上述したように、上記の特許文献に記載されているような従来の静電噴霧装置では、液体の霧化が行われる細径管の先端へ液体を供給するために、ポンプやモータ等を利用している。このため、ポンプやモータ等の液体を供給するための部材が必要となり、静電噴霧装置の構成の複雑化や製造コストの上昇を招くおそれがあった。また、ポンプやモータ等が故障すると液体を噴霧できなくなるため、静電噴霧装置の信頼性を確保しにくくなるという問題もあった。
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的は、静電噴霧装置の構成の簡素化や製造コストの低減、更には信頼性の向上を図ることにある。
第1乃至第3の各発明は、液体を貯留する容器部材(20)と、上記容器部材(20)の内部空間に連通する管状のノズル部材(31)と、上記ノズル部材(31)内の液体に接する第1電極(31,37)と、上記ノズル部材(31)内の液体から絶縁された第2電極(35,38,60,61)とを備え、上記第1電極(31,37)と上記第2電極(35,38,60,61)の間に電位差が与えられると上記ノズル部材(31)の先端から液体が噴霧される静電噴霧装置を対象とする。そして、上記ノズル部材(31)は、その先端が上記容器部材(20)内における液面(51)よりも低い位置に設けられるものである。
第1乃至第3の各発明では、容器部材(20)内の液体がノズル部材(31)へ流入する。第1電極(31,37)と第2電極(35,38,60,61)の間に電位差を与えると、ノズル部材(31)の先端で液体が霧化され、微細な液滴となった液体がノズル部材(31)の先端から噴霧される。この発明では、ノズル部材(31)の先端が容器部材(20)の内部空間における液面(51)よりも低い位置に設けられており、ノズル部材(31)の先端と容器部材(20)内の液面(51)との間にヘッド差がある。液体が霧化されるノズル部材(31)の先端へは、このヘッド差によって容器部材(20)内の液体が供給される。
第1の発明は、上述の構成に加えて、上記第1電極(31,37)と上記第2電極(35,38,60,61)が同電位となった状態では、上記ノズル部材(31)の先端の気液界面(52)において液圧と表面張力が均衡することによって該ノズル部材(31)の先端からの液体の流出が阻止されるように構成されるものである。
第1の発明において、第1電極(31,37)と第2電極(35,38,60,61)の間に電位差が無い状態になると、ノズル部材(31)の先端に形成された気液界面(52)では、その気液界面(52)にそれぞれ作用する液圧と表面張力が均衡する。つまり、第1電極(31,37)と第2電極(35,38,60,61)が同電位であるときにノズル部材(31)の先端の気液界面(52)で液圧と表面張力が均衡するように、霧化される液体の粘度等の物性に応じて、例えば容器部材(20)における液面(51)高さの最大値やノズル部材(31)の内径などが設定される。そして、ノズル部材(31)の先端の気液界面(52)で液圧と表面張力が均衡している状態では、ノズル部材(31)の先端の気液界面(52)に液圧が作用していても、ノズル部材(31)の先端から液体が流出しない。
第2の発明は、上述の構成に加えて、少なくとも上記第1電極(31,37)に電圧を印加して該第1電極(31,37)と上記第2電極(35,38,60,61)の間に電位差を与える電源(16)と、上記電源(16)のオンオフを繰り返すと共に、該電源(16)をオンしている時間とオフしている時間に関するデューティー比を上記容器部材(20)内における液面(51)の高さに応じて調節する制御手段(17)とを備えるものである。
第2の発明では、制御手段(17)が電源(16)のオン/オフを繰り返し行う。電源(16)をオンすると、少なくとも第1電極(31,37)に電圧が印加される。この電圧の印加によって第1電極(31,37)と第2電極(35,38,60,61)の間に電位差が付与され、ノズル部材(31)の先端から噴霧が行われる。また、電源(16)のオフすると、第1電極(31,37)と第2電極(35,38,60,61)が同電位となり、ノズル部材(31)からの噴霧が停止する。電源(16)のオン/オフに関するデューティー比を変更すると、単位時間あたりにノズル部材(31)からの噴霧が行われる時間が変化し、単位時間あたりのノズル部材(31)からの噴霧量が変化する。この発明において、制御手段(17)は、電源(16)のオン/オフに関するデューティー比を、容器部材(20)内における液面(51)の高さに応じて調節する。
第3の発明は、上述の構成に加えて、少なくとも上記第1電極(31,37)に電圧を印加して該第1電極(31,37)と上記第2電極(35,38,60,61)の間に電位差を与える電源(16)を備え、上記電源(16)をオンした状態では、上記第1電極(31,37)と上記第2電極(35,38,60,61)との電位差が3kV以上でコロナ放電が起こり始める値未満となっているものである。
第3の発明において、電源(16)をオンすると、少なくとも第1電極(31,37)に電圧が印加される。この電圧の印加によって第1電極(31,37)と第2電極(35,38,60,61)の間に電位差が付与され、ノズル部材(31)の先端から噴霧が行われる。電源(16)をオフすると、第1電極(31,37)と第2電極(35,38,60,61)が同電位となり、ノズル部材(31)からの噴霧が停止する。電源(16)をオンした状態において、第1電極(31,37)と第2電極(35,38,60,61)の間に与えられる電位差の値は、所定の範囲内に設定される。なお、第1電極(31,37)と第2電極(35,38,60,61)の間でコロナ放電が起こり始める電位差の値は、第1電極(31,37)と第2電極(35,38,60,61)の距離によって異なる。
第4の発明は、上記第1乃至第3の何れか1つの発明において、上記ノズル部材(31)の先端は、上記容器部材(20)の底面(22)よりも低い位置に設けられるものである。
第4の発明では、ノズル部材(31)の先端が容器部材(20)の底面(22)よりも低く配置されている。このため、ほぼ全ての液体が容器部材(20)から流出しても、ノズル部材(31)の先端が液体で満たされた状態に保たれる。
第5の発明は、上記第1乃至第3の何れか1つの発明において、上記第2電極(35)は、円環状に形成されて上記ノズル部材(31)と同軸に配置されるものである。
第5の発明では、第2電極(35)が円環状に形成される。この第2電極(35)は、その中心軸がノズル部材(31)の中心軸と一致する姿勢で配置される。
第6の発明は、上記第1乃至第3の何れか1つの発明において、上記第2電極(60,61)は、突端部(65)を備えており、該突端部(65)が上記ノズル部材(31)の側方に位置するように配置されるものである。
第6の発明では、第2電極(60,61)に突端部(65)が形成される。この突端部(65)は、ノズル部材(31)の側方に位置している。第1電極(31,37)と第2電極(60,61)の間に電位差を与えると、第2電極(60,61)の突端部(65)と第1電極(31,37)の間に電界が形成され、ノズル部材(31)から液体が噴霧されてゆく。
第7の発明は、上記第6の発明において、上記第2電極(60)は、棒状に形成されており、その先端が上記突端部(65)となるものである。
第7の発明では、棒状に形成された第2電極(60)の先端が突端部(65)となる。つまり、第1電極(31,37)と第2電極(60,61)の間に電位差を与えると、第2電極(60,61)の先端と第1電極(31,37)の間に電界が形成される。
第8の発明は、上記第1乃至第7の何れか1つの発明において、上記ノズル部材(31)は導電性材料で構成されており、該ノズル部材(31)が上記第1電極(31,37)を兼ねるものである。
第8の発明では、導電性材料からなるノズル部材(31)が第1電極(31,37)を兼ねている。この発明の静電噴霧装置(10)において、第1電極(31,37)を兼ねるノズル部材(31)と第2電極(35,38,60,61)との間に電位差が与えられると、ノズル部材(31)の先端で液体が霧化されて放出される。
上記第8の発明では、上記ノズル部材(31)の先端と上記第2電極(35,38,60,61)との距離を5mm以上20mm以下としてもよい。
この場合は、第1電極(31,37)を兼ねるノズル部材(31)の先端と第2電極(35,38,60,61)との距離が所定範囲内の値に設定される。ここで、ノズル部材(31)の先端と第2電極(35,38,60,61)との距離が近すぎると、ノズル部材(31)と第2電極(35,38,60,61)の間でコロナ放電が起こり始める電位差の値が小さくなる。そして、コロナ放電の発生を避けようとすると、ノズル部材(31)と第2電極(35,38,60,61)の間に充分な電位差を与えるのが困難となり、ノズル部材(31)の先端から液体を安定して噴霧できなくなるおそれがある。一方、ノズル部材(31)の先端と第2電極(35,38,60,61)との距離が遠すぎると、ノズル部材(31)と第2電極(35,38,60,61)の間に与える必要のある電位差が大きくなり過ぎ、電位差を与えるための電源(16)が大型化する等の問題を招くおそれがある。上記のような事情を考慮すれば、ノズル部材(31)の先端と第2電極(35,38,60,61)との距離を5mm以上20mm以下とするのが望ましい。
また、上記第8の発明では、上記ノズル部材(31)は、その先端の肉厚を0.2mm以下としてもよい。
この場合は、ノズル部材(31)の先端の肉厚が所定範囲内の値に設定される。つまり、ノズル部材(31)は、その全体に亘って肉厚が0.2mm以下である必要はなく、その最先端部分の肉厚が0.2mm以下であればよい。ここで、ノズル部材(31)の先端の肉厚が大きすぎると、ノズル部材(31)の先端への電界の不平等性が弱くなり、ノズル部材(31)の先端からの噴霧が安定的に行われなくなるおそれがある。上記のような事情を考慮すれば、ノズル部材(31)の先端の肉厚を0.2mm以下とするのが望ましい。
また、上記第8の発明では、上記ノズル部材(31)は、その内径を0.3mm以上1.0mm以下としてもよい。
この場合は、ノズル部材(31)の内径が所定範囲内の値に設定される。ここで、ノズル部材(31)の内径が小さすぎると、ノズル部材(31)の先端の気液界面(52)における表面張力が大きくなり過ぎ、ノズル部材(31)の先端から液体を安定して噴霧できなくなるおそれがある。また、ノズル部材(31)の内径が小さすぎると、ノズル部材(31)が目詰まりを起こす危険も増大する。一方、ノズル部材(31)の内径が大きすぎると、ノズル部材(31)の先端の気液界面(52)における表面張力が小さくなり過ぎ、この場合もノズル部材(31)の先端における液体の霧化が不安定化するおそれがある。上記のような事情を考慮すれば、ノズル部材(31)の内径を0.3mm以上1.0mm以下とするのが望ましい。
第9の発明は、上記第8の発明において、上記第2電極(35,38,60,61)は、上記ノズル部材(31)の先端から基端側へ後退した位置に設けられるものである。
第9の発明において、第2電極(35,38,60,61)は、ノズル部材(31)の先端の前方ではなく、その後方に配置される。ここで、第2電極(35,38,60,61)がノズル部材(31)の先端よりも前方に配置されていると、ノズル部材(31)の先端から噴霧された液滴が第2電極(35,38,60,61)に付着してしまうおそれがある。そこで、この発明では、ノズル部材(31)の先端よりも後方、即ちノズル部材(31)の基端寄りに第2電極(35,38,60,61)を配置し、ノズル部材(31)の先端から噴霧された液体が第2電極(35,38,60,61)に付着するのを防いでいる。
上記第9の発明では、上記ノズル部材(31)の先端からの上記第2電極(35,38,60,61)の後退距離を3mm以上10mm以下としてもよい。
この場合は、第2電極(35,38,60,61)がノズル部材(31)の先端から所定の距離だけ後退した位置に設けられる。ここで、ノズル部材(31)の先端からの第2電極(35,38,60,61)の後退距離が短すぎると、噴霧に適した電界をノズル部材(31)の先端に形成できなくなるおそれがある。一方、ノズル部材(31)の先端からの第2電極(35,38,60,61)の後退距離が長すぎると、ノズル部材(31)と第2電極(35,38,60,61)の間に与える必要のある電位差が大きくなり過ぎ、電位差を与えるための電源(16)が大型化する等の問題を招くおそれがある。上記のような事情を考慮すれば、ノズル部材(31)の先端からの第2電極(35,38,60,61)の後退距離を3mm以上10mm以下とするのが望ましい。
本発明では、ノズル部材(31)の先端を容器部材(20)内における液面(51)よりも低く配置し、ノズル部材(31)の先端と容器部材(20)内の液面(51)との間のヘッド差によってノズル部材(31)の先端へ容器部材(20)内の液体を供給している。このため、本発明によれば、ポンプやモータを用いた押し出し機構などを用いずに、容器部材(20)内からノズル部材(31)の先端へ液体を供給することができる。従って、本発明によれば、容器部材(20)内からノズル部材(31)の先端へ液体を送り込むためのポンプ等を省略することができ、静電噴霧装置(10)の構成の簡素化や製造コストの低減を図ることができる。
ここで、ポンプ等を用いてノズルへ液体を供給する従来の静電噴霧装置では、ポンプ等が故障すると液体を霧化できなくなる。これに対し、本発明によれば、ポンプ等の液体を供給するための部材を設ける必要が無くなる。このため、そのような部材の故障によって静電噴霧装置(10)の機能が失われることもなくなり、静電噴霧装置(10)の信頼性を向上させることができる。
上記第1の発明では、第1電極(31,37)と第2電極(35,38,60,61)が同電位になるとノズル部材(31)の先端に形成された気液界面(52)で液圧と表面張力が均衡し、それによってノズル部材(31)からの液体の流出が阻止される。このため、容器部材(20)からノズル部材(31)への液体を供給にヘッド差を利用する本発明の静電噴霧装置(10)において、第1電極(31,37)と第2電極(35,38,60,61)への電位差の付与を停止するだけでノズル部材(31)からの液体の流出を停止させることができる。従って、この発明によれば、静電噴霧装置(10)の停止中におけるノズル部材(31)からの液体の漏洩を防ぐための構成を設ける必要が無くなり、静電噴霧装置(10)の構成を一層簡素化することができる。
ここで、ノズル部材(31)からの噴霧を続けると、容器部材(20)内での液面(51)高さが低下してゆく。本発明の静電噴霧装置(10)において、容器部材(20)内における液面(51)の高さが変化すると、ノズル部材(31)の先端と容器部材(20)内の液面(51)との間のヘッド差が変化する。このため、何の対策も講じなければ、容器部材(20)からノズル部材(31)への液体の流入量が変化し、それに伴ってノズル部材(31)の先端からの噴霧量が変動するおそれがある。
これに対し、上記第2の発明では、制御手段(17)が、容器部材(20)内における液面(51)高さの変化に応じて、電源(16)がオンされている時間(オン時間)とオフされている時間(オフ時間)についてのデューティー比を調節する。このため、例えば容器部材(20)内における液面(51)高さが低下するのに連動して電源(16)のオン時間とオフ時間についてのデューティー比を大きくすれば、容器部材(20)内における液面(51)高さが変化してもノズル部材(31)からの噴霧量を一定に保つことが可能となる。
上記第3の発明では、第1電極(31,37)と第2電極(35,38,60,61)の間におけるコロナ放電の発生が回避されるように、第1電極(31,37)と第2電極(35,38,60,61)の間に与えられる電位差を所定範囲内の値に設定している。ここで、大気中でコロナ放電が生じると、人体に有害なオゾンが発生するおそれがある。これに対し、この発明によれば、第1電極(31,37)と第2電極(35,38,60,61)の間の電位差を所定範囲内としているため、コロナ放電に起因するオゾンの発生を確実に回避することができる。
上記第4の発明では、ほぼ全ての液体が容器部材(20)から流出してしまったときでも、ノズル部材(31)の先端が液体で満たされた状態に保たれる。従って、この発明によれば、容器部材(20)内の液体を殆ど全てノズル部材(31)から噴霧することができる。
上記第6及び第7の発明では、第2電極(60,61)の突端部(65)と第1電極(31,37)の間に電界が形成される。つまり、この発明では、比較的狭い領域同士の間に電界が形成される。そして、ノズル部材(31)の先端付近の空間では、第2電極(60,61)の突端部(65)と第1電極(31,37)との間の比較的狭い領域に電界が集中することになる。従って、これらの発明によれば、ノズル部材(31)の先端付近に形成される電界を狭い領域に集中させることができ、外的な要因によって電界が多少乱れたとしても、ノズル部材(31)の先端からの噴霧を安定して継続させることができる。
上記第8の発明では、ノズル部材(31)が第1電極(31,37)をも兼ねる構成となっている。従って、この発明によれば、静電噴霧装置(10)の部品点数を削減することができ、静電噴霧装置(10)の更なる簡素化や低コスト化を図ることができる。
上記第9の発明では、ノズル部材(31)の先端よりも後方に第2電極(35,38,60,61)を配置しているため、ノズル部材(31)の先端から噴霧された液体が第2電極(35,38,60,61)に付着するのを防ぐことができる。ここで、液体の付着によって第2電極(35,38,60,61)が汚れると、第2電極(35,38,60,61)と第1電極(31,37)との間の電界が不安定になり、ノズル部材(31)からの噴霧を安定して続けることができなくなるおそれがある。これに対し、この発明によれば、第2電極(35,38,60,61)を清浄な状態に保つことができるため、第2電極(35,38,60,61)と第1電極(31,37)との間に安定した電界を形成し続けることができ、ノズル部材(31)からの液体の噴霧を安定して継続させることができる。
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。
《発明の実施形態1》
本発明の実施形態1について説明する。
図1に示すように、本実施形態の静電噴霧装置(10)は、噴霧カートリッジ(15)と電源(16)と制御器(17)とを備えている。
図2及び図3に示すように、噴霧カートリッジ(15)は、溶液タンク(20)と、ノズルユニット(30)と、電極ホルダー(40)と、リング電極(35)とを備えている。
上記溶液タンク(20)は、容器部材を構成するものであって、タンク本体(21)を備えている。タンク本体(21)は、やや扁平な直方体形状に形成された中空の容器である。
タンク本体(21)の天板には、空気抜き孔(25)が形成されている。タンク本体(21)の底面(22)は、タンク本体(21)の背面(図1における右側面、図2及び図3における奥側の側面)からタンク本体(21)の前面(図1における左側面、図2及び図3における手前側の側面)へ向かって傾斜した傾斜面となっている。そして、タンク本体(21)では、その背面側よりも前面側の方が深くなっている。また、タンク本体(21)の側面は、概ね鉛直面となっている。
上記タンク本体(21)の前面には、管部(23)が設けられている。この管部(23)は、比較的短い円管状に形成されており、タンク本体(21)の前面から概ね水平方向へ突出している。タンク本体(21)の前面において、管部(23)は、該前面の下端寄りで、且つ該前面の幅方向の概ね中央に配置されている。また、タンク本体(21)の前面を形成する壁には貫通孔(24)が形成されており、この貫通孔(24)を介してタンク本体(21)の内部空間と管部(23)とが連通する。貫通孔(24)の下端は、タンク本体(21)の底面(22)よりも僅かに上方に位置している(図1を参照)。
図3及び図4に示すように、上記ノズルユニット(30)は、噴霧ノズル(31)とノズルホルダー(32)とを備えている。
上記噴霧ノズル(31)は、ステンレス製の円管であって、ノズル部材を構成している。一方、上記ノズルホルダー(32)は、円筒型で有底のキャップ状に形成されている。ノズルホルダー(32)は、その内径が管部(23)の外径と概ね等しくなっており、該管部(23)へ被せられている。つまり、ノズルホルダー(32)には、溶液タンク(20)の管部(23)が挿入されている。ノズルホルダー(32)では、その底部(図3における手前側の端部)の中央に噴霧ノズル(31)の基端部が挿入されている。噴霧ノズル(31)の基端部は、ノズルホルダー(32)の底部を貫通している。溶液タンク(20)にノズルユニット(30)を取り付けると、噴霧ノズル(31)がタンク本体(21)の前面から概ね水平方向へ突出した状態となり、更には、噴霧ノズル(31)が管部(23)及び貫通孔(24)を介してタンク本体(21)の内部空間に連通した状態となる。
上記ノズルホルダー(32)には、端子部(33)が設けられている。この端子部(33)は、ノズルホルダー(32)の外周面から突出しており、ノズルホルダー(32)の開口端側(図3における奥側)に配置されている。ノズルホルダー(32)は、端子部(33)を含む全体が導電性樹脂によって構成されている。そして、ノズルホルダー(32)の底部に挿入された噴霧ノズル(31)は、ノズルホルダー(32)と電気的に接続されており、第1電極を構成している。
上記電極ホルダー(40)は、内筒部(41)と外筒部(42)とを備えている。内筒部(41)と外筒部(42)とは、共に円筒状に形成されている。外筒部(42)の内径は、内筒部(41)の外径よりも大きくなっている。内筒部(41)と外筒部(42)とは、互いに同軸に配置されており、それぞれの基端側で互いに連結されて一体化されている。内筒部(41)の内径は、ノズルホルダー(32)の外径と概ね等しくなっている。電極ホルダー(40)は、内筒部(41)及び外筒部(42)の基端側が溶液タンク(20)のタンク本体(21)側を向く姿勢で、その内筒部(41)がノズルホルダー(32)と嵌合することによって、該ノズルホルダー(32)に取り付けられている。この電極ホルダー(40)は、その全体が非導電性の樹脂で構成されている。
上記リング電極(35)は、円環状に形成されている。リング電極(35)には、端子部(36)が設けられている。この端子部(36)は、リング電極(35)の外周からその径方向の外側へ突出している。リング電極(35)は、端子部(36)を含む全体が導電性樹脂によって構成されており、第2電極を構成している。このリング電極(35)は、電極ホルダー(40)の外筒部(42)に取り付けられている。具体的には、外筒部(42)の先端側(図4における左端側)の外周縁部に嵌め込まれている。上述したように、電極ホルダー(40)は、その材質が非導電性の樹脂となっている。従って、リング電極(35)は、噴霧ノズル(31)から電気的に絶縁されている。
なお、上述した噴霧ノズル(31)及びリング電極(35)の材質は、単なる一例である。つまり、噴霧ノズル(31)の材質は、ステンレス以外の導電性材料(例えば導電性樹脂など)であってもよい。また、リング電極(35)の材質は、導電性樹脂以外の導電性材料(例えば金属など)であってもよい。
上記溶液タンク(20)のタンク本体(21)内には、人体に有益な物質の水溶液、例えばアミノ酸の一種であるテアニンの水溶液が貯留されている。タンク本体(21)内における液面(51)の位置は、タンク本体(21)の下部から水平方向へ延びる噴霧ノズル(31)の先端よりも高くなっている。タンク本体(21)内の液面(51)と噴霧ノズル(31)の先端との間にはヘッド差があり、このヘッド差によってタンク本体(21)内の水溶液が噴霧ノズル(31)の先端へ供給される。
第1電極を構成する噴霧ノズル(31)の詳細な形状や、該噴霧ノズル(31)と第2電極を構成するリング電極(35)との詳細な位置関係について、図4及び図5を参照しながら説明する。噴霧ノズル(31)は、その外径が0.7mmであり、その内径(D)が0.4mmである。噴霧ノズル(31)の肉厚(t)は、0.15mmとなっている。噴霧ノズル(31)は、その全長に亘って肉厚が一定となっている。噴霧ノズル(31)の先端の外周縁からリング電極(35)の前面までの直線距離、即ち噴霧ノズル(31)の先端とリング電極(35)との距離(L1)は、5.0mmとなっている。また、リング電極(35)は、噴霧ノズル(31)の先端よりもタンク本体(21)寄りに配置されている。噴霧ノズル(31)の先端面とリング電極(35)の前面との距離、即ち水平方向における噴霧ノズル(31)の先端とリング電極(35)との距離(L2)は、5.0mmとなっている。
上記電源(16)は、直流高電圧電源である。この電源(16)は、その正極端子がノズルホルダー(32)の端子部(33)を介して噴霧ノズル(31)に電気的に接続され、その負極端子がリング電極(35)の端子部(36)に電気的に接続されている。電源(16)の負極端子は、接地(アース)されている。この電源(16)をオンすると、噴霧ノズル(31)に6kV程度の印加される。なお、図1は、ノズルホルダー(32)の端子部(33)の図示を省略したものであり、便宜的に電源(16)を噴霧ノズル(31)に接続した図となっている。
上記制御器(17)は、電源(16)のスイッチングを行うものであって、制御手段を構成している。具体的に、この制御器(17)は、電源(16)のオン/オフを交互に繰り返すように構成されている。また、制御器(17)は、電源(16)をオンしている時間(オン時間)と電源(16)をオフしている時間(オフ時間)の比率、すなわちデューティー比を、溶液タンク(20)内の液面(51)の高さに応じて調節するように構成されている。
−運転動作−
上記静電噴霧装置(10)の運転動作について説明する。この静電噴霧装置(10)では、いわゆるコーンジェットモードのEHD噴霧が行われる。
上述したように、噴霧カートリッジ(15)では、溶液タンク(20)内の液面(51)が噴霧ノズル(31)の先端よりも上に位置しており、溶液タンク(20)内の液面(51)と噴霧ノズル(31)の先端との間にヘッド差がある状態となっている。このため、噴霧ノズル(31)の先端に形成される気液界面(52)には、ヘッド差に起因する液圧が作用している。
電源(16)がオフになった状態(即ち噴霧ノズル(31)とリング電極(35)とが同電位である状態)において、噴霧ノズル(31)の先端に形成された気液界面(52)では、図6(B)に示すように、表面張力とヘッド差に起因する液圧とが均衡した状態となっている。このため、電源(16)をオフした状態でも、噴霧ノズル(31)の先端から水溶液が流出することはない。内径が0.4mmの噴霧ノズル(31)を用いる本実施形態の静電噴霧装置(10)において、テアニン水溶液の濃度が10質量%である場合は、噴霧ノズル(31)の先端の気液界面(52)に20mmH2Oの液圧が作用しても、噴霧ノズル(31)の先端からの水溶液の漏洩が阻止される。
電源(16)がオンになった状態(即ち噴霧ノズル(31)とリング電極(35)との間に電位差が付与された状態)では、噴霧ノズル(31)の先端近傍に電界が形成される。また、噴霧ノズル(31)内の水溶液が分極し、噴霧ノズル(31)の先端の気液界面(52)近傍に+(プラス)の電荷が集まる。そして、噴霧ノズル(31)の先端では、図6(A)に示すように、気液界面(52)が引き延ばされて円錐状となり、この円錐状となった気液界面(52)の頂部から一部の水溶液が引きちぎられるようにして液滴化する。
噴霧ノズル(31)の先端からは、テアニン水溶液の微細な液滴が放出され、この液滴が室内の空気中へ供給される。在室者は、呼吸する際に空気中の液滴を空気と共に吸い込む。在室者に吸い込まれた液滴は、肺胞の粘膜に付着する。液滴に含まれるテアニンは、肺胞の粘膜を通って在室者の体内に取り込まれる。なお、テアニンは、興奮を抑えてリラックスさせる作用があるといわれている。
ここで、吸気中に含まれる液滴を在室者の肺胞へ到達させるには、液滴の直径を所定の範囲内にすることが必要である。つまり、液滴の直径が大きすぎると、在室者に吸い込まれた液滴は、気道の粘膜に捕捉されてしまって肺胞まで到達しない。逆に、液滴の直径が小さすぎると、在室者に吸い込まれた液滴は、肺胞の粘膜に捕捉されずに呼気と共に排出されてしまう。これらの事情を考慮すると、上記静電噴霧装置(10)から噴霧される液滴の直径は、10nm以上5μm以下であるのが望ましく、更には50nm以上2μm以下であるのが一層望ましい。
上述したように、噴霧カートリッジ(15)では、噴霧ノズル(31)の先端から液滴化された水溶液が放出されてゆく。このため、噴霧ノズル(31)内へ水溶液が補給されなければ、噴霧ノズル(31)内の水溶液の量が減少してしまって噴霧を継続できなくなる。一方、この噴霧カートリッジ(15)では、噴霧ノズル(31)の先端が溶液タンク(20)内の液面(51)よりも低い位置に設けられており、溶液タンク(20)内の液面(51)と噴霧ノズル(31)の先端との間にヘッド差がある。そのため、このヘッド差によって噴霧ノズル(31)内へ溶液タンク(20)内の水溶液が噴霧ノズル(31)へ補給され、噴霧ノズル(31)からの噴霧が継続的に行われる。つまり、本実施形態の静電噴霧装置(10)において、溶液タンク(20)内の水溶液を噴霧ノズル(31)へ供給するためのポンプ等の部材は不要である。
−制御器の動作−
上記制御器(17)は、電源(16)のオン/オフを一定の周期で交互に繰り返し行う。この制御器(17)の動作について、図7を参照しながら説明する。
上記制御器(17)は、電源(16)をオンした時刻から時間TONが経過すると電源(16)をオフし、その後は電源(16)をオフ状態に保持し、電源(16)をオフした時刻から時間TOFFが経過すると電源(16)を再びオンする。制御器(17)は、この動作を周期的に繰り返す。このような制御器(17)が行う動作の周期、即ち電源(16)のオン時間TONとオフ時間TOFFとの和T(=TON+TOFF)は、一定である。
ここで、噴霧カートリッジ(15)において噴霧を続けると、溶液タンク(20)内での液面(51)が低下してゆく。そして、噴霧カートリッジ(15)では、溶液タンク(20)内における液面(51)の高さが変化すると、噴霧ノズル(31)の先端と溶液タンク(20)内の液面(51)との間のヘッド差が変化する。このため、何の対策も講じなければ、溶液タンク(20)から噴霧ノズル(31)へ向かう水溶液の流量が変化し、それに伴って噴霧ノズル(31)からの噴霧量も変化してしまう。
そこで、上記制御器(17)は、電源(16)のオン時間とオフ時間に関するデューティー比r(=TON/T)を、溶液タンク(20)内の液面(51)の高さの変化に応じて調節する。具体的に、この制御器(17)は、溶液タンク(20)内の液面(51)が低下するのにつれて、デューティー比rを増大させてゆく。つまり、制御器(17)は、制御器(17)による電源(16)のオン/オフの周期Tに対する電源(16)のオン時間TONの比を次第に大きくしてゆき、電源(16)がオン状態となって噴霧ノズル(31)から液滴が放出されている時間を延長してゆく。
このように、上記制御器(17)は、溶液タンク(20)内の液面(51)の低下に伴って溶液タンク(20)から噴霧ノズル(31)へ向かう水溶液の流量が減少すると、それに応じてデューティー比rを増大させ、噴霧カートリッジ(15)で噴霧が行われている時間を延ばしている。その際、この制御器(17)は、溶液タンク(20)内の液面(51)が低下しても噴霧ノズル(31)からの噴霧量が一定に保たれるように、デューティー比rを調節する。
上記制御器(17)がデューティー比rを調節するためには、溶液タンク(20)内の液面(51)高さに関する情報が必要である。一方、噴霧ノズル(31)からの噴霧量が一定に保たれているとすれば、溶液タンク(20)内の液面(51)が低下する速度も一定となる。つまり、溶液タンク(20)内における液面(51)の高さは、噴霧カートリッジ(15)で噴霧が行われている時間(噴霧時間)の積算値に比例することとなる。このような噴霧時間の積算値と液面(51)の高さとの関係を利用し、制御器(17)は、噴霧カートリッジ(15)における噴霧時間の積算値に応じてデューティー比rを調節する。
−噴霧カートリッジの各部の寸法−
上記噴霧カートリッジ(15)において、噴霧ノズル(31)の先端の肉厚(図4の長さt)、噴霧ノズル(31)の内径(同図の長さD)、水平方向における噴霧ノズル(31)の先端とリング電極(35)の距離(同図の長さL2)、及び噴霧ノズル(31)の先端とリング電極(35)の距離(同図の長さL1)は、それぞれ下記のような範囲に設定されるのが望ましい。
先ず、噴霧ノズル(31)の先端の肉厚tについて説明する。噴霧ノズル(31)の先端における水溶液の霧化を安定して行うには、噴霧ノズル(31)の先端面における内周側のエッジ付近に電界が集中している方が望ましい。図9に示すように、噴霧ノズル(31)の先端の肉厚が0.2mm以下であれば、噴霧ノズル(31)の先端で水溶液の霧化が安定して行われる。これに対し、噴霧ノズル(31)の先端の肉厚が0.5mm以上になると、噴霧ノズル(31)とリング電極(35)の電位差を大きくしなければ水溶液を安定して霧化させることができなくなる。このような事情を考慮すると、噴霧ノズル(31)の先端の肉厚tは、0.2mm以下であるのが望ましい。
次に、噴霧ノズル(31)の内径Dについて説明する。噴霧ノズル(31)の先端の気液界面(52)における表面張力は、水溶液の粘度が同じであれば、その大きさが噴霧ノズル(31)の内径に応じて決まる。一般に、気液界面(52)における表面張力は、噴霧ノズル(31)の内径が小さいほど大きくなり、噴霧ノズル(31)の内径が大きいほど小さくなる。図10に示すように、噴霧ノズル(31)の内径が0.2mm以下になると、気液界面(52)における表面張力が過大となり、噴霧ノズル(31)の先端で水溶液を安定して霧化させるのが困難となる。また、噴霧ノズル(31)の目詰まりが起こりやすくなり、静電噴霧装置(10)の信頼性を損なうおそれがある。一方、噴霧ノズル(31)の内径が1.5mm以上になると、気液界面(52)における表面張力が過小となり、この場合も噴霧ノズル(31)の先端で水溶液を安定して霧化させるのが困難となる。このような事情を考慮すると、噴霧ノズル(31)の内径Dは、0.3mm以上1.0mm以下であるのが望ましい。
続いて、水平方向における噴霧ノズル(31)の先端とリング電極(35)の距離、即ち噴霧ノズル(31)の先端に対するリング電極(35)の後退距離L2について説明する。図11に示すように、リング電極(35)が噴霧ノズル(31)の先端よりも前方、あるいは該先端と同じ位置に設けられた状態では、噴霧ノズル(31)の先端から噴霧された液滴がリング電極(35)へ引き寄せられてしまい、霧化した水溶液を室内へ供給できなくなってしまう。また、リング電極(35)が噴霧ノズル(31)の先端より後退した位置に設けられていても、噴霧ノズル(31)の先端に対するリング電極(35)の後退距離L2が短すぎると、噴霧に適した電界を噴霧ノズル(31)の先端近傍に形成するのが困難となる。逆に、噴霧ノズル(31)の先端に対するリング電極(35)の後退距離L2が長すぎると、噴霧ノズル(31)とリング電極(35)の電位差を大きくしなければ水溶液を安定して霧化させることができなくなる。このような事情を考慮すると、水平方向における噴霧ノズル(31)の先端に対するリング電極(35)の後退距離L2は、3.0mm以上10.0mm以下であるのが望ましい。
最後に、噴霧ノズル(31)の先端とリング電極(35)の距離L1について説明する。噴霧ノズル(31)の先端とリング電極(35)の距離L1が短すぎると、噴霧ノズル(31)とリング電極(35)の間でコロナ放電が起こり始める電位差が小さくなる。そして、オゾンの発生を抑えるためにコロナ放電を避けようとすると、噴霧ノズル(31)とリング電極(35)の間に充分な電位差を与えることができなくなり、噴霧ノズル(31)の先端で水溶液を安定して霧化させるのが困難となる。逆に、噴霧ノズル(31)の先端とリング電極(35)の距離L1が長すぎると、噴霧ノズル(31)とリング電極(35)の電位差を大きくしなければ水溶液を安定して霧化させることができなくなる。このような事情を考慮すると、噴霧ノズル(31)の先端とリング電極(35)の距離L1は、5.0mm以上20.0mm以下であるのが望ましい。
−噴霧ノズルとリング電極の電位差−
噴霧ノズル(31)とリング電極(35)の間に与える電位差は、次のような範囲内の値であるのが望ましい。
具体的に、噴霧ノズル(31)とリング電極(35)の間の電位差が小さすぎると、噴霧ノズル(31)の先端で水溶液を安定して霧化させることができない。このため、噴霧ノズル(31)とリング電極(35)の間に与える電位差は、3kV以上であるのが望ましい。一方、噴霧ノズル(31)とリング電極(35)の間の電位差が大きくなると、コロナ放電が生じるおそれがある。大気中でコロナ放電が生じると、それに伴って人体に有害なオゾンが発生してしまう。このため、噴霧ノズル(31)とリング電極(35)の間に与える電位差は、コロナ放電が生じ始める値未満であるのが望ましい。
なお、コロナ放電が生じ始める電位差の値は、噴霧ノズル(31)とリング電極(35)の距離によって異なる。本実施形態の静電噴霧装置(10)では、噴霧ノズル(31)とリング電極(35)の間の電位差が7kV以上になると、コロナ放電が生じるおそれがある。従って、この静電噴霧装置(10)では、噴霧ノズル(31)とリング電極(35)の間に与える電位差を3kV以上7kV未満とするのが望ましい。
−実施形態1の効果−
本実施形態では、噴霧ノズル(31)の先端を溶液タンク(20)内の液面(51)よりも低く配置し、噴霧ノズル(31)の先端と溶液タンク(20)内の液面(51)との間のヘッド差によって噴霧ノズル(31)の先端へ溶液タンク(20)内の液体を供給している。このため、ポンプやモータを用いた押し出し機構などを用いずに、溶液タンク(20)内から噴霧ノズル(31)の先端へ液体を供給することができる。従って、本実施形態によれば、溶液タンク(20)内から噴霧ノズル(31)の先端へ液体を送り込むためのポンプ等を省略することができ、静電噴霧装置(10)の構成の簡素化や製造コストの低減を図ることができる。
ここで、ポンプ等を用いてノズルへ液体を供給する従来の静電噴霧装置では、ポンプ等が故障すると液体を霧化できなくなる。これに対し、本実施形態の静電噴霧装置(10)では、ポンプ等の液体を供給するための部材を設ける必要が無くなる。このため、本実施形態によれば、ポンプ等の故障によって静電噴霧装置(10)の機能が失われる可能性を小さくすることができ、静電噴霧装置(10)の信頼性を向上させることができる。
また、本実施形態では、噴霧ノズル(31)とリング電極(35)が同電位になると噴霧ノズル(31)の先端に形成された気液界面(52)で液圧と表面張力が均衡し、それによって噴霧ノズル(31)からの液体の流出が阻止される。このため、本実施形態の静電噴霧装置(10)では、電源(16)をオフして噴霧ノズル(31)とリング電極(35)と同電位とするだけで、噴霧ノズル(31)からの液体の流出を停止させることができる。従って、本実施形態によれば、静電噴霧装置(10)の停止中に噴霧ノズル(31)から水溶液が漏洩するのを防ぐための構成が不要となり、静電噴霧装置(10)の構成を一層簡素化することができる。
また、本実施形態において、制御器(17)は、噴霧の継続中に溶液タンク(20)内の液面(51)高さが低下してゆくのに対応して、電源(16)のオン時間とオフ時間に関するデューティー比を増大させている。このため、溶液タンク(20)内における液面(51)の低下に伴い、噴霧ノズル(31)の先端と溶液タンク(20)内の液面(51)との間のヘッド差が変化して溶液タンク(20)から噴霧ノズル(31)へ向かう水溶液の流量が減少しても、噴霧ノズル(31)からの噴霧量を一定に保つことができる。
本実施形態では、第2電極としてのリング電極(35)を噴霧ノズル(31)の先端よりも後方に配置している。このため、噴霧ノズル(31)の先端から噴霧された液体がリング電極(35)に付着するのを防ぐことができる。ここで、液体の付着によってリング電極(35)が汚れると、リング電極(35)と噴霧ノズル(31)との間の電界が不安定になり、噴霧ノズル(31)からの噴霧を安定して続けることができなくなるおそれがある。これに対し、本実施形態によれば、リング電極(35)を清浄な状態に保つことができるため、リング電極(35)と噴霧ノズル(31)との間に安定した電界を形成し続けることができ、噴霧ノズル(31)からの液体の噴霧を安定して継続させることができる。
−実施形態1の変形例1−
本実施形態の噴霧カートリッジ(15)では、噴霧ノズル(31)の先端部分をテーパ形状に形成してもよい。更に、本変形例では、噴霧ノズル(31)の最先端がエッジ状になっていてもよい。この場合は、噴霧ノズル(31)の先端の肉厚が実質的に0mmとなる。
−実施形態1の変形例2−
本実施形態の噴霧カートリッジ(15)では、リング電極(35)の代わりに複数の電極用部材(38)が第2電極として設けられていてもよい。
例えば、図12に示すように、上記噴霧カートリッジ(15)は、円弧形の線状に形成された複数の電極用部材(38)を第2電極として備えていてもよい。この場合、各電極用部材(38)は、それぞれの曲率半径が同じになっており、1つのピッチ円上に配置されている。これら電極用部材(38)のピッチ円の中心は、噴霧ノズル(31)の中心軸上に位置している。各電極用部材(38)の内周から噴霧ノズル(31)の外周面までの距離は、それぞれ同じ長さL1となっている。
また、図13に示すように、上記噴霧カートリッジ(15)は、断面が楕円形の小片状に形成された複数の電極用部材(38)を第2電極として備えていてもよい。この場合も、各電極用部材(38)は、1つのピッチ円上に配置されている。これら電極用部材(38)のピッチ円の中心は、噴霧ノズル(31)の中心軸上に位置している。各電極用部材(38)の内周から噴霧ノズル(31)の外周面までの距離は、それぞれ同じ長さL1となっている。
このように、上記の各実施形態の噴霧カートリッジ(15)では、複数の電極用部材(38)が第2電極として設けられており、これらの電極用部材(38)が噴霧ノズル(31)と同心のピッチ円上に配置されていてもよい。その場合、複数の電極用部材(38)のピッチ円は、その半径が上記実施形態1のリング電極(35)の半径と概ね等しくなっているのが望ましい。また、このピッチ円の噴霧ノズル(31)の先端からの後退距離は、リング電極(35)の後退距離と概ね等しくなっているのが望ましい。
《発明の実施形態2》
本発明の実施形態2について説明する。ここでは、本実施形態の静電噴霧装置(10)について、上記実施形態1と異なる点を説明する。
図14から図17までの各図に示すように、本実施形態の静電噴霧装置(10)では、上記実施形態1のリング電極(35)に代えて、棒状電極(60)が第2電極として設けられている。棒状電極(60)は、断面が円形の棒状に形成された部材であって、金属等の導電性の材料で構成されている。
棒状電極(60)は、電極ホルダー(40)の外筒部(42)の先端面(図14,図16における左端面)に突設されている。外筒部(42)から突出した棒状電極(60)の先端部分は、突端部(65)を構成している。棒状電極(60)の突端部(65)は、噴霧ノズル(31)の先端よりも溶液タンク(20)寄りに位置している。即ち、棒状電極(60)は、噴霧ノズル(31)の先端よりも後退した位置に設けられている。また、棒状電極(60)の突端部(65)は、噴霧ノズル(31)の側方に位置している。そして、この棒状電極(60)は、電源(16)の負極端子と電気的に接続されている。
本実施形態において、噴霧ノズル(31)の先端の外周縁から棒状電極(60)の突端部(65)の外周縁までの直線距離、即ち噴霧ノズル(31)の先端と棒状電極(60)の先端との距離L1(図16を参照)は、5.0mm以上20.0mm以下であるのが望ましい。また、水平方向における噴霧ノズル(31)の先端から棒状電極(60)の突端部(65)までの距離、即ち噴霧ノズル(31)の先端からの棒状電極(60)の後退距離L2(図16を参照)は、3.0mm以上10.0mm以下であるのが望ましい。これら距離L1及び距離L2を上記の範囲に設定するのが望ましい理由は、実施形態1において述べた通りである。
本実施形態の静電噴霧装置(10)において、電源(16)がオンにして噴霧ノズル(31)と棒状電極(60)の間に電位差を与えると、噴霧ノズル(31)の先端と棒状電極(60)の突端部(65)との間に電界が形成される。つまり、本実施形態の静電噴霧装置(10)では、比較的狭い領域同士の間に電界が形成される。そして、噴霧ノズル(31)の先端付近の空間では、棒状電極(60)の突端部(65)と噴霧ノズル(31)の先端との間の比較的狭い領域に電界が集中することになる。
ここで、静電噴霧装置(10)の運転中には、第1電極である噴霧ノズル(31)よりも電位の低いもの(例えば人間の手)等が噴霧ノズル(31)に接近してくる場合がある。このような場合には、人間の手などと噴霧ノズル(31)の間にも電界が形成され、それによって噴霧ノズル(31)の先端付近に形成された電界が乱れるため、噴霧ノズル(31)からの噴霧が不安定化するおそれがある。
これに対し、本実施形態では、突端部(65)を有する棒状電極(60)を第2電極として用い、噴霧ノズル(31)の先端付近に形成される電界を狭い領域に集中させるようにしている。このため、例えば人間の手などが噴霧ノズル(31)に接近することによって噴霧ノズル(31)の先端付近が外乱を受けてたとしても、その乱れの大きさは噴霧ノズル(31)の先端付近に形成されている電界に比べて充分小さいため、噴霧ノズル(31)から液体を安定して噴霧させ続けることができる。
また、本実施形態では、噴霧ノズル(31)の先端よりも後方に棒状電極(60)を配置しているため、噴霧ノズル(31)の先端から噴霧された液体が棒状電極(60)に付着するのを防ぐことができる。このため、液体の付着によって棒状電極(60)が汚れ、それに起因して棒状電極(60)と噴霧ノズル(31)との間の電界が不安定化するのを回避できる。従って、本実施形態によれば、棒状電極(60)を清浄な状態に保つことによって棒状電極(60)と噴霧ノズル(31)との間の電界を安定化でき、上記実施懈怠1の場合と同様に、噴霧ノズル(31)からの液体の噴霧を安定して継続させることができる。
−実施形態2の変形例−
本実施形態の静電噴霧装置(10)では、棒状電極(60)に代えて、三角板電極(61)が第2電極として設けられていてもよい。
図18に示すように、三角板電極(61)は、三角形の板状に形成されている。棒状電極(60)と同様に、三角板電極(61)は、電極ホルダー(40)の外筒部(42)の先端面に突設されている。この三角板電極(61)は、その底辺に相当する部分が外筒部(42)に埋め込まれ、その頂点に相当する部分が外筒部(42)の先端面から前方へ突き出ている。そして、三角板電極(61)では、頂点に相当する部分が突端部(65)を構成している。
噴霧ノズル(31)と三角板電極(61)の間に電位差を与えると、噴霧ノズル(31)の先端と三角板電極(61)の突端部(65)との間に電界が形成される。そして、噴霧ノズル(31)の先端付近の空間では、三角板電極(61)の突端部(65)と噴霧ノズル(31)の先端との間の比較的狭い領域に電界が集中することになり、外的な要因によって電界が多少乱れたとしても、噴霧ノズル(31)の先端からの噴霧を安定して継続させることができる。
このように、本実施形態では、第2電極として設けられる部材に突出した部分(即ち突端部(65))が形成されていればよく、第2電極として設けられる部材の全体形状はどの様な形状であってもよい。
《その他の実施形態》
上記実施形態については、以下のような構成としてもよい。
−第1変形例−
上記の各実施形態の噴霧カートリッジ(15)では、溶液タンク(20)を下記のような構成としてもよい。ここでは、本変形例の溶液タンク(20)について、図19及び図20を参照しながら説明する。なお、図19は上記実施形態1の噴霧カートリッジ(15)に本変形例を適用したものを示し、図20は上記実施形態2の噴霧カートリッジ(15)に本変形例を適用したものを示している。
本変形例の溶液タンク(20)には、膨出部(26)が設けられている。この膨出部(26)は、タンク本体(21)の底部から下方へ膨出した部分であって、タンク本体(21)の前面側(図19,図20における左側)の側壁部に隣接して配置されている。また、膨出部(26)は、タンク本体(21)の底部の一部を窪ませることによって形成されており、その内部空間がタンク本体(21)の底面(22)よりも一段下がっている。
本変形例の溶液タンク(20)では、管部(23)の位置が上記各実施形態のものより低くなっている。また、管部(23)とタンク本体(21)の内部とを連通させる貫通孔(24)は、膨出部(26)の内部空間に臨む位置に開口している。この貫通孔(24)は、その最上部がタンク本体(21)の底面(22)よりも低くなっている。上記各実施形態と同様に、本変形例の溶液タンク(20)でも、ノズルユニット(30)は管部(23)に取り付けられている。そして、本変形例の溶液タンク(20)では、噴霧ノズル(31)の先端の位置がタンク本体(21)の底面(22)よりも低くなっている。
本変形例の溶液タンク(20)では、タンク本体(21)内の水溶液が殆ど無くなって膨出部(26)の内部空間にしか水溶液が残存していない状態でも、噴霧ノズル(31)の先端を水溶液で満たされた状態に保つことができる。従って、本変形例によれば、タンク本体(21)内に貯留された水溶液の殆ど全部を噴霧することができ、噴霧されずに無駄になる水溶液の量を最小限に抑えることができる。
−第2変形例−
上記の各実施形態の静電噴霧装置(10)は、電源(16)と制御器(17)とが本体ユニットを構成し、この本体部分に対して噴霧カートリッジ(15)が着脱自在となる構造になっていてもよい。本変形例において、溶液タンク(20)が空(カラ)になった場合には、使用済みの噴霧カートリッジ(15)が本体ユニットから取り外され、溶液タンク(20)に液体が充填された新品の噴霧カートリッジ(15)が本体ユニットに取り付けられる。
本変形例では、噴霧カートリッジ(15)の全体ではなく、その一部だけが本体部分に対して着脱自在になっていてもよい。例えば、溶液タンク(20)とノズルユニット(30)が一体化されており、この一体化された溶液タンク(20)及びノズルユニット(30)だけが本体ユニットに着脱自在となっていてもよい。つまり、第1電極を構成する噴霧ノズル(31)と溶液タンク(20)だけが本体ユニットに着脱される構成としてもよい。
この場合、噴霧カートリッジ(15)のうち溶液タンク(20)及びノズルユニット(30)以外の部分は、本体ユニットに取り付けられたままとなる。つまり、溶液タンク(20)が空(カラ)になった時には、溶液タンク(20)とノズルユニット(30)だけを交換すればよいことになる。従って、交換を要する部品の点数が少なくなり、交換部品の価格を抑えてユーザーの負担を軽減することができる。また、溶液タンク(20)と共に噴霧ノズル(31)も交換されることになるため、噴霧ノズル(31)を清潔な状態に保つことができる。
−第3変形例−
上記の各実施形態の静電噴霧装置(10)は、空気清浄機(90)や空調機に設けられていても良い。ここでは、これら実施形態の静電噴霧装置(10)を空気清浄機(90)に取り付けた場合について、図21を参照しながら説明する。
この場合、静電噴霧装置(10)の電源と制御器は、空気清浄機(90)のケーシング(91)内に収納される。一方、静電噴霧装置(10)の噴霧カートリッジ(15)は、空気清浄機(90)のケーシング(91)に対して着脱自在となっている。空気清浄機(90)のケーシング(91)に噴霧カートリッジ(15)を取り付けた状態では、噴霧ノズル(31)の先端が空気清浄機(90)の吹出口(92)の上方に位置する。そして、噴霧ノズル(31)の先端から噴霧された水溶液の液滴は、空気清浄機(90)から吹き出された空気と共に室内へ供給される。溶液タンク(20)が空(カラ)になった場合には、噴霧カートリッジ(15)が新しいものに交換される。
本変形例では、噴霧カートリッジ(15)の全体ではなく、その一部だけが空気清浄機(90)や空調機に対して着脱自在になっていてもよい。例えば、上記第2変形例の場合と同様に、溶液タンク(20)とノズルユニット(30)が一体化され、この一体化された溶液タンク(20)及びノズルユニット(30)だけが空気清浄機(90)に着脱自在となっていてもよい。この場合は、上記第2変形例の場合と同様に、交換部品の価格を抑えてユーザーの負担を軽減することができる。また、溶液タンク(20)と共に噴霧ノズル(31)も交換されることになるため、噴霧ノズル(31)を清潔な状態に保つことができる。
−第4変形例−
上記の各実施形態の噴霧カートリッジ(15)では、電源(16)の正極に接続される電極を、噴霧ノズル(31)とは別に設けるようにしてもよい。例えば、図22に示すように、第1電極を構成する針電極(37)を、噴霧ノズル(31)の内部に噴霧ノズル(31)と同軸に配置してもよい。この場合には、針電極(37)とリング電極(35)とが導電性の材料で構成され、噴霧ノズル(31)は非導電性の材料で構成される。そして、噴霧ノズル(31)内の水溶液と接触する針電極(37)に電圧を印加すると、噴霧ノズル(31)の先端付近に電界が形成され、噴霧ノズル(31)の先端で水溶液が霧化する。
−第5変形例−
上記の各実施形態の静電噴霧装置(10)では、噴霧する液体として様々なものを用いることができる。
例えば、噴霧する液体として、アミノ酸の一種であるγ−アミノ酪酸(GABA)の水溶液を用いてもよい。γ−アミノ酪酸は、神経伝達物質の一種であり、精神安定作用があると言われている。また、カテキンやプロアントシアニジン等の抗酸化剤の水溶液を用いてもよい。また、微生物の繁殖を抑制したり微生物を死滅させる機能の有る物質を含んだ液体を用いてもよい。また、空気中の臭気分子を中和などによる化学変化で無臭化する物質を含んだ液体を用いてもよい。また、アレルゲンとなるタンパク質の抗原部位を化学的に変化させる物質を含んだ液体を用いてもよい。また、空気中の有害成分を化学変化によって無害化する物質を含んだ液体を用いてもよい。また、各種の香料や害虫の忌避剤等をを含んだ液体を用いてもよい。
なお、以上の実施形態は、本質的に好ましい例示であって、本発明、その適用物、あるいはその用途の範囲を制限することを意図するものではない。