JP3875878B2 - 溶接部の疲労強度特性に優れた高強度鋼板のスポット溶接方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、主に自動車用部品および車体などの組立に用いられる高強度鋼板のスポット溶接方法に関し、詳しくは、溶接部の疲労強度特性に優れた高強度鋼板のスポット溶接方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
近年、自動車の低燃費化、CO2排出量削減および衝突安全性向上等の対策のため、自動車分野等では、自動車の車体や部品などに薄肉の高強度鋼板を使用するニーズが高まっている。
【0003】
一方、自動車の車体や部品などの組立にはスポット溶接方法が主に用いられているが、高強度鋼板をスポット溶接法で溶接する場合には、以下のような問題がある。
【0004】
一般的に、スポット溶接継手の品質指標としては、引張強さと共に疲労強度が重要となる。通常、自動車の継手では、せん断方向に力がかかるように設計される場合が多い。しかし、溶接継手のせん断方向の引張強さ(引張せん断強さ)は鋼板の引張強さとともに増加するが、せん断方向に負荷された場合の疲労強度は鋼板の引張強さが増加してもほとんど増加しない。例を上げるなら、引張強さが290MPaの軟鋼板の代わりに、引張強さが590MPaの高強度鋼板を用いれば、スポット溶接継手の引張せん断強さ(溶接継手のせん断方向に引張荷重を負荷した場合の引張強さ)はほぼ2倍になるが、溶接継手のせん断方向に繰り返し荷重を負荷した場合の疲労強度、例えば、応力負荷の回数が2×106回における荷重を疲労強度と定義すると、疲労強度は増加せず軟鋼板の場合とほぼ同じ値を示すのである。このように、疲労強度が低い値を示す原因としては、従来、報告されているように、スポット溶接部のノッチ形状が考えられる。すなわち、図1で示したように、鋼板1の間に存在するナゲット2の部分がノッチ形状になっているため、引張せん断方向(矢印方向)3に荷重を負荷して疲労試験を行った場合、引張強さの高い鋼板を用いても、このノッチ効果によって疲労強度が向上しないのである。特に、高強度鋼板を用いた場合には、軟鋼板を用いた場合に比べて、ナゲット部の硬さが増加するため、このノッチ効果は顕著になる。一方、溶接継手の剥離方向の引張強さ(十字引張強さ)は、鋼板の引張強さの増加とともにわずかに増加するが、剥離方向(引張せん断方向(矢印方向)3と垂直な方向)に荷重を負荷して疲労試験を行った場合には、高強度鋼板の溶接継手の疲労強度は、鋼板の引張強さとともに増加せず軟鋼と同じであり、この場合は、ナゲット周辺部での応力集中が顕著であり、局部の応力負荷が高まってそこでクラックが発生しやすくなるため、引張せん断方向に繰り返し荷重を負荷した場合に比べて疲労強度は一桁程度低下する。
【0005】
一般に、鋼板の引張強さが増加するほど、下記▲1▼式、▲2▼式で示される炭素当量CeqhとCeqtの値が高くなる傾向にある。Ceqhは溶接部の硬さに対応する炭素当量であり、また、Ceqtは溶接部の靭性に対応する炭素当量である。
Ceqh=C+Si/40+Cr/20(%) ▲1▼
Ceqt=C+Si/30+Mn/20+2P+4S(%) ▲2▼
(式中、C、Si、Cr、Mn、P、Sは、それぞれ鋼中の炭素、珪素、クロム、マンガン、リン、硫黄の各含有量(質量%)を示す)
【0006】
高強度鋼板では、引張強さの増加とともに炭素当量CeqhとCeqtが高くなるため、引張強さが高い高強度鋼板ほどスポット溶接(ナゲット)部と熱影響部の硬さが高くなり、また、靱性が低下して、破壊が容易に起こりやすくなる。
【0007】
以上の理由で高強度鋼板のスポット溶接部の疲労強度は、高強度鋼板の引張強さが増加しても増加せずに、軟鋼の場合と同じ程度になると考えられる。
【0008】
従来の高強度鋼板のスポット溶接における溶接継手の疲労強度を向上させる手段としては、例えば、「鉄と鋼」第68巻(1982年)第9号第1444ページ〜第1451ページにあるように、スポット溶接の通電が完了した後の一定時間経過後にテンパー通電を行うことによりスポット溶接(ナゲット)部と熱影響部を焼鈍して硬さを低下させ、残留応力を変化させる方法が知られている。しかし、この方法は、テンパー通電の適正な条件範囲の幅が非常に狭く、また、操業条件の変化により再現性が乏しいという実用上の問題がある。特に、めっき鋼板を連続的に打点してスポット溶接する場合には、打点数の増加とともに電極先端がめっきとの合金化反応によって劣化し、電極先端径が増大して、電流密度が低下し最適なテンパー通電条件から外れるため、安定的に継手の疲労強度を向上させることが困難となる。
【0009】
スポット溶接部の疲労強度を向上させる手段としては、これ以外にも、特昭63−317625、特平2−163323、特平5−263184、特平9−268346、特平10−8187、特平11−279689公報などに開示されているように、疲労強度特性が優れた鋼板を用いてスポット溶接する方法が知られているが、これらは軟鋼板のスポット溶接に関するものであり、高強度鋼板のスポット溶接部の疲労強度を向上させる方法については、未だ報告された例はない。
【0010】
【発明が解決しようとする課題】
上記のように、高強度鋼板を用いてスポット溶接を行う場合の溶接継手の疲労強度は、軟鋼板を用いた場合と変わらない。車体を軽量化するためには、高強度鋼板の板厚を低減させることが必要となるが、このように、高強度鋼板溶接部の疲労強度が軟鋼板を用いた場合と同じであるならば、板厚を低減させることによって疲労強度が低下するため、板厚を低減させることが困難となる。その結果、自動車分野などで、高強度鋼板を用いることによる安全性向上や軽量化による低燃料費化、CO2排出量削減のメリットを十分に享受することができない。
【0011】
一方、高強度鋼板のスポット溶接部の疲労強度を向上させるためにスポット溶接打点数を増やす従来の方法は、作業効率の低下や、コスト上昇および設計自由度の制約などの問題がある。
【0012】
本発明は、これらの従来の問題を解決するために、高強度鋼板のスポット溶接方法において良好な溶接作業性を確保しつつ溶接継手の疲労強度特性を向上することができる高強度鋼板のスポット溶接方法を提供することを目的とする。
【0013】
【課題を解決するための手段】
本発明は、スポット溶接時の電極加圧力を電極先端径に合わせて所定範囲に調整する方法、スポット溶接後の電極保持時間を所定範囲に調整する方法、および被溶接材としてフェライト中に残留オーステナイトを含んだ加工誘起変態型複合組織鋼を用いそのマルテンサイト変態の体積膨張を利用する方法を用いることにより溶接部に圧縮残留応力を発生させ、スポット溶接継手の疲労強度を向上させることを特徴とするものであり、すなわち、本発明の要旨とするところは、以下の通りである。
(1)高強度鋼板のスポット溶接において、被溶接材として引張強さTSが430〜1300MPaの範囲内の高強度鋼板を用い、スポット溶接時の電極加圧力Pを下記(1)式および(4)式を満たすように調整して溶接し、かつスポット溶接後の電極保持時間HTを下記(3)式を満たすように調整することを特徴とする高強度鋼板のスポット溶接方法。
0.134×t×TS1/2 ≦P≦0.170×t×TS1/2 (kN) (1)
130−160×t+210×t 2 ≦HT(ms) (3)
4×t1/2 ≦d≦6.5×t1/2 (mm) (4)
但し、t:被溶接材の厚み(mm)、TS:被溶接材の引張強さ(MPa)、P:溶接電極の加圧力(kN)、d:溶接電極の先端径(mm)、HT:溶接後の電極保持時間(ms)
(2)高強度鋼板のスポット溶接において、被溶接材として引張強さTSが430〜1300MPaの範囲内の高強度鋼板を用い、スポット溶接時の電極加圧力Pを下記(2)式および(4)式を満たすように調整して溶接し、かつスポット溶接後の電極保持時間HTを下記(3)式を満たすように調整することを特徴とする高強度鋼板のスポット溶接方法。
0.00510×TS1/2 ×d2 ≦P≦0.00645×TS1/2 ×d2 (kN) (2)
130−160×t+210×t 2 ≦HT(ms) (3)
4×t1/2 ≦d≦6.5×t1/2 (mm) (4)
但し、TS:被溶接材の引張強さ(MPa)、d:溶接電極の先端径(mm)、P:溶接電極の加圧力(kN)、t:被溶接材の厚み(mm)、HT:溶接後の電極保持時間(ms)
(3)前記高強度鋼板が、組織中に残留オーステナイトを含有する加工誘起変態型複合組織鋼板であることを特徴とする上記(1)又は(2)に記載の高強度鋼板のスポット溶接方法。
【0014】
【発明の実施の形態】
本発明者らは、まず、高強度鋼板をスポット溶接した継手の疲労強度を向上させる方法として、▲1▼溶接金属(ナゲット)端部のノッチ形状を変えて応力集中が起こり難い形状にする、▲2▼溶接金属(ナゲット)部とその周辺の熱影響(HAZ)部の硬さを低下させる、▲3▼溶接部に圧縮残留応力を発生させることにより相対的に引張残留応力を低減させる、の大きく3つの方法について検討した。
【0015】
▲1▼の方法については、例えば、「鉄と鋼」第68巻(1982年)第9号第1444ページ〜第1451ページにあるように、意図的に電流を上げて溶接通電により溶接金属に散り(鋼板間の溶接金属(ナゲット)端部から溶融金属が吹き飛ぶ現象)を発生させて、溶接金属(ナゲット)端部の形状を変化させる方法が知られている。しかし、この方法では、溶接金属(ナゲット)端部の形状がばらつき、実際、疲労強度もかなりばらつくことが知られている。
【0016】
▲2▼の溶接金属および熱影響(HAZ)部の硬さや引張残留応力を低減させる方法としては、上述のように、溶接完了後の冷却後に溶接電極から溶接部に一定時間通電する(後通電)ことにより溶接部をテンパー処理する方法が従来知られている。
【0017】
しかし、この方法は、既に述べたように溶接部のテンパー処理のための最適通電条件の範囲が非常に狭く、また、操業条件の変化などにより再現性が乏しいという問題がある。
【0018】
一方、発明者らは、▲3▼の溶接部の引張残留応力を低減させるための圧縮残留応力の発生方法として、溶接時の電極加圧力と溶接金属(ナゲット)部と熱影響(HAZ)部のマルテンサイト変態による体積膨張を利用する方法が有効であると考え、実験などの詳細な検討を行った。
【0019】
その結果、スポット溶接時の電極加圧力を電極先端径に合わせて被溶接材の厚みと引張強さに応じて調整する方法、スポット溶接後の電極保持時間を被溶接材の厚みに応じて調整する方法、および被溶接材としてフェライト中に残留オーステナイトを含んだ加工誘起変態型複合組織鋼を用いそのマルテンサイト変態の体積膨張を利用する方法を用いることにより溶接部に圧縮残留応力を発生させ、溶接継手の疲労強度を効果的に向上できることを見出した。
【0020】
本発明は、これらの知見をもとになされたものであるが、以下に本発明の詳細を説明する。
【0021】
図2は、本発明に係るスポット溶接方法を説明するための図である。本発明のスポット溶接方法では、被接合材である2枚の高強度鋼板1を重ね合わせ、その重ね合わせ部を銅製の溶接電極4で加圧しながら溶接通電し、2枚の高強度鋼板1の間に溶融金属部を形成させる。この溶融金属部は溶接通電終了後、主に水冷された電極による抜熱によって冷却されて凝固し、2枚の高強度鋼板1の間に溶接ナゲット(溶接金属)2が形成される。
【0022】
高強度鋼板のスポット溶接後の溶接金属部とその周辺の熱影響(HAZ)部は、凝固、冷却過程でマルテンサイト変態する際に体積膨張が起きるが、その後、更に室温までの冷却過程で熱収縮が起こり最終的に形成される溶接部には、引張残留応力が導入される。この引張残留応力は、高強度鋼板のスポット溶接継手で疲労強度が低下する原因のひとつとして考えられている。
【0023】
本発明の第1の発明では、被溶接材(図2に示す高強度鋼板1)として引張強さTSが430〜1300MPaの範囲内の高強度鋼板を用い、図2に示すようにスポット溶接を行う場合に、スポット溶接時の加圧力5を被溶接材の板厚tおよび引張強さTSに応じて下記(1)式の範囲内に調整し、スポット溶接部(ナゲット近傍)に圧縮残留応力を導入して、溶接継手の疲労強度を向上させる。
0.134×t×TS1/2≦P≦0.170×t×TS1/2(kN) (1)
但し、t:被溶接材の厚み(mm)、TS:被溶接材の引張強さ(MPa)、P:溶接電極の加圧力(kN)
【0024】
本発明で、被溶接材として用いる高強度鋼板の引張強さTSを430〜1300MPaの範囲に規定した理由は、引張強さが430MPaより低い高強度鋼板を用いてスポット溶接すると、溶接継手の引張強さの向上効果が小さく、高強度化による安全性向上や軽量化による低燃費化、CO2排出量削減のメリットを十分に享受することができないとともに、上記で述べた炭素当量CeqhとCeqtの増加に起因した溶接部の硬さ上昇と靭性低下による溶接継手の疲労強度低下の影響が少ないからである。一方、引張強さが1300MPaより高い高強度鋼板を用いてスポット溶接すると、炭素当量CeqhとCeqtの増加に起因した溶接部の硬さ上昇と靭性低下により、溶接継手の疲労強度向上の効果が認められないからである。引張強さTSの下限を540MPaとすれば、溶接継手において、より良好な引張強さの向上と疲労強度の改善を得ることができる。また、引張強さの上限を1000MPaとすれば、溶接継手における、より一層の疲労強度向上効果を得ることができる。
【0025】
スポット溶接時の溶接電極の加圧力Pを、上記(1)式で規定する理由は、上記(1)式の下限値より低い溶接電極の加圧力では、溶接部に十分な圧縮残留応力が導入されないため、溶接継手の疲労強度の向上効果がほとんど認められないからである。一方、上記(1)式の上限値より高い溶接電極の加圧力では、溶接時に鋼板が変形して加圧部表面に大きな圧痕を生じて外観形状を悪化させ、加圧部の板厚が薄くなり溶接継手の静的強度や疲労強度を低下させるという問題が生じるからである。
【0026】
図3は、上記(1)式の導出の根拠となる発明者らの実験結果の一例として、引張強さTSが593MPaの高強度鋼板を先端径が5×t1/2(mm)の電極を用いてスポット溶接する際の溶接電極の加圧力Pおよび板厚tと溶接継手の疲労強度との関係を示したものである。なお、図中の○印および×印は、溶接継手の疲労強度の評価結果を示すものであり、溶接継手の疲労強度が、引張強さTS:300MPaの軟鋼板溶接時の疲労強度に対して20%以上向上したものを○、向上しろが20%未満のものを×で示した。図3から引張強さTS:593MPaの高強度鋼板をスポット溶接する際には、溶接電極の加圧力Pを高強度鋼板の引張強さTS=593(MPa)と板厚さt(mm)との関係から0.134×(593)1/2×t以上、0.170×(593)1/2×t以下の範囲内に設定することにより疲労強度が良好な溶接継手を得られることがわかる。
【0027】
本発明における上記(1)式は、実験により種々の引張強さの高強度鋼板について、図3に示すようなスポット溶接時の溶接電極の加圧力Pおよび板厚tと溶接継手の疲労強度との関係を、電極先端径dが5×t1/2(mm)の電極において調査し求めたものである。
【0028】
一方、本発明において、電極先端径dは下記(4)式で規定する範囲とすると好ましい。
4×t1/2≦d≦6.5×t1/2(mm) (4)
その理由は、上記(4)式より低い値になると、溶融径が電極先端径を越えて散りが発生しやすくなるため十分な継手強度を得るための十分なナゲット径の値が得られなくなるからであり、また、面圧が高くなりすぎて、加圧部表面に圧痕を生じさせて外観形状を悪化させたり、加圧部の板厚が薄くなって溶接継手の静的強度や疲労強度を低下させるからである。したがって、下限値としては、4×t1/2(mm)程度が好ましい。一方、電極先端径dの値が上記(4)式の値より高い場合には、面圧が低下して溶接部に十分な圧縮残留応力が導入されず、溶接継手の疲労強度の向上効果がほとんど認められないからであり、また、電流密度が低下して、同じナゲット径を得るのにより高い電流を必要とするからである。また、フランジ幅には限界があるため、電極先端径をあまり大きくすることは出来ない。したがって、上限値としては、6.5×t1/2(mm)程度が好ましい。
【0029】
なお、電極形状としては、JIS C 9304に規定されているように、F型、R型、D型、DR型、CF型、CR型、EF型、ER型、P型があり、DR型、CF型、CR型、EF型、ER型、P型では電極先端径を特定できるが、他の電極では特定できないため、その場合には、鋼板との実質的な接触径を電極先端径とすれば良い。なお、DR型、CF型、CR型、ER型、P型でも、連続打点とともに電極先端径が増大するため、その場合には、鋼板との実質的な接触径を電極先端径と考えれば良い。
【0030】
第一の発明では、上記のように被溶接材の引張強さとスポット溶接時の溶接電極の加圧力を規定することにより、溶接部近傍に圧縮残留応力を発生させ、溶接継手の疲労強度を向上させることができる。電極加圧力以外のスポット溶接時の溶接条件、例えば、溶接時の溶接電流および溶接時間などは、一般のスポット溶接条件に準ずれば良く、特に規定する必要はない。
【0031】
ところで、溶接部に十分な圧縮残留応力を導入させるためには、電極で加圧している部分の面圧をある程度高く設定することが必要である。しかし、面圧をあまり高く設定すると、溶接部が変形してその部分の板厚が減少するため、継手の静的強度や疲労強度が低下する。したがって、適度な面圧の値に設定することが重要である。面圧は電極先端径dと電極加圧力Pとの関係で決まるため、面圧を適度な値に設定するためには、この関係を考慮する必要性がある。第2の発明では、電極先端径dと電極加圧力Pの関係を調査した結果、加圧力Pの適正範囲を電極先端径dの関数とすることで、上記第1の発明より一層疲労強度が向上することを見出した。
【0032】
即ち、本発明の第2の発明では、高強度鋼板のスポット溶接において、被溶接材として引張強さTSが430〜1300MPaの範囲内の高強度鋼板を用い、溶接電極として先端径dの電極を用い、スポット溶接時の電極加圧力Pを下記(2)式を満たすように調整することにより、高強度鋼板のスポット溶接時の溶接部近傍に圧縮残留応力を導入して溶接継手の疲労強度を向上させるものである。
0.00510×TS1/2×d2≦P≦0.00645×TS1/2×d2(kN) (2)
但し、TS:被溶接材の引張強さ(MPa)、d:溶接電極の先端径(mm)、P:溶接電極の加圧力(kN)
【0033】
本発明で、被溶接材として用いる高強度鋼板の引張強さTSを430〜1300MPaの範囲に規定した理由は、引張強さが430MPaより低い高強度鋼板を用いてスポット溶接すると、溶接継手の静的強度の向上効果が小さく、高強度化による安全性向上や軽量化による低燃費化、CO2排出量削減のメリットを十分に享受することができないとともに、上記で述べた炭素当量CeqhとCeqtの増加に起因した溶接部の硬さ上昇と靭性低下による溶接継手の疲労強度低下の影響が少ないからである。一方、引張強さが1300MPaより高い高強度鋼板を用いてスポット溶接すると、炭素当量CeqhとCeqtの増加に起因した溶接部の硬さ上昇と靱性低下により、溶接継手の疲労強度向上の効果が認められないからである。第2の発明では、電極加圧力を電極先端径に応じて最適化しているので、圧縮残留応力がより有効に導入されて、疲労強度が向上する鋼板の引張強さTSの範囲を確実に拡大することができる。
【0034】
本発明において、上記第1の発明と同様、電極先端径dを上記(4)式で規定する範囲とすると好ましい。その理由は、電極先端径dが上記(4)式の下限値より低い値になると、溶融径が電極先端径を越えて散りが発生しやすくなるため、十分な継手強度を得るための十分なナゲット径の値が得られなくなるからである。一方、電極先端径dの値が上記(4)式の上限値より高い値になると、電流密度が低下して、同じナゲット径を得るのにより高い電流を必要とするからであり、また、フランジ幅には限界があるため、電極先端径をあまり大きくすることが出来ないからである。したがって、電極先端径の変化、すなわち、電極先端面積の変化に比例させて、面圧が同じになるように加圧力を変化させれば、溶接部に十分な圧縮残留応力を導入させることが可能になるのである。一般的に、より大きなナゲット径を得る場合には、溶融部の径が電極先端径を越えて散りが発生することがないように電極先端径を増加させるが、この時の電極先端径が(4)式の範囲内で変化する場合には、上記(2)式のように加圧力を増加させると好ましい結果を得ることができる。
【0035】
本発明の第3の発明では、上記第1又は第2の発明において、スポット溶接後の電極保持時間を下記(3)式を満たすように調整することにより、高強度鋼板のスポット溶接時の溶接部近傍に圧縮残留応力をより有効に導入して溶接継手の疲労強度を向上させるものである。
130−160×t+210×t2≦HT (3)
但し、t:被溶接材の厚み(mm)、HT:溶接後の電極保持時間(ms)
【0036】
本発明で、被溶接材として用いる高強度鋼板の引張強さTSを430〜1300MPaの範囲に規定した理由は、引張強さが430MPaより低い高強度鋼板を用いてスポット溶接すると、溶接継手の静的強度の向上効果が小さく、高強度化による安全性向上や軽量化による低燃費化、CO2排出量削減のメリットを十分に享受することができないとともに、上記で述べた炭素当量CeqhとCeqtの増加に起因した溶接部の硬さ上昇と靭性低下による溶接継手の疲労強度低下の影響が少ないからである。一方、引張強さが1300MPaより高い高強度鋼板を用いてスポット溶接すると、炭素当量CeqhとCeqtの増加に起因した溶接部の硬さ上昇と靱性低下により、溶接継手の疲労強度向上の効果が認められないからである。第3の発明では、下記で述べるように、溶接後の保持時間HTをある時間以上に設定することにより、低温になるまで溶接部に加圧力がかかるため、圧縮残留応力がより有効に導入されて、疲労強度が向上する鋼板の引張強さTSの範囲を確実に拡大することができる。
【0037】
本発明で、スポット溶接後の電極保持時間HTを上記(3)式で規定する理由は、電極保持時間が上記(3)式の値より低い場合には、溶接部の温度が高くその部分の変形抵抗が低いために加圧力をかけても塑性変形が進み、溶接部近傍に十分な圧縮残留応力が導入されないため、溶接継手の疲労強度の更なる向上効果が認められないからである。スポット溶接時の加圧力Pを上記(1)式又は(2)式で規定する範囲に設定し、また、溶接後の電極保持時間HTを上記(3)式で規定する範囲に設定することによって、温度が低下した状態でも加圧力が十分にかかるため、溶接部に有効に圧縮残留応力が導入され、疲労強度が更に向上するのである。また、溶接後の保持時間を規定することによって、1050〜1300MPa範囲のスポット溶接部の疲労強度を確実に向上させることも可能となった。上記(3)式は、実験により種々の板厚の高強度鋼板について、スポット溶接後の電極保持時間HTおよび板厚tと溶接継手の疲労強度との関係を調査し求めたものである。溶接後の保持時間HTの上限については特に規定しないが、保持時間が長くなりすぎると、溶接電極が水冷されているため、溶接部の冷却速度が速くなって溶接部の硬さが上昇し、また、靱性が低下して、特に剥離方向の継手強度が低下するため望ましくはない。また、溶接終了までの時間が長くなって生産性が落ちる等の問題が生じるため、保持時間は必要最小限とするのが望ましく、例えば、500〜800ms程度の範囲に設定するのが好ましいものと考えられる。電極加圧力と保持時間以外の溶接条件、例えば、溶接時の電流、時間などは、一般のスポット溶接条件に準ずれば良く、特に規定する必要はない。
【0038】
本発明で用いる被溶接材の板厚については、特に規定する必要がなく、一般的に自動車用部材および車体などで使われる鋼板の板厚、例えば、0.4mm〜3.2mm程度であれば本発明の効果を十分奏することができる。また、鋼板の種類については特に限定するものではなく、固溶型、析出型(Ti析出型、Nb析出型)、2相組織型(フェライト中にマルテンサイトを含む組織、あるいはフェライト中にベイナイトを含む組織)、加工誘起変態型(フェライト中に残留オーステナイトを含む組織)、などいずれのタイプの鋼板でも良い。材料の製造方法は、熱間圧延法でも冷間圧延法でも良く、裸鋼板でもめっき鋼板でも良い。被覆するめっきの種類は、導電性のものならいずれの種類(例えば、Zn、Zn−Fe、Zn−Ni、Zn−Al、Sn−Zn、など)であっても良いが、目付量は両面で100/100g/m2以下のものが望ましい。
【0039】
本発明の第4の発明では、上記の第1〜第3の発明で用いる被溶接材として、フェライト中に残留オーステナイトを含有する加工誘起変態型複合組織鋼板を用いることにより、溶接電極の加圧力による溶接部近傍のマルテンサイト変態を促進させ、その変態時の体積膨張により圧縮残留応力を導入して溶接継手の疲労強度を向上させるものである。
【0040】
加工誘起変態型複合組織鋼板は、フェライト中に数%以上の残留オーステナイトを含有し、鋼板の加工時に残留オーステナイトがマルテンサイトに変態することにより高い伸び特性が得られることが知られている。
【0041】
本発明者らは、種々の実験等の検討から被溶接材として加工誘起変態型複合組織鋼板を用いて、スポット溶接時の溶接電極の加圧力を第1の発明で説明した上記(1)式又は第2の発明で説明した上記(2)式の範囲に設定した場合に、組織中に残留オーステナイトを含有しない他の鋼板に比べて、スポット溶接継手の疲労強度が向上することが明らかになった。
【0042】
この疲労強度向上のメカニズムについては十分には明らかになっていないが、加工誘起変態型複合組織鋼板を用いた場合、スポット溶接部周囲の組織中に含まれる残留オーステナイトが溶接電極の加圧力によってマルテンサイト変態し、この変態による体積膨張によってナゲット近傍に弾性歪が蓄積されるため、最終的に高い圧縮残留応力が導入されるのではないかと推定される。従来、ナゲット近傍の熱影響部には引張残留応力が導入されるため、せん断方向に繰り返し荷重を負荷する疲労試験の場合には、この応力集中部で破壊が起こりやすかったが、本発明においてはナゲット近傍への圧縮残留応力の導入により引張残留応力の効果は抑制され、このため従来に比べて溶接継手の疲労強度が向上したものと考えられる。
【0043】
【実施例】
以下に実施例により、本発明の効果を説明する。
【0044】
(第1の実施例)
表1に示す、板厚が1.6mm、引張強さが300〜1372MPaの鋼板を用い、スポット溶接継手の疲れ試験方法(JIS Z3138)に基づいて引張せん断疲労試験片(試験片形状:40×160mm)を作製した。鋼板の品種は、軟鋼(記号:290S)、固溶強化型高強度鋼(記号:440S、590S)、析出強化型高強度鋼(記号:590P)、2相複合組織型高強度鋼(590D、780D、980D、1180D、1370D)である。その後、これらの試験片を、同鋼種・同板厚の組み合わせで重ね合わせ、電極先端径が6.5mmの電極を用い、図2に示すナゲット2のナゲット径が6.3mmになるような条件でスポット溶接を行って溶接継手を作製した。電極形状は、JIS C9304に規定するCR型、先端曲率径は40mm、電極材質はクロム銅である。また、表1に示す電極加圧力上限及び下限は、上記(1)式に基づいて計算したものである。
【0045】
得られた溶接継手について、スポット溶接継手の疲れ試験方法(JIS Z3138)に基づき疲労試験を実施した。表1に示す疲労強度は、疲労試験を応力比:0.05、周波数:30Hzの条件で片振り試験を行った際の2×106回における疲労強度を示す。
【0046】
表1に示す条件No.9の比較例は、溶接電極の加圧力は本発明の規定範囲内であるが、被溶接材である高強度鋼板の引張強さが本発明で規定する上限値:1300MPaを超えているため、溶接金属部の硬さが上昇するとともに靱性が低下し、その結果、溶接継手の疲労強度は低い値を示した。
【0047】
条件No.10〜16の比較例は、溶接電極の加圧力が本発明の規定範囲より低いため、溶接金属部に十分な残留圧縮応力が導入されず、溶接継手の疲労強度は低い値を示した。
【0048】
条件No.17〜23の比較例は、溶接電極の加圧力が本発明の規定範囲より高いため、加圧部表面に大きな圧痕を生じて外観形状が不良となり、また、加圧部の肉厚が薄くなり、溶接継手の疲労強度も低い値を示した。
【0049】
また、条件No.8の比較例は、本発明の高強度鋼板のスポット溶接と比較するために、軟鋼をスポット溶接した例である。
【0050】
一方、溶接電極の加圧力が本発明の規定範囲である条件No.1〜7の発明例は、いずれの鋼種においても、溶接継手の疲労強度は十分高くなり、加圧部表面の圧痕による外観形状が不良もなく良好な溶接継手が得られた。
【0051】
なお、発明者らは、板厚が1.6mm以外の鋼板でも同様の試験を実施したが、同様な結果が得られた。
【0052】
【表1】
【0053】
(第2の実施例)
表2、3に示す、板厚が1.6mm、引張強さが300〜1372MPaの鋼板を用い、スポット溶接継手の疲れ試験方法(JIS Z3138)に基づいて引張せん断疲労試験片(試験片形状:40×160mm)を作製した。鋼板の品種は、軟鋼(記号:290S)、固溶強化型高強度鋼(記号:440S、590S)、析出強化型高強度鋼(記号:590P)、2相複合組織型高強度鋼(590D、780D、980D、1180D、1370D)である。その後、これらの試験片を、同鋼種・同板厚の組み合わせで重ね合わせ、3種類の電極先端径(5.0、6.5、7.5mm)の電極を用い、図2に示すナゲット2のナゲット径が5.0、6.3mmになるような条件でスポット溶接を行って溶接継手を作製した。電極形状は、JIS C9304に規定するCR型、先端曲率径は40mm、電極材質はクロム銅である。また、表2、3に示す電極加圧力上限及び下限は、上記(2)式に基づいて計算したものである。
【0054】
得られた溶接継手について、スポット溶接継手の疲れ試験方法(JIS Z3138)に基づき疲労試験を実施した。表2、3に示す疲労強度は、疲労試験を応力比:0.05、周波数:30Hzの条件で片振り試験を行った際の2×106回における疲労強度を示す。
【0055】
表2、3に示す条件No.9、32、55の比較例は、溶接電極の加圧力は本発明の規定範囲内であるが、被溶接材である高強度鋼板の引張強さが本発明で規定する上限値:1300MPaを超えているため、溶接金属部の硬さが上昇するとともに靱性が低下し、その結果、溶接継手の疲労強度は低い値を示した。
【0056】
条件No.10〜16、33〜39、56〜62の比較例は、溶接電極の加圧力が本発明の規定範囲より低いため、溶接金属部に十分な残留圧縮応力が導入されず、溶接継手の疲労強度が低い値を示した。
【0057】
条件No.17〜23、40〜46、63〜69の比較例は、溶接電極の加圧力が本発明の規定範囲より高いため、加圧部表面に大きな圧痕を生じて外観形状が不良となり、また、加圧部の肉厚が薄くなり、溶接継手の疲労強度も低い値を示した。
【0058】
また、条件No.8、31、54の比較例は、本発明の高強度鋼板のスポット溶接と比較するために、軟鋼をスポット溶接した例である。
【0059】
一方、溶接電極の加圧力が本発明の規定範囲である条件No.1〜7、24〜30、47〜53の発明例は、いずれの鋼種においても、溶接継手の疲労強度は十分高くなり、加圧部表面の圧痕による外観形状不良もなく良好な溶接継手が得られた。
【0060】
なお、発明者らは、板厚が1.6mm板厚の鋼板でも同様の試験を実施したが、同様な結果が得られた。
【0061】
【表2】
【0062】
【表3】
【0063】
(第3の実施例)
表4に示す、板厚が1.6mm、引張強さが300〜1372MPaの鋼板を用い、スポット溶接継手の疲れ試験方法(JIS Z3138)に基づいて引張せん断疲労試験片(試験片形状:40×160mm)を作製した。鋼板の品種は、軟鋼(記号:290S)、固溶強化型高強度鋼(記号:440S、590S)、析出強化型高強度鋼(記号:590P)、2相複合組織型高強度鋼(590D、780D、980D、1180D、1370D)である。その後、これらの試験片を、同鋼種・同板厚の組み合わせで重ね合わせ、3種類の電極先端径(5.0、6.5、7.5mm)の電極を用い、図2に示すナゲット2のナゲット径が5.0、6.3mmになるような条件でスポット溶接を行って溶接継手を作製した。なお、保持時間は600msとした。電極形状は、JIS C9304に規定するCR型、先端曲率径は40mm、電極材質はクロム銅である。また、表4に示す電極加圧力上限及び下限は、上記(2)式に基づいて計算したものである。
【0064】
得られた溶接継手について、スポット溶接継手の疲れ試験方法(JIS Z3138)に基づき疲労試験を実施した。表4に示す疲労強度は、疲労試験を応力比:0.05、周波数:30Hzの条件で片振り試験を行った際の2×106回における疲労強度を示す。
【0065】
表4に示す条件No.9、18、27の比較例は、溶接電極の加圧力、溶接後の保持時間は本発明の規定範囲内であるが、被溶接材である高強度鋼板の引張強さが本発明で規定する上限値:1300MPaを超えているため、溶接金属部の硬さが上昇するとともに靱性が低下し、その結果、溶接継手の疲労強度は低い値を示した。
【0066】
条件No.8、17、26の比較例は、本発明の高強度鋼板のスポット溶接と比較するために、軟鋼をスポット溶接した例である。
【0067】
一方、条件No.1〜7、10〜16、19〜25の発明例では、溶接電極の加圧力が本発明の上記(2)式の範囲内にあると同時に、溶接後の電極保持時間が本発明の上記(3)式の範囲内にある。そのため、いずれの電極径、鋼種においても、溶接電極の加圧力は本発明の規定範囲であるが溶接後の保持時間が上記(3)式の範囲からは外れる実施例1、実施例2の場合に比べて、溶接継手の疲労強度はより一層高い値を示し、加圧部表面の圧痕による外観形状が不良もなく極めて良好な溶接継手が得られた。
【0068】
なお、発明者らは、板厚が1.6mm以外の鋼板でも同様の試験を実施したが、同様な結果が得られた。
【0069】
【表4】
【0070】
(第4の実施例)
表5に示す、板厚が0.8〜1.6mm、引張強さが594〜1374MPaの加工誘起変態型複合組織高強度鋼板(記号:590T、780T、980T、1180T、1380T)と、比較用として、板厚が0.8〜1.6mm、引張強さが296〜300MPaの軟鋼板(記号:290S)、板厚が1.0、1.6mm、引張強さが592〜594MPaである固溶強化型高強度鋼板(記号:590S)、析出強化型高強度鋼板(記号:590P)、および2相複合組織型高強度鋼板(590D)を用いて、スポット溶接継手の疲れ試験方法(JIS Z3138)に基づいて引張せん断疲労試験片(試験片形状:40×160mm)を作製した。
【0071】
その後、これらの試験片を、同鋼種・同板厚の組み合わせで重ね合わせ、5種類の先端径(4.5〜7.5mm)の電極を用い、表5で示した条件で、図2で示すナゲット2のナゲット径が5×t1/2mm(ただし、tは板厚(mm))になるような条件(表5の条件)でスポット溶接を行って溶接継手を作製した。電極形状は、JIS C9304に規定するCR型、先端曲率径は40mm、電極材質はクロム銅である。また、表5に示す電極加圧力上限及び下限は、上記(2)式に基づいて計算したものである。
【0072】
得られた溶接継手について、スポット溶接継手の疲れ試験方法(JIS Z3138)に基づき疲労試験を実施した。表5に示す疲労強度は、疲労試験を応力比:0.05、周波数:30Hzの条件で片振り試験を行った際の2×106回における疲労強度を示す。
【0073】
表5に示す条件No.1〜4、7〜10、16〜19、22〜25、31〜34、40〜43の発明例は、引張強さが594〜1186MPaの加工誘起変態型複合組織高強度鋼板を用いた場合であるが、何れの条件においても、条件No.5、11、20、26、35、44の比較例である軟鋼板を用いた場合に比べて、溶接継手の疲労強度が向上した。
【0074】
表5に示す条件No.6、12、21、27、36、45の比較例は、引張強さが1372〜1374MPaの場合であり、引張強さが本発明の範囲より高いため、条件No.5、11、20、26、35、44の比較例である軟鋼板の場合に比べて疲労強度は向上しなかった。
【0075】
また、引張強さが592〜594MPaの加工誘起変態型複合組織以外の鋼板を用いた場合(条件13〜15、28〜30、37〜39、46〜48)にも、軟鋼の場合(条件No.11、26、35、44)に比べて疲労強度は向上するが、加工誘起変態型複合組織鋼板を用いた場合(条件No.7〜10、22〜25、31〜34、40〜43)の方がその疲労強度の向上代は大きかった。
【0076】
表5に示す条件No.40〜43は、電極加圧力が本発明範囲内にあると同時に、溶接後の保持時間が本発明の上記(3)式を満たす範囲にある。その結果、溶接後の保持時間が(3)式の範囲外である本発明例(No.22〜25)に比較して、溶接継手の疲労強度はより一層高い値を示し、加圧部表面の圧痕による外観形状が不良もなく極めて良好な溶接継手が得られた。
【0077】
【表5】
【0078】
【発明の効果】
本発明は、主に自動車用部品および車体などの組立に用いられる高強度鋼板のスポット溶接方法において、良好な溶接作業性を確保しつつ溶接継手の疲労強度特性を向上させることができる。これにより自動車分野などでの高強度鋼板の適用による安全性向上や軽量化による低燃費化、CO2排出量削減のメリットなどを十分享受でき、社会的な貢献は多大である。
【図面の簡単な説明】
【図1】スポット溶接部の疲労試験を説明するための断面図である。
【図2】本発明におけるスポット溶接方法を説明するための断面図である。
【図3】引張強さTS:593MPaの高強度鋼板をスポット溶接する際の溶接電極の加圧力P1および板厚さtと溶接継手の疲労強度の評価結果(○、×)との関係を示すグラフ。
【符号の説明】
1 高強度鋼板
2 ナゲット
3 負荷方向
4 溶接電極
5 加圧力
Claims (3)
- 高強度鋼板のスポット溶接において、被溶接材として引張強さTSが430〜1300MPaの範囲内の高強度鋼板を用い、スポット溶接時の電極加圧力Pを下記(1)式および(4)式を満たすように調整して溶接し、かつスポット溶接後の電極保持時間HTを下記(3)式を満たすように調整することを特徴とする高強度鋼板のスポット溶接方法。
0.134×t×TS1/2 ≦P≦0.170×t×TS1/2 (kN) (1)
130−160×t+210×t 2 ≦HT(ms) (3)
4×t1/2 ≦d≦6.5×t1/2 (mm) (4)
但し、t:被溶接材の厚み(mm)、TS:被溶接材の引張強さ(MPa)、P:溶接電極の加圧力(kN)、d:溶接電極の先端径(mm)、HT:溶接後の電極保持時間(ms) - 高強度鋼板のスポット溶接において、被溶接材として引張強さTSが430〜1300MPaの範囲内の高強度鋼板を用い、スポット溶接時の電極加圧力Pを下記(2)式および(4)式を満たすように調整して溶接し、かつスポット溶接後の電極保持時間HTを下記(3)式を満たすように調整することを特徴とする高強度鋼板のスポット溶接方法。
0.00510×TS1/2 ×d2 ≦P≦0.00645×TS1/2 ×d2 (kN) (2)
130−160×t+210×t 2 ≦HT(ms) (3)
4×t1/2 ≦d≦6.5×t1/2 (mm) (4)
但し、TS:被溶接材の引張強さ(MPa)、d:溶接電極の先端径(mm)、P:溶接電極の加圧力(kN)、t:被溶接材の厚み(mm)、HT:溶接後の電極保持時間(ms) - 前記高強度鋼板が、組織中に残留オーステナイトを含有する加工誘起変態型複合組織鋼板であることを特徴とする請求項1又は2に記載の高強度鋼板のスポット溶接方法。
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