JP3862842B2 - スラスト軸受 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
この発明は、例えば、自動車のオートマチックトランスミッションの軸をアキシャル方向に支えるスラストニードル軸受に代表されるように、アキシャル荷重が作用する軸を支持するスラスト軸受に関する。
【0002】
【従来の技術と発明が解決しようとする課題】
図4は、自動車のオートマチックトランスミッションの軸12をアキシャル方向に支えるスラストニードル軸受を示す。この軸受Jの場合、軸12のギヤ12bにトルクが作用したときのみハスバ歯車によるアキシャル方向の荷重FA が発生する。ギヤ12bにトルクがかかっていないときは、軸端面12aと軸受回転輪2の背面とは、隙間dを生じていて、無負荷の状態となる。そのような場合、軸端側の軸受軌道輪である回転輪2は、反ギヤ側軸11とそれに設置された軸受軌道輪である固定輪1との間のラジアル方向の隙間C2(図5)、および軸受内のラジアル隙間C1(=C1a +C1b )分の偏心量Cだけ偏心した位置に存在している。図4、図5において、O12は軸12の中心、O2 は回転輪12の中心をそれぞれ示す。
この状態から、ギヤ軸12にトルクが作用し、アキシャル方向の荷重FA が軸12から軸受回転輪2に伝達されると、偏心していた回転輪2は調心作用を受け、ギヤ軸12の回転中心O12方向へ調心する。その際、回転輪2と固定輪1の間に、保持器3が挟まれ、保持器3に大きな力が作用し、保持器の長寿命化が難しくなる。
【0003】
この発明は上記課題を解消するものであり、アキシャル方向の荷重が断続して作用する使用形態の場合に、保持器に作用する調心作用時の径方向荷重を軽減でき、保持器の長寿命化が図れるスラスト軸受を提供することを目的とする。
【0004】
【課題を解決するための手段】
この発明のスラスト軸受は、対面する一対の軌道輪の間に、保持器に保持された転動体が介在し、かつ前記両軌道輪の径方向の相対移動により保持器を挟む構造のスラスト軸受において、前記一対の軌道輪の少なくとも一方における軸端面と接触する面に、潤滑油が溜まる動圧溝を形成したものである。
この構成の軸受によると、アキシャル方向の荷重が断続して作用する使用形態であって、軌道輪が停止時に各部の隙間等により偏心していた場合に、アキシャル荷重が軌道輪に作用して軌道輪が回転を生じる初期に、回転軸に対する軌道輪の調心作用が生じる。このとき、保持器は、両軌道輪の径方向の相対移動で挟まれ、また軌道輪と軸端面との間の摩擦力が調心作用を妨げるが、動圧溝により油膜が形成されて、回転初期の前記摩擦力が軽減される。そのため、調心作用が円滑に行われて、両軌道輪で保持器を径方向に挟む荷重が軽減される。そのため、保持器に無理な荷重が作用することが回避されて、保持器の疲労が軽減され、長寿命化が得られる。また、軸端面と軌道輪との間の摩擦力は、常時弱くて滑りを生じると新たな支障が生じるが、動圧溝によると、回転初期の調心作用が生じている僅かな時間のみ油膜を形成し、流体潤滑作用を作り出す。調心作用が終了する時点では、油膜形成力が失われ、軌道輪は軸端面と大きな摩擦力で結合する。そのため、軸端面と軌道輪間の滑りによる支障を生じることが避けられる。
【0006】
記動圧溝は、複数の同心円状の溝であっても良く、また軌道輪の半径方向に対して傾き角度を持つ複数の放射状の溝であっても良い。
【0007】
【発明の実施の形態】
この発明の一実施形態を図1と共に説明する。なお、従来例との作用の比較のため、図4以降に示した従来例と対応する部分に同一符号を付して説明する。このスラスト軸受は、スラストニードルころ軸受に適用したものであり、各々軌道輪である対面する固定輪1と回転輪2との間に、保持器3に保持された針状のころからなる転動体4を介在させて構成される。固定輪1は、保持器3の内径側に位置する環状突部1aを内径部に有し、回転輪2は保持器3の外径側に位置する環状突部2aを外径部に有している。保持器3は円周方向に並ぶ複数のポケットに転動体4を保持したものである。
固定輪1、回転輪2、および保持器3を同心に保った状態で、保持器3と固定輪1の環状突部1aとの間、および保持器3と回転輪2の環状突部2aとの間には径方向の隙間が生じる。したがって、この隙間の範囲内で固定輪1と回転輪2との径方向の相対移動が可能であり、この移動により、保持器3は固定輪1と回転輪2との環状突部1a,2a間で径方向に挟まれる。
【0008】
この基本構成の軸受において、この実施形態では、回転輪2の軸12の端面12aとの接触する面に、動圧溝5が形成してある。動圧溝5は、回転輪2の中心と同心の複数の同心円状の環状溝からなり、各動圧溝5は回転輪2の外径部付近と内径部付近に設けられている。
【0009】
なお、固定輪1、回転輪2、および保持器3は、旋削品であっても、図4の従来例に示すような金属板のプレス成形品であっても良い。
また、図1の使用形態において、固定輪1は、第1の軸11の小径の軸端部11aに内径面が遊嵌すると共に、背面が第1の軸11の段面に当接した状態に設置されている。第2の軸12は、第1の軸11と同心に配置された回転軸であり、常時は回転輪2から若干離れて位置し、あるいは回転輪2に軽い接触状態にあり、アキシャル荷重が作用した状態で、軸方向に若干移動して回転輪2に押し付け状態に接触する。同図において、符号O2 は回転輪2の中心を示し、符号O12は軸12の中心を示す。
【0010】
上記構成の作用を、図4以降に示した従来例と比較して説明する。図6は、図4に示す従来のスラストニードル軸受の回転輪2での測定データを示す。回転輪2は、重力方向に対して横軸で使用されるため、アキシャル荷重が作用していない状態では、隙間合計分だけ鉛直下方に偏心している。回転軸12にアキシャル荷重が作用して回転軸12が回転輪2を押圧しながら回転を始めると、その瞬間から調心作用が起こり、回転輪2を回転軸12の中心O12方向へ調心させる。このとき、回転輪2と固定輪1、および保持器3の間に幾何学的形状による干渉が生じる(図7)。すなわち、保持器3が回転輪2あるいは固定輪1にめり込むような状況となる。図7に斜線で示す範囲が干渉範囲aである。勿論、現実にはめり込むことはなく、回転輪2とこの回転輪2に接触する軸端面の間、または固定輪1とこの固定輪1に接触する軸端面の端で滑りを生じ、干渉分を吸収する。しかし、保持器3には上記の滑りによる摩擦力が作用反作用の法則により同様にかかることになる。図8において、矢印Fは保持器3に作用する荷重を示す。もし、摩擦力が大きければ、保持器3は回転が断続する回数だけその大きな荷重を受けることになり、保持器3の疲労を促進させることになる。
【0011】
これに対して、図1の実施形態のスラスト軸受では、回転輪2の軸端面2aと接触する面に動圧溝5が形成してあるため、前記の調心作用が生じる間だけ、油膜を形成し、回転輪2と軸端面12aとの間に流体潤滑状態を作りだす。このため、回転輪2と軸端面12aとの接触部で生じる摩擦力が軽減され、前記の調心作用が円滑に行われる。そのため、調心作用時に保持器3に両輪1,2で挟みこむように作用する大きな荷重が軽減され、保持器3の疲労が少なく、寿命が向上する。この場合に、前記の調心作用は、回転開始直後にその殆どを終了し、動圧溝5は、その調心作用が生じている僅かな時間のみ油膜を形成する。調心が終了する時点では、動圧溝5による油膜形成力は失われ、回転輪2は軸12の端面12aと大きな摩擦力で結合する。この作用は、軸受の回転輪2が軸端面12aと滑りを生じることにより発生する新たな支障を回避するために有効である。
【0012】
なお、回転輪2に設ける動圧溝5は、図1に示した同心円状のものに限らず、動圧により油膜を形成できる形状であれば良い。例えば、動圧溝5は、回転輪2の半径方向に対して傾き角度を持つ複数の放射状の溝としても良い。この放射状の溝は、スパイライ状の溝としても良い。図2の例では、複数本の同心円の環状溝5a,5bと、両溝5a,5b間に連通する放射状の溝5cと、外周側の環状溝5bから回転輪1の外径面まで延びる放射状の溝5dとで動圧溝5を形成している。各放射状の溝5c,5dは、スパイラル状とされていて、半径方向に対して傾き角度を持ち、互いに傾き方向が逆方向とされている。
これらの動圧溝5は、回転輪2だけでなく、固定輪1と回転輪2との両方に設けても良く、また固定輪1にだけ設けても良い。
また、前記実施形態では、スラストニードルころ軸受に適用した場合につき説明したが、この発明は、図3に示すようにスラスト玉軸受など、各種のスラスト軸受に適用することができる。図3の軸受は、図1の軸受において、ころからなる転動体4に代えてボールからなる転動体4Aを設けたものである。
さらに、前記各実施形態では、環状突部1a,2aを固定輪1および回転輪2に設けたが、前記実施形態とは逆に、保持器3の外径側に位置する環状突部を固定輪1に設け、内径側に位置する環状突部を回転輪に設けても良い。
【0013】
【発明の効果】
この発明のスラスト軸受は、一対の軌道輪の少なくとも一方における軸端面と接触する面に、潤滑油が溜まる動圧溝を形成したため、調心作用が生じる回転初期の段階のみ軸端面との摩擦力が軽減され、保持器に作用する無理な荷重が解消されて保持器の長寿命が得られる。また、通常回転時における軸端面と軌道輪との滑りを無くしてその滑りによる支障を避けることができる。
道輪に動圧溝を形成したものであるため、簡単な構成でありながら、前記の調心作用が生じる間のみ摩擦力を軽減する作用が良好に得られる。
【図面の簡単な説明】
【図1】(A)はこの発明の一実施形態にかかるスラスト軸受の断面図、(B)はその回転輪の背面図である。
【図2】この発明の他の実施形態にかかるスラスト軸受の回転輪の背面図である。
【図3】(A)はこの発明のさらに他の実施形態にかかるスラスト軸受の断面図、(B)はその回転輪の背面図である。
【図4】従来例の断面図である。
【図5】同従来例の図4と異なる動作状態の断面図である。
【図6】同従来例の調心動作の測定データを示すグラフである。
【図7】同従来例の調心時の保持器と軌道輪の干渉を示す作用説明図である。
【図8】同従来例の保持器に作用する荷重を示す説明図である。
【符号の説明】
1…固定輪(軌道輪)
1a…環状突部
2…回転輪(軌道輪)
2a…環状突部
3…保持器
4…転動体
5…動圧
1…第1の軸
12…第2の軸
12a…軸端面

Claims (3)

  1. 対面する一対の軌道輪の間に、保持器に保持された転動体が介在し、かつ前記両軌道輪の径方向の相対移動により保持器を挟む構造のスラスト軸受において、前記一対の軌道輪の少なくとも一方における軸端面と接触する面に、潤滑油が溜まる動圧溝を形成したスラスト軸受。
  2. 前記動圧溝が、複数の同心円状の溝である請求項1記載のスラスト軸受。
  3. 前記動圧溝が、軌道輪の半径方向に対して傾き角度を持つ複数の放射状の溝である請求項1記載のスラスト軸受。
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