JP3871390B2

JP3871390B2 - Ａｂｓポンプ用軸受グリース組成物

Info

Publication number: JP3871390B2
Application number: JP01261197A
Authority: JP
Inventors: 一博松本; 芳基山口; 成吾赤部
Original assignee: NTN Corp
Current assignee: NTN Corp
Priority date: 1997-01-27
Filing date: 1997-01-27
Publication date: 2007-01-24
Anticipated expiration: 2017-01-27
Also published as: JPH10204468A; US5846916A; DE19802835A1

Description

【０００１】
【発明の属する技術分野】
本発明は、主として高速で走行する自動車電装部品関係の、ＡＢＳ（アンチロック・ブレーキ・システム）ハイドロユニットのポンプ部分の軸受に使用され得る潤滑グリース組成物に関するものである。
【０００２】
【従来の技術】
ＡＢＳ（アンチノック・ブレーキ・システム）は、雨や雪などによる滑りやすい路面で急ブレーキをかけた場合に起こりやすい、タイヤロック、横滑りなどの危険な現象を防止するために開発された装置である。その構成は、車輪速度を検出するセンサ、マイコンによりセンサの信号を演算し、制御指令を出すコンピュータ、コンピュータの信号を受けてブレーキ油圧を制御するアクチュエータ（ＡＢＳハイドロユニット）などで構成されている。
【０００３】
ＡＢＳハイドロユニットは、モーター、ソレノイドバルブ、ポンプ（例えばピストンポンプ）で構成される。指令を受けると、モーターが作動し、ピストンポンプにより過剰な液を逃して適正な制御を達成する。
【０００４】
【発明が解決しようとする課題】
ＡＢＳハイドロユニットのポンプは、ブレーキ液やシール用ゴムに接触する可能性の高い条件下にある。従って、この種のポンプの駆動用の軸受部分で使用される潤滑グリースとしては、ブレーキ液やゴムシールへの影響の少ない特性のものが要求される。
【０００５】
ところで、この部分のゴムシールとしては、通常、天然ゴムやＥＰＤＭが用いられているが、これらは、広く潤滑関連に使用されている鉱油や合成油に弱く、膨潤しやすい性質のものである。従って、ゴムシールの膨潤を防止すべく、潤滑グリースとして選定される油種は限られており、一部の鉱物油やアルキレングリコール、αーオレフィン系合成油をベースとしたものの中から選定されているのが実情である。
【０００６】
しかし、これらの油脂類は、−３０℃付近の低温や１５０℃付近の高温状況下では、固化して作動不能となるか、蒸発して潤滑不能となるものが多い。従って、自動車の高速化や高性能化が進み、使用条件がますます厳しくなる今日において、重要な保安部品であるにＡＢＳ装置にこの種の潤滑グリースを使用するのは問題がある。
【０００７】
そこで、本発明は、天然ゴムやＥＰＤＭなどのゴム材料に影響を与えず、極低温から超高温までの広い範囲で安定した性能を保持し、特に高温環境下での耐久性の向上に顕著な効果を奏するＡＢＳポンプ用軸受グリース組成物の提供を目的とする。
【０００８】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成すべく、本発明は、各種シリコーン油［粘度（25℃）１００〜１０００cSt の範囲内］を、ベース油部分の主成分として用いることを必須条件として、増稠剤には、次の一般式
Ｒ₁−ＮＨＣＯＮＨ−Ｒ₂−ＮＨＣＯＮＨ−Ｒ₃
（上式中のＲ₂は、炭素数６〜15の２価の芳香族系炭化水素基、具体的にはトリレン基，ジフェニルメタン基またはジメチルビフェニレン基を表す。また、式中のＲ₁およびＲ₃は、炭素数６〜１８の直鎖の飽和アルキル基とシクロヘキシル基を表す。それらの割合は、直鎖の飽和アルキル基が５〜９５モル％，シクロヘキシル基が９５〜５モル％の範囲内、より好ましくは、飽和アルキル基４０〜６０モル％、シクロヘキシル基６０〜４０モル％の範囲内のもので、構成される）で表せられる、ジウレア化合物を２〜３０重量％配合したことを特徴とする、ＡＢＳポンプ用軸受グリース組成物に関するものである。
【０００９】
すなわち、このグリース組成物は、ベース油にシリコーン油を用い、さらにシリコーン油と相溶性のある特殊なウレア化合物をシックナー成分として組み合わせることにより、特に高温時での長寿命化を図った組成物である。
【００１０】
これらの反応に供するアミン類としては、
ｎ−プロピルアミン、イソプロピルアミン、ｎ−ブチルアミン、イソブチルアミン、ｓ−ブチルアミン、ｎ−ペンチルアミン、３−メチルブチルアミン、ｎ−ヘプチルアミン、ｎ−オクチルアミン、２−エチルヘキシルアミン、ｎ−テトラデシルアミン、ｎ−ヘキサデシルアミン、ｎ−オクタデシルアミン、アニリン、４−ビフェニルアミン、ｐ−フェネチジン、ｐ−アニシジン、ｐ−ドデシルアニリン、シクロペンチルアミン、シクロヘキシルアミン、ジヒドロアビエチルアミン、３，５，５−トリメチルヘキシルアミン、オレイルアミン
等が挙げられる。
【００１１】
これらの反応に供するイソシアネート類としては、
1,5-ナフチレンジイソシアネート、4,4'−ジフェニルメタンジイソシアネート、2,4-トリレンジイソシアネート、3,3'−ジメチル−4,4'ビフェニレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート
等が挙げられる。
【００１２】
このようなウレア系増稠剤のグリースにおける配合割合は、２〜３０重量％である事が好ましい。なぜなら、２重量％未満の少量では、粘性の乏しい液状と成って漏洩し易くなり、軸受に密封することが困難になる。また、３０重量％を超える多量では、固化して稠度が２００以下となり、軸受封入用のグリースとしての実用性が低くなる。
【００１３】
なお、この発明の効果を害しない範囲ならば必要に応じて酸化防止剤、防錆剤、極圧剤、油性剤などを添加することができる。
【００１４】
本発明の潤滑グリースを得るためには、２種のアミン類を基油に溶解させたものを、ジイソシアネートを基油に混合させた溶液中に入れ、これらを激しく攪拌して反応を促進させる。その後、温度１７０℃まで加熱攪拌を続けた後、最高加熱温度で一定時間保持した後、加熱を停止する。その後、室温まで放冷するが、１００℃近辺で必要な添加剤類を添加し、溶解混合などの処理を行う。室温まで放冷した後、三段ロールミルで仕上げ処理するという一般的な製法により、容易に得ることが出来る。
【００１５】
本発明の主要な部分を構成する、シリコーン油は、低温時での特性に優れており、−６０℃以下の極低温状態でも固まることなく流動する特性を持っている。また、高温時においても、３００℃以上の引火点を保持しており、その上高温状態下での蒸発減量が非常に少なく、且つまた酸化安定性にも優れており、潤滑性能の面でもすぐれた特性を保持している。また、シリコーンゴム以外の各種ゴム材に対しては、膨潤させる等の悪影響を及ぼすことがない。
【００１６】
このように多くの面で優秀な特性をもつ、シリコーン油を、ベース油の主要部分を構成するように意図して作られた本発明のグリース組成物は、従来から広く使用されてきた鉱油、アルキレングリコール，ポリαオレフィン油等を基油の主要成分に用いているこれまでのグリースと比べ、高温条件下に於いて、格段の長寿命特性を有している。
【００１７】
しかし、ベース油のみが耐熱性能を保持していただけでは、ＡＢＳポンプ用軸受のグリースとしての高性能化と良好な潤滑特性、高温下での長寿命性能が得られず、増稠剤との組み合わせが重要な課題となる。例えば、従来から広く増稠剤として使用に供せられていた、１２−ヒドロキシステアリン酸リチウムを増稠剤として使用した場合は、たとえベース油にシリコーン油を使用しても、高温でグリースが流動状に変化してしまい、それが為に潤滑箇所から流失する結果となり、グリースとしての耐熱性能に劣るために、良好な潤滑特性もとより長寿命性能も発揮できない。
【００１８】
耐熱性のある増稠剤としては、従来からウレア系化合物が広く使用されてきたが、本発明以外の構成のものをシリコーン油と組み合わせて使用した場合においては、こんどは逆に、高温時及び経日変化による硬化が大きく、これが為に潤滑不良をおこし、とても長寿命性能を発揮できない。
【００１９】
本発明が提案する増稠剤成分は、構造の異なる２種のアミン類を、ジイソシアネートと反応させたジウレア化合物であるが、本発明以外のウレア化合物を増稠剤としたシリコーングリースは、比較的広い温度範囲での良好な潤滑特性を発揮できるものの、高温下での長寿命を有する事ができない。
【００２０】
軸受の高温度下での潤滑機構に関しては、未知な部分が多く理論的な解明は出来ていないが、増稠剤を構成する成分の特性が、これらの機能を発揮する上で、重要な役割を演じるものと思われる。
【００２１】
グリースは、これらの増稠剤成分が、ベース油中で三次元的網目構造を有しおり、その毛細管力で油を保持し、室温では半固体状を有している。
【００２２】
このような構造が温度上昇とともにさまざまに変化し、その結合状態に於いても著しく変化してゆく。このような状態は、示差熱分析によって、結晶状態の変化を示す転移温度をチェックする事で、捉える事が出来る。この転移温度は、増稠剤を構成する成分によって、大きく関係するが、共存するベース油の種類や濃度によっても、微妙に変化してくる。
【００２３】
軸受内に充填されたグリースは、荷重や高速回転による条件下で、セン断や金属接触が繰り返される事により、温度が上昇したり、また逆に停止状態や、低温外気の影響により、室温及び極低温になるなどのサイクルを、くりかえし行っている。
【００２４】
本発明以外のウレアグリースは、このようなサイクルを続けている内に、その構造面全体に大きな変化をもたらし、それが要因となって、離油や硬化という現象をもたらし、これがために潤滑不良という最悪な状態を迎える結果となる。
【００２５】
本発明の増稠剤成分の組成は、構造の異なる２種類のアミン類を、最適な比率をもって構成させ、それらをイソシアネートと反応させて、ジウレア化合物を構成する事に大きな特徴がある。これら２種のアミンの内、直鎖状の脂肪族アミンとイソシアネートとの化合物が構成する部分は、ベース油に溶解しやすい性質をもち、耐熱性の面で劣る特性をもつ事から、軸受内温度が上昇すると容易に溶解するか、ベース油内にとけ込み、それらが軸受軌道面に流れ込み、その表面に強固に潤滑被膜を構成する。この特性が、高速回転という条件下で軸受内での良好な潤滑性を保持する性能を発揮する。
【００２６】
しかし、これだけでは軸受内からグリースが流失してしまい、潤滑性能上あまり良好な結果が得られないが、これを防止する目的で、耐熱性の面で良好な性能を有する、脂環族系アミンを組み合わせ、これとイソシアネートとの反応により生成したジウレア化合物が構成する部分が、軟化流失や耐熱面の性能を発揮し、脂肪族アミン成分がもつ欠点を補正し、グリースとしての耐熱性能を保持する結果となる。
【００２７】
このような構想のもとに、本発明の潤滑グリースを形成する増稠剤部分の構成は、２種のアミンが個々にジイソシアネートと結合した形態のものが主成分となって、増稠剤部分を形成する形となっている。
【００２８】
望ましい形態としては、異なった２種のアミン類が、ジイソシアネートに結合している化合物が、出来るだけ多く系内に存在するように、配合面や製造方法を検討する必要があり、これらの点を鋭意検討した結果、本発明における最適な配合割合と製造方法を見いだす事に成功し、良好な潤滑性能と、長寿命化を実現できる、優位な潤滑グリース組成物を得る事に成功したものである。
【００２９】
【発明の実施の形態】
本発明を、以下の実施例及び比較例により、具体的に説明する。
【００３０】
なお、各実施例および比較例に於いて、図１・図２（実施例を示す）、および図３・図４（比較例を示す）に示す配合成分に基づいてグリースを製造し、次に示す方法により、物性および性能を評価した。
【００３１】
▲１▼ 混和稠度・・・ＪＩＳ−Ｋ−２２２０による。
【００３２】
▲２▼ 滴点・・・ＪＩＳ−Ｋ−２２２０による。
【００３３】
▲３▼ 軸受潤滑寿命試験・・・ＡＳＴＭ−Ｄ−１７４１による。
【００３４】
ただし、試験温度は１５０℃で行った。
【００３５】
▲４▼ ＮＴＮ株式会社製ＣＲＣ型グリース寿命試験機
・・・ＡＳＴＭ−Ｄ−３３３６−７５に準拠
但し、試験温度は、１５０℃で行った。
【００３６】
［実施例１〜３および比較例１〜３］
反応容器に、図１・図２に示す基油の半量と、全量のイソシアネートを入れ、５０〜６０℃に加温する。次いで、別容器に、２種のアミン類を、残り半量の基油にとり、７０〜８０℃に加熱溶解させ、この溶液を注意深く反応容器内に加え、これらを激しく攪拌して反応を促進させる。この反応は、発熱反応のため反応物の温度は上昇するが、約１時間この状態で攪拌と、パイプ循環等を行い、十分な反応と均一な分散を行う。パイプ循環は、断続的に続けながら、この後温度を上げ、１７０〜１８０℃で約１時間保持した後、冷却した。次いで、室温まで放冷した後、三段ロールミルで仕上げ、目的のグリースとした。
【００３７】
実施例及び、比較例に示される各種原料の性状は、以下の通り。
【００３８】
（１）ジメチルシリコーン油
・動粘度〈２５℃〉−−−２００ｃＳｔ・引火点−−−３１５℃
（２）メチルフェニルシリコーン油
・動粘度〈２５℃〉−−−１００ｃＳｔ・引火点−−−３３０℃
（３）フェニルメチルシリコーン油
・動粘度〈２５℃〉−−−４５０ｃＳｔ・引火点−−−３５０℃
【００３９】
実施例に示すように、本発明のグリースは、１５０℃での潤滑寿命試験において、いずれも４０００時間以上の長寿命を有し、高速潤滑性能を評価する、ＣＲＣ型グリース寿命試験に於いても、１５０℃で４０００時間以上の長寿命を示した。
【００４０】
比較例１〜３は、ベース油にシリコーン油以外の基油を使用した場合の例を示しており、現在ＡＢＳポンプ用として市販されている潤滑グリースの例を示している。いずれの場合も、寿命試験の結果が短寿命であり、ＥＰＤＭに対する膨潤性においても大きく劣り、本発明の潤滑グリースの優位性が、実証されたと云える。
【００４１】
【発明の効果】
本発明の潤滑グリース組成物は、基油にシリコーン油を必須成分とし、増稠剤成分に、２種のアミンを特定の範囲内の比率で組み合わせて使用し、さらに、それらをイソシアネートとの反応の際、目的とする形態の化合物を、形成させるような製法を用いて、調製されたものである。
【００４２】
このようにして調製された本発明のグリース組成物は、以上の説明から明白なように、高温下で長寿命を示し、高速・高温の寿命試験に於いても、長寿命を示すという非常にすぐれた効果が得られた。さらにＥＰＤＭに対する膨潤性に於いても優れた特性を示し、ＡＢＳポンプ用軸受グリースとして最適なグリース組成物を提供できた。
【図面の簡単な説明】
【図１】本発明にかかるグリース組成物の物性及び性能の評価結果を示す図である（前半部）。
【図２】本発明にかかるグリース組成物の物性及び性能の評価結果を示す図である（後半部）。
【図３】比較例にかかるグリース組成物の物性及び性能の評価結果を示す図である（前半部）。
【図４】比較例にかかるグリース組成物の物性及び性能の評価結果を示す図である（後半部）。

Claims

粘度（25℃）１００〜１０００ｃＳｔの範囲内の各種シリコーン油を、ベース油部分の必須成分とし、増稠剤には、次の一般式
Ｒ_１−ＮＨＣＯＮＨ−Ｒ_２−ＮＨＣＯＮＨ−Ｒ_３
（上式中のＲ_２は、炭素数６〜１５の２価の芳香族系炭化水素基を、Ｒ_１およびＲ_３は、炭素数６〜１８の直鎖の飽和アルキル基、シクロヘキシル基を表し、それらの割合は、直鎖の飽和アルキル基が５〜９５モル％、シクロヘキシル基が９５〜５モル％の範囲内のもので構成される）
で表せられる、ジウレア化合物を２〜３０重量％配合した事を特徴とするＡＢＳポンプ用軸受グリース組成物。