JP3867585B2 - 4輪駆動車の駆動力配分制御装置 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、4輪独立の制動力制御により車両挙動を制御するVDCシステム(Vehicle Dynamics Control System)と、主駆動輪と従駆動輪との駆動力配分を可変に制御するトルクスプリット4WDシステムとが共に搭載された4輪駆動車の駆動力配分制御装置の技術分野に属する。
【0002】
【従来の技術】
従来、VDCシステムとトルクスプリット4WDシステムとを組み合わせた4輪駆動車の駆動力配分制御装置としては、例えば、特開平9−20217号公報や特開平11−115719号公報に記載のものが知られれている。
【0003】
上記特開平9−20217号公報には、制動力制御により車両の旋回挙動を精度良く制御することを目的とし、VDCシステムの制動制御作動時に駆動系の慣性を低減、具体的には、変速比を高速側やNレンジにしたり、駆動力配分を4輪駆動配分から2輪駆動配分に切り換える技術が記載されている。
【0004】
上記特開平11−115719号公報には、4輪駆動車にVDCシステムを搭載するにあたり、VDCシステム作動時に前後輪駆動力配分を2輪駆動配分にしてしまうと、各輪に伝達される駆動力の変化によってVDCシステムによる挙動抑制効果が得られないことを防止することを目的とし、VDCシステムでの制動力制御による車両回頭性の増減に応じて、トルクスプリット4WDシステムでの前後輪駆動力配分を制御、具体的には、アンダーステア抑制時には、ヨーレート偏差に応じて後輪の駆動力配分を増加し、オーバーステア抑制時には、ヨーレート偏差に応じて前輪の駆動力配分を増加する技術が記載されている。
【0005】
これら上記2つの公報に記載の従来技術の背景として、VDCシステムでの制動力制御時には、車両挙動を安定させる方向にヨーレートを発生させるため、左右輪の片側のみに制動力を付与するが、その時に4輪駆動状態では、前後輪が機械的に締結された状態により前後輪の一方に付与された制動力も前後輪の他方に配分されることになり、各輪が自由に回転することができないため、制動力制御と駆動力配分制御とが互いに干渉することにより、VDCシステムによる車両挙動抑制効果が十分に達成されないのを防止することにある。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、特開平9−20217号公報に記載の従来技術にあっては、VDCシステムの制動制御作動時に急に駆動力配分を4輪駆動配分から2輪駆動配分に切り換えると、駆動力配分の急変により車両挙動安定性が低下し、VDCシステムによる車両挙動抑制効果が相殺されてしまい、十分な車両挙動抑制効果が得られないおそれがあるという問題があった。
【0007】
また、特開平11−115719号公報に記載の従来技術にあっては、VDCシステムでの制動力制御による車両回頭性(ヨーレート偏差)の増減に応じて、トルクスプリット4WDシステムでの前後輪駆動力配分を制御しているため、下記に列挙するような問題があった。
【0008】
(1) VDCシステムでの制動力発生に対して実際のヨーレートの変化が遅れて追従する場合、トルクスプリット4WDシステムでの駆動力配分変更が遅くなり、VDC制動力制御と前後輪駆動力配分制御の干渉において適切な協調を図れない。
【0009】
すなわち、VDCシステムでの制動力制御により各車輪に制動力が発生した後、車両にヨーレートが発生するというように、制動力発生とヨーレート発生にはタイムラグが生じ、ヨーレート偏差に応じて前後輪駆動力配分制御を行う場合、前後輪駆動力配分制御が遅れてしまうことで、VDC制動力制御との干渉防止が確実になされず、結果として、車両挙動制御が終了するまでに時間がかかるおそれがある。
【0010】
(2) 制動力制御の回頭性の増減、すなわち、VDC制御の結果(目標ヨーレートと実ヨーレートの偏差)を見ながら駆動力配分を変更するので、複雑なプログラムが必要になる。
【0011】
(3) VDCシステムでの制動力制御による車両回頭性(ヨーレート偏差)の増減に応じて、トルクスプリット4WDシステムでの前後輪駆動力配分を制御しているため、車両回頭性の増減量が大きい場合、結果的に急に4輪駆動配分状態から2輪駆動配分状態へ切り換えてしまう場合が発生するおそれがある。
【0012】
本発明は、上記問題点に着目してなされたもので、その目的とするところは、制動力の付与による車両挙動制御が行われるような走行状況で、制御干渉や駆動力配分の急変による影響をうまく抑え、車両挙動の安定性を確保することができる4輪駆動車の駆動力配分制御装置を提供することにある。
【0013】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するため、請求項1に係る発明では、
少なくとも各輪独立に制動力を付与して車両挙動が安定するように各輪の制動力を制御する車両挙動制御手段と、
駆動輪スリップの発生を抑制するように主駆動輪と従駆動輪との駆動力配分を2輪駆動状態から4輪駆動状態まで可変に制御する駆動力配分制御手段と、
を備えた4輪駆動車の駆動力配分制御装置において、
前記車両挙動制御手段で車輪に制動力を付与する場合に、制動力制御する各車輪の制動力制御量のうちで最も高い制動力制御量最大値を選択し、前記駆動力配分制御手段による主駆動輪と従駆動輪との駆動力配分から2輪駆動方向に移行させる駆動力配分変更量を、制動力制御量最大値が大きいほど増大し、駆動源の駆動力の大きさが小さいほど増大する第一の協調制御手段を設けたことを特徴とする。
【0025】
【発明の作用および効果】
請求項1に係る発明にあっては、第一の協調制御手段において、車両挙動制御手段で車輪に制動力を付与する場合に、制動力制御する各車輪の制動力制御量のうちで最も高い制動力制御量最大値が選択され、駆動力配分制御手段による主駆動輪と従駆動輪との駆動力配分から2輪駆動方向に移行させる駆動力配分変更量が、制動力制御量最大値が大きいほど増大され、駆動源の駆動力の大きさが小さいほど増大される。
すなわち、制動力による車両挙動制御の作動時に、駆動力配分変化によって車両挙動制御による車両挙動抑制効果が十分に得られないことを防止する際に、制動力制御量に応じて駆動力配分を2輪駆動方向に制限するので、ヨーレート偏差に応じて駆動力配分を可変制御するのに対し、車両挙動制御と駆動力配分制御との協調制御をより適切なタイミングで行うことができる。
また、制動力制御量に応じて駆動力配分を2輪駆動方向に制限するので、車両挙動制御時もなるべく4輪駆動状態を残しながら、駆動力配分制御によって車両挙動制御が大きく影響を受けるときまでは2輪駆動状態にしないことになる。
よって、2輪駆動状態になるまでの間に車両挙動制御によるエンジン出力低減や制動力付与により、車両運動エネルギーが車両挙動制御開始時よりも低下しているため、車両挙動制御に入ると共に2輪駆動状態に駆動力配分制御を行うよりも、駆動力配分の急な変更による車両挙動制御への影響を小さく抑えることができる。
また、制動力制御する各車輪の制動力制御量のうちで最も高い制動力制御量最大値を選択し、駆動力配分比を2輪駆動方向に移行させる駆動力配分変更量を、制動力制御量最大値が大きいほど増大するようにした。このため、簡易に適切な駆動力配分変更量を算出することができると共に、例えば、制動力と駆動力との干渉影響が小さい間は、駆動力配分の可変制御が行われない不感帯とし4輪駆動状態を維持することで、駆動力配分制御による加速性や安定性を重視することができる。
さらに、駆動力配分比を2輪駆動方向に移行させる駆動力配分変更量を、駆動源の駆動力の大きさが小さいほど増大するようにした。このため、駆動源の駆動力が小さい場合には、より早く前後輪の機械的な締結力が低下し、2輪駆動状態に近づくことになるため、車両挙動制御による制動力制御との干渉が抑制され、車両挙動制御による車両挙動抑制効果をより向上させることができる。ちなみに、駆動源の駆動力が小さいほど、駆動力配分を急激に変化させても車両の安定性に対する影響が少ない。
【0052】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の4輪駆動車の駆動力配分制御装置を実現する実施の形態を第1実施例に基づいて説明する。
【0053】
(第1実施例)
まず、構成を説明する。
図1は第1実施例の4輪駆動車の駆動力配分制御装置を示す全体システム図であり、通常は後輪を駆動する2輪駆動を基本に4輪駆動可能な4輪駆動車について説明する。
【0054】
図1において、1はエンジン、2はトランスミッション、3は駆動力配分制御アクチュエータ、4はフロントプロペラシャフト、5はリヤプロペラシャフト、6はフロントディファレンシャル、7,7はフロントドライブシャフト、8はリヤディファレンシャル、9,9はリヤドライブシャフト、10FRは右前輪(従駆動輪)、10FLは左前輪(従駆動輪)、10RRは右後輪(主駆動輪)、10RLは左後輪(主駆動輪)、11は駆動力配分制御コントローラ(駆動力配分制御手段)、12FRは右前輪速センサ、12FLは左前輪速センサ、12RRは右後輪速センサ、12RLは左後輪速センサ、13FRは右前輪ホイールシリンダ、13FLは左前輪ホイールシリンダ、13RRは右後輪ホイールシリンダ、13RLは左後輪ホイールシリンダ、14はスタビリティ制御アクチュエータ、15は舵角センサ、16はヨーレートセンサ、17はスタビリティ制御コントローラ(車両挙動制御手段)である。
【0055】
前記4輪駆動車のエンジン1の出力は、トランスミッション2を介して駆動力配分制御アクチュエータ3で、前後輪への駆動力配分を行い、フロントプロペラシャフト4とリヤプロペラシャフト5に伝達する。フロントプロペラシャフト4に伝達された駆動力は、フロントディファレンシャル6とフロントドライブシャフト7,7とを介して右前輪10FRと左前輪10FLに伝達される。同様に、リヤプロペラシャフト5に伝達された駆動力は、リヤディファレンシャル8とリヤドライブシャフト9,9とを介して右後輪10RRと左後輪10RLに伝達される。
【0056】
前記各車輪10FR,10FL,10RR,10RLには、車輪速センサ12FR,12FL,12RR,12RLが備えられ、それぞれの検出値を駆動力配分制御コントローラ11へ出力する。また、駆動力配分アクチュエータ3は、駆動力配分制御コントローラ11からの制御指令により前輪10FR,10FL(従駆動輪)と後輪10RR,10RL(主駆動輪)への駆動力配分を制御するもので、例えば、トランスミッション2とフロントプロペラシャフト4との間に制御圧によりクラッチ締結力が制御される油圧クラッチを介装した構造とされる。なお、油圧クラッチの代わりに電磁クラッチであっても構わない。
【0057】
前記各車輪10FR,10FL,10RR,10RLには、ホイールシリンダ13FR,13FL,13RR,13RLが備えられ、各ホイールシリンダ13FR,13FL,13RR,13RLは、ブレーキ液圧を各輪独立に制御するスタビリティ制御アクチュエータ14と配管接続されている。また、舵角センサ15と、ヨーレートセンサ16は、それぞれの検出値をスタビリティ制御コントローラ17へ出力する。
【0058】
前記駆動力配分制御コントローラ11とスタビリティ制御コントローラ17とは、双方向通信線により互いに通信可能となっており、駆動力配分制御コントローラ11は、車輪速センサ12FR,12FL,12RR,12RLからの検出値等を入力し、例えば、本出願人が先に提案した特許第2534732号公報の図9の演算処理に従って、通常は前後輪の駆動力配分比率が前輪0%:後輪100%の状態から、前後輪回転速度差に応じて駆動力配分指令値を算出し、駆動力配分制御アクチュエータ3へ出力し、駆動力配分制御アクチュエータ3は、例えば、油圧クラッチへの締結油圧(クラッチ締結力)を制御することで、前輪10FR,10FLへの駆動力配分を制御する。
【0059】
前記スタビリティ制御コントローラ17は、舵角センサ15とヨーレートセンサ16の検出値を入力し、例えば、特開昭62−253559号公報に記載されている演算処理に従って、スタビリティ制御指令値として制動力指令値とエンジン出力指令値を算出し、制動力指令値をスタビリティ制御アクチュエータ14へ出力し、スタビリティ制御アクチュエータ14は車両挙動が安定するように各ホイールシリンダ液圧を制御する(VDCブレーキ制御)。
なお、エンジン出力指令値は図示しないエンジン制御コントローラへ出力され、エンジン制御コントローラは燃料カット制御やスロットル開度制御により、エンジン出力を制御する。
【0060】
次に、作用を説明する。
【0061】
[前後輪駆動力配分制御処理]
図2は駆動力配分制御コントローラ11で実行される前後輪駆動力配分制御処理の流れを示すフローチャートで、以下、各ステップについて説明する。この演算処理は、例えば、所定時間10msec毎に実行される。
【0062】
ステップS1では、車輪速センサ12FR,12FL,12RR,12RLから各車輪速情報等を読み込む。
【0063】
ステップS2では、ステップS1にて読み込まれた車輪速情報に基づき、前後輪回転速度差(後輪速−前輪速)を算出し、この前後輪回転速度差に応じてクラッチ締結力F0を算出する。例えば、前後輪回転速度差がゼロであり、駆動輪スリップの発生が無いときは、クラッチ締結力F0をゼロとし、前後輪の駆動力配分比率を前輪0%:後輪100%の後輪駆動状態とし、前後輪回転速度差が大きくなるに従って、クラッチ締結力F0を増大し、前輪10FR,10FLへの駆動力配分比率を増してゆく可変配分による4輪駆動状態とする。
【0064】
ステップS3では、スタビリティ制御コントローラ17においてVDCブレーキ制御実行か否かを判断する。この判断は、例えば、スタビリティ制御コントローラ17から双方向通信線を介してVDCフラグ情報を読み込み、VDCブレーキ制御中を示すVDCフラグ=1であるかどうかにより行う。そして、VDCブレーキ制御中であればステップS4へ移行し、VDCブレーキ制御が非作動であればステップS9へ移行する。
【0065】
ステップS4では、スタビリティ制御コントローラ17から双方向通信線を介してVDCブレーキ制御での4輪の各制動力制御量を読み込む。
【0066】
ステップS5では、4輪の各制動力制御量のうち最も大きい値のものを選択する(請求項1に記載の第一の協調制御手段に相当)。
【0067】
ステップS6では、VDCブレーキ制御実行中のクラッチ締結力算出に用いる係数K1を制動力制御量最大値に基づいて算出する(請求項2に記載の第一の協調制御手段に相当)。この係数K1は、ステップS6の枠内に記載した特性に示すように、ステップS5にて選択された制動力制御量最大値が第1設定値B1以下の領域(不感帯領域)では、K1=1.0という一定値で与え、制動力制御量最大値が第1設定値B1を超える領域では第2設定値B2となるまで、K1=1.0からK1=0まで比例的に低下する特性にて与える。
【0068】
ステップS7では、VDCブレーキ制御実行中のクラッチ締結力算出に用いる係数K2を駆動力の源であるエンジン1の出力トルクに基づいて算出する(請求項3に記載の第一の協調制御手段に相当)。この係数K2は、ステップS7の枠内に記載した特性に示すように、図示されないエンジンコントローラから通信される情報を基に得るエンジン1の出力トルクが、第一設定値Te1以下の領域ではK2=0という一定値で与え、出力トルクが第一設定値Te1を越え第二設定値Te2以下の領域ではK2=0からK2=1.0まで比例的に増加する値を与え、出力トルクが第二設定値Te2を超える領域ではK2=1.0という一定値で与える。なお、ここでは、エンジン1の出力トルクに基づいて係数K2を算出しているが、前後の駆動輪または駆動軸の駆動トルクの和、または、アクセル開度等に基づいて係数K2を算出しても良い。
【0069】
ステップS8では、クラッチ締結力F1を、ステップS2で算出したクラッチ締結力F0と、ステップS6で算出した係数K1と、ステップS7で算出した係数K2とを用い、
F1=F0×K1×K2
の式により算出する。
【0070】
ステップS9では、VDCブレーキ制御の非作動時はステップS2で算出したクラッチ締結力F0、VDCブレーキ制御実行中はステップS8で算出したクラッチ締結力F1を得る制御指令を駆動力配分制御アクチュエータ3に出力する。なお、ステップS3〜ステップS8は、第一の協調制御手段に相当する。
【0071】
[前後輪駆動力配分制御作用]
VDCブレーキ制御が非作動である時には、図2のフローチャートにおいて、ステップS1→ステップS2→ステップS3→ステップS9へと進む流れとなり、ステップS9では、ステップS2で算出されたクラッチ締結力F0を得る制御指令が駆動力配分制御アクチュエータ3に出力される。すなわち、前後輪回転速度差が大きいほど左右前輪10FR,10FLへの駆動力配分を大きくする通常の前後輪駆動力配分制御が行われることになる。よって、駆動スリップの発生状況に応じて前輪10FR,10FLへエンジン駆動力が配分され、後輪10RR,10RLへの過剰なエンジン駆動力伝達による駆動スリップが抑えられた高い加速性や安定性による走行が確保される。
【0072】
VDCブレーキ制御実行時には、図2のフローチャートにおいて、ステップS1→ステップS2→ステップS3→ステップS4→ステップS5→ステップS6→ステップS7→ステップS8→ステップS9へと進む流れとなり、ステップS9では、ステップS8で算出されたクラッチ締結力F1を得る制御指令が駆動力配分制御アクチュエータ3に出力される。すなわち、通常の前後輪駆動力配分制御によるクラッチ締結力F0を、制動力制御量最大値が大きい、または、エンジン1の出力トルクが小さいほど低くする前後輪駆動力配分制御が行われることになる。
【0073】
よって、スタビリティ制御による制動力制御量最大値が小さい間はなるべく4輪駆動状態とし、駆動力配分の急な変化による車両挙動制御効果の抑制を防ぎ、スタビリティ制御による制動力制御量最大値が大きくなるほどクラッチ締結力F0を低減し、各輪が自由に回転できるようにすることで、4輪駆動状態による車両挙動制御効果の抑制を防止できる。また、駆動力配分を急激に変化させても車両の安定性に対する影響が少ないエンジン1の出力トルクが小さい場合には、より早く前後輪の機械的な締結量が低下し、2輪駆動状態に近づくことになるため、VDCブレーキ制御との干渉が抑制され、VDCブレーキ制御による車両挙動抑制効果をより向上させることができる。
【0074】
[従来技術との比較作用]
図3は制動力対応の本発明技術とヨーレート偏差対応の従来技術を比較したタイムチャートである。簡単に説明するために駆動力配分制御コントローラ11が通常の演算で算出するクラッチ締結力F0は、時間t1から時間t5以降まで一定と仮定した場合、スタビリティ制御(VDC制御)が作動した際についてのものである。また、簡単に説明するためにエンジン1の出力は、ほぼ一定と仮定している。
【0075】
車両が4輪駆動状態で走行中、t1の時点でオーバーステア傾向やアンダーステア傾向になると、実ヨーレートと目標ヨーレートとのヨーレート偏差△ψが生じ出す。その後、t2の時点でヨーレート偏差△ψがVDC開始しきい値を超えると、スタビリティ制御が作動開始し、エンジン出力制御と共に制動力制御が始まる。そして、t2の時点からt3の時点にかけて制動力制御量最大値が増加すると、それに比例してクラッチ締結力F1を低減し、t3の時点からt4の時点にかけて制動力制御量最大値が減少すると、それに比例してクラッチ締結力F1が戻される。このt4の時点で制動力制御は終了するが、実際の車両は制動力制御から遅れてヨーレートが発生するため、この時点ではスタビリティ制御を終了するVDC終了しきい値までヨーレート偏差△ψは収束していない。t5の時点では、制動力制御の終了から遅れてヨーレート偏差△ψがVDC終了しきい値まで収束し、スタビリティ制御を終了する。
【0076】
ここで、t2の時点からクラッチ締結力線図の実線と破線とが交差する時点までは、制動力制御量最大値が大きく、前後輪の締結がスタビリティ制御による車両挙動制御効果に強く影響するが、この領域でのクラッチ締結力は、破線特性に示すヨーレート偏差対応の従来技術に比べ、実線特性に示す制動力対応の本発明技術の方が低くなるので、よりスタビリティ制御による車両挙動制御効果を発揮できて、より適切にスタビリティ制御と前後輪動力配分制御との協調が図れる。
【0077】
また、クラッチ締結力線図の実線と破線とが交差する時点からt5の時点までは、制動力制御量最大値が小さく、前後輪の締結がスタビリティ制御による車両挙動制御効果への影響度が減少してゆくが、この領域でのクラッチ締結力は、破線特性に示すヨーレート偏差対応の従来技術に比べ、実線特性に示す制動力対応の本発明技術の方が高くなるので、従来技術に比べて不要にクラッチ締結力を低減することがなく、車両の加速性を向上させることができる。
【0078】
次に、効果を説明する。
【0079】
(1) ステップS3〜ステップS8において、スタビリティ制御で車輪に制動力を付与する場合に、付与される制動力の大きさに応じて、後輪10RR,10RLと前輪10FR,10FLとの駆動力配分を制限するようにしたため、駆動力配分の急な変化によってスタビリティ制御による車両挙動抑制効果が十分に得られないことを防止する際に、ヨーレート偏差△ψに応じて駆動力配分を可変制御するのに対し、スタビリティ制御と前後輪駆動力配分制御との協調制御をより適切なタイミングで行うことができる。
【0080】
また、スタビリティ制御時もなるべく4輪駆動状態を残しながら、前後輪駆動力配分制御によってスタビリティ制御が大きく影響を受けるときまでは2輪駆動状態にしないことになり、2輪駆動状態になるまでの間にスタビリティ制御によるエンジン出力低減や制動力付与により、車両運動エネルギーがスタビリティ制御開始時よりも低下しているため、スタビリティ制御に入ると共に2輪駆動状態に前後輪駆動力配分制御を行うよりも、駆動力配分変更によるスタビリティ制御への影響を小さく抑えることができる。
【0081】
(2) ステップS6において、付与される制動力制御量最大値の大きさが第1設定値B1を超える領域のときに、付与される制動力制御量最大値の大きさに応じて、クラッチ締結力F1を決める係数Kを可変に制御するようにしたため、制動力と駆動力との干渉影響が小さい間は、前後輪駆動力配分の可変制御が行われない不感帯とされてそのまま4輪駆動状態を維持することで、前後輪駆動力配分制御による加速性や安定性を重視することができる。
【0082】
(3) ステップS5において、スタビリティ制御コントローラ17で制動力制御する各車輪の制動力のうちで最も高い制動力である制動力制御量最大値に応じて、後輪10RR,10RLと前輪10FR,10FLとの駆動力配分を可変に制御するようにしたため、簡易に適切なクラッチ締結力F1を算出することができる。
【0083】
(4) ステップS6において、スタビリティ制御コントローラ17で付与される制動力制御量最大値が高いほど前輪10FR,10FL側への駆動力配分が低減されるため、制動力制御量最大値が小さい間はなるべく4輪駆動状態とし、駆動力配分変化によるスタビリティ制御効果の抑制を防ぎ、制動力制御量最大値が大きくなるほどクラッチ締結力F1を低減し、各輪10FR,10FL,10RR,10RLが自由に回転できるようにすることで、4輪駆動状態が維持されることによるスタビリティ制御効果の抑制を防止できる。
【0084】
(5)ステップS7において、VDCブレーキ制御実行中のクラッチ締結力算出に用いる係数K2を駆動力の源であるエンジン1の出力トルクに基づき、エンジン1の出力トルクが小さいほど制限を緩やかにして2輪駆動配分への移行を許容するようにしたため、駆動力配分を急激に変化させても車両の安定性に対する影響が少ないエンジン1の出力トルクが小さい場合には、早期に2輪駆動状態に近づくことになり、この結果、VDCブレーキ制御との干渉が抑制され、VDCブレーキ制御による車両挙動抑制効果をより向上させることができる。
【0085】
(参考例1)
この参考例1は、検出した車体速度Vが高いほど、VDCブレーキ制御実行中の後輪10RR,10RLと前輪10FR,10FLとの駆動力配分変更量を制限するようにした例である。構成的には、第1実施例の図1に示す構成と同様であるので図示並びに説明を省略する。
【0086】
次に、作用を説明する。
【0087】
[VDCブレーキ制御と可変4WD制御の協調制御]
図4はスタビリティ制御コントローラ17で実行されるVDCブレーキ制御と可変4WD制御の協調制御処理の流れを示すフローチャートで、以下、各ステップについて説明する。この演算処理は、例えば、所定時間10msec毎に実行される。
【0088】
ステップS21では、スタビリティ制御コントローラ17によりVDCブレーキ制御が実行されているか否かを判断し、実行されている場合には、ステップS22へ移行し、そうでなければリターンへ至る。
【0089】
ステップS22では、車体速度Vを、双方向通信線を介して駆動力配分制御コントローラ11から読み込み、ステップS23へ移行する。ここで、駆動力配分制御コントローラ11においては、例えば、左右前輪10FR,10FLの車輪速センサ12FR,12FLから得られる左右前輪速の平均値により車体速度Vが算出される(車体速度検出手段)。
【0090】
ステップS23では、ステップS22で読み込んだ車体速度Vが20km/h(第1設定速度)以下か否かを判断し、V≦20km/hの場合はステップS24へ移行し、V>20km/hの場合はステップS25へ移行する。
【0091】
ステップS24では、車体速度VがV≦20km/hの低速領域において、協調制御のための駆動力配分と並行して駆動力配分制御コントローラ11により前後輪回転速度差に応じて今回の演算周期で算出されたクラッチ締結力指令値Tc(n)を無視し、最終的なクラッチ締結力指令値(従駆動輪への駆動力配分指令値)Tcg(n)をゼロ(=後輪駆動状態)とし、これを電流値に変換した値を駆動力配分制御アクチュエータ3に出力し、リターンへ至る。
【0092】
ステップS25では、ステップS22で読み込んだ車体速度Vが60km/h(第2設定速度)以下か否かを判断し、V≦60km/hの場合はステップS26へ移行し、V>60km/hの場合はステップS28へ移行する。
【0093】
ステップS26では、車体速度Vが20km/h<V≦60km/hの中速領域において、最終的なクラッチ締結力指令値Tcgの変化量制限値△Tcgをエンジン1の出力トルクに基づいて算出する。この変化量制限値△Tcgは、ステップS26の枠内に記載した特性に示すように、図示されないエンジンコントローラから通信される情報を基に得るエンジン1の出力トルクが第三設定値Te3以下の領域では△Tcg=Tcg(n-1)の100%という一定値で与え、出力トルクが第三設定値Te3を越え第四設定値Te4以下の領域では△Tcg=Tcg(n-1)の100%から△Tcg=Tcg(n-1)の0%まで比例的に減少する値で与え、出力トルクが第四設定値Te4を越える領域では△Tcg=Tcg(n-1)の0%という一定値で与える。なお、ここではエンジン1の出力トルクに基づいて変化量制限値△Tcgを算出しているが、前後の駆動輪または駆動軸の駆動トルクの和、または、アクセル開度等に基づいて変化量制限値△Tcgを算出しても良い。
【0094】
ステップS27では、前回の演算周期で算出された最終的なクラッチ締結力指令値Tcg(n-1)からステップS26で算出した変化量制限値△Tcgを減じた値を今回の演算周期における最終的なクラッチ締結力指令値Tcg(n)とし、これを電流値に変換した値を駆動力配分制御アクチュエータ3に出力し、リターンへ至る。
【0095】
ステップS28では、車体速度VがV>60km/hの高速領域では、前回の演算周期での最終的なクラッチ締結力指令値Tcg(n-1)を、そのまま今回の最終的なクラッチ締結力指令値Tcg(n)とし、これを電流値に変換した値を駆動力配分制御アクチュエータ3に出力し、リターンへ至る。
【0096】
[協調制御作用]
VDCブレーキ制御が実行中であって、車体速度VがV≦20km/hの低速領域では、図4のフローチャートにおいて、ステップS21→ステップS22→ステップS23→ステップS24へと進む流れとなり、ステップS24にて、駆動力配分制御側では2輪駆動状態(後輪駆動状態)に駆動力配分を変更し、VDC制御のみにより車両挙動の安定化が図られる。すなわち、車両の運動エネルギーが小さい低速領域では、VDCブレーキ制御と駆動力配分制御による4輪駆動状態との制御干渉を避けるようにしている。
【0097】
VDCブレーキ制御が実行中であって、車体速度Vが20km/h<V≦60km/hの中速領域では、図4のフローチャートにおいて、ステップS21→ステップS22→ステップS23→ステップS25→ステップS26→ステップS27へと進む流れとなり、ステップS26にて、クラッチ締結力の変化量、言い換えると、駆動力配分の変化量を制限している。すなわち、車両挙動の安定性と制御干渉の回避との両立を図るため、4輪駆動状態から完全な2輪駆動状態へ駆動力配分が変更されないようにしていると共に、駆動力の大きい場合には、駆動力配分の急変により車両挙動の悪化を防止するように、より駆動力配分の変更量を小さく制限することで、車両の安定性を確保するようにしている。
【0098】
VDCブレーキ制御が実行中であって、車体速度VがV>60km/hの高速領域では、図4のフローチャートにおいて、ステップS21→ステップS22→ステップS23→ステップS25→ステップS28へと進む流れとなり、ステップS28にて、駆動力配分制御側ではそれまでの駆動状態が保持される。すなわち、車両の運動エネルギーが大きい高速領域で駆動力配分を急変させることにより車両挙動の安定性が低下するのを回避するようにしている。
【0099】
次に、効果を説明する。
【0100】
(1) 図4のフローチャートにおいて、VDCブレーキ制御実行中は、車体速度Vが高いほど、制動力の付与を開始した時の駆動力配分からの駆動力配分変更量を制限するようにしたため、車体速度Vが高いほど駆動力配分の急変による車両挙動の悪化を防ぎ、車両挙動への影響を少なくすることができる。また、車体速度というファクターのみで駆動力配分の変更を制限するため、比較的簡単なプログラムで済む。
【0101】
(2) 図4のフローチャートにおいて、車体速度VがV≦20km/hの低速領域では、後輪駆動状態に駆動力配分を変更し、車体速度Vが20km/h<V≦60km/hの中速領域では、エンジン出力トルクが大きいほど小さな値による変化量制限値△T cg を算出し、車体速度VがV>60km/hの高速領域では、その時の駆動力配分を固定するようにしたため、低速領域は駆動力配分の急変よりも制御干渉による車両挙動への影響度が大きく、逆に、高速領域は制御干渉よりも駆動力配分の急変による車両挙動への影響度が大きいという認識に基づいて、車体速Vの大きさにかかわらず、スタビリティ制御と駆動力配分制御との制御干渉低減と、車両挙動の安定性確保とをうまく両立させることができる。
【0102】
(3) ステップS26及びステップS27において、車体速度Vの大きさに応じた駆動力配分変更量の制限を、エンジン出力(駆動力)が大きいほど駆動力配分変更量が小さくなるように制限するようにしたため、エンジン出力(駆動力)が大きい場合に駆動力配分の急変による車両安定性の低下を抑え、VDCブレーキ制御による車両挙動抑制効果が駆動力配分の急変により相殺されることを確実に防止することができる。
【0103】
(参考例2)
この参考例2は、参考例1と同様に、検出した車体速度Vが高いほど、VDCブレーキ制御実行中の後輪10RR,10RLと前輪10FR,10FLとの駆動力配分変更量を制限するようにした例である。構成的には、第1実施例の図1に示す構成と同様であるので図示並びに説明を省略する。
【0104】
次に、作用を説明する。
【0105】
[VDCブレーキ制御と可変4WD制御の協調制御]
図5はスタビリティ制御コントローラ17で実行されるVDCブレーキ制御と可変4WD制御の協調制御処理の流れを示すフローチャートで、以下、各ステップについて説明する。この演算処理は、例えば、所定時間10msec毎に実行される。
【0106】
ステップS31では、スタビリティ制御コントローラ17によりVDCブレーキ制御が実行されているか否かを判断し、実行されている場合には、ステップS22へ移行し、そうでなければリターンへ至る。
【0107】
ステップS32では、車体速度Vを、双方向通信線を介して駆動力配分制御コントローラ11から読み込み、ステップS33へ移行する。ここで、駆動力配分制御コントローラ11においては、例えば、左右前輪10FR,10FLの車輪速センサ12FR,12FLから得られる左右前輪速の平均値により車体速度Vが算出される(車体速度検出手段)。
【0108】
ステップS33では、ステップS32で読み込んだ車体速度Vと予め設定されたマップから第1のクラッチ締結力指令値Tc1(第1の駆動力指令値)を算出し、ステップS34へ移行する。ここで、第1のクラッチ締結力指令値Tc1は、ステップS33の枠内の指令値特性に示すように、車体速度Vが20km/h(第1設定速度)以下の低速領域ではゼロとし、車体速度Vが20km/h<V≦60km/h(第2設定速度)の中速領域では車体速度Vの上昇に比例して大きくなる値とし、車体速度VがV>60km/hの高速領域では車体速度Vにかかわらず一定の高い値としている。
【0109】
ステップS34では、協調制御のための駆動力配分と並行に駆動力配分制御コントローラ11により前後輪回転速度差に応じて今回の演算周期で算出されたクラッチ締結力指令値Tc(n)を、双方向通信線を介して駆動力配分制御コントローラ11から読み込み、このクラッチ締結力指令値Tc(n)を、第2のクラッチ締結力指令値Tc2(第2の駆動力指令値)とし、ステップS35へ移行する。
【0110】
ステップS35では、第1のクラッチ締結力指令値Tc1が第2のクラッチ締結力指令値Tc2以下か否かを判断し、Tc1≦Tc2の場合はステップS36へ移行し、Tc1>Tc2の場合はステップS37へ移行する。
【0111】
ステップS36では、Tc1≦Tc2の場合、第1のクラッチ締結力指令値Tc1を最終的なクラッチ締結力指令値Tcgとして選択し、これを電流値に変換した値を駆動力配分制御アクチュエータ3に出力し、リターンへ至る。
【0112】
ステップS37では、Tc1>Tc2の場合、第2のクラッチ締結力指令値Tc2を最終的なクラッチ締結力指令値Tcgとして選択し、これを電流値に変換した値を駆動力配分制御アクチュエータ3に出力し、リターンへ至る。
【0113】
[協調制御作用]
VDCブレーキ制御が実行中においては、ステップS35〜ステップS37にて、第1のクラッチ締結力指令値Tc1と第2のクラッチ締結力指令値Tc2とのセレクトローにより最終的なクラッチ締結力指令値Tcgが決定される。
【0114】
すなわち、VDCブレーキ制御が実行中で、Tc1≦Tc2の場合、図5のフローチャートにおいて、ステップS31→ステップS32→ステップS33→ステップS34→ステップS35→ステップS36へと進む流れとなり、第1のクラッチ締結力指令値Tc1が選択される。
【0115】
よって、車体速度VがV≦20km/hの低速領域では、2輪駆動状態(後輪駆動状態)に駆動力配分が変更され、VDC制御のみにより車両挙動の安定化が図られる。また、車体速度Vが20km/h<V≦60km/hの中速領域では、駆動力配分の変化量が、車体速度Vが高いほど制限される。また、車体速度VがV>60km/hの高速領域では、4輪駆動状態が保持される。
【0116】
また、VDCブレーキ制御が実行中で、Tc1>Tc2の場合、図5のフローチャートにおいて、ステップS31→ステップS32→ステップS33→ステップS34→ステップS35→ステップS37へと進む流れとなり、第2のクラッチ締結力指令値Tc2が選択される。
【0117】
よって、最終的なクラッチ締結力指令値Tcgは、協調制御のための駆動力配分と並行に駆動力配分制御コントローラ11により通常通りに今回の演算周期で算出されたクラッチ締結力指令値Tc(n)を超えることがないため、車体速度Vが高い場合に不要に2輪駆動状態に近い状態から4輪駆動状態にすることがなく、その場合のVDCブレーキ制御と4輪駆動による駆動力配分との干渉を避けることができる。
【0118】
次に、効果を説明する。参考例2の4輪駆動車の駆動力配分制御装置にあっては、参考例1の(1)の効果に加え、下記の効果を得ることができる。
【0119】
(3) 図5のフローチャートにおいて、車体速度Vが20km/h以下の低速領域ではゼロとし、車体速度Vが20km/h<V≦60km/hの中速領域では車体速度Vの上昇に比例して大きくなる値とし、車体速度VがV>60km/hの高速領域では車体速度Vにかかわらず一定の高い値を第1のクラッチ締結力指令値Tc1とし、協調制御のための駆動力配分と並行に駆動力配分制御コントローラ11により通常通りに今回の演算周期で算出されたクラッチ締結力指令値Tc(n)を第2のクラッチ締結力指令値Tc2とし、Tc1≦Tc2の場合には第1のクラッチ締結力指令値Tc1を、Tc1>Tc2の場合には第2のクラッチ締結力指令値Tc2を最終的なクラッチ締結力指令値Tcgとしたため、低速領域は駆動力配分の急変よりも制御干渉による車両挙動への影響度が大きく、逆に、高速領域は制御干渉よりも駆動力配分の急変による車両挙動への影響度が大きいという認識に基づいて、車体速Vの大きさにかかわらず、スタビリティ制御と駆動力配分制御との制御干渉低減と、車両挙動の安定性確保とをうまく両立させることができる。
【0120】
(参考例3)
この参考例3は、車両挙動制御を、車両挙動制御開始条件により駆動力配分制御を利用して開始する第1段階制御と、第1段階制御で効果不足の場合に駆動力配分を制限しつつ開始するVDCブレーキ制御による第2段階制御と、を併用して行うようにした例である。構成的には、第1実施例の図1に示す構成と同様であるので図示並びに説明を省略する。
【0121】
次に、作用を説明する。
【0122】
[ヨーレート制御処理]
図6はスタビリティ制御コントローラ17で実行される車両挙動制御としてのヨーレート制御処理の流れを示すフローチャートで、以下、各ステップについて説明する。この演算処理は、例えば、所定時間10msec毎に実行される。
【0123】
ステップS41では、舵角センサ15の検出値、車輪速センサ12FR,12FLから求めた車体速度、アクセル開度センサとエンジン回転センサの検出値を元に求めたエンジン出力トルク、変速機コントローラからの変速シフト位置、ブレーキ圧力センサの検出値を読み込み、ステップS42へ移行する。
【0124】
ステップS42では、舵角と車体速度に基づいて目標ヨーレートψ'を算出し、ステップS43へ移行する。
【0125】
ステップS43では、ヨーレートセンサ16からのヨーレート検出値ψを読み込み、ステップS44へ移行する。
【0126】
ステップS44では、目標ヨーレートψ'と実ヨーレートψとのヨーレート偏差△ψ(n)(nは今回値)を算出し、ステップS45へ移行する。
【0127】
ステップS45では、ステップS44で算出されたヨーレート偏差Δψ(n)が所定の制御開始しきい値±αの範囲内か否かを判断し、−αΔψ(n)Δαの場合はステップS56へ移行し、α<Δψ(n)またはΔψ(n)<−αの場合(車両挙動制御開始条件を満たした時)はステップS46へ移行する。ここで、ヨーレート偏差Δψ(n)が正値の場合はオーバーステア傾向を表し、ヨーレート偏差Δψ(n)が負値の場合はアンダーステア傾向を表すものとする。なお、本参考例では、オーバーステア傾向のしきい値をαとし、アンダーステア傾向のしきい値を−αとし、絶対値を同一としているが、絶対値が異なっても構わない。
【0128】
ステップS46では、エンジン1の出力トルクとトランスミッション2の変速位置とディファレンシャル6,8等と、クラッチ締結力指令値Tcgから、前輪駆動トルクTfと後輪駆動トルクTrとを求めると共に、前輪駆動トルクTf≧予め定められた値a、かつ、後輪駆動トルクTr≧予め定められた値bであるか否かを判断する。そして、Tf≧a、かつ、Tr≧bである場合には、ステップS48へ移行し、そうでなければステップS47へ移行する。なお、ここでは前輪駆動トルクTfと後輪駆動トルクTrとに基づいて判断しているが、エンジン1の出力トルクが予め定められた値以上か否かや、前後の駆動輪または駆動軸の駆動トルクの和が予め定められた値以上か否かや、アクセル開度が予め定められた値以上か否か等に基づいて判断しても良い。
【0129】
ステップS47では、駆動トルク自体が小さく、前後輪の駆動力配分をヨーレート制御の目的で変更したとしても、その効果が期待できないため、最終的なクラッチ締結力指令値Tcg(n)=0として、ステップS55へ移行し、直ぐに駆動力低減およびブレーキによるヨーレート制御に入る。
【0130】
ステップS48では、前後輪への駆動力配分によるヨーレート制御(車両挙動制御)が行われている場合に1となるフラグの状態が、フラグ=1であるか否かを判断し、1でなければステップS49へ移行し、1であればステップS52へ移行する。
【0131】
ステップS49では、前後輪の駆動力配分によってヨーレート制御を実施するためのクラッチ締結力Tcdを算出し、ステップS50へ移行する。ここで、クラッチ締結力Tcdは、ステップS49の枠内に記載した特性に示すように、オーバーステア傾向である場合に左右前輪10FR,10FLへのトルク配分を増加し(4輪駆動方向)、アンダーステア傾向である場合に左右後輪10RR,10RLへのトルク配分を増加し(後輪駆動方向)、前後輪の駆動力配分によるヨーレートの打ち消し作用によってニュートラルステア側に車両挙動を制御するように与える。
【0132】
ステップS50では、ステップS49で算出したクラッチ締結力Tcdを最終的な駆動力配分指令値Tcg(n)とし、ステップS51へ移行する。
【0133】
ステップS51では、前後輪への駆動力配分によるヨーレート制御フラグをフラグ=1とし、リターンへ移行する。
【0134】
ステップS52では、ステップS48において、フラグ=1と判断された場合には、今回の演算で得たヨーレート偏差△ψ(n)と前回の演算周期で得たヨーレート偏差△ψ(n-1)の差の絶対値所定値β以下であるか否かを判断し、β以下の場合にはステップS49へ移行し、前後輪への駆動力配分によるヨーレート制御を継続する。βより大きい場合には、前後輪への駆動力配分によるヨーレート制御のみでは車両挙動制御効果が不足すると判断し、ステップS53へ移行する。
【0135】
ステップS53では、今回の駆動力配分指令値Tcg(n)を前回の駆動力配分指令値Tcg(n-1)とし、前後輪の駆動力配分を保持することで駆動力配分変更を制限し、ステップS54へ移行する。なお、このステップS53では、VDCシステムで通常行われる駆動力低減およびブレーキによるヨーレート制御中に前後輪の駆動力配分を変更すると車両挙動抑制効果が相殺されたり、制御ハンチングを考慮して駆動力配分を保持するようにしているが、保持以外にも駆動力配分の変化量を制限するようにしても構わない。
【0136】
ステップS54では、前後輪への駆動力配分によるヨーレート制御フラグをフラグ=0とし、ステップS55へ移行する。
【0137】
ステップS55では、VDCシステムで通常行われる駆動力低減およびブレーキによるヨーレート制御(車両挙動制御)の開始指示を出力し、リターンへ移行する。
【0138】
ステップS56では、ステップS45にてヨーレート偏差△ψ(n)が−α≦△ψ(n)≦αと判断された場合(車両挙動制御の終了条件を満たした時)、車両挙動制御のための駆動力配分と並行に駆動力配分制御コントローラ11により前後輪回転速度差に応じて通常通りに算出された駆動力配分指令値(クラッチ締結力指令値)Tc(n)を読み込み、ステップS57へ移行する。
【0139】
ステップS57では、今回演算された駆動力配分指令値Tc(n)と前回演算された駆動力配分指令値Tcg(n-1)とが比較され、Tc(n)<Tcg(n-1)の場合(減少)はステップS58へ移行し、Tc(n)≧Tcg(n-1)の場合はステップS59へ移行する。
【0140】
ステップS58では、今回の駆動力配分指令値Tcg(n)を、前回の駆動力配分指令値Tcg(n-1)から予め設定された値γを減算することで求め、リターンへ移行する。
【0141】
ステップS59では、今回演算された駆動力配分指令値Tc(n)と前回演算された駆動力配分指令値Tcg(n-1)とが比較され、Tc(n)>Tcg(n-1)の場合(増加)はステップS60へ移行し、Tc(n)=Tcg(n-1)の場合はステップS61へ移行する。
【0142】
ステップS60では、今回の駆動力配分指令値Tcg(n)を、前回の駆動力配分指令値Tcg(n-1)から予め設定された値γを加算することで求め、リターンへ移行する。
【0143】
ステップS61では、駆動力配分制御コントローラ11により前後輪回転速度差に応じて通常通りに算出された駆動力配分指令値Tc(n)をそのまま今回の駆動力配分指令値Tcg(n)とし、リターンへ移行する。
【0144】
上記フローチャートにおいて、ステップS45とステップS48〜ステップS49は請求項10の第一の車両挙動制御手段に相当し、ステップS52〜ステップS55は請求項10の第二の車両挙動制御手段に相当し、ステップS56〜ステップS61は請求項11の駆動力配分復帰制御手段に相当し、ステップS46は請求項12に相当する。
【0145】
[ヨーレート制御作用]
まず、直進走行時等でヨーレート制御を開始する条件を満足しない場合には、図6のフローチャートにおいて、ステップS41→ステップS42→ステップS43→ステップS44→ステップS45→ステップS56→ステップS57→ステップS59→ステップS61へと進む流れとなり、ステップS61において、駆動力配分制御コントローラ11により前後輪回転速度差に応じて通常通りに算出された駆動力配分指令値Tc(n)がそのまま今回の駆動力配分指令値Tcg(n)とされる。
【0146】
そして、ステップS45のヨーレート制御を開始する条件を満足すると、図6のフローチャートにおいて、ステップS45からステップS46→ステップS48→ステップS49→ステップS50→ステップS51へと進む流れとなり、ステップS50において、前後輪の駆動力配分によってヨーレート制御を実施するためのクラッチ締結力Tcdが駆動力配分指令値Tcg(n)とされ、車両挙動を安定させるように前後輪の駆動力配分が変更される。なお、次回の処理では、ステップS48からステップS52へ進み、ステップS52にてヨーレート偏差変化量の絶対値|△ψ(n)−△ψ(n-1)|が所定値β以下であれば前後輪の駆動力配分によるヨーレート制御が継続される。
【0147】
一方、前後輪の駆動力配分によるヨーレート制御を実行しているにもかかわらず、ステップS52にてヨーレート偏差変化量の絶対値|△ψ(n)−△ψ(n-1)|が所定値βよりも大きいと判断されれば、前後輪の駆動力配分によるヨーレート制御効果が不足であると判定し、ステップS52からステップS53→ステップS54→ステップS55へと進み、ステップS55において、VDCシステムで通常行われる駆動力低減およびブレーキによるヨーレート制御が開始される。
【0148】
その後、ヨーレート制御の実施により実ヨーレートψが目標ヨーレートψ'に収束し、ステップS45のヨーレート制御を終了する条件を満足すると、オーバーステア傾向からヨーレート制御を実施した場合には、ステップS45からステップS56→ステップS57→ステップS58へと進む流れとなり、駆動力配分指令値Tcg(n)を1回の演算周期でγだけ減少させながら駆動力配分制御コントローラ11により前後輪回転速度差に応じて通常通りに算出された駆動力配分指令値Tc(n)に徐々に近づける駆動力配分復帰制御が行われる。また、アンダーステア傾向からヨーレート制御を実施した場合には、ステップS45からステップS56→ステップS57→ステップS59→ステップS60へと進む流れとなり、駆動力配分指令値Tcg(n)を1回の演算周期でγだけ増加させながら駆動力配分制御コントローラ11により前後輪回転速度差に応じて通常通りに算出された駆動力配分指令値Tc(n)に徐々に近づける駆動力配分復帰制御が行われる。
【0149】
[具体例]
ヨーレート制御の具体例として、オーバーステア傾向からヨーレート制御を実施した場合であって、駆動力配分制御コントローラ11により前後輪回転速度差に応じて通常通りに算出された駆動力配分指令値Tc(n)が一定の場合を想定した図7に基づいて説明する。
【0150】
まず、ヨーレート偏差特性をみると、t1の時点で実ヨーレートψと目標ヨーレートψ'とのヨーレート偏差△ψ(n)>αとなり、t2の時点でヨーレート偏差変化量の絶対値|△ψ(n)−△ψ(n-1)|が所定値βよりも大きくなり、t3の時点でヨーレート偏差変化量の絶対値|△ψ(n)−△ψ(n-1)|が所定値β以下となり、t4の時点でヨーレート偏差△ψ(n)≦αとなったことを表している。
【0151】
つまり、時点t1から時点t4までは前後輪の駆動力配分によるヨーレート制御条件を満足することで、フラグ=1とされる。また、時点t1から時点t2までは前後輪の駆動力配分によるヨーレート制御が実行されることで駆動力配分指令値Tcgが上昇する。時点t2から時点t3までは前後輪の駆動力配分によるヨーレート制御では効果不足であるという判断に基づき、エンジン出力低減とブレーキによるヨーレート制御が実行されることで駆動力配分指令値Tcgが一定値に保持される。時点t3から時点t4までは前後輪の駆動力配分によるヨーレート制御が実行されることで駆動力配分指令値Tcgが最大値まで上昇する。そして、時点t4から後は、駆動力配分指令値Tcgを、駆動力配分制御コントローラ11が算出する駆動力配分指令値Tcに徐々に近づける制御が行われる。
【0152】
次に、効果を説明する。
【0153】
(1) ヨーレート制御を開始する条件を満たした時、車両挙動を安定させるように前後輪の駆動力配分を可変に制御するステップS45→ステップS48〜ステップS51と、このステップS45→ステップS48〜ステップS51によるヨーレート制御効果が不足すると判断した場合、その時の前後輪の駆動力配分を保持すると共に、車輪に制動力を付与するVDCブレーキ制御を実行するステップS52〜ステップS55を設けたため、VDCブレーキ制御による制御量が低減できるので、制動力による車両挙動制御と駆動力配分制御との干渉度が低減されるし、VDCブレーキ制御中は、駆動力配分を固定して制限されることで、駆動力配分の変化による車両挙動の悪化を防ぐことができる。加えて、従来技術のような制動力制御による車両回頭性の増減(=ヨーレート偏差)を見ながら駆動力配分を変更するのに対し、比較的簡単なプログラムで済む。
【0154】
(2) ヨーレート制御を終了する条件を満たした時、その時の前後輪の駆動力配分指令値Tcg(n)を、駆動力配分制御コントローラ11により通常通りに算出された駆動力配分指令値Tc(n)に徐々に近づけるステップS56〜ステップS61を設けたため、ヨーレート制御の終了時点での駆動力配分指令値Tcg(n)と、駆動力配分制御コントローラ11により通常通りに算出された駆動力配分指令値Tc(n)とに偏差がある場合、急に駆動力配分制御手段により算出されている通常の駆動力配分に切り換えることによる車両挙動の変化を防ぐことができる。
【0155】
(3) ステップS46において、前輪駆動トルクTf<a、または、後輪駆動トルクTr<bの場合、駆動力配分制御による車両挙動制御は実行されず、直ぐに2輪駆動状態にしてVDCシステムで通常行われる駆動力低減およびブレーキによるヨーレート制御を行うようにしたため、より早く車両挙動抑制効果が得られ、車両挙動制御を早期に終了することができる。
【0156】
(他の実施例)以上、本発明の4輪駆動車の駆動力配分制御装置を第1実施例、参考例1〜3に基づき説明してきたが、具体的な構成については、これら第1実施例、参考例1〜3に限られるものではなく、特許請求の範囲の各請求項に係る発明の要旨を逸脱しない限り、設計の変更や追加等は許容される。
【0157】
例えば、第1実施例では、通常は後輪を駆動する2輪駆動を基本に4輪駆動可能な車両について説明してきたが、通常は前輪を駆動する2輪駆動を基本に4輪駆動可能な車両等のように、前後輪の駆動力配分を制御できる4輪駆動可能な車両であれば他の形態であって適用可能である。また、第1実施例のように、エンジン出力を前後輪に配分する4輪駆動可能な車両以外でも、例えば、前後輪の一方を内燃機関で駆動し、前後輪の他方を電動機で駆動可能な車両や、前輪と後輪とが別々の内燃機関又は電動機で駆動される4輪駆動可能な車両にも適用可能である。
【0158】
参考例1のステップS26〜ステップS27及びステップS28に代え、ステップS26〜ステップS27では駆動力配分が2輪駆動となるようなフィルタをかけ、ステップS28では駆動力配分がさらにゆっくり2輪駆動となるようなフィルタをかけるというように、異なる効果のフィルタ処理を行うようにしても良い。
【0159】
参考例2ではヨーレート制御開始条件とヨーレート制御終了条件を同じしきい値±αにより与える例を示したが、ヨーレート制御開始しきい値とヨーレート制御開始しきい値を異ならせるようにしても良い。
【図面の簡単な説明】
【図1】第1実施例の4輪駆動車の駆動力配分制御装置を示す全体システム図である。
【図2】第1実施例装置の駆動力配分制御コントローラで実行される前後輪駆動力配分制御処理の流れを示すフローチャートである。
【図3】制動力対応の本発明技術とヨーレート偏差対応の従来技術を比較したヨーレート偏差と制動力制御量最大値とクラッチ締結力の各タイムチャートである。
【図4】参考例1装置のスタビリティ制御コントローラで実行されるVDCブレーキ制御と可変4WD制御の協調制御処理の流れを示すフローチャートである。
【図5】参考例2装置のスタビリティ制御コントローラで実行されるVDCブレーキ制御と可変4WD制御の協調制御処理の流れを示すフローチャートである。
【図6】参考例3装置のスタビリティ制御コントローラで実行される車両挙動制御としてのヨーレート制御処理の流れを示すフローチャートである。
【図7】参考例3装置にてオーバステア傾向のヨーレート偏差が発生した場合のヨーレート偏差・フラグ・駆動力配分指令値・エンジン出力低減とブレーキによるヨーレート制御の各タイムチャートである。
Claims (5)
- 少なくとも各輪独立に制動力を付与して車両挙動が安定するように各輪の制動力を制御する車両挙動制御手段と、
駆動輪スリップの発生を抑制するように主駆動輪と従駆動輪との駆動力配分を2輪駆動状態から4輪駆動状態まで可変に制御する駆動力配分制御手段と、
を備えた4輪駆動車の駆動力配分制御装置において、
前記車両挙動制御手段で車輪に制動力を付与する場合に、制動力制御する各車輪の制動力制御量のうちで最も高い制動力制御量最大値を選択し、前記駆動力配分制御手段による主駆動輪と従駆動輪との駆動力配分から2輪駆動方向に移行させる駆動力配分変更量を、制動力制御量最大値が大きいほど増大し、駆動源の駆動力の大きさが小さいほど増大する第一の協調制御手段を設けたことを特徴とする4輪駆動車の駆動力配分制御装置。 - 請求項1に記載された4輪駆動車の駆動力配分制御装置において、
前記第一の協調制御手段は、制動力制御量最大値が第1設定値以下の領域では駆動力配分を制限しない不感帯領域とし、制動力制御量最大値が第1設定値を超える領域では第2設定値となるまで比例的に2輪駆動方向に移行させる駆動力配分変更量を増大することを特徴とする4輪駆動車の駆動力配分制御装置。 - 請求項1または請求項2に記載された4輪駆動車の駆動力配分制御装置において、
前記第一の協調制御手段は、駆動源の駆動力の大きさが第一設定値以下の領域では駆動力配分比を2輪駆動方向に移行させる駆動力配分変更量を最大とし、駆動源の駆動力の大きさが第一設定値を超え第二設定値以下の領域では比例的に2輪駆動方向に移行させる駆動力配分変更量を減少し、駆動源の駆動力の大きさが第二設定値を超える領域では2輪駆動方向に移行させる駆動力配分変更量を最小とすることを特徴とする4輪駆動車の駆動力配分制御装置。 - 請求項1ないし請求項3の何れかに記載された4輪駆動車の駆動力配分制御装置において、
前記車両挙動制御手段は、制動力を各輪独立に制御するスタビリティ制御アクチュエータを有し、ヨーレート偏差が大きいとき、ヨーレート偏差を無くすように各輪の制動力を制御するスタビリティ制御コントローラであり、
前記駆動力配分制御手段は、主駆動輪と従駆動輪とを連結する駆動系にクラッチを設けた駆動力配分制御アクチュエータを有し、駆動スリップの発生を抑制するように主駆動輪と従駆動輪との駆動力配分を、前記クラッチを開放する2輪駆動状態から前記クラッチを締結する4輪駆動状態まで可変に制御する駆動力配分制御コントローラであることを特徴とする4輪駆動車の駆動力配分制御装置。 - 請求項4に記載された4輪駆動車の駆動力配分制御装置において、
前記第一の協調制御手段は、車両挙動制御を開始する時点での前記クラッチの締結力をクラッチ締結力初期値とし、制動力制御量最大値が大きいほど1より小さな値に算出された係数を第1係数とし、駆動源の駆動力の大きさが小さいほど1より小さな値に算出された係数を第2係数としたとき、主駆動輪と従駆動輪との駆動力配分の協調制御を行う際のクラッチ締結力を、前記クラッチ締結力初期値と前記第1係数と前記第2係数とを掛け合わせた式により算出することを特徴とする4輪駆動車の駆動力配分制御装置。
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