JP3897626B2 - 湿式紡糸用ノズル及びアクリロニトリル系繊維の製造方法 - Google Patents

湿式紡糸用ノズル及びアクリロニトリル系繊維の製造方法 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、紡糸安定性に優れた湿式紡糸用ノズルと同ノズルを用いて単繊維の断面均一性に優れたアクリロニトリル系繊維を製造する方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来、アクリル系繊維は、その優れた嵩高性、風合い、染色性等の特徴からカーテン、カーペット、ハイパイル、モケット、毛布等の建寝装分野、ニット、ジャージ等の衣料分野で、或いは炭素繊維の前駆体繊維としても利用され、その応用分野は広い。
【0003】
アクリロニトリル系繊維は、現在、湿式紡糸、乾式紡糸、乾−湿式紡糸方式が工業化された紡糸方式として実用化されているが、特に生産性に優れる湿式紡糸方式が最も一般的である。
【0004】
この湿式紡糸方式は、溶剤と凝固剤(工業的には水が利用される)の混合液(以下、凝固液と称す。)の中で、紡糸原液である重合体溶液から繊維形成が行われるものであり、乾式紡糸や乾−湿式紡糸方式と比較して、ノズル単位面積あたりの孔数を多くすることを可能にする。
【0005】
紡糸孔数を増加することにより、生産性を向上さはることができるため、現在におけるアクリロニトリル系繊維の一般的な製造方式となっている所以である。特に、単繊維繊度を細化するにあたっては、生産性を維持する上でノズル1錘あたりの繊維本数を多くすること、すなわち単位面積あたりの紡糸孔密度を上げ、ノズル1錘あたりの紡糸孔数を増加させたノズルを用いることとなる。
【0006】
湿式紡糸方式において、重合体溶液は紡糸孔より凝固液中に吐出され、繊維状に形成された単繊維の集合体である繊維束となって引取られるが、紡糸孔密度を増加させ、繊維束の構成本数が増加すると繊維束内への凝固液の流入が阻害される。このため、ノズル外周部とノズル中央部で凝固液の濃度斑が発生し、繊維断面斑、凝固浴での単繊維の切断の原因となる。特に、凝固液が侵入しにくく、凝固液が滞留しやすいノズル中央部はノズル外周部と比較して凝固液の濃度が高くなる。
【0007】
この解決策として、特公昭2−445号公報には、多数の微細な紡糸孔を有し、かつその多数の紡糸孔が凝固液の侵入スリットを介して複数のブロックに扇形状に分割して配列される紡糸ノズルにあって、前記紡糸孔の各ブロックのノズル中心部に、紡糸孔を有しない逆扇形状領域を形成したノズルが提案されており、この紡糸ノズルを用いることにより、各ブロックの多数の紡糸孔から吐出される紡糸液は、どの部分でも濃度、温度共に略均一な凝固液と接触するようになり、安定した湿式紡糸を行うことができるというにある。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
しかるに、本発明者らが実験した結果、ノズル中央部に紡糸孔を有しない部分が形成されると、繊維束に囲まれた内部は滞留領域を形成し、逆に凝固液の侵入が止まり、凝固液濃度が上昇する結果となり、上述の課題を解決できるものではなかった。
【0009】
また、ノズルそのものの形状をドーナツ型とし、ノズル外周部だけでなく、中央部からも凝固液を送液する方法が考えられる。この方式で湿式紡糸を行うと、容易に凝固液の濃度斑をなくすことが可能となる一方で、ノズルパックやノズルへの原液の供給設備が複雑となること、また同一の紡糸孔数を確保するためにはノズルサイズを大きくする必要があり、しいては紡糸浴を大きくする必要が出てくるため、工業的には望ましくない。
【0010】
本発明は、かかる従来の問題点を解決し、単繊維の断面均一性が得られる湿式紡糸用ノズルと、単繊維の断面均一性に優れたアクリロニトリル系繊維を安定して製造できるアクリロニトリル系繊維の製造方法を提供することを目的としている。
【0011】
【課題を解決するための手段及び作用効果】
本発明の湿式紡糸用ノズルの基本構成は、3個/mm2 以上の紡糸孔密度をもつ紡糸孔群が、凝固液の侵入スリットを介して6区画以上の扇形状に画成されてなる円形ノズルにあって、 前記凝固液侵入スリットのスリット幅がノズル中心側で狭く、ノズル外周側で広くなるように途中で切り換えられてなることを特徴とする湿式紡糸用ノズルにある。
【0012】
生産性を維持するに必要十分な紡糸孔数を維持するには、孔密度が3個/mm2 未満であってはならない。紡糸孔密度の上限は、紡糸孔径により異なるが、10個/mm2 以下であることが望ましい。
【0013】
紡糸孔の直径は、得ようとする単繊維の太さによって適正な大きさに設定することが可能であり、特に制限するものではない。また、紡糸孔形状や紡糸孔キャピラリー形状についてもどのような形態であっても本発明の技術を応用することが可能であり、特に制限するものではない。
【0014】
また、紡糸孔間の距離も紡糸孔直径と同様、得ようとする単繊維の太さ、正確には紡出時の繊維径によって適宜設定される必要があるが、本発明の技術思想によって最適な状態へ設定することができる。
【0015】
さらに円形ノズルの直径、材質についても特に制限するものではない。
【0016】
紡糸孔は凝固液の侵入するスリットによって扇形状に分割配列されることが望ましく、更に分割された紡糸孔ブロックは6つ以上である円形ノズルであることが望ましい。凝固液侵入用のスリットによって扇形状に分割されることで、スリットに沿って凝固液がノズル中央部へ侵入しやすくなり、ノズル中央部の溶剤と凝固液の置換が円滑に行えるようになる。
【0017】
紡糸孔数が増加するに伴い紡糸孔ブロック数を増加させて、ブロックあたりの孔数を一定に保つことが好ましいが、紡糸孔ブロック数を増加させると紡糸孔を配列する有効面積が減少する。このため、多くとも12ブロックであることが好ましい。
【0018】
前記スリット幅が、円形ノズルの中心部分から半径の1/3以上2/3以下が2mm以上3mm以下であり、外周部分から半径の1/3以上2/3以下が4mm以上8mm以下であることが好ましい。凝固液を侵入させる侵入スリットのスリット幅を検討した結果、前記のような最適なスリット幅を確認することができた。スリット幅が狭くなると凝固液の浸透は不十分となり、ノズル中心部の凝固液の濃度が増加し、繊維の断面斑、単繊維切れの原因となる。
【0019】
逆に、スリット幅を大きくすると凝固液が侵入しやすくなり、ノズル中心部分の凝固液濃度はノズル外周部の濃度と同一となるが、繊維束の走行による繊維内部への凝固液随伴流速が速くなり、液抵抗による単繊維の切断が発生する。この問題を解決するには、上述のごとく、ノズル外周部から1/3以上2/3以下が広幅のスリットとし、凝固液の侵入を促し、残りの部分のスリットを狭くすることにより、随伴流速による単繊維の切断を防止することができる。
【0020】
上記湿式紡糸用ノズルを用い、特にアクリロニトリル系重合体溶液を湿式紡糸してアクリロニトリル系繊維を製造すると、断面均一なアクリロニトリル系繊維が安定して製造できる。また、特にアクリロニトリル系重合体の溶剤としてジメチルアセトアミドを用いると共に、アクリロニトリル系重合体をジメチルアセトアミド/水の凝固液中で凝固させることが好ましく、ジメチルアセトアミド/水溶液のジメチルアセトアミドの濃度が60〜75重量%の範囲が繊維断面や凝固糸の引取速度が急激に変化する範囲であり、この範囲の濃度を採用する場合に最適な紡糸ノズルとなる。
【0021】
【発明の実施形態】
以下に本発明の好適な実施形態を、図面に基づいて具体的に説明する。
まず本実施形態による本発明の円形ノズル10は、3個/mm2 以上の紡糸孔密度をもって配列された多数の紡糸孔11が扇形状の6つの紡糸孔ブロック12に分割されている。隣接する紡糸孔ブロック12間は凝固液が侵入するスリット13を有している。前記紡糸孔ブロック12の数は12ブロック以下であることが好ましい。
【0022】
前記スリット13の幅が、円形ノズル10の中心部分から半径Rの1/3以上2/3以下で狭く、外周部分から半径Rの1/3以上2/3以下が広くされている。広いスリット幅d1は4mm以上8mm以下であり、狭い領域のスリット幅d2は2mm以上3mm以下に設定される。広い領域のスリット幅d1が4mm未満では、凝固液の侵入が不十分であり、8mmを越えると紡糸孔の有効面積が減少するためで必要以上に広げる必要はない。狭い領域のスリット幅d2が2mm未満では凝固液の侵入が不十分となり、3mmを越えると随伴流速による単繊維切れが発生する。
【0023】
かくして得られた紡糸ノズル10を用い、アクリロニトリル系重合体溶液を湿式紡糸することによって、繊維断面斑の少ない繊維束を安定して紡糸することが可能となる。
さらに、本実施形態による紡糸ノズル10は、アクリロニトリル系重合体の溶剤としてジメチルアセトアミドを用い、凝固液としてジメチルアセトアミド/水溶液を使用する場合に特に有効である。ジメチルアセトアミド/水溶液のジメチルアセトアミドの濃度を60〜75重量%の範囲とすることが、既述した理由から好ましい。
【0024】
次に、本発明の製造例の実施形態について説明する。
本発明のアクリロニトリル系重合体の重合方法は溶液重合、懸濁重合等公知の方法で製造される。
公知の方式で重合されたアクリロニトリル系重合体は、未反応モノマーや重合触媒残査などを極力除くことが好ましい。重合体の重合度は、繊維の性能を満足できる範囲であれば特に制限するものではない。かくして得られたポリマーは有機溶剤に溶解され、重合体溶液となる。重合体の溶解方式は公知の方式が採用可能である。重合体の溶液濃度としては17重量%、さらに好ましくは19重量%以上である。
【0025】
本発明の湿式紡糸方法で紡出された凝固繊維は公知の方法で、溶媒を回収しながら、浴中であるいは空中及び浴中で延伸した後、乾燥による緻密化を行い、更に後延伸を施すことで効率良くアクリロニトリル系繊維束を生産することができる。紡糸延伸は、重合体濃度、延伸倍率に応じ、所定の繊度の繊維が得られるように適切に設定される。
【0026】
凝固液の溶剤濃度は、特に制約するものではないが、前述のように60〜75重量%の範囲で、本発明の効果を最も有効に発現させることできる。凝固浴の温度は、適宜選択が可能であるが、工業的な規模を考えると、その温度範囲としては、概ね20℃以上、60℃以下であることが好ましい。
【0027】
また、浴中延伸は凝固繊維を直接行ってもよいし、また空中にて凝固繊維をあらかじめ延伸した後に行ってもよい。浴中延伸は通常50〜98℃の延伸浴中で1回あるいは2回以上の多段に分割するなどして行われ、その前後あるいは同時に洗浄と同時に脱溶剤を行ってもよいが、本発明はこれに限定されるものではない。これらの操作によって凝固繊維は浴中延伸完了時までに約3倍以上延伸されることが好ましい。
【0028】
浴中延伸しながら洗浄された繊維は、公知のいずれかの方法によって油剤処理がなされる。油剤の種類は特に限定するものではない。油剤処理後、乾燥緻密化が行われる。乾燥緻密化の温度は、繊維のガラス転移温度を越えた温度で行う必要があるが、実質的には繊維の含水状態によ乾燥状態が異なることもあり、温度は100〜200℃程度の加熱ローラーによる乾燥であることが好ましい。乾燥緻密化後、繊維の最終用途に応じて、湿熱緩和処理等を施すことができる。
【0029】
以下、本発明を実施例を挙げて、比較例とともに具体的に説明する。
「実施例1〜3、比較例1」
実施例1〜3及び比較例1では、アクリロニトリル93重量%、酢酸ビニル7重量%からなり極限粘度〔η〕が1.7の共重合体を、ジメチルアセトアミドに溶解して紡糸原液(重合体濃度21重量%、原液温度70℃)を調製した。この紡糸原液を、図1に示すノズル構造をもつ紡糸ノズル10を用いて、濃度67%、浴温39℃のジメチルアセトアミド水溶液中に吐出し、5m/minで引取った。引き取った凝固繊維を温水中で4.7倍に延伸しながら洗浄・脱溶剤を行った後、油剤溶液中に浸漬し、140℃の加熱ローラーにて乾燥緻密化し、単繊維繊度2dTexの繊維束を得た。紡糸時のノズル外周部とノズル中心部の凝固液の濃度を測定した。また、繊維断面はほぼ円形であり、この繊維の繊維断面の縦/横比を任意に50個測定し、そのCV値を計算した。この結果を表1に示す。
【0030】
〔実施例1〕
紡糸ノズルは、直径0.060mmφの紡糸孔が多数配列された直径95mmφの円形領域が、図1に示すとおり、凝固液の侵入スリットにより8つの紡糸孔ブロックに分割されている。凝固液侵入スリットの広い領域の径方向長さaを20.0mm、そのスリット幅d1を6.0mm、同侵入スリットの狭い領域のスリット幅d2を2.5mm、紡糸孔数24000個、紡糸孔密度3.9個/mm2 とした。
【0031】
かかる構造をもつ紡糸ノズルを用いて、上記紡糸原液を上記凝固液に吐出して紡糸した。このときのノズル中心部の溶剤濃度は67.1%、ノズル外周部の溶剤濃度は67.0%であって、ノズル外周部と中心部の凝固液濃度差が殆どなく、繊維の断面斑CV値も8.7%と少ないものであった。
【0032】
〔実施例2〕
凝固液侵入スリットの広い領域の径方向長さaを30.0mm、紡糸孔密度4.1個/mm2 とした以外は、実施例1と同じ構造の紡糸ノズルを用い、上記紡糸原液を上記凝固液中で吐出し紡糸した。このときのノズル中心部の溶剤濃度は67.0%、ノズル外周部の溶剤濃度は67.1%であって、ノズル外周部と中心部の凝固液濃度差が殆どなく、繊維の断面斑CV値も7.6%と極めて少ないものであった。
【0033】
〔実施例3〕
凝固液侵入スリットの広い領域のスリット幅d1を8.0mm、紡糸孔数2240個、紡糸孔密度3.8個/mm2 とした以外は、実施例1と同じ構造の紡糸ノズルを用い、上記紡糸原液を上記凝固液中で吐出し紡糸した。このときのノズル中心部の溶剤濃度は67.0%、ノズル外周部の溶剤濃度は67.0%であって、ノズル外周部と中心部の凝固液濃度差がなく、繊維の断面斑CV値も7.5%と最も少ないものであった。
【0034】
〔比較例1〕
凝固液侵入スリットの広い領域の径方向長さaを10.0mm、紡糸孔密度3.7個/mm2 とした以外は、実施例1と同じ構造の紡糸ノズルを用い、上記紡糸原液を上記凝固液中で吐出し紡糸した。このときのノズル中心部の溶剤濃度は67.5%、ノズル外周部の溶剤濃度は67.0%であって、ノズル外周部と中心部の凝固液濃度差が大きく、繊維の断面斑CV値も9.8%と、実施例1〜3と比較しても1.5%以上の差があった。

【0035】
【表1】
Figure 0003897626
【0036】
表1から明らかなごとく、凝固液侵入スリットの広い領域の径方向長さaを紡糸孔群の外周部分から半径rの1/3以上とすることで、ノズル外周部と中心部の凝固液濃度は実質的に一致させることができ、ノズル中心部の溶剤と凝固剤の置換が円滑に行われていることを示している。
【0037】
「比較例2、3」
アクリロニトリル93重量%、酢酸ビニル7重量%からなり極限粘度〔η〕が1.7の共重合体を、ジメチルアセトアミドに溶解して紡糸原液(重合体濃度21重量%、原液温度70℃)を調製した。この紡糸原液を、図2に示すノズル構造をもつ紡糸ノズルを用いて、濃度67%、浴温39℃のジメチルアセトアミド水溶液中に吐出し、5m/minで引取った。引き取った凝固繊維を温水中で4.7倍に延伸しながら洗浄・脱溶剤を行った後、油剤溶液中に浸漬し、140℃の加熱ローラーにて乾燥緻密化し、単繊維繊度2dTexの繊維束を得た。紡糸時のノズル外周部とノズル中心部の凝固液の濃度を測定した。また、繊維断面はほぼ円形であり、この繊維の繊維断面の縦/横比を任意に50個測定し、そのCV値を計算した。これらの結果を表2に示す。
【0038】
〔比較例2〕
比較例2に用いた紡糸ノズルは、直径0.060mmφの紡糸孔が多数配列された直径95mmφの紡糸孔群の円形領域が、図2に示すとおり、広いスリット幅d3と狭いスリット幅d4とをもつ凝固液の各侵入スリットを交互に配することにより8つの紡糸孔ブロックに分割されている。広いスリットdは6.0mm、狭いスリット幅d4は2.5mmであり、紡糸孔数24000、紡糸孔密度3.9個/mm2 としている。紡糸時のノズル中心部の溶剤濃度は67.0%、ノズル外周部の溶剤濃度は67.0%と、ノズル外周部と中心部の凝固液濃度差がなく、繊維の断面斑CV値も7.8%と低く、実施例1〜3と比較しても変わるところはなかったが、ノズルの中央部付近から糸の切断が観察された。
【0039】
〔比較例3〕
比較例3では、直径0.060mmφの紡糸孔が多数配列された直径95mmφの紡糸孔群の円形領域が、2.5mmの同一スリット幅をもつ8本の凝固液侵入スリットをもって8つの紡糸ブロックに分割した紡糸ノズルを用い、上述のごとく紡糸して、ほぼ円形断面のアクリロニトリル系繊維を得た。紡糸時のノズル中心部の溶剤濃度は67.9%、ノズル外周部の溶剤濃度は67.0%と、ノズル外周部と中心部の凝固液濃度差が大きく、また繊維の断面斑CV値は11.5%と異常に高かった。
【0040】
【表2】
Figure 0003897626
【0041】
「比較例4、5」
アクリロニトリル93重量%、酢酸ビニル7重量%からなり極限粘度〔η〕が1.7の共重合体を、ジメチルアセトアミドに溶解して紡糸原液(重合体濃度21重量%、原液温度70℃)を調製した。この紡糸原液を、図3に示すノズル構造をもつ紡糸ノズルを用いて、濃度67%、浴温39℃のジメチルアセトアミド水溶液中に吐出し、5m/minで引取った。引き取った凝固繊維を温水中で4.7倍に延伸しながら洗浄・脱溶剤を行った後、油剤溶液中に浸漬し、140℃の加熱ローラーにて乾燥緻密化し、単繊維繊度2dTexの繊維束を得た。紡糸時のノズル外周部とノズル中心部の凝固液の濃度を測定した。また、繊維断面はほぼ円形であり、この繊維の繊維断面の縦/横比を任意に50個測定し、そのCV値を計算した。それらの結果を表3に示す。
【0042】
比較例4及び5に用いた紡糸ノズルは、直径0.060mmφの紡糸孔が多数配列された直径95mmφの紡糸孔群の円形領域が、図3に示すような狭い同一スリット幅をもつ8本の凝固液侵入スリット45°の位相差をもって周方向に配することにより8つの紡糸孔ブロックに分割されると共に、中央部に半径rからなる紡糸孔を有しない円形の無孔領域を形成している。比較例4に用いた紡糸ノズルの紡糸孔数は24000、紡糸孔密度3.6個/mm2 、無孔領域の半径rを25.0mmφであり、比較例5に用いた紡糸ノズルの紡糸孔数は20000、紡糸孔密度3.5個/mm2 、無紡糸孔領域の径rを45.0mmφとしている。
【0043】
比較例4における紡糸時のノズル中心部の溶剤濃度は67.8%、ノズル外周部の溶剤濃度は67.0%と濃度差が大きく、繊維の断面斑CV値も11.4%と極めて大きい。比較例5にあっても差がなく、紡糸時のノズル中心部の溶剤濃度は68.3%、ノズル外周部の溶剤濃度は67.0%と濃度差が更に大きく、繊維の断面斑CV値も12.8%と更に大きくなっている。
【0044】
【表3】
Figure 0003897626
【0045】
上述のごとく、本発明の紡糸ノズル及び同ノズルを使ったアクリロニトリル系繊維の製造方法によれば、繊維の断面均一性に優れた高品質のアクリロニトリル系繊維を安定して効率良く製造することができるようになる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に係るノズル構造の1例を示す概略平面図である。
【図2】比較例2で使用したノズルの概略平面図である。
【図3】比較例4及び5で使用したノズルの概略平面図である。
【符号の説明】
10 円形(紡糸)ノズル
11 紡糸孔
12 紡糸孔ブロック
13 凝固液侵入スリット
a 広いスリット領域の径方向長さ
d1,d3 広いスリット領域のスリット幅
d2,d4 狭いスリット領域のスリット幅
R (円形の)紡糸孔群の半径
r (円形ノズル中央部の)無紡糸孔領域

Claims (5)

  1. 3個/mm2 以上の紡糸孔密度をもつ紡糸孔群が、凝固液の侵入スリットを介して6区画以上の扇形状に画成されてなる円形ノズルにあって、前記凝固液侵入スリットのスリット幅がノズル中心側で狭く、ノズル外周側で広くなるように途中で切り換えられてなることを特徴とする湿式紡糸用ノズル。
  2. 前記凝固液の侵入スリットを介して区画される区画数が12以下であることを含んでなる請求項1記載の湿式紡糸用ノズル。
  3. 前記スリット幅が、円形ノズルの中心部分から半径の1/3以上2/3以下が2mm以上3mm以下であり、その外周側は4mm以上8mm以下である、請求項1又は2記載の湿式紡糸用ノズル。
  4. 請求項1〜3のいずれかに記載の湿式紡糸用ノズルを用いて、アクリロニトリル系重合体溶液を湿式紡糸し、アクリロニトリル系繊維を製造することを特徴とするアクリロニトリル系繊維の製造方法。
  5. アクリロニトリル系重合体の溶剤としてジメチルアセトアミドを用いると共に、アクリロニトリル系重合体をジメチルアセトアミド/水の凝固液中で凝固させることを含んでなる請求項4に記載のアクリロニトリル系繊維の製造方法。
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