JP3872425B2 - 表面処理塩基性炭酸マグネシウム及びその製造方法 - Google Patents

表面処理塩基性炭酸マグネシウム及びその製造方法 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、表面処理された塩基性炭酸マグネシウム及びその製造方法に関する。より詳しくは、独特かつ新規な形状の薄片状微細結晶からなる管状凝集粒子の塩基性炭酸マグネシウムの特性を活用するために、その表面特性を改善した表面処理塩基性炭酸マグネシウム及びその製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
工業的に利用されている塩基性炭酸マグネシウムは、一般に炭マグとも呼ばれているものであり、化学式mMgCO3・Mg(OH)2・nH2Oで表される。この化学式におけるm及びnの値については、製造条件によって変化し、一定のものではなく、mは3〜5、nは3〜8のものが一般的である。
【0003】
この塩基性炭酸マグネシウムは、通常、薄片状微細結晶の不定形凝集粒子として得られ、嵩密度は0.2〜0.3g/mLと低く、比表面積は10〜40m2/gと比較的高いなどの特性をもつ。また、それは、上記したような特性を活かして、ゴム、塗料、製紙、医薬品、化粧品、建材、窯業原料などの分野で、利用されている。特にゴム用フィラーとしては、配合した天然ゴムに透明感を与える、ゴムの強度を向上させるなどの特性を有している。
【0004】
その塩基性炭酸マグネシウムの製造方法としては、塩化マグネシウム等の可溶性マグネシウム塩と炭酸ナトリウムとの反応を利用したソーダ灰法、可溶性マグネシウム塩と炭酸アンモニウムとの反応を利用した炭安法、水酸化マグネシウムと炭酸ガスとの反応を利用したガス法など多くのものがある。いずれの方法においても、マグネシウム源と炭酸源との反応により中間生成物として得られる正炭酸マグネシウム(化学式MgCO3・nH2Oで表され、n=3のものが一般的)あるいは重炭酸マグネシウム(Mg(HCO32)を長時間熟成することによって塩基性炭酸マグネシウムを生成させる。
【0005】
この塩基性炭酸マグネシウムに関する研究開発は古くから行われてきており、例えば、特許文献1においては、正炭酸マグネシウムを含有する懸濁液を適切な温度条件にて熟成することにより、短時間でかつゴム用フィラーとして優れた性能をもつ塩基性炭酸マグネシウムを製造する方法が、特許文献2においては、水溶性硫酸塩の存在下で水溶性マグネシウム源と水溶性炭酸塩とを反応させることにより、合成樹脂の填料として優れた性能をもつ塩基性炭酸マグネシウムを製造する方法が提案されている。
【0006】
また、特許文献3においては重炭酸マグネシウム水溶液を循環させながら加熱することによって得られる特定吸油量及び比表面積を有する塩基性炭酸マグネシウムが、特許文献4においては正炭酸マグネシウム懸濁液をヒドロキシカルボン酸の共存下で加熱することによって得られる特定のX線回折パターンを示す塩基性炭酸マグネシウムが提案されている。さらに、塩基性炭酸マグネシウムの粒子形状に着目したものとしては、特許文献5及び特許文献6等があり、それらには、一次粒子が凝集してなる球状の多孔質粒子で、特定の嵩密度や比表面積等の性状を示す塩基性炭酸マグネシウムが提案されている。
【0007】
【特許文献1】
特許第1207124号公報
【特許文献2】
特開昭61−31314号公報
【特許文献3】
特開平2−208220号公報
【特許文献4】
特開平3−97618号公報
【特許文献5】
特許第1635418号公報
【特許文献6】
特許第2602444号公報
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
前述のとおり、塩基性炭酸マグネシウムに関してはこれまで多くの検討がなされてきているが、ゴム用フィラーなどの限られた分野でのみの使用に留まっているのが現状である。また、その粒子形状に関しても、薄片状微細結晶からなる不定形又は球状のものしか知られておらず、性能及び用途等は充分に満足できるものとはいえず、他分野への用途拡大、高性能化、高機能化等に対応できる新規な形状の塩基性炭酸マグネシウムが嘱望されている。
【0009】
このような状況において本発明者らは、塩基性炭酸マグネシウムの用途拡大、高性能化、高機能化を図るべく、その粒子形状をコントロールするによって、新規な特性を示す塩基性炭酸マグネシウムの合成を試み、検討を重ねた結果、薄片状微細結晶からなる管状凝集粒子という独特かつ新規な形状の塩基性炭酸マグネシウムを製造できることを見出し、既に特許出願した(特願2002−179462、特願2002−220768)。この管状凝集粒子である塩基性炭酸マグネシウムについては、その特異な形状に由来し、種々の優れた特性を発現することも既に確認している。
【0010】
しかしながら、本発明者らが開発した塩基性炭酸マグネシウムの管状凝集粒子は、塩基性炭酸マグネシウム自体の特性として、水性懸濁液のpHが10.5〜12とアルカリ性を示すことから、アルカリ性が好ましくない用途においての使用に障害があった。具体的には、化粧品や皮膚に塗布される医薬品などの人間の皮膚と接触する用途においては、人間の皮膚と同じ中性〜弱酸性でないと使用することができないのが一般的である。また、製紙用途においては酸性サイズ剤を用いる酸性抄紙の場合、アルカリ性を示す粒子の存在が製紙用薬剤の効果を低下させるといった問題点や、アルカリ性により不安定になる物質との混合ができないなどの課題があった。
【0011】
このような状況に鑑み、本発明者らは種々の優れた特性を有する塩基性炭酸マグネシウムの管状凝集粒子を、さらに広範にわたる用途に使用可能となるように、鋭意研究を重ねた結果、開発に成功したのが本発明である。すなわち、本発明の課題は、アルカリ性が好ましくない用途においても使用可能である、中性のpH値を示す塩基性炭酸マグネシウムの管状凝集粒子及びその製造方法を提供することである。
【0012】
【課題を解決するための手段】
本発明は、前記課題を解決するために表面処理塩基性炭酸マグネシウム及びその製造方法を提供するものである。そのうちの表面処理塩基性炭酸マグネシウムは、塩基性炭酸マグネシウムの薄片状微細結晶からなる管状凝集粒子の表面が、塩基性炭酸マグネシウム以外の化合物により被覆されたものであり、そのJIS K5101によるpH値が9.5以下を示すことを特徴とするものである。
【0013】
また、本発明の表面処理塩基性炭酸マグネシウムの製造方法は、薄片状微細結晶からなる塩基性炭酸マグネシウムの管状凝集粒子の懸濁液に、塩基性炭酸マグネシウム以外の化合物を析出するために必要な1種又は2種以上の物質を添加し、塩基性炭酸マグネシウムの管状凝集粒子の表面を、塩基性炭酸マグネシウム以外の化合物で被覆することを特徴とする、JIS K5101によるpH値が9.5以下とせしめることを特徴とするものである。
【0014】
そして、本発明の表面処理塩基性炭酸マグネシウムについては、被覆前の基本的形状を維持しつつ、その表面がアルミナやシリカなどの塩基性炭酸マグネシウム以外の化合物により被覆されたものであって、かつJIS K5101によるpH値が9.5以下を示すものであるから、被覆前の塩基性炭酸マグネシウムが有する独特の形状に伴う高比表面積、高細孔容積、独特の細孔分布、低かさ密度などの優れた粉体物性、さらにこれら独特形状及び粉体物性に由来して発現する、吸着性、吸収性、担持性、徐放性などの優れた特性を持続保持している。
【0015】
また、その表面がアルミナやシリカなどの塩基性炭酸マグネシウム以外の化合物により被覆され、JIS K5101によるpH値が9.5以下を示すものであるから、未被覆の塩基性炭酸マグネシウムに比較してpHが低くなっており、その結果、化粧品や皮膚に塗布される医薬品などのアルカリ性が好ましくない用途においても好適に使用することが可能となる優れた作用効果を奏することができる。
【0016】
さらに、アルカリにより性能低下、劣化あるいは分解してしまうような物質との併用が可能となることから、例えば製紙分野における酸性サイズ剤や歩留向上剤などと併用しても、その作用を低下させることなく使用することが可能となるし、また触媒担体、微生物担体、生体担体、植物生長剤、オレフィン吸収剤、吸液剤、吸油剤、乾燥剤、芳香剤、消臭剤、シーリング剤、防錆剤、食品添加物、濾過剤、濾過助剤、研磨剤あるいはカラム充填剤など様々な分野での使用が可能となる。
【0017】
【発明の実施の形態】
以下に、本発明の実施の形態について詳細に説明するが、本発明は、それによって何等限定されるものではなく、特許請求の範囲の記載によって特定されるものであることはいうまでもない。
【0018】
本発明の表面処理塩基性炭酸マグネシウムは、塩基性炭酸マグネシウムの薄片状微細結晶からなる管状凝集粒子で、その表面が塩基性炭酸マグネシウム以外の化合物で被覆され、JIS K5101によるpH値が9.5以下であることを特徴とするものである。従来の塩基性炭酸マグネシウムのpHが10.5〜12程度であるのに対して、pHが9.5以下と低い値を示すことが本発明の塩基性炭酸マグネシウムの特長である。
【0019】
なお、pH値の測定についてはJIS K5101(顔料試験方法)に記載の常温法による。その測定方法とは、試料5gを300mLの三角フラスコに0.1gの桁まで量り取り、水100mLを加え、栓をして常温で1分間振り混ぜた後、5分間静置した水性懸濁液のpHを測定するものである。
【0020】
本発明における被表面処理物である塩基性炭酸マグネシウムの管状凝集粒子は、厚さ0.005〜0.5μm、径0.1〜10μmの薄片状微細結晶がカードハウス構造状に管状に集合したものであり、例えば本発明者らが既に出願した特願2002−179462、あるいは特願2002−220768に記載されているものである。その形状は、本発明の表面処理塩基性炭酸マグネシウムの用途に応じて適宜調節すればよいが、望ましくは、管状凝集粒子の外径が1〜20μm、内径が0.5〜5μm、長さが5〜200μm、長さ/外径の比が2〜50、より望ましくは長さ/外径の比が4〜50であることがよく、この形状とすることにより、管状形状に由来する特性がより効果的に発現する。
【0021】
また、管状凝集粒子の物性値については、BET法により測定される比表面積が50〜200m2/g、あるいは水銀圧入法により測定される細孔分布において、細孔径0.01〜100μmの細孔容積(A)が5000〜12000mm3/gであり、かつ細孔径0.5〜5μmの細孔容積(B)との比であるB/Aの値が0.45〜0.85であることがよい。このような比表面積又は細孔分布とすることにより、管状構造に由来する種々の特性をさらに優れたものとすることができる。
【0022】
この被表面処理物である塩基性炭酸マグネシウムの管状凝集粒子の調製方法については、本発明者らが既に出願した特願2002−179462あるいは特願2002−220768に記載されている方法などが利用できる。これらの方法について具体的に述べると以下のとおりである。
【0023】
前者の特願2002−179462の方法は、水溶液中にて水溶性マグネシウム塩と水溶性炭酸塩とを混合し、25〜55℃の温度で、径が0.5〜10μm、長さが5〜500μmの正炭酸マグネシウムの柱状粒子を生成させる第1ステップと、該正炭酸マグネシウムの柱状粒子の懸濁液を第1ステップで正炭酸マグネシウムを生成させた温度より高い温度であって、かつ35〜80℃の温度、9.5〜11.5のpHで加熱処理する第2ステップとにより薄片状微細結晶からなる管状凝集粒子の塩基性炭酸マグネシウムを調製するものである。
【0024】
この第1ステップにおいて使用される水溶性マグネシウム塩については、各種の水溶性マグネシウム塩が特に制限されることなく使用でき、それには塩化マグネシウム、硫酸マグネシウム、硝酸マグネシウムあるいは酢酸マグネシウム等が例示できる。水溶性炭酸塩についても、特に制限されることなく使用でき、それには炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸アンモニウム等が例示できるが、強アルカリの炭酸塩、具体的には炭酸ナトリウム、炭酸カリウムを用いることが、より効率よく塩基性炭酸マグネシウムの管状凝集粒子を調製することができ、好適である。
【0025】
第1ステップにおいては、水溶液中にて上記したような水溶性マグネシウム塩と水溶性炭酸塩とを反応させ、正炭酸マグネシウムの柱状粒子を析出させるが、その方法としては、例えば、炭酸ナトリウム水溶液中に塩化マグネシウム水溶液を添加する方法、硫酸マグネシウム水溶液中に炭酸アンモニウムを添加する方法など、水溶性マグネシウム塩と水溶性炭酸塩とを溶液中において混合して、マグネシウムイオンと炭酸イオンとが反応する条件であればよい。その際の反応には、反応の均一性を確保するために反応液の攪拌を行うのが好ましい。
【0026】
第1ステップにおいて生成させる正炭酸マグネシウムの形状については、柱状で、その径が0.5〜10μm、長さが5〜500μmであることが望ましい。その理由は、塩基性炭酸マグネシウムが正炭酸マグネシウムの柱状粒子表面から生成することによって、管状という独特の形状が形成されると推察しているからである。すなわち、中間生成物である正炭酸マグネシウムの形状が、塩基性炭酸マグネシウムの形状に大きく影響するといえる。
【0027】
したがって、目的とする塩基性炭酸マグネシウムの形状、特に径と長さに応じて、正炭酸マグネシウムの合成条件を調節して、適切な形状の正炭酸マグネシウムを得ることが重要である。上記形状以外の正炭酸マグネシウムの場合には、第2ステップにおいて、塩基性炭酸マグネシウムを生成させる際、その生成に要する時間が極端に長くなり製造効率が低下したり、目的とする管状凝集粒子が得られないことがある。
【0028】
そのようなことで、目的とする形状で、かつ第2ステップにおいて効率よく塩基性炭酸マグネシウムの管状凝集粒子を得ることができる正炭酸マグネシウムの柱状粒子を生成させるためには、水溶液中にて水溶性マグネシウム塩と水溶性炭酸塩とを反応させる温度を、望ましくは25〜55℃、より望ましくは28〜50℃の範囲とすることがよい。その際の温度が25℃未満であると、中間生成物である正炭酸マグネシウムの生成速度が極端に遅くなり、製造効率が低下してしまい現実的でない。逆に55℃を越えると、目的とする形状の正炭酸マグネシウムが得られなかったり、後の第2ステップにおいて、塩基性炭酸マグネシウムの管状凝集粒子が得られない。
【0029】
また、第1ステップで生成させる正炭酸マグネシウムの形状を調節して、第2ステップで生成させる塩基性炭酸マグネシウムの管状凝集粒子の形状をコントロールしたい場合には、第1ステップの反応条件を適宜コントロールすることによって、正炭酸マグネシウムの形状を上記した範囲内で調節することもできる。例えば、正炭酸マグネシウムの柱状粒子の径については、正炭酸マグネシウムを生成させる際の温度を比較的高くした方が、より径の小さな柱状粒子とすることができる。
【0030】
pHについては、第1ステップにおいて正炭酸マグネシウムの生成が開始される際のpHがより高い方が、より径の小さな正炭酸マグネシウムの柱状粒子を生成させることができる。
なお、第1ステップにおいて生成させる正炭酸マグネシウムとは、化学式MgCO3・nH2Oで表される炭酸マグネシウムの水和物であり、n=3のものが一般的であるが、n=3以外のものであっても、上記したような形状のものであれば制限されない。
【0031】
このようにして第1ステップで得られる径が0.5〜10μm、長さが5〜500μmの範囲にある正炭酸マグネシウムの柱状粒子の懸濁液は、そのまま第2ステップに供しても差し支えないが、不純分として懸濁液中に溶解している可溶性マグネシウム塩の陰イオン成分や可溶性炭酸塩の陽イオン成分を回収したい場合や、これら不純分が塩基性炭酸マグネシウム中に残存することが好ましくない場合は、液を水などで置換し、不純分の除去を行ってもよい。
【0032】
続いて、第2ステップにおいては、第1ステップで得られた正炭酸マグネシウムの柱状粒子の懸濁液を望ましくは40〜70℃、より望ましくは45〜65℃で、かつ第1ステップより高い温度で加熱処理して、塩基性炭酸マグネシウムを生成させる。この第2ステップにおける加熱処理温度は、第1ステップで正炭酸マグネシウムを生成させる際の温度より高い温度とすることが重要となり、第1ステップと第2ステップとの温度差を、望ましくは2〜35℃、より望ましくは2〜25℃、さらに望ましくは2〜20℃とすることがよい。
【0033】
なお、この温度差に関しては、第1ステップで正炭酸マグネシウムの柱状粒子を生成させる温度と、第2ステップで正炭酸マグネシウムを加熱処理する際のpHとによって、より適切な範囲があり、例えば、第2ステップのpHを10.5とする場合、第1ステップが25〜35℃の際には温度差を20〜35℃、第1ステップが35〜45℃の際には温度差を5〜25℃、第1ステップの温度が45〜55℃の際には温度差を2〜15℃とすることが好適である。
【0034】
さらに、この第2ステップの温度に関しては、第1ステップよりも低い温度あるいは40℃未満の温度であると、目的とする塩基性炭酸マグネシウムの管状凝集粒子が得られなかったり、反応時間が極端に長くなって製造効率が低下し現実的でない。逆に70℃を越える温度では、生成する塩基性炭酸マグネシウム粒子の均一性が悪くなり、不定形〜球状の凝集粒子の混入が顕著になる。
【0035】
また、第2ステップにおいても、第1ステップの場合と同様に、反応の均一性を確保するため反応液の撹拌を行う方が好ましい。さらに、加熱処理する際の正炭酸マグネシウム懸濁液のpHについては、望ましくは9.5〜11.5、より望ましくは10.0〜11.5とすることがよい。それは、pHが9.5未満であると正炭酸マグネシウムから塩基性炭酸マグネシウムが生成する速度が遅くなり、製造効率が低下するばかりでなく、正炭酸マグネシウムが残留することがあるからでもある。また、pHが11.5を越えると、塩基性炭酸マグネシウムの粒子の均一性が損なわれ、不定形ないし球状の粒子が混入しやすくなる。
【0036】
この範囲にpHを調節するためには、第1ステップにおける水溶性マグネシウム塩と水溶性炭酸塩との量比を調節するか、あるいは第2ステップにおいて酸性物質又はアルカリ性物質を添加し調節すればよい。前者の場合、水溶性マグネシウム塩の量を増やせば酸性側に、逆に水溶性炭酸塩の量を増やせばアルカリ性側に調節することができる。後者の場合、添加する酸性物質としては塩酸、硫酸、硝酸などが、アルカリ性物質としては水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニア水などが利用可能である。
【0037】
第2ステップにおいては、塩基性炭酸マグネシウムの生成が終了するまで、加熱撹拌を継続させることが好ましい。塩基性炭酸マグネシウムの生成の終了に関しては、懸濁液のpHや導電率などを計測することによって判定することができる。例えばpHについてみると、塩基性炭酸マグネシウムの生成が継続している時点では、懸濁液のpHは少しずつ減少していくのに対して、生成が終了すればpHはほぼ一定で推移する。
このようにして特願2002−179462の方法では、本発明の表面処理塩基性炭酸マグネシウムの原料である塩基性炭酸マグネシウムの管状凝集粒子が調製される。
【0038】
そして、後者の特願2002−220768の方法は、水酸化マグネシウム懸濁液に二酸化炭素含有ガスを導入することによって炭酸水素マグネシウム溶液を調製する第1ステップと、該炭酸水素マグネシウム溶液をpH7.5〜11.0に調節して正炭酸マグネシウムの柱状粒子を生成させる第2ステップと、該正炭酸マグネシウムの柱状粒子の懸濁液をpH9.0〜12.0、かつ温度30〜75℃に調節した後、前記温度範囲を維持することにより塩基性炭酸マグネシウムを生成させる第3ステップとを有することを特徴とするものである。
【0039】
その第1ステップは、水酸化マグネシウムの懸濁液に二酸化炭素含有ガスを導入して炭酸水素マグネシウム溶液を調製する工程であり、ここで使用する原料の水酸化マグネシウムについては、特に制限されることはなく、海水に水酸化カルシウムを添加して水酸化マグネシウムを沈殿させる、いわゆる海水法により製造される水酸化マグネシウムが利用できるほか各種のものが利用できる。二酸化炭素含有ガスに関しても特段の制約はなく、ボンベ等から供給される二酸化炭素やそれを空気等で希釈したもの、燃焼排ガスなどの二酸化炭素を含有するものが利用できる。
【0040】
また、その第1ステップにおいては、原料とする水酸化マグネシウムの90%以上、望ましくは全量が炭酸水素マグネシウムに変化するのがよい。その理由は、炭酸水素マグネシウムに変化していない水酸化マグネシウム量が多い場合、後の第2ステップ及び第3ステップにおいて、均一な反応が阻害され、塩基性炭酸マグネシウムの管状凝集粒子の粒子形状の均一性が悪化することがあるからである。
【0041】
水酸化マグネシウムから炭酸水素マグネシウムへの変化に関しては、液のpHや導電率などを計測することによって確認することができる。例えば、液のpHについては、二酸化炭素含有ガスを導入する前の水酸化マグネシウムの懸濁液のpHが9〜11程度であるのに対して、水酸化マグネシウムの全量が炭酸水素マグネシウムに変化すれば、液のpHはほぼ中性となる。第1ステップにおいては、液のpHが8以下になるまで二酸化炭素含有ガスを導入することが望ましく、pHが7.5以下となるまで導入することがより望ましい。
【0042】
水酸化マグネシウム懸濁液に二酸化炭素含有ガスを導入する際の液温についても特段の制約はないが、液温が高すぎると炭酸水素マグネシウムの溶解度が低下してしまい、その結果として調製される炭酸水素マグネシウム溶液中に残存する未反応の水酸化マグネシウム量が多くなるばかりでなく、第1ステップの反応が完了する前に炭酸水素マグネシウムが分解してしまう現象も認められる。したがって、水酸化マグネシウム懸濁液に二酸化炭素含有ガスを導入させる際には、液温を35℃以下に保持することが望ましく、30℃以下に保持することがより望ましい。
【0043】
また、水酸化マグネシウムの懸濁液に二酸化炭素含有ガスを導入した後、未反応の水酸化マグネシウムやその他の不純分などの不溶解残渣を除去することがより好ましく、そうすることによって、不純分の少ない炭酸水素マグネシウム溶液を調製することができ、後の第3ステップにおいて、純度が高くかつ粒子の均一性の高い塩基性炭酸マグネシウムを得ることができる。
【0044】
続く第2ステップにおいては、第1ステップで調製された炭酸水素マグネシウム溶液を、pH7.5〜11.0に調節して正炭酸マグネシウムの柱状粒子を生成させる。この第2ステップにおいても、第1ステップの場合と同様に反応の均一性を確保するため反応液の撹拌を行うのが好ましい。この第2ステップにおいては第1ステップにおいて中性域に移行したpHをアルカリ側にpH調節することが必要であり、そのために第1ステップで調製した炭酸水素マグネシウム溶液に、適当量のアルカリ性物質を添加することによってpH調節する。また、調節後は、pHが7.5〜11.0の範囲にあることが必要である。
【0045】
その第2ステップにおいて、pHを前記のとおり調整する必要があるのは、pHが7.5未満であると、後の第3ステップにおいて塩基性炭酸マグネシウムの管状凝集粒子が得られないためである。逆に、pHが11.0を超えると、正炭酸マグネシウムが不安定になり、正炭酸マグネシウムの生成が完了する前に塩基性炭酸マグネシウムが生成してしまったり、また炭酸水素マグネシウムから直接塩基性炭酸マグネシウムが生成してしまい、塩基性炭酸マグネシウムの粒子の均一性が著しく悪化するばかりでなく、pH調節のために使用するアルカリ性物質の必要量が多くなり、経済的にも芳しくない。
【0046】
第2ステップにおいて正炭酸マグネシウムの柱状粒子を生成させるには、第1ステップにおいて調製した炭酸水素マグネシウム溶液をpH7.5〜11.0に調節した後、正炭酸マグネシウムの生成が終了するまで反応を継続させることが好ましい。正炭酸マグネシウムの生成の終了については、液のpHあるいは導電率を計測し、その値が安定化したことを観測することにより確認できる。
【0047】
また、その際の温度については、20〜55℃にすることが望ましく、30〜55℃にすることがより望ましい。20℃未満であると後の第3ステップにおいて、塩基性炭酸マグネシウムの管状凝集粒子のほかに、不定形の凝集粒子が混入しやすくなる。逆に55℃を超える温度の場合においても、第3ステップにおいて粒子の均一性が悪化する傾向がある。
【0048】
第2ステップでは、前記したとおりにpHを調節し、望ましくは温度も前記したとおり調節して、正炭酸マグネシウムの生成が終了するまで反応を継続させ、正炭酸マグネシウムの柱状粒子を生成させるわけだが、その柱状粒子の形状としては、径が0.5〜10μm、長さが5〜500μmのものが望ましい。特に柱状粒子の径については、0.5μm未満あるいは10μmを超える場合、後の第3ステップにおいて、本発明の目的とする塩基性炭酸マグネシウムの管状凝集粒子が得られないことがある。
【0049】
また、第3ステップで製造される塩基性炭酸マグネシウムの管状凝集粒子の形状、特に径と長さは、第2ステップで生成させる正炭酸マグネシウムの柱状粒子の径と長さに影響されており、塩基性炭酸マグネシウムの管状凝集粒子の形状に応じて、第2ステップで生成させる正炭酸マグネシウムの径と長さを調節することが望ましい。その正炭酸マグネシウムの柱状粒子の径と長さとを調節するには、第2ステップにおいて、正炭酸マグネシウムを生成させる際のpH及び温度を適切にコントロールすればよい。
【0050】
例えば、第2ステップにおけるpHについては、前記した範囲内で、より高いpHとすることにより、径の小さな正炭酸マグネシウムの柱状粒子を得ることができ、逆により低いpHとすることにより、径の大きな正炭酸マグネシウムの柱状粒子を得ることができる。さらに、第2ステップにおける温度に関しては、前記した範囲内で、より高い温度とすることにより、径の小さな正炭酸マグネシウムの柱状粒子を得ることができ、逆により低い温度とすることにより、径の大きな正炭酸マグネシウムの柱状粒子を得ることができる。
【0051】
なお、生成させた正炭酸マグネシウムの柱状粒子については、一旦濾別、洗浄してもよく、そうすることによって、第2ステップで添加したアルカリ性物質を除去することができ、不純分をより一層低減できる点で好適である。このようにして、第2ステップでは、炭酸水素マグネシウム溶液から、正炭酸マグネシウムの柱状粒子を生成させる。
【0052】
第2ステップに続く、最後のステップである第3ステップにおいては、第2ステップで得られた正炭酸マグネシウムの柱状粒子の懸濁液からpH9.0〜12.0、温度30〜75℃の下において塩基性炭酸マグネシウムを生成させる。また、第3ステップにおいても、第1ステップ及び第2ステップの場合と同様に、反応の均一性を確保するため反応液の撹拌を行うのが好ましい。
【0053】
第3ステップで塩基性炭酸マグネシウムを生成させる際の温度については、30〜75℃であることが必要かつ重要である。30℃未満の温度であると、目的とする管状の塩基性炭酸マグネシウムが得られなかったり、反応時間が極端に長くなって製造効率が低下し現実的でない。75℃を越える温度では、生成する塩基性炭酸マグネシウム粒子の均一性が悪くなり、不定形〜球状の凝集粒子の混入が顕著になる。
【0054】
該ステップにおけるpHについては、9.0〜12.0とすることが必要である。その理由は、pHが9.0未満であると正炭酸マグネシウムから塩基性炭酸マグネシウムが生成する速度が遅くなり製造効率が低下するばかりでなく、生成物中に正炭酸マグネシウムが残留することがあるからである。逆にpHが12.0を越えると、塩基性炭酸マグネシウムの粒子の均一性が損なわれ、不定形ないし球状の粒子が混入しやすくなる。
【0055】
さらに、第3ステップにおけるpHは、第2ステップにおいて正炭酸マグネシウムの柱状粒子を生成させる際のpHよりも高くすることが望ましく、より望ましくは0.3以上高くすることがよい。そうすることにより、均一性が高く、かつ種々の粉体物性に優れる塩基性炭酸マグネシウムの管状凝集粒子を、効率よく調製することが可能となる。この範囲にpHを調節するためには、第3ステップにおいて酸性物質またはアルカリ性物質を添加し調節すればよい。
【0056】
なお、第3ステップにおける温度及びpHは、第2ステップで生成させた正炭酸マグネシウムの形状、特に径と長さに応じて調節することが望ましく、そうすることによって、より均一な形状の塩基性炭酸マグネシウムの管状凝集粒子を得ることができる。具体的には、正炭酸マグネシウムの径が小さい場合、第3ステップでのpH及び温度は低い方が好ましく、逆に正炭酸マグネシウムの径が大きい場合、第3ステップでのpH及び温度は高い方が好ましい。
【0057】
第3ステップにおいては、塩基性炭酸マグネシウムの生成が終了するまで、前記した範囲の温度を保持しながら、撹拌を継続させることが好ましい。その際には、温度については30〜75℃に調節した直後の温度を継続して維持している必要はなく前記温度範囲では変動してもよいが、変動は可能な限り少ない方が好適である。
【0058】
その塩基性炭酸マグネシウムの生成の終了に関しては、懸濁液のpHや導電率などを計測することによって確認することができる。例えばpHについては、塩基性炭酸マグネシウムの生成が継続している時点では、懸濁液のpHは低下していくのに対して、生成が終了すればpHはほぼ一定で推移する。このようにして、後者の特願2002−220768の方法でも、塩基性炭酸マグネシウムの管状凝集粒子が調製できる。
【0059】
本発明の表面処理塩基性炭酸マグネシウムの原料である塩基性炭酸マグネシウムの薄片状微細結晶からなる管状凝集粒子は、以上で述べたような2つの方法により調製することができるが、本発明で原料として使用する塩基性炭酸マグネシウムの薄片状微細結晶からなる管状凝集粒子については、両者の方法に製造されたものに限定されるわけではなく、塩基性炭酸マグネシウムの薄片状微細結晶からなる管状凝集粒子であれば特に制限なく使用可能である。
【0060】
塩基性炭酸マグネシウムの管状凝集粒子の表面に被覆される塩基性炭酸マグネシウム以外の化合物としては、それ自体の水性懸濁液、すなわち被覆される塩基性炭酸マグネシウム以外の化合物の粒子の水性懸濁液のpH値が中性〜弱酸性、好ましくはJIS K5101によるpH値が9.5以下であるもので、塩基性炭酸マグネシウム表面に被覆できるものであれば特段の制約はない。
【0061】
それに関し具体的に例を挙げると、シリカ、アルミナ、チタニア、鉄酸化物、亜鉛酸化物、ジルコニアといった金属酸化物や、硫酸カルシウム、硫酸ストロンチウム、硫酸バリウム等の硫酸塩、リン酸カルシウム、リン酸マグネシウム等のリン酸塩、珪酸カルシウム、珪酸アルミニウム、珪酸マグネシウム等の珪酸塩などが使用可能である。なかでも、金属酸化物は、比較的簡易に表面被覆できるばかりでなく、効率よくpH値を9.5以下にすることができ、望ましいものである。
【0062】
ここでいう金属酸化物とは、無水酸化物のほかに、水酸化物や水和物などの含水酸化物も含まれ、表面処理塩基性炭酸マグネシウムのpHを9.5以下にすることができれるものであれば何ら制約はない。その金属酸化物としては、シリカ及び/又はアルミナが望ましく、塩基性炭酸マグネシウム表面にシリカ、アルミナを被覆させることにより、効率よくpH値を9.5以下にすることができる。なお、ここでいうシリカ、アルミナとは、無水の酸化ケイ素、酸化アルミニウムのほか、含水シリカや含水アルミナなどの含水酸化物を含むものである。
【0063】
被覆の形態については、塩基性炭酸マグネシウムの管状凝集粒子の表面、すなわち外表面及び/又は管内表面に塩基性炭酸マグネシウム以外の化合物が膜状に被覆されている状態や、塩基性炭酸マグネシウム以外の化合物が粒子として付着あるいは固定され、粒子膜あるいは粒子層を形成している状態など、特段の制約はなく、得られる表面処理塩基性炭酸マグネシウムのJIS K5101によるpH値が9.5以下となる状態であればよい。さらに、塩基性炭酸マグネシウムの管状凝集粒子全体を被覆するような形態であっても、管状凝集粒子を形成する薄片状微細結晶の各々を覆うような形態であってもよい。
【0064】
被覆の形態について具体例を挙げて説明すると、アルミン酸ナトリウムを用いたアルミナ表面被覆では、被覆量が少ない場合には塩基性炭酸マグネシウムの管状凝集粒子を形成する薄片状微細結晶の表面に微粒子状のアルミナが付着、被覆する形態となり易く、被覆量が多い場合には管状凝集粒子全体を微粒子状のアルミナが覆う状態となり易い。また、ケイ酸ナトリウムを用いたシリカ表面被覆では、塩基性炭酸マグネシウムの管状凝集粒子を形成する薄片状微細結晶の表面をシリカの平滑膜が覆うような形態になることが多い。
【0065】
塩基性炭酸マグネシウムの表面に被覆する塩基性炭酸マグネシウム以外の化合物の被覆量については、得られる表面処理塩基性炭酸マグネシウムのpHが9.5以下となるような量であれば特に制限されることはないが、望ましくは塩基性炭酸マグネシウムの管状凝集粒子の表面の全体が被覆され、塩基性炭酸マグネシウムの露出面がなくなるような量であることが良い。なお、本発明の表面処理塩基性炭酸マグネシウムとは、上記してきた通り塩基性炭酸マグネシウムの管状凝集粒子の表面が、塩基性炭酸マグネシウム以外の化合物で被覆されたものであり、その被覆処理後の表面処理塩基性炭酸マグネシウムの懸濁液を更に脱水、洗浄、乾燥させ、その後に測定したJIS K5101によるpH値が9.5以下を示すものである。
【0066】
塩基性炭酸マグネシウムの管状凝集粒子の表面の全体が被覆される量については、被覆する塩基性炭酸マグネシウム以外の化合物の種類や、塩基性炭酸マグネシウムの内径、外径及び長さなどによって異なるので、これら条件に応じて適宜調節することが好ましい。被覆量が少なすぎ、被表面処理物である塩基性炭酸マグネシウム自体の表面の多くが露出している状態であると、9.5以下のpH値が得られ難くなることから、望ましくは塩基性炭酸マグネシウムに含有されるMgO重量100gに対して、その表面に被覆される塩基性炭酸マグネシウム以外の化合物の量を5g以上とすることがよい。
【0067】
その被覆量は多くしていくと、次第に塩基性炭酸マグネシウムの管状凝集粒子全体が覆われ、塩基性炭酸マグネシウムの表面が露出していない状態となるが、この状態から更に被覆量を多くしても、表面処理塩基性炭酸マグネシウムのpHはほとんど変化しないことが多い。したがって、表面被覆される塩基性炭酸マグネシウム以外の化合物の量の上限は、塩基性炭酸マグネシウムの管状凝集粒子全体を覆う量であれば十分であり、被覆量が多くなリ過ぎると塩基性炭酸マグネシウムの独特な形状が失われ、その結果その形状に伴う各種の特性も消失することになるので該特性が失なわれない範囲に止めることが必要である。なお、この上限については、すでに述べた通り、表面被覆される塩基性炭酸マグネシウム以外の化合物の種類等によって変化するものである。
【0068】
続いて、本発明の表面処理塩基性炭酸マグネシウムの製造方法について述べる。本発明の製造方法は、薄片状微細結晶からなる塩基性炭酸マグネシウムの管状凝集粒子の懸濁液に、塩基性炭酸マグネシウム以外の化合物を析出するために必要な1種又は2種以上の物質を添加し、塩基性炭酸マグネシウムの管状凝集粒子の表面を、塩基性炭酸マグネシウム以外の化合物で被覆することを特徴とするものである。
【0069】
表面処理にあたっては、調製された塩基性炭酸マグネシウムの懸濁液をそのままあるいは適切に濃度調整してもよいし、また一旦乾燥させた塩基性炭酸マグネシウムの管状凝集粒子を水等の溶媒に分散させた懸濁液を用いてもよい。表面処理を水系にて行う場合には、上記どちらの方法でもよいが、水系以外、例えばアルコール系などにて表面処理する場合には、後者の一旦乾燥させたものを再び溶媒に分散させた懸濁液を用いる必要がある。
【0070】
塩基性炭酸マグネシウムの管状凝集粒子の懸濁液濃度については、製造したい表面処理塩基性炭酸マグネシウムの量を勘案して適宜調節すればよいが、濃度が薄すぎると1回の処理で得られる表面処理塩基性炭酸マグネシウムの量が少なく製造効率が悪くなり、また濃度が濃すぎると均一な表面処理ができなくなる傾向にあることから、望ましくは塩基性炭酸マグネシウムの懸濁液濃度を5〜50g/Lとすることがよい。
【0071】
この塩基性炭酸マグネシウムの管状凝集粒子の懸濁液に、塩基性炭酸マグネシウム以外の化合物を析出させるために必要な1種又は2種以上の物質を添加することにより、塩基性炭酸マグネシウムの管状凝集粒子表面に、塩基性炭酸マグネシウム以外の化合物を析出させる。塩基性炭酸マグネシウム以外の化合物を析出させるために必要な1種または2種以上の物質については、塩基性炭酸マグネシウムの管状凝集粒子表面に被覆する塩基性炭酸マグネシウム以外の化合物の種類及びそれを析出させる反応に応じて適宜選択すればよい。
【0072】
例えば、加水分解反応により塩基性炭酸マグネシウム以外の化合物を析出させる場合には、塩基性炭酸マグネシウムの管状凝集粒子の懸濁液に添加することにより加水分解し塩基性炭酸マグネシウム以外の化合物を析出する物質、具体的にはケイ酸ナトリウムやアルミン酸ナトリウム等のアルカリ塩や、金属アルコキシド等の有機金属化合物などが使用できる。なお、ケイ酸ナトリウムの場合はシリカ、アルミン酸ナトリウムの場合はアルミナ、金属アルコキシドの場合はその金属酸化物がそれぞれ析出する。
【0073】
塩基性炭酸マグネシウムの懸濁液に添加しただけでは加水分解しない物質の場合には、塩基性炭酸マグネシウムの懸濁液にアルカリ性物質又は酸性物質を添加して、加水分解反応が起こるpH域に調節したり、あるいは加水分解を促進するような物質を添加することにより、加水分解反応を起こし塩基性炭酸マグネシウム以外の化合物を析出させることもできる。
【0074】
また、塩基性炭酸マグネシウム以外の化合物の析出を難溶性化合物析出反応により行うこともでき、その場合には、2種以上の可溶性物質溶液を塩基性炭酸マグネシウムの懸濁液に添加し、添加した可溶性物質間で難溶性のイオン性化合物を、塩基性炭酸マグネシウムの管状凝集粒子の表面に析出させる。具体例を挙げると、塩化カルシウムなどの可溶性カルシウム塩溶液と硫酸ナトリウムなどの可溶性硫酸塩とにより難溶性の硫酸カルシウムが、また塩化バリウムなどのバリウム塩溶液と可溶性硫酸塩とにより難溶性の硫酸バリウムが析出する。
【0075】
これら加水分解反応や難溶性化合物析出反応などにより、塩基性炭酸マグネシウムの管状凝集粒子の表面に、塩基性炭酸マグネシウム以外の化合物を析出させることができる。この析出反応において重要な点は、塩基性炭酸マグネシウム以外の化合物の析出が、塩基性炭酸マグネシウムの表面で起こるようにすることである。
【0076】
塩基性炭酸マグネシウムの表面以外の場所で析出反応が起こると、塩基性炭酸マグネシウム表面の被覆が効率よくできなくなるほか、生成物は塩基性炭酸マグネシウムの管状凝集粒子と、塩基性炭酸マグネシウム以外の化合物の粒子との単なる混合物となってしまい、本発明の目的であるpH9.5以下を達成できなくなることがあるばかりでなく、塩基性炭酸マグネシウムの管状凝集粒子のもつ種々の優れた粉体特性等を低下させる原因ともなってしまう。
【0077】
したがって、塩基性炭酸マグネシウム以外の化合物の析出が、塩基性炭酸マグネシウムの表面で起こるように、反応条件を適切に調節することが必要となる。その反応条件については、析出させる塩基性炭酸マグネシウム以外の化合物の種類とそれを析出させる反応の種類によって変わってくるものであり一義的に定義はできないが、傾向としては析出反応を遅くするような条件が好ましい。例えば、加水分解による金属酸化物の析出については、添加されるアルミン酸アルカリやケイ酸アルカリなどの添加速度を遅くすれば析出反応も遅くなり、反応時の温度を低くすれば析出反応も遅くなるのが一般的である。
【0078】
このような方法により塩基性炭酸マグネシウムの管状凝集粒子の表面に、塩基性炭酸マグネシウム以外の化合物を被覆することができるが、表面被覆される塩基性炭酸マグネシウム以外の化合物のなかで効果的にpHを低下させることができる点でより望ましい化合物であるアルミナあるいはシリカを被覆する方法についてさらに具体的に述べる。
【0079】
アルミナを被覆する場合、塩基性炭酸マグネシウムの水性懸濁液にアルミン酸ナトリウムやアルミン酸カリウムといったアルミン酸アルカリを添加し、アルミン酸アルカリの加水分解反応によりアルミナを塩基性炭酸マグネシウムの管状凝集粒子の表面に析出させる方法が、最も簡便でかつ効果的に塩基性炭酸マグネシウムの表面処理ができ望ましい方法である。
【0080】
この場合塩基性炭酸マグネシウムの管状凝集粒子の懸濁液は、5〜50g/Lの濃度とすることが望ましい。5g/L以下であると、1回の処理で得られる表面処理塩基性炭酸マグネシウムの量が少なくなり製造効率が悪くなる。逆に50g/Lを超える濃度であると、懸濁液の粘度が高くなりアルミナの被覆が均一にできなくなる傾向にある。また、アルミン酸アルカリの添加前の懸濁液pHは、7.0〜9.5であることが望ましい。
【0081】
pHが7.0未満であるとアルミン酸アルカリからのアルミナの析出速度が速くなりすぎ、塩基性炭酸マグネシウムの管状凝集粒子の表面以外のところで、アルミナ粒子が生成しやすくなる。逆にpHが9.5を超えると、均一な表面被覆がなされなくなる傾向にある。塩基性炭酸マグネシウムの管状凝集粒子の懸濁液のpHは、通常10.5〜12程度であるので、適当量の酸を加えることにより、pHを7.0〜9.5に調節することが望ましい。
【0082】
また、調製直後の塩基性炭酸マグネシウムの懸濁液を直接使用すれば、塩基性炭酸マグネシウムの生成反応により発生する炭酸が懸濁液中に溶存した状態であり、そのため炭酸の影響でpHは低くなり、上記したpH7.0〜9.5の範囲内にあるのが普通である。したがって、調製直後の塩基性炭酸マグネシウムの懸濁液をそのまま用いることが、酸の添加が不要となる点で望ましい方法である。
【0083】
塩基性炭酸マグネシウムの管状凝集粒子の水性懸濁液に添加されるアルミン酸アルカリは、水溶液の形態で、その濃度が0.5〜10g/Lであることが望ましい。この範囲よりも低い濃度であると所定量のアルミナを析出させるのに必要な時間が長くなり製造効率が悪くなる。逆に10g/Lを超える濃度であると、均一な表面被覆ができなくなる傾向にある。
【0084】
アルミン酸アルカリの添加量については、塩基性炭酸マグネシウムの管状凝集粒子表面に被覆したいアルミナの量を勘案して適宜調節すればよいが、望ましくは、塩基性炭酸マグネシウム中のMgO重量100gに対して、アルミン酸アルカリ中のAl23重量が10〜60gとなるような添加量とすることがよい。この範囲にすることによって、効果的に表面処理塩基性炭酸マグネシウムのpHを9.5以下にすることができる。
【0085】
なお、60gを超える添加量であると、被表面処理物である塩基性炭酸マグネシウムが分解してしまう。また、アルミン酸アルカリの添加量が多い場合、具体的には塩基性炭酸マグネシウム中のMgO重量100gに対してAl23換算で50gを超える場合には、アルミン酸アルカリ添加時の温度を低くすることが望ましい。温度が高すぎると、被表面処理物である塩基性炭酸マグネシウムが分解し易くなってしまう。
【0086】
塩基性炭酸マグネシウムの懸濁液にアルミン酸アルカリ溶液を添加する速度については、アルミン酸アルカリの添加量や溶液濃度に応じて適宜調節すればよく、望ましくは表面処理される塩基性炭酸マグネシウム中のMgO重量100gに対して、アルミン酸アルカリ溶液の添加速度をAl23換算で、0.2〜10g/minとすることがよい。この範囲にすることによって、アルミナの表面被覆状態を緻密化することができ、その結果効果的に表面処理塩基性炭酸マグネシウムのpHを9.5以下にすることが可能となる。
【0087】
懸濁液の温度については、アルミン酸アルカリの添加量や溶液濃度、添加速度に応じて適宜調節すればよく、望ましくは25〜70℃とすることがよい。この範囲とすることによって、アルミナの表面被覆状態を緻密化することができ、その結果効果的に表面処理塩基性炭酸マグネシウムのpHを9.5以下にすることが可能となる。
【0088】
また、既に述べた通り、アルミン酸アルカリの添加量が多い場合、具体的には塩基性炭酸マグネシウム中のMgO重量100gに対してAl23換算で50gを超える場合には、温度が高すぎると塩基性炭酸マグネシウムが分解してしまうことから、55℃以下の温度下でアルミン酸アルカリの添加を行うのが望ましい。なお、アルミン酸アルカリの添加中は、均一な表面被覆を行うために、塩基性炭酸マグネシウムの懸濁液を撹拌することが好適である。
【0089】
アルミン酸アルカリの添加が完了した後は、アルミン酸アルカリからのアルミナの析出が完了するまで、撹拌を続けることが好ましい。アルミナの析出が継続している場合、懸濁液のpHは徐々に上昇するが、析出が終わるとpHはほぼ一定で推移するので、析出の完了は懸濁液のpHを観測することによって判断できる。
【0090】
続いてシリカを被覆する方法について述べる。この方法においては、塩基性炭酸マグネシウムの水性懸濁液にケイ酸ナトリウムやケイ酸カリウムといったケイ酸アルカリを添加し、ケイ酸アルカリの加水分解反応によりシリカを塩基性炭酸マグネシウムの管状凝集粒子の表面に析出させる方法が、最も簡便でかつ効果的に塩基性炭酸マグネシウムの表面処理ができ望ましい方法である。
【0091】
この場合、塩基性炭酸マグネシウムの管状凝集粒子の懸濁液は、5〜50g/Lの濃度とすることが望ましい。5g/L以下であると、1回の処理で得られる表面処理塩基性炭酸マグネシウムの量が少なくなり製造効率が悪くなる。逆に50g/Lを超える濃度であると、懸濁液の粘度が高くなりシリカの被覆が均一にできなくなる傾向にある。また、ケイ酸アルカリの添加前の懸濁液pHは、7.5〜10.5であることが望ましい。
【0092】
pHが7.5未満であるとケイ酸アルカリからのシリカの析出速度が速くなりすぎ、塩基性炭酸マグネシウムの管状凝集粒子の表面以外で、シリカ粒子が生成しやすくなる。逆にpHが10.5を超えると、均一な表面被覆がなされなくなる傾向にある。塩基性炭酸マグネシウムの管状凝集粒子の懸濁液のpHは、通常10.5〜12程度であるので、適当量の酸を加えることにより、pHを7.5〜10.5に調節することが望ましい。
【0093】
また、調製直後の塩基性炭酸マグネシウムの懸濁液を直接使用すれば、前記したとおり塩基性炭酸マグネシウムの生成反応により発生する炭酸が懸濁液中に溶存した状態で、その炭酸の影響でpHは低くなり、上記したpH7.5〜10.5の範囲内にあるのが普通である。したがって、調製直後の塩基性炭酸マグネシウムの懸濁液をそのまま用いることが、酸の添加が不要となる点で、望ましい方法である。
【0094】
塩基性炭酸マグネシウムの管状凝集粒子の水性懸濁液に添加されるケイ酸アルカリについては、水溶液の形態で、その濃度が0.5〜10g/Lであることが望ましい。この範囲よりも低い濃度であると所定量のシリカを析出させるのに必要な時間が長くなり製造効率が悪くなる。逆に10g/Lを超える濃度であると、均一な表面被覆ができなくなる傾向にある。
【0095】
また、その添加量については、塩基性炭酸マグネシウムの管状凝集粒子表面に被覆したいシリカの量を勘案して適宜調節すればよいが、望ましくは、塩基性炭酸マグネシウム中のMgO重量100gに対して、ケイ酸アルカリ中のSiO2重量が5〜80gとなるような添加量とすることがよい。この範囲にすることによって、効果的に表面処理塩基性炭酸マグネシウムのpHを9.5以下にすることができる。
【0096】
さらに、その添加速度については、ケイ酸アルカリの添加量や溶液濃度に応じて適宜調節すればよく、望ましくは表面処理される塩基性炭酸マグネシウム中のMgO重量100gに対して、ケイ酸アルカリ溶液の添加速度をSiO2換算で、0.05〜10g/minとすることがよい。この範囲とすることによって、シリカの表面被覆状態を緻密化することができ、その結果より効果的に表面処理塩基性炭酸マグネシウムのpHを9.5以下にすることが可能となる。
【0097】
塩基性炭酸マグネシウムの管状凝集粒子の水性懸濁液の温度については、ケイ酸アルカリの添加量や溶液濃度、添加速度に応じて適宜調節すればよく、望ましくは5〜40℃とすることがよい。この範囲とすることによって、シリカの表面被覆状態を緻密化することができ、その結果効果的に表面処理塩基性炭酸マグネシウムのpHを9.5以下にすることが可能となる。なお、ケイ酸アルカリの添加中は、均一な表面被覆を行うために、該懸濁液を撹拌することが好適である。
【0098】
ケイ酸アルカリの添加が完了した後は、ケイ酸アルカリからのシリカの析出が完了するまで撹拌を続けることが好ましい。シリカの析出が継続している場合、懸濁液のpHは徐々に上昇するが、析出が終わるとpHはほぼ一定で推移するので、析出の完了は懸濁液のpHを測定することによって判断できる。このようにして得られる表面処理塩基性炭酸マグネシウムは懸濁液の状態であるが、表面被覆の反応により副生する不純分を除去するために、脱水、洗浄し、副生する不純分を除去することが望ましい。
【0099】
なお、副生する不純分としては、例えばアルミン酸ナトリウムによるアルミナ被覆においては、その加水分解反応により副生する水酸化ナトリウムであり、またケイ酸カリウムによるシリカ被覆においては水酸化カリウムであり、それらが製造された表面処理塩基性炭酸マグネシウムの懸濁液中に溶存したかたちとなる。このため製造した表面処理塩基性炭酸マグネシウム中の不純分量が増加し製品としての価値を低下させるばかりでなく、水酸化ナトリウムなどのアルカリ性物質が混入すると、本発明の課題であるpH9.5以下の値が得られなくなることもある。
【0100】
その不純分が除去された塩基性炭酸マグネシウムの管状凝集粒子の懸濁液は、用途に応じて、そのままの状態で使用してもよいし、乾燥した粉末の状態として使用してもよい。また、必要に応じて有機系の表面処理剤にて表面処理し、各分野で使用しても何ら差し支えない。さらに、比較的低温、具体的には100〜300℃程度の温度で熱処理し、塩基性炭酸マグネシウムの表面に被覆された含水酸化物を酸化物の形にすることもできる。
【0101】
上記方法によって得られる表面処理塩基性炭酸マグネシウムは、塩基性炭酸マグネシウムの薄片状微細結晶からなる管状凝集粒子の表面が、シリカやアルミナなどの塩基性炭酸マグネシウム以外の化合物で被覆され、JIS K5101によるpH値が9.5以下のものとなる。
【0102】
その本発明の表面処理塩基性炭酸マグネシウムについては、被覆前の基本的形状を維持しつつ、その表面がアルミナやシリカなどの塩基性炭酸マグネシウム以外の化合物により被覆されたものであって、かつJIS K5101によるpH値が9.5以下を示すものであるから、被覆前の塩基性炭酸マグネシウムが有する独特の形状に伴う高比表面積、高細孔容積、独特の細孔分布、低かさ密度などの優れた粉体物性、さらにこれら独特形状及び粉体物性に由来して発現する、吸着性、吸収性、担持性、徐放性などの優れた特性を持続保持している。
【0103】
そのうえ、従来の塩基性炭酸マグネシウムのアルカリ性という性質が、pH9.5以下という中性域に改善されているため、アルカリ性物質の使用が好ましくない用途においても好適に使用することが可能となる。例えば、化粧品や皮膚に塗布される医薬品などの人間の皮膚に接触する用途においては、従来の塩基性炭酸マグネシウムはアルカリ性であるため、肌荒れ等の原因となることがあったのに対して、本発明の表面処理塩基性炭酸マグネシウムはpHが9.5以下であり人間の皮膚のpHに近いため、肌荒れ等を起こさないという特長を有する。
【0104】
したがって、塩基性炭酸マグネシウムの薄片状微細結晶からなる管状凝集粒子の特徴である、独特形状及び優れた粉体物性を活用して、管状構造内部に有効成分を内包させその成分を徐々に放出する徐放性化粧品又は皮膚に塗布される医薬品や、皮脂などの老廃物を管状構造内部あるいは外表面に吸着する吸着性化粧品又は医薬品などとして利用することが可能となる。
【0105】
また、製紙分野においては、従来の塩基性炭酸マグネシウムがアルカリ性であるが故に、酸性サイズ剤や歩留向上剤などの製紙用薬品の効能を低下させるといった問題点があったのに対して、本発明の表面処理塩基性炭酸マグネシウムはpHが9.5以下であるため、未処理の場合にはアルカリにより性能低下してしまう薬品と併用しても、その性能を効果的に引き出すことができる。
【0106】
さらに、その他の分野においても、アルカリ性により劣化あるいは分解してしまうような物質との併用が可能となることから、従来の塩基性炭酸マグネシウムの使用が困難であった分野において、塩基性炭酸マグネシウムの管状凝集粒子のもつ独特形状及びその形状に由来する優れた粉体物性等を活用して、触媒担体、微生物担体、生体担体、植物生長剤、オレフィン吸収剤、吸液剤、吸油剤、乾燥剤、芳香剤、消臭剤、シーリング剤、防錆剤、食品添加物、濾過剤、濾過助剤、研磨剤、カラム充填剤など様々な分野での使用が可能となる。
【0107】
【実施例】
以下において、本発明の実施例及び比較例、並びに本発明の表面処理塩基性炭酸マグネシウムの原料である塩基性炭酸マグネシウムの調製例を挙げてさらに具体的に説明するが、本発明は、その実施例によって何ら限定されるものではなく、特許請求の範囲によって特定されるものであることはいうまでもない。
【0108】
[調製例1] 塩基性炭酸マグネシウムの管状凝集粒子の調製
40℃に調節した硫酸マグネシウム7水塩水溶液(125g/L)2.0Lに、40℃に温度を維持しながら無水炭酸ナトリウム水溶液(220g/L)0.50Lを徐々に添加し50分間撹拌して、正炭酸マグネシウムを得た(第1ステップ)。この正炭酸マグネシウムをSEMにて観察したところ、径が1〜3μm、長さが10〜50μmの柱状粒子であった。
【0109】
続いて、第1ステップで得られた正炭酸マグネシウムの柱状粒子の懸濁液(pH10.2)を加熱して、温度を55℃に保持しながら120分間撹拌して、塩基性炭酸マグネシウムを生成させた(第2ステップ)。得られた生成物を、SEMにて観察したところ、厚さが0.01〜0.04μm、径0.5〜2μmの薄片状一次粒子からなる凝集粒子で、外径が1〜5μm、内径が0.5〜3μm、長さが5〜20μmの塩基性炭酸マグネシウムの管状凝集粒子であった。
【0110】
[調製例2] 塩基性炭酸マグネシウムの管状凝集粒子の調製
水酸化マグネシウムの懸濁液(30g/L)2.0Lに、その温度を20℃に保持して撹拌しながら、二酸化炭素25容量%と空気75容量%とからなる二酸化炭素含有ガスを8.0L/分の速度で30分間導入した後、不溶解残渣を除去して、炭酸水素マグネシウム溶液(pH7.3)を調製した(第1ステップ)。
【0111】
このステップに続いて、炭酸水素マグネシウム溶液に、適量の水酸化ナトリウム水溶液を添加して液のpHを9.0に調節するとともに、加熱して液温を35℃にまで上昇させ、その後も同温度に保持しながら60分間撹拌して、正炭酸マグネシウムの懸濁液を調製した(第2ステップ)。この正炭酸マグネシウムをSEMにて観察したところ、径1〜3μm、長さ20〜50μmの柱状粒子であった。
【0112】
引き続き、正炭酸マグネシウムの柱状粒子の懸濁液に、適量の水酸化ナトリウム水溶液を添加して液のpHを10.5に調節するとともに、加熱して液温を50℃にまで上昇させ、その後も同温度に保持しながら120分間撹拌して、塩基性炭酸マグネシウムを調製した(第3ステップ)。この塩基性炭酸マグネシウムをSEMにて観察したところ、厚さ0.01〜0.05μm、径0.2〜1μmの薄片状微細結晶からなる、内径1〜2μm、外径2〜3μm、長さ5〜30μmの管状凝集粒子であった。
【0113】
[調製例3] 塩基性炭酸マグネシウムの管状凝集粒子の調製
第2ステップのpHを8.0、第3ステップの温度を55℃とした以外は、調製例2と同様にして、塩基性炭酸マグネシウムを調製した。なお、第2ステップで生成した正炭酸マグネシウムをSEMにて観察したところ、径5〜10μm、長さ30〜100μmの柱状粒子であることが確認された。また、第3ステップで得られた塩基性炭酸マグネシウムをSEMにて観察したところ、厚さ0.02〜0.1μm、径1〜2μmの薄片状微細結晶からなる、内径2〜5μm、外径5〜10μm、長さ20〜50μmの管状凝集粒子であった。
【0114】
[実施例1]
調製例1で調製した塩基性炭酸マグネシウムの管状凝集粒子の懸濁液にイオン交換水を加え濃度調節した懸濁液(濃度20g/L)2.0Lに、温度50℃に維持、撹拌しながら、試薬アルミン酸ナトリウム(関東化学製、鹿一級、Al23含有量35重量%)溶液(濃度40g/L)250mLをチューブポンプにて5mL/分の速度で添加し、添加終了後15分間撹拌を続けた(塩基性炭酸マグネシウム中のMgO重量100gに対して、アルミン酸ナトリウムの添加量はAl23換算で20.5g)。
【0115】
その後、生成物の懸濁液を濾別、10Lの水で洗浄、1Lのメチルアルコールで洗浄後、105℃で乾燥させ、表面処理塩基性炭酸マグネシウムを得た。生成物をSEMにて観察したところ、塩基性炭酸マグネシウムの管状凝集粒子を形成する薄片状微細結晶表面に、50〜100nmの微粒子状のアルミナが付着しており、塩基性炭酸マグネシウムの薄片状微細結晶の表面のほとんどを被覆している状態であった。
【0116】
[実施例2]
アルミン酸ナトリウム溶液の添加量を500mLとした以外は、実施例1と同様にして表面処理塩基性炭酸マグネシウムを得た(塩基性炭酸マグネシウム中のMgO重量100gに対して、アルミン酸ナトリウムの添加量はAl23換算で40.9g)。生成物をSEMにて観察したところ、塩基性炭酸マグネシウムの管状凝集粒子全体を、60〜120nmの微粒子状のアルミナが覆っている状態であった。
【0117】
[実施例3]
調製例2で調製した塩基性炭酸マグネシウムの管状凝集粒子の懸濁液(濃度30g/L)2.0Lに、温度を20℃に維持、撹拌しながら、試薬ケイ酸ナトリウム溶液(関東化学製、鹿一級、SiO2含有量35重量%)をイオン交換水にて10倍に希釈した溶液200mLをチューブポンプにて5mL/分の速度で添加し、添加終了後15分間撹拌を続けた(塩基性炭酸マグネシウム中のMgO重量100gに対して、ケイ酸ナトリウムの添加量はSiO2換算で20.5g)。
【0118】
その後、生成物の懸濁液を濾別、10Lの水で洗浄、1Lのメチルアルコールで洗浄後、105℃で乾燥させ、表面処理塩基性炭酸マグネシウムを得た。生成物をSEMにて観察したところ、塩基性炭酸マグネシウムの管状凝集粒子を形成する薄片状微細結晶がシリカの平滑膜で被覆されており、塩基性炭酸マグネシウムの薄片状微細結晶の表面の全てが覆われている状態であった。
【0119】
[実施例4]
調製例3で調整した塩基性炭酸マグネシウムの管状凝集粒子を使用し、ケイ酸ナトリウム溶液の添加量を600mLとした以外は、実施例3と同様にして表面処理塩基性炭酸マグネシウムを得た(塩基性炭酸マグネシウム中のMgO重量100gに対して、ケイ酸ナトリウムの添加量はSiO2換算で61.5g)。生成物をSEMにて観察したところ、塩基性炭酸マグネシウムの管状凝集粒子を形成する薄片状微細結晶がシリカの平滑膜で被覆されており、塩基性炭酸マグネシウムの薄片状微細結晶の表面の全てが覆われている状態であった。
【0120】
[生成物のpH値測定]
実施例1〜4で得られた生成物及び調製例1〜3の表面被覆されていない塩基性炭酸マグネシウムのpH値を、JIS K5101に準拠して測定した。pH測定には、堀場製作所pHメーター(型式F−8)を使用した。その結果を表1に示す。その表1から明らかなように、実施例で得られた生成物は9.5以下のpH値を示すことがわかる。それに対して、表面処理を施していない調製例の塩基性炭酸マグネシウムは、10.7以上のpH値を示している。
【0121】
【表1】
Figure 0003872425
【0122】
【発明の効果】
本発明の表面処理塩基性炭酸マグネシウムは、被覆前の基本的形状を維持しつつ、その表面がアルミナやシリカなどの塩基性炭酸マグネシウム以外の化合物により被覆されたものであって、かつJIS K5101によるpH値が9.5以下を示すものであるから、被覆前の塩基性炭酸マグネシウムが有する独特の形状に伴う高比表面積、高細孔容積、独特の細孔分布、低かさ密度などの優れた粉体物性、さらにこれら独特形状及び粉体物性に由来して発現する、吸着性、吸収性、担持性、徐放性などの優れた特性を持続保持している。
【0123】
そのうえ、従来の塩基性炭酸マグネシウムのアルカリ性という性質が、pH9.5以下という中性域に改善されているため、アルカリ性物質の使用が好ましくない用途においても好適に使用することが可能となる。例えば、化粧品や皮膚に塗布される医薬品などの人間の皮膚に接触する用途においては、従来の塩基性炭酸マグネシウムはアルカリ性であるため、肌荒れ等の原因となることがあったのに対して、本発明の表面処理塩基性炭酸マグネシウムはpHが9.5以下であり人間の皮膚のpHに近いため、肌荒れ等を起こさないという特長を有する。
【0124】
したがって、塩基性炭酸マグネシウムの薄片状微細結晶からなる管状凝集粒子の特徴である、独特形状及び優れた粉体物性を活用して、管状構造内部に有効成分を内包させその成分を徐々に放出する徐放性化粧品又は皮膚に塗布される医薬品や、皮脂などの老廃物を管状構造内部あるいは外表面に吸着する吸着性化粧品又は医薬品などとして利用することが可能となる。
【0125】
また、製紙分野においては、従来の塩基性炭酸マグネシウムがアルカリ性であるが故に、サイズ剤や歩留向上剤などの製紙用薬品の効能を低下させるといった問題点があったのに対して、本発明の表面処理塩基性炭酸マグネシウムはpHが9.5以下であるため、未処理の場合にはアルカリにより性能低下してしまう薬品と併用しても、その性能を効果的に引き出すことができる。
【0126】
さらに、その他の分野においても、アルカリ性により劣化あるいは分解してしまうような物質との併用が可能となることから、従来の塩基性炭酸マグネシウムの使用が困難であった分野において、塩基性炭酸マグネシウムの管状凝集粒子のもつ独特形状及びその形状に由来する優れた粉体物性等を活用して、触媒担体、微生物担体、生体担体、植物生長剤、オレフィン吸収剤、吸液剤、吸油剤、乾燥剤、芳香剤、消臭剤、シーリング剤、防錆剤、食品添加物、濾過剤、濾過助剤、研磨材、カラム充填剤など様々な分野での使用が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 実施例2で得られたアルミナにより被覆された表面処理塩基性炭酸マグネシウムの粒子形状及び粒子表面性状を示すSEM写真(×25,000)である。

Claims (7)

  1. 薄片状微細結晶からなる塩基性炭酸マグネシウムの管状凝集粒子の表面が、塩基性炭酸マグネシウム以外の化合物で被覆され、JIS K5101によるpH値が9.5以下であることを特徴とする表面処理塩基性炭酸マグネシウム。
  2. 管状凝集粒子の外径が1〜20μm、内径が0.5〜5μm、長さが5〜200μm、長さ/外径の比が2〜50である請求項1に記載の表面処理塩基性炭酸マグネシウム。
  3. 被覆されている化合物が、金属酸化物である請求項1又は2に記載の表面処理塩基性炭酸マグネシウム。
  4. 金属酸化物がシリカ及び/又はアルミナである請求項3に記載の表面処理塩基性炭酸マグネシウム。
  5. 薄片状微細結晶からなる塩基性炭酸マグネシウムの管状凝集粒子の懸濁液に、塩基性炭酸マグネシウム以外の化合物を析出するために必要な1種又は2種以上の物質を添加し、塩基性炭酸マグネシウムの管状凝集粒子の表面を、塩基性炭酸マグネシウム以外の化合物で被覆することを特徴とする、JIS K5101によるpH値が9.5以下である表面処理塩基性炭酸マグネシウムの製造方法。
  6. 塩基性炭酸マグネシウムの管状凝集粒子の懸濁液に、アルミン酸アルカリを添加し、塩基性炭酸マグネシウムの管状凝集粒子の表面を、アルミナで被覆する請求項5に記載の表面処理塩基性炭酸マグネシウムの製造方法。
  7. 塩基性炭酸マグネシウムの管状凝集粒子の懸濁液に、ケイ酸アルカリを添加し、塩基性炭酸マグネシウムの管状凝集粒子の表面を、シリカで被覆する請求項5に記載の表面処理塩基性炭酸マグネシウムの製造方法。
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