JP3907919B2 - 抗原又は抗体の高感度検出法 - Google Patents
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【発明の属する技術分野】
本発明は、抗原抗体反応を利用した抗原又は抗体の高感度検出法に関する。詳しくはモノクローナル抗体を用いる同高感度検出法に関する。
【0002】
【従来の技術】
モノクローナル抗体は、特定の抗原のみを認識するため、その特定の抗原の検出に広く用いられているが、モノクローナル抗体を用いた測定法は一般に感度が低く、その検出感度の増大が望まれている。
一方、代表的な除草剤であり、光合成系の電子受容体としても広く用いられているビオロゲンを特異的に認識するモノクローナル抗体は毒物であるビオロゲンを無毒化する医薬としての応用が期待でき、また電子受容体に抗体が結合することによって、電子供与体から電子移動によって生じたラジカルを捕足することが可能になると考えられるため、電子供与体から受容体への電子移動を制御する材料としての利用も期待されている。
ビオロゲンを特異的に認識するモノクローナル抗体に関しては、これまでにZ.Niewola等[Clinica Chimica Acta,148,149-156(1985)]や M.R.Bowles等[Int. J. Immunopharmacol.,10,537-545(1988)]によって抗ビオロゲンモノクローナル抗体が得られているが、これらの抗体の評価については、ビオロゲンとの結合親和性について検討されているのみで、それ以上の、或いはそれ以外の検討は殆どなされておらず、抗ビオロゲンモノクローナル抗体を用いたビオロゲンの高感度検出法について言及している文献はこれまでのところ殆ど見当たらない。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、抗原抗体反応を利用した抗原又は抗体の高感度検出法を提供することにある。就中、抗体としてモノクローナル抗体を使用した場合の各種抗原又は抗体の高感度検出法を提供することにある。
【0004】
【課題を解決するための手段】
本発明は、抗原抗体反応を利用した抗原の検出法であって、該抗原に対するモノクローナル抗体と、該モノクローナル抗体と結合し得る多官能性抗原とを用いることを特徴とする抗原の高感度検出法である。
【0005】
また、本発明は、抗原抗体反応を利用した抗体の検出法であって、該抗体に対する抗原として該抗原から調製し得る多官能性抗原を用いることを特徴とする抗体の高感度検出法の発明である。
【0006】
即ち、本発明者らは、モノクローナル抗体による抗原の検出をバイオセンサーなどで行うとき、抗原を多官能性にすることにより、抗原の検出感度を増大させ得るのではないかと考え、最も多用される除草剤成分であるビオローゲンのモノクローナル抗体によりビオローゲンをバイオセンサーにより検出する際、ビオローゲンダイマー(メチレン鎖で結合したもの)を用いたところ、応答シグナルが大きく増大し、また、ダイマーと抗体の添加の繰り返しによりさらにシグナルの増大が図れることを見出し、更に、本技術は、ビオローゲンに限らず多官能にすることのできる全ての抗原に利用し得るものであり、バイオセンサーのみならずELISA法(酵素標識抗体測定法)などにも利用できるものであるとの確信を得、本発明を完成するに到った。
本技術は、診断薬としての利用を始めとして、多くの化合物のモノクローナル抗体による高感度検出法等に利用価値のある興味ある技術である。
【0007】
本発明で用いられる多官能性抗原としては、二官能性抗原、三官能性抗原、四官能性抗原等が挙げられるが、二官能性抗原が比較的合成し易く、より一般的であり好ましい。
二官能性抗原としては抗原ダイマーが合成のし易さ等から好ましく用いられる。
抗原ダイマーは、官能性のある抗原をダイマー化したものであるが、そのとき、元素数5〜15の屈曲性連鎖を含む分子鎖で結合したものが好ましい。そのような分子鎖としては、例えば炭素数5〜15のメチレン鎖などが好ましいものとして挙げられる。
本発明で用いられるモノクローナル抗体は、常法、即ちケラーとミルシュタインによるモノクローナル抗体の作製法に準じて適宜作製したものを用いることで足りる。即ち、例えば抗ビオロゲンモノクローナル抗体を作製する場合を例にして述べると、先ず、抗原決定基として下式
【0008】
【化1】
【0009】
で示される化合物(以下、C1VC5と略す。)を下記合成ルート
【0010】
【化2】
【0011】
により合成し、これを貝類のタンパク質(キーホール リンペット ヘモシアニン、KLH)に導入して免疫用抗原を作製する。次にこれを実験用動物マウスに1週間間隔で免役した後、脾臓細胞を摘出する。次いで、該脾臓細胞とマウス骨髄腫細胞とをポリエチレングリコールを用いて融合し、C1VC5に対する抗体を産生する細胞を選別する。それらの細胞をそれぞれマウス腹腔内で増殖して腹水を得、これを精製することにより目的とするモノクローナル抗体が得られる。
本発明で用いられる多官能性抗原の合成法は、抗原の種類により自ずから異なり一様ではないが、例えば下式
【0012】
【化3】
【0013】
で示されるビオロゲンダイマーの合成法を反応スキームで示すと下記の通りである。
【0014】
【化4】
【0015】
本発明に係る抗体の高感度検出法において用いられるモノクローナル抗体は、常法、即ちケラーとミルシュタインによるモノクローナル抗体の作製法に準じて適宜作製したものを用いることで足りる。また、該抗体に対する抗体、即ち第2抗体が用いられる場合の該第2抗体としては、通常、自体公知の方法により容易に得られる抗イムノグロブリン抗体が用いられる。
【0016】
本発明に係る抗原の高感度検出法を実施する場合の一般的な手法としては、例えば下記の如き方法が挙げられる。
(1)表面プラズモン共鳴法を検出原理とするバイオセンサーによる測定の場合
先ず、測定対象抗原に対するモノクローナル抗体をセンサーチップ(例えば、カルボキシメチル化デキストラン修飾金基板等)に固定し、これに抗原ダイマー等の多官能性抗原を添加反応させた後、測定対象抗原を含む試料と測定対象抗原に対するモノクローナル抗体(前記モノクローナル抗体と同じモノクローナル抗体でも、異なるモノクローナル抗体でもどちらでも良い。)を加えて反応させ、応答シグナルの変化を見る。
【0017】
(2)ELISA法(酵素標識抗体測定法)による測定の場合
先ず、測定対象抗原に対するモノクローナル抗体を不溶性担体(例えば、ガラスビーズ、ポリスチレンビーズ、ポリスチレン製マイクロプレート、試験管等)に固定し、これに抗原ダイマー等の多官能性抗原を添加反応させた後、測定対象抗原を含む試料と、酵素(例えば、ペルオキシダーゼ、アルカリホスファターゼ、β−ガラクトシダーゼ等)で標識した、測定対象抗原に対するモノクローナル抗体(前記モノクローナル抗体と同じモノクローナル抗体でも、異なるモノクローナル抗体でもどちらでも良い。)を加えて反応させ、しかる後、固相の酵素活性を測定する。
ここにおいて、酵素活性を測定する方法自体は、通常この分野で行われている自体公知の酵素活性測定法に準じて、用いた酵素に応じて適宜適当な方法を選択しこれを行うことで足りる。即ち、例えば酵素がペルオキシダーゼの場合には、過酸化水素と被酸化性呈色試薬(例えば、4−アミノアンチピリンとアニリン誘導体又はフェノール誘導体との組み合わせ等)を用いて発色系に導き、発色の度合いを測定する等の方法によりこれを行えば良いし、また、酵素がアルカリホスファターゼの場合には、基質としてp−ニトロフェニルリン酸を用い、酵素により加水分解されて生じるp−ニトロフェノールの吸収を測定する等の方法によりこれを行えば良い。
【0018】
また、本発明に係る抗体の高感度検出法を実施する場合の一般的な手法としては、例えば下記の如き方法が挙げられる。
(1)表面プラズモン共鳴法を検出原理とするバイオセンサーによる測定の場合
先ず、測定対象のモノクローナル抗体をセンサーチップ(例えば、カルボキシメチル化デキストラン修飾金基板等)に固定し、これに抗原ダイマー等の多官能性抗原を添加反応させた後、測定対象抗体を含む試料と、測定対象抗体に対する抗体(第2抗体、抗イムノグロブリン抗体)を加えて反応させ、応答シグナルの変化を見る。
【0019】
(2)ELISA法(酵素標識抗体測定法)による測定の場合
先ず、測定対象のモノクローナル抗体を不溶性担体(例えば、ガラスビーズ、ポリスチレンビーズ、ポリスチレン製マイクロプレート、試験管等)に固定し、これに抗原ダイマー等の多官能性抗原を添加反応させた後、測定対象抗体を含む試料と、酵素(例えば、ペルオキシダーゼ、アルカリホスファターゼ、β−ガラクトシダーゼ等)で標識した、測定対象抗体に対する抗体(第2抗体、抗イムノグロブリン抗体)を加えて反応させ、しかる後、固相の酵素活性を測定する。
ここにおいて、酵素活性を測定する方法自体は、通常この分野で行われている自体公知の酵素活性測定法に準じて、用いた酵素に応じて適宜適当な方法を選択しこれを行うことで足りる。即ち、例えば酵素がペルオキシダーゼの場合には、過酸化水素と被酸化性呈色試薬(例えば、4−アミノアンチピリンとアニリン誘導体又はフェノール誘導体との組み合わせ等)を用いて発色系に導き、発色の度合いを測定する等の方法によりこれを行えば良いし、また、酵素がアルカリホスファターゼの場合には、基質としてp−ニトロフェニルリン酸を用い、酵素により加水分解されて生じるp−ニトロフェノールの吸収を測定する等の方法によりこれを行えば良い。
【0020】
本発明に係る抗原の高感度測定法は、モノクローナル抗体が得られ、多官能性抗原を生成しうる全ての抗原の測定に利用可能である。
また、本発明に係る抗体の高感度測定法は、多官能性抗原を生成しうる抗原に対する抗体であって、モノクローナル抗体の取得が可能な全ての抗体の測定に利用可能である。
本発明の測定法は、表面プラズモン共鳴法を検出原理とするバイオセンサーによる測定法、ELISA法、蛍光スペクトル法など種々の方法に適用することが出来る。
【0021】
【実施例】
次に、実地例により本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により何ら限定されるものではない。
【0022】
実施例1:ビオロゲンの抗原決定基(C1VC5)に対するモノクローナル抗体の作製
C1VC5を水溶性カルボニルジイミダゾールの存在下、貝類の蛋白質(キーホール リンペット ヘモシアニン)に導入し、免疫用抗原を合成した。
得られた免疫用抗原を0.1Mリン酸塩緩衝液(pH7.0)に溶解した免疫用抗原溶液と0.01Mリン酸塩緩衝液(pH7.0、0.9%NaCl含有)とを等量で混合した水溶液0.4mL/匹をBalb/cマウス(雌8週齢)に免疫した。2回目以降はアジュバントと抗原溶液を混合したエマルジョンを1週間間隔で免疫(×5回)した後、マウスの脾臓細胞を摘出した。マウス骨髄腫細胞と脾臓細胞をポリエチレングリコールを用いて融合した。牛血清アルブミン(BSA)とC1VC5を結合した検定用抗原(BSA:C1VC5=1:1)を用いて、C1VC5に対する抗体を産生する細胞を選別した。種々の細胞をそれぞれマウス腹腔内で増殖し、腹水を得た。マウスモノクローナル抗体のクラス・サブクラスを決定した結果、4種のモノクローナル抗体はそれぞれIgG1(2種、9B2、10D5)、IgG2a(1種、7B10)、IgM(1種、1D8)であることが判った(9B2、10D5、7B10、1D8は抗体の種類を表す。)。IgG抗体はプロテインAカラムにより腹水から精製した。
抗体作製スキームを図1に示す。
【0023】
実施例2:抗体と種々のビオロゲン誘導体との結合親和力の測定と超分子形成
実施例1で得られた4種類のモノクローナル抗体とメチルビオロゲンあるいはC1VC5との結合力を、ELISA及びバイオセンサー(BIAcore X)により決定した。
抗体1D8、7B10と9B2はC1VC5と10−6から10−7Mの解離定数をもって結合することが判った。一方、抗体10D5は検定用抗原と特異的に、且つ強く結合するにも拘わらずC1VC5の阻害反応が見られなかった([C1VC5]<10−4M)。
メチルビオロゲンに対しては抗体1D8、9B2ともに10−6Mの解離定数をもって結合する。しかし、抗体7B10と10D5は[メチルビオロゲン]<10−4M存在下における競争反応では阻害効果が見られなかった。
【0024】
前記ビオロゲンダイマーと種々の抗体との結合をELISAにより観察した結果、ビオロゲンダイマー存在下において、抗体のみの系よりもELISAの発色が強くなる現象が確認された。
同様にビオロゲンダイマーと抗体10D5との錯体形成を、表面プラズモン共鳴法を検出原理とするバイオセンサー(BIAcore X)により観察した。
カルボキシメチル化デキストランをコートした金基板に抗体10D5をアミンカップリング法により固定した。ビオロゲンダイマーをμMのオーダーで注入し、更に抗体10D5を添加した。その結果、抗体10D5ビオロゲンダイマーは10−7Mの解離定数をもって結合し、最初に金基板に固定化した量(14000RU,(1RU=1pg/mm2))とほぼ同量の抗体がビオロゲンダイマーを介して基板に固定されていることがわかった。このセンサーシグナルの増大はビオロゲンダイマーと抗体を交互の添加により実現され、図2のような構造が形成されたことに由来していると考えられる。
【0025】
実施例3:ビオロゲンに対するモノクローナル抗体を用いた高感度ビオロゲン誘導体検出法
[実験操作]
1.モノクローナル抗体10D5をセンサーチップ(カルボキシメチル化デキストラン修飾金基板)に固定
2.ビオロゲンダイマー22μMを添加
3.更に、モノクローナル抗体10D5を9μM添加
4.2及び3の操作を再度繰り返す
[結果]
結果を図3に示す。図3中、(a)は、ビオロゲンダイマー22μMを添加したときの応答シグナル強度変化量を示し、(b)は、(a)に続き抗体10D5を9μM添加したときの応答シグナル強度変化量を示し、(c)は、(a)及び(b)の操作を2回連続した場合の応答シグナル強度変化量を示す。
図3から明らかなように、ビオロゲンダイマーのみを添加したときのシグナル強度に比べ、抗体を更に添加することにより10倍のシグナル強度でビオロゲンダイマーを検出できた。
また、実験操作2及び3を繰り返すことにより更に大きく応答シグナルを増幅できることが判った。
【0026】
実施例4:ビオロゲンを3つ有する分子を用いたときのバイオセンサーにおける感度について
下式
【0027】
【化5】
【0028】
で示されるビオロゲンを3つ有する化合物を用いて、バイオセンサーにおける感度について調べた。結果を図4に示す。
図4から明らかなように、この場合も三官能性抗原のみを添加したときのシグナル強度に比べ、抗体を更に添加した場合には、シグナル強度が著しく増大していることが判る。
【0029】
【発明の効果】
本発明の方法によれば、モノクローナル抗体が得られ、多官能性抗原を生成しうる全ての抗原を高感度に測定することが出来、また、多官能性抗原を生成しうる抗原に対する抗体であって、モノクローナル抗体の取得が可能な全ての抗体を高感度に測定することが出来、且つ、表面プラズモン共鳴法を検出原理とするバイオセンサーによる測定法、ELISA法、蛍光スペクトル法など種々の方法に適用することが出来るので斯業に貢献するところ極めて大である。
【図面の簡単な説明】
【図1】図1は、実施例1における抗体作製スキームを示す。
【図2】図2は、バイオセンサーの基板表面にカルボキシメチル化デキストランを介して抗体を固定化したところにビオロゲンダイマー及び抗体を段階的に積層させたところを図示したものである。
【図3】図3は、抗ビオロゲンモノクローナル抗体10D5を固定したセンサーチップにビオロゲンダイマー及び抗体を添加したときの表面プラズモン共鳴シグナルの変化を示し、(a)は、ビオロゲンダイマーを添加したときの、(b)は、(a)に続き抗体10D5を添加したときの、(c)は、(a)及び(b)の操作を二回連続した場合の表面プラズモン共鳴シグナルの変化をそれぞれ示す。
【図4】図4は、抗ビオロゲンモノクローナル抗体10D5を固定したセンサーチップにビオロゲンを3つ有する化合物(三官能性抗原)及び抗体10D5を添加したときの表面プラズモン共鳴シグナルの変化を示す。
Claims (5)
- 抗原抗体反応を利用したビオロゲンの検出法において、ビオロゲンをビオロゲンダイマーへと変換させ、該ビオロゲンダイマーとビオロゲンに対するモノクローナル抗体とを反応させることを特徴とする、ビオロゲンの高感度検出法。
- ビオロゲンダイマーが元素数5〜15の屈曲性連鎖を含む分子鎖で結合しているものである、請求項1に記載の高感度検出法。
- 元素数5〜15の屈曲性連鎖が炭素数5〜15のメチレン鎖である請求項2に記載の高感度検出法。
- 表面プラズモン共鳴法を検出原理とするバイオセンサーにより測定を行う請求項1〜3の何れかに記載の高感度検出法。
- ELISA法(酵素標識抗体測定法)により測定を行う請求項1〜3の何れかに記載の高感度検出法。
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