JP3901894B2 - 多結晶薄膜とその製造方法およびこれを用いた酸化物超電導導体 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は結晶方位の整った多結晶薄膜、特に、化学反応安定性の高く、高温における加熱処理にも安定な多結晶薄膜およびその製造方法と、これを用いた臨界電流密度の高い酸化物超電導導体に関する。
【0002 】
【従来の技術】
近年になって発見された酸化物超電導体は、液体窒素温度を超える臨界温度を示す優れた超電導体であるが、現在、この種の酸化物超電導体を実用的な超電導体として使用するためには、種々の解決するべき問題点が存在している。その問題点の1つが、酸化物超電導体の臨界電流密度が低いという問題である。
【0003 】
前記酸化物超電導体の臨界電流密度が低いという問題は、酸化物超電導体の結晶自体に電気的な異方性が存在することが大きな原因となっており、特に酸化物超電導体はその結晶軸のa軸方向とb軸方向には電気を流し易いが、c軸方向には電気を流しにくいことが知られている。このような観点から酸化物超電導体を基材上に形成してこれを超電導導体として使用するためには、基材上に結晶配向性の良好な状態の酸化物超電導層を形成し、しかも、電気を流そうとする方向に酸化物超電導層の結晶のa軸あるいはb軸を配向させ、その他の方向に酸化物超電導体のc軸を配向させる必要がある。
【0004 】
従来、基板や金属テープ等の基材上に結晶配向性の良好な酸化物超電導層を形成するために種々の手段が試みられてきた。その1つの方法として、酸化物超電導体と結晶構造の類似したMgOあるいはSrTiO3 などの単結晶基材を用い、これらの単結晶基材上にスパッタリングなどの成膜法により酸化物超電導層を形成する方法が実施されている。
前記MgOやSrTiO3の単結晶基板を用いてスパッタリングなどの成膜法 を行なえば、酸化物超電導層の結晶が単結晶基板の結晶を基に結晶成長するために、その結晶配向性を良好にすることが可能であり、これらの単結晶基板上に形成された酸化物超電導層は、数10万A/cm2程度の十分に高い臨界電流密度 を発揮することが知られている。
【0005 】
【発明が解決しようとする課題】
ところで、酸化物超電導体を導電体として使用するためには、テープ状などの長尺の基材上に結晶配向性の良好な酸化物超電導層を形成する必要がある。ところが、金属テープなどの基材上に酸化物超電導層を直接形成すると、金属テープ自体が多結晶体でその結晶構造も酸化物超電導体と大きく異なるために、結晶配向性の良好な酸化物超電導層は到底形成できないものである。
【0006 】
そこで本発明者らは、図10に示すような、基材1上にイットリウム安定化ジルコニア(以下、YSZと略称する)からなる多結晶薄膜2を形成し、この多結晶薄膜2上に酸化物超電導層3を形成することで、超電導特性の優れた酸化物超電導導体4を製造する試みを種々行っている。
そして、このような試みの中から本発明者らは先に、特開平4−329865号(特願平3−126836号)、特開平4−331795号(特願平3−126837号)、特開平4−90025号(特願平2−205551号)、特開平6−39368号(特願平4−13443号)、特開平6−145977号(特願平4−293464号)などにおいて、結晶配向性に優れた多結晶薄膜、およびそれを利用した酸化物超電導導体の特許出願を行っている。
【0007 】
これらの特許出願に記載された技術は、基材上にYSZの粒子を堆積させる際に、基材の斜め方向からイオンビームを照射すると、結晶配向性に優れた多結晶薄膜を形成することができるものである。
また、前記の特許出願に並行して本発明者らは、長尺または大面積の多結晶薄膜および酸化物超電導導体を製造するための研究を行なっているが、結晶配向性において更に優れた多結晶薄膜を製造する方法、および、多結晶薄膜上に超電導層を形成した場合に従来よりも更に優れた超電導特性を得ることを課題として研究を進めている。
【0008 】
このような酸化物超伝導体4における酸化物超電導層3の形成は、スパッタリング等の成膜法により形成される。
通常、このような成膜法においては、結晶性の良好な薄膜を得るために、成膜雰囲気を高温度、たとえば、700〜800℃前後に保ちながら成膜されることある。また、酸化物超電導層3の形成後に、高温における酸化処理を施して、成膜を完了する場合もある。
しかしながら、YSZからなる多結晶薄膜2を、このような高温域で加熱処理をする場合には、YSZは、高温(特に、700℃以上長時間)における化学反応安定性が比較的低いことから、基材1あるいは酸化物超電導層3との界面において、YSZが化学反応を起こし、このために、酸化物超電導層3の結晶構造が乱れ、結果、酸化物超電導導体の超電導特性が劣化するという問題が生じてしまう場合が考えられる。
【0009 】
本発明はこのような背景に基づき、前記特許出願の技術を発展させるとともに、前記課題を有効に解決するためになされたもので、基材の成膜面に対して直角向きに結晶軸のc軸を配向させることができると同時に、成膜面と平行な面に沿って結晶粒の結晶軸のa軸およびb軸をも揃えることができ、結晶配向性に優れた多結晶薄膜、特に、化学反応安定性が高く、高温等の加熱処理においても、結晶配向性が乱れることのない安定な多結晶薄膜を得、優れた臨界電流密度の高い酸化物超電導層を備えた酸化物超電導導体を提供することを目的とする。
【0010】
【課題を解決するための手段】
本発明は前記課題を解決するために、第1の発明においては、多結晶体からなる金属基材上に形成された多数の結晶粒が結晶粒界を介して結合されてなる酸化ハフニウムの多結晶薄膜であって、基材の成膜面と平行な面に沿う多結晶粒の同一結晶軸が構成する粒界傾角が、30度以下に形成されてなる多結晶薄膜であり、酸化ハフニウムを主構成成分とするターゲットから発生させた粒子を、多結晶体の金属からなる基材上に堆積させ、この基材上にターゲットの構成元素からなる多結晶薄膜を形成する際に、イオンソースから発生させたイオンビームを基材の成膜面の法線に対して50〜60度の入斜角度で斜め方向から照射しながら、前記粒子を基材上に堆積させて成膜したものである多結晶薄膜を提供する。
第2の発明においては、上記酸化ハフニウムの3〜15mol%が、希土類元素に置換されてなる第1の発明に記載の多結晶薄膜を提供する。
【0011】
第3の発明においては、ターゲットから発生させた粒子を、多結晶体の金属からなる基材上に堆積させ、この基材上にターゲットの構成元素からなり、多数の結晶粒が結晶粒界を介して結合されてなり、基材の成膜面と平行な面に沿う多結晶粒の同一結晶軸が構成する粒界傾角が、30度以下に形成されてなる多結晶薄膜を形成する方法において、前記ターゲットとして、酸化ハフニウムを主構成成分とする結晶体を用い、このターゲットの構成粒子を基材上に堆積させる際に、イオンソースから発生させたイオンビームを基材の成膜面の法線に対して50〜60度の入斜角度で斜め方向から照射しながら、前記粒子を基材上に堆積させて成膜する多結晶薄膜の製造方法を提供する。
第4の発明においては、第3の発明において、上記ターゲットが、酸化ハフニウムと、希土類酸化物との焼結体からなり、上記焼結体における酸化ハフニウムと希土類酸化物の混合比を酸化ハフニウムに対して希土類酸化物3〜15mol%の範囲とする。
【0012】
そして、第5の発明においては、多結晶体からなるテープ状の金属基材上に多数の結晶粒が結合されてなる多結晶薄膜が形成され、この多結晶薄膜上に酸化物超電導体からなる酸化超電導層が形成されてなる酸化物超電導導体であって、上記多結晶薄膜が、第1または第2の発明の多結晶薄膜である酸化物超電導導体を提供する。
また、第6の発明においては、テープ状の多結晶体の金属からなる基材上に多数の結晶粒が結合されてなる多結晶薄膜が形成され、この多結晶薄膜上に酸化物超電導体からなる酸化超電導層が形成されてなる酸化物超電導導体の製造方法であって、上記多結晶薄膜として第1または第2の発明に記載の多結晶薄膜を用いることを特徴とする。
【0013 】
【発明の実施の形態】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。
図1は本発明の酸化ハフニウム(HfO2)からなる多結晶薄膜を、多結晶体からなる金属基材上に形成したもの一構造例を示すものであり、図1において、Aはテープ状の基材、Bは基材Aの上面に形成された多結晶薄膜を示している。前記基材Aは、この例ではテープ状のものを用いているが、例えば、板材、線材、条体などの種々の形状のものを用いることができ、基材Aは、銀、白金、ステンレス鋼、銅、ハステロイ等のニッケル合金などの各種金属材料などからなるものである。
【0014 】
前記多結晶薄膜Bは、微細な結晶粒20が、多数、相互に結晶粒界を介して接合一体化されてなり、各結晶粒20の結晶軸のc軸は基材Aの上面(成膜面)に対して直角に向けられ、各結晶粒20の結晶軸のa軸どうしおよびb軸どうしは、互いに同一方向に向けられて面内配向されている。そして、各結晶粒20のa軸(またはb軸)どうしは、それらのなす角度(図2に示す粒界傾角K)を35度以内にして接合一体化されている。
【0015】
上記結晶粒20は、その主構成成分がHfO2であり、この酸化物結晶中の一部のHfが、希土類元素に置換されてなるものであることが好ましい。前記希土類元素としては、スカンジウム(Sc)、イットリウム(Y)、ランタン(La)、セリウム(Ce)、プラセオジム(Pr)、ネオジム(Nd)、プロメチウム(Pm)、サマリウム(Sm)、ユーロピウム(Eu)、ガドリニウム(Gd)、テルビウム(Td)、ジスプロシウム(Gy)、ホルミウム(Ho)、エルビウム(Er)、ツリウム(Tm)、イッテルビウム(Yb)、ルテチウム(Lu)が挙げられる。また、その置換度としては、3〜15mol%であることが望ましい。この範囲であれば、結晶配向性に優れた多結晶薄膜Bとなる。
【0016 】
このようなHfO2 からなる多結晶薄膜Bにおいては、反応安定性が高く、この多結晶薄膜Bを、高温にて加熱処理したとしても、その結晶配向性が崩れることがなく安定している。よって、この多結晶薄膜B上には、配向結晶性に優れた酸化物超電導導体層を形成することができ、超伝導体特性に優れた超電導導体を得ることができる。
また、そのHfO2 の結晶中のHfの一部が希土類元素により置換されているものであれば、よりHfO2 の結晶粒20の面内配向が良好となり、結晶配向性に優れた多結晶薄膜Bとなる。これは、HfO2 の結晶が、単斜晶であるため、これ単独では結晶配向性を制御するのに、各条件を設定するのが難しいが、その一部が希土類元素に置換されることによって、その結晶構造が立方晶系の構造となり、以下に説明する製造方法による結晶配向制御が容易となるためであると考えられる。
【0017 】
次に、上記多結晶薄膜Bの製造方法について説明する。
図3は、本発明の多結晶薄膜の製造方法の実施に好適に用いられる多結晶薄膜の製造装置の一例を示す図である。
この例の多結晶薄膜Bの製造装置は、テープ状の基材Aを支持するとともに所望温度に加熱または冷却することができるブロック状の基材ホルダ23と、基材ホルダ23上にテープ状の基材Aを送り出すための基材送出ボビン(送出装置)24と、多結晶薄膜Bが形成されたテープ状の基材Aを巻き取るための基材巻取ボビン(巻取装置)25と、前記基材ホルダ23の斜め上方に所定間隔をもって対向配置された板状のターゲット36と、このターゲット36の斜め上方においてターゲット36の下面に向けて配置されたスパッタビーム照射装置(スパッタ手段)38と、前記基材ホルダ23の側方に所定間隔をもって対向され、かつ、前記ターゲット36と離間して配置されたイオンソース39と、冷却装置Rが、真空排気可能な真空チャンバ(成膜処理容器)40に設けられた構成とされている。
【0018 】
前記基材ホルダ23は、通電により抵抗発熱する金属線等からなる加熱ヒータ23aを内蔵して構成され、基材ホルダ23の上に送り出されたテープ状の基材Aを必要に応じて所望の温度に加熱できるようになっている。このような基材ホルダ23は、成膜処理容器40内のイオンソース39から照射されるイオンビームの最適照射領域に配設されている。また、この基材ホルダ23が側面三角型の基台60に装着されて設けられ、この基台60が成膜処理容器40の外壁40aを貫通して設けられた冷媒導入管61により成膜処理容器40の中央部に支持され、基台60と冷媒導入管61を主体として冷却装置Rが構成されている。
【0019 】
この形態の基台60は、図5に示すように断面三角型の中空の金属ブロック製とされ、その上面60aは後述するイオンビームの基材に対する入射角度を50〜60度の範囲にできるように傾斜面とされている。また、基台60の背面60bに冷媒導入管61が接続されるとともに、冷媒導入管61は、内部の往管62とその外部を覆う戻管63とからなる2重構造とされていて、往管62と戻管63がいずれもチャンバ内部で基台60の内部空間に連通されているとともに、これらがいずれもほぼ水平に延出されて成膜処理容器40の外壁40aを貫通して外部に導出され、外部において両管が上方に湾曲されているとともに、往管62の先端部に戻管63の先端部よりも若干上方に突出した注入部64が形成されていて、更に注入部64に漏斗状の注入部材65が装着されて構成されている。
【0020】
そして、往管62の基台60側の先端部と戻管63の基台60側の先端部はいずれも基台60の背面60bの接続孔に気密に接合されているので、成膜処理容器40の内部を減圧した場合においても基台60の内部を成膜処理容器外部の大気圧状態とすることができ、前述の注入部材65の内部に液体窒素などの液体冷媒、あるいは冷却空気などの気体冷媒等を送り込み、基台60の内部を冷媒で満たすことができるように構成されている。
【0021 】
また、往管62と戻管63を設けたのは、往管62のみで冷媒導入管61を構成すると注入部材65に液体窒素を投入して往管62から基台60に液体窒素を送入しようとしても、先に送入している液体窒素または蒸発した窒素ガスが基台60の内部に滞留し、新たな液体窒素を基台60に供給できなくなることを防止するためである。この点において戻管63を設けてあるならば、基台60内に滞留している古い液体窒素や気化した窒素ガスを戻管63を介して大気中に排出することが容易にできるので、基台60に常に新鮮な液体窒素を供給して基台60を十分に冷却することができ、冷却能力を高めることができる。更に、往管62の外部を戻管63で覆う2重構造を採用するならば、戻管63を通過している冷媒や窒素ガスで往管62を覆うことができる構成であるので、戻管63の内部の冷媒で往管62を冷却することができ、往管62の内部において冷媒の温度を不要に高めてしまうことを防止できる。
【0022 】
更に、冷媒供給管61はフランジ板66を貫通して設けられ、このフランジ板66は成膜処理容器40の外壁40aに形成された取付孔40bを塞いで外壁40aにネジ止め等の固定手段により着脱自在に固定されている。また、前記フランジ板66には、基台60の温度計測用の温度計測装置67が冷媒供給管61に隣接するように装着され、この温度計測装置67に接続された温度センサ68により基材ホルダ23の温度を計測できるように構成されている。即ち、基台60の上面60a上に図5の2点鎖線の如く基材ホルダ23をセットした場合にこの温度センサ68を基材ホルダ23に接触させておくことで基材ホルダ23の温度を計測できるように構成されている。
【0023 】
以上のことから、前記加熱ヒータ23aにより常温よりも高い温度に基材ホルダ23を加熱して基材Aを加熱するか、基台60により基材Aを冷却することにより、基材Aを所望の温度、例えば+500℃〜−196℃の範囲の温度に調節できるように構成されている。即ち、ヒータ加熱により、常温〜500℃程度までは容易に加熱調整することができ、更に、ヒータを停止して冷却用の媒体として液体窒素などの冷媒を用いて上述の冷却装置により77K(約−196℃)程度まで容易に冷却することができる。
【0024 】
なお、ここで用いる冷却装置Rは図5に示す構成のものに限らないので、クーラー等の通常の冷却装置に用いられるフロン等のフッ素系ガスやアンモニアを用いた冷却装置で−30℃程度に冷却できる装置を設けても良いのは勿論である。また、成膜の際に基材Aにはターゲットからの高熱粒子の飛来により自然加熱されるので、例えば、常温で成膜して基材ホルダに一切加熱や冷却を行わない場合に基材Aは100℃程度に加熱されることになる。また、液体窒素で冷却しながら成膜する場合、基材Aを供給する基材ホルダ23の材質や厚さを調節することで、基台60から基材Aを冷却する能力を調整できる。例えば、薄く、熱伝導性に優れた基材ホルダ23を用い、冷媒導入管61からの液体窒素の供給量を充分に確保した場合は成膜時の発熱を差し引いても−150℃程度まで容易に冷却することができ、逆に基材ホルダ23を厚い金属材料で形成することで基台60からの冷却能力を低く抑えることができ、このようにした場合に液体窒素冷媒を用いても基材Aの温度を、−150〜−50℃程度まで容易に調整することができる。
【0025 】
この例の多結晶薄膜Bの製造装置においては、前記基材送出ボビン24から基材ホルダ23上にテープ状の基材Aを連続的に送り出し、前記最適照射領域を通過させた後に基材Aを基材巻取ボビン25で巻き取ることで基材A上に多結晶薄膜Bを連続成膜することができるようになっている。
【0026 】
前記ターゲット36は、目的とする多結晶薄膜Bを形成するためのものであり、目的の組成の多結晶薄膜Bと同一組成あるいは近似組成のものなどを用いることができる。このようなターゲット36は、ピン等によりターゲット支持体36aに回動自在に取り付けられており、傾斜角度を調整できるようになっている。前記スパッタビーム照射装置(スパッタ手段)38は、容器の内部に、ガスを導入し、引き出し電圧をかけるためのグリッドを備えて構成されているものであり、ターゲット36に対してイオンビームを照射してターゲット36の構成粒子を基材Aに向けて叩き出すことができるものである。
【0027 】
前記イオンソース39は、スパッタビーム照射装置38と略同様の構成のものであり、引き出し電圧をかけるためのグリッドを備えて構成されている。そして、前記蒸発源から発生した原子または分子の一部をイオン化し、そのイオン化した粒子をグリッドで発生させた電界で制御してイオンビームとして照射する装置である。粒子をイオン化するには直流放電方式、高周波励起方式、フィラメント式などの種々のものがある。フィラメント式はタングステン製のフィラメントに通電加熱して熱電子を発生させ、高真空中でガス粒子と衝突させてイオン化する方法である。
【0028 】
この形態の多結晶薄膜の製造装置においては、図4に示す構成の内部構造のイオンソース39を用いる。このイオンソース39は、筒状のイオン室45の内部にグリッド46とフィラメント47とArガスなどの導入管48とを備えて構成され、イオン室45の先端のビーム口49からイオンをビーム状に略平行に放射できるものである。このイオンソース39の設置位置は、変更できるようになっており、また、ビーム口49の口径dも変更できるようになっている。
【0029 】
前記イオンソース39は、図3に示すようにその中心軸線Sを基材Aの成膜面に対して入射角度θ(基材Aの垂線(法線)Hと中心線Sとのなす角度)でもって傾斜させて対向されている。従ってイオンソース39は、基材Aの成膜面の法線Hに対してある入射角度θでもってイオンビームを照射できるように配置されている。
【0030】
また、前記イオンソース39は、これから放射されるイオンビームの広がり角度Δθが下記式(I)
Δθ≦2tan-1(d/2L) ・・・(I)
(式中、Δθはイオンビームの広がり角度、dはイオンソース39のビーム口径(cm)、Lはイオンソース39のビーム口49と基材Aとの距離であるイオンビームの搬送距離(cm)を表す。)により計算できるため、目的とする多結晶薄膜Bの結晶配向性に応じてイオンビームの搬送距離Lとビーム口径dが設定されている。このイオンビームの広がり角度Δθは5度以下が好ましく、より好ましくは3度以下の範囲である。例えば、L=40cmの場合、d≦3.49cm とすればΔθ≦5゜に制御することができ、d≦2.09cmとすれば、Δθ≦3 ゜に制御することができる。
【0031】
また、前記成膜処理容器40には、この成膜処理容器40内を真空などの低圧状態にするためのロータリーポンプ51およびクライオポンプ52と、ガスボンベなどの雰囲気ガス供給源がそれぞれ接続されていて、成膜処理容器40の内部を真空などの低圧状態で、かつ、アルゴンガスあるいはその他の不活性ガス雰囲気または酸素を含む不活性ガス雰囲気にすることができるようになっている。
さらに、前記成膜処理容器40には、この成膜処理容器40内のイオンビームの電流密度を測定するための電流密度計測装置54と、前記容器40内の圧力を測定するための圧力計55が取り付けられている。
【0032】
なお、この形態の多結晶薄膜の製造装置において、イオンソース39の支持部分に角度調整機構を取り付けてイオンソース39の傾斜角度を調整し、イオンビームの入射角度を調整するようにしても良く、角度調整機構は種々の構成のものを採用することができるのは勿論である。また、イオンソース39の設置位置を変更することにより、イオンビームの搬送距離Lを変更できるようにしたが、基材ホルダ23の支持体23aの長さを調整できるようにして、イオンビームの搬送距離Lを変更できるようにしても良い。
【0033】
次に、前記構成の製造装置を用いてテープ状の基材A上に本発明の多結晶薄膜Bを形成する場合について説明する。
本実施形態における多結晶薄膜Bの製造方法において使用するターゲット36としては、主構成成分がHfO2 である結晶体を用い、目的の多結晶薄膜に見合うものを適宜用いればよく、なかでも、HfO2 と希土類酸化物との焼結体であるものを用いることが好ましい。
【0034】
このような焼結体は、HfO2からなる粉末と、希土類酸化物からなる粉末とを混ぜ合わせ、焼結して一体化することにより得ることができる。このときの焼結体における、HfO2と希土類酸化物との混合比は、HfO2に対して希土類酸化物が、3〜15mol%程度となるようにされることが好ましい。この場合、混合比が3mol%未満であると、多結晶薄膜Bを形成する際に、HfO2の結晶配向性が整わず、15mol%を超えると、目的とする結晶構造が得られず、不都合となる。
【0035】
また上記希土類酸化物としては、Sc2O3、Y2O3、La2O3、Ce2O3、Pr2O3、Nd2O3、Pm2O3、Sm2O3、Eu2O3、Gd2O3、Td2O3、Gy2O3、Ho2O3、Er2O3、Tm2O3、Yb2O3、Lu2O3が挙げられ、この中でもYb2O3、Y2O3等が好適に用いられる。
【0036】
このようなターゲット36を設置し、ついで、基材Aを収納している成膜処理容器40の内部を真空引きして減圧雰囲気とするとともに、基材送出ボビン24から基材ホルダ23に基材Aを所定の速度で送り出し、さらにイオンソース39とスパッタビーム照射装置38を作動させる。そして、スパッタビーム照射装置38からターゲット36に対してイオンビームを照射する。
このときのスパッタビーム装置38から照射するイオンビームとしては、例えば、He+、Ar+、Xe+、Kr+などの希ガスのイオンビーム、あるいは、これらのイオンと酸素イオンとの混合イオンビーム等が用いられる。
このように、イオンビームをターゲット36に照射すれば、ターゲット36の構成粒子がイオンビームによって叩き出されて基材A上に飛来して堆積する。そして、所望の厚みの多結晶薄膜Bを成膜し、成膜後のテープ状の基材Aを基材巻取ボビン25に巻き取る。
【0037】
そして、このときイオンソース39からイオンビームを、入射角度θが50〜60度の範囲となるように、より好ましくは55〜60度の範囲となるように、最も好ましくは55度となるように照射することとが好ましい。
ここでθを90度とすると、多結晶薄膜のc軸は基材A上の成膜面に対して直角に配向するものの、基材Aの成膜面上に(111)面が立つので好ましくない。 また、θを30度とすると、多結晶薄膜Bはc軸配向すらしなくなる。前記のような好ましい範囲の入射角度でイオンビーム照射するならば多結晶薄膜Bの結晶の(100)面が立つようになる。このような入射角度でイオンビーム照射を行ないながらスパッタリングを行なうことで、基材A上に形成されるHfO2の多結晶薄膜の結晶軸のa軸どうしおよびb軸どうしは互いに同一方向に向けられて基材Aの上面(成膜面)と平行な面に沿って面内配向する。
なお、イオンビームの入射角度の調整は、基台60の上面60aの傾斜角度の異なるものを複数用意しておき、適宜所望角度のものを交換してから成膜処理を行うことで実現できる。
【0038】
このイオンソース39から照射するイオンビームには、He+、Ar+、Xe+、Kr+などの希ガスのイオンビーム、あるいは、これらのイオンと酸素イオンとの混合イオンビーム等が用いられる。
【0039】
また、基材ホルダ23に付設した加熱ヒータあるいは冷却装置Rを作動させて基材ホルダ23に接する基材Aの温度を300℃以下の所望の温度に調節することが好ましい。300℃以下に成膜温度を設定する場合、常温において基材Aを基材ホルダ23で特に加熱しない場合の基材温度を示す100℃以下の温度範囲が好ましく、冷媒として安価に多用できる液体窒素により容易に冷却できる−150℃以上の温度範囲がより好ましい設定温度となる。
【0040】
ところで、液体窒素を注入部材65に投入し、ここから往管62を介して基台60の内部空間に液体窒素を満たす場合に、堆積する粒子による加熱状態あるいは成膜処理容器40に設けた他の装置からの熱輻射等により、液体窒素を用いてできるだけ薄い基材ホルダを採用しても基材Aの温度は−150℃程度に冷却することが限界であるので、これ以上低温に冷却する場合は、液体ヘリウム等の他の冷媒を用いることになる。
【0041】
この実施形態の多結晶薄膜Bの製造方法にあっては、ターゲット36として、HfO2 と希土類酸化物との焼結体を用い、このターゲット36の構成粒子をスパッタリングにより叩き出して基材A上に堆積させる際に、イオンソース39から発生させたイオンビームを基材Aの成膜面の法線Hに対して入射角度50〜60度で照射しつつ堆積させるので、粒界傾角が35〜8度程度に精度良く揃えられた結晶配向性の良好な多結晶薄膜Bを製造することができる。
【0042】
図6は、本発明の酸化物超伝導導体の一例を示したものである。この酸化物超電導導体22は、前述のようにして形成された多結晶薄膜B上にスパッタリングやレーザ蒸着法などの成膜法により酸化物超電導層Cを積層することにより得ることができる。
この酸化物超電導層Cは、多結晶薄膜Bの上面に被覆されたものであり、その結晶粒23のc軸は多結晶薄膜Bの上面に対して直角に配向され、その結晶粒23…のa軸とb軸は先に説明した多結晶薄膜Bと同様に基材上面と平行な面に沿って面内配向し、結晶粒23どうしが形成する粒界傾角が小さな値に形成されている。
【0043】
この酸化物超電導層Cを構成する酸化物超電導体は、Y1 Ba2 Cu 3O7-x、Y2Ba4 Cu8Oy、Y3Ba3 Cu6Oyなる組成、あるいは(Bi,Pb)2Ca 2Sr2C u3Oy、(Bi,Pb)2Ca2Sr3Cu4Oyなる組成、あるいは、Tl2 Ba2Ca2Cu3Oy、Tl1Ba2Ca2Cu3Oy、Tl1Ba2Ca3Cu4Oyなる組成な どに代表される臨界温度の高い酸化物超電導体である。
【0044】
ここで前述のようにして粒界傾角が35〜8度程度に精度良く揃えられた多結晶薄膜B上にスパッタリングやレーザ蒸着法などの成膜法により酸化物超電導層Cを形成するならば、この多結晶薄膜B上に積層される酸化物超電導層Cも多結晶薄膜Bの配向性に整合するようにエピタキシャル成長して結晶化する。
よって前記多結晶薄膜B上に形成された酸化物超電導層Cは、結晶配向性に乱れが殆どなく、この酸化物超電導層Cを構成する結晶粒の1つ1つにおいては、基材Aの厚さ方向に電気を流しにくいc軸が配向し、基材Aの長さ方向にa軸どうしあるいはb軸どうしが配向している。従って得られた酸化物超電導層Cは、結晶粒界における量子的結合性に優れ、結晶粒界における超電導特性の劣化が殆どないので、基材Aの長さ方向に電気を流し易くなり、MgOやSrTO3の単 結晶基板上に形成して得られる酸化物超電導層と同じ程度の十分に高い臨界電流密度が得られる。
【0045】
また、このような酸化物超電導導体22においては、中間層として形成された多結晶薄膜Bが、HfO2からなるものであるので、高温における加熱処理においても、基材Aおよび酸化物超電導層Cと、多結晶薄膜Bとの界面で化学反応による結晶配向性の乱れが生じるということがなく、安定したものとすることができる。
【0046】
以上説明の如く、多結晶薄膜BをHfO2 により構成することにより、結晶配向性に優れ、臨界電流特性に優れた酸化物超電導導体22を得ることができる。また、この例で得られる酸化物超電導導体はフレキシブル性に優れた長尺のテープ状とすることが容易であり、超電導マグネットの巻線等への応用が期待できる。
【0047】
なお、前述のHfO2 からなる多結晶薄膜Bの結晶配向性が整う要因として本発明らは、以下のことを想定している。
HfO2 の結晶構造は、それ単独では単斜晶であるが、その一部が希土類元素に置換されることにより、立方晶となる。これは、希土類元素が、Hfよりもイオン半径が大きく、この希土類元素が一部のHfに置き換わることにより、その酸化物の結晶構造が変化して立方晶になると考えられる。
【0048】
このような立方晶のHfO2 からなる多結晶薄膜Bの結晶格子においては、基板法線方向が<100>軸であり、他の<010>軸と<001>軸はいずれも他の方向となる。これらの方向に対し、基板法線に対して斜め方向から入射するイオンビームを考慮すると、単位格子の原点に対して単位格子の対角線方向、即ち<111>軸に沿って入射する場合に、基板法線に対する入射角度は、54 .7度となる。
【0049】
図9は、イオンビームの入射角度に応じて得られるHfO2 の多結晶薄膜Bの結晶配向性を示す半値全幅(FWHM)の値を示したものである。この図9によれば、FWHMの値は、イオンビームの入射角度が55〜60度の範囲で極小値を示す。
ここで前記のように入射角度50〜60度の範囲で良好な結晶配向性を示すことは、イオンビームの入射角度が前記54.7度と一致するかその前後になった 場合、イオンチャンネリングが最も効果的に起こり、基材A上に堆積している結晶において、基材Aの上面で前記角度に一致する配置関係になった原子のみが選択的に残り易くなり、その他の乱れた原子配列のものはイオンビームのスパッタ効果によりスパッタされて除去される結果、配向性の良好な原子の集合した結晶のみが選択的に残って堆積してゆくものと推定している。
【0050】
なおこの際に、イオンビーム のHfO2の多結晶薄膜Bに対する照射効果として、基材Aに垂直 にHfO2の(100)面を立てる効果と面内方位を整える効果の2つを奏するが、本発明者としては、基材に垂直に正確に(100)面を立てる効果が主要であるものと推定している。それは、基材Aに垂直にHfO2の(100)を立てる効果が不十分であると、必然的に面内配向性も乱れるためである。
【0051】
次に、イオンビームを成膜面の法線に対して50〜60度の入射角度で照射しながら成膜する場合に温度制御を行うと多結晶薄膜Bの粒界傾角Kの値が良好になる理由、換言すると、多結晶薄膜Bの結晶配向性が良好になる理由について本願発明者は以下のように推定している。
通常のスパッタ、レーザ蒸着等の成膜法において結晶性の良好な薄膜を得るためには、成膜雰囲気を高温度、例えば400〜600℃程度、あるいはそれ以上の温度に加熱しながら成膜することが常識的な知見である。このような高温度に加熱しつつ成膜することで一般的に結晶性の高い膜を得ていることは、成膜温度と結晶化との間に密接な関係が存在することを意味し、薄膜の製造分野において成膜温度が低い場合はアモルファス性に富む膜が生成し易いものと理解されている。
【0052】
しかしながら、本願発明に係る技術であるイオンビーム照射に伴う成膜技術を用いる場合は、イオンビームにより結晶を整える効果が極めて大きいために、成膜温度は逆にできるだけ低い温度が好ましい。これは、低い温度の方が結晶を構成する原子の運動や振動がそれだけ少なくなり、イオンビーム照射に伴う結晶を揃える効果がより効果的に発揮される結果として、結晶配向性に優れた多結晶薄膜Bが生成し易くなるものと推定している。
【0053】
即ち、本発明の技術によれば、低温になるほど[100]軸が安定した多結晶薄膜Bを得ることができ、それに伴って[111]軸の角度が一意的に決まること、および、結晶を構成する原子の熱振動によりディチャネリング(dechanneeling) が起こらなくなり、[111]軸に沿ったイオンの衝突断面積が減少して効果的な配向制御が可能になることによって結晶配向性が良くなるものと思われる。なお、成膜温度が低温になるほど結晶配向性の高い多結晶薄膜Bを得ることができ、100℃以下の温度で多結晶薄膜Bを成膜した場合により優れた結晶配向性の多結晶薄膜Bが得られるという事実は、一般の成膜技術において高温度に加熱しながら成膜しなくては結晶性の高い膜を得ることが難しいという知見とは相反するものであり、この点においてイオンビームを斜めから照射しながら成膜する技術の特異性を知ることができる。
【0054】
また、本発明者らは、上述の理由に加えて、HfO2 により多結晶薄膜を構成することにより結晶配向性に優れたものが得られる理由として、次のようなことを推測している。
スパッタリングによる成膜方法において、イオン照射されながら膜が形成されていく場合、照射されるイオンビームによって、結晶構造が破壊される可能性がある。このために、通常前記イオンビームの照射エネルギーを300eV程度に抑えて照射している。
このようなイオンビームによる結晶破壊は、膜を形成する結晶のボンディングの強さに関係すると考えられる。すなわち、結晶のボンディングが弱いものほど、結晶が破壊されやすく、結果、形成される多結晶薄膜の結晶配向性が乱れる可能性がある。
【0055】
HfO2 のような酸化物材料における結晶は、通常、イオン結晶とみなせるため、ボンディングの強さは正負のイオンエネルギーの総和とみなすことができ、その値は、格子エネルギーと呼ばれ、おおよその値を算出することができる。
実際に、算出したものを下記表1に参考までに示す。この表1に示す値は、
Born-harber cycleを用いたものであり、化学便覧 基礎編 日本化学会編纂を参考にしたものである。また、算出の際の酸素の2電子親和力については、マーデリング常数から計算したMgOの格子エネルギー値から換算した値を用いた。(2e-+O→O2- −649.6kJ/mol)
【0056】
【表1】
【0057】
この結果から、HfO2 のボンディングの強さは、他の似た構造の酸化物よりも高いことがわかる。
よって、HfO2 からなる多結晶薄膜においては、その製造時に、イオンビームの照射によル結晶の破壊が少なく、イオンビームによる結晶配向性制御効果を大きくすることができるので、結晶配向性が良好となると考えられる。
【0058】
【実施例】
以下、本発明における実施例を示す。
図3〜図5に示す構成の装置を使用し、イオンビーム照射を伴うスパッタリングを行って、HfO2の多結晶薄膜を金属テープ上に成膜した。
図3に示す装置を収納した真空容器内を真空ポンプで真空引きして3 .0×10-4Torrに減圧するとともに、真空容器内にAr+O2 のガスをArにおいては16.0sccm、O2ガスにおいては、8.0sccmの割合で供給した。
基材として、表面を鏡面加工した幅10mm、厚さ0.5mm、長さ数mのハ ステロイC276テープを使用した。ターゲットは、HfO2とYb2O3 とを、Yb2O3がHfO2に対して15mol%となるように混合した焼結体を用いた。そして、Ar+イオンをイオンガンからターゲットに照射してスパッタ するとともに、イオンガンからのイオンビームの入射角度を基材ホルダ上の基材テープの成膜面の法線に対して入射角55度に設定し、Ar+ のイオンビームのエネルギーを300eV、イオン電流密度を200μA/cm2に設定して 基材上にレーザ蒸着と同時にイオンビーム照射を行ない、基材テープを基材ホルダに沿って一定速度で移動させながら基材テープ上に厚さ1100nmのHfO2 からなる多結晶薄膜を形成した。
なお、前記の成膜の際に、基材ホルダの加熱ヒータを作動させ、成膜時の基材および多結晶薄膜の温度を300℃にそれぞれ制御した。
【0059】
得られた各試料におけるX線による(111)極点図を求めた結果を図8に示す。図8に示す結果から、形成したHfO2 からなる多結晶薄膜の配向性が優れた状態([100]配向状態)であることを確認することができた。
【0060】
次に、前記のようにc軸配向された試料において、HfO2 多結晶薄膜のa軸あるいはb軸が配向しているか否かを測定した。
その測定のためには、図7に示すように、基材A上に形成されたYSZの多結晶薄膜にX線を角度θで照射するとともに、入射X線を含む鉛直面において、入射X線に対して2θ(58.7度) の角度の位置にX線カウンター58を設置し、入射X線を含む鉛直面に対する水平角度φの値を適宜変更して、即ち、基材Aを図7において矢印に示すように回転角φだけ回転させることにより得られる回折強さを測定することにより多結晶薄膜Bのa軸どうしまたはb軸どうしの配向性を計測した。
【0061】
さらに、得られたHfO2 の多結晶薄膜の各結晶粒における結晶配向性を試験した。この試験では図7を基に先に説明した方法でX線回折を行なう場合、φの角度を−20度〜20度まで1度刻みの値に設定した際の回折ピークを測定した。そして、そのピーク値が±何度の範囲で現れ、±何度の範囲では消失しているか否かにより面内配向性を求めた。
【0062】
更にこれらの多結晶薄膜上にイオンビームスパッタ装置を用いて酸化物超電導層を形成した。ターゲットとして、Y0.7Ba1.7Cu3.0O7-xなる組成の酸化物超電導体からなるターゲットを用いた。また、蒸着処理室の内部を1×10-6トールに減圧し、スパッタリングを行なった。その後、400゜Cで60分間、酸素雰囲気中において熱処理した。得られた酸化物超電導テープ導体は、幅10. 0mm、長さ1mのものである。
この酸化物超電導テープ導体を液体窒素により冷却し、中央部の幅10mm、長さ10mmの部分について4端子法により臨界温度と臨界電流密度の測定を行なった結果を求めた。
【0063】
この結果、上記HfO2 の多結晶薄膜における面内配向性は、28°であり、得られた酸化物超電導層HfO2の臨界電流密度は、2.0×105A/cm2であった。
このように、HfO2 からなる多結晶薄膜の結晶配向性も良好になり、この多結晶薄膜を中間層に用いた酸化物超電導導体においては、臨界電流密度も高いものが得られた。
【0064】
【発明の効果】
以上説明したように、請求項1の発明によれば、多結晶体からなる金属基材上に形成された多数の結晶粒が結晶粒界を介して結合されてなるHfO2の多結晶薄膜であって、基材の成膜面と平行な面に沿う多結晶粒の同一結晶軸が構成する粒界傾角が、30度以下に形成されてなるものであるので、基材の成膜面に対してc軸配向性に加えてa軸配向性とb軸配向性が良好で、粒界傾角35度以下の結晶配向性に優れ、また反応安定性に優れ、例えば、高温における加熱処理にもその界面が結晶配向性が乱れることのない、安定な多結晶薄膜を得ることができる。更に、請求項1記載の発明は、酸化ハフニウムを主構成成分とするターゲットから発生させた粒子を、多結晶体の金属からなる基材上に堆積させ、この基材上にターゲットの構成元素からなる多結晶薄膜を形成する際に、イオンソースから発生させたイオンビームを基材の成膜面の法線に対して50〜60度の入斜角度で斜め方向から照射しながら、前記粒子を基材上に堆積させて成膜したものであるので、イオンビームの入射角度が前記54 . 7度と一致するかその前後になった場合、イオンチャンネリングが最も効果的に起こり、基材上に堆積している結晶において、基材の上面で前記角度に一致する配置関係になった原子のみが選択的に残り易くなり、その他の乱れた原子配列のものはイオンビームのスパッタ効果によりスパッタされて除去される結果、配向性の良好な原子の集合した結晶のみが選択的に残って堆積してゆく。
従ってその成膜時にイオンビームの照射による結晶の破壊が少なく、イオンビームによる結晶配向性制御効果を大きくすることができるので、結晶配向性が良好な多結晶薄膜が得られる。
また、請求項2のHfO2の一部が希土類酸化物である多結晶薄膜によれば、より、結晶配向性に優れた多結晶薄膜を得ることができる。
【0065】
また、請求項3の多結晶薄膜の製造方法によれば、ターゲットから発生させた粒子を、多結晶体の金属からなる基材上に堆積させ、この基材上にターゲットの構成元素からなる多結晶薄膜を形成する方法において、前記ターゲットとして、HfO2を主構成成分とする結晶体を用い、このターゲットの構成粒子を基材上に堆積させる際に、イオンソースから発生させたイオンビームを基材の成膜面の法線に対して50〜60度の入斜角度で斜め方向から照射しながら、前記粒子を基材上に堆積させて上述の粒界傾角の多結晶薄膜を成膜するので、基材の成膜面に対してc軸配向性に加えてa軸配向性とb軸配向性をも向上させた粒界傾角35度以下の結晶配向性に優れ、かつ反応安定性に優れたHfO2の多結晶薄膜を確実に得ることができる。
【0066】
さらに、請求項4の多結晶薄膜の製造方法においては、請求項3の製造方法において、上記ターゲットが、酸化ハフニウムと、希土類酸化物との焼結体からなり、上記焼結体における酸化ハフニウムと希土類酸化物の混合比を酸化ハフニウムに対して希土類酸化物3〜15mol%の範囲とした焼結体からなるものを用いているので、成膜工程におけるHfO2の結晶配向制御が容易となり、より結晶配向性の優れたHfO2からなる多結晶薄膜を製造することができる。
【0067】
また、請求項5の酸化物超電導導体は、テープ基材上に、上記請求項1または2の結晶配向性の良好な多結晶薄膜が中間層として形成され、その上に酸化物超電導体からなる酸化超電導層が形成されてなる酸化物超電導導体であるので、結晶配向性の良好な酸化物超電導層を得ることができ、これにより臨界電流密度の高い超電導特性の良好な酸化物超電導導体を得ることができる。
更に、第6の発明においては、テープ基材上に、上記請求項1または2に記載の製造方法による結晶配向性の良好な多結晶薄膜を中間層として形成し、その上に酸化物超電導体からなる酸化超電導層が形成されてなる酸化物超電導導体であるので、結晶配向性の良好な酸化物超電導層を得ることができ、これにより臨界電流密度の高い超電導特性の良好な酸化物超電導導体を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明のHfO2の多結晶薄膜の一例を示す断面図である。
【図2】 図1に示すHfO2多結晶薄膜の結晶粒とその結晶軸方向および粒界傾角を示す拡大平面図である。
【図3】 本発明方法を実施して基材上に多結晶薄膜を製造するための装置の一例を示す構成図である。
【図4】 図3に示す装置に設けられるイオンガンの一例を示す断面図である。
【図5】 図3に示す装置に設けられる冷却装置の一例を示す断面図である。
【図6】 本発明の酸化物超電導導体の一例を示す断面図である。
【図7】 多結晶薄膜の結晶配向性を測定するためのX線装置の配置図である。
【図8】 実施例の多結晶薄膜の極点図である。
【図9】 イオンビームと入射角度と得られた多結晶薄膜の半値全幅との関係を示すグラフである。
【図10】 従来の多結晶薄膜の一例を示した断面図である。
【符号の説明】
A…基材、B…多結晶薄膜、C…酸化物超電導層、K…粒界傾角、θ…入射角度、φ…回転角、20、21…結晶粒、22…酸化物超電導導体、23…基材ホルダ、24・・・基材送出ボビン(送出装置)、25・・・基材巻取ボビン(巻取装置)、36…ターゲット、38…イオンガン、39・・・イオンソース、40…成膜処理 容器、R・・・冷却装置、60・・・基台、61・・・冷媒導入管、62・・・往管、63・・・戻管。
Claims (6)
- 多結晶体からなる金属基材上に形成された多数の結晶粒が結晶粒界を介して結合されてなる酸化ハフニウムの多結晶薄膜であって、基材の成膜面と平行な面に沿う多結晶粒の同一結晶軸が構成する粒界傾角が、30度以下に形成されてなる多結晶薄膜であり、
酸化ハフニウムを主構成成分とするターゲットから発生させた粒子を、多結晶体の金属からなる基材上に堆積させ、この基材上にターゲットの構成元素からなる多結晶薄膜を形成する際に、イオンソースから発生させたイオンビームを基材の成膜面の法線に対して50〜60度の入斜角度で斜め方向から照射しながら、前記粒子を基材上に堆積させて成膜したものであることを特徴とする多結晶薄膜。 - 上記酸化ハフニウムの3〜15mol%が、希土類元素に置換されてなることを特徴とする請求項1に記載の多結晶薄膜。
- ターゲットから発生させた粒子を、多結晶体の金属からなる基材上に堆積させ、この基材上にターゲットの構成元素からなり、多数の結晶粒が結晶粒界を介して結合されてなり、基材の成膜面と平行な面に沿う多結晶粒の同一結晶軸が構成する粒界傾角が、30度以下に形成されてなる多結晶薄膜を形成する方法において、前記ターゲットとして、酸化ハフニウムを主構成成分とする結晶体を用い、このターゲットの構成粒子を基材上に堆積させる際に、イオンソースから発生させたイオンビームを基材の成膜面の法線に対して50〜60度の入斜角度で斜め方向から照射しながら、前記粒子を基材上に堆積させて成膜することを特徴とする多結晶薄膜の製造方法。
- 上記ターゲットが、酸化ハフニウムと、希土類酸化物との焼結体からなり、上記焼結体における酸化ハフニウムと希土類酸化物の混合比を酸化ハフニウムに対して希土類酸化物3〜15mol%の範囲とすることを特徴とする請求項3に記載の多結晶薄膜の製造方法。
- テープ状の多結晶体の金属からなる基材上に多数の結晶粒が結合されてなる多結晶薄膜が形成され、この多結晶薄膜上に酸化物超電導体からなる酸化超電導層が形成されてなる酸化物超電導導体であって、上記多結晶薄膜が請求項1または2に記載の多結晶薄膜であることを特徴とする酸化物超電導導体。
- テープ状の多結晶体の金属からなる基材上に多数の結晶粒が結合されてなる多結晶薄膜が形成され、この多結晶薄膜上に酸化物超電導体からなる酸化超電導層が形成されてなる酸化物超電導導体の製造方法であって、上記多結晶薄膜として請求項1または2に記載の多結晶薄膜を用いることを特徴とする酸化物超電導導体の製造方法。
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