JP3794318B2 - 4輪駆動車の駆動力配分制御装置 - Google Patents

4輪駆動車の駆動力配分制御装置 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、4輪独立の制動力制御により車両挙動を制御するVDCシステム(Vehicle Dynamics Control System)と、主駆動輪と従駆動輪との駆動力配分を可変に制御するトルクスプリット4WDシステムとが共に搭載された4輪駆動車の駆動力配分制御装置の技術分野に属する。
【0002】
【従来の技術】
従来、VDCシステムとトルクスプリット4WDシステムとを組み合わせた4輪駆動車の駆動力配分制御装置としては、例えば、特開平9−20217号公報に記載のものが知られれている。
【0003】
この従来公報には、4輪駆動車にVDCシステムを搭載するにあたり、VDCブレーキ制御時において、前後輪駆動力配分を4輪駆動状態のままにしておくと制御輪のブレーキトルクが他輪に伝達し、VDCシステムによるスタビリティ向上効果が低減してしまうことを防止するために、VDCシステムでのブレーキ制御時に駆動力配分を4輪駆動状態から2輪駆動状態に切り換える技術が記載されている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、従来の4輪駆動車の駆動力配分制御装置にあっては、VDCシステムでのブレーキ制御中は駆動力配分が2輪駆動状態に近い状態になっているため、VDCブレーキ制御が終了した直後で、2輪駆動状態から元の4輪駆動状態まで戻す切り換え応答遅れ時間の間は、ドライバーがアクセルペダルの踏み込み操作を行っても、ドライバーのアクセル操作に表れた加速要求に呼応する十分な加速性能が得られないという問題があった。
【0005】
本発明は、上記問題点に着目してなされたもので、その目的とするところは、車両挙動制御の制動力制御終了タイミングを予測し、制動力制御終了に先行して駆動力配分を4輪駆動寄りに戻すことで、制動力制御終了後の加速性能の向上を達成することができる4輪駆動車の駆動力配分制御装置を提供することにある。
【0006】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するため、請求項1に係る発明では、
制動力を付与して車両挙動を制御する車両挙動制御手段と、
主駆動輪と従駆動輪との駆動力配分を可変に制御する駆動力配分制御手段と、
前記車両挙動制御手段で車輪に制動力を付与する場合に、主駆動輪の駆動力配分を増加させて駆動力配分を2輪駆動寄りとする協調制御手段と、
を備えた4輪駆動車の駆動力配分制御装置において、
目標ヨーレートと実ヨーレートのヨーレート偏差の駆動力配分復帰開始しきい値を、ヨーレート偏差の車両挙動制御終了しきい値より大きな値に設定する駆動力配分復帰開始しきい値設定手段を備え、
前記協調制御手段は、車両挙動制御手段で車輪に制動力を付与している場合、目標ヨーレートと実ヨーレートのヨーレート偏差が減少し、かつ、ヨーレート偏差が駆動力配分復帰開始しきい値以下であり、かつ、車両挙動制御開始時の初期アクセル開度より現在のアクセル開度が大きい場合、駆動力配分を4輪駆動寄りに復帰する制御を開始することを特徴とする。
【0012】
【発明の作用および効果】
請求項1に係る発明にあっては、協調制御手段において、車両挙動制御手段が作動を開始し、車両挙動を安定させるために車輪に制動力を付与する場合に、主駆動輪の駆動力配分を増加させて駆動力配分を2輪駆動寄りとし、駆動力配分復帰開始しきい値設定手段において、目標ヨーレートと実ヨーレートのヨーレート偏差の駆動力配分復帰開始しきい値が、ヨーレート偏差の車両挙動制御終了しきい値より大きな値に設定される。そして、協調制御手段において、目標ヨーレートと実ヨーレートのヨーレート偏差が減少し、かつ、ヨーレート偏差が駆動力配分復帰開始しきい値以下であり、かつ、車両挙動制御開始時の初期アクセル開度より現在のアクセル開度が大きい場合、駆動力配分を4輪駆動寄りに復帰する制御が開始される
よって、目標ヨーレートと実ヨーレートのヨーレート偏差の減少により車両挙動制御量の収束を検出し、挙動制御量の収束により車両挙動制御の制動力制御終了タイミングを予測し、制動力制御終了前に主駆動輪への駆動力配分増加量を制限することで、制動力制御終了に先行して駆動力配分が4輪駆動寄りに戻されることになり、制動力制御終了後の加速性能の向上を達成することができる。
また、アクセル操作状態の検出によりアクセル操作に反映されるドライバーの加速要求を判断することができ、加速要求が無い場合には2輪駆動寄りのままとし、加速要求が有る場合には4輪駆動寄りへの戻すことにより、車両挙動制御効果の確保と、制動力制御終了後の加速性能向上とを両立させることができる。
さらに、駆動力配分を4輪駆動寄りに復帰する制御の開始条件に、車両挙動制御の収束条件(目標ヨーレートと実ヨーレートのヨーレート偏差が減少)と、車両挙動制御終了前の開始タイミング条件(車両挙動制御終了しきい値より大きな値に設定されたヨーレート偏差の駆動力配分復帰開始しきい値)と、ドライバーの加速要求条件(車両挙動制御開始時の初期アクセル開度より現在のアクセル開度が大きい)とが含まれ、ドライバーに加速要求がある場合、適切なタイミングにて駆動力配分の復帰制御を開始することができる。
【0022】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の4輪駆動車の駆動力配分制御装置を実現する実施の形態を、請求項1,2に係る発明に対応する第1実施例に基づいて説明する。
【0023】
(第1実施例)
まず、構成を説明する。
図1は第1実施例の4輪駆動車の駆動力配分制御装置を示す全体システム図であり、通常は後輪を駆動する2輪駆動を基本に4輪駆動可能な4輪駆動車について説明する。
【0024】
図1において、1はエンジン、2はトランスミッション、3は駆動力配分制御アクチュエータ、4はフロントプロペラシャフト、5はリヤプロペラシャフト、6はフロントディファレンシャル、7,7はフロントドライブシャフト、8はリヤディファレンシャル、9,9はリヤドライブシャフト、10FRは右前輪(従駆動輪)、10FLは左前輪(従駆動輪)、10RRは右後輪(主駆動輪)、10RLは左後輪(主駆動輪)、11は駆動力配分制御コントローラ(駆動力配分制御手段)、12FRは右前輪速センサ、12FLは左前輪速センサ、12RRは右後輪速センサ、12RLは左後輪速センサ、13FRは右前輪ホイールシリンダ、13FLは左前輪ホイールシリンダ、13RRは右後輪ホイールシリンダ、13RLは左後輪ホイールシリンダ、14はスタビリティ制御アクチュエータ、15はアクセル開度センサ、16はヨーレートセンサ、17はスタビリティ制御コントローラ(車両挙動制御手段)、18は舵角センサである。
【0025】
前記4輪駆動車のエンジン1の出力は、トランスミッション2を介して駆動力配分制御アクチュエータ3で、前後輪への駆動力配分を行い、フロントプロペラシャフト4とリヤプロペラシャフト5に伝達する。フロントプロペラシャフト4に伝達された駆動力は、フロントディファレンシャル6とフロントドライブシャフト7,7とを介して右前輪10FRと左前輪10FLに伝達される。同様に、リヤプロペラシャフト5に伝達された駆動力は、リヤディファレンシャル8とリヤドライブシャフト9,9とを介して右後輪10RRと左後輪10RLに伝達される。
【0026】
前記各車輪10FR,10FL,10RR,10RLには、車輪速センサ12FR,12FL,12RR,12RLが備えられ、それぞれの検出値を駆動力配分制御コントローラ11へ出力する。また、駆動力配分アクチュエータ3は、駆動力配分制御コントローラ11からの制御指令により前輪10FR,10FL(従駆動輪)と後輪10RR,10RL(主駆動輪)への駆動力配分を制御するもので、例えば、トランスミッション2とフロントプロペラシャフト4との間に制御圧によりクラッチ締結力が制御される油圧クラッチを介装した構造とされる。なお、油圧クラッチの代わりに電磁クラッチであっても構わない。
【0027】
前記各車輪10FR,10FL,10RR,10RLには、ホイールシリンダ13FR,13FL,13RR,13RLが備えられ、各ホイールシリンダ13FR,13FL,13RR,13RLは、ブレーキ液圧を各輪独立に制御するスタビリティ制御アクチュエータ14と配管接続されている。また、アクセル開度センサ15と、ヨーレートセンサ16と、舵角センサ18は、それぞれの検出値をスタビリティ制御コントローラ17へ出力する。
【0028】
前記駆動力配分制御コントローラ11とスタビリティ制御コントローラ17とは、双方向通信線により互いに通信可能となっており、駆動力配分制御コントローラ11は、車輪速センサ12FR,12FL,12RR,12RLからの検出値等を入力し、例えば、本出願人が先に提案した特許第2534732号公報の図9の演算処理に従って、通常は前後輪の駆動力配分比率が前輪0%:後輪100%の状態から、前後輪回転速度差に応じて駆動力配分指令値を算出し、駆動力配分制御アクチュエータ3へ出力し、駆動力配分制御アクチュエータ3は、例えば、油圧クラッチへの締結油圧(クラッチ締結力)を制御することで、前輪10FR,10FLへの駆動力配分を制御する。
【0029】
前記スタビリティ制御コントローラ17は、舵角センサ18とヨーレートセンサ16とアクセル開度センサ15の検出値を入力し、例えば、特開昭62−253559号公報に記載されている演算処理に従って、スタビリティ制御指令値として制動力指令値とエンジン出力指令値を算出し、制動力指令値をスタビリティ制御アクチュエータ14へ出力し、スタビリティ制御アクチュエータ14は車両挙動が安定するように各ホイールシリンダ液圧を制御する(VDCの制動力制御)。
なお、エンジン出力指令値は図示しないエンジン制御コントローラへ出力され、エンジン制御コントローラは燃料カット制御やスロットル開度制御により、エンジン出力を制御する。
【0030】
次に、作用を説明する。
【0031】
[VDCと4WDの協調制御処理]
図2はスタビリティ制御コントローラ17で実行されるVDCと4WDの協調制御処理の流れを示すフローチャートで、以下、各ステップについて説明する(協調制御手段)。この演算処理は、例えば、所定時間10msec毎に実行される。
【0032】
ステップS1では、アクセル開度センサ15からアクセル開度信号を読み込む。
【0033】
ステップS2では、VDC制御要求ありか否かが判断され、VDC制御要求ありの場合はステップS3へ移行し、VDC制御要求無しの場合はリターン平行する。ここで、VDC制御要求は、ヨーレート偏差△ψがVDC制御開始しきい値△ψA以上となった場合に出される。
【0034】
ステップS3では、VDC作動フラグVDCACTがセット(VDCACT=1)される。
【0035】
ステップS4では、VDC制動力制御中において後輪駆動寄りの駆動力配分を得るVDC作動対応トルクTTFOが決定される。
【0036】
ステップS5では、前回の制御処理時にVDC作動フラグVDCACTがセットされていたか否かが判断され、N−1回目にVDCACT=0である場合にはステップS6を介してステップS7へ移行し、N−1回目にVDCACT=1である場合にはステップS7へ移行する。
【0037】
ステップS6では、その時のアクセル開度がVDC開始される初期アクセル開度TVOMとして記憶される。
【0038】
ステップS7では、VDC制動力制御が実行される。
【0039】
ステップS8では、前回のヨーレート偏差△ψN-1より今回のヨーレート偏差△ψNが小さいか否か、つまり、△ψN-1−△ψN>0か否かが判断される(挙動制御量収束状態検出手段)。このステップS8でYESと判断された場合はステップS9へ移行し、NOと判断された場合はステップS12へ移行する。
【0040】
ステップS9では、ヨーレート偏差△ψNが駆動力配分復帰開始しきい値△ψB以下か否かが判断される。ここで、駆動力配分復帰開始しきい値△ψBは、図3に示すように、VDC制御開始しきい値△ψA及びVDC制御終了しきい値△ψC(>△ψA)より大きな値に予め設定されている(駆動力配分復帰開始しきい値設定手段)。このステップS9でYESと判断された場合はステップS10へ移行し、NOと判断された場合はステップS12へ移行する。
【0041】
ステップS10では、現在のアクセル開度TVOが読み込まれる。
【0042】
ステップS11では、ステップS6にて記憶した初期アクセル開度TVOMより現在のアクセル開度TVOが大きいか否かが判断される。このステップS11でYESと判断された場合はステップS13へ移行し、NOと判断された場合はステップS12へ移行する。
【0043】
ステップS12では、ステップS8、ステップS9,ステップS11の各条件の全てが同時に成立しない場合、目標伝達トルクTTFがステップS4にて決定されているVDC作動対応トルクTTFOとされる。
【0044】
ステップS13では、目標伝達トルクTTFがアクセル変化量△E(アクセル開度増加量)とアクセル開速度△TVO(アクセル踏み込み速さ)の関数より、アクセル変化量△Eが大きいほど、また、アクセル開速度△TVOが大きいほど大きな値に決定される(TTF=f(△E, △TVO))。なお、目標伝達トルクTTFは、駆動力配分制御コントローラ11にて算出される値を上限値とする。
【0045】
ここで、アクセル変化量△Eは、
△E1=TVO−TVOM
△E2={(TVO−TVOM)/TVOmax}×100[%]
ただし、TVO :現在のアクセル開度、TVOM:初期アクセル開度、TVOmax:全開アクセル開度
の何れの式で計算しても良い。
また、アクセル開速度△TVOは、
△TVO=今回(N回目)のTVO−前回(N−1回目)のTVO
の式により計算される(アクセル操作状態検出手段)。
【0046】
ステップS14では、ステップS12またはステップS13で決定された目標伝達トルクTTFが、スタビリティ制御コントローラ17から双方向通信線を介して駆動力配分制御コントローラ11に出力される。この目標伝達トルクTTFを駆動力配分制御コントローラ11が受信すると、この目標伝達トルクTTFに対応するクラッチ締結力が算出され、算出されたクラッチ締結力を得る指令が駆動力配分制御アクチュエータ3に出力される。
【0047】
[VDCと4WDの協調制御作用]
VDCの制動力制御の作動開始時には、図2のフローチャートにおいて、ステップS1→ステップS2→ステップS3→ステップS4→ステップS5→ステップS6→ステップS7へと進む流れとなり、ステップS6でVDC制御開始時の初期アクセル開度TVOMが記憶され、ステップS7では、VDC制動力制御が実行される。
【0048】
そして、VDC制動力制御の開始時及びVDC制動力制御の開始域では、ヨーレート偏差△ψが増大していることで、ステップS8のヨーレート偏差収束条件が成立せず、ステップS7からステップS8→ステップS12→ステップS14へと進む流れとなり、駆動力配分制御コントローラ11からはVDC作動対応トルクTTFOを得る指令が駆動力配分制御アクチュエータ3に対して出力され、VDC制動力制御開始域においては後輪駆動寄りの駆動力配分とされる。
【0049】
このように、後輪駆動寄りの駆動力配分のままでVDC制動力制御が実行されることにより、スタビリティ制御効果が発揮され、実ヨーレートが目標ヨーレートに近づいてヨーレート偏差△ψが低下すると、ステップS8のヨーレート偏差収束条件と、ステップS9のヨーレート偏差低下条件とが共に成立する。この時点でVDC制動力制御の開始時よりドライバーがアクセルを踏み込んでいると、ステップS11のアクセル開度増大条件が成立し、ステップS7からステップS8→ステップS9→ステップS10→ステップS11→ステップS13→ステップS14へと進む流れとなり、駆動力配分制御コントローラ11からはアクセル変化量△Eが大きいほど、また、アクセル開速度△TVOが大きいほど大きな値による目標伝達トルクTTFを得る指令が駆動力配分制御アクチュエータ3に対して出力され、VDC作動対応トルクTTFOによる後輪駆動寄りの駆動力配分から4輪駆動寄りの駆動力配分に戻される。
【0050】
[従来技術との比較作用]
図3は本発明技術とVDC制動力制御の終了と同時に駆動力配分を復帰させる従来技術を比較したタイムチャートである。簡単に説明するために駆動力配分制御コントローラ11がVDC制動力制御開始前及びVDC制動力制御終了後の演算で算出する目標伝達トルクTTFは目標伝達トルク最大値TTFmaxであり、VDC制動力制御作動中のVDC作動対応トルクTTFOは一定と仮定した場合についてのものである。
【0051】
車両が4輪駆動状態で走行中、t1の時点でオーバーステア傾向やアンダーステア傾向になると、実ヨーレートと目標ヨーレートとのヨーレート偏差△ψが生じ出す。その後、t2の時点でヨーレート偏差△ψがVDC制御開始しきい値△ψA以上になると、スタビリティ制御が作動開始し、エンジン出力制御と共に制動力制御が始まる。そして、t2の時点からt3の時点にかけてはスタビリティ制御効果を発揮させるべく、一定のVDC作動対応トルクTTFOが維持され、このt3の時点でアクセル踏み込み操作が開始され、ヨーレート偏差△ψが収束状況に入ってもヨーレート偏差△ψが駆動力配分復帰開始しきい値△ψB以下というステップS9の条件を満足しないため、t3からt4の時点にかけても一定のVDC作動対応トルクTTFOが維持される。
【0052】
そして、t4の時点にヨーレート偏差△ψがおいて、ステップS8のヨーレート偏差収束条件と、ステップS9のヨーレート偏差低下条件と、ステップS11のアクセル開度増大条件と、の3条件が共に成立すると、アクセル変化量△Eが大きいほど、また、アクセル開速度△TVOが大きいほど大きな値による目標伝達トルクTTFを得る指令が出力され、t4の時点からt5の時点にかけては、VDC作動対応トルクTTFOによる後輪駆動寄りの駆動力配分(2WD)から4輪駆動寄りの駆動力配分(4WD)に戻される。
【0053】
そして、t5の時点でVDC制御終了しきい値△ψC以下になると、VDC作動フラグVDCACTが1から0に書き換えられ、VDC制動力制御が終了し、このVDC制動力制御の終了時点t5で、駆動力配分がVDC制動力制御開始前の4輪駆動寄りの駆動力配分まで戻され、t6の時点でヨーレート偏差△ψがゼロに収束する。
【0054】
すなわち、実線特性で示す本発明の加速G特性の場合には、t3の時点からのアクセル踏み込み操作に対し、t4の時点から加速Gが早期に立ち上がり、t5の時点では既に目標とする加速状態に入っている。よって、VDC制動力制御が終了する時点であるt5に達すると、既に駆動力配分が4輪駆動状態に戻されていることで高い加速性能による走行が確保される。
【0055】
これに対し、点線特性で示す従来の加速G特性の場合、t3の時点からのアクセル踏み込み操作に対し、t4の時点となっても加速Gが立ち上がることなく、VDC制動力制御の終了時点であるt5の時点からやっと加速Gが立ち上がり始め、t7の時点で目標とする加速状態に入る。よって、ドライバーはVDC制動力制御が終了するt5の時点からt7の時点の間に加速不良を補うべくアクセル踏み増し操作を行ったりしなければならない。
【0056】
次に、効果を説明する。
【0057】
(1) 制動力を付与して車両挙動を制御するスタビリティ制御コントローラ17と、左右後輪10RR,10RLと左右前輪10FR,10FLとの駆動力配分を可変に制御する駆動力配分制御コントローラ11と、を備えた4輪駆動車の駆動力配分制御装置において、VDC制動力制御時には目標伝達トルクTTFをVDC作動対応トルクTTFOとすることで主駆動輪である左右後輪10RR,10RLの駆動力配分を増加し、ステップS8及びステップS9において、ヨーレート偏差△ψによりスタビリティ制御による制御量の収束状態が検出されると、主駆動輪である左右後輪10RR,10RLの駆動力配分を減少するようにしたため、ヨーレート偏差△ψの収束状態によりスタビリティ制御の制動力制御終了タイミングを予測し、VDC制動力制御終了前に左右後輪10RR,10RLの駆動力配分を減少することで、VDC制動力制御終了に先行して駆動力配分が4輪駆動寄りに戻されることになり、VDC制動力制御終了後の加速性能の向上を達成することができる。
【0058】
(2) VDC制動力制御時には、ステップS8及びステップS9において、ヨーレート偏差△ψによりスタビリティ制御による制御量の収束状態が検出され、かつ、ステップS11において、アクセル踏み込み操作が検出されると、主駆動輪である左右後輪10RR,10RLの駆動力配分を減少する目標伝達トルクTTFを得るようにしたため、アクセル操作状態の検出によりドライバーの加速要求を判断することができ、加速要求が無い場合には後輪駆動状態のままとし、加速要求が有る場合には4輪駆動状態へ戻すことにより、スタビリティ制御効果の確保と、制動力制御終了後の加速性能向上とを両立させることができる。
【0059】
(3) ステップS8における目標ヨーレートと実ヨーレートのヨーレート偏差△ψの減少状態にあるという条件と、ステップS9におけるヨーレート偏差△ψがしきい値△ψB以下という条件により、スタビリティ制御による制御量の収束状態を検出するようにしたため、ヨーレート偏差△ψがVDC制御開始しきい値△ψA以上発生することにより制御を開始し、ヨーレート偏差△ψがVDC制御終了しきい値△ψC以下になることで制御を終了するスタビリティ制御の終了タイミングを予測することができる。
【0060】
(4) ステップS13において、目標伝達トルクTTFを決定するに際し、スタビリティ制御開始時の初期アクセル開度TVOMに対する現在のアクセル開度TVOのアクセル変化量△Eと、アクセル開速度△TVOと、の両方によりアクセル操作状態を検出するようにしたため、アクセル操作に反映されるドライバーの加速要求を精度良く検出することができる。
【0061】
(5) ヨーレート偏差△ψの駆動力配分復帰開始しきい値△ψBを、ヨーレート偏差△ψのVDC制御終了しきい値△ψCより大きな値に設定し、VDC制動力制御作動中、ステップ8においてヨーレート偏差△ψが減少し、かつ、ステップS9においてヨーレート偏差△ψが駆動力配分復帰開始しきい値△ψB以下であり、かつ、ステップS11においてスタビリティ制御開始時の初期アクセル開度TVOMより現在のアクセル開度TVOが大きい場合、ステップS13へ移行して駆動力配分を4輪駆動寄りに復帰する制御が開始されるため、ドライバーに加速要求がある場合、適切なタイミングにて駆動力配分の復帰制御を開始することができる。
【0062】
(6) ステップS8,ステップS9,ステップS11の駆動力配分復帰開始条件が成立する時、アクセル変化量△Eとアクセル開速度△TVOとの両方により、アクセル操作状態が踏み込み側であると判断されるほど、目標伝達トルクTTFが高い値となり、駆動力配分を4輪駆動寄りに戻す復帰速度を速くするようにしたため、ドライバーの加速要求が高いほど短時間にて駆動力配分が4輪駆動寄りに戻されることになり、駆動力配分の戻し応答遅れが解消され、VDC制動力制御終了後は確実に高い加速性能を達成することができる。
【0063】
(他の実施例)
以上、本発明の4輪駆動車の駆動力配分制御装置を第1実施例に基づき説明してきたが、具体的な構成については、この第1実施例に限られるものではなく、特許請求の範囲の各請求項に係る発明の要旨を逸脱しない限り、設計の変更や追加等は許容される。
【0064】
例えば、第1実施例では、通常は後輪を駆動する2輪駆動を基本に4輪駆動可能な車両について説明してきたが、通常は前輪を駆動する2輪駆動を基本に4輪駆動可能な車両等のように、前後輪の駆動力配分を制御できる4輪駆動可能な車両であれば他の形態であって適用可能である。また、第1実施例のように、エンジン出力を前後輪に配分する4輪駆動可能な車両以外でも、例えば、前後輪の一方を内燃機関で駆動し、前後輪の他方を電動機で駆動可能な車両や、前輪と後輪とが別々の内燃機関又は電動機で駆動される4輪駆動可能な車両にも適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【図1】第1実施例の4輪駆動車の駆動力配分制御装置を示す全体システム図である。
【図2】第1実施例装置のスタビリティ制御コントローラで実行されるVDCと4WDの協調制御処理の流れを示すフローチャートである。
【図3】本発明技術とVDC制動力制御の終了と同時に駆動力配分を復帰させる従来技術を比較したトルク伝達量とアクセル開度とヨーレート偏差と加速Gの各タイムチャートである。
【符号の説明】
1 エンジン
2 トランスミッション
3 駆動力配分制御アクチュエータ
4 フロントプロペラシャフト
5 リヤプロペラシャフト
6 フロントディファレンシャル
7,7 フロントドライブシャフト
8 リヤディファレンシャル
9,9 リヤドライブシャフト
10FR 右前輪(従駆動輪)
10FL 左前輪(従駆動輪)
10RR 右後輪(主駆動輪)
10RL 左後輪(主駆動輪)
11 駆動力配分制御コントローラ(駆動力配分制御手段)
12FR 右前輪速センサ
12FL 左前輪速センサ
12RR 右後輪速センサ
12RL 左後輪速センサ
13FR 右前輪ホイールシリンダ
13FL 左前輪ホイールシリンダ
13RR 右後輪ホイールシリンダ
13RL 左後輪ホイールシリンダ
14 スタビリティ制御アクチュエータ
15 アクセル開度センサ
16 ヨーレートセンサ
17 スタビリティ制御コントローラ(車両挙動制御手段)
18 舵角センサ

Claims (2)

  1. 制動力を付与して車両挙動を制御する車両挙動制御手段と、
    主駆動輪と従駆動輪との駆動力配分を可変に制御する駆動力配分制御手段と、
    前記車両挙動制御手段で車輪に制動力を付与する場合に、主駆動輪の駆動力配分を増加させて駆動力配分を2輪駆動寄りとする協調制御手段と、
    を備えた4輪駆動車の駆動力配分制御装置において、
    目標ヨーレートと実ヨーレートのヨーレート偏差の駆動力配分復帰開始しきい値を、ヨーレート偏差の車両挙動制御終了しきい値より大きな値に設定する駆動力配分復帰開始しきい値設定手段を備え、
    前記協調制御手段は、車両挙動制御手段で車輪に制動力を付与している場合、目標ヨーレートと実ヨーレートのヨーレート偏差が減少し、かつ、ヨーレート偏差が駆動力配分復帰開始しきい値以下であり、かつ、車両挙動制御開始時の初期アクセル開度より現在のアクセル開度が大きい場合、駆動力配分を4輪駆動寄りに復帰する制御を開始することを特徴とする4輪駆動車の駆動力配分制御装置。
  2. 請求項1に記載された4輪駆動車の駆動力配分制御装置において、
    前記協調制御手段は、駆動力配分復帰開始条件が成立する時、アクセル開度増加量とアクセル踏み込み速さの少なくとも一方により、アクセル操作状態が踏み込み側であると判断されるほど、駆動力配分を4輪駆動寄りに戻す復帰速度を速くすることを特徴とする4輪駆動車の駆動力配分制御装置。
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