JP3887908B2 - セラミック用焼結助剤 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明はセラミックの製造に有用な焼結助剤、特に、珪素以外の添加剤を金属塩溶液として添加するときに、その添加剤と共に用いるのに適した珪素系の焼結助剤に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来より、セラミックは固相反応を利用して原料粉体を焼結させることによって製造されている。ところが、この固相反応でセラミックを得るためには高い温度で焼成する必要がある。このため、製造設備として高価な焼成炉を必要とするというデメリットや、又、高温で焼成することにより、成分の揮発によって組成ずれが生じたり偏析相が生成するなどの品質上の問題が生じる。そこで、焼結温度を下げるために焼結助剤を添加し、低い温度で焼結させることが一般に行われている。
【0003】
この焼結助剤として多く用いられてきているのが、珪素を主成分とするガラス粉末である。そして、近年特に、高機能性、高信頼性などが要求されるようになり、緻密でかつ構成成分の偏析のない均一な微細構造を有するセラミックがより一層必要となっており、それにともない焼結助剤として使用される珪素成分についてもより微細なコロイダルシリカなどが用いられるようになってきている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、焼結助剤として前記ガラス粉末を用いた場合、SiO2などのガラス成分の分散性が悪く、セラミック中にガラス成分を主成分とした偏析相が生成する。そして、この偏析相がセラミックの特性にも悪影響を及ぼし、特性ばらつきの増大、製品不良率のアップなどにつながるという問題点を有していた。
【0005】
そこで、焼結助剤をセラミックの原料粉体に均一かつ微細に分布させるために、アルコキシドなどの有機珪素化合物溶液を使用することが提案されているが、一般に珪素アルコキシドのような有機珪素化合物は揮発性が高く、仮焼などの加熱処理中に揮発し、珪素成分が目的とする添加量より減少し、それによって所望の焼結性が得られないという問題点を有していた。
【0006】
又、焼結助剤としてコロイダルシリカを使用することが行われてきたが、従来用いられてきたコロイダルシリカは、水ガラス又はオルト珪酸エチルを出発原料として、これを縮重合させて得られるものが一般的であり、得られたコロイダルシリカの表面官能基は水酸基やエトキシ基となっている。ところで、セラミックの特性改善のため、焼結助剤以外にも種々の副成分を主成分のセラミック原料に添加することが一般的に行われている。近年、これら副成分を主成分原料中に微細に均一に分散させるため、副成分の原料として酸化物などの粉末ではなく、無機金属塩溶液又は有機金属塩溶液の形態で主成分原料と混合して乾燥することが行われるようになってきた。しかしながら、これらの金属塩溶液、特に希土類元素のような多価イオンを含む金属塩溶液を上記のコロイダルシリカと混合した場合、コロイダルシリカが凝集して沈殿が生じ、その結果、珪素成分の分散性が悪くなって偏析が生じ、所望の焼結性及び均一な微細構造を有するセラミックが得られないという問題点を有していた。
【0007】
そこで、本発明の目的は、上記問題点を解決して、緻密でかつ構成成分の偏析のない均一な微細構造を有するセラミックを得ることができる、珪素成分を含む焼結助剤を提供することにある。
【0008】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するため、本発明のセラミック用焼結助剤は、シランカップリング剤、ヒドロキシカルボン酸、ポリカルボン酸及びβ−ジケトンのうち少なくとも1種で変性された、シロキサンポリマー又はコロイダルシリカからなることを特徴とする。
【0009】
又、前記変性されたシロキサンポリマーは、該シロキサンポリマー分子末端の少なくとも一部に、シランカップリング剤、ヒドロキシカルボン酸、ポリカルボン酸及びβ−ジケトンのうち少なくとも1種が結合しているものであることを特徴とする。
【0010】
又、前記シロキサンポリマーの分子量は、ポリスチレン換算重量平均分子量で3000〜100000の範囲内にあることを特徴とする。
【0011】
又、前記シロキサンポリマーは、一般式、R1nSiR24-n(但し、R1は炭素数1〜6のアルキル基、R2は炭素数1〜4のアルコキシ基であり、n=0〜3である)で表わされるオルガノアルコキシシランを出発原料として縮重合されたものであることを特徴とする。
【0012】
又、前記変性されたコロイダルシリカは、該コロイダルシリカの粒子表面の少なくとも一部に、シランカップリング剤、ヒドロキシカルボン酸、ポリカルボン酸及びβ−ジケトンのうち少なくとも1種が結合しているものであることを特徴とする。
【0013】
又、前記コロイダルシリカの粒径は、0.005〜1μmの範囲にあることを特徴とする。
【0014】
さらに、前記セラミック用焼結助剤は溶媒中に分散しており、該分散溶液中の珪素濃度は、SiO2に換算して1〜40重量%であることを特徴とする。
【0015】
なお、シロキサンポリマー又はコロイダルシリカを変性するシランカップリング剤としては、ビニルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシランなどが挙げられる。又、ヒドロキシカルボン酸としては酒石酸、クエン酸、リンゴ酸、乳酸などが挙げられる。又、ポリカルボン酸としては、蓚酸、マロン酸、マレイン酸などが挙げられ、さらに不飽和カルボン酸の重合体としてポリマレイン酸、ポリイタコン酸、ポリアクリル酸などが挙げられる。さらに、β−ジケトンとしては、アセチルアセトン、ジピバロイルメタンなどが挙げられる。
【0016】
又、一般式、R1nSiR24-n(但し、R1は炭素数1〜6のアルキル基、R2は炭素数1〜4のアルコキシ基であり、n=0〜3である)で表されるオルガノアルコキシシラン中のR1としてはメチル基、エチル基、ビニル基、フェニル基などが挙げられ、R2としてはメトキシ基、エトキシ基、2メトキシエトキシ基などが挙げられる。
【0017】
又、溶媒としては、水を始めとして、アルコールとしては、メタノール、エタノール、2メトキシエタノールなどの1価アルコール、エチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリンなどの多価アルコールが挙げられ、非極性溶媒としては、トルエン、キシレンなどが挙げられる。なお、使用する溶媒としては上記の溶媒だけに限定されるものではなく、変性されたシロキサンポリマー又はコロイダルシリカが均一に分散する溶媒を、ときには2種類以上組合せて、適宜用いることができる。
【0018】
ここで、上記した好ましい範囲の限定理由を以下に示す。
コロイダルシリカの粒径が0.005μmより小さいとその製造コストが高くつき、又、凝集しやすいので実用的ではない。一方、粒径が1μmより大きいとセラミック中で分散性が悪く、偏析が生じ、所望の焼結性及び微細構造が得られにくい。したがって、コロイダルシリカの粒径は0.005〜1μmの範囲が好ましい。
【0019】
シロキサンポリマーのポリスチレン換算重量平均分子量が3000未満の場合、揮発性が高く、使用時に珪素成分の揮発が生じ、目的とする組成よりも珪素濃度が少なくなり、所望の焼結性が得られにくい。一方、分子量が100000を超える場合、セラミック中での珪素成分の分散性が悪くなり、珪素の偏析が生じ、それによって所望の焼結性及び均一な微細構造が得られにくい。したがって、シロキサンポリマーの分子量としては3000〜100000の範囲が好ましい。
【0020】
焼結助剤の分散溶液中の珪素濃度がSiO2に換算して1重量%未満の場合は、濃度が低いため、所望のSiO2組成となるようにセラミック原料に添加するための添加量が多くなり、量産的ではない。一方、珪素濃度がSiO2に換算して40重量%を超える場合、シロキサンポリマーあるいはコロイダルシリカ同士の凝集が起こりやすく、長期間の安定性が得られにくい。したがって、分散溶液中の珪素濃度はSiO2に換算して1〜40重量%の範囲が好ましい。
【0021】
ところで、シロキサンポリマーと金属塩溶液を混合すると、シロキサンポリマー分子の末端基と金属イオンとの間で置換反応が起こる。シロキサンポリマー分子の末端基に水酸基やアルコキシ基が存在する場合、この置換反応が速やかに起こり、シロキサンポリマーの表面電荷バランスが崩れてしまい、それに伴ってシロキサンポリマーの凝集が起こり沈殿が生じる。これに対して、シロキサンポリマー分子の末端にシランカップリング剤、ヒドロキシカルボン酸、ポリカルボン酸又はβ−ジケトンを結合させて変性した場合、金属イオンとの置換反応速度が非常に遅くなるか、あるいは置換反応を完全に阻害してしまうため、金属塩溶液と混合した場合でもシロキサンポリマーの均一分散状態が維持される。コロイダルシリカの表面にシランカップリング剤、ヒドロキシカルボン酸、ポリカルボン酸又はβ−ジケトンを結合させて変性した場合も、同様なメカニズムで均一分散が可能となる。
【0022】
したがって、このように変性されたシロキサンポリマー又はコロイダルシリカと他の金属塩との混合溶液を主成分のセラミック粉末と混合してスラリーとし、このスラリーを乾燥させると、セラミック粉体の表面には焼結助剤の前駆体が均一に分散して、担持固定される。これを加熱処理することによって粉末表面には焼結助材として作用する微細な酸化珪素系の低融点ガラス粒子が均一に分散し、焼結段階ではこのガラス粒子が液相となって焼結を促進させる結果、比較的低い温度で緻密なセラミックが得られる。さらに、セラミック原料中でのSiO2の分散性がよいため、均一な微細構造を有して、特性が良好かつばらつきの小さいセラミックが得られる。
【0023】
なお、一般式、R1nSiR24-n(但し、R1は炭素数1〜6のアルキル基、R2は炭素数1〜4のアルコキシ基であり、n=1〜3である)で表わされるオルガノアルコキシシランを出発原料として縮重合させることにより、末端がアルキル基のシロキサンポリマーが得られる。シロキサンポリマーの末端がアルキル基の場合、シロキサンポリマーの凝集は起こりにくいが、その場合、末端が全てアルキル基になっている必要があり、一部水酸基やアルコキシ基を含有していれば凝集してしまう。したがってアルキル基のみではシロキサンポリマーの末端に残留する水酸基やアルコキシ基に起因するシロキサンポリマーの凝集を抑制することはできない。これに対して、シロキサンポリマー分子の末端の一部をシランカップリング剤、ヒドロキシカルボン酸、ポリカルボン酸又はβ−ジケトンと結合させて変性した場合は、シロキサンポリマー分子の末端に一部水酸基やアルコキシ基が存在していてもシロキサンポリマーの凝集を防止することが可能となる。
【0024】
上述の通り、本発明の焼結助剤は、珪素以外の無機金属塩溶液や有機金属塩溶液と共に使用される際に、他の金属イオンと反応して凝集することなく、均一な分散状態を保つことができるため、特に有用な焼結助剤となる。しかしながら、セラミックの製造に際して、無機金属塩溶液や有機金属塩溶液を使用しない場合においても、分散性に優れた焼結助剤として使用することができる。
【0025】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施の形態を実施例に基づき説明する。
(実施例1)
まず、シロキサンポリマーを得るための原料としてのオルガノアルコキシシランの1種のテトラエトキシシラン31.3g、ヒドロキシカルボン酸の1種の乳酸12.2g、有機溶媒としてのエタノール17.3gをそれぞれ秤量混合し、40℃で24時間攪拌して反応させて、シロキサンポリマー分子の末端にヒドロキシカルボン酸を結合させて変性したセラミック用焼結助剤の分散溶液を得た。得られた溶液中の珪素の濃度は、SiO2に換算して、14.8重量%であった。
【0026】
次に、トルエン13gとエタノール3gを混合した溶媒に上記焼結助剤の溶液、セラミック添加剤としてのオクチル酸マンガン、オクチル酸マグネシウム及びオクチル酸イットリウムをそれぞれSi:0.0043mol、Mn:0.0025mol、Mg:0.0034mol、Y:0.0052molとなるように添加して混合溶液を作製した。混合溶液は均一な溶液状態を示し、沈殿物の生成は認められなかった。
【0027】
その後、この混合溶液にBaTiO3粉末100gを加えてスラリーとし、1時間攪拌後、このスラリーをロータリーエバポレーターを用いて70℃、40mmHgで乾燥し、乾燥粉末を500℃で2時間加熱処理した。この加熱処理粉末100gにトルエンとエタノールの混合溶媒を60g添加し、ジルコニアボールとともにポリエチレン製ポットに充填して8時間混合粉砕した。その後、ポリビニルブチラール系バインダー、分散剤及び可塑剤を添加してさらに4時間混合した後、ドクターブレード法によりセラミックグリーンシートを作製した。そして、このグリーンシートを積層し、直径10mm、厚さ1.0mmに打ち抜いて成形体を作製した後、1250℃で焼成してセラミックを得た。
【0028】
次に、得られたセラミックを、電子線プローブマイクロアナリシスでマッピング分析して、Si元素の分布状態を調べた。その結果、Si元素はセラミック中に偏析することなく、均一に分散していることが確認された。
【0029】
(実施例2)
粒径10〜20nm、SiO2濃度30.4重量%のコロイダルシリカ49.4gとシランカップリング剤の1種のγ−アミノプロピルトリエトキシシラン19.6gをそれぞれ秤量混合し、室温で4時間攪拌して反応させて、コロイダルシリカ粒子の表面にシランカップリング剤を結合させて変性したセラミック用焼結助剤の分散溶液を得た。得られた溶液中の珪素濃度はSiO2に換算して29.5重量%であった。
【0030】
次に、トルエン9gとエタノール2gを混合した溶媒に上記焼結助剤の溶液、セラミック添加剤としてのマンガンアセチルアセトナト、オクチル酸ストロンチウム及びオクチル酸イットリウムをそれぞれSi:0.0030mol、Mn:0.0006mol、Sr:0.0150mol、Y:0.0120molとなるように添加して混合溶液を作製した。混合溶液は均一な溶液状態を示し、沈殿物の生成は認められなかった。
【0031】
その後、この混合溶液にBaTiO3粉末70gを加えてスラリーとし、1時間攪拌後、このスラリーをロータリーエバポレーターを用いて70℃、40mmHgで乾燥し、乾燥粉末を400℃で2時間加熱処理した。この加熱処理粉末60gを用いて実施例1と同様にして成形体を作製した。この成形体を脱バインダー熱処理後、酸素分圧10―10MPaのH2−N2混合ガスを用いた還元性雰囲気中で1320℃で2時間焼成してセラミックを得た。
【0032】
次に、得られたセラミックを、電子線プローブマイクロアナリシスでマッピング分析して、Si元素の分布状態を調べた。その結果、Si元素はセラミック中に偏析することなく、均一に分散していることが確認された。
【0033】
(実施例3)
市販の粒径5〜20nm、SiO2濃度20.4重量%のコロイダルシリカ27.4gとヒドロキシカルボン酸としてのクエン酸20g、溶媒としての蒸留水10gを混合し、1時間攪拌して反応させて、コロイダルシリカの表面にヒドロキシカルボン酸を結合させて変性したセラミック用焼結助剤の分散溶液を得た。得られた溶液中の焼結助剤の珪素濃度はSiO2に換算して9.7重量%であった。
【0034】
次に、蒸留水100mlに上記焼結助剤の溶液、セラミック添加剤としての酢酸マグネシウムをそれぞれSi:0.0009mol、Mg:0.0002molとなるように添加して混合溶液を作製した。混合溶液は均一な溶液状態を示し、沈殿物の生成は認められなかった。
【0035】
その後、この混合溶液に平均粒径が0.1μmの高純度アルミナ100gを加えて、1時間攪拌し分散させた。その後、このスラリーを攪拌しながらホットプレートを用いて90℃で乾燥させ、得られた乾燥粉末50gを用いて実施例1と同様にして成形体を作製し、1250℃で焼成してセラミックを得た。
【0036】
次に、得られたセラミックを、電子線プローブマイクロアナリシスでマッピング分析して、Si元素の分布状態を調べた。その結果、Si元素はセラミック中に偏析することなく、均一に分散していることが確認された。
【0037】
【発明の効果】
以上の説明から明らかなように、本発明のセラミック用焼結助剤を用いてセラミックを製造することにより、焼結助剤成分の偏析のない均一な微細構造を有するセラミックを製造することができる。
【0038】
したがって、本発明のセラミック用焼結助剤を用いることにより、特性ばらつきが小さく歩留まりに優れたセラミックを安価に製造することができる。
【0039】
Claims (7)
- シランカップリング剤、ヒドロキシカルボン酸、ポリカルボン酸及びβ−ジケトンのうち少なくとも1種で変性された、シロキサンポリマー又はコロイダルシリカからなることを特徴とする、セラミック用焼結助剤。
- 前記変性されたシロキサンポリマーは、該シロキサンポリマー分子末端の少なくとも一部に、シランカップリング剤、ヒドロキシカルボン酸、ポリカルボン酸及びβ−ジケトンのうち少なくとも1種が結合しているものであることを特徴とする、請求項1記載のセラミック用焼結助剤。
- 前記シロキサンポリマーの分子量は、ポリスチレン換算重量平均分子量で3000〜100000の範囲内にあることを特徴とする、請求項1又は請求項2記載のセラミック用焼結助剤。
- 前記シロキサンポリマーは、一般式、R1nSiR24-n(但し、R1は炭素数1〜6のアルキル基、R2は炭素数1〜4のアルコキシ基であり、n=0〜3である)で表わされるオルガノアルコキシシランを出発原料として縮重合されたものであることを特徴とする、請求項1又は請求項2記載のセラミック用焼結助剤。
- 前記変性されたコロイダルシリカは、該コロイダルシリカの粒子表面の少なくとも一部に、シランカップリング剤、ヒドロキシカルボン酸、ポリカルボン酸及びβ−ジケトンのうち少なくとも1種が結合しているものであることを特徴とする、請求項1記載のセラミック用焼結助剤。
- 前記コロイダルシリカの粒径は、0.005〜1μmの範囲にあることを特徴とする、請求項1又は請求項5記載のセラミック用焼結助剤。
- 前記セラミック用焼結助剤は溶媒中に分散しており、該分散溶液中の珪素濃度は、SiO2に換算して1〜40重量%であることを特徴とする、請求項1〜6のうちいずれかに記載のセラミック用焼結助剤。
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