JP3869274B2 - 溶接用アルミニウム合金ワイヤ - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、溶接用アルミニウム合金ワイヤに関するものであり、より詳細には、Mgを含有する溶接用アルミニウム合金ワイヤの送給性を向上させる技術に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
船舶や車両などに用いられているアルミニウムやアルミニウム合金を溶接する際には、アーク溶接法(例えば、TIG溶接法や消耗電極式ガスシールドアーク溶接法など)が従来から採用されている。特に消耗電極式ガスシールドアーク溶接法(例えば、MAG溶接法やMIG溶接法など)では連続溶接が可能であり、広く用いられている。
【0003】
図1は、消耗電極式ガスシールドアーク溶接装置の一例を説明する図である。スプール1に巻かれた5〜10kg程度の溶接用アルミニウム合金ワイヤ(以下「溶接用ワイヤ」または単に「ワイヤ」と称する場合がある)2は、送給装置3に備えられたガイドローラー4を介した後プッシュ方式の送給ローラー5で送り出され、フレキシブルなコンジットチューブ6を介してその端部に接続された溶接トーチ7(以下「トーチ部」と称する場合がある)内に送られる。溶接トーチ7内では、通電チップ8(以下「チップ部」と称する場合がある)によって溶接用ワイヤに接触給電され、ワイヤ先端と母材9との間にアークが発生する。この発生したアークによって母材9は溶融して掘り下げられ、一方溶接用ワイヤは大気と遮断されたシールドガス中で溶滴状となり母材9側に移行して溶融プールを生成し、この溶融プールが凝固することによって溶接部が形成される。
【0004】
上記の様な溶接を行う際に良好な溶接部を得るためには、コンジットチューブ内やトーチ部、チップ部などにおける溶接用ワイヤの送給性が重要な要件となる。つまり、溶接用ワイヤの送給性が悪くなると、チップ部を通過する際のワイヤ通過速度(送給速度)が不安定になるので、良好な溶接部が得られるように予め設定されている溶接電流とアーク電圧との関係が維持できなくなるからである。このような不具合現象を一般に「アーク不安定」と称しており、この結果良好な溶接部を形成できず、融合不良や形状不良を起こすのである。さらに、チップ部を通過する際におけるワイヤの通過速度が不安定になると、ワイヤがチップ部において過剰に通電され、溶融したワイヤがチップ部へ融着するといった事態を招くこともある。
【0005】
溶接用ワイヤの送給性を向上させる技術として、例えば、特開平5-277786号公報には、線状の溶接用アルミニウムワイヤの表面に油を付着させることによってワイヤの送給性を向上させる技術が提案されている。しかし、ワイヤに油を付け過ぎると水素増加によるブローホールの発生といった新たな問題が生じることがあった。
【0006】
また、本発明者らも、ワイヤ表面の平滑度を高めることによって送給ローラーで削られ難くし、送給性を向上させたワイヤを提案しており(特開平7-32186号公報)、効果を挙げている。しかしながら、このワイヤを製造する際の条件制御が難しく、さらなる改良が望まれていた。
【0007】
溶接用アルミニウム合金ワイヤとしては、Al−Mg系合金(例えば、JIS規格 Z3232 A5356,A5183,A5556,A5554など)が広く用いられている。この理由は、アルミニウムにMgを含有させることによって、ワイヤ自身の強度が向上するので、例えばコンジットチューブ内におけるワイヤの座屈発生を低減することができるからである。しかし、本発明者らによると、ワイヤの強度を考慮するだけでは、送給性を充分に向上できないことが分かった。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、この様な状況に鑑みてなされたものであり、その目的は、溶接用アルミニウム合金ワイヤの送給性を向上させることによって、安定したアーク溶接を確保できるワイヤを提供することにある。
【0009】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決することのできた本発明に係る溶接用アルミニウム合金ワイヤとは、Mgを1.5〜6質量%含有する溶接用アルミニウム合金ワイヤであって、キャスト径をX、該ワイヤの耐力をYとしたとき、下記式(1)〜(3)を満足する点に要旨を有する。
250≦X≦550(mm) ・・・(1)
400≦Y≦550(N/mm2) ・・・(2)
Y≦(X+1100)/3 ・・・(3)
但し、本発明において、「キャスト径」とは、スプールに巻かれている溶接用アルミニウム合金ワイヤを開放したときに形成するループのループ径を意味する。
【0010】
【発明の実施の形態】
本発明者らは、上記課題を解決すべく様々な角度から検討した結果、ワイヤにMgを含有すると共に、溶接用アルミニウム合金ワイヤをスプールから開放したときのキャスト径と、ワイヤの耐力とを適切に制御すると、ワイヤの送給性を向上させることができて安定したアークを維持できることを見出し、本発明を完成した。以下、本発明の作用効果について説明する。
【0011】
本発明に係る溶接用アルミニウム合金ワイヤは、Mgを1.5〜6%(「質量%」の意味。以下同じ。)の範囲で含有する必要がある。このように範囲を限定した理由は下記の通りである。
【0012】
Mg: 1.5 〜 6 %
Mgは、ワイヤの強度を高める元素であり、ワイヤを送給する際にワイヤの径路中における座屈を低減することができる。また、Mgを含有しているアルミニウム合金ワイヤを溶接に用いると、溶接後の継手部で固溶強化を起こし、継手部の強度を高めることができる。この様な効果を得るためには、Mgを1.5%以上、好ましくは1.6%以上含有する必要がある。しかし、Mgを過剰に含有すると、伸線加工してワイヤを製造する際に割れが発生し易くなるので、Mg含有量を6%以下、好ましくは5.8%以下にするのが良い。
【0013】
本発明に係る溶接用アルミニウム合金ワイヤは、上述した様にMgを含有するものである。そして、この様なワイヤは、溶接の際にその取り扱いを容易にするためにスプールに巻き付けられるのが一般的であるが、スプールにワイヤを巻き付ける前には、ワイヤに予めある程度の癖を付与するのが一般的である。すなわち、スプールに巻き付ける前のワイヤを塑性変形させて癖を付けた後、スプールに巻き付けるのである。この様に癖が付いたワイヤがスプールから開放されると、ある程度の径を有したループ状になる。本発明では、スプールから開放されたときにワイヤが形成するループのループ径を「キャスト径」と称する。
【0014】
次に、スプールから開放されたワイヤは、送給装置に送られて、さらにはコンジットチューブ内を通過するが、このときコンジットチューブが複雑に曲げられていると、ワイヤが複雑な径路を通過することとなるので、チップ部に到達するまでの間に力を受けて変形してしまう。
【0015】
例えば、癖の付いたワイヤが送給装置に供給されると、ワイヤは送給装置に設けられたガイドローラーや送給ローラーなどと接触するが、このときワイヤはローラーから力を受けて、キャスト径が大きくなる方向(つまり、ワイヤが直線状となる方向)に変形する。また、コンジットチューブの全長は通常2〜6m程度であるので、コンジットチューブは束ねられていたり、蛇行して配置されていることが多い。このときワイヤのキャスト径(曲率)よりもワイヤが通過する径路の曲率の方が小さいときは、ワイヤがコンジットチューブ内を通過する際にキャスト径がさらに小さくなる方向の力を受ける。よって、ワイヤがスプールから通電チップに到達するまでの間に、ワイヤに癖が付くのである。
【0016】
以上の様に、ワイヤがチップ部に到達するときには、ワイヤに癖が付いているので、ワイヤの癖による径(曲率)と通電チップ内部の形状とは一致しないので、ワイヤが通電チップ内壁面に接触してワイヤと通電チップ内壁との間に摩擦力が発生する。この摩擦力が大きくなり過ぎると、ワイヤはチップ部で引っ掛かり、ワイヤの送給速度が不安定となる。ワイヤの送給速度が不安定になると、チップ部におけるワイヤが過剰通電されてチップ部にワイヤが融着する原因となる。特にMgを含有している強度の高いワイヤは、純アルミニウムワイヤと比べると硬いので摩擦力が大きくなる傾向があり、これがワイヤの送給性低下の原因となって、さらにはチップ融着を発生していた。そこで、本発明者らは、チップ部に送給された時点における溶接用ワイヤの曲率が小さく、できるだけ直線状であれば、ワイヤとチップ部との間の摩擦抵抗が小さくなって、ワイヤの送給性を向上させることができるのではないかと考えた。
【0017】
この様な観点から検討したところ、Mgを所望量含有している溶接用ワイヤについてスプールから開放したときのワイヤのキャスト径と、ワイヤの耐力を下記の範囲に厳密に規定すると共に、これらキャスト径と耐力との関係を規定することによって、チップ部に到達する際のワイヤの曲率を調整できることに想到した。本発明における規定理由とその範囲は下記の通りである。
【0018】
キャスト径: 250 〜 550 (mm)
スプールから開放したときのワイヤのキャスト径が大きければ、ワイヤが送給装置やコンジットチューブ内を通過する際に多少力を受けて癖が付いたとしても、チップ部に到達したときの曲率が小さなワイヤとなるので、ワイヤの送給性を向上させることができる。しかし、スプールから開放したワイヤのキャスト径が250mm未満であれば、後述する様にワイヤの耐力を制御しても、チップ部におけるワイヤの曲率を充分に小さくすることができないので、本発明ではキャスト径を250mm以上とする必要がある。好ましくは280mm以上である。
【0019】
また、ワイヤを巻き付けるスプールの直径は通常250mm程度であるので、ワイヤから開放したときのキャスト径を250mm未満にするためには、ワイヤをスプールに巻きつける前に、強めの癖を付与しなければならない。しかし、癖が強いワイヤは、スプールに巻き付けることが困難になり、ワイヤの巻き乱れを生じる。この巻き乱れはワイヤの送給性を低下する原因となるので、この観点からもキャスト径の範囲を上記の様に規定した。
【0020】
一方、スプールから開放したワイヤのキャスト径が550mmを超えているワイヤは、スプールに巻かれている状態であっても広がろうとする力が働くので、スプールからワイヤを送り出す際にワイヤ同士が絡み合ってしまう。従って、ワイヤの送給性を向上させることができない。この様な観点から、本発明ではキャスト径を550mm以下にする必要がある。好ましくは500mm以下である。
【0021】
ワイヤの耐力: 400 〜 550 (N/mm 2 )
チップ部に到達する際のワイヤの曲率を小さくするためには、ワイヤがチップ部に到達するまでの間に変形しやすいことが必要である。つまり、ワイヤが変形しやすければ、送給装置やコンジットチューブ内を通過する際に径路から力を受けたときに発生する摩擦力が小さくなり、また受けた力によってワイヤの癖が直るので、ワイヤがチップ部に到達したときにおける曲率を小さくすることができるからである。そこで本発明では、こういった観点からワイヤの耐力を規定した。
【0022】
ワイヤが上記の範囲でMgを含有する際には、ワイヤの耐力が400N/mm2未満であると、ワイヤの耐力が小さ過ぎて軟らかいので、ワイヤがコンジットチューブ内などで座屈してしまい、送給性の向上を阻害する原因となる。よって、本発明では、ワイヤの耐力を400N/mm2以上とする必要がある。好ましくは410N/mm2以上である。
【0023】
一方、ワイヤが硬くなり過ぎると、ワイヤを送給装置などに供給しても殆ど変形しないので、例えばワイヤの経路が複雑に曲がっているとワイヤがコンジットチューブの内壁などと接触して摩擦抵抗が大きくなり、送給性を向上させることができない。この様な観点から、本発明では、ワイヤの耐力を550N/mm2以下に規定する。好ましくは460N/mm2以下である。
【0024】
さらに、本発明では、スプールから開放したワイヤのキャスト径をX、ワイヤの耐力をYとしたとき、下記式(3)を満足することが重要である。下記式(3)は後述する実験によって得られたものであり、所望量のMgを含有しているワイヤであっても、ワイヤのキャスト径X(mm)とワイヤの耐力Y(N/mm2)との関係が、Y>(X+1100)/3となるときは、キャスト径と耐力とのバランスが悪く、ワイヤがチップ部に到達した際に、ワイヤの癖が充分直らないので摩擦抵抗が大きくなり、送給性を向上させることができない。これがチップ部においてワイヤの融着などの不具合が発生する原因となる。
Y≦(X+1100)/3 ・・・(3)
【0025】
本発明に係る溶接用アルミニウム合金ワイヤを製造するに際しては、Mgを上記範囲で含有すると共に、スプールから開放したワイヤのキャスト径およびワイヤの耐力が本発明で規定する範囲であれば特に限定されない。例えば下記に示す方法によって製造することができる。
【0026】
伸線加工によって得られたワイヤは、通常スプールに巻きつけられる前にある程度の癖が付与されるが、この理由は、スプールに巻き付ける前のワイヤに予めある程度の癖を付けた方が、スプールに巻き付けやすくなるからである。スプールから開放したときのキャスト径が、本発明で規定する範囲を満足させるためには、スプールに巻きつける前のワイヤに付与する癖の程度を制御すれば良い。例えば、スプールの直径が250mmであれば、スプールに巻き付ける直前のワイヤを開放したときに形成されるループの直径が250〜700mm程度となる様に癖が付与される。この理由は、前記ループの直径が250mm未満では、スプールの直径よりも小さくなるのでワイヤ付与された癖が強過ぎて、ワイヤをスプールに整列良く巻き取ることが困難となるからであり、前記ループの直径が700mmを超えると、スプールの直径よりもかなり大きくなるので、ワイヤに癖が殆ど付かずスプールにワイヤを上手く巻くことが困難となるからである。
【0027】
スプールに巻き付ける前のワイヤに癖を付与する手段としては、伸線加工したワイヤをスプールに巻き付ける前に、複数個(例えば3個)のローラーを設け、このローラー間を蛇行する様に通過させると共に、このローラーの押し込み量を調整する方法が挙げられる。
【0028】
この様にスプールに巻き付けられたワイヤを開放すると、ワイヤには癖が付与されているので直線状にならず、ループが形成される(上述した様に、本発明では、このループ径を「キャスト径」と称している)。そして、本発明者らが、スプールにワイヤを巻き付ける前にワイヤに付与する癖の程度と、スプールから開放したワイヤのキャスト径との関係について検討したところ、キャスト径はワイヤの耐力に影響を受けることが判明した。
【0029】
耐力が470N/mm2のワイヤをスプールに巻き付ける前段階として、ワイヤの癖によって形成されるループのループ径が700mmとなる程度の癖をワイヤに付与してからスプールに巻き付けると、スプールに巻き付けた後にワイヤを開放したときのキャスト径が280mmとなった。また、耐力が520N/mm2のワイヤを用いて上記と同じ条件でスプールに巻き付けると、スプールから開放したときワイヤのキャスト径は440mmとなった。よって、スプールから開放されたワイヤのキャスト径は、ワイヤの耐力に影響を受けることが分かる。
【0030】
以上の様に、本発明では、ワイヤの耐力を制御すると共に、スプールから開放したワイヤのキャスト径を制御することが重要であるが、ワイヤの耐力を制御する手段としては、下記に示す方法が例示できる。
【0031】
ワイヤの耐力は、ワイヤの成分組成やワイヤを製造する際に導入される歪などに影響を受けるので、最終伸線する前のワイヤに焼鈍を施すとワイヤの耐力を制御することができる。しかし、ワイヤの成分組成にもよるが、最終伸線する前のワイヤに焼鈍を施したのみでは、ワイヤの耐力は460〜600N/mm2程度にしかならず、若干硬めのワイヤになることが分かった。
【0032】
そこで、本発明者らが検討した結果、最終伸線して得られるワイヤを、所望のワイヤ径よりも若干(例えば0.5mm程度)大きくしておき、このワイヤに焼鈍を施したあとワイヤ表面の皮をむいて所望のワイヤ径にすれば良いことが分かった。このときの焼鈍条件は、焼鈍温度を100〜300℃程度、保持時間を1時間以上にすることが好ましい。従来法では、一般的にワイヤに焼鈍を施しておらず、たとえワイヤに焼鈍を施していたとしても焼鈍時間が1時間よりも短い場合が多く、ワイヤの耐力を充分に低くすることができなかった。また、焼鈍と最終加工とを組合わせるといった知見は、本発明で初めて得られたものである。
【0033】
本発明に係る溶接用アルミニウム合金ワイヤは、合金成分としてMgを含有するものであり、残部は基本的にアルミニウムおよび不可避不純物(ZrやV,Ag,Bi,Pb,Ga,Beなど)からなるが、必要に応じてCrやMnなどの元素を含有することが好ましい。CrとMnの好ましい含有範囲とその規定理由は下記の通りである。
【0034】
Cr: 0.01 〜 0.5 %
Crは、溶接後の継手部におけるAlの結晶粒を微細化すると共に、結晶粒径を均一化して継手強度を向上させる元素であり、その効果を得るためには0.01%以上含有することが好ましい。より好ましくは0.05%以上含有するのが良い。しかし、その含量が0.5%を超えると、溶接後に粗大な金属間化合物を生成して継手強度を低下させる原因になるので、好ましい上限は0.5%、より好ましい上限は0.45%である。
【0035】
Mn: 0.01 〜 1.2 %
Mnは、溶接後の継手部におけるAlの結晶粒を微細化すると共に、結晶粒径を均一化して継手強度を向上させる元素であり、また、AlやFeと結合してAl−Fe−Mn系の化合物を生成することができるので、継手強度を向上させることができる。この様な効果を得るためには、好ましくは0.01%以上、より好ましくは0.02%以上含有するのが良い。しかし、Mnの含有量が1.2%を超えると、溶接後の継手部に巨大な化合物を生成して強度を低下する原因となるので、好ましい上限は1.2%、より好ましい上限は1.15%である。
【0036】
また、上記不可避不純物としてFeを含有することがあるが、特にFeは1%以下(0%を含む)に抑制することが好ましい。この理由は下記の通りである。
【0037】
Fe: 1 %以下( 0 %を含む)
Feは、一般的にアルミニウムワイヤ中に不純物として含有しているが、その含量が1%を超えると溶接後の継手部分に化合物を生じやすくなり、この化合物が継手強度を低下させる原因となる。よって、本発明ではFe含量を1%以下に抑制することが好ましく、より好ましくは0.9%以下にすることが望ましい。
【0038】
さらに、本発明に係るワイヤの成分組成が、Mgを含有する例えば5000系であると、上記不可避不純物としてSiを含有することがあるが、Si含有量が1%超になると溶接後の継手部にMg−Si系化合物などを生成して、継手部の強度低下の原因となる。よって、Siの含有量を好ましくは1%以下(0%を含む)、より好ましくは0.9%以下(0%を含む)に抑制することが望ましい。
【0039】
上記元素に加えて、必要に応じてCuやZn,Ti,Sn,Ni,Bなどの各元素をワイヤに含有させると溶接後の継手部における強度をさらに高めることができる。このとき各元素の含有量の上限は夫々0.1%であり、二種以上の元素を含有する場合は、総量で0.2%以下にすることが推奨される。
【0040】
本発明に係る溶接用アルミニウム合金ワイヤは、消耗電極式ガスシールドアーク溶接法(例えば、MAG溶接法やMIG溶接法など)で用いることが好ましく、特にMIG溶接法に採用するのが好適である。
【0041】
また、本発明に係る溶接用アルミニウム合金ワイヤは、種々のアルミニウム製部材を溶接する際に用いることができる。アルミニウム製部材の材質としては、3000系(Al−Mn−Mg系)、5000系(Al−Mg系)および6000系(Al−Mg−Si系)など公知のものが例示できる。
【0042】
以下、本発明を実施例によって更に詳細に説明するが、下記実施例は本発明を限定する性質のものではなく、前・後記の趣旨に徴して設計変更することはいずれも本発明の技術的範囲に含まれるものである。
【0043】
【実施例】
表1に示す成分組成を有する溶接用アルミニウム合金ワイヤを製造し、ワイヤの送給性について評価した。
【0044】
No.1〜5は、アルミニウム合金の鋳塊(φ8mm×600cm)を、ダイス伸線で加工し、φ1.2mmのアルミニウム合金ワイヤを製造した。
【0045】
No.6〜13は、アルミニウム合金の鋳塊(φ8mm×600cm)を加工してφ1.66mmの原線にしたものを、表2に示す条件で焼鈍した後、表面を削って(表2では「SV」と示した)φ1.2mmのアルミニウム合金ワイヤを製造した。表2に焼鈍条件として焼鈍温度(℃)と焼鈍時間(h)を夫々示す。
【0046】
得られたアルミニウム合金ワイヤは、図2に示す様にスプールに巻き取った。図中、11は上記方法で得られた溶接用アルミニウム合金ワイヤ、12はφ90mmのローラー、13はφ120mmのローラー、14はφ80mmのローラー、15はφ250mmのスプールを夫々示している。また、図中の矢印16はロールの押し込み量を示しており、スプール15に併記した矢印は、スプールの回転方向を示している。ローラー12〜14の押し込み量を夫々調整することによって、スプールに巻き取られたアルミニウム合金ワイヤをスプールから開放したときのキャスト径を変化させた。
【0047】
アルミニウム合金ワイヤの成分分析は、X線回折及びICP(誘導結合プラズマ)発光分析で分析した。
【0048】
ワイヤの耐力はJIS Z2241に準拠して測定した。結果を表2に示す。
【0049】
スプールに巻き付けられたアルミニウム合金ワイヤを、スプールから開放したときに形成するループのループ径をキャスト径とし、キャスト径を直定規で測定した。測定結果を表2に示す。
【0050】
下記に示す溶接装置で表1に示したワイヤを溶接した。下記の溶接条件で厚さ15mmのアルミニウム板(JIS Z3232 A5356組成)上をビードオン溶接した。尚、前記図1に示すガイドローラー4による加圧は行わず、送給ローラーの加圧ハンドルの設定値をメモリ2としている。
【0051】
<溶接装置>
電源:CPDWP350
送給装置:「CMWH147」(商品名:ダイヘン社製)
トーチ:「WTCA2501」(商品名:ダイヘン社製)
コンジットチューブ:「プラライナ U2962M06」(商品名:ダイヘン社製)、3m
通電チップ:「TIP023010」(商品名:トーキンアーク社製)のφ1.2mmCO2チップ。
【0052】
<溶接条件>
条件:220A、25V
ワイヤの送り速度(台車速度):50cm/min
溶接時間:最大2分間
径路:全長3mのコンジットチューブの途中にφ170mmのループを1つ作り、且つ、トーチを曲率半径100mmに曲げている(前記図1参照)
シールドガス:Arガス、流量25L/min。
【0053】
上記の条件で溶接を行わずワイヤのみを送給したときに、チップ部に到達したときの溶接用アルミニウム合金ワイヤが形成するループのループ径を直定規で測定した。測定結果を表2に通電チップ出口におけるループ径として示す。尚、ワイヤの送給径路の途中には、コンジットチューブを曲げてφ170mmのループを作り、ワイヤの送給を困難にしている(前記図1参照)。このとき、コンジットチューブの先端に設けられた通電チップ出口におけるループ径が400mm以上であれば、チップ部におけるワイヤと通電チップとの間の摩擦抵抗が少なく、安定したアーク溶接が可能となることを確認している。
【0054】
まず、表1に示したワイヤの送給可否について調べた。送給の可否は、チップ部に通電を施さず、溶接をしない状態で調べた。評価基準は下記の通りであり、結果を表2に示す。尚、ワイヤの送給速度の変化は考慮していない。
【0055】
<送給可否>
○:ワイヤがチップ部から排出される
×:ワイヤが途中で止まり、チップ部から排出されない。
ワイヤの融着性は、上記条件で溶接を行ったときのチップ部における融着の有無で評価した。評価基準は下記の通りであり、結果を表2に示す。
【0056】
<融着性>
○:ワイヤが通電チップに融着しなかったもの
×:ワイヤが通電チップに融着したもの
ワイヤの送給可否とチップ融着性からワイヤの送給性を評価した。評価基準は次の通りであり、結果を表2に示した。
【0057】
<送給性>
○:ワイヤの送給速度が一定であり、安定したアーク溶接を維持できる
×:ワイヤの送給速度が不安定であり、チップにおいてワイヤの融着が発生した。
【0058】
【表1】
【0059】
【表2】
【0060】
表2に示したワイヤをスプールから開放したときのキャスト径X(mm)と、ワイヤの耐力Y(N/mm2)との関係を図3にプロットする。図中、●は本発明例、×は比較例を夫々示しており、点線はY=(X+1100)/3の直線である。表2および図3から次の様に考察できる。
【0061】
No.1〜5は、本発明の要件を満足しない比較例である。ワイヤの耐力とキャスト径のバランスが悪く、本発明で規定する上記式(3)の関係を満足していないので、ワイヤが通電チップ出口に到達したときのループ径が400mm未満となり、ワイヤと通電チップとの間の摩擦抵抗が大きくなる。よって、ワイヤをチップ部まで送給できるものの、送給速度が不安定となり、溶接を行うと摩擦抵抗が原因となりチップ部にワイヤが融着した。よってワイヤの送給性を向上させることができず、安定したアークを実現することができない。
【0062】
No.6〜10は、本発明の要件を満足する本発明例である。ワイヤをチップ部まで一定の速度で送ることができ、また通電チップ出口におけるループ径が400mm以上となっているので、チップ部とワイヤとの摩擦抵抗が小さい。よって、溶接時にワイヤの融着が発生せず、安定したアークを確保することができる。
【0063】
No.11〜14は、本発明に係るいずれかの要件を満足しない比較例である。
【0064】
No.11は、スプールからワイヤを開放したときのキャスト径が本発明の範囲から外れるので、スプールに巻かれているワイヤが発散しよう(広がろう)とする。よって、ワイヤをチップ部まで送給することができない。
【0065】
No.12は、Mg含有量とワイヤの耐力が本発明の範囲から外れている。従って、ワイヤの送給径路が複雑に曲げられていると、チューブとワイヤとの間の摩擦抵抗が大きくなり、ワイヤの送給性が劣悪になった。
【0066】
No.13は、キャスト径が本発明で規定する範囲を外れており、キャスト径が小さ過ぎてワイヤが整列巻きできなかった。よって、ワイヤの送給が不均一となり、さらには送給不能になった。
【0067】
No.14は、Mg含有量とワイヤの耐力が本発明の範囲から外れている。よって、コンジットチューブ内で座屈が発生し、ワイヤを送給できなかった。
【0068】
図3から明らかな様に、本発明に係る溶接用アルミニウム合金ワイヤは、下記(1)〜(3)式を満足しているので、送給性に優れている。
250≦X≦550(mm) ・・・(1)
400≦Y≦550(N/mm2) ・・・(2)
Y≦(X+1100)/3 ・・・(3)
【0069】
【発明の効果】
上記の様な構成を採用すると、溶接用アルミニウム合金ワイヤの送給性を向上させることができるので、チップ部においてワイヤの融着を発生せず、安定したアークを維持できるワイヤを提供することができた。
【図面の簡単な説明】
【図1】 消耗電極式ガスシールドアーク溶接装置の一例を説明する図である。
【図2】 伸線加工したワイヤをスプールに巻く際の工程図である。
【図3】 ワイヤをスプールから開放したときのキャスト径と、ワイヤの耐力との関係を示した図である。
【符号の説明】
1:スプール 2:溶接用ワイヤ
3:送給装置 4:ガイドローラー
5:送給ローラー 6:コンジットチューブ
7:溶接トーチ 8:通電チップ
9:母材 11:溶接用アルミニウム合金ワイヤ
12:φ90mmのローラー 13:φ120mmのローラー
14:φ80mmのローラー 15:φ250mmのスプール
16:ロールの押し込み量
Claims (1)
- Mgを1.5〜6質量%含有する溶接用アルミニウム合金ワイヤであって、
キャスト径をX、該ワイヤの耐力をYとしたとき、下記式(1)〜(3)を満足することを特徴とする溶接用アルミニウム合金ワイヤ。
250≦X≦550(mm) ・・・(1)
400≦Y≦550(N/mm2) ・・・(2)
Y≦(X+1100)/3 ・・・(3)
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