本発明は、NMR装置に用いられるNMRプローブに関し、特に共鳴周波数が近接する2種類の核に対して観測および照射が可能なNMRプローブに関する。
NMR装置は、静磁場中に置かれた被測定試料に高周波信号を照射し、その後、被測定試料から出る微小な高周波信号(NMR信号)を検出し、その中に含まれている分子構造情報を抽出することによって分子構造を解析する装置である。
図1はNMR装置の概略構成図である。高周波発振器1から発振された高周波信号は、位相制御器2及び振幅制御器3によって位相と振幅を制御され、電力増幅器4に送られる。
電力増幅器4で、NMR信号を励起するために必要な電力にまで増幅された高周波信号は、デュプレクサ5を介してNMRプローブ6に送られて、NMRプローブ6内に置かれた図示しない検出コイルから被測定試料に照射される。
高周波照射後、被測定試料から出る微小なNMR信号は、NMRプローブ6内に置かれた図示しない検出コイルにより検出され、再びデュプレクサ5を介した後、前置増幅器7に送られ、受信可能な信号強度にまで増幅される。
受信器8は、前置増幅器7で増幅された高周波のNMR信号を、デジタル信号に変換可能なオーディオ周波数に周波数変換し、同時に振幅の制御を行なう。受信器8でオーディオ周波数に周波数変換されたNMR信号は、アナログ−デジタルデータ変換器9によってデジタル信号に変換され、制御コンピュータ10に送られる。
制御コンピュータ10は、位相制御器2及び振幅制御器3を制御すると共に、時間領域で取り込んだNMR信号をフーリェ変換処理し、フーリェ変換後のNMR信号の位相を自動的に補正した後、NMRスペクトルとして表示する。
NMRプローブ6に印加される高周波には、いくつかの種類がある。具体的には、図2に示すような核種の共鳴周波数に対応した高周波がNMRプローブに印加される。図中、左側の化学記号は観測核の種類、右側の数値は18テスラ(T)の静磁場中に置かれた場合の観測核の共鳴周波数を表わし、単位はメガヘルツ(MHz)である。一般に、3H核〜19F核のような相対的に高い周波数帯域で共鳴する核グループと、205Tl核〜103Rh核のような相対的に低い周波数帯域で共鳴する核グループとに分けて取り扱われ、前者の高周波をHF、後者の高周波をLFと呼んでいる。
NMR測定では、複数の核種を同時に励起させて多重共鳴させる測定がしばしば行なわれている。例えば、図2から明らかなように、1H核と19F核、3H核と1H核、13C核と79Br核、6Li核と2H核のような、互いの共鳴周波数の差が近接した核種同士がNMRの測定対象として選ばれる場合が少なくない。
図3と図4は、そのような場合に用いられてきた従来のNMRプローブの一例である。ここでは、一般的な平衡回路網から成る共振回路の一方を水素核、他方をフッ素核に共鳴させられるように構成された、近接する2周波数、2核種観測用NMRプローブの例を示している。NMRロックを必要とする場合は、LOCK系の回路網が観測系または照射系のサンプルコイルに分離回路を経て連結されるが、ここでは、本質的動作と関わりがないので省略されている。
図3は19F核が観測側、1H核が照射側の例、図4は1H核が観測側、19F核が照射側の例を表わしている。いずれも観測側は検出感度が最重要視されるので、この場合前提としている超伝導マグネット仕様のNMRプローブのサンプルコイルでは、図5に示すように、試料に一番近い位置に置かれたサンプルコイル(内側コイル)を観測用コイルに、その外側に同軸同心円状に配置され、試料からやや離れた位置に置かれたサンプルコイル(外側コイル)を照射用コイルに使用することが一般的である。
したがって、図3の例では、内側コイルに19F核観測用コイル、外側コイルに1H核照射用コイルを配置し、図4の例では、内側コイルに1H核観測用コイル、外側コイルに19F核照射用コイルを配置することになる。
NMRの検出感度は、試料からのサンプルコイルの距離、すなわち試料を取り囲むサンプルコイルの同心円の径に反比例する。そのため、19F核の検出感度を重視する場合は、図3で示されるようなNMRプローブを用い、1H核の検出感度を重視する場合は、図4で示されるようなNMRプローブを用いるというように、予め2種類のNMRプローブを用意しておき、それらの中から実験の目的に応じてNMRプローブを使い分けていた。
重複を避けるために、図3を用いて動作を説明する。図3のNMRプローブは、600MHz級のNMR装置を想定し、1H核の共鳴周波数を〜600MHz、19F核の共鳴周波数を〜564MHzと仮定している。両共鳴周波数の差は約6%である。
1H核側のVC1はチューニング用可変コンデンサ、L90はサンプルコイル、VC2とVC3は特性インピーダンス50Ω系にマッチングを取るための可変コンデンサである。50Ωの同軸線・同軸コネクタを経て外部ユニットに接続している。また、19F核側のVC4はチューニング用可変コンデンサ、L91はサンプルコイル、VC5とVC6は特性インピーダンス50Ω系にマッチングを取るための可変コンデンサである。50Ωの同軸線・同軸コネクタを経て外部ユニットに接続している。
サンプルコイルL90、L91は、同軸を共有し、同心円状に互いに距離を置いて配置されている。一般的には、高分解能NMR装置の超伝導マグネットに装着して使用する検出器を想定しているので、図5のような鞍型ヘルムホルツコイルとしている。
概略の配置として一例を挙げるならば、内側に配置されるコイルは〜6mmφ程度、外側に配置されるコイルは〜10mmφ程度である。この空間配置は感度等種々のNMR検出に関わる要素を適度に設計して決定している。
図5の例では、2つのサンプルコイルが発生するRF磁場の向きが概ね直交するように配置している。このようにして、できるだけコイル間のアイソレーションを取ろうとするのが一般的である。概ねのアイソレーションを図6に示す。従来の方法では、数dB程度のアイソレーションになっている。
図6は、ネットワークアナライザーを模したシミュレーション解析の画面であり、2つの入力端(HF1、HF2)から見た共振回路の反射特性と通過特性を示したものである。図6において、左側の信号は代表的に〜550MHz(564MHzではないが傾向を示す)、右側の信号は600MHzに設定して、おおまかな相互のアイソレーションレベルを示唆している。左側の信号を564MHz方向に寄せると、右側の信号は高域側にシフトする。右側の信号のシフトを回路のチューニングコンデンサを使って補正し、600MHzに制御し、左側の信号を564MHzに持ってくると、両者のアイソレーションは図より更に悪化する。
この悪化したアイソレーション値を改善しようとすると、先ほど述べた同心円状のコイル間距離を離すことになるが、その場合、外側に配置されたコイルは試料からの距離が遠くなるため、検出効率(感度)あるいは照射効率が著しく低下するので、単純な解決とはならない。
参考のため、むりやり相互の周波数を600MHzと564MHzに合わせ、2つのコイルが発生するRF磁場の向きを丁寧に合わせ込んで最善のアイソレーションを取った結果の一例を図7と図8に示す。
図7〜8は、ネットワークアナライザーを模したシミュレーション解析の画面であり、2つの入力端(HF1、HF2)から見た共振回路の反射特性と通過特性を示したものである。両共振回路間のアイソレーションは564MHzで〜14dB、600MHzで〜8dBとなっている。これは何時間も掛けて治具を使いながら細心の注意を払ってやっと出るレベルであり、一方を更に良く合わせようとすると、他方が急激に悪化するtrade offの関係になる。しかも、後述するように、結果的に得られた特性でも、感度等の重要な基本性能が低下するという問題がある。
表2は、そのアイソレーションがどの程度のレベルなら性能的に満足できるかを調べた表である。
例えば、564MHz(HF2、ここでは
19F核の共鳴周波数)でのQ値を測定する。4dB程度のアイソレーションが得られる相互の周波数域ではQ〜66程度、ところが影響が相互に及ばない程度に離れている周波数、表2ではΔf=49MHz程度だが、その場合でQ〜131程度となる。概ね半分程度に低下し、影響が大きいことが分かる。
前述の8dBのアイソレーションをもとに600MHz(HF1、ここでは1H核の共鳴周波数)でのQ値を推定すると、Q〜103程度で、その影響がかなり残留している。
これらの結果をグラフにまとめたものが図9に示されている。両者の周波数は、互いに少なくとも40数MHz以上離れないと相互に影響を及ぼすことが分かる。またそのときの両回路のアイソレーションは、〜15dB程度は必要であると言える。数dB程度しかアイソレーションが取れない回路構成(サンプルコイル構造)では、性能が相互にスポイルされても仕方ないと言える。
図8は、1H核の周波数域(HF1、ここでは600MHz)をつかさどるチューニング回路を意図的に19F核の周波数域をつかさどるチューニング回路のある周波数(HF2、ここでは563MHz)に近づけると、相互のアイソレーションが急激に悪化することを示唆する解析データである。実機による検証でもこのように動作している。
HF1とHF2が近接すると、相互に影響し合って、検出された信号がどちらの信号ピークなのか分からなくなる。このため、実際の装置では、両者の周波数範囲を独立性が保持できる範囲に限定して設計することで、両者の相互干渉による感度への影響と操作上の煩わしさ・不便さを取り除いている。
つまり、一方のチューニング範囲が19F核を中心とする設定域であれば、他方のそれは1H核を中心とするもの、というようにチューニング範囲を狭く絞り込むことにより、正確なチューニング操作と性能が保たれるようにしている。
このため、感度を重視する標準的な19F核および1H核の観測では、それぞれに特化した2本のNMRプローブを用意することになる。
特許第2878721号公報
特開平5−285121号公報
特開平6−242202号公報
19F核と1H核は、かなり近接する周波数の組み合わせである。600MHz級のNMR装置では、19F核の共鳴周波数が〜564MHz、1H核の共鳴周波数が600MHzで、両者は〜36MHzしか互いに離れていない。表2から考えると、既に相互に影響し合う関係にあると言える。
チューニングの独立性を保持しながら両者の核種を同時励起できるNMRプローブを提供するには、いわゆる観測側を19F核、照射側を1H核とした19F核観測専用のF/Hプローブと、観測側を1H核、照射側を19F核とした1H核観測専用のF/Hプローブの2本のプローブを最低必要とする。
チューニング範囲についてだけならば、1H核も19F核も1つの同調回路のチューニング範囲を広げることで対応は可能であるが、NMRプローブでFH共存の仕様の場合、上記の問題点を抱えるため、感度を重視する場合には、どうしても2本のNMRプローブを用意して測定を行なわざるを得ない。
あるいは、共有する1つのサンプルコイルに1H核と19F核のダブルチューニング回路を構成することも可能であるが、その場合の欠点は、前述したようにあまりにも近接する周波数であるため、2つの周波数を分離する回路が複雑になること、その効果を得にくいこと、2つの周波数電力が1つのサンプルコイルに印加されるため、回路の発熱と放電の危険があること、クロストークがあり一方のチューニング操作で他方のチューニングが外れること等、負の効果がありすぎる。最大の欠点は、ターゲットとなるそれぞれの核種の最高感度を得る手段ではなくなることである。
前述したそれぞれに特化したプローブを使うことで得られるそれぞれの核種の最高感度を100とすると、共有する1つのサンプルコイルに1H核と19F核のダブルチューニング回路を構成した場合の最高感度は60〜40程度の性能にならざるを得ず、性能の低下は否めない。
また、クロストークがきついため、それぞれの共振回路の周波数範囲は、独立性を保つために、それぞれ担当する核種に応じた必要範囲を確保しなければならなくなる。
別々のサンプルコイルを構成し、そのコイルそれぞれに共振回路を構成する場合については既に述べているが、上記同様の表現を使うならば、その最高感度は、内側に配したサンプルコイルが担当する核種で100〜98、外側に配したサンプルコイルが担当する核種で60〜40程度になる。
この場合も、やはりクロストークがきついため、それぞれの共振回路の周波数範囲は、独立性を保つため、それぞれ担当する核種に応じた必要範囲を確保しなければならない。
これを次のように表記すると分かりやすいので提案する。観測核−{照射核}とし、19F−{1H}なる回路構成を有するもの、および1H−{19F}なる回路構成である。従来例では、いずれもFH系の同時励起プローブは、19F−{1H}、1H−{19F}なる回路構成を持つことで最適化を図っており、両者を同時に実現したものではない。
このような干渉による相互のスポイルが原因で、上記のような技術水準に留まっているのが現状である。それは分析用NMR装置に使われる検出器の宿命と言えるが、励起・検出をつかさどる空間が数mm〜10数mmの3次元空間領域で超高周波磁場を発生させて試料からのNMR信号を検出する仕組みでは、前提が狭い領域で電磁界マップの収支をあやつる分野の技術であると言える。
このため、それに必要な標準的なデバイスをこの空間領域で構成すると、サイズ規模で互いが干渉しやすい技術であることが分かる。この干渉の仕組みを解明することで、新しい技術革新が得られるはずである。
図3のサンプルコイルL90、L91間に生じている結合は、図10のような誘導結合と容量結合とから成り、その具体的な構成は、代表的に一般的な表現で記述すると、概ね図11と図12で示されるような等価回路で説明できる。
ある誘導結合Lmと決定的な動作をしている結合容量Cmで示すカップリングが、前述の諸問題、つまりQ値の低下、一方の周波数を動かすと他方の周波数も連動して動くクロストーク、カップリングゴーストが出て周波数を一義的に特定できない、1H核と19F核の組み合わせばかりでなく、例えば31P核と7Li核のような10MHz程度の近接度でも干渉障害が起きる、等に大きく関わっている。
本発明の目的は、上述した点に鑑み、近接する共振周波数で共振する2つのサンプルコイルを備え、しかも両周波数間の相互干渉が小さく、どちらの共振周波数を内側のサンプルコイルに割り当てても、常に最高の感度でNMRを測定可能なNMRプローブを提供することにある。
この目的を達成するため、本発明にかかるNMRプローブは、
近接した2つの異なる核種の共鳴周波数に同時に同調可能なNMRプローブであって、
該NMRプローブは、高周波磁場の発生方向が90°異なる向きに配置された同軸同心円状の2つのサンプルコイルA、Bを備え、
該2つのサンプルコイルA、Bは、サンプルコイルAの高周波電力の入力端側とサンプルコイルBの高周波電力の出力端(接地端)側とをスイッチ回路で結合されていて、
該スイッチ回路は、前記端部間を非接続にする第1のモードと、減結合回路を介して前記端部間を接続する第2のモードとの間で切り換えられるように構成されていることを特徴としている。
また、前記減結合回路は、サンプルコイルAの共振周波数とサンプルコイルBの共振周波数との間の周波数で共振する並列共振回路であることを特徴としている。
また、前記減結合回路は、サンプルコイルAの共振波長とサンプルコイルBの共振波長との間の波長のn/4倍(nは奇数)で共振する同軸ケーブルまたは同軸共振器であることを特徴としている。
また、前記近接した2つの異なる核種は、共鳴周波数の差が39.2%以下であるような2つの核種の組み合わせであることを特徴としている。
また、前記近接した2つの異なる核種は、1H核と19F核の組み合わせであることを特徴としている。
また、両端を備えたサンプルコイルであって、3H核〜19F核のいずれかの核の共鳴周波数に相当する第1の高周波をその一端より、205Tl核〜103Rh核のいずれかの核の共鳴周波数に相当する前記第1の高周波よりも周波数が低い第2の高周波をその他端より入力できる2つのサンプルコイルA、Bを備え、サンプルコイルごとに前記第1および第2の高周波に対して2重同調が可能な同調手段を備えたNMRプローブにおいて、
該2つのサンプルコイルA、Bは、高周波磁場の発生方向が90°異なる向きに同軸同心円状に配置され、
該サンプルコイルAの第1の高周波入力端側と、該サンプルコイルBの第2の高周波入力端側とはスイッチ回路で結合されていて、
該スイッチ回路は、前記端部間を非接続にする第1のモードと、減結合回路を介して前記端部間を接続する第2のモードとの間で切り換えられるように構成されていることを特徴とするNMRプローブ。
また、前記第1の高周波への同調手段は3H核〜19F核の共鳴周波数の広帯域に同調範囲を持ち、前記第2の高周波への同調手段は205Tl核〜103Rh核の共鳴周波数の広帯域に同調範囲を持つことを特徴としている。
また、前記減結合回路は、サンプルコイルAの共振周波数とサンプルコイルBの共振周波数との間の周波数で共振する並列共振回路であることを特徴としている。
また、前記減結合回路は、サンプルコイルAの共振波長とサンプルコイルBの共振波長との間の波長のn/4倍(nは奇数)で共振する同軸ケーブルまたは同軸共振器であることを特徴としている。
また、前記減結合回路は、サンプルコイルAの共振周波数とサンプルコイルBの共振周波数との間の周波数で共振する並列共振回路と、サンプルコイルAの共振波長とサンプルコイルBの共振波長との間の波長のn/4倍(nは奇数)で共振する同軸ケーブルまたは同軸共振器との組み合わせであることを特徴としている。
本発明のNMRプローブによれば、
近接した2つの異なる核種の共鳴周波数に同時に同調可能なNMRプローブであって、
該NMRプローブは、高周波磁場の発生方向が90°異なる向きに配置された同軸同心円状の2つのサンプルコイルA、Bを備え、
該2つのサンプルコイルA、Bは、サンプルコイルAの高周波電力の入力端側とサンプルコイルBの高周波電力の出力端(接地端)側とをスイッチ回路で結合されていて、
該スイッチ回路は、前記端部間を非接続にする第1のモードと、減結合回路を介して前記端部間を接続する第2のモードとの間で切り換えられるように構成されているので、
近接する共振周波数で共振する2つのサンプルコイルを備え、しかも両周波数間の相互干渉が小さく、どちらの共振周波数を内側のサンプルコイルに割り当てても、常に最高の感度でNMRを測定可能なNMRプローブを提供することが可能になった。
また、両端を備えたサンプルコイルであって、3H核〜19F核のいずれかの核の共鳴周波数に相当する第1の高周波をその一端より、205Tl核〜103Rh核のいずれかの核の共鳴周波数に相当する前記第1の高周波よりも周波数が低い第2の高周波をその他端より入力できる2つのサンプルコイルA、Bを備え、サンプルコイルごとに前記第1および第2の高周波に対して2重同調が可能な同調手段を備えたNMRプローブにおいて、
該2つのサンプルコイルA、Bは、高周波磁場の発生方向が90°異なる向きに同軸同心円状に配置され、
該サンプルコイルAの第1の高周波入力端側と、該サンプルコイルBの第2の高周波入力端側とはスイッチ回路で結合されていて、
該スイッチ回路は、前記端部間を非接続にする第1のモードと、減結合回路を介して前記端部間を接続する第2のモードとの間で切り換えられるように構成されているので、
近接する共振周波数で共振する2つのサンプルコイルを備え、しかも両周波数間の相互干渉が小さく、どちらの共振周波数を内側のサンプルコイルに割り当てても、常に最高の感度でNMRを測定可能なNMRプローブを提供することが可能になった。
以下、図面を参照して、本発明の実施の形態を説明する。
図10〜12で例示した2つのサンプルコイル間の結合を、電気的な等価モデルで解明した。例示したヘルムホルツ型コイルの構成では、Cmは概ね0.5pF程度、Lmは概ね2〜3nHであった。
例えばサンプルコイルをリボン箔コイルで構成するもの、あるいは線輪状コイルで構成するもの、あるいはそれらの混合で構成するものなど、構成するサンプルコイルの形状、またコイル間の距離や長さ等によってもこれらの値は変化するが、我々が対象とする技術分野のそれでは、概ねCmは数pF内、Lmは10数nH内である。
図13は、上記のような結合を切り離し、双方のチューニング周波数が重なり合う領域を互いに行き来でき、両者の感度を最高感度に近い水準で引き出せるようなNMRプローブの一実施例である。
この例では、2つの共振回路を構成している個々のサンプルコイルの端部同士を結ぶスイッチ回路S1を設け、非接続(開放)モードと分離回路を介した接続モードとを切り換え可能に構成している。
HF1の可変範囲は、スイッチS1の開放端側が接続されている場合では、基本モードとして、例えば1H核(あるいは19F核でも良い)の励起のみを担当する狭帯域周波数範囲となり、スイッチS1の分離回路側が接続されている場合では、応用モードとして、1H核の共鳴周波数範囲から19F核の共鳴周波数範囲まで連続的に周波数を設定できる広帯域周波数範囲となる。
また、HF2の可変範囲は、スイッチS1の開放端側が接続されている場合では、基本モードとして、例えば19F核(あるいは1H核でも良い)の励起のみを担当する狭帯域周波数範囲となり、スイッチS1の分離回路側が接続されている場合では、応用モードとして、1H核の共鳴周波数範囲から19F核の共鳴周波数範囲まで連続的に周波数を設定できる広帯域周波数範囲となる。
スイッチS1の切り換えは、リモート操作でコンピュータを使って目的に応じて切り換えられるようになっている。当然、手動式で切り換えても良いことは言うまでもない。
このことを先ほど提案した表記法で記述すると、
*スイッチS1で開放端側を選択した場合(=基本モード)、
19F−{1H}または1H−{19F}。
*スイッチS1で分離回路側を選択した場合(=応用モード)、
19F〜1H−{1H〜19F}。
この選択の意図は、両者ともHFに属する共振周波数の間で、両者の周波数範囲を互いに行き来できる、すなわち相互に乗り換え可能な技術を提供することにある。そして、この技術のメリットは、1本のNMRプローブで、所望に応じて2つの核それぞれを最高感度ないしはそれに近い感度で測定できることである。
最高感度を得る方法としては、既に記述した2本のNMRプローブを使えば達成できるが、そのようにした場合、同一試料を分析すると、個々のNMRプローブの分解能が一致しない(サンプルコイルに由来する静磁場の歪み具合がプローブ毎に異なる)という致命的な問題が出てしまう。本案の場合は、同一のサンプルコイルを使用することで、同一の分解能が保証されているので、測定結果の対比が容易である。同じことは、静磁場のみでなく、超高周波でのRF磁場に対しても言える。
1つのサンプルコイルを共有する構成のNMRプローブについては、先に得られる感度比率60〜40を示したが、本案の場合、乗り換え可能な機能を使う応用モードでの感度が〜80±10程度を目指しているので、大きな差異と言える。
本案の基本モードと応用モードの使い分けであるが、低濃度の試料での短時間測定を所望の場合は、内側のサンプルコイルに観測対象の核がアサインされた基本モードを選ぶ。その試料の結合している核種のうち、もう一方の核の観測も所望する場合は、そのままで応用モードに切り換える。
これらの機能を達成可能にする基本技術は、図14に記載する分離回路技術である。既に図13において全体性能を説明しているので、これ以降は分離回路技術部分について説明する。
スイッチ回路S1は、サンプルコイルL90の両端部のうちチューニング用可変コンデンサVC1がない側(サンプルコイルL90への高周波の入力端側)と、サンプルコイルL91の両端部のうちチューニング用可変コンデンサVC4がある側(サンプルコイルL91からの高周波の出力端側(接地端側))とがタスキがけになるように接続されている。あるいは、サンプルコイルL90の両端部のうちチューニング用可変コンデンサVC1がある側(サンプルコイルL90からの高周波の出力端側(接地端側))と、サンプルコイルL91の両端部のうちチューニング用可変コンデンサVC4がない側(サンプルコイルL91への高周波の入力端側)とがタスキがけになるように接続されていても良い。
ここでタスキがけの定義としては、入力端子HF1、HF2から高周波HFをサンプルコイルL90、L91に入力する側のnode(node1とnode3)をプラス(+)、サンプルコイルL90およびL91に入力された高周波HFがチューニング用可変コンデンサVC1およびVC4を介して接地される側のnode(node2とnode4)をマイナス(−)とすると、一方の共振回路のプラスnodeと他方の共振回路のマイナスnodeとの間にスイッチ回路S1を挿入することをタスキがけと呼んでいる。
したがって、図14のような回路構成においては、本案は、node1とnode4、もしくはnode2とnode3を結ぶようにスイッチ回路S1が挿入されている場合においてのみ効力があるものである。図14は前者の例である。
スイッチ回路S1内に組み込まれた分離回路としては、容量素子とインダクタンスを並列に接続した並列共振回路が用いられる。この並列共振回路の共振周波数は、2つの共振回路で共振する高周波のほぼ中間値に設定される。この周波数は、デカップリングインダクタンスLdと、デカップリング容量素子Cdと、2つのサンプルコイル間の結合容量Cmとが並列に結合された場合の共振周波数と近似的に一致する。その結果、並列共振回路の合成インピーダンスが2つのサンプルコイルで共振する高周波、HF1とHF2の中間の周波数付近で無限大となるので、2つのサンプルコイル間を流れるRF電流はゼロに近くなり、両サンプルコイル間の減結合が実現される。
尚、2つのサンプルコイル間の結合インダクタンスLmは、前記並列共振回路の共振周波数の値にはほとんど寄与しないことが分かったので、説明を省略した。
図15は、並列共振回路の代わりに、長さがnλ/4(ただしnは奇数、λは2つのサンプルコイルで共振する高周波の波長のほぼ中間値)の同軸ケーブルでできたトランスミッション・ラインを用いた例を示している。このトランスミッション・ラインは、線路長が4分の奇数波長の分布インダクタンスとして働くため、高周波は通過できず、2つのサンプルコイル間を流れるRF電流はゼロに近くなり、両サンプルコイル間の減結合が実現される。
尚、同軸ケーブルの代わりに、空洞を用いた高Qのnλ/4(ただしnは奇数、λは2つのサンプルコイルで共振する高周波の波長のほぼ中間値)で共振する同軸共振器を採用しても良い。
図16は、ネットワークアナライザーを模したシミュレーション解析の画面であり、2つの入力端(HF1、HF2)から見た共振回路の反射特性と通過特性を示したものである。本案の共振回路は、HF2側から見た反射特性から、564MHzでのQ値が129.5、また、HF1側から見た反射特性から、600MHzでのQ値が130.1であることが分かった。また、HF1端子とHF2端子の間の通過特性から、両端子間のアイソレーションは、564MHz付近で〜21dB、600MHz付近で〜11dBと判明した。
また、実機での検証結果を図17と図18に示す。2つの共振回路間のアイソレーションは、実機においても13dB以上を示し、また、そのときの応用モードのQ値も基本モードに近いQ値を維持していることを確認した。さらに、個々の信号が独立して1H〜19F間を相互に乗り換えてチューニングできることを確認した。
実機では、もともとのQ値が低かったので、相対的な比較で応用モードでの効率を判断したが、双方に乗り換え可能な回路構成にある図17、図18のQ値がもともとのQ値のほぼ80%程度であることを確認した。NMR装置の感度は、Q値の平方根に効くので、応用モードに切り換えたときの感度低下は10%ぐらいと見込まれる。
テスト回路では、理想的な外挿デバイスの設計ができるので、基本モードとほぼ等価なQを引き出せるが、実機では、市販のデバイスを用い、かつ高分解能NMR装置としての基本性能を維持できるよう、さまざまな制約(例えば、非磁性で空気に近い磁化率を備えたデバイスの採用など)があるので、理想的な形での成果は引き出しにくくなる。
これらを勘案すると、概ね、ほぼ期待通りの成果が得られていると判断できる。
図19は、本発明にかかるNMRプローブの別の実施例である。図13にある同調バリコンVC1、VC4がサンプルコイルの出力端(接地端)側になく、入力端側に設けられており、2つのサンプルコイルの出力端が直接接地されている例である。このような共振回路においても、スイッチ回路S1を用いて2つのサンプルコイルの入力端側と出力端(接地端)側をタスキがけに結ぶことにより、2つの近接したHFに対して独立に同調可能な、基本モードと応用モードとを備えたNMR用共振回路を提供することができる。
図20と図21は、本発明にかかるNMRプローブの別の実施例である。図13にある同調バリコンVC1、VC4のうちの1つがサンプルコイルの出力端(接地端)側になく、入力端側に設けられており、一方のサンプルコイルの出力端が直接接地されている例である。このような共振回路においても、スイッチ回路S1を用いて2つのサンプルコイルの入力端側と出力端(接地端)側をタスキがけに結ぶことにより、2つの近接したHFに対して独立に同調可能な、基本モードと応用モードとを備えたNMR用共振回路を提供することができる。
図22は、本発明にかかるNMRプローブの別の実施例である。図14(実施例1)に挙げたようなHF系平衡共振型回路を、仮にLOCK系の回路またはLF系の回路(13C核など、1H核や19F核に比べて低周波数側に位置する核種の共鳴周波数に共振する回路)に分離回路を介して連結する場合は、HF側デバイスがかなり小さいコンデンサでアースから浮いているのが一般的であるため、Ld、Cdによって構成される減結合回路だけで十分である。
しかし、仮にnodeの一部(図21ではnode4)を接地し、それに減結合回路が連結される場合は、減結合回路のnode4側に拒絶コンデンサCrを入れて、LOCK系の回路またはLF系の回路をブロックする必要がある。Crは、極めて小さい容量(数pF)で十分である。
今、考えられる減結合回路の変形例を図23に示しておく。
上記実施例では、近接したHFの共鳴周波数を有する2つの異なる核種として、1H核と19F核の組み合わせ(共鳴周波数の差は5.9%。ただし共鳴周波数の高い方の核を基準とした場合の百分率である。以下同じ)の場合を説明したが、本発明は、それに限定されるものではない。例えば、図2に挙げられた核種のうち、近接したLFの共鳴周波数を有する2つの異なる核種として、31P核と11B核の組み合わせ(共鳴周波数の差は20.7%)なども、組み合わせの対象となり得る。また、汎用性が最も高い核の組み合わせとしては、13C核と2H核の組み合わせ(共鳴周波数の差は39.2%)があるが、この2つの核種の組み合わせの場合にも共振周波数の干渉が起きる場合があり、その際、本発明の技術を適用することは可能である。
実施例5の考え方を、両端を備えたサンプルコイルであって、3H核〜19F核のいずれかの核の共鳴周波数に相当する第1の高周波をその一端より、205Tl核〜103Rh核のいずれかの核の共鳴周波数に相当する前記第1の高周波よりも周波数が低い第2の高周波をその他端より入力できる2つのサンプルコイルL90、L91を備え、サンプルコイルごとに前記第1および第2の高周波に対して2重同調が可能な同調手段を備えた多重同調NMRプローブに対して敷衍したものが本実施例である。
一例を図24に示した。本実施例でも、2つのサンプルコイルL90、L91は、高周波磁場の発生方向が90°異なる向きに同軸同心円状に配置されており、両コイル間の干渉を抑える構造となっている。
第1のサンプルコイルL90には、第1の入力端Xから205Tl核〜103Rh核の共鳴周波数に相当する低い広帯域高周波f1(ここでは13C核の共鳴周波数を例に取る)、第2の入力端HF1から3H核〜19F核の共鳴周波数に相当する高い広帯域高周波f2(ここでは1H核の共鳴周波数を例に取る)が入力される。
13C核の共鳴周波数に相当する低い周波数の高周波は、サンプルコイルL90、誘導素子L1、分離回路中のインダクタンス成分を併せた合成インダクタンスと、容量素子C2、同調容量素子VC3、リアクタンスエレメント1中の容量成分、および整合容量素子VC4を併せた合成容量とで構成されるLC共振回路で共振する。
1H核の共鳴周波数に相当する高い周波数の高周波は、サンプルコイルL90と誘導素子L1を併せた合成インダクタンスと、整合容量素子C1およびVC2、同調容量素子VC1を併せた合成容量とで構成されるLC共振回路で共振する。
第2のサンプルコイルL91には、第3の入力端Yから205Tl核〜103Rh核の共鳴周波数に相当する低い広帯域高周波f3(ここでは31P核の共鳴周波数を例に取る)、第4の入力端HF2から3H核〜19F核の共鳴周波数に相当する高い広帯域高周波f4(ここでは19F核の共鳴周波数を例に取る)が入力される。
31P核の共鳴周波数に相当する低い周波数の高周波は、サンプルコイルL91、誘導素子L3、分離回路中のインダクタンス成分を併せた合成インダクタンスと、容量素子C4、同調容量素子VC7、リアクタンスエレメント2中の容量成分、および整合容量素子VC8を併せた合成容量とで構成されるLC共振回路で共振する。
19F核の共鳴周波数に相当する高い周波数の高周波は、サンプルコイルL91と誘導素子L3を併せた合成インダクタンスと、整合容量素子C3およびVC6、同調容量素子VC5を併せた合成容量とで構成されるLC共振回路で共振する。
また、図示しないが、第2のサンプルコイルL91側の同調手段には、NMRロック用重水素核(2D核)の共鳴周波数に同調できる機能も付け加えられている。
HF1(1H核の共鳴周波数)およびHF2(19F核の共鳴周波数)がX端子およびY端子に向けてリークするのを防ぐ目的のために、これらの高周波を反射させる図25に示すような分離回路が採用されている。分離回路に用いられるリアクタンスエレメントの代表例としては、コイルとコンデンサによるLC並列共振回路(集中定数回路)や、同軸共振器を用いた波長共振回路(分布定数回路)などがある。
分離回路に用いられるリアクタンスエレメントを並列で組み込まれるコイルで例示すれば、サンプルコイルのインダクタンスと同等程度か、数分の1程度のインダクタンスであることが望ましい。しかも高Qであることが望ましいので、表皮効果を考えて、1〜2mmの防錆メッキされた太い銅線で巻くことが望ましい。
2つのサンプルコイルL90、L91の間は、非接続(オープン)モードと減結合接続モードとの間で任意に切り換えられるように構成されたスイッチ回路S1により結合されている。
スイッチ回路S1は、サンプルコイルL90の両端部のうちHF1(ここでは1H核)の入力端側と、サンプルコイルL91の両端部のうちY(ここでは31P核)の入力端側とがタスキがけになるように接続されている。あるいは、サンプルコイルL90の両端部のうちX(ここでは13C核)の入力端側と、サンプルコイルL91の両端部のうちHF2(ここでは19F核)の入力端側とがタスキがけになるように接続されていても良い。
ここでタスキがけの定義としては、入力端子HF1、HF2から高周波HFをサンプルコイルL90、L91に入力する側のnode(node1とnode3)をプラス(+)、入力端子X、Yから高周波LFをサンプルコイルL90およびL91に入力する側のnode(node2とnode4)をマイナス(−)とすると、一方の共振回路のプラスnodeと他方の共振回路のマイナスnodeとの間にスイッチ回路S1を挿入することをタスキがけと呼んでいる。
したがって、図24のような回路構成においては、本案は、node1とnode4、もしくはnode2とnode3を結ぶようにスイッチ回路S1が挿入されている場合においてのみ効力があるものである。図24は前者の例である。
スイッチ回路S1内に組み込まれた減結合回路としては、容量素子とインダクタンスを並列に接続した並列共振回路が用いられる。この並列共振回路の共振周波数は、2つの共振回路で共振する高周波のほぼ中間値に設定される。この周波数は、デカップリングインダクタンスLdと、デカップリング容量素子Cdと、2つのサンプルコイル間の結合容量Cmとが並列に結合された場合の共振周波数と近似的に一致する。その結果、並列共振回路の合成インピーダンスは、2つのサンプルコイルで共振する高周波、HF1(ここでは1H核)とHF2(ここでは19F核)の中間の周波数付近、および/または、X(ここでは13C核)とY(ここでは31P核)の中間の周波数付近で無限大となるので、2つのサンプルコイル間を流れるRF電流はゼロに近くなり、両サンプルコイル間の減結合が実現される。
尚、2つのサンプルコイル間の結合インダクタンスLmは、前記並列共振回路の共振周波数の値にはほとんど寄与しないことが分かったので、説明を省略した。
図26には、並列共振回路や、長さがnλ/4(ただしnは奇数、λは2つのサンプルコイルで共振する高周波の波長のほぼ中間値)の同軸ケーブルでできたトランスミッション・ラインを用いた減結合回路の例を示している。このトランスミッション・ラインは、線路長が4分の奇数波長の分布インダクタンスとして働くため、高周波は通過できず、2つのサンプルコイル間を流れるRF電流はゼロに近くなり、両サンプルコイル間の減結合が実現される。図26のうち、上の2つがHFのRF電流の通過を抑制する減結合素子、真ん中の2つがLFのRF電流の通過を抑制する減結合素子、下の2つがHFとLF両方のRF電流の通過を抑制する減結合素子である。
尚、HFの減結合回路については、同軸ケーブルの代わりに、空洞を用いた高Qのnλ/4(ただしnは奇数、λは2つのサンプルコイルで共振する高周波の波長のほぼ中間値)で共振する同軸共振器を採用しても良い。
スイッチ回路S1は、内側のサンプルコイルL90と外側のサンプルコイルL91に予め割り当てられていた高周波を入れ換えて測定したい場合に使用される。このような高周波の割り当てを変更して測定する機会は、観測コイル(内側コイル)と照射コイル(外側コイル)の設定を逆にしたい場合に生じる。
すなわち、19F核と31P核の共鳴周波数の高周波をサンプルに照射しながら、1H核と13C核のNMR信号を観測したい場合は、検出感度の面から1H核と13C核の共鳴周波数を検出感度の高い内側サンプルコイルに割り当て、19F核と31P核の共鳴周波数を検出感度の低い外側サンプルコイルに割り当てるのが一般的である(仮に第1のモードと呼ぶ。すべての基本となるモード)。
一方、1H核と31P核の共鳴周波数の高周波をサンプルに照射しながら、19F核と13C核のNMR信号を観測したい場合、すなわちHF側の1H核と19F核を第1のモードから入れ換えて測定する場合は、19F核と13C核の共鳴周波数を検出感度の高い内側サンプルコイルに割り当て、1H核と31P核の共鳴周波数を検出感度の低い外側サンプルコイルに割り当てる(第2のモード)。
また、19F核と13C核の共鳴周波数の高周波をサンプルに照射しながら、1H核と31P核のNMR信号を観測したい場合、すなわちLF側の31P核と13C核を第1のモードから入れ換えて測定したい場合は、1H核と31P核の共鳴周波数を検出感度の高い内側サンプルコイルに割り当て、19F核と13C核の共鳴周波数を検出感度の低い外側サンプルコイルに割り当てる(第3のモード)。
また、1H核と13C核の共鳴周波数の高周波をサンプルに照射しながら、19F核と31P核のNMR信号を観測したい場合、すなわち、HF側の1H核と19F核、LF側の31P核と13C核をともに第1のモードから入れ換えて測定したい場合は、19F核と31P核の共鳴周波数を検出感度の高い内側サンプルコイルに割り当て、1H核と13C核の共鳴周波数を検出感度の低い外側サンプルコイルに割り当てる(第4のモード)。
スイッチ回路S1は、このような場合のモード切り換えの際に用いられる。スイッチ回路S1の使い方は次の通りである。まず、内側のサンプルコイルL90を1H核と13C核の2重同調に割り当て、同時に外側のサンプルコイルL91を19F核と31P核の2重同調に割り当てる(第1のモード)。このとき、高周波の共振状態が最良となるようにデバイス等の初期条件が設定され、スイッチ回路S1は、サンプルコイルL90とサンプルコイルL91の間が非接続(オープン)となるようなモードに設定される。
次に、内側のサンプルコイルL90を19F核と13C核の2重同調に割り当て、外側のサンプルコイルL91を1H核と31P核の2重同調に割り当てる場合(第2のモード)は、スイッチ回路S1は、サンプルコイルL90とサンプルコイルL91の間がHF周波数で減結合接続となるように設定される。このときに用いられる減結合回路は、図26のうち、上の2つに相当するHFのRF電流の通過を抑制する減結合素子である。
次に、内側のサンプルコイルL90を1H核と31P核の2重同調に割り当て、外側のサンプルコイルL91を19F核と13C核の2重同調に割り当てる場合(第3のモード)は、スイッチ回路S1は、サンプルコイルL90とサンプルコイルL91の間がLF周波数で減結合接続となるように設定される。このときに用いられる減結合回路は、図26のうち、真ん中の2つに相当するLFのRF電流の通過を抑制する減結合素子である。
次に、内側のサンプルコイルL90を19F核と31P核の2重同調に割り当て、外側のサンプルコイルL91を1H核と13C核の2重同調に割り当てる場合(第4のモード)は、スイッチ回路S1は、サンプルコイルL90とサンプルコイルL91の間がHF周波数とLF周波数の両方で減結合接続となるように設定される。このときに用いられる減結合回路は、図26のうち、下の2つに相当するHFとLF両方のRF電流の通過を抑制する減結合素子である。
このように、内側のサンプルコイルL90と外側のサンプルコイルL91に割り当てていたHF、LFの一方または両方を入れ換えて測定する場合、入れ換え後の高周波の共振状態が必ずしも最良となるようにはデバイス等の初期条件が設定されていないため、入れ換え後、サンプルコイル間に相互干渉を生じやすい。
そこで、サンプルコイル間の相互干渉を抑えるために、スイッチ回路S1で使用する減結合素子の種類をその都度選択しながら、サンプルコイルL90とサンプルコイルL91の間が減結合接続となるようにスイッチ回路S1を制御する。これにより、内側サンプルコイルL90と外側サンプルコイルL91の高周波を入れ換えた際に生じるサンプルコイル間の相互干渉を有効に抑えることができる。
図27は、本実施例に対して行なったネットワークアナライザーを模したシミュレーション解析の一例である。HF1(1H核)とX(13C核)の間の通過特性から、HF1−X間のアイソレーションは600MHz付近で〜55dB(矢印*1)、またX(13C核)とHF2(19F核)の間の通過特性から、X−HF2間のアイソレーションは580MHz付近で〜86dB(矢印*2)、151MHz付近で〜45dB(矢印*3)、またY(31P核)とHF2(19F核)の間の通過特性から、Y−HF2間のアイソレーションは243MHz付近で〜14dB(矢印*4)、またHF1(1H核)とY(31P核)の間の通過特性から、HF1−Y間のアイソレーションは243MHz付近で〜57dB(矢印*5)、600MHz付近で〜25dB(矢印*6)、X(13C核)とY(31P核)の間の通過特性から、X−Y間のアイソレーションは150MHz付近で〜37dB(矢印*7)、243MHz付近で〜35dB(矢印*8)だった。
また、このHF1、HF2、X、Yの4入力端子を有する4重共振回路において、13C核の共鳴周波数である150MHz付近でのQ値は〜175、また31P核の共鳴周波数である242MHz付近でのQ値は〜99であった。
また、実機での検証結果を図28と図29に示す。なお、実機では、31P核の代わりに29Si核を対象にしてデータを取得している。2つの共振回路間のアイソレーションは、実機においても10dB以上を示し、また、そのときの減結合モードのQ値も基本モードに近いQ値を維持していることを確認した。さらに、個々の信号が独立して1H〜19F間および/または205Tl〜103Rh間を相互に乗り換えてチューニングできることを確認した。
多重共鳴NMR測定に広く利用できる。
従来のNMR装置の一例を示す図である。
NMRで測定される核種とその共鳴周波数の一例を示す図である。
従来のNMRプローブの一例を示す図である。
従来のNMRプローブの一例を示す図である。
従来のサンプルコイルの一例を示す図である。
従来のNMRプローブの性能の一例を示す図である。
従来のNMRプローブの性能の一例を示す図である。
従来のNMRプローブの性能の一例を示す図である。
従来のNMRプローブにおける高周波の相互干渉を示す図である。
従来のNMRプローブにおけるサンプルコイル間の結合を示す図である。
従来のNMRプローブにおけるサンプルコイル間の結合を示す図である。
従来のNMRプローブにおけるサンプルコイル間の結合を示す図である。
本発明にかかるNMRプローブの一実施例を示す図である。
本発明にかかるNMRプローブの一実施例を示す図である。
本発明にかかるNMRプローブの別の実施例を示す図である。
本発明にかかるNMRプローブの性能の一例を示す図である。
本発明にかかるNMRプローブの性能の一例を示す図である。
本発明にかかるNMRプローブの性能の一例を示す図である。
本発明にかかるNMRプローブの別の実施例を示す図である。
本発明にかかるNMRプローブの別の実施例を示す図である。
本発明にかかるNMRプローブの別の実施例を示す図である。
本発明にかかるNMRプローブの別の実施例を示す図である。
本発明に用いられる減結合回路の変形例を示す図である。
本発明にかかるNMRプローブの別の実施例を示す図である。
本発明に用いられる分離回路の例を示す図である。
本発明に用いられる減結合回路の例を示す図である。
本発明にかかるNMRプローブの性能の一例を示す図である。
本発明にかかるNMRプローブの性能の一例を示す図である。
本発明にかかるNMRプローブの性能の一例を示す図である。
符号の説明
1:高周波発振器、2:位相制御器、3:振幅制御器、4:電力増幅器、5:デュプレクサ、6:NMRプローブ、7:前置増幅器、8:受信器、9:アナログ−デジタルデータ変換器、10:制御コンピュータ、L90:外側コイル、L91:内側コイル