JP3887832B2 - 高強度熱間ベンド鋼管の製造方法 - Google Patents
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Description
【産業上の利用分野】
この発明は、サブマージアーク溶接法により溶接し、誘導加熱により曲げられる大径溶接鋼管などの製造方法に関し、特に、溶接部の低温靱性および強度に優れた溶接ベンド鋼管の製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
産業用原燃料として採掘される原油や天然ガス、或いはそれらを精製して得られた液体もしくは気体、或いはその他の液体、気体、スラリーなどを大量輸送する手段としてラインパイプが用いられていることは良く知られている。このラインパイプは産業用原燃料の大量輸送の方法として極めて効果的な手段であり、より厳しい環境に耐え得るラインパイプが要求されている。特に寒冷地にラインパイプを配備する場合の対策として、ラインパイプ用の鋼材および溶接金属には、高張力化と同時に優れた低温衝撃靱性を確保することが要求されており、また、このようなラインパイプに使用される溶接ベンド鋼管においても、直管と同等以上の特性が要求されている。
【0003】
一般に、大径溶接ベンド鋼管では、図4に示すように、サブマージアーク溶接法などにより溶接して得られる溶接鋼管を高周波誘導加熱により曲げ加工したのち溶接鋼管を水冷してさらに鋼管全体を600 ℃付近でテンパーすることにより製造する方法が知られている。
このとき、大径溶接ベンド鋼管を製造する方法としては、特開昭61-117223 号公報や特公平1-38851 号公報にベンド管溶接金属の化学組成や熱処理条件が示されている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、特開昭61-117223 号公報や特公平1-38851 号公報に開示されているベンド鋼管溶接金属においては、テンパー処理後の溶接金属には、溶接金属内に極めて微細な析出物などが形成されて靱性には好ましくない現象が起こり、靱性が著しく劣化することになる。しかも、溶接金属内にNiなどの合金元素が多量に添加されているが、これらの合金元素は溶接金属の靱性の面からは良好な元素であるが、溶接時に高温割れを起こしやすく、また高温割れを起こさないまでも高温割れの感受性を著しく高める元素である。これらのベンド鋼管は一般にサワーと呼ばれる硫化物が存在するような苛酷な環境でも利用されているが、Niは硫化物応力腐食割れを非常に起こしやすい元素であるために、このようにNiが多量に添加されている溶接金属を有するようなベンド鋼管においてはサワーの環境で使用する場合の材料としては全く役に立たない。
【0005】
また図4に示されるようなベンド鋼管の製造方法の場合は、一本のベンド鋼管内に曲げ部には焼入れ・焼戻し(QT)処理が、直管部にはテンパー(または焼戻し・T)処理がかかるため、鋼管の溶接金属においても曲げ部はQT処理がかかり直管部にはテンパー処理がかかることになるが、この場合においても、QT処理後の溶接金属とテンパー処理後の溶接金属ともに高張力化と同時に優れた低温衝撃靱性を満足されていることが必要である。ところが、上述のサワーの環境でも使用できるようなベンド鋼管で、QT処理後およびテンパー処理後のいずれの状態でも強度と靱性を確保できるようなベンド鋼管は得られておらず、現在のところこれを満足させる技術もなく、このような方法でベンド鋼管を製造するうえでベンド鋼管の溶接金属の特性を満足させることが困難であるという問題点がある。
【0006】
この発明は、このような事情を鑑みてなされたものであり、直管製造の際にサブマージアーク溶接による内外面一層溶接を行ったのち熱間で曲げ加工を行う大径溶接ベンド鋼管の製造において、前記のような熱処理がかかっても、なお溶接部における低温靱性が優れた高強度のベンド鋼管が得られるベンド鋼管の製造方法を提供することを目的とした。
【0007】
なお、本発明の製造方法が目標とした溶接ベンド鋼管の強度はX−65級以上であり、靱性は切欠靱性値(vE-30 ℃)で100J以上である。
【0008】
【課題を解決するための手段】
この発明は、熱間による部分曲げ加工を前提として、母材鋼板と溶接ワイヤおよび溶接条件を規定したのちに、溶接金属の化学組成のみならず曲げ加工条件および加工後の熱処理条件までを総合的に規定して、耐サワー性にも優れたベンド鋼管の強度確保と靱性確保を行ったものであり、その要旨はつぎのとおりである。
【0009】
第1の発明は、mass%で、C:0.02〜0.10%、Si:0.5 %以下、Mn:0.5 〜2.0 %、P:0.02%以下、S:0.02%以下、Nb:0.05%以下、Al:0.1 %以下、Ni:0.4 %以下、N:0.010 %以下、O:0.0035%以下を含み、さらにTi:0.05%以下、Mo:0.5 %以下の1種または2種を含有し、残部が不可避的不純物およびFeからなる母材に低酸素系フラックスおよび低炭素Ti-B系溶接ワイヤを用いて内外面に1パス潜孤溶接を行い、その後曲げ加工し、さらに熱処理する熱間ベンド鋼管の製造方法であって、
該熱間ベンド鋼管の溶接金属が、C:0.02〜0.10%、Si:0.6 %以下、Mn:1.60%以下、P:0.02%以下、S:0.02%以下、Nb:0.05%以下、Al:0.02%以下、Ni:0.4 %以下、N:0.010 %以下、O:0.035 %以下を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなり、かつ溶接金属の、次(1)式
P CM =C+ Mn/20 + Si/30 + Ni/60 + Cr/20 + Mo/15 +V /10 + Cu/20 +5B(%) ……(1)
(ここで、C、 Mn 、 Si 、 Ni 、 Cr 、 Mo 、V、 Cu 、B:各元素の含有量( mass %))で定義されるP CM が0.07%以上、0.21%以下となるように溶接し、その後Ac3 〜1100℃の温度に加熱してから曲げ加工し、さらにその後、300 ℃以下の温度まで50℃/sec以下の速度で強制冷却したのち、鋼管全体を400 ℃から550 ℃の温度で10分以上加熱して0.03℃/sec以上の冷却速度で冷却することを特徴とする高強度熱間ベンド鋼管の製造方法である。
【0010】
第2の発明は、mass%で、C:0.02〜0.10%、Si:0.5 %以下、Mn:0.5 〜2.0 %、P:0.02%以下、S:0.02%以下、Nb:0.05%以下、Al:0.1 %以下、Ni:0.4 %以下、N:0.010 %以下、O:0.0035%以下を含み、さらにTi:0.05%以下、Mo:0.5 %以下の1種または2種を含有し、残部が不可避的不純物およびFeからなる母材に低酸素系フラックスおよび低炭素Ti-B系溶接ワイヤを用いて内外面に1パス潜孤溶接を行い、その後曲げ加工し、さらに熱処理する熱間ベンド鋼管の製造方法であって、
該熱間ベンド鋼管の溶接金属が、C:0.02〜0.10%、Si:0.6 %以下、Mn:1.60%以下、P:0.02%以下、S:0.02%以下、Nb:0.05%以下、Al:0.02%以下、Ni:0.4 %以下、N:0.010 %以下、O:0.035 %以下を含有すると共に、さらにMo:0.5 %以下、Ti:0.05%以下、B :0.0030%以下、Cu:0.5 %以下のいずれか1種または2種以上を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなり、かつ溶接金属の、次(1)式
P CM =C+ Mn/20 + Si/30 + Ni/60 + Cr/20 + Mo/15 +V /10 + Cu/20 +5B(%) ……(1)
(ここで、C、 Mn 、 Si 、 Ni 、 Cr 、 Mo 、V、 Cu 、B:各元素の含有量( mass %))
で定義されるP CM が0.07%以上、0.21%以下となるように溶接し、その後Ac3 〜1100℃の温度に加熱してから曲げ加工し、さらにその後、300 ℃以下の温度まで50℃/sec以下の速度で強制冷却したのち、鋼管全体を400 ℃から550 ℃の温度で10分以上加熱して0.03℃/sec以上の冷却速度で冷却することを特徴とする高強度熱間ベンド鋼管の製造方法である。
【0011】
【作用】
上記したような本発明の母材となる鋼板における化学成分限定理由について以下に説明する。
C:Cは、0.02mass%( 以下%と略す)未満では必要強度が得られず、0.10%を超えると溶接部の炭素量が増加して溶接部の靱性を損なうので0.02〜0.10%の範囲とした。
【0012】
Si:Siは、脱酸上必要な元素であるが、0.5 %を超すと母材の靱性を劣化させるばかりか溶接金属の靱性も劣化させるために0.5 %を上限とした。
Mn:Mnは、鋼の強度を確保するために、0.5 %以上は必要である。しかし、2.0 %を超すと母材の靱性を劣化させるために、0.5 〜2.0 %の範囲とした。
P:Pは、中心偏析を助長させる元素であり、低いことが好ましく、0.02%を上限とした。
【0013】
S:Sは、0.02%を超えると母材の靱性が劣化するとともに、水素誘起割れを起こしやすくなるために、0.02%を上限とした。
Nb:Nbは、母材の強度を確保するために必要な元素であるが、本来、溶接金属の靱性確保の点からは少ないほうがよく、0.05%を上限とすべきである。
Al:Alは、脱酸上必然的に含有される元素であるが、0.1 %を超えるとHAZ靱性を劣化させるとともに、硫化物応力腐食割れ感受性を上げるために上限を0.1 %とした。
【0014】
Ni:Niは、よく知られているように鋼板および溶接金属の靱性の面からは良好な元素であるが、鋼板からの希釈により入り込むNiは溶接時に高温割れを起こしやすく、また高温割れを起こさないまでも高温割れ感受性を著しく高める元素であるばかりか、硫化物応力腐食割れを非常に起こしやすいために、0.4 %を上限とした。
【0015】
N:Nは、溶接金属の靱性確保の点で0.01%以下にする必要がある。0.01%を超えるN量では、母材の希釈から、溶接金属中に溶け込むNにより溶接金属中の固溶N量が増えることになり、溶接金属の靱性を低減させるために0.01%を上限とすべきである。
O:Oは、鋼板においては、靱性を劣化させる有害元素であるために低いほうが好ましく、0.0035%を超えて含有する場合、靱性を劣化させるばかりか、酸化物系の介在物として存在して硫化物応力腐食割れを非常に起こしやすいために、0.0035%を上限とした。
【0016】
本発明に使用する溶接ワイヤは、ワイヤ成分に、特にTiとBを含有するTi-B系の溶接ワイヤであれば、通常ベンド鋼管の溶接に用いるものでよい。Tiは、溶接金属中で酸素と結び付き、酸化物を形成する。この酸化物が溶接金属のミクロ組織を微細化するので、溶接金属は高強度と高靱性を確保することができる。また、Bは溶接金属の焼入性を高める元素であるとともに、溶接金属内にTiと同時に添加されることにより、溶接金属内の粗大な粒界フェライトの生成を抑制して、溶接金属のミクロ組織を微細化し、高強度と高靱性を確保することができる。
【0017】
さらに、フラックスとしては、通常ベンド鋼管の溶接に用いるものであって、特に低酸素系のフラックスを使用する。一般に、Ti、Bを含有する溶接ワイヤを使用して溶接した場合、溶接金属中の酸素量をコントロールすることが非常に重要になる。すなわち、酸素量が多すぎる場合、溶接金属中の介在物を増加させ、靱性に悪影響を及ぼすとともに、上述のTi、Bの効果がなくなり、溶接金属内に粗大な粒界フェライトが生成されやすくなり、強度と靱性が劣化することになるからである。溶接金属の付加成分としてTi、Bの金属粉ないし合金粉を含んでもよい。
【0018】
また、上記したような本発明の溶接金属における化学成分限定理由について説明すると以下のとおりである。
C:テンパー後およびQT後の強度と靱性に非常に大きな影響を及ぼす元素であり、0.02%未満では必要強度が得られず、また0.10%超では強度的には満足できても高靱性が得られず、しかも溶接金属の凝固割れ感受性が大きくなるため、0.02〜0.10%の範囲とした。
【0019】
Si:Siは母材、溶接ワイヤ、フラックスから溶接金属中に入るが、Siが0.6 %を超えると、QT部およびテンパー部のいずれにおいても溶接金属の靱性が低下するために0.6 %を上限とした。
Mn:Mnは溶接金属の脱酸の上では不可欠の元素であると同時に強度、靱性の上からも重要な元素であるが、Mnが1.6 %を超えると強度は高くなるが、焼入れ性が大きくなりすぎてラス状組織となり、テンパー部の靱性が劣化するために1.6 %を上限とした。
【0020】
P:Pは溶接金属の靱性を劣化させる元素であるため少ないほうが好ましく、溶接金属の靱性低下を防止するためには0.02%以下とすべきである。
S:SもPと同様に溶接金属の靱性を劣化させる元素であるため少ないほうが好ましく、溶接金属の靱性低下を防止するためには0.02%以下とすべきである。
Nb:溶接金属に含まれているNbは、溶接材料から添加されているのではなく、母材から希釈されることによって添加されている。本来、溶接金属の靱性確保の点からは少ないほうがよく、0.05%を上限とすべきである。
【0021】
Al:Alは溶接金属を脱酸させるために含有されているが、0.02%を超えると溶接金属の靱性を劣化させるので0.02%以下とすべきである。
Ni:Niは、前記のように、溶接金属の靱性の面からは良好な元素であるが、溶接時に高温割れを起こしやすく、また高温割れを起こさないまでも高温割れの感受性を著しく高める元素であるばかりか、Niは硫化物応力腐食割れを非常に起こしやすい元素であるために、Niが0.4 %以上も多量に添加されている溶接金属を有するようなベンド鋼管ではサワーの環境で使用する場合の材料としては全く役に立たないために、その上限を0.4 %とした。
【0022】
N:Nは溶接金属の靱性向上には有害であるために低いほうが好ましく、0.01%を上限とすべきである。
O:Oは溶接のまま、QTおよびテンパー時のいずれの状態においても溶接金属の靱性に大きく影響し、0.035 %を超えるような場合は溶接金属の靱性を劣化させるために、0.035 %を上限とした。
【0023】
上記のような基本的成分組成のものに対し、任意成分として添加される各成分については以下のとおりである。
Mo:Moは溶接ままの溶接金属靱性を向上させるのに有効な元素であるが、QT時には著しい硬化元素であるために靱性低下を招くのでこれらのバランスから0.5 %を上限とすべきである。
【0024】
Ti:Tiは高温加熱時にオーステナイト粒の成長を抑制するとともに、冷却途中に生成するフェライト粒を細かくする作用が顕著であるが、0.05%を超えると組織が劣化して靱性が大幅に劣化するために上限を0.05%とした。
B:Bは溶接ままおよびテンパー時の溶接金属の靱性向上には効果的な元素であるが、B量が0.003 %を超えるとQT時の組織が劣化して靱性が劣化するため上限を0.003 %とした。
【0025】
Cu:Cuは溶接ワイヤから不純物として溶接金属内に添加されるが、0.5 %を超えると溶接金属に凝固割れが生ずるようになるので、0.5 %を上限とした。
次(1)式
P CM =C+ Mn/20 + Si/30 + Ni/60 + Cr/20 + Mo/15 +V /10 + Cu/20 +5B(%) ……(1)
(ここで、C、 Mn 、 Si 、 Ni 、 Cr 、 Mo 、V、 Cu 、B:各元素の含有量( mass %))
で定義されるP CM の限定理由は以下のとおりである。
鋼管の溶接性を表す指標として従来からP CM が用いられていることは良く知られており、耐サワー鋼管用の溶接金属としては本来P CM が低いほうが好ましい。しかしながら、P CM が0.07%未満の溶接金属においては、QT時には充分な靱性が得られるものの、溶接金属の焼入れ性が低いために、テンパー部ではその組織が初析フェライト主体の組織になり、充分な靱性が得られないばかりか強度を満足させることも困難である。すなわち、図1はP CM と溶接金属の靱性の関係を表したグラフであるが、図1から、P CM =0.07%ではテンパー部、QT部ともに充分な靱性が得られているが、P CM =0.05%ではテンパー部の靱性が劣化していることが明らかであるために、P CM の下限を0.07%とした。
【0026】
また、図1に示されるように、P CM が0.21%超となるような溶接金属の場合は、テンパー部の特性は良好であるが、QT時に焼入れ性が高すぎるために上部ベイナイト組織となり、靱性が著しく劣化することがわかる。したがって、P CM の上限を0.21%とした。
次に熱処理条件の限定理由について説明する。この発明においては、ベンド鋼管曲げ部の焼入れ温度をAc3 〜1100℃の温度範囲にする。これは、焼入れ温度がAc3 点未満の場合は溶接金属の組織はオーステナイト組織にフェライト組織が混入した組織となるために強度が低下し、1100℃を超えると溶接金属の強度は充分であるがオーステナイト組織が粗粒化するために靱性が劣化するからである。
【0027】
また、加熱したのち300 ℃以下までの冷却速度が50℃/secを超えるような場合には、溶接金属に焼きが入りすぎて、その組織が上部ベイナイト主体の組織となり、QT部の靱性を著しく劣化させるために、300 ℃以下までの冷却速度を50℃/sec以下とした。ただし、この冷却速度は曲げ加工装置と溶接金属の化学組成および板厚に大きく影響を受けるものであり、たとえば板厚が非常に薄い場合は冷却速度はこの範囲外になることもあり得るが、上記のように、冷却速度を限定する主旨は溶接金属の組織を上部ベイナイト組織にしないことにあるため、溶接金属の組織が上部ベイナイト主体の組織にならないような冷却速度であればこの範囲外であっても問題ないことはいうまでもない。
【0028】
曲げ部および直線部のテンパー処理は、400 〜550 ℃に10分以上加熱したのち0.03℃/sec以上の冷却速度で冷却する方法であり、この限定理由は以下の如くである。
すなわち、図2は溶接金属の靱性に及ぼすテンパー温度の影響を示したものであるが、テンパーはAc1 点以下の温度である600 ℃付近で行われるのが一般的である。しかしながら図2から理解できるように、600 ℃でテンパーした場合の溶接金属の靱性劣化は大きく-30 ℃での吸収エネルギー値は100J以下である。これに対して400 ℃から550 ℃でテンパーした場合には靱性劣化が抑制されており、-30 ℃での吸収エネルギー値が平均100J以上になるような溶接金属が得られている。また、400 ℃以下でテンパーした場合には靱性が劣化する傾向が認められ、テンパー処理温度を400 〜550 ℃に限定した。
【0029】
次に図3は、テンパー後の溶接金属の靱性と冷却速度の関係を示したのであるが、溶接金属を加熱したのち、100 ℃までを0.01℃/secで冷却した場合には、溶接金属の靱性が著しく劣化することが伺えるが、100 ℃までを0.03℃/sec以上で冷却すれば溶接金属は高靱性を保つ傾向が認められるためテンパー後の100 ℃までの冷却速度を0.03℃/sec以上に限定した。さらに、テンパーの時間があまりにも短いと、テンパーにより応力を除去する効果がなくなるが、テンパーの時間が10分以上あればその効果が現れると考えられるために、テンパー時間は最低10分以上とした。
【0030】
【実施例】
本発明によるものの具体的な製造例について説明すると以下のとおりである。本発明者らの用いた供試鋼板はいずれも板厚18.9mmであり、表1に示すように、0.05C−0.3Si −1.2Mn −0.05Nb−0.2Ni 系鋼板Aと、 0.1C−0.3Si −1.4Mn −0.02Nb−0.2Ni 系鋼板Bとをそれぞれ4電極サブマージアーク溶接法により両面一層溶接し、試験片とした。その溶接条件は、前記鋼板の内面側に4.9mm 、外面側に7.8mm で各45°と40°の開先を形成し、内面は前極から溶接電流−電圧をそれぞれ1050A−35V、 820A−38V、 630A−38V、 500A−38V、溶接速度1750mm/min、外面は1130A−35V、 940A−38V、 790A−38V、 600A−38V、溶接速度1800mm/minで溶接した。
【0031】
【表1】
【0032】
サブマージアーク溶接用の溶接ワイヤとしては、表2に示すような化学組成を有する溶接ワイヤを使用し、フラックスとしては表3に示すような高塩基性フラックスを使用した。また、該フラックスにMn、NiあるいはCu粉を添加したものを使用した。
【0033】
【表2】
【0034】
【表3】
【0035】
このようにして得られた溶接金属の化学組成は次の表4のとおりであった。ア〜カが本発明の範囲内のものであり、キ〜サがその範囲から外れるものである。
【0036】
【表4】
【0037】
この溶接金属に付与された熱処理条件は表5のとおりである。表5中、実施例A〜Eは本発明にて規定した熱処理範囲内のもの、比較例F〜Jはその範囲から外れるものである。表中、Q処理とあるのは曲げ加工時に付与される焼入れ条件、T処理とあるのはテンパー条件を表す。
【0038】
【表5】
【0039】
ここで、表4に示す組成の溶接金属を有する試験片を用いて、表5に示す熱処理条件で曲げ加工およびテンパー処理に相当する熱履歴を付与した後、該溶接金属の機械的性質を調べた結果を、つぎの表6〜表7に示した。
【0040】
【表6】
【0041】
【表7】
【0042】
表6において、実施例No. 1〜5は本発明にて規定した範囲内のもの、比較例No. 6〜10は熱処理範囲が本発明にて規定した範囲から外れるものである。
実施例No. 1〜5はいずれも溶接金属のQT部とテンパー部との双方とも-30 ℃においてシャルピー吸収エネルギーが100J以上である。また、各実施例では充分な引張強度を有している。すなわち、本発明にて規定した範囲内のものであれば溶接のままおよびQT後およびテンパー後のいずれの状態においても高強度、高靱性を得ていることは明らかである。
【0043】
これに対して、比較例No. 6はテンパー時の冷却速度が0.02℃/secであり、比較例No. 8はテンパー時の冷却速度が0.02℃/secであり、かつテンパー温度が550 ℃を超えており、比較例No. 9はテンパー温度が550 ℃を超えており、比較例No. 10はテンパー温度が400 ℃未満であり、比較例No. 7は曲げ加工時の加熱温度が1100℃を超えており、いずれもこの発明に規定した組成の範囲外であるため、-30 ℃において、シャルピー衝撃試験における衝撃エネルギーが、QT部あるいはテンパー部で100J以下になっている。
【0044】
表7の比較例No. 11〜18は、熱処理条件は本発明の範囲内であるが、溶接金属の化学組成が本発明の範囲から外れる場合の比較例である。
比較例No. 11、12は溶接金属内のCが0.10%を超える場合、比較例No. 13、14は溶接金属内のMnが1.6 %を超える場合であり、いずれも本発明で規定した化学組成の範囲外であるため、QT部あるいはテンパー部における-30 ℃のシャルピー吸収エネルギーが100J未満となり、靱性が劣化していることが明らかである。また、比較例No. 15、16は溶接金属内のNiが0.4 %を超える場合であり、前記のように耐SSC 性が著しく劣化していることが伺える。さらに比較例No. 17はP CM が0.21%を超えるためにQT部に於ける-30 ℃のシャルピー吸収エネルギーが100J未満であり、比較例No. 18はP CM が0.07%未満であるためにテンパー部における-30 ℃のシャルピー吸収エネルギーが100J未満となっており、いずれも不適であることがわかる。
【0045】
また、表7の実施例No. 19〜21は表4に示すように、溶接金属にTi、B、Mo、Cuのいずれか1種あるいは2種以上を含む場合、これら元素を含まない表6の実施例No. 1に比べて、溶接金属の低温靱性がさらに向上している。
【0046】
【発明の効果】
以上説明したような本発明によるときはQT処理後の溶接金属とテンパー処理後の溶接金属ともに高張力化と同時に優れた低温衝撃靱性を満足させ得るものであり、サワーの環境でも使用できる上に、また好ましい低コスト化を図って溶接ベンド鋼管を製造し得るものであって、工業的にその効果は極めて大きい発明である。
【図面の簡単な説明】
【図1】 焼入れ・焼戻し部と焼戻し部のP CM とvE-30 の関係を示す特性図。
【図2】 焼戻し温度とvE-30 の関係を示す特性図。
【図3】 焼戻し後の冷却速度とvE-30 の関係を示す特性図。
【図4】 ベンド鋼管の熱処理の説明図。
【図5】 実施例での溶接開先形状を示す説明図。
Claims (2)
- mass%で、C:0.02〜0.10%、Si:0.5 %以下、Mn:0.5 〜2.0 %、P:0.02%以下、S:0.02%以下、Nb:0.05%以下、Al:0.1 %以下、Ni:0.4 %以下、N:0.010 %以下、O:0.0035%以下を含み、さらにTi:0.05%以下、Mo:0.5 %以下の1種または2種を含有し、残部が不可避的不純物およびFeからなる母材に低酸素系フラックスおよび低炭素Ti-B系溶接ワイヤを用いて内外面に1パス潜孤溶接を行い、その後曲げ加工し、さらに熱処理する熱間ベンド鋼管の製造方法であって、
該熱間ベンド鋼管の溶接金属が、C:0.02〜0.10%、Si:0.6 %以下、Mn:1.60%以下、P:0.02%以下、S:0.02%以下、Nb:0.05%以下、Al:0.02%以下、Ni:0.4 %以下、N:0.010 %以下、O:0.035 %以下を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなり、かつ溶接金属の、下記(1)式で定義されるP CM が0.07%以上、0.21%以下となるように溶接し、その後Ac3 〜1100℃の温度に加熱してから曲げ加工し、さらにその後、300 ℃以下の温度まで50℃/sec以下の速度で強制冷却したのち、鋼管全体を400 ℃から550 ℃の温度で10分以上加熱して0.03℃/sec以上の冷却速度で冷却することを特徴とする高強度熱間ベンド鋼管の製造方法。
記
P CM =C+ Mn/20 + Si/30 + Ni/60 + Cr/20 + Mo/15 +V /10 + Cu/20 +5B(%) …(1)
ここで、C、 Mn 、 Si 、 Ni 、 Cr 、 Mo 、V、 Cu 、B:各元素の含有量( mass %) - mass%で、C:0.02〜0.10%、Si:0.5 %以下、Mn:0.5 〜2.0 %、P:0.02%以下、S:0.02%以下、Nb:0.05%以下、Al:0.1 %以下、Ni:0.4 %以下、N:0.010 %以下、O:0.0035%以下を含み、さらにTi:0.05%以下、Mo:0.5 %以下の1種または2種を含有し、残部が不可避的不純物およびFeからなる母材に低酸素系フラックスおよび低炭素Ti-B系溶接ワイヤを用いて内外面に1パス潜孤溶接を行い、その後曲げ加工し、さらに熱処理する熱間ベンド鋼管の製造方法であって、
該熱間ベンド鋼管の溶接金属が、C:0.02〜0.10%、Si:0.6 %以下、Mn:1.60%以下、P:0.02%以下、S:0.02%以下、Nb:0.05%以下、Al:0.02%以下、Ni:0.4 %以下、N:0.010 %以下、O:0.035 %以下を含有すると共に、さらにMo:0.5 %以下、Ti:0.05%以下、B :0.0030%以下、Cu:0.5 %以下のいずれか1種または2種以上を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなり、かつ溶接金属の、下記(1)式で定義されるP CM が0.07%以上、0.21%以下となるように溶接し、その後Ac3 〜1100℃の温度に加熱してから曲げ加工し、さらにその後、300 ℃以下の温度まで50℃/sec以下の速度で強制冷却したのち、鋼管全体を400 ℃から550 ℃の温度で10分以上加熱して0.03℃/sec以上の冷却速度で冷却することを特徴とする高強度熱間ベンド鋼管の製造方法。
記
P CM =C+ Mn/20 + Si/30 + Ni/60 + Cr/20 + Mo/15 +V /10 + Cu/20 +5B(%) ……(1)
ここで、C、 Mn 、 Si 、 Ni 、 Cr 、 Mo 、V、 Cu 、B:各元素の含有量( mass %)
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