JP3904436B2 - 耐汚染性に優れたエナメル粉体塗料組成物の製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は粉体塗料組成物の製造方法、特に耐汚染性に優れたエナメル粉体塗料組成物の製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
溶剤系塗料にシリケート化合物を添加することで、得られる塗膜に耐汚染性が付与できることはよく知られている。これはシリケート化合物が表面に移行した後、加水分解することにより、表面の親水性を高めていることによるものと考えられる。
このシリケート化合物を、顔料を含んだ、いわゆるエナメルタイプの粉体塗料に添加した場合には、目的とする耐汚染性が付与できない場合がある。これは粉体塗料中においてシリケート化合物が顔料表面に吸着しているためであると考えられる。また、耐ブロッキング性などの貯蔵時における問題の発生についても、シリケート化合物が顔料と何らかの相互作用をしていることによるものと考えられる。
特開2001−3006号公報では、シリケート化合物を含有する粉体塗料に、特定の沸点、融点およびSP値を有する化合物を添加することで、気泡のない塗膜が形成できることが開示されているが、上記の問題については全く言及されておらず、これらを解決するものではなかった。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、耐汚染性に優れた着色塗膜を得ることができる、シリケート化合物を含有するエナメルタイプの粉体塗料組成物の製造方法を提供するものである。
【0004】
【課題を解決するための手段】
本発明の耐汚染性に優れたエナメル粉体塗料組成物の製造方法は、シリケート化合物を含有するクリア粉体塗料組成物と顔料を含有する粉体塗料組成物とを混合するものである。ここで、上記顔料を含有する粉体塗料組成物がシリケート化合物を含有しないものであってよい。また、上記クリア粉体塗料組成物中のシリケート化合物の含有量は、樹脂固形分に対して、1〜10重量%であってよく、上記顔料を含有する粉体塗料組成物中の顔料の含有量は、樹脂固形分に対して、50〜100重量%であってよい。さらに、上記クリア粉体塗料組成物の体積平均粒子径と前記顔料を含有する粉体塗料組成物の体積平均粒子径とがほぼ等しく、10〜25μmであってよい。また、上記クリア粉体塗料組成物を構成するバインダー樹脂および硬化剤と上記顔料を含有する粉体塗料組成物を構成するバインダー樹脂および硬化剤とが同じものであってよい。
【0005】
ここで上記クリア粉体塗料組成物の硬化系が、水酸基が関与して進行するものである場合、上記シリケート化合物が、アセトンに対する水トレランス値が2ml以下であるエチルシリケート化合物か、メチル基と炭素数2〜6のアルキル基とを50/50〜98/2の比で有するメチルアルキルシリケート化合物であってよい。
【0006】
本発明の耐汚染性に優れたエナメル粉体塗料組成物は先の製造方法により得られたものである。ここで、上記顔料の含有量が樹脂固形分に対して30〜80重量%であってよく、上記シリケート化合物の含有量が樹脂固形分に対して0.2〜10重量%であってよい。
本発明の耐汚染性に優れた塗膜の形成方法は、先のエナメル粉体塗料組成物を塗布して焼き付けるものである。
【0007】
【発明の実施の形態】
本発明のエナメル粉体塗料組成物の製造方法は、シリケート化合物を含有するクリア粉体塗料組成物と顔料を含有する粉体塗料組成物とを混合するものである。上記シリケート化合物を含有するクリア粉体塗料組成物は、バインダー樹脂、硬化剤およびシリケート化合物を必須成分として含有しており、通常、添加剤などのその他の成分を必要に応じてさらに含有している。なお、上記シリケート化合物を含有するクリア粉体塗料組成物は、基本的には顔料を含有しないものである。
【0008】
上記バインダー樹脂としては、硬化剤と反応しうる官能基を有するポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、アクリル樹脂が通常用いられる。また、これらを適宜ブレンドしてポリエステル・エポキシ樹脂、アクリル・エポキシ樹脂、アクリル・ポリエステル樹脂として使用することもできる。
【0009】
上記ポリエステル樹脂は、多価カルボン酸を主成分とした酸成分と、多価アルコールを主成分としたアルコール成分とを原料として、通常の方法を用いて縮重合することにより得ることができる。上記酸成分としては、特に限定されず、例えば、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸およびこれらの無水物、2,6−ナフタレンジカルボン酸、2,7−ナフタレンジカルボン酸等の芳香族ジカルボン酸類およびこれらの無水物、コハク酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカンジカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸等の飽和脂肪族ジカルボン酸類およびこれらの無水物、γ−ブチロラクトン、ε−カプロラクトン等のラクトン類、p−オキシエトキシ安息香酸等の芳香族オキシモノカルボン酸類、これらに対応するヒドロキシカルボン酸等を例示することができる。
【0010】
また、上記アルコール成分としては、特に限定されず、例えば、エチレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,5−ヘキサンジオール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、1,4−シクロヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、ビスフェノールAアルキレンオキシド付加物、ビスフェノールSアルキレンオキシド付加物、1,2−プロパンジオール、ネオペンチルグリコール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,2−ペンタンジオール、2,3−ペンタンジオール、1,4−ペンタンジオール、1,4−ヘキサンジオール、2,5−ヘキサンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、1,2−ドデカンジオール、1,2−オクタデカンジオール等の側鎖を有する脂肪族グリコール類、トリメチロールプロパン、グリセリン、ペンタエリスリトール等の3価以上の多価アルコール類等を例示することができる。
【0011】
上記酸成分およびアルコール成分にそれぞれ含まれる化合物の種類および量を制御することで、硬化剤と反応しうる官能基を所定量有するポリエステル樹脂を得ることができる。なお、上記酸成分にイソフタル酸が50重量%以上、好ましくは80重量%以上含まれることで、耐候性が高いポリエステル樹脂を得ることができる。
【0012】
また、上記アクリル樹脂は、エチレン性不飽和基含有モノマーを配合し、これを通常の方法を用いて共重合することにより得ることができる。上記エチレン性不飽和基含有モノマーとしては、例えば、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチルアクリレート、プラクセルFMおよびFAシリーズ(商品名、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートとポリカプロラクトンとの付加物、ダイセル化学工業社製)、ポリアルキレングリコールモノ(メタ)アクリレート類などの水酸基含有モノマー、グリシジルアクリレート、グリシジルメタクリレート、2−メチルグリシジルメタクリレートなどのエポキシ基含有モノマー、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレートなどのアミノ基含有モノマー、(メタ)アクリルアミド、N−メチル(メタ)アクリルアミド、N−ブトキシメチル(メタ)アクリルアミド、N−メチルアクリルアミドなどのアクリルアミド系モノマー、(メタ)アクリル酸等のカルボン酸基含有モノマーなどの硬化官能基含有モノマー、および、アクリロニトリル、酢酸ビニル、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n−ブチル、(メタ)アクリル酸iso−ブチル、(メタ)アクリル酸tert−ブチル、スチレン、ビニルトルエン、p−クロロスチレンなどのその他の中性モノマーを例示することができる。これらのエチレン性不飽和基含有モノマーを適宜配合することで、硬化剤と反応しうる官能基を所定量有するアクリル樹脂が得られる。
【0013】
さらに、上記エポキシ樹脂としては、1分子内に2個以上の硬化剤と反応しうる官能基としてのエポキシ基を有する化合物であって、例えば、グリシジルエステル樹脂、ビスフェノールAとエピクロロヒドリンとの縮合反応物や、ビスフェノールFとエピクロロヒドリンとの縮合反応物などのグリシジルエーテル型樹脂、脂環式エポキシ樹脂、脂肪族エポキシ樹脂、含ブロムエポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂などを例示することができる。
【0014】
一方、上記硬化剤は、通常、粉体塗料に用いられるものであり、上記バインダー樹脂の官能基が水酸基である場合、脂肪族多価カルボン酸、脂肪族酸無水物、アミノ樹脂、ポリエポキシ化合物、ブロックイソシアネート化合物、グリコールウリル硬化剤などが用いられる。また、上記バインダー樹脂の官能基がカルボキシル基である場合、上記硬化剤としては、ポリエポキシ化合物、ポリヒドロキシ化合物、ヒドロキシアルキルアミド化合物などを挙げることができる。さらにバインダー樹脂の官能基がエポキシ基である場合、上記硬化剤としては、デカンジカルボン酸やセバチン酸などの脂肪族多価カルボン酸、多価カルボン酸酸無水物、ジシアンジアミド、ブロックイソシアネート化合物、アミン系硬化剤、ポリアミド系硬化剤、フェノール樹脂、イミダゾール類およびイミダゾリン類等を挙げることができる。なお、上記ブロックイソシアネート化合物はウレトジオン化合物を含むものとする。
上記バインダー樹脂と硬化剤とは、硬化に関与する官能基が化学量論的に等しい量比から著しく外れない割合で含有されていることが好ましい。
【0015】
また、上記クリア粉体塗料組成物に含有されているシリケート化合物としては、炭素数1〜8のアルコキシ基を有するテトラアルコキシシランおよびその縮合物、ならびにこれらの縮合物のアルコキシ基をアルコールで置換したものを挙げることができる。これらの中で好ましいものは、テトラメトキシシランまたはテトラエトキシシランの縮合物、および、これらの2つの縮合物のアルコキシ基をアルコールで置換したものである。
【0016】
上記炭素数1〜8のアルコキシ基を有するテトラアルコキシシランの具体例としては、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラブトキシシラン、テトラヘキシルオキシシラン、テトラオクチルオキシシランなどを挙げることができる。また、好ましいものとして挙げたテトラメトキシシランおよびテトラエトキシシランの縮合物は、三菱化学からMKCシリケートシリーズおよびコルコート社からエチルシリケートシリーズとして、それぞれ市販されている。
【0017】
また、上記テトラアルコキシシランの縮合物のアルコキシ基をアルコールで置換したものは、上記縮合物1モルに対して、上記アルコールを1モル以上用いて交換反応を行うことにより得ることができる。上記アルコールの量は目的とする置換基の数に合わせて、適宜増量することができる。上記交換反応は、例えば約150℃まで加熱して行われることが好ましい。また、反応を進行させるため、系を減圧にして、生成したメタノールまたはエタノールを系外に留去することが好ましい。反応はアルコールによる置換が所定量行われた時点で終了される。反応終了後、必要に応じて分離・精製を行って目的とするシリケート化合物を得ることができる。このようにして得られるシリケート化合物は、一般に無色〜薄黄色の油状物質である。なお、上記アルコールによる置換量の決定は、生成したメタノールまたはエタノールの量のチェックや分析機器を用いることにより行われる。
【0018】
上記アルコキシ基の置換に用いられるアルコールとしては、エタノール、プロパノール、ブタノール、ヘキサノール、ベンジルアルコール、2−ブトキシエタノール、3−メトキシ−1−プロパノール、2−エチルヘキサノール、オクタノールなどを用いることができる。
【0019】
また、溶剤は特に使用しなくてもいいが、用いる場合には、上記縮合物とアルコールとの合計重量に対して10倍以下であることが好ましい。溶剤の具体例としては、例えば、トルエン、ベンゼン、キシレンなどの芳香族炭化水素、ジクロロエタンなどのハロゲン化炭化水素、THFおよびジオキサンなどのエーテル類、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなどのケトン類、酢酸エチルおよび酢酸ブチルなどのエステル類、ジメチルカーボネート、アセトニトリルなどが挙げられる。
【0020】
上記交換反応においては触媒として、必要に応じて酸または塩基を用いることができる。酸としては、塩酸、硫酸、リン酸、スルホン酸などのブレンステッド酸や有機スズ化合物などのルイス酸が挙げられる。また塩基としては、トリエチルアミン、ジメチルベンジルアミン、ジアザビシクロ [2.2.2] オクタン、1,8−ジアザビシクロ [5.4.0] ウンデンセン−7などの3級アミンなどを使用することができる。
【0021】
上記シリケート化合物の上記クリア粉体塗料組成物中の含有量は、上記バインダー樹脂と硬化剤とを合計した樹脂固形分に対して、1〜10重量%であることが好ましい。1重量%未満だと、得られるエナメル粉体塗料組成物中のシリケート化合物の含有量が低くなり、耐汚染性に優れた塗膜を得ることができない恐れがある。また、10重量%を超えると、粉体塗料組成物の安定性に問題が生じる恐れがある。
【0022】
さらに、上記クリア粉体塗料組成物の硬化系が、水酸基が関与して進行するものである場合には、上記シリケート化合物が、テトラエトキシシランの縮合物、またはこの縮合物のアルコキシ基を炭素数3〜8のアルコールで一部置換したエチルシリケート化合物であって、アセトンに対する水トレランス値が2ml以下であるエチルシリケート化合物を用いるか、メチル基と炭素数2〜6のアルキル基とを50/50〜98/2の比で有するメチルアルキルシリケート化合物を用いることが好ましい。上記メチルアルキルシリケート化合物の方が、塗膜表面の水接触角の低下が大きいので特に好ましい。
【0023】
上記クリア粉体塗料組成物の硬化系が、水酸基が関与して進行する場合には系内に水酸基が多く存在する。このためシリケート化合物と水酸基との副反応がより生じやすく、この副反応により、シリケート化合物が機能を発現できなくなる恐れがある。上記2種の特徴を持つシリケート化合物のいずれかを用いることでこの問題点が解決できる。なお、得られる塗膜表面の水接触角の低下の観点から、上記メチルアルキルシリケート化合物を用いることが特に好ましい。
【0024】
上記アセトンに対する水トレランス値が2ml以下であるエチルシリケート化合物は、シリケート化合物と水酸基を多く含む成分との相溶性および反応性を制御して上記副反応を起こさないようにするものである。なお、本明細書におけるアセトンに対する水トレランス値は、100mlのビーカーを容器として用いて、シリケート化合物1gを入れ、10mlのアセトンを加えて溶解させた後に、水を徐々に滴下していき、ビーカーの底面に敷いた5号活字が、ビーカー上部から透視して判読できなくなった時点までの水の合計滴下量とする。
【0025】
通常、相溶性はSP値の差で規定されるが、シリケート化合物はSP値の決定に用いられるヘキサンに完全溶解するため、SP値を求めることができない。しかし、水酸基を多く含む粉体塗料においては、SP値ではなく、シリケート化合物の水添加によるトレランス値を規定することで上記相溶性を制御できることを見いだした。上記水トレランス値が2mlを超えると、水酸基を多く含む成分との相溶性が増加して副反応が生じ、目的とする機能が発揮できない。上記水トレランス値を満たすには、縮合度が5〜20であることが好ましい。なお、この縮合度は平均値であっても構わない。
【0026】
一方、反応性については、シリケート化合物のアルコキシ基がエトキシ基であるもの、またはこれを炭素数3〜8のアルコールで一部置換したものを用いることが好ましい。なお、この一部置換とは、エトキシ基に対して半数以下を置換することを意味する。上記炭素数3〜8のアルコールとしては、プロパノール、ブタノール、ベンジルアルコール、2−ブトキシエタノール、3−メトキシ−1−プロパノール、2−エチルヘキサノール、オクタノール、トリフルオロエタノール、ペンタフルオロプロパノールなどを挙げることができる。
【0027】
シリケート化合物と水酸基との副反応を防ぐためのもう一つのシリケート化合物である上記メチルアルキルシリケート化合物においては、メチル基と炭素数2〜6のアルキル基とが、個数を基準にして、50/50〜98/2の比で存在している。メチル基と炭素数2〜6のアルキル基との比を上記範囲に設定することにより、水酸基との副反応を回避しながら、加水分解による親水性を発現することができる。上記比が、50/50未満だと加水分解が進行しにくく、また、98/2を上回ると、バインダー樹脂中の水酸基との反応が進行し、それぞれ良好な耐汚染性が得られにくい。好ましい下限値は75/25であり、好ましい上限値は96/4である。なお、上記メチル基と炭素数2〜6のアルキル基との比は、適当な分析機器、例えば、1H−NMRスペクトルを用いて求めることができる。
【0028】
上記メチルアルキルシリケート化合物は、テトラメトキシシランの縮合物と炭素数2〜6の脂肪族飽和アルコールとの反応や、テトラメトキシシランと炭素数2〜6のアルキル基を有するテトラアルコキシシランとの縮重合など、種々の方法で得ることができる。また、テトラメトキシシランの縮合物と炭素数2〜6のテトラアルコキシシランの縮合物とを混合しても得られる。上記メチル基以外の炭素数2〜6のアルキル基としては、エチル基、プロピル基、ブチル基、アミル基、およびヘキシル基が挙げられる。これらは枝分かれしていてもよい。上記炭素数2〜6のアルキル基は複数種であってもよいが、製造の容易性を考慮すると、単一であることが好ましい。上記炭素数2〜6のアルキル基として好ましいものはエチル基、プロピル基、およびブチル基であり、エチル基が特に好ましい。なお、上記テトラメトキシシランの縮合物と炭素数2〜6の脂肪族飽和アルコールとの反応は、先に説明したテトラアルコキシシランの縮合物のアルコキシ基をアルコールで置換する方法に含まれている。
【0029】
ここで、硬化系に水酸基が関与する場合、バインダー樹脂および硬化剤のいずれかはメインの反応性基として水酸基を有している。このようなバインダー樹脂の具体的なものとしては、水酸基含有アクリル樹脂またはポリエステル樹脂が挙げられ、硬化剤ではβ−ヒドロキシアルキルアミド硬化剤を挙げることができる。バインダー樹脂と硬化剤との組み合わせの具体例としては、水酸基含有アクリル樹脂とブロックイソシアネート硬化剤との組み合わせ、水酸基含有ポリエステル樹脂とブロックイソシアネート硬化剤との組み合わせ、カルボキシル基含有アクリル樹脂またはカルボキシル基含有ポリエステル樹脂とβ−ヒドロキシアルキルアミド硬化剤との組み合わせを挙げることができる。これらの中で、実際の粉体塗料として汎用性が高いものは、水酸基含有ポリエステル樹脂とブロックイソシアネート硬化剤、カルボキシル基含有ポリエステル樹脂とβ−ヒドロキシアルキルアミド硬化剤の組み合わせである。これらをさらに複数組み合わせて使用することも可能である。なお、これらの場合においても、粉体塗料組成物中のバインダー樹脂、硬化剤およびシリケート化合物の含有量は先に述べたとおりである。
【0030】
また、添加剤などの上記その他の成分としては、表面調整剤、硬化触媒、可塑剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、ワキ防止剤、帯電制御剤、流動性付与剤などを挙げることができる。これらは、それぞれが有する機能を発現することができるとともに、添加によって不具合が生じない量で含有されることが好ましい。
【0031】
上記シリケート化合物を含有するクリア粉体塗料組成物は、上記バインダー樹脂、硬化剤およびシリケート化合物に上記各種添加剤を加えて混合し、60〜150℃、好ましくは80〜130℃の範囲で溶融混練して得られた溶融物を冷却して固化し、粗粉砕および微粉砕の工程を経て所望の粒径に粉砕することにより得ることができる。なお、上記添加剤の中で流動性付与剤は、粉砕後で添加することが好ましい。
【0032】
上記クリア粉体塗料組成物の体積平均粒子径は、巨大粒子や微小粒子を除去して粒度分布を調整するために分級を行い、5〜50μmに設定されていることが好ましい。薄膜塗装に用いる場合には5〜40μm、特に薄膜で平滑な塗膜を得ようとする場合には、5〜30μmに設定されていることがより好ましい。
【0033】
一方、上記顔料を含有する粉体塗料組成物は、バインダー樹脂、硬化剤および顔料を必須成分として含有しており、通常、添加剤などのその他の成分を必要に応じてさらに含有している。また、この顔料を含有する粉体塗料組成物は基本的にシリケート化合物を含有しないものである。ここでバインダー樹脂、硬化剤、および添加剤などのその他の成分については、先のシリケート化合物を含有するクリア粉体塗料組成物のところで説明した内容が基本的にそのまま適用される。上記バインダー樹脂および硬化剤は、先のクリア粉体塗料組成物に含有されているバインダー樹脂および硬化剤と同じものであることが好ましく、それらの量比も同じであることがさらに好ましい。
【0034】
上記顔料としては、一般的に使用されているものを用いることができる。具体的には、二酸化チタン、ベンガラ、黄色酸化鉄、カーボンブラック、フタロシアニンブルー、フタロシアニングリーン、キナクリドン系顔料、アゾ系顔料などの着色顔料、メタリック顔料、パール顔料、金属粉末およびそれに表面処理を施したもの、タルク、シリカ、炭酸カルシウム、沈降性硫酸バリウム等の体質顔料などを挙げることができる。上記顔料の粉体塗料中の含有量は、基材表面を隠蔽して着色できる量であれば特に限定されないが、一般的には上記バインダー樹脂と硬化剤との合計量に対して、50〜100重量%の割合で含有されていることが好ましい。
【0035】
上記顔料を含有する粉体塗料組成物は、先のシリケート化合物を含有するクリア粉体塗料組成物と同様にして得ることができ、その体積平均粒子径についても上記クリア粉体塗料組成物のところで説明した範囲にすることができる。上記顔料を含有する粉体塗料組成物の体積平均粒子径とクリア粉体塗料組成物の体積平均粒子径とはほぼ等しいことが、得られるエナメル粉体塗料組成物の塗着性から好ましい。また、本発明の製造方法により得られるエナメル粉体塗料組成物の色ムラを防止する観点から、顔料を含有する粉体塗料組成物およびクリア粉体塗料組成物の体積平均粒子径は、10〜25μmの範囲でほぼ同じであることが特に好ましい。
【0036】
上記シリケート化合物を含有するクリア粉体塗料組成物と顔料を含有する粉体塗料組成物とは、乾式混合される。上記乾式混合とは、溶媒を用いたり、溶融したりすることなく混合するものである。混合して得られるエナメル粉体塗料組成物中の顔料およびシリケート化合物の含有量が、後述する隠蔽性および耐汚染性をそれぞれ満足する量になるように混合比が設定される。特に隠蔽性を考慮すると、クリア粉体塗料組成物と顔料を含有する粉体塗料組成物との混合比は40/60以下が好ましく、20/80以下がより好ましい。この乾式混合には、各種ディスパー、スーパーミキサー、ヘンシェルミキサー、V型混合機、ペイントシェーカー、コニカルブレンダー、ナウターミキサ−,SVミキサー、ドラムミキサー、シェーカーミキサー、プロシェアーミキサー、万能ミキサー、リボン型混合機、リボンミキサーなどの機器を使用することができる。
【0037】
上記混合して得られるエナメル粉体塗料組成物において、隠蔽性を考慮すると、エナメル粉体塗料組成物中の顔料の含有量が樹脂固形分に対して30〜80重量%であることが好ましい。また耐汚染性の観点からは、上記エナメル粉体塗料組成物中の上記シリケート化合物の含有量が樹脂固形分に対して0.2〜10重量%であることが好ましい。上記クリア粉体塗料組成物と顔料を含有する粉体塗料組成物との混合比率は、これらの含有量が上記範囲になるように決定することができる。
【0038】
本発明のエナメル粉体塗料組成物は、先の製造方法により得られるものであって耐汚染性に優れている。このエナメル粉体塗料組成物中における顔料の含有量は樹脂固形分に対して30〜80重量%であり、上記シリケート化合物の含有量は樹脂固形分に対して0.2〜10重量%であることが好ましい。顔料の含有量が30重量%未満では充分な着色力と隠蔽力とを有することができず、80重量%を超えると製造が困難となる。一方、シリケート化合物の含有量が0.2重量%未満では耐汚染性が充分でなく、10重量%を超えてもそれに見合う効果が認められず、さらに得られる塗膜の物性に悪影響を及ぼす恐れがある。さらに好ましい範囲は、1〜5重量%である。また、本発明のエナメル粉体塗料組成物の体積平均粒子径は5〜50μmであることが好ましい。薄膜塗装に用いる場合には5〜40μm、特に薄膜で平滑な塗膜を得ようとする場合には、5〜30μmであることがより好ましい。
【0039】
本発明の塗膜の形成方法は、先のエナメル粉体塗料組成物を基材に対して塗布した後、焼き付けることにより耐汚染性に優れた塗膜を得るものである。上記基材としては、塗布後の焼き付けにより変形などの不具合が生じないものであれば特に限定されず、具体的には、鉄板、鋼板、アルミニウム板等およびそれらを表面処理したもの等を挙げることができる。本発明のエナメル粉体塗料組成物から得られる塗膜が耐汚染性に優れていることから、上記基材は屋外に設置されたり、屋外で使用される自動販売機、配電盤、ガスタンク、建設機械、建築外装材などに適用されるものが好ましい。なお、上記基材には、プライマーなどの下塗り塗料から得られる下塗り塗膜が形成されていてもよい。本発明の塗膜の形成方法は、耐汚染性に優れた塗膜が得られるため、最上層に位置する塗膜を形成するのに用いられる。
【0040】
上記塗布する方法としては、特に限定されず、静電塗装法や流動浸漬法等の当業者によってよく知られた方法を用いることができるが、塗着効率の点から静電塗装法が好ましい。上記静電塗装法における帯電方法としては、コロナ帯電方式や摩擦帯電方式を挙げることができる。これらの方法は組み合わせて用いることも可能である。塗装膜厚は特に限定されないが、例えば20〜200μmとすることができる。塗布後、含有されているバインダー樹脂および硬化剤の種類に基づき、140〜220℃で5〜40分焼き付けを行い、耐汚染性に優れた塗膜を得ることができる。
【0041】
【実施例】
製造例1 アルコールで置換されたエチルシリケート化合物の製造
エチルシリケート48(コルコート社製、テトラエトキシシランの縮合体、平均縮合度10)504gに2−ブトキシエタノール396gおよびトリエチルアミン5.06gを加え、90℃で1時間、120℃で2時間、さらに140℃で2時間、生成したエタノールを除去しながら加熱撹拌した。放冷後、残存する2−ブトキシエタノールを減圧下で除去し、2−ブトキシエタノールで置換されたエチルシリケート化合物696gを得た。なお、1H−NMRから求めた、このエチルシリケート化合物の2−ブトキシエトキシ基の個数は9個であった。
また、100mlのビーカー中で、得られたエチルシリケート化合物1gをアセトン10mlに溶かし、ここに水を1.07ml加えた時点でビーカー底面に敷いた5号活字が白濁して判読できなくなったため、水トレランス値を0.95mlと決定した。
【0042】
製造例2 メチルエチルシリケートの製造
MKCシリケート56(三菱化学社製、テトラメトキシシランの縮合物、平均縮合度10)829.5gに脂肪族飽和アルコールとしてエチルアルコール72.7gおよびトリエチルアミン5.0gを加えて、約80℃で6時間加熱還流した。次いで、生成したメタノールを系外に留出させながら加熱撹拌した。放冷後、残存するメタノールを減圧下で留去し、メチルエチルシリケート795gを得た。1H−NMRスペクトルから求めたメチル基とエチル基との比は89.5/10.5であった。
【0043】
製造例3 シリケート化合物を含有するクリア粉体塗料組成物の製造その1
クリルコート7642(ダイセルユーシービー社のカルボキシル基含有ポリエステル樹脂、酸価35、重量平均分子量7800、ガラス転移点63℃)600部、プリミドXL552(EMS−PRIMD社製の1,1,8,8−テトラ(2−ヒドロキシエチル)アジポアミド)30部、製造例1のアルコールで置換されたエチルシリケート化合物47部および表面調整剤としてのベンゾイン5部をヘンシェルミキサーで混合した後、100〜110℃に加熱しながらニーダーで混練し、冷却後、粉砕・分級して体積平均粒子径25μmのクリア粉体塗料組成物を得た。
【0044】
製造例4 シリケート化合物を含有するクリア粉体塗料組成物の製造その2
製造例3で、製造例1のアルコールで置換されたエチルシリケート化合物の代わりに、製造例2で得られたメチルエチルシリケートを用いた以外は同様にして体積平均粒子径25μmのクリア粉体塗料組成物を得た。
【0045】
製造例5 顔料を含有する粉体塗料組成物の製造
製造例2において、製造例1で得られたエチルシリケート化合物を用いず、その代わりにCR−90(石原産業社製の二酸化チタン)495部を加えた以外は同様にして、体積平均粒子径25μmの白色顔料を含有する粉体塗料組成物を得た。
【0046】
実施例1 エナメル粉体塗料組成物の製造その1
製造例3のクリア粉体塗料組成物200部と製造例5の顔料を含有する粉体塗料組成物844部とをヘンシェルミキサーで混合して、エナメル粉体塗料組成物を得た。このエナメル粉体塗料組成物の樹脂固形分に対する、顔料含有量は63.5重量%であり、シリケート化合物の含有量は1.4重量%であった。
【0047】
実施例2 エナメル粉体塗料組成物の製造その2
実施例1において、製造例3のクリア粉体塗料組成物の代わりに製造例4のクリア粉体塗料組成物を用いた以外は同様にして、エナメル粉体塗料組成物を得た。
【0048】
比較例1 シリケート化合物を含有するエナメル粉体塗料組成物の製造その1
製造例3において、製造例1で得られたエチルシリケート化合物の量を9部とし、さらにCR−90 400部を加えた以外は同様にして、体積平均粒子径25μmのシリケート化合物を含有するエナメル粉体塗料組成物を得た。
【0049】
比較例2 シリケート化合物を含有するエナメル粉体塗料組成物の製造その2
製造例4において、製造例2で得られたエチルシリケート化合物の量を9部とし、さらにCR−90 400部を加えた以外は同様にして、体積平均粒子径25μmのシリケート化合物を含有するエナメル粉体塗料組成物を得た。
【0050】
<耐ブロッキング性評価>
実施例1および2、ならびに比較例1および2で得られた粉体塗料組成物について、35℃×1週間での耐ブロッキング性を目視でそれぞれ評価したところ、比較例1および2の粉体塗料組成物では、ブロッキングが起こっているのが確認された。実施例1および2の粉体塗料組成物には特に異常は認められなかった。
【0051】
<光沢および耐汚染性の評価>
実施例1および2、ならびに比較例1および2の製造してすぐの粉体塗料組成物を、それぞれリン酸亜鉛処理鋼板に対して、膜厚が約40μmになるようにコロナ帯電型塗装ガンにより静電塗装し、180℃×20分の条件で焼き付けて塗膜を得た。この塗膜の光沢を測定したところ、実施例1では94、実施例2では92とともに高い値が得られたのに対し、比較例1および2では塗膜に平滑性がなく、30および35と低い値であった。
また、光沢測定後、塗膜を、湿度85%以上および温度50℃に保った環境下で24時間放置した後、協和界面科学社製CA−A型接触角測定装置を用いて、表面の水接触角を測定した。実施例1では53度、実施例2では36度とともに60度未満の値を示し、充分に表面が親水化されており、耐汚染性に優れていることが確認された。
【0052】
【発明の効果】
本発明の粉体塗料組成物の製造方法によれば、耐汚染性に優れた着色塗膜を得ることができる、シリケート化合物を含有するエナメルタイプの粉体塗料組成物を得られる。これは、シリケート化合物と顔料とをそれぞれ別々の粒子として存在させることで、シリケート化合物と顔料との接触を回避し、顔料表面へのシリケート化合物の吸着が起らないようにしているためである。
Claims (12)
- シリケート化合物を含有するクリア粉体塗料組成物と顔料を含有する粉体塗料組成物とを混合する、耐汚染性に優れたエナメル粉体塗料組成物の製造方法。
- 前記顔料を含有する粉体塗料組成物がシリケート化合物を含有しないものである請求項1記載の耐汚染性に優れたエナメル粉体塗料組成物の製造方法。
- 前記クリア粉体塗料組成物中の前記シリケート化合物の含有量が、樹脂固形分に対して、1〜10重量%である請求項1または2記載の耐汚染性に優れたエナメル粉体塗料組成物の製造方法。
- 前記顔料を含有する粉体塗料組成物中の前記顔料の含有量が、樹脂固形分に対して、50〜100重量%である請求項1〜3の1つに記載の耐汚染性に優れたエナメル粉体塗料組成物の製造方法。
- 前記クリア粉体塗料組成物の体積平均粒子径と前記顔料を含有する粉体塗料組成物の体積平均粒子径とがほぼ等しいものである請求項1〜4の1つに記載の耐汚染性に優れたエナメル粉体塗料組成物の製造方法。
- 前記クリア粉体塗料組成物の体積平均粒子径と前記顔料を含有する粉体塗料組成物の体積平均粒子径が10〜25μmである請求項5記載の耐汚染性に優れたエナメル粉体塗料組成物の製造方法。
- 前記クリア粉体塗料組成物を構成するバインダー樹脂および硬化剤と前記顔料を含有する粉体塗料組成物を構成するバインダー樹脂および硬化剤とが同じものである請求項1〜6の1つに記載の耐汚染性に優れたエナメル粉体塗料組成物の製造方法。
- 前記クリア粉体塗料組成物の硬化系が、水酸基が関与して進行するものであって、
前記シリケート化合物が、アセトンに対する水トレランス値が2ml以下のエチルシリケート化合物である請求項1〜7の1つに記載の耐汚染性に優れたエナメル粉体塗料組成物の製造方法。 - 前記クリア粉体塗料組成物の硬化系が、水酸基が関与して進行するものであって、
前記シリケート化合物が、メチル基と炭素数2〜6のアルキル基とを50/50〜98/2の比で有するメチルアルキルシリケート化合物である請求項1〜7の1つに記載の耐汚染性に優れた複層塗膜の形成方法。 - 請求項1〜9の1つに記載の製造方法により得られた耐汚染性に優れたエナメル粉体塗料組成物。
- 前記顔料の含有量が樹脂固形分に対して30〜80重量%であり、前記シリケート化合物の含有量が樹脂固形分に対して0.2〜10重量%である請求項10に記載の耐汚染性に優れたエナメル粉体塗料組成物。
- 請求項10または11に記載のエナメル粉体塗料組成物を塗布して焼き付ける耐汚染性に優れた塗膜の形成方法。
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