JP3908325B2 - 昇華性物質の回収方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は昇華性物質の回収方法に関し、より詳しくは、無水ピロメリット酸,テレフタル酸等の昇華性物質を効率良く回収する方法に関するものである。尚以下では、昇華性物質として無水ピロメリット酸を代表的に取り上げて説明を進める。
【0002】
【従来の技術】
昇華性物質のうちの一種である無水ピロメリット酸は、主にポリイミド樹脂などの耐熱性高分子の原料として、またエポキシ樹脂の硬化剤として有用であり、そのような無水ピロメリット酸を高純度に生産する方法としては、例えば特公昭47−18745 号に示されるように、気相酸化法によって製造されたガス状生成物、即ち、無水ピロメリット酸を含有する反応ガスから無水ピロメリット酸を析出する方法が知られている。この方法は、無水ピロメリット酸含有ガスを、無水ピロメリット酸の昇華温度より低温に保持されている結晶析出面を備えた回収器内に導入し、高純度の無水ピロメリット酸を上記結晶析出面上に結晶として析出させた後、これを取出すものである。
【0003】
一方、特公昭57−27722 号には、無水ピロメリット酸含有ガスを、小孔を備えた冷却層で析出させ、櫛状またははけ状の歯を回転させて掻取る方法が示されている。また特開平4 −131101号には、無水ピロメリット酸含有ガスに耐摩耗性の粒子を同伴させて回収器内に導入し、粒子の衝突によって析出結晶を剥離する方法が示されている。更に、エアーノッカー等の如く機械的衝撃を回収器に加えて結晶析出面から結晶を剥離させる方法も知られている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、無水ピロメリット酸は昇華性固体であるが昇華温度が高く且つ融点も286℃と高温であることから、析出した結晶を回収器から取り出すことは容易でないという問題がある。即ち、昇華性物質であってもその昇華温度が低い場合には、析出した結晶を含む回収器を加熱して結晶の温度を上げ、昇華後に抜き出すことが可能であるが、その昇華温度が比較的高い場合には結晶の昇華が困難である。特に、昇華温度が200℃以上の昇華性物質に対しては、昇華のための熱源としてスチームを利用するとすれば15kg/cm2G以上の圧力が必要となり、そのスチーム発生のための設備を備えなければならない。また熱源として電気ヒータ等の電力を利用すると、昇華に要するエネルギーが無視できない範囲で増大するという問題が新たに発生する。また昇華性固体を融解して回収する方法もあるが、この場合も上記と同様にエネルギーが増大するという問題が発生する。更に、昇華性有機化合物の場合においては、ある温度以上で分解または変質してしまい、工業的に致命的な問題となる場合も少なくない。
【0005】
そこで、熱源を使用せずに回収の効率を高めようとして上記特公昭57−27722 号に記載の掻取り装置を備えれば、その駆動機構が複雑となって故障等のトラブルが多く、回収器を設計する際に自由度がまったくないという問題が生じ、また上記特開平4 −131101号に記載の耐摩耗性粒子を同伴させる方法では、その耐摩耗性粒子を昇華性物質含有ガスと混合して回収器内に導入し、結晶析出後、分離するための特別の装置が必要となって装置が大型化するという問題が生じ、更に上記エアーノッカーによる衝撃を回収器に加える方法では、その衝撃に耐え得る強度が回収器に要求されるだけでなく、衝撃力が局部的に作用するため、均一に剥離させることが困難であるという問題があった。
【0006】
本発明は以上のような従来の昇華性物質の回収方法の課題を考慮してなされたものであり、その目的は、比較的簡単な装置構成で実施でき、析出した結晶を簡単に且つ効率良く剥離させて回収することができる昇華性物質の回収方法を提供することにある。
【0007】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成し得た本発明方法とは、回収すべき昇華性物質の結晶析出面を備えた竪型回収器内に昇華性物質含有ガスを導入し、該昇華性物質を上記結晶析出面上に結晶として析出させた後、これを取出す昇華性物質の回収方法において、該結晶析出面の温度を結晶析出時の温度よりも下げることにより、結晶析出面と結晶との温度降下に伴う伸縮差を利用して、前記結晶析出面から前記結晶を剥離・落下させて回収する点に要旨を有する昇華性物質の回収方法である。尚本発明において、昇華性物質含有ガスとは、気相酸化法によって昇華性物質を得る場合の「空気+昇華性物質+その他のガス」に限らず、「昇華性物質+他の任意のガス」、および「昇華性物質ガス」が含まれ、その製造方法や混合比率は限定されない。
【0008】
本発明方法は、対象とする前記昇華性物質が、その結晶析出時の温度が200℃以上である、昇華性有機化合物,昇華性無機化合物及び昇華性無機単体からなる群より選択される1種以上の物質であるときに特に有効である。
【0009】
上記本発明方法において、析出させた結晶を効果的に剥離させる為の具体的な条件としては、下記(a)〜(e)の条件が挙げられ、これらのうちの少なくとも1つの条件を満足させる様にして操業することによって、本発明の効果がより一層発揮される。
(a)析出した結晶と前記冷却面との温度差を15℃以上として前記結晶を剥離・落下させる。
(b)前記結晶析出面の温度低下速度を15℃/時間以上にする。
(c)結晶析出面の温度降下時の熱膨張係数を1.0×10-5/℃以上とする。
(d)結晶析出面を研磨処理が施されたものとする。
(e)振動または衝撃を前記析出した結晶に与える。
【0010】
【発明の実施の形態】
本発明者らは、昇華性物質を効果的に回収する為の具体的な構成について、様々な角度から検討した。その結果、昇華性物質を上記結晶析出面上に結晶として析出させた後、該結晶析出面の温度を結晶析出時の温度よりも下げる様にすれば、結晶析出面と結晶との温度による伸縮差によって、前記結晶析出面から前記結晶を効果的に剥離・落下させて回収できることを見出し、本発明を完成した。
【0011】
以下、本発明を図面に基づいて更に詳細に説明する。図1は、本発明を実施する為の装置構成例を示したものである。尚以下では、昇華性物質として無水ピロメリット酸を例に取り説明を進める。
【0012】
図1において、直径200mm,長さ4000mmに構成された筒状容器からなる竪型回収器1の下部には熱媒体を導入するための媒体入管2が設けられ、上部にはその導入した熱媒体を排出する媒体出管3が設けられており、竪型回収器1内壁とその内部に形成された結晶析出面4との間隙5に熱媒体を循環させるようになっている。また媒体入管2と対向する側には昇華性物質含有ガスとしての無水ピロメリット酸含有ガスを導入するためのガス流入管6が設けられ、媒体出管3と対向する側にはガス流出管7が設けられている。
【0013】
図1に示した装置を用いて本発明を実施するに当たっては、無水ピロメリット酸含有ガスをガス流入管6を通して竪型回収器1に導入し、熱媒体によって、回収すべき昇華性物質の結晶析出時より低い温度に保持されている結晶析出面4上に無水ピロメリット酸を結晶として析出させた後、該結晶析出面4を結晶析出時の温度よりも下げるようにする。こうした構成を採用すれば、結晶析出面と結晶との温度降下に伴う伸縮差によって、前記結晶析出面から無水ピロメリット酸結晶を剥離・落下させて高純度の無水ピロメリット酸が回収できる。こうした本発明は、結晶析出面の表面温度を測定する設備を設けるだけで実施でき、装置が大型化したり複雑化することもなく、定期検査の作業も楽になる。
【0014】
本発明を実施するに当たっては、析出した結晶と前記結晶析出面との温度差を15℃以上にするすることが好ましい。即ち、析出した結晶と前記結晶析出面との温度差が15℃未満になると、結晶析出面と結晶との温度に伴う伸縮差が小さくなって、結晶が剥離・落下しにくくなる。またこうした状態を実現する為の条件として、結晶析出面の温度降下速度を15℃/時間以上にすることが好ましい。即ち、結晶析出面の温度降下速度を15℃/時間以上として冷却すると、析出した結晶と前記結晶析出面の熱伝導度の違いによって、結果的に或る時点で析出結晶と前記結晶析出面との温度差が15℃以上になって結晶が剥離・落下し易い状態が実現されることになる。
【0015】
また結晶析出面と結晶との温度に伴う伸縮差を大きくするという観点から、結晶析出面の温度降下時における熱膨張係数が1.0×10-5/℃以上となるように、結晶析出面の素材を選定することが好ましい。即ち、前記熱膨張係数が1.0×10-5/℃よりも小さくなると、結晶析出面と結晶との温度に伴う伸縮差が小さくなる。こうした素材としては、炭素鋼やステンレス鋼が挙げられ、ステンレス鋼を使用した場合に185℃から50℃に温度降下させる様な場合では、その熱膨張係数は、1.7×10-5/℃程度である。
【0016】
更に、結晶析出面からの結晶の剥離・落下を容易にする為に、結晶析出面に研磨処理を施すことも有効である。こうした研磨処理としては、バフ研磨や電解研磨等が挙げられる。
【0017】
本発明においては、結晶に振動または衝撃を付与する方法を、前記した不都合が発生しない程度で付随的に併用して結晶を回収することも有効である。具体的にはバイブレーターやノッカーを用いて局所的な振動や衝撃を与える方法、冷却器全体を振動させる方法、高圧流体(液またはガス)を吹き付け結晶を剥離させる方法、スートブローを用いる方法等が挙げられ、その駆動方法も電気式,機械式,圧力式等、特に限定されるものではない。こうした構成を採用すれば、両者による結晶剥離・落下作用が、同時的に結晶に与えられ、結晶回収効率をより高めることができる。尚本発明者らは、析出した結晶に音波による振動を与える方法を先に提案しているが(特願平7−49963号)、本発明方法に併用する方法としてこの方法を採用することもできる。また結晶に振動または衝撃を付与する方法と本発明方法を併用する場合には、通常時には結晶に振動または衝撃を付与して結晶を冷却器から排出する方法を実施して長期稼働を行なう。その場合、前記の手段では、析出結晶の全てを剥離できず、途中に結晶析出面に残った付着結晶が成長し冷却器内を閉塞して冷却器からの結晶の取り出しが困難になって装置を一旦停止しなければならない状況になったときに本発明方法を実施するような操業を行なうこともできる。
【0018】
これまでは、昇華性物質として無水ピロメリット酸を中心に説明してきたが、本発明で対象とする昇華性物質としては、これに限らず、無水ナフタル酸、アントラキノン、テレフタル酸、フマル酸、ニコチン酸、メラミン、アラニン、フロログルシノール、クロラニル、クロラニル酸、バニリン酸、ヘキサメチレンテトラミン等の、結晶析出時の温度が200℃以上となる昇華性有機化合物、昇華性無機化合物および昇華性無機単体の結晶回収にも適用することができる。即ち本発明は、結晶析出時の温度が200℃以上と比較的高温である各種昇華性物質を効果的に回収することができるのである。
【0019】
以下実施例によって本発明の効果をより具体的に示すが、本発明が下記実施例によって限定されるものではなく、前・後記の趣旨に徴して設計変更することはいずれも本発明の技術的範囲に含まれるものである。
【0020】
【実施例】
前記図1に示した構成において、無水ピロメリット酸を含有する反応生成ガスを、一旦245℃まで冷却した後、熱媒体によって185℃の一定温度に保ったステンレス鋼(SUS316)製竪型回収器1内に導入し、無水ピロメリット酸を結晶析出面4上に結晶として析出させた。48時間以上(下記表1)捕集した後、管が閉塞した状態で、下記表1に示す各種の温度降下条件で50℃まで壁面を温度を降下し、壁面に付着した結晶を結晶を剥離・落下させて回収した。
【0021】
上記実験による結晶落下状態、結晶回収効率、無水ピロメリット酸純度、製品外観を、温度降下条件(温度降下速度、温度降下時間)と共に、下記表1に示す。ここで結晶回収効率とは、析出させた結晶に対する回収結晶の割合(%)を意味する。尚実験番号3、4のものは、温度降下開始2時間経過した後は、析出した結晶と前記冷却面との温度差が15℃以上になっていたものである。
【0022】
【表1】
【0023】
表1から明らかなように、析出させた結晶が存在する結晶析出面を適切な条件で温度降下することによって、前記結晶を効果的に剥離・落下させ、高純度の無水ピロメリット酸が効率良く回収できることが分かる。
【0024】
【発明の効果】
本発明は以上のように構成されており、比較的簡単な装置構成で実施でき、析出した結晶を簡単に且つ効率良く剥離させて回収することができる昇華性物質の回収方法が実現できた。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明を実施する為の装置構成例を示す概略説明図である。
【符号の説明】
1 竪型回収器
2 媒体入管
3 媒体出管
4 結晶析出面
5 間隙
6 ガス流入管
7 ガス流出管
Claims (5)
- 回収すべき昇華性物質の結晶析出面を備えた竪型回収器内に昇華性物質含有ガスを導入し、該昇華性物質を上記結晶析出面上に結晶として析出させた後、これを取出す昇華性物質の回収方法において、該結晶析出面の温度を結晶析出時の温度よりも下げ、該結晶析出面の温度降下速度を15℃/時間以上にすることにより、前記結晶析出面から前記結晶を剥離・落下させて回収することを特徴とする昇華性物質の回収方法。
- 前記昇華性物質は、該結晶析出時の温度が200℃以上である、昇華性有機化合物,昇華性無機化合物および昇華性無機単体よりなる群から選択される1種以上の物質である請求項1に記載の回収方法。
- 結晶析出面の温度降下時の熱膨張係数が1.0×10-5/℃以上である請求項1または2に記載の回収方法。
- 結晶析出面が研磨処理を施されたものである請求項1〜3のいずれかに記載の回収方法。
- 振動または衝撃を前記析出した結晶に与える請求項1〜4のいずれかに記載の回収方法。
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