JP3629733B2 - テレフタル酸水スラリーの調製方法 - Google Patents

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Description

【0001】
【産業上の利用分野】
本発明は、パラキシレンを酢酸中で液相酸化して製造したテレフタル酸の酢酸スラリ−の分散媒を水に置換し、テレフタル酸の水スラリ−を調製する方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
テレフタル酸は、通常、パラキシレンを酢酸中、コバルト、マンガン及び臭素などを含む触媒の存在下、分子状酸素と反応させる、いわゆるSD法により製造されている。これにより得られた反応混合物のテレフタル酸の酢酸スラリ−より、粗テレフタル酸を晶析分離する。この粗テレフタル酸中には、不純物として4−カルボキシベンズアルデヒド(以下「4CBA」という)が重量基準で通常100〜10000ppm含まれているので、さらに、これを還元精製することが多い。
【0003】
この還元精製に際し、酢酸の残存する粗テレフタル酸は、通常、酢酸を除去して回収するために充分に乾燥される。次に、乾燥した粗テレフタル酸を水に分散させスラリ−化し、加圧・加熱して完全に溶解した後、高圧・高温下で、一般に、水素の存在下で白金族金属触媒と接触させて還元精製し、この後、晶析により精製テレフタル酸の結晶を得る方法が採用されている。この方法は、粗テレフタル酸の乾燥、貯蔵及び再スラリ−化に設備が必要であるので製造コスト中における設備コストが高くなるうえ、操作として煩雑であるという問題がある。
【0004】
そこで、テレフタル酸の酢酸スラリ−の分散媒を水に置換するための改良方法がいくつか提案されている。例えば、特開平1−160942号公報には、多段塔の上部からテレフタル酸の酢酸スラリ−を導入し、水を該塔下部から導入して、多段塔内に上昇流をを生成させるとともにテレフタル酸粒子を沈降させ、該多段塔の上部より酢酸を、下部からテレフタル酸の水スラリ−を取り出す方法が提案されている。この置換方法では塔内でのテレフタル酸粒子の沈降に依存する性質上、操作条件の設定やスケ−ルアップが容易でない。また、かなりの量の水と酢酸の混合が避けられず、該混合液の分離コストが大きくなる。
【0005】
また、テレフタル酸の酢酸スラリ−をフィルタ−バンドあるいはフィルタ−セルに導入し、水で向流多段洗浄して水スラリ−に置換する方法も提案されている(特開平5−65246号公報、特表平6−502653号公報など)。これらの方法ではいずれも乾燥工程を省略するという利点があるが、やはり大量の水と酢酸の混合液が発生することになるので、該混合液の分離コストが非常に大きくなることが懸念される。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、粗テレフタル酸の乾燥、貯蔵、水スラリ−調製のプロセスに代わる簡便で効率的な改良方法であって、かつ、液置換にかかる酢酸と水の混合を抑えて分離経費を抑制することができる経済的なプロセスを構築することにある。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明者等は上記課題に鑑み、鋭意検討を行った結果、晶析分離したテレフタル酸結晶をパラキシレンで洗浄する工程を含む溶媒置換の方法を採用することによりこの課題が達成できることを見いだし、本発明に到達した。
すなわち、本発明は、パラキシレンを酢酸溶媒中、触媒の存在下、分子状酸素で液相酸化してテレフタル酸の酢酸スラリ−を得、該酢酸スラリ−よりテレフタル酸結晶を分離し、該酢酸含有テレフタル酸結晶をパラキシレンで洗浄し、次いで水を混合することを特徴とするテレフタル酸水スラリ−の調製方法に存する。
【0008】
以下、本発明を詳細に説明する。
パラキシレンの酸化反応としては、パラキシレンを酢酸溶媒中、触媒の存在下、分子状酸素で液相酸化させる方法が採用される。触媒としては、通常、遷移金属化合物と臭素化合物の混合物を使用する。遷移金属化合物としては、マンガン、コバルト、鉄、ニッケル、クロム等の遷移金属の臭素塩、安息香酸塩、ナフテン酸塩、酢酸塩等のカルボン酸塩、アセチルアセトナート等が、また、臭素化合物としては、マンガン、コバルト、鉄、ニッケル、クロム等の臭素塩、臭化水素酸、臭化ナトリウム、臭化アンモニウム、ジブロモエチレン、テトラブロモエタン等が用いられている。なお、遷移金属の臭素塩は、遷移金属化合物成分と臭素化合物成分とを兼ねることができる。また、分子状酸素としては、純酸素、空気、純酸素と不活性ガスとの混合物等が用いられる。
【0009】
原料パラキシレンは1重量部に対し、溶媒である酢酸は通常1〜10重量部用いられ、酢酸中には約30重量%までの水分を含んでいてもよい。また、触媒としてコバルト化合物及び/又はマンガン化合物と、臭素化合物とが用いられるときは、これらの化合物は、溶媒に対して、通常コバルト原子が10〜5000重量ppm、マンガン原子が10〜5000重量ppm、臭素原子が10〜10000重量ppmとなるように用いられる。また、酸化反応器に供給する分子状酸素は、通常、パラキシレン1モルに対して酸素として3〜20モルの割合となるように用いられる。そして、反応条件としては通常、150〜230℃の温度、2〜100気圧の圧力で行う。また、以上の反応条件を適宜変更し、段階的に酸化反応を完結させてもよい。
【0010】
以上の方法により得られた反応混合物であるテレフタル酸の酢酸スラリ−より、テレフタル酸を晶析分離する。テレフタル酸の酢酸スラリ−を、通常200〜50℃、好ましくは150〜80℃まで冷却し、テレフタル酸を晶析し、更に固液分離を行い、テレフタル酸を結晶として回収する。固液分離は遠心分離、ろ過等の公知の手段を採用すればよく、遠心沈降器、遠心ろ過器、加圧ろ過器、真空ろ過器などの分離機器が使用される。
【0011】
なお、結晶分離後の母液の主成分は酢酸と触媒成分であり、通常はその他の成分としてはテレフタル酸と酸化中間体およびその他の酸化副生物をわずかに含むのみであるので、母液の通常10〜90重量%を反応系に循環させることが望ましい。また、反応系に循環させない残りについては、蒸留により酢酸を回収し、蒸留残渣からは触媒などの有効成分を回収することができる。
【0012】
また、テレフタル酸結晶は、必要に応じて酢酸で洗浄してもよく、この酢酸洗浄液は上記の母液と併せて反応系に循環させることができる。
次に、本発明においては、上記のように酢酸スラリ−より分離回収した酢酸含有テレフタル酸結晶をパラキシレンで洗浄する。通常、常温から130℃で常圧または加圧の条件下、酢酸が付着しているテレフタル酸結晶にパラキシレンを加えて洗浄、分離する方法を1回以上、好ましくは2〜4回程度の複数回行う。洗浄方法は特に限定はないが、通常、置換洗浄やスラリー化によるケーク洗浄が行われる。置換洗浄ではテレフタル酸結晶であるろ過ケーク上にパラキシレンを振りかけ、あるいはケークを覆う液溜めを形成させ、次いでパラキシレンを圧入または減圧濾過により透過させててケーク中の酢酸を除去する。また、洗浄効率を高めるために、必要に応じてスラリ−化洗浄を行ってもよい。この場合、ケークの分離装置において、ケークにパラキシレンを加えて撹拌混合してスラリー化してもよいし、別途、スラリー化のための撹拌槽を設けて洗浄を行い、これを再度ろ過分離してもよい。以上の洗浄、分離のための装置は特に制限はないが、加圧ろ過器、真空ろ過器を用いる方法が好ましく、加圧ヌッチェ、ベルトフィルタ−、回転円筒型ろ過器などの機器を使用することにより、ろ過、洗浄、脱液、ケ−ク除去の工程を連続的に効率よく実施することができる。
【0013】
洗浄に用いるパラキシレンの総量は、テレフタル酸に対して通常0.1〜5重量倍量、好ましくは0.2〜0.7重量倍量であり、繰り返し洗浄する場合は、1回の洗浄に用いるパラキシレンのは、テレフタル酸に対して通常0.05〜3重量倍量、好ましくは0.1〜0.5重量倍量である。また、繰り返し洗浄する場合は、パラキシレンの洗浄液の総量を増やさないため向流洗浄することが望ましい。パラキシレンで洗浄した液中には、テレフタル酸の原料であるパラキシレンと、パラキシレンの液相酸化の溶媒である酢酸成分、及び、若干のテレフタル酸など多くの有効成分が含まれているので、これを反応系に循環して使用することもできる。
【0014】
次に、以上のようにパラキシレンで洗浄したテレフタル酸結晶は、酢酸の洗浄に使用したパラキシレンの大部分を分離して、水を混合することによりテレフタル酸の水スラリ−を調製する。これに用いる水の量は、前記のテレフタル酸に対するパラキシレンの使用量程度に対応している。水を混合する方法は特に制限はなく、パラキシレンが付着しているテレフタル酸結晶に、単に所定量の水を混合して水スラリーを得る方法でもよいし、水を加えて置換洗浄あるいはスラリー洗浄した後に所望量の水を加えて最終的な水スラリ−を得る方法でもよい。
【0015】
パラキシレンが付着しているテレフタル酸結晶に水を加えてスラリー洗浄する方法によれば、パラキシレンの洗浄効率が特に高く、パラキシレンをほぼ完全に洗浄除去することができる。水スラリーでの洗浄操作は1回だけでもよいが、パラキシレンの洗浄効率を高めるために2〜4回程度の複数回行ってもよい。また、洗浄水は、回収して再利用することができる。
【0016】
得られた水スラリー中にいくらかのパラキシレンが含まれる場合がありうるが、このパラキシレンの分離は容易である。スラリーを静置した際に相分離するようであれば、上相となるパキシレン相を分離すればよく、あるいは、水洗浄液を加熱してパラキシレンを蒸発回収することもできる。分離したパラキシレンは、反応原料あるいは前記のテレフタル酸結晶の洗浄用として再利用できる。
【0017】
以上のようにテレフタル酸結晶に付着したパラキシレンの大部分を水で除去した結果、還元精製工程にそのまま供することができるテレフタル酸の水スラリ−が調製できたことになる。なお、テレフタル酸結晶に付着したパラキシレンは再利用できるという点ではできるだけ回収できた方がよいが、以下に説明するような水スラリーとしてテレフタル酸を還元精製する際において、水スラリー中にある程度のパラキシレンが含まれていても特に支障はない。この場合、水スラリー中のパラキシレン濃度は、テレフタル酸に対して通常5%以下、好ましくは3%以下である。パラキシレン濃度が高すぎると精製効果の低下が認められる。
【0018】
このように分散媒を酢酸から水に置換した粗テレフタル酸の水スラリーは、テレフタル酸の濃度を、通常1〜60重量%、好ましくは10〜40重量%に調整して還元精製に供される。水スラリーを加圧・加温して粗テレフタル酸を水に完全に溶解させて水溶液とし、該水溶液を高圧・高温下、一般に水素の存在下で白金族金属と接触させて還元精製する。テレフタル酸水溶液と水素ガスとを反応器に供給し、通常220〜320℃、好ましくは260〜300℃の温度条件下で触媒と接触させる。水素ガスはテレフタル酸水溶液1000kgに対し0.05〜10Nm、好ましくは0.1〜3Nmの割合で供給すればよい。白金族金属を含む触媒としては、パラジウム、ルテニウム、ロジウム、オスミウム、イリジウム、白金等、又はこれらの金属酸化物が用いられる。これらの金属又は金属酸化物はそのまま触媒として使用することもできるが、テレフタル酸水溶液に不溶性の、例えば、活性炭のごとき担体に担持させたものも使用される。このようにして還元精製処理したテレフタル酸の熱水溶液は、次いで、通常200〜70℃まで冷却し、テレフタル酸を晶析、固液分離した後、乾燥して高純度のテレフタル酸を得る。
【0019】
【実施例】
以下に実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り以下の実施例に限定されるものではない。
実施例1
酢酸溶媒中、コバルト及びマンガン化合物及び臭素化合物の存在下、分子状酸素によってパラキシレンを酸化して得られた粗テレフタル酸60gと、10重量%含水酢酸140gからなるスラリーを70℃にて、直径70mmのヌッチェ(5A濾紙使用)を用いて吸引濾過分離を行った。この際、分離された付着テレフタル酸の付着酢酸量が、テレフタル酸に対して8〜10重量%になるように条件を設定した。次いで、テレフタル酸に対して0.5重量倍の70℃に加温したパラキシレンを、ヌッチェのテレフタル酸のケーキ層に振りかけ、前記酢酸の場合と同様に吸引濾過分離することにより洗浄を行った。該分離後のケーキ中の酢酸とパラキシレンの含有量を分析した結果を表−1に示す。次に、テレフタル酸に対して1.2重量倍の70℃に加温した水を、ヌッチェのテレフタル酸のケーキ層に振りかけ、前記と同様に吸引濾過分離を行った。該分離後のケーキ中の酢酸とパラキシレンの含有量を分析した結果を表−1に示す。
【0020】
実施例2〜4
実施例1において、粗テレフタル酸ケーキの酢酸含有量、あるいはパラキシレンと水の使用量を変更した場合の結果を表−1に示す。なお、実施例3ではパラキシレンの洗浄を2回実施した。
実施例5
パラキシレン洗浄後のテレフタル酸ケーキ層に70℃に加温した水を加えてテレフタル酸の30重量%スラリーとし、これを吸引濾過分離した。該分離後のケーキ中の酢酸とパラキシレンの含有量を分析した結果を表−1に示す。
【0021】
実施例6
パラキシレン洗浄後のテレフタル酸ケーキ層に70℃に加温した水を加えてテレフタル酸の30重量%スラリーとし、該スラリーを静置した。沈降したケーキ(含水率約50重量%)中の酢酸とパラキシレンの含有量を分析した結果を表−1に示す。
【0022】
【表1】
Figure 0003629733
【0023】
実施例7
実施例1と同様な方法で得た酢酸含有量8〜10重量%の粗テレフタル酸ケーキに、テレフタル酸に対して0.25重量倍の70℃に加温したパラキシレンを、振りかけ、吸引濾過分離することにより洗浄を行った。該分離後のケーキ中の酢酸量は0.5重量%、パラキシレンの含有量は4重量%であった。これに水を加えて30重量%スラリーとした。該スラリーを加熱して減圧蒸発させたときの蒸発結果をを表−2に示す。表−2より洗浄に使用したパラキシレンは水スラリーより容易に分離できることがわかる。
【0024】
【表2】
Figure 0003629733
【0025】
実施例8
テレフタル酸水スラリ−中のパラキシレンが、粗テレフタル酸の還元精製に与える影響について調べた。用いた粗テレフタル酸の4CBA含量は2000ppmであった。また、粗テレフタル酸試料7.5gを2N水酸化カリウム水溶液50mlに溶解し1500Gで15分間遠心分離処理した上澄み液を、光路長1cmの石英セルにて340nmと400nmでのアルカリ溶液透過率(T340c,T400c)を求めたところ、T340cは45%、T400cは88%であった。
【0026】
この粗テレフタル酸18g、水42g、及び0.5%Pd/C触媒2gを内容積100mlのチタン製耐圧容器に仕込み、水素ガス0.5MPaを張り込み、280℃で18分間反応させた。冷却後、得られた結晶を分離、乾燥しテレフタル酸を得た。該テレフタル酸についてのT340c,T400cと4CBA含量を分析した結果を表−3に示す。以下、反応系に、パラキシレンをテレフタル酸に対して所定量添加して還元精製を行ったテレフタル酸の分析結果を表−3に示す。
【0027】
【表3】
Figure 0003629733
【0028】
【発明の効果】
本発明は、パラキシレンを酢酸中で液相酸化して製造したテレフタル酸の酢酸スラリ−につき、テレフタル酸の乾燥、貯蔵、水スラリ−の複雑な工程を経ることなく、簡便で経済的に水に置換することができる。また、この溶媒置換に伴う水への酢酸の混入量が極めて少ないので、テレフタル酸の製造コストの上においても大きなメリットがある。

Claims (7)

  1. パラキシレンを酢酸溶媒中、触媒の存在下、分子状酸素で液相酸化してテレフタル酸の酢酸スラリーを得、該酢酸スラリーよりテレフタル酸結晶を分離し、該酢酸含有テレフタル酸結晶をパラキシレンで洗浄し、次いで水を混合することを特徴とするテレフタル酸水スラリーの調製方法。
  2. パラキシレンを酢酸溶媒中、触媒の存在下、分子状酸素で液相酸化してテレフタル酸の酢酸スラリーを得、該酢酸スラリーよりテレフタル酸結晶を分離し、該酢酸含有テレフタル酸結晶をパラキシレンで洗浄し、次いで水を混合してスラリー化し、該水スラリー中の残存パラキシレンを相分離及び/又は加熱蒸発により除去することを特徴とするテレフタル酸水スラリーの調製方法。
  3. パラキシレンで洗浄した液の少なくとも一部を反応系に循環することを特徴とする請求項1又は2の方法。
  4. 酢酸含有テレフタル酸結晶をパラキシレンで置換洗浄することを特徴とする請求項1ないし3のいずれかの方法。
  5. 酢酸含有テレフタル酸結晶をパラキシレンでスラリー洗浄することを特徴とする請求項1ないし3のいずれかの方法。
  6. パラキシレンで洗浄したテレフタル酸結晶を水で置換洗浄し、次いで水を混合することによりテレフタル酸水スラリーを得ることを特徴とする請求項1ないし5のいずれかの方法。
  7. パラキシレンで洗浄したテレフタル酸結晶を水でスラリー洗浄し、次いで水を混合することによりテレフタル酸水スラリーを得ることを特徴とする請求項1ないし5のいずれかの方法。
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