JP3863249B2 - ポリアリーレンスルフィド成形体とその製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、射出成形によりポリアリーレンスルフィド樹脂組成物からなる成形体を製造する方法に関し、さらに詳しくは、射出成形に際し、金型温度を充分に低くしても、結晶化度や表面光沢に優れ、機械的強度が良好で、かつ、バリの少ない成形体を得ることができるポリアリーレンスルフィド成形体の製造方法に関する。また、本発明は、このような製造方法により得られるポリアリーレンスルフィド成形体に関する。
【0002】
【従来の技術】
ポリアリーレンスルフィド(以下、PASと略記)は、式[−Ar−S−](ただし、Arは、アリーレン基である。)で表されるアリーレンスルフィドの繰り返し単位を主たる構成要素とする芳香族ポリマーであり、ポリフェニレンスルフィド(以下、PPSと略記)がその代表例である。PASは、耐熱性、耐薬品性、難燃性、寸法安定性、機械的性質、電気絶縁性等に優れたエンジニアリングプラスチックであり、自動車部品、電気・電子機器部品、化学機器部品など広範な分野で使用されている。
PASは、射出成形、押出成形、圧縮成形などの各種成形法により成形体に成形される。特に、PASに繊維状充填材や非繊維状充填剤を配合したPAS樹脂組成物を使用すると、射出成形により、引張強度、曲げ弾性率、曲げ強度などの機械的物性に優れた成形体を得ることができる。
【0003】
ところが、PASは、ガラス転移温度やガラス状態からの結晶化温度(冷結晶化温度)が高いため、射出成形により成形体を製造する場合、金型温度を高くしないと、結晶化度の高い成形体を得ることができない。また、PASは、結晶化速度が比較的遅いため、射出成形に際し、PASの結晶化度を高めるために比較的長いサイクル時間を必要とする。PASを射出成形する場合、結晶化を促進し、かつ、良好な外観の成形体を得るには、通常、130℃以上の温度に金型を加熱する必要があった。例えば、特許第2547266号公報には、PASに無機充填材を配合したPAS樹脂組成物が開示されているが、その実施例では、金型温度150℃で射出成形した例が示されている。しかも、PASの射出成形では、金型を高温にしても、硬度、寸法安定性、形状安定性、光沢などに優れた成形体を得るには、射出・冷却時間を長くして結晶化度を高める必要があった。
【0004】
このようにPASの射出成形には、高い金型温度と長い成形サイクルを必要とするため、生産性に問題がある。また、金型温度が高いと、金型潤滑のために特殊なグリースを使用する必要があること、グリースの取り扱いに際して火傷の危険が高いこと、作業場の温度が高くなること等の作業環境上の問題もある。さらに、PASを通常の高い金型温度で射出成形すると、バリの発生が著しいという問題があった。なお、バリとは、成形用金型のキャビティ部において、その組み合わせ部の隙間から溶融した成形材料が流出した部分が、そのまま成形体に付着したものをいう。
【0005】
PASの射出成形時の金型温度を低減することができるならば、生産性の向上に加えて、前述の如き諸問題も軽減される。従来より、PASの射出成形時の金型温度を下げるために、各種可塑剤を添加してPASのガラス転移温度を下げることにより、結晶化速度を高める方法が提案されている。可塑剤としては、例えば、オリゴマー状エステル(特開昭62−45654号公報)、チオエーテル(特開昭62−230849号公報)、カルボン酸エステル(特開昭62−2308848号公報)、燐酸エステル(特開昭62−230850号公報、特開平1−225660号公報)などが提案されている。しかしながら、このような可塑剤の多くは、熱安定性に劣るため、PASのように高融点の樹脂に添加すると、コンパウンド作製のための溶融加工時に、揮発ガスや分解ガスを発生するという問題があった。熱安定性に優れた特殊な可塑剤は、高価である。また、金型温度を充分に下げるには、PASに比較的多量の可塑剤を配合する必要があるため、機械的物性の低下やブリードなどのおそれがある。
【0006】
PASに少量の黒鉛粉末を1種の結晶核剤として添加することにより、結晶化速度を高める方法が提案されているが(特開平5−239354号公報)、その実施例では、PPSに40重量%のガラス繊維と共に1重量%の黒鉛粉末を配合した樹脂組成物を、金型温度135℃(275。F)で射出成形した例が示されているだけであり、金型温度を充分に下げることができていない。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、ポリアリーレンスルフィドを含有する樹脂組成物を用いて、従来よりも低温の金型温度で金型内に射出成形した場合に、充分な結晶化度と表面光沢を有し、機械的物性にも優れ、しかもバリの発生が抑制された成形体を与えることができる成形体の製造方法を提供することにある。
本発明の他の目的は、ポリアリーレンスルフィドを含有する樹脂組成物を用いて、低温の金型温度で射出成形することにより得られる充分な結晶化度と表面光沢を有し、機械的物性にも優れ、バリの発生が抑制された成形体を提供することにある。
【0008】
本発明者らは、前記従来技術の問題点を克服するために鋭意研究した結果、PASに劈開性無機充填材を特定の割合で配合し、さらに好ましくは、その他の充填材、特に好ましくは繊維状充填材を配合した樹脂組成物を用いて、120℃以下の金型温度で金型内に射出成形することにより、X線を用いて測定した成形体表面の結晶化指数が23%以上の充分な結晶化度と表面光沢を有し、機械的物性にも優れ、しかもバリの発生が大幅に抑制された成形体の得られることを見いだした。
劈開性充填材としては、23℃、空気中で測定した摩擦係数が0.4以下のものが好ましく、その中でも、窒化ホウ素及び黒鉛が特に好ましいことを見いだした。
本発明は、これらの知見に基づいて完成するに至ったものである。
【0009】
【課題を達成するための手段】
本発明によれば、ポリアリーレンスルフィド(A)30〜98重量%、窒化ホウ素及び黒鉛からなる群より選ばれる少なくとも1種の劈開性無機充填材(B)2〜50重量%、及びその他の充填材(C)0〜68重量%を含有する樹脂組成物を90〜120℃の金型温度で金型内に射出成形することを特徴とする、表面光沢度が80%以上かつX線を用いて測定した成形体表面の結晶化指数が23%以上であるポリアリーレンスルフィド成形体の製造方法が提供される。
また、本発明によれば、ポリアリーレンスルフィドと充填材とを含有する樹脂組成物を射出成形してなるポリアリーレンスルフィド成形体において、ポリアリーレンスルフィド(A)30〜98重量%、窒化ホウ素及び黒鉛からなる群より選ばれる少なくとも1種の劈開性無機充填材(B)2〜50重量%、及びその他の充填材(C)0〜68重量%を含有する樹脂組成物を90〜120℃の金型温度で金型内に射出成形することにより得られる、表面光沢度が80%以上かつX線を用いて測定した成形体表面の結晶化指数が23%以上であることを特徴とするポリアリーレンスルフィド成形体が提供される。
【0010】
【発明の実施の形態】
ポリアリーレンスルフィド(PAS)
本発明で使用するPASとは、式[−Ar−S−](ただし、−Ar−はアリーレン基である。)で表されるアリーレンスルフィドの繰り返し単位を主たる構成要素とする芳香族ポリマーである。[−Ar−S−]を1モル(基本モル)と定義すると、本発明で使用するPASは、この繰り返し単位を通常50モル%以上、好ましくは70モル%以上、より好ましくは90モル%以上含有するポリマーである。
アリーレン基としては、例えば、p−フェニレン基、m−フェニレン基、置換フェニレン基(置換基は、好ましくは炭素数1〜6のアルキル基、またはフェニル基である。)、p,p′−ジフェニレンスルホン基、p,p′−ビフェニレン基、p,p′−ジフェニレンカルボニル基、ナフチレン基などを挙げることができる。PASとしては、主として同一のアリーレン基を有するポリマーを好ましく用いることができるが、加工性や耐熱性の観点から、2種以上のアリーレン基を含んだコポリマーを用いることもできる。
【0011】
これらのPASの中でも、p−フェニレンスルフィドの繰り返し単位を主構成要素とするPPSが、加工性に優れ、しかも工業的に入手が容易であることから特に好ましい。この他に、ポリアリーレンケトンスルフィド、ポリアリーレンケトンケトンスルフィドなどを使用することができる。コポリマーの具体例としては、p−フェニレンスルフィドの繰り返し単位とm−フェニレンスルフィドの繰り返し単位を有するランダムまたはブロックコポリマー、フェニレンスルフィドの繰り返し単位とアリーレンケトンスルフィドの繰り返し単位を有するランダムまたはブロックコポリマー、フェニレンスルフィドの繰り返し単位とアリーレンケトンケトンスルフィドの繰り返し単位を有するランダムまたはブロックコポリマー、フェニレンスルフィドの繰り返し単位とアリーレンスルホンスルフィドの繰り返し単位を有するランダムまたはブロックコポリマーなどを挙げることができる。これらのPASは、結晶性ポリマーであることが好ましい。また、PASは、靭性や強度などの観点から、直鎖状ポリマーであることが好ましい。
このようなPASは、極性溶媒中で、アルカリ金属硫化物とジハロゲン置換芳香族化合物とを重合反応させる公知の方法(例えば、特公昭63−33775号公報)により得ることができる。
【0012】
アルカリ金属硫化物としては、例えば、硫化リチウム、硫化ナトリウム、硫化カリウム、硫化ルビジウム、硫化セシウムなどを挙げることができる。反応系中で、NaSHとNaOHを反応させることにより生成させた硫化ナトリウムなども使用することができる。
ジハロゲン置換芳香族化合物としては、例えば、p−ジクロロベンゼン、m−ジクロロベンゼン、2,5−ジクロロトルエン、p−ジブロムベンゼン、2,6−ジクロロナフタリン、1−メトキシ−2,5−ジクロロベンゼン、4,4′−ジクロロビフェニル、3,5−ジクロロ安息香酸、p,p′−ジクロロジフェニルエーテル、4,4′−ジクロロジフェニルスルホン、4,4′−ジクロロジフェニルスルホキシド、4,4′−ジクロロジフェニルケトンなどを挙げることができる。これらは、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0013】
PASに多少の分岐構造または架橋構造を導入するために、1分子当たり3個以上のハロゲン置換基を有するポリハロゲン置換芳香族化合物を少量併用することができる。ポリハロゲン置換芳香族化合物の好ましい例としては、1,2,3−トリクロロベンゼン、1,2,3−トリブロモベンゼン、1,2,4−トリクロロベンゼン、1,2,4−トリブロモベンゼン、1,3,5−トリクロロベンゼン、1,3,5−トリブロモベンゼン、1,3−ジクロロ−5−ブロモベンゼンなどのトリハロゲン置換芳香族化合物、及びこれらのアルキル置換体を挙げることができる。これらは、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて使用することができる。これらの中でも、経済性、反応性、物性などの観点から、1,2,4−トリクロロベンゼン、1,3,5−トリクロロベンゼン、及び1,2,3−トリクロロベンゼンがより好ましい。
極性溶媒としては、N−メチル−2−ピロリドン(以下、NMPと略記)などのN−アルキルピロリドン、1,3−ジアルキル−2−イミダゾリジノン、テトラアルキル尿素、ヘキサアルキル燐酸トリアミドなどに代表されるアプロチック有機アミド溶媒が、反応系の安定性が高く、高分子量のポリマーが得やすいので好ましい。
【0014】
PASの分子量は、特に限定されず、低分子量のものから高分子量のものまで使用することができる。310℃、剪断速度1200/秒で測定したPASの溶融粘度は、通常5〜600Pa・s、好ましくは10〜400Pa・s、より好ましくは20〜300Pa・sである。本発明では、比較的高分子量したがって高溶融粘度のPASを用いても、射出成形性を改善することができるが、充填材を高充填する場合には、溶融粘度が比較的小さいPASを用いることが、射出成形時の溶融流動性の観点から好ましい。
また、PASは、示差走査熱量計(DSC)により降温速度10℃/分で測定した降温結晶化温度(Tc2)が通常235℃、好ましくは240℃以上であることが望ましい。降温結晶化温度が低いと、低温金型を用いて射出成形により良好な表面性を有する成形体を得ることが困難である。
【0015】
劈開性無機充填材
本発明で使用する劈開性無機充填材は、ある一定方向に容易に割れて平滑な面すなわち劈開面を作ることができる無機充填材である。劈開性無機充填材は、c軸方向に対して垂直方向に層構造を有しており、剪断力をかけると、結晶のc軸に対して垂直方向に容易に劈開する。本発明で使用する劈開性無機充填材としては、c軸方向に対して垂直方向に層構造を有しており、かつ、その層間の相互作用が小さく、剪断力をかけると容易に劈開するものが好ましい。
【0016】
PAS(PAS樹脂組成物を含む)を射出成形する場合、溶融状態のPASを高温に保持した金型内に射出する。その際、金型内での剪断流動、特に金型の内表面での剪断流動により、PASは配向し、そして、配向誘起結晶化により結晶化が促進される。しかし、金型温度が通常よりも低い場合、金型内でPAS表面は急激に冷却され、結晶化するのに充分な時間的余裕がないため、結晶化が進行しない。従来、このような状況を改善するために、燐酸エステルのような可塑剤をPASに添加することが提案されている。PAS樹脂に可塑剤を添加すると、分子鎖の易動度が向上することにより、ガラス転移温度、冷結晶化温度が低下し、PASが結晶化及び配向し易くなると推定される。しかし、このような有機化合物は、射出成形時の高温に対して熱的に耐えられない。また、少量の核剤を添加して、結晶化の促進を図っても、このような状況を改善するだけの充分な効果が望めない。
【0017】
そこで、本発明者らは、射出成形時の金型内でのPASの結晶化速度を飛躍的に向上させる方法について、種々検討を行った。その結果、劈開性無機充填材を組成物全量基準で2〜50重量%の割合で含有させることにより、金型温度を低くしても、金型の内表面でPASが配向し易くなり、そして、PASの配向に起因する配向誘起結晶化の速度が促進され、ひいては、PASの結晶化速度が顕著に向上することを見いだした。より具体的には、劈開性充填材は、その劈開性により、該劈開性充填材を配合したPAS樹脂組成物の金型内表面での剪断流動性を向上させて、PASを配向し易くする作用を示し、それによって、配向誘起結晶化を促進し、飛躍的に結晶化速度を向上させると推定される。劈開性無機充填材は、熱的に安定であり、PASの溶融温度以上の高温に曝された後も、揮散や分解を起こすことなく、安定的に前記の如き作用を行うことができる。
【0018】
本発明で使用する劈開性無機充填材の具体例としては、窒化ホウ素及び黒鉛が挙げられる。これらは、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて使用することができる。窒化ホウ素及び黒鉛は、比較的少量で目的の効果を得ることができる。この理由は、窒化ホウ素及び黒鉛は、高温でも摩擦係数が小さいこと、そして、PASとの親和性(フィッティング)が良いことが考えられる。窒化ホウ素や黒鉛は、c軸に垂直方向の平面内で原子が六角形状に配置しており、この配置が結晶学的にみてPASの原子配置に似ているために、フィッティングが良いと考えられる。窒化ホウ素及び黒鉛は、PASの結晶核剤としての効果も良好である。ただし、窒化ホウ素は、硬いため、配合量が増すと、金型を痛めたり、成形体の機械的強度を下げることがある。劈開性無機充填材として黒鉛を使用すると、低温金型での射出成形が可能になるばかりでなく、衝撃強度等の靭性低下の非常に小さい組成物を得ることができる。
【0019】
劈開性無機充填材は、金型内でのPAS樹脂組成物の流動性を向上させるためには、23℃、空気中で測定した摩擦係数が0.4以下のものであることが好ましい。劈開性無機充填材の摩擦係数が0.4を越えると、低温金型での射出成形に際し、劈開性が不充分となり、結晶化速度の向上効果が充分ではなくなるおそれがある。劈開性無機充填材の平均粒径は、200μm以下であることが好ましい。劈開性無機充填材の平均粒径が大きすぎると、成形体の表面性を悪化させるおそれがある。平均粒径は、走査型電子顕微鏡(SEM)写真を使用して測定することができる。
【0020】
その他の充填材
本発明においては、PASに対して、劈開性無機充填材と共に、その他の充填材を配合することができる。その他の充填材は、一般に、機械的強度、耐熱性、寸法安定性、電気的性質等の諸特性に優れた成形体を得る目的で用いられる。したがって、その他の充填材の種類及び配合割合は、これらの目的に応じて、適宜選択される。
その他の充填材としては、例えば、ガラス繊維、炭素繊維、アスベスト繊維、シリカ繊維、アルミナ繊維、ジルコニア繊維、窒化硼素繊維、窒化珪素繊維、硼素繊維、チタン酸カリ繊維などの無機質繊維状物;ステンレス、アルミニウム、チタン、銅、真鍮などの金属繊維状物;ポリアミド、フッ素樹脂、ポリエステル樹脂、アクルリ樹脂などの高融点有機質繊維状物質;などの繊維状充填材を挙げることができる。
【0021】
また、その他の充填材としては、例えば、シリカ、アルミナ、カオリン、硫酸カルシウム、炭酸カルシム、酸化チタン、カーボンブラック、グラファイト、フェライト、ガラス粉、酸化亜鉛、炭酸カルシウム、炭酸ニッケル、酸化チタン、酸化鉄、石英粉末、炭酸マグネシウム、硫酸バリウムなどの非繊維状(粒状または粉末状)充填材が挙げられる。
これらの充填材は、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて使用することができる。また、その他の充填材は、必要に応じて、集束剤や表面処理剤により処理されたものであってもよい。集束剤または表面処理剤としては、例えば、エポキシ系化合物、イソシアネート系化合物、シラン系化合物、チタネート系化合物などの官能性化合物が挙げられる。これらの化合物は、予め表面処理または集束処理を施して用いるか、あるいは材料調製の際に、同時に添加してもよい。その他の充填材としては、機械的強度や寸法安定性などの観点から、ガラス繊維などの繊維状充填材が好ましい。
【0022】
その他の配合剤
本発明で使用する樹脂組成物には、所望により、その他の熱可塑性樹脂を配合することができる。その他の熱可塑性樹脂としては、PASが溶融加工される高温条件下において安定な熱可塑性樹脂が好ましい。熱可塑性樹脂の具体例としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等の芳香族ポリエステル、ポリアセタール、ポリスチレン、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリフェニレンエーテル、ポリアルキルアクリレート、ABS、ポリ塩化ビニル、テトラフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン共重合体、テトラフルオロエチレン/パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体、ポリクロロトリフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、ポリフッ化ビニリデン/ヘキサフルオロプロピレン共重合体、プロピレン/テトラフルオロエチレン共重合体、フッ化ビニリデン/クロロトリフルオロエチレン共重合体、エチレン/ヘキサフルオロプロピレン共重合体等のフッ素樹脂を挙げることができる。これらの熱可塑性樹脂は、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0023】
また、本発明で使用する樹脂組成物には、必要に応じて、エポキシ基含有α−オレフィン系共重合体などの耐衝撃性改質剤、アミノアルコキシシラン化合物などのシランカップリング剤、エチレングリシジルメタクリレートなどの樹脂改良剤;ペンタエリスリトールテトラステアレートなどの滑剤;熱硬化性樹脂;酸化防止剤、紫外線吸収剤などの安定剤;ボロンナイトライドなどの核剤;難燃剤;染料や顔料等の着色剤;などを配合することができる。
【0024】
樹脂組成物
本発明で使用する樹脂組成物は、PAS(A)30〜98重量%、好ましくは30〜78重量%、より好ましくは40〜70重量%、劈開性無機充填材(B)2〜50重量%、好ましくは2〜40重量%、より好ましくは2〜30重量%、及びその他の充填材(C)0〜68重量%、好ましくは20〜68重量%、より好ましくは28〜58重量%を含有するPAS樹脂組成物である。
劈開性無機充填材の配合割合が2重量%未満であると、劈開性無機充填材による配向誘起結晶化の促進効果が小さく、充分な結晶化度と表面光沢に優れた成形体を得ることができない。劈開性無機充填材の配合割合が大きすぎると、成形体の機械的物性が低下する。その他の充填材の配合割合が大きすぎると、射出成形性に問題が生じるほか、成形体の機械的強度が低下することがある。低温金型での射出成形性と、曲げ弾性率、曲げ強度、曲げたわみ、引張強度、引張伸度などの機械的物性とのバランスの観点から、各成分の配合割合は、前記の好ましい範囲内、さらには、より好ましい範囲内にあることが望ましい。
【0025】
各成分を含有する樹脂組成物は、一般に合成樹脂組成物の調製に用いられる設備と方法により調製することができる。すなわち、必要な成分を混合し、1軸または2軸の押出機を使用して混練し、押し出して成形用ペレットとすることができる。必要成分の一部をマスターバッチとして混合し、成形する方法、また、各成分の分散混合を良くするために、使用する原料の一部を粉砕し、粒径を揃えて混合し、溶融押し出しすることなどもできる。
本発明の製造方法では、前記樹脂組成物を120℃以下の金型温度で金型内に射出成形する。金型温度は、90〜120℃、好ましくは100〜115℃、より好ましくは100〜110℃である。
【0026】
本発明の樹脂組成物を使用すると、120℃以下の金型温度の低温金型内に射出成形しても、PASの射出成形において一般に採用されている130℃以上、多くの場合140℃以上の金型温度で射出成形した場合に匹敵する結晶化度と表面光沢度とを有する成形体を得ることができる。
すなわち、前記樹脂組成物を120℃以下の金型温度で金型内に射出成形することにより、X線を用いて測定した成形体表面の結晶化指数が23%以上、好ましくは25%以上、より好ましくは30%の高い結晶化度の成形体を得ることができる。また、本発明の製造方法によれば、表面光沢度(Gloss)が50%以上、好ましくは60%以上、より好ましくは70%以上、最も好ましくは80%以上の表面光沢度を有する成形体を得ることができ、この成形体は、目視判定でも表面性に優れている。
【0027】
本発明の成形体は、成形体の表層部において、劈開性無機充填材(B)が下記式(1)で表される配向度(S)が1.2以上で、成形体表面の面方向に沿って配向していることが好ましい。
S=Imold/(I0×Rf) (1)
I0:劈開性無機充填材単体の無配向下での結晶に特有のピークのX線強度
Imold:劈開性無機充填材を含んだ成形体の、上記I0を求めたピークと同位置の2θのX線強度
Rf:組成物中の劈開性無機充填材の分率
【0028】
【実施例】
以下に実施例、参考例及び比較例を挙げて、本発明についてより具体的に説明するが、本発明は、これらの実施例のみに限定されるものではない。
物性の測定法は、以下に示すとおりである。
〈測定法〉
(1)溶融粘度
キャピログラフ1C(東洋精機社製)により、長さ10mm、径1mmのキャピラリーを用いて、温度310℃、剪断速度1200/秒の条件で測定した。
(2)ガラス転移温度(Tg)、及び降温結晶化温度(Tc2)
樹脂試料10mgを2枚のアルミニウム箔の間に挟み、熱プレス機を用いて、320℃に加熱し、約30秒間保持して樹脂を溶融させた後、厚さ0.5mmのシートになるように加圧した。加圧して得たシートを氷水で急冷して、非晶のシート状サンプルを得た。シート状サンプル5mgを切り出し、示差走査熱量計(DSC)による測定用サンプルとした。DSCとしてパーキンエルマー社製DSC7を用い、サンプルを、窒素雰囲気下、昇温速度10℃/分で340℃まで昇温し、その際の熱的転移温度を測定した。得られたDSCチャートから、昇温過程での吸熱二次転移点を読み取ってガラス転移温度(Tg)とした。
溶融押出により得られたペレット状物を310℃でホットプレスした後、急冷して得たシートについて、DSCを用い、窒素雰囲気中、30℃で3分間保持した後、10℃/分の速度で340℃まで昇温し、340℃で5分間保持した後、10℃/分の速度で降温し、得られたDSCチャートから発熱ピークの温度を読み取り降温結晶化温度(TC2)とした。
【0029】
(3)結晶化指数
結晶化指数は、結晶化度に比例する値であり、X線回折測定により求めることができる。結晶化指数は、D.G.Bradyの方法〔Journal of Applied Polymer Science, VOL.20,2541−2551(1976)〕に従って計算した。すなわち、結晶化指数Ciは、次式により算出することができる。
Ci=〔Acryst/(Acryst+Aamorp)〕×100
Aamorp:非晶サンプルのX線チャートの面積(回折曲線の下部面積)
Acryst:結晶化サンプルのX線チャートの面積(回折曲線の下部面積)
この計算を、2θ=17〜23°の範囲で算出し、結晶化指数とした。
(4)表面状態
射出成形して得られた試験片について、目視により表面状態を観察し、以下の基準で表面性を判断した。
◎:表面全体の光沢に優れている、
○:表面全体の光沢が良好である、
△:表面光沢がある、
×:表面光沢がない。
【0030】
(5)表面光沢度
東京電色社製のGloss MeterモデルTG−PDを用いて、成形体表面の60°の入射光に対する反射のGloss測定値を表面光沢度とした。
(6)摩擦係数
劈開性無機充填材の摩擦係数は、23℃、空気中で、鉄製定盤上に劈開性無機充填材をのせ、その上に鉄製のブロックを置いて荷重を加え、次いで、鉄製ブロックを一定方向に一定速度で移動させ、そのときの摩擦力Fと垂直荷重との比から算出した。
(7)配向度
劈開性無機充填材由来の結晶のX線回折測定におけるピークの強度比から、次式に基づいて配向度を算出した。
S=Imold/(I0×Rf) (1)
I0 :劈開性無機充填材単体の無配向下での結晶に特有のピークのX線強度
Imold:劈開性無機充填材を含んだ成形体の、上記I0を求めたピークと同位置の2θのX線強度
Rf :組成物中の劈開性無機充填材の分率
ここでは、窒化ホウ素の場合は、2θ=26.5度、タルクの場合は、2θ=28.7度のピークの強度比から求めた。
【0031】
(8)引張物性(引張強度及び引張伸度)
溶融押出により作製したペレット状物を用いて、射出成形により試験片を作成し、ASTM−D638に準拠して、標点間距離50mm、クロスヘッド速度5mm/分で、引張強度及び引張伸度を測定した。
(9)曲げ弾性率、曲げ強度、及び曲げたわみ
溶融押出により作製したペレット状物を用いて、射出成形により試験片を作成し、ASTM−D790に準拠して測定した。
(10)Izod衝撃強度(V/N及びR/N)
溶融押出により作製したペレット状物を用いて、射出成形により試験片を作成し、ASTM−D256に準拠して測定した(Vノッチ)。反ノッチ側の衝撃強度(Rノッチ)は、反ノッチ方向から打撃し、ASTM−D256と同様の計算方法で算出した。
(11)バリ評価方法
溶融押出により得られたペレット状物を用いて、直径70mm、厚さ3mmのキャビティを有する金型内に、完全に樹脂組成物が充填される最小の充填圧力で射出成形し、金型の円周部に設けられた厚さ20μm、幅5mmの隙間(バリ評価スリット)に生じるバリの長さを、拡大投影機を用いて測定した。
【0032】
[合成例1]ポリマーA 1
重合缶に、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)720kgと46.21重量%の硫化ナトリウム(Na2S)を含む硫化ナトリウム5水塩420kgを仕込み、窒素ガスで置換後、撹拌しながら徐々に200℃まで昇温して水157kgを留出させた。この時、62モルの硫化水素(H2S)が揮散した。
脱水工程後、重合缶にp−ジクロロベンゼン(pDCB)374kgとNMP189kgとを加え、撹拌しながら220℃で4.5時間反応させた。その後、撹拌を続けながら水49kgを圧入し、次いで、255℃に昇温して5時間反応させた。反応終了後、室温付近まで冷却してから、内容物を100メッシュのスクリーンに通して粒状ポリマーを篩分し、アセトン洗2回、さらに水洗3回を行い、洗浄ポリマーを得た。この洗浄ポリマーを3%塩化アンモニウム水溶液で洗浄した後、水洗を行った。脱水後、回収した粒状ポリマーを105℃で3時間乾燥した。このようにして得られたポリマー(ポリマーA1)の収率は93%であり、ガラス転移温度(Tg)は86℃で、溶融粘度は28Pa・sであった。
【0033】
[合成例2]ポリマーA 2
合成例1と同様にして、重合缶にNMP720kg及び硫化ナトリウム5水塩420kgを仕込み、脱水を行ったところ、水160kgと硫化水素62モルが溜出した。次に、pDCB364kgとNMP250kgを加え、撹拌しながら220℃で4.5時間反応させた後、撹拌を続けながら水59kgを圧入し、次いで、255℃に昇温して5時間反応させた。反応終了後、合成例1と同様にして、生成ポリマーの後処理を行った。得られたポリマー(ポリマーA2)の収率は89%であり、ガラス転移温度(Tg)は88℃で、溶融粘度は140Pa・sであった。
【0034】
[実施例1]
合成例1で作成したPPS(ポリマーA1)55重量%、窒化ホウ素〔信越化学製KBN(H)−S;平均粒径0.6μm〕5重量%、及びガラス繊維(日本電気硝子社製;直径13μm)40重量%をドライブレンドし、2軸混練機(シリンダー温度310℃)を用いて、溶融混練した後、ペレット化した。このペレットを射出成形機(東芝機械製IS−75)を用いて射出成形を行った。シリンダー温度は310℃、金型温度(実温)は110℃、射出時間10秒間、冷却時間15秒間で、試験片を成形した。
試験片の表面の結晶化指数は、X線回折測定によれば、35%であった。目視で表面光沢を観察したところ、表面全体に光沢があり、かつ、優れた光沢であった。試験片の配向度は1.4(2θ=26.5)であった。試験片の機械的物性を評価したところ、表2に示すように、曲げ弾性率が大きく、良好な機械的特性を示した。組成及び結果を表1及び表2に示す。
【0035】
[比較例1]
合成例1で作成したPPS(ポリマーA1)60重量%、及びガラス繊維(日本電気硝子社製;直径13μm)40重量%をドライブレンドし、実施例1と同様に溶融混練し、ペレット化した後、同様に110℃の金型温度で射出成形して試験片を作製し、評価した。試験片の表面の結晶化指数をX線を用いて測定したところ、0%であり、結晶化していなかった。また、目視で表面光沢を評価したところ、光沢部分は全く見られなかった。
【0036】
[比較例2]
合成例1で作成したPPS(ポリマーA1)60重量%、及びガラス繊維(日本電気硝子社製;直径13μm)40重量%をドライブレンドし、実施例1と同様に溶融混練し、ペレット化した。このペレットを射出成形機(東芝機械製IS−75)を用いて射出成形を行った。シリンダー温度は310℃、金型温度(実温)は140℃、射出時間10秒間、冷却時間15秒間で、試験片を成形した。試験片の表面の結晶化指数をX線を用いて測定したところ、35%であった。また、目視で表面光沢を評価したところ、表面はすべて光沢があった。
したがって、前記樹脂組成物は、140℃の高温金型を用いると良好な物性の成形体を与えることができるが、110℃の低温金型では、満足できる物性の成形体を得ることができない(比較例1と2との対比)。ただし、140℃の金型温度で射出成形して得られた成形体のバリ長は250mmと長かった。
【0037】
[実施例2]
合成例1で作成したPPS(ポリマーA1)55重量%、黒鉛(日本黒鉛製ACP−3000;平均粒径6μm)5重量%、及びガラス繊維(日本電気硝子社製;直径13μm)40重量%をドライブレンドし、実施例1と同様に溶融混練し、ペレット化した後、同様に110℃の金型温度で射出成形して試験片を作製し、評価した。試験片の表面の結晶化指数をX線を用いて測定したところ、31%であった。また、目視で表面光沢を評価したところ、表面全体に光沢があり、優れた光沢であった。機械物性を評価したところ、表2に見られるように曲げ弾性率も大きく、良好な機械的特性を示した。
【0038】
[実施例3]
合成例1で作成したPPS(ポリマーA1)55重量%、黒鉛(日本黒鉛製ACB−150;平均粒径100μm以下)5重量%、及びガラス繊維(日本電気硝子社製;直径13μm)40重量%をドライブレンドし、実施例1と同様に溶融混練して、ペレット化した後、同様に110℃の金型温度で射出成形して試験片を作製し、評価した。試験片の表面の結晶化指数をX線を用いて測定したところ、32%であった。また、目視で表面光沢を評価したところ、表面全体に光沢があり、優れた光沢であった。また、機械物性を評価したところ、表2に見られるように曲げ弾性率も大きく、良好な機械的特性を示した。
【0039】
[実施例4]
合成例1で作成したPPS(ポリマーA1)55重量%、黒鉛(日本黒鉛製F#2−F;平均粒径150μm)5重量%、及びガラス繊維(日本電気硝子社製;直径18μm)40重量%をドライブレンドし、実施例1と同様に溶融混練して、ペレット化した後、同様に110℃の金型温度で射出成形して試験片を作製し、評価した。試験片の表面の結晶化指数をX線を用いて測定したところ、31%であった。また、目視で表面光沢を評価したところ、表面全体に光沢があり、優れた光沢であった。機械物性を評価したところ、表2に見られるように曲げ弾性率も大きく、良好な機械的特性を示した。
【0040】
[参考例1]
合成例1で作成したPPS(ポリマーA1)50重量%、タルク(松村産業株式会社クラウンタルク;平均粒径1μm)10重量%、及びガラス繊維(日本電気硝子社製;直径13μm)40重量%をドライブレンドし、実施例1と同様に溶融混練して、ペレット化した後、同様に110℃の金型温度で射出成形して試験片を作製し、評価した。試験片の表面の結晶化指数をX線を用いて測定したところ、28%であった。また、目視で表面光沢を評価したところ、実施例1に比べてやや劣るものの、表面全体に光沢があり、良好であった。
【0041】
[参考例2]
合成例1で作成したPPS(ポリマーA1)45重量%、タルク(松村産業株式会社クラウンタルク;平均粒径11μm)15重量%、及びガラス繊維(日本電気硝子社製;直径13μm)40重量%をドライブレンドし、実施例1と同様に溶融混練し、ペレット化した後、同様に110℃の金型温度で射出成形して試験片を作製し、評価した。試験片の表面の結晶化指数をX線を用いて測定したところ、31%であった。試験片の配向度は4.2(2θ=28.7)であった。また、目視で表面光沢を評価したところ、実施例1に比べてやや劣るものの、表面全体に光沢があり、良好であった。
【0042】
[参考例3]
合成例1で作成したPPS(ポリマーA1)55重量%、硫化モリブデン(大阪造船所製T−Powder;平均粒径4.5μm)を5重量%、及びガラス繊維(日本電気硝子社製;直径13μm)40重量%をドライブレンドし、実施例1と同様に溶融混練して、ペレット化した後、同様に110℃の金型温度で射出成形して試験片を作製し、評価した。試験片の表面の結晶化指数をX線を用いて測定したところ、25%であった。また、目視で表面光沢を評価したところ、実施例1に比べて劣るものの、表面全体に光沢があった。
【0043】
[実施例5]
合成例2で作成したPPS(A2)55重量%、窒化ホウ素(信越化学製KBN(H)−S;平均粒径0.6μm)5重量%、及びガラス繊維(日本電気硝子社製;直径13μm)40重量%をドライブレンドし、実施例1と同様に溶融混練して、ペレット化した後、同様に110℃の金型温度で射出成形して試験片を作製し、評価した。試験片の表面の結晶化指数をX線を用いて測定したところ、33%であった。また、目視で表面光沢を評価したところ、表面全体に光沢があり、優れた光沢であった。
【0044】
[実施例6]
合成例1で作成したPPS(ポリマーA1)58重量%、黒鉛(日本黒鉛製ACP−3000;平均粒径6μm)2重量%、及びガラス繊維(日本電気硝子社製;直径13μm)40重量%をドライブレンドし、実施例1と同様に溶融混練し、ペレット化した後、同様に110℃の金型温度で射出成形して試験片を作製し、評価した。試験片の表面の結晶化指数をX線を用いて測定したところ、31%であった。また、目視で表面光沢を評価したところ、表面全体に光沢があり、優れた光沢であった。機械物性を評価したところ、表2に見られるように曲げ弾性率も大きく、良好な機械的特性を示した。
【0045】
[比較例3]
合成例1で作成したPPS(ポリマーA1)59重量%、黒鉛(日本黒鉛製ACP−3000;平均粒径6μm)1重量%、及びガラス繊維(日本電気硝子社製;直径13μm)40重量%をドライブレンドし、実施例1と同様に溶融混練し、ペレット化した後、同様に110℃の金型温度で射出成形して試験片を作製し、評価した。試験片の表面の結晶化指数をX線を用いて測定したところ、20%であった。また、目視で表面光沢を評価したところ、表面に光沢がなかった。
【0046】
[比較例4]
実施例2と同じ樹脂組成物を140℃の金型温度で射出成形したこと以外は、実施例1と同様にして試験片を作製し、評価した。得られた試験片は、表面光沢に優れていたが、バリ長が200mmと長く、好ましくなかった。
【0047】
【表1】
【0048】
脚注:
(*1)PPS;Tg=86℃、溶融粘度=28Pa・s
(*2)PPS;Tg=88℃、溶融粘度=140Pa・s
(*3)信越化学製KBN(H)−S;平均粒径=0.6μm
(*4)日本黒鉛製ACP−3000;平均粒径=6μm
(*5)日本黒鉛製ACB−150;平均粒径=100μm以下
(*6)日本黒鉛製F#2−F;平均粒径=150μm
(*7)松村産業株式会社クラウンタルク;平均粒径=1μm
(*8)大阪造船所製T−Powder;平均粒径=4.5μm
(*9)日本電気硝子社製ガラス繊維;直径=13μm
(*10)日本電気硝子社製ガラス繊維;直径=18μm
【0049】
【表2】
【0050】
【発明の効果】
本発明によれば、ポリアリーレンスルフィドを含有する樹脂組成物を用いて、従来よりも低温の金型温度で金型内に射出成形した場合に、充分な結晶化度と表面光沢を有し、機械的物性にも優れ、しかもバリの発生が抑制された成形体を与えることができる成形体の製造方法が提供される。
Claims (9)
- ポリアリーレンスルフィド(A)30〜98重量%、窒化ホウ素及び黒鉛からなる群より選ばれる少なくとも1種の劈開性無機充填材(B)2〜50重量%、及びその他の充填材(C)0〜68重量%を含有する樹脂組成物を90〜120℃の金型温度で金型内に射出成形することを特徴とする、表面光沢度が80%以上かつX線を用いて測定した成形体表面の結晶化指数が23%以上であるポリアリーレンスルフィド成形体の製造方法。
- ポリアリーレンスルフィド(A)が、ポリフェニレンスルフィドである請求項1記載の製造方法。
- 310℃、剪断速度1200/秒で測定したポリアリーレンスルフィド(A)の溶融粘度が5〜600Pa・sの範囲である請求項1または2記載の製造方法。
- 示差走査熱量計により降温速度10℃/分で測定したポリアリーレンスルフィド(A)の降温結晶化温度(Tc2)が240℃以上である請求項1ないし3のいずれか1項に記載の製造方法。
- 23℃、空気中で測定した劈開性無機充填材(B)の動摩擦係数が0.4以下である請求項1ないし4のいずれか1項に記載の製造方法。
- 劈開性無機充填材(B)の平均粒径が200μm以下である請求項1ないし5のいずれか1項に記載の製造方法。
- その他の充填材(C)が、繊維状充填材である請求項1ないし6のいずれか1項に記載の製造方法。
- ポリアリーレンスルフィドと充填材とを含有する樹脂組成物を射出成形してなるポリアリーレンスルフィド成形体において、ポリアリーレンスルフィド(A)30〜98重量%、窒化ホウ素及び黒鉛からなる群より選ばれる少なくとも1種の劈開性無機充填材(B)2〜50重量%、及びその他の充填材(C)0〜68重量%を含有する樹脂組成物を90〜120℃の金型温度で金型内に射出成形することにより得られる、表面光沢度が80%以上かつX線を用いて測定した成形体表面の結晶化指数が23%以上であることを特徴とするポリアリーレンスルフィド成形体。
- 成形体の表層部において、劈開性無機充填材(B)が下記式(1)で表される配向度(S)が1.2以上で、成形体表面の面方向に沿って配向している請求項8記載の成形体。
S=Imold/(I0×Rf) (1)
I0:劈開性無機充填材単体の無配向下での結晶に特有のピークのX線強度
Imold:劈開性無機充填材を含んだ成形体の、上記I0を求めたピークと同位置の2θのX線強度
Rf:組成物中の劈開性無機充填材の分率
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