JP3877025B2 - 立毛布帛 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、立毛布帛、特にインテリアや車両などの椅子張りに用いられる軽量で手触りがソフトで且つ、耐毛倒れ性に優れた立毛布帛に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
車両用、室内椅子張り地用などの織編物としては、織物、丸編地トリコット、ラッセルやモケット、ダブルラッセル、パイル編地などの立毛布帛など様々な布帛が用いられている。中でもモケット、ダブルラッセル、シンカーパイル、トリコット起毛等の立毛布帛は高級品として位置付けられている。
【0003】
これらの立毛布帛のパイル糸は、手触りがソフトで、ナチュラルな色調を有しながら、耐毛倒れ性が良好で且つパイル面のカバリング性の高い紡績糸が主として用いられている。
【0004】
しかしながら紡績糸は上記の優れた特性を有している反面、紡績糸固有の糸欠点(スラブ、ネップ、糸継ぎ跡など)や短繊維を含有する為、織・編工程での糸切れや風綿の発生は避けることができないという大きな欠点を有している。さらにはマルチフィラメント糸に比べスピードが上げられず生産性が低いという問題、製品使用時、綿ホコリが発生しやすいという問題もあり、改良が求められているのが現状である。
【0005】
これら紡績糸を用いた立毛布帛の改良として、マルチフィラメント糸を使った複合糸がいろいろ提案されている。例えば特開昭63−126941号公報では、手触りがソフトで毛倒れしない立毛布帛を得る方法として少なくとも2種のフィラメントからなり、繊度の小さいフィラメントが繊度の大きいフィラメントの先端よりも高く突出してカットパイル先端面に凹凸が形成されている立毛布帛が提案されている。
【0006】
さらに特開平9−78398号公報では、複屈折率Δnが0.03〜0.09でかつ、切断伸度差が30〜75%である2種類のポリエステルマルチフィラメント原糸を特定の条件下で複合仮撚加工を施したものをパイル糸として使用する方法が提案されている。
【0007】
しかしながら、これらの方法は、紡績糸固有の糸欠点がない為、糸切れや風綿発生が少なく、生産性も向上し、製品使用時の綿ホコリが発生しない点では、改良されているものの、前者の場合は、カット面に凹凸がある為、目面が悪くなったり、凸部の繊度の小さいフィラメントが白ボケて見える等の問題があり、後者の場合は、2種のマルチフィラメントの組合せである為、耐毛倒れ性は良好であるが、手触りが硬くなったり、又その逆に手触りはソフトであるが、耐毛倒れ性が不充分であったりする問題が残されており、さらにはいづれの場合も紡績糸特有のナチュラルな色調の表現においては全く不充分なものである。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、特殊なポリエステルマルチフィラメントの捲縮糸を用いることにより、手触りがソフトで、紡績糸様のナチュラルな色調を有しながら耐毛倒れ性が良好で、且つパイル面のカバリング性の高い立毛布帛を提供せんとするものである。
【0009】
【課題を解決するための手段】
本発明は、繊維繊度が少なくとも3種の繊維からなり、最大繊度と最小繊度との差が2デニール以上であり、且つ長手方向に太さ斑と染着特性斑を有する捲縮加工ポリエステルマルチフィラメントを立毛布帛のパイル糸とすることで課題を解決せんとするものである。
【0010】
以下に本発明の構成要件とその意義並びに効果について詳細に説明する。本発明におけるポリエステルマルチフィラメントとはポリエチレンテレフタレートを主たる対象とするが、エチレンテレフタレートを主成分としてエチレンイソフタレート、エチレンオキシベンゾエート又は、その他を共重合成分とする共重合ポリエステルでも良く、該ポリエステルには、艶消剤、帯電防止剤、抗菌剤等の添加成分が少量添加されていても良い。
またマルチフィラメントの断面形状は、円形断面中空断面のほか三角断面、多葉断面などの非円形断面のいづれであっても良い。また、これらの断面のフィラメントを適宜組合せたものであっても良い。
【0011】
先ず、本発明のパイル糸に用いるポリエステルマルチフィラメントは、少なくとも3種の繊度を有する必要がある。即ちこれが2種以下であると手触りがソフトで耐毛倒れ性が良いと言う相反した性能を満足させるには不充分であるとの結論に達したからである。
【0012】
手触りをソフトにするには、パイル糸の個々のフィラメントの曲げ剛性を小さくする必要があり、具体的には細デニール化やカット面の比表面積を小さくする(例えば偏平化)方法が有効であり、一方耐毛倒れ性を良くするには、カット面における圧縮変形に対する抵抗又は回復性を大きくする必要があり、太デニール化やカット面の比表面積を大きく(例えば中空)する方法が有効である。
【0013】
即ち、上述の両成分をバランスよく混在させて、相反する性能を満足させる必要があるが、2種以下の繊度の組合せでは、例えば細い(小さい)繊度と太い(大きな)繊度の極端な組み合せや中間近辺の繊度の組み合せとなり、手触りがソフトで耐毛倒れ性が良好であるといった両性能を充分に満足させるには無理が生じていた。
【0014】
本発明では、少なくとも3種の異繊度を有する必要があるが第1の理由は、例えば細デニール、中間デニール、太デニールと段階的に繊度を選定でき、又その構成比率を変えることにより、無理なく、手触りがソフトで、耐毛倒れ性が良いという相反した性能を充分に満足させることができるからである。
【0015】
具体的には個々の繊度は、0.5〜6デニールの範囲であることが好ましく、これらの平均繊度は1.5〜4デニールが好ましい。大きい繊度が6デニールを超えるフィラメントが混在すると、パイルの耐毛倒れ性は良好であるが、手触りが硬く、ざらつき感が増し良くない。また、0.5デニール未満のフィラメントが混在すると手触りは非常にソフトであるが、パイルの耐毛倒れ性が悪くなるばかりかパイル表面が白ボケて見えるので良くない。
【0016】
第2の理由は、パイルカット面のカバリング性を紡績糸並みあるいはそれ以上にすることができるのである。ここで言うカバリング性とは立毛布帛のカット面におけるパイル糸の見掛けの充填具合を指す。
具体的には、パイル面から見てグランド部が見えない程、カバリング性が良い。椅子張製品の曲部(曲線の大きい部分)では、カバリング性が悪い為にグランド部がむき出しになり、品位面で問題となるケースが時々発生している。
【0017】
本発明によるパイル糸のポリエステルマルチフィラメントの最大繊度と最小繊度とは2デニール以上異なり、且つ長さ方向に太さ斑を有することが必要である。かかる要件は、従来技術では不充分であった紡績糸様の自然な色調を具現化する為に特に重要である。
【0018】
即ち、紡績糸はフィラメントと大きく異なり、その製造工程から由来する固有の太さ斑を有しており、それがナチュラルな色調、手触りの源泉となっていることに着目し、本発明に到達したのである。
【0019】
ポリエステルマルチフィラメントを上述の紡績糸様の糸条にするには種々の方法が考えられるが、本発明では、フィラメントの長さ方向において繊維断面が不均一で染着特性が不均一になる部分を形成する方法を採用することにより達成した。
【0020】
さらに詳しくは、異繊度混合ポリエステルフィラメントからなる未延伸糸を特定の条件下(例えば最高延伸倍率の0.65〜0.78倍、ここに最高延伸倍率とは、実質的には、最小繊度の破断延伸倍率に一致し、実際には、延伸後の糸条に毛羽の発生が見られ始める倍率をいう)で延伸することにより糸条全体が濃染されず、正常染着部に混って濃染部が点在する紡績糸様の自然な感じの染着斑を有する糸条を得ることにより具現化した。
【0021】
本発明にいう繊度とは延伸後の繊度をさし、最大と最小繊度とは、2デニール以上異ならしめるのは、紡績糸様の自然な色調をもたせるためである。即ち最小繊度のフィラメントは長さ方向に実質的に均整となし最大繊度のフィラメントは長さ方向にランダムに濃染性の太い部分を残存させるためである。
【0022】
最大繊度と最小繊度との差が2デニール以下の場合には、紡績糸様な自然な色調差を得ることが困難である。
また、最大繊度のフィラメントの構成比率は多くとも60%程度とする方が好ましい。これを越えると濃染性を有する部分が多くなってファンシー性が強くなり自然な色調とならなしばかりが、熱的にも機械的にも弱点部をもつ糸となり、後工程でのトラブルが発生しやすくなる。
【0023】
これら異繊度フィラメントを混在させる方法としては、異なる大きさの紡糸孔が配列された紡糸ノズルから同時に紡糸することが合理的であり、また異繊度混在フィラメントの物性差を与える意味でも好ましい。即ち、かかる物性差は、紡糸される最に繊度の小なるフィラメントほど冷却速度が大となって複屈折率(配向度)が高く破断するまでの延伸倍率も小さくなる傾向にあることに起因すると考えられる。かかる物性差は繊度差が大なるほど大きく、2デニール未満十分な物性差が得られない。勿論、異なる繊度のフィラメントを別々に紡糸したものを後で合糸又は混繊しても良いが、この場合には前記の物性差を異繊度混在フィラメントに与えることが必要である。
【0024】
本発明によるポリエステルマルチフィラメントは捲縮加工を施すことが必要である。これは、紡績糸様のソフトな風合とパイルのカバリング性及び耐毛倒れ性を良好にする為である。捲縮加工としては、特に限定しないが、製編製織工程で捲縮特性が大巾に低下しなければ、どの方法を採用しても良い。
【0025】
仮撚装置を使用する場合、ピンタイプでもフリクションタイプでも良いが、通常のポリエステルマルチフィラメントと同程度の撚数、フィード比温度条件ないしそれより若干少ない撚数低いフィード、低い温度条件が適当である。
【0026】
また本発明による異繊度混在フィラメントからなる延伸後の糸条は、繊度差により弾性回復率が異なり、繊度の大きい方がたるみを生じやすく、パッケージに捲取った後、解舒する際に毛羽立ちの原因となったりするので、紡糸延伸後、連続して仮撚加工すると捲縮によってたるみが吸収されることになり好都合であり、また合理的である。
【0027】
さらに仮撚機前・後で流体処理装置をもうけて、フィラメント間に交絡を与え後加工取扱い性向上させたり、ループや絡みを与えて一層紡績糸様の風合に類似させても良い。
さらに本発明にかかるマルチフィラメントと染色性、断面形状繊度、光沢等異なった他のマルチフィラメントを混合させる目的で使用しても良い。
【0028】
【実施例】
以下、実施例により本発明を具体的、詳細に説明するが本実施例は、本発明の内容を何等制限するものではない。
実施例 1
通常のポリエステルレジンを使用してトータルデニールが200〜210単糸デニールが70d−16ホール/70d−36ホール/70d−48ホール相当の紡糸ノズルを使用して紡糸温度286℃紡糸速度2600m/分で半延伸糸を作成し、続いて延撚機にてホットローラ温度75℃ホットプレート温度110℃延伸倍率1.608で200d−100fのポリエステルマルチフィラメントを得た。得られた糸の物性はデニール209:引張強度3.7g/デニール、伸度55%、IPI(5%)は平均130ケ/100mであった。ここでIPI(5%)とは、U% EVENNESTESTER(計測器工業製)C型を用いて測定したNormal感度±5%以上のポイント数/100mを示す。この糸をチューブ編して分散染料で染色した所、所々にナチュラルな濃染部を有する形状を呈していた。
【0029】
引続いて通常の仮撚装置を用いて、撚数2100t/m、第1ヒーター温度190℃、第2ヒーター温度180℃、第1フィード3.1%、第2フィード12.5%、糸速130m/分で捲縮加工を実施し巻取前で110ケ/mのインターレースを付与した。
【0030】
次にソフトワインダーにてチーズの捲密度0.3g/cm3 でソフト捲きを行ない、通常のポリエステル染色法により高圧下130℃×30分で染色した。濃・淡色に染め分けた糸をZ方向120t/mの合撚加工を施した後、90℃×15分でキャーセットし経2重パイル織機のパイル糸として製織した。<規格:組織8越V織、筬密度20羽/インチ、緯糸密度45本/インチ、パイル長(全厚)2.8mm>
得られたカットパイル織物を通常のモケットの仕上げ工程にて毛割−シャーリング(2回繰返し)を行ないパイル長を2.6mmとし、引続いて裏面の樹脂加工(樹脂:アクリル糸、付着量60g/m2 )を施した。
【0031】
得られたカットパイル織物は、従来の偏平断面2.5d×51mm原綿使用の紡績糸20S/1 を濃色に糸染後双糸加工をした圭糸をパイル糸として同様の規格で仕上げた紡績糸100%使いのカットパイル織物と比較して、手触りソフト感パイルの耐毛倒れ性において遜色なく、色調においても紡績糸様のナチュラルな杢調を呈しており、さらにパイル面のカバリング性(密度感)においても、パイル糸の糸使用重量が約24%減少したにも拘わらず同等あるいは優れる結果となった。さらに製織等の加工工程で風綿発生のトラブルもなく、製品欠点の少ないカットパイル織物を得ることができた。
【0032】
【発明の効果】
本発明によれば、マルチフィラメントを使用した立毛布帛でありながら、紡績糸を使用した立毛布帛と同様のソフトな手触りとパイル耐久性を有し、軽量化が可能である。さらには、従来のマルチフィラメントを使用した立毛布帛で達成できなかった紡績糸様のナチュラルな色調を表現できるものであり、さらには優れた取扱性を持ったインテリアや車両等の椅子張りに好適な新規な立毛布帛を得ることができる。
Claims (1)
- 繊維繊度が少なくとも3種の繊維からなり、最大繊度と最小繊度の差とが2デニール以上かつ長さ方向に太さ斑と染着特性斑を有する捲縮加工ポリエステルマルチフィラメントをパイル糸とすることを特徴とする立毛布帛。
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1998
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