JP3887922B2 - チーズフードの製造法 - Google Patents
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Description
【産業上の利用分野】
本発明はチーズフードの製造法に関し、より具体的にはナチュラルチーズを使用するチーズフードの製造法に関する。
【0002】
【従来の技術】
ナチュラルチーズは、一般に加熱すると溶融し、溶融すると細長く糸のように延びる性質(曳糸性)を有し、風味も極めて良好である。しかし乍ら、乳酸菌を主とする細菌を大量に含んでおり、加熱殺菌工程がないため、風味や組織が絶えず変更しており、一定の品質を維持することは極めて困難なものであった。
【0003】
ナチュラルチーズを過度に熟成させないために、或は貯蔵性を向上させるために、ナチュラルチーズは加熱処理されるが、ナチュラルチーズをそのまま加熱すると油脂分離がおこり、良好なチーズが得られない。このため、一般にリン酸塩やクエン酸塩などの溶融塩を添加し、加熱処理するプロセスチーズが製造されている。
【0004】
しかし、溶融塩を使用するとチーズの風味を低下させたり、にが味、しぶ味、或はえぐ味が生じたり、リンやナトリウムなどの過剰摂取は人体にとって好ましくないことも通説になっており、さらに貯蔵中に溶融塩の析出がみられる等の問題があった。また、加熱溶融性や曳糸性の点でも必ずしも満足のいくものではなかった。
【0005】
溶融塩を使用することなくナチュラルチーズを加熱処理して加工する方法として、ナチュラルチーズを攪拌、加熱や冷却,製品水分など種々の条件をコントロールしてプロセスチーズにする方法(特開昭63−52840号)、10個以上のグリセリン単位とそれぞれ14〜18個の炭素原子を有する1〜2個の脂肪族アシルエステル基から構成されるポリグリセリンエステルを添加して加熱するプロセスチーズの製造法(特開昭62−146556号)、HLB10以上のポリグリセリン脂肪酸エステル及びアラビアガムなどの安定剤を添加して加熱するプロセスチーズ類の製造法(特開昭62−146557号)、モノエステル含量が80%以上のシュガーエステル及び/又は0/W型乳化性の強められたレシチン及びアラビアガム等の安定剤により好ましくは更に乳化剤としてポリグリセリン脂肪酸エステルを添加し、加熱溶融するプロセスチーズ類の製造法(特開平1−179648号)、平均分子量5000〜20000の加水分解グルテンを添加して加熱するプロセスチーズの製造法(特開平2−213545号)等が開示されている。
【0006】
特開昭63−52840号では製造条件にあまりにも制約が多くて実用的なものでなく、特開昭62−146556号、特開昭62−146557号や特開平1−179648号では、ナチュラルチーズのように加熱溶融性や曳糸性が付与されると記載されているが、乳化剤の添加を必須とするため風味の点で問題がある。また特開平2−213545号では溶融塩や乳化剤などを使用せず、油脂分離がなく組織が滑らかで食感や風味に優れたプロセスチーズの製造が可能となっているが、ナチュラルチーズとは異質の臭いや味が感じられる。
【0007】
チーズケーキやピザなどはチーズ風味をきかせた澱粉系食品であるが、逆に澱粉類を予め添加してナチュラルチーズの品質改善をしようとする試みとして、ナチュラルチーズに対して15〜30%の食用油脂、1〜5%のデンプン、2〜20%のカゼインナトリウム、35%以内の水を添加、加熱するチーズ様組成物(特開平1−218548号)、ナチュラルチーズに溶融塩と酸化澱粉、エーテル化、エステル化澱粉から1種類以上の澱粉を選択して添加し、加熱溶融して製造するチーズの製造法(特開平6−153791号)などが開示されている。
【0008】
特開平1−218548号はナチュラルチーズのように曳糸性があり、保存性が良好としているが、食用油脂などチーズ以外の成分が多すぎて元のチーズの風味とは異質の風味になる。特開平6−153791号は耐冷凍性や耐油ちょう性を有するとなっているが、単に酸化、エーテル化、エステル化した澱粉では耐冷凍性や耐油ちょう性にはある程度効果があるとしても、加熱時の油脂分離を抑える効果は弱く、油脂分離を防ぐために溶融塩を使用しては風味などの低下はまぬがれるものでなかった。
【0009】
このように上記の従来手段では、ナチュラルチーズを加熱処理するチーズ加工法としては必ずしも適当な方法でなく、その改善が強く望まれている。
【0010】
【発明が解決しようとする課題】
この課題は、加熱時の油脂分離がなく、冷却後の組織、食感、風味に優れ、再加熱しても油脂分離がなく、溶融性と曳糸性に優れたチーズフードを製造する方法を新たに開発することである。
【0011】
【発明を解決する為の手段】
本発明者等は上記の課題を解決すべく鋭意努力の結果、ナチュラルチーズに特定の変性をした澱粉を特定量使用することで問題点の解消をはかることができることを見出して本発明を完成するに至った。
【0012】
即ち、チーズフードを製造するに際し、ナチュラルチーズ100重量部に対して30重量%水溶液の粘度が10〜1000cpのオクテニルコハク酸澱粉を0.5〜5%添加し、加熱処理するチーズフードの製造方法である。
【0013】
本発明でいうチーズフードとは、1種類以上のナチュラルチーズを使用し、食品衛生法の添加物を添加するか又は添加せずに、粉砕、混合、加熱処理して製造するもので、製品中にチーズ分51%以上含有し、且つ乳に由来しない脂肪、蛋白質又は炭水化物の添加は最終製品重量の10%以内としたものを指称する。用いるナチュラルチーズとしては、プロセスチーズの原料として通常用いられているナチュラルチーズは全て用いることができ、特に制限はないが、加熱調理時の溶融性や曳糸性等の観点から、ゴーダチーズ、チェダーチーズ、エダムチーズなどの一般に曳糸性を有する硬質系のチーズがより好ましい。
【0014】
本発明に用いるオクテニルコハク酸澱粉とは、澱粉をオクテニルコハク酸エステル化して得られるオクテニルコハク酸澱粉の内、エステル化の前後を問わないが、何等かの方法で30重量%水溶液の粘度が10〜1000cpになるように分解したものを指称し、熱水可溶、或は冷水可溶何れのものも使用できる。
【0015】
30重量%水溶液の粘度が、10cp未満ではナチュラルチーズの加熱処理時に油脂分離がおこり、逆に1000cpを越えるとナチュラルチーズを加熱した際の溶融性が悪くなったり、チーズ風味の発現が弱くなったりする傾向がある。
【0016】
一方、オクテニルコハク酸澱粉以外のエーテル化澱粉やエステル化澱粉などの変性をしたもの、或は単に粘度が上記範囲になるように澱粉を分解したものを使用すると本発明にそぐわなくなる。
【0017】
オクテニルコハク酸澱粉は、澱粉にエステル化剤として例えば無水オクテニルコハク酸を作用させて容易に得られるが、澱粉の粘度低下法としては、30重量%水溶液の粘度が約10〜1000cpであればその製造法を特に限定する必要はなく、澱粉に微量の塩酸、硝酸などの酸と共に粉末状で焙焼する焙焼デキストリン、澱粉乳液に硫酸、塩酸などの酸や次亜塩素酸ソーダなどの酸化剤を添加して粒子状のままで澱粉を分解する可溶性澱粉、或いは蓚酸、塩酸などの酸やアミラーゼを添加して加熱し、澱粉を糊化して分解するマルトデキストリン(還元物も含む)などを製造する方法が利用できる。尚、可溶性澱粉のような加熱溶解タイプ、マルトデキストリンのような冷水溶解タイプの何れも、同じように用いることができ、加熱溶解タイプでは、例えば澱粉乳液にしてドラムドライヤーによる処理をして冷水可溶のアルファー澱粉にしてもよい。
【0018】
用いる原料としては、各種澱粉の何れでもよく特に制限はなく、具体例としては馬鈴薯澱粉、タピオカ澱粉、小麦澱粉、コーンスターチ、ワキシーコーンスターチ、サゴ澱粉や米澱粉などの天然澱粉をあげることができる。
【0019】
尚、30重量%水溶液の粘度は、固形分換算で該当試料60gと添加した水の合計量200gを内容量200ccのビーカーに秤取し、試料が冷水可溶の場合はそのまま溶解し、熱水可溶の場合は90℃まで昇温後冷却し蒸発水分補正後、B型回転粘度計によって30℃の粘度を測定したものである。
【0020】
本発明は、ナチュラルチーズを加熱する際に、ナチュラルチーズに30重量%水溶液の粘度が10〜1000cpのオクテニルコハク酸澱粉を添加して加熱処理するチーズフードの製造法である。
【0021】
本発明では、必須原料としてナチュラルチーズと30%水溶液の粘度が10〜1000cpのオクテニルコハク酸澱粉を使用するが、その際特に問題となるのはナチュラルチーズに対する該オクテニルコハク酸澱粉の添加量であり、用いるナチュラルチーズの種類やオクテニルコハク酸澱粉の粘度などによって一該に言えないが、ナチュラルチーズ100重量部に対して0.5〜5重量部、好ましくは1〜4重量部とする。
【0022】
ナチュラルチーズに対する該オクテニルコハク酸澱粉の添加量が0.5重量部未満では加熱時の油脂分離を防止できなかったり、チーズの組織が悪くなり、5重量部を越えるとチーズ風味が低下したり、加熱溶融性などが低下する。
【0023】
本発明のチーズフードの製造は、従来の製造法に従って行うことができる。即ちナチュラルチーズと30重量%水溶液の粘度が10〜1000cpのオクテニルコハク酸澱粉、必要に応じて水、着色量、着香料など添加して混合する。この際オクテニルコハク酸澱粉は添加順序を特に問題としなく、例えば予め水に分散、又は溶解後に混合してもよい。次にナチュラルチーズが溶融する程度、或はそれより幾分強めに加熱後冷却して製造される。尚、オクテニルコハク酸澱粉はナチュラルチーズを加熱中に添加することも可能である。
【0024】
このようにして得られたチーズフードは、チーズとしての組織や風味が良好で加熱時に油脂の分離がなく、溶融性や曳糸性に優れたものとなり、そのまま食することは勿論、ピザやハンバーグなどの食品ではシュレッド状、ストリングス状やスライス状など適当な形状にして食品の表面に乗せるなどの用途に利用すると、加熱によってチーズフードが容易に溶融し、適度な曳糸性もみられるチーズ風味に優れた食品となる。
【0025】
【実施例】
以下に本発明を参考例、実施例をもって説明するが、何れの例においても粘度はことわりのない限り30℃における固形分30重量%水溶液の粘度であり、部は重量部を表す。
【0026】
【参考例1】
攪拌下にある5重量%硫酸溶液13kgにタピオカ澱粉10kgを投入して分散し、45℃で加水分解反応をさせ、澱粉乳液の一部を連続的にサンプリングして、3重量%水酸化ナトリウム溶液で中和し、水洗後脱水した試料について粘度測定を行った。粘度の測定は固形分濃度が30重量%になるようにした澱粉乳液を90℃まで加熱し、50℃まで冷却して測定した。
【0027】
上記のようにして測定した粘度が約1200cp、約650cp、約350cp、になったところで、それぞれ2kgずつとりだし、3重量%水酸化ナトリウム溶液でpH6.5に中和して反応を停止し温度を30℃まで冷却した。次にそれぞれの澱粉乳液を攪拌しながら3重量%水酸化ナトリウム溶液を添加し、pHを8〜9に維持しながら、用いたタピオカ澱粉に対して3重量%になるような割合で無水オクテニルコハク酸を添加し、澱粉乳液のpHの変動がなくなったところで5重量%硫酸溶液で中和し、水洗、脱水し、乾燥して試料No.1、試料No.2、試料No. 3のオクテニルコハク酸澱粉が得られた。尚 、試料No.1、試料No.2、試料No.3の30重量%水溶液の粘度は、それぞれ1350cp、690cp、360cpであった。
【0028】
【参考例2】
30℃の水125部にタピオカ澱粉100部を分散した澱粉乳液を調製し、攪拌下で3%水酸化ナトリウム溶液を添加し、pHを8〜9に維持しながら、無水オクテニルコハク酸3部を添加し、澱粉乳液のpHが変化しなくなるまで反応後、5重量%硫酸溶液で中和し、水洗後脱水した。水に脱水ケーキを分散させボーメ18の澱粉乳液とし、澱粉乳液のpHが6±0.2になっていることを確認した後、「クライスターゼKD」(大和化成製のアルファアミラーゼ)を澱粉に対して0.1重量%添加し、85℃まで昇温後10分間保持後、95℃まで昇温して澱粉を液化した。得られた水溶液を87℃まで冷却後2等分し、それぞれに「クライスターゼKD」を対澱粉0.20重量%、0.40重量%添加し、87±1℃で30分間反応後、蓚酸を投入してpHを3.5まで低下して酵素を失活させ、炭酸カルシウムで中和し、活性炭で脱色後、噴霧乾燥して試料No. 4とNo. 5のオクテニルコハク酸澱粉を製造した。尚、試料No.4と試料No. 5の30重量%水溶液の粘度はそれぞれ13cpと7cpであった。
【0029】
【参考例3】
30℃の水130部にタピオカ澱粉100部を分散した澱粉乳液を調製し、攪拌下で3%水酸化ナトリウム溶液を添加し、pHを8〜9に維持しながら、無水酢酸を5部添加し、澱粉乳液のpHが変化しなくなるまで反応後、5重量%硫酸溶液で中和、水洗、乾燥して試料No.6のアセチル澱粉(エステル化澱粉)を製造した。尚、試料No. 6の30重量%水溶液の粘度は、粘度が高すぎて測定できなかった。
【0030】
【参考例4】
水120部に硫酸ナトリウム15部を溶解し、タピオカ澱粉100部を分散させた澱粉乳液を調製し、攪拌下で3重量%水酸化ナトリウム溶液33部滴下し、プロピレンオキサイド6部を添加し、40℃で20時間反応後5重量%硫酸溶液で中和し、水洗、脱水、乾燥して試料No.7のヒドロキシプロピル澱粉(エーテル化澱粉)を製造した。尚、試料No. 7の30重量%水溶液の粘度は、粘度が高すぎて測定できなかった
【0031】
【実施例1】
ステンレス製の容器にチェダーチーズ100部と水10部に溶融塩としてクエン酸ナトリウム(CTA)、ポリリン酸ソーダ(PPA)、乳化剤としてデカグリセリンモノパルミテート、澱粉系試料として試料No.1〜試料No.5のオクテニルコハク酸澱粉、試料No.6のアセチル澱粉、試料No.7のヒドロキシプロピル澱粉、「スタビローズK」(松谷化学工業製の可溶性澱粉)を表1の割合で投入し、該容器を沸騰水中に浸漬し、攪拌速度約100rpmで攪拌しながら品温85℃まで加熱し、加熱によるチーズ類の油脂分離と風味を下記の基準で評価した結果を表1に示す。尚、表1において、澱粉系試料の次の( )内は、30重量%水溶液の粘度である。
【0032】
<油脂分離の評価>
◎:全くみられない
○:殆どみられない
△:かなり多い
×:非常に多い
<風味の評価>
◎:ナチュラルチーズと同等もしくは非常に近い風味
○:ナチュラルチーズに近い風味
△:ナチュラルチーズ由来の風味が幾分弱く感じられる。
×:苦みやえぐみが感じられたりして風味が悪い。
【0033】
【表1】
【0034】
【実施例2】
チェダーチーズ50部、ゴーダチーズ50部、試料No.3のオクテニルコハク酸澱粉3部と水15部を実施例1に準じて加熱し、ポリ容器に充填し、常温まで冷却し、得られたチーズフードを冷蔵庫で1週間放置した。
冷蔵1週間後のチーズフードは組織が滑らかで、油脂分離もなく食感や風味も極めて良好なものであった。さらに、このチーズフードを85℃まで加熱したところ、容易に溶融し、油脂分離もなく曳糸性にも優れたものであった。
【0035】
【実施例3】
市販の未加熱のハンバーグをフライパンで焼いた後、実施例2で得られたチーズフードをシュレッド状にして表面に振りかけると、チーズフードが容易に溶融し、チーズ風味に優れたハンバーグとなった。
Claims (1)
- チーズフードを製造するに際し、ナチュラルチーズ100重量部に対して、30重量%水溶液の粘度が10〜1000cpのオクテニルコハク酸澱粉を0.5〜5重量部添加することを特徴とするチーズフードの製造法。
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