JP3879781B2 - 高純度2,6−ナフタレンジカルボン酸の製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は粗2,6-ナフタレンジカルボン酸より高純度2,6-ナフタレンジカルボン酸を製造する方法に関する。
【0002】
【従来技術】
2,6-ナフタレンジカルボン酸は優れた性能を有するポリエチレンナフタレート(PEN)樹脂の原料として有用である。
2,6-ナフタレンジカルボン酸とエチレングリコール等のジオール類とを重合させることにより得られるポリエステルは、優れた耐熱性と機械的強度を持ち、フィルムや繊維、ボトル等の素材として、工業的に重要な用途をもつ。特に2,6-ナフタレンジカルボン酸とエチレングリコールを重合させてできるPENは、ポリエチレンテレフタレートに代わる優れた工業用樹脂として近い将来の需要拡大が見込まれている。
【0003】
2,6-ナフタレンジカルボン酸の製造方法としては、2,6-ジアルキルナフタレンを酢酸溶媒中でCoやMn等の重金属と臭素化合物の存在下に、分子状酸素により高温、高圧で酸化する方法が知られている。この酸化反応により得られる2,6-ナフタレンジカルボン酸には、酸化反応の中間生成物であるメチルナフトエ酸、フォルミルナフトエ酸、ナフタレン環の分解で生じるトリメリット酸、臭素が付加したナフタレンジカルボン酸ブロマイド、原料2,6-ジアルキルナフタレン中の不純物に由来するナフトエ酸、ナフタレントリカルボン酸等の有機物、構造不明の着色成分及び酸化触媒由来のCoやMn等の金属成分が不純物として含まれている。
【0004】
これらの不純物を含む粗2,6-ナフタレンジカルボン酸をジオール類との重合の原料に用いた場合、得られるポリエステルは耐熱性、機械的強度、寸法安定性などの物性が低下したり、製品のポリエステルが着色して品質が低下するなどの弊害を起こす。具体的には、ナフトエ酸、メチルナフトエ酸、フォルミルナフトエ酸などのモノカルボン酸類の存在は重合を阻害し、ポリエステルの物性低下を引き起こし、着色成分の存在は、製品のポリエステルの着色による品質低下を引き起こす。従って高品質のポリエステルを得るため、前述の不純物および着色成分が極めて少ない高純度な2,6-ナフタレンジカルボン酸を製造することが要求されている。
【0005】
酸化反応により得られた粗2,6-ナフタレンジカルボン酸を精製して高純度2,6-ナフタレンジカルボン酸を製造する方法として種々の方法が提案されている。
粗2,6-ナフタレンジカルボン酸を溶媒に溶解し精製する方法として、米国特許5,256,817号では、粗2,6-ナフタレンジカルボン酸を水または酢酸水溶液を溶媒として300℃以上の高温下で溶解し、水添処理、晶析を行ない精製する方法が示されている。この方法では2,6-ナフタレンジカルボン酸の溶解度を上げるのに高温が必要とされ、その為、脱炭酸反応によりナフトエ酸が生成するという問題がある。またフォルミルナフトエ酸を除去する為、高価な貴金属触媒を用いる水添処理が必要であり、さらにこの時、核水添反応によるテトラリンジカルボン酸の生成が起きやすい。
【0006】
また特開昭62-230747号では粗2,6-ナフタレンジカルボン酸をジメチルスルフォキサイドやジメチルアセトアミド、ジメチルフォルムアミド等の溶媒に溶解し、活性炭吸着処理を行なった後、晶析よって精製する方法が示されている。しかしこの方法では脱色を行なうために多量の活性炭を用いなければならず、また当該溶媒への溶解度が低く多量の溶媒が必要で、かつ回収率も低い。
特開平5-32586号ではピリジン類に溶解し晶析することによる精製方法が示されている。しかしこの方法では、2,6-ナフタレンジカルボン酸の溶解度の温度依存性が小さいため回収率が低い。
【0007】
上記の如き粗2,6-ナフタレンジカルボン酸をそのまま精製する方法とは別に、粗2,6-ナフタレンジカルボン酸をアルカリ塩として、溶解度を向上させ、精製する方法が提案されている。特公昭52-20993号や特公昭48-68554号では、粗ナフタレンジカルボン酸をKOHやNaOH等のアルカリ水溶液に溶解し、固体吸着剤処理を行なった後、炭酸ガスや亜硫酸ガスを用いた酸析によりモノアルカリ塩として析出させ、当該モノアルカリ塩と水とを接触させて不均化する事により2,6-ナフタレンジカルボン酸を遊離させている。しかしこれらの方法では、脱色の為に多量の固体吸着剤を用いなければならず、さらにモノアルカリ塩を析出する際に、フォルミルナフトエ酸等他の不純物の塩も同時に析出して2,6-ナフタレンジカルボン酸に混入する。
【0008】
また特公昭52-20994号や特開昭48-68555号では、粗2,6-ナフタレンジカルボン酸をKOHやNaOH等のアルカリ水溶液に溶解し、固体吸着剤による脱色処理を行なった後、冷却または濃縮によりジアルカリ塩の晶析を行い、更に不均化する事により、精製された2,6-ナフタレンジカルボン酸を得る方法が提案されている。しかしこの方法では、脱色の為に固体吸着剤が必要であり、さらにジアルカリ塩の溶解度の温度依存性が小さく、また低温においてもジアルカリ塩の水に対する溶解度が非常に大きいため回収率が低い。
【0009】
特開平2-243652号では粗2,6-ナフタレンジカルボン酸をアルカリ水溶液に溶解し、そこに水への溶解度が高いアルコール、アセトン等の有機溶媒を添加することにより2,6-ナフタレンジカルボン酸のジアルカリ塩を析出させ精製する方法が示されている。しかしこの方法では、結晶の析出速度が速い為、不純物を取り込みやすく、高い回収率を得た場合は不純物除去効果が十分ではない。
さらに以上の方法における共通の問題点として、粗2,6-ナフタレンジカルボン酸のアルカリ塩から粗2,6-ナフタレンジカルボン酸を遊離する際に多量のアルカリおよび酸の処理が必要であり、また結晶中の微量のアルカリ成分の除去が困難である。
【0010】
上記の如き粗2,6-ナフタレンジカルボン酸をアルカリ塩にして精製する方法とは別に、アミン水溶液に溶解し粗2,6-ナフタレンジカルボン酸をアミン塩にして精製する方法も提案されている。
特開昭50-142542号では、粗2,6-ナフタレンジカルボン酸をアミン水溶液に溶解し、アミン化合物を留出することにより、2,6-ナフタレンジカルボン酸を析出させ、精製2,6-ナフタレンジカルボン酸を得る方法が示されている。この方法について本研究者らが検討した結果、脱色およびモノカルボン酸の除去の為には多量の固体吸着剤処理と還元処理が必須であり、これらの処理を行なわないと十分に色相が良好で高純度な2,6-ナフタレンジカルボン酸は得られないことが分かった。
【0011】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、以上の如き従来技術の問題点を解決し、粗2,6-ナフタレンジカルボン酸から、色相が良好で高純度な2,6-ナフタレンジカルボン酸を、高回収率でかつ工業的に有利に製造できる方法を提供することにある。
【0012】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは上記目的を達成する為に鋭意研究を重ねた結果、粗2,6-ナフタレンジカルボン酸の脂肪族または脂環式アミン塩を水と脂肪族または脂環式ケトンの混合溶媒で晶析することにより、▲1▼有機不純物類、特にモノカルボン酸類がほぼ完全に除去され、色相が改善された2,6-ナフタレンジカルボン酸のアミン塩が得られ、▲2▼この溶媒では溶解度の温度依存性が大きいため、高回収率で2,6-ナフタレンジカルボン酸のアミン塩が回収され、▲3▼回収された2,6-ナフタレンジカルボン酸のアミン塩を加熱しアミンを留出すると、高純度で色相が良好な2,6-ナフタレンジカルボン酸が高回収率で得られることを見出し、本発明に到達した。
【0013】
即ち本発明は、粗2,6-ナフタレンジカルボン酸を脂肪族または脂環式アミン塩を、水と脂肪族または脂環式ケトンの混合溶媒で晶析することを特徴とする高純度2,6-ナフタレンジカルボン酸の製造方法であり、この晶析により得られたアミン塩を加熱し、脂肪族または脂環式アミンを留出させることにより高純度2,6-ナフタレンジカルボン酸が製造される。
【0014】
【発明の実施の形態】
本発明で精製に供される粗2,6-ナフタレンジカルボン酸は2,6-ジアルキルナフタレンの酸化反応により製造される。酸化反応の方法については特に制限されない。酸化反応の原料の2,6-ジアルキルナフタレンとしては、2,6-ジメチルナフタレン、2,6-ジエチルナフタレン、2,6-ジプロピルナフタレン、2,6-ジイソプロピルナフタレン等がある。
【0015】
本発明で2、6-ナフタレンジカルボン酸のアミン塩を生成するために使用される脂肪族または脂環式アミン(以下アミン類と称する)としては、例えばメチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、エチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、エチルジメチルアミン、ジエチルメチルアミン、プロピルアミン、イソプロピルアミン、ジプロピルアミン、ジイソプロピルアミン、ブチルアミン、イソブチルアミン、sec-ブチルアミン、tert-ブチルアミン、ジブチルアミン、ジイソブチルアミン、トリブチルアミン、ペンチルアミン、ジペンチルアミン、トリペンチルアミン、2-エチルヘキシルアミン等の脂肪族アミンと、ピペリジン、N-メチルピペリジン、ピロリジン、エチレンイミン、ヘキサメチレンイミン等の脂環式アミンが挙げられる。
これらの中では、取り扱いや入手の容易さからメチルアミン類とエチルアミン類が好ましく、その中でもナフタレンジカルボン酸とアミン塩を形成した場合に分解温度の低いトリメチルアミンとトリエチルアミンが特に好ましい。
また二種類のアミンを混合して使用しても良い。
【0016】
本発明で上記アミン塩を晶析するときに用いる溶媒は水と脂肪族または脂環式ケトンの混合溶媒で、脂肪族または脂環式ケトン(以下ケトン類と称する)としては、アセトン、メチルエチルケトン、メチルプロピルケトン、ジエチルケトン、メチルn-ブチルケトン、メチルイソブチルケトン、2-ヘプタノン、4-ヘプタノン、ジイソブチルケトン、アセトニルアセトン等の脂肪族ケトンと、シクロヘキサノン、メチルシクロヘキサノン等の脂環式ケトンが挙げられる。
これらの中では、水と混合したときに上記アミン塩に対する溶解度の温度依存性が最も大きく、さらに取り扱いや入手の容易さからアセトンが特に好ましい。また二種類のケトンを混合して使用しても良い
【0017】
本発明における粗2,6-ナフタレンジカルボン酸の精製工程は、粗2,6-ナフタレンジカルボン酸のアミン塩を水とケトン類の混合溶媒から晶析する工程と、晶析により精製した2,6-ナフタレンジカルボン酸のアミン塩を加熱し、アミン類を留出する工程から成る。
【0018】
晶析工程は、まず粗2,6-ナフタレンジカルボン酸をアミン類と水とケトン類の混合溶媒と混合し加熱する。この操作により粗2,6-ナフタレンジカルボン酸はアミン類と塩を形成し水とケトン類の混合溶媒中に溶解する。
この粗2,6-ナフタレンジカルボン酸のアミン塩の晶析において、その混合比率は水1〜99重量部に対してケトン類99〜1重量部、好ましくは水3〜15重量部に対してケトン類97〜85重量部である。
【0019】
2,6-ナフタレンジカルボン酸のアミン塩は、水単独に対しては大きな溶解度を示すが、溶解度の温度依存性が小さく、低温でも溶解度が大きいため水単独による晶析では回収率が低くなる。またケトン類単独に対してはほとんど溶解性がなく晶析操作は不可能である。それに対して本発明者らは、水とケトン類の混合溶媒を用いた場合、高温では2,6-ナフタレンジカルボン酸の脂肪族アミン塩がよく溶解し、低温では溶解度が小さくなるという現象を見出した。
【0020】
すなわちアミン類としてトリエチルアミンを、ケトン類としてアセトンを用いて得られる2,6-ナフタレンジカルボン酸ジトリエチルアミン塩 (2,6-NDCA・ TEA)の水への溶解度、水濃度5、10、20重量%の水−アセトン混合溶媒への溶解度について、本発明者らが測定した結果を表1に示す。
【表1】
【0021】
例えば、水濃度10wt%の水−アセトン混合溶媒100gを用いて、60gの2,6-ナフタレンジカルボン酸ジトリエチルアミン塩を100℃で溶解し、25℃まで冷却して晶析を行なうと、25℃の溶解量が1.2gなので2,6-ナフタレンジカルボン酸ジトリエチルアミン塩の結晶が98%[(60-1.2/60=0.98)]の回収率で得られる。
このように水とアセトンを混合して溶媒として用いることにより、水単独、或いはアセトン単独では不可能であった高回収率での2,6-ナフタレンジカルボン酸のアミン塩の晶析が可能となる。
【0022】
なおアセトンの代わりに水10wt%の水−メチルエチルケトンあるいは水10wt%の水−シクロヘキサノンを用いた場合は、溶解度の温度依存性が水−アセトン系よりも小さくなり、晶析溶媒としては水−アセトン系より劣る。
【0023】
粗2,6-ナフタレンジカルボン酸とアミン類を当該溶媒中で加熱混合を行なうと2,6-ナフタレンジカルボン酸のアミン塩が速やかに形成され、当該溶媒に溶解する。ここで、アミン類の使用量は、粗2,6-ナフタレンジカルボン酸のカルボン酸基と当量またはそれ以上とする。工業的に実施する経済的な使用量としては該カルボン酸基に対して1.0〜1.2当量が妥当である。
【0024】
水とケトン類混合溶媒は前述の混合比のものを、粗2,6-ナフタレンジカルボン酸に対して、0.2〜100倍重量、好ましくは0.5〜10倍重量で用いる。この水とケトン類の混合比および使用量は、晶析温度、2,6-ナフタレンジカルボン酸アミン塩の回収率と精製度、固液分離時の操作性および経済性を勘案して、この範囲で任意に選択される。
【0025】
粗2,6-ナフタレンジカルボン酸を上記アミン類および水とケトン類の混合溶媒と混合し、2,6-ナフタレンジカルボン酸のアミン塩を形成させ溶解する時の温度は0〜250℃、好ましくは50〜150℃である。その際の系内の圧力は使用する溶媒の種類と混合比および温度に依存し、特に制限されない。
【0026】
上記操作により粗2,6-ナフタレンジカルボン酸の脂肪族アミン塩が溶解した水とケトン類の混合溶液中には、酸化触媒由来のCo、Mn等の重金属成分が不溶物として析出する。高品質な精製2,6-ナフタレンジカルボン酸を得るために濾過によりこの重金属成分を除去しておくことが望ましい。また晶析により精製した2,6-ナフタレンジカルボン酸の脂肪族アミン塩を加熱によりアミンを留出する工程の前に、2,6-ナフタレンジカルボン酸アミン塩を再度、水等の溶媒に溶解し、この段階で濾過により除去することもできる。
【0027】
次に粗2,6-ナフタレンジカルボン酸の脂肪族アミン塩が溶解した水とケトン類の混合溶液から、晶析操作により、2,6-ナフタレンジカルボン酸の脂肪族アミン塩の精製結晶を得る。この晶析は、2,6-ナフタレンジカルボン酸アミン塩の当該溶媒中への溶解度の温度依存性を利用し、温度差、すなわち冷却することによって2,6-ナフタレンジカルボン酸アミン塩を析出させることで実施される。冷却温度は−50〜100℃の範囲である。一般に晶析時に工業的に容易に実施できる冷却温度は10〜60℃程度が好ましく、本発明では2,6-ナフタレンジカルボン酸アミン塩の当該溶媒中への溶解度は室温付近では小さく、さらに溶解度の温度依存性が非常に大きいため、この範囲の冷却温度による晶析で、十分な精製度の2,6-ナフタレンジカルボン酸アミン塩を、高い回収率かつ経済的な溶媒使用量で得ることができる。
【0028】
本晶析操作により、粗2,6-ナフタレンジカルボン酸中の有機不純物はほとんど除去される。特に、ナフトエ酸、メチルナフトエ酸、フォルミルナフトエ酸等のモノカルボン酸類およびトリメリット酸はほぼ完全に除去される。本発明の方法では、通常の晶析操作で残存しやすいフォルミルナフトエ酸が除去される為、水添反応等の特別なフォルミルナフトエ酸除去操作は必要としない。
【0029】
さらに本晶析操作では、粗2,6-ナフタレンジカルボン酸中の着色成分も除去され、色相が著しく改善された2,6-ナフタレンジカルボン酸アミン塩が得られる。さらにより脱色を進める為には、固体吸着剤で処理を行なえば良い。例えば、晶析で得られた2,6-ナフタレンジカルボン酸アミン塩を再度、水等の溶媒に溶解し、少量の固体吸着剤による脱色処理を行なう。また要すれば水添等の精製処理を施してもよい。晶析工程の前に固体吸着剤処理を行なうと、固体吸着剤への脱色負荷が大きくなり、多量の固体吸着剤が必要で不経済である。
本発明の晶析方法は、バッチ方式、連続方式のどちらでも良いが、工業プロセスとして大量に処理する場合は連続式の方が優れている。晶析により得られた2,6-ナフタレンジカルボン酸アミン塩は濾過や遠心分離等の固液分離操作により分離される。
【0030】
次に結晶表面に付着した晶析母液を除去する為、水とケトン類に対して溶解度を持ち、2,6-ナフタレンジカルボン酸アミン塩に対して溶解度をあまり持たない溶媒で洗浄する。通常は洗浄溶媒として、ケトン類を単独で用いるか、もしくは少量の水を含むケトン類を用いる。晶析母液および洗浄液は晶析原料として再循環するか不純物を抜き出した後に再使用する。
以上の晶析操作を複数回繰り返し行なうと、より高純度かつ色相が改善された2,6-ナフタレンジカルボン酸アミン塩が得られるが、晶析の回数は当該物質の精製度と経済性を勘案し決定される。
【0031】
このようにして得られた、2,6-ナフタレンジカルボン酸アミン塩は、加熱によりアミンを留出して精製2,6-ナフタレンジカルボン酸を得る工程に供される。2,6-ナフタレンジカルボン酸アミン塩からアミン類を留出する方法としては、2,6-ナフタレンジカルボン酸アミン塩をそのまま加熱する方法と、2,6-ナフタレンジカルボン酸アミン塩を溶媒共存下加熱する方法があり、どちらをもちいても構わないが、2,6-ナフタレンジカルボン酸アミン塩をそのまま加熱する方法では、晶析工程で除去しきれなかった有機不純物は、そのまま結晶中に残存する。
それに対して、溶媒共存下で加熱してアミン類を留出する方法では、晶析工程で除去しきれなかった有機不純物がさらに除去される効果があり高品質な精製ナフタレンジカルボン酸を得ることができる。この時に用いる溶媒は、加熱時に2,6-ナフタレンジカルボン酸アミン塩と反応性が無いものであれば特に制限はないが、水が好適に用いられる。
【0032】
溶媒に水を用い、水の共存下でアミン類を留出する方法は、晶析により精製された2,6-ナフタレンジカルボン酸アミン塩を水に溶解する。この時、当該溶液を少量の固体吸着剤で処理することにより脱色を進めることができる。また溶液を精密濾過することにより、異物や金属成分をとり除くことができる。次に当該溶液を加熱し、水や過熱蒸気を供給しながらアミン類を水と共に留出させる。加熱温度は、低すぎるとアミン塩の分解速度が遅くなり、高すぎると析出する2,6-ナフタレンジカルボン酸が変質したり、着色する場合があるので50℃〜300℃、好ましくは100℃〜250℃である。この時、窒素ガスのような不活性ガスを吹き込みながら留出を行なうと、高濃度のアミン類を含む水が留出し、2,6-ナフタレンジカルボン酸の回収率が向上する。
【0033】
この方法で2,6-ナフタレンジカルボン酸アミン塩が分解され、発生するアミン類は冷却して捕集することによりによりほぼ全量回収できる。このアミン類は、必要に応じて精製し、再度使用できる。
アミン類が留出されるにつれ、2,6-ナフタレンジカルボン酸アミン塩を含有する水溶液には遊離の2,6-ナフタレンジカルボン酸が析出する。析出する2,6-ナフタレンジカルボン酸量は留出されたアミン量に比例し、アミン類の留出量を多くすることで90%以上の高い回収率で2,6-ナフタレンジカルボン酸を得ることができる。
【0034】
以上のアミン留出操作はバッチ方式でも連続方式でもどちらでも良いが、工業的には、連続方式によりアミン類を留出すると経済的である。
加熱により生成する精製2,6-ナフタレンジカルボン酸の結晶は、濾過や遠心分離等の操作により回収する。また適時水洗操作を行い、結晶に付着している不純物を取り除くなどの操作を加える。更に乾燥することにより精製2,6-ナフタレンジカルボン酸が得られる。
【0035】
【実施例】
次に実施例および比較例により本発明の方法を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
以下の実施例および比較例において、原料および精製ナフタレンジカルボン酸の結晶中の有機不純物成分はメチルエステル化処理後にガスクロマトグラフィーで分析し、金属不純物成分は湿式分解処理後 ICP発光分光分析法にて分析した。また色相については試料1gを 1N-水酸化ナトリウム水溶液10mlに溶解し、10mmの石英セルを用いた400nm の吸光度(以下、OD400 と略記する)で評価した。
【0036】
各表中および実施例、比較例文中に記した略号は次の通りである。
2,6-NDCA 2,6-ナフタレンジカルボン酸
2,6-NDCA・TEA 2,6-ナフタレンジカルボン酸ジトリエチルアミン塩
2-NA 2-ナフトエ酸
2,6-MNA 2,6-メチルナフトエ酸
2,6-FNA 2,6-フォルミルナフトエ酸
TMAC トリメリット酸
Br-2,6-NDCA 2,6-ナフタレンジカルボン酸ブロマイド
NTCA ナフタレントリカルボン酸
L.E. 低沸物
H.E. 高沸物
TEA トリエチルアミン
TMA トリメチルアミン
【0037】
製造例
氷酢酸1797gに、酢酸コバルト(四水塩)3.8g 、酢酸マンガン(四水塩)32.0g、臭化水素(47%水溶液)7.43gを混合し溶解させ、触媒液を調製した。撹拌機、環流冷却器および原料送液ポンプを備えた5Lチタン製オートクレーブに前記の触媒液740gを仕込んだ。残りの触媒液は2,6-ジメチルナフタレン180gと混合し原料供給槽に仕込み、加熱して2,6-ジメチルナフタレンを溶解させ、原料液を調製した。
窒素で反応系内の圧力を 18Kg/cm2 G に調整し、撹拌しながら温度 200℃に加熱した。温度、圧力が安定した後、原料液および圧縮空気を反応器に供給し酸化反応を開始した。反応器オフガス中の酸素濃度が 0.1容量% になるように供給空気流量を調節しながら、原料液を 2時間かけて連続的に供給した。原料液の供給終了後、空気の供給を 9分間継続した。
反応終了後、オートクレーブを室温まで冷却して反応生成物を取り出し、ガラスフィルターで吸引濾過し、水および酢酸で洗浄後、乾燥した。その結果、表3に示す組成と色相の粗2,6-NDCAが得られた。この粗2,6-NDCAを以下の実施例および比較例の原料に用いた。
【0038】
実施例1
300ml の加圧濾過装置中に、製造例で得られた粗2,6-NDCA 20.0g、TEA 20.0g(2,6-NDCAに対して1.07当量)、10wt% の水を含むアセトン溶液100gを採り、100℃で混合して2,6-NDCAを溶解し、1μm の金属製フィルターで不溶物である重金属成分を濾過し取り除いた。濾液全量を攪拌装置、濾過装置、ガス抜き出し口を備えた300ml オートクレーブに移し、窒素置換後、100℃で30分混合した。25℃まで8時間かけて冷却し、この晶析操作により析出した2,6-NDCA・ TEA の結晶を濾別し、アセトン50g で洗浄した。この時の2,6-NDCA・ TEA の回収率は96.7%であった。次に得られた2,6-NDCA・ TEA の結晶に水60g を加え水溶液とし、200 ℃まで加熱し、同温度下、100g/hr.の速度で水を加え、さらに系内を 30Kg/cm2 の全圧となるように窒素を吹き込みながら、送水量と同量の留出液を反応装置上部から抜き出す操作を2時間行なった。総留出液量は溶液中2,6-NDCAに対して約10倍量であった。次いで同温度で加圧濾過し、得られた2,6-NDCAの結晶を水および酢酸で洗浄後、 120℃で 5時間乾燥した。その結果、表2に示す組成と色相の精製2,6-NDCA 18.4gが得られた。全操作における2,6-NDCAの回収率は 92.1%であった。この精製2,6-NDCAは色相が大きく改善されており、有機不純物がほとんど認められなかった。
【0039】
実施例2
10wt%の水を含むアセトン溶液100gに替えて、5wt%の水を含むアセトン溶液140gを用いた以外は実施例1と同様な晶析操作とTEA の留出処理を行った。その結果、表2に示す組成と色相の精製2,6-NDCA 18.9gが得られた。
晶析操作での2,6-NDCA・ TEA の回収率は 99%以上と非常に高く、全操作における2,6-NDCAの回収率は94.3%であった。
【0040】
実施例3
TEA20gに替えてTMA11.7g(2,6-NDCAに対して1.07当量)を用いた以外は実施例1と同様な晶析操作とTMA の留出処理を行なった。その結果、表2に示す組成と色相の精製2,6-NDCA 18.4gが得られた。この時の回収率は 92.0%であった。
【0041】
実施例4
10wt%の水を含むアセトン溶液100gに替えて、 10wt%の水を含むメチルエチルケトン溶液100gを用いた以外は実施例1と同様な晶析操作とTEA の留出処理を行った。その結果、表2に示す組成と色相の精製2,6-NDCA16.0gが得られた。
晶析操作での2,6-NDCA・ TEA の回収率は 84.5%で 10wt%の水を含むアセトン溶液を用いた場合より低かった。また全操作における2,6-NDCAの回収率は 80.3%であった。
【0042】
実施例5
10wt%の水を含むアセトン溶液100gに替えて、 10wt%の水を含むシクロヘキサノン溶液100gを用いた以外は実施例1と同様な晶析操作と TEAの留出処理を行った。その結果、表2に示す組成と色相の精製2,6-NDCA 15.1gが得られた。
晶析操作での2,6-NDCA・ TEA の回収率は 79.3%で、 10wt%の水を含むアセトン溶液を用いた場合より低かった。また全操作における2,6-NDCAの回収率は 75.4%であった。
【0043】
【表2】
【0044】
比較例1
10wt%の水を含むアセトン溶液100gに代えて、水 20gを用いた以外は実施例1と同様な晶析操作とTEA の留出処理を行なった。その結果、表3示す組成と色相の精製2,6-NDCA8.2gが得られた。晶析操作での2,6-NDCA・ TEA の回収率は 43.2%と著しく低く、全操作における2,6-NDCAの回収率は 41.0%であった。
【0045】
比較例2
10wt%の水を含むアセトン溶液100gに替えて、アセトン100gを用いた以外は実施例1と同様な操作を行なったが、100℃で加熱混合しても、粗2,6-NDCAは全く溶解せず、精製2,6-NDCAは得られなかった。
【0046】
比較例3
10wt%の水を含むアセトン溶液100gに替えて、メチルエチルケトン100gを用いた以外は実施例1と同様な操作を行なったが、100℃で加熱混合しても、粗2,6-NDCAは全く溶解せず、精製2,6-NDCAは得られなかった。
【0047】
比較例4
製造例で得られた粗2,6-NDCA 20.0gをTEA 20.0g(2,6-NDCAに対して1.07当量)、水40.0gで室温下で混合、溶解し、1μmのフィルターで不溶物である重金属成分を濾過し取り除いた。濾液を室温下攪拌しながらにアセトン360gを添加し、析出した2,6-NDCA・ TEA の結晶を濾別してアセトン 50gで洗浄した。この時の2,6-NDCA・ TEA の回収率は 87.6%であった。
得られた2,6-NDCA・ TEA の結晶を実施例1と同様なTEA の留出処理を行った。その結果、表3に示す組成と色相の精製2,6-NDCA 16.6gが得られた。この時の回収率は 83.2%であった。この2,6-NDCA中には不純物がかなり残存しており、また色相の改善効果も乏しかった。
【0048】
【表3】
【0049】
【発明の効果】
以上の実施例からも明らかなように、本発明によれば、粗2,6-ナフタレンジカルボン酸から、色相が良好で高純度な2,6-ナフタレンジカルボン酸が高回収率で得られる。
本発明の方法の特徴は次の通りである。
1)水と脂肪族または脂環式ケトン類の混合溶媒で晶析することにより、有機不純物がほぼ完全に除去され、色相が改善された2,6-ナフタレンジカルボン酸のアミン塩が得られる。
2)2,6-ナフタレンジカルボン酸のアミン塩の溶解度は温度依存性が高く、使用される溶媒に対して低温で小さく、高温では大きいため、晶析操作により精製された2,6-ナフタレンジカルボン酸のアミン塩が高回収率で得られる。
3)この2,6-ナフタレンジカルボン酸のアミン塩を水の共存下、加熱しアミンを留出すると高純度で色相が良好な2,6-ナフタレンジカルボン酸が高回収率で得られる。
4)該アミン塩の加熱により発生するアミン類は、冷却して捕集することにより容易にほぼ全量回収でき、循環使用することができる。
従って、本発明は工業的に極めて優れた方法であり、本発明の工業的意義は大きい。
Claims (6)
- 粗2,6-ナフタレンジカルボン酸の脂肪族または脂環式アミン塩を、水と脂肪族または脂環式ケトンの混合溶媒と混合して加熱し溶解した後、冷却して晶析し、晶析により得られた 2,6- ナフタレンジカルボン酸アミン塩を固液分離操作により分離し、加熱により脂肪族または脂環式アミンを留出して精製 2,6- ナフタレンジカルボン酸を得ることを特徴とする高純度2,6-ナフタレンジカルボン酸の製造方法。
- 粗2,6-ナフタレンジカルボン酸の脂肪族または脂環式アミン塩を、水と脂肪族または脂環式ケトンの混合溶媒と混合して加熱し溶解した後、冷却して晶析し、晶析により得られた 2,6- ナフタレンジカルボン酸アミン塩を固液分離操作により分離し、水の共存下で加熱して脂肪族または脂環式アミンを留出して精製 2,6- ナフタレンジカルボン酸を得る請求項1記載の高純度2,6-ナフタレンジカルボン酸の製造方法。
- 粗 2,6- ナフタレンジカルボン酸の脂肪族または脂環式アミン塩を、水と脂肪族または脂環式ケトンの混合溶媒と混合して加熱し溶解した後、冷却して晶析し、晶析により得られた 2,6- ナフタレンジカルボン酸アミン塩を固液分離操作により分離し、水の共存下で加熱して脂肪族または脂環式アミンを留出し、濾過または遠心分離により精製 2,6- ナフタレンジカルボン酸を得る請求項2記載の高純度 2,6- ナフタレンジカルボン酸の製造方法。
- 脂肪族または脂環式ケトンがアセトンである請求項1〜3のいずれかに記載の高純度 2,6- ナフタレンジカルボン酸の製造方法。
- 水と脂肪族または脂環式ケトンの混合溶媒が、水1〜99重量部に対して脂肪族または脂環式ケトン99〜1重量部の混合比率である請求項1〜4のいずれかに記載の高純度 2,6- ナフタレンジカルボン酸の製造方法。
- 水と脂肪族または脂環式ケトンの混合溶媒が、水3〜15重量部に対して脂肪族または脂環式ケトン97〜85重量部の混合比率である請求項1〜5のいずれかに記載の高純度 2,6- ナフタレンジカルボン酸の製造方法。
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