JP3878835B2 - 冷媒圧縮機とこれを用いた空調機及び冷凍機並びにその軸受 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は,軸受の耐摩耗性を向上させた新規な冷媒圧縮機とこれを用いた空調機及び冷凍機並びにその軸受に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来、冷媒圧縮機では軸受材として鋳鉄や青銅系材料、Al合金系材料などの金属系、あるいは樹脂系材料及び樹脂と金属の複合材が用いられていた。青銅系材料では多量のPbなどを含んでいた。圧縮機以外でもPbを含む摺動材は数多く、一般的であった。一方で、軸受に挿入されるシャフトに表面処理を施しカジリを防止していた。鋳鉄以外の軸受材料では、シャフトと異種の材料を用いることによりカジリや摩耗を防止してきた。
【0003】
軸受材として、特開平2-248676号公報、特開平2-275114号公報には、黒鉛を含む炭素材にAlを含浸した軸受材が知られている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
従来の圧縮機では性能を向上させる為に軸受の負荷が増大してきており、油による潤滑膜が部分的に途切れ軸受とクランクシャフトが局部的に直接接触する所謂境界潤滑状態になりやすくなっている。また、圧縮機の運転開始(起動)時や過大な冷媒の混入によっても境界潤滑となる。こういった境界潤滑において従来の金属系軸受や樹脂系軸受、表面処理シャフトなどは焼付きやカジリが発生しやすかった。軸受の負荷を軽減する方法として、軸受の内径を大きくし、または、軸受部の長さを延長する手段があるが、モータを内蔵する密閉型の圧縮機では軸受に要する空間に制限があるため限界があった。
【0005】
潤滑性を有するPbやSbを一成分としている鉛青銅やSb合金、PbあるいはSbと炭素の複合材などは、焼付きやカジリを起しにくいことが知られているが、PbやSbは環境や人体に対する影響が懸念されている。さらに、PRTR(環境汚染物質排出・移動登録)の法規制対象物質に該当する。また、鉛青銅やSb合金、PbあるいはSbと炭素の複合材では該金属の融点が低い事を利用して無潤滑や過酷な条件での摩擦特性を向上させているが、高温での使用や継続して過酷な摺動状態で用いられる部品では摩耗が激しくなる。
【0006】
また、従来のAlを含浸した炭素材からなる軸受はAl以外の金属、含浸後の気孔率、黒鉛含有量についての開示はない。
【0007】
本発明の目的は、一時的に潤滑油が供給されない可能性のある代替冷媒用圧縮機の軸受部において摩耗や焼付きを防止し、高い耐摩耗性と耐焼付き性を有する軸受材を用いた高信頼性かつ長寿命な冷媒圧縮機とこれを用いた空調機及び冷凍機並びにその軸受を提供することにある。
【0008】
【課題を解決するための手段】
本発明は、境界潤滑状態に於いても焼付きにくい炭素質基材の含有黒鉛量を摩擦係数が低減ならびに耐摩耗性を高くするように最適化し、炭素質基材の気孔に潤滑油中で油膜を形成させやすくするために金属を含浸し、更にPb及びSb以外の含浸金属の組成及び組織、含浸量を摩擦係数が低減並びに耐摩耗性が得られるように調整することで、摺動特性に優れた軸受が得られ、信頼性の高い冷媒圧縮機を得ることが出来る。
【0009】
本発明は、無潤滑や過酷な摺動条件に曝される冷媒圧縮機において、無潤滑あるいは過酷な摺動状態に於いても摩擦係数が小さく耐摩耗性も良好な炭素質基材と、潤滑油中で用いられる場合に黒鉛20〜50重量%を含む炭素質基材に残存する気孔を通して潤滑油が排出され油膜の形成が困難になる事を防止する為、炭素質基材の気孔にIB族、Feを除くVIII族及びSnから選ばれる1種の金属又はこれらの金属を主にした合金を溶融含浸した部材を用いて冷媒圧縮機の軸受部を構成し、且つ合金のPb及びSbの少なくとも一方の含有量が各々が1重量%以下であり、該部材のショア硬度は65〜120とすることが好ましい。ショア硬度を65以上とすることで、無潤滑あるいは過酷な摺動条件において摩擦係数を小さく保ち、かつ摩耗も最小限に押さえることで、高信頼性かつ長寿命な冷媒圧縮機を提供することができる。また、量産性を考慮した場合、ショア硬度が90以上になると加工性が落ちるので、好ましくは90以下にすることで耐摩耗性を具備しかつ生産性をも兼ね備えた冷媒圧縮機を提供することができる。
【0010】
Pb及びSbの含有量は好ましくは0.5重量%以下、ゼロが最も好ましいが、JIS規格材を用いることが生産上好ましい。
【0011】
本発明は、冷媒圧縮機の定常運転状態において潤滑が円滑に行われている場合にも軸受材の気孔を少なく制御するものである。即ち、軸受材として金属又は合金を含浸した黒鉛20〜50重量%を含む炭素質基材の気孔率を0.05〜2体積%、好ましくは0.5〜1.5体積%にすることで潤滑油膜を安定に形成し摩耗を抑制することができる為、長寿命な冷媒圧縮機が得られる。又、炭素質基材への金属の含浸量として、含浸前の炭素質基材の気孔率を5〜15体積%とし、前述の0.05〜2体積%の気孔率となるように金属を含浸させるのが好ましい。
【0012】
本発明は前記回転軸及びクランクの少なくとも一方の軸受が黒鉛20〜50重量%を含む炭素質基材の気孔にPb及びSbの各々が1重量%以下であり、Pb及びSb以外の金属又は合金を含浸した軸受材からなることを特徴とする。
【0013】
又、本発明は前述と同様に炭素質基材の気孔に含浸する金属又は合金に、V及びTiの少なくとも一方を0.2重量%以下、好ましくは0.05〜0.15%添加することでVやTiの炭化物(VC、TiC)を作り、炭素質基材との濡れ性が向上し、含浸金属を炭素質基材の気孔に十分に充填できるので、気孔率が小さくなり潤滑油膜をさらに安定に形成することができ、摩耗を抑制でき、高信頼性の冷媒圧縮機が得られる。
【0014】
軸受材の前述の黒鉛を有する炭素質基材に含浸する金属又は合金の融点をCu系では900℃以上、好ましくは900〜1200℃、より好ましくは950〜1050℃にすることで、過酷な摺動状態が継続した場合に温度が上昇しても潤滑性と耐摩耗性を維持し冷媒圧縮機の信頼性を高めることができる。
【0015】
IB族はCu、Ag,Au、VIII族はCo、Ni、Ru、Rh、Pd、Os、Ir、Ptからなるが、Cu,Ag、Co、Niが好ましい。更に、合金は、重量で、Cu80〜90%、Sn5〜11%及びZn3%以下を含み、Pb1.0%以下、好ましくは0.5%以下であるCu合金が好ましい。又、合金は、前記合金は、重量で、Cu0.5〜5.0%及びZn25〜35%を含むSn合金であることが好ましい。これらの金属又は合金は炭素と化合物を形成しにくく、高い耐摩耗性と耐焼付き性を有し、含浸が容易なものである。
【0016】
炭素質基材には気孔が存在するため潤滑油が、この気孔に流入し、これにより油膜が消失するので、環境及び人体に対する影響が少ないCuを含浸する。Cuのみでは含浸部が軟質であり、摩擦によってCuの部分が融着しやすいので合金化元素を添加して強化し融着さらには摩耗を防止できる。融着がなくなることで境界潤滑状態に於いても摩擦係数を小さくすることができ、これを軸受として用いることで信頼性の高い冷媒圧縮機が得られる。
【0017】
炭素質基材中の黒鉛は摩擦により薄く劈開することで摩擦係数を低減するとされている。しかし、高荷重において黒鉛の含有量が多いと炭素質基材自体が軟質になり変形抵抗が増大して摩擦が増大し、同時に摩耗が増大するため50重量%以下、より35重量%以下が適当である。一方、黒鉛含有量が20重量%未満では炭素質基材が硬くなり摩擦する相手の金属材を摩滅させる。したがって、黒鉛の含有量を20〜50%、好ましくは20〜35%にすることで摩擦係数が低く、かつ耐摩耗性の高い軸受が得られ、信頼性の高い冷媒圧縮機を提供することができる。
【0018】
本発明は、塩素を含まない冷媒は特に冷媒自体の摩擦軽減作用が低いため境界潤滑になりやすいことから、境界潤滑に於いても十分な低摩擦、耐摩耗性を有する軸受を用いた冷媒圧縮機が得られる。
【0019】
本発明は、上述した冷媒圧縮機を用いた空調機及び冷凍機である。
【0020】
又、本発明は、黒鉛20〜50重量%を含む炭素質基材の気孔に、IB族、Feを除くVIII族及びSnから選ばれる1種の金属又はこれらの金属を主にした合金を含浸した部材、好ましくは円筒形状の部材からなることを特徴とする冷媒圧縮機用軸受にあり、更に、前記部材のショア硬度が65〜120であること、前記部材の気孔率が0.05〜2体積%であること及び前記金属又は該金属を主にした合金にV及びTiの少なくとも一方を0.2重量%以下含む合金からなることの少なくとも1つの要件を有する部材からなることが好ましい。
【0021】
更に、本発明は、凹部又は貫通孔に前述に記載の軸受が圧入されていることを特徴とする冷媒圧縮機用スクロール又は冷媒圧縮機用フレームにある。
【0022】
【発明の実施の形態】
(実施例1〜10)
図1はスクロール圧縮機の断面模式図である。まず冷媒圧縮機の一種であるスクロール圧縮機を例に検討した。スクロール圧縮機は密閉容器1の内部に圧縮機構を上方に、モータ9を下方に配置して、クランクシャフト7を介して連設される。圧縮機部は台板5aに渦巻状のラップ5bを直立したスクロール部材5と台板4aに渦巻状のラップ4bを直立した旋回スクロール部材4を、ラップを互いに噛み合わせて配置し、固定スクロール部材5の外周部に吸入口5d、中央部に吐出口5eを配置している。
【0023】
クランクシャフト7はフレーム6の中央部の軸受6cに支承され、クランクシャフト7の先端に突出したクランク7aが旋回スクロール部材4の旋回軸受4cに挿入され係合している。
【0024】
自転防止機構としてのオルダム継ぎ手8は旋回スクロール部材4が固定スクロール部材5に対し、自転することなく旋回運動をする継ぎ手で、旋回スクロール部材4の台板4aの背面キー溝4dとフレーム6の台座キー溝の間に係合している。
【0025】
そこで、下方のモータ9によりクランクシャフト7が回転すると、クランク7aの偏心回転により、旋回スクロール部材4は自転することなく、固定スクロール部材5に対し旋回運動を行い、吸入口5dより吸い込んだ冷媒ガスは圧縮され、吐出口5eより圧縮ガスを吐出することになる。
【0026】
台板4aには旋回軸受4c及びフレーム6には軸受6cが各々設けられ、いずれも循環する潤滑油が供給されているが、起動時や冷媒の吐出圧力が高い場合には、潤滑油の供給が不足して摩耗や焼付きなどの損傷が発生しやすい。しかし、本発明の円筒状の軸受は台板4aの凹部及びフレーム6の貫通孔に各々圧入されることで固定され、スクロール圧縮機の信頼性及び耐久性を向上させることができる。従って、台板4a及びフレーム6には本発明の軸受が一体に形成され、いずれも鋳鉄又はSiを5〜15重量%含むAl基合金によって構成される。
【0027】
本発明に係る軸受の製法は、真空炉中で、金属や合金の素材を入れたるつぼを金属の溶融温度に対して100℃高い温度に加熱した溶湯中に所定の長さの炭素質基材からなる円柱体を浸し、窒素ガスによって加圧して含浸させるものである。前述の軸受は、いずれもこの含浸後、切削加工によって円筒形状に加工される。
【0028】
表1に比較例と実施例のショア硬度、及び図2に炭素質基材及び炭素質基材に金属を含浸した材料系において本発明の軸受材及び比較材のショア硬度と無潤滑状態での摩擦係数の関係を示す。図中の三角印は比較例で、黒く塗りつぶしたものは炭素質基材のみの軸受材である。丸印は本発明の実施例である。数字は実施例の番号であり、表1の番号と同一である。無潤滑状態として、冷媒圧縮機に鑑みて塩素分を含まない冷媒の一例としてR410Aの気体中で評価を実施した。軸受材の無潤滑における摩擦係数は、ショア硬度が大きくなるほど小さくなることが分かる。青銅(BC3)は重量で、Sn10%、Zn2%及びPb0.2%を含み、残部がCuである。ホワイトメタル5種(WJ5)は重量で、Cu2%及びZn29%を含み、残部がSnである。図2に示すように、青銅を含浸させたものは、ショア硬度が65以上、好ましくは80以上と高い方が摩擦係数が小さい。又、WJ5を含浸させたものは同様に摩擦係数が小さい。この傾向は炭化水素系の冷媒の気体中で摩擦評価した場合も同様であった。
【0029】
【表1】
【0030】
尚、炭素質基材の含浸前の気孔率は、体積率で比較例5が11%、比較例6が10.4%、実施例1〜3が6%、実施例4〜7が11%である。又、その含浸後の気孔率は、体積率で実施例1が1.3%、実施例2が1.5%、実施例3が0.7%である。炭素質基材の黒鉛量は、重量で実施例1〜3が35%、実施例4〜7が42%である。又、実施例8〜10の含浸前と含浸後の気孔率及び炭素質基材の黒鉛量は実施例1〜7と同程度であった。
【0031】
比較例の含浸金属の無い軸受の硬さは気孔率、黒鉛、ピッチ、タール等の量が異なるものである。気孔率は、後述する図6に示す様に6〜11%を有し、気孔率が多い程硬さが低くなる。V及びTi量は、合金に対して各々0.1%である。
【0032】
図3は無潤滑中でのショア硬度と固定片摩耗量の関係を示す。摩耗試験は、高圧雰囲気摩耗試験機を用い、試験片として固定片(10mm×10mm×36mm)に炭素質基材、可動片にSCM415の構造用鋼の浸炭焼き入れ材とし、摺動片をSCM416とし、面圧9.8MPa,摺動速度1.2m/s、代替冷媒雰囲気中で10時間行い、試験後の摩耗量を測定した。摩耗量は軸受材の硬さが高いほど少なくなることが分かる。図3においてショア硬度が65以上、好ましくは80以上でその軸受材の摩耗量が少ないことが分かる。
【0033】
図4にショア硬度と潤滑油中での摩擦係数の関係を示す。ショア硬度が65以上、好ましくは80以上の軸受材は摩擦係数が小さい。実施例1は含浸金属として青銅(BC3)を用いたものであり、潤滑油中の摩擦係数が最も小さい。
【0034】
ここで、金属を含浸していない比較例の2、3、4は、ショア硬度が65以上にもかかわらず摩擦係数が0.1以上と高い。これは、カーボン基材は多孔質であり、潤滑油中での摺動において油が切れて油膜が薄くなり混合潤滑となるためであり好ましくない。また、比較例6は摩擦係数は低いが、含浸材にPbが使用されており、環境上好ましくない。従って、金属を含浸した実施例1、2、4〜10の本発明のショア硬度が65〜110のものは摩擦係数が0.1以下と低いものである。
【0035】
図5は、ショア硬度とR410A冷媒+合成油の混合潤滑中で、1.2m/sの摺動速度で面圧を100MPaまで0.15MPa/sの負荷速度で負荷した耐荷重試験の摩耗量を示すものである。青銅(BC3)を用いたものは、ショア硬度が65以上、好ましくは80以上の軸受材は摩耗量が少ない。実施例1は含浸金属として青銅(BC3)を用いたものであり、潤滑油中の摩耗量が最も少ない。従って、ショア硬度が高いものほど軸受材料として適していることが判った。又、WJ5のSn合金を用いたものは、青銅(BC3)を用いたものよりやや劣る。
【0036】
図6は軸受材における残存気孔率と潤滑油中での過酷条件における摩擦係数の関係を示す。潤滑油としては合成油を用い、該油はR410Aフロン冷媒に適合したものである。気孔率の測定は、FISONS社製[(株)アムコ]のポロシメータ2000型により行った。この方法にて採取した細孔分布曲線から、「累積気孔容積」×「かさ密度」×100(%)により気孔率を算出した。気孔率が小さいほど油膜保持力が向上し潤滑油中での摩擦係数が小さいことが確認できる。また、青銅にVもしくはTiを添加した合金を含浸した実施例6や実施例7は含浸時にVやTiの炭化物(VC、TiC)を作り、炭素基材と濡れ性が良くなり、VもしくはTiを添加しない実施例4に比べ気孔率が小さくなり、潤滑中での油膜保持力が向上し、摩擦係数が小さくなる。このV又はTiを添加した合金を含浸した炭素基材の表面を走査型電子顕微鏡で観察した結果、炭素基材と合金との界面にVやTiの炭化物(VC、TiC)が確認された。
【0037】
図7に示すように含浸金属の融点と最も過酷な潤滑条件である無潤滑状態での摩擦係数について検討した。図中の数字は金属を含浸する前の炭素質基材のショア硬度を示す。含浸する前の炭素質基材の硬さが異なっても含浸金属の違いによる摩擦係数の傾向はほぼ同様であった。図7でPbやSbは200℃から400℃程度の低融点金属であり、摩擦係数を低減する効果が確認できた。しかし、Sbのように融点が高くなってくると摩擦係数は上昇する。さらに融点を900℃以上にしたCuやCu合金では低融点金属と同程度の摩擦係数となることが判った。
【0038】
融点の高い材料としてCuを用いたが、他の高融点金属でも含浸が可能であれば、炭素質基材と組み合わせることにより耐摩耗性と低摩擦を実現することができる。本実施例においては、含浸のプロセスとして溶融金属中に炭素質基材を浸漬すると同時に加圧することで、金属を含浸する方法を採用した。このプロセスでは本来できるだけ融点を低くすることが生産性の向上に有効である。したがって、CuにSnを添加し若干融点を低くして軸受材を作製した。含浸金属に合金を用いることで含浸金属の強度も向上する為、軸受材全体の硬度向上にも効果がある。さらに、含浸金属に切削性を向上させる元素を添加することで軸受材の摩擦面表面の加工仕上げ状態が平滑かつ良好になり、より信頼性の高い軸受部を構成することが可能である。
【0039】
図8は、黒鉛を含む炭素質基材を焼成し、これに青銅(BC3)又はCuを含浸した軸受材について各黒鉛含有率と無潤滑摩擦係数の関係を示すものである。No.1は、前述の実施例1であり、番号なしは追加データである。図8に示す様に、摩擦係数は黒鉛含有率が20〜50重量%、特に20〜40重量%で極小値を示す。
【0040】
以上の実施例で明らかとなった本発明に関する材料の条件にて作製した軸受を図1のスクロール圧縮機の旋回軸受4c及び軸受6cに適用した。冷媒としてR410Aフロン冷媒を用い、従来の単に炭素にPbやSbを含浸した炭素複合材と同等以上の耐摩耗性、寿命を達成できた。
【0041】
(実施例11)
図9は冷媒圧縮機として用いられるロータリ圧縮機の断面図である。ロータリ圧縮機にはクランクシャフト7と摺動するフレーム6の貫通孔に設けられた軸受6cとクランクピンの軸受に実施例1〜10に記載の本発明の炭素質基材に金属を含浸した軸受を圧入したものが用いられる。その軸受の製法及び形状も前述と同様である。このロータリ圧縮機をエアコンに装備し、冬期の使用にて暖房運転で評価した。冷媒が圧縮機内に集中し、潤滑油の濃度が低下する過酷な条件においても、軸受部のカジリによる圧縮機の動作停止や摩耗による性能の低下は無く良好であった。このロータリ圧縮機は、ベーン(仕切板)10、ピストン11、シリンダー12を備えている。
【0042】
本発明の軸受材をレシプロ型の冷媒圧縮機に装備したが、冷凍サイクルに封入する潤滑油を通常の4分の1にした場合においても冷媒を圧縮する作用に遜色はなかった。したがって、レシプロ圧縮機の通常の使用に際してはより信頼性が向上したと判断できる。
【0043】
潤滑油には冷凍サイクルの雰囲気中において冷媒が潤滑油に溶解している。冷媒の溶解する量は、冷媒及び潤滑油の組合せにより異なるが、通常は圧力が高いほど該溶解量は増大する。潤滑油の粘度は溶解量の増大に伴い小さくなるため、圧力の高い雰囲気では摩擦摺動が過酷になる。冷媒圧縮機の摺動部なかでも軸受に供給される潤滑油は、冷媒圧縮機の内部に溜められて種々の方法で摺動部に循環供給される。炭化水素系の冷媒では潤滑油への冷媒の溶け込み量や、冷媒の溶け込んだ潤滑油の量が多くなると冷凍サイクルに充填する冷媒量も多くなるため、可燃性の高い冷媒であれば危険性の増大が懸念される。
【0044】
以上で述べた潤滑油の冷媒溶解状態の差異に起因する摺動条件の制約に影響せずに、本発明の軸受材は様々な冷媒圧縮機に広く適用することができた。
【0045】
【発明の効果】
以上のように,本発明によれば潤滑油の供給が困難もしくは一時的に潤滑油が供給されない可能性のある代替冷媒用圧縮機の軸受部において耐環境性の良い材料を用いて摩耗や焼付きを防止し,圧縮機全体としても耐久性を著しく高めることが出来る。また,突発的給油不足にも対応し空調機及び冷凍機の信頼性向上に極めて有用である。更に、機械加工性が良いため量産性に対応できコストの低下を図る事が出来る。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明の圧縮機の一例であるスクロール圧縮機の断面摸式図である。
【図2】 本発明の軸受材のショア硬度と無潤滑での摩擦係数との関係を示す図である。
【図3】 本発明の軸受材のショア硬度と無潤滑での固定片摩耗量との関係を示す図である。
【図4】 本発明の軸受材のショア硬度と潤滑油中の摩擦係数との関係を示す図である。
【図5】 耐荷重試験における本発明の軸受材のショア硬度と潤滑油中の摩耗量との関係を示す図である。
【図6】 本発明の軸受材の気孔率と軸受材の潤滑油中での摩擦係数との関係を示す図である。
【図7】 含浸材の融点と摩擦係数との関係を示す線図である。
【図8】 黒鉛含有率と無潤滑での摩擦係数との関係を示す図である。
【図9】 本発明の圧縮機の一例であるロータリ圧縮機の断面摸式図である。
【符号の説明】
1…密閉容器、3…バランスウエイト、4…旋回スクロール部材、4a…台板、4b…渦巻状のラップ、4c…旋回軸受、4d…背面キー溝、5…固定スクロール部材、5a…台板、5b…渦巻状のラップ、5d…吸入口、5e…吐出口、6…フレーム、6c…軸受、7…クランクシャフト、7a…クランク、8…オルダム継ぎ手、9…モータ、10…ベーン(仕切り板)、11…ピストン(ローラー)、12…シリンダー。
Claims (14)
- 回転軸のクランクにより駆動される圧縮手段により冷媒を圧縮し、液化と蒸発を繰り返す冷凍サイクルの冷媒圧縮機において、前記回転軸及びクランクに対する少なくとも一方の軸受は、黒鉛20〜50重量%を含む炭素質基材の気孔に、IB族、Feを除くVIII族及びSnから選ばれる1種の金属又はこれらの金属を主にした合金を含浸した部材からなることを特徴とする冷媒圧縮機。
- 請求項1において、前記部材のショア硬度が65〜120であることを特徴とする冷媒圧縮機。
- 請求項1又は2において、前記部材の気孔率が0.05〜2体積%であることを特徴とする冷媒圧縮機。
- 請求項1〜3のいずれかにおいて、前記金属又は合金に、V及びTiの少なくとも一方を0.2重量%以下含む合金からなることを特徴とする冷媒圧縮機。
- 請求項1〜4のいずれかにおいて、前記合金は、Pb及びSbの少なくとも一方の含有量が各々1重量%以下であることを特徴とする冷媒圧縮機。
- 請求項1〜5のいずれかにおいて、前記合金は、重量で、Cu80〜90%、Sn5〜11%及びZn3%以下を含み、Pb1.0%以下であるCu合金であることを特徴とする冷媒圧縮機。
- 請求項1〜5のいずれかにおいて、前記合金は、重量で、Cu0.5〜5.0%及びZn25〜35%を含むSn合金であることを特徴とする冷媒圧縮機。
- 請求項1〜7のいずれかにおいて、前記冷媒は塩素分を含まないことを特徴とする冷媒圧縮機。
- 請求項1〜8のいずれかに記載の冷媒圧縮機を用いたことを特徴とする空調機。
- 請求項1〜8のいずれかに記載の冷媒圧縮機を用いたことを特徴とする冷凍機。
- 黒鉛20〜50重量%を含む炭素質基材の気孔に、IB族、Feを除くVIII族及びSnから選ばれる1種の金属又はこれらの金属を主にした合金を含浸した部材からなることを特徴とする冷媒圧縮機用軸受。
- 請求項11において、前記部材はショア硬度が65〜120であることを特徴とする冷媒圧縮機用軸受。
- 請求項11又は12において、前記部材は気孔率が0.05〜2体積%であることを特徴とする冷媒圧縮機用軸受。
- 請求項11〜13のいずれかにおいて、記載の前記金属又は合金にV及びTiの少なくとも一方を0.2重量%以下含む合金からなることを特徴とする冷媒圧縮機用軸受。
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