JP3879378B2 - 卵黄含有液及び水中油型乳化物の製造法 - Google Patents

卵黄含有液及び水中油型乳化物の製造法 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、卵黄含有液及び水中油型乳化物の製造法に関し、特に卵黄を多く加えて製造するムースやカスタードクリームに代表される洋菓子の素材として好適に使用される卵黄含有液を製造する方法、及び当該卵黄含有液と水、油、乳化剤、無脂乳固形分等を使用して水中油型乳化物を製造する方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
卵黄は食品素材や製菓材料として好適であるが、その蛋白質は機械的剪断や加熱に対して鋭敏に変性を起こしてしまう。従って、卵黄は乳化物の作成や加熱による殺菌で食感や風味が損なわれ易く、特に卵黄を多く含有させると食感や風味の損傷が顕著である。加えて、卵黄含有液や卵黄含有乳化物を加熱殺菌すると装置の熱交換を行う加熱部分やホールディング部分に焦げつきやスケーリングを起こすため装置内の洗浄が頻繁に必要となり、このため連続運転にも限界を生じ長時間の連続運転は困難となる。さらにこれらの焦げやスケール物が存在すると製品に混入する危険性があり、品質低下の原因となる。
【0003】
これらの問題点を解決する方法として、糖を加えて加熱を行ったり(特開昭57-186439 号)、酵素を用いて卵液を処理したりする方法(特開昭60-62951号,同60-62952号)が提案されているが、いずれの方法で得た卵黄もしくは卵黄含有液も風味的には未だ充分満足し得るものではない。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、加熱したときの風味変化が少なく、かつ蛋白質の熱変性によるザラツキがなく食感の良好な卵黄含有液、及びこの卵黄含有液を使用した卵黄含有水中油型乳化物を超高温瞬間滅菌処理(UHT処理)しても装置の加熱部分に焦げつきやスケール物(付着物)を生じ難く、さらにカスタードクリーム等に使用したとき焼成耐性があり、油分離や乳化破壊を起こし難い、卵黄含有液および当該卵黄含有液を用いた卵黄含有水中油型乳化物を製造する方法を提供することを目的とする。
【0005】
【課題を解決するための手段】
本発明者は、如上の点に鑑み、卵黄の風味を損なうことなく加熱処理して卵黄含有液を製造する方法、及び当該卵黄を使用して調製した水中油型乳化物を、焦げつきやスケーリングを起さずに超高温瞬間滅菌処理する手段について鋭意研究を重ねた結果、水に卵黄を分散させた水分散相を特定の温度処理で加熱することにより、またこの水分散相を加熱処理して得た卵黄含有液を用いて製造される水中油型乳化物を特定の温度処理で加熱して殺菌乃至滅菌処理することにより解決し得るという知見を得、先に特願平8-247338号(特開平10-84914号)として出願したが、さらに研究を重ねた結果、水に卵黄を分散させた水分散相を特定の温度処理で第1次加熱処理した卵黄含有液を、さらに特定の温度処理条件下で第2次加熱処理すると、より顕著な効果が得られるという知見を得、本発明を完成するに至った。
【0006】
すなわち本発明は、卵黄を80重量%以下の濃度に希釈した水性分散液を、60℃を越え78℃以下の温度域で第1次加熱処理を実施し、当該加熱処理温度に達するまでの昇温速度が0.05℃〜6℃/分であり、次いで卵黄濃度65重量%以下の水性分散液の状態で120℃以上、155℃以下で第2次加熱処理することを特徴とする、卵黄含有液の製造法、及び、当該方法によって製造された卵黄含有液、並びに、当該卵黄含有液を卵黄成分として5〜60重量%使用することを特徴とする水中油型乳化物の製造法である。
【0007】
【発明の実施の形態】
本発明において用いる卵黄は、風味の点から生卵黄もしくは凍結卵黄が好ましい。乾燥卵黄や加糖加熱卵黄、酵素処理を行った卵黄を用いることも可能であるが、概して風味の点から生卵黄や凍結卵黄に劣っている故、原料としては余り好ましくない。
【0008】
以上の卵黄を水に分散させて水性分散液を調製するのであるが、水性分散液中の卵黄含有量は80重量%以下、好ましくは20重量%〜80重量%とするのが好ましい。下限未満では卵黄が少なすぎて経済的効果が少なく、逆に上限を越えると加熱によって凝集物が発生し易くなる。
【0009】
卵黄を水に分散させる際には全体が均一になるようによく攪拌を行い、特に凍結変性によりゲル化している卵黄を用いる場合は充分に攪拌を行い、水に均一に溶解ないし分散させることが必要である。この卵黄を分散させた水性分散相の均一性を確保するために必要に応じてホモゲナイザーによる水分散液の均質化を行ってもよい。
【0010】
次いで、以上の卵黄を分散させた水性分散液を第1次加熱処理する。第1次加熱処理温度は60℃を越え78℃以下の温度域にて実施する。加熱の温度域が60℃以下では効果を得難く、逆に78℃を越えると凝集物が発生し易くなる。この第1次加熱処理を実施するに際して、処理液(卵黄を分散させた水性分散液)が局部的に加熱されるのを避けるのが好ましく、加熱温度の局部的上昇を90℃以下に抑制するのが好ましい。このような局部的加熱を避けるための好ましい具体的な方法としては、0.05℃〜6℃/分の昇温速度で加熱を実施する。
【0011】
このような昇温速度で加熱を実施する好ましい具体的な方法として、加熱処理は〔水分散相の温度〕より高く、且つ〔水分散相の温度+8℃〕以下の温度を有する熱媒体を用いて行うのが好ましい。加熱に使用する熱媒体との温度差が大きいと、すなわち〔水分散相の温度+8℃〕を越える温度を有する熱媒体で加熱すると、水分散相に凝集物の発生や激しい粘度上昇が起き易くなる。
【0012】
加熱処理時間は所定の温度域に5分〜300分保持するのが好ましく、5分未満では加熱の効果が十分に得難く、300分を越えて保持しても加熱の効果はそれ以上有効には得られない。なお、卵黄を水に分散させる場合、必要以上に加熱することは避けるべきであるが、卵黄を水に加え、昇温中に加熱しながら分散させることも可能である。
【0013】
第1次加熱処理の方法としては、バッチ式、連続式、直接加熱、間接加熱、マイクロ波、高周波、通電加熱等の限定は特になくどの方式を用いても可能であるが、特に蒸気等の熱媒体を使用して加熱する場合、処理液(卵黄を分散させた水性分散液)の加熱速度と加熱に用いる熱媒体との温度差に注意を要する。なお、マイクロ波、高周波、通電加熱を採用する場合には昇温速度が重要であって熱媒体として局部的昇温が起こらないよう間歇的な加熱を行うのがよい。
【0014】
本発明によれば、卵黄含有液に空気等の気体をその20〜200容量%含ませてから第1次加熱処理を行うと気体の断熱効果と液体の分離効果によって必然的に加熱速度が抑えられ緩やかに加熱が行われるので好ましい。
【0015】
さらに、本発明によれば卵黄含有液に塩類を加えることによって第1次加熱時および第1次加熱後の液の均一性を高めることが可能であり、その効果は卵黄含有液に対して0.05重量%以上の添加で現れ、3重量%を越えてもそれ以上の効果は得られない。塩類としては、例えばヘキサメタリン酸塩等各種リン酸塩、重炭酸ソーダが例示できる。
【0016】
次いで、第1次加熱処理した卵黄含有液を、さらに155℃以下の温度域、好ましくは120〜155℃の温度域に1〜20秒間保持して第2次加熱処理する。このような第2次加熱処理は、超高温瞬間殺菌処理(UHT処理)装置を使用するのが好ましいが、かかる処理としては直接蒸気加熱であるスチームインジェクション方式とスチームインフュージョン方式がある。
【0017】
以上の如くして得られる第1次加熱処理および第2次加熱処理した卵黄含有液は、一旦冷却保管を行っても当該加熱処理の効果は失われない。このような卵黄含有液を用いて製造される水中油型乳化物はホイップクリーム、練り込み用クリーム等、配合する水、油、乳化剤、必要に応じて無脂乳固形分を加えることで機能性や風味を自由に作り上げることが可能であり、種々の用途があってとくに用途が限定されるものではないが、用途によっては水中油型乳化物の状態で殺菌乃至滅菌処理を行う場合がある。
【0018】
殺菌処理としては、超高温瞬間殺菌処理するのが好ましいが、かかる処理としては直接蒸気加熱であるスチームインジェクション方式とスチームインフュージョン方式がある。これは殺菌温度まで加熱を行う時間が短時間であるため内容物のダメージを最小限にすることができるという利点を有する。
【0019】
本発明において得られる卵黄含有液及びこれを用いて製造される水中油型乳化物は、卵黄を加熱したときの風味変化が少なく、従来の卵黄含有液およびこれを用いて製造される水中油型乳化物に比較して、はるかに生卵黄に酷似した風味を有し、また蛋白の変性によるザラツキもなく、風味食感が著しく改善される。従って、十分な卵黄量を使用することができるため、洋菓子の素材としては勿論のこと、幅広い食品の素材としての汎用性を兼ね備えている。特に、食品の安全性を確保の第一とする殺菌が十分に達成されている点は特筆すべきである。また、卵黄含有水中油型乳化物殺菌の際の問題点である加熱部分の焦げつきやスケーリングを著しく低減させる作用を併せ持っている。このため風味良好な卵黄を十分に含む水中油型乳化物を安定的に連続生産することが可能である。
【0020】
なお、水中油型乳化物は従来公知の配合及び方法に準じて製造すればよく、例えば、油相に使用する油脂原料として、ナタネ油、大豆油、ヒマワリ種子油、綿実油、落花生油、米糠油、コーン油、サフラワー油、オリーブ油、カポック油、胡麻油、月見草油、パーム油、シア脂、サル脂、カカオ脂、ヤシ油、パーム核油等の植物性油脂並びに乳脂、牛脂、豚脂、魚油、鯨油等の動物性油脂が例示でき、上記油脂類の単独または混合油あるいはそれらの硬化、分別、エステル交換等を施した加工油脂(融点15〜40℃程度のもの)が例示できる。
【0021】
また、水相は全乳、脱脂粉乳、全脂粉乳或いは大豆蛋白等と水を混合して得られる従来公知の水相でよく、蛋白固形分としては、クリーム全量に対し0.5〜6.0重量%程度使用すればよい。乳化剤としては、一般にホイップクリームに使用されるものでよく、例えば、レシチン、シュガーエスエル、モノグリセリド、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エスエル等から選択された1種又は2種類以上を組み合わせて使用することができる。以上の他に、必要に応じて安定剤を用いることができる。安定剤としては、ガム類、セルロース等があげられる。
【0022】
以上の油相と水相とを予備乳化した後、均質化、殺菌、再均質化、冷却、エージングを行って得られるのであるが、殺菌もしくは滅菌処理に前後して均質化処理もしくは攪拌処理することができ、均質化は前均質、後均質のどちらか一方でも、両方を組み合わせた2段均質でもよい。
【0023】
【実施例】
以下、この発明の実施例を具体的に説明するが例示は単に説明用のものであり発明思想の制限または限定を意味するものではない。
【0024】
実施例1
生卵黄60重量%と水40重量%とを混合した水分散相を緩く攪拌しながら、40℃から75℃まで1℃/分の昇温速度にて、〔水分散相の温度+3℃〕の温水を用いて加熱し、75℃に15分間保持して第1次加熱処理した後、アルファラバル社製VTISにて、140℃3秒間加熱して第2次加熱処理を終え、冷却して卵黄含有液を得た。かくして調製した卵黄含有液は、加熱風味がなく極めて良好であり、また卵黄含有液の状態も凝集物が全く見られず均一性を保っていた。
【0025】
実施例2
凍結卵黄70重量%と水30重量%を混合した水分散相に、その体積の50%の空気が混入されるように激しく混合攪拌したのち65℃まで加熱し、65℃にて10分間保持して第1次加熱処理した。次いで、卵黄成分が50重量%になるように水を加えて調整し、130℃に10秒間加熱して第2次加熱処理を終えた後、冷却して卵黄含有液を得た。このとき昇温要件を満足する加熱の温度管理は非常にやり易かった。また、このときの卵黄含有液の状態は凝集物がなく均一性を保っていて、風味も良好であった。
【0026】
実施例3
生卵黄40重量%と水59.5重量%及びポリ燐酸Na0.5重量%とを混合した水分散相を緩く攪拌しながら、40℃から70℃まで3℃/分の昇温速度にて、〔水分散相の温度+6℃〕の温水を用いて加熱し、70℃にて10分間保持して第1次加熱処理した後、145℃に5秒間加熱して第2次加熱処理を終え、冷却して卵黄含有液を得た。このときの卵黄含有液の状態は凝集物がなく均一性を保っていて、風味も良好であった。
【0027】
実施例4
実施例1にて得た卵黄含有液を一昼夜冷蔵庫にて保管した後以下に示す方法にてホイップ用クリームを作成した。
【0028】
Figure 0003879378
【0029】
上記に示す配合物を70℃、30分間ホモミキサーにて混合した後、アルファラバル社製VTISにて145℃、4秒の滅菌処理し、次いで均質化圧0.5MPaにて均質化後、5℃まで冷却した。このときのクリームには凝集物はなく良好な状態であったとともに、滅菌機の加熱部分への焦げつきもなかった。このホイップクリームを愛工舎製ケンウッドミキサーにて、クリーム500gに砂糖40gを添加しホイップを行った結果を以下に示す。
【0030】
Figure 0003879378
以上の結果、卵黄の加熱風味を感じることなく、またザラツキも全く感じない極めて良好な風味食感を呈し、その品質は極めて良好であった。
【0031】
実施例5
実施例2で得た卵黄含有液を用い、以下に示す方法にて練り込み用クリームを調製した。
【0032】
Figure 0003879378
【0033】
上記に示す配合物を70℃、30分間ホモミキサーにて混合した後、アルファラバル社製VTISにて145℃、4秒の滅菌処理し、次いで均質化圧0.3MPaにて均質化後、5℃まで冷却した。このときのクリームには凝集物はなく良好な状態であったとともに、殺菌機の加熱部分への焦げつきもなかった。この練り込みクリームを用いムースの作成を行ったところ、卵黄の加熱風味を感じることなく、またザラツキも全く感じない極めて良好な風味食感を呈し、極めて品質良好なムースを得ることができた。
【0034】
比較例1
実施例1の配合と同様、生卵黄60%、水40%を混合攪拌しながら100℃の蒸気を用いて45℃から75℃まで加熱を行い、15分間保持した。このときの加熱速度は8℃/分であった。このとき加熱のために用いたジャケット式のタンクの内壁にスケーリングが発生しただけでなく、卵黄混合液に凝集物が発生した。また、この液を140℃に5秒間加熱処理したところ、凝集物が残ったままであった。
【0035】
比較例2
実施例1において、第2次加熱処理をしなかった卵黄含有液を用いて実施例4と同様に実施してホイップクリームを製造したところ、ホイップタイム1分20秒、オーバーラン80%、保形性(15℃)ではダレやリークもなく、風味も良好であったが、原液の攪拌テストによる乳化安定性の比較では、実施例1で得たものが5分以上安定であるのに対し比較例2では2分で可塑化が発生し、実施例で得たものの方が著しく良好であった。
【0036】
比較例3
生卵黄70重量%と水30重量%とを混合した水分散相を緩く攪拌しながら、3℃/分の昇温速度にて〔水分散相の温度+5℃〕の温水を用いて40℃から60℃まで加熱を行い、60℃に達すると同時に冷却を開始し5℃まで冷却を行った。この卵黄含有液を用いて実施例5に示す練り込みクリームを作成したところ、VTISの加熱部分に焦げつきやスケーリングが発生し、連続運転が困難であった。また風味も焦げ臭があった。
【0037】
比較例4
実施例1と同様にして第1次加熱処理した後、160℃にて5秒間、第2次加熱処理したところ、卵黄含有液に凝集物が発生した。
【0038】
【効果】
以上詳述したように、本発明においては、卵黄含有液および卵黄含有水中油型乳化物を製造するにあたり、二段階に分けて特定条件下で加熱処理した卵黄含有液を用いて水中油型乳化物を製造することにより風味良好で、殺菌等の加熱工程においても焦げつき、スケーリングを起こさない卵黄含有水中油型乳化物を製造することができるという効果を有し、かかる効果は一段階の加熱処理したものに比較して顕著であった。

Claims (6)

  1. 卵黄を80重量%以下の濃度に希釈した水性分散液を、60℃を越え78℃以下の温度域で第1次加熱処理を実施し、当該加熱処理温度に達するまでの昇温速度が0.05℃〜6℃/分であり、次いで卵黄濃度65重量%以下の水性分散液の状態で120℃以上、155℃以下で第2次加熱処理することを特徴とする、卵黄含有液の製造法。
  2. 第1次加熱処理で水性分散液の局部的上昇を90℃以下に抑制する、請求項1記載の製造法。
  3. 第1次加熱処理前の水性分散液に20〜200容量%の気体を含ませた状態で加熱処理する、請求項1又は請求項2記載の製造法。
  4. 第1次加熱処理前の水性分散液が0.05〜3重量%の塩を含有する、請求項1ないし請求項3の何れかに記載の製造法。
  5. 請求項1〜請求項4の何れかに記載の方法によって製造された卵黄含有液。
  6. 請求項5記載の卵黄含有液を、卵黄成分として5〜60重量%使用することを特徴とする、水中油型乳化物の製造法。
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