JP3907773B2 - 低熱膨張性硬化体のための樹脂組成物およびその複合体 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、低熱膨張性硬化体のための樹脂組成物およびその複合体に関するものであり、さらに詳しくは、硬化体が常温から高温に至るまでスチールとほぼ同レベルの熱膨張係数を示す樹脂組成物およびこれを用いたスチールとの複合体に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
エンジニアリングプラスチックは、金属を代替しながら目覚ましい成長を続けている。なかには強度、剛性、耐熱性等で金属を凌駕するものすら開発されていることは周知のとおりである。しかしながら、熱膨張係数の点ではスチールの領域に近づけるものはいまだ知られいない。エンジニアリングプラスチックの中で最も熱膨張係数の小さいとされているPPSでさえ、スチールの約2倍のレベルである。
【0003】
理想的な複合材料の一例に鉄筋コンクリートが挙げられるが、そこでは各材料の長所である耐熱性、剛性、強靭さ、耐久性等がうまく引き出され、スチールのもつ本来の欠点である錆びやすさ、熱間剛性の低さ、またコンクリートの持つ本来の欠点である脆さといった短所は互いにカバーされよく改善されている。
【0004】
スチールとの複合は、エンジニアリングプラスチックにとっても好ましく、そのような複合体が可能ならば、既存材料の代替に止まらず新規な材料開発の途を開くものと期待される。しかしながら、上述のような熱膨張係数の大きな差異が複合化を進める上で、大きな技術上的ハードルとなっているのが実情である。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
本発明者らはこの本質的な課題に挑戦し、硬化体が常温から高温に至るまでスチールとほぼ同レベルの熱膨張係数を示す樹脂組成物およびこれを用いたスチールとの複合体を工業的に提供することを目的とする。
【0006】
【課題を解決するための手段】
プラスチックの熱膨張係数は、ほとんど分子構造に起因する本質的な問題であり、その低減化には金属よりも一桁膨張係数の小さなセラミックスとの複合化を図るのが合理的である。セラミックス充填材を多量に用いることができるという点では、熱可塑性樹脂よりも、当初のポリマーの分子量が小さくてもよい熱硬化性樹脂を使用するのが有利である。
【0007】
熱硬化性樹脂の中でスチールとの複合化に相応しい耐熱性を具備した樹脂というとアリル樹脂かフェノール樹脂ということになるが、フェノール樹脂の硬化時に用いられる酸性触媒はスチールにとって致命的である。一方、アリル樹脂はアリルエステルのプレポリマーをイソフタル酸ジアリルのモノマーに溶解し、共重合架橋することで、三次元硬化して用いられている。優れた耐熱性および耐水性とを示すが、不飽和ポリエステルと比較するとき硬化性が悪く、成形加工性に劣るため、ずっとマイナーな存在に止まっている樹脂である。
【0008】
本発明者らは先にこのアリル樹脂に特定のポリエステル樹脂を複合化した時に耐熱性と硬化性との両面に優れた特性を示す熱硬化性樹脂が得られることを見いだした(特願平8−295385号)。
本発明者らはこの樹脂系が本発明の目的を達成するための基本的な条件を満たす材料であるとの認識に立って、鋭意検討を行なった。
【0009】
セラミック材料を多量充填するために、セラミックス側が具備すべき条件は既に公知であり、この条件を満たす材料も工業的に大量に入手しうる状況にある。
熱膨張係数と共に熱硬化性樹脂にとって重要な要素は硬化収縮であり、最も小さいとされるエポキシ樹脂においてさえ、2%程度の硬化収縮は不可避であり、ましてこれよりもはるかに硬化収縮の大きなアリル樹脂やポリエステル樹脂では、スチールとの複合化を図る際に熱膨張係数以前にその対策が第一優先課題である。
【0010】
本発明者らは実験を進める中で、スチレンを溶剤兼モノマーとして用いる一般的なポリエステル樹脂において採用されている熱可塑性樹脂を添加する収縮低減の手法が、上記のフタル酸ジアリルを溶剤兼モノマーとして用いる系にも応用しうることを見いだした。
【0011】
こうしていくつかの困難なステップを克服することにより、当初目的のスチールとの複合化が実現しうるような高精度の硬化体が得られることを確認し、本発明を完成するに至った。
【0012】
すなわち本発明は、(A)不飽和ポリエステル、(B)フタル酸ジアリル、(C)Tgが150℃以下である熱可塑性樹脂であって、ポリメタクリル酸メチル、ポリスチレン、ポリ酢酸ビニル、飽和ポリエステル、変性ウレタン、ポリエチレンおよびその重合体から選ばれる一種以上の熱可塑性樹脂、(D)重合開始剤および(E)無機質充填材から構成される樹脂組成物であって、
(C)成分の重量比率が(A)成分、(B)成分、(C)成分および(D)成分の総和に対して1〜8重量%であり、樹脂組成物における(E)成分の重量比率が75〜95重量%であり、(B)成分フタル酸ジアリルのうち少なくとも50重量%がテレフタル酸ジアリルであり、且つ硬化後の性質が下記条件(i)と(ii)とを具備するような低熱膨張性硬化体のための樹脂組成物を提供するものである。
(i) 硬化収縮率が0.1%以下であること。
(ii) 常温〜300℃の熱膨張係数が0.7×10−5〜1.5×10−5/℃の範囲にあること。
【0014】
さらに本発明は、(A)成分の不飽和ポリエステルとして、融点が130〜180℃の高融点不飽和ポリエステルを用いることを特徴とする前記の樹脂組成物を提供するものである。
【0015】
さらにまた本発明は、(A)成分の不飽和ポリエステルが、多価アルコールとして1,4ブタンジオールおよび/またはシクロヘキサンジメタノール、飽和多塩基酸成分としてテレフタル酸(またはそのエステル)、不飽和多塩基酸成分としてフマル酸を使用して重合したものであることを特徴とする前記の樹脂組成物を提供するものである。
【0017】
さらに本発明は、(C)成分のTgが150℃以下である熱可塑性樹脂として、ポリメタクリル酸メチル、ポリスチレン、ポリ酢酸ビニル、飽和ポリエステル、変性ウレタン、ポリエチレンおよびその共重合体からなる群から選ばれる一種または二種以上を用いることを特徴とする前記の樹脂組成物を提供するものである。
【0018】
さらにまた本発明は、(D)成分の重合開始剤が有機過酸化物であり、150℃〜200℃、1〜10分間で樹脂組成物を加熱硬化せしめることによって、少なくとも脱型に必要な強度が発現しうることを特徴とする前記の樹脂組成物を提供するものである。
【0019】
また本発明は、(E)成分である無機質充填材がシリカ充填材であり、前記シリカ充填材のうち少なくとも50重量%以上が球状シリカであり、且つ前記球状シリカは1〜100ミクロンにわたる広い粒径分布を有することを特徴とする前記の樹脂組成物を提供するものである。
【0020】
さらに本発明は、樹脂組成物に対して、さらに赤燐粒子の表面を樹脂および/または無機物質でコーティングしたマイクロカプセル化赤燐を添加含有せしめてなる前記の樹脂組成物を提供するものである。
【0021】
さらにまた本発明は、硬化後のTgが300℃以上であることを特徴とする前記の樹脂組成物を提供するものである。
【0022】
また本発明は、前記の樹脂組成物と、スチールとを主要な成分とする複合体を提供するものである。
【0023】
【発明の実施の形態】
次に本発明の樹脂組成物の各種成分について説明する。
(A)不飽和ポリエステル
本発明における(A)成分の不飽和ポリエステルは、例えば特公平6−89126号公報に開示されているような方法で合成することが可能である。
この方法の特徴は、エステル化にチタン系などの特定の触媒を用い、さらに1Torr程度の高真空条件で脱グリコール反応を行なうことである。この方法によると、従来の不飽和ポリエステルの一般的な数平均分子量領域である〜2500程度と比較すると、はるかに大きな数平均分子量、例えば10000程度にすることができ、強度、耐久性、耐水性などの性能改良が見られることが報告されている。しかしながら、本発明で用いられる不飽和ポリエステルのうち分子量が3000〜5000といった中程度のものは、上記の合成方法にあって脱グリコール反応を省略しても充分に合成可能である。
【0024】
(A)成分の不飽和ポリエステルを合成するには、先ず多価アルコール過剰で飽和多塩基酸を縮合せしめ、引き続き不飽和多塩基酸、例えばフマル酸を添加して残りのエステル化反応を継続するのがゲル化の危険性を少なくする点で有利である。
(A)成分の不飽和ポリエステルは数平均分子量が3000以上が好ましく、望ましくは4000以上である。(A)成分の不飽和ポリエステルの数平均分子量が2000未満では機械的強度が不満足となる。
【0025】
本発明における(A)成分の不飽和ポリエステルを合成するための多価アルコール成分、飽和多塩基酸および不飽和多塩基酸成分はとくに制限されないが、多価アルコール成分として1,4ブタンジオールおよび/またはシクロヘキサンジメタノール、飽和多塩基酸成分としてテレフタル酸(またはそのエステル)、不飽和多塩基酸成分としてフマル酸を重縮合したものが好ましい。
【0026】
本発明の樹脂組成物は、他の構成材料の耐熱性とバランスを図る上で、融点が130℃〜180℃の高融点ポリエステルを用いるのが好ましい。
【0027】
(B)フタル酸ジアリル
本発明において、(B)成分のフタル酸ジアリルにはオルソ、イソ、テレの各タイプがあるが、このうちテレのタイプがとくに本発明の原料として好適である。テレフタル酸ジアリルに部分的にオルソ、イソ体を加えて硬化速度、硬化体強度の改良を図ることもできるが本発明の目的とする耐熱性を実現するためには、テレフタル酸ジアリルを少なくとも50重量%含有していることが必須である。また本発明においては、フタル酸ジアリルの一部をマレイン酸ジアリル、イタコン酸ジアリル、フマル酸ジアリルのような不飽和結合を含む他のアリルエステル樹脂に代えてさらにその性能改良を図ることもできる。
(B)成分の配合割合は、(A)成分、(B)成分、(C)成分および(D)成分の総和に対して10〜70重量%であり、好ましくは20〜50重量%である。
【0028】
(C)Tgが150℃以下である熱可塑性樹脂
本発明においては、(C)成分としてTgが150℃以下である熱可塑性樹脂を配合する。その例としては、ポリメタクリル酸メチル、ポリスチレン、ポリ酢酸ビニル、飽和ポリエステル、変性ウレタン、ポリエチレンおよびその共重合体から選ばれる一種または二種以上が挙げられる。これらの熱可塑性樹脂の添加時の形態としては、スチレン、メチルメタクリレート、フタル酸ジアリル等の溶剤兼モノマーの溶液として用いるのがよく、これらモノマー量は必要最小限に止めるのが、硬化後の樹脂の耐熱性を損なわないためにも望ましい(なお、フタル酸ジアリルを使用する場合は、前記(B)成分の一部として考慮される)。
この(C)成分のTgが150℃以下の熱可塑性樹脂の重量比率は、(A)成分、(B)成分、(C)成分および(D)成分の総和に対して1〜8重量%、好ましくは2〜6重量%がよい。この範囲内であれば硬化収縮率および耐熱性が一層向上する。
【0029】
(D)重合開始剤
本発明において用いられる(D)成分の有機過酸化物は、ジアルキルパーオキサイド、アシルパーオキサイド、ハイドロパーオキサイド、ケトンパーオキサイド、パーオキシエステルなど公知のものを用いることができ、具体的には以下のようなものが例示しうる。
ベンゾイルパーオキサイド、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサネート、2,5−ジメチル−2,5ジ(2−エチルヘキサノイル)パーオキシヘキサン、t−ブチルパーオキシベンゾエート、t−ブチルハイドロパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、ジ−t−ブチルパーオキサイド、2,5−ジメチル−2,5ジブチルパーオキシヘキサン、等。
【0030】
本発明において、(A)成分、(B)成分、(C)成分および(D)成分の総和に対する(D)成分の重量比率は、0.2〜5重量%がよく、さらに好ましくは、0.5〜3重量%である。この(D)成分の重量比率が、0.2重量%未満では、樹脂組成物の硬化が不充分となり、機械的強度、難燃性共に本発明の目的とするレベルに達しない。5重量%を超えるとやはり機械的強度の低下が避けられず、実用的とはいえない。
【0031】
(E)無機質充填材
本発明における(E)成分としては次に例示されるようなものを用いることができる。
アルミナ、アタパルジャイト、カオリンクレー、火山灰、カーボンブラック、グラファイト、微粉珪酸、珪酸カルシウム、珪藻土、酸化マグネシウム、酸化チタン、酸化スチール、水酸化マグネシウム、スレート粉、セリサイト、石英粉、炭酸カルシウム、タルク、長石粉、バライト、蛭石、ホワイティング、マイカ、ロウ石クレー、石膏、各種水硬性セメント類、シリカ充填材等。
本発明において、(A)成分、(B)成分、(C)成分、(D)成分と(E)成分から構成される樹脂組成物における(E)成分の重量比率は75〜95重量%であり、好ましくは80〜92重量%である。この範囲内にあれば、樹脂組成物の硬化収縮率、線膨張係数、流動性および成形加工性が一層向上する。
【0032】
本発明において、(E)成分はシリカ充填材であるのが好ましい。このシリカ充填材は、少なくとも50重量%以上が球状シリカであり、且つ球状シリカは1〜100ミクロンにわたる広い粒径分布を有するものが一層好ましい。シリカ充填材としては天然高純度珪石を粉砕して作られる結晶性シリカ、珪石をいったん溶融し石英ガラスとした後粉砕して作られる溶融シリカ、またはそれらの混合物を使用することができる。電気絶縁性、耐水性、低熱膨張率、高熱伝導性等の性質がそれぞれ異なるために、要求される特性に応じてシリカの選定を進める必要がある。また形状も球状、破砕状等各種の物が入手しうる。
【0033】
本発明においては、樹脂組成物の硬化後のTgは300℃以上であることが、スチールと複合化してもスチールの耐熱性を最大限生かせる点で好ましい。
また、本発明の樹脂組成物は、次の物性を具備することが要求される。すなわち:
(i)硬化収縮率が0.1%以下であること。
(ii)常温〜300℃の熱膨張係数が0.7×10-5〜1.5×10-5/℃、好ましくは0.9×10-5〜1.3×10-5/℃の範囲にあること。
なお、上記の硬化収縮率は、JIS K−6911に準拠して測定された値である。また、熱膨張係数は、TMA(Thermal Mechanical Analysis)等を用いて常法により測定することができる。
【0034】
本発明の樹脂組成物には、下記に例示するような無機繊維質材料を併用してさらに性能向上を図ることができる。
ガラス繊維、カーボン繊維、チタン酸カリウム繊維、ボロン繊維、窒化硅素繊維、アルミナ繊維、タングステン繊維、アスベスト、ワラストナイト。
【0035】
本発明の樹脂組成物の難燃化を望む場合は、有機ハロゲン化合物、三酸化アンチモン、水酸化アルミニウム等の添加が有効であるが、前二者は環境公害との関連から推奨しがたい面がある。水酸化アルミニウムは耐熱性がやや制限される。従って、本発明の樹脂組成物を難燃化するには、赤燐粒子の表面を樹脂および/または無機物質でコーティングしたマイクロカプセル化赤燐を添加含有せしめるのが好ましい。またこのマイクロカプセル化赤燐と少量の有機ハロゲン化合物との併用は、難燃化に顕著な相乗効果をもたらす。この場合、マイクロカプセル化赤燐の赤燐成分の配合割合は、(A)成分、(B)成分、(C)成分および(D)成分の総和に対して5〜15重量%程度である。
【0036】
本発明の樹脂組成物を得るには、ロール、ニーダー、ブラベンダー、バンバリーミキサー等の一般的に知られている混合用機器を使用し、各成分をなるべく均一に混合させるのが望ましい。組成物はペレット、タブレット等の形状にして次の成形工程に供することができる。
【0037】
(複合体)
本発明の樹脂組成物は、その良好な低熱膨張性のためにスチールとの複合体が可能となる。スチールは、繊維、フィラメント、チップ、メッシュ、エクスパンドメタル、クロス、プレート、ビード、アングル、チャンネル、パイプ、ハニカム等の各種形態であることができる。
【0038】
本発明の複合体を得る成形方法としては、インジェクション成形、トランスファー成形、圧縮成形など一般的に知られている加熱加圧成形方法を用いて所望の形状に賦形すると共に、有機過酸化物から生成されるラジカルにより、三次元硬化せしめることができる。
【0039】
硬化温度としては、有機過酸化物の種類に応じて最適温度を選定する。一例を挙げてみると、有機過酸化物として、ジキュミルパーオキサイドを使用するとき、150℃で5分間キュアーして脱型し、170℃で1時間アフターキュアーすることで完全な硬化が実施しうる。これはアリル樹脂の硬化条件と比較したとき、はるかにマイルドな条件であり、且つ短時間で完結している。また例えば175℃で30分間金型内に放置することにより、アフターキュアの工程を省略することもできる。
【0040】
なお、本発明の樹脂組成物および複合体には硬度、耐久性、耐水性、耐磨耗性等を改良するために前述のフィラー以外に、増粘剤、滑剤、着色顔料、紫外線吸収剤、光安定剤、酸化防止剤、消泡剤、離型剤、イオン捕捉剤等の添加剤を加えて更に一層の性能改善を図ることもできる。
【0041】
本発明の樹脂組成物および複合体はまた、材料的にも容易かつ大量に入手しうるもので構成されており極めて実用性が高いといえる。硬化体の耐熱性以外の他性能もバランスのとれたものが実現しうることから、電気、電子の分野、輸送機器、その他工業用製品のでのハウジングや部品用の成形材料として極めて有用である。
【0042】
【作用】
本発明により優れた低熱膨張性を有する硬化体とこれを用いたスチールとの複合体が実現できた理由は次のようなところにあると本発明者らは考えている。
▲1▼ 不飽和ポリエステルとフタル酸ジアリルとを組み合わせることで、優れた耐熱性と硬化性を得るとともに、多量の充填材とのコンビネーションが可能になったこと。
▲2▼ 熱可塑性樹脂を一部併用することにより、無収縮に近いレベルまで硬化収縮を低減化できたこと。
【0043】
【実施例】
以下に実施例を示し、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は下記の例になんら限定されるものではない。
[不飽和ポリエステル(A−1)の合成]
温度計、攪拌装置、分溜コンデンサー、ガス導入管を取付けた3リットルのフラスコに、1,4ブタンジオール470g(5.20モル)、テレフタル酸ジメチル583g(3.0モル)、オクチル酸亜鉛3.0gを加え、140〜180℃でエステル化反応を行なった。次に温度を170℃まで下げ、フマル酸232g(2.0モル)、ハイドロキノン0.5gを追加し、さらに温度170〜200℃でエステル化を続け、酸価22となった段階で、テトライソプロピルチタネート1.3g、亜リン酸0.2gを加え、190〜200℃で当初7〜10Torr、最終的には5Torr迄減圧した。4時間の反応後、フラスコ内樹脂を金属製バットに注入し、冷却固化させた。
得られた不飽和ポリエステルは淡黄色を有し、GPCによる測定では、数平均分子量5300、重量平均分子量11500、またDSC測定による融点は145℃であった。この樹脂を(A−1)とする。
【0044】
[不飽和ポリエステル(A−2)の合成]
温度計、攪拌装置、分溜コンデンサー、ガス導入管を取付けた2リットルのフラスコに、1,4ブタンジオール18g(0.2モル)、水素添加ビスフェノールA338g(1.4モル)、テレフタル酸ジメチル152g(0.78モル)、オクチル酸亜鉛1.0gを加え、145〜180℃でエステル化反応を行なった。次に温度を165℃まで下げ、フマル酸116g(0.780モル)、ハイドロキノン0.15gを追加し、さらに温度170〜200℃でエステル化を続け、酸価25となった段階で、テトライソプロピルチタネート0.5g、亜リン酸0.1gを加え、190〜200℃で当初7〜10Torr、最終的には6Torr迄減圧した。4時間の反応後フラスコ内樹脂を金属製バットに注入し、冷却固化させた。
得られた不飽和ポリエステルは淡黄色を有し、GPCによる測定では、数平均分子量3800、重量平均分子量8200、またDSC測定による融点は156℃であった。この樹脂を(A−2)とする。
【0045】
(実施例1)
下記手順により表1の実施例1の欄に示す組成の樹脂組成物を作成した。(A−1)樹脂630重量部をフラスコ中に秤取し、テレフタル酸ジアリル210重量部を加えて150℃に加熱し、よく撹拌混合した後60℃まで冷却し、次いでポリスチレンの30%スチレン溶液100重量部を加えて内容物を金属製バットに注入し、さらに冷却固化させた。
次に90℃に加熱したロールを用いて(E)成分およびその他の添加剤、最後に(D)成分の所定量を複合化し、冷却後細粒状に粉砕した。
このようにして得られた樹脂組成物を用いて、JIS K−6911に準拠して曲げ試験用試験片を型温160℃、成形圧110kg/cm2、成形時間5分の条件で成形して作成した。試験片はさらに170℃で1時間アフターキュアを行った後、各種強度の測定を実施した。同様にしてUL難燃規格に準拠した燃焼性試験の試験片を作成し、難燃試験を実施した。またJIS K−6911に準拠して硬化収縮率を測定した。またTMAを用いてTgおよび熱膨張係数の測定を行なった。結果は表1にまとめて示す。
【0046】
(実施例2)
実施例1と同様の手順にて、(A−2)樹脂を用いて、表1の実施例2の欄に示す組成の樹脂組成物を作成し、実施例1と同一の特性評価を行った。結果を表1に示す。
【0047】
【表1】
【0048】
(実施例3)
実施例1により得られた樹脂組成物を、ロールにてシート状としたものを、170℃に加熱した金型内にエクスパンドメタル(100mm×100mm、厚み1.2mm)をサンドイッチするような形状にセットして、成形圧110kg/cm2、成形時間15分の条件で成形した後取り出して自然冷却した。この複合体(厚さ5mm)にはクラックは見られず、良好な外観が得られた。
【0049】
(比較例1)
表2の比較例1の欄に示す組成の樹脂組成物を用いて、実施例1と全く同一条件にて成形を行い、特性(硬化収縮率および線膨張係数)を評価、さらに実施例3と同一条件にて複合体を製作した結果を表1に示す。硬化収縮率および熱膨張係数が本発明の範囲外のため、複合体のプレス成形時に多数のクラック発生が観察された。
【0050】
比較例2
表2の比較例2の欄に示す組成の樹脂組成物を用いて、実施例1と全く同一条件にて成形を行い、特性(硬化収縮率および線膨張係数)を評価、さらに実施例3と同一条件にて複合体を製作した結果を表1に示す。熱膨張係数は本発明の範囲内であったが、硬化収縮率は範囲外である。このため、成形性に問題があり、プレス成形時に多数のクラック発生が観察された。
【0051】
【表2】
【0052】
【発明の効果】
本発明によれば、硬化体が常温から高温に至るまでスチールとほぼ同レベルの熱膨張係数を示す樹脂組成物およびこれを用いたスチールとの複合体が工業的に提供される。
Claims (8)
- (A)不飽和ポリエステル、(B)フタル酸ジアリル、(C)Tgが150℃以下である熱可塑性樹脂であって、ポリメタクリル酸メチル、ポリスチレン、ポリ酢酸ビニル、飽和ポリエステル、変性ウレタン、ポリエチレンおよびその重合体からなる群から選ばれる一種以上の熱可塑性樹脂、(D)重合開始剤および(E)無機質充填材から構成される樹脂組成物であって、
(C)成分の重量比率が(A)成分、(B)成分、(C)成分および(D)成分の総和に対して1〜8重量%であり、樹脂組成物における(E)成分の重量比率が75〜95重量%であり、(B)成分フタル酸ジアリルのうち少なくとも50重量%がテレフタル酸ジアリルであり、且つ硬化後の性質が下記条件(i)と(ii)とを具備するような低熱膨張性硬化体のための樹脂組成物。
(i) 硬化収縮率が0.1%以下であること。
(ii) 常温〜300℃の熱膨張係数が0.7×10−5〜1.5×10−5/℃の範囲にあること。 - (A)成分の不飽和ポリエステルとして、融点が130〜180℃の高融点不飽和ポリエステルを用いることを特徴とする請求項1に記載の樹脂組成物。
- (A)成分の不飽和ポリエステルが、多価アルコールとして1,4ブタンジオールおよび/またはシクロヘキサンジメタノール、飽和多塩基酸成分としてテレフタル酸(またはそのエステル)、不飽和多塩基酸成分としてフマル酸を使用して重合したものであることを特徴とする請求項2に記載の樹脂組成物。
- (D)成分の重合開始剤が有機過酸化物であり、150℃〜200℃、1〜10分間で樹脂組成物を加熱硬化せしめることによって、少なくとも脱型に必要な強度が発現しうることを特徴とする請求項1に記載の樹脂組成物。
- (E)成分である無機質充填材がシリカ充填材であり、前記シリカ充填材のうち少なくとも50重量%以上が球状シリカであり、且つ前記球状シリカは1〜100ミクロンにわたる広い粒径分布を有することを特徴とする請求項1に記載の樹脂組成物。
- 樹脂組成物に対して、さらに赤燐粒子の表面を樹脂および/または無機物質でコーティングしたマイクロカプセル化赤燐を添加含有せしめてなる請求項1に記載の樹脂組成物。
- 硬化後のTgが300℃以上であることを特徴とする請求項1に記載の樹脂組成物。
- 請求項1ないし7のいずれか1項に記載される樹脂組成物と、スチールとを主要な成分とする複合体。
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