JP6619473B2 - アルミニウム合金溶加材の製造方法 - Google Patents

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本発明は、アルミニウム合金からなる溶加材の製造方法に関する。より詳しくは、Al−Mg系(5000系)合金材などの高強度アルミニウム合金材の溶接に用いられるアルミニウム合金溶加材の製造方法に関する。
自動車やLNG(Liquefied Natural Gas;液化天然ガス)タンクなどには、高強度のAl−Mg系(5000系)合金材が用いられている。このAl−Mg系合金材を溶接する際は、溶接金属部も高強度に保つために、溶加材には、Mg含有量が高いAA5356合金(Mg含有量4.5〜5.5質量%)、A5556合金(Mg含有量4.7〜5.5質量%)及びA5183合金(Mg含有量4.3〜5.2質量%)などが利用されている。
また、近年、構造部材の大型化及び高強度化に伴い、溶接金属部のMg含有量を更に高めて、継手強度を向上させるため、Mgを5.5質量%以上含有するアルミニウム合金溶加材についての検討がなされている(特許文献1〜3参照)。例えば、特許文献1に記載のアルミニウム合金溶加材では、Mg:6〜10質量%を含有するアルミニウム合金に、Zrを0.26〜1.5質量%添加することにより、溶接金属部の凝固組織の微細化を図っている。
一方、特許文献2には、溶接割れ感受性を低減すると共に、強度特性に優れた溶接継手を得るため、Mg:5.5〜8.0質量%、Cr:0.05〜0.25質量%、Ti:0.25質量%以下、Si:0.4質量%以下、Fe:0.4質量%以下、Cu:0.1質量%以下、Zr:0.05質量%以下及びZn:0.25質量%以下を含有し、残部がAl及び不可避不純物からなるAl合金溶加材が提案されている。この特許文献2に記載の溶加材では、Si含有量が多くなると、ビレットを鋳造する際にMg−Si系脆化層が形成され、ボンド部の強度が低下するため、0.4質量%以下に規制している。
また、特許文献3には、Mg:5.5〜6.5質量%、Mn:0.4〜1.2質量%、Zn:0.4〜2.0質量%、Zr:0.05〜0.3質量%、Cr:0.3質量%以下、Ti:0.2質量%以下、Fe:0.5質量%以下、Si:0.5質量%未満、Cu:0.25質量%以下を含有し、残部がAl及び不可避的不純物からなるアルミニウム系溶加材合金が提案されている。この特許文献3に記載の溶加材合金でも、SiはMgSiを形成してMgの有益な作用を制限するという理由で、Si含有量を0.5質量%未満に規制している。
特開平1−143791号公報 特開2010−279982号公報 特表2001−519239号公報
施工条件の多様化に伴い、従来よりも細径の溶加材への要求が高まっており、例えば直径が1.2mm程度の細径ワイヤの製品化が求められている。しかしながら、特許文献1に記載の溶加材は、Zr添加量が多く、通常の方法で製造すると粗大な金属間化合物が生成してしまうため、特殊な方法を用いなければならない。また、特許文献1に記載の溶加材は、Zr系金属間化合物の生成に加えて、Mg添加量も多いため、加工性に劣り、細径のワイヤに伸線することが難しい。
一方、特許文献2,3に記載の溶加材のようにSi含有量を規制すると、MgSi量を低減することはできるが、それだけでは伸線加工性を十分に向上させることができず、例えば直径が1.2mm程度の細径のワイヤを伸線した場合、ワイヤ破断が生じるという問題点がある。
そこで、本発明は、Mgを高濃度で含有していても、加工性に優れ、細径ワイヤへの伸線が可能なアルミニウム合金溶加材の製造方法を提供することを主目的とする。
本発明に係るアルミニウム合金溶加材の製造方法は、Mg:5.5〜7.5質量%を含有すると共に、Si:0.02〜0.06質量%以下に規制され、残部がAl及び不可避的不純物からなる組成を有するアルミニウム合金溶加材の製造方法であって、
前記組成のビレット450〜520℃で均質化熱処理する工程と、
均熱化処理後の前記ビレットを押し出し加工する工程と、
押し出し加工により得られた線材を圧延及び抽伸工程により伸線する工程と、
をこの順で実施して、
短径が10μm以上の略矩形状のMgSiの数を、前記加工方向の平行断面と垂直断面の平均値で50個/mm未満にする
本発明によれば、Si含有量を低減すると共に、MgSiの存在形態を制御しているため、伸線加工性が向上し、5.5〜7.5質量%と高濃度でMgを含有しているにもかかわらず、破断することなく細径ワイヤに伸線加工することができる。
実施例2の溶加材の断面の顕微鏡写真である。 溶接試験板形状及び試験片採取位置を示す平面図である。
以下、本発明を実施するための形態について、詳細に説明する。なお、本発明は、以下に説明する実施形態に限定されるものではない。
本発明の実施形態に係るアルミニウム合金溶加材(以下、単に溶加材ともいう。)は、例えばソリッドワイヤであり、Mg:5.5〜7.5質量%を含有すると共に、Si:0.06質量%以下に規制され、残部がAl及び不可避的不純物からなる組成を有する。そして、本実施形態の溶加材は、短径が10μm以上のMgSiの単位面積あたりの数密度が50個/mm未満となっている。
[Mg:5.5〜7.5質量%]
Mgは、溶接金属部の強度を向上させる元素である。溶加材のMg含有量が5.5質量%よりも少ないと、溶接金属部の強度向上が不十分となる。一方、溶加材に7.5質量%を超えてMgを含有させても、溶接金属部の強度向上効果は飽和し、更に、溶加材の強度が高くなり過ぎて伸線加工性が低下する。よって、本実施形態の溶加材では、Mg含有量は5.5〜7.5質量%とする。
[Si:0.06質量%以下]
Siは、Mgと金属間化合物(MgSi)を形成する。特に、Mgを5.5質量%以上と多量に含むアルミニウム合金では、巨大なMgSiが形成されやすく、Si含有量が0.06質量%を超えると、その傾向が顕著になる。よって、本実施形態の溶加材では、Si含有量を0.06質量%以下に規制する。
なお、Siは、不可避的不純物としてアルミニウム地金中に一定量含有されるため、Si含有量を低く抑えるにはより純度の高い地金を用いることが好ましい。しかしながら、地金純度が高くなるに従い、使用できる地金やスクラップが限られてくるため、製造コストが増加する。そこで、製造コストと効果のバランスを考慮すると、Si含有量は0.02質量%以上とすることが好ましい。Si含有量がこの範囲であれば、純度99.7%や純度99.9%の地金を使用することが可能となる。
[残部:Al及び不可避的不純物]
本実施形態の溶加材の成分組成における残部は、Al及び不可避的不純物である。ここで、不可避的不純物としては、前述したSiの他に、Mn、Cr、Ti、Zr、Fe及びZnなどが挙げられる。ただし、これらの元素を多量に含有すると、粗大な粒子を形成したり、他の元素と金属間化合物を形成したりするため、伸線性に影響を与える虞がある。そこで、前述した元素を不可避的不純物として含有する場合は、それぞれMn:0.2質量%以下、Cr:0.25質量%以下、Ti:0.20質量%以下、Zr:0.25質量%以下、Fe:0.40質量%以下及びZn0.25質量%以下に規制することが好ましい。
[短径が10μm以上のMgSi:50個/mm2未満]
溶加材のSi含有量が0質量%であれば、MgSiの形成を抑制することができるが、工業的には微量のSiが含まれることが一般的であり、その結果、MgSiの形成は避けられない。MgSiは、鋳造時に様々な大きさの略矩形状晶出物として形成されるが、その後の均質化熱処理から線材への最終加工までの間に結晶が粗大化することを防止できれば、MgSiの影響を抑制することができる。
MgSiの粗大化を防止するには、鋳造後に行う均質化熱処理、押出及び伸線などの工程を、従来よりも低い温度条件で行えばよく、具体的には、鋳造後に成分の分布を均一にするために行う均質化熱処理を、従来よりも低温の450〜520℃の範囲で行えばよい。これにより、MgSiの粗大化が防止され、短径が10μm以上のMgSiの数を50個/mm未満にすることができる。
溶加材に、短径が10μm以上のMgSiが多く存在し、単位面積あたりの数密度が50個/mm以上となると、伸線加工性が低下する。ここで、短径が10μm以上のMgSiの数は、溶加材の任意の断面を顕微鏡観察することにより測定することができる。
以上詳述したように、本実施形態のアルミニウム合金溶加材は、Si含有量の規制に加えて、溶加材中に存在するMgSiの形態を制御し、短径が10μm以上のMgSiの数を50個/mm未満にしているため、従来に比べて加工性が向上し、5.5〜7.5質量%と高濃度でMgを含有しているにもかかわらず、破断することなく例えば直径が1.2mm程度の細径までワイヤを伸線することが可能となる。
本実施形態の溶加材は、各種アルミニウム合金材の溶接に用いることができるが、特に5000系合金材などの高強度アルミニウム合金材の溶接に好適であり、これにより高強度の継手を得ることができる。更に、本実施形態の溶加材は、7000系高強度アルミニウム合金材の溶接にも適用することができる。
以下、本発明の実施例及び比較例を挙げて、本発明の効果について具体的に説明する。本実施例においては、成分組成及び製造条件を変えて、Mg含有量、Si含有量及び短径が10μm以上のMgSiの数が異なる溶加材を製造し、その伸線加工性及び継手強度を評価した。
<溶加材の製造>
原料を、常法により溶解・鋳造し、ビレットを作製した。次に、500℃(実施例)又は530℃(比較例)で4時間の均質化熱処理を行った。その後、押出径:φ155mm、押出温度:450℃、押出速度:0.5〜1m/分の条件で押出加工を行い、得られた直径15mmの線材を、通常の圧延及び抽伸工程により伸線し、直径1.2mmのソリッドワイヤ(溶加材)を得た。ただし、比較例5〜8は、加工性が劣っていたため、伸線加工することができなかった。
そして、実施例及び比較例の溶加材を製造する際に、直径1.2mmまで伸線可能であったものを○(合格)、断線が生じて伸線できなかったものを×(不合格)として評価した。
<断面観察>
実施例の各ソリッドワイヤ及び均熱化熱処理後で押出加工前のビレットについて、断面の顕微鏡観察を行い、短径が10μm以上のMgSiの数を測定した。その際、ソリッドワイヤについては、加工方向(長さ方向)に平行な断面と垂直な断面をそれぞれ1箇所ずつ位置を変えて観察し、ビレットについては、長手方向に平行な断面と、それに対して垂直な断面を、それぞれ1箇所ずつ位置を変えて観察した。そして、ソリッドワイヤ及びビレットそれぞれについて、垂直断面及び平行断面の2つ断面の平均値を求めた。図1に実施例2のソリッドワイヤの加工方向(長さ方向)に平行な断面の顕微鏡写真を示す。なお、比較例5〜8は、伸線加工できなかったため、ソリッドワイヤの断面観察はできなかった。
<継手強度の評価>
図2は溶接試験板形状及び試験片採取位置を示す平面図である。継手強度は、実施例の各溶加材を用いて自動パルスMIG溶接を行い、図2に示す継手を作製して評価した。その際、母材1にはAA5083のアルミニウム合金(板厚6mm、調質O材)を使用し、60°開先の突合せ継手を形成した。シールドガスは、Arガス100%とし、流量は25L/分とした。溶接電流は180A、溶接電圧は24V、溶接速度は400mm/分とし、1層1パス盛りで溶接した。
前述した溶接により得た各継手について、ビード3の余盛りを削除した後、図2に示す位置から切り出した試験片2を用いて、引張り試験を行った。引張り試験は、JIS Z2241に規定される「金属材料引張試験方法」に準拠して行い、2つの試験片2の結果を平均した。なお、比較例5〜8は、伸線加工できず、ソリッドワイヤが得られなかったため、継手強度評価も実施できなかった。
以上の結果を、下記表1にまとめて示す。なお、下記表1に示す成分組成の残部は、Al及び不可避的不純物である。また、下記表1における「Tr」は、検出限界以下であることを示す。更に、総合評価は、伸線加工性及び継手強度のいずれも優れていたものを○(合格)、伸線加工性又は継手強度が劣っていたものを△(不良)、伸線加工性及び継手強度の両方が劣っていたものを×(不合格)とした。
上記表1に示すように、実施例1,2の溶加材は、直径1.2mmの細径のソリッドワイヤまで伸線加工が可能で、溶接継手も高強度であった。これに対して、比較例3,4のソリッドワイヤ(溶加材)は、Mg濃度が低いため、継手強度が劣っていた。また、比較例5〜8は、ビレットの状態で既にMgSiが粗大化しており、短径が10μm以上のMgSiの数が50個以上となっていた。これら比較例5〜8では、線材を伸線加工する際に断線が発生し、ソリッドワイヤを作製することができなかったため、以後の試験は中止した。なお、比較例5〜8では、ビレットの段階で短径が10μm以上のMgSiの数が50個を超えていたため、仮に伸線加工できたとしても、ソリッドワイヤ中の短径が10μm以上のMgSiの数は50個/mm以上であると考えられる。
これらの結果から、本発明によれば、Mgを高濃度で含有させても、加工性に優れ、細径ワイヤへの伸線が可能なアルミニウム合金溶加材を実現できることが確認された。
1 母材
2 引張り試験片
3 ビード

Claims (1)

  1. Mg:5.5〜7.5質量%を含有すると共に、Si:0.02〜0.06質量%以下に規制され、残部がAl及び不可避的不純物からなる組成を有するアルミニウム合金溶加材の製造方法であって、
    前記組成のビレット450〜520℃で均質化熱処理する工程と、
    均熱化処理後の前記ビレットを押し出し加工する工程と、
    押し出し加工により得られた線材を圧延及び抽伸工程により伸線する工程と、
    をこの順で実施して、
    短径が10μm以上の略矩形状のMgSiの数を、前記加工方向の平行断面と垂直断面の平均値で50個/mm未満にするアルミニウム合金溶加材の製造方法。
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