JP3878771B2 - ブレーキ装置 - Google Patents
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Description
【発明が属する技術分野】
本発明は、ブレーキ装置に関するものであり、特に、ブレーキシリンダ液圧をマスタシリンダ液圧より高い液圧に増圧可能なブレーキ装置に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
上述のブレーキ装置の一例が、先に本願出願人等によって出願され、未公開である特願平10─8383号の明細書に記載されている。この明細書に記載のブレーキ装置は、(1) 液圧によりブレーキを作動させるブレーキシリンダと、(2) ブレーキ操作部材の操作量に応じた液圧を発生させるマスタシリンダと、(3) そのマスタシリンダから供給される作動液を増圧してブレーキシリンダに供給する増圧装置と、(4) その増圧装置と前記マスタシリンダとの間に設けられ、電気エネルギが供給されている間は、これらマスタシリンダと増圧装置とを連通させて増圧装置にマスタシリンダの作動液を供給する供給状態にあり、電気エネルギが供給されない間は、これらを遮断して増圧装置への作動液の供給を阻止する供給阻止状態にある電磁供給制御弁と、(5) 前記電磁供給制御弁を供給状態と供給阻止状態とに切り換える電磁供給制御弁制御装置とを含むものである。このブレーキ装置において、電磁供給制御弁が供給状態にされれば、マスタシリンダの作動液が増圧装置に供給され、増圧されてブレーキシリンダに供給される。その結果、ブレーキシリンダの液圧がマスタシリンダの液圧より高くなる。
【0003】
【発明が解決しようとする課題,課題解決手段および効果】
本発明の課題は、上述のブレーキ装置の改善を図ることにある。具体的には、電磁供給制御弁をきめ細かに制御することによって、電磁供給制御弁の過熱を防止したり、アンチロック制御が良好に行われるようにしたりすることである。上記課題は、ブレーキ装置を下記各態様の構成のものとすることによって解決される。各態様は、請求項と同様に、項に区分し、各項に番号を付し、必要に応じて他の項の番号を引用する形式で記載する。これは、あくまでも本発明の理解を容易にするためであり、本明細書に記載の技術的特徴およびそれらの組合わせが以下の各項に限定されると解釈されるべきではない。また、1つの項に複数の事項が記載されている場合、常に、すべての事項を一緒に採用しなければならないものではなく、一部の事項のみを取り出して採用することも可能である。
(1)液圧によりブレーキを作動させるブレーキシリンダと、
ブレーキ操作部材の操作量に応じた液圧を発生させるマスタシリンダと、
そのマスタシリンダの作動液を加圧して前記ブレーキシリンダに供給するポンプを備えたポンプ装置を含む増圧装置と、
前記マスタシリンダと前記ブレーキシリンダとを接続する主液通路の前記ポンプの吐出側が接続された部分よりマスタシリンダ側に設けられた電磁液圧制御弁と、前記ブレーキシリンダの液圧が、車両が走行状態にある場合も停止状態にある場合も、前記ブレーキ操作部材の操作力が予め定められた設定倍力率で倍力されることによって得られる制動力に対応する液圧となるように前記電磁液圧制御弁を制御する倍力制御部とを含む装置と、
前記ポンプ装置の吸入側と前記マスタシリンダとの間に設けられ、電気エネルギが供給されている間は、これらマスタシリンダと前記ポンプ装置とを連通させてポンプ装置にマスタシリンダの作動液を供給する供給状態にあり、電気エネルギが供給されない間は、これらを遮断して前記ポンプ装置への作動液の供給を阻止する供給阻止状態にある電磁供給制御弁と、
前記倍力制御部による前記ブレーキシリンダの液圧の倍力制御中であり、かつ、当該ブレーキ装置が搭載された車両が停止状態にある場合に、前記電磁供給制御弁への電気エネルギの供給を低減させて、電磁供給制御弁を、作動液の供給が減少する向きに制御する電磁供給制御弁制御装置と
を含むことを特徴とするブレーキ装置(請求項1)。
前述のように、ブレーキシリンダの液圧をマスタシリンダの液圧より高い液圧に制御する場合には、電磁供給制御弁は供給状態に保たれるのが普通である。しかし、本項に記載のブレーキ装置においては、車両が停止状態にある場合に、電磁供給制御弁への電気エネルギの供給が低減させられることによって、作動液の供給が減少する向きに制御される。ポンプ装置へ供給される作動液量が減少させられるため、ブレーキシリンダ液圧の増加勾配が抑制される。車両が停止状態にある間は、ブレーキシリンダ液圧をそれ以上高くする必要はあまりないため、作動液の供給量が減少させられても差し支えないのである。電気エネルギが低減させられれば、電磁供給制御弁の過熱を防止し得、消費エネルギの低減を図り得る。この点において、ブレーキ装置の改善を図ることができる。
電気エネルギの低減には電気エネルギの供給の停止も含まれる。電気エネルギの供給を停止すれば、電磁供給制御弁は、供給状態から供給阻止状態に切り換えられる。車両が停止状態にある場合には、ブレーキシリンダ液圧をそれ以上高くする必要は殆どないため、作動液の供給を阻止しても差し支えないのである。そして、供給阻止状態にある場合には、電気エネルギは供給されないため、電磁供給制御弁の過熱を防止し得、消費エネルギの低減を図り得る。
また、電磁液圧制御弁が閉状態とされ、ブレーキシリンダがマスタシリンダから遮断された状態において、電磁供給制御弁が供給状態に保たれれば、ポンプ装置から吐出された作動液が主液通路を経てブレーキシリンダに供給され、増圧される。ブレーキシリンダがマスタシリンダから遮断されているため、液圧をマスタシリンダの液圧より高くすることができる。また、電磁液圧制御弁を制御すれば、ブレーキシリンダ液圧を、マスタシリンダ液圧より高い領域で制御することができる。
電磁液圧制御弁は、単なる電磁開閉弁であっても、ブレーキシリンダの液圧PB をマスタシリンダの液圧PM より、供給電気エネルギに応じた差圧ΔPだけ高い液圧に制御可能な電磁比例液圧制御弁であってもよい(PB =PM +ΔP)。
〔発明の実施の形態〕において詳述するように、電磁液圧制御弁を後者の電磁比例液圧制御弁とし、例えば、図6,7に示すように、差圧ΔPがマスタシリンダ液圧に応じて決まる値となるように、電磁比例液圧制御弁への供給電気エネルギを制御すれば、ブレーキシリンダの液圧PB を、ブレーキ操作力fが一定の倍力率で倍力されて得られる制動力に対応する液圧に制御することができる。この倍力制御においては、マスタシリンダ液圧PM が増加すれば、供給電気エネルギが増加させられる。それに応じて差圧ΔPが大きくされ、ブレーキシリンダ液圧PB が増加させられる。マスタシリンダ液圧PM が一定に保たれれば、供給電気エネルギも一定に保たれ、ブレーキシリンダ液圧PB が保持される。マスタシリンダ液圧PM が減少させられれば、供給電気エネルギが減少させられ、ブレーキシリンダ液圧PB が減少させられる。供給電気エネルギが、差圧ΔPが0になるまで減少させられれば、ブレーキシリンダ液圧PB はマスタシリンダ液圧PM と同じ高さになるまで減少させられる。
なお、増圧装置としては、例えば、マスタシリンダ液圧を第1受圧面に受け、第1受圧面より小さい第2受圧面で作動液を加圧する増圧ピストンを備えた増圧器を採用することも可能であるが、作動液を能動的に加圧し得るポンプ装置を増圧器として採用すれば、ブレーキシリンダの液圧制御が容易になる。
( 2 )前記電磁供給制御弁制御装置が、前記車両が停止状態にあって、かつ、前記ブレーキ操作部材の操作量が増加させられない場合に供給阻止状態に保つ停止中条件付供給阻止状態保持部を含む(1)項に記載のブレーキ装置(請求項2)。
電磁供給制御弁制御装置は、車両が停止状態にある場合には、常に、電磁供給制御弁を供給阻止状態に保つ停止中常時供給阻止状態保持部を含むものとすることができる。
停止中常時供給阻止状態保持部によれば、車両が停止状態にある間は、たとえ、ブレーキ操作部材の操作量が増加させられても、電磁供給制御弁が供給阻止状態に保たれる。例えば、ブレーキ装置が前述の電磁比例液圧制御弁と倍力制御部とを含む場合において、ブレーキ操作力が増加させられれば、それに応じてマスタシリンダ液圧が増加するため、供給電気エネルギが増加させられ、ブレーキシリンダの液圧が増加させられる。それに対して、本項に記載のブレーキ装置においては、ブレーキ操作力が増加させられ、供給電気エネルギが増加させられても、電磁供給制御弁が供給阻止状態に保たれているため、ポンプ装置に作動液が供給されることがなく、ブレーキシリンダ液圧が増加させられることがない。
停止中条件付供給状態保持部によれば、ブレーキ操作力が増加させられた場合には、電磁供給制御弁が供給状態にされるため、ブレーキシリンダ液圧が増加させられる。運転者の制動力増加要求に応じてブレーキシリンダ液圧を増加させることができ、車両を確実に停止状態に保つことができる。
( 3 )当該ブレーキ装置が、
作動液をほぼ大気圧で収容するマスタリザーバと、
前記電磁供給制御弁を含み、前記マスタリザーバと前記マスタシリンダとのいずれか一方の作動液を選択的に前記ポンプ装置に供給する選択的作動液供給装置と
を含む(1)項または (2) 項に記載のブレーキ装置。
選択的作動液供給装置は、前述の電磁供給制御弁としての主電磁供給制御弁と、マスタリザーバとポンプ装置との間に設けられた副電磁供給制御弁とを含むものとすることができる。主電磁供給制御弁と副電磁供給制御弁とを、それぞれ供給状態と供給阻止状態とに切り換えれば、ポンプ装置に、マスタシリンダの作動液を供給したり、マスタリサーバの作動液を供給したりすることができる。
主電磁供給制御弁は副電磁供給制御弁に比較して、供給状態に保つのに必要な電気エネルギが多いのが普通である。例えば、主電磁供給制御弁,副電磁供給制御弁が、共にシーティング弁であって、マスタシリンダの液圧,マスタリザーバの液圧からポンプ装置の吸引側の液圧を引いた差圧に応じた差圧作用力が、弁子を弁座に着座させる方向に作用する向きで取り付けられたものであるとする。これらシーティング弁を閉状態から開状態へ切り換える場合には、弁子を弁座から差圧作用力に抗して離間させる必要がある。この場合に、マスタシリンダとポンプ装置の吸入側との間の液圧差はマスタリザーバとポンプ装置の吸入側との間の液圧差より大きいのが普通であるため、主電磁供給制御弁の方が、必要な電気エネルギが多くなる。そのため、主電磁供給制御弁の方が、供給状態において過熱し易く、過熱防止の必要性が高いと言える。
また、ブレーキシリンダの液圧をマスタシリンダの液圧より高い液圧に制御する場合に、マスタシリンダの作動液が供給されれば、マスタリサーバの作動液が供給される場合に比較して、ポンプ装置における消費エネルギを低減させることができる。
マスタシリンダ圧は高くなるため、マスタシリンダとポンプ装置とを接続する液通路は、強度の大きい材料で製造された細い管(内径が小さい管)とされるのに対してマスタリザーバとポンプ装置とを接続する液通路は、太い管(内径が大きい管)とすることができる。そのため、マスタリザーバからの方が、多量の作動液を早急にポンプ装置に供給することができる。
以上の事実を利用して、ポンプ装置に、マスタシリンダとマスタリザーバとのいずれか一方の作動液を選択的に供給可能とすることによって、ポンプ装置における消費エネルギの低減を図りつつ、液圧制御性を向上させることができる。
( 4 )液圧によりブレーキを作動させるブレーキシリンダと、
ブレーキ操作部材の操作量に応じた液圧を発生させるマスタシリンダと、
そのマスタシリンダから供給される作動液を増圧してブレーキシリンダに供給する増圧装置と、
その増圧装置と前記マスタシリンダとの間に設けられ、電気エネルギが供給されている間は、これらマスタシリンダと増圧装置とを連通させて増圧装置にマスタシリンダの作動液を供給する供給状態にあり、電気エネルギが供給されない間は、これらを遮断して増圧装置への作動液の供給を阻止する供給阻止状態にある電磁供給制御弁と、
前記ブレーキの作動中に、前記電磁供給制御弁の過熱を防止する過熱防止装置と
を含むブレーキ装置。
(1)項ないし(3) 項のいずれか1つに記載の電磁供給制御弁制御装置が過熱防止装置の一例である。
( 5 )液圧によりブレーキを作動させるブレーキシリンダと、
ブレーキ操作部材の操作量に応じた液圧を発生させるマスタシリンダと、
そのマスタシリンダから供給される作動液を加圧してブレーキシリンダに供給可能なポンプ装置と、
前記マスタシリンダと前記ポンプ装置の吸入側との間に設けられ、これらマスタシリンダとポンプ装置とを連通させてポンプ装置にマスタシリンダの作動液を供給する供給状態と、これらを遮断してポンプ装置へのマスタシリンダの作動液の供給を阻止する供給阻止状態とに切り換えられる電磁供給制御弁と、
予め定められたアンチロック制御開始条件が満たされた場合に、前記ブレーキシリンダの液圧を制御し、そのブレーキシリンダに対応する車輪の制動スリップ状態を適正状態に保つアンチロック制御装置と、
そのアンチロック制御装置と前記ポンプ装置の吸入側との間に接続され、前記アンチロック制御装置の制御により前記ブレーキシリンダから流出させられた作動液を収容するアンチロック減圧用リザーバと、
前記ブレーキシリンダの液圧が前記マスタシリンダの液圧より高い状態における前記アンチロック制御装置による制御中であって、かつ、減圧制御が終了してからの経過時間が設定時間以内である場合に、前記アンチロック減圧用リザーバの容量から前記アンチロック減圧用リザーバに収容された作動液量を引いた値である作動液収容容量が、少なくとも1回の減圧制御によってブレーキシリンダから流出させられる作動液を収容し得る容量より少ないとして、前記電磁供給制御弁を供給阻止状態に切り換える電磁供給制御弁制御装置と
を含むことを特徴とするブレーキ装置(請求項3)。
本項に記載のブレーキ装置においては、ポンプ装置の吸入側に、マスタシリンダとアンチロック減圧用リザーバ(以下、単に、減圧用リザーバと略称する)との両方が接続される。電磁供給制御弁が供給状態にある場合には、ポンプ装置がマスタシリンダの作動液を吸入し、供給阻止状態にある場合には減圧用リザーバの作動液を汲み上げる状態で接続されるのである。例えば、〔発明の実施の形態〕の項において説明するように、減圧用リザーバが、マスタシリンダとポンプ装置の吸入側とを接続する液通路の途中の電磁供給制御弁が設けられている位置よりポンプ装置側の部分に、減圧用リザーバからポンプ装置への作動液の流れは許容するが、逆向きの流れは阻止する逆止弁を介して接続される。電磁供給制御弁が供給状態にある場合には、マスタシリンダの作動液がポンプ装置に供給されるため、逆止弁のポンプ装置側の液圧が減圧用リザーバ側の液圧より高くなり、減圧用リザーバの作動液がポンプ装置へ供給されることはない。また、マスタシリンダの作動液が減圧用リザーバに流入することが逆止弁により防止される。それに対して、電磁供給制御弁が供給阻止状態にされた場合には、マスタシリンダの作動液が液通路に供給されなくなるため、ポンプ装置によって減圧用リザーバの作動液が逆止弁を経て汲み上げられる。
一方、アンチロック制御において、減圧制御が行われると、ブレーキシリンダの作動液がアンチロック制御装置を経て減圧用リザーバへ流出させられる。上述のように、電磁供給制御弁が供給阻止状態にある場合には、減圧用リザーバに収容された作動液がポンプ装置によって汲み上げられるため、減圧用リザーバに設定液量以上の作動液が溜まることは殆どない。そのため、次に、減圧制御が行われる場合に、ブレーキシリンダから作動液が確実に流出させられ、減圧が確実に行われる。
それに対して、電磁供給制御弁が供給状態にある場合には、減圧用リザーバの作動液が汲み上げられないため、減圧用リザーバに多量の作動液が溜まり、減圧不能になるおそれがある。そこで、減圧用リザーバに収容された作動液量(以下、リザーバ残量と称する)が設定液量以上である場合に、電磁供給制御弁を供給阻止状態に切り換えるのである。ポンプ装置によって減圧用リザーバに溜まっている作動液が汲み上げられ、ブレーキシリンダ液圧を確実に減圧させることが可能となる。このように、本項に記載のブレーキ装置によれば、ブレーキシリンダ液圧がマスタシリンダ液圧より高い状態においてもアンチロック制御を良好に行うことが可能となり、この点においてブレーキ装置の改善を図ることができる。 設定液量は、例えば、減圧用リザーバに設定液量の作動液が収容されていても、少なくとも1回の減圧制御によってブレーキシリンダから流出させられる作動液を確実に収容し得る量に設定することが望ましい。リザーバ容量(減圧用リザーバが作動液を収容し得る最大容量)からリザーバ残量を引いた容量が、その時点における作動液収容容量になるが、その作動液収容容量が少なくとも1回の減圧制御によってブレーキシリンダから流出させられる作動液を収容し得る容量以上となるように決定するのである。
このように考えれば、上記電磁供給制御弁制御装置は、ブレーキシリンダの液圧がマスタシリンダの液圧より高い状態におけるアンチロック制御装置による制御中であって、かつ、減圧用リザーバの作動液収容能力が予め定められた設定能力以下である場合に、前記作動液供給制御弁を供給阻止状態に切り換えるものであると考えることもできる。作動液収容能力を、作動液収容容量に比例する数値(比例係数1の場合も含む)で表されるものとすれば、リザーバ残量に基づいて取得することができる。作動液収容能力を(リザーバ容量−リザーバ残量)に比例する値として求めることができるのである。また、数値化しない場合には、アンチロック制御状態等に基づいて推定することができる。例えば、減圧制御が行われた後予め定められた設定時間以内は、リザーバ残量が多く、収容能力が設定能力以下であると推定することができるのである。
本ブレーキ装置においては、減圧用リザーバの作動液収容能力に基づいて電磁供給制御弁が供給阻止状態に切り換えられるのであり、アンチロック制御による制御状態(減圧制御,保持制御,増圧制御)に基づいて供給阻止状態に切り換えられるわけではない。上述の減圧制御後設定時間以内には、アンチロック制御の増圧制御が行われる場合があるが、本ブレーキ装置においては、電磁供給制御弁が供給阻止状態に切り換えられる。ポンプ装置によって、減圧用リザーバの作動液が汲み上げられ、加圧されてブレーキシリンダに供給され、ブレーキシリンダ液圧が増加させられることになる。
上述のリザーバ残量が設定液量以上であるか否かは、リザーバ残量取得装置によって取得されるが、リザーバ残量取得装置は、次項に関して説明するように、リザーバ残量を、アンチロック制御における総減圧制御時間等に基づいて演算により推定するリザーバ残量推定装置を含むものであっても、リザーバ残量が設定液量以上になったことを直接検出する液量検出装置(例えば、減圧用リザーバのピストンの位置を検出する装置)を含むものであってもよい。
アンチロック制御装置は、ブレーキシリンダとポンプ装置との間に設けられた保持弁と,ブレーキシリンダと減圧用リザーバとの間に設けられた減圧弁とを含む制御弁装置と、制御弁装置を制御することによってブレーキシリンダの液圧を制御するアンチロック制御部とを含むものとすることができる。
本項に記載の電磁供給制御弁制御装置は、ブレーキシリンダ液圧がマスタシリンダ液圧より高い状態におけるアンチロック制御中であって、リザーバ残量が設定液量以上になった場合に、電磁供給制御弁を供給阻止状態に切り換える装置であるが、この供給阻止状態に切り換える制御は、アンチロック制御により、ブレーキシリンダ液圧がマスタシリンダ液圧より低くなった場合にも継続して行われるようにしても、終了させてもよい。ブレーキシリンダ液圧がマスタシリンダ液圧より低い場合には、本来、電磁供給制御弁を供給状態にする必要はないのであり、リザーバ残量の多少に係わらず、供給阻止状態のままにしても差し支えないのである。
また、減圧制御が終了してからの経過時間が設定時間以内の間、リザーバの作動液収容容量が、少なくとも1回の減圧制御によってブレーキシリンダから流出させられる作動液を収容し得る容量より少ないとして、電磁供給制御弁が供給阻止状態に切り換えられるようにすることもできる。
なお、本項に記載の技術的特徴は、(1)項ないし(4)項のいずれか1つに記載の技術的特徴を備えたブレーキ装置にも適用することができる。
( 6 )液圧によりブレーキを作動させるブレーキシリンダと、
ブレーキ操作部材の操作量に応じた液圧を発生させるマスタシリンダと、
そのマスタシリンダから供給される作動液を加圧してブレーキシリンダに供給可能なポンプ装置と、
前記マスタシリンダと前記ポンプ装置との間に設けられ、これらマスタシリンダとポンプ装置とを連通させてポンプ装置にマスタシリンダの作動液を供給する供給状態と、これらを遮断してポンプ装置へのマスタシリンダの作動液の供給を阻止する供給阻止状態とに切り換えられる電磁供給制御弁と、
予め定められたアンチロック制御開始条件が満たされた場合に、前記ブレーキシリンダの液圧を制御し、そのブレーキシリンダに対応する車輪の制動スリップ状態が適正状態に保つアンチロック制御装置と、
そのアンチロック制御装置と前記ポンプ装置の吸入側との間に接続され、前記アンチロック制御装置の制御により前記ブレーキシリンダから流出させられた作動液を収容するアンチロック減圧用リザーバと、
前記ブレーキシリンダの液圧が前記マスタシリンダの液圧より高い状態における前記アンチロック制御装置による制御中であって、かつ、前記アンチロック減圧用リザーバの容量から前記アンチロック減圧用リザーバに収容された作動液量を引いた値である作動液収容容量が、少なくとも1回の減圧制御によってブレーキシリンダから流出させられる作動液を収容し得る容量より少ない場合に、前記電磁供給制御弁を供給阻止状態に切り換える電磁供給制御弁制御装置と
を含むことを特徴とするブレーキ装置。
(7)前記電磁供給制御弁制御装置が、前記アンチロック減圧用リザーバに収容された作動液量を、少なくとも前記アンチロック制御装置による減圧制御時間に基づいて推定する作動液残量推定部を含むことを特徴とする(5) 項または(6)項に記載のブレーキ装置。
リザーバ残量Qは、減圧用リザーバへの累積流入量Qinから減圧用リザーバからの累積流出量Qout を引いた量(Q=Qin−Qout )であると推定することができる。累積流入量Qinは、推定開始時(例えば、アンチロック制御開始時,前回推定時)から今回のリザーバ残量推定時までの間の減圧モードが設定された時間の合計(以下、減圧制御時間Tg と称する)に基づいて推定することができ、累積流出量Qout は、ポンプ装置によって作動液が汲み上げられる汲み上げ時間の合計Tp (連続して汲み上げられた場合には、その時間をいい、断続して汲み上げられた場合には、その時間の合計をいい、以下、単に、汲み上げ時間と称する)に基づいて推定することができる。
累積流入量Qinは、減圧制御時間Tg が長くなれば多くなる。ブレーキシリンダから単位時間当たりに流出させられ、減圧用リザーバに流入させられる作動液量(流入流量)qをほぼ一定とすれば、累積流入量Qinは、減圧制御時間Tg に流入流量qを掛けた量(Tg ×q)であると推定することができる。また、厳密には、流入流量qは減圧時のブレーキシリンダ液圧が高いほど大きくなるため、流入流量qを、例えば減圧開始時のブレーキシリンダ液圧に応じた値とすれば、リザーバ残量Qの推定精度を向上させることができる。さらに、1回の減圧継続時間の経過に伴って、ブレーキシリンダ液圧とリザーバ液圧との差圧が小さくなり、それに伴って流入流量qが少なくなる。このことを考慮すれば、さらに推定精度を向上させることができる。
累積流出量Qout は、電磁供給制御弁が供給阻止状態にあり、かつ、ポンプ装置が作動状態にある時間(汲み上げ時間)Tp に基づいて推定される。ポンプ装置によって減圧用リザーバから汲み上げられる作動液の単位時間当たりの吸入量(流出流量)q′をほぼ一定とすれば、累積流出量Qout は、流出流量q′と汲み上げ時間Tp とを掛けた量(q′×Tp )であると推定することができる。
なお、前述の、推定開始時から推定時までの間、電磁供給制御弁が供給状態に保たれていた場合には、汲み上げ時間は0となる。累積流出量Qout は0となり、累積流入量Qinがリザーバ残量Q(=Qin)であると推定されることになる。
(8)前記電磁供給制御弁制御装置が、前記リザーバ残量が設定液量以上になる可能性が高い場合に、前記電磁供給制御弁を供給阻止状態に切り換える予測型電磁供給制御弁制御部を含む(5) 項ないし(7)項のいずれか1つに記載のブレーキ装置。
本項に記載のブレーキ装置においては、リザーバ残量が設定液量以上である場合(作動液収容能力が設定能力以下の場合)のみでなく、リザーバ残量が設定液量以上になる可能性が高い場合、換言すれば、ブレーキシリンダから多量の作動液が流出させられる可能性が高く、前もって、減圧用リザーバの作動液収容能力を高めておくことが望ましい場合にも、電磁供給制御弁が供給阻止状態に切り換えられる。例えば、〔発明の実施の形態〕において詳述するように、リザーバ残量が設定液量以下であっても、車輪減速度が設定減速度以上であり、次の減圧制御時に流入させられる作動液量(減圧量)が多いと推定される場合、悪路走行中にアンチロック制御が行われる場合のように、減圧制御が行われる頻度が高いと推定される場合等が、リザーバ残量が設定液量以上になる可能性が高い場合に該当する。
本項に記載の技術的特徴は独立に採用可能である。すなわち、リザーバ残量が設定液量以上である場合に電磁供給制御弁が供給阻止状態に切り換えられることがないブレーキ装置にも、採用可能である。
(9)液圧によりブレーキを作動させるブレーキシリンダと、
ブレーキ操作部材の操作量に応じた液圧を発生させるマスタシリンダと、
そのマスタシリンダから供給される作動液を増圧してブレーキシリンダに供給可能なポンプ装置と、
前記マスタシリンダと前記ポンプ装置との間に設けられ、これらマスタシリンダとポンプ装置とを連通させてポンプ装置にマスタシリンダの作動液を供給する供給状態と、これらを遮断してポンプ装置へのマスタシリンダの作動液の供給を阻止する供給阻止状態とに切り換えられる電磁供給制御弁と、
予め定められたアンチロック制御開始条件が満たされた場合に、前記ブレーキシリンダの液圧を制御し、そのブレーキシリンダに対応する車輪の制動スリップ状態が適正状態に保つアンチロック制御装置と、
そのアンチロック制御装置と前記ポンプ装置の吸入側との間に接続され、前記アンチロック制御装置の制御により前記ブレーキシリンダから流出させられた作動液を収容するアンチロック減圧用リザーバと、
前記ブレーキシリンダの液圧が前記マスタシリンダの液圧より高い状態における前記アンチロック制御装置による制御中である場合に、前記電磁供給制御弁を供給阻止状態に切り換える電磁供給制御弁制御装置と
を含むブレーキ装置。
前述の倍力制御中であっても、アンチロック制御中には、電磁供給制御弁を供給状態に保つ必要は必ずしもなく、供給阻止状態に保つことができる。アンチロック制御においては、減圧制御時にブレーキシリンダから流出させられ、減圧用リザーバに流入させられた作動液が、ポンプ装置によって汲み上げられて、ブレーキシリンダに供給されることによって、増圧制御されるのであるが、増圧用の作動液が不足することは殆どないからである。電磁供給制御弁が原則として供給阻止状態に保たれるが、必要な場合(例えば、増圧時に作動液が不足した場合)に供給状態に切り換えられるようにすることもできる。このようにすれば、マスタシリンダから流出させられる作動液量を減らすことができ、ブレーキペダルの入り込みを抑制し得るという効果がある。
(10)前記ポンプ装置が、供給された作動液を加圧するポンプと、そのポンプを駆動するポンプモータとを含み、当該ブレーキ装置が、要求ポンプ吐出量と要求ポンプ吐出圧との少なくとも一方に基づいて前記ポンプモータへの供給電流のデューティ比を制御するポンプモータ制御部を含む(1)項ないし(9)項のいずれか1つに記載のブレーキ装置(請求項5 )。
ポンプモータのデューティ比を制御すれば、ポンプモータの回転数や駆動トルクを制御することができ、ポンプの作動状態(作動液の吐出量や吐出圧)を制御することができる。例えば、要求ポンプ吐出量が大きい場合にデューティ比を大きくすれば、ポンプモータの回転数を大きくすることができ、ポンプの吐出量を大きくすることができる。また、電磁供給制御弁が供給阻止状態にある場合には、減圧用リザーバからの汲み上げ量を大きくすることができる。
要求ポンプ吐出量は、例えば、減圧用リザーバから作動液を早急に汲み上げる必要がある場合に大きくされる。悪路走行中にアンチロック制御が行われた場合、アンチロック制御中において車輪減速度が設定減速度以上である場合等が該当する。悪路走行中においては、減圧制御が行われる頻度が多くなる。また、車輪減速度が大きい場合には、減圧量(減圧用リザーバに流入させられる作動液量)が多くなる。そのため、これらの場合には、減圧用リザーバから早急に作動液を汲み上げ、減圧用リザーバの作動液収容能力を大きくしておくことが望ましいのである。
また、要求吐出圧が大きい場合にデューティ比を大きくすれば、ポンプモータの負荷の増加に伴う回転数の低下を抑制することができる。例えば、直流モータに加わる負荷が大きくなると回転数が減少する。そこで、負荷が大きい場合にデューティ比を大きくすれば、負荷の増加に伴う回転数の減少を抑制することができ、負荷の増加に起因する吐出量の低下を抑制することができる。
なお、〔発明の実施の形態〕の項において詳述するように、要求ポンプ吐出量と要求ポンプ吐出圧との少なくとも一方に加えて、また、いずれか一方に代えて、ポンプモータの温度,電圧等に基づいてポンプモータへの供給電流のデューティ比が制御されるようにすることもできる。
(11)前記ポンプモータ制御部が、アンチロック制御中において、要求ポンプ汲上量が大きい場合は小さい場合よりデューティ比を大きくするアンチロック制御時デューティ比決定部と、ポンプモータの回転数が予め定められた設定回転数となるようにデューティ比を決定する回転数対応デューティ比決定部との少なくとも一方を含む(10)項に記載のブレーキ装置。
(12)液圧によりブレーキを作動させるブレーキシリンダと、
作動液供給装置から供給された作動液を加圧して前記ブレーキシリンダに供給可能な加圧装置と、
前記作動液供給装置と前記加圧装置との間に設けられ、電気エネルギが供給されている間は、これら作動液供給装置と加圧装置とを連通させて加圧装置に作動液供給装置の作動液を供給する供給状態にあり、電気エネルギが供給されない間は、これらを遮断して加圧装置への作動液供給装置の作動液の供給を阻止する供給阻止状態にある電磁供給制御弁と、
前記ブレーキの作動中であって、かつ、予め定められた条件が満たされた場合に、前記電磁供給制御弁への電気エネルギの供給を低減させて、電磁供給制御弁を、作動液の供給を減少する向きに制御する電磁供給制御弁制御装置と
を含むことを特徴とする液圧制動装置。
予め定められた条件として、車両が停止状態にあること、アンチロック制御中にリザーバ残量が設定液量以上であること等が該当する。これによって、電磁供給制御弁の過熱を防止したり、アンチロック制御が良好に行われるようにしたりすることができる。
また、作動液供給装置は、マスタシリンダの作動液を供給する装置であっても、マスタリザーバの作動液を供給する装置であっても、マスタシリンダの作動液とマスタリザーバの作動液とのいずれか一方を選択的に供給する装置であってもよい。
(13)液圧によりブレーキを作動させるブレーキシリンダと、
ブレーキ操作量に応じた液圧を発生させるマスタシリンダと、
そのマスタシリンダから供給される作動液を加圧するポンプと、そのポンプを駆動するポンプモータとを含むポンプ装置と、
前記ホイールシリンダ液圧がマスタシリンダ液圧より高い状態において、かつ、予め定められた条件が満たされた場合に、前記ポンプモータへの供給電流のデューティ比を小さくするポンプモータ制御装置と
を含むブレーキ装置。
ポンプモータのデューティ比を小さくすれば、その分、ブレーキ装置における消費エネルギの低減を図ることができ、ブレーキ装置の改善を図ることができる。例えば、要求ポンプ吐出量が小さい場合、要求ポンプ吐出圧が小さい場合に予め定められた条件が満たされたとすることができる。
(14)液圧によりブレーキを作動させるブレーキシリンダと、
ブレーキ操作部材の操作量に応じた液圧を発生させるマスタシリンダと、
そのマスタシリンダから供給される作動液を加圧してブレーキシリンダに供給可能なポンプ装置と、
前記マスタシリンダと前記ポンプ装置との間に設けられ、これらマスタシリンダとポンプ装置とを連通させてポンプ装置にマスタシリンダの作動液を供給する供給状態と、これらを遮断してポンプ装置へのマスタシリンダの作動液の供給を阻止する供給阻止状態とに切り換えられる電磁供給制御弁と、
予め定められたアンチロック制御開始条件が満たされた場合に、前記ブレーキシリンダの液圧を制御し、そのブレーキシリンダに対応する車輪の制動スリップ状態を適正状態に保つアンチロック制御装置と、
そのアンチロック制御装置と前記ポンプ装置の吸入側との間に接続され、前記アンチロック制御装置の制御により前記ブレーキシリンダから流出させられた作動液を収容するアンチロック減圧用リザーバと、
前記ブレーキシリンダの液圧が前記マスタシリンダの液圧より高い状態における前記アンチロック制御装置による制御中であって、かつ、悪路走行中である場合に、前記電磁供給制御弁を供給阻止状態に切り換える電磁供給制御弁制御装置と
を含むことを特徴とするブレーキ装置(請求項4)。
(15)液圧によりブレーキを作動させるブレーキシリンダと、
ブレーキ操作部材の操作量に応じた液圧を発生させるマスタシリンダと、
そのマスタシリンダから供給される作動液を加圧してブレーキシリンダに供給可能なポンプ装置と、
前記マスタシリンダと前記ポンプ装置との間に設けられ、これらマスタシリンダとポンプ装置とを連通させてポンプ装置にマスタシリンダの作動液を供給する供給状態と、これらを遮断してポンプ装置へのマスタシリンダの作動液の供給を阻止する供給阻止状態とに切り換えられる電磁供給制御弁と、
予め定められたアンチロック制御開始条件が満たされた場合に、前記ブレーキシリンダの液圧を制御し、そのブレーキシリンダに対応する車輪の制動スリップ状態を適正状態に保つアンチロック制御装置と、
そのアンチロック制御装置と前記ポンプ装置の吸入側との間に接続され、前記アンチロック制御装置の制御により前記ブレーキシリンダから流出させられた作動液を収容するアンチロック減圧用リザーバと、
前記ブレーキシリンダの液圧が前記マスタシリンダの液圧より高い状態における前記アンチロック制御装置による制御中であって、かつ、車輪減速度が設定減速度以上である場合に、前記電磁供給制御弁を供給阻止状態に切り換える電磁供給制御弁制御装置と
を含むことを特徴とするブレーキ装置。
(16)液圧によりブレーキを作動させるブレーキシリンダと、
ブレーキ操作部材の操作量に応じた液圧を発生させるマスタシリンダと、
そのマスタシリンダから供給される作動液を加圧してブレーキシリンダに供給可能なポンプ装置と、
前記マスタシリンダと前記ポンプ装置との間に設けられ、これらマスタシリンダとポンプ装置とを連通させてポンプ装置にマスタシリンダの作動液を供給する供給状態と、これらを遮断してポンプ装置へのマスタシリンダの作動液の供給を阻止する供給阻止状態とに切り換えられる電磁供給制御弁と、
予め定められたアンチロック制御開始条件が満たされた場合に、前記ブレーキシリンダの液圧を制御し、そのブレーキシリンダに対応する車輪の制動スリップ状態を適正状態に保つアンチロック制御装置と、
そのアンチロック制御装置と前記ポンプ装置の吸入側との間に接続され、前記アンチロック制御装置の制御により前記ブレーキシリンダから流出させられた作動液を収容するアンチロック減圧用リザーバと、
前記ブレーキシリンダの液圧が前記マスタシリンダの液圧より高い状態における前記アンチロック制御装置による制御中であって、かつ、減圧制御が行われる頻度が高いと推定された場合に、前記電磁供給制御弁を供給阻止状態に切り換える電磁供給制御弁制御装置と
を含むことを特徴とするブレーキ装置。
(17)液圧によりブレーキを作動させるブレーキシリンダと、
ブレーキ操作部材の操作量に応じた液圧を発生させるマスタシリンダと、
そのマスタシリンダから供給される作動液を加圧してブレーキシリンダに供給可能なポンプ装置と、
前記マスタシリンダと前記ポンプ装置との間に設けられ、これらマスタシリンダとポンプ装置とを連通させてポンプ装置にマスタシリンダの作動液を供給する供給状態と、これらを遮断してポンプ装置へのマスタシリンダの作動液の供給を阻止する供給阻止状態とに切り換えられる電磁供給制御弁と、
予め定められたアンチロック制御開始条件が満たされた場合に、前記ブレーキシリンダの液圧を制御し、そのブレーキシリンダに対応する車輪の制動スリップ状態を適正状態に保つアンチロック制御装置と、
そのアンチロック制御装置と前記ポンプ装置の吸入側との間に接続され、前記アンチロック制御装置の制御により前記ブレーキシリンダから流出させられた作動液を収容するアンチロック減圧用リザーバと、
前記ブレーキシリンダの液圧が前記マスタシリンダの液圧より高い状態における前記アンチロック制御装置による制御中であって、かつ、前記アンチロック減圧用リザーバに収容される作動液量が設定液量以上になる可能性が高いと推定された場合に、前記電磁供給制御弁を供給阻止状態に切り換える電磁供給制御弁制御装置と
を含むことを特徴とするブレーキ装置。
【0004】
【発明の実施の形態】
以下、本発明のさらに具体的な実施の形態のいくつかを図面に基づいて詳細に説明する。
図1において、10はブレーキ操作部材としてのブレーキペダルであり、そのブレーキペダル10はバキュームブースタ12を介してマスタシリンダ14に連結されている。マスタシリンダ14はタンデム型であり、ハウジングに2つの加圧ピストンが互いに直列にかつ各々摺動可能に嵌合され、それにより、ハウジング内に各加圧ピストンの前方において2つの加圧室が互いに独立して形成されている。マスタシリンダ14は、ブレーキペダル10の踏力であるブレーキ操作力に応じてそれら加圧室にそれぞれ等しい高さの液圧を機械的に発生させる。
【0005】
バキュームブースタ12は、よく知られたものであるため、詳細な説明は省略するが、変圧室と負圧室とを有し、これらの差圧によってブレーキ操作力を助勢して、マスタシリンダ14に出力するものである。この差圧は、変圧室の圧力が大気圧まで増加した後には、ブレーキペダル10をさらに深く踏み込んでも増加しない。この変圧室の圧力が大気圧に達した状態がブースタがブレーキ操作力を助勢できる限界なのであり、このブースタが助勢限界に到達した場合のマスタシリンダ12の液圧を助勢限界圧とする。
本実施形態においては、後述するが、バキュームブースタ12が助勢限界に達した時点から、ブレーキ力を助勢する効き特性制御が行われる。
【0006】
このブレーキ装置は前後2系統式であり、マスタシリンダ14の一方の加圧室には、左右前輪のそれぞれのブレーキ54を作動させるブレーキシリンダ56が接続されている。また、他方の加圧室には、左右後輪のそれぞれのブレーキ58を作動させるブレーキシリンダ60が接続されている。
【0007】
前輪側の液圧系統において、マスタシリンダ14と、前記左右前輪FL,FRのブレーキシリンダ56とは、主液通路64によって接続されている。主液通路64は、マスタシリンダ14から延び出た後に二股状に分岐させられており、1本の基幹通路66と2本の分岐通路68とが互いに接続されて構成されている。基幹通路66の途中には圧力制御弁70が設けられており、各分岐通路68の先端に上述のブレーキシリンダ56がそれぞれ接続されている。主液通路64のうち圧力制御弁70とブレーキシリンダ56との間の部分にはポンプ通路72が接続され、その途中にポンプ74が設けられている。ポンプ74は、ポンプモータ76によって駆動される。ポンプ74およびポンプモータ76等により、加圧装置78が構成される。
【0008】
図2において、圧力制御弁70は、マスタシリンダ14とブレーキシリンダ56との差圧を電磁的に制御する形式のものである。圧力制御弁70は、図示しないハウジングと、主液通路64におけるマスタシリンダ側とブレーキシリンダ側との間の作動液の流通状態を制御する弁子80およびそれが着座すべき弁座82と、それら弁子80および弁座82の相対移動を制御する磁気力を発生させるソレノイド84とを有している。
【0009】
この圧力制御弁70においては、ソレノイド84が励磁されない非作用状態(OFF状態)では、スプリング86の弾性力によって弁子80が弁座82から離間させられている。それにより、主液通路64においてマスタシリンダ側とブレーキシリンダ側との間での双方向の作動液の流れが許容され、その結果、ブレーキ操作が行われれば、ブレーキシリンダ56がマスタシリンダ14と等圧で変化させられる。このブレーキ操作中、弁子80には、弁座82から離間する向きに力が作用するため、ソレノイド84が励磁されない限り、マスタシリンダ液圧すなわちブレーキシリンダ液圧が高くなっても、弁子80が弁座82に着座してしまうことはない。すなわち、圧力制御弁70は常開弁なのである。
【0010】
これに対し、ソレノイド84が励磁される作用状態(ON状態)では、ソレノイド84の磁気力によりアーマチュア88が吸引され、そのアーマチュア88と一体的に移動する弁子80が弁座82に着座させられる。このとき、弁子80には、ソレノイド84の磁気力に基づく吸引力F1 と、ブレーキシリンダ液圧とマスタシリンダ液圧との差に基づく差圧作用力F2 とスプリング86の弾性力F3 との和とが互いに逆向きに作用する。
ブレーキシリンダ液圧とマスタシリンダ液圧との差に基づく差圧作用力F2 に対して吸引力F1 が大きく、式
F2 ≦F1 −F3
が成立する領域では、弁子80が弁座82に着座し、ブレーキシリンダ56からの作動液の流出が阻止される。ポンプ74から高圧の作動液が供給されることにより、ブレーキシリンダ56の液圧が増加させられマスタシリンダ14より高くなる。ブレーキシリンダ液圧の増加に伴って差圧作用力F2 が大きくなり、式
F2 >F1 −F3
が成立すると、弁子80が弁座82から離間し、ブレーキシリンダ56の作動液がマスタシリンダ12に戻され、減圧させられる。この式において、弾性力F3 を無視すれば、ブレーキシリンダ液圧が、マスタシリンダ液圧に対してソレノイド吸引力F1 に基づく差圧分高い液圧に制御されることになる。
また、図3にグラフで表されているように、ソレノイド84の磁気力である吸引力F1 の大きさがソレノイド84の励磁電流Iの大きさに応じてリニアに変化するように設計されている。
【0011】
この圧力制御弁70には図1に示すように、バイパス通路92が設けられており、そのバイパス通路92の途中にバイパス弁94が逆止弁として設けられている。万が一、ブレーキペダル10の踏み込み時に圧力制御弁70内の可動部材に生ずる流体力により圧力制御弁70が閉じてしまったり、圧力制御弁70が機械的にロックして閉じたままになってしまった場合でも、マスタシリンダ14からブレーキシリンダ56へ向かう作動液の流れが確保されるようにするためである。
【0012】
各分岐通路68の途中には、ポンプ通路72との接続点よりブレーキシリンダ56の側において、常開の電磁開閉弁である保持弁100が設けられている。保持弁100は、励磁されて閉状態となり、その状態で、ブレーキシリンダ56からマスタシリンダ14へ向かう作動液の流れを阻止し、それにより、ブレーキシリンダ液圧が保持される状態を実現する。各保持弁100にはバイパス通路102が接続され、各バイパス通路102には作動液戻り用のバイパス弁104が逆止弁として設けられている。
【0013】
各分岐通路68のうち保持弁100とブレーキシリンダ56との間の部分からリザーバ通路106が延びてリザーバ108に至っている。各リザーバ通路106の途中には常閉の電磁開閉弁である減圧弁110が設けられている。減圧弁110は、励磁されて開状態となり、その状態では、ブレーキシリンダ56からリザーバ108へ向かう作動液の流れを許容し、それより、ブレーキシリンダ液圧が減圧される状態を実現する。
【0014】
リザーバ108は、ハウジングにリザーバピストン112が実質的に気密かつ摺動可能に嵌合されて構成されるとともに、その嵌合によりリザーバピストン112の前方に形成されたリザーバ室114において作動液を付勢手段としてのスプリング116によって圧力下に収容するものである。リザーバ室114は前記ポンプ通路72により前記主液通路64に接続されている。
【0015】
ポンプ通路72はポンプ74によりそれぞれ吸入通路120と吐出通路122とに仕切られており、それら通路120,122には、共に逆止弁である吸入弁124と吐出弁126とがそれぞれ設けられている。ポンプ通路72にはさらに、ダンパ室128と図示しないオリフィスとが互いに直列にポンプ74の吐出側に設けられており、それにより、ポンプ74の脈動が軽減される。
【0016】
吸入通路120のうち吸入弁124とリザーバ108との間の部分は、作動液供給通路としての補給通路130により、主液通路64のうちマスタシリンダ14と圧力制御弁70との間の部分に接続されている。補給通路130の途中には、電磁供給制御弁としての流入制御弁132が設けられている。流入制御弁132は、常閉の電磁開閉弁であり、ソレノイドが励磁されることによって閉状態(供給阻止状態)から開状態(供給状態)に切り換えられる。吸入通路120のうち補給通路130との接続点とリザーバ108との間の部分に逆止弁134が設けられている。この逆止弁134は、ポンプ側からリザーバ側への作動液の流れを阻止するが、逆向きの流れを許容するものであり、逆止弁134により、マスタシリンダ14からの作動液が高圧のままでポンプ74に吸入されることが保証される。また、マスタシリンダ14からポンプ通路72へ作動液が供給される状態においては、逆止弁134のポンプ側の部分の液圧が高くなり、リザーバ108の作動液がポンプ74に吸入されることがない。なお、前記リザーバ通路106は、吸入通路120の、逆止弁134とリザーバ108との間に接続されている。また、前記吸入通路120の2つの逆止弁124,134の間には、マスタリザーバ136から延び出させられた副補給通路140も接続されている。副補給通路140の途中には、副流入制御弁142と逆止弁144とが直列に配設されている。
【0017】
ポンプ74の吸入側には、マスタシリンダ12とマスタリザーバ136との両方がそれぞれ補給通路130,副補給通路140を介して接続されている。トラクション制御,ビークルスタビリティ制御時においては、副補給通路140を介してマスタリザーバ136から作動液が供給され、効き特性制御時においては、補給通路130から作動液が供給される。ブレーキシリンダ56の液圧をマスタシリンダ12の液圧より高い液圧に制御する場合に、マスタシリンダ12の作動液がポンプ74に供給されるようにすれば、ブレーキシリンダ56の液圧を同じ高さに制御する場合に加圧装置78における消費エネルギを少なくすることができる。
【0018】
また、副補給通路140を設ければ、多量の作動液を早急にポンプ74に供給できるという利点もある。マスタシリンダ12の液圧は高圧であるため、補給通路130は、強度の大きい材料で製造された比較的細い管とする必要があり、しかも、マスタリザーバ136とマスタシリンダ12との間に絞りがあるため、マスタシリンダ12の作動液を多量にかつ早急にポンプ74に供給することは困難である。それに対して、マスタリザーバ136の液圧は大気圧に近いため、副補給通路140は例えば太いゴム管等とすることができ、多量の作動液を早急に供給することができるのである。
【0019】
逆止弁144は、流入制御弁142,132の両方が開状態になった場合に、マスタシリンダ12からマスタリザーバ136への作動液の流出を防止するために設けられたものである。2つの流入制御弁132,142の両方が開状態にされることは本来ないことであるが、例えば、いずれか一方が開状態に保たれたまま閉状態に切り換えられなくなり、いずれか他方が電気的制御により開状態に切り換えられた場合に、マスタシリンダ12がマスタリザーバ136に連通させられる場合があるのである。
逆止弁144を、前輪側の補給通路140に設けたのは、前輪側のブレーキ力を確保することは、後輪側のブレーキ力より重要だからである。なお、逆止弁144は、後輪側の補給通路にも設けてもよい。
後輪側の液圧系統については、前輪側の液圧系統と同じであるため、同じ符号を付して説明を省略する。
【0020】
以上、このブレーキ装置のハードウェア構成を説明したが、次に、ソフトウェア構成を図4に基づいて説明する。ただし、図4には、ソフトウェア構成のうち前輪ブレーキ系統に関する部分のみが代表的に示されている。
このブレーキ装置は、コンピュータを主体とする液圧制御装置180を備えている。液圧制御装置180は、CPU182,ROM184,RAM186,入力部188,出力部190等を含むコンピュータを主体として構成されており、そのROM184には、効き特性制御(圧力制御弁制御)ルーチン,流入制御弁制御ルーチン,デューティ比決定(モータ制御)ルーチン,アンチロック制御(保持弁,減圧弁制御)ルーチン等が記憶されており、これら各々のルーチンがCPU182によりRAM186を使用しつつ実行されることにより、効き特性制御,流入制御弁制御,デューティ比の決定,アンチロック制御等が実行される。
【0021】
「効き特性制御」は、バキュームブースタ12の能力低下にもかかわらず、車体減速度Gがブレーキ操作力fに対して同じ勾配で増加するようにそれらブレーキ操作力fと車体減速度Gとの関係であるブレーキの効き特性を制御することをいう。ブースタ12が助勢限界に達した場合にブレーキ力を助勢する制御でもあるため、ブレーキ力助勢制御と称することもできる。また、倍力率が制御されることになるため、倍力制御と称することもできる。
「アンチロック制御」は、よく知られているように、車両制動時に各輪のロック傾向が過大にならないように各輪のブレーキシリンダ液圧を制御することをいう。本実施形態においては、アンチロック制御中、ポンプ74により作動液がブレーキ回路内において還流させられる。そして、ブレーキ操作中、そのポンプ74を利用して効き特性制御が行われる。すなわち、同じポンプ74が効き特性制御とアンチロック制御とで共用されるようになっているのである。
また、効き特性制御中にアンチロック開始条件が満たされた場合は効き特性制御とアンチロック制御との両方が行われるのであるが、アンチロック制御中にマスタシリンダ圧が後述する開始圧以上になっても効き特性制御が行われることはない。アンチロック制御のみが継続して行われるのである。
【0022】
液圧制御装置180の入力部188には、マスタシリンダ液圧センサ202,車輪速センサ204,モータ温度取得装置205,電圧検出装置206等が接続されている。マスタシリンダ液圧センサ202は、マスタシリンダ14またはそれと等圧の作動液を収容する部分に設けられ、マスタシリンダ液圧信号を出力する。車輪速センサ204は、各輪毎に設けられ、各輪の車輪速信号を出力する。各輪の車輪速度に基づいて制動スリップ状態,車輪加速度等が求められ,それに基づいてアンチロック制御が行われる。また、車輪加速度に基づいて走行路面が悪路であるか否かが判定される。モータ温度取得装置205は、外気温を検出する温度計を含むものであり、外気温がポンプモータ76の温度とされる。電圧検出装置206は、ソレノイドへの供給電圧であるAST電圧を検出する装置であり、AST電圧がポンプモータ76に加わる電圧とされる。なお、モータ温度取得装置205は、ポンプモータ76の作動継続時間に基づいてポンプモータ76の発熱量を推定し、発熱量に基づいてポンプモータ76の上昇温度を推定し、外気温度に上昇温度を加えた値をポンプモータ76の温度とする装置とすることができる。また、電圧検出装置206は、IG電圧や+B電圧を検出する装置とすることができる。IG電圧,+B電圧がポンプモータ76に加わる電圧とされることになるが、AST電圧の方が、精度よくポンプモータ76に加わる電圧を推定することができる。IG電圧は、バッテリとイグニッションコイルとを接続する部分の電圧であり、+B電圧は、バッテリ電圧である。
【0023】
一方、液圧制御装置180の出力部190には、モータコントローラ208が接続されている。モータコントローラ208にはデュ─ティ駆動回路を介してポンプモータ76が接続されている。ポンプモータ76は、モータコントローラ208の指令に基づいてインバータにより制御される。ポンプモータ76への供給電流のデューティ比が制御されることにより、ポンプモータ76の作動状態が制御される。
出力部190にはさらに、前記圧力制御弁70のソレノイド84が駆動回路210を介して接続されるとともに、保持弁100,減圧弁110のソレノイド212および流入制御弁132,副流入制御弁142の各ソレノイド214,215が駆動回路216を介して接続されている。圧力制御弁70のソレノイド84の駆動回路210には、ソレノイド84の磁気力をリニアに制御するための電流制御信号が出力され、保持弁100,減圧弁110および流入制御弁132,副流入制御弁142の各ソレノイド212,214,215の駆動回路216にはそれぞれ、ソレノイドをON/OFF駆動するためのON/OFF駆動信号が出力される。
【0024】
本実施形態においては、図5のフローチャートで表される効き特性制御(圧力制御弁制御)ルーチン,図9のフローチャートで表されるアンチロック制御(保持弁,減圧弁制御)ルーチン,図10のフローチャートで表される流入制御弁制御ルーチン,図12のフローチャートで表されるデューティ比決定(モータ制御)ルーチンが、時分割的に並列で行われる。
【0025】
まず、効き特性制御について説明する。
本実施形態においては、図6に示すように、バキュームブースタ12が助勢限界に到達したときに、ポンプ74によるブレーキシリンダ56の増圧が開始される。すなわち、マスタシリンダ液圧PM がブースタ12が助勢限界に達した場合のマスタシリンダ液圧PMO(助勢限界圧であり、以下、開始圧と称する)に達した場合に、増圧が開始されるのであり、一点鎖線で表される目標ブレーキシリンダ圧PB が得られるように、助勢圧が加えられる。図7には、助勢圧(目標差圧)ΔPとマスタシリンダ液圧PM との関係を示す。図6から、助勢圧ΔPは、実際のマスタシリン液圧に基づいて決まるのである。換言すれば、マスタシリンダ液圧に基づいて制御すればよいのであり、助勢圧(目標差圧)が得られるように、圧力制御弁70を制御すれば、ブレーキシリンダ液圧を目標ブレーキシリンダ圧に近づけることができる。圧力制御弁70への供給電流量は、例えば、図8のマップで表されるテーブルに従って制御される。図8には、目標差圧ΔPとソレノイド電流値Iとを直接に対応させるのではなくソレノイド吸引力F1 を媒介として間接に対応させる関係が示されている。目標差圧ΔPとソレノイド吸引力F1 との関係と、ソレノイド吸引力F1 とソレノイド電流値Iとの関係とがそれぞれ示されているのである。
【0026】
図5のフローチャートで表されるルーチンは、運転者により車両のイグニションスイッチがON状態に操作された後、繰り返し実行される。ステップS1(以下、単に「S1」で表す。他のステップについても同じとする)において、効き特性制御禁止フラグがセットされているか否かが判定される。効き特性制御禁止フラグは、効き特性制御が開始される以前にアンチロック制御が行われているか否かを検出するためのフラグである。アンチロック制御開始条件が満たされた場合に効き特性制御が行われていない場合にセットされ、アンチロック制御が終了するとリセットされるフラグである。このフラグがセットされていれば、効き特性制御が開始される以前にアンチロック制御が行われており、効き特性制御の開始が禁止された状態にあることがわかる。
効き特性制御禁止フラグがセットされている場合には、判定がYESとなり、効き特性制御が開始されることはない。たとえ、マスタシリンダ液圧PM が開始圧PM0より高くても、効き特性制御は行われないのである。効き特性制御禁止フラグがセットされていない場合には、判定がNOとなり、S2以降が実行される。すなわち、効き特性開始条件が満たされれば(マスタシリンダ液圧PM が開始圧PM0より高い)、効き特性制御が開始される。
【0027】
S2において、マスタシリンダ液圧センサ202からマスタシリンダ液圧信号が取り込まれ、S3において、そのマスタシリンダ液圧信号が表すマスタシリンダ液圧PM が開始圧PM0より高いか否かが判定される。マスタシリンダ液圧PM が開始圧PM0より高い場合は、判定がYESとなり、S4において、ブレーキシリンダ液圧PB をマスタシリンダ液圧PM より高めるべき量すなわち目標差圧ΔPが演算される。マスタシリンダ液圧PM と目標差圧ΔPとの関係(例えば、図7に示される関係)を表すテーブルがROMに記憶されており、その関係に従ってマスタシリンダ液圧PM の現在値に対応する目標差圧ΔPが演算されるのである。
次に、S5において、演算された目標差圧ΔPに応じて圧力制御弁70のソレノイド84に供給すべき電流値Iが演算される。目標差圧ΔPとソレノイド電流値Iとの関係(例えば、図8に示す関係)がROMに記憶されており、その関係に従って目標差圧ΔPに対応するソレノイド電流値Iが演算されるのである。S6において、圧力制御弁70のソレノイド84に、演算された電流値Iで電流が供給されることにより、電流制御が行われ、S7において、効き特性制御中フラグがセットされる。
それに対して、マスタシリンダ液圧PM が開始圧PM0より低い場合には、S8において、圧力制御弁70のソレノイド84がOFFにされ、S9において、効き特性制御フラグがリセットされる。S8,9のステップは、効き特性制御が開始されない場合、終了した場合に実行される。
【0028】
なお、効き特性制御は上述の態様に限らず、他の態様で実行することもできる。例えば、開始圧PM0をブースタ12が助勢限界に達した後の値としても、達する以前の値としてもよい。また、ブースタ12の構造も上記実施形態におけるそれに限らず、倍力率が助勢限界に達する以前に変化する構造のものとすることができる。このブースタの構造および効き特性制御については、特願平10─8383の明細書に詳細に記載されているため、説明を省略する。
【0029】
次に、図9のフローチャートで表されるアンチロック制御ルーチンについて説明する。
本実施形態において、アンチロック制御は、効き特性制御中であっても制御中でなくても行われる。効き特性制御中にアンチロック開始条件が満たされると、効き特性制御とアンチロック制御との両方が行われる。原則として、流入制御弁132が開状態に、ポンプ74が作動状態に保たれた状態で、圧力制御弁70への供給電流がマスタシリンダ液圧PM に基づいて決定された大きさとされ、かつ、保持弁100,減圧弁110が開状態と閉状態とに切り換えられることにより、各ブレーキシリンダの液圧が車輪の制動スリップ状態が適正状態に保たれるように制御される。圧力制御弁70への供給電流は、前述のように、効き特性制御ルーチンの実行に従って制御され、保持弁100,減圧弁110の開閉は、アンチロック制御ルーチンの実行に従って制御される。
アンチロック制御においては、車輪加速度,制動スリップ状態等に基づいて予め定められたマップに従って減圧モード,保持モード,増圧モードのいずれかが選択され、それに応じて保持弁100,減圧弁110が開状態と閉状態とに切り換えられる。
【0030】
図9のフローチャートのS51〜53において、アンチロック制御中であるか否か、開始条件が満たされるか否かが判定され、開始条件が満たされた場合には、さらに、効き特性制御中か否かが判定される。効き特性制御中でない場合には、S54において、効き特性制御禁止フラグがセットされ、S55において、アンチロック制御中フラグがセットされる。効き特性制御中である場合には、効き特性制御禁止フラグがセットされることはなく、アンチロック制御中フラグのみがセットされる。アンチロック制御が先に開始された場合に、効き特性制御が開始されないようにするためである。アンチロック制御中にブレーキシリンダ液圧を高くする必要はないのであり、アンチロック制御が優先して行われることになる。次に、S56,57において、車輪加速度,制動スリップ状態等に基づいて、増圧モード,減圧モード,保持モードのいずれかが決定され、それに応じて、保持弁100,減圧弁110のソレノイド212の駆動回路216へON/OFF駆動信号が出力される。
それに対して、アンチロック制御中である場合には、S51における判定がYESとなり、S58において、終了条件が満たされるか否かが判定される。終了条件が満たされない場合には、アンチロック制御は継続して行われるが、満たされた場合には、S59,60において、アンチロック制御中フラグがリセットされるとともに、効き特性制御禁止フラグがリセットされる。また、保持弁100,減圧弁110を原位置に戻すべく駆動信号が出力される。
【0031】
次に、流入制御弁132の制御について説明する。流入制御弁132は、効き特性制御が行われていない間は、図示する原位置(閉状態)に保たれるが、効き特性制御中は、原則として、開状態(ON)に保たれる。しかし、本実施形態においては、常時、開状態に保たれるわけではなく、予め定められた条件が満たされた場合に閉状態(OFF)に切り換えられる。
図11に示すように、▲1▼アンチロック制御中であり、リザーバ108の作動液収容能力が設定能力以下である場合または設定能力以下になる可能性がある場合に、流入制御弁132が閉状態とされる。また、▲2▼アンチロック制御中でない場合であって、車両が停止状態にある場合も閉状態とされる。それ以外の場合、すなわち、▲3▼アンチロック制御中でなく、車両が走行状態にある場合、▲4▼アンチロック制御中であって、リザーバ108の作動液収容能力が設定能力以上であり、設定能力以下になる可能性がない場合に開状態にされる。
【0032】
本実施形態においては、アンチロック制御において選択された制御モードが減圧モードである場合、減圧制御が終了してからの経過時間が設定時間以内である場合に、作動液収容能力が設定能力以下であるとされる。また、悪路走行中である場合、車輪減速度が設定減速度以上である場合、設定減速度以上になってからの経過時間が設定時間以内である場合に、設定能力以下になる可能性が高い場合とされる。換言すれば、リザーバ108へ多量の作動液が流入する可能性が高いため、リザーバ108の作動液収容能力を高めておく必要がある場合なのである。
【0033】
図10のフローチャートのS101において、効き特性制御中であるか否かが判定され、S102において、アンチロック制御中であるか否かが判定される。効き特性制御とアンチロック制御との両方が行われている場合には、いずれのステップにおける判定もYESとなり、S103,104において、選択された制御モードが減圧モードであるか否か、減圧制御終了後の経過時間が設定時間以内であるか否かが判定される。いずれか一方のステップにおける判定がYESの場合には、S105において、流入制御弁132が閉状態に切り換えられる。また、S106,107a,bにおいて悪路走行中か否か、車輪減速度が設定減速度以上であるか否か、設定減速度以上になってからの経過時間が設定時間以内であるか否かが判定され、少なくとも一方のステップにおける判定がYESである場合にも、S105において、閉状態に切り換えられる(▲1▼)。悪路であるか否かは、車輪加速度の変化状態に基づいて検出される。例えば、車輪加速度の変化幅が予め定められた設定幅以上であり、かつ、設定幅以上の変化頻度が設定頻度より多い場合には、路面の凹凸が大きく、かつ、凹凸の数が多い状態であると検出することができる。悪路であるか否かは非アンチロック制御中に判定される(悪路判定中にアンチロック制御が開始される場合)。
【0034】
効き特性制御中であるが、アンチロック制御中でない場合には、S101における判定がYES、S102における判定がNOとなり、S108において車両が停止状態にあるか否かが判定される。停止状態にある場合には、判定がYESとなり、S105において、ソレノイド214がOFFにされる(▲2▼)。車輪速センサ204からの車輪速信号に基づいて推定される車体速度が、車両が停止状態にあるとみなし得る設定速度以下である場合に、停止状態にあるとされるのである。なお、駆動装置の出力軸の回転速度等に基づいて車両速度を検出可能な車速センサを設け、車速センサからの出力信号に基づいて停止状態にあるか否かを判定することもできる。
【0035】
それに対して、効き特性制御中であって、アンチロック制御中でなく、車両が走行状態にある場合には、S108における判定がNOとなり、S109において、流入制御弁132が開状態に保たれる(▲3▼)。また、効き特性制御とアンチロック制御との両方が行われ、かつ、制御モードが減圧モードではない場合、減圧制御終了から設定時間経過後である場合、悪路でない場合、車輪減速度が設定減速度以下である場合、設定減速度以上になってから設定時間以上経過した場合には、S103〜107における判定がいずれもNOとなり、S109において、ソレノイド214がONにされる(▲4▼)。
【0036】
効き特性制御が行われている間は、ブレーキシリンダ56の液圧をマスタシリンダ12の液圧より高い液圧に制御するため、流入制御弁132は原則として開状態(ソレノイドON)に保たれる。マスタシリンダ12から作動液が供給されれば、加圧装置78において消費されるエネルギが少なくて済むからである。しかし、ソレノイド214には継続して電流が供給されることになり、過熱し易くなる。
そこで、効き特性制御中であっても、車両が停止状態にある場合、または、アンチロック制御中であってリザーバ108の作動液収容能力が設定能力以下である場合あるいは設定能力以下になる可能性が高い場合は、OFFに切り換えられ、ソレノイド214の過熱を防止し、消費エネルギの低減が図られる。
【0037】
車両が停止状態にある場合には、その停止状態を保てばよく、制動力を大きくする必要は殆どない。前述のように、効き特性制御においては、ブレーキ操作量に応じたマスタシリンダ液圧に応じて決まる目標差圧が実現されるように圧力制御弁70のソレノイド84に電流が供給される。そのため、車両が停止状態にあっても、例えば、ブレーキペダル10の踏増しが行われた場合等には、マスタシリンダ液圧の増加に伴ってソレノイド84への供給電流量が増やされる。マスタシリンダ12から供給された作動液がポンプ74によって加圧され、ブレーキシリンダ56に供給されて増圧されることになる。しかし、本実施形態においては、停止状態にある場合に踏増しが行われて、供給電流量が増加させられても、流入制御弁132が閉状態にされるため、ポンプ74が作動状態にあっても、ブレーキシリンダ56に作動液が供給されることはなく、増圧させられることがないのである。圧力制御弁70への供給電流量が一定に保たれる限り、ブレーキシリンダ56の液圧は保持される。
【0038】
また、アンチロック制御の減圧モードが選択された場合には、ブレーキシリンダ56から作動液が流出させられ、リザーバ108に流入させられる。しかし、流入制御弁132が開状態にある間は、ポンプ74によってリザーバ108の作動液がくみ上げられることがないため、リザーバ108に溜まる作動液量(リザーバ残量)が多くなる。補給通路130が吸入通路の逆止弁134のポンプ側の部分に接続されているため、逆止弁134のポンプ側の液圧が高くなり、リザーバ108から作動液が逆止弁134を経てポンプ74に供給されることはないのである。そして、作動液収容能力が設定能力以下になると、ブレーキシリンダ56から作動液が流出できなくなり、減圧不能になるおそれがある。そこで、本実施形態においては、減圧モードが選択された場合、減圧制御が終了してからの経過時間が設定時間以内である場合、悪路である場合、車輪減速度が大きい場合、車輪減速度が大きくなってから設定時間以内である場合には、リザーバ108の作動液収容能力が設定能力以下の状態あるいは設定能力以下になる可能性がある状態であるとして、流入制御弁132を閉状態に切り換えるのである。マスタシリンダ12から作動液が供給されなくなるため、ポンプ74により、リザーバ108の作動液が汲み上げられ、リザーバ残量が少なくなる。作動液収容能力が高くなり、減圧不能になることが回避される。
【0039】
また、アンチロック制御中に上述のように制御すれば、結果的に、リザーバ108に作動液が十分にある場合に流入制御弁132を閉状態とし、作動液が少なくなると開状態にすることと同じことになる。その結果、マスタシリンダ12からの作動液の流出を抑制し、ブレーキペダル10の入り込みを抑制することが可能となる。アンチロック制御の増圧時に作動液不足になることを回避することも可能となる。
【0040】
なお、車両の停止状態が設定時間以上継続している場合には、効き特性制御を終了させることができる。この場合には、ブレーキシリンダがマスタシリンダに連通させられることになる。また、上記実施形態においては、アンチロック制御中において、減圧モードが選択された場合、減圧終了からの経過時間が設定時間以内である場合に作動液収容能力が設定能力以下であるとされたが、リザーバ残量を演算により求め、リザーバ残量に基づいて作動液収容能力が設定能力以下であるか否かが判定されるようにしてもよい。
図15のフローチャートに示すように、S133において、リザーバ残量Qを推定し、S134において、推定されたリザーバ残量Qが設定液量Qs 以上であるか否かが判定される。設定液量以上であれば、作動液収容能力が設定能力以下であるとされて、S105において、閉状態に切り換えられ、設定液量以下であれば、設定能力以上であるとされて、S109において、開状態に保たれる。
【0041】
S133において、アンチロック制御の開始時からリザーバ残量推定時までの間の減圧制御時間の合計と、ポンプ74による汲み上げ時間の合計とが検出され、これらに基づいて累積流入量と累積流出量とがそれぞれ求められ、リザーバへの累積流入量Qinからリザーバからの累積流出量Qout を引いた量(Q=Qin−Qout )がリザーバ残量であると推定される。
累積流入量Qinは、ブレーキシリンダ56から流出させられ、リザーバ108に流入させられる単位時間当たりの作動液量(流入流量)qがほぼ一定であるとすれば、総減圧制御時間Tg に流入流量qを掛けた量(Tg ×q)であると推定することができる。また、流入流量qは減圧時のブレーキシリンダ液圧が高いほど大きくなるため、流入流量qを減圧開始時のブレーキシリンダ液圧に応じた値とすれば、累積流入量Qinの推定精度を向上させることができる。さらに、総減圧制御時間Tg の経過に伴って、ブレーキシリンダ液圧とリザーバ液圧との差圧が小さくなり、それに伴って流入流量qが少なくなることを考慮すれば、さらに、推定精度を向上させることができる。
なお、車両減速度を検出する加速度センサを設ければ、車両減速度に基づいて減圧中のブレーキシリンダ液圧を取得することができる。また、ブレーキシリンダ液圧を検出するセンサを設ければ、直接的にブレーキシリンダ液圧を検出することができる。
【0042】
累積流出量Qout は、流入制御弁132が閉状態にあり、かつ、ポンプ74が作動状態にある時間(汲み上げ時間)Tp に基づいて推定される。ポンプ74によってリザーバ108から汲み上げられる作動液の単位時間当たりの吸入量(流出流量)q′が一定であるとすれば、累積流出量Qout は、流出流量q′と汲み上げ時間Tp とを掛けた量(q′×Tp )であると推定することができる。
アンチロック制御が開始されてから、リザーバ残量を推定する時点までの間、流入制御弁132が開状態に保たれていた場合には、汲み上げ時間は0となる。累積流出量Qout は0となり、累積流入量Qinがリザーバ残量Q(=Qin)であると推定されることになる。
【0043】
次に、ポンプモータ76の制御について説明する。ポンプモータ76は、図12のフローチャートで表されるモータデューティ比決定プログラムの実行に従って制御される。
ポンプモータ76は、図13に示すように、効き特性制御とアンチロック制御との両方が行われている場合であって、(A) リザーバ108の作動液収容能力を設定能力以上にする必要がある場合には、デューティ比が予め定められた第1設定値より大きい第2設定値とされ、(B) それ以外の場合には、前記第1設定値(アンチロック制御のみが行われている場合と同じ値)とされる。効き特性制御中で、アンチロック制御が行われていない場合においては、(C) 車両が停止状態にある場合に、デューティ比が0とされ、ポンプモータ76の作動が停止させられ、(D) 停止状態でない場合には、デューティ比が温度とポンプモータ76に加わる負荷(ポンプの吐出圧に対応)とに基づいて決定された値とされる。また、(E) 効き特性制御が行われず、アンチロック制御が行われている場合には、デューティ比が第1設定値とされ、(F) 効き特性制御もアンチロック制御も行われていない場合には、デューティ比が0とされ、ポンプモータ76は停止状態に保たれる。
【0044】
上述の制御を図12のフローチャートに基づいて簡単に説明する。S201においてアンチロック制御中か否かが判定され、アンチロック制御中である場合には、S202において効き特性制御中であるか否かが判定され、アンチロック制御中でない場合には、S203において効き特性制御中であるか否かが判定される。アンチロック制御と効き特性制御との両方が行われている場合には、S201,202における判定がYESとなり、S204〜206において、減圧モードの選択中あるいは減圧制御が終了してから設定時間内であるか否か、悪路判定中であるか否か、車輪減速度が設定減速度以上か(車輪加速度が負の設定値より小さいか)否か、設定減速度以上になってからの経過時間が設定時間以内であるか否かが判定され、S207において、ポンプモータ76の起動開始時からの経過時間、すなわち、効き特性制御の開始時(アンチロック制御が先に開始されることはない)からの経過時間が予め定められた設定時間以内であるか否かが判定される。S204〜207のいずれか1つのステップにおける判定結果がYESである場合には、S208において、デューティ比が予め定められた第1設定値より大きな第2設定値とされ、そのことを表す信号がモータコントローラ208に出力される((A) の場合)。アンチロック制御中においては、ポンプモータ76への供給電流のデューティ比は第1設定値に保たれるのであるが、上述の場合には、第1設定値より大きい値にされるのである。
S204〜206のいずれか1つのステップにおける判定がYESであることによってデューティ比が第2設定値に決定された場合には、流入制御弁132を閉状態にされる。S204〜206は、リザーバ108から作動液を早急に汲み上げる必要がある場合に満たされる条件だからである。
【0045】
S204〜206のいずれか1つのステップにおける判定がYESの場合は、リザーバ108の作動液収容能力を高くする必要がある場合であり、ポンプ74の要求吐出量が大きい場合である。すなわち、現在、リザーバ108に多くの作動液が収容されており、次に、減圧モードが選択された場合に、作動液を収容できなくなる可能性が高い場合、減圧モードの選択頻度が高く減圧量が多くなる可能性が高い場合、減圧モードが直ちに選択され、急減圧が行われる可能性が高い場合(リザーバ108に流入させられる作動液量が多いと推定される場合)等が該当する。また、起動開始時から設定時間以上経過していない場合には、ポンプモータ76を早急に安定した定常状態にするために、デューティ比が大きくされるのである。
【0046】
それに対して、アンチロック制御と効き特性制御との両方が行われている場合であって、上述のいずれの条件も満たされない場合には、S204〜207のすべてのステップにおける判定がNOとなり、S209において、デューティ比が第1設定値にされる((B) の場合)。
【0047】
また、効き特性制御中であって、アンチロック制御が行われていない場合には、S201の判定がNO、S203の判定がYESとなり、S210において、車両が停止状態にあるか否かが判定される。停止状態にある場合には、判定がYESとなり、S211において、デューティ比が0とされ、ポンプモータ76が停止させられる。車両が停止状態にある場合には、前述のように、ブレーキシリンダ液圧を増圧させる必要が殆どないため、流入制御弁132が閉状態にされるのであり、ポンプモータ76を停止させても差し支えないのである。また、ポンプモータ76を停止させることにより、作動音を低減させることも可能である。さらに、停止状態にない場合には、S210の判定がNOとなり、S212,213において外気温度が検出され、ポンプモータに加わる負荷が検出される。ポンプモータ76に加わる負荷は、ブレーキシリンダ液圧、すなち、マスタシリンダ液圧とポンプ74による助勢圧ΔPとの和に基づいて取得される。ポンプ74による助勢圧は、前述の図8の関係に従って圧力制御弁70への供給電流に基づいて取得することができる。ブレーキシリンダ液圧が高いと負荷が大きい(吐出圧が大きい)と推定することができる。
温度と負荷(吐出圧)とが求められれば、S214において、図14のマップで表されるテーブルに従って、デューティ比が決定される。直流電動モータにおいては、負荷が大きくなるほど回転速度が直線的に減少するのであるが、その勾配が、高温時には低温時より急となる。これは、巻き線抵抗が温度が高いと大きくなり、磁束が小さくなるため、図のように、変化するのである。そこで、本実施形態においては、温度が高くても低くても常温と同様の回転速度が得られるように、デューティ比が決定される。すなわち、負荷が小さい場合には、高温時にはデューティ比を小さくし、低温時には大きくする。負荷が大きい場合には、逆に、高温時に大きくし、低温時に小さくするのである((D) の場合)。
【0048】
また、アンチロック制御中であって、効き特性制御中でない場合には、S201の判定がYES,S202の判定がNOとなり、S209において、デューティ比が第1設定値とされる((E) の場合)。効き特性制御が行われていないため、流入制御弁132は閉状態に保たれる。リザーバ108の作動液が汲み上げられてブレーキシリンダ56に供給され、増圧される。
アンチロック制御も効き特性制御も行われていない場合には、S201,203の判定がNOとなり、S211において、デューティ比が0とされ、ポンプモータ76が停止させられる。
【0049】
このように、効き特性制御とアンチロック制御との両方が行われている場合において、ポンプ74の要求吐出量が大きい場合にデューティ比が第1設定値より大きい第2設定値とされるため、リザーバ108の作動液収容能力が設定能力以下になることを回避し、減圧不能になることを回避することができる。また、それ以外の場合には、第1設定値にされるため、常に第2設定値とされる場合に比較して、加圧装置78における消費エネルギを少なくすることができる。
また、効き特性制御中であってアンチロック制御中でない場合には、車両が停止状態にある場合にポンプモータ76が停止させられる。前述のように、流入制御弁132が閉状態にされるため、ポンプモータ76を停止させても差し支えないのであり、無駄な消費エネルギを少なくすることができる。さらに、ポンプ74の吐出量がポンプ温度が常温である場合に沿って変化させられるように、デューティ比が決定されるため、温度の変化に起因する吐出量のバラツキを抑制することができ、良好に効き特性制御を行うことが可能となる。
【0050】
なお、上記実施形態においては、(D) の場合においては、負荷と温度とに基づいてデューティ比が決定されたか、電圧に基づいて決定されるようにすることもできる。モータにおいては、負荷が同じ場合には、電圧が高い場合は低い場合より、回転数が大きくなるため、電圧が高い場合にデューティ比を小さくし、電圧が低い場合に大きくすれば、電圧のバラツキに起因する回転数のバラツキを抑制し、ポンプ74の吐出量のバラツキを抑制することができる。
また、(E) の場合(アンチロック制御のみが行われる場合)においては、デューティ比が、S209において、第1設定値とされたが、S204〜206が実行されるようにすることもできる。すなわち、効き特性制御が行われていなくても、リザーバ108の作動液収容能力を高くする場合等には、第2設定値にするのである。
【0051】
さらに、アンチロック制御時には、デューティ比は第1設定値と第2設定値とのいずれかの値とされたが、第1設定値と第2設定値との少なくとも一方を、可変値とすることができる。例えば、第2設定値を、悪路の程度,車輪減速度の大きさ等に基づいて決定された値とすることができる。また、第1設定値を、ポンプモータ76の負荷と温度とに基づいて決定された値としたり、電圧検出装置206によって検出される電圧に基づいて決定された値としたりすることができる。
また、S207の判定、すなわち、モータ起動時から設定時間以内であるか否かの判定は、アンチロック制御のみが行われている場合(S201の判定がYES,S202の判定がNO)、効き特性制御時御のみが行われている場合(S201の判定がNO,S202の判定がYES)においても行われるようにしてもよい。
【0052】
以上のように、本実施形態によれば、車輪速センサ204,駆動回路216,液圧制御装置180の図10のフローチャートで表される流入制御弁制御ルーチンを記憶する部分,実行する部分等により電磁供給制御弁制御装置が構成される。そのうちの、車輪速センサ204,液圧制御装置180のS101,102,108,105を実行する部分等により、請求項1の電磁供給制御弁制御装置(停止中電磁供給制御弁制御装置)が構成され、図15のフローチャートで表される流入制御弁制御ルーチンのS101,102,133,134を実行する部分等により、請求項2の電磁供給制御弁装置(アンチロック制御時電磁供給制御弁制御装置)が構成される。また、S133を実行する部分等により、作動液量推定部が構成される。さらに、モータコントローラ208,液圧制御装置180の図12のデューティ比決定ルーチンを記憶する部分,実行する部分等により、ポンプモータ制御部が構成される。
【0053】
なお、ブレーキ装置の構造は、上記実施形態におけるそれに限らず、他の構造のものとすることもできる。例えば、流入制御弁132,142の少なくとも一方は、供給電流に応じた流量で作動液の流れを許容する電磁流量制御弁とすることができる。電磁流量制御弁とした場合には、供給電流を低減させることによって、作動液の流れを減少させる向きに制御しても、ソレノイドの過熱を阻止することができる。作動液供給通路130,140の作動液の流れを阻止するより、許容した状態の方が、振動を抑制し、発生させられる音を低減させることができる。また、圧力制御弁70を単なる電磁開閉弁とすることもできる。この場合には、電磁開閉弁を開状態と閉状態とに切り換えることによって、ブレーキシリンダ56の液圧を制御することができる。また、ポンプモータ76の制御と流入制御弁132の制御との両方を行うことは不可欠ではなく、いずれか一方の制御のみでもよい。その場合においても、ブレーキ装置における消費エネルギを少なくすることができる。さらに、アンチロック制御が行われることも不可欠ではない。また、効き特性制御中であって、車両が停止状態にある場合には、常に、流入制御弁132を閉状態に保つことは不可欠ではなく、ブレーキ操作量が増加させられた場合には、開状態に切り換えることも可能である。その他、〔発明が解決しようとする課題,課題解決手段および効果〕の項に記載の態様を始めとして、当業者の知識に基づいて種々の変更,改良を施した態様で実施することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の一実施形態であるブレーキ装置を示す回路図である。
【図2】上記ブレーキ装置に含まれる圧力制御弁を示す概念図である。
【図3】上記圧力制御弁への供給電流とソレノイド吸引力との関係を示す図である。
【図4】上記ブレーキ装置に含まれる液圧制御装置周辺を表す図である。
【図5】上記液圧制御装置のROMに格納された効き特性制御プログラムを表すフローチャートである。
【図6】上記液圧制御装置によって制御されるブレーキ操作力とブレーキシリンダ液圧との関係を示す図である。
【図7】上記液圧制御装置において制御されるマスタシリンダ液圧と助勢力(目標差圧)との関係を示す図である。
【図8】上記液圧制御装置において制御される圧力制御弁への供給電流Iと目標差圧との関係を示す図である。
【図9】上記液圧制御装置のROMに格納されたアンチロック制御プログラムを表すフローチャートである。
【図10】上記液圧制御装置のROMに格納された流入制御弁制御プログラムを表すフローチャートである。
【図11】上記流入制御弁制御プログラムを実行することによって制御される流入制御弁のON/OFFと制御状態との関係を示す図である。
【図12】上記液圧制御装置のROMに格納されたデューティ比決定プログラムを表すフローチャートである。
【図13】上記デューティ比決定プログラムを実行することによって決定されるデューティ比と制御状態との関係を示す図である。
【図14】上記ブレーキ装置に含まれるポンプモータにおける負荷と回転数との関係を示す図である。
【図15】本発明の別の一実施形態であるブレーキ装置の液圧制御装置のROMに含まれる流入制御弁制御ルーチンを表すフローチャートである。
【符号の説明】
12 マスタシリンダ
56 ブレーキシリンダ
70 圧力制御弁
74 ポンプ
76 ポンプモータ
78 加圧装置
108 リザーバ
110 減圧弁
132 流入制御弁
180 液圧制御装置
Claims (5)
- 液圧によりブレーキを作動させるブレーキシリンダと、
ブレーキ操作部材の操作量に応じた液圧を発生させるマスタシリンダと、
そのマスタシリンダの作動液を加圧して前記ブレーキシリンダに供給するポンプを備えたポンプ装置を含む増圧装置と、
前記マスタシリンダと前記ブレーキシリンダとを接続する主液通路の前記ポンプの吐出側が接続された部分よりマスタシリンダ側に設けられた電磁液圧制御弁と、前記ブレーキシリンダの液圧が、車両が走行状態にある場合も停止状態にある場合も、前記ブレーキ操作部材の操作力が予め定められた設定倍力率で倍力されることによって得られる制動力に対応する液圧となるように前記電磁液圧制御弁を制御する倍力制御部とを含む装置と、
前記ポンプ装置の吸入側と前記マスタシリンダとの間に設けられ、電気エネルギが供給されている間は、これらマスタシリンダと前記ポンプ装置とを連通させてポンプ装置にマスタシリンダの作動液を供給する供給状態にあり、電気エネルギが供給されない間は、これらを遮断して前記ポンプ装置への作動液の供給を阻止する供給阻止状態にある電磁供給制御弁と、
前記倍力制御部による前記ブレーキシリンダの液圧の倍力制御中であり、かつ、当該ブレーキ装置が搭載された車両が停止状態にある場合に、前記電磁供給制御弁への電気エネルギの供給を低減させて、電磁供給制御弁を、作動液の供給が減少する向きに制御する電磁供給制御弁制御装置と
を含むことを特徴とするブレーキ装置。 - 前記電磁供給制御弁制御装置が、前記車両が停止状態にあって、かつ、前記ブレーキ操作部材の操作量が増加させられない場合に前記電磁供給制御弁を供給阻止状態に保つ停止中条件付供給阻止状態保持部を含む請求項1に記載のブレーキ装置。
- 液圧によりブレーキを作動させるブレーキシリンダと、
ブレーキ操作部材の操作量に応じた液圧を発生させるマスタシリンダと、
そのマスタシリンダから供給される作動液を加圧してブレーキシリンダに供給可能なポンプ装置と、
前記マスタシリンダと前記ポンプ装置の吸入側との間に設けられ、これらマスタシリンダとポンプ装置とを連通させてポンプ装置にマスタシリンダの作動液を供給する供給状態と、これらを遮断してポンプ装置へのマスタシリンダの作動液の供給を阻止する供給阻止状態とに切り換えられる電磁供給制御弁と、
予め定められたアンチロック制御開始条件が満たされた場合に、前記ブレーキシリンダの液圧を制御し、そのブレーキシリンダに対応する車輪の制動スリップ状態を適正状態に保つアンチロック制御装置と、
そのアンチロック制御装置と前記ポンプ装置の吸入側との間に接続され、前記アンチロック制御装置の制御により前記ブレーキシリンダから流出させられた作動液を収容するアンチロック減圧用リザーバと、
前記ブレーキシリンダの液圧が前記マスタシリンダの液圧より高い状態における前記アンチロック制御装置による制御中であって、かつ、減圧制御が終了してからの経過時間が設定時間以内である場合に、前記アンチロック減圧用リザーバの容量から前記アンチロック減圧用リザーバに収容された作動液量を引いた値である作動液収容容量が、少なくとも1回の減圧制御によってブレーキシリンダから流出させられる作動液を収容し得る容量より少ないとして、前記電磁供給制御弁を供給阻止状態に切り換える電磁供給制御弁制御装置と
を含むことを特徴とするブレーキ装置。 - 液圧によりブレーキを作動させるブレーキシリンダと、
ブレーキ操作部材の操作量に応じた液圧を発生させるマスタシリンダと、
そのマスタシリンダから供給される作動液を加圧してブレーキシリンダに供給可能なポンプ装置と、
前記マスタシリンダと前記ポンプ装置の吸入側との間に設けられ、これらマスタシリンダとポンプ装置とを連通させてポンプ装置にマスタシリンダの作動液を供給する供給状態と、これらを遮断してポンプ装置へのマスタシリンダの作動液の供給を阻止する供給阻止状態とに切り換えられる電磁供給制御弁と、
予め定められたアンチロック制御開始条件が満たされた場合に、前記ブレーキシリンダの液圧を制御し、そのブレーキシリンダに対応する車輪の制動スリップ状態を適正状態に保つアンチロック制御装置と、
そのアンチロック制御装置と前記ポンプ装置の吸入側との間に接続され、前記アンチロック制御装置の制御により前記ブレーキシリンダから流出させられた作動液を収容するアンチロック減圧用リザーバと、
前記ブレーキシリンダの液圧が前記マスタシリンダの液圧より高い状態における前記アンチロック制御装置による制御中であって、かつ、悪路走行中である場合に、前記電磁供給制御弁を供給阻止状態に切り換える電磁供給制御弁制御装置と
を含むことを特徴とするブレーキ装置。 - 前記ポンプ装置が、供給された作動液を加圧するポンプと、そのポンプを駆動するポンプモータとを含み、当該ブレーキ装置が、要求ポンプ吐出量と要求ポンプ吐出圧との少なくとも一方に基づいて前記ポンプモータへの供給電流のデューティ比を制御するポンプモータ制御部を含むことを特徴とする請求項1ないし4のいずれか1つに記載のブレーキ装置。
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