JP3905591B2 - 船舶用推進機のチルト・トリム装置及びチルト・トリム装置組立方法 - Google Patents

船舶用推進機のチルト・トリム装置及びチルト・トリム装置組立方法 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、船舶用推進機のチルト・トリム装置及びチルト・トリム装置組立方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
船舶用推進機のチルト・トリム装置、例えば船外機のチルト・トリム装置がある。この船外機は、プロペラ及びエンジンを備えた推進ユニットが、水平方向揺動可能にスイベルブラケットに軸支され、このスイベルブラケットがクランプブラケットに鉛直方向揺動可能に支持されたものであり、クランプブラケットが船体を把持する。そして、チルト・トリム装置は、クランプブラケットとスイベルブラケットとの間に配設され、このチルト・トリム装置の油圧シリンダ装置の伸縮動作により動力が発生して、推進ユニット及びスイベルブラケットが、クランプブラケットに対し鉛直方向に傾動可能とされて、推進ユニットがチルト操作或いはトリム操作される。
【0003】
上記チルト・トリム装置は、上記油圧シリンダ装置の他、作動油を貯溜するタンク装置と、タンク装置内の作動油を油圧シリンダ装置へ給排して、この油圧シリンダ装置を伸縮作動させるポンプ装置とを有して構成される。
【0004】
上述のチルト・トリム装置には、例えば実公平8-6715号公報に示すように、シリンダ装置のシリンダと、ポンプ装置の、各種バルブなどを収納したバルブブロックと、タンク装置のタンクケースとが一体に鋳造成形されたものが開示されている。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
ところが、上述のように、シリンダ、バルブブロック及びタンクケースが一体成形のチルト・トリム装置では、鋳造型が大型となって、コストが上昇してしまう。また、シリンダが鋳造成形であるため厚肉構造であり、チルト・トリム装置が大型化してしまう。更に、シリンダが鋳造成形であるため、シリンダ内面を鏡面加工する必要があり、しかも、鋳造製のシリンダに、流路を形成するための長い穴開け加工が必要となって、加工工数が増大してしまう。
【0006】
本発明の課題は、上述の事情を考慮してなされたものであり、請求項1に記載の発明は、加工工数の削減、小型化及びコスト低減を達成できるとともに、装置の組立を容易且つ確実に実施できる船舶用推進機のチルト・トリム装置を提供することにあり、請求項に記載の発明は、装置の組立を容易且つ確実に実施できる船舶用推進機のチルト・トリム装置組立方法を提供することにある。
【0007】
【課題を解決するための手段】
請求項1に記載の発明は、シリンダ内に、ピストンロッドの一端部に固定されたピストンが摺動自在に配設されるとともに、作動油が充填されるシリンダ装置と、作動油を貯溜可能とするタンク装置と、上記タンク装置内の作動油を上記シリンダ装置内へ給排して、このシリンダ装置を伸縮作動させるポンプ装置とを有し、上記シリンダ装置の伸縮作動により推進ユニットをチルト・トリム操作させる船舶用推進機のチルト・トリム装置において、上記ポンプ装置のバルブブロックが鋳造成形され、上記シリンダ装置のシリンダがパイプ材にて構成され、上記バルブロックには上記シリンダより大径のシリンダ固定部が形成され、上記シリンダの端面から軸方向に直線状部を介して離れた部分をバルジ加工により拡径して上記シリンダ固定部に固定し、上記シリンダ固定部にはシリンダの外周に接離するOリングを配設するためのOリング溝が形成され、このOリング溝に配設されるOリングにより上記シリンダと上記バルブロックを液密に固定するようにしたものである。
【0012】
請求項2に記載の発明は、シリンダ装置が内シリンダ及び外シリンダを有し、上記内シリンダには、ピストンロッドに連結されたピストンが摺動自在に収容されるとともに、一端部に閉止蓋が配設され、上記内シリンダ及び外シリンダの他端部にロッドガイドが配設され、上記内シリンダ及び外シリンダの一端部をポンプ装置のバルブブロックに固定して組み付ける船舶用推進機のチルト・トリム装置組立方法であって、上記外シリンダを上記バルブブロックのシリンダ固定部に挿入した後、この外シリンダの一端部を拡径加工して上記シリンダ固定部に固定し、次に、上記内シリンダにピストン及びピストンロッドが収容され、且つ閉止蓋及びロッドガイドが配設された内シリンダ組立体を、上記外シリンダ内に挿入し、その後、上記外シリンダの他端部を上記内シリンダ組立体の上記ロッドガイドにかしめ固定して、上記シリンダ装置を上記ポンプ装置に組み付けるようにしたものである。
【0013】
請求項1に記載の発明には、次の作用がある。
バルブブロックが鋳造成形され、シリンダがパイプ材にて構成されたことから、鋳造型を小型化でき、コストを低減できる。
【0014】
また、シリンダがパイプ材にて成形されたので、シリンダを薄肉化でき、その分、チルト・トリム装置を小型化できるとともに、シリンダの内面を鏡面加工する必要がないので、加工工数を削減できる。
【0015】
更に、シリンダがバルブブロックのシリンダ固定部に拡径加工により固定されたので、シリンダ装置とポンプ装置とを容易且つ確実に結合でき、組み立てることができる。
【0016】
シリンダがシリンダより大径のシリンダ固定部に、バルジ加工により拡径して固定されたので、シリンダ装置のシリンダとポンプ装置のバルブブロックとを一層確実且つ容易に固定できる。
【0017】
シリンダは、端面から直線状部を介して離れた位置が拡径加工されたことから、この拡径による膨出部に連なる直線状部がバルブブロックに支持されるので、シリンダのがたつきが発生せず、シリンダ装置のシリンダをポンプ装置のバルブブロックにより、一層確実に固定することができる。
【0018】
バルブブロックのシリンダ固定部にOリング溝が形成され、このシリンダ固定部がシリンダよりも大径であることから、Oリング溝にOリングを挿着した後シリンダをシリンダ固定部に挿入しても、シリンダ端部がOリングに引っ掛かってOリングを損傷しないので、シリンダ端部にOリング損傷防止用の面取加工を施す必要がない。
【0020】
請求項に記載の発明には、次の作用がある。
シリンダ装置の外シリンダをポンプ装置のバルブブロックに固定した後、この外シリンダ内に内シリンダ組立体を挿入し、その後、外シリンダを内シリンダ組立体のロッドガイドにかしめ固定して内シリンダ組立体を固定することから、シリンダ装置とポンプ装置の組立を容易且つ確実に実施できる。
【0021】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施の形態を、図面に基づいて説明する。
図1は、本発明に係る船舶用推進機のチルト・トリム装置の第1の実施の形態である船外機のチルト・トリム装置が適用された船外機を示す側面図である。図2は、図1のチルト・トリム装置の断面図である。図3は、図2のチルト・トリム装置の一部を図2とは異なる破断線(図5のIII-III 線)で表示した断面図である。図4は、図3のIV矢視図である。図5は、図2のV 矢視図である。図6は、図2のシリンダにおける一端部の周囲を拡大して示す断面図である。図7は、図2のチルト・トリム装置の油圧回路を示す回路図である。
【0022】
図1に示すように、船舶用推進機としての船外機10は、プロペラ11及びエンジン12を備えた推進ユニット13が、スイベルブラケット14に水平方向揺動可能に軸支され、このスイベルブラケット14がクランプブラケット15に鉛直方向に傾動可能に軸支されたものである。クランプブラケット15が船体16を把持して、この船体16に固定されることにより、推進ユニット13は、船体16に対し水平方向に揺動可能とされ、鉛直方向に傾動可能とされる。この船外機10のプロペラ11がエンジン12により正逆方向に回転されて、船体16が前進或いは後進する。
【0023】
船外機10のスイベルブラケット14とクランプブラケット15との間に、チルト・トリム装置17が設置される。このチルト・トリム装置17の伸縮により動力が発生し、船外機10の推進ユニット13をチルト操作或いはトリム操作させる。トリム操作は、船体16の航走中に、プロペラ11の推力に抗して推進ユニット13の角度を調整し、船体16の航走姿勢を変化させるものである。また、チルト操作は、停船中或いは船体16の陸上げ時等に、推進ユニット13をその自重に抗して傾動させて、この推進ユニット13を水面上に上昇させるものである。
【0024】
チルト・トリム装置17は、図2に示すように、油圧シリンダ装置18、ポンプ装置19及びタンク装置20を有して構成される。このチルト・トリム装置17は、油圧シリンダ装置18がパイプ材から構成された内シリンダ21及び外シリンダ22を有し、この内シリンダ21及び外シリンダ22の一端部が、後述の如く鋳造成形されたポンプ装置19のバルブブロック31に組み付けられ、このバルブブロック31にタンク装置20のタンクケース32が、後述の如くボルト33(図3)にて結合されたものである。
【0025】
上記油圧シリンダ装置18の内シリンダ21及び外シリンダ22は、引き抜き成形されたパイプ鋼材にて構成され、内シリンダ21内にピストン23が摺動自在に収容されるとともに、作動油が充填される。このピストン23は、ピストンロッド24の一端にナット25を用いて結合される。また、内シリンダ21内は、ピストン23により、ピストンロッド24を収容するロッド側室26Bと、ピストンロッド24を収容しないピストン側室26Aとに区画される。
【0026】
また、内シリンダ21の一端部は、貫通孔27を備えた閉止蓋28によって閉塞され、Oリング30Aにより液密に封止される。また、内シリンダ21及び外シリンダ22の他端部にはロッドガイド29が嵌合され、このロッドガイド29は、外シリンダ22のかしめ部30によって抜け止めが果たされる。外シリンダ22の他端部側は、ロッドガイド29の内周、外周にそれぞれ配設されたOリング30B、30Cにより液密に封止される。
【0027】
内シリンダ21と外シリンダ22とに囲まれてシリンダ流路34が形成され、このシリンダ流路34は、ロッドガイド29に形成された切欠部を介してロッド側室26Bに連通される。また、閉止蓋28の貫通孔27はピストン側室26Aに連通される。
【0028】
上記ポンプ装置19は、ギアポンプ36及びモータ37を有して構成され、バルブブロック31が、アルミ合金の鋳造にて成形されたものである。このバルブブロック31には、一方側に、順次拡径した第1段部41、第2段部42及び第3段部43が形成されるとともに、他方側に上記ギアポンプ36が固定される。このギアポンプ36は、駆動シャフト38を介してモータ37に連結され、正転又は逆転可能に構成される。
【0029】
上記タンク装置20のタンクケース32は、バルブブロック31の他方側において、ギアポンプ36を囲むように設置され、内部に作動油(油面H)を貯溜可能とする。このタンクケース32は、図3及び図5に示すように、対角線状に 2本配置されたボルト33にてバルブブロック31に二点支持される。また、バルブブロック31の他方側の嵌合面39と、タンクケース32の図2における下端部の内周面40との間に、これら嵌合面39及び内周面40に接触状態でOリング30Dが縦置き配置され、このOリング30Dによりタンクケース32内が液密に封止される。
【0030】
また、ポンプ装置19の上記モータ37は、図3及び図4に示すように、対角線状に 2本配置されたボルト44によってタンクケース32に二点支持される。このモータ37の嵌合面45と、タンクケース32の図2における上端部の内周面46との間に、これら嵌合面45と内周面46に接触してOリング30Eが縦置き配置される。このOリング30Eにより、タンクケース32内が気密に封止される。
【0031】
図6に示すように、バルブブロック31の一方側に形成された第1段部41は、油圧シリンダ装置18の内シリンダ21とほぼ同径に形成され、この内シリンダ21に挿着された閉止蓋28を当接して嵌合する。この閉止蓋28の嵌合状態で、閉止蓋28とバルブブロック31に囲まれて油溜室47が形成される。この油溜室47は、閉止蓋28の貫通孔27に連通されるとともに、バルブブロック31に形成された後述の第2ピストン側室流路62に連通される。
【0032】
また、第2段部42は、バルブブロック31に嵌合された内シリンダ21の周囲に環状流路48を形成する。この環状流路48は、油圧シリンダ装置18のシリンダ流路34に連通するとともに、バルブブロック31に形成された後述の第2ロッド側室流路64に連通する。閉止蓋28の外周に配設されたOリング30Fにより、環状流路48と油溜室47とが液密に封止される。
【0033】
更に、第3段部43は、外シリンダ22とほぼ同径に形成され、外シリンダ22の一端部の端面49を当接して、この外シリンダ22の一端部を嵌合する。更に、第3段部43の近傍には、外シリンダ22よりも大径で円弧形状のシリンダ固定部50が形成される。外シリンダ22の一端部は、端面49が第3段部43に当接し、この端面49から図6における上方に若干離れた位置がバルジ加工により拡径して、シリンダ固定部50と同じ円弧形状の膨出部51となる。バルジ加工により形成された膨出部51がシリンダ固定部50に嵌め込まれて、外シリンダ22がバルブブロック31に固定される。
【0034】
このとき、外シリンダ22の軸方向に対し膨出部51の両側には、端面49側の直線状部22Aと、端面49と反対側の直線状部22Bとがバルブブロック31に支持される。これにより、外シリンダ22のバルブブロック31に対するがたつきが防止され、外シリンダ22はバルブブロック31に確実に支持される。
【0035】
また、バルブブロック31には、直線状部22Bの外周に接触するOリング30Gが配設されて、環状流路48が液密に封止される。更に、直線状部22Aには、外周側に面取り部52が形成されて、外シリンダ22をバルブブロック31に挿入する際に、この外シリンダ22の端面49がOリング30Gを損傷することがないよう考慮されている。
【0036】
油圧シリンダ装置18をポンプ装置19のバルブブロック31に組み付けるには、次の(1) 〜(3) の手順によってなされる(図2参照)。
(1) まず、外シリンダ22の一端部をバルブブロック31の第3段部43及びシリンダ固定部50に挿入し、この外シリンダ22の一端部をバルジ加工して膨出部51を形成し、この膨出部51とバルブブロック31のシリンダ固定部50との嵌合により、外シリンダ22がバルブブロック31に固定される。上記バルジ加工は、バルブブロック31に挿入された外シリンダ22の一端部内に弾性体を配設し、外シリンダ22内にピストンを収容し、このピストンにて外シリンダ22内を加圧することにより、上記弾性体が外シリンダ22の一端部をシリンダ固定部50の円弧形状に変形させることによって実施される。
【0037】
(2) 次に、バルブブロック31に固定された外シリンダ22内に内シリンダ組立体21Aを挿入する。この内シリンダ組立体21Aは、内シリンダ21内にピストン23及びピストンロッド24を収容し、且つ内シリンダ21の一端部、他端部に閉止蓋28、ロッドガイド29をそれぞれ装着したものであり、外シリンダ22内への挿入前に予め組み立てられたものである。内シリンダ組立体21Aを外シリンダ22内に挿入したときに、閉止蓋28をバルブブロック31の第1段部41に嵌合させる。
【0038】
(3) その後、外シリンダ22の他端部のかしめ部30を内シリンダ組立体21Aのロッドガイド29にかしめ固定して、内シリンダ組立体21Aを外シリンダ22に固定し、バルブブロック31への油圧シリンダ18の組み付けを完了する。
【0039】
図2に示すように、ポンプ装置19のバルブブロック31には軸支部53が形成され、この軸支部53を介してチルト・トリム装置17がクランプブラケット15(図1)に軸支される。また、油圧シリンダ装置18のピストンロッド24の先端に軸支部54が設置され、この軸支部54がスイベルブラケット14(図1)に軸支される。後述の如く、ポンプ装置19のギアポンプ36から油圧シリンダ装置18のピストン側室26A又はロッド側室26Bに作動油が給排されることにより、油圧シリンダ装置18が伸縮、つまり、ピストンロッド24が内シリンダ21及び外シリンダ22から突出(油圧シリンダ装置18が伸長)して、推進ユニット13をチルトアップ、トリムアップさせ、或いは、ピストンロッド24が内シリンダ21及び外シリンダ22内へ侵入(油圧シリンダ装置18が収縮)して、推進ユニット13をチルトダウン、トリムダウンさせる。
【0040】
ここで、図2中の符号55は緩衝用バルブであり、船体16の走行中に推進ユニット13が流木などに衝突して、ロッド側室26B内が所定圧以上に上昇したときに、このロッド側室26B内の作動油をピストン側室26A内へ流出させ、緩衝用バルブ55を流れる作動油の流体抵抗により衝撃エネルギーを吸収して、衝撃を緩衝するものである。
【0041】
上記ポンプ装置19のギアポンプ36は、図7に示すように、第1ピストン側室流路61、シャトル弁装置56のピストン側室チェック弁57、第2ピストン側室流路62、油溜室47及び閉止蓋28の貫通孔27を経て、油圧シリンダ装置18のピストン側室26Aに接続される。また、ギアポンプ36は、第1ロッド側室流路63、シャトル弁装置56のロッド側室チェック弁58、第2ロッド側室流路64、環状流路48、シリンダ流路34及びロッドガイド34の切欠部35を経て、油圧シリンダ装置18のロッド側室26Bに接続される。
【0042】
更に、ギアポンプ36は、第1タンク流路65、第2タンク流路66を経てタンク装置20に接続される。これらの第1タンク流路65、第2タンク流路66に、タンク装置20からギアポンプ36へのみ作動油を流すタンク室側チェック弁59が配設される。尚、図7中の符号60はフィルタを示す。
【0043】
上記シャトル弁56は、ピストン側室シャトル弁部67とロッド側室シャトル弁部68とが連通路69にて連通して構成されたものである。ピストン側室シャトル弁部67は、シャトルシリンダ70内にピストン側室作動チェック弁71を備えたスプール72が摺動自在に収容されて、シャトル弁シリンダ70内がメイン油室73とサブ油室74とに区画されたものであり、メイン油室73側にピストン側室チェック弁57が配設される。
【0044】
また、ロッド側室シャトル弁部68も、シャトルシリンダ70内にロッド側室作動チェック弁75を備えたスプール72が摺動自在に収容されて、シャトルシリンダ70内がメイン油室73とサブ油室74とに区画されたものであり、メイン油室73側にロッド側室チェック弁58が配設される。ピストン側室シャトル弁部67とロッド側室シャトル弁部68とのサブ油室74が連通路69にて連結される。
【0045】
また、ピストン側室シャトル弁部67、ロッド側室シャトル弁部68のスプール72は、サブ油室74内の圧力上昇によりそれぞれピストン側室チェック弁57、ロッド側室チェック弁58方向へ移動して、これらのピストン側室チェック弁57、ロッド側室チェック弁58をそれぞれ押圧し開弁可能とする。
【0046】
ギアポンプ36の正転時には、このギアポンプ36は、タンク室20内の作動油を図7の実線矢印に示すように、第1タンク流路65及び第1ピストン側室流路61を介してシャトル弁装置56におけるピストン側室シャトル弁部67のメイン油室73内へ導く。このピストン側室シャトル弁部67のメイン油室73内に導かれた作動油は、ピストン側室チェック弁57を開弁するとともに、ピストン側室作動チェック弁71を開弁し、サブ油室74及び連通路69を経てロッド側室シャトル弁部68のサブ油室74内へ流入する。このとき、ロッド側室作動チェック弁75が閉弁状態であるため、このロッド側室シャトル弁部68のスプール72はロッド側室チェック弁58方向へ移動して、このロッド側室チェック弁58を押圧し開弁する。
【0047】
上記ピストン側室チェック弁57の開弁により、ピストン側室シャトル弁部67のメイン油室73内の作動油は、図7の実線矢印に示すように、第2ピストン側室流路62、油溜室47及び貫通孔27を経て油圧シリンダ装置18のピストン側室26A内へ至り、又、ロッド側室26B内の作動油が、切欠部35、シリンダ流路34、環状流路48、第2ロッド側室流路64、ロッド側室チェック弁58(開弁状態)及び第1ロッド側室流路63を経てギアポンプ36に導かれる。この結果、油圧シリンダ装置18のピストンロッド24が内シリンダ21、外シリンダ22から突出する方向にピストン23が移動して、油圧シリンダ装置18が伸長し、船外機10の推進ユニット13がチルトアップ、トリムアップ操作される。
【0048】
また、ギアポンプ36の逆転時には、このギアポンプ36は、タンク装置20内の作動油を図7の破線矢印に示すように、第2タンク流路66及び第1ロッド側室流路63を介してシャトル弁装置56のロッド側室シャトル弁部68におけるメイン油室73内へ導く。このロッド側室シャトル弁部68のメイン油室73内に導かれた作動油は、ロッド側室チェック弁58を開弁させるとともに、ロッド側室作動チェック弁75を開弁させ、サブ油室74及び連通路69を経てロッド側室シャトル弁部67のサブ油室74内へ流入する。このとき、ピストン側室作動チェック弁71が閉弁状態であるため、このピストン側室シャトル弁部67のスプール72はピストン側室チェック弁57方向へ移動して、このピストン側室チェック弁57を押圧し開弁する。
【0049】
上記ロッド側室チェック弁58の開弁により、ロッド側室シャトル弁部68のメイン油室73に流入した作動油は、図7の破線矢印に示すように、第2ロッド側室油路64、環状流路48、シリンダ流路34及び切欠部35を経て油圧シリンダ装置18のロッド側室26B内へ至り、又、ピストン側室26A内の作動油が、貫通孔27、油溜室47、第2ピストン側室流路62、ピストン側室チェック弁57(開弁状態)及び第1ピストン側室流路61を経てギアポンプ36へ戻される。この結果、ピストンロッド24が内シリンダ21、外シリンダ22内へ侵入する方向にピストン23が移動して油圧シリンダ装置18が収縮し、船外機10の推進ユニット13がチルトダウン、トリムダウン操作される。
【0050】
上述のチルト・トリム装置17の油圧回路には、第1ロッド側室流路63にダウンブローオリフィス76が接続され、第2ピストン側室流路62にマニュアルバルブ77が接続され、第2ロッド側室流路64に吸込用チェックバルブ78が接続される。マニュアルバルブ77は、通常の非作動時に第2ピストン側室流路62をアップブロー・サーマルブローバルブ79に接続させる。
【0051】
上記ダウンブローオリフィス76は、油圧シリンダ装置18の収縮時に、内シリンダ21内へ侵入するピストンロッド24の体積相当分の作動油をタンク装置20内へ導く。
【0052】
また、マニュアルバルブ77は、チルト・トリム装置17の故障時などに、作業者が手動で作動させて、油圧シリンダ装置18のピストン側室26A内の作動油をタンク装置20へ戻し、後述の吸込用チェックバルブ78の作用と相俟って、油圧シリンダ装置18を手動で収縮させ、推進ユニット13を手動でチルトダウン可能とする。
【0053】
吸込用チェックバルブ78は、マニュアルバルブ77の作動時に、タンク装置20内の作動油を油圧シリンダ装置18のロッド側室26B内へ引き込むものであり、油圧シリンダ装置18を手動で収縮させることに寄与する。
【0054】
アップブロー・サーマルブローバルブ79は、油圧シリンダ装置18の伸長時に、ピストン23がロッドガイド29に当接してもなおギアポンプ36が正転中のときに、余剰の作動油をタンク装置20へ導くアップブロー機能と、油圧シリンダ装置18のピストン側室26A及び第2ピストン側室流路62等内の作動油が温度変化により容積増大したときに、その増大した作動油をタンク装置20へ逃がすサーマルブロー機能とを有するものである。
【0055】
以上のように構成されたチルト・トリム装置17によれば、次の▲1▼〜▲7▼の効果を奏する。
▲1▼ポンプ装置19のバルブブロック31が鋳造成形され、油圧シリンダ装置18の内シリンダ21、外シリンダ22が引き抜きパイプ材にて構成されたことから、鋳造型を小型化でき、コストを低減できる。
【0056】
▲2▼また、内シリンダ21、外シリンダ22が引き抜きパイプ材にて成形されたので、内シリンダ21、外シリンダ22を薄肉化でき、その分油圧シリンダ装置18、ひいてはチルト・トリム装置17を小型化できるとともに、内シリンダ21、外シリンダ22の内面を鏡面加工する必要がなく、しかも、シリンダ21及び22に、流路を形成するための長い穴開け加工をする必要がないので、加工工数を削減できる。
【0057】
▲3▼更に、外シリンダ22がバルブブロック31のシリンダ固定部50に拡径加工により固定されたので、油圧シリンダ装置18とポンプ装置19とを容易且つ確実に結合でき、組み立てることができる。
【0058】
▲4▼外シリンダ22がバルブブロック31における円弧形状のシリンダ固定部50に、バルジ加工により拡径して固定されたので、油圧シリンダ装置18の外シリンダ22とポンプ装置19のバルブブロック31とを一層確実且つ容易に固定することができる。
【0059】
▲5▼外シリンダ22は、端面から若干離れた位置が拡径加工されて膨出部51が形成されたことから、この膨出部51の両側の直線状部22A、22Bがバルブブロック31に支持されるので、外シリンダ22のがたつきが発生せず、油圧シリンダ装置18の外シリンダ22をポンプ装置19のバルブブロック31により一層確実に固定できる。
【0060】
▲6▼バルブブロック31の第1段部41に内シリンダ21が、第3段部43に外シリンダ22がそれぞれ嵌合されたので、油圧シリンダ装置18をポンプ装置19に確実に固定できるとともに、バルブブロック31の第2段部42に、油圧シリンダ装置18のシリンダ流路34に連通する環状流路48が形成されたので、流路も良好に確保でき、外部にパイプ材による配管が不要となる。
【0061】
▲7▼油圧シリンダ装置18の外シリンダ22をポンプ装置19のバルブブロック31に固定した後、この外シリンダ22内に内シリンダ組立体21Aを挿入し、その後、外シリンダ22のかしめ部30を内シリンダ組立体21Aのロッドガイド29にかしめ固定して、内シリンダ組立体21Aを外シリンダ22に固定することから、油圧シリンダ装置18とポンプ装置19との組立を容易且つ確実に実施できる。
【0062】
図8は、本発明に係る船舶用推進機のチルト・トリム装置の第2の実施の形態である船外機のチルト・トリム装置の図6に対応する断面図である。この第2の実施の形態において、前記第1の実施の形態と同様な部分は、同一の符号を付すことにより説明を省略する。
【0063】
この第2の実施の形態のチルト・トリム装置80におけるポンプ装置81では、バルブブロック31における円弧形状の膨出部51に、外シリンダ22の外周に接触するOリング30Gを配設するためのOリング溝82が形成されている。膨出部51が外シリンダ22よりも大径であることから、次の▲8▼の効果を奏する。
【0064】
▲8▼つまり、バルブブロック31のシリンダ固定部50にOリング溝82が形成され、シリンダ固定部50が外シリンダ22よりも大径であることから、Oリング溝82にOリング30Gを装着した後、外シリンダ22をシリンダ固定部50に挿入しても、外シリンダ22の端面49を含む一端部がOリング30Gに引っ掛かって、このOリング30Gを損傷しない。このため、外シリンダ22の一端部に、前記実施の形態のようなOリング30G損傷防止用の面取り部52を加工する必要がない。
【0065】
尚、上記両実施の形態では、外シリンダ22の膨出部51が弾性体を用いたバルジ加工により成形されたものを述べたが、この膨出部51を液圧、又は弾性体以外の拡径部材を用いた方法で拡径して形成してもよい。液圧を使用する場合は、外シリンダ22内に液体を流し込み、この液体を加圧させて、外シリンダ22内に膨出部51を成形したり、液体を充填したゴム製の風船を外シリンダ22内へ入れ、この風船を加圧して外シリンダ22に膨出部51を成形する方法である。また、拡径部材を使用する場合は、シリンダ固定部50の円弧形状に適合した外周を有するリングを、周方向に分割した分割リングを外シリンダ22内へ挿入し、この分割リングをピストンにて押圧して、くさび効果により膨出部51を成形する方法等でも良い。
【0066】
また、上記両実施の形態では、バルブブロック31に形成されたシリンダ固定部50が円弧形状のものを述べたが、図6の破線に示すように、直円柱形状であってもよい。
【0067】
更に、外シリンダ22の膨出部51は、外シリンダ22の端面49を含めた部分がバルジ加工等により膨出加工されたものであってもよい。
【0068】
【発明の効果】
以上のように、請求項1〜5に記載の発明に係る船舶用推進機のチルト・トリム装置によれば、加工工数の削減、小型化、コスト低減を達成できるとともに、装置の組立を容易且つ確実に実施することができ、請求項6に記載の発明に係る船舶用推進機のチルト・トリム装置組立方法によれば、装置の組立を容易且つ確実に実施することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】図1は、本発明に係る船舶用推進機のチルト・トリム装置の第1の実施の形態である船外機のチルト・トリム装置が適用された船外機を示す側面図である。
【図2】図2は、図1のチルト・トリム装置の断面図である。
【図3】図3は、図2のチルト・トリム装置の一部を図2とは異なる破断線(図5のIII-III 線)で表示した断面図である。
【図4】図4は、図3のIV矢視図である。
【図5】図5は、図2のV 矢視図である。
【図6】図6は、図2のシリンダにおける一端部の周囲を拡大して示す断面図である。
【図7】図7は、図2のチルト・トリム装置の油圧回路を示す回路図である。
【図8】図8は、本発明に係る船舶用推進機のチルト・トリム装置の第2の実施の形態である船外機のチルト・トリム装置の図6に対応する断面図である。
【符号の説明】
10 船外機(船舶用推進機)
13 推進ユニット
17 チルト・トリム装置
18 油圧シリンダ装置
19 ポンプ装置
20 タンク装置
21 内シリンダ
21A 内シリンダ組立体
22 外シリンダ
23 ピストン
24 ピストンロッド
28 閉止蓋
29 ロッドガイド
30 かしめ部
30G Oリング
31 バルブブロック
32 タンクケース
34 シリンダ流路
35 ロッドガイドの切欠部
36 ギアポンプ
41 第1段部
42 第2段部
43 第3段部
48 環状流路(流路)
49 外シリンダの端面
50 シリンダ固定部
51 膨出部
80 チルト・トリム装置
81 ポンプ装置
82 Oリング溝

Claims (2)

  1. シリンダ内に、ピストンロッドの一端部に固定されたピストンが摺動自在に配設されるとともに、作動油が充填されるシリンダ装置と、
    作動油を貯溜可能とするタンク装置と、
    上記タンク装置内の作動油を上記シリンダ装置内へ給排して、このシリンダ装置を伸縮作動させるポンプ装置とを有し、
    上記シリンダ装置の伸縮作動により推進ユニットをチルト・トリム操作させる船舶用推進機のチルト・トリム装置において、
    上記ポンプ装置のバルブブロックが鋳造成形され、上記シリンダ装置のシリンダがパイプ材にて構成され、
    上記バルブロックには上記シリンダより大径のシリンダ固定部が形成され、上記シリンダの端面から軸方向に直線状部を介して離れた部分をバルジ加工により拡径して上記シリンダ固定部に固定し、
    上記シリンダ固定部にはシリンダの外周に接触するOリングを配設するためのOリング溝が形成され、このOリング溝に配設されるOリングにより上記シリンダと上記バルブロックを液密に固定することを特徴とする船舶用推進機のチルト・トリム装置。
  2. シリンダ装置が内シリンダ及び外シリンダを有し、上記内シリンダには、ピストンロッドに連結されたピストンが摺動自在に収容されるとともに、一端部に閉止蓋が配設され、上記内シリンダ及び外シリンダの他端部にロッドガイドが配設され、上記内シリンダ及び外シリンダの一端部をポンプ装置のバルブブロックに固定して組み付ける船舶用推進機のチルト・トリム装置組立方法であって、
    上記外シリンダを上記バルブブロックのシリンダ固定部に挿入した後、この外シリンダの一端部を拡径加工して上記シリンダ固定部に固定し、
    次に、上記内シリンダにピストン及びピストンロッドが収容され、且つ閉止蓋及びロッドガイドが配設された内シリンダ組立体を、上記外シリンダ内に挿入し、
    その後、上記外シリンダの他端部を上記内シリンダ組立体の上記ロッドガイドにかしめ固定して、上記シリンダ装置を上記ポンプ装置に組み付けることを特徴とする船舶用推進機のチルト・トリム装置組立方法
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