JP4365084B2 - マグネシア質粒子及びその製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、新規な形状をもつマグネシア質粒子及びその製造方法に関する。具体的には、管状構造という特異な形状をもつマグネシア質粒子、及び管状構造をもつマグネシア質粒子の製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
マグネシア(酸化マグネシウム)は、ゴム、医薬品、セラミックス原料、合成樹脂、触媒、耐火物、セメント、半導体など幅広い分野で利用されている。マグネシアの工業的な製造方法としては、海水法により調製された水酸化マグネシウムを焼成する方法や、炭酸マグネシウムあるいは塩基性炭酸マグネシウムを焼成する方法などが知られている。そのマグネシアの製造に関しては、古くから数多くの検討がなされてきている。そのなかには、特にマグネシアの粒子形状あるいは粉体物性に着目したものもあり、特異な粒子形状や優れた粉体物性を示すマグネシアについての提案もなされている。
【0003】
例えば、それには中空球状のものがあり、特許文献1では、可燃性粒子を核としてその周囲に酸化マグネシウム形成成分の層を形成させたものを造粒した後、特定温度範囲で焼成することにより得られる平均粒子径が0.1〜10mmの中空状軽量マグネシア粒子が、特許文献2では、特定のマグネシウム塩の混合物から調製される溶融塩粉末を竪型炉にて特定条件下で焼成反応させた後、水洗して未反応物を溶解、分離することを特徴とするマグネシア中空状殻体の製造方法が提案されている。
【0004】
また、繊維状など伸張性をもつ形状のものもあり、特許文献3では、マグネシウム化合物と酸とアルコールを混合、濃縮、紡糸して調製される前駆体繊維を熱処理することを特徴とするマグネシア繊維の製造方法が、特許文献4では、中性炭酸マグネシウムの針状粒子を焼成することを特徴とする繊維状酸化マグネシウムの製造方法が、さらに特許文献5では、カリウム、リチウム、カルシウムの塩化物と塩化マグネシウムとの混合物を特定温度で加熱溶融、不純分を除去した後、水蒸気雰囲気下で650〜1000℃に加熱することを特徴とするマグネシアウィスカーの製造方法が提案されている。
【0005】
また、粉体特性に関するものとしては、特許文献6における特定量の塩素イオンを含有する水酸化マグネシウムを、水酸化マグネシウムの分解温度よりも高い温度の熱ガスと短時間接触させたのち、直ちに熱ガスから分離することを特徴とする比表面積が200m2/g以上のマグネシアの製造方法や、特許文献7における一般式M(OH)m(CO3)n・xH2O(M2〜4価の金属)で表される化合物を低温プラズマ処理することを特徴とする超微細な酸化マグネシウムなどの金属酸化物の製造方法が提案されている。
【0006】
【特許文献1】
特公平2−6325号公報
【特許文献2】
特開平2−74519号公報
【特許文献3】
特開平2−277822号公報
【特許文献4】
特公平7−23216号公報
【特許文献5】
特許第1659193号公報
【特許文献6】
特許第756399号公報
【特許文献7】
特開平2−26810号公報
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
前述の通り、マグネシアは幅広い分野で利用されており、マグネシアの粒子形状に関してもこれまで多くの検討がなされてきているものの、さらなる用途拡大、高性能化、高機能化に対応できる新規な形状のマグネシアが嘱望されている。また、マグネシアの粉体特性として比表面積や粒子径などに着目したものについても幾つかの提案がなされているが、それらは特別な原料が必要であったり、製造方法が煩雑であることから、工業用素材として広く利用されているものになっているとは言い難いのが現状である。
【0008】
本発明者らは、前記したところのマグネシアの製造原料となる塩基性炭酸マグネシウムに関して鋭意研究開発を進めており、そのなかで薄片状微細結晶からなる管状凝集粒子という特異な新規形状を持つ塩基性炭酸マグネシウムの合成に成功し、既に特許出願した(特願2002−179462、特願2002−220768)。
【0009】
さらに、本発明者らは、この管状凝集粒子である塩基性炭酸マグネシウムを原料として、マグネシアを製造する技術について鋭意研究開発を進めたところ、開発に成功したのが本発明である。すなわち、本発明の課題は、新規形状を示し、その形状に由来して高比表面積など種々の優れた特性を発現するマグネシア質粒子及びその製造方法を提供することである。
【0010】
【課題を解決するための手段】
本発明は、前記課題を解決するものであり、新規な形状のマグネシア質粒子及びその製造方法を提供するものである。そのうちのマグネシア質粒子は、管状構造という新規かつ独特な形状を示し、化学式MgO・mMgCO3(m=0〜4)で表されるもので、マグネシア質の薄片状粒子あるいは粒状粒子が集合したものである。また、その製造方法は、塩基性炭酸マグネシウムの薄片状微細結晶からなる管状凝集粒子を焼成することを特徴とするものである。
そして、本発明のマグネシア質粒子は、その独特な形状に由来して、高比表面積、高細孔容積など種々の粉体特性に優れたものとなる。
【0011】
【発明の実施の形態】
以下に、本発明の実施の形態について詳細に説明するが、本発明は、それによって何等限定されるものではなく、特許請求の範囲の記載によって特定されるものであることはいうまでもない。
本発明のマグネシア質粒子は、管状構造を有することを特徴とするものである。本発明でいうマグネシア質粒子は、化学式MgO・mMgCO3で表され、mの値は0〜4であり、完全な酸化マグネシウム(m=0)のほかに、一部に炭酸基を含有しているもの(0<m≦4)も含まれる。
【0012】
このmの値については、焼成温度を高くすることにより小さくすることができ、400℃以上ではm=0のものが得られる。また温度が高いほどm=0のものを短時間で得ることができる。以上のとおりであるから、焼成温度及び焼成時間等を調節することにより、マグネシア質粒子中の炭酸基の残留量を調節することができる。すなわち、本発明ではマグネシア質粒子の用途によってmの値を適宜調節することができる。また、特にマグネシア(酸化マグネシウム)に特有の触媒作用、絶縁作用、耐熱性などの特性を活用した分野で使用する場合には、m=0であることが望ましい。
【0013】
本発明のマグネシア質粒子の管状構造は、外形が柱状形状を示し、その内部は中空であり、かつ柱状の端部の少なくとも一方が開口した状態のものである。また、管状構造の形態には、薄片状粒子が管状に集合したものと粒状粒子が管状に集合したものとがある。前者は、マグネシア質の厚さ0.005〜0.5μm、径0.1〜10μmの薄片状粒子がカードハウス構造状に集合したものである。
【0014】
この場合、管状構造の外側面では薄片状粒子の端面が比較的明瞭に露出しているのに対して、内側面では外側面と比較して薄片状粒子の端面ははっきりとは認められない。後者は、マグネシア質の0.01〜0.1μmの粒状粒子が管状に集合したものである。したがって、管状粒子の表面は、管状粒子を構成する薄片状あるいは粒状粒子により凹凸をもつものとなる。このような管状構造の形態は、本発明のマグネシア質粒子の用途や求められる特性によって適宜選択することができる。
【0015】
管状構造の寸法は、管の内径が0.3〜5μm、外径が0.5〜20μm、長さが5〜200μm、長さ/外径の比が2〜50がよく、望ましくは該比を5〜50とすることがよく、この範囲にすることによって、管状構造に由来する種々の特性をより優れたものにすることができる。
【0016】
また、BET法により測定される比表面積が80〜220m2/gがよく、さらに水銀圧入法により測定される細孔分布において、細孔径0.01〜100μmの細孔容積(A)が6000〜14000mm3/gであり、かつ細孔径0.3〜5μmの細孔容積(B)との比であるB/Aの値が0.4〜0.6であることがよい。このような比表面積又は細孔分布とすることにより、管状構造に由来する種々の特性がさらに優れたものにすることができる。
【0017】
上記したような高い比表面積又は独特の細孔分布については、本発明のマグネシア質粒子の管状構造という特徴によりもたらされるものと、本発明者らは推察している。すなわち、管状構造とすることにより、粒子内部にも空間が生じるため、比表面積を高くすることができ、また管状構造の内径を0.3〜5μmとすることにより、細孔径0.3〜5μmの細孔容積の比が大きくなるものと考えられる。
【0018】
次に本発明のマグネシア質粒子の製造方法について述べる。本発明では、塩基性炭酸マグネシウムの薄片状微細結晶からなる管状凝集粒子を原料とし、この塩基性炭酸マグネシウムを焼成することにより、管状構造のマグネシア質粒子とすることを特徴とする。この塩基性炭酸マグネシウムを調製する方法については、後記した形状あるいは粉体物性のものが得られれば特段の制約はなく、例えば本発明者らが特願2002−179462及び特願2002−220768にて特許出願した方法が適用できる。
【0019】
本発明の製造方法において原料として用いる塩基性炭酸マグネシウムの薄片状微細結晶からなる管状凝集粒子は、厚さ0.005〜0.5μm、径0.1〜10μmの薄片状微細結晶がカードハウス構造状に集合したものである。その形状については、外径1〜20μm、長さ5〜200μm、長さ/外径の比が2〜50、内径が0.5〜5μm、内径/外径の比が0.1〜0.95といったものであり、BET法での比表面積が70〜200m2/g、さらに水銀圧入法により測定される細孔分布において、細孔径0.01〜100μmの細孔容積(A)が5000〜12000mm3/gであって、細孔径0.5〜5μmの細孔容積(B)との比であるB/Aが0.45〜0.85といったものが使用できる。
【0020】
前者の特願2002−179462の方法は、水溶液中にて水溶性マグネシウム塩と水溶性炭酸塩とを混合し、25〜55℃の温度で、径が0.5〜10μm、長さが5〜500μmの正炭酸マグネシウムの柱状粒子を生成させる第1ステップと、該正炭酸マグネシウムの柱状粒子の懸濁液を第1ステップで正炭酸マグネシウムを生成させた温度より高い温度であって、かつ35〜80℃の温度、9.5〜11.5のpHで加熱処理する第2ステップとにより薄片状微細結晶からなる管状凝集粒子の塩基性炭酸マグネシウムを調製するものである。
【0021】
この第1ステップにおいて使用される水溶性マグネシウム塩については、各種の水溶性マグネシウム塩が特に制限されることなく使用でき、それには塩化マグネシウム、硫酸マグネシウム、硝酸マグネシウムあるいは酢酸マグネシウム等が例示できる。水溶性炭酸塩についても、特に制限されることなく使用でき、それには炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸アンモニウム等が例示できるが、強アルカリの炭酸塩、具体的には炭酸ナトリウム、炭酸カリウムを用いることが、より効率よく塩基性炭酸マグネシウムの管状凝集粒子を調製することができ、好適である。
【0022】
第1ステップにおいては、水溶液中にて上記したような水溶性マグネシウム塩と水溶性炭酸塩とを反応させ、正炭酸マグネシウムの柱状粒子を析出させるが、その方法としては、例えば、炭酸ナトリウム水溶液中に塩化マグネシウム水溶液を添加する方法、硫酸マグネシウム水溶液中に炭酸アンモニウムを添加する方法など、水溶性マグネシウム塩と水溶性炭酸塩とを溶液中において混合して、マグネシウムイオンと炭酸イオンとが反応する条件であればよい。その際の反応には、反応の均一性を確保するために反応液の攪拌を行うのが好ましい。
【0023】
第1ステップにおいて生成させる正炭酸マグネシウムの形状については、柱状で、その径が0.5〜10μm、長さが5〜500μmであることが望ましい。その理由は、塩基性炭酸マグネシウムが正炭酸マグネシウムの柱状粒子表面から生成することによって、管状という独特の形状が形成されると推察しているからである。すなわち、中間生成物である正炭酸マグネシウムの形状が、塩基性炭酸マグネシウムの形状に大きく影響するといえる。
【0024】
したがって、目的とする塩基性炭酸マグネシウムの形状、特に径と長さに応じて、正炭酸マグネシウムの合成条件を調節して、適切な形状の正炭酸マグネシウムを得ることが重要である。上記形状以外の正炭酸マグネシウムの場合には、第2ステップにおいて、塩基性炭酸マグネシウムを生成させる際、その生成に要する時間が極端に長くなり製造効率が低下したり、目的とする管状凝集粒子が得られないことがある。
【0025】
そのようなことで、目的とする形状で、かつ第2ステップにおいて効率よく塩基性炭酸マグネシウムの管状凝集粒子を得ることができる正炭酸マグネシウムの柱状粒子を生成させるためには、水溶液中にて水溶性マグネシウム塩と水溶性炭酸塩とを反応させる温度を、望ましくは25〜55℃、より望ましくは28〜50℃の範囲とすることがよい。
【0026】
その際の温度が25℃未満であると、中間生成物である正炭酸マグネシウムの生成速度が極端に遅くなり、製造効率が低下してしまい現実的でない。逆に55℃を越えると、目的とする形状の正炭酸マグネシウムが得られなかったり、後の第2ステップにおいて、塩基性炭酸マグネシウムの管状凝集粒子が得られない。なお、第1ステップにおいて生成させる正炭酸マグネシウムとは、化学式MgCO3・nH2Oで表される炭酸マグネシウムの水和物であり、n=3のものが一般的であるが、n=3以外のものであっても、上記したような形状のものであれば制限されない。
【0027】
また、第1ステップで生成させる正炭酸マグネシウムの形状を調節して、第2ステップで生成させる塩基性炭酸マグネシウムの管状凝集粒子の形状をコントロールしたい場合には、第1ステップの反応条件を適宜コントロールすることによって、正炭酸マグネシウムの形状を上記した範囲内で調節することもできる。例えば、正炭酸マグネシウムの柱状粒子の径については、正炭酸マグネシウムを生成させる際の温度を比較的高くした方が、より径の小さな柱状粒子とすることができる。pHについては、第1ステップにおいて正炭酸マグネシウムの生成が開始される際のpHがより高い方が、より径の小さな正炭酸マグネシウムの柱状粒子を生成させることができる。
【0028】
このようにして第1ステップで得られる径が0.5〜10μm、長さが5〜500μmの範囲にある正炭酸マグネシウムの柱状粒子の懸濁液は、そのまま第2ステップに供しても差し支えないが、不純分として懸濁液中に溶解している可溶性マグネシウム塩の陰イオン成分や可溶性炭酸塩の陽イオン成分を回収したい場合や、これら不純分が最終生成物である塩基性炭酸マグネシウム中に残存することが好ましくない場合は、液を水などで置換し、不純分の除去を行ってもよい。
【0029】
続いて、第2ステップにおいては、第1ステップで得られた正炭酸マグネシウムの柱状粒子の懸濁液を望ましくは40〜70℃、より望ましくは45〜65℃で、かつ第1ステップより高い温度で加熱処理して、塩基性炭酸マグネシウムを生成させる。この第2ステップにおける加熱処理温度は、第1ステップで正炭酸マグネシウムを生成させる際の温度より高い温度とすることが重要となり、第1ステップと第2ステップとの温度差を、望ましくは2〜35℃、より望ましくは2〜25℃、さらに望ましくは2〜20℃とすることがよい。
【0030】
なお、この温度差に関しては、第1ステップで正炭酸マグネシウムの柱状粒子を生成させる温度と、第2ステップで正炭酸マグネシウムを加熱処理する際のpHとによって、より適切な範囲があり、例えば、第2ステップのpHを10.5とする場合、第1ステップが25〜35℃の際には温度差を20〜35℃、第1ステップが35〜45℃の際には温度差を5〜25℃、第1ステップの温度が45〜55℃の際には温度差を2〜15℃とすることが好適である。
【0031】
第1ステップよりも低い温度あるいは40℃未満の温度であると、目的とする塩基性炭酸マグネシウムの管状凝集粒子が得られなかったり、反応時間が極端に長くなって製造効率が低下し現実的でない。70℃を越える温度では、生成する塩基性炭酸マグネシウム粒子の均一性が悪くなり、不定形〜球状の凝集粒子の混入が顕著になる。
【0032】
また、第2ステップにおいても、第1ステップの場合と同様に、反応の均一性を確保するため反応液の撹拌を行う方が好ましい。さらに、加熱処理する際の正炭酸マグネシウム懸濁液のpHについては、望ましくは9.5〜11.5、より望ましくは10.0〜11.5とすることがよい。それは、pHが9.5未満であると正炭酸マグネシウムから塩基性炭酸マグネシウムが生成する速度が遅くなり、製造効率が低下するばかりでなく、最終生成物中に正炭酸マグネシウムが残留することがあるからでもある。また、pHが11.5を越えると、最終生成物の粒子の均一性が損なわれ、不定形ないし球状の粒子が混入しやすくなる。
【0033】
この範囲にpHを調節するためには、第1ステップにおける水溶性マグネシウム塩と水溶性炭酸塩との量比を調節するか、あるいは第2ステップにおいて酸性物質又はアルカリ性物質を添加し調節すればよい。前者の場合、水溶性マグネシウム塩の量を増やせば酸性側に、逆に水溶性炭酸塩の量を増やせばアルカリ性側に調節することができる。後者の場合、添加する酸性物質としては塩酸、硫酸、硝酸などが、アルカリ性物質としては水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニア水などが利用可能である。
【0034】
第2ステップにおいては、塩基性炭酸マグネシウムの生成が終了するまで、加熱撹拌を継続させることが好ましい。塩基性炭酸マグネシウムの生成の終了に関しては、懸濁液のpHや導電率などを計測することによって判定することができる。例えばpHについてみると、塩基性炭酸マグネシウムの生成が継続している時点では、懸濁液のpHは少しずつ減少していくのに対して、生成が終了すればpHはほぼ一定で推移する。
このようにして特願2002−179462の方法では、本発明のマグネシア質粒子の原料である塩基性炭酸マグネシウムの管状凝集粒子が調製される。
【0035】
次に、後者の特願2002−220768の方法は、水酸化マグネシウム懸濁液に二酸化炭素含有ガスを導入することによって炭酸水素マグネシウム溶液を調製する第1ステップと、該炭酸水素マグネシウム溶液をpH7.5〜11.0に調節して正炭酸マグネシウムの柱状粒子を生成させる第2ステップと、該正炭酸マグネシウムの柱状粒子の懸濁液をpH9.0〜12.0、かつ温度30〜75℃に調節した後、前記温度範囲を維持することにより塩基性炭酸マグネシウムを生成させる第3ステップとを有することを特徴とするものである。
【0036】
その第1ステップは、水酸化マグネシウムの懸濁液に二酸化炭素含有ガスを導入して炭酸水素マグネシウム溶液を調製する工程であり、ここで使用する原料の水酸化マグネシウムについては、特に制限されることはなく、海水に水酸化カルシウムを添加して水酸化マグネシウムを沈殿させる、いわゆる海水法により製造される水酸化マグネシウムが利用できるほか各種のものが利用できる。また、二酸化炭素含有ガスに関しても特段の制約はなく、ボンベ等から供給される二酸化炭素やそれを空気等で希釈したもの、燃焼排ガスなどの二酸化炭素を含有するものが利用できる。
【0037】
また、その第1ステップにおいては、原料とする水酸化マグネシウムの90%以上、望ましくは全量が炭酸水素マグネシウムに変化するのがよい。その理由は、炭酸水素マグネシウムに変化していない水酸化マグネシウム量が多い場合、後の第2ステップ及び第3ステップにおいて、均一な反応が阻害され、最終生成物である塩基性炭酸マグネシウムの管状凝集粒子の粒子形状の均一性が悪化することがあるからである。
【0038】
水酸化マグネシウムから炭酸水素マグネシウムへの変化に関しては、液のpHや導電率などを計測することによって確認することができる。例えば、液のpHについては、二酸化炭素含有ガスを導入する前の水酸化マグネシウムの懸濁液のpHが9〜11程度であるのに対して、水酸化マグネシウムの全量が炭酸水素マグネシウムに変化すれば、液のpHはほぼ中性となる。第1ステップにおいては、液のpHが8以下になるまで二酸化炭素含有ガスを導入することが望ましく、pHが7.5以下となるまで導入することがより望ましい。
【0039】
水酸化マグネシウム懸濁液に二酸化炭素含有ガスを導入する際の液温についても特段の制約はないが、液温が高すぎると、炭酸水素マグネシウムの溶解度が低下してしまい、その結果として調製される炭酸水素マグネシウム溶液中に残存する未反応の水酸化マグネシウム量が多くなるばかりでなく、第1ステップの反応が完了する前に炭酸水素マグネシウムが分解してしまう現象も認められる。したがって、水酸化マグネシウム懸濁液に二酸化炭素含有ガスを導入させる際には、液温を35℃以下に保持することが望ましく、30℃以下に保持することがより望ましい。
【0040】
また、水酸化マグネシウムの懸濁液に二酸化炭素含有ガスを導入した後、未反応の水酸化マグネシウムやその他の不純分などの不溶解残渣を除去することがより好ましく、そうすることによって、不純分の少ない炭酸水素マグネシウム溶液を調製することができ、後の第3ステップにおいて、純度が高くかつ粒子の均一性の高い塩基性炭酸マグネシウムを得ることができる。
【0041】
続く第2ステップにおいては、第1ステップで調製された炭酸水素マグネシウム溶液を、pH7.5〜11.0に調節して正炭酸マグネシウムの柱状粒子を生成させる。この第2ステップにおいても、第1ステップの場合と同様に反応の均一性を確保するため反応液の撹拌を行うのが好ましい。この第2ステップにおいては第1ステップにおいて中性域に移行したpHをアルカリ側にpH調節することが必要であり、そのために第1ステップで調製した炭酸水素マグネシウム溶液に、適当量のアルカリ性物質を添加することによってpH調節する。また、調節後は、pHが7.5〜11.0の範囲にあることが必要である。
【0042】
その第2ステップにおいて、pHを前記のとおりに調整する必要があるのは、pHが7.5未満であると、後の第3ステップにおいて塩基性炭酸マグネシウムの管状凝集粒子が得られないためである。逆に、pHが11.0を超えると、正炭酸マグネシウムが不安定になり、正炭酸マグネシウムの生成が完了する前に塩基性炭酸マグネシウムが生成してしまったり、また炭酸水素マグネシウムから直接塩基性炭酸マグネシウムが生成してしまい、塩基性炭酸マグネシウムの粒子の均一性が著しく悪化するばかりでなく、pH調節のために使用するアルカリ性物質の必要量が多くなり、経済的にも芳しくない。
【0043】
第2ステップにおいて正炭酸マグネシウムの柱状粒子を生成させるには、第1ステップにおいて調製した炭酸水素マグネシウム溶液をpH7.5〜11.0に調節した後、正炭酸マグネシウムの生成が終了するまで反応を継続させることが好ましい。正炭酸マグネシウムの生成の終了については、液のpHあるいは導電率を計測し、その値が安定化したことを観測することにより確認できる。
【0044】
また、その際の温度については、20〜55℃にすることが望ましく、30〜55℃にすることがより望ましい。20℃未満であると後の第3ステップにおいて、塩基性炭酸マグネシウムの管状凝集粒子のほかに、不定形の凝集粒子が混入しやすくなる。逆に55℃を超える温度の場合においても、第3ステップにおいて粒子の均一性が悪化する傾向がある。
【0045】
第2ステップでは、前記したとおりにpHを調節し、望ましくは温度も前記したとおり調節して、正炭酸マグネシウムの生成が終了するまで反応を継続させ、正炭酸マグネシウムの柱状粒子を生成させるわけだが、その柱状粒子の形状としては、径が0.5〜10μm、長さが5〜500μmのものが望ましい。特に柱状粒子の径については、0.5μm未満あるいは10μmを超える場合、後の第3ステップにおいて、本発明の目的とする塩基性炭酸マグネシウムの管状凝集粒子が得られないことがある。
【0046】
また、第3ステップで製造される塩基性炭酸マグネシウムの管状凝集粒子の形状、特に径と長さなどの寸法は、第2ステップで生成させる正炭酸マグネシウムの柱状粒子の径と長さに影響されており、塩基性炭酸マグネシウムの管状凝集粒子の形状に応じて、第2ステップで生成させる正炭酸マグネシウムの径と長さを調節することが望ましい。正炭酸マグネシウムの柱状粒子の径と長さとを調節するには、第2ステップにおいて、正炭酸マグネシウムを生成させる際のpH及び温度を適切にコントロールすればよい。
【0047】
例えば、第2ステップにおけるpHについては、前記した範囲内で、より高いpHとすることにより、径の小さな正炭酸マグネシウムの柱状粒子を得ることができ、逆により低いpHとすることにより、径の大きな正炭酸マグネシウムの柱状粒子を得ることができる。さらに、第2ステップにおける温度に関しては、前記した範囲内で、より高い温度とすることにより、径の小さな正炭酸マグネシウムの柱状粒子を得ることができ、逆により低い温度とすることにより、径の大きな正炭酸マグネシウムの柱状粒子を得ることができる。
【0048】
また、生成させた正炭酸マグネシウムの柱状粒子を、一旦濾別、洗浄してもよく、そうすることによって、第2ステップで添加したアルカリ性物質を除去することができ、製品中に含有される不純分をより一層低減できる点で好適である。このようにして、第2ステップでは、炭酸水素マグネシウム溶液から、正炭酸マグネシウムの柱状粒子を生成させる。
【0049】
第2ステップに続く、最後のステップである第3ステップにおいては、第2ステップで得られた正炭酸マグネシウムの柱状粒子の懸濁液からpH9.0〜12.0、温度30〜75℃の下において塩基性炭酸マグネシウムを生成させる。また、第3ステップにおいても、第1ステップ及び第2ステップの場合と同様に、反応の均一性を確保するため反応液の撹拌を行うのが好ましい。
【0050】
第3ステップで塩基性炭酸マグネシウムを生成させる際の温度については、30〜75℃であることが必要かつ重要である。30℃未満の温度であると、目的とする管状の塩基性炭酸マグネシウムが得られなかったり、反応時間が極端に長くなって製造効率が低下し現実的でない。75℃を越える温度では、生成する塩基性炭酸マグネシウム粒子の均一性が悪くなり、不定形〜球状の凝集粒子の混入が顕著になる。
【0051】
該ステップにおけるpHについては、9.0〜12.0とすることが必要である。その理由は、pHが9.0未満であると正炭酸マグネシウムから塩基性炭酸マグネシウムが生成する速度が遅くなり製造効率が低下するばかりでなく、最終生成物中に正炭酸マグネシウムが残留することがあるからである。逆にpHが12.0を越えると、最終生成物の粒子の均一性が損なわれ、不定形ないし球状の粒子が混入しやすくなる。
【0052】
さらに、第3ステップにおけるpHは、第2ステップにおいて正炭酸マグネシウムの柱状粒子を生成させる際のpHよりも高くすることが望ましく、より望ましくは0.3以上高くすることがよい。そうすることにより、均一性が高く、かつ種々の粉体物性に優れる塩基性炭酸マグネシウムの管状凝集粒子を、より効率よく調製することが可能となる。この範囲にpHを調節するためには、第3ステップにおいて酸性物質またはアルカリ性物質を添加し調節すればよい。
【0053】
なお、第3ステップにおける温度及びpHは、第2ステップで生成させた正炭酸マグネシウムの形状、特に径と長さに応じて調節することが望ましく、そうすることによって、より均一な形状の塩基性炭酸マグネシウムの管状凝集粒子を得ることができる。具体的には、正炭酸マグネシウムの径が小さい場合、第3ステップでのpH及び温度は低い方が好ましく、逆に正炭酸マグネシウムの径が大きい場合、第3ステップでのpH及び温度は高い方が好ましい。
【0054】
第3ステップにおいては、塩基性炭酸マグネシウムの生成が終了するまで、前記した範囲の温度を保持しながら、撹拌を継続させることが好ましい。なお、その際には、温度30〜75℃に調節した直後の温度を継続して維持している必要はなく前記温度範囲では変動してもよいが、変動は可能な限り少ない方が好適である。
【0055】
なお、塩基性炭酸マグネシウムの生成の終了に関しては、懸濁液のpHや導電率などを計測することによって確認することができる。例えばpHについては、塩基性炭酸マグネシウムの生成が継続している時点では、懸濁液のpHは低下していくのに対して、生成が終了すればpHはほぼ一定で推移する。
このようにして特願2002−220768の方法では、本発明のマグネシア質粒子の原料である塩基性炭酸マグネシウムの管状凝集粒子が調製される。
【0056】
以上で述べたような方法により、塩基性炭酸マグネシウムの薄片状微細結晶からなる管状凝集粒子は調製することができる。続いて、調製された塩基性炭酸マグネシウムを焼成することにより、管状構造を示すマグネシア質粒子が製造される。焼成する温度については、特段の制約はなく、上述したような化学組成、粒子形状、比表面積あるいは細孔分布を示すものが得られる温度であればよい。焼成温度は、焼成のための装置や、焼成時間、焼成時の雰囲気、焼成に供する塩基性炭酸マグネシウムの量などによって、適宜調節することが好ましい。
【0057】
ただ、焼成温度が低すぎる場合、又は高すぎる場合には、上述したような化学組成、粒子形状、比表面積あるいは細孔分布を示すものが得られ難くなる傾向が確認されている。具体的には、焼成温度が低すぎる場合、生成物中に原料の塩基性炭酸マグネシウムが残存しやすくなる。逆に焼成温度が高すぎる場合、生成物は完全にマグネシアの状態となるものの、粒子形状が崩壊し易くなり、管状構造のマグネシア質粒子が得られ難くなったり、得られなくなることもある。
以上の点を考慮すると、焼成温度は250〜700℃とすることが望ましい条件である。
【0058】
また、本発明のマグネシア質粒子の化学組成であるMgO・mMgCO3におけるmの値(0≦m≦4)については、焼成温度が低ければmの値が大きいものが得られ、焼成温度が高いとmの値が小さいものが得られる。具体的には、400℃以上ではm=0のものが得られ、400℃未満であると0<m≦4のものが生成しやすい傾向にある。ただしmの値については、焼成温度のほかに焼成時間や焼成装置の種類などによって変化するものであることから、製造目的とするマグネシア質粒子のmの値を勘案して、これら焼成条件を適切に調節することが望ましい。
【0059】
焼成の際の雰囲気については、塩基性炭酸マグネシウムからマグネシア質粒子が生成する雰囲気であれば特段の制約はない。水蒸気又は炭酸ガス濃度が高い場合には、マグネシア質粒子の生成速度が遅くなる傾向にあるので、その場合は焼成温度を高くしたり、焼成時間を長くすることによって、所望の化学組成のマグネシア粒子が生成するように適宜調節することが好ましい。
【0060】
また、前述したような管状構造の形態や、その寸法、比表面積、細孔分布などを、用途や求められる特性に応じて適切なものとしたい場合には、原料とする塩基性炭酸マグネシウムの管状凝集粒子の形状や焼成条件などを適宜調節すればよい。管状構造の形態については、焼成温度及び/又は焼成時間により調節することができる。
【0061】
焼成温度を高くまた焼成時間を長くすると、粒状粒子の集合体が生成しやすくなる。逆に焼成温度を低くまた焼成時間を短くすると、薄片状粒子の集合体が生成しやすくなる。この場合、薄片状粒子の集合体が生成するか、あるいは粒状粒子の集合体が生成するかは、焼成時間と焼成温度のほかに、焼成雰囲気や焼成装置によって変化し、一義的に値が示されるものではないが、具体例を挙げると、箱型電気炉を用い空気雰囲気下で1時間焼成を行った場合、400℃では薄片状粒子の集合体が、600℃では粒状粒子の集合体が生成する。
【0062】
管状構造を示すマグネシア質粒子の寸法については、原料とする塩基性炭酸マグネシウムの薄片状微細結晶からなる管状凝集粒子の寸法により調節することができる。塩基性炭酸マグネシウムの寸法を調節する方法については、原料とする塩基性炭酸マグネシウムの調製方法の説明で既に述べているが、例えば本発明者らが提案した特願2002−220768の方法においては、炭酸水素マグネシウム溶液から正炭酸マグネシウムの柱状粒子を生成させるステップ2のpH及び/又は温度を調節することにより、塩基性炭酸マグネシウムの管状凝集粒子の寸法を変えることができる。
【0063】
比表面積及び細孔容積については、焼成温度を高くまた焼成時間を長くすることにより、比較的これらの値が小さいものが生成し、逆に焼成温度を低くまた焼成時間を短くすることにより比表面積及び細孔容積が大きなものが生成しやすい。さらに、得られたマグネシア質粒子を、脂肪酸塩や樹脂酸塩、カップリング剤といった各種界面活性剤などの有機系表面処理剤、あるいはリン酸塩や硫酸塩などの無機系表面処理剤にて処理したり、ゾル−ゲル法などを用いて各種金属化合物などで表面被覆し、各分野で利用してもよい。
【0064】
マグネシアは、水分や炭酸ガスと反応して水酸化や炭酸化が起こることもあるので、特にこのような現象が好ましくない用途においては、表面処理や表面被覆が有効となる。このようにして製造されるマグネシア質粒子は、管状構造という新規かつ独特な形状を示すものとなり、この形状に由来して高比表面積、高細孔容積、低かさ密度など種々の特性に優れたものとなる。
【0065】
そして、本発明の管状構造を有するマグネシア質粒子は、その独特の形状及びその形状に由来する特性を活用して、様々な分野で利用することができる。例えば、本発明のマグネシア質粒子をゴム、プラスチック、樹脂、塗料、紙などのフィラーとして用いた場合、低かさ密度という特性により製品の軽量化が可能となるほか、比表面積が高いことによりマトリックスとフィラーとの接触面積が増大することや、管状という伸張性をもった形状により、製品の高強度化にも効果を発揮する。
【0066】
また、本発明のマグネシア質粒子は医薬、化粧料、香料、農薬などの担体としても優れた効果を有するものである。すなわち、管状構造の内部に有効成分を内包させることができるので、通常の多孔性の担体と比較して、より多くの成分を担持させることが可能となる。さらに、内包させた物質の放出がコントロールされた放出制御性の担体として利用することもできる。例えば、揮発しやすい成分を内包させた場合、その成分は外気との接触が制限されているため通常よりも揮発が抑制されるといった徐放性を発揮するほか、酸などによりマグネシア質粒子を溶解あるいは応力により管状構造を崩壊させ、その際に内包された成分が放出されるといった性質を発現させることもできる。
【0067】
そのほかにも、触媒担体、微生物担体、生体担体、植物成長剤、オレフィン吸収剤、吸液剤、吸油剤、芳香剤、消臭剤、シーリング剤、防錆剤、食品添加物、濾過剤、濾過助剤、研磨剤、カラム充填剤等としても、管状構造という独特の形状及びその形状に由来する優れた特性により、製品の高性能化、高機能化などに有効である。
【0068】
【実施例】
以下において、本発明の実施例及び比較例を挙げてさらに具体的に説明するが、本発明は、これら実施例によって何ら限定されるものではなく、特許請求の範囲によって特定されるものであることはいうまでもない。
【0069】
[実施例1]
40℃に調節した硫酸マグネシウム7水塩水溶液(125g/L)2.0Lに、40℃に温度を維持しながら無水炭酸ナトリウム水溶液(220g/L)0.50Lを徐々に添加し50分間撹拌して、正炭酸マグネシウムを得た(第1ステップ)。この正炭酸マグネシウムをSEMにて観察したところ、径が1〜3μm、長さが10〜50μmの柱状粒子であった。
【0070】
続いて、第1ステップで得られた正炭酸マグネシウムの柱状粒子の懸濁液(pH10.2)を加熱して、温度を55℃に保持しながら120分間撹拌して、塩基性炭酸マグネシウムを生成させた(第2ステップ)。得られた生成物をSEMにて観察したところ、厚さが0.01〜0.04μm、径0.2〜2μmの薄片状一次粒子からなる凝集粒子で、外径が1〜5μm、内径が0.5〜3μm、長さが5〜20μmの塩基性炭酸マグネシウムの管状凝集粒子であった。
【0071】
この塩基性炭酸マグネシウムの管状凝集粒子50gを磁製皿に入れ、箱型マッフル炉にて、350℃で1時間焼成し、マグネシア質粒子を製造した。得られた生成物について、粉末X線回折分析及び化学組成分析を行った結果、非晶質のMgO・mMgCO3(m=0.45)であることが確認された。またSEMによる観察を行ったところ、生成物は径0.2〜1μmの薄片状粒子が管状に集合したものであり、管状構造の内径が0.5〜3μm、外径が1〜4μm、長さが5〜20μmであった。
【0072】
[実施例2]
塩基性炭酸マグネシウムの焼成温度を600℃、焼成時間を2時間とした以外は、実施例1と同様にマグネシア質粒子を製造した。得られた生成物について、粉末X線回折分析及び化学組成分析を行った結果、結晶質のMgO(ペリクレース)であることが確認された。またSEMによる観察を行ったところ、生成物は径0.02〜0.15μmの粒状粒子が管状に集合したものであり、管状構造の内径が0.3〜2μm、外径が0.8〜4μm、長さが5〜20μmであった。
【0073】
[実施例3]
水酸化マグネシウムの懸濁液(30g/L)2.0Lに、その温度を20℃に保持して撹拌しながら、二酸化炭素25容量%と空気75容量%とからなる二酸化炭素含有ガスを8.0L/分の速度で30分間導入した後、不溶解残渣を除去して、炭酸水素マグネシウム溶液(pH7.3)を調製した(第1ステップ)。
【0074】
このステップに続いて、炭酸水素マグネシウム溶液に、適量の水酸化ナトリウム水溶液を添加して液のpHを8.0に調節するとともに、加熱して液温を35℃にまで上昇させ、その後も同温度に保持しながら60分間撹拌して、正炭酸マグネシウムの懸濁液を調製した(第2ステップ)。この正炭酸マグネシウムをSEMにて観察したところ、径5〜10μm、長さ30〜100μmの柱状粒子であった。
【0075】
引き続き、正炭酸マグネシウムの柱状粒子の懸濁液に、適量の水酸化ナトリウム水溶液を添加して液のpHを10.5に調節するとともに、加熱して液温を55℃にまで上昇させ、その後も同温度に保持しながら120分間撹拌して、塩基性炭酸マグネシウムを調製した(第3ステップ)。この塩基性炭酸マグネシウムをSEMにて観察したところ、厚さ0.02〜0.1μm、径1〜2μmの薄片状微細結晶からなる、内径2〜5μm、外径5〜10μm、長さ20〜50μmの管状凝集粒子であった。
【0076】
この塩基性炭酸マグネシウムの管状凝集粒子50gを磁製皿に入れ、箱型マッフル炉にて、500℃で3時間焼成し、マグネシア質粒子を製造した。得られた生成物について、粉末X線回折分析及び化学組成分析を行った結果、結晶質のMgO(ペリクレース)であることが確認された。またSEMによる観察を行ったところ、生成物は径0.05〜0.1μmの粒状粒子が管状に集合したものであり、管状構造の内径が2〜4μm、外径が5〜10μm、長さが20〜50μmであった。
【0077】
[実施例4]
第2ステップのpHを9.0、第3ステップの温度を50℃とした以外は、実施例3と同様にして、塩基性炭酸マグネシウムを調製した。
なお、第2ステップで生成した正炭酸マグネシウムをSEMにて観察したところ、径1〜3μm、長さ20〜50μmの柱状粒子であることが確認された。また、第3ステップで得られた塩基性炭酸マグネシウムをSEMにて観察したところ、厚さ0.01〜0.05μm、径0.2〜1μmの薄片状微細結晶からなる、内径1〜2μm、外径2〜3μm、長さ5〜30μmの管状凝集粒子であった。
【0078】
この塩基性炭酸マグネシウムの管状凝集粒子50gを磁製皿に入れ、箱型マッフル炉にて、500℃で3時間焼成し、マグネシア質粒子を製造した。得られた生成物について、粉末X線回折分析及び化学組成分析を行った結果、結晶質のMgO(ペリクレース)であることが確認された。またSEMによる観察を行ったところ、生成物は径0.05〜0.1μmの粒状粒子が管状に集合したものであり、管状構造の内径が0.8〜2μm、外径が1.5〜3μm、長さが5〜25μmであった。
【0079】
[実施例5]
第2ステップのpHを10.0、第3ステップの温度を40℃とした以外は、実施例3と同様にして、塩基性炭酸マグネシウムを調製した。なお、第2ステップで生成した正炭酸マグネシウムをSEMにて観察したところ径0.5〜1μm、長さ10〜50μmの柱状粒子であった。さらに、第3ステップで得られた塩基性炭酸マグネシウムをSEMにて観察したところ、厚さ0.005〜0.02μm、径0.1〜0.5μmの薄片状微細結晶からなる、内径0.5〜1μm、外径1〜1.5μm、長さ5〜30μmの管状凝集粒子であった。
【0080】
この塩基性炭酸マグネシウムの管状凝集粒子50gを磁製皿に入れ、箱型マッフル炉にて、500℃で3時間焼成し、マグネシア質粒子を製造した。得られた生成物について、粉末X線回折分析及び化学組成分析を行った結果、結晶質のMgO(ペリクレース)であることが確認された。またSEMによる観察を行ったところ、生成物は径0.05〜0.1μmの粒状粒子が管状に集合したものであり、管状構造の内径が0.3〜1μm、外径が0.8〜1.5μm、長さが5〜20μmであった。
【0081】
[比較例1]
市販の塩基性炭酸マグネシウム(厚さ0.005〜0.05μm、径0.5〜2μmの薄片状粒子からなる、径4〜20μmの不定形凝集粒子)50gを磁製皿に入れ、箱型マッフル炉にて、500℃で3時間焼成した。得れらた生成物について、粉末X線回折分析及び化学組成分析を行った結果、結晶質のMgO(ペリクレース)であることが確認された。またSEMによる観察を行ったところ、生成物は径0.04〜0.08μmの粒状粒子が不定形状に集合したものであり、その径は3〜20μmであった。
【0082】
[比較例2]
比較例1と同じ市販の塩基性炭酸マグネシウムを用い、焼成温度を350℃、焼成時間を1時間とした以外は、比較例1と同様の操作を行った。得れらた生成物の粉末X線回折分析及び化学組成分析を行った結果、非晶質のMgO・mMgCO3(m=0.56)であることが確認された。またSEMによる観察を行ったところ、生成物は径0.5〜2μmの薄片状粒子が不定形状に集合したものであり、その径は3〜20μmであった。
【0083】
[生成物の物性測定等]
実施例及び比較例で製造したマグネシア質粒子等のBET法による比表面積測定及び水銀圧入法による細孔分布測定を行った。その結果を表1に示す。その表1からも明らかなように、実施例で得られたマグネシア質粒子は、管状構造という特異な形状に起因して、比較例のものと比べ比表面積や細孔容積が高く、また独特の細孔分布を示すことがわかる。
なお、細孔分布測定におけるB/A値については上述した通り、細孔径0.3〜5μmの細孔容積(B)と細孔径0.01〜100μmの細孔容積(A)との比である。
【0084】
【表1】
【0085】
【発明の効果】
本発明のマグネシア質粒子は、管状構造という新規かつ独特の形状を示し、その形状に由来して高比表面積、高細孔容積及び低かさ密度など種々の粉体特性を発現するものであり、その特性を活用して、各種の分野で、様々な組成物に配合あるいは原材料として利用することにより、製品の高性能化、高機能化を可能とすることができる優れたものである。
【0086】
例えば、本発明のマグネシア質粒子をゴム、プラスチック、樹脂、塗料、紙などのフィラーとして用いた場合、低かさ密度という特性により製品の軽量化が可能となるほか、比表面積が高いことによりマトリックスとフィラーとの接触面積が増大することや、管状という伸張性をもった形状により、製品の高強度化にも効果を発揮する。
【0087】
また、そのマグネシア質粒子は、医薬、化粧料、香料、農薬などの担体としても優れた効果を有するものである。すなわち、管状構造の内部に有効成分を内包させることができるので、通常の多孔性の担体と比較して、より多くの成分を担持させることが可能となる。さらに、内包させた物質の放出がコントロールされた放出制御性の担体として利用することもできる。例えば、揮発しやすい成分を内包させた場合、その成分は外気との接触が制限されているため通常よりも揮発が抑制されるといった徐放性を発揮するほか、酸などによりマグネシア質粒子を溶解あるいは応力により管状構造を崩壊させ、その際に内包された成分が放出されるといった性質を発現させることもできる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 実施例1で製造したマグネシア質粒子の粒子形状を示すSEM像(×25,000)である。
【図2】 実施例2で製造したマグネシア質粒子の粒子形状を示すSEM像(×25,000)である。
【図3】 実施例1で調製した塩基性炭酸マグネシウムの管状凝集粒子(焼成前)の粒子形状を示すSEM像(×25,000)である。
Claims (6)
- 長さ/外径の比が2〜50である管状構造を有することを特徴とするマグネシア質粒子。
- 管の内径が0.3〜5μm、外径が0.5〜20μm、長さが5〜200μmである請求項1に記載のマグネシア質粒子。
- BET法により測定される比表面積が、80〜220m2/gである請求項1又は2に記載のマグネシア質粒子。
- 水銀圧入法により測定される細孔分布において、細孔径0.01〜100μmの細孔容積(A)が6000〜14000mm3/gであり、かつ細孔径0.3〜5μmの細孔容積(B)との比であるB/Aの値が、0.4〜0.6である請求項1ないし3のいずれか1項に記載のマグネシア質粒子。
- 塩基性炭酸マグネシウムの薄片状微細結晶からなる管状凝集粒子を焼成する、長さ/外径の比が2〜50である管状構造を有することを特徴とするマグネシア質粒子の製造方法。
- 焼成温度が250〜700℃である請求項5に記載のマグネシア質粒子の製造方法。
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