JP3905657B2 - 動圧型軸受装置およびその製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、動圧型軸受装置に関する。この軸受装置は、特に情報機器、例えばHDD、FDD等の磁気ディスク装置、CD−ROM、DVD−ROM等の光ディスク装置、MD、MO等の光磁気ディスク装置などのスピンドルモータ、あるいはレーザビームプリンタ(LBP)のポリゴンスキャナモータなどのスピンドル支持用として好適なものである。
【0002】
【従来の技術】
上記各種情報機器のスピンドルモータには、高回転精度の他、高速化、低コスト化、低騒音化などが求められている。これらの要求性能を決定づける構成要素の一つに当該モータのスピンドルを支持する軸受があり、近年では、この種の軸受として、上記要求性能に優れた特性を有する動圧型軸受の使用が検討され、あるいは実際に使用されている。
【0003】
図6はこの種のスピンドルモータの一例で、軸受装置21で回転自在に支持された回転軸22aを、ハウジング26に固定したステータ24と、回転軸22aに装着したロータ25との間に生じる励磁力で回転駆動する構造である。軸受装置21には、ラジアル荷重を支持するラジアル軸受部30とスラスト荷重を支持するスラスト軸受部31とが設けられ、これらの軸受部30、31は何れも軸受面に動圧発生用の溝(動圧溝)を有する動圧型軸受である。ラジアル軸受部30の動圧溝は、ハウジング26の内周面26a(ラジアル軸受面)に形成され、スラスト軸受部31の動圧溝は、回転軸22aの下端に固定したスラスト円盤22bの両端面22b1、22b2(スラスト軸受面)にそれぞれ形成される。ハウジング26の底部には、スラスト円盤22bの厚さにスラスト軸受隙間の幅(10〜20μm程度)を加算した段差が設けられ、この段差部分にバックメタル32を組み込むことによって、スラスト円盤22bの軸方向両側に上記所定幅のスラスト軸受隙間Cs1、Cs2が形成される。
【0004】
この軸受装置21は、ハウジング26にスラスト円盤22bとバックメタル32を組み込んだ後、ハウジング26内径部に、ハウジング26の内径よりラジアル軸受隙間Cr 分だけ小径の回転軸22aを挿入し、さらに回転軸22a先端をスラスト円盤22bの内径部に圧入することによって組立てられる。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
上記軸受装置においては、スラスト円盤22bの両端面の動圧溝加工はプレス加工により低コストに行い得るが、ハウジング内周面26aの動圧溝加工はハウジング26形状に対応した専用の高精度加工装置により行う必要があり、製造コストが高くなる。従って、製造コストのさらなる低減が望まれ、この要請に応えるべく、図7に示すように、ハウジング26を一体の袋型とし、ハウジング26の内径部に、動圧溝付きのラジアル軸受面27aを有する軸受本体27を固定する構造が提案されている。
【0006】
しかし、図7の構造では、スラスト軸受部31の軸受隙間Cs1、Cs2を精度をよくするために寸法測定等の煩雑な作業を要し、組立工数が増大するという不具合がある。
【0007】
そこで、本発明は、上記の動圧型軸受装置(図7参照)において、スラスト軸受部の軸受隙間の設定を容易にすると共に、高精度の軸受隙間を実現可能とすることを目的とする。
【0008】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するため、本発明では、軸部材と、有底筒状のハウジングと、ハウジング内に設けられ、軸部材との相対回転時に生じる動圧作用で軸部材を非接触状態で回転自在に支持する軸受本体と、上記相対回転時に生じる動圧作用で軸部材を非接触状態でスラスト支持するスラスト軸受部とを有する動圧型軸受装置において、ハウジングの底部に、ハウジングの底面よりも突出した位置で軸部材と当接可能で、かつ当接後の軸部材の押し込みにより後退する当接部を備えた隙間設定手段を設け、この隙間設定手段で組立時に上記スラスト軸受部の軸受隙間を設定することとした。
【0009】
かかる構成から、軸受装置の組立時において、ハウジングに軸部材を挿入する際に、当接部をハウジング底面よりも突出した位置で軸部材に当接させれば、軸部材の位置(軸方向の位置)が定まる。その後、この軸部材と係合するまで軸受本体をハウジングに挿入すれば、軸受本体の位置決めを行うことができる。このように軸受本体を位置決めした上で軸部材のみを押し込み(軸受本体は動かない)、当接部を後退させれば、スラスト軸受部に当接部の後退量に応じた幅の軸受隙間を形成することができる。なお、スラスト軸受部は、ハウジングの底部と、これに対向する軸受本体の端面との間に設けることができる。
【0010】
この場合の当接部は、軸部材の押し込みによって移動する移動部材に設けたり、あるいは上記軸部材の押し込みによって変形する突起に設けることができる。
【0011】
また、上記動圧型軸受装置は、有底円筒状のハウジングの底部にその底面よりも突出する当接部を設け、ハウジング内に軸部材を挿入してこれを当接部に当接させると共に、ハウジング内に、軸部材との相対回転時に生じる動圧作用で軸部材を非接触状態で回転自在に支持する軸受本体を挿入し、軸受本体を軸部材と係合させて軸受本体の位置決めを行い、その後軸部材を押し込んで当接部を後退させることにより、動圧作用により軸部材を非接触状態でスラスト支持するスラスト軸受部のスラスト軸受隙間を形成する、という手順で製造され得る。
【0012】
当接部を、軸部材の押し込みによって移動する移動部材に設けたり、あるいは軸部材の押し込みにより変形する突起に設ければ、当接部の後退を当該移動部材の移動や突起の変形によって行うことができる。
【0013】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施形態を図1乃至図5に基いて説明する。
【0014】
図1は、本発明にかかる動圧型軸受装置1を有する情報機器用スピンドルモータの一例で、HDD(ハードディスクドライブ)スピンドルモータの断面図である。このスピンドルモータは、軸部材2を回転自在に支持する軸受装置1と、軸部材2に取付けられ、図示しない磁気ディスクを一又は複数枚保持するディスクハブ3と、半径方向のギャップを介して対向させたステータ4およびロータ5とを有する。ステータ4は軸受装置1のハウジング6外周部に取付けられ、ロータ5はディスクハブ3の内周面に取付けられている。ステータ4に通電すると、ステータ4とロータ5との間の励磁力でロータ5が回転し、ディスクハブ3および軸部材2が回転する。
【0015】
軸受装置1は、軸部材2と、有底円筒状のハウジング6と、ハウジング6の内周面に固定された厚肉円筒状の軸受本体7と、軸受本体7の一端側(ハウジング6の開口側をいう)を密封するシール部材8と、ハウジング6の他端開口部を封口する底部6aに設けられた隙間設定手段9とを主な構成要素とする。軸部材2は、回転軸2aと回転軸2aの下端部に圧入等で固定したスラスト円盤2bとで構成され、回転軸2aを軸受本体7の内径部に、スラスト円盤2bを軸受本体7とハウジング6の底部6aとの間の空間に収容した垂直姿勢で配置される。
【0016】
軸受本体7は、例えば軟質金属あるいは合金(例えば銅、真鍮等)で形成される。軸受本体7の内周面には、動圧溝を有するラジアル軸受面7aが形成され、これより軸部材2の回転時には、ラジアル軸受面7aと回転軸2aの外周面との間のラジアル軸受隙間Cr に動圧作用が発生し、回転軸2aが非接触状態で回転自在に支持される。軸受本体7は軟質金属等だけでなく、例えば焼結金属によって成形することもでき、その場合の動圧溝は圧縮成形、すなわち、コアロッドの外周面に動圧溝形状に対応した凹凸形状の溝型を形成し、コアロッドの外周に焼結金属を供給して焼結金属を圧迫し、焼結金属の内周部に溝型形状に対応した動圧溝を転写することによって、低コストにかつ高精度に成形することができる。この場合、焼結金属の脱型は、圧迫力を解除することによる焼結金属のスプリングバックを利用して簡単に行える。
【0017】
軸部材2をスラスト支持するスラスト軸受部11は、動圧溝を有するスラスト軸受面2b1、2b2をスラスト円盤2bの両端面に設けて構成される。この構成から、スラスト円盤2bの回転時には、上スラスト軸受面2b1と軸受本体7の下端面との間のスラスト軸受隙間Cs1、および下スラスト軸受面2b2とハウジング6の底面6a1との間のスラスト軸受隙間Cs2にそれぞれ動圧が発生するので、スラスト円盤2bは軸受本体7の下端面およびハウジング6の底面6a1に対してそれぞれ非接触状態で支持され、これにより軸部材2が軸方向両側からスラスト支持される。
【0018】
上記ラジアル軸受面7aおよびスラスト軸受面2b1、2b2の動圧溝形状は任意に選択することができ、公知のへリングボーン型、スパイラル型、ステップ型、多円弧型等の何れかを選択し、あるいはこれらを適宜組合わせて使用することができる。
【0019】
隙間設定手段9は、軸受装置の組立時においてスラスト軸受隙間Cs1、Cs2を規定の幅に設定するためのものである。この隙間設定手段9としては、例えば図1に示すように、ハウジング6の底部の中心にハウジング底部6aの肉厚にほぼ等しい孔6a2を貫通形成すると共に、この孔6a2に移動部材、例えば金属製のボール10を圧入した構造が考えられる。この隙間設定手段9による隙間設定は以下の手順で行われる。
【0020】
まず、図2に示すように、ハウジング底部6aの孔6a2にボール10を圧入する。この時、ボール10上端の表面(当接部)は、ハウジング底面6a1に対してスラスト軸受隙間Cs1、Cs2に相当する幅δ(Cs1とCs2の和)分だけ突出させておく。次いで、図3に示すように軸部材2をハウジング6の内径部に挿入し、回転軸2aの軸端をボール表面(当接部12)に当接させる。さらに軸受本体7をハウジングの内径部に押し込み、上スラスト軸受隙間Cs1が0となるまで、すなわち軸受本体7の下端面がスラスト円盤2bに接触するまで軸受本体7を押し進め、この状態で軸受本体7をハウジング6内周面に固着する。この時、軸部材2は当接部12との当接によって軸方向で位置出しされており、さらにこの軸部材2に軸受本体7が軸方向で係合するため、軸受本体7の軸方向での位置出しが正確に行われる。なお、軸受本体7の固着方法としては、圧入あるいは接着等が考えられる。
【0021】
次いで、図4に示すように、軸部材2のみを下方に押し込み、当接部12がハウジング6の底面6a1と同一レベルに達するまでボール10を押し戻せば、スラスト円盤2bの軸方向両側にスラスト軸受隙間Cs1、Cs2が形成される。この場合、両スラスト軸受隙間Cs1、Cs2の幅の和はボール10の突出量δと等しいので、突出量δが正確でありさえすれば、仮にスラスト円盤2b、ハウジング6、軸受本体7等に多少の寸法誤差がある場合にも高精度なスラスト軸受隙間Cs1、Cs2を形成することができる。
【0022】
その後、ハウジング6内を潤滑油で満たし、軸受本体7の上面側をシール部材8でシールすれば図1に示す軸受装置1が得られる。移動部材10や孔6a2の形状、材質等は、軸部材2の押し込みにより移動部材10が移動できる限り任意に選択することができ、上述の金属製ボール10や円筒状の孔6a2には限定されない。
【0023】
図5は隙間設定手段9の他の実施形態で、ハウジング6の底面6a1中心部に突起13を一体形成したものである。この場合、突起13の先端が回転軸2aの軸端と当接する当接部12となる。この実施形態は、突起13を軸部材2の押し込みに伴う圧縮方向の加圧力で変形(塑性変形)させ、この変形により当接部12をハウジング6の底面6a1と同一レベルまで後退させるもので、当接部12の後退動作を突起13の変形により行う点を除き、図2〜図4と同様の構成でかつ同様の手順で組立てられるため、重複説明を省略する。この実施形態の場合、突起13の変形スペースを確保するため、図示のように突起13の周囲には浅い肉取り部14を形成する。また、突起13は軸部材2、特に回転軸2aの軸端よりも軟質の材料で形成する。突起13はハウジング6と別体に構成しても構わない。
【0024】
上記隙間設定手段9は、上記のようにハウジング底面6a1の中心1箇所のみに設ける他、ハウジング底部6aの複数箇所に設けてもよい。
【0025】
【発明の効果】
以上のように本発明によれば、袋型ハウジングを有する軸受装置においてもスラスト軸受隙間を簡単な工程で精度よく形成することができ、より一層の低コスト化と共に、動作の安定性や信頼性の向上を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明にかかる動圧型軸受装置を有するスピンドルモータの断面図である。
【図2】上記動圧型軸受装置の製造手順を示す断面図である。
【図3】上記動圧型軸受装置の製造手順を示す断面図である。
【図4】上記動圧型軸受装置の製造手順を示す断面図である。
【図5】隙間設定手段の他の実施形態を示す断面図である。
【図6】動圧型軸受装置を有するスピンドルモータの断面図である。
【図7】動圧型軸受装置の他例を示す断面図である。
【符号の説明】
1 軸受装置
2 軸部材
2a 回転軸
2b スラスト円盤
6 ハウジング
6a 底部
6a1 底面
7 軸受本体
9 隙間設定手段
10 移動部材(ボール)
11 スラスト軸受部
12 当接部
13 突起
Cr ラジアル軸受隙間
Cs1 スラスト軸受隙間
Cs2 スラスト軸受隙間
Claims (6)
- 軸部材と、有底筒状のハウジングと、ハウジング内に設けられ、軸部材との相対回転時に生じる動圧作用で軸部材を非接触状態で回転自在に支持する軸受本体と、上記相対回転時に生じる動圧作用で軸部材を非接触状態でスラスト支持するスラスト軸受部とを有する動圧型軸受装置において、
ハウジングの底部に、ハウジングの底面よりも突出した位置で軸部材と当接可能で、かつ当接後の軸部材の押し込みにより後退する当接部を備えた隙間設定手段が設けられ、この隙間設定手段で組立時に上記スラスト軸受部の軸受隙間を設定することを特徴とする動圧型軸受装置。 - 当接部を、上記軸部材の押し込みによって移動する移動部材に設けた請求項1記載の動圧型軸受装置。
- 当接部を、上記軸部材の押し込みによって変形する突起に設けた請求項1記載の動圧型軸受装置。
- 有底筒状のハウジングの底部にその底面よりも突出する当接部を設け、ハウジング内に軸部材を挿入してこれを当接部に当接させると共に、ハウジング内に、軸部材との相対回転時に生じる動圧作用で軸部材を非接触状態で回転自在に支持する軸受本体を挿入し、軸受本体を軸部材と係合させて軸受本体の位置決めを行い、その後軸部材を押し込んで当接部を後退させることにより、動圧作用により軸部材を非接触状態でスラスト支持するスラスト軸受部のスラスト軸受隙間を形成することを特徴とする動圧型軸受装置の製造方法。
- 当接部を、上記軸部材の押し込みによって移動する移動部材に設け、当接部の後退を当該移動部材の移動により行う請求項4記載の動圧型軸受装置の製造方法。
- 当接部を、上記軸部材の押し込みにより変形する突起に設け、当接部の後退を当該突起の変形により行う請求項4記載の動圧型軸受装置の製造方法。
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