JP3887358B2 - 架橋性樹脂組成物、架橋性樹脂成形品および難燃性架橋樹脂成形品 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、架橋性樹脂組成物、それを用いた架橋性樹脂成形品および難燃性架橋樹脂成形品に関する。詳しくは、難燃性、電気的特性、耐熱性、耐溶剤性等に優れ、架橋成形することにより電子部品用材料として用いるのに好適な架橋性樹脂組成物、それを用いた架橋性樹脂成形品および難燃性架橋樹脂成形品、特には、プリント配線板用金属張り基板に関する。
【0002】
【従来の技術】
近年、高度情報化社会の進展に伴い、大量の情報を高速で処理する必要が生じ、通信・電子機器に使用される信号の周波数帯は、メガHz帯からギガHz帯へとより高周波帯域に移行している。しかし、電気信号は、周波数が高くなるほど伝送損失が大きくなる性質があり、このメガHz帯からギガHz帯のような高周波帯域に対応した、優れた高周波伝送特性を有する電気絶縁材料と、それを用いた基板の開発が強く求められている。
【0003】
プリント配線板での伝送損失は、配線(導体)の形状、表皮抵抗、特性インピーダンス等で決まる導体損と配線周りの絶縁層(誘電体)の誘電特性で決まる誘電体損からなり、特に高周波回路では、誘電体損による電力ロスの影響が大きい。このエネルギー損失は熱エネルギーとして回路内に放出され、電子機器の誤作動の原因となり、また、機器の効率を著しく損なうものである。
【0004】
誘電体損は、材料の比誘電率(ε’)と誘電正接(tanδ)との積に比例して大きくなる。そのため、誘電体損を少しでも小さくするためには、比誘電率と誘電正接とがいずれも小さい誘電特性を有する材料を用いる必要がある。
【0005】
また、コンピューター(CPU)等の電子情報機器では、大量の情報を短時間で処理するためにクロック周波数が優に1GHzを越えている。このような高周波信号を使用する機器では、プリント配線板上での信号遅延が問題となる。プリント配線板上での信号伝搬遅延時間は、配線周りの絶縁層の比誘電率(ε’)の平方根に比例する。そのため、信号の伝搬遅延時間を少しでも小さくするためには、比誘電率(ε’)が小さい材料を用いる必要がある。このような電気特性を有する電気絶縁材料としては、通常、高分子絶縁材料が用いられる。
【0006】
高分子絶縁材料としては、ポリオレフィン、塩化ビニル樹脂、フッ素系樹脂、液晶ポリマー等の熱可塑性樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ポリイミド樹脂、エポキシ樹脂、ビスマレイミドトリアジン樹脂(BTレジン)、硬化性ポリフェニレンオキサイド、硬化性ポリフェニレンエーテル等の熱硬化性樹脂などが種々提案されている。
【0007】
優れた誘電特性を有する高分子絶縁材料として、例えば、特許文献1には、ポリエチレンやポリプロピレン等のポリオレフィンが例示されている。これらは大きな極性を示す置換基を持たないため、誘電特性として、特に比誘電率(ε’)および誘電正接(tanδ)が小さいという特徴がある。しかし、一般に、ポリオレフィンは耐熱性が低く、熱により変形したり、電気的特性が悪化するという問題があり、高分子絶縁材料として高温下での使用に耐えうるものではない。また、プリント配線板に使用する場合、線膨張係数が大きいため、表面実装方式で部品を搭載したときに接続部またはその周囲の導体が断線することがある。さらに、ポリエチレンやポリプロピレンは一旦フィルムとして成形し、これを接着剤により導電材料に接着しているが、この方法は加工工程が複雑となるといった欠点がある。
【0008】
フッ化ビニリデン樹脂、トリフルオロエチレン樹脂、およびパーフルオロエチレン樹脂のようなフッ素原子を分子鎖中に含有している重合体は、電気特性、耐熱性、化学安定性に優れているが、ポリオレフィンと同様に線膨張係数が大きいという欠点がある。また、成形物、例えば、フィルム等を得るために高温下で加工する必要があり、作業性が悪く、また、デバイス化を行う際に特殊な加工・処理方法を要するため、生産性が低くコスト高となるという欠点がある。
【0009】
一方、比較的耐熱性が良好な樹脂としては、エポキシ樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂(PPE)、不飽和ポリエステル樹脂、フェノール樹脂等の熱硬化性樹脂が挙げられる。エポキシ樹脂に関しては、特許文献2に開示されているように、絶縁抵抗性、絶縁破壊強度および耐熱温度においては要求性能を満たしている。しかし、上記特許文献2に開示された技術では、比誘電率および誘電正接が大きく、高周波帯域で使用する高分子絶縁材料として必要な特性を満足していない。エポキシ樹脂よりも誘電特性に優れた材料としては、ポリフェニレンエーテル樹脂(PPE)と多官能シアン酸エステル樹脂類、さらにこれらの樹脂に他の樹脂を配合して、ラジカル重合開始剤を添加し、予備反応させてなる硬化可能な変性PPE樹脂組成物が知られている(特許文献3参照)。しかし、これら材料においても比誘電率(ε’)は3以上であり、誘電特性の面で充分満足できるレベルまで至っていない。
【0010】
また、近年、優れた誘電特性、耐熱性および耐溶剤性等を有することを特徴とした環状オレフィン系硬化物の提案が盛んに行われている。例えば、特許文献4〜特許文献7には、重量平均分子量が5000〜1000000の環構造含有重合体(例えば、ノルボルネン系、単環の環状オレフィン系、環状共役ジエン系、主鎖に芳香環を有する芳香族系等)、硬化剤およびチオール化合物を含んでなる硬化性樹脂組成物とその硬化物としての架橋樹脂成形品が開示されている。しかし、これら技術では、高周波帯域での比誘電率(ε’)と誘電正接(tanδ)が大きく誘電特性が不十分であり、さらに、生産性が悪い、難燃性が不足しているなどの問題があった。
【0011】
上記架橋樹脂成形品の主要構成成分である環状オレフィン系樹脂は、本来燃焼しやすい樹脂であるが、難燃化するためには、特許文献7で開示されているように、ハロゲン含有化合物を添加する方法が一般的である。しかし、上記の架橋樹脂成形品の場合、ハロゲン含有化合物を添加すると架橋反応が阻害されて、はんだ耐熱性が著しく低下してしまうという問題があった。また、ハロゲン含有化合物は、燃焼時に人体に有毒なダイオキシン類を発生させる可能性が指摘されて問題となっており、ハロゲン含有化合物を用いない安全な難燃化方法が求められている。
【0012】
ハロゲン含有化合物を用いない難燃化方法としては、水酸化アルミニウムや水酸化マグネシウム等の金属水酸化物を添加する方法が知られているが、充分な難燃性を得るためには、多量に添加する必要があり、成形加工性や成形品の機械的特性が悪化する問題があった。
【0013】
また、リン酸エステル化合物やフォスファゼン化合物等のリン系化合物を添加する方法が知られているが、環状オレフィン系樹脂との相溶性の低さに起因して、成形品の表面に析出し、表面状態が悪化する問題があった。
【0014】
そして、上記のいずれの難燃化方法を用いても、高周波帯域での誘電特性を著しく損なってしまい、実用レベルの材料を得ることができないという問題があった。
【0015】
さらに、赤リンによる樹脂の難燃化技術に関しては、特許文献8〜特許文献10等に開示があるが、初期難燃性能、二次加工時の安定性や成形性の良さ、成形材料の本来の物性を維持する効果、成形品の外観の向上等について述べられているだけで、高周波帯域における成形品の誘電特性を損なわずに難燃化が可能であるという赤リンの効果については、検討がなされておらず、それについての記述も示唆もない。
【0016】
【特許文献1】
特開昭51−124187号公報(第2頁)
【特許文献2】
特開平6−192392号公報(第2頁)
【特許文献3】
特開平6−32879号公報(第2頁)
【特許文献4】
特開2001−64517号公報(第2頁)
【特許文献5】
特開平11−189718号公報(第2頁)
【特許文献6】
特開平6−248164号公報(第2頁)
【特許文献7】
特願2002−044084号明細書(第2頁)
【特許文献8】
特開平7−26014号公報(第2頁)
【特許文献9】
特開平7−53779号公報(第2頁)
【特許文献10】
特開2001−291961号公報(第2頁)
【0017】
【発明が解決しようとする課題】
そこで本発明の第1の目的は、架橋成形することにより高周波帯域での使用に好適な誘電特性を有し、難燃性に優れ、はんだ耐熱性に優れ、耐熱性、耐溶剤性に優れ、線膨張係数が小さく、さらには金属層との密着性ないし接着性が良好である、架橋性樹脂組成物を提供することにある。
また、本発明の第2の目的は、前記の架橋性樹脂組成物を用いた架橋性樹脂成形品を提供することにある。
さらに、本発明の第3の目的は、特に高周波帯域での使用に好適な誘電特性を有し、難燃性に優れ、電気絶縁性に優れ、はんだ耐熱性が高く、線膨張係数が低く、さらには金属層との密着性ないし接着性が良好である難燃性架橋樹脂成形品を提供することにある。
さらにまた、本発明の第4の目的は、前述の特徴を有するプリント配線板用金属張り基板を提供することにある。
【0018】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、前記の背景に鑑みて鋭意検討した結果、環状オレフィン系樹脂に対し、限定された、ある特定の量と割合で、有機過酸化物および架橋助剤を配合し、さらに赤リンを含有させた架橋性樹脂組成物を加熱・架橋することにより、高度にバランスのとれた、高周波帯域での誘電特性、難燃性、はんだ耐熱性および耐溶剤性を有する難燃性架橋樹脂成形品が得られることを見いだして、本発明を完成するに至った。
【0019】
上記目的は、以下の本発明により達成される。
(1)環状オレフィン系樹脂(A)100質量部に対し、有機過酸化物(B)0.3〜2.5質量部、架橋助剤(C)7〜30質量部、および粉末状赤リン(D)1〜20質量部が分散されてなり、かつ、前記有機過酸化物(B)に対する前記架橋助剤(C)の質量で表した配合割合(C/B)が11以上であることを特徴とする架橋性樹脂組成物。
【0020】
(2)前記有機過酸化物(B)が、80℃以上の10時間半減期温度を有する、ジアルキル系有機過酸化物若しくはペルオキシエステル系有機過酸化物、または、下記式(1)若しくは(2)で表される構造を有するラジカル重合性有機過酸化物であり、かつ、前記架橋助剤(C)がアリル系架橋助剤である前記(1)の架橋性樹脂組成物。
【0021】
【化3】
【0022】
(式中、R1は水素原子または炭素数1若しくは2のアルキル基を示し、R2は水素原子またはメチル基を示し、R3およびR4はそれぞれ炭素数1〜4のアルキル基を示し、R5は炭素数1〜12のアルキル基、炭素数6〜12のフェニル基若しくはアルキル置換フェニル基、または炭素数3〜12のシクロアルキル基を示し、mは1または2である)
【0023】
【化4】
【0024】
(式中、R6は水素原子または炭素数1〜4のアルキル基を示し、R7は水素原子またはメチル基を示し、R8およびR9はそれぞれ炭素数1〜4のアルキル基を示し、R10は炭素数1〜12のアルキル基、炭素数6〜12のフェニル基若しくはアルキル置換フェニル基、または炭素数3〜12のシクロアルキル基を示し、nは0、1または2である)
【0025】
(3)前記粉末状赤リン(D)の表面が金属水酸化物で被覆されている前記(1)または(2)の架橋性樹脂組成物。
【0026】
(4)前記環状オレフィン系樹脂(A)100質量部に対し、さらに、ヒンダードアミン系化合物0.1〜5質量部が分散されてなる前記(1)〜(3)のいずれかの架橋性樹脂組成物。
【0027】
(5)前記(1)〜(4)のいずれかの架橋性樹脂組成物を有機溶剤に分散あるいは溶解させてなることを特徴とするワニス。
【0028】
(6)前記(1)〜(4)のいずれかの架橋性樹脂組成物からなることを特徴とする架橋性樹脂成形品。
【0029】
(7)フィルムまたはシートである前記(6)の架橋性樹脂成形品。
【0030】
(8)前記(1)〜(4)のいずれかの架橋性樹脂組成物と、補強基材とを複合してなることを特徴とするプリプレグ。
【0031】
(9)前記(6)または(7)の架橋性樹脂成形品を加熱、架橋させてなり、2GHzにおける比誘電率が3.0以下、誘電正接が0.005以下であることを特徴とする難燃性架橋樹脂成形品。
【0032】
(10)前記(7)の架橋性樹脂成形品または前記(8)のプリプレグの両面あるいは片面に金属層を配してなることを特徴とする難燃性プリント配線板用金属張り基板。
【0033】
【発明の実施の形態】
以下に本発明について詳細に説明する。
本発明の架橋性樹脂組成物は、環状オレフィン系樹脂(A)と、有機過酸化物(B)と、架橋助剤(C)と、粉末状赤リン(D)とを含有するものである。
【0034】
本発明に用いる環状オレフィン系樹脂は、特開平1−168725号公報、特開平1−190726号公報、特開平3−14882号公報、特開平3−122137号公報、特開平4−63807号公報、特開平6−298956号公報等において公知の樹脂であり、具体的には、環状オレフィンの開環重合体、開環共重合体、およびそれらの水素添加物、環状オレフィンの付加型重合体、環状オレフィンと他のオレフィンとの付加型共重合体、環状オレフィンとビニル芳香族系単量体との付加型共重合体、環状オレフィンと他のオレフィンとビニル芳香族系単量体との付加型共重合体等が挙げられる。これらの環状オレフィン系樹脂は、不飽和エポキシ化合物や不飽和カルボン酸化合物でグラフト変性されていてもよく、単独であるいは適宜組み合わせて使用することができる。
【0035】
本発明に用いる環状オレフィン系樹脂の原料となる環状オレフィン系単量体は、上記公報や特開平2−227424号公報、特開平2−276842号公報、特開平6−80792号公報、国際公開(WO)第98/05715号パンフレット、国際公開(WO)第98/18838号パンフレット等で公知の単量体であって、具体的には、ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、5−メチルビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、5,5−ジメチルビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、5−エチルビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、5−ブチルビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、5−ヘキシルビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、5−デシルビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、5−エチリデンビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、5−ビニルビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、5−プロペニルビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、5−シクロヘキシルビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、5−シクロペンチルビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、5−フェニルビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、5−メトキシカルボニルビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、5−エトキシカルボニルビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、5−メチル−5−メトキシカルボニルビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、5−メチル−5−エトキシカルボニルビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、ビシクロ[2.2.1]ヘプト−5−エニル−2−メチルプロピオネイト、ビシクロ[2.2.1]ヘプト−5−エニル−2−メチルオクタネイト、ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン−5,6−ジカルボン酸無水物、5−ヒドロキシメチルビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、5,6−ジヒドロキシメチルビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、5−ヒドロキシ−i−プロピルメチルビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、5,6−ジカルボキシビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、5−シアノビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン−5,6−ジカルボン酸イミド等のビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン誘導体;テトラシクロ[4.4.12,5.17,10.0]−ドデカ−3−エン、8−メチルテトラシクロ[4.4.12,5.17,10.0]−ドデカ−3−エン、8−エチルテトラシクロ[4.4.12,5.17,10.0]−ドデカ−3−エン、8−メチリデンテトラシクロ[4.4.12,5.17,10.0]−ドデカ−3−エン、8−エチリデンテトラシクロ[4.4.12,5.17,10.0]−ドデカ−3−エン、8−ビニルテトラシクロ[4.4.12,5.17,10.0]−ドデカ−3−エン、8−プロペニルテトラシクロ[4.4.12,5.17,10.0]−ドデカ−3−エン、8−メトキシカルボニルテトラシクロ[4.4.12,5.17,10.0]−ドデカ−3−エン、8−メチル−8−メトキシカルボニルテトラシクロ[4.4.12,5.17,10.0]−ドデカ−3−エン、8−ヒドロキシメチルテトラシクロ[4.4.12,5.17,10.0]−ドデカ−3−エン、8−カルボキシテトラシクロ[4.4.12,5.17,10.0]−ドデカ−3−エン等のテトラシクロ[4.4.12,5.17,10.0]−ドデカ−3−エン誘導体、テトラシクロ[6.5.12,5.01,6.08,13]トリデカ−3,8,10,12−テトラエン、テトラシクロ[6.5.12,5.01,6.08,13]テトラデカ−3,8,10,12−テトラエン、トリシクロ[4.3.12,5.0]−デカ−3−エン、トリシクロ[4.3.12,5.0]−デカ−3,7−ジエン等を挙げることができる。
【0036】
環状オレフィン系単量体としては、上記の具体例以外にも、そのアルキル、アルキリデン、芳香族置換誘導体、およびこれらの置換または非置換のオレフィンのハロゲン、水酸基、エステル基、アルコキシ基、シアノ基、アミド基、イミド基、シリル基等の極性基置換体であってもよい。上記の環状オレフィン系単量体は、単独であるいは組み合わせて使用することができる。
【0037】
これらの環状オレフィン系単量体のなかでも、テトラシクロ[4.4.12,5.17,10.0]−ドデカ−3−エン、8−メチルテトラシクロ[4.4.12,5.17,10.0]−ドデカ−3−エン、8−エチルテトラシクロ[4.4.12,5.17,10.0]−ドデカ−3−エン、ヘキサシクロヘプタデセン類、テトラシクロ[6.5.12,5.01,6.08,13]トリデカ−3,8,10,12−テトラエン等の多環構造を有する環状オレフィン系単量体を用いると、良好な耐熱性を有する環状オレフィン系樹脂が得られるため、好ましい。
【0038】
上記環状オレフィン系単量体と共重合可能な他のオレフィンの単量体としては、例えば、エチレン、プロピレン、1−ブテン、4−メチル−1−ペンテン、1−ヘキセン、1−オクテン、1−デセン、1−ドデセン、1−テトラデセン、1−ヘキサデセン、1−オクタデセン、1−エイコセン等のα−オレフィンが挙げられる。また、シクロブテン、シクロペンテン、シクロヘキセン、3−メチルシクロヘキセン、シクロオクテン、3a,5,6,7a−テトラヒドロ−4,7−メタノ−1H−インデン等のシクロオレフィンが挙げられる。さらに、1,4−ブタジエン、1,4−ヘキサジエン、1,6−オクタジエン、2−メチル−1,5−ヘキサジエン、4−メチル−1,4−ヘキサジエン、5−メチル−1,4−ヘキサジエン、6−メチル1,5−ヘプタジエン、1,7−オクタジエン、1,3−シクロペンタジエン、1,3−シクロヘキサジエン、1,3−シクロヘプタジエン、1,3−シクロオクタジエン等の非環状・環状非共役ジエン類が挙げられる。
【0039】
これら他のオレフィンの単量体は、環状オレフィン系単量体と共重合が可能であれば特に上記の具体例に限定されるものではなく、単独であるいは適宜組み合わせて使用することができる。これら他のオレフィンの単量体のなかでも、特に、エチレンが物性面からより好ましく挙げられる。
【0040】
また、上記環状オレフィン系単量体と共重合可能なビニル芳香族系単量体としては、例えば、スチレン、核置換スチレン、α−置換スチレン、さらにジビニルベンゼン類等が挙げられる。核置換スチレンとしては、例えば、メチルスチレン、ジメチルスチレン、エチルスチレン、イソプロピルスチレン等が挙げられる。そして、α−置換スチレンとしては、例えば、α−メチルスチレン、α−エチルスチレン等が挙げられる。さらに、ジビニルベンゼン類としては、o−、m−、p−ジビニルベンゼンが挙げられる。これらのビニル芳香族系単量体のなかでも好ましくは、スチレン、α−メチルスチレン等の各単量体が挙げられる。このようなビニル芳香族系単量体は、単独で使用することも、2種類以上併用することもできる。
【0041】
本発明に用いる環状オレフィンの開環重合体および開環共重合体は、従来公知の方法で得ることができる。例えば、無溶媒若しくは不活性有機溶媒中で、金属のハロゲン化物、硝酸塩またはアセチルアセトン化合物と還元剤とからなる触媒系、または、金属のハロゲン化物またはアセチルアセトン化合物と有機アルミニウム化合物とからなる触媒系を用いて重合することにより得ることができる。
【0042】
本発明に用いる環状オレフィンの付加型重合体、環状オレフィンと他のオレフィンとの付加型共重合体、環状オレフィンとビニル芳香族系単量体との付加型共重合体、および、環状オレフィンと他のオレフィンとビニル芳香族系単量体との付加型共重合体は、従来公知の方法で得ることができる。例えば、無溶媒若しくは不活性有機溶媒中で、バナジウム化合物と有機アルミニウム化合物とからなる触媒系を用いて重合することにより得ることができる。
【0043】
本発明に用いる環状オレフィン系樹脂(A)の種類は、有機溶剤に対する良溶解性、即ちワニス調製の容易性と、高周波帯域における誘電特性の観点から、環状オレフィンの開環重合体が特に好ましい。なお、環状オレフィン系樹脂のガラス転移温度(Tg)は、100℃以上250℃以下が好ましい。Tgが低いと使用環境によっては耐熱性が不足する傾向があり、高くなると成形加工が困難になる傾向がある。また、分子量は、重量平均絶対分子量で1000以上であることが好ましい。この上限は特に制限はないが、通常10000000程度である。重量平均絶対分子量が1000未満だと、成形品の機械的強度やはんだ耐熱性が不充分になる傾向があり、一方、10000000を越えると成形性が悪化する傾向がある。
【0044】
本発明に用いる有機過酸化物(B)としては、特に制限はないが、具体的には、例えば、ジクミルペルオキシド、t−ブチルクミルペルオキシド、2,5−ビス(t−ブチルペルオキシ)2,5−ジメチルヘキサン、2,5−ビス(t−ブチルペルオキシ)2,5−ジメチルヘキシン−3、ジ−t−ブチルペルオキシド、イソプロピルクミル−t−ブチルペルオキシド、ビス(α−t−ブチルペルオキシイソプロピル)ベンゼン等のジアルキルペルオキシド類あるいは1,1−ビス(t−ブチルペルオキシ)シクロヘキサン、1,1−ビス(t−ブチルペルオキシ)3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、1,1−ビス(t−ブチルペルオキシ)シクロドデカン、n−ブチル−4,4−ビス(t−ブチルペルオキシ)バレレート、エチル−3,3−ビス(t−ブチルペルオキシ)ブチレート、3,3,6,6,9,9−ヘキサメチル−1,2,4,5,−テトラオキシシクロノナン等のペルオキシケタール類、ビス(t−ブチルペルオキシ)イソフタレート、t−ブチルペルオキシベンゾエート、t−ブチルペルオキシアセテート等のペルオキシエステル類が挙げられる。また、下記式(1)および(2)で表されるラジカル重合性有機過酸化物が挙げられる。
【0045】
【化5】
【0046】
(式中、R1は水素原子または炭素数1若しくは2のアルキル基を示し、R2は水素原子またはメチル基を示し、R3およびR4はそれぞれ炭素数1〜4のアルキル基を示し、R5は炭素数1〜12のアルキル基、炭素数6〜12のフェニル基若しくはアルキル置換フェニル基、または炭素数3〜12のシクロアルキル基を示し、mは1または2である)で表される化合物である。
【0047】
【化6】
【0048】
(式中、R6は水素原子または炭素数1〜4のアルキル基を示し、R7は水素原子またはメチル基を示し、R8およびR9はそれぞれ炭素数1〜4のアルキル基を示し、R10は炭素数1〜12のアルキル基、炭素数6〜12のフェニル基若しくはアルキル置換フェニル基、または炭素数3〜12のシクロアルキル基を示し、nは0、1または2である)で表される化合物である。
【0049】
上記式(1)で表されるラジカル重合性有機過酸化物としては、具体的には、t−ブチルペルオキシアクリロイロキシエチルカーボネート;t−アミルペルオキシアクリロイロキシエチルカーボネート;t−ヘキシルペルオキシアクリロイロキシエチルカーボネート;1,1,3,3−テトラメチルブチルペルオキシアクリロイロキシエチルカーボネート;クミルペルオキシアクリロイロキシエチルカーボネート;p−イソプロピルクミルペルオキシアクリロイロキシエチルカーボネート;t−ブチルペルオキシメタクリロイロキシエチルカーボネート;t−アミルペルオキシメタクリロイロキシエチルカーボネート;t−ヘキシルペルオキシメタクリロイロキシエチルカーボネート;1,1,3,3−テトラメチルブチルペルオキシメタクリロイロキシエチルカーボネート;クミルペルオキシメタクリロイロキシエチルカーボネート;p−イソプロピルクミルペルオキシメタクリロイロキシエチルカーボネート;t−ブチルペルオキシアクリロイロキシエトキシエチルカーボネート;t−アミルペルオキシアクリロイロキシエトキシエチルカーボネート;t−ヘキシルペルオキシアクリロイロキシエトキシエチルカーボネート;1,1,3,3−テトラメチルブチルペルオキシアクリロイロキシエトキシエチルカーボネート;クミルペルオキシアクリロイロキシエトキシエチルカーボネート;p−イソプロピルクミルペルオキシアクリロイロキシエトキシエチルカーボネート;t−ブチルペルオキシメタクリロイロキシエトキシエチルカーボネート;t−アミルペルオキシメタクリロイロキシエトキシエチルカーボネート;t−ヘキシルペルオキシメタクリロイロキシエトキシエチルカーボネート;1,1,3,3−テトラメチルブチルペルオキシメタクリロイロキシエトキシエチルカーボネート;クミルペルオキシメタクリロイロキシエトキシエチルカーボネート;p−イソプロピルクミルペルオキシメタクリロイロキシエトキシエチルカーボネート;t−ブチルペルオキシアクリロイロキシイソプロピルカーボネート;t−アミルペルオキシアクリロイロキシイソプロピルカーボネート;t−ヘキシルペルオキシアクリロイロキシイソプロピルカーボネート;1,1,3,3−テトラメチルブチルペルオキシアクリロイロキシイソプロピルカーボネート;クミルペルオキシアクリロイロキシイソプロピルカーボネート;p−イソプロピルクミルペルオキシアクリロイロキシイソプロピルカーボネート;t−ブチルペルオキシメタクリロイロキシイソプロピルカーボネート;t−アミルペルオキシメタクリロイロキシイソプロピルカーボネート;t−ヘキシルペルオキシメタクリロイロキシイソプロピルカーボネート;1,1,3,3−テトラメチルブチルペルオキシメタクリロイロキシイソプロピルカーボネート;クミルペルオキシメタクリロイロキシイソプロピルカーボネート;p−イソプロピルクミルペルオキシメタクリロイロキシイソプロピルカーボネート等を例示することができる。
【0050】
また、上記式(2)で表される化合物としては、t−ブチルペルオキシアリルカーボネート;t−アミルペルオキシアリルカーボネート;t−ヘキシルペルオキシアリルカーボネート;1,1,3,3−テトラメチルブチルペルオキシアリルカーボネート;p−メンタンペルオキシアリルカーボネート;クミルペルオキシアリルカーボネート;t−ブチルペルオキシメタリルカーボネート;t−アミルペルオキシメタリルカーボネート;t−ヘキシルペルオキシメタリルカーボネート;1,1,3,3−テトラメチルブチルペルオキシメタリルカーボネート;p−メンタンペルオキシメタリルカーボネート;クミルペルオキシメタリルカーボネート;t−ブチルペルオキシアリロキシエチルカーボネート;t−アミルペルオキシアリロキシエチルカーボネート;t−ヘキシルペルオキシアリロキシエチルカーボネート;t−ブチルペルオキシメタリロキシエチルカーボネート;t−アミルペルオキシメタリロキシエチルカーボネート;t−ヘキシルペルオキシメタリロキシエチルカーボネート;t−ブチルペルオキシアリロキシイソプロピルカーボネート;t−アミルペルオキシアリロキシイソプロピルカーボネート;t−ヘキシルペルオキシアリロキシイソプロピルカーボネート;t−ブチルペルオキシメタリロキシイソプロピルカーボネート;t−アミルペルオキシメタリロキシイソプロピルカーボネート;t−ヘキシルペルオキシメタリロキシイソプロピルカーボネート等を例示することができる。
【0051】
上記式(1)、(2)で表されるラジカル重合性有機過酸化物の中でも、好ましくは、t−ブチルペルオキシアクリロイロキシエチルカーボネート;t−ブチルペルオキシメタクリロイロキシエチルカーボネート;t−ブチルペルオキシアリルカーボネート;t−ブチルペルオキシメタリルカーボネートである。
【0052】
これら有機過酸化物は、架橋性樹脂組成物の成形温度に合わせて選択すればよく、通常、ある成形温度において有機過酸化物の過酸化結合数が熱分解により半分になるのに要する時間(半減期)の5〜10倍が成形時間となる。また、後述する成形加工を行う際に、環状オレフィン系樹脂を架橋助剤を用いて架橋するために、10時間半減期温度が80℃以上である有機過酸化物を用いることがより好ましい。この温度の上限には特に制限はないが、通常180℃程度である。なお、本発明でいう10時間半減期温度とは、ベンゼン等のラジカルに対して不活性な溶媒で、0.1mol/l(時には0.05mol/l)濃度の有機過酸化物溶液を調製し、窒素置換をしたガラス容器中で熱分解させて活性酸素量が10時間で半分になる温度を測定した値である。これらの有機過酸化物は単独であるいは組み合わせて使用することができる。
【0053】
上記の有機過酸化物のうち、架橋性樹脂成形品を加熱して得られる難燃性架橋樹脂成形品の電気特性、耐熱性、耐溶剤性、機械的物性、成形性の観点から、ラジカル重合性有機過酸化物類、ジアルキルペルオキシド類およびペルオキシエステル類が好ましく、なかでも特に、耐熱性の観点から、t−ブチルペルオキシアクリロイロキシエチルカーボネート、t−ブチルペルオキシメタクリロイロキシエチルカーボネート、t−ブチルペルオキシアリルカーボネート、t−ブチルペルオキシメタリルカーボネート、2,5−ビス(t−ブチルペルオキシ)2,5−ジメチルヘキシン−3が好ましく、また電気特性の観点から、t−ブチルペルオキシアクリロイロキシエチルカーボネート、t−ブチルペルオキシメタクリロイロキシエチルカーボネート、t−ブチルペルオキシアリルカーボネート、t−ブチルペルオキシメタリルカーボネート、t−ブチルペルオキシベンゾエートが好ましい。
【0054】
各物性のトータルバランスの観点から、最も好ましいのは、t−ブチルペルオキシメタクリロイロキシエチルカーボネートおよびt−ブチルペルオキシアリルカーボネートであり、これらのラジカル重合性有機過酸化物は、他の有機過酸化物に対して5質量%程度併用するだけで、電気特性、耐熱性、耐溶剤性が著しく向上する。
【0055】
本発明に用いる架橋助剤(C)は、特に制限はないが、具体的には、例えば、p−キノンジオキシム、p,p’−ジベンゾイルキノンジオキシム等のオキシム類;エチレンジメタクリレート、ポリエチレングリコールジメタクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、シクロヘキシルメタクリレート、アクリル酸/酸化亜鉛混合物、アリルメタクリレート等のアクリレート若しくはメタクリレート類;ジビニルベンゼン、ビニルトルエン、ビニルピリジン等のビニルモノマー類;ヘキサメチレンジアリルナジイミド、ジアリルイタコネート、ジアリルフタレート、ジアリルイソフタレート、トリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアヌレート等のアリル化合物類;N,N’−m−フェニレンビスマレイミド、N,N’−(4,4’−メチレンジフェニレン)ジマレイミド等のマレイミド化合物類等が挙げられる。
【0056】
これらの架橋助剤は単独で用いてもよいし、適宜組み合わせて使用することもできる。上記の架橋助剤のうち、架橋性樹脂成形品を加熱・架橋して得られる難燃性架橋樹脂成形品の電気特性、耐熱性、耐溶剤性の観点からはアリル化合物類が好ましく、特に熱安定性の観点から、トリアリルイソシアヌレート(TAIC)が最も好ましい。
【0057】
本発明に用いる粉末状赤リン(D)は、ジェットミル、ボールミル等により機械的に粉砕した赤リンを用いても、粉砕面のない球体様赤リンを用いてもよい。また、好ましくは、その表面が金属水酸化物および/または樹脂によって被覆された粉末状赤リンを用いる。これらの粉体状赤リンは、従来公知の方法によって得ることができる。具体的には、反応容器中で黄リンを加熱処理して熱転化により塊状赤リンを得、この塊状赤リンを機械的に粉砕した後、篩別することで所望の粒径を有する粉末状赤リン(以下「粉砕赤リン」と記述する)が得られる。また、黄リンを加熱処理する際に分散剤の存在下で行うことにより、粉体様単粒子またはその結合体からなる、粉末状の赤リンを得ることができる。このときに、分散剤の種類および量と黄リンから赤リンへの転化率を選択することにより、所望の粒径を有する粉末状赤リン(以下「球体様赤リン」と記述する場合がある)が得られる。
【0058】
これらの赤リンは、単独であるいは組み合わせて使用することができる。上記の赤リンのうち、後述する本発明の架橋性樹脂成形品を作製する際の安定性やワニスへの分散性、あるいはワニスへの分散後、加熱・架橋して得られる難燃性架橋樹脂成形品の耐候性の観点から、球体様赤リンが好ましい。また、赤リンは、架橋性樹脂成形品の形態に応じて粒径を選択することが望ましい。具体的には、フィルムなどの場合には、表面状態を考慮した粒径を選択するが、射出成形品の形態の場合には、表面状態や難燃性に応じて様々な粒径の赤リンを選択することが望ましい。好ましくは、平均粒径30μm以下のものを用いる。
【0059】
本発明に用いる粉末状赤リンは、架橋性樹脂組成物を架橋性樹脂成形品に成形する際の熱や摩擦、あるいは衝撃に対する安定性や空気中の水分や酸素に対する安定性を増す目的で、その表面を各種有機化合物または無機化合物で被覆することが好ましい。このような有機化合物の具体例としては、フェノール樹脂、フラン樹脂、キシレン・ホルムアルデヒド樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂、アニリン樹脂、アルキド樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂等が挙げられる。また無機化合物としては、周期律表第2族、第3族、または第4族の金属の酸化物または水酸化から選ばれ、具体的には、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、水酸化亜鉛、酸化チタン等が挙げられる。
【0060】
粉末状赤リンを各種有機化合物または無機化合物で被覆する方法には特に制限はなく、従来公知の方法により行えばよい。また、無機化合物で被覆した後、さらに有機化合物で被覆したり、有機化合物で被覆した後、さらに無機化合物で被覆した粉末状赤リンであってもよい。特に好ましくは、水酸化マグネシウムで表面処理された粉末状赤リンである。
【0061】
本発明の架橋性樹脂組成物には、さらに高度な難燃性を付与する目的で、ヒンダードアミン系化合物(E)を配合することが好ましい。本発明で用いるヒンダードアミン系化合物は、特開平11−80569号公報、特開2001−348724号公報等で公知の化合物であり、NOR型HALS系安定剤と呼ばれることもある。具体的には、N,N',N'''−トリス{2,4−ビス[(1−ヒドロカルビオキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−4−イル)アルキルアミノ]−s−トリアジン−6−イル}−3,3'−エチレンジイミノジプロピルアミン、N,N',N''−トリス{2,4−ビス[(1−ヒドロカルビオキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−4−イル)アルキルアミノ]−s−トリアジン−6−イル}−3,3'−エチレンジイミノジプロピルアミンおよびその架橋型誘導体、ビス(1−オクチルオキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−4−イル)セバケート、ビス(1−オクチルオキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−4−イル)アジペート、ビス(1−シクロヘキシルオキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−4−イル)アジペート、ビス(1−シクロヘキシルオキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−4−イル)セバケート、1−シクロヘキシルオキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−4−イル オクタデカノエート等が挙げられる。
【0062】
これらのヒンダードアミン系化合物のうちで、難燃性付与の観点から特に好ましいのは、N,N',N'''−トリス{2,4−ビス[(1−ヒドロカルビオキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−4−イル)アルキルアミノ]−s−トリアジン−6−イル}−3,3'−エチレンジイミノジプロピルアミン、N,N',N''−トリス{2,4−ビス[(1−ヒドロカルビオキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−4−イル)アルキルアミノ]−s−トリアジン−6−イル}−3,3'−エチレンジイミノジプロピルアミンおよびその架橋型誘導体である。これらのヒンダードアミン系化合物は、単独であるいは組み合わせて使用することができる。
【0063】
市販品としては、例えば、ヒンダードアミン系化合物(チバスペシャルティケミカルズ社製、商品名、「Flamestab NOR 116」等が挙げられる。
【0064】
本発明の架橋性樹脂組成物は、環状オレフィン系樹脂(A)100質量部に対して、有機過酸化物(B)を純度100%換算で0.3〜2.5質量部、好ましくは0.4〜2.0質量部、さらに好ましくは0.4〜1.5質量部、また、架橋助剤(C)を7〜30質量部、好ましくは8〜25質量部、さらに好ましくは10〜20質量部、それぞれ分散させてなる組成物であって、さらに、有機過酸化物(B)と架橋助剤(C)との配合割合(C/B)が11以上、即ち、有機化酸化物1質量部に対して架橋助剤を11質量部以上配合した架橋性樹脂組成物である。有機過酸化物の量が0.3質量部より少ないと架橋が不十分となり、得られる架橋樹脂成形品のはんだ耐熱性や耐溶剤性が低下する。一方、有機過酸化物の量が2.5質量部より多いと誘電特性が低下する。また、架橋助剤の量が7質量部より少ないと架橋が不十分となり、得られる架橋樹脂成形品のはんだ耐熱性や耐溶剤性が低下する。一方、架橋助剤の量が30質量部より多いと反応を完結させるために大量の有機過酸化物が必要となり、誘電特性の低下や吸水率の増加、機械強度の低下等が起こる。
【0065】
また、有機過酸化物1質量部に対して架橋助剤を11質量部以上の割合で配合することにより、誘電特性、はんだ耐熱性および耐溶剤性が高度にバランスの取れた架橋物が得られる。有機過酸化物1質量部に対する架橋助剤の量が11質量部より少ないと、誘電特性、はんだ耐熱性および耐溶剤性のバランスが崩れるために、実用レベルの架橋樹脂成形品が得られなくなる。さらに、配合によっては環状オレフィン系樹脂の分解が優先的に起こり、架橋物に発泡が生じることもある。有機過酸化物1質量部に対する架橋助剤の配合割合の上限は特にないが、50質量部までが好ましい。50質量部より多いと反応を完結させることが困難になり、耐熱性、耐溶剤性および機械的特性等が低下する傾向がある。
【0066】
また、粉末状赤リン(D)の配合量は、環状オレフィン系樹脂(A)100質量部に対して、1〜20質量部、好ましくは2〜15質量部、さらに好ましくは3〜10質量部である。粉末状赤リンの量が1質量部より少ないと、充分な難燃効果が得られにくくなる傾向にある。一方、粉末状赤リンの量が20質量部を超えると、得られる難燃性架橋樹脂成形品の誘電特性が低下したり、吸水率が増加したり、機械強度が低下する傾向がある。
【0067】
さらに、ヒンダードアミン系化合物(E)の配合割合は、環状オレフィン系樹脂(A)100質量部に対して、0.1〜10質量部、好ましくは0.1〜7質量部、さらに好ましくは0.2〜5質量部である。ヒンダードアミン系化合物の量が0.1質量部より少ないと、充分な難燃性向上効果が得られにくくなる。一方、ヒンダードアミン系化合物の量が10質量部を超えると得られる難燃性架橋樹脂成形品の誘電特性が低下したり、吸水率が増加したり、機械強度が低下する。
【0068】
本発明において、環状オレフィン系樹脂に有機過酸化物、架橋助剤および粉末状赤リンを分散させる方法に特に制限はなく、一般に使用されている装置等を適用することができる。具体的には例えば、攪拌下で有機溶剤に環状オレフィン系樹脂、有機過酸化物、架橋助剤および粉末状赤リンを溶解あるいは分散させ、ワニスとした後、加熱等により有機溶剤を除去する方法や、加熱により溶融状態にした環状オレフィン系樹脂に有機過酸化物、架橋助剤および粉末状赤リンを添加し、混練・分散させる方法、さらには、加熱により溶融状態にした環状オレフィン系樹脂に対して粉末状赤リンのみを添加し、混練・分散した後、一旦冷却した樹脂組成物を、撹拌下で有機溶剤に有機過酸化物および架橋助剤を溶解あるいは分散させ、ワニスとした後、加熱等により有機溶剤を除去する方法等が挙げられる。
【0069】
本発明の架橋性樹脂組成物から、使用形態の一具体例であるワニスを得る場合に使用する有機溶剤は、架橋性樹脂組成物を均一分散または溶解するものであればよく、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン等の芳香族化合物、シクロヘキサン、デカリン等の脂環族化合物、ジクロロメタン、クロロホルム、テトラクロロメタン、トリクロロエチレン等のハロゲン化アルキル化合物等が挙げられる。これらの有機溶剤のうち、架橋性樹脂組成物の溶解性あるいは分散性、除去の容易性の観点からは、芳香族化合物が好ましい。有機溶剤は、一種類を単独で用いてもよく、二種類以上を混合して用いてもかまわない。
【0070】
有機溶剤に対して架橋性樹脂組成物を均一分散あるいは溶解してワニスを得る方法には特に制限はないが、攪拌子とマグネチックスターラーを用いた攪拌、高速ホモジナイザー、遊星攪拌機、二軸攪拌機、ロールによる混練等が挙げられる。加熱しながらワニスを調製しても良いが、架橋反応を抑制するため、加熱温度は有機過酸化物の分解が実質的に起こらない温度で行う必要があり、その上限は通常170℃程度である。有機溶剤の使用量は特に制限されず、その使用目的に応じて適宜選択すればよい。通常、有機溶剤に対する架橋性樹脂組成物の濃度が5〜70質量%、好ましくは10〜60質量%、さらに好ましくは15〜50質量%である。このような濃度にすることで、均一な、成形性の良いワニスを得ることができ、成形する上で好ましい。
【0071】
ワニスから過剰な有機溶剤を除去する場合、その方法にも特に制限はなく、温風乾燥、真空乾燥、遠赤外線乾燥等の簡便な方法を選択することができる。但し、有機過酸化物の分解が実質的に起こらない温度で溶剤除去を行う必要があり、その上限は、通常170℃程度である。
【0072】
また、加熱により溶融状態にした環状オレフィン系樹脂(A)に有機過酸化物(B)、架橋助剤(C)および粉末状赤リン(D)を添加し、混練・分散させる方法に、特に制限はなく、一般的な方法を用いることができる。
【0073】
本発明の架橋性樹脂組成物から、使用形態の架橋性樹脂成形品を得る方法としては、例えば、有機溶剤に溶解あるいは均一分散させワニスとしてから、所望の形状に成形した後、有機溶剤を除去する方法や、固体状の架橋性樹脂組成物をプレス成形、射出成形、ブロー成形、ロール成形および押出成形等で成形する方法が挙げられる。なお、成形方法は、使用目的に応じて最も安価に目的とする成形品が得られる方法を選択すればよく、上記具体例に限定されるものではない。
【0074】
さらに、本発明において、架橋性樹脂成形品の一具体例であるシートあるいはフィルムを得る方法にも特に制限はなく、例えば、架橋性樹脂組成物のワニスを平坦な支持体に流延した後、有機溶剤を除去する方法や、固体状の架橋性樹脂組成物を射出成形、Tダイ押出成形、カレンダーロール成形、プレス成形等、従来公知の成形方法により、シートまたはフィルムに成形する方法等を選択することができる。前者の方法を採用した場合に、ワニスの塗布方法は従来公知の方法により行えばよく、具体的には例えば、ディップコート、ロールコート、ダイコート、スリットコート、カーテンコート等が挙げられる。塗布後、有機溶剤を除去する方法は、既に述べた方法に準じて行えばよい。支持体として使用する材料に関して、特に限定はないが、例えば、樹脂フィルム、金属箔、金属板、ガラス等が挙げられる。このようにして得られるシートあるいはフィルムの厚みは、通常1〜300μm程度である。
【0075】
また、本発明において架橋性樹脂成形品の一具体例であるプリプレグを得る方法にも特に制限はないが、具体例として下記(1)〜(4)の方法が挙げられる。
(1)射出成形、Tダイ押出成形、カレンダーロール成形、プレス成形等によって得た架橋性樹脂成形品のシートあるいはフィルムで基材を挟んだ積層物を熱プレスにより加圧下に加熱してプリプレグを得る方法。
(2)基材に架橋性樹脂組成物の粉末を所定量均一に散布したものを熱プレスし、上記(1)の方法と同様にプリプレグを得る方法。
(3)架橋性樹脂成形品のシートあるいはフィルムと基材の積層物を一対の金属ロールあるいはベルト間に導き、加圧しながら連続的に加熱してプリプレグを得る方法。
(4)架橋性樹脂組成物のワニスを基材に含浸させた後、乾燥して有機溶剤を除去する方法。
【0076】
上記(1)〜(3)の方法を行う際の温度としては、用いた架橋性樹脂組成物または架橋樹脂成形品が充分に軟化して互いに熱融着し、かつ有機過酸化物の分解が実質的に起こらない温度とする必要があり、通常100〜170℃の範囲である。また、圧力は通常2〜10MPaの範囲である。上記(4)の方法を行う際の乾燥温度は、通常20〜170℃の範囲である。使用する基材としては、特に制限はなく、ガラスクロス、アラミドクロス、ポリエステルクロス、ナイロンクロス等のクロス基材、これらと同じ材質のマット状基材、不織布、クラフト紙、リンター紙等の一般的な印刷回路基板用プリプレグに使用される基材を用いればよい。プリプレグの厚みに特に制限はないが、通常50〜500μm程度である。これらの方法のうち、特に好ましいのは、経済性と簡便性の観点から、上記(4)の方法である。
【0077】
さらに、本発明の架橋性樹脂成形品を加熱処理することにより、架橋樹脂成形品が得られる。加熱処理の方法は、通常用いられる熱硬化性樹脂やポリエチレン等の架橋で用いられている方法に準じて行えばよく、熱プレス、熱ベルトプレス、加熱炉、RIM成形等のドライプロセスが、簡便で安価に成形品を得ることができるために好ましい。加熱時間は、使用する有機過酸化物の架橋温度における半減期時間の5〜10倍で行うのが好ましい。
【0078】
本発明の架橋樹脂成形品の一具体例であるプリント配線板用金属張り基板を得る方法にも、特に制限はなく、一般的な方法から適宜選択すればよい。具体的には、まず、前記架橋性樹脂成形品の具体例であるシート、フィルムあるいはプリプレグを少なくとも1枚以上積層する。次に、積層体の最外層の片面あるいは両面に金属層を配置して、プレス、具体的には金属ロール、金属ベルト等により加熱下に加圧する方法が挙げられる。このときの温度は、使用する有機過酸化物の1分間半減期程度の温度で、かつ、架橋性樹脂成形品が充分に軟化し互いに熱融着する温度で行えばよく、通常100〜300℃の範囲である。また、プレス、金属ベルト等を使用する際の面圧は、通常1〜10MPa程度で、金属ロール等を使用する際の線圧は通常490〜1960N/cm程度である。なお、1分間半減期温度は、前記の10時間半減期温度に準じて求めた値である。
【0079】
本発明の架橋樹脂成形品の一具体例であるプリント配線板用金属張り基板に使用する金属層とは、例えば、銅、アルミニウム、鉄、ニッケル、亜鉛等の金属単体または合金の板あるいは箔のことであり、必要に応じてクロム、モリブデン等の金属で表面処理が施されたものを用いてもよい。これらの金属層については、電解法、圧延法等の従来公知の技術によって製造されたものを用いることができ、その厚さは通常0.003〜1.5mm程度である。なお、金属導体層をパターン状に形成するときは、金属導体フィルムを所定の形状にパターン化してから密着しても、密着してからエッチングによる除去を行ってパターン化してもよい。また、金属層は真空蒸着法、スパッタ、イオンビームおよびCVD等によって架橋性樹脂組成物の最外層に形成してあってもよい。
【0080】
本発明の架橋性樹脂組成物には、本発明の効果を損なわない範囲において、酸化防止剤、熱安定剤、滑剤、可塑剤、光安定剤、着色剤、難燃剤などの通常の添加剤を添加することができる。また、ポリテトラフルオロエチレン、ポリアミド、ポリエーテルイミド、ポリアミドイミド、ポリイミド、ポリカーボネート、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン(ABS)樹脂、ポリエステル等の樹脂を本発明の目的を損なわない範囲で含んでいてもよい。
【0081】
本発明の架橋樹脂成形品の好ましい電気的特性は、周波数2GHzにおける空洞共振器摂動法による測定値が、比誘電率(ε’)が3.0以下で、かつ、誘電正接(tanδ)が0.005以下、より好ましくはε’が2.7以下で、かつ、tanδが0.003以下、最も好ましくはε’が2.5以下で、かつ、tanδが0.002以下である。このような誘電特性の組成物とすることで、電子部品や基板とした時に優れた高周波特性を得ることができる。
【0082】
なお、本発明の架橋樹脂成形品の絶縁抵抗率は常態における体積抵抗率で2〜5×1014Ωcm以上である。また、絶縁破壊強度も強く、15kV/mm以上、特には18〜30kV/mmと優れた特性を示す。また、はんだ耐熱性が高く、耐溶剤性が高く、線膨張係数が低く、機械的強度が高く、吸水率が低く、金属導体層との密着性ないし接着性が良好である。
【0083】
本発明の架橋性樹脂組成物は、ワニスとして、またはシート、フィルム、プリプレグを初めとするバルク状や所定形状の架橋性樹脂成形品として、種々の形態で用いることができる。これらを加熱し、架橋した架橋樹脂成形品は、高周波帯域で使用する電子機器や電子部品(共振器、フィルタ、コンデンサ、インダクタ、アンテナ等)の各種基板、多層基板やビルドアップ基板の絶縁層、各種基板用ソルダーレジスト、部品としてのフィルタ(例えば、多層フィルタ)や共振器(例えば、トリプレート型共振器)、さらには各種基板ないし電子部品のハウジングやケーシング等として用いることができる。
【0084】
基板としては、従来のガラエポ基板の代替品としての用途が期待され、具体的には銅張り基板およびメタルベース/メタル基板等が挙げられる。さらには、部品搭載用オンボード基板、回路内蔵基板、アンテナ基板(パッチアンテナ等)にも用いることができる。また、CPU用オンボード基板にも用いることができる。
【0085】
例えば、金属配線パターンを施したコア基板上に本発明の未架橋のプリプレグと銅箔とを積層し、熱プレスにより加熱・融着・架橋することで、多層基板を得ることができる。この場合も、本発明により銅箔との密着性が良好なものが得られる。
【0086】
また、最外層に金属配線パターンを施したコア基板上に架橋性樹脂組成物のワニスを塗布し、加熱・架橋することで、ソルダーレジストとして使用したり、ビルドアップ基板の絶縁層を形成することができる。形成したビルドアップ絶縁層上の金属層は、通常、蒸着やスパッタ、あるいはめっきにより形成されるが、この場合も金属層との密着性が良好なものが得られる。
【0087】
さらに、架橋性樹脂組成物のワニスを銅箔上に塗布し、乾燥することで架橋性樹脂組成物付きの銅箔を得ることができる。この樹脂付き銅箔を金属配線パターンを施したコア基板上に積層し、熱プレスにより加熱・融着・架橋することでも、ビルドアップ基板を得ることができる。これらの用途に用いる場合、絶縁層の厚みは通常5〜200μm程度である。
【0088】
【実施例】
以下に、本発明を、比較例とともに示す実施例によりさらに具体的に説明する。
実施例1〜9
下記の表1に示す割合にて、トルエンと、環状オレフィン系樹脂(A)としての「ZEONEX 480」(商品名、日本ゼオン(株)製:Tg=138℃)、有機過酸化物(B)としての2,5−ビス(t−ブチルペルオキシ)2,5−ジメチルヘキシン−3「パーヘキシン25B」(純度90%品)(商品名、日本油脂(株)製:10時間半減期温度128℃)、架橋助剤(C)としてのトリアリルイソシアヌレート(日本化成(株)製、商品名「TAIC」)および粉末状赤リン(D)としての表面安定化球状粉末赤リン(燐化学工業(株)製、商品名「ノーバエクセルF5」)とを、攪拌装置を備えた内容積5リットルのセパラブルフラスコに入れ、固形分濃度30質量%となるように、60℃で攪拌・分散して架橋性樹脂組成物のワニスを得た。
【0089】
次に、得られたワニスを、厚さ100μmのポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム上に、塗工機を用いて、厚さ400μmとなるように塗布した。その後、送風乾燥機中で80℃、30分間、次いで100℃、1時間、乾燥してからPETフィルムより剥がし、本発明における架橋性樹脂成形品の具体例としての厚さ120μmのフィルムを得た。
【0090】
得られたフィルム10枚を積層し、真空プレス成形機((株)名機製作所製)により、温度220℃、圧力3MPaで60分間、真空下で熱プレスし、厚さ1mmの架橋性樹脂成形板を作製した。得られた架橋性樹脂成形板から切り出した試験片を用いて、以下に示した測定方法に準じ、誘電特性(比誘電率、誘電正接)、はんだ耐熱性、難燃性および耐溶剤性の測定を行った。
【0091】
1.誘電率試験:空洞共振器摂動法(測定周波数は2GHz)、試験片サイズ100mm×1mm×1mm
2.誘電正接:空洞共振器摂動法(測定周波数は2GHz)、試験片サイズ100×1mm×1mm
3.はんだ耐熱性:JIS C 6481に準拠した。
4.難燃性:UL−94 V法に準拠して行った。
5.耐溶剤性:試験片(試験サイズ50×50×1mm)を常温でトルエンに30分浸漬した後、目視で試験片の状態変化を観察した。
【0092】
各試験の結果を下記の表1に併せて示す。表中、比誘電率は、「誘電体としての試験片の静電容量/真空の場合の静電容量」を表す。また、はんだ耐熱性の評価は、「○が試験片の変形無し」、「△が試験片の変形若干有り」、「×が試験片の変形・発泡有り」を表す。さらに、耐溶剤性の評価は、「◎が試験片の変化なし」、「○が試験片の変形を伴わない膨潤」、「△が試験片の変形を伴う膨潤」、「×が試験片にクラックが生じるまたは一部溶解する」を表す。
【0093】
また、表中の略号は次のものを示す。
A;CO:環状オレフィン系樹脂「ZEONEX 480」(商品名、日本ゼオン(株)製)
B;ヘキシン25B:2,5−ビス(t−ブチルペルオキシ)2,5−ジメチルヘキシン−3(日本油脂(株)製、商品名、「パーヘキシン25B」(純度90%品))
C;TAIC:トリアリルイソシアヌレート(日本化成(株)製、商品名、「TAIC」)
D;赤リン:表面安定化球状粉末赤リン(燐化学工業(株)製、商品名、「ノーバエクセルF5」、平均粒径1〜6μm)
なお、表中に示した配合割合のC/Bは、TAICを純度100%とし、有機過酸化物は純度100%に換算したときのC/Bの値を示す。
【0094】
【表1】
【0095】
実施例10〜14
ヒンダードアミン系化合物(チバスペシャルティケミカルズ社製、商品名、「Flamestab NOR 116」)を使用して、下記の表2に示す割合でワニスを調製した以外は、実施例1と同様の方法で架橋性樹脂成形板を成形し、各評価を行った。評価結果を下記の表2に併せて示す。
【0096】
また、表中の略号は以下のものを示す。
E;NOR116:ヒンダードアミン系化合物(チバスペシャルティケミカルズ社製、商品名、「Flamestab NOR 116」)
なお、表中に示した配合割合のC/Bは、TAICを純度100%とし、有機過酸化物は純度100%に換算したときのC/Bの値を示す。
【0097】
【表2】
【0098】
実施例15〜22
有機過酸化物(B)として、2,5−ビス(t−ブチルペルオキシ)2,5−ジメチルヘキシン−3(日本油脂(株)製、商品名「パーヘキシン25B」純度90%品、10時間半減期分解温度128.4℃)、t−ブチルペルオキシメタクリロイロキシエチルカーボネート(10時間半減期分解温度104.3℃)、t−ブチルペルオキシアリルカーボネート(日本油脂(株)製、商品名「ペロマーAC」(純度70%品)10時間半減期分解温度99.5℃)を使用して、下記の表3に示す割合でワニスを調製した以外は実施例1と同様の方法で成形して、各評価を行った。なお、実施例15〜22における各有機過酸化物の配合量は、2,5−ビス(t−ブチルペルオキシ)2,5−ジメチルヘキシン−3を0.5質量部配合した場合と有効官能基数で等モルとなるように配合した。評価結果を下記の表3に併せて示す。
【0099】
また、表中の略号は以下のものを示す。
B1;MEC:t−ブチルペルオキシメタクリロイロキシエチルカーボネート(10時間半減期分解温度104.3℃)
B2;AC:t−ブチルペルオキシアリルカーボネート(日本油脂(株)製、商品名 「ペロマーAC」(純度70%品)10時間半減期分解温度99.5℃)なお、表中に示した配合割合のC/Bは、TAICを純度100%とし、有機過酸化物は純度100%に換算したときのC/Bの値を示す。
【0100】
【表3】
【0101】
実施例23〜27
下記の表4に示す割合で調製したワニスを、厚さ60μmのEガラスクロス(旭シュエーベル(株)製)に含浸し、送風乾燥機中で80℃、30分間、次いで、130℃、1時間、乾燥して、本発明における架橋性樹脂成形品の具体例としての、厚さ150μmのプリプレグを得た。得られたプリプレグ7枚を積層し、その両表面に厚み18μmの銅箔(福田金属箔粉工業(株)製)を配置して、真空プレス機((株)名機製作所製)により、温度220℃、圧力3MPaで60分間、真空下で熱プレスし、厚さ1mm、樹脂分67wt%の、本発明における架橋樹脂成形品の具体例としてのプリント配線板用金属張り基板を得た。ここで得られた基板について、体積抵抗率、絶縁破壊強さ、比誘電率、誘電正接、はんだ耐熱性、線膨張係数、吸水率、曲げ強さ、銅箔引き剥がし強さおよび難燃性の測定を行った。なお、比誘電率、誘電正接の試験片は、JIS C 6481の方法に準じて、エッチングにより銅箔を取り除き試験に供した。
【0102】
6.体積抵抗率:JIS C 6481に準拠して行った。
7.絶縁破壊強さ:JIS C 6481に準拠して行った。
8.線膨張係数:JIS C 6481準拠して行った。(TMA法、表中は20℃〜Tg迄の値)(表中、XYが基板の平面方向の線膨張係数を、Zが基板の厚み方向の線膨張係数を、それぞれ示す。)
9.吸水率:JIS C 6481に準拠して行った。
10.曲げ強さ:JIS C 6481に準拠して行った。
11.銅箔引き剥がし強さ(銅箔密着性):JIS C 6481に準拠して行った。
12.難燃性:UL−94 V法に準拠して行った。
13.プリント配線板用銅張り基板のはんだ耐熱性の評価方法は、前記の「3.はんだ耐熱性」に準拠して行った。
【0103】
各試験の結果を下記の表4に併せて示す。
なお、プリント配線板用銅張り基板のはんだ耐熱性の評価は、「○が銅箔の膨れ剥がれ無し」、「△が銅箔の膨れ剥がれが若干有り」、「×が銅箔の膨れ剥がれが有り」を表す。また、表中に示した配合割合のC/Bは、TAICを純度100%とし、有機過酸化物は純度100%に換算したときのC/Bの値を示す。
【0104】
【表4】
【0105】
比較例1〜7
環状オレフィン系樹脂(A)としての「ZEONEX 480」(商品名、日本ゼオン(株)製:Tg=138℃)、有機過酸化物(B)としての2,5−ビス(t−ブチルペルオキシ)2,5−ジメチルヘキシン−3(日本油脂(株)製、商品名、「パーヘキシン25B」)、架橋助剤(C)としてのトリアリルイソシアヌレート(日本化成(株)製、商品名、「TAIC」)、粉末状赤リン(D)としての表面安定化球状粉末赤リン(燐化学工業(株)製、商品名「ノーバエクセルF5」)およびヒンダードアミン系化合物(チバスペシャルティケミカルズ社製、商品名、「Flamestab NOR 116」)の配合割合を下記の表5に示す割合に変更した以外は実施例1と同様の方法で架橋性樹脂成形板を成形して、各評価を行った。評価結果を下記の表5に併せて示す。
なお、表中に示した配合割合のC/Bは、TAICを純度100%とし、有機過酸化物は純度100%に換算したときのC/Bの値を示す。
【0106】
比較例8
環状オレフィン系樹脂(A)としての「ZEONEX 480」(商品名、日本ゼオン(株)製:Tg=138℃)と、粉末状赤リン(D)としての表面安定化球状粉末赤リン(燐化学工業(株)製、商品名「ノーバエクセルF5」)およびヒンダードアミン系化合物(チバスペシャルティケミカルズ社製、商品名、「Flamestab NOR 116」)との配合割合を下記の表5に示す割合に変更した以外は実施例1と同様の方法で架橋性樹脂成形板を成形して、各評価を行った。評価結果を下記の表5に併せて示す。
なお、表中に示した配合割合のC/Bは、TAICを純度100%とし、有機過酸化物は純度100%に換算したときのC/Bの値を示す。
【0107】
【表5】
【0108】
上記表1〜5の結果から、本発明の効果は明らかである。すなわち、上記結果からは、環状オレフィン系樹脂に対して、特定の割合で有機過酸化物、架橋助剤および粉末状赤リンを配合した架橋性樹脂組成物を加熱・架橋することにより、高度にバランスのとれた高周波帯域での誘電特性とはんだ耐熱性とを有する架橋樹脂成形品が得られることがわかる。特に、上記表3からは、ラジカル重合性有機過酸化物のみか、または、通常の有機過酸化物を少量併用することにより、さらに優れた諸物性を有する架橋樹脂成形品が得られることがわかる。また、さらにヒンダードアミン系化合物を加えることにより、架橋樹脂成形品に対してさらに高度な難燃性が付与されていることがわかる。
【0109】
一方、粉末状赤リンを配合しなかったり、有機過酸化物と架橋助剤を配合しなかったり、有機過酸化物と粉末状赤リンだけを配合したり、本発明における特定の割合以外の配合を行うと、比誘電率、誘電正接、難燃性、はんだ耐熱性、耐溶剤性のいずれかが悪化するため、実用レベルから判断して不適当となる。
【0110】
また、上記表4の結果から、本発明の架橋樹脂成形品の具体例であるプリント配線板用銅張り基板は、高周波帯域での使用に好適な誘電特性を有し、難燃性に優れ、はんだ耐熱性が高く、線膨張係数が低く、吸水率が低く、曲げ強度が強く、さらには金属層との密着性ないし接着性が良好であることがわかる。
【0111】
【発明の効果】
以上詳述したように、本発明の架橋性樹脂組成物を加熱・架橋して得られる難燃性架橋樹脂成形品は、高度にバランスのとれた高周波帯域での誘電特性とはんだ耐熱性とを有し、かつ、難燃性が高く、線膨張率が低く、吸水率が低く、機械的強度も高く、金属等との優れた接着性を備えているという効果を奏する。したがって、本発明の架橋性樹脂組成物とそれからなる難燃架橋樹脂成形品は、プリント配線基板やコンピューター部品等の、特に、誘電特性、耐熱性、難燃性および機械的物性等が要求される用途に有効であり、これにより優れた性能を備える基板や電子部品等が得られる。
Claims (10)
- 環状オレフィン系樹脂(A)100質量部に対し、有機過酸化物(B)0.3〜2.5質量部、架橋助剤(C)7〜30質量部、および粉末状赤リン(D)1〜20質量部が分散されてなり、かつ、前記有機過酸化物(B)に対する前記架橋助剤(C)の質量で表した配合割合(C/B)が11以上であることを特徴とする架橋性樹脂組成物。
- 前記有機過酸化物(B)が、80℃以上の10時間半減期温度を有する、ジアルキル系有機過酸化物若しくはペルオキシエステル系有機過酸化物、または、下記式(1)若しくは(2)で表される構造を有するラジカル重合性有機過酸化物であり、かつ、前記架橋助剤(C)がアリル系架橋助剤である請求項1記載の架橋性樹脂組成物。
- 前記粉末状赤リン(D)の表面が金属水酸化物で被覆されている請求項1または2記載の架橋性樹脂組成物。
- 前記環状オレフィン系樹脂(A)100質量部に対し、さらに、ヒンダードアミン系化合物0.1〜5質量部が分散されてなる請求項1〜3のうちいずれか一項記載の架橋性樹脂組成物。
- 請求項1〜4のうちいずれか一項記載の架橋性樹脂組成物を有機溶剤に分散あるいは溶解させてなることを特徴とするワニス。
- 請求項1〜4のうちいずれか一項記載の架橋性樹脂組成物からなることを特徴とする架橋性樹脂成形品。
- フィルムまたはシートである請求項6記載の架橋性樹脂成形品。
- 請求項1〜4のうちいずれか一項記載の架橋性樹脂組成物と、補強基材とを複合してなることを特徴とするプリプレグ。
- 請求項6または7記載の架橋性樹脂成形品を加熱、架橋させてなり、2GHzにおける比誘電率が3.0以下、誘電正接が0.005以下であることを特徴とする難燃性架橋樹脂成形品。
- 請求項7記載の架橋性樹脂成形品または請求項8記載のプリプレグの両面あるいは片面に金属層を配してなることを特徴とする難燃性プリント配線板用金属張り基板。
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