JP3901229B2 - 耐熱・潤滑性樹脂組成物 - Google Patents

耐熱・潤滑性樹脂組成物 Download PDF

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Description

【0001】
【産業上の利用分野】
この発明は、各種の摺動部材として用いられる耐熱・潤滑性樹脂組成物及び耐熱性滑り軸受に関し、特に電子写真装置の加熱定着装置にも適用可能な耐熱・潤滑性樹脂組成物及び耐熱性滑り軸受に関する。
【0002】
【従来の技術】
近年、合成樹脂製の滑り軸受の用途分野が拡大するにつれて、軸受の使用条件、特に高温雰囲気下において、良好な摩擦摩耗特性を発揮するような耐熱性のある合成樹脂製滑り軸受が強く要求されるようになってきた。
【0003】
また、軸受の摺動相手材として、アルミニウム合金等が使用された場合、軸受には使用中に比較的軟質の摺動相手材を傷つけない特性が要求される。
上記特性の要求される耐熱性の滑り軸受の具体例としては、複写機やレーザービームプリンタ等の加熱定着装置用の軸受が挙げられる。
【0004】
このような滑り軸受の一般的な使用状態を以下に説明する。
すなわち、帯電画像を用いて原画像の情報を記録物質たる転写材に伝達する機構を有する複写機またはレーザービームプリンタ等は、電子写真装置として総称されるが、装置内の加熱定着部には、図3に例示するように、転写材上にそのトナー像を加熱定着させる加熱ローラ10と、転写材を加熱ローラ10に押圧して回転駆動する加圧ローラ11が装着されている。
【0005】
前者の加熱ローラ10は、Mg含有のアルミニウム合金で形成されたものが多く、ヒータ12で約150〜230℃の温度に加熱される。後者の加圧ローラ11は、シリコーンゴム等で被覆された鉄材からなり、このものも加熱ローラ10からの伝熱によって約70〜150℃にまで加熱される。
【0006】
また、図4に示すものは、上記の加熱定着装置とは別の機構を有する定着装置であり、金属製加熱ローラに代えて、耐熱性合成樹脂フィルムに離型剤をコーティングした無端環状の定着フィルム15を用い、この定着フィルム15を介してセラミックヒータ16を加圧ローラ11に圧接して熱伝導効率を高めたものである。この場合、加圧ローラ11は、前記した金属製加熱ローラ10を用いた定着装置のものよりいっそう高温になる。
【0007】
このように高温状態で使用される各ローラの端部は、合成樹脂製の滑り軸受13、14(図4の装置では14に相当する軸受)で支持されるが、その材料としては、耐熱性が良く機械的強度の優れた熱可塑性合成樹脂であるポリフェニレンサルファイド(以下、PPSと略称する)樹脂が用いられる。この場合、PPS樹脂は自己潤滑性が乏しいため、たとえば黒鉛、四フッ化エチレン樹脂、潤滑油、金属酸化物、芳香族ポリアミド樹脂等の潤滑剤を添加した組成物を用いられることが多い。
【0008】
しかし、上記した従来のPPS樹脂系の耐熱・潤滑性組成物は、高温、高負荷条件の下では低摩擦係数を維持できず、耐摩耗性をも充分に発揮できないという問題点がある。
【0009】
また、PPS樹脂に対して、これより耐熱性のある合成樹脂粉末および四フッ化エチレン樹脂を添加した樹脂組成物も開発されている。代表例としては、芳香族ポリエステル樹脂を配合した組成物であり、特開昭57−167348号公報や特開昭63−175065号公報に開示されている。これらの組成物は、比較的低温では良好な耐摩耗性を示すものである。
【0010】
【発明が解決しようとする課題】
しかし、PPS樹脂に四フッ化エチレン樹脂および芳香族ポリエステル樹脂を均一に混合した組成物は、高温条件における摺動相手材がアルミニウム合金の場合に、これを傷つけると共に自らも摩耗するという問題点がある。
【0011】
なお、このような組成物に対して炭素繊維を配合すると、摺動相手材である軟質のアルミニウム合金製を損傷させ、その損傷にともなって摩擦・摩耗特性が悪化する恐れがある。
【0012】
また、摺動相手材として、Mgを含むアルミニウム合金に比べて硬質の合金であるMgおよびSiを含むアルミニウム合金が採用された摺動条件では、これに接触する前記樹脂組成物の低摩擦特性、耐摩耗性、摺動相手材の損傷性を全て満足させることは極めて困難であるという問題点もある。
【0013】
そこで、この発明の課題は、上記した問題点を解決し、耐熱・潤滑性樹脂組成物を、PPSを主要材料とする従来の組成物より優れた低摩擦特性、耐摩耗性およびアルミニウム合金等の軟質合金に対する非攻撃性を具備するものとし、さらにはMgを含むアルミニウム合金ばかりでなく、MgおよびSiを含むアルミニウム合金を摺動相手とした場合でも、上記良好な結果が得られる高性能の耐熱性滑り軸受に適用できるものとすることである。
【0014】
【課題を解決するための手段】
上記の課題を解決するため、この発明においては、ポリフェニレンサルファイド樹脂を主要成分として、フッ素樹脂5〜40容量%と、芳香族ポリエステル樹脂3〜25容量%、パラ系芳香族ポリアミド繊維2〜20容量%とを必須成分として添加した耐熱・潤滑性樹脂組成物としたのである。前記フッ素樹脂として、エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体またはテトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体を採用できる。または、前記フッ素樹脂が、ポリテトラフルオロエチレンおよびテトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体の混合物であってもよい。
【0015】
また、前記パラ系芳香族ポリアミド繊維としては、下記化3の式で表わされる反復単位を含むパラ系芳香族ポリアミド繊維を採用できる。
【0016】
【化3】
Figure 0003901229
【0017】
また、ポリフェニレンサルファイド樹脂を主要成分として、四フッ化エチレン樹脂18〜38容量%と、芳香族ポリエステル樹脂3〜25容量%、芳香族ポリアミド繊維2〜20容量%とを必須成分として添加した耐熱・潤滑性樹脂組成物としたのである。
【0018】
前記芳香族ポリエステル樹脂としては、下記化4の式で表わされる反復単位を含む樹脂を採用できる。
【0019】
【化4】
Figure 0003901229
【0020】
または、上記の耐熱・潤滑性樹脂組成物を成形して耐熱性滑り軸受としたのである。
【0021】
【作用】
この発明の耐熱・潤滑性樹脂組成物は、耐熱性に優れたPPS樹脂を主要成分としており、限界PV値の大きい芳香族ポリエステル樹脂を添加すると共に、摺動性に優れたフッ素樹脂を所定量添加しているので、所要の耐熱性、摺動性および機械的特性が備わる。また、PPS樹脂を主要成分としているので、射出成形が可能である。
【0022】
このような組成物に添加されるパラ系芳香族ポリアミド繊維は、繊維軸方向に分子鎖が配列しているので、軸方向に高弾性・高強度であるが、直角方向には分子間力が弱い。したがって、パラ系芳香族ポリアミド繊維は、軸方向の強度によって配合された樹脂組成物の耐摩耗性を向上させるが、直角方向に圧縮されると分子鎖が座屈し易いので、軟質の摺動相手材を損傷しないものと考えられる。
【0023】
また、パラ系以外の芳香族ポリアミド繊維を配合する場合は、四フッ化エチレン樹脂の所定量を含むフッ素樹脂を添加すれば、前記した組成物と同様に軟質の摺動相手材を損傷せず、耐摩耗性に優れたものとなる。
【0024】
【実施例】
この発明に用いるPPS樹脂としては、下記の一般式化5で示されるような種々の繰り返し単位からなる合成樹脂が挙げられる。
【0025】
【化5】
Figure 0003901229
【0026】
特に典型的なPPS樹脂は、下記の化6の式で示されるものであり、このものは米国フィリップス・ペトローリアム社から「ライトン」の商標で市販され、その製造方法は米国特許第3354129号(対応特許特公昭45−3368号)に、以下のように開示されている。
【0027】
ライトンは、N−メチルピロリドン溶媒中、160〜250℃、加圧条件下にp−ジクロルベンゼンと二硫化ソーダとを反応させることによって製造される。この場合、樹脂中に交差結合が全くないものから部分的交差結合を有するものに至るまで各種重合度のものを後熱処理工程にかけて自由に製造することができるので、目的の溶融ブレンドに適正な溶融粘度特性を有するものを任意に選択使用することが可能である。
【0028】
【化6】
Figure 0003901229
【0029】
なお、上記したライトン以外のPPS樹脂であって架橋構造をとらない直鎖状PPS樹脂を採用してもよい。
【0030】
次に、この発明に用いるフッ素樹脂としては、主鎖にフッ素原子を結合した炭素鎖を有する重合体、またはそのような重合体を含む共重合体であればよく、特定の化合物に限定することなく採用できる。すなわち、フッ素樹脂としては、ポリテトラフルオロエチレン(以下、PTFEと略称する)、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFAと略称する)、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEPと略称する)、エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体(ETFEと略称する)、テトラフルオロエチレン−フルオロアルキルビニルエーテル−フルオロオレフィン共重合合体(EPEと略称する)、ポリトリクロロフルオロエチレン、およびポリフッ化ビニリデン(PVDFと略称する)等が挙げられる。これらは、それぞれ単独もしくは混合物として用いてもよい。
【0031】
これらのフッ素樹脂のうち、PTFEを採用する場合は、これが成形用の粉末であっても、また、いわゆる固体潤滑剤用の微粉末であってもよいが、通常は両者を併用して好ましい結果を得ている。なお、後述する特定の市販品であるPTFE(ヘキスト社製:ホスタフロレ TF9205)は、単独で使用しても好ましい結果が得られる。
【0032】
その他のPTFEの市販品としては、三井・デュポンフロロケミカル社製:テフロン7J、TLP−10、旭硝子社製:フルオンG163、ダイキン工業社製:ポリフロンM15、ルブロンL5などを例示することができる。また、アルキルビニルエーテルで変性されたPTFEであってもよい。
【0033】
PFAとしては、三井・デュポンフロロケミカル社製:テフロンPFA−J、MP−10、ヘキスト社製:ホスタフロンTFA、ダイキン工業社製:ネオフロンPFAが挙げられる。
【0034】
FEPとしては、三井・デュポンフロロケミカル社製:テフロンFEP−J、ダイキン工業社製:ネオフロンNCが挙げられる。
【0035】
、ETFEとしては、三井・デュポンフロロケミカル社製:テフゼル、旭硝子社製:アフロンCOPが挙げられる。
【0036】
EPEとしては三井・デュポンフロロケミカル社製:テフロンEPE−J、などが挙げられる。
【0037】
PVDFとしては、呉羽化学工業社製;KFポリマー、アウジモント社製:HYLARなどを例示できる。
【0038】
次に、この発明に用いる芳香族ポリエステル樹脂は、前記した化4に示すポリオキシベンゾイルポリエステルの他、これを共重合成分として含む共重合体であってもよい。
【0039】
このような芳香族ポリエステル樹脂の製造方法は、特公昭46−6796号公報、特公昭47−47870号公報、特開昭54−46287号公報、特開昭54−46291号公報に開示されているように周知であり、化4に示すポリオキシベンゾイルポリエステルの市販品としては、住友化学工業社製:エコノールE101などが例示できる。
【0040】
また、この発明に用いるパラ系芳香族ポリアミド繊維は、前記した化3に示す反復単位を含む重合体からなり、下記化7に示すメタ系芳香族ポリアミド樹脂とは分子構造が異なるものである。パラ系芳香族ポリアミド繊維の市販品としては、デュポン・東レ・ケブラー社製:ケブラー、日本アラミド社製:トワロン、帝人社製:テクノーラが挙げられる。
【0041】
【化7】
Figure 0003901229
【0042】
パラ系以外の芳香族ポリアミド繊維(すなわち、メタ系の芳香族ポリアミド繊維)を使用する場合は、フッ素樹脂としてPTFEを採用し、その所定量を添加する。この場合は、その他のフッ素樹脂を併用することもできる。メタ系芳香族ポリアミド繊維の市販品としては、デュポン・東レ・ケブラー社製:ノーメックス、帝人社製:コーネックスが挙げられる。
【0043】
このような芳香族ポリアミド繊維の形態は、繊維長0.15〜3mm、アスペクト比10〜230のものを採用して好ましい結果を得ている。芳香族ポリアミド繊維が所定範囲未満の繊維長では、耐摩耗性が不充分となり、上記範囲を越える繊維長では組成物中の分散不良で好ましくない。また、上記範囲未満のアスペクト比では、粉末形状に近くなって耐摩耗性改善効果が不充分となり、上記範囲を越えるアスぺクト比では組成物中の均一分散が困難で好ましくない。
【0044】
この発明において、フッ素樹脂の量を5〜40容量%に限定する理由は、5容量%より少ないと潤滑特性が悪く、40容量%を越えると著しく成形性がそこなわれるからであり、このような傾向からみてより好ましい配合割合は、10〜35容量%である。
【0045】
また、PTFEの量を18〜38容量%に限定する理由は、18容量%より少ないとメタ系芳香族ポリアミド繊維を配合した組成物の潤滑特性が充分でなく、または摺動相手材によっては潤滑特性が悪くなり、38容量%を越えると著しく成形性がそこなわれるからであり、このような傾向からみてより好ましい配合割合は、20〜35容量%である。
【0046】
この発明において芳香族ポリエステル樹脂の量を3〜25容量%に限定する理由は、3容量%未満の少量では潤滑特性が悪く、25容量%をこえると溶融粘度が高くなって成形性が悪化したり、機械的強度が低下して好ましくないからであり、このような傾向からみてより好ましい配合割合は、3〜20容量%である。
【0047】
この発明に用いる芳香族ポリアミド繊維の配合割合を2〜20容量%に限定する理由は、この2容量%未満では潤滑性が悪く、20容量%を越えると耐摩耗性が悪化するからである。
【0048】
ここで、PPS樹脂に対して各種の添加物を添加混合する方法は、特に限定した方法ではなく、通常広く用いられているように、主成分となる樹脂を含む諸原料をそれぞれ個別にまたは一括して、ヘンシェルミキサー、ボールミル、タンブラーミキサー等の混合機によって乾式混合し、その後、溶融混合性のよい射出成形機もしくは溶融押出成形機に供給するか、または予め、熱ロール、ニーダ、バンバリーミキサー、溶融押出機などで溶融混合する方法を採用すればよい。
【0049】
さらに、この発明の組成物を成形する際には、圧縮成形、押出成形、射出成形等の通常の方法、または組成物を溶融混合した後、これをジェットミル、冷凍粉砕機等によって粉砕し、所望の粒径に分級し、または分級せずに、得られた粉末を用いた流動浸漬塗装、静電粉体塗装などを行なうことも可能である。得られた粉末を溶剤に分散させて、スプレー塗装または浸漬塗装を行なうこともできる。
【0050】
なお、この発明においてはPPS樹脂を主要成分とする潤滑性組成物に、各種の添加剤を配合してもよい。例えば、組成物の潤滑性をさらに改良するために、耐摩耗性の改良剤を配合する。
【0051】
耐摩耗性改良剤の具体例としては、カーボン、グラファイト、マイカ、タルク、ウォラストナイト、金属酸化物の粉末、硫酸カルシウムなどのウィスカ、二硫化モリブデン、リン酸塩、炭酸塩、ステアリン酸塩、溶融フッ素樹脂、超高分子量ポリエチレンなどを例示することができる。
【0052】
上記した材料から成形されるこの発明における耐熱性滑り軸受は、その形状を限定するものでなく、加熱・加圧ローラの形状や、周辺装置、ハウジングに合わせた形態をとればよい。例えば、図1に示すように、軸受は、単独材料で成形するのみならず二色成形の手法を採用し、軸受部1と固定用金属部2とからなる複合材としてもよい。
【0053】
また、図2に示すように、この発明の耐熱性滑り軸受は、軸受部3と、PPS、ポリアミドイミド(PAI)、ポリイミド(PI)等の耐熱性及び断熱性のある樹脂、またはこれに無機充填剤もしくは有機充填剤等を添加した樹脂部4とからなる二色成形された軸受であってもよい。このような軸受は、成形時のひずみを除いて高温使用時の寸法安定性を確保するため、100〜250℃で0.5〜24時間程度のアニール熱処理をしておくことが望ましい。
【0054】
この発明の実施例および比較例に用いた諸原材料を一括して示すと次の通りである。なお、各成分の配合割合は、全て容量%である。
【0055】
(1)PPS樹脂(東ソーサスティール社製:PPS#160)、
(2)PPS樹脂(クレハ化学社製 KPS−W205) 、
(3)四フッ化エチレン樹脂▲1▼(三井デュポン・フロロケミカル社製:テフロン7J、成形用)
(4)四フッ化エチレン樹脂▲2▼(喜多村社製:KTL610、潤滑用)
(5)四フッ化エチレン樹脂▲3▼(ヘキスト社製:ホスタフロレ TF9205、潤滑用)
(6)ETFE(旭硝子社製:アフロンCOP Z−8820)
(7)テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体〔FEP〕(ダイキン工業社製:ネオフロン NC−1500)
(8)ポリフッ化ビニリデン〔PVDF〕(アウジモント社製:HYLAR 301F)
(9)芳香族ポリエステル樹脂(住友化学工業社製:エコノールE101S2)
(10)パラ系芳香族ポリアミド繊維(デュポン・東レ・ケブラー社製:ケブラー49 カットファイバー繊維長1mm)
(11)パラ系芳香族ポリアミド繊維(日本アラミド社製:トワロン 1010カットファイバー繊維長0.25mm)
(12)メタ系芳香族ポリアミド繊維(帝人社製:コーネックスカットファイバー 2de、繊維長1mm)
(13)カーボンブラック(ライオン社製:ケッチェンEC−X) 、
(14)グラファイト(ロンザ社製:KS−6)
(15)超高分子量ポリエチレン(三井石油化学工業社製:ミペロン XM−220)。
【0056】
〔実施例1〜13〕
表1に示す割合で諸原材料をヘンシェルミキサーで充分混合し、二軸溶融押出機に供給し、シリンダー温度:300℃、回転数:100rpmの溶融混合条件で押出して造粒し、得られたペレットを樹脂温度310℃、射出圧力800kgf/cm2 、金型温度140℃の射出成形条件下で外径28mm、内径20mm、幅5mmのリング状試験片を成形した。この試験片を用いて以下に示す高温ラジアル摩擦摩耗試験を行なった。
【0057】
[高温ラジアル摩擦摩耗試験]
アルミニウム合金A5056またはA6063(いずれも表面粗さ3.2S)製の回転軸を相手材とし、この相手材の外周にリング状試験片を嵌め、これを相手材周面に対して3.5kgf/cm2 の圧力で押圧し、前記回転軸は表面温度を200℃に制御すると共に、これにトルクメータを取り付けて、周速2.8m/分で50時間連続回転させた。この後、試験片の摩耗量としての摩耗係数×10-10 cm 3/(kgf・m)と、回転軸のトルク(kgf・cm)を測定すると共に、相手材の損傷度を観察した。損傷度については、損傷しない(○印)、やや損傷する(△印)または損傷する(×印)の三段階評価で表わし、結果は表3にまとめて示した。
【0058】
【表1】
Figure 0003901229
【0059】
【表2】
Figure 0003901229
【0060】
【表3】
Figure 0003901229
【0061】
[比較例1〜5]
表2に示した割合で原材料を配合したこと以外は、実施例1と全く同様にして試験片を作り、前記高温ラジアル摩擦摩耗試験を行ない、摩耗係数、回転軸のトルク、損傷度を求めて結果を表3に示した。
【0062】
表3に示す結果から明らかなように、比較例1〜5は、摩耗量、回転トルクが大きく、また、比較例2、4および5では相手材の損傷が大く、いずれも好ましい物性ではなかった。また、比較例4では、摩耗が著しく大きく、4時間で試験を中止した。
【0063】
比較例2では、芳香族ポリアミド繊維がパラ系のものでなく、かつPTFEが所定量未満の添加量であるので、耐摩耗性、相手材損傷性が共に劣っていた。
【0064】
一方、実施例1〜13では、摩耗量、回転トルクがともに低く、しかも相手材のアルミニウム合金(A5056)を損傷しなかった。
【0065】
ここで、摩擦摩耗試験では、Mg含有のアルミニウム合金(A5056)を摺動相手材とする場合を基準に判断したが、実施例4〜8、10〜13については、MgおよびSiを含有しA5056より硬質のアルミニウム合金(A6063)を摺動相手材とした場合でも、自己の摩耗量、回転トルク、相手材損傷性についていずれも良好な結果が得られた。
【0066】
実施例2は、A5056を摺動相手材とする場合には良好な結果であり、摺動材として使用に耐えるものであるが、このものはPTFE含有量が所定量未満であるから、A6063を摺動相手材とした場合には自己の摩耗量が大きくなり、回転トルクも高かった。
【0067】
実施例4では、PTFEの含有量が所定範囲内であるので、A6063を摺動相手材とした場合にもA5056相手の場合と同様に自己の摩耗量は少なく、回転トルクも低く、かつ相手材の損傷もなく、特に優れた摺動材であった。
【0068】
また、実施例12は、フッ素樹脂としてヘキスト社製の所定のPTFEを一種類配合すると共に、FEPを採用した組成物であり、前記した二種類のアルミ合金を摺動相手材とする試験項目のほぼ全てにおいてほぼ最良の結果が得られた。
【0069】
また、フッ素樹脂としてETFEを採用した実施例2〜5、7および9は、自己の摩耗量が少ない点で、特に優れた結果が得られた。
【0070】
なお、実施例8の体積抵抗値を測定したところ、2.4×102 Ωcmであり、半導電性を示した。
【0071】
【効果】
この発明の耐熱・潤滑性樹脂組成物は、以上説明したように、ポリフェニレンサルファイド樹脂を主要成分として、フッ素樹脂と、芳香族ポリエステル樹脂と、パラ系芳香族ポリアミド繊維を所定量添加した組成物としたので、射出成形性を備えていることに加えて優れた低摩擦特性、耐摩耗性を有し、しかもMgを含むアルミニウム合金等の軟質合金を摺動相手材とした場合に非攻撃性を有する利点がある。
【0072】
パラ系以外の芳香族ポリアミド繊維を採用した組成物は、前記したフッ素樹脂として四フッ化エチレン樹脂の所定量を含むものを採用した場合に、前記組成物と同様に優れた低摩擦特性、耐摩耗性を発揮し、摺動相手の軟質合金を損傷し難い組成物となる。この組成物は、Mgを含むアルミニウム合金ばかりでなく、MgおよびSiを含むアルミニウム合金を摺動相手とした場合でも、上記良好な耐摩耗性および損傷性を有する利点がある。
【0073】
また、これらの樹脂組成物は、耐熱性、低摩擦特性、耐摩耗性、非攻撃性といった諸特性を全て兼ね備えたものであるから、複写機およびレーザービームプリンター等の定着装置における高性能の耐熱性滑り軸受として適用できる利点もある。
【図面の簡単な説明】
【図1】実施例を示す斜視図
【図2】他の実施例を示す斜視図
【図3】加熱・定着装置における軸受の使用状態を説明する断面図
【図4】他の加熱・定着装置における軸受の使用状態を説明する断面図
【符号の説明】
1、3 軸受部
2 固定用金属部
4 樹脂部
10 加熱ローラ
11 加圧ローラ
12 ヒータ
13、14 合成樹脂製のラジアル軸受
15 定着フィルム
16 セラミックヒータ

Claims (7)

  1. ポリフェニレンサルファイド樹脂47〜61容量%を主要成分として、フッ素樹脂15〜33容量%と、芳香族ポリエステル樹脂5〜15容量%、パラ系芳香族ポリアミド繊維3〜12容量%とを必須成分として添加してなるアルミニウム合金相手の摺動材用耐熱・潤滑性樹脂組成物。
  2. ラ系芳香族ポリアミド繊維が下記化1の式で表わされる反復単位を含むパラ系芳香族ポリアミド繊維である請求項1記載のアルミニウム合金相手の摺動材用耐熱・潤滑性樹脂組成物。
    Figure 0003901229
  3. ッ素樹脂が、エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体またはテトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体である請求項1または2記載のアルミニウム合金相手の摺動材用耐熱・潤滑性樹脂組成物。
  4. ッ素樹脂が、ポリテトラフルオロエチレンおよびテトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体の混合物である請求項1または2記載のアルミニウム合金相手の摺動材用耐熱・潤滑性樹脂組成物。
  5. ポリフェニレンサルファイド樹脂47容量%と、四フッ化エチレン樹脂25容量%と、芳香族ポリエステル樹脂11容量%、メタ系芳香族ポリアミド繊維容量%とを必須成分として添加してなるアルミニウム合金相手の摺動材用耐熱・潤滑性樹脂組成物。
  6. 香族ポリエステル樹脂が下記化2の式で表わされる反復単位を含む樹脂である請求項1〜5のいずれか1項に記載のアルミニウム合金相手の摺動材用耐熱・潤滑性樹脂組成物。
    Figure 0003901229
  7. 請求項1〜6のいずれか1項に記載の耐熱・潤滑性樹脂組成物を成形してなるアルミニウム合金相手用耐熱性滑り軸受。
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