JP3862224B2 - 車両の運転制御装置 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、車両の挙動を判定する車両挙動判定部、車両の挙動を安定にするための制御を行う電動パワーステアリング装置および制動力・駆動力制御手段からなる車両の運転制御装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
車両の挙動としては、ドライバのステアリング操作による実舵角(前輪の切れ角)に応じた旋回半径で旋回している状態(すなわち、前輪の滑り角と後輪の滑り角の角差が0[deg]の状態)であるニュートラルステア状態が理想であるが、実際には実舵角に対して旋回半径がずれてしまう。実舵角に対して旋回半径が大きい状態が、アンダステア状態であり、車両の挙動としては比較的安定している。そのため、一般に、車両は、弱アンダステアに設定されている。
しかしながら、車速が速い場合や路面の摩擦係数が低い場合等により横力が低下すると、アンダステア状態からドリフトアウト状態に移行する。ドリフトアウト状態は車両の挙動としては不安定であるので、車両の運転制御装置では、ドリフトアウト状態に極力ならないように制御するとともに、ドリフトアウト状態になった場合でも直ちに安定側に戻すように制御している。
一方、実舵角に対して旋回半径が小さい状態が、オーバステア状態であり、車両の挙動としては不安定である。そのため、車両の運転制御装置では、オーバステア状態に極力ならないように制御するとともに、オーバステア状態になった場合でも直ちに安定側に戻すように制御している。さらに、オーバステア状態が強くなった状態が、スピン状態であり、車両の挙動としては非常に不安定である。そこで、ドライバは、スピン状態を極力回避するために、オーバステア状態の傾向が強くなってくるとカウンタステア操作を行う場合がある。
【0003】
前記のような不安定な車両の挙動を安定側に戻すための車両の運転制御装置としては、電動パワーステアリング装置、駆動力配分装置、制動力配分装置等の様な装置がある。電動パワーステアリング装置は、補助トルクを変えることによってドライバにステアリングホイールを介して路面情報(路面反力)を伝達し、ドライバにステアリング操作によって車両の挙動を安定させることを促す。
一方、駆動力配分装置(または、制動力配分装置)は、左右輪の駆動力(または、制動力)の配分を変え、車両からの作用によって車両の挙動を安定させている。そして、このような駆動力配分装置(または、制動力配分装置)を搭載した車両には、左右輪の駆動力(または、制動力)差により、操舵力(旋回力)が発生する(トルクステア現象という)。
【0004】
例えば、特許文献1には、車両の挙動を正確に検出し、その検出した車両の挙動に応じて制御する車両挙動制御装置(特に、電動パワーステアリング装置)が開示されている。この電動パワーステアリング装置は、車両の実舵角を検出する実舵角検出手段と、車両の前輪の滑り角と後輪の滑り角の角差を推定する滑り角差推定手段とを備えており、ドライバから車両への入力である実舵角と車両からの出力である滑り角差により車両の挙動を検出している。そして、この電動パワーステアリング装置では、検出した車両の挙動に応じて補正量を設定し、この補正量により操舵トルクに応じた目標トルクを補正している。その結果、補正された補助トルクによってドライバにステアリングホイールを介して路面反力の変化が正確に伝達され、ドライバの意思によるステアリング操作によって車両の挙動が安定側に移行する。
【0005】
【特許文献1】
特開2001−158372号公報(第5頁、図4)
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、車両の挙動に応じた電動パワーステアリング装置による補正制御とともに駆動力配分装置(または、制動力配分装置)による駆動力(または、制動力)制御も同じタイミングで行った場合、ドライバのステアリング操作による操舵力に駆動力(または、制動力)制御による操舵力も加わることとなる。そのため、ドライバが電動パワーステアリング装置からの補助トルクに促されて車両の挙動を安定側に戻すためのステアリング操作を行っているにもかかわらず、ドライバの意思とは異なる操舵力が加わり、ステアリングフィールが阻害される。特に、オーバステア状態が強くなった場合、ドライバがカウンタステア操作により車両の挙動を安定側に戻そうとしているにもかかわらず、駆動力(または、制動力)制御によりカウンタステア操作を阻害してしまう。
【0007】
そこで、本発明の課題は、ステアリングフィールを阻害することなく、車両の挙動を安定にするための制御を行う車両の運転制御装置を提供することにある。
【0008】
【課題を解決するための手段】
前記課題を解決した本発明の請求項1に係る車両の運転制御装置は、車両挙動判定部と、電動パワーステアリング装置と、制動力・駆動力制御手段とを含んでなり、車両の挙動について、ニュートラルステア状態、および、アンダステア状態のいずれかを安定状態とし、車両の挙動について、弱ドリフトアウト状態、強ドリフトアウト状態、カウンタ過大状態、オーバステア移行状態、オーバステア状態、および、スピン状態のいずれかを不安定状態とし、この状態に基づいて、前記電動パワーステアリング装置の制御と、前記制動力・駆動力制御手段の制御を行う車両の運転制御装置であって、前記車両挙動判定部は、車両挙動検出手段が検出した車両挙動信号の値によって、前輪および後輪の滑り角の角差と前輪の切れ角との関係を求め、その関係から、ニュートラルステア状態、アンダステア状態、弱ドリフトアウト状態、強ドリフトアウト状態、カウンタ過大状態、オーバステア移行状態、オーバステア状態、および、スピン状態のいずれかを示す車両の挙動を判定し、前記電動パワーステアリング装置は、少なくともステアリング系の操舵トルクを検出する操舵トルクセンサからの操舵トルク信号に基づいて目標トルク信号を設定する目標トルク信号設定部、および、前記車両挙動判定部で判定した車両の挙動が不安定状態のときは安定状態に戻すように補正量を設定して前記目標トルク信号を補正する補正部を有する制御手段と、前記補正した目標トルク信号に基づいて前記ステアリング系に補助トルクを付加する電動機を駆動する電動機駆動手段とを備え、前記制動力・駆動力制御手段は、前記車両挙動判定部で判定した車両の挙動に基づいて、車両の制動力および駆動力の少なくとも一方を制御する構成を備え、前記車両の運転制御装置は、前記車両の挙動が不安定状態であって、弱ドリフトアウト状態、オーバステア移行状態またはオーバステア状態の場合には、前記電動パワーステアリング装置による制御を優先させ、前記車両の挙動が不安定状態であって、強ドリフトアウト状態、カウンタ過大状態またはスピン状態の場合には、前記制動力・駆動力制御手段による制御を優先させる、ことを特徴とする。
【0009】
この車両の運転制御装置によれば、車両挙動判定部を共有することにより、制動力・駆動力が作用する領域と、電動パワーステアリング装置の車両挙動を補正する補正部が作用する車両挙動の範囲がわかるため、制動力(または駆動力)により発生する操舵力を予め考慮した電動パワーステアリング装置の補助トルクを設定することができ、車両挙動不安定量が増加する前の段階から制動力(または駆動力)及び電動パワーステアリング装置の補助トルクを発生させることができ、ドライバのステアリングフィールを阻害せずに車両挙動不安定量を減少させることができる。
又、車両挙動不安定量が増加した場合においても、制動力(または駆動力)により発生する操舵力を予め考慮した上で、電動パワーステアリング装置の補助トルクを大きくすることで、ドライバのステアリングフィールを阻害することなく、ドライバに対し、車両挙動不安定量を減少させる方向に操舵を促すことができる。
さらに、車両の運転制御装置は、前記車両の挙動が不安定状態であって、弱ドリフトアウト状態、オーバステア移行状態またはオーバステア状態の場合には、前記電動パワーステアリング装置による制御を優先させ、前記車両の挙動が不安定状態であって、強ドリフトアウト状態、カウンタ過大状態またはスピン状態の場合には、前記制動力・駆動力制御手段による制御を優先させるため、車両の挙動の不安定状態が強くなるまではドライバによる車両の挙動を安定状態に戻すためのステアリング操作を優先でき、車両の挙動の不安定状態が強くなると車両による駆動力制御で早急に車両の挙動を安定状態に戻すことができる。
【0010】
前記課題を解決した本発明の請求項2に係る車両の運転制御装置は、請求項1に記載の車両の運転制御装置であって、前記電動パワーステアリングの前記補正部での補正を開始した後に、当該補正部での補正開始時点よりも車両の挙動がさらに不安定側に移行するまでは、前記制動力・駆動力制御手段による制御よりも前記電動パワーステアリングによる制御を優先させる、ことを特徴とする。
【0011】
この車両の運転制御装置によれば、電動パワーステアリングの補正部での補正を開始した後に、当該補正部での補正開始時点よりも車両の挙動がさらに不安定側に移行するまでは、前記制動力・駆動力制御手段による制御よりも前記電動パワーステアリングによる制御を優先させているので、その間はドライバのステアリング操作による操舵力が制動力よりも優先して車両に作用させることができる。その結果、ドライバによるカウンタステア操作や弱ドリフトアウト状態におけるドライバによる切れ角を減少させるステアリング操作を阻害しないので、ドライバは良好なステアリング操作を得ることができる。また、ドライバによるステアリング操作を車両による強制旋回力で阻害しないので、車両の挙動を安定状態へ早く復帰させることもできる。
【0012】
また、前記課題を解決した本発明の請求項3に係る車両の運転制御装置は、請求項1に記載の車両の運転制御装置であって、前記車両の挙動が不安定状態であって、弱ドリフトアウト状態、オーバステア移行状態またはオーバステア状態の場合に、前記電動パワーステアリング装置による制御を優先させているときに、前記車両挙動検出手段が検出した車両挙動信号の値の増加に応じて、前記電動パワーステアリング装置による制御量を増加させ、前記車両の挙動が不安定状態であって、強ドリフトアウト状態、カウンタ過大状態またはスピン状態の場合には、前記制動力・駆動力制御手段による制御を優先させているときに、前記車両挙動検出手段が検出した車両挙動信号の値の増加に応じて、前記制動力・駆動力制御手段による制御量を増加させることを特徴とする。
【0013】
この車両の運転制御装置によれば、車両挙動検出手段によって検出された車両挙動信号の値が、不安定な車両の挙動を示す値になると、制動力・駆動力制御手段による制動力および駆動力の少なくとも一方の制御量を車両の挙動の不安定傾向が強くなるのに応じて増加するので、不安定傾向の小さいときは、ドライバのステアリング操作による操舵力に制動力および駆動力制御の少なくとも一方による操舵力が小さい。そのため、制動力および駆動力の少なくとも一方の制御が車両に強く作用するまで、補正された補助トルクによってドライバにステアリングホイールを介して路面反力の変化が伝達され、ドライバの意思によるステアリング操作によって車両の挙動を安定側に戻すことができる。
【0014】
尚、車両の挙動の不安定側とは、車両の挙動として望ましい状態(安定状態)から外れていく側であり、例えば、弱アンダステア状態→強アンダステア状態→弱ドリフトアウト状態→強ドリフトアウト状態の側であり、また弱アンダステア状態→オーバステア状態→スピン状態の側である。また、車両挙動不安定量とは、車両の挙動として不安定側への傾向が強くなることを量で表したものであり、例えば、前輪の滑り角と後輪の滑り角の角差の絶対値で表し、この値が大きくなると車両挙動不安定量が増加したことになる。
【0015】
【発明の実施の形態】
以下、図面を参照して、本発明に係る車両の運転制御装置の実施の形態について説明する。
【0016】
本発明に係る車両の運転制御装置は、車両の挙動に応じて補正した目標トルク信号に基づいて補助トルクをステアリング系に付加する電動パワーステアリング装置と車両の挙動に応じて制動力および駆動力の少なくとも一方を制御する制動力・駆動力制御手段とを備え、車両の挙動が不安定状態に移行した場合、電動パワーステアリング装置による補正制御を優先的に行い、制動力および駆動力の少なくとも一方の制御によるステアリングフィールの低下を防止する。そのために、本発明に係る車両の運転制御装置では、制動力・駆動力制御手段による制動力および駆動力の少なくとも一方の制御を電動パワーステアリング装置による補正開始よりも車両の挙動がさらに不安定状態に移行してから行う。また、本発明に係る車両の運転制御装置では、制動力・駆動力制御手段による制御において車両挙動不安定量の増加に応じて制動力および駆動力の少なくとも一方の制御量を徐々に増加する。
【0017】
本実施の形態では、本発明に係る車両の運転制御装置を、制御手段により制御される電動パワーステアリング装置および駆動力制御手段により制御される駆動力配分装置を備える車両の運転制御装置に適用する。この車両の運転制御装置では、車両の実舵角(前輪の切れ角)の検出値および車両の前輪の滑り角と後輪の滑り角との角差の推定値に基づいて車両の挙動を判定し、その角差の推定値の絶対値を車両挙動不安定量としている。また、この車両の運転制御装置では、車両の挙動としてアンダステア状態を安定状態と判定し、アンダステア状態からドリフトアウト状態に移行していくか、あるいはアンダステア状態からオーバステア状態さらにスピン状態やカウンタ過大状態に移行していくに従って不安定傾向が強くなると判定している。
尚、本実施の形態には、駆動力制御手段における制御において、駆動力制御を電動パワーステアリング装置での補正制御の開始時点よりも車両の挙動がさらに不安定状態に移行してから行う形態と車両挙動不安定量の増加に応じて駆動力の制御量を徐々に増加する形態との2つの実施の形態がある。また、本実施の形態では、車両を前輪駆動車とするが、後輪駆動車および四輪駆動車においても同様に適用できる。
【0018】
まず、本実施の形態に係る車両の運転制御装置を説明する前に、本実施の形態で使用する車両のパラメータおよび車両の挙動を示す各状態について説明しておく。
【0019】
最初に、図4を参照して、車両のパラメータについて説明する。ここでの説明は、説明を簡単化するため、図4に示すように、前輪FWと後輪RWの二輪モデルを用いる。また、図4は、ドライバの時計回りのステアリング操作により車両が右旋回している場合を示している。この車両は、ホイールベースLとし、前輪FWの車軸と車両重心CG間距離Lfおよび後輪RWの車軸と車両重心CG間距離Lrとする。図4は、車両のモデル図(二輪モデル)である。
【0020】
車両は、ドライバによるステアリング操作によって、旋回中心CTを中心として旋回半径ρ、ヨー角速度Yで旋回しながら、車速Vで走行する。前輪の切れ角δは、車体の中心線(後輪の向きDRW)を基準として前輪の向きDFWへの角度である。
尚、切れ角δ、ヨー角速度Yは、時計回り方向を正(プラス)とし、反時計回りを負(マイナス)とする。また、車速Vは、前進方向を正(プラス)とし、後退方向を負(マイナス)とする。
【0021】
また、前輪滑り角βfは、前輪の向きDFWを基準として前輪の進行方向RFWへの角度である。後輪滑り角βrは、後輪の向きDRWを基準として後輪の進行方向RRWへの角度である。そして、前輪滑り角βfと後輪滑り角βrとの角差βfr=βf−βrとする。さらに、車両重心CGにおける滑り角βとする。尚、前輪滑り角βf、後輪滑り角βr、角差βfrおよび滑り角βは、反時計回りを正(プラス)とし、時計回りを負(マイナス)とする。ちなみに、ドライバがステアリングホイールを時計回りに操作した場合、前輪の向きDFWに対して前輪の進行方向RFWは反時計回りの向きにあり、前輪滑り角βfは正(プラス)となる。同様に、後輪滑り角βrも正(プラス)となる。したがって、角差βfrの方向(符号)は、後輪滑り角の絶対値|βr|が前輪滑り角の絶対値|βf|以上となるまで、正(プラス)である。
【0022】
尚、前輪滑り角βfと後輪滑り角βrは、ヨー角速度Y、車速V、切れ角δおよび前輪FWの車軸と車両重心CG間距離Lf、後輪RWの車軸と車両重心CG間距離Lrによって、以下に示す式(1)と式(2)で表現できる。
【0023】
【数1】
【0024】
さらに、角差βfrは、式(1)と式(2)により、式(3)で求めることができる。
【0025】
【数2】
【0026】
また、旋回半径ρ=V/Yとすると、角差βfrは式(4)となり、旋回半径ρは式(5)となる。
【0027】
【数3】
【0028】
次に、図5を参照して、前輪滑り角βfと後輪滑り角βrとの角差βfrと前輪の切れ角δを用いて、ドライバが運転しているときの車両状態について説明する。図5では、横軸は前輪の切れ角δ(deg)であり、正(プラス)が時計回り、負(マイナス)が反時計回りである。また、縦軸は角差βfr(deg)であり、正(プラス)が反時計回り、負(マイナス)が時計回りである。
尚、角差βfr=0[deg]は、ニュートラルステアラインNL(すなわち、車両がニュートラルステア状態)である。また、ヨー角速度Y=0(deg/s)(すなわち、車両が直進状態)は、式(3)より角差βfr=前輪の切れ角δであり、ラインAで示す。ちなみに、ラインAは、旋回半径ρ=∞である。また、このラインAを境界として、ラインAの右下の領域では車両は右旋回であり、ラインAの左上の領域では車両は左旋回である。また、ラインAは、式(4)より旋回半径ρをパラメータとして、1点鎖線で示すように角差βfr軸(縦軸)上を推移する。図5は、運転状態図である。
【0029】
右旋回の場合(ラインAの右下の領域)、ニュートラルステアラインNLを境界として、角差βfr>0では車両の挙動が安定状態であるアンダステア状態U1となり、角差βfr<0では車両の挙動が不安定状態であるオーバステア状態O1となる。
【0030】
そして、アンダステア状態が強くなって角差の絶対値|βfr|が大きくなると、車両の挙動が不安定状態である弱ドリフトアウト状態WD1となる。さらに、ドリフトアウト状態が強くなって角差の絶対値|βfr|が一層大きくなると、車両の挙動が一層不安定状態である強ドリフトアウト状態SD1となる。
尚、角差の絶対値|βfr|が小さい場合でも、ラインAの近傍では、切れ角δ>0のときにはドライバによる右旋回のステアリング操作にもかかわらず、低摩擦係数の路面状態等により車両がほぼ直進していることが予測される。そのため、角差の絶対値|βfr|が小さい場合でも、車両の挙動がラインAの近傍のときには補正制御やさらに駆動力制御を行う必要がある。そこで、角差の絶対値|βfr|が小さい場合でも、切れ角δ>0でラインAの近傍の車両の挙動に対しては、補正制御と駆動力制御を行う対象とするために、ラインAに沿って強ドリフトアウト状態SD1を設定し、強ドリフトアウト状態SD1に沿って弱ドリフトアウト状態WD1を設定している。
【0031】
また、オーバステア状態O1が強くなって角差の絶対値|βfr|が大きくなると、車両の挙動が一層不安定状態であるスピン状態SP1となる。尚、切れ角の絶対値|δ|が大きくなるに従ってヨー角速度の絶対値|Y|も大きくなるので、アンダステア状態からオーバステア状態に移行し易い。そこで、角差βfr>0の領域内で一定の切れ角δ1以上の領域に、オーバステア移行状態T1を設定する。オーバステア移行状態T1は、ニュートラルステアラインNLと、切れ角δ1かつ角差βfr=0を基点として切れ角δ1から切れ角δが大きくなるに従って角差βfrが大きくなる境界ラインD間内に形成される状態である。
【0032】
また、オーバステア状態が強くなると、ドライバがカウンタステア操作(切れ角δ<0の左旋回のステアリング操作)を行う場合がある。カウンタステア操作が行われた場合、車両の挙動がラインAに近づいてカウンタステア操作が戻されて、切れ角δが0に近づいていくときには車両の挙動としては安定状態に戻っていっていることになる。しかし、車両の挙動がラインAを越えて左旋回状態になると、車両の挙動が不安定状態であるカウンタ過大状態C1となる。
【0033】
一方、左旋回の場合(ラインAの左上の領域)も右旋回の場合と同様に、車両の挙動としてアンダステア状態U2、弱ドリフトアウト状態WD2、強ドリフトアウト状態SD2、オーバステア状態O2、スピン状態SP2、オーバステア移行状態T2およびカウンタ過大状態C2(右旋回:ラインAの右下の領域)がある。
【0034】
尚、図5において、アンダステア状態U1,U2は無地領域であり、オーバステア状態O1,O2は斜破線領域であり、弱ドリフトアウト状態WD1,WD2は縦線領域であり、強ドリフトアウト状態SD1,SD2は斜線領域であり、オーバステア移行状態T1,T2は網掛領域である。
【0035】
また、弱ドリフトアウト状態WD1,WD2は、切れ角の絶対値|δ|が小さくなるほど、角差の絶対値|βfr|が小さい領域でアンダステア状態U1,U2から入る領域として設定する。すなわち、弱ドリフトアウト状態WD1、WD2とアンダステア状態U1,U2の境界ラインB,Cは、切れ角の絶対値|δ|の増加に従って角差の絶対値|βfr|が増加する直線となるが、切れ角の絶対値|δ|<|δ2|の領域では、ラインAの近傍に弱ドリフトアウト状態WD1,WD2を設定するために角差の絶対値|βfr|の増加率は大きい。
【0036】
また、強ドリフトアウト状態SD1,SD2は、切れ角の絶対値|δ|が小さくなるほど、角差の絶対値|βfr|が小さい領域で弱ドリフトアウト状態WD1,WD2から入る領域として設定する。すなわち、強ドリフトアウト状態SD1,SD2と弱ドリフトアウト状態WD1,WD2の境界ラインF,Gは、切れ角の絶対値|δ|の増加に従って角差の絶対値|βfr|が増加する直線となるが、切れ角の絶対値|δ|<|δ3|の領域では、ラインAに沿って強ドリフトアウト状態SD1,SD2を設定するために角差の絶対値|βfr|の増加率は大きい。
【0037】
また、オーバステア移行状態T1,T2は、切れ角の絶対値|δ|が大きくなるほど、角差の絶対値|βfr|が大きい領域でアンダステア状態U1,U2から入る領域として設定する。すなわち、オーバステア移行状態T1,T2とアンダステア状態U1,U2の境界ラインD,Eは、切れ角の絶対値|δ|の増加に従って角差の絶対値|βfr|が増加する直線となる。
【0038】
それでは、本実施の形態に係る車両の運転制御装置の説明に移る。車両の運転制御装置は、前記したように、電動パワーステアリング装置1と駆動力配分装置2とを備えている(図1参照)。車両の運転制御装置では、電動パワーステアリング装置1において車両の挙動として前記した状態を判定する。そして、車両の運転制御装置では、判定した車両の状態に応じて、電動パワーステアリング装置1において補正制御を行うとともに駆動力配分装置2において駆動力制御を行う。
【0039】
最初に、図1を参照して、電動パワーステアリング装置1の全体構成について説明する。図1は、電動パワーステアリング装置1の全体構成図である。
【0040】
電動パワーステアリング装置1は、ステアリングホイール10から転舵輪である前輪Wに至るステアリング系Sに備えられ、ドライバによってステアリングホイール10が操舵されると、ステアリング軸11に加えられた手動操舵トルクをラック&ピニオン機構12によりラック軸12bの軸方向の推力に変換する。ラック&ピニオン機構12は、ピニオン12aに噛み合うラック歯12cがラック軸12bに形成され、ピニオン12aとラック歯12cの噛み合いにより、ピニオン12aの回転をラック軸12bの軸方向の往復運動とする。そして、電動パワーステアリング装置1は、このラック軸12bの軸方向の推力を、タイロッドRを介して前輪Wの操向に変える。
【0041】
また、電動パワーステアリング装置1は、手動操舵トルクをアシストするために、制御手段13による電動機制御信号VOに基づいて電動機駆動手段14により電動機電圧VMを発生し、この電動機電圧VMによって電動機15を駆動して補助トルクを発生させる。さらに、電動パワーステアリング装置1は、電動機15により発生させた補助トルクをハイポイドギヤ16を介して倍力し、この倍力された補助トルクをステアリング軸11に作用させる。そして、電動パワーステアリング装置1では、ステアリング軸11に加えられるドライバの手動操舵トルクを軽減する。
【0042】
制御手段13には、操舵トルクセンサ17、車速センサ18、切れ角センサ19、ヨー角速度センサ20および電動機電流検出手段21からの各検出信号T,V,δ,Y,IMFが入力される。そして、制御手段13では、操舵トルク信号Tおよび車速信号Vに基づいて目標トルク信号IMOを設定する(図3参照)。さらに、制御手段13では、この目標トルク信号IMOを補正し、補正した目標トルク信号IMHと電動機電流検出手段21から入力された電動機電流信号IMFとの差(負帰還)に応じた電動機制御信号VOを電動機駆動手段14に出力する(図3参照)。
尚、制御手段13は、目標トルク信号IMHと電動機電流信号IMFとの差が速やかに0になるように、電動機制御信号VOで電動機駆動手段14を制御する。
【0043】
また、制御手段13では、車両の各状態(車両の挙動)に応じた補正量で目標トルク信号IMOを補正する(図3参照)。そのために、制御手段13では、ヨー角速度信号Y、切れ角信号δ、車速信号Vおよび車両の寸法パラメータ(ホイールベースL)に基づいて式(3)により角差βfrを演算して推定する。そして、制御手段13では、角差βfr、切れ角信号δおよび操舵トルク信号Tに基づいて、車両の挙動がアンダステア状態U1,U2、弱ドリフトアウト状態WD1,WD2、強ドリフトアウト状態SD1,SD2、オーバステア状態O1,O2、オーバステア移行状態T1,T2、スピン状態SP1,SP2またはカウンタ過大状態C1,C2かを判定し(図5参照)、判定した状態を車両状態フラグCFに設定する。さらに、制御手段13では、車両状態フラグCFに設定された各状態に応じて補正量を決定し、この補正量により目標トルク信号IMOを補正する(図3参照)。尚、制御手段13の構成については、後で詳細に説明する。
【0044】
また、電動パワーステアリング装置1は、駆動力制御で利用するために、制御手段13で推定した角差βfrおよび設定した車両状態フラグCFを駆動力配分装置2の駆動力制御手段47に出力している。
【0045】
電動機駆動手段14は、例えば、4個のパワーFET(Field Effect Transistor:電界効果トランジスタ)や絶縁ゲート・バイポーラトランジスタ等のスイッチング素子からなるブリッジ回路で構成される。電動機駆動手段14は、電動機制御信号VOに基づいてPWM(Pulse Width Modulation)の電動機電圧VMを電動機15に印加し、電動機15を正回転または反回転してPWM駆動する。すると、電動機15には電動機電流IMが流れ、電動機15は電動機電流IMに比例したトルクを発生する。
【0046】
操舵トルクセンサ17は、ステアリング軸11に作用する操舵トルクの大きさと方向を検出し、検出した操舵トルクに対応した電気信号に変換して操舵トルク信号Tとして出力する。
【0047】
車速センサ18は、車速を単位時間当たりのパルス数として検出し、検出したパルス数に対応した電気信号に変換して車速信号Vとして出力する。
【0048】
切れ角センサ19は、前輪Wの切れ角の角度と方向を検出し、検出した切れ角に対応した電気信号に変換して切れ角信号δとして出力する。
【0049】
車両挙動検出手段であるヨー角速度センサ20は、車両に作用するヨー角速度の大きさと方向を検出し、検出したヨー角速度に対応した電気信号に変換してヨー角速度信号Yとして出力する。
【0050】
尚、切れ角信号δは、ステアリング軸11の操舵角から算出してもよい。また、ヨー角速度信号Yは、切れ角信号δおよび車速信号Vから算出してもよい。従って、車速センサ18や、切れ角センサ19も車両挙動検出手段といえる。また、これらのセンサは、電動パワーステアリング装置1に対して各信号を出力する構成だけでなく、車両に搭載される他の装置に出力する構成としてもよい。あるいは、他の装置に備えられる既存のセンサを利用してもよい。
【0051】
また、ヨー角速度信号Y、切れ角信号δ、車速信号Vおよび操舵トルク信号Tは、それぞれ大きさと方向を有し、制御手段13に供給される。ヨー角速度信号Y、切れ角信号δおよび操舵トルク信号Tの方向は、時計回りを正(プラス)値とし、反時計回りを負(マイナス)値とする。
【0052】
電動機電流検出手段21は、電動機15と直列に接続された抵抗器またはホール素子等を備え、電動機15に実際に流れる電動機電流IMを電圧に変換して検出する。そして、電動機電流検出手段21は、検出した電動機電流IMに対応した電動機電流信号IMFを制御手段13にフィードバック(負帰還)する。
【0053】
次に、図2を参照して、駆動力配分装置2の全体構成について説明する。尚、駆動力配分装置2における駆動力を配分する機構部分は、公知技術を利用するものであり、例えば、特開2000−255441号公報の発明の実施の形態に開示された駆動力配分装置の機構部分と同様の構成である。そこで、駆動力配分装置2の説明では、本発明の特徴となる制御部分を中心に説明する。図2は、駆動力配分装置2の全体構成図である。
【0054】
駆動力配分装置2は、トランスミッションMから延びる入力軸30から駆動輪である前輪WL,WRに至る駆動系に備えられ、車両の挙動に応じて駆動力配分機構2aにより左前輪WLの駆動力と右前輪WRの駆動力とを配分する。
【0055】
駆動力配分機構2aでは、エンジンEの駆動力がトランスミッションMを介して入力軸30に入力されると、この駆動力を入力軸30に設けられた入力ギヤ31を介して差動装置32に伝達する。差動装置32は、ダブルピニオン式の遊星歯車機構であり、入力ギヤ31に噛み合う外歯ギヤ32aに伝達された駆動力を外歯ギヤ32aと一体で形成されたリングギヤ32bを介してアウタプラネタリギヤ32cに伝達し、さらに、その駆動力をアウタプラネタリギヤ32cに噛み合うインナプラネタリギヤ32dを介してサンギヤ32eに伝達するとともに、アウタプラネタリギヤ32cとインナプラネタリギヤ32dとを支持するプラネタリキャリア32fに伝達して左右に配分する。そして、駆動力配分機構2aでは、この配分された駆動力を、サンギヤ32eに連結された左出力軸33から左ドライブシャフトDLを介して左前輪WLに伝達するとともに、プラネタリキャリア32fに連結された右出力軸34から右ドライブシャフトDRを介して右前輪WRに伝達する。
【0056】
さらに、駆動力配分機構2aは、左右の駆動力の配分比を変えるために、キャリア部材35、3速ピニオン部材36、第1サンギヤ37、第2サンギヤ38、および第3サンギヤ39を備えている。キャリア部材35は、4本のピニオン軸35a,・・・を備えており、左出力軸33の外周に回転自在に支持されるとともに、右油圧クラッチ40を介してケーシング41に結合可能である。3速ピニオン部材36は、第1〜第3ピニオン36a,36b,36cを一体で形成しており、各ピニオン軸35a,・・・に回転自在に支持される。第1サンギヤ37は、第1ピニオン36aに噛み合い、左出力軸33の外周に回転自在に支持されるとともに、差動装置32のプラネタリキャリア32fに連結されている。第2サンギヤ38は、第2ピニオン36bに噛み合い、左出力軸33の外周に固定されている。第3サンギヤ39は、第3ピニオン36cに噛み合い、左出力軸33の外周に回転自在に支持されるとともに、左油圧クラッチ42を介してケーシング41に結合可能である。
【0057】
右油圧クラッチ40は、クラッチ圧を調整することにより係合力を変えることができる油圧クラッチであり、右オイルポンプ43から油圧が供給され、右調圧バルブ44によりクラッチ圧(係合力)が調整される。一方、左油圧クラッチ42は、クラッチ圧を調整することにより係合力を変えることができる油圧クラッチであり、左オイルポンプ45から油圧が供給され、左調圧バルブ46によりクラッチ圧(係合力)が調整される。
【0058】
右油圧クラッチ40および左油圧クラッチ42がともに非係合状態の場合、駆動力配分機構2aでは、差動装置32のプラネタリキャリア32f、キャリア部材35、右出力軸34および左出力軸33が一体で回転し、右前輪WRの駆動力と左前輪WLの駆動力とに等配分する。また、右調圧バルブ44が制御されて右油圧クラッチ40のクラッチ圧が調整されると、駆動力配分機構2aでは、右油圧クラッチ40の係合力に応じてキャリア部材35の回転数が減速し、その減速に応じて左前輪WLの回転数を右前輪WRの回転数に対して増速し、その増速に応じて左前輪WLの駆動力を右前輪WRの駆動力より大きく配分する。また、左調圧バルブ46が制御されて左油圧クラッチ42のクラッチ圧が調整されると、駆動力配分機構2aでは、左油圧クラッチ42の係合力に応じてキャリア部材35の回転数が増速し、その増速に応じて右前輪WRの回転数を左前輪WLの回転数に対して増速し、その増速に応じて右前輪WRの駆動力を左前輪WLの駆動力より大きく配分する。
【0059】
さらに、駆動力配分装置2では、右油圧クラッチ40および左油圧クラッチ42のクラッチ圧(係合力)を調整して右前輪WRの駆動力と左前輪WLの駆動力とに配分するために、右調圧バルブ44および左調圧バルブ46を駆動力制御手段47で制御している。駆動力制御手段47には、切れ角センサ19からの切れ角信号δ、ヨー角速度センサ20からのヨー角速度信号Yおよび電動パワーステアリング装置1からの角差信号βfrと車両状態フラグ信号CFが入力される。そして、駆動力制御手段47では、車両状態フラグ信号CFに基づいて(すなわち、車両の挙動に基づいて)駆動力制御(右前輪WRの駆動力と左前輪WLの駆動力との配分比を変える制御)するか否かを決定し、駆動力制御する場合には角差信号βfr、切れ角信号δおよびヨー角速度信号Yに基づいて右油圧クラッチ40または左油圧クラッチ42のクラッチ圧(係合力)を設定して右調圧バルブ44または左調圧バルブ46を制御する。尚、駆動力制御手段47の構成については、後で詳細に説明する。
尚、本実施の形態では、駆動力制御手段47が特許請求の範囲に記載する制動力・駆動力制御手段に相当する。
【0060】
次に、図3、図8〜図15を参照して、電動パワーステアリング装置1の制御手段13の構成について説明する。図3は、電動パワーステアリング装置1の制御手段13の構成図および制御手段13と駆動力配分装置2の駆動力制御手段47との関係図である。図8は、切れ角信号δ−角差しきい値βfr1特性マップである。図9は、切れ角信号δ−角差しきい値βfr2特性マップである。図10は、切れ角信号δ−角差しきい値βfr3特性マップである。図11は、角差信号絶対値|βfr|−オーバステア補正量DO特性マップである。図12は、角差信号絶対値|βfr|−アンダステア補正量DU特性マップである。図13は、角差信号絶対値|βfr|−カウンタステア補正量DC特性マップである。図14は、車速信号V−車速係数Kr特性マップである。図15は、角差変化量Dv−角差変化係数Kv特性マップである。
【0061】
制御手段13は、目標トルク信号設定部13a、滑り角差推定部13b、車両挙動判定部13c、補正部13d、偏差演算部13eおよび駆動制御部13fから構成される。そのために、制御手段13は、各種入力回路、各種出力回路、各種記憶装置およびCPU[Central Processing Unit]等を備えている。
【0062】
目標トルク信号設定部13aは、ROM[Read Only Memory]やCPUによる検索機能等から構成され、予め実験値または設計値に基づいて設定した操舵トルク信号Tおよび車速信号Vと目標トルク信号IMOとの対応するデータを記憶している。そして、目標トルク信号設定部13aは、操舵トルクセンサ17からの操舵トルク信号Tおよび車速センサ18からの車速信号Vが入力され、目標トルク信号IMOを補正部13dに出力する。目標トルク信号設定部13aでは、操舵トルク信号Tおよび車速信号Vに基づいて対応する目標トルク信号IMOを読み出す。ちなみに、目標トルク信号IMOは、電動機15が目標トルクを発生するために必要とされる電動機15に流す電流の大きさを示す目標電流と電動機15に流れる電流の向きを示す電流方向の情報を含み、電流方向は目標電流のプラス値/マイナス値で表され、プラス値はアシスト方向が右回転方向であり、マイナス値はアシスト方向が左回転方向である。そして、目標トルク信号IMOは、車速信号Vに対して、路面反力の大きい低速の場合には大きい値が対応づけられ、走行時の安定性を確保するために高速の場合には小さい値が対応づけられている。
また、目標トルク信号IMOは、操舵トルク信号Tに対して、操舵トルク信号Tが0近傍では0に対応づけられ、所定の操舵トルク以上になると操舵トルク信号Tの増加に従って増加する値に対応づけられる。尚、目標トルク信号IMOは、電動機15に流すことができる最大電流が規定されているので、最大目標電流以下に設定される。
【0063】
滑り角差推定部13bは、CPUによる演算機能等から構成される。そして、滑り角差推定部13bは、ヨー角速度センサ20からのヨー角速度信号Y、切れ角センサ19からの切れ角信号δおよび車速センサ18からの車速信号Vが入力され、角差信号βfrを車両挙動判定部13c、補正部13dおよび駆動力配分装置2の駆動力制御手段47に出力する。滑り角差推定部13bでは、ヨー角速度信号Y、切れ角信号δ、車速信号Vおよびメモリに記憶されたホイールベースLに基づいて、式(3)により前輪滑り角βfと後輪滑り角βrとの角差βfrを演算する。尚、角差信号βfrは、大きさと方向を有し、反時計回りを正(プラス)とし、時計回りを負(マイナス)とする。
【0064】
車両挙動判定部13cは、ROMやCPUによる比較判定機能等から構成され、切れ角信号δに応じた角差しきい値βfr1,βfr2,βfr3および一定値の角差しきい値βfr4を記憶している(図8〜図10参照)。そして、車両挙動判定部13cは、滑り角差推定部13bからの角差信号βfr、操舵トルクセンサ17からの操舵トルク信号T、切れ角センサ19からの切れ角信号δおよびヨー角速度センサ20からのヨー角速度信号Yが入力され、車両状態フラグ信号CFを補正部13dおよび駆動力配分装置2の駆動力制御手段47に出力する。車両挙動判定部13cでは、後で詳細に説明するが、角差信号βfr、切れ角信号δ、ヨー角速度信号Yおよび角差しきい値βfr1,βfr2,βfr3,βfr4に基づいて車両の挙動がアンダステア状態U1,U2、弱ドリフトアウト状態WD1,WD2、強ドリフトアウト状態SD1,SD2、オーバステア移行状態T1,T2、オーバステア状態O1,O2、スピン状態SP1,SP2あるいはカウンタ過大状態C1,C2かを判定し(図5参照)、判定した状態を車両状態フラグ信号CFに設定する。
尚、角差しきい値βfr1,βfr2,βfr3は、切れ角δに応じて予め実験値または設計値等で定められた値であり、図5に示す境界ラインD(E),B(C),F(G)に相当する切れ角信号δとの対応関係を有する(図8〜図10参照)。また、角差しきい値βfr4は、予め実験値または設計値等で定められた値であり、一定値である(図5参照)。
【0065】
補正部13dは、ROMやCPUによる比較判定機能、演算機能等から構成され、角差信号の絶対値|βfr|に応じた補正量(オーバステア補正量DO、アンダステア補正量DU、カウンタステア補正量DC)(図11〜図13参照)、車速信号Vに応じた車速係数Kr(図14参照)、角差変化量Dvに応じた角差変化係数Kv(図15参照)およびヨー角速度係数G2を記憶している。そして、補正部13dは、目標トルク信号設定部13aからの目標トルク信号IMO、滑り角差推定部13bからの角差信号βfr、車両挙動判定部13cからの車両状態フラグ信号CF、操舵トルクセンサ17からの操舵トルク信号T、車速センサ18からの車速信号V、切れ角センサ19からの切れ角信号δおよびヨー角速度センサ20からのヨー角速度信号Yが入力され、補正した目標トルク信号IMHを偏差演算部13eに出力する。補正部13dでは、車両状態フラグ信号CFに基づいて車両の状態を判定し、車両の状態に基づいて補正量を決定し、さらに、この補正量と目標トルク信号IMOにより目標トルク信号IMHを演算する。尚、オーバステア補正量DO、アンダステア補正量DUおよびカウンタステア補正量DCは、角差βfrに応じて予め実験値または設計値等で定められた値であり、角差信号の絶対値|βfr|との対応関係を有する(図11〜図13参照)。また、車速係数Krは、車速Vに応じて予め実験値または設計値等で定められた値であり、車速信号Vとの対応関係を有する(図14参照)。また、角差変化係数Kvは、角差βfrの変化量に応じて予め実験値または設計値等で定められた値であり、角差変化量Dvとの対応関係を有する(図15参照)。また、ヨー角速度係数G2は、ヨー角速度Yに応じて予め実験値または設計値等で定められた値であり、一定値である。
【0066】
車両の挙動がアンダステア状態U1,U2の場合(図5参照)、補正部13dでは、車両の挙動が安定した通常走行状態と判断する。この場合、補正部13dでは、補正量を0とし、目標トルク信号IMH=IMOとする。
【0067】
車両の挙動がアンダステア状態U1,U2以外の場合(図5参照)、補正部13dでは、車両の挙動が不安定と判断する。この場合、補正部13dでは、角差信号の絶対値|βfr|に応じて補正量(オーバステア補正量DO、アンダステア補正量DU、カウンタステア補正量DC)を選択し(図11〜図13参照)、目標トルク信号IMOを補正する。つまり、補正部13dでは、切れ角δが減少する方向へのステアリング操作を促すために、目標トルク信号IMOから補正量を減算して目標トルク信号IMH<IMOとし、あるいは目標トルク信号IMOに補正量を加算して目標トルク信号IMH>IMOとする。
【0068】
さらに、車両挙動を一層安定な状態に誘導するためには、角差βfrとヨー角速度Yをゼロにする方向に切れ角δがステアリング操作されるように、補助トルクでアシストするのが理想的である。そこで、補正部13dでは、角差βfrおよびヨー角速度Yに基づいて補正量を設定する。まず、切れ角δを、式(3)が変形された式(6)により演算する。さらに、角差βfrとヨー角速度Yをゼロ方向に減少させるために、式(6)より理想的な補正量VCを式(7)より演算する。
【0069】
【数4】
【0070】
補正部13dでは、式(7)に示すように、補正量VCを角差βfrとヨー角速度Yに基づいて(具体的には、角差βfrとヨー角速度Yをパラメータとした関数で)設定する。そして、補正部13dでは、前記した角差βfrと切れ角δに基づいて発生させた補正量DO,DU,DCに車速係数Krと角差変化係数Kvを乗算するとともにヨー角速度Yにヨー角速度係数G2を乗算して、補正量VCを設定する。さらに、補正部13dでは、この補正量VCで目標トルク信号IMOを補正した目標トルク信号IMHを演算する。
【0071】
偏差演算部13eは、CPUによる減算機能等から構成される。そして、偏差演算部13eは、補正部13dからの目標トルク信号IMHと電動機電流検出手段21からの電動機電流信号IMFが入力され、偏差信号ΔIを駆動制御部13fに出力する。偏差演算部13eでは、目標トルク信号IMHから電動機電流信号IMFを減算し、その減算値を偏差信号ΔIとする。
【0072】
駆動制御部13fは、PID(Proportional Integral Differential)コントローラおよびPWM信号発生手段等から構成される。そして、駆動制御部13fは、偏差演算部13eからの偏差信号ΔIが入力され、電動機制御信号VOを電動機駆動手段14に出力する。駆動制御部13fでは、偏差信号ΔIに比例(P)、積分(I)および微分(D)制御を施す。さらに、駆動制御部13fでは、PID制御を施した信号を混成した混成信号に基づいてステアリングホイール10の右操舵または左操舵に対応したPWMの電動機制御信号VOを発生する。
【0073】
以上説明したように、制御手段13では、アンダステア状態U1,U2から弱ドリフトアウト状態WD1,WD2に移行したときか、あるいはアンダステア状態U1,U2からオーバステア移行状態T1,T2またはオーバステア状態O1,O2に移行したときに補正制御を開始し(図5参照)、この補正制御によって車両の各状態に応じた補助トルクを発生するように電動機15の駆動を制御する。
その結果、電動パワーステアリング装置1では、ドライバに車両の挙動が不安定状態に移ったことをステアリングホイール10から路面反力の変化で伝達でき、車両の挙動を安定状態に戻すためのステアリング操作を促すことができる。
又、車両挙動判定部13cを共有することにより、制動力・駆動力が作用する領域と、電動パワーステアリング装置1の車両挙動を補正する補正部13dが作用する車両挙動の範囲がわかるため、換言すると制御誤差がないため制動力(または駆動力)により発生する操舵力を予め考慮した電動パワーステアリング装置1の補助トルクを設定することができ、車両挙動不安定量が増加する前の段階から駆動力制御手段47による駆動力(または制動力制御手段による制動力)及び電動パワーステアリング装置1の補助トルクを発生させることができ、ドライバのステアリングフィールを阻害せずに車両挙動不安定量を減少させることができる。
又、車両挙動不安定量が増加した場合においても、駆動力(または制動力)により発生する操舵力を予め考慮した上で、電動パワーステアリング装置1の補助トルクを大きくすることで、ドライバのステアリングフィールを阻害することなく、ドライバに対し、車両挙動不安定量を減少させる方向に操舵を促すことができる。
又、ヨー角速度センサ20、車速センサ18、切れ角センサ19等の車両挙動検出手段を共通に用いることによって、車両挙動判定部13は、電動パワーステアリング装置1、制動力・駆動力制御手段(駆動力制御手段47)それぞれに設置してもよい。このように同じ車両挙動手段からの信号で車両挙動を判定すれば、制御誤差を少なくできるからである。
【0074】
次に、図2、図3、図17〜図19および図21〜図22を参照して、駆動力配分装置2の駆動力制御手段47の構成について説明する。図17は、角差信号絶対値|βfr|−オーバステアクラッチ圧PO特性マップである(第1の実施の形態)。図18は、角差信号絶対値|βfr|−アンダステアクラッチ圧PU特性マップである(第1の実施の形態)。図19は、角差信号絶対値|βfr|−カウンタステアクラッチ圧PC特性マップである。図21は、角差信号絶対値|βfr|−オーバステアクラッチ圧PO特性マップである(第2の実施の形態)。図22は、角差信号絶対値|βfr|−アンダステアクラッチ圧PU特性マップである(第2の実施の形態)。
【0075】
駆動力制御手段47は、右調圧バルブ44および左調圧バルブ46を制御することによって右油圧クラッチ40および左油圧クラッチ42の係合力を調整し、右前輪WRと左前輪WLとの駆動力の配分比を制御する。そのために、駆動力制御手段47は、各種入力回路、各種出力回路、各種記憶装置およびCPU等を備えている。
【0076】
駆動力制御手段47は、ROMに角差信号の絶対値|βfr|に応じたクラッチ圧(オーバステアクラッチ圧PO、アンダステアクラッチ圧PU、カウンタステアクラッチ圧PC)を記憶している(図17〜図19および図21〜図22参照)。そして、駆動力制御手段47は、電動パワーステアリング装置1からの角差信号βfrと車両状態フラグ信号CF、切れ角センサ19からの切り角信号δ、およびヨー角速度センサ20からのヨー角速度信号Yが入力され、右調圧バルブ信号RVOを右調圧バルブ44に、および左調圧バルブ信号LVOを左調圧バルブ46に出力する。駆動力制御手段47では、車両状態フラグ信号CFに設定された車両の状態に基づいて駆動力制御を行うか否かを判断する。そして、駆動力制御を行う場合、駆動力制御手段47では、角差信号βfrおよび切れ角信号δに基づいてクラッチ圧を決定するとともに、ヨー角速度信号Yに基づいて係合力を調整する油圧クラッチ40,42を決定し、決定したクラッチ圧に対応する調圧バルブ信号RVO,LVOを設定する。
尚、オーバステアクラッチ圧PO、アンダステアクラッチ圧PU、およびカウンタステアクラッチ圧PCは、角差βfrに応じて予め実験値または設計値等で定められた値であり、角差信号の絶対値|βfr|との対応関係を有する(図17〜図19および図21〜図22参照)。
【0077】
尚、駆動力制御手段47は、前記した2つの実施の形態に対応するために、2つの制御の形態を有している。その2つの制御の形態を順に説明する。
【0078】
第1の実施の形態に係る制御の形態について説明する。
第1の実施の形態では、前記したように、電動パワーステアリング装置1による補正制御の開始よりも車両の挙動が不安定状態に移行してから駆動力制御を行うことによって、電動パワーステアリング装置1での車両の挙動に応じた補正制御を優先させる。そのために、駆動力制御手段47では、車両の挙動が強ドリフトアウト状態SD1,SD2、スピン状態SP1,SP2またはカウンタ過大状態C1,C2に移行してから駆動力制御を開始する(図5参照)。
【0079】
まず、駆動力制御手段47では、車両状態フラグ信号CFに基づいて車両の状態を判定する。
【0080】
車両の挙動がアンダステア状態U1,U2、弱ドリフトアウト状態WD1,WD2、オーバステア移行状態T1,T2、またはオーバステア状態O1,O2の場合(図5参照)、駆動力制御手段47では、クラッチ圧を0(すなわち、右油圧クラッチ40および左油圧クラッチ42をともに非係合)とし、右調圧バルブ信号RVO、および左調圧バルブ信号LVOにバルブを全閉する信号を設定する。
【0081】
車両の挙動が強ドリフトアウト状態SD1,SD2、スピン状態SP1,SP2またはカウンタ過大状態C1,C2の場合(図5参照)、駆動力制御手段47では、角差信号の絶対値|βfr|に応じてクラッチ圧(オーバステアクラッチ圧PO、アンダステアクラッチ圧PU、カウンタステアクラッチ圧PC)を選択する(図17〜図19参照)。続いて、駆動力制御手段47では、車両の状態およびヨー角速度信号Yに基づいて駆動力の配分比を右前輪WR側を大きくするのか、あるいは左前輪WL側を大きくするのかを判定する。右前輪WR側の駆動力の大きくすると判定した場合、駆動力制御手段47では、左調圧バルブ信号LVOに選択したクラッチ圧(すなわち、係合力)になるようにバルブの開度を調整する信号を設定するとともに、右調圧バルブ信号RVOにバルブを全閉する信号を設定する。
一方、左前輪WL側の駆動力の大きくすると判定した場合、駆動力制御手段47では、右調圧バルブ信号RVOに選択したクラッチ圧(すなわち、係合力)に制御するためのバルブの開度とする信号を設定するとともに、左調圧バルブ信号LVOにバルブを全閉する信号を設定する。
【0082】
尚、図17〜図19では、角差信号の絶対値|βfr|に対して各クラッチ圧が急激に増加するように設定されている。このように設定するのは、駆動力制御を開始した時点では、車両の挙動がさらに不安定状態に移行しているので、駆動力制御による制御量を急激に増加して車両の挙動がこれ以上不安定になるのを早急に防止するためである。
【0083】
駆動力制御手段47での第1の実施の形態に係る制御では、車両の挙動が強ドリフトアウト状態SD1,SD2、スピン状態SP1,SP2またはカウンタ過大状態C1,C2に移行した後に駆動力制御を開始し(図5参照)、この駆動力制御によって車両の各状態に応じた駆動力配分比となるように右油圧クラッチ40、および左油圧クラッチ42の係合力を調整する。その結果、駆動力配分装置2では、車両の挙動の不安定状態が強くなるまではドライバによる車両の挙動を安定状態に戻すためのステアリング操作を優先でき、車両の挙動の不安定状態が強くなると車両による駆動力制御で早急に車両の挙動を安定状態に戻すことができる。
【0084】
第2の実施の形態に係る制御の形態について説明する。
第2の実施の形態では、前記したように、車両挙動不安定量の増加に応じて駆動力の制御量を徐々に増加することによって、電動パワーステアリング装置1での車両の挙動に応じた補正制御を優先させる。そのために、駆動力制御手段47では、車両の挙動がアンダステア状態U1,U2以外の状態に移行したときに駆動力制御を開始するが、弱ドリフトアウト状態WD1,WD2、オーバステア移行状態T1,T2、またはオーバステア状態O1,O2のときには駆動力の制御量を抑える(図5参照)。
【0085】
まず、駆動力制御手段47では、車両状態フラグ信号CFに基づいて車両の状態を判定する。
【0086】
車両の挙動がアンダステア状態U1,U2の場合(図5参照)、駆動力制御手段47では、クラッチ圧を0(すなわち、右油圧クラッチ40、および左油圧クラッチ42をともに非係合)とし、右調圧バルブ信号RVOおよび左調圧バルブ信号LVOにバルブを全閉する信号を設定する。
【0087】
車両の挙動がアンダステア状態U1,U2以外の状態の場合(図5参照)、駆動力制御手段47では、角差信号の絶対値|βfr|に応じてクラッチ圧(オーバステアクラッチ圧PO、アンダステアクラッチ圧PU、カウンタステアクラッチ圧PC)を選択する(図19、図21、図22参照)。続いて、駆動力制御手段47では、車両の状態およびヨー角速度信号Yに基づいて駆動力の配分比を右前輪WR側を大きくするのか、あるいは左前輪WL側を大きくするのかを判定する。右前輪WR側の駆動力の大きくすると判定した場合、駆動力制御手段47では、左調圧バルブ信号LVOに選択したクラッチ圧(すなわち、係合力)になるようにバルブの開度を調整する信号を設定するとともに、右調圧バルブ信号RVOにルブを全閉する信号を設定する。一方、左前輪WL側の駆動力の大きくすると判定した場合、駆動力制御手段47では、右調圧バルブ信号RVOに選択したクラッチ圧(すなわち、係合力)に制御するためのバルブの開度とする信号を設定するとともに、左調圧バルブ信号LVOにバルブを全閉する信号を設定する。
【0088】
尚、図21では、角差信号の絶対値|βfr|がβfr4未満ではオーバステアクラッチ圧が徐々に増加し、角差信号の絶対値|βfr|がβfr4以上では急激に増加するように設定されている。このように設定するのは、角差信号の絶対値|βfr|がβfr4未満では車両の状態としてはオーバステア移行状態T1,T2、またはオーバステア状態O1,O2であるので駆動力制御による制御量を徐々に増加して制御量を抑え、角差信号の絶対値|βfr|がβfr4以上では車両の状態としてはスピン状態SP1,SP2に移行するので駆動力制御による制御量を急激に増加して車両の挙動がこれ以上不安定状態になるのを早急に防止するためである(図5参照)。
また、図22では、角差信号の絶対値|βfr|がβ3未満ではアンダステアクラッチ圧が徐々に増加し、角差信号の絶対値|βfr|がβ3以上では急激に増加するように設定されている。このように設定するのは、角差信号の絶対値|βfr|がβ3未満では車両の状態としては弱ドリフトアウト状態WD1,WD2であるので駆動力制御による制御量を徐々に増加して制御量を抑え、角差信号の絶対値|βfr|がβ3以上では車両の状態としては強ドリフトアウト状態SD1,SD2に移行するので駆動力制御による制御量を急激に増加して車両の挙動がこれ以上不安定状態になるのを早急に防止するためである(図5参照)。
尚、本実施の形態では、図21および図22における角差信号の絶対値|βfr|が特許請求の範囲に記載する車両挙動不安定量に相当し、図21および図22におけるオーバステアクラッチ圧POおよびアンダステアクラッチ圧PUが特許請求の範囲に記載する制御量に相当する。
【0089】
駆動力制御手段47での第2の実施の形態に係る制御では、アンダステア状態U1,U2から弱ドリフトアウト状態WD1,WD2に移行したときか、あるいはアンダステア状態U1,U2からオーバステア移行状態T1,T2、またはオーバステア状態O1,O2に移行したときに駆動力制御を開始するが(図5参照)、弱ドリフトアウト状態WD1,WD2、オーバステア移行状態T1,T2、またはオーバステア状態O1,O2のときには制御量を徐々に増加することによって右油圧クラッチ40および左油圧クラッチ42の係合力を小さい値に抑える。その結果、駆動力配分装置2では、車両の挙動の不安定状態が強くなるまではドライバによる車両の挙動を安定状態に戻すためのステアリング操作を優先でき、車両の挙動の不安定状態が強くなると車両による駆動力制御で早急に車両の挙動を安定状態に戻すことができる。
【0090】
次に、図1、図3〜図5および図8〜図10を参照して、電動パワーステアリング装置1の制御手段13の車両挙動判定部13cでの動作を図6のフローチャートに沿って説明する。図6は、制御手段13の車両挙動判定部13cの動作フローチャートである。
【0091】
車両挙動判定部13cでは、滑り角差推定部13bからの角差信号βfrの方向Pとヨー角速度センサ20からのヨー角速度信号Yの方向Nを比較する(S1)。例えば、ヨー角速度Yが時計回り方向(右旋回方向)かつ反時計回りの後輪滑り角βrが反時計回りの前輪滑り角βfより大きい場合(すなわち、車両の挙動がオーバステア側の場合)、ヨー角速度信号Yの方向Nは正(プラス)となり、角差信号βfrの方向Pは負(マイナス)となる。また、ヨー角速度Yが時計回り方向(右旋回方向)かつ反時計回りの前輪滑り角βfが反時計回りの後輪滑り角βrより大きい場合(すなわち、車両の挙動がアンダステア側の場合)、ヨー角速度信号Yの方向Nは正(プラス)となり、角差信号βfrの方向Pは正(プラス)となる。
【0092】
角差信号βfrの方向Pとヨー角速度信号Yの方向Nとが不一致の場合、車両挙動判定部13cでは、車両の状態がオーバステア状態O1,O2あるいはスピン状態SP1,SP2と判定し、ステップS2に移行する。
【0093】
ステップS2に移行すると、車両挙動判定部13cでは、角差信号の絶対値|βfr|が角差しきい値の絶対値|βfr4|以下か否かを判定する(S2)。角差信号の絶対値|βfr|が角差しきい値の絶対値|βfr4|以下の場合、車両挙動判定部13cでは、車両の状態がオーバステア状態O1,O2と判定し、車両状態フラグ信号CFにオーバステア状態O1,O2を設定する(S10)。
一方、角差信号の絶対値|βfr|が角差しきい値の絶対値|βfr4|より大きい場合、車両挙動判定部13cでは、車両状態がスピン状態SP1,SP2と判定し、車両状態フラグ信号CFにスピン状態SP1,SP2を設定する(S11)。尚、角差しきい値βfr4は、図5に示すように、オーバステア状態O1,O2とスピン状態SP1,SP2との境界を判定するための値である。
【0094】
一方、角差信号βfrの方向Pとヨー角速度信号Yの方向Nとが一致の場合、車両挙動判定部13cでは、滑り角差推定部13bからの角差信号βfrの方向Pと操舵トルクセンサ17からの操舵トルク信号Tの方向Sを比較する(S3)。例えば、ヨー角速度Yが反時計回り方向(左旋回方向)かつ操舵トルクTが時計回り方向(右旋回方向)かつ反時計回りの後輪滑り角βrが反時計回りの前輪滑り角βfより大きい場合(すなわち、車両の挙動がカウンタ過大状態C1,C2)、ヨー角速度信号Yの方向Nが負(マイナス)となり、操舵トルク信号Tの方向Sは正(プラス)となり、角差信号βfrの方向Pは負(マイナス)となる。
また、ヨー角速度Yが時計回り方向(右旋回方向)かつ操舵トルクが時計回り方向(右旋回方向)かつ反時計回りの前輪滑り角βfが反時計回りの後輪滑り角βrより大きい場合(すなわち、車両の挙動がアンダステア状態U1,U2の場合)、ヨー角速度信号Yの方向Nが正(プラス)となり、操舵トルク信号Yの方向Sは正(プラス)となり、角差信号βfrの方向Pは正(プラス)となる。
【0095】
角差信号βfrの方向Pと操舵トルク信号Tの方向Sとが不一致の場合、車両挙動判定部13cでは、車両の状態がカウンタ過大状態C1,C2と判定し、車両状態フラグ信号CFにカウンタ過大状態C1,C2を設定する(S12)。
【0096】
一方、角差信号βfrの方向Pと操舵トルク信号Tの方向Sとが一致の場合、車両挙動判定部13cでは、切れ角センサ19からの切れ角信号δにより、切れ角信号δ−角差しきい値βfr1特性データ(図8参照)から角差しきい値βfr1を選択する(S4)。
【0097】
続いて、車両挙動判定部13cでは、角差信号の絶対値|βfr|が角差しきい値の絶対値|βfr1|以下か判定する(S5)。尚、角差しきい値βfr1は、図5に示すように、アンダステア状態U1,U2とオーバステア移行状態T1,T2との境界を判定するための値である。したがって、図8に示す切れ角信号δ−角差しきい値βfr1特性マップは図5の運転状態図における境界ラインD,Eに対応して設定され、角差しきい値βfr1は切れ角信号δがδ1の値から切れ角信号δの増加に従って増加する値である。
【0098】
そして、角差信号の絶対値|βfr|が角差しきい値の絶対値|βfr1|以下の場合、車両挙動判定部13cでは、車両の状態がオーバステア移行状態T1,T2と判定し、車両状態フラグ信号CFにオーバステア移行状態T1、T2を設定する(S13)。アンダステア状態にかかわらずオーバステア移行状態T1,T2を設定するのは、車両の挙動としてはアンダステア状態U1,U2からオーバステア状態O1,O2に移行しようとしているので、極力オーバステア状態O1,O2にならないように、目標トルク信号IMOをオーバステア補正量DOで早めに補正するためである。
【0099】
一方、角差信号の絶対値|βfr|が角差しきい値の絶対値|βfr1|より大きい場合、車両挙動判定部13cでは、切れ角信号δにより、切れ角信号δ−角差しきい値βfr2特性データ(図9参照)から角差しきい値βfr2を選択する(S6)。
【0100】
続いて、車両挙動判定部13cでは、角差信号の絶対値|βfr|が角差しきい値の絶対値|βfr2|以下か判定する(S7)。尚、角差しきい値βfr2は、図5に示すように、アンダステア状態U1,U2と弱ドリフトアウト状態WD1,WD2との境界を判定するための値である。したがって、図9に示す切れ角信号δ−角差しきい値βfr2特性マップは図5の運転状態図における境界ラインB,Cに対応して設定され、角差しきい値βfr2はδ2を境に増加率を変えて切れ角信号δの増加に従って増加する値である。
【0101】
そして、角差信号の絶対値|βfr|が角差しきい値の絶対値|βfr2|以下の場合、車両挙動判定部13cでは、車両状態がアンダステア状態U1,U2と判定し、車両状態フラグ信号CFにアンダステア状態U1,U2を設定する(S14)。
【0102】
一方、角差信号の絶対値|βfr|が角差しきい値の絶対値|βfr2|より大きい場合、車両挙動判定部13cでは、切れ角信号δにより、切れ角信号δ−角差しきい値βfr3特性データ(図10参照)から角差しきい値βfr3を選択する(S8)。
【0103】
続いて、車両挙動判定部13cでは、角差信号の絶対値|βfr|が角差しきい値の絶対値|βfr3|以下か判定する(S9)。尚、角差しきい値βfr3は、図5に示すように、弱ドリフトアウト状態WD1,WD2と強ドリフトアウト状態SD1,SD2との境界を判定するための値である。したがって、図10に示す切れ角信号δ−角差しきい値βfr3特性マップは図5の運転状態図における境界ラインF,Gに対応して設定され、角差しきい値βfr3はδ3を境に増加率を変えて切れ角信号δの増加に従って増加する値である。
【0104】
そして、角差信号の絶対値|βfr|が角差しきい値の絶対値|βfr3|以下の場合、車両挙動判定部13cでは、車両状態が弱ドリフトアウト状態WD1,WD2と判定し、車両状態フラグ信号CFに弱ドリフトアウト状態WD1,WD2を設定する(S15)。
【0105】
一方、角差信号の絶対値|βfr|が角差しきい値の絶対値|βfr3|より大きい場合、車両挙動判定部13cでは、車両状態が強ドリフトアウト状態SD,SD2と判定し、車両状態フラグ信号CFに強ドリフトアウト状態SD1,SD2を設定する(S16)。
【0106】
次に、図1、図3〜図5および図8〜図15を参照して、電動パワーステアリング装置1の制御手段13の補正部13dでの動作を図7のフローチャートに沿って説明する。図7は、制御手段13の補正部13dの動作フローチャートである。
【0107】
補正部13dでは、車両状態フラグ信号CFに基づいて、車両の状態を判定する(S20)。
【0108】
そして、車両状態フラグ信号CFにアンダステア状態U1,U2が設定されている場合、補正部13dでは、車両の挙動としては安定状態と判定し、補正制御を行わないで目標トルク信号IMHにそのまま目標トルク信号IMOを設定する。この場合、電動パワーステアリング装置1では、補正制御が施されていない補助トルクを発生する。
【0109】
一方、車両状態フラグ信号CFにアンダステア状態U1,U2以外の状態が設定されている場合、補正部13dでは、車両の挙動としては不安定状態と判定し、補正制御を行う。
【0110】
車両状態フラグ信号CFにスピン状態SP1,SP2、オーバステア状態O1,O2またはオーバステア移行状態T1,T2が設定されている場合、補正部13dでは、切れ角センサ19からの切れ角信号δにより、切れ角信号δ−角差しきい値βfr1特性データ(図8参照)から角差しきい値βfr1を選択する(S21)。そして、補正部13dでは、角差信号の絶対値|βfr|を角差信号βfrと角差しきい値βfr1から、角差信号の絶対値|βfr|=|βfr−βfr1|と演算する(S22)。さらに、補正部13dでは、角差信号の絶対値|βfr|に基づいて、角差信号絶対値|βfr|−オーバステア補正量DO特性データ(図11参照)からオーバステア補正量DOを選択する(S23)。
【0111】
車両状態フラグ信号CFにカウンタ過大状態C1,C2が設定されている場合、補正部13dでは、角差信号の絶対値|βfr|に基づいて、角差信号絶対値|βfr|−カウンタステア補正量DC特性データ(図13参照)からカウンタステア補正量DCを選択する(S24)。
【0112】
車両状態フラグ信号CFに弱ドリフトアウト状態WD1,WD2または強ドリフトアウト状態SD1,SD2が設定されている場合、補正部13dでは、切れ角センサ19からの切れ角信号δにより、切れ角信号δ−角差しきい値βfr2特性データ(図9参照)から角差しきい値βfr2を選択する(S25)。そして、補正部13dでは、角差信号の絶対値|βfr|を角差信号βfrと角差しきい値βfr2から、角差信号の絶対値|βfr|=|βfr−βfr2|と演算する(S26)。さらに、補正部13dでは、角差信号の絶対値|βfr|に基づいて、角差信号絶対値|βfr|−アンダステア補正量DU特性データ(図12参照)からアンダステア補正量DUを選択する(S27)。
【0113】
続いて、オーバステア補正量DOまたはカウンタステア補正量DCが選択されると、補正部13dでは、角差信号βfrに対する時間微分により角差変化量信号Dv(=dβfr/dt)を演算し、角差変化量信号Dvの方向Dと操舵トルク信号Tの方向Sを比較する(S28)。例えば、操舵トルク信号Tが時計回り方向(右旋回方向)かつ反時計回りの後輪滑り角βrが反時計回りの前輪滑り角βfより大きくさらに反時計回りの後輪滑り角βrが増加している場合、操舵トルク信号Tの方向Sが正(プラス)となり、角差信号βfrの方向Pは負(マイナス)となり、角差変化量信号Dvの方向Dは正(プラス)となる。この場合、オーバステア状態が発散方向に向かうので、一層カウンタステア操作を必要とする。そこで、補正部13dでは、目標トルク信号IMOに補正量を加算補正し、ドライバにステアリングホイール10を介して小さな路面反力を伝達してカウンタステア操作を促す。また、操舵トルク信号Tが時計回り方向(右旋回方向)かつ反時計回りの後輪滑り角βrが反時計回りの前輪滑り角βfより大きく、さらに反時計回りの後輪滑り角βrが減少している場合、操舵トルク信号Tの方向Sが正(プラス)となり、角差信号βfrの方向Pは負(マイナス)となり、角差変化量信号Dvの方向Dは負(マイナス)となる。この場合、オーバステア状態が収束方向に向かうので、これ以上カウンタステア操作を必要としない。そこで、補正部13dでは、目標トルク信号IMOに補正量を減算補正し、ドライバにステアリングホイール10を介して大きな路面反力を伝達する。したがって、角差変化量信号Dvの方向Dと操舵トルク信号Tの方向Sとが一致の場合、補正部13dでは、目標トルク信号IMOを加算補正するために、ステップS29に移行する。一方、角差変化量信号Dvの方向Dと操舵トルク信号Tの方向Sとが不一致の場合、補正部13dでは、目標トルク信号IMOを減算補正するために、ステップS30に移行する。
【0114】
ステップS29に移行すると、補正部13dでは、車速センサ18からの車速信号Vにより車速信号V−車速係数Kr特性データ(図14参照)から車速係数Krを選択するとともに、角差変化量Dvにより角差変化量Dv−角差変化係数Kv特性データ(図15参照)から角差変化係数Kvを選択する。さらに、補正部13dでは、オーバステア補正量DOまたはカウンタステア補正量DCに車速係数Krと角差変化係数Kvを乗算し、オーバステア補正量信号IDOまたはカウンタステア補正量信号IDCを設定する(S29)。ちなみに、オーバステア補正量DOまたはカウンタステア補正量DCかは、ステップS28にステップS23から移行した場合にはオーバステア補正量DOであり、ステップS28にステップS24から移行した場合にはカウンタステア補正量DCである。
【0115】
ステップS30に移行すると、補正部13dでは、車速センサ18からの車速信号Vにより車速信号V−車速係数Kr特性データ(図14参照)から車速係数Krを選択するとともに、角差変化量Dvにより角差変化量Dv−角差変化係数Kv特性データ(図15参照)から角差変化係数Kvを選択する。さらに、補正部13dでは、オーバステア補正量DO、カウンタステア補正量DCまたはアンダステア補正量DUに車速係数Krと角差変化係数Kvを乗算し、オーバステア補正量信号IDO、カウンタステア補正量信号IDCまたはアンダステア補正量信号IDUを設定する(S30)。ちなみに、オーバステア補正量DO、カウンタステア補正量DCまたはアンダステア補正量DUかは、ステップS28にステップS23から移行した場合にはオーバステア補正量DOであり、ステップS28にステップS24から移行した場合にはカウンタステア補正量DCであり、ステップS30にステップS27から移行した場合にはアンダステア補正量DUである。
【0116】
さらに、補正部13dでは、ヨー角速度センサ20からのヨー角速度信号Yにヨー角速度係数G2を乗算し、ヨー角速度補正量信号IYを設定する(S31、S32)。
【0117】
最後に、加算補正の場合、補正部13dでは、オーバステア補正量信号IDOまたはカウンタステア補正量信号IDCとヨー角速度補正量信号IYを目標トルク信号IMOに加算し、目標トルク信号IMHに(目標トルク信号IMO+((オーバステア補正量信号IDO、またはカウンタステア補正量信号IDC)+ヨー角速度補正量信号IY))を設定する(S33)。この場合、電動パワーステアリング装置1では、補正制御が施された大きな補助トルクを発生し、ドライバにステアリングホイール10を介して小さな路面反力を伝達し、さらなるカウンタステア操作を促す。
【0118】
減算補正の場合、補正部13dでは、アンダステア補正量信号IDU、カウンタステア補正量信号IDC、またはオーバステア補正量信号IDOとヨー角速度補正量信号IYを目標トルク信号IMOから減算し、目標トルク信号IMHに(目標トルク信号IMO−((アンダステア補正量信号IDU、カウンタステア補正量信号IDC、またはオーバステア補正量信号IDO)+ヨー角速度補正量信号IY))を設定する(S34)。この場合、電動パワーステアリング装置1では、補正制御が施された小さな補助トルクを発生し、ドライバにステアリングホイール10を介して大きな路面反力を伝達する。
【0119】
次に、図2〜図5、図10および図17〜図19を参照して、駆動力配分装置2の駆動力制御手段47での第1の実施の形態に係る動作を図16のフローチャートに沿って説明する。図16は、駆動力制御手段47の第1の実施の形態の動作フローチャートである。
【0120】
駆動力制御手段47では、車両状態フラグ信号CFに基づいて、車両の状態を判定する(S40)。
【0121】
そして、車両状態フラグ信号CFに弱ドリフトアウト状態WD1,WD2、アンダステア状態U1,U2、オーバステア移行状態T1,T2、またはオーバステア状態O1,O2が設定されている場合、駆動力制御手段47では、駆動力制御を行わないと判定し、右調圧バルブ信号RVO、および左調圧バルブ信号LVOにバルブを全閉する信号を設定する。すると、駆動力配分装置2では、右油圧クラッチ40および左油圧クラッチ42がともに非係合状態となり、右前輪WRの駆動力と左前輪WLの駆動力とを等配分する。
【0122】
一方、車両状態フラグ信号CFに弱ドリフトアウト状態WD1,WD2、アンダステア状態U1,U2、オーバステア移行状態T1,T2、およびオーバステア状態O1,O2以外の状態が設定されている場合、駆動力制御手段47では、車両の挙動としては不安定状態の傾向が強くなったと判定し、駆動力制御を行う。
【0123】
車両状態フラグ信号CFに強ドリフトアウト状態SD1,SD2が設定されている場合、駆動力制御手段47では、切れ角センサ19からの切れ角信号δにより、切れ角信号δ−角差しきい値βfr3特性データ(図10参照)から角差しきい値βfr3を選択する(S41)。そして、駆動力制御手段47では、角差信号の絶対値|βfr|を角差信号βfrと角差しきい値βfr3から、角差信号の絶対値|βfr|=|βfr−βfr3|と演算する(S42)。さらに、駆動力制御手段47では、角差信号の絶対値|βfr|に基づいて、角差信号絶対値|βfr|−アンダステアクラッチ圧PU特性データ(図18参照)からアンダステアクラッチ圧PUを選択する(S43)。
【0124】
続いて、駆動力制御手段47では、ヨー角速度センサ20からのヨー角速度信号Yの方向Nにより車両の旋回方向を判定する(S44)。
【0125】
ヨー角速度信号Yの方向Nが時計回りの場合、駆動力制御手段47では、車両が右旋回していると判定し、右調圧バルブ信号RVOに選択したアンダステアクラッチ圧PUに調整するためのバルブ開度に制御する信号を設定し、右調圧バルブ44に出力するとともに(S45)、左調圧バルブ信号LVOにバルブを全閉する信号を設定し、左調圧バルブ46に出力する。すると、駆動力配分装置2では、右油圧クラッチ40がアンダステアクラッチ圧PUとなり、その右油圧クラッチ40の係合力に応じてキャリア部材35の回転数が減速し、その減速に応じて左前輪WLの回転数を右前輪WRの回転数に対して増速し、その増速に応じて左前輪WLの駆動力を右前輪WRの駆動力より大きく配分する。そのため、強ドリフトアウト状態SD1に移行すると車両には急激に増加する右旋回力が作用し、強ドリフトアウト状態SD1から車両の挙動の安定状態に短時間で移行していく(図5参照)。
【0126】
ヨー角速度信号Yの方向Nが反時計回りの場合、駆動力制御手段47では、車両が左旋回していると判定し、左調圧バルブ信号LVOに選択したアンダステアクラッチ圧PUに調整するためのバルブ開度に制御する信号を設定し、左調圧バルブ46に出力するとともに(S46)、右調圧バルブ信号RVOにバルブを全閉する信号を設定し、右調圧バルブ44に出力する。すると、駆動力配分装置2では、左油圧クラッチ42がアンダステアクラッチ圧PUとなり、その左油圧クラッチ42の係合力に応じてキャリア部材35の回転数が増速し、その増速に応じて右前輪WRの回転数を左前輪WLの回転数に対して増速し、その増速に応じて右前輪WRの駆動力を左前輪WLの駆動力より大きく配分する。そのため、強ドリフトアウト状態SD2に移行すると車両には急激に増加する左旋回力が作用し、強ドリフトアウト状態SD2から車両の挙動の安定状態に短時間で移行していく(図5参照)。
【0127】
車両状態フラグ信号CFにカウンタ過大状態C1,C2が設定されている場合、駆動力制御手段47では、角差信号の絶対値|βfr|に基づいて、角差信号絶対値|βfr|−カウンタステアアクラッチ圧PC特性データ(図19参照)からカウンタステアクラッチ圧PCを選択する(S47)。
【0128】
続いて、駆動力制御手段47では、ヨー角速度センサ20からのヨー角速度信号Yの方向Nにより車両の旋回方向を判定する(S48)。
【0129】
ヨー角速度信号Yの方向Nが時計回りの場合、駆動力制御手段47では、車両が右旋回していると判定し、左調圧バルブ信号LVOに選択したカウンタステアクラッチ圧PCに調整するためのバルブ開度に制御する信号を設定し、左調圧バルブ46に出力するとともに(S49)、右調圧バルブ信号RVOにバルブを全閉する信号を設定し、右調圧バルブ44に出力する。すると、駆動力配分装置2では、左油圧クラッチ42がカウンタステアクラッチ圧PCとなり、その左油圧クラッチ42の係合力に応じてキャリア部材35の回転数が増速し、その増速に応じて右前輪WRの回転数を左前輪WLの回転数に対して増速し、その増速に応じて右前輪WRの駆動力を左前輪WLの駆動力より大きく配分する。そのため、カウンタ過大状態C2に移行すると車両には急激に増加する左旋回力が作用し、カウンタ過大状態C2から車両の挙動の安定状態に短時間で移行していく(図5参照)。
【0130】
ヨー角速度信号Yの方向Nが反時計回りの場合、駆動力制御手段47では、車両が左旋回していると判定し、右調圧バルブ信号RVOに選択したカウンタステアクラッチ圧PCに調整するためのバルブ開度に制御する信号を設定し、右調圧バルブ44に出力するとともに(S50)、左調圧バルブ信号LVOにバルブを全閉する信号を設定し、左調圧バルブ46に出力する。すると、駆動力配分装置2では、右油圧クラッチ40がカウンタステアクラッチ圧PCとなり、その右油圧クラッチ40の係合力に応じてキャリア部材35の回転数が減速し、その減速に応じて左前輪WLの回転数を右前輪WRの回転数に対して増速し、その増速に応じて左前輪WLの駆動力を右前輪WRの駆動力より大きく配分する。そのため、カウンタ過大状態C1に移行すると車両には急激に増加する右旋回力が作用し、カウンタ過大状態C1から車両の挙動の安定状態に短時間で移行していく(図5参照)。
【0131】
車両状態フラグ信号CFにスピン状態SP1,SP2が設定されている場合、駆動力制御手段47では、角差信号の絶対値|βfr|を角差信号βfrと角差しきい値βfr4から、角差信号の絶対値|βfr|=|βfr−βfr4|と演算する(S51)。さらに、駆動力制御手段47では、角差信号の絶対値|βfr|に基づいて、角差信号絶対値|βfr|−オーバステアクラッチ圧PO特性データ(図17参照)からオーバステアクラッチ圧POを選択する(S52)。
【0132】
続いて、駆動力制御手段47では、ヨー角速度センサ20からのヨー角速度信号Yの方向Nにより車両の旋回方向を判定する(S53)。
【0133】
ヨー角速度信号Yの方向Nが時計回りの場合、駆動力制御手段47では、車両が右旋回していると判定し、左調圧バルブ信号LVOに選択したオーバステアクラッチ圧POに調整するためのバルブ開度に制御する信号を設定し、左調圧バルブ46に出力するとともに(S54)、右調圧バルブ信号RVOにバルブを全閉する信号を設定し、右調圧バルブ44に出力する。すると、駆動力配分装置2では、左油圧クラッチ42がオーバステアクラッチ圧POとなり、その左油圧クラッチ42の係合力に応じてキャリア部材35の回転数が増速し、その増速に応じて右前輪WRの回転数を左前輪WLの回転数に対して増速し、その増速に応じて右前輪WRの駆動力を左前輪WLの駆動力より大きく配分する。そのため、スピン状態SP1に移行すると車両には急激に増加する左旋回力が作用し、スピン状態SP1から車両の挙動の安定状態に短時間で移行していく(図5参照)。
【0134】
ヨー角速度信号Yの方向Nが反時計回りの場合、駆動力制御手段47では、車両が左旋回していると判定し、右調圧バルブ信号RVOに選択したオーバステアクラッチ圧POに調整するためのバルブ開度に制御する信号を設定し、右調圧バルブ44に出力するとともに(S55)、左調圧バルブ信号LVOにバルブを全閉する信号を設定し、左調圧バルブ46に出力する。すると、駆動力配分装置2では、右油圧クラッチ40がオーバステアクラッチ圧POとなり、その右油圧クラッチ40の係合力に応じてキャリア部材35の回転数が減速し、その減速に応じて左前輪WLの回転数を右前輪WRの回転数に対して増速し、その増速に応じて左前輪WLの駆動力を右前輪WRの駆動力より大きく配分する。そのため、スピン状態SP2に移行すると車両には急激に増加する右旋回力が作用し、スピン状態SP2から車両の挙動の安定状態に短時間で移行していく(図5参照)。
【0135】
第1の実施の形態に係る車両の運転制御装置では、電動パワーステアリング装置1による補正制御を開始したときより車両の挙動がさらに不安定側(スピン状態SP1,SP2、強ドリフトアウト状態SD1,SD2、カウンタ過大状態C1,C2)に移行してから駆動力配分装置2による駆動力制御を開始する。そのため、この車両の運転制御装置では、電動パワーステアリング装置1による補正制御が開始して車両の挙動がさらに不安定状態になるまで、駆動力配分装置2による旋回力(操舵力)が車両に作用しない。その結果、ドライバによるカウンタステア操作や弱ドリフトアウト状態WD1,WD2におけるドライバによる切れ角δを減少させるステアリング操作を駆動力配分装置2による旋回力で阻害しないので、ドライバは良好なステアリングフィールを得ることができる。また、ドライバによるステアリング操作を車両による強制旋回力で阻害しないので、車両の挙動の安定状態への復帰も早くなる。
【0136】
最後に、図2〜図5、図8〜図9、図19および図21〜図22を参照して、駆動力配分装置2の駆動力制御手段47での第2の実施の形態に係る動作を図20のフローチャートに沿って説明する。図20は、駆動力制御手段47の第2の実施の形態の動作フローチャートである。
【0137】
駆動力制御手段47では、車両状態フラグ信号CFに基づいて、車両の状態を判定する(S60)。
【0138】
そして、車両状態フラグ信号CFにアンダステア状態U1,U2が設定されている場合、駆動力制御手段47では、車両の挙動としては安定状態なので駆動力制御を行わないと判定し、右調圧バルブ信号RVOおよび左調圧バルブ信号LVOにバルブを全閉する信号を設定する。すると、駆動力配分装置2では、右油圧クラッチ40および左油圧クラッチ42がともに非係合状態となり、右前輪WRの駆動力と左前輪WLの駆動力とを等配分する。
【0139】
一方、車両状態フラグ信号CFにアンダステア状態U1,U2以外の状態が設定されている場合、駆動力制御手段47では、車両の挙動としては不安定状態になったと判定し、駆動力制御を行う。
【0140】
車両状態フラグ信号CFに弱ドリフトアウト状態WD,WD2または強ドリフトアウト状態SD1,SD2が設定されている場合、駆動力制御手段47では、切れ角センサ19からの切れ角信号δにより、切れ角信号δ−角差しきい値βfr2特性データ(図9参照)から角差しきい値βfr2を選択する(S61)。そして、駆動力制御手段47では、角差信号の絶対値|βfr|を角差信号βfrと角差しきい値βfr2から、角差信号の絶対値|βfr|=|βfr−βfr2|と演算する(S62)。さらに、駆動力制御手段47では、角差信号の絶対値|βfr|に基づいて、角差信号絶対値|βfr|−アンダステアクラッチ圧PU特性データ(図22参照)からアンダステアクラッチ圧PUを選択する(S63)。
【0141】
続いて、駆動力制御手段47では、ヨー角速度センサ20からのヨー角速度信号Yの方向Nにより車両の旋回方向を判定する(S64)。
【0142】
ヨー角速度信号Yの方向Nが時計回りの場合、駆動力制御手段47では、車両が右旋回していると判定し、右調圧バルブ信号RVOに選択したアンダステアクラッチ圧PUに調整するためのバルブ開度に制御する信号を設定し、右調圧バルブ44に出力するとともに(S65)、左調圧バルブ信号LVOにバルブを全閉する信号を設定し、左調圧バルブ46に出力する。すると、駆動力配分装置2では、右油圧クラッチ40がアンダステアクラッチ圧PUとなり、その右油圧クラッチ40の係合力に応じてキャリア部材35の回転数が減速し、その減速に応じて左前輪WLの回転数を右前輪WRの回転数に対して増速し、その増速に応じて左前輪WLの駆動力を右前輪WRの駆動力より大きく配分する。そのため、弱ドリフトアウト状態WD1に移行すると車両には徐々に増加する小さな右旋回力が作用し、弱ドリフトアウト状態WD1ではドライバのステアリング操作による操舵力が主に作用して車両の挙動の安定状態に移行していく。さらに、強ドリフトアウト状態SD1に移行すると車両には急激に増加する右旋回力が作用し、強ドリフトアウト状態SD1から車両の挙動の安定状態に短時間で移行していく(図5参照)。
【0143】
ヨー角速度信号Yの方向Nが反時計回りの場合、駆動力制御手段47では、車両が左旋回していると判定し、左調圧バルブ信号LVOに選択したアンダステアクラッチ圧PUに調整するためのバルブ開度に制御する信号を設定し、左調圧バルブ46に出力するとともに(S66)、右調圧バルブ信号RVOにバルブを全閉する信号を設定し、右調圧バルブ44に出力する。すると、駆動力配分装置2では、左油圧クラッチ42がアンダステアクラッチ圧PUとなり、その左油圧クラッチ42の係合力に応じてキャリア部材35の回転数が増速し、その増速に応じて右前輪WRの回転数を左前輪WLの回転数に対して増速し、その増速に応じて右前輪WRの駆動力左右前輪WLの駆動力より大きく配分する。そのため、弱ドリフトアウト状態WD2に移行すると車両には徐々に増加する小さな左旋回力が作用し、弱ドリフトアウト状態WD2ではドライバのステアリング操作による操舵力が主に作用して車両の挙動の安定状態に移行していく。さらに、強ドリフトアウト状態SD2に移行すると車両には急激に増加する左旋回力が作用し、強ドリフトアウト状態SD2から車両の挙動の安定状態に短時間で移行していく(図5参照)。
【0144】
車両状態フラグ信号CFにカウンタ過大状態C1,C2が設定されている場合、ステップS67〜S70による駆動力制御手段47の動作は、第1の実施の形態に係るステップS47〜50による駆動力制御手段47の動作と同様の動作なので、説明を省略する。
【0145】
車両状態フラグ信号CFにオーバステア移行状態T1,T2、オーバステア状態O1,O2またはスピン状態SP1,SP2が設定されている場合、駆動力制御手段47では、切れ角センサ19からの切れ角信号δにより、切れ角信号δ−角差しきい値βfr1特性データ(図8参照)から角差しきい値βfr1を選択する(S71)。そして、駆動力制御手段47では、角差信号の絶対値|βfr|を角差信号βfrと角差しきい値βfr1から、角差信号の絶対値|βfr|=|βfr−βfr1|と演算する(S72)。さらに、駆動力制御手段47では、角差信号の絶対値|βfr|に基づいて、角差信号絶対値|βfr|−オーバステアクラッチ圧PO特性データ(図21参照)からオーバステアクラッチ圧POを選択する(S73)。
【0146】
続いて、駆動力制御手段47では、ヨー角速度センサ20からのヨー角速度信号Yの方向Nにより車両の旋回方向を判定する(S74)。
【0147】
ヨー角速度信号Yの方向Nが時計回りの場合、駆動力制御手段47では、車両が右旋回していると判定し、左調圧バルブ信号LVOに選択したオーバステアクラッチ圧POに調整するためのバルブ開度に制御する信号を設定し、左調圧バルブ46に出力するとともに(S75)、右調圧バルブ信号RVOにバルブを全閉する信号を設定し、右調圧バルブ44に出力する。すると、駆動力配分装置2では、左油圧クラッチ42がオーバステアクラッチ圧POとなり、その左油圧クラッチ42の係合力に応じてキャリア部材35の回転数が増速し、その増速に応じて右前輪WRの回転数を左前輪WLの回転数に対して増速し、その増速に応じて右前輪WRの駆動力を左前輪WLの駆動力より大きく配分する。そのため、オーバステア移行状態T1またはオーバステア状態O1に移行すると車両には徐々に増加する小さな左旋回力が作用し、オーバステア移行状態T1またはオーバステア状態O1ではドライバのステアリング操作による操舵力が主に作用して車両の挙動の安定状態に移行していく。さらに、スピン状態SP1に移行すると車両には急激に増加する左旋回力が作用し、スピン状態SP1から車両の挙動の安定状態に短時間で移行していく(図5参照)。
【0148】
ヨー角速度信号Yの方向Nが反時計回りの場合、駆動力制御手段47では、車両が左旋回していると判定し、右調圧バルブ信号RVOに選択したオーバステアクラッチ圧POに調整するためのバルブ開度に制御する信号を設定し、右調圧バルブ44に出力するとともに(S76)、左調圧バルブ信号LVOにバルブを全閉する信号を設定し、左調圧バルブ46に出力する。すると、駆動力配分装置2では、右油圧クラッチ40がオーバステアクラッチ圧POとなり、その右油圧クラッチ40の係合力に応じてキャリア部材35の回転数が減速し、その減速に応じて左前輪WLの回転数を右前輪WRの回転数に対して増速し、その増速に応じて左前輪WLの駆動力を右前輪WRの駆動力より大きく配分する。そのため、オーバステア移行状態T2またはオーバステア状態O2に移行すると車両には徐々に増加する小さな右旋回力が作用し、オーバステア移行状態T2またはオーバステア状態O2ではドライバのステアリング操作による操舵力が主に作用して車両の挙動の安定状態に移行していく。さらに、スピン状態SP2に移行すると車両には急激に増加する右旋回力が作用し、スピン状態SP2から車両の挙動の安定状態に短時間で移行していく(図5参照)。
【0149】
第2の実施の形態に係る車両の運転制御装置では、車両の挙動が不安定状態に移行した場合、電動パワーステアリング装置1による補正制御を開始したときより車両の挙動がさらに不安定側(スピン状態SP1,SP2、強ドリフトアウト状態SD1,SD2、カウンタ過大状態C1,C2)に移行するまで駆動力配分装置2による左右前輪WL,WRの駆動力差を小さく抑える。そのため、この車両の運転制御装置では、電動パワーステアリング装置1による補正制御が開始して車両の挙動がさらに不安定状態になるまで、駆動力配分装置2による小さな旋回力(操舵力)しか車両に作用しない。その結果、ドライバによるカウンタステア操作や弱ドリフトアウト状態WD1,WD2におけるドライバによる切れ角δを減少させるステアリング操作を駆動力配分装置2による旋回力で殆ど阻害しないので、ドライバは良好なステアリングフィールを得ることができる。また、ドライバによるステアリング操作を車両による強制旋回力で殆ど阻害しないので、車両の挙動の安定状態への復帰も早くなる。
【0150】
以上、本発明の実施の形態について説明したが、本発明は、前記の実施の形態に限定されることなく、様々な形態で実施される。
例えば、本実施の形態では左右の駆動輪の駆動力配分を制御する装置に適用したが、左右輪間あるいは前後輪間の制動力配分を制御する装置、または左右輪間あるいは前後輪間の制動力および駆動力配分を制御する装置にも適用可能である。
また、本実施の形態では右油圧クラッチと左油圧クラッチのクラッチ圧を検索するマップを共通のマップとしたが、右油圧クラッチと左油圧クラッチの特性や各ギヤ間のギヤ比等を考慮して別々のマップとしてもよい。
また、本実施の形態では右油圧クラッチおよび左油圧クラッチのクラッチ圧(係合力)を駆動力制御手段で設定した右調圧バルブ信号および左調圧バルブ信号により制御するとしか記載しなかったが、さらに、右油圧クラッチおよび左油圧クラッチのクラッチ圧をセンサによって検出するかあるいは右調圧バルブおよび左調圧バルブの開度をセンサによって検出し、このセンサによる検出値を利用してフィードバック制御するようにしてもよい。
【0151】
【発明の効果】
本発明の請求項1に係る車両の運転制御装置は、車両挙動判定部を共有することにより、制動力・駆動力が作用する領域と、電動パワーステアリング装置の車両挙動を補正する補正部が作用する車両挙動の範囲がわかるため、制動力(または駆動力)により発生する操舵力を予め考慮した電動パワーステアリング装置の補助トルクを設定することができ、車両挙動不安定量が増加する前の段階から制動力(または駆動力)及び電動パワーステアリング装置の補助トルクを発生させることができ、ドライバのステアリングフィールを阻害せずに車両挙動不安定量を減少させることができる。
又、車両挙動不安定量が増加した場合においても、制動力(または駆動力)により発生する操舵力を予め考慮した上で、電動パワーステアリング装置の補助トルクを大きくすることで、ドライバのステアリングフィールを阻害することなく、ドライバに対し、車両挙動不安定量を減少させる方向に操舵を促すことができる。
【0152】
本発明の請求項2に係る車両の運転制御装置は、制動力・駆動力制御手段による制御開始時点を電動パワーステアリング装置での補正開始時点よりも車両の挙動の不安定側にすることによって、制動力および駆動力の少なくとも一方の制御が開始するまで補正された補助トルクによりドライバにステアリングホイールを介して路面反力の変化を正確に伝達することができる。そのため、ドライバは、ステアリングフィールを阻害されることなく、車両の挙動を安定側に戻すためのステアリング操作を行うことができる。
【0153】
本発明の請求項3に係る車両の運転制御装置は、車両挙動不安定量の増加に応じて制動力および駆動力の少なくとも一方の制御量を徐々に増加することによって、制動力および駆動力の少なくとも一方の制御が車両に強く作用するまで補正された補助トルクによりドライバにステアリングホイールを介して路面反力の変化を伝達することできる。そのため、ドライバは、ステアリングフィールを阻害されることなく、車両の挙動を安定側に戻すためのステアリング操作を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本実施の形態に係る電動パワーステアリング装置の全体構成図である。
【図2】本実施の形態に係る駆動力配分装置の全体構成図である。
【図3】図1の電動パワーステアリング装置の制御手段の構成図および制御手段と駆動力配分装置の駆動力制御手段との関係図である。
【図4】車両のモデル図(二輪モデル)である。
【図5】本実施の形態に係る車両の運転状態図である。
【図6】図3の制御手段の車両挙動判定部の動作フローチャートである。
【図7】図3の制御手段の補正部の動作フローチャートである。
【図8】本実施の形態に係る切れ角信号δ−角差しきい値βfr1特性マップである。
【図9】本実施の形態に係る切れ角信号δ−角差しきい値βfr2特性マップである。
【図10】本実施の形態に係る切れ角信号δ−角差しきい値βfr3特性マップである。
【図11】本実施の形態に係る角差信号絶対値|βfr|−オーバステア補正量DO特性マップである。
【図12】本実施の形態に係る角差信号絶対値|βfr|−アンダステア補正量DU特性マップである。
【図13】本実施の形態に係る角差信号絶対値|βfr|−カウンタステア補正量DC特性マップである。
【図14】本実施の形態に係る車速信号V−車速係数Kr特性マップである。
【図15】本実施の形態に係る角差変化量Dv−角差変化係数Kv特性マップである。
【図16】図3の駆動力制御手段の第1の実施の形態の動作フローチャートである。
【図17】第1の実施の形態に係る角差信号絶対値|βfr|−オーバステアクラッチ圧PO特性マップである。
【図18】第1の実施の形態に係る角差信号絶対値|βfr|−アンダステアクラッチ圧PU特性マップである。
【図19】実施の形態に係る角差信号絶対値|βfr|−カウンタステアクラッチ圧PC特性マップである。
【図20】図3の駆動力制御手段の第2の実施の形態の動作フローチャートである。
【図21】第2の実施の形態に係る角差信号絶対値|βfr|−オーバステアクラッチ圧PO特性マップである。
【図22】第2の実施の形態に係る角差信号絶対値|βfr|−アンダステアクラッチ圧PU特性マップである。
【符号の説明】
1・・・電動パワーステアリング装置
2・・・駆動力配分装置
13・・・制御手段
13a・・・目標トルク信号設定部
13c・・・車両挙動判定部
13d・・・補正部
15・・・電動機
14・・・電動機駆動手段
17・・・操舵トルクセンサ
47・・・駆動力制御手段(制動力・駆動力制御手段)
S・・・ステアリング系
Claims (3)
- 車両挙動判定部と、電動パワーステアリング装置と、制動力・駆動力制御手段とを含んでなり、
車両の挙動について、ニュートラルステア状態、および、アンダステア状態のいずれかを安定状態とし、
車両の挙動について、弱ドリフトアウト状態、強ドリフトアウト状態、カウンタ過大状態、オーバステア移行状態、オーバステア状態、および、スピン状態のいずれかを不安定状態とし、
この状態に基づいて、前記電動パワーステアリング装置の制御と、前記制動力・駆動力制御手段の制御を行う車両の運転制御装置であって、
前記車両挙動判定部は、
車両挙動検出手段が検出した車両挙動信号の値によって、前輪および後輪の滑り角の角差と前輪の切れ角との関係を求め、その関係から、ニュートラルステア状態、アンダステア状態、弱ドリフトアウト状態、強ドリフトアウト状態、カウンタ過大状態、オーバステア移行状態、オーバステア状態、および、スピン状態のいずれかを示す車両の挙動を判定し、
前記電動パワーステアリング装置は、
少なくともステアリング系の操舵トルクを検出する操舵トルクセンサからの操舵トルク信号に基づいて目標トルク信号を設定する目標トルク信号設定部、および、前記車両挙動判定部で判定した車両の挙動が不安定状態のときは安定状態に戻すように補正量を設定して前記目標トルク信号を補正する補正部を有する制御手段と、
前記補正した目標トルク信号に基づいて前記ステアリング系に補助トルクを付加する電動機を駆動する電動機駆動手段とを備え、
前記制動力・駆動力制御手段は、
前記車両挙動判定部で判定した車両の挙動に基づいて、車両の制動力および駆動力の少なくとも一方を制御する構成を備え、
前記車両の運転制御装置は、
前記車両の挙動が不安定状態であって、弱ドリフトアウト状態、オーバステア移行状態またはオーバステア状態の場合には、前記電動パワーステアリング装置による制御を優先させ、
前記車両の挙動が不安定状態であって、強ドリフトアウト状態、カウンタ過大状態またはスピン状態の場合には、前記制動力・駆動力制御手段による制御を優先させる、
ことを特徴とする車両の運転制御装置。 - 請求項1に記載の車両の運転制御装置であって、
前記電動パワーステアリングの前記補正部での補正を開始した後に、当該補正部での補正開始時点よりも車両の挙動がさらに不安定側に移行するまでは、前記制動力・駆動力制御手段による制御よりも前記電動パワーステアリングによる制御を優先させる、
ことを特徴とする車両の運転制御装置。 - 請求項1に記載の車両の運転制御装置であって、
前記車両の挙動が不安定状態であって、弱ドリフトアウト状態、オーバステア移行状態またはオーバステア状態の場合に、前記電動パワーステアリング装置による制御を優先させているときに、前記車両挙動検出手段が検出した車両挙動信号の値の増加に応じて、前記電動パワーステアリング装置による制御量を増加させ、
前記車両の挙動が不安定状態であって、強ドリフトアウト状態、カウンタ過大状態またはスピン状態の場合には、前記制動力・駆動力制御手段による制御を優先させているときに、前記車両挙動検出手段が検出した車両挙動信号の値の増加に応じて、前記制動力・駆動力制御手段による制御量を増加させる、
ことを特徴とする車両の運転制御装置。
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