JP3872873B2 - 使用済み燃料の溶融塩電解再処理方法 - Google Patents

使用済み燃料の溶融塩電解再処理方法 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、使用済み燃料の溶融塩電解再処理方法に係わり、さらに詳しくは、原子力発電所で使用済みの燃料を溶融塩電解により再処理する方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来から、原子力発電所で使用済みの、酸化ウラン、アルカリ金属元素、貴金属元素、希土類元素、および原子炉内で生成したプルトニウム等の超ウラン元素(TRU)を含む燃料を再処理するには、せん断し脱被覆した後、NaClやKClのような溶融塩中で、陽極と陰極との間に電圧をかけて電解を行なう溶融塩電解方法が行なわれている。
【0003】
この方法においては、陽極で塩の電解により発生した塩素ガスによって、使用済み燃料の各成分が溶融塩中に溶解し、一方陰極で、電気的に還元されて酸化ウラン(UO2 )等が顆粒状酸化物として回収される。そして、この溶解および電解回収工程で残った溶融塩に、塩素と酸素の混合ガスを吹き込むことにより、プルトニウムとネプツニウムのイオンがそれぞれ酸化され、かつ電解によりPuO2 、およびNpO2 が回収されるように構成されている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、このような従来からの溶融塩電解再処理方法においては、以下に示すような種々の問題があった。すなわち、
1)陽極溶解工程で、使用済み燃料に含まれている貴金属元素が溶融塩中に溶解するが、これら貴金属イオンが析出する電位(酸化還元電位)がウラニルイオンのそれと極めて近いため、陰極で貴金属元素も同時に析出してしまい、回収したUO2 中に貴金属が混入してしまう。
2)パイログラファイトのような電解槽(電解るつぼ)を構成する材料が、ウラニルイオンによって腐食されやすいため、るつぼの寿命が1000〜2000時間と短い。
3)ウラナスイオンやプルトナスイオンの酸化処理に時間がかかる。
4)溶融塩から発生する揮発性成分が、電解槽内の各部に付着し、配管等の目詰まりを引き起こしやすい。
などの問題があった。
【0005】
本発明は、これらの問題を解決するためになされたもので、使用済み燃料の溶融塩電解による再処理において、貴金属元素等の不純物の混入のない、より高品質の燃料成分を回収することができ、また電解槽を構成するるつぼ基材の腐食を抑制し、寿命の延長が可能な溶融塩電解再処理方法を提供することを目的とする。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明の使用済み燃料の溶融塩電解再処理方法は、使用済み燃料をせん断し脱被覆した後、溶融塩中で電解を行ない、陽極で溶解するとともに、所要の成分を陰極に析出させて回収する溶融塩電解再処理方法において、脱被覆された前記使用済み燃料を、陽極バスケット中で還元剤と混合しながら溶解し、かつ電解のはじめに、電極電位を制御することで陰極に貴金属イオンを選択的に析出させて回収することを特徴とする。
【0010】
本第1の発明の溶融塩電解再処理方法においては、使用済み燃料を陽極バスケット中でカーボン等の還元剤と混合しながら溶解することにより、燃料中のウラニルイオンが、ウラナスイオンに還元される。そして、ウラナスイオンと貴金属イオンとでは、これらが陰極で析出する電位(酸化還元電位)の差が大きいので、陰極の電位を制御することで、貴金属元素のみを選択的に陰極に析出させて回収することができる。その後、ウラナスイオン等を酸素のような酸化性ガス(酸化剤)により酸化してウラニルイオンとし、これを酸化物あるいは複合酸化物の形で陰極に析出させることにより、貴金属元素のような不純物の混入のない高品質の燃料を回収することができる。
【0011】
また、このような陽極溶解同時電解における電解槽の腐食は、電解槽のるつぼ基材上に、BeO、SiO2 、ΖrO2 のような耐蝕性に優れた酸化物、あるいはそれらの複合酸化物を被覆することにより、効果的に抑えることができる。
【0015】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施例を図面に基づいて説明する。
【0016】
図1は、本発明の使用済み燃料の溶融塩電解再処理方法の一実施例を示すフローチャートである。
【0017】
原子力発電所の使用済み燃料の中には、酸化ウラン、アルカリ金属元素、貴金属元素、希土類元素、および原子炉内で生成したプルトニウム等の超ウラン元素(TRU)が存在する。本実施例の方法は、図1に示すように、前記した使用済み燃料をせん断し被覆を剥脱するせん断・脱被覆工程と、脱被覆された使用済み燃料を陽極で溶解し、貴金属元素を陰極に析出させる溶解・析出工程と、ウランおよびプルトニウムイオンの酸化工程と、ウランおよびプルトニウムの酸化物の電解による析出工程と、しぼり電解工程とを備えている。
【0018】
そして、溶解・析出工程は、例えば以下に示すようにして実施される。すなわち、図2に示すように、せん断・脱被覆された使用済み燃料1を、顆粒状の炭素2と混合してグラファイト製のバスケット(陽極バスケット)3内に収容し、このバスケット3を溶融塩4中に浸漬する。また、グラファイト製の陰極5も溶融塩4中に下ろした後、バスケット3を陽極として陰極5との間に直流電圧を印加し、陽極溶解同時電解を行なう。なお、図において符号6は、電気炉のような加熱手段(図示を省略。)を備えた電解槽を示す。また、この工程中、陽極バスケット3および陰極5は、いずれも軸の回りに回転(自転)されている。
【0019】
電解により、陽極では(1)式で示す反応が起こり、塩素ガス(Cl2 )が発生する。そして、発生した塩素ガスにより、陽極バスケット3中の使用済み燃料1は、(2)式で示す反応によって溶解し、ウラニルイオン(UO2 2+)を生成する。生成したウラニルイオンとプルトニウムイオンは、それぞれ(4)、(5)式で示す反応で顆粒状炭素17によって還元され、ウラナスイオン(U4+)およびプルトナスイオン(Pu4+)になる。
【0020】
一方陰極では、使用済み燃料1から(3)式の反応により溶解した貴金属イオンを、電極電位を-0.4V付近に制御することにより回収する((6)式で示す。)こうして、陰極において選択的に貴金属元素を回収することができるのは、次の理由による。
【0021】
図3に、代表的な核種の酸化還元電位を示す。ウラニルイオン(UO2 2+)の酸化還元電位は-0.4V付近にあり、Pd、Rh、Ruのような貴金属元素の酸化還元電位も-0.4V付近にある。一方、ウラナスイオン(U4+)およびプルトナスイオン(Pu4+)の酸化還元電位は-2.0V以下で、Pd、Rh、Ruの酸化還元電位と大きく異なっていることがわかる。従来の方法で電解を行なった場合には、ウラニルイオン(UO2 2+)と貴金属イオン(Pd、Rh、Ru)とでは酸化還元電位が近いために、両者が同時に析出してしまうが、実施例では、UO2 2+を還元してU4+にしているので、陰極の電位を-0.4V付近に制御して電解を行なうことによって、Pd、Rh、Ruだけを陰極上に析出させることができる。こうして溶融塩中の貴金属元素を先に回収して除去することができるので、後工程で回収されるUO2 への貴金属元素の混入を防ぐことができる。
【0022】
Figure 0003872873
このような溶解・析出工程の後、ウランおよびプルトニウムイオンの酸化工程、次いでウラン等の酸化物の電解析出工程が、以下に示すように行なわれる。
【0023】
すなわち、この第2の実施例では、前記した溶解・析出工程で貴金属元素を析出・回収した陰極を引き抜き、その代わりに、図4に示すように、新たなUO2 回収のための陰極5とガス吹き込み管7とを、それぞれ溶融塩4中に設ける。そして、ガス吹き込み管7から酸素のような酸化性のガス(酸化剤)8を吹き込みながら、陰極5に-0.4V程度の電圧を印加して電解を行なう。
【0024】
このとき、溶融塩4中のウラナスイオン(U4+)およびプルトナスイオン(Pu4+)は、それぞれ(7)式および(8)式に示すように酸素によって酸化され、ウラニルイオンおよびプルトニウムイオンとなる。生成したウラニルイオンおよびプルトニウムイオンは、陰極で(9)式、(10)式、および(11)式に示すように反応し、UO2 あるいはPuO2 の形で陰極上に析出し回収される。
【0025】
4++O2 →UO2 2+ (7)
Pu4++O2 →PuO2 2+ (8)
UO2 2++2e- →UO2 (9)
PuO2 2++e- →PuO2 + (10)
PuO2 + +e- →PuO2 (11)
なお、このような第2の実施例では、撹拌型のガス吹き込み管を使用して、酸化性ガスの吹き込みを行なうことができる。このガス吹き込み管においては、図5(a)および(b)にそれぞれ示すように、先端部に4つのガス吹き出し口9が、ガス噴出方向が90°ずつ変わるように風車形に配設されており、溶融塩4中に酸化性ガス8の流れが発生するようになっている。また、これらのガス吹き出し口9には、セラミックス製またはグラファイト製のミスト発生用フィルター10が取り付けられ、ガスが細かい泡状になって溶融塩4中に吹き込まれるようになっている。そのため、このような撹拌型のガス吹き込み管7を使用した場合には、酸素のような酸化性ガス8と溶融塩4中の反応物質との接触面積が増大するので、反応時間が大幅に短縮される。そして、反応時間の短縮により、プロセスの操作時間も短縮されるので、一定の時間により多くのプロセスを効率的に実施することができる。
【0026】
次に、本発明の別の実施例について説明する。
【0027】
第3の実施例では、第2の実施例で、ウランおよびプルトニウムをUO2 あるいはPuO2 の形で陰極上に析出・回収した後、溶融塩中に残存しているアメリシウム(Am)、キュリウム(Cm)のようなマイナーアクチノイドを、印加電圧を上げ陰極電位をこれらの析出電位まで下げることにより、前記工程で回収できずに残っているウラニルイオンおよびプルトニウムイオンとともに、陰極に析出させて回収する。
【0028】
AmイオンおよびCmイオンの陰極における反応を、それぞれ以下の(12)式および(13)式にそれぞれ示す。
【0029】
Am3++3e- →Am (12)
Cm3++3e- →Cm (13)
第4の実施例では、第1の実施例で使用したグラファイト製陰極(固体陰極)の代わりに、図6に示すように、Cdのような液体陰極11を使用し、この液体陰極11を溶融塩4中に投入する。そして、液体陰極11へのコンタクトとして、溶融塩4との接触部に絶縁被覆12を施した、例えばグラファイト製の液体陰極用コンタクト13を用い、陰極電位を-0.4V付近に制御して電解を行ない、液体陰極11に貴金属元素を析出させる。こうして、溶融塩4中の貴金属元素を回収除去することで、最終的に回収するUO2 への貴金属元素の混入を防ぐことができる。
【0030】
第5の実施例では、図7に示すように、Cdのような液体金属14を電解槽6の底部に投入するとともに、陽極バスケット3と固体陰極5との間に、例えばセラミックス製の絶縁隔壁15を設置し、陽極と陰極との間に直接電流が流れず、液体金属14を経由して流れるようにする。そして、その他の部分は第1の実施例と同様に構成して電解を行ない、溶融塩4中に溶解した貴金属元素を液体金属14で回収した後、固体陰極5を配置して、再び電解を行なう。
【0031】
この実施例では、電解槽6底部に配置した液体金属14を通過させて電解を行ない、液体金属14に溶解する金属のみを析出・回収することにより、液体金属14に溶解しない他の核分裂生成物(FP)と分離することができ、除染性能を向上させることができる。
【0032】
ここで、これら第1乃至第5の実施例で使用される電解槽について説明する。
これらの電解槽としては、図8(a)に示すように、グラファイト、SUSあるいはセラミックからなる基材16の内表面に、べリリア(BeO)、シリカ(SiO2 )、ジルコニア(ΖrO2 )、アルミナ(Al2 3 )等の単独あるいは複合したもの(複合酸化物)が、プラズマ溶射により被覆されているるつぼを使用することが望ましい。プラズマ溶射被覆層を、符号17で示す。
【0033】
従来から使用されているグラファイト製の電解るつぼは、ウラニルイオン、プルトニウムイオン等の酸化物イオンによって酸化されやすく、その結果るつぼの使用寿命が短くなっていたが、前記した酸化物または複合酸化物のプラズマ溶射被覆層17を設けることで、ウラニルイオン等による腐食を防止することができ、るつぼの寿命を大幅に延長することができる。
【0034】
また、このような基材16の内表面にプラズマ溶射被覆層17が設けられた電解るつぼにおいては、プラズマ溶射被覆層17の表面にさらにシリカ等の溶射材料を溶射することで、被覆層17表面に存在する空孔を封止することが望ましい。このような封孔処理を施すことで、腐食の主因となる孔食の発生を抑えることができ、その結果るつぼの寿命をさらに延長することができる。
【0035】
さらに、実施例において電解処理を行なう場合、電解るつぼの腐食は、気相と液相との界面で最も激しいことが知られている。したがって、図8(b)に示すように、るつぼの気液界面付近で基材16に切削加工を施し、この部分の溶射被覆層17を厚密に形成することが望ましい。このように、腐食の激しい部分に溶射被覆層の厚密部17aを形成し、その部分の耐食性をその他の部分に比べて向上させることで、るつぼ全体としての寿命をより効果的に延長することができる。 またさらに、電解るつぼの寿命は、溶融塩として、NaCl−KClに代えてNaCl−KCl−CsClまたはNaCl−CsClを使用することにより、延長される。
【0036】
図9に、従来からるつぼ基材として使用されているパイログラファイトの腐食速度の温度依存性を示す。このグラフから明らかなように、腐食速度には温度依存性があり、低温になるほど腐食速度が遅くなる。 700℃と 600℃で腐食速度を比較すると、 600℃では 700℃のときの半分以下の値に、腐食速度が低下することがわかる。また、各混合塩の融点を、下表に示す。
【0037】
NaCl−KClは融点が 660℃であり、電解工程での溶融塩として使用するには、融点よりも15℃程度高い温度とすることが必要であるので、NaCl−KClを使用する場合には、 700℃付近の温度でプロセスを操作しなければならない。一方、NaCl−KCl−CsClあるいはNaCl−CsClは、融点が 500℃付近であるので、これらの混合塩を使用する場合には、プロセスを 550℃〜 600℃の温度で操作することができる。したがって、これらの混合塩を使用することによって、プロセスの操作温度を下げることができる。その結果、電解るつぼの腐食速度が低下し、るつぼの寿命が延長される
Figure 0003872873
また、第1乃至第5の実施例においては、電解処理装置を以下に示すような構造とすることができる。
【0038】
すなわち、図10に示す構造では、電解槽6内の上部、すなわち溶融塩4の液面より上方に、セラミックス製またはグラファイト製の分散捕集板18を設置して電解を行ない、電解槽6内で揮発した塩を分散捕集板18上に付着させて捕集するようになっている。
【0039】
従来から電解槽6内の排気は、排気系配管19を介して強制的に行われるため、排気系配管19に引き込まれた揮発塩は、配管内で冷却されて固形の塩として付着し、配管に目詰まり等を生じさせていたが、図10に示す電解槽では、内部に多数の分散捕集板18を設け、揮発した塩を分散捕集板18に付着させて捕集するように構成されているので、塩が排気系配管19に入り込むことがなくなり、配管の目詰まりが起こりにくくなる。したがって、配管の交換回数を減らすことができる。
【0040】
さらに、図11に示す電解処理装置においては、電解槽6がホットセル20内に収納されており、ホットセル20内部の圧力を測定するホットセル用圧力計21と、電解槽6内の圧力を測定する電解槽用圧力計22とがそれぞれ設置されている。また、これらの圧力計の測定結果をモニターして制御する圧力制御装置23と、排気量を変えることができるブロアー24がそれぞれ設置されている。そして、電解槽用圧力計22の出力(信号)とホットセル用圧力計21の出力(信号)とが、それぞれ計装用ケーブル25により圧力制御装置23に入力され、圧力制御装置23では、両者の圧力を比較し
(電解槽内の圧力)≧(ホットセル内部の圧力)
となったとき、ブロアー24に制御信号を出力し、一定時間電解槽6からの排気量を増大させ、電解槽6内の圧力を下げるように構成されている。
【0041】
このように、電解槽6内の圧力がホットセル20内部の圧力よりも常に低くなるように制御されているので、電解槽6内で発生した塩素ガスのホットセル20への漏洩を防ぐことができる。なお、図中、符号26は電気炉、27は塩素ガス吸着塔、28はフィルターをそれぞれ示している。
次に、本発明の実施例を行なう前の、せん断・脱被覆工程および溶解・析出の前処理工程について、詳しく説明する。
【0042】
まず、使用済み燃料のせん断・脱被覆工程は、以下に示すように行なうことができる。
【0043】
すなわち、図12に示すように、電解槽6に、溶融塩4とCdのような液体金属14を投入し、この溶融塩4中に使用済み燃料被覆管1aを入れた陽極バスケット3を浸漬する。そして、この状態でガス吹き込み管7から液体金属14中に、HClガスまたは塩素29を吹き込こむと、(14)式に示す反応が生起して、塩化カドミウムが生成する。塩化カドミウムは塩に溶解するため、生成した塩化カドミウムは、液体金属14の上層の溶融塩4中に融解する。この塩化カドミウムと使用済み燃料1とが溶融塩4中で接触すると、塩化カドミウムと塩化ジルコニウムでは塩化ジルコニウムの方が安定なため、(15)式で示す塩化物の置換反応が起こり、被覆管の主成分であるジルコニウムは塩化物となって溶融塩4中に溶解し、塩化カドミウムは再び金属カドミウムとなる。
【0044】
Cd+2HCl(Cl2 )→CdCl2 +H2 (14)
Zr+2CdCl2 →ZrCl4 +2Cd (15)
こうして被覆管の剥脱が行なわれ、脱被覆された使用済み燃料は、次の溶解・析出工程に移される。溶融塩中に溶解した塩化ジルコニウムは、溶融塩中に酸素を吹き込むことで酸化ジルコニウムとして(反応を(16)式に示す。)沈殿させる。沈殿後、蒸留により酸化ジルコニウムとカドミウムとが分離され、それぞれ再利用される。なお、このような脱被覆方法において、液体金属としては、カドミウムの代わりに鉛またはビスマスを使用することも可能である。
【0045】
ZrCl4 +O2 →ZrO2 +2Cl2 (16)
次いで、溶解・析出の前処理工程では、図13に示すように、せん断、脱被覆した使用済み燃料を、グラファイト製等の陽極バスケット3に入れ、これを溶融塩4の液面より上方の電解槽6内に保持し、この状態で、酸素または酸素と塩素との混合ガス30を吹き込みながら加熱する。そして、まず二酸化ウランを酸化して表面積を増大させ、揮発性のセシウム、よう素を揮発させて除去した後、塩素と接触させて、使用済み燃料に含まれているルテニウム、テクネチウム、ロジウム、パラジウムをそれぞれ揮発させて分離除去する。このような前処理を行なうことにより、使用済み燃料中の揮発性のFPが効率的に分離・除去される。
【0046】
なお、このような前処理工程は、図14(a)、(b)にそれぞれ示すような、2つの処理ゾーン31、32を有するハイブリッド型電解槽33により、2つの陽極バスケット3を使用して行なうことで、より効率的に行なうことが可能である。このハイブリッド型電解槽33は、上部に、電気炉26のような加熱手段を備えた2つの処理ゾーン31、32を有しており、各処理ゾーンは、下部に設けられた可動式の多孔板34により、溶融塩4の収容された下部と隔離されている。そして、これらの処理ゾーン31、32には、上方から陽極バスケット3が投入され、ここで所定の前処理が行なわれた後、処理済みの陽極バスケット3は、多孔板34の移動により連通された下部に下ろされるようになっている。
【0047】
すなわち、まず一方の処理ゾーン31の陽極バスケット3において、前処理が行なわれるが、このとき他方の処理ゾーン32で既に前処理が行なわれた陽極バスケット3は、下方に下ろされ溶融塩4内で電解される。次いで、処理ゾーン31の陽極バスケット3を下方に下ろして、溶融塩電解による溶解・析出を行ない、同時に処理ゾーン32には別の陽極バスケット3が投入されて前処理がなされる。
【0048】
こうして、2つの処理ゾーン31、32と2つの陽極バスケット3を使用して前処理を行なうことにより、溶解・析出工程で溶融塩4中への吹き込みに用いる酸素あるいは酸素と塩素との混合ガス30を、処理ゾーン31、32に導入して前処理用のガスとして利用することができ、反応ガスを有効に利用することができる。
【0068】
【発明の効果】
以上の説明から明らかなように、本発明の使用済み燃料の溶融塩電解再処理方法によれば、回収する燃料中への貴金属元素等の不純物の混入を低減することができ、より高品質の燃料を得ることができる。また、使用済み燃料の陽極側での溶解と核燃料物質の陰極側での析出を同時に効率よく行なうことができ、使用済み燃料の処理効率を向上させることができる。さらに、アメリシウムやキュウリウムのようなマイナーアクチノイドとわずかに残るウラン、プルトニウムをともに回収することができ、これらの超半減期核種を再び炉心で消滅処理することができる。またさらに、従来からの沈殿法の処理時間と比べて、30分程度と極めて短時間で処理を行なうことができ、プロセスの操業時間が大幅に短縮される。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明の使用済み燃料の溶融塩電解再処理方法の一実施例を示すフローチャート。
【図2】 本発明における溶解・析出工程の一実施例を模式的に示す断面図。
【図3】 本発明の第1の実施例に係わる代表的核種の酸化還元電位を示す図。
【図4】 本発明の第2の実施例に使用する電解装置の構造を模式的に示す断面図。
【図5】 第2の実施例に使用する撹拌型ガス吹き込み管を示し、(a)は斜視図、(b)は平面図。
【図6】 本発明の第4の実施例に使用する電解装置の構造を模式的に示す断面図。
【図7】 本発明の第5の実施例に使用する電解装置の構造を模式的に示す断面図。
【図8】 本発明の第1乃至第5の実施例で使用する、耐食被覆を施した電解槽の構造を示す断面図。
【図9】 従来の電解るつぼ材料であるパイログラファイトの腐食速度の温度依存性を表すグラフ。
【図10】 本発明の第1乃至第5の実施例で使用する、分散捕集板が設けられた電解槽を示す断面図。
【図11】 本発明の第1乃至第5の実施例で使用する、圧力制御システム付きの電解処理装置を示す系統図。
【図12】 本発明の実施例における脱被覆の方法の一例を模式的に示す図。
【図13】 本発明の実施例において、前処理を行なうための電解槽の構造の一例を模式的に示す図。
【図14】 本発明の実施例において、前処理を行なうための電解槽の構造の別の例を模式的に示す図。
【符号の説明】
1……使用済み燃料
2……顆粒状炭素
3……陽極バスケット
4……溶融塩
5……グラファイト製陰極
6……電解槽
7……ガス吹き込み管
8……酸化性ガス
9……ガス吹き出し口
11……液体陰極
13……液体陰極用コンタクト
14……液体金属
15……絶縁隔壁
16……るつぼ基材
17……プラズマ溶射被覆層
18……分散捕集板
20……ホットセル
21……ホットセル用圧力計
22……電解槽用圧力計
23……圧力制御装置
24……ブロアー
26……電気炉
30……酸素または酸素と塩素との混合ガス
31、32……処理ゾーン
33……ハイブリッド型電解槽
34……可動式多孔板

Claims (13)

  1. 使用済み燃料をせん断し脱被覆した後、溶融塩中で電解を行ない、陽極で溶解するとともに、所要の成分を陰極に析出させて回収する溶融塩電解再処理方法において、
    脱被覆された前記使用済み燃料を、陽極バスケット中で還元剤と混合しながら溶解し、かつ電解のはじめに、電極電位を制御することで陰極に貴金属イオンを選択的に析出させて回収することを特徴とする使用済み燃料の溶融塩電解再処理方法。
  2. 前記貴金属イオンを選択的に析出・回収した後、前記溶融塩中の金属イオンを酸化剤により酸化し、酸化物または複合酸化物として陰極に析出させることを特徴とする請求項1記載の使用済み燃料の溶融塩電解再処理方法。
  3. 前記金属イオンを酸化する工程で、前記溶融塩中に酸化性のガスを、細かい泡状にしてかつ該溶融塩に流れを発生させるように吹き込むことを特徴とする請求項2記載の使用済み燃料の溶融塩電解再処理方法。
  4. 前記金属の酸化物または複合酸化物を析出・回収した後、電極電位を制御することで、前記溶融塩中に残存するマイナーアクチノイドのイオンを陰極に析出させて回収することを特徴とする請求項2または3記載の使用済み燃料の溶融塩電解再処理方法。
  5. 前記貴金属イオンを析出させて回収する陰極として、液体金属の電極を使用することを特徴とする請求項1記載の使用済み燃料の溶融塩電解再処理方法。
  6. 前記電解を行なう電解槽において、前記溶融塩を収容するるつぼの内表面が、ベリリア(BeO)、シリカ(SiO)、ジルコニア(ΖrO)、アルミナ(Al)から選ばれた単独の酸化物またはこれらの複合酸化物により被覆されていることを特徴とする請求項1または2記載の使用済み燃料の溶融塩電解再処理方法。
  7. 前記酸化物または複合酸化物の被覆層の表面が、セラミック材料の溶射により封孔処理が施されていることを特徴とする請求項記載の使用済み燃料の溶融塩電解再処理方法。
  8. 前記酸化物または複合酸化物の被覆層において、前記溶融塩からなる液相とその上部の気相との界面に接触する気液界面部の厚さが、その他の部分の厚さより厚く形成されていることを特徴とする請求項または記載の使用済み燃料の溶融塩電解再処理方法。
  9. 前記溶融塩として、NaCl−CsCl系またはNaCl−KCl−CsCl系の塩化物を使用し、 550〜 600℃の温度で電解を行なうことを特徴とする請求項1乃至のいずれか1項記載の使用済み燃料の溶融塩電解再処理方法。
  10. 前記電解槽内で前記溶融塩の液面より上方に、セラミックス製またはグラファイト製の分散捕集板を設置し、該分散捕集板に前記溶融塩からの揮発物を付着させ、他の部分への付着を抑制することを特徴とする請求項1乃至のいずれか1項記載の使用済み燃料の溶融塩電解再処理方法。
  11. 前記電解槽を収納するホットセルを設けるとともに、前記電解工程で、前記電解槽の内部圧力を前記ホットセルの内部圧力よりも常に低く調整し、前記電解槽内で発生した塩素ガスの前記ホットセルへの漏洩を防止することを特徴とする請求項1乃至のいずれか1項記載の使用済み燃料の溶融塩電解再処理方法。
  12. せん断された前記使用済み燃料を、塩化カドミウムを含む溶融塩と接触させ、被覆管の主成分であるジルコニウムを塩化物として、前記溶融塩中に溶解させることによって脱被覆することを特徴とする請求項1記載の使用済み燃料の溶融塩電解再処理方法。
  13. せん断し脱被覆された前記使用済み燃料を、前記溶融塩中で電解を行なう前に、加熱、酸化、塩素化の各処理を行なうことによって、前記燃料中の揮発性の核分裂生成物を除去することを特徴とする請求項1記載の使用済み燃料の溶融塩電解再処理方法。
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