JP3877811B2 - 9%Ni鋼サブマージアーク溶接用焼結型フラックス - Google Patents
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【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、液化天然ガスのように極低温液体用貯蔵タンクの建造材料等に使用される9%Ni鋼サブマージアーク溶接用焼結型フラックスに関し、特に、−196℃という極低温においても強度及び低温靱性が良好であると共に、水平隅肉溶接及び横向多層溶接時の作業性を向上させることができる9%Ni鋼サブマージアーク溶接用焼結型フラックスに関する。
【0002】
【従来の技術】
従来、極低温液体用貯蔵タンクの建造材料等として使用される9%Ni鋼の溶接においては、高温割れを防止するために、比較的低入熱で溶接する被覆アーク溶接法及び半自動溶接法が適用されていた。しかしながら、近時、耐高温割れ性が優れたワイヤが開発されているため、溶接建造物の施工能率を向上させるために、サブマージアーク溶接の適用が増加している。このように、サブマージアーク溶接により極低温用の建造材料等を溶接する場合、得られる溶接金属は母材と同等の優れた強度及び低温靱性を有することが必要であり、そのようなサブマージアーク溶接に使用されるフラックスについても種々研究が行われている。その中でも特に、フラックス中の金属フッ化物、Al及び希土類元素の含有量を適切に規定することにより、再熱ミクロ割れ性の改善を図ったフラックスが提案されている(特開昭58−110192号公報)。
【0003】
また、原料粉として溶融型フラックスを50乃至90重量%含有する焼成型フラックスにおいて、CaF2:30乃至70重量%、CaO及びMgOのいずれか1種又は2種の合計:8乃至30重量%、Al2O3:10乃至30重量%及びAl:2乃至8重量%を含有し、SiO2を5重量%以下に規制すると共に、Siを実質的に含有しないNi合金鋼のサブマージアーク溶接用焼成型フラックスも開示されている(特開昭60−127095号公報)。これは、フラックス組成を上記範囲に規制することにより、耐X線欠陥特性及びビード外観の向上を図ったものである。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、これらの従来の技術により溶接金属の性能を向上させることはできるが、これと同様に重要視される溶接作業性、特に、水平隅肉溶接及び横向多層溶接時におけるスラグ剥離性及びビードの平滑性を向上させることはできないという問題点がある。即ち、溶接金属の性能向上と溶接作業性との双方を十分に満足することができるようなサブマージアーク溶接用のフラックスは、未だ開発されていない。
【0005】
本発明はかかる問題点に鑑みてなされたものであって、良好な低温靱性を有する溶接金属を得ることができると共に、優れたスラグ剥離性及びビードの平滑性を得ることができる9%Ni鋼サブマージアーク溶接用焼結型フラックスを提供することを目的とする。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明に係る9%Ni鋼サブマージアーク溶接用焼結型フラックスは、フラックス全重量あたり溶融型フラックスを30乃至60重量%含有する9%Ni鋼サブマージアーク溶接用焼結型フラックスにおいて、フラックス全重量あたり、SiO2:5乃至15重量%、CaF2:20乃至40重量%、Al2O3:10乃至30重量%、CaO:5乃至20重量%、Si:0.1乃至5重量%、希土類元素:0.1乃至1重量%並びに金属単体、合金及び混合物から添加されるAl及びCaのうちの1種又は2種の合計:1乃至5重量%を含有し、前記溶融型フラックスは、溶融型フラックス全重量あたりSiO2:5乃至30重量%、CaF2:20乃至50重量%、Al2O3:20乃至40重量%及びCaO:15乃至25重量%を含有するものであり、水ガラスを添加して造粒し、焼結された後のフラックス嵩密度が0.80乃至1.20g/cm3であることを特徴とする。
【0007】
この9%Ni鋼サブマージアーク溶接用焼結型フラックスは、更に、前記CaF2を除く金属フッ化物をフッ素換算値で2乃至5重量%含有することが好ましく、金属炭酸塩をCO2換算値で1乃至10重量%含有することが望ましい。
【0008】
【発明の実施の形態】
極低温において使用される9%Ni鋼等の低温鋼用のサブマージアーク溶接により得られる溶接金属は、母材と同等の性能、特に、低温靱性を有することが要求される。一般的に、溶接金属の低温靱性を向上させるためには、溶接金属中の酸素量及びSi量を低減することが有効であり、そのために、フラックス中の酸素及びSi量が低減されている。しかしながら、作業性の観点からは、フラックス中のSi及びSiO2は、スラグの剥離性を向上させると共に、スラグの粘性を高めてビード形状を良好にする効果を有しており、水平隅肉溶接及び横向多層溶接を実施する場合に特に重要な化学成分である。
【0009】
また、本願発明者等は、スラグの剥離性及びビード形状を良好にするためには、フラックスの嵩密度を低くすることが有効であることを見い出した。しかしながら、焼結型フラックスの嵩密度を低くすると、フラックスが粉化しやすくなるので、溶接時に散布したフラックスを回収して再利用する場合、フラックスの粒が壊れて細粒が激増し、作業性が低下してしまう。
【0010】
そこで、本願発明者等は、上記Si及びSiO2の効果を十分に得ることができ、更に、嵩密度が低いと共に、粉化しにくい焼結型フラックスを開発すべく、Si及びSiO2の添加量及び添加方法について種々研究を行った。その結果、CaF2−Al2O3−CaO−SiO2系からなる溶融型フラックスが原料粉として含有されている焼結型フラックスを使用することが有効であることを見い出した。即ち、このような焼結型フラックスを使用することにより、得られる溶接金属の低温靱性が良好であると共に、スラグ剥離性及び水平隅肉溶接時のビードの平滑性が優れており、嵩密度は低いが粉化しにくい焼結型フラックスを得ることができる。
【0011】
以下、本発明に係る9%Ni鋼サブマージアーク溶接用焼結型フラックスに含有される化学成分の組成限定理由について説明する。
【0012】
SiO 2 :5乃至15重量%
SiO2はスラグの粘性及び流動性を調整するために添加し、ビード形状の平滑性及びスラグ剥離性を良好にするために不可欠な成分である。フラックス中のSiO2がフラックス全重量あたり5重量%未満であると、その効果を十分に得ることができない。一方、フラックス中のSiO2が15重量%を超えると、スラグの焼き付きが発生すると共に、溶接金属の低温靱性の低下を引き起こしてしまう。従って、フラックス中のSiO2はフラックス全重量あたり5乃至15重量%とする。なお、このSiO2の大部分は、焼結型フラックスの原料粉とする溶融型フラックスから添加されるが、それ以外にも、珪砂及び珪灰石等からフラックス中に添加することができる。また、フラックス原料の造粒時に使用される水ガラス成分中のSiO2も含まれる。
【0013】
CaF 2 :20乃至40重量%
CaF2はアークを安定させると共に、スラグの粘性を高めてビード形状を良好にする効果を有する。また、フラックス中にCaF2を添加することにより、得られる溶接金属中の酸素量を低減して、靱性を向上させることができる。フラックス中のCaF2がフラックス全重量あたり20重量%未満であると、その効果を十分に得ることができない。一方、フラックス中のCaF2が40重量%を超えると、アークが不安定になり、スラグの流動性が悪くなるので、作業性が低下する。従って、フラックス中のCaF2はフラックス全重量あたり20乃至40重量%とする。なお、このCaF2の大部分は、焼結型フラックスの原料粉とする溶融型フラックスから添加されるが、それ以外にも、蛍石等としてフラックス中に添加することができる。
【0014】
Al 2 O 3 :10乃至30重量%
Al2O3はスラグ形成剤として作用するものであり、主に、スラグの流動性を調整すると共に、スラグの剥離性を良好にする効果を有する。フラックス中のAl2O3がフラックス全重量あたり10重量%未満であると、その効果を十分に得ることができない。一方、フラックス中のAl2O3が30重量%を超えると、スラグの流動性が過大となり、ビードの平滑性が劣化する。従って、フラックス中のAl2O3はフラックス全重量あたり10乃至30重量%とする。なお、このAl2O3の大部分は、焼結型フラックスの原料粉とする溶融型フラックスから添加されるが、それ以外にも、アルミナ等としてフラックス中に添加することができる。
【0015】
CaO:5乃至20重量%
CaOはスラグの塩基性を高めて、溶接金属の低温靱性を向上させる効果を有する成分である。フラックス中のCaOがフラックス全重量あたり5重量%未満であると、その効果を十分に得ることができない。一方、フラックス中のCaOが20重量%を超えると、スラグの剥離性が著しく低下する。従って、フラックス中のCaOはフラックス全重量あたり5乃至20重量%とする。なお、このCaOの大部分は、焼結型フラックスの原料粉とする溶融型フラックスから添加されるが、それ以外にも、珪灰石及び炭酸石灰等からフラックス中に添加することができる。
【0016】
Si:0.1乃至5重量%
Siは脱酸剤としてフラックス中に添加することにより、溶接金属の低温靱性を向上させることができる成分である。フラックス中のSiがフラックス全重量あたり0.1重量%未満であると、その効果を十分に得ることができない。一方、フラックス中のSiが5重量%を超えると、溶接金属中のSi含有量が過大となり、低温靱性が低下してしまう。従って、フラックス中のSiはフラックス全重量あたり0.1乃至5重量%とする。なお、このSiは単体としてフラックス中に添加される以外に、Fe−Si等の合金又はレアアースカルシウムシリコン等の混合物からフラックス中に添加することができる。
【0017】
希土類元素:0.1乃至1重量%
イットリウムその他の希土類元素、即ち、周期律表の3A族に属する元素は優れた脱硫効果を有し、フラックス中に添加することにより、溶接金属の耐高温割れ性を大きく向上させることができる。フラックス中の希土類元素がフラックス全重量あたり0.1重量%未満であると、その効果を十分に得ることができない。一方、フラックス中の希土類元素が1重量%を超えると、得られる溶接金属の低温靱性が著しく低下する。従って、フラックス中の希土類元素はフラックス全重量あたり0.1乃至1重量%とする。なお、この希土類元素は、単体としてイットリウム、ランタン及びセリウムの少なくとも1種からフラックス中に添加される以外に、レアアースカルシウムシリコン及びミッシュメタル等の混合物からフラックス中に添加することができる。
【0018】
Al及びCaのいずれか1種又は2種の合計:1乃至5重量%
Al及びCaは脱酸剤としてフラックス中に添加することにより、溶接金属中の酸素量を著しく低下させ、低温靱性を向上させることができる成分である。フラックス中のAl及びCaのいずれか1種又は2種の合計が、フラックス全重量あたり1重量%未満であると、その効果を十分に得ることができない。一方、フラックス中のAl及びCaのいずれか1種又は2種の合計が5重量%を超えると、延性が不足することにより、−196℃の極低温における靱性が低下する。従って、フラックス中のAl及びCaのいずれか1種又は2種の合計はフラックス全重量あたり1乃至5重量%とする。なお、このAlは、単体又はFe−Al合金等によりフラックス中に添加することができ、Caは単体又はレアアースカルシウムシリコン等の混合物によりフラックス中に添加することができる。
【0019】
溶融型フラックス:30乃至60重量%
溶融型フラックスは本発明に係る焼結型フラックスの原料粉として使用されるものであり、電気炉等で溶融した後、冷却して粉砕することにより得られるSiO2−CaF2−Al2O3−CaO系のフラックスである。このように、SiO2を一度溶解した後にフラックス中に添加することにより、溶接金属の低温靱性に悪影響を及ぼすSi及びOの溶接金属への歩留まりを抑制することができ、更に、スラグ剥離性並びに水平隅肉溶接及び横向多層溶接時のビード形状の平滑性を向上させることができる。また、この溶融型フラックスをフラックス中に添加することにより、アークを安定化して、フラックスの溶融を円滑にすることができる。
【0020】
焼結型フラックスの原料粉として使用される溶融型フラックスが、フラックス全重量あたり30重量%未満であると、その効果を十分に得ることができない。一方、溶融型フラックスの含有量が増加すると、これにより得られる造粒前のフラックス原料の嵩密度が高くなり、このフラックス原料に水ガラスを添加して造粒し、乾燥させた後の焼結型フラックスの嵩密度も必然的に高くなる。嵩密度が作業性に及ぼす影響については後述するが、良好な作業性を有する焼結型フラックスを得るためには、フラックス嵩密度を1.20(g/cm3)以下にする必要があり、フラックス全重量あたりの溶融型フラックスが60重量%を超えると、フラックス嵩密度を1.20(g/cm3)以下にすることができなくなる。従って、フラックス中の溶融型フラックスはフラックス全重量あたり30乃至60重量%とする。
【0021】
なお、溶融型フラックス中のSiO2、CaF2、Al2O3及びCaOの各成分が有する効果は前述の通りであり、作業性及び低温靱性を向上させるためには、溶融型フラックス中のSiO2は、溶融型フラックス全重量あたり5乃至30重量%とする。また、アークの安定性及びスラグの流動性を向上させるために、溶融型フラックス中のCaF2は、溶融型フラックス全重量あたり20乃至50重量%とする。更に、スラグの流動性及びスラグの剥離性を向上させるために、溶融型フラックス中のAl2O3は、溶融型フラックス全重量あたり20乃至40重量%とする。更にまた、スラグの塩基性とスラグの剥離性を高めるために、溶融型フラックス中のCaOは、溶融型フラックス全重量あたり15乃至25重量%とする。
【0022】
嵩密度:0.80乃至1.20(g/cm 3 )
溶融型フラックスを原料粉として得られた造粒前のフラックス原料に、水ガラスを添加して造粒した後、焼結することにより製造される焼結型フラックスの嵩密度は、1.20(g/cm3)以下に規制することにより、水平隅肉溶接及び横向多層溶接時のビード形状の平滑性を改善し、スラグ剥離性を良好にすることができる。一方、この嵩密度が0.80(g/cm3)よりも小さくなると、作業性は良好となるが、フラックスが粉化しやすくなり、この細粒化によりビードの平滑性が低下すると共に、スラグの焼き付きが発生する。従って、フラックス原料に水ガラスを添加して造粒した後、焼結することにより製造される焼結型フラックスの嵩密度は、0.80乃至1.20(g/cm3)とする。
【0023】
CaF 2 を除く金属フッ化物(フッ素換算値):2乃至5重量%
主に、溶融フラックス中に含有されるCaF2の効果については前述の通りであるが、フラックス中にフッ化物を添加することにより得られるアーク安定性及びビードのなじみ性の向上効果を十分に得るためには、単体の金属フッ化物をフラックス中に添加することが有効である。即ち、フラックス中に金属フッ化物を添加すると、アークを安定にすると共に、スラグに適度な粘性を与えてビード形状を良好にすることができる。
【0024】
フラックス中に金属フッ化物を添加する場合、このCaF2を除く金属フッ化物が、フッ素換算値で、フラックス全重量あたり2重量%未満であると、その効果を十分に得ることができない。一方、フラックス中のCaF2を除く金属フッ化物がフッ素換算値で5重量%を超えると、スラグの粘性が低下して、ビード形状が劣化する。従って、フラックス中に金属フッ化物を添加する場合、CaF2を除く金属フッ化物は、フッ素換算値で、フラックス全重量あたり2乃至5重量%とすることが好ましい。なお、この金属フッ化物とは、フッ化ナトリウム、フッ化バリウム、氷晶石及びフッ化アルミニウム等をいい、これらは、単独又は2種以上を組み合わせてフラックス中に添加することができる。
【0025】
金属炭酸塩(CO 2 換算値):1乃至10重量%
フラックス中に金属炭酸塩を添加すると、この金属炭酸塩は溶融分解してCO2ガスを発生し、アーク雰囲気中の水蒸気分圧を低下させるので、溶接金属中の水素量を低減することができると共に、スラグの塩基性を高めて溶接金属の低温靱性を向上させることができる。フラックス中に金属炭酸塩を添加する場合、この金属炭酸塩が、CO2換算値で、フラックス全重量あたり1重量%未満であると、その効果を十分に得ることができない。一方、フラックス中の金属炭酸塩がCO2換算値で10重量%を超えると、アークが不安定になり、ビード形状が悪化する。従って、フラックス中に金属炭酸塩を添加する場合、この金属炭酸塩は、CO2換算値で、フラックス全重量あたり1乃至10重量%とすることが好ましい。なお、この金属炭酸塩とは、炭酸マグネシウム、炭酸バリウム、炭酸ストロンチウム及び炭酸カルシウム等をいい、これらは、単独又は2種以上を組み合わせてフラックス中に添加することができる。
【0026】
このように、本発明においては、9%Ni鋼サブマージアーク溶接において使用する焼結型フラックスの組成を上記範囲に規定するが、この焼結型フラックスの特性を十分に発揮するためには、Ni基合金ワイヤとの組み合わせでサブマージアーク溶接することが望ましい。なお、Ni基合金ワイヤとは、Niを55重量%以上含有すると共に、合金成分として、Mo、Cr、Fe及びWを含有するワイヤをいう。
【0027】
【実施例】
以下、本発明に係る9%Ni鋼サブマージアーク溶接用焼結型フラックスの実施例についてその比較例と比較して具体的に説明する。
【0028】
先ず、フラックス原料を調製し、これに固着剤として水ガラスを添加して造粒した後、焼結することにより、下記表1乃至4に示す種々の化学組成を有するサブマージアーク溶接用焼結型フラックスを作製した。但し、各フラックス中の希土類元素としては、実施例No.1、3、8及び比較例No.13はミッシュメタル(La:Ce=1:1)を使用し、実施例No.2及び比較例No.18はイットリウムを使用した。また、実施例No.4〜7、比較例No.15及び16はレアアースカルシウムシリコンにより希土類元素を添加した。このレアアースカルシウムシリコン中の希土類元素はLa及びCeであり、これらの希土類元素の含有量はレアアースカルシウムシリコン全重量あたり20重量%である。また、実施例No.9、10及び比較例No.11はランタンを使用し、比較例No.12及び17はセリウムを使用した。
【0029】
次いで、下記表5及び6に示す化学組成を有する母材及びワイヤを使用して、下記表7に示す溶接条件で水平隅肉溶接及び横向多層溶接を実施した。
【0030】
図1(a)は水平隅肉溶接時に使用した溶接母材の形状及びサイズを示す正面図であり、(b)はその断面図である。図1に示すように、幅が70mm、長さが500mmで厚さが12mmである鋼板21及び22を使用して、鋼板21を水平に配置すると共に、その上表面に鋼板22の長手方向の端面を当てて配置し、T継手を形成した。そして、T継手の一方の隅部23に対して水平隅肉溶接を実施し、溶接金属24を形成した。
【0031】
図2は横向多層溶接時に使用した溶接母材の形状及びサイズを示す断面図であり、図3は横向多層溶接方法を示す模式図である。図2に示すように、厚さが20mmである鋼板25と、厚さが34mmである鋼板26とを準備し、鋼板26の端面26aを14mmの厚さで残して、45°の角度で端面26aの角部に切欠き27を形成した。そして、鋼板25を水平に配置すると共に、その上表面に鋼板26の端面26aを当てて配置し、レ型開先部28を有する継手を形成した。次いで、図3に示すように、レ型開先部28に対して、1パスで被覆アーク溶接を実施した後、15パスで横向多層溶接を実施し、溶接金属29を形成した。なお、図3において、溶接金属29中の数値は横向多層溶接の各パス毎に形成される溶接金属の積層順序を示している。
【0032】
その後、水平隅肉溶接により形成された溶接金属24については、ビード形状及びスラグの剥離性等の作業性を評価すると共に、横向多層溶接により形成された溶接金属29からシャルピー衝撃試験片を採取し、−196℃における低温靱性を評価した。図4は溶接金属29からの試験片の採取位置を示す模式図である。図4に示すように、横向多層溶接により形成された溶接金属29の表層部から試験片30を採取した。本実施例においては、中央部に溶接金属29、両端部に鋼板25と鋼板26が配置されるように試験片30を採取し、その中央部に深さが2mmのVノッチ30aを形成した。これらの評価結果を下記表8に示す。なお、図8に示す評価基準としては、非常に優れているものを◎、優れているものを○、実用上問題がないものを△、劣っているものを×とし、低温靱性の評価結果欄には、括弧内に衝撃値を記載した。
【0033】
【表1】
【0034】
【表2】
【0035】
【表3】
【0036】
【表4】
【0037】
【表5】
【0038】
【表6】
【0039】
【表7】
【0040】
【表8】
【0041】
上記表1乃至4及び8に示すように、実施例No.1乃至10はフラックス中の化学組成並びにこのフラックスの原料粉として使用される溶融型フラックスの添加量及び組成が適切に規制されていると共に、フラックスの嵩密度も規制されているので、溶接時のビード形状の平滑性、スラグ剥離性が良好であり、低温靱性が優れた溶接金属を得ることができた。
【0042】
一方、比較例No.11は溶融型フラックスの添加量が本発明範囲の上限を超えているので、嵩密度が本発明範囲の上限を超えている。また、フラックス中のCaF2及びAl2O3の含有量も本発明範囲の上限を超えているので、スラグの流動性が過剰になることにより、ビードの平滑性が劣化した。更に、金属単体又は合金としてのAl及びCaが添加されていないので、低温靱性が低下した。比較例No.12は溶融型フラックスの添加量が本発明範囲の下限未満であり、金属フッ化物については、本発明範囲の好ましい範囲を外れているので、ビード形状が劣化すると共に、スラグ焼付きによりスラグ剥離性も低下した。
【0043】
比較例No.13はフラックス中のSiO2、Si及び希土類元素の含有量が本発明範囲の上限を超えていると共に、CaF2含有量が本発明範囲の下限未満であり、また、溶融型フラックス中のSiO2及びCaF2の含有量も本発明の範囲から外れているので、スラグ剥離性が低下し、低温靱性も著しく劣化した。比較例No.14はフラックス中のSiO2、Si及び希土類元素の含有量が本発明範囲の下限未満であると共に、金属単体又は合金として添加されたAl及びCaの合計量が本発明範囲の上限を超えており、また、溶融型フラックス中のSiO2及びCaF2の含有量も本発明の範囲から外れているので、ビードの平滑性及びスラグの剥離性が低下し、低温靱性も劣化した。
【0044】
比較例No.15はフラックス中のCaO含有量が本発明範囲の下限未満であると共に、使用された溶融型フラックス中のAl2O3が本発明範囲の上限を超えており、また、溶融型フラックス中のCaOの含有量が本発明範囲の下限未満であるので、実施例と比較して、ビード形状の平滑性及び低温靱性が低いものとなった。比較例No.16はフラックス中のAl2O3の含有量が本発明範囲の下限未満であると共に、CaO含有量が本発明範囲の上限を超えており、また、溶融型フラックス中のAl2O3及びCaOの含有量も本発明の範囲から外れているので、スラグの剥離性及び低温靱性が劣化した。
【0045】
比較例No.17はフラックス嵩密度が本発明範囲の上限を超えているので、ビード形状の平滑性が低下し、ビードが凸状になるので、スラグ剥離性も若干劣ったものとなった。比較例No.18はフラックス嵩密度が本発明範囲の下限未満であるので、フラックスが粉化しやすくなり、繰り返し使用することにより作業性が劣化するので、実用には不適である。また、フラックス中の金属炭酸塩が本発明の好ましい範囲の上限を超えているので、アークが不安定となり、良好な作業性を得ることができなかった。
【0046】
【発明の効果】
以上詳述したように、本発明によれば、9%Ni鋼サブマージアーク溶接用焼結型フラックス中の化学組成並びにこのフラックスの原料粉として使用される溶融型フラックスの添加量及び組成を適切に規制すると共に、フラックスの嵩密度を規制しているので、良好な低温靱性を有する溶接金属を得ることができると共に、優れたスラグ剥離性及びビードの平滑性を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】(a)は水平隅肉溶接時に使用した溶接母材の形状及びサイズを示す正面図であり、(b)はその断面図である。
【図2】横向多層溶接時に使用した溶接母材の形状及びサイズを示す断面図である。
【図3】横向多層溶接方法を示す模式図である。
【図4】溶接金属29からの試験片の採取位置を示す模式図である。
【符号の説明】
21、22、25、26;鋼板
24、29;溶接金属
28;開先部
30;試験片
【発明の属する技術分野】
本発明は、液化天然ガスのように極低温液体用貯蔵タンクの建造材料等に使用される9%Ni鋼サブマージアーク溶接用焼結型フラックスに関し、特に、−196℃という極低温においても強度及び低温靱性が良好であると共に、水平隅肉溶接及び横向多層溶接時の作業性を向上させることができる9%Ni鋼サブマージアーク溶接用焼結型フラックスに関する。
【0002】
【従来の技術】
従来、極低温液体用貯蔵タンクの建造材料等として使用される9%Ni鋼の溶接においては、高温割れを防止するために、比較的低入熱で溶接する被覆アーク溶接法及び半自動溶接法が適用されていた。しかしながら、近時、耐高温割れ性が優れたワイヤが開発されているため、溶接建造物の施工能率を向上させるために、サブマージアーク溶接の適用が増加している。このように、サブマージアーク溶接により極低温用の建造材料等を溶接する場合、得られる溶接金属は母材と同等の優れた強度及び低温靱性を有することが必要であり、そのようなサブマージアーク溶接に使用されるフラックスについても種々研究が行われている。その中でも特に、フラックス中の金属フッ化物、Al及び希土類元素の含有量を適切に規定することにより、再熱ミクロ割れ性の改善を図ったフラックスが提案されている(特開昭58−110192号公報)。
【0003】
また、原料粉として溶融型フラックスを50乃至90重量%含有する焼成型フラックスにおいて、CaF2:30乃至70重量%、CaO及びMgOのいずれか1種又は2種の合計:8乃至30重量%、Al2O3:10乃至30重量%及びAl:2乃至8重量%を含有し、SiO2を5重量%以下に規制すると共に、Siを実質的に含有しないNi合金鋼のサブマージアーク溶接用焼成型フラックスも開示されている(特開昭60−127095号公報)。これは、フラックス組成を上記範囲に規制することにより、耐X線欠陥特性及びビード外観の向上を図ったものである。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、これらの従来の技術により溶接金属の性能を向上させることはできるが、これと同様に重要視される溶接作業性、特に、水平隅肉溶接及び横向多層溶接時におけるスラグ剥離性及びビードの平滑性を向上させることはできないという問題点がある。即ち、溶接金属の性能向上と溶接作業性との双方を十分に満足することができるようなサブマージアーク溶接用のフラックスは、未だ開発されていない。
【0005】
本発明はかかる問題点に鑑みてなされたものであって、良好な低温靱性を有する溶接金属を得ることができると共に、優れたスラグ剥離性及びビードの平滑性を得ることができる9%Ni鋼サブマージアーク溶接用焼結型フラックスを提供することを目的とする。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明に係る9%Ni鋼サブマージアーク溶接用焼結型フラックスは、フラックス全重量あたり溶融型フラックスを30乃至60重量%含有する9%Ni鋼サブマージアーク溶接用焼結型フラックスにおいて、フラックス全重量あたり、SiO2:5乃至15重量%、CaF2:20乃至40重量%、Al2O3:10乃至30重量%、CaO:5乃至20重量%、Si:0.1乃至5重量%、希土類元素:0.1乃至1重量%並びに金属単体、合金及び混合物から添加されるAl及びCaのうちの1種又は2種の合計:1乃至5重量%を含有し、前記溶融型フラックスは、溶融型フラックス全重量あたりSiO2:5乃至30重量%、CaF2:20乃至50重量%、Al2O3:20乃至40重量%及びCaO:15乃至25重量%を含有するものであり、水ガラスを添加して造粒し、焼結された後のフラックス嵩密度が0.80乃至1.20g/cm3であることを特徴とする。
【0007】
この9%Ni鋼サブマージアーク溶接用焼結型フラックスは、更に、前記CaF2を除く金属フッ化物をフッ素換算値で2乃至5重量%含有することが好ましく、金属炭酸塩をCO2換算値で1乃至10重量%含有することが望ましい。
【0008】
【発明の実施の形態】
極低温において使用される9%Ni鋼等の低温鋼用のサブマージアーク溶接により得られる溶接金属は、母材と同等の性能、特に、低温靱性を有することが要求される。一般的に、溶接金属の低温靱性を向上させるためには、溶接金属中の酸素量及びSi量を低減することが有効であり、そのために、フラックス中の酸素及びSi量が低減されている。しかしながら、作業性の観点からは、フラックス中のSi及びSiO2は、スラグの剥離性を向上させると共に、スラグの粘性を高めてビード形状を良好にする効果を有しており、水平隅肉溶接及び横向多層溶接を実施する場合に特に重要な化学成分である。
【0009】
また、本願発明者等は、スラグの剥離性及びビード形状を良好にするためには、フラックスの嵩密度を低くすることが有効であることを見い出した。しかしながら、焼結型フラックスの嵩密度を低くすると、フラックスが粉化しやすくなるので、溶接時に散布したフラックスを回収して再利用する場合、フラックスの粒が壊れて細粒が激増し、作業性が低下してしまう。
【0010】
そこで、本願発明者等は、上記Si及びSiO2の効果を十分に得ることができ、更に、嵩密度が低いと共に、粉化しにくい焼結型フラックスを開発すべく、Si及びSiO2の添加量及び添加方法について種々研究を行った。その結果、CaF2−Al2O3−CaO−SiO2系からなる溶融型フラックスが原料粉として含有されている焼結型フラックスを使用することが有効であることを見い出した。即ち、このような焼結型フラックスを使用することにより、得られる溶接金属の低温靱性が良好であると共に、スラグ剥離性及び水平隅肉溶接時のビードの平滑性が優れており、嵩密度は低いが粉化しにくい焼結型フラックスを得ることができる。
【0011】
以下、本発明に係る9%Ni鋼サブマージアーク溶接用焼結型フラックスに含有される化学成分の組成限定理由について説明する。
【0012】
SiO 2 :5乃至15重量%
SiO2はスラグの粘性及び流動性を調整するために添加し、ビード形状の平滑性及びスラグ剥離性を良好にするために不可欠な成分である。フラックス中のSiO2がフラックス全重量あたり5重量%未満であると、その効果を十分に得ることができない。一方、フラックス中のSiO2が15重量%を超えると、スラグの焼き付きが発生すると共に、溶接金属の低温靱性の低下を引き起こしてしまう。従って、フラックス中のSiO2はフラックス全重量あたり5乃至15重量%とする。なお、このSiO2の大部分は、焼結型フラックスの原料粉とする溶融型フラックスから添加されるが、それ以外にも、珪砂及び珪灰石等からフラックス中に添加することができる。また、フラックス原料の造粒時に使用される水ガラス成分中のSiO2も含まれる。
【0013】
CaF 2 :20乃至40重量%
CaF2はアークを安定させると共に、スラグの粘性を高めてビード形状を良好にする効果を有する。また、フラックス中にCaF2を添加することにより、得られる溶接金属中の酸素量を低減して、靱性を向上させることができる。フラックス中のCaF2がフラックス全重量あたり20重量%未満であると、その効果を十分に得ることができない。一方、フラックス中のCaF2が40重量%を超えると、アークが不安定になり、スラグの流動性が悪くなるので、作業性が低下する。従って、フラックス中のCaF2はフラックス全重量あたり20乃至40重量%とする。なお、このCaF2の大部分は、焼結型フラックスの原料粉とする溶融型フラックスから添加されるが、それ以外にも、蛍石等としてフラックス中に添加することができる。
【0014】
Al 2 O 3 :10乃至30重量%
Al2O3はスラグ形成剤として作用するものであり、主に、スラグの流動性を調整すると共に、スラグの剥離性を良好にする効果を有する。フラックス中のAl2O3がフラックス全重量あたり10重量%未満であると、その効果を十分に得ることができない。一方、フラックス中のAl2O3が30重量%を超えると、スラグの流動性が過大となり、ビードの平滑性が劣化する。従って、フラックス中のAl2O3はフラックス全重量あたり10乃至30重量%とする。なお、このAl2O3の大部分は、焼結型フラックスの原料粉とする溶融型フラックスから添加されるが、それ以外にも、アルミナ等としてフラックス中に添加することができる。
【0015】
CaO:5乃至20重量%
CaOはスラグの塩基性を高めて、溶接金属の低温靱性を向上させる効果を有する成分である。フラックス中のCaOがフラックス全重量あたり5重量%未満であると、その効果を十分に得ることができない。一方、フラックス中のCaOが20重量%を超えると、スラグの剥離性が著しく低下する。従って、フラックス中のCaOはフラックス全重量あたり5乃至20重量%とする。なお、このCaOの大部分は、焼結型フラックスの原料粉とする溶融型フラックスから添加されるが、それ以外にも、珪灰石及び炭酸石灰等からフラックス中に添加することができる。
【0016】
Si:0.1乃至5重量%
Siは脱酸剤としてフラックス中に添加することにより、溶接金属の低温靱性を向上させることができる成分である。フラックス中のSiがフラックス全重量あたり0.1重量%未満であると、その効果を十分に得ることができない。一方、フラックス中のSiが5重量%を超えると、溶接金属中のSi含有量が過大となり、低温靱性が低下してしまう。従って、フラックス中のSiはフラックス全重量あたり0.1乃至5重量%とする。なお、このSiは単体としてフラックス中に添加される以外に、Fe−Si等の合金又はレアアースカルシウムシリコン等の混合物からフラックス中に添加することができる。
【0017】
希土類元素:0.1乃至1重量%
イットリウムその他の希土類元素、即ち、周期律表の3A族に属する元素は優れた脱硫効果を有し、フラックス中に添加することにより、溶接金属の耐高温割れ性を大きく向上させることができる。フラックス中の希土類元素がフラックス全重量あたり0.1重量%未満であると、その効果を十分に得ることができない。一方、フラックス中の希土類元素が1重量%を超えると、得られる溶接金属の低温靱性が著しく低下する。従って、フラックス中の希土類元素はフラックス全重量あたり0.1乃至1重量%とする。なお、この希土類元素は、単体としてイットリウム、ランタン及びセリウムの少なくとも1種からフラックス中に添加される以外に、レアアースカルシウムシリコン及びミッシュメタル等の混合物からフラックス中に添加することができる。
【0018】
Al及びCaのいずれか1種又は2種の合計:1乃至5重量%
Al及びCaは脱酸剤としてフラックス中に添加することにより、溶接金属中の酸素量を著しく低下させ、低温靱性を向上させることができる成分である。フラックス中のAl及びCaのいずれか1種又は2種の合計が、フラックス全重量あたり1重量%未満であると、その効果を十分に得ることができない。一方、フラックス中のAl及びCaのいずれか1種又は2種の合計が5重量%を超えると、延性が不足することにより、−196℃の極低温における靱性が低下する。従って、フラックス中のAl及びCaのいずれか1種又は2種の合計はフラックス全重量あたり1乃至5重量%とする。なお、このAlは、単体又はFe−Al合金等によりフラックス中に添加することができ、Caは単体又はレアアースカルシウムシリコン等の混合物によりフラックス中に添加することができる。
【0019】
溶融型フラックス:30乃至60重量%
溶融型フラックスは本発明に係る焼結型フラックスの原料粉として使用されるものであり、電気炉等で溶融した後、冷却して粉砕することにより得られるSiO2−CaF2−Al2O3−CaO系のフラックスである。このように、SiO2を一度溶解した後にフラックス中に添加することにより、溶接金属の低温靱性に悪影響を及ぼすSi及びOの溶接金属への歩留まりを抑制することができ、更に、スラグ剥離性並びに水平隅肉溶接及び横向多層溶接時のビード形状の平滑性を向上させることができる。また、この溶融型フラックスをフラックス中に添加することにより、アークを安定化して、フラックスの溶融を円滑にすることができる。
【0020】
焼結型フラックスの原料粉として使用される溶融型フラックスが、フラックス全重量あたり30重量%未満であると、その効果を十分に得ることができない。一方、溶融型フラックスの含有量が増加すると、これにより得られる造粒前のフラックス原料の嵩密度が高くなり、このフラックス原料に水ガラスを添加して造粒し、乾燥させた後の焼結型フラックスの嵩密度も必然的に高くなる。嵩密度が作業性に及ぼす影響については後述するが、良好な作業性を有する焼結型フラックスを得るためには、フラックス嵩密度を1.20(g/cm3)以下にする必要があり、フラックス全重量あたりの溶融型フラックスが60重量%を超えると、フラックス嵩密度を1.20(g/cm3)以下にすることができなくなる。従って、フラックス中の溶融型フラックスはフラックス全重量あたり30乃至60重量%とする。
【0021】
なお、溶融型フラックス中のSiO2、CaF2、Al2O3及びCaOの各成分が有する効果は前述の通りであり、作業性及び低温靱性を向上させるためには、溶融型フラックス中のSiO2は、溶融型フラックス全重量あたり5乃至30重量%とする。また、アークの安定性及びスラグの流動性を向上させるために、溶融型フラックス中のCaF2は、溶融型フラックス全重量あたり20乃至50重量%とする。更に、スラグの流動性及びスラグの剥離性を向上させるために、溶融型フラックス中のAl2O3は、溶融型フラックス全重量あたり20乃至40重量%とする。更にまた、スラグの塩基性とスラグの剥離性を高めるために、溶融型フラックス中のCaOは、溶融型フラックス全重量あたり15乃至25重量%とする。
【0022】
嵩密度:0.80乃至1.20(g/cm 3 )
溶融型フラックスを原料粉として得られた造粒前のフラックス原料に、水ガラスを添加して造粒した後、焼結することにより製造される焼結型フラックスの嵩密度は、1.20(g/cm3)以下に規制することにより、水平隅肉溶接及び横向多層溶接時のビード形状の平滑性を改善し、スラグ剥離性を良好にすることができる。一方、この嵩密度が0.80(g/cm3)よりも小さくなると、作業性は良好となるが、フラックスが粉化しやすくなり、この細粒化によりビードの平滑性が低下すると共に、スラグの焼き付きが発生する。従って、フラックス原料に水ガラスを添加して造粒した後、焼結することにより製造される焼結型フラックスの嵩密度は、0.80乃至1.20(g/cm3)とする。
【0023】
CaF 2 を除く金属フッ化物(フッ素換算値):2乃至5重量%
主に、溶融フラックス中に含有されるCaF2の効果については前述の通りであるが、フラックス中にフッ化物を添加することにより得られるアーク安定性及びビードのなじみ性の向上効果を十分に得るためには、単体の金属フッ化物をフラックス中に添加することが有効である。即ち、フラックス中に金属フッ化物を添加すると、アークを安定にすると共に、スラグに適度な粘性を与えてビード形状を良好にすることができる。
【0024】
フラックス中に金属フッ化物を添加する場合、このCaF2を除く金属フッ化物が、フッ素換算値で、フラックス全重量あたり2重量%未満であると、その効果を十分に得ることができない。一方、フラックス中のCaF2を除く金属フッ化物がフッ素換算値で5重量%を超えると、スラグの粘性が低下して、ビード形状が劣化する。従って、フラックス中に金属フッ化物を添加する場合、CaF2を除く金属フッ化物は、フッ素換算値で、フラックス全重量あたり2乃至5重量%とすることが好ましい。なお、この金属フッ化物とは、フッ化ナトリウム、フッ化バリウム、氷晶石及びフッ化アルミニウム等をいい、これらは、単独又は2種以上を組み合わせてフラックス中に添加することができる。
【0025】
金属炭酸塩(CO 2 換算値):1乃至10重量%
フラックス中に金属炭酸塩を添加すると、この金属炭酸塩は溶融分解してCO2ガスを発生し、アーク雰囲気中の水蒸気分圧を低下させるので、溶接金属中の水素量を低減することができると共に、スラグの塩基性を高めて溶接金属の低温靱性を向上させることができる。フラックス中に金属炭酸塩を添加する場合、この金属炭酸塩が、CO2換算値で、フラックス全重量あたり1重量%未満であると、その効果を十分に得ることができない。一方、フラックス中の金属炭酸塩がCO2換算値で10重量%を超えると、アークが不安定になり、ビード形状が悪化する。従って、フラックス中に金属炭酸塩を添加する場合、この金属炭酸塩は、CO2換算値で、フラックス全重量あたり1乃至10重量%とすることが好ましい。なお、この金属炭酸塩とは、炭酸マグネシウム、炭酸バリウム、炭酸ストロンチウム及び炭酸カルシウム等をいい、これらは、単独又は2種以上を組み合わせてフラックス中に添加することができる。
【0026】
このように、本発明においては、9%Ni鋼サブマージアーク溶接において使用する焼結型フラックスの組成を上記範囲に規定するが、この焼結型フラックスの特性を十分に発揮するためには、Ni基合金ワイヤとの組み合わせでサブマージアーク溶接することが望ましい。なお、Ni基合金ワイヤとは、Niを55重量%以上含有すると共に、合金成分として、Mo、Cr、Fe及びWを含有するワイヤをいう。
【0027】
【実施例】
以下、本発明に係る9%Ni鋼サブマージアーク溶接用焼結型フラックスの実施例についてその比較例と比較して具体的に説明する。
【0028】
先ず、フラックス原料を調製し、これに固着剤として水ガラスを添加して造粒した後、焼結することにより、下記表1乃至4に示す種々の化学組成を有するサブマージアーク溶接用焼結型フラックスを作製した。但し、各フラックス中の希土類元素としては、実施例No.1、3、8及び比較例No.13はミッシュメタル(La:Ce=1:1)を使用し、実施例No.2及び比較例No.18はイットリウムを使用した。また、実施例No.4〜7、比較例No.15及び16はレアアースカルシウムシリコンにより希土類元素を添加した。このレアアースカルシウムシリコン中の希土類元素はLa及びCeであり、これらの希土類元素の含有量はレアアースカルシウムシリコン全重量あたり20重量%である。また、実施例No.9、10及び比較例No.11はランタンを使用し、比較例No.12及び17はセリウムを使用した。
【0029】
次いで、下記表5及び6に示す化学組成を有する母材及びワイヤを使用して、下記表7に示す溶接条件で水平隅肉溶接及び横向多層溶接を実施した。
【0030】
図1(a)は水平隅肉溶接時に使用した溶接母材の形状及びサイズを示す正面図であり、(b)はその断面図である。図1に示すように、幅が70mm、長さが500mmで厚さが12mmである鋼板21及び22を使用して、鋼板21を水平に配置すると共に、その上表面に鋼板22の長手方向の端面を当てて配置し、T継手を形成した。そして、T継手の一方の隅部23に対して水平隅肉溶接を実施し、溶接金属24を形成した。
【0031】
図2は横向多層溶接時に使用した溶接母材の形状及びサイズを示す断面図であり、図3は横向多層溶接方法を示す模式図である。図2に示すように、厚さが20mmである鋼板25と、厚さが34mmである鋼板26とを準備し、鋼板26の端面26aを14mmの厚さで残して、45°の角度で端面26aの角部に切欠き27を形成した。そして、鋼板25を水平に配置すると共に、その上表面に鋼板26の端面26aを当てて配置し、レ型開先部28を有する継手を形成した。次いで、図3に示すように、レ型開先部28に対して、1パスで被覆アーク溶接を実施した後、15パスで横向多層溶接を実施し、溶接金属29を形成した。なお、図3において、溶接金属29中の数値は横向多層溶接の各パス毎に形成される溶接金属の積層順序を示している。
【0032】
その後、水平隅肉溶接により形成された溶接金属24については、ビード形状及びスラグの剥離性等の作業性を評価すると共に、横向多層溶接により形成された溶接金属29からシャルピー衝撃試験片を採取し、−196℃における低温靱性を評価した。図4は溶接金属29からの試験片の採取位置を示す模式図である。図4に示すように、横向多層溶接により形成された溶接金属29の表層部から試験片30を採取した。本実施例においては、中央部に溶接金属29、両端部に鋼板25と鋼板26が配置されるように試験片30を採取し、その中央部に深さが2mmのVノッチ30aを形成した。これらの評価結果を下記表8に示す。なお、図8に示す評価基準としては、非常に優れているものを◎、優れているものを○、実用上問題がないものを△、劣っているものを×とし、低温靱性の評価結果欄には、括弧内に衝撃値を記載した。
【0033】
【表1】
【0034】
【表2】
【0035】
【表3】
【0036】
【表4】
【0037】
【表5】
【0038】
【表6】
【0039】
【表7】
【0040】
【表8】
【0041】
上記表1乃至4及び8に示すように、実施例No.1乃至10はフラックス中の化学組成並びにこのフラックスの原料粉として使用される溶融型フラックスの添加量及び組成が適切に規制されていると共に、フラックスの嵩密度も規制されているので、溶接時のビード形状の平滑性、スラグ剥離性が良好であり、低温靱性が優れた溶接金属を得ることができた。
【0042】
一方、比較例No.11は溶融型フラックスの添加量が本発明範囲の上限を超えているので、嵩密度が本発明範囲の上限を超えている。また、フラックス中のCaF2及びAl2O3の含有量も本発明範囲の上限を超えているので、スラグの流動性が過剰になることにより、ビードの平滑性が劣化した。更に、金属単体又は合金としてのAl及びCaが添加されていないので、低温靱性が低下した。比較例No.12は溶融型フラックスの添加量が本発明範囲の下限未満であり、金属フッ化物については、本発明範囲の好ましい範囲を外れているので、ビード形状が劣化すると共に、スラグ焼付きによりスラグ剥離性も低下した。
【0043】
比較例No.13はフラックス中のSiO2、Si及び希土類元素の含有量が本発明範囲の上限を超えていると共に、CaF2含有量が本発明範囲の下限未満であり、また、溶融型フラックス中のSiO2及びCaF2の含有量も本発明の範囲から外れているので、スラグ剥離性が低下し、低温靱性も著しく劣化した。比較例No.14はフラックス中のSiO2、Si及び希土類元素の含有量が本発明範囲の下限未満であると共に、金属単体又は合金として添加されたAl及びCaの合計量が本発明範囲の上限を超えており、また、溶融型フラックス中のSiO2及びCaF2の含有量も本発明の範囲から外れているので、ビードの平滑性及びスラグの剥離性が低下し、低温靱性も劣化した。
【0044】
比較例No.15はフラックス中のCaO含有量が本発明範囲の下限未満であると共に、使用された溶融型フラックス中のAl2O3が本発明範囲の上限を超えており、また、溶融型フラックス中のCaOの含有量が本発明範囲の下限未満であるので、実施例と比較して、ビード形状の平滑性及び低温靱性が低いものとなった。比較例No.16はフラックス中のAl2O3の含有量が本発明範囲の下限未満であると共に、CaO含有量が本発明範囲の上限を超えており、また、溶融型フラックス中のAl2O3及びCaOの含有量も本発明の範囲から外れているので、スラグの剥離性及び低温靱性が劣化した。
【0045】
比較例No.17はフラックス嵩密度が本発明範囲の上限を超えているので、ビード形状の平滑性が低下し、ビードが凸状になるので、スラグ剥離性も若干劣ったものとなった。比較例No.18はフラックス嵩密度が本発明範囲の下限未満であるので、フラックスが粉化しやすくなり、繰り返し使用することにより作業性が劣化するので、実用には不適である。また、フラックス中の金属炭酸塩が本発明の好ましい範囲の上限を超えているので、アークが不安定となり、良好な作業性を得ることができなかった。
【0046】
【発明の効果】
以上詳述したように、本発明によれば、9%Ni鋼サブマージアーク溶接用焼結型フラックス中の化学組成並びにこのフラックスの原料粉として使用される溶融型フラックスの添加量及び組成を適切に規制すると共に、フラックスの嵩密度を規制しているので、良好な低温靱性を有する溶接金属を得ることができると共に、優れたスラグ剥離性及びビードの平滑性を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】(a)は水平隅肉溶接時に使用した溶接母材の形状及びサイズを示す正面図であり、(b)はその断面図である。
【図2】横向多層溶接時に使用した溶接母材の形状及びサイズを示す断面図である。
【図3】横向多層溶接方法を示す模式図である。
【図4】溶接金属29からの試験片の採取位置を示す模式図である。
【符号の説明】
21、22、25、26;鋼板
24、29;溶接金属
28;開先部
30;試験片
Claims (3)
- フラックス全重量あたり溶融型フラックスを30乃至60重量%含有する9%Ni鋼サブマージアーク溶接用焼結型フラックスにおいて、フラックス全重量あたり、SiO2:5乃至15重量%、CaF2:20乃至40重量%、Al2O3:10乃至30重量%、CaO:5乃至20重量%、Si:0.1乃至5重量%、希土類元素:0.1乃至1重量%並びに金属単体、合金及び混合物から添加されるAl及びCaのうちの1種又は2種の合計:1乃至5重量%を含有し、前記溶融型フラックスは、溶融型フラックス全重量あたりSiO2:5乃至30重量%、CaF2:20乃至50重量%、Al2O3:20乃至40重量%及びCaO:15乃至25重量%を含有するものであり、水ガラスを添加して造粒し、焼結された後のフラックス嵩密度が0.80乃至1.20g/cm3であることを特徴とする9%Ni鋼サブマージアーク溶接用焼結型フラックス。
- 更に、前記CaF2を除く金属フッ化物をフッ素換算値で2乃至5重量%含有することを特徴とする請求項1に記載の9%Ni鋼サブマージアーク溶接用焼結型フラックス。
- 更に、金属炭酸塩をCO2換算値で1乃至10重量%含有することを特徴とする請求項1又は2に記載の9%Ni鋼サブマージアーク溶接用焼結型フラックス。
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