JP3878262B2 - スパークプラグ - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は内燃機関に使用されるスパークプラグに関する。
【0002】
【従来の技術】
従来、自動車エンジン等の内燃機関用のスパークプラグとして、耐火花消耗性向上のために電極の先端にPt(白金)合金のチップを溶接して発火部を形成したものが使用されているが、白金は高価であるためチップ材料として安価なIr(イリジウム)を使用する提案がなされている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
上述のプラグにおいてチップをIrで構成した場合、Irは900〜1000℃の高温域において酸化・揮発しやすい性質を有しているため、そのまま電極発火部に使用すると、火花消耗よりも酸化・揮発による消耗が問題となる欠点がある。従って、市街地走行のような温度の低い条件であれば耐久性はよいが、高速連続運転の場合には、耐久性が極端に低下してしまう問題があった。一方、これとは別の問題として、Irは常温及び高温のいずれにおいても延性あるいは展性に乏しいことから、発火部を形成するためのチップを鍛造、圧延あるいは打抜き等の加工により製造しようとすると、材料歩留まりと製造能率が低下して量産性が悪化する欠点がある。
【0004】
例えば、前述のチップの耐久性を改善するための一手段としては、適当な金属成分を合金に添加してIrの酸化・揮発による消耗を抑さえることが考えられるが、合金の加工性については必ずしも改善されなかったり、添加元素の種類によっては加工性が一層悪化することもありうる。また、加工性の問題を回避するために、焼結法によりチップを製造する提案がなされているが(例えば特開昭61−88479号公報)、焼結合金製のチップは溶解合金製のチップに比べると耐久性に劣る欠点がある。このように、Ir系のチップを使用したプラグにおいて、チップの耐久性と量産性の双方に優れたものは未だ開発されておらず、該プラグの普及を妨げる大きな原因となっている。
【0005】
本発明の課題は、Irを主体に構成されつつも、高温でのIr成分の酸化・揮発による消耗が起こりにくく、しかも加工性に優れた材料により発火部が構成されたスパークプラグを提供することにある。
【0006】
【課題を解決するための手段及び作用・効果】
上述の課題を解決するために本発明のスパークプラグは、中心電極と、その中心電極の外側に設けられた絶縁体と、一方の端部側から中心電極を突出させた状態で、絶縁体の外側に設けられた主体金具と、その主体金具に一端が結合され、他端側が中心電極と対向するように配置された接地電極と、それら中心電極と接地電極との少なくとも一方に固着されて火花放電ギャップを形成する発火部とを備え、その発火部が、Irを主体としてRhを3〜49.5重量%の範囲で含有し、さらにWを0.5〜12重量%の範囲で含有した合金により構成されたことを特徴とする。
【0007】
本発明者は、火花放電ギャップを形成する発火部を、Irを主体として上記範囲のRhを含有する合金により構成することで、高温でのIr成分の酸化・揮発による消耗が効果的に抑制されるとともに、合金がさらに上記範囲のWを含有することにより、その加工性が劇的に改善されることを見い出したのである。これにより、Ir系金属で発火部を構成した従来のスパークプラグの問題点がことごとく解決され、ひいては発火部の構成材料としてIrを主成分とする金属を使用しつつも、その耐久性(特に高速走行時の耐久性)と量産性の双方に優れたスパークプラグを実現することができる。
【0008】
なお、上記発火部は、表記組成の金属からなるチップを、接地電極及び/又は中心電極に対し溶接により接合して形成することができる。この場合、本明細書でいう「発火部」とは、接合されたチップのうち、溶接による組成変動の影響を受けていない部分(例えば、溶接により接地電極ないし中心電極の材料と合金化した部分を除く残余の部分)を指すものとする。
【0009】
この場合、チップは、原料を所定の組成となるように配合・溶解して得られる溶解合金に対し所定の加工を施して得られる加工材で構成することができる。なお、ここでいう「加工」とは、圧延、鍛造、引き抜き、切削、切断及び打抜きの少なくともいずれかの工程を含んで行われるものを意味するものとする。この場合、圧延、鍛造、あるいは打抜き等の加工は、合金を所定の温度に昇温して行ういわゆる熱間加工(あるいは温間加工)により行うことができる。その加工温度は合金組成にもよるが、例えば700℃以上とするのがよい。本発明のスパークプラグにおけるチップ材質においては、とりわけ熱間打抜き加工に対する特性が良好であり、例えば溶解合金を熱間圧延により板状に加工し、さらにその板材を熱間打抜き加工により所定の形状に打ち抜いてチップを形成するようにすれば、チップの製造効率が著しく改善され、チップの製造単価を大幅に低減することができる。なお、溶解合金を熱間圧延又は熱間鍛造により線状あるいはロッド状に加工した後、これを長さ方向に所定長に切断してチップを形成する方法も可能である。
【0010】
合金中のWの含有量が0.5重量%未満になると、合金の加工性改善効果が十分に達成できなくなり、例えば加工中に割れやクラックなどが生じやすくなって、チップを製造する際の材料歩留まりの低下につながる。また、熱間打抜き加工等によりチップを製造する場合は、打抜き刃等の工具の消耗あるいは損傷が生じやすくなり、製造効率が低下する。一方、12重量%を超えると加工性は却って悪化し、同様に材料歩留まりの低下や製造効率の悪化につながる。それ故、Rhの含有量は前述の範囲で調整するのがよく、望ましくは2〜9重量%の範囲で調整するのがよい。なお、最適のW含有量はRhの含有量によって変化し、Rh含有量が18重量%未満ではW含有量は1.5〜9.5重量%とするのがよく、また、Rh含有量が18〜23重量%ではW含有量は0.5〜9.5重量%とするのがよく、さらにRh含有量が23重量%以上の場合はW含有量は0.5〜12重量%とするのがよい。
【0011】
次に、合金中のRhの含有量が3重量%未満になるとIrの酸化・揮発の抑制効果が不十分となり、チップが消耗しやすくなるためプラグの耐久性が低下する。この場合、チップの消耗が起きる場所としては、チップの先端面部分が第一に挙げられるが、Rh含有量が減少するとチップの側面部でも消耗が進行することがある。このような状況になると、火花放電のためのチップの通電断面積が減少する結果、チップの先端面部に電界が集中しやすくなり、消耗が加速度的に進行してプラグの寿命が急速に尽きてしまうことにもつながる。従って、Rhの含有量の調整は、チップの先端面部だけでなく、側面部における消耗もなるべく生じにくい範囲を選定することが望ましいといえる。一方、Rhの含有量が49.5重量%を超えると合金の融点が低下し、プラグの耐久性が同様に低下する。以上のことから、Rhの含有量は前述の範囲で調整するのがよく、望ましくは7〜30重量%、より望ましくは15〜25重量%、最も望ましくは18〜22重量%の範囲で調整するのがよい。
【0012】
【発明の実施の形態】
以下、本発明のいくつかの実施の形態を図面を用いて説明する。
図1に示す本発明の一例たるスパークプラグ100は、筒状の主体金具1、先端部21が突出するようにその主体金具1の内側に嵌め込まれた絶縁体2、先端に形成された発火部31を突出させた状態で絶縁体2の内側に設けられた中心電極3、及び主体金具1に一端が溶接等により結合されるとともに他端側が側方に曲げ返されて、その側面が中心電極3の先端部と対向するように配置された接地電極4等を備えている。また、接地電極4には上記発火部31に対向する発火部32が形成されており、それら発火部31と、対向する発火部32との間の隙間が火花放電ギャップgとされている。
【0013】
絶縁体2は、例えばアルミナあるいは窒化アルミニウム等のセラミック焼結体により構成され、その内部には自身の軸方向に沿って中心電極3を嵌め込むための孔部6を有している。また、主体金具1は、低炭素鋼等の金属により円筒状に形成されており、スパークプラグ100のハウジングを構成するとともに、その外周面には、プラグ100を図示しないエンジンブロックに取り付けるためのねじ部7が形成されている。
【0014】
次に、中心電極3及び接地電極4の本体部3a及び4aはNi合金等で構成されている。一方、上記発火部31及び対向する発火部32は、Rhを3〜49.5重量%、望ましくは7〜30重量%、より望ましくは15〜25重量%、最も望ましくは18〜22重量%の範囲で含有し、さらにWを0.5〜12重量%、望ましくは2〜9重量%の範囲で含有する合金により構成される。
【0015】
図2に示すように、中心電極3の本体部3aは先端側が縮径されるとともにその先端面が平坦に構成され、ここに上記発火部を構成する合金組成からなる円板状のチップを重ね合わせ、さらにその接合面外縁部に沿ってレーザー溶接、電子ビーム溶接、抵抗溶接等により溶接部Bを形成してこれを固着することにより発火部31が形成される。また、対向する発火部32は、発火部31に対応する位置において接地電極4にチップを位置合わせし、その接合面外縁部に沿って同様に溶接部Bを形成してこれを固着することにより形成される。なお、発火部31及び対向する発火部32のいずれか一方を省略する構成としてもよい。この場合には、発火部31又は対向する発火部32と接地電極4又は中心電極3との間で火花放電ギャップgが形成される。これらチップは、例えば表記組成となるように各合金成分を配合・溶解することにより得られる溶解合金を熱間圧延により板状に加工し、その板材を熱間打抜き加工により所定のチップ形状に打ち抜いて形成されたものが使用されている。なお、チップは、合金を熱間圧延又は熱間鍛造により線状あるいはロッド状に加工した後、これを長さ方向に所定長に切断して形成したものを使用してもよい。
【0016】
以下、スパークプラグ100の作用について説明する。すなわち、スパークプラグ100は、そのねじ部7においてエンジンブロックに取り付けられ、燃焼室に供給される混合気への着火源として使用される。ここで、その火花放電ギャップgを形成する発火部31及び対向する発火部32が前述の合金で構成されることで、Irの酸化・揮発による発火部の消耗が抑制されるので、長期に渡って火花放電gが拡大せず、プラグ100の寿命を伸ばすことができる。また、合金組成が前述の範囲に設定されることで、発火部31及び32を構成するチップを熱間圧延及び熱間打抜きにより極めて能率よく製造できる。
【0017】
【実施例】
(実施例1)
所定量のIr、Rh及びWを配合・溶解することにより、Rhを15、20及び25重量%の各比率で含有し、さらにWを0〜13重量%(0重量%及び13重量%は比較例)の各種比率で含有して、残部が実質的にIrである合金を作製した。この合金に対し熱間圧延(温度700℃以上)を施して、これを厚さ0.5mmの板材に加工した。なお、圧延中は試料温度が常に700℃以上に保持されるよう、一定パス毎に所定の炉を用いて試料を加熱した。次いで、上記得られた板材を700℃以上に保持し、その状態で所定の金型により直径0.7mm、厚さ0.5mmの円板状のチップを打ち抜く加工を連続して行った。そして、打抜きを1000回以上繰り返しても正常に打抜きが行えたものを「○」、800回程度でチップに割れや欠けが生じたり金型に損傷が生じたものを「△」、100回未満でチップに割れや欠けが生じたり金型に損傷が生じたものを「×」として評価した。結果を表1に示す。
【0018】
【表1】
【0019】
チップ材料として、Wの含有量が本発明の請求項の範囲内である合金を使用した場合は、その熱間打抜き加工性が良好であることがわかる。
【0020】
次に、表記各組成の合金のうち、Ir−15重量%Rh−9重量%W、及びIr−25重量%Rh−11重量%Wの2種類と、比較例としてRh及びWを含有しないIr金属を用いて、これを前述と同様の熱間圧延及び打抜き加工により直径0.7mm、厚さ0.5mmの円板状の試験片に加工し、さらに大気中にて1100℃で20時間保持した後、各試験片の重量減少を測定した。その結果を図3に示す。すなわち、Rh及びWを表記組成で含有する合金の試験片についてはIrの酸化揮発が抑制されるので、比較例の試験片に比べてその重量減少が小さくなっていることがわかる。このことは、そのような合金でスパークプラグのチップを作製すれば、プラグの温度が上昇する高速・高負荷運転状態においてもチップの消耗が抑制され、プラグの耐久性が高められることを示唆するものである。
【0021】
(実施例2)
所定量のIr、Rh及びWを配合・溶解することにより、Wを6重量%、Rhを0〜60重量%の各種比率で含有し残部が実質的にIrで構成された合金(ただし、Rh=0及び60重量%は比較例)を用意し、これを用いて実施例1と同様の熱間圧延及び打抜き加工により、直径0.7mm、厚さ0.5mmの円板状のチップを作製した。なお、比較例として、Pt−13重量%Ir溶解合金を用いたチップも作製した。それらチップを用いて、図1に示すスパークプラグ100の発火部31及び対向する発火部32を形成するとともに(火花放電ギャップgの幅1.1mm)、各プラグの性能試験を以下の条件にて行った。
条件A(連続高速運転を想定):6気筒ガソリンエンジン(排気量3000cc)にそれらプラグを取り付け、スロットル全開状態、エンジン回転数6000rpmにて300時間連続運転し(中心電極温度約900℃)、運転終了後のプラグの火花放電ギャップgの拡大量を測定した。図4は、その結果を、合金中のRhの含有量と火花放電ギャップ増加量との関係で示したものである。
条件B(市街地運転を想定):4気筒ガソリンエンジン(排気量2000cc)にそれらプラグを取り付け、アイドリング1分→エンジン回転数3500rpm、全開状態で30分→エンジン回転数2000rpm、半開状態で20分を1サイクルとして、1000時間運転し(中心電極温度約780℃)、運転終了後のプラグの火花放電ギャップgの拡大量を測定した。図5は、その結果を、合金中のRhの含有量と火花放電ギャップ増加量との関係で示したものである。
【0022】
条件Bにおいては、チップの合金組成範囲が本発明の範囲に属するプラグについては、火花放電ギャップgの増加が小さいのに対し、比較例(Rh60重量%以上、及びPt−Ir合金)のプラグは火花放電ギャップが著しく拡大していることがわかる。また、それよりも高負荷の条件Aにおいては、実施例と比較例との間における火花放電ギャップ増加量の差がさらに顕著となっている。また、Rhの含有量範囲が3〜40重量%から7〜30重量%へ、さらには15〜25重量%へと変化するに伴い、ギャップ増加量が段階的に減少しており、特にRh含有量が15〜25重量%であるチップを使用したプラグにおいては、厳しい運転条件にも拘わらず、非常に良好な耐久性を示していることがわかる。
【0023】
(実施例3)
所定量のIr、Rh及びWを配合・溶解することにより、Wを6重量%、Rhを15、18、20、22及び25重量%の各比率でそれぞれ含有し、残部が実質的にIrで構成された合金を用意し、これをチップ材料として用いて実施例1と同様のプラグを作製した。そして、これらプラグに対し実施例1の条件Aよりもさらに厳しい下記条件Cにて性能試験を行った。
条件C:4気筒ガソリンエンジン(排気量1600cc)にそれらプラグを取り付け、スロットル全開状態、エンジン回転数6250rpmにて300時間連続運転し(中心電極温度約950℃)、運転終了後のプラグの火花放電ギャップgの拡大量を測定した。図6は、その結果を、合金中のRhの含有量と火花放電ギャップ増加量との関係で示したものである。
【0024】
該結果によれば、Rhの含有量範囲が18〜22重量%であるチップを使用したプラグにおいては、Rh含有量が該範囲外にあるチップを使用したものに比べて、条件Bよりさらに厳しい条件Cにおいてもギャップ増加量が小さく、より良好な耐久性を示していることがわかる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明のスパークプラグを示す正面部分断面図。
【図2】その要部を示す拡大断面図。
【図3】実施例の各試験片の酸化による重量減少の値を示すグラフ。
【図4】発火部を構成する合金中のRh含有量と、火花放電ギャップの拡大量との関係を示すグラフ(実施例2:条件A)。
【図5】発火部を構成する合金中のRh含有量と、火花放電ギャップの拡大量との関係を示すグラフ(実施例2:条件B)。
【図6】発火部を構成する合金中のRh含有量と、火花放電ギャップの拡大量との関係を示すグラフ(実施例3:条件C)。
【符号の説明】
1 主体金具
2 絶縁体
3 中心電極
4 接地電極
31 発火部(チップ)
32 対向する発火部(チップ)
g 火花放電ギャップ
Claims (6)
- 中心電極と、その中心電極の外側に設けられた絶縁体と、前記絶縁体の外側に設けられた主体金具と、その主体金具に一端が結合され、他端側が前記中心電極と対向するように配置された接地電極と、それら中心電極と接地電極との少なくとも一方に固着されて火花放電ギャップを形成する発火部とを備え、
その発火部が、Irを主体としてRhを3〜49.5重量%の範囲で含有し、さらにWを0.5〜12重量%の範囲で含有した合金により構成されることを特徴とするスパークプラグ。 - 前記発火部を構成する合金は、Wを2〜9重量%の範囲で含有する請求項1記載のスパークプラグ。
- 前記発火部を構成する合金は、Rhを7〜30重量%の範囲で含有する請求項1又は2に記載のスパークプラグ。
- 前記発火部を構成する合金は、Rhを15〜25重量%の範囲で含有する請求項1又は2に記載のスパークプラグ。
- 前記発火部を構成する合金は、Rhを18〜22重量%の範囲で含有する請求項1又は2に記載のスパークプラグ。
- 前記発火部は、原料を所定の組成となるように配合・溶解して得られる溶解合金に対し、圧延、鍛造、引き抜き、切削、切断及び打抜きの少なくともいずれかの工程を含む加工を施して得られる加工材により形成されたものである請求項1ないし5のいずれかに記載のスパークプラグ。
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