JP3890811B2 - 無段変速機を備えた車両の制御装置 - Google Patents

無段変速機を備えた車両の制御装置 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
この発明は、変速比を連続的に変更することのできる無段変速機を備えた車両の制御装置に関し、特に駆動力の要求に応じて動力源および変速比を共に制御する制御装置に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
最近では、車両用の変速機として無段変速機が採用されるようになってきている。この種の無段変速機は、ベルトを巻き掛けた入力側のプーリと出力側のプーリとの溝幅すなわちベルトの巻き掛け半径を変更することにより、変速比を連続的に変更するように構成され、あるいはそれぞれトロイダル面を備えた入力側のディスクと出力側のディスクとの間に挟み込んだパワーローラを傾斜させて、各ディスクに対するパワーローラの接触位置の半径を変更することにより、変速比を連続的に変更するように構成されている。そしてその変速比は、例えば運転者の出力要求を表しているアクセルペダルの踏み込み角度(アクセル開度)信号や車速を一定車速に維持するクルーズコントロールからの出力要求信号と車速となどによって判断される車両の走行状態に基づいて制御される。
【0003】
無段変速機によれば変速比を連続的に変化させることができ、またエンジンなどの動力源の出力も連続的に変化するので、無段変速機の特性を有効に利用して効率の良い運転をおこなうように構成された制御装置が、特公平3−72867号公報に記載されている。この公報に記載された装置は、アクセルペダル踏み込み量および車速から目標駆動力を求め、その目標駆動力に対応する目標エンジン出力および目標スロットル開度、目標エンジン回転数をそれぞれ求め、さらに目標エンジン回転数と車速とに基づいて目標変速比を求めるように構成されている。そしてこの公報に記載された装置では、前記の目標エンジン出力および目標変速比を、最適燃費曲線に基づいて決定することとしている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
したがって上記の従来の制御装置によれば、例えばアクセルペダルが踏み込まれると、そのアクセルペダル踏み込み量と車速とに基づいて目標駆動力および目標車速が求まるが、現在の時点での運転状態からその目標とする運転状態への変化は、最良燃費曲線に沿った変化となる。そのため、上記従来の装置では、アクセルペダルが踏み込まれるなどの加速要求があっても、燃料の供給量を一時的に増大させたり、エンジン回転数を一時的に高くするなどの制御がおこなわれず、飽くまでも燃料の消費量が最適(最少)となるように制御される。その結果、エンジントルクあるいは駆動トルクが運転者の加速要求を満たすものとはならず、動力性能に劣り、ドライバビリティの悪い車両となる可能性がある。
【0005】
この発明は上記の事情を背景としてなされたものであり、無段変速機を備えた車両の燃費の向上とドライバビリティの向上との両立を図ることのできる制御装置を提供することを目的とするものである。
【0006】
【課題を解決するための手段およびその作用】
上記の目的を達成するために、請求項1の発明は、出力要求量と車速とに基づいて目標駆動力を求める手段と、その目標駆動力を達成するための動力源の目標出力を求める手段と、その目標出力に対して予め設定された目標出力回転数を求める手段と、動力源の実際の出力回転数がその目標出力回転数となるように無段変速機の変速比を制御する手段とを有する無段変速機を備えた車両の制御装置において、前記目標出力における前記動力源の現在の出力回転数に対応したトルクを前記動力源の設定するべき目標出力トルクとして求める手段と、前記動力源の出力トルクがその目標出力トルクとなるように前記動力源を制御する手段とを更に手段とを更に具備し、前記動力源の出力トルクが前記目標出力トルクに達した後は、前記動力源の出力を前記目標出力に維持しつつ動力源の出力回転数が前記目標出力回転数となるように変速比を制御するように構成されていることを特徴とするものである。
【0007】
また、請求項2の発明は、請求項1の構成において前記目標駆動力を求める手段が、出力要求量と車速とに関連して駆動力を定めてあるマップに基づいて目標駆動力を求める手段を備えていることを特徴とするものである。
【0008】
したがって請求項1の発明によれば、駆動力の要求があった場合、それに応じた動力源の目標出力と現在の出力回転数(車速であってもよい)とに基づいて目標トルクを求め、その目標トルクとなるように動力源を制御するので、加速要求があった場合には、その時点での目標出力に応じた出力トルクが得られ、その結果、加速要求を満たす駆動トルクが生じる。すなわち動力性能が良好になり、ドライバビリティに優れた車両となる。
【0009】
また請求項2の発明によれば、目標駆動力を予め定めたマップに基づいて求めることができるので、駆動力の要求と加速度との特性の設定を容易におこなうことができる。
【0010】
さらに、請求項3の発明は、請求項1の発明において、前記目標出力トルクが前記動力源の許容最大トルクを超えている場合に前記目標出力での許容最大トルクまで前記無段変速機の変速速度を相対的に速くし、その後前記目標出力回転数まで前記無段変速機の変速速度を相対的に遅くする変速速度制御手段を更に備えていることを特徴とするものである。
【0011】
したがって請求項3の発明においては、目標出力トルクが動力源の許容最大トルクを超えている場合、例えば変速比が急速に変化した後に、それよりも遅い変速速度で変速比が変化する。すなわち、目標出力が求められると、その目標出力から目標出力トルクが求められ、その目標出力トルクが許容最大トルクを超えていることにより、動力源が目標出力での許容最大トルクを発生するように制御される。その場合、例えば出力の増大要求に基づく変速であれば、目標出力に応じた動力源の回転数となるように急速に変速比が変化させられるので、要求に応じた駆動力が得られるとともに、動力源の回転数が車速の変化に対して乖離して変化することがなくなる。また、目標出力が達成された後、その出力での予め設定された目標出力回転数への変速の際には、変速比がゆっくり変化させられ、例えば車速の変化と動力源の回転数の変化とが対応した状態となるので、違和感が防止される。
【0012】
請求項4の発明は、請求項1の発明において、前記動力源の目標出力回転数を予め定めた制限値に制限するとともに、前記目標出力に対して予め設定された目標出力回転数を求める手段で求められた前記目標回転数に一致するように前記制限値を次第に変化させる目標回転数制限手段を更に備えていることを特徴とするものである。
【0013】
したがって請求項4の発明によれば、出力要求量の変化が大きい場合であっても、動力源の出力回転数が、目標出力に対して予め設定した目標回転数に直ちに変化せずに、制限値で定まる回転数になり、その制限値が変化することに応じて動力源の回転数が、前記目標出力に対して予め設定した目標回転数に向けて次第に変化する。すなわち、例えば加速要求があった場合、動力源の回転数が車速の増大に関連して変化し、動力源の挙動の変化が車両の挙動の変化に合致したものとなって違和感が生じることが未然に回避される。
【0014】
そして、請求項5の発明は、請求項1の発明において、前記動力源と無段変速機とのいずれか一方もしくはその動力源と無段変速機とのいずれかの制御系統の故障を検出する故障検出手段と、その故障検出手段が故障を検出した場合に、前記目標出力を制限するための制限制御を実行する制限手段とを更に備えていることを特徴とするものである。
【0015】
したがって請求項5の発明によれば、故障が検出された場合、前記目標出力を制限する制御が実行され、その結果、目標出力が出力要求に応じた値より小さくなるので、目標出力に基づいて設定される動力源の出力トルクや無段変速機の変速比が小さくなる。そのため、動力源の出力が伝達される動力伝達系統に、故障状態で過大な荷重が掛かることが未然に回避され、その動力伝達系統が有効に保護される。
【0016】
さらに、請求項6の発明は、請求項1の構成において、前記無段変速機で設定するべき変速比を手動による選択操作で出力される変速信号によって指示する手動変速機構を更に備え、前記目標駆動力を求める手段が、前記手動変速機構によって選択された変速比ごとに出力要求量と車速とに基づいて目標駆動力を求める手段を含み、かつ前記目標出力回転数を求める手段が、前記目標出力に対して予め設定された目標出力回転数を求める替わりに、前記手動変速機構によって選択された変速比と車速もしくは車速に対応する所定の物理量とに基づいて目標出力回転数を求めるように構成されていることを特徴とするものである。
【0017】
したがって請求項6の発明によれば、手動操作によって変速比を選択することができ、その場合、その選択した変速比に応じて目標駆動力が求められるとともに、目標出力ならびに動力源の目標トルクが求められて、その目標トルクとなるように動力源が制御される。一方、選択された変速比に基づいて動力源の目標回転数が求められ、動力源の回転数がその目標回転数となるように無段変速機が制御される。したがって変速比を手動で選択する場合であっても、動力源の目標トルクは手動操作によって変速比を選択しない場合と同様のロジックで決めることができ、かつ無段変速機の制御は、動力源の回転数がその目標回転数となるように実行すればよく、これは、変速比を手動で選択しない他の変速制御の場合と同様であり、その結果、手動で変速比を選択する機能を備えていても制御システムが簡素化される。
【0018】
【発明の実施の形態】
つぎにこの発明を具体例に基づいて説明する。先ずこの発明が対象とする車両の動力伝達系統の一例を説明すると、図4において、原動機1の出力軸2が伝動装置3に連結されている。ここで、原動機1は、ガソリンエンジンやディーゼルエンジンなどの内燃機関あるいはモータなどの電動機、さらにはこれら内燃機関と電動機とを組み合わせた装置など、車両に使用可能な種々の動力源を含む。以下の説明では、原動機1としてエンジンを採用した例を説明する。
【0019】
このエンジン1は電気的に制御できるように構成されており、その制御のためのマイクロコンピュータを主体とする電子制御装置(ECU)4が設けられている。この制御装置4は、少なくともエンジン1の出力を制御するように構成されており、その制御のためのデータとして出力軸回転数Ne とアクセル開度Accなどの出力要求信号とが入力されている。
【0020】
この出力要求信号は、要は、エンジン1の出力の増大・減少のための信号であり、運転者が操作するアクセルペダル(図示せず)の操作量信号やその操作量を電気的に処理して得た信号を採用することができ、またそれ以外に、電子スロットルバルブを備えたエンジン1の場合には、その電子スロットルバルブの開度制御信号や、車速を設定車速に維持するためのクルーズコントロールシステム(図示せず)などからの出力要求信号を含む。
【0021】
また、伝動装置3は、車両が停止している状態であってもエンジン1を回転させておくことができるようにするためのものであり、摩擦板を圧接することによりトルクを伝達する一般的なクラッチや流体継手(フルードカップリング)や流体式のトルクコンバータあるいはロックアップクラッチを内蔵したトルクコンバータ、電磁クラッチ、パウダークラッチなど、必要に応じて種々のものを採用することができる。
【0022】
この伝動装置3が前後進切換機構5に連結されている。これは、後述する無段変速機6が入力を反転して出力することができないために設けられている。この前後進切換機構5は、例えば遊星歯車機構などの3つの回転要素を備えた機構であり、いずれか1つの回転要素が伝動装置3に連結されて入力要素となり、また他の1つの回転要素が選択的に固定される固定要素となり、そして残る他の1つの回転要素が出力要素とされている。その固定要素をブレーキ機構などによって固定することにより出力要素が入力要素に対して反対方向に回転し、またその固定要素の固定を解除するとともにいずれか2つの回転要素を一体的に連結することにより、全体が一体回転し、入力がそのまま出力される。
【0023】
この前後進切換機構5に連結された無段変速機6について説明すると、この無段変速機6は、要は、入力軸7と出力軸8との回転数の比率を連続的に変更するための機構であり、具体的にはベルト式あるいはトロイダル式などの適宜の形式の無段変速機である。そしてその変速比を電気的に制御するための電子制御装置(ECU)9が設けられている。この電子制御装置9はエンジン1のための電子制御装置4とデータ通信可能に接続されるとともに、変速比の制御のために必要なデータが入力されている。
【0024】
そして無段変速機6の出力軸8が最終減速機(ディファレンシャルギヤ)10に連結されており、このディファレンシャルギヤ10で左右の車輪の差動回転を許容しつつこれらにトルクを分配するようになっている。
【0025】
この発明に係る上記の制御装置は、車両が定常走行している場合には、回転数とトルクとによって定まる運転状態図での最適運転ラインに沿ってエンジン1および変速比を制御する。これに対して駆動力を増大もしくは低下させる要求があった場合には、以下に述べるように制御する。
【0026】
図1はその制御過程を説明するためのブロック図であり、アクセル開度Accおよび車速Vに基づいて目標駆動力Fが求められる(ステップ1)。ここでアクセル開度Accは、アクセルペダルの踏み込み量を電気的に処理して得られた制御データであって、加速もしくは減速の要求すなわち駆動力についての要求を示すパラメータとして採用されている。したがって車速を一定に維持するクルーズコントロールのための駆動要求の信号をアクセル開度Accに替わるパラメータとして採用することもできる。また車速についても同様であって、車速Vと一対一の関係にある他の適宜の回転部材の回転数を車速Vに替えて採用することもできる。したがってこのステップ1の機能が請求項1における目標駆動力を求める手段に相当する。
【0027】
これらのアクセル開度Accと車速Vとに基づく目標駆動力Fの決定は、予め用意したマップに基づいておこなう。具体的には、アクセル開度Accをパラメータとして車速Vと駆動力Fとの関係をマップとして予め定めておく。その場合、対象とする車両の特性を反映するように駆動力Fを定める。そしてそのマップに基づいて目標駆動力Fが求められる。
【0028】
ステップ1で求められた目標駆動力Fと現在の車速Vとに基づいて目標出力Pが求められる(ステップ2)。すなわち目標出力Pは、目標駆動力Fと車速Vとの積である。したがってこのステップ2の機能が請求項1における目標出力を求める手段に相当する。
【0029】
変速比を制御するためにその目標出力Pに対応した目標エンジン回転数Netが求められる(ステップ3)。前述したように定常走行状態では、最適運転ラインに即して制御されるから、目標出力Pに達した時点での運転状態は最適運転ライン上の運転状態となる。すなわち目標出力Pに達した時点では、エンジン1は、最良燃費曲線に基づく状態に制御されるから、目標エンジン回転数Netは、最良燃費曲線に基づいて出力と回転数とを定めた目標エンジン回転数テーブル(線図)を利用して求められる。
【0030】
この目標エンジン回転数Netと検出された実際のエンジン回転数Ne とに基づいて変速制御手段が実エンジン回転数を目標エンジン回転数となるように変速比を制御する(ステップ4)。この変速制御手段は、具体的には前述した図4に示す電子制御装置9である。したがってこのステップ4の機能が請求項1の発明における変速比を制御する手段に相当する。
【0031】
一方、エンジン1を制御するために、上記の目標出力Pと現在のエンジン回転数Ne とに基づいて目標エンジントルクTo を求める(ステップ5)。これは、例えば目標出力Pを現在のエンジン回転数Ne で割り算することにより実行される。なお、図1に示す式は、単位を揃えるための処理をおこなったものである。したがってエンジン回転数Ne に替えてエンジン1の出力軸の角速度を採用することもできる。
【0032】
このようにして求められた目標エンジントルクTo となるようにエンジントルク制御手段がエンジン1を制御する(ステップ6)。具体的には、前述した図4に示す電子制御装置4によって燃料噴射量あるいは電子スロットルバルブの開度が制御される。したがってこのステップ6の機能が請求項1における動力源を制御する手段に相当する。
【0033】
車両の加速時あるいは減速時に上記の制御をおこなった場合のエンジン1の運転状態の変化の例を図2に示してある。この図2は、等出力線をパラメータとしたエンジン回転数と軸トルク(出力トルク)との関係を示す図であり、最適運転ラインが太い折線で示されている。図2において例えば符号Aで示す運転状態にあるときにアクセルペダルが踏み込まれるなどのことによって加速要求があり、そのアクセル開度Accと車速Vとから求まる目標運転状態が符号Cで示される運転点とすると、上記の制御によれば、符号Bで示される運転点を経て目標とする運転状態に制御される。
【0034】
すなわちステップ5で演算される目標エンジントルクTo は、目標出力Pを現在(すなわち運転状態Aの時点)でのエンジン回転数(出力軸の角速度)で除算した値であるから、その目標エンジントルクTo は、運転状態Cでの等出力線(すなわち目標出力Pの等出力線)上での現在のエンジン回転数Ne の点で示される軸トルク(B点)となる。この符号Bで示される運転状態は、最適運転ラインを外れたものとなるが、定常走行状態では、最適運転ラインに沿って制御されるので、結局は、符号Bで示す運転状態からその等出力線に沿って軸トルクおよびエンジン回転数が変化するようにエンジン1が制御され、目標とする運転状態Cに到る。
【0035】
したがって上記の制御装置によれば、加速要求があった時点で、エンジントルクが最適運転ラインを外れて増大させられるので、それに応じて駆動トルクが増大する。その結果、要求に即した加速力が得られ、ドライバビリティ(動力性能)が良好になる。
【0036】
また符号Dで示す運転状態で加速要求があり、その目標とする運転状態が符号Gで示されるとすると、加速要求時点でのエンジン回転数における最大トルクまで軸トルクが増大させられる。その後、目標とする運転状態Gの出力での等出力線上で最大トルクとなる運転状態Fまで、軸トルクが最大トルクに維持される。これは、加速要求が大きいことにより、目標とする運転状態Gの等出力線上における現在のエンジン回転数に相当するトルクが、エンジン1に許容される最大トルクを超えているためであり、符号Eおよび符号Fで示す運転状態の間では、軸トルクがエンジン最大トルクに制限される。その後、エンジン回転数が増大したことにより、それに応じたトルクが最大トルクを下回り始めると、目標とする運転状態Gでの等出力線に沿って運転状態が変化し、目標とする運転状態Gに到る。したがってこの場合も、加速要求と同時にエンジントルクが最適運転ラインを外れて増大させられるので、加速要求に応じた駆動力を得ることができる。
【0037】
これとは反対に減速する場合について説明すると、例えば図2に符号Hで示す運転状態にあるときに、アクセル開度Accが減じられ、符号Cで示す運転状態が目標とする状態であるとすると、アクセル開度Accが減じられると同時に、その時点のエンジン回転数のまま、目標とする運転状態Cと同じ等出力線上のトルクまでエンジントルク(軸トルク)が低下させられる。その運転状態を符号Jで示してある。その後、目標とする運転状態Cの等出力線と最適運転ラインとの交点である目標運転状態Cにまで軸トルクおよびエンジン回転数が変化させられる。この場合も、減速要求に伴って最適運転ラインを外れて軸トルクが低下させられるので、減速要求に応じた駆動力を得ることができる。その場合、駆動輪とエンジン1とがトルク伝達可能に連結された状態であれば、すなわち適宜のクラッチが解放されて動力伝達系統が遮断されるなどの状態になっていなければ、減速要求に即したエンジンブレーキ力を得ることができる。
【0038】
このようにこの発明に係る制御装置では、駆動力の増大もしくは減少の要求があった場合、目標出力の等出力線上における現在のエンジン回転数に対応した出力トルクにまでトルクを変化させ、その後、その等出力線に沿ってトルクを最適運転ライン上のトルクに変化させる。これに対して従来の装置では、常時、最適運転ライン上の運転状態すなわちトルクに制御する。したがってこの発明の装置と従来の装置とでは、加減速要求に伴う駆動力の変化過渡時に最適運転ラインから外れてエンジンを制御するか否かの点で顕著な相違がある。言い換えれば、従来の装置が最良燃費曲線に沿ってエンジンの制御をおこなうのに対して、この発明の装置は、エンジンのトルクを、目標運転状態の等出力線上のトルクに変更した後、その等出力線に沿って目標運転状態にまでトルクを変化させる点に両者の装置の相違がある。
【0039】
つぎにこの発明の他の例を説明する。図3は加減速の要求に伴う変速過渡時に駆動力を変速終了後の駆動力に近似させるように構成した例である。先ず、エンジン運転目標ポイント設定手段により目標運転状態を設定する(ステップ11)。これは、例えば図2における符号Cや符号Gで示す運転状態を設定する制御であり、図1に示す例と同様に、アクセル開度Accなどの駆動力の要求量と現在の車速Vとに基づいて要求駆動力を求め、さらにその要求駆動力となる目標出力を求めることによりおこなうことができる。
【0040】
エンジン出力は、トルクと回転数との積で表されるから、上記のようにして求められた目標出力から目標エンジン回転数Netと最終目標エンジントルクTt とが求められ、これらの値と現在のエンジン回転数Ne とによって目標エンジントルクTo が求められる(ステップ12)。すなわち最終目標エンジントルクTt と目標エンジン回転数Netとの積である目標出力を、現在のエンジン回転数Ne で割り算することにより、目標エンジントルクTo が求められる。したがってこのステップ12は、図1に示すステップ5と実質的に同じである。そしてエンジントルク制御手段がその目標エンジントルクTo となるようにエンジン1を制御する。
【0041】
また一方、ステップ12で目標エンジン回転数Netが求まることにより、変速制御手段がその目標エンジン回転数Netと現在のエンジン回転数Ne とに基づいて変速比を制御する(ステップ14)。
【0042】
したがってこの図3に示す例では、ステップ11が請求項1における目標駆動力を求める手段および目標出力を求める手段ならびに目標回転数を求める手段に相当し、またステップ12が請求項1の目標出力トルクを求める手段に相当し、ステップ13が請求項1の動力源を制御する手段に相当し、さらにステップ14が請求項1の変速比を制御する手段に相当する。
【0043】
上述したようにこの発明では、エンジン1の出力トルクと回転数とを互いに独立して制御できることを利用し、変速当初は、最適運転ラインを外れてトルクの制御をおこない、ついで最適運転ライン上の運転点での運転状態となるように変速をおこなう。その場合、変速比の変化のさせ方すなわち変速速度の設定の態様によっては変速の遅れ感やエンジン回転数の意図しない変化などが生じることがある。そこでこの発明では、変速速度を複数段階に変化させるように制御する。その例を上述した図2におけるD点で示す運転状態からG点で示す運転状態に変化させる場合を例にとって説明する。
【0044】
図5はその制御例を説明するためのフローチャートであって、先ず、第1目標変速比を算定する(ステップ21)。D点からG点への運転状態の変更は、前述したように加速要求に基づく変更であり、したがって、目標出力Pに対応したその時点での出力トルクとなるようにエンジン1の出力トルクが制御される。その場合、図2に示す例では、加速要求時点における目標トルクが、エンジン1で出力することのできる最大トルクを越えているので、E点として示すトルクまでエンジン1の出力トルクが制御され、かつそのトルクに対応する目標出力Pでの回転数にエンジン回転数が制御される。これは、F点で示されている。
【0045】
このD点で示す運転状態からF点で示す運転状態への変更の際に、出力トルクの増大によって車速が増大することがあり、またF点でのエンジン回転数が変速判断成立時におけるD点でのエンジン回転数より高回転数であるから、エンジン回転数をF点で示される回転数に設定するためには、変速比を制御する必要がある。したがってF点で示されるエンジン回転数を車速で割った値が第1目標変速比となる。
【0046】
つぎに、この目標出力に対応するトルクを出力する運転状態までの変速すなわち第1目標変速比への変速を第1変速期間とすると、この第1変速期間における変速速度すなわち第1変速速度を設定する(ステップ22)。この第1変速速度は、可及的に速いことが好ましく、例えば図6の(A)に示すように、アクセル開度の変化率(エンジン出力の変化量)Δαに対する変速速度(de/dt)をマップとして予め設定しておき、そのマップに基づいて決定することができる。また、図6の(B)に示すように、目標回転数と実回転速度との差ΔNに対する変速速度(de/dt)をマップとして予め設定しておき、そのマップに基づいて決定することができる。いずれの場合も、アクセル開度の変化率Δαあるいは回転速度差ΔNが大きいほど、変速速度(de/dt)が大きくなる。
【0047】
さらに目標出力Pでの最適運転ライン(最良燃費線)上のG点で示される運転状態におけるエンジン回転数となるように第2目標変速比を設定する(ステップ23)。このG点でのエンジン回転数は前述した目標回転数Netであり、したがって車速で割った値が第2目標変速比である。
【0048】
この第2目標変速比への変速をおこなう第2変速期間での第2変速速度を設定する(ステップ24)。この第2変速期間の変速速度は、上述した第1変速期間での変速速度より遅い変速速度に設定される。例えば予め定めた一定の変速速度とすることができる。また、最適運転ライン上の運転点に近づくに従って変速速度を遅くすることができる。すなわち図2におけるG点で示す最適運転ライン上の運転点から離れるほど、燃費の悪い運転状態となるから、G点から遠く離れている状態では変速速度を速くして、燃費の悪い状態での運転時間を短くすることが好ましい。さらに、上述した第1変速期間での変速速度を決定する場合と同様に、目標回転数と実回転数との差ΔNに対する変速速度(de/dt)をマップとして予め設定しておき(図7参照)、そのマップに基づいて決定してもよい。
【0049】
このようにして設定された変速速度での変速を実行する変速指令信号を出力する(ステップ25)。したがって上述したD点からG点への変速の場合、第1変速期間では迅速に変速が実行されるので、変速の遅れを生じることなく、目標とする駆動力を得ることができ、また第2変速期間では第1変速期間よりもゆっくり変速が進行してエンジン回転数が車速の変化に応じて変化する。そのため、加速力の不足や車速の変化に沿わないエンジン回転数の変化(回転数のふらつき)などが防止され、変速時の違和感が未然に回避される。
【0050】
ここで図5ないし図7に示す具体例と請求項3の発明との関係を説明すると、図5に示すステップ5およびステップ7の機能が請求項3の発明における変速速度制御手段に相当する。
【0051】
ところで、上述した制御では、アクセルペダルを踏み込むなどの操作による出力の変更要求があった場合、目標エンジン回転数Netを求め、実際のエンジン回転数がその目標エンジン回転数となるように無段変速機の変速比を制御する。したがって例えばアクセルペダルを大きく踏み込んだ場合、エンジン回転数は通常使用される最高回転数に増大し、その状態で車速が次第に増大することになる。すなわちエンジン回転数のみが先行して変化し、その後に車速が変化することになる。これに対して手動変速機や有段式の自動変速機を搭載している通常の車両では、エンジン回転数と車速とが並行して変化するので、エンジン回転数のみが先行して変化すると、違和感を生じることがある。この発明の制御装置では、そのような違和感を回避するように変速比を制御することも可能である。以下その例を説明する。
【0052】
図8はその制御例を説明するためのフローチャートであって、この図8に示す制御ルーチンは、予め定めた時間Δt(ミリ秒)ごとに実行される。図8において、先ず、アクセル開度および車速を入力する(ステップ31)。ついで入力したアクセル開度および車速ならびに予め記憶している目標駆動力マップに基づいて目標駆動力を求める(ステップ32)。このステップ32の制御は、図1に示すステップ1と同様の制御である。
【0053】
その目標駆動力と入力してある車速とに基づいて目標出力を演算する(ステップ33)。このステップ33の制御は図1に示すステップ2の制御と同様の制御である。そして、エンジン1を制御するために、エンジン回転数を入力(ステップ34)するとともに、そのエンジン回転数と目標出力とから目標エンジントルクを求める(ステップ35)。このステップ35の制御は、図1に示すステップ5の制御と同様の制御である。こうして求められた目標エンジントルクとなるようにエンジン1のスロットル開度や燃料噴射量を制御する(ステップ36)。このステップ36は、図1にエンジントルク制御手段として示すステップ6での制御と同様の制御である。
【0054】
他方、ステップ33で求められた目標出力と予め記憶してある目標エンジン回転数マップ(テーブル)とに基づいて目標エンジン回転数を求める(ステップ37)。このステップ37の制御は図1に示すステップ3と同様の制御であるが、後述するように、目標とするエンジン回転数が制限されることがあるので、図8のステップ37では、目標出力およびマップから求められたエンジン回転数を仮目標エンジン回転数としてある。
【0055】
つぎに、車両の走行モードとしてパワーモードが選択されているか否かが判断される(ステップ38)。この走行モードは、例えば従来の自動変速機を搭載した車両に設けられているモード切換スイッチなどの選択手段と同様の手段によって選択されるモードであって、パワーモードは、相対的に大きい変速比を使用してエンジン回転数を高くすることにより、駆動力を大きくした状態で走行するモードである。
【0056】
パワーモードが選択されていることによりステップ38で肯定判断された場合には、車速制限最高エンジン回転数マップに基づいて車速制限最高エンジン回転数を設定する(ステップ39)。その車速制限最高エンジン回転数マップの例を図9に示してあり、パワーモードが選択されている場合には、図9にNemax1の符号を付してあるマップに従って車速制限最高エンジン回転数を設定する。このマップは、車速の増大に従って車速制限最高エンジン回転数を次第に増大させるマップであり、その上昇勾配が最も大きく、かつ変速比が最増速変速比に達する以前にエンジン回転数が最高使用エンジン回転数に達するように設定される。なおここで、最高使用エンジン回転数は、出力が最大となる回転数であってエンジン1ごとに設定されている回転数である。
【0057】
これに対してパワーモードが選択されていないことにより、ステップ38で否定判断された場合には、車速制限最高エンジン回転数を図9にNemax2もしくはNemax3で示すマップに基づいて設定する(ステップ40)。これらのマップNemax2,Nemax3は、相対的に小さい変速比を使用してエンジン回転数を下げるマップであり、そのうちのNemax2で示すマップは、車速制限最高エンジン回転数の増加勾配が車速の増大に応じて二段に低下し、最増速変速比で最高使用エンジン回転数となるように設定したマップである。また、Nemax3で示すマップは、車速制限最高エンジン回転数が直線的に増大するように設定したマップである。
【0058】
このようにして求められた車速制限最高エンジン回転数と前記の仮目標エンジン回転数とが比較される(ステップ41)。前記ステップ37で求められた仮目標エンジン回転数が車速制限最高エンジン回転数より小さい場合には、ステップ41で肯定判断される。すなわちアクセルペダルの踏み込み量が少ないことにより出力の増大要求が小さい場合には、仮目標エンジン回転数が小さくなり、ステップ41で肯定判断される。その場合、ステップ42に進んで、前記ステップ37で求められた仮目標エンジン回転数が目標エンジン回転数として採用される。
【0059】
これに対して出力の増大要求量(すなわち加速要求)が大きいと、仮目標エンジン回転数が大きくなるので、ステップ41で否定判断される。すなわち仮目標エンジン回転数が車速制限最高エンジン回転数を越えてしまうので、この場合は、マップから求まる車速制限最高エンジン回転数が目標エンジン回転数として採用される(ステップ43)。すなわち目標エンジン回転数が制限される。
【0060】
そして、ステップ42もしくはステップ43で設定された目標エンジン回転数となるように無段変速機の変速比が制御される(ステップ44)。これは、図1に示すステップ4での変速制御手段による制御と同様である。
【0061】
したがって図8に示す制御では、出力の増大要求が大きい場合、目標エンジン回転数が目標出力に基づいた回転数に設定されずに、車速に応じた回転数に制限される。そのため、エンジントルクが増大して車速が大きくなるに従って目標エンジン回転数すなわちエンジン回転数の上限値が増大することになり、その結果、エンジン回転数が車速の増大に伴って増大する。言い換えれば、加速時にエンジン回転数をある程度抑制することになるので、加速時の騒音を低下させることができる。また、エンジン回転数の上昇が車速の増大に対応して生じるので、体感される速度感とエンジン1の挙動との齟齬が少なくなって違和感を回避することができる。また、選択されている走行モードによって目標エンジン回転数の制限の仕方を異ならせてあるので、運転者の要求に応じた加速性や静粛性を達成でき、運転者の要求する走行をおこなうことができる。
【0062】
ここで上記の図8に示す制御をおこなう装置と請求項4の発明との関係を説明すると、上記のステップ39およびステップ40の機能が、請求項4の発明における目標回転数制限手段に相当する。
【0063】
なお、上記の図8および図9に示す例では、目標エンジン回転数の制限値を車速に応じて変化させることとしたが、目標エンジン回転数の制限値は、要は、出力の変更要求があった後に次第に変化させればよいのであって、例えばタイマを用いて、制御開始後、一定時間ごとに目標エンジン回転数の制限値を段階的もしくは連続的に変化させてもよく、あるいは車速に替わる他のパラメータに従って目標エンジン回転数の制限値を変化させてもよい。また、上記の例では、アクセル開度としてアクセルペダルの踏み込み量に基づく値を採用したが、この発明では、例えば車速を、運転者によって設定された車速に維持するクルーズコントロール装置から出力される出力要求信号をアクセル開度信号とすることもできる。
【0064】
上述した各具体例から知られるようにこの発明の制御装置は、目標出力に基づいて目標エンジン回転数および目標エンジントルクを算出し、かつ無段変速機の変速比およびエンジンの出力トルクをそれぞれ制御するように構成されている。したがってエンジン1から駆動輪に到る動力伝達系統およびその制御系統に何らかの故障もしくは異常があった場合においても、無段変速機の変速比およびエンジンの出力トルクを同時に制御することが好ましい。その制御例を示せば、以下のとおりである。
【0065】
図10および図11はその制御例を示しており、ここに示す例では、故障時の目標出力の制限のために、アクセル開度を制限するように構成されている。すなわち図10に示す制御ルーチンは予め定めた所定時間Δt(ミリ秒)ごとに実行されるルーチンであって、先ず、実アクセル開度と車速とが入力される(ステップ51)。ここで、実アクセル開度とは、アクセルペダルの踏み込み角度であり、これを電気的に処理してアクセル開度が得られる。
【0066】
つぎに故障状態が発生しているか否かが判断される(ステップ52)。その故障状態は、要は、エンジン1から駆動輪に到るまでの無段変速機6を含む動力伝達系統およびその制御のための系統での故障であり、エンジン1を制御する電子制御装置4や無段変速機6のための電子制御装置9での故障の他に、エンジン1のスロットル開度を検出するスロットル開度センサ、エンジン1の吸入空気量を検出するエアフローメータ、エンジン1に対する燃料の供給系統、エンジン1の吸気を制御する吸気制御弁、電子スロットルバルブ、排気をエンジン1に対して循環させるEGR弁、無段変速機6における変速制御弁、回転数センサなどの故障である。これらの故障は、例えば指令信号と検出信号との不一致によって検出することができる。
【0067】
故障が検出されないことによりステップ52で否定判断された場合には、実アクセル開度をマップ用アクセル開度とする(ステップ53)。これを図によって示せば図11のとおりであり、前述した図1のステップ1で目標駆動力を求める際に使用するアクセル開度Accとして実際のアクセルペダルの踏み込み量に1対1で対応する値を設定しておき、故障の生じていない正常時にはその値をアクセル開度として使用する。
【0068】
これに対して故障が検出されることによりステップ52で否定判断された場合には、実アクセル開度が故障状態での制限値より小さいか否かが判断される(ステップ54)。この故障状態での制限値は、検出された故障の状態に応じてエンジン1の出力を制限するためのものであって、例えば図11に示すように、故障の内容に応じて一定値に設定されている。
【0069】
実アクセル開度が故障状態制限値より小さいことによりステップ54で肯定判断された場合には、実アクセル開度がマップ用アクセル開度すなわち制御で使用されるアクセル開度として採用される(ステップ53)。これに対して実アクセル開度が故障状態制限値以上であることによりステップ54で否定判断された場合には、故障状態制限値がマップ用アクセル開度すなわち目標駆動力を決定するためのアクセル開度として採用される(ステップ55)。したがって故障状態が検出された場合には、実アクセル開度が大きくても制御のために採用されるアクセル開度は、小さい値に制限される。
【0070】
このようにして求められたマップ用アクセル開度と車速ならびに予め記憶しているマップとに基づいて目標駆動力が求められ(ステップ56)、さらにこの目標駆動力と車速とに基づいて目標出力が求められる(ステップ57)。これらのステップ56およびステップ57は、図1に示すステップ1およびステップ2、あるいは図8に示すステップ32およびステップ33と同様の制御である。
【0071】
そして図1に示す制御例あるいは図8に示す制御例と同様に、エンジン回転数を入力し(ステップ58)、そのエンジン回転数と目標出力とから目標エンジントルクを算出し(ステップ59)、さらにその目標エンジントルクとなるようにスロットル開度および燃料噴射量を制御する(ステップ60)。他方、これと並行して、目標出力と予め記憶している目標エンジン回転数テーブル(マップ)とに基づいて目標エンジン回転数を求め(ステップ61)、その目標エンジン回転数となるように無段変速機6の変速比を制御する(ステップ62)。このステップ61およびステップ62の制御は、図1に示すステップ3およびステップ4、あるいは図8に示すステップ37およびステップ44と同様の制御である。
【0072】
したがって故障状態が検出されると、その故障内容に応じてアクセル開度が制限されるので、そのアクセル開度に基づいて求められる目標駆動力が小さい値となり、さらにその目標駆動力に基づいて求められる目標出力が、正常時より小さい値となる。エンジン1の出力および無段変速機6の変速比は、この目標出力を達成するように制御されるので、結局、エンジントルクや無段変速機6の出力軸トルクあるいは駆動トルクが、正常時よりも低い値に制限される。その結果、故障時において走行のための駆動力を可能な限り確保できるとともに、故障状態で過大な駆動トルクが生じることが防止されて動力伝達系統の損傷やその損傷の悪化を防止することができる。
【0073】
したがって図10および図11に示す制御を実行する具体例と請求項5の発明との関係を説明すると、図10におけるステップ52の機能が、請求項5の発明における故障検出手段に相当し、またステップ55の機能が請求項5の発明における制限手段に相当する。また、このステップ55の機能は、検出された故障の内容ごとに目標出力の制限値を設定する手段となっている。
【0074】
上述した各具体例は、アクセル開度Accに代表される出力要求量が変更された場合にエンジントルクと無段変速機での変速比を制御する例であり、これは、いわゆる自動変速モードでの制御例である。一方、最近では、基本的な構成が自動変速機であってもその変速機で設定するべき変速比を手動操作によって直接指示するように構成した自動変速機が開発されている。これは、自動変速機での変速制御が電気的におこなわれるようになってきていることを背景に、走行状態に基づいて出力される変速指示信号と同様の信号を、手動操作可能なスイッチから出力するように構成した装置である。この発明で対象とする無段変速機を搭載した車両においても、変速比を手動操作によって直接指示するように構成することも可能であり、以下にその例について説明する。
【0075】
図12は、図4に示すシステムに手動変速機構20を追加して設けたシステムを示しており、この手動変速機構20は、変速比の指示信号を出力する変速比指示スイッチ21と、その変速比指示スイッチ21の機能を選択的に有効にする有効化スイッチ22とを備えている。その変速比指示スイッチ21は、例えばシフトレバーを備えたシフト装置(それぞれ図示せず)に内蔵されたアップシフトスイッチおよびダウンシフトスイッチであり、あるいは複数の変速比ごとに設けられた複数の変速段スイッチであって、シフトレバーによってオン動作されて信号を出力するように構成されている。あるいはまた、ステアリングホイール(図示せず)に設けられたスイッチであり、手動でオン操作されてアップシフト信号およびダウンシフト信号もしくは変速比を直接指示する信号を出力するように構成されている。さらに、変速比指示スイッチ21は、オン動作させられている間、数値を連続的に増大もしくは減少させ、オフ状態に切り替わった時点のカウント値を、選択された変速比として出力する構成であってもよい。
【0076】
有効化スイッチ22は、このように機能する変速比指示スイッチ21を有効に動作させるためのものであり、例えばシフト装置にモード切換スイッチとして内蔵されている。すなわち自動変速モードから手動変速モードにシフトレバーを操作することによりオン動作させられ、それに伴って上記の変速比指示スイッチ21が有効に機能するように構成されている。なお、その有効化スイッチ22もステアリングホイールなどの適宜の位置に設けることができる。
【0077】
これらの各スイッチ21,22が無段変速機用の電子制御装置9に電気的に接続されている。そしてこの電子制御装置9では、前記有効化スイッチ22から信号が入力されることにより、いわゆる手動変速モードに切り替わり、その時点の変速比を一時的に維持するとともに、その切り換えに続けて変速比指示スイッチ21から入力される信号に基づいて所定の変速比を設定する制御を実行するようになっている。これは、例えばアップシフト信号もしくはダウンシフト信号が入力された場合には、現在の変速比に対して予め定めた変速比幅の他の変速比を設定するように構成してもよく、あるいは選択可能な複数の変速比を予め用意しておき、変速比指示スイッチからの信号によってそれらの変速比のうちのいずれかを選択して設定するように構成することもできる。
【0078】
このような手動操作に基づく変速指示がおこなわれた場合の制御例を図13に示してある。手動操作で選択可能な変速比γ(第1速、…第n速)ごとに、アクセル開度(出力要求量)Accに応じて車速Vと駆動力Fとの関係を示すマップが用意されている。したがって所定の状態で走行している際に、手動操作によって変速比γが選択されると、その変速比γに応じたマップが読み出され、その時点の車速Vとアクセル開度Accとに基づく目標駆動力Fがマップから求められる(ステップ1A)。
【0079】
つぎにその目標駆動力Fとその時点の車速Vとに基づいて原動機(エンジン1)の目標出力P(=F×V)が求められる(ステップ2A)。このステップ2Aは、前述した図1に示すステップ2と同じである。この目標出力Pから目標エンジントルクToを求めてエンジン1を制御するプロセスは図1に示す制御例と同様であり、目標出力Pとエンジン回転数Ne とによって目標エンジントルクTo を求め(ステップ5A)、その目標エンジントルクTo となるようにエンジントルク制御手段がエンジン1のスロットル開度や燃料噴射量などを制御する(ステップ6A)。
【0080】
これに対して、無段変速機6における変速比は、エンジン回転数Ne が目標回転数Netに一致するように制御される。その点では、図1に示すステップ3およびステップ4の制御と同様である。具体的には、手動操作によって選択された変速比γと車速Vとに基づいてエンジン1の目標回転数Net(=C×V×γ)が求められる(ステップ3A)。ここでCは定数であって、タイヤ径や最終減速機での変速比などを考慮した値である。そしてその目標エンジン回転数Netと現在のエンジン回転数Ne とを比較し、実際のエンジン回転数Ne が目標エンジン回転数Netに一致するように、変速制御手段によって無段変速機6の変速比が制御される(ステップ4A)。
【0081】
したがって変速比を手動操作によって直接選択する場合であっても、無段変速機6の変速比は、入力側の回転数と出力側の回転数とを検出しつつこれらの回転数の比が、手動操作で指示された変速比となるように制御するのではなく、手動操作で選択された変速比に対応する目標エンジン回転数に実エンジン回転数が一致するように制御される。
【0082】
このような無段変速機6の変速比の制御は、図1に示すいわゆる自動変速モードでの変速比制御と同様の手順の制御である。したがって変速比を手動操作によって直接指示するいわゆる手動変速モードであっても、図1に示す制御を実行するシステムを利用して実行することができる。
【0083】
これを、変速比を基準にして制御する場合と比較して説明すると、無段変速機6はその名称が示すように変速比を連続的に変化させることができ、特定の変速比を設定するためには、入力側の回転数と出力側の回転数とを検出するとともに、それらの回転数の比率を算出し、その算出された値と、目標とする変速比とを更に比較し、その算出値と目標とする変速比とが一致するように、ベルト式の無段変速機ではプーリー幅を油圧によって変更し、またトロイダル式の無段変速機ではパワーローラの傾きを制御することになる。すなわち変速比を基準にして制御をおこなうためには、無段変速機での入力側と出力側との回転数の検出やその比率の演算、その演算結果と目標とする変速比との比較など、図1に示す自動変速モードでの演算プロセスとは異なる演算プロセスを必要とする。
【0084】
そのため、手動変速モードの際に変速比を基準に制御するとすれば、自動変速モードでの制御の際と異なる制御プロセスが必要となり、制御装置の大容量化などの不都合が生じる。これに対して上述したこの発明に係る制御では、自動変速モードと手動変速モードとで共通した制御プロセスとなるので、制御装置の小容量化や小型化が可能になる。
【0085】
なお、上記の具体例では、手動変速機構によって変速比を直接するように構成した例を説明したが、この発明では、変速比の最低値(高車速側の最高値)を複数パターンに制限する構成とすることができる。これは、設定可能な変速比の幅を変更する機構であって、いわゆるレンジ切換に相当し、例えばDポジション、“4”ポジション、“3”ポジション、“2”ポジション、Lポジションなどのポジションごとに変速比の上限値(高車速側の値)を順に大きく(低車速側に)設定するように構成してもよい。この場合、前述した有効化スイッチ22は不要となる。このような構成であっても、走行中にシフトポジションを切り換えることにより、変速比が特定の値に制限され、その変速比への変速を実行することになるので、その変速比を設定する変速制御では、上述した変速比を手動で指示する変速と同様に制御が実行される。
【0086】
ここで図12および図13に示す具体例と請求項6の発明との関係を説明すると、上記の手動変速機構20が請求項6の手動変速機構に相当し、また図13に示すステップ1Aを実行する機能的手段が請求項6の発明における目標駆動力を求める手段に相当し、図13に示すステップ3Aを実行する機能的手段が請求項6の発明における目標出力回転数を求める手段に相当する。
【0087】
つぎに、この発明における好ましい実施の態様を挙げれば、以下のとおりである。
【0088】
前記目標出力トルクに向けて前記動力源の出力を制御している第1変速期間は変速速度を速くし、目標出力における前記予め定めた目標出力回転数に向けて回転数を変化させる第2変速期間は変速速度を遅くする。
【0089】
前記予め定めた目標出力回転数は、前記目標出力で燃費が最適になる回転数である。
【0090】
第1変速期間での変速速度は、出力の変化率に基づいて決定される。
【0091】
第1変速期間での変速速度は、目標出力回転数と実回転数との差に基づいて決定される。
【0092】
第2変速期間での変速速度は、予め定めたられた時間に基づいて決定される。
【0093】
第2変速期間での変速速度は、目標出力回転数に近づくに従って遅くなる変速速度である。
【0094】
第2変速期間での変速速度は、目標出力回転数と実回転数との差に基づいて決定される。
【0095】
第1変速期間の長さは、出力の変化率に基づいて決定される。
【0096】
第1変速期間の長さは、目標出力回転数と実回転数との差に基づいて決定される。
【0097】
走行のための駆動力が相互に相違する複数の走行モードを選択する走行モード選択手段と、動力源の目標回転数の制限値を、その走行モードごとに異ならせる手段を更に備えている。
【0098】
走行のための駆動力が相互に相違する複数の走行モードを選択する走行モード選択手段と、動力源の目標回転数の制限値の変化傾向を、その走行モードごとに異ならせる手段を更に備えている。
【0099】
目標出力を制限するための制限制御を実行する手段は、故障内容に応じて制限内容を異ならせる手段を含んでいる。
【0100】
目標出力を制限する制限制御を実行する手段は、制御データとして入力される出力要求量を制限する手段を含む。
【0101】
目標出力を制限する制限制御を実行する手段は、出力要求量に基づいて求められる目標駆動力を制限する手段を含む。
【0102】
目標出力を制限する制限制御を実行する手段は、目標駆動力に基づいて求められる目標出力を制限する手段を含む。
【0103】
なお、第2変速期間での変速速度を上記のようにして設定する替わりに、その第1変速期間の長さを設定して変速制御を実行してもよい。その変速期間の長さは、例えばアクセル開度の変化率や目標回転数と実回転数との差などに応じて決定することができる。また、上記の例では加速する場合に目標トルクがエンジン1の最大トルクを越える変速の場合について説明したが、目標トルクがエンジンの最大トルクを越えない加速の場合や減速の場合についても、上述した変速制御を同様に実施することができる。
【0104】
また、上述した具体例では、動力源が内燃機関の場合について説明したが、この発明は上記の例に限定されないのであって、電動機と内燃機関とを組み合わせて動力源とした車両などの他の形式の車両に適用することができる。その場合、内燃機関を最適運転ラインに沿って制御し、電動機の出力を前述した等出力線上での運転点およびその運転点から最適運転ライン上の運転点に変化させるように制御すればよい。また、変速速度の変化は、複数段階であればよいのであって、上述した2段階に限定されない。
【0105】
【発明の効果】
以上説明したように、請求項1の発明によれば、加減速の要求があった場合、その時点の動力源の出力回転数(あるいは出力角速度)と動力源の目標とする出力とに基づいて目標トルクを求め、そのトルクを出力するよう動力源を制御した後に目標出力まで動力源を制御するから、加減速の要求に適合した駆動トルクを得ることができ、その結果、車両としての動力性能あるいはドライバビリティを従来になく向上させることができる。
【0106】
また請求項2の発明によれば、目標駆動力を予め設定したマップに基づいて求めることができるので、出力要求に対する加速の特性の設定を容易におこなうことが可能になる。
【0107】
さらに、請求項3の発明によれば、例えば目標出力が求められると、その目標出力から目標出力トルクが求められ、動力源がその目標出力トルクを発生するように制御され、その場合、目標出力トルクが許容最大トルクを超えていて、例えば出力の増大要求に基づく変速であれば、目標出力に応じた動力源の回転数となるように急速に変速比が変化させられるので、要求に応じた駆動力が得られるとともに、動力源の回転数が車速の変化に対して乖離して変化することがなく、さらに、目標出力が達成された後、その出力での予め設定された目標出力回転数への変速の際には、変速比がゆっくり変化させられ、例えば車速の変化と動力源の回転数の変化とが対応した状態となるので、要求に応じた加減速度を得ることができ、また違和感のない変速を実行するができる。
【0108】
請求項4の発明によれば、出力要求量の変化が大きい場合であっても、動力源の出力回転数が、目標出力に対して予め設定した目標回転数に直ちに変化せずに、制限値で定まる回転数になり、その制限値が変化することに応じて動力源の回転数が、前記目標出力に対して予め設定した目標回転数に向けて次第に変化するので、例えば加速要求があった場合、動力源の回転数が車速の増大に関連して変化し、動力源の挙動の変化が車両の挙動の変化に合致したものとなり、その結果、違和感が生じることを未然に回避することができ、また動力源の回転数を抑制することになるので、騒音を緩和することができる。
【0109】
そして、請求項5の発明によれば、故障が検出された場合、前記目標出力を制限する制御が実行され、その結果、目標出力が出力要求に応じた値より小さくなるので、目標出力に基づいて設定される動力源の出力トルクや無段変速機の変速比が小さくなる。そのため、動力源の出力が伝達される動力伝達系統に、故障状態で過大な荷重が掛かることが未然に回避され、動力伝達系統を有効に保護することができるとともに、故障状態でも可能に限り駆動力が確保されて走行可能になる。
【0110】
さらに、請求項6の発明によれば、無段変速機で設定するべき変速比を、手動操作によって直接指示するように構成した場合であっても、その変速比を設定するための無段変速機の制御は、動力源の回転数をその変速比に応じた回転数に一致させるように実行され、すなわち動力源の回転数を基準に変速比の制御が実行され、同時に動力源の出力トルクは要求駆動力に基づいて手動変速以外の場合と同様に制御する。これは、要求駆動力に基づく変速比の自動制御の場合と同様の制御となり、その結果、請求項6の発明によれば、いわゆる自動変速制御と手動変速制御とで共通した制御プロセス(制御ロジック)を用いることになり、そのため制御装置を小容量化し、かつ小型化することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 請求項1の発明による制御例を説明するためのブロック図である。
【図2】 請求項1の発明の装置でエンジンの制御をおこなった場合の運転状態の変化を示す線図である。
【図3】 請求項1の発明の他の例を説明するためのブロック図である。
【図4】 この発明で対象とすることのできる動力伝達系統の一例を模式的に示すブロック図である。
【図5】 請求項3の発明の一例を説明するためのフローチャートである。
【図6】 第1変速期間での変速速度を決定するためのマップの例を示す図である。
【図7】 第2変速期間での変速速度を決定するためのマップの例を示す図である。
【図8】 請求項4の発明の一例を説明するためのフローチャートである。
【図9】 車速制限最高エンジン回転数マップの例を示す線図である。
【図10】 請求項5の発明の一例を説明するためのフローチャートである。
【図11】 実アクセル開度の故障に伴う制限をおこなうためのマップの異例を示す線図である。
【図12】 請求項6の発明による制御系統の一例を模式的に示すブロック図である。
【図13】 請求項6の発明による制御例を説明するためのブロック図である。
【符号の説明】
1…原動機、 4,9…電子制御装置、 6…無段変速機、 20…手動変速機構。

Claims (6)

  1. 出力要求量と車速とに基づいて目標駆動力を求める手段と、その目標駆動力を達成するための動力源の目標出力を求める手段と、その目標出力に対して予め設定された目標出力回転数を求める手段と、動力源の実際の出力回転数がその目標出力回転数となるように無段変速機の変速比を制御する手段とを有する無段変速機を備えた車両の制御装置において、
    前記目標出力における前記動力源の現在の出力回転数に対応したトルクを前記動力源の設定するべき目標出力トルクとして求める手段と、
    前記動力源の出力トルクがその目標出力トルクとなるように前記動力源を制御する手段とを更に具備し、
    前記動力源の出力トルクが前記目標出力トルクに達した後は、前記動力源の出力を前記目標出力に維持しつつ動力源の出力回転数が前記目標出力回転数となるように変速比を制御するように構成されていることを特徴とする無段変速機を備えた車両の制御装置。
  2. 前記目標駆動力を求める手段が、出力要求量と車速とに関連して駆動力を定めてあるマップに基づいて目標駆動力を求める手段を備えていることを特徴とする請求項1に記載の無段変速機を備えた車両の制御装置。
  3. 記目標出力トルクが前記動力源の許容最大トルクを超えている場合に前記目標出力での許容最大トルクまで前記無段変速機の変速速度を相対的に速くし、その後前記目標出力回転数まで前記無段変速機の変速速度を相対的に遅くする変速速度制御手段を更に備えていることを特徴とする請求項1に記載の無段変速機を備えた車両の制御装置。
  4. 前記動力源の目標出力回転数を予め定めた制限値に制限するとともに、前記目標出力に対して予め設定された目標出力回転数を求める手段で求められた前記目標回転数に一致するように前記制限値を次第に変化させる目標回転数制限手段を更に備えていることを特徴とする請求項1に記載の無段変速機を備えた車両の制御装置。
  5. 前記動力源と無段変速機とのいずれか一方もしくはその動力源と無段変速機とのいずれかの制御系統の故障を検出する故障検出手段と、
    その故障検出手段が故障を検出した場合に、前記目標出力を制限するための制限制御を実行する制限手段と
    を更に備えていることを特徴とする請求項1に記載の無段変速機を備えた車両の制御装置。
  6. 前記無段変速機で設定するべき変速比を手動による選択操作で出力される変速信号によって指示する手動変速機構を更に備え、
    前記目標駆動力を求める手段が、前記手動変速機構によって選択された変速比ごとに出力要求量と車速とに基づいて目標駆動力を求める手段を含み、かつ
    前記目標出力回転数を求める手段が、前記目標出力に対して予め設定された目標出力回転数を求める替わりに、前記手動変速機構によって選択された変速比と車速もしくは車速に対応する所定の物理量とに基づいて目標出力回転数を求めるように構成されていることを特徴とする請求項1に記載の無段変速機を備えた車両の制御装置。
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