を持った高周波f(照射系)が、また、入力端子Bからは、15N核〜31P核の共鳴周波数に相当する周波数を持った高周波f(第1の観測系)が、それぞれコイルLに向けて注入される。入力端子Aから注入された高周波fは、ハイパス・フィルターHPFを通ってコイルLに供給され、コイルL、エレメント2、同調バリコン4、整合バリコン3、およびエレメント1により構成された共振周波数fのLC共振器で共振する。また、入力端子Bから注入された高周波fは、バンド・リジェクト・フィルターBRF1を通ってコイルLに供給され、コイルL、エレメント1、脱着素子ST1、同調バリコン2、整合バリコン1、およびエレメント2により構成された共振周波数fのLC共振器で共振する。
【0019】
また、入力端子Cからは、199Hg核〜31P核の共鳴周波数に相当する周波数を持った高周波f(第2の観測系)が、また、入力端子Dからは、D核の共鳴周波数に相当する周波数(NMRロック周波数)を持った高周波f(ロック系)が、それぞれコイルLに向けて注入される。入力端子Cから注入された高周波fは、直接コイルLに供給され、コイルL、エレメント3、脱着素子ST2、同調バリコン6、整合バリコン5、およびエレメント4により構成された共振周波数fのLC共振器で共振する。また、入力端子Dから注入された高周波fは、バンドパス・フィルターBPF1を通ってコイルLに供給され、コイルL、エレメント4、同調コンデンサ8、整合コンデンサ7、およびエレメント3により構成された共振周波数fのLC共振器で共振する。
【0020】
尚、図7の例では、f199Hg核〜31P核の共鳴周波数に相当する周波数を持った高周波としたが、これは、15N核〜Li核の共鳴周波数に相当する周波数を持った高周波としても良い。また、図7の例では、内側コイルLにfとf、外側コイルLにfとfを割り当てたが、これは、測定の感度と用途とに合わせて、その組み合わせを別の組み合わせに変更することもできる。
【0021】
このような構成において、ハイパス・フィルターHPFには、H核の共鳴周波数よりも低い周波数の高周波の透過を阻止するような特性を持ったエレメントを、また、バンド・リジェクト・フィルターBRF1には、H核の共鳴周波数に近い帯域の高周波の透過を阻止するような特性を持ったエレメントを、また、バンドパス・フィルターBPF1には、D核の共鳴周波数に近い帯域の高周波のみを透過させるような特性を持ったエレメントを、それぞれ採用した。これらのエレメントの具体例は、図8にまとめて示した。
【0022】
また、脱着素子ST1、ST2には、図9(a)に示すような3種類のエレメントの組み合わせの中から1つを選んで使用するようにした。また、エレメント1には、図9(b)に示すような2種類のリアクタンス・エレメントの組み合わせの中から1つを選んで使用した。このとき、エレメント1の回路動作としては、fに対しては容量性動作、fに対しては接地動作するように、コンデンサやコイルの定数を決定した。また、エレメント2には、図9(c)に示すような2種類のリアクタンス・エレメントの組み合わせの中から1つを選んで使用した。このとき、エレメント2の回路動作としては、fに対しては適度なインピーダンス、fに対しては高インピーダンスないしはヘリカル共振器となるように、コンデンサやコイルの定数を決定した。また、エレメント3には、図9(d)に示すようなリアクタンス・エレメントを使用した。このとき、エレメント3の回路動作としては、fに対しては高インピーダンス、fに対しては接地動作するように、コンデンサやコイルの定数を決定した。また、エレメント4には、図9(e)に示すようなリアクタンス・エレメントを使用した。このとき、エレメント4の回路動作としては、fに対しては接地動作、fに対しては容量性動作するように、コンデンサの定数を決定した。
【0023】
尚、上記の例では、同時に共存同調できる高周波が4周波数であって、そのうちの2つの周波数が広帯域の同調範囲を持つように構成された多重共鳴用NMRプローブについて述べたが、本発明は、上記の例に限定されるものではない。例えば、H核のデカップルを行なわないでNMRを測定する場合に用いられる、照射系高周波fのチャンネルが設けられていない3周波数タイプの多重共鳴用NMRプローブや、外部ロックにより稼働し、ロック系高周波fのチャンネルが設けられていない3周波数タイプの多重共鳴用NMRプローブや、スペクトル線幅の広い固体試料の測定に用いられ、ロック機構がもともと存在しないような3周波数タイプの多重共鳴用NMRプローブなど、同時に共存同調できる高周波が3周波数であって、そのうちの2つの周波数が広帯域の同調範囲を持つような多重共鳴用NMRプローブもまた、本発明の範疇に入ることは言うまでもない。
【0024】
また、近年、99Ru、183W、103Rhなどを含む有機金属化合物のNMR測定が活発に行なわれつつあるが、これらの核種の共鳴周波数は極めて低い。これらの核種に対しては、コイルのターン数を増やして、LC共振回路を構成するインダクタンスの値を上げてやることにより、対応が可能である。
【0025】
【発明の効果】
以上述べたごとく、本発明の多重共鳴用NMRプローブによれば、1〜3オクターブ程度の広帯域同調が可能なチャンネルを2つ備えたので、3核、4核にまたがる異種核相関を、1台のプローブで測定することが可能になった。
【0026】
また、2つのコイル間のアイソレーションの条件が確定したので、共振周波数の違いが数%しかないような極めて近接する2つの核種(例えば、13Cと27Al、11Bと119Sn、Liと31Pなど)に対しても、同時に高周波を照射することが可能になった。
【図面の簡単な説明】
【図1】NMRで測定される核種とその共鳴周波数の一例を示す図である。
【図2】従来の多重共鳴用NMRプローブを示す図である。
【図3】本発明にかかる多重共鳴用NMRプローブの一実施例を示す図である。
【図4】本発明にかかる多重共鳴用NMRプローブのサンプルコイル部分の一実施例を示す図である。
【図5】サンプルコイルの向きとアイソテーションとの関係を示す図である。
【図6】サンプルコイル間の結合インダクタンスを示す図である。
【図7】本発明にかかる多重共鳴用NMRプローブの回路構成の一実施例を示す図である。
【図8】本発明にかかる多重共鳴用NMRプローブに用いられる回路エレメントの一実施例を示す図である。
【図9】本発明にかかる多重共鳴用NMRプローブに用いられる回路エレメントの一実施例を示す図である。
【符号の説明】
1・・・整合バリコン、2・・・同調バリコン、3・・・整合バリコン、4・・・同調バリコン、5・・・整合バリコン、6・・・同調バリコン、7・・・整合コンデンサ、8・・・同調コンデンサ、A・・・入力端子、B・・・入力端子、C・・・入力端子、D・・・入力端子、L・・・サンプルコイル(内側コイル)、L・・・サンプルコイル(外側コイル)、ST1・・・脱着素子、ST2・・・脱着素子、HPF・・・ハイパス・フィルター、BRF1・・・バンド・リジェクト・フィルター、BPF1・・・バンドパス・フィルター。

Claims (1)

  1. 静磁場中にセットされた試料に複数の異なる周波数の高周波を照射し、この照射高周波に対応して試料から放出される複数の核磁気共鳴信号を検出する多重共鳴用NMRプローブにおいて、
    同時に共存同調できる高周波が少なくとも
    (1) 19 F核または 1 H核、
    (2) 2 D核、
    (3) 15 N核〜 31 P核の共鳴領域に共鳴周波数を持つ核、
    (4) 199 Hg核〜 31 P核の共鳴領域、または 15 N核〜 31 P核の共鳴領域に共鳴周波数を持つ核、
    4核の共鳴周波数に相当する周波数であって、そのうち後者の2核の周波数が広帯域の同調範囲を持つことを特徴とする多重共鳴用NMRプローブ。
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