JP3861804B2 - 熱電材料及びその製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は熱電発電及び熱電冷却等に応用される熱電材料及びその製造方法に関し、特に、高温下での性能指数を向上させることができる熱電材料及びその製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
熱電材料として、一方向凝固材と焼結材とがある。一方向凝固材は、以下のようにして作製される。図13(a)乃至(c)は従来の一方向凝固材の作製方法を工程順に示す模式図である。
【0003】
先ず、図13(a)に示すように、石英管102内に原料101を挿入し、石英管102の端部を溶断して原料101を石英管102内に封入する。その後、図13(b)に示すように、石英管102を管状炉103内に入れて原料101を溶解し、スタンド104に回転可能に支持された管状炉103を揺動して原料融液を撹拌する。次いで、図13(c)に示すように、管状炉103内に温度勾配を付け、結晶方位を配向させつつ融液を凝固させる。これにより、凝固組織が一方向に延びた一方向凝固材が得られる。
【0004】
また、焼結材は、凝固した材料を粉砕し、ホットプレス等により固化成形する。この場合に、ホットプレスの圧力方向と垂直の方向に低抵抗の結晶方位(a軸)が成長するため、このa軸方向に電流を流すように、電極付けして熱電素子及びこの複数の熱電素子からなる熱電モジュールを組み立てる。
【0005】
図14は固化成形される熱電材料の結晶粒とホットプレス方向を示す模式図である。熱電材料1はホットプレスにより固化成形された場合、ホットプレスの方向に直交する方向に結晶粒2の結晶構造のa軸側が成長し、ホットプレスの方向に平行な方向に結晶粒2の結晶構造のc軸側が成長する。熱電材料は一般的に、構造上異方性を有しているので、図14に示すように、ホットプレスによって、結晶粒2のc軸方向よりもa軸方向に成長が進行する。これにより、この結晶粒2の粒径は数mm程度まで成長し、アスペクト比は5以上になる(例えば、特許文献1参照)。
【0006】
なお、このような熱電材料の結晶構造は、図15に示すように、六方晶であると考えられる。この図15において、ハッチングにて示した六角形の面がC面である。
【0007】
また、インゴットを粉砕して得られた粉末を焼結し、その後その焼結体にすえ込み鍛造を行う方法が記載されている(例えば、特許文献2乃至4参照)。
【0008】
【特許文献1】
特開2000−232243号公報 (第2−5頁、第5−6図)
【特許文献2】
特開平10−178218号公報 (第2−6頁、第1図)
【特許文献3】
特開平10−178219号公報 (第2−5頁、第1図)
【特許文献4】
特開平11−261119号公報 (第2−3頁、第1図)
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、上述の従来の熱電材料のうち一方向凝固材は、結晶粒径が数mm以上になり、へき開性があるため、機械的な衝撃に対して脆いという欠点がある。また、従来の熱電材料は、熱伝導率が高い。熱電材料の性能指数Zは、そのゼーベック係数をα(μ・V/K)、比抵抗をρ(Ω・m)、熱伝導率をκ(W/m・K)としたとき、下記数式1に示すように表される。
【0010】
【数1】
Z=α2/(ρ×κ)
【0011】
この数式1から明らかなように、熱伝導率κが高いと、性能指数Zが低くなる。従って、熱伝導率κが高い場合は、性能の向上に限界がある。
【0012】
また、従来の焼結法による熱電材料は、粉末の大きさが結晶粒の大きさに等しい。一般的に、結晶粒の粒径が大きくなるほど熱伝導率κは大きくなると共に、比抵抗ρは小さくなり、粒径が小さくなるほど熱伝導率κが小さくなると共に、比抵抗ρは大きくなる。しかし、粒径の影響は熱伝導率よりも比抵抗の方が小さいため、熱伝導率κを小さくするために、結晶粒を微細化することが性能指数Zの向上のために有効であるが、従来、粉末粒径と結晶粒径とが同一であるので、結晶粒の微細化には限界がある。しかも、粉砕時に、粉末表面の酸化及び不純物の混入があり、これにより、比抵抗が増大するため、性能指数が低下してしまう。
【0013】
また、すえ込み鍛造を行う製造方法においては、インゴットを粉砕して得られた粉末をそのまま焼結しているので、粉末内部の配向性が低い。このため、固化成形体の配向性が低く熱電性能も十分ではない。特許文献3には、結晶粒のすべり及びへき開面を利用して配向性を高める方法も記載されているが、このような方法を採用すると、歪が大量に発生して熱伝導率κが低下すると共に、比抵抗ρが上昇してしまう。このような不具合は高温の熱処理及び加工により抑制することも可能であるが、配向とは無関係な粒成長が生じてしまう。
【0014】
更にまた、特許文献1に記載の熱電材料の熱電性能に関しては、性能指数Z自体は良好であるが、熱の影響を受けやすい比抵抗ρが比較的高いため、高温での使用に制限がある。即ち、温度の上昇に連れて比抵抗ρが上昇するため、ジュール発熱が大きくなる。また、熱電素子の使用メーカにおいては、その駆動電流が定められている。従って、熱電素子(ペルチェ素子)としての吸熱量が低下して消費電力が増加してしまう。このため、パッケージ内の温度が90℃に達するような高温環境下では、消費電力が高くなってしまう。
【0015】
本発明はかかる問題点に鑑みてなされたものであって、高い性能指数を維持したまま高温下での消費電力を低減することができる熱電材料及びその製造方法を提供することを目的とする。
【0016】
【課題を解決するための手段】
本発明に係る熱電材料熱電材料は、Bi及びSbからなる群から選択された少なくとも1種の元素と、Te及びSeからなる群から選択された少なくとも1種の元素とからなる組成の溶融金属を急冷凝固させることにより製造された結晶粒のa軸が厚さ方向に揃っている急冷箔片を、その厚さ方向に圧力を印加してホットプレスすることにより固化成形して前記結晶粒のa軸が前記圧力の印加方向に平行に配向した熱電素材とし、更に前記圧力を印加した面を拘束しながらこの拘束された面に垂直な方向から圧力を印加するすえ込み鍛造を行って前記熱電素材を展延させることにより、前記結晶粒のC面を回転又はずらして前記結晶粒のC面及びa軸を前記据え込み鍛造時の圧力の印加方向に対して垂直に配向させたものであることを特徴とする。本願明細書において、a軸とは、Bi−Te系熱電材料が有する六方晶系の結晶のa軸をさす。
【0018】
本発明に係る熱電材料の製造方法は、Bi及びSbからなる群から選択された少なくとも1種の元素と、Te及びSeからなる群から選択された少なくとも1種の元素とからなる組成の溶融金属を急冷凝固させて、結晶粒のa軸が厚さ方向に揃った急冷箔片を得る工程と、前記急冷箔片をその厚さ方向に圧力を印加してホットプレスすることにより固化成形して前記結晶粒のa軸が前記圧力の印加方向に平行に配向した熱電素材を得る工程と、前記圧力を印加した面を拘束しながらこの拘束された面に垂直な方向から圧力を印加するすえ込み鍛造を行って前記熱電素材を展延させることにより、前記結晶粒のC面を回転又はずらして前記結晶粒のC面及びa軸を前記すえこみ鍛造時の圧力の印加方向に垂直になるように配向させる工程と、を有することを特徴とする。
【0020】
また、前記急冷箔片を還元ガス又は不活性ガス雰囲気中で熱処理する工程を有することが好ましい。
【0021】
本発明においては、押圧によりa軸が一方向に揃った熱電素材に対して、その押圧面を拘束しながらこの拘束された面に垂直な方向から圧力を印加するすえ込み鍛造を行うため、すえ込み鍛造の押圧方向に垂直な方向であって拘束されていない面に垂直な方向に熱電素材が展延する。そして、この展延に伴って、各結晶粒のa軸を含むC面が互いに平行に並ぶようになる。従って、c軸の配向性が極めて高くなり、特に比抵抗が低い方向を通電方向として熱電素子を組み立てることにより、性能指数を向上させることができ、高い性能指数を維持したまま高温下での消費電力を低減することが可能となる。
【0022】
【発明の実施の形態】
以下、本発明について更に詳細に説明する。液体急冷法により熱電材料の箔を製造することができ、この作製した箔はそれ自体が粉末のように微細である場合がある。このような微細でない場合は、得られた箔を粉砕し、粉末とする。このようにして、液体急冷法により得られた熱電材料の粉末は、その内部に高密度の歪み及び欠陥が導入されている。この急冷箔においては、水素ガスの還元雰囲気中で熱処理したり、ホットプレス又は押出成形等の固化成形したりする際に、歪み又は欠陥が核となって微細な再結晶粒が粉末(箔)の内部に析出する。この結晶粒の粒界(界面)は、粉砕粉末同士の界面に比べて不純物濃度が低いために、比抵抗(ρ)を低く保持したまま、粒界によるフォノン散乱を増加させて熱伝導率(κ)を低減することができる。これにより、性能指数(Z)を著しく向上させることができる。
【0023】
更に、この急冷箔中の歪みを利用した結晶は、固化成形時に加圧方向と平行の方向に長軸が偏倚し、加圧方向と垂直の方向に短軸が偏倚して、アスペクト比が大きな結晶粒として成長し、又は再結晶する特徴を有する。この場合に、長軸方向の比抵抗(ρ)値が短軸方向の比抵抗(ρ)値よりも著しく低下するため、この方向の性能指数が高くなる。また、押圧方向に平行にC面を揃えると、更に比抵抗ρが低下し、性能指数Zが高くなる。従って、熱電変換素子として、熱電モジュールに組み立てる際には、最初の固化成形(1次固化成形)時の加圧方向と平行の方向、即ち長軸方向に電流が流れるように電極を取り付けることが必要である。
【0024】
本実施例においては、Bi、Sb及びTeからなる組成物にSeを添加して製造された熱電材料を使用しているが、他の種々の組成を有する熱電材料を使用しても、同様の効果を得ることができる。例えば、本発明において、熱電材料としては、Bi及びSbのいずれか一方又は両方と、Te及びSeのいずれか一方又は両方とからなるものを使用することができる。また、熱電材料としては、前記組成の他に、I、Cl、Hg、Br、Ag及びCuからなる群から選択された少なくとも1種の元素が添加されているものも使用することができる。
【0025】
次に、本発明の実施例に係る熱電材料の製造方法について説明する。図1は本発明の実施例に係る熱電材料の製造方法を示すフローチャートである。
【0026】
本実施例においては、先ず、原料であるBi、Sb、Te及びSeの秤量を行い(ステップS1)、図2(a)に示すように、この原料41をアンプル42に挿入する(ステップS2)。なお、この封入に際しては、原料41をアンプル42内に入れた後、アンプル42内を真空引きし、その内部が真空となったままか、又は不活性ガスを導入した状態として、図2(b)に示すように、アンプル42の口を封じ切る。その後、図2(c)に示すように、アンプル42を600乃至700℃の管状炉43内に入れて原料41を溶解し、管状炉43をスタンド44に回転可能に支持させてゆりかごのように揺動して原料融液を撹拌する。次いで、融液を冷却して凝固させる。このようにして、インゴットを作製する(ステップS3)。
【0027】
図3は液体急冷法により熱電材料の粉末を製造する方法を示す図である。銅製ロール12を回転させつつ、その頂部15に、先端にスリット又は複数の孔からなる射出口が設けられた石英ノズル11内に貯留した熱電材料の溶湯13をArガスにより加圧して供給する。これにより、溶湯13が銅製ロール12に接触して急冷され、急冷薄帯14となってロール12の回転により送り出される(ステップS4)。
【0028】
図4は急冷薄片における結晶粒の成長方向を示す模式図である。冷却ロール30の表面に急冷薄片31が形成され、結晶がロール表面から遠ざかる方向(箔の厚さ方向)に成長し、この方向に長軸Dを有し、ロール表面に平行の方向に短軸dを有する結晶構造32が得られる。急冷薄片31内における結晶の形状及び配向に関しては、元々長軸Dの方向とC面とが平行になっている。そして、この急冷薄片31に対し、図5に示すように、長軸に平行の方向に応力を印加すると、六方晶であって、そのC面が押圧方向に平行の結晶構造33が得られる。
【0029】
図3のような液体急冷法(単ロール法)の場合を例にとると、熱電材料の溶湯が冷却ロールの表面で冷却され、急冷薄帯が形成されるとき、溶湯は冷却ロールの表面側の部分が先ず冷却され、その後順次冷却ロールから離れる部分が冷却されていく。従って、ロール表面側が低温でそれから離れるに従って高温になる温度勾配が生じる。このため、結晶粒はロール方面から遠ざかる方向に成長し、この方向に長軸Dを有し、ロール表面に平行の方向に短軸dを有するアスペクト比の大きな結晶粒となる。急冷薄帯14中にはこのような厚さ方向と平行に長軸が有する結晶粒が多数並ぶ。つまり、各結晶粒のC面が急冷薄帯14の厚さ方向に平行になっており、急冷薄帯14の厚さ方向はこの材料における低抵抗の方向となっている。
【0030】
更に、この急冷時の溶湯の温度を制御すると、熱電材料の成長する結晶方位を制御することができ、図5のように急冷薄片31の厚さ方向と平行に六方晶のa軸及びC面も整列する。
【0031】
次に、必要に応じて、図3に示す液体急冷法により急冷されて得られた急冷薄帯14を水素ガス中又はArガス中で熱処理(水素還元処理又はアニール処理:ステップS5)する。この熱処理条件は、例えば、温度が400℃で、時間が8時間である。図6(a)は熱処理前の急冷薄帯14の組織を示す断面図、(b)は熱処理後の急冷薄帯14の組織を示す断面図である。図6(a)に示すように、熱処理前、即ち急冷凝固ままの組織では、厚さ方向に延びる結晶粒51の他に急冷薄帯14の表面に多量のチル晶52が存在している。これに対し、熱処理を施すことにより、図6(b)に示すように、チル晶52が消失する。また、熱処理中には、急冷薄帯14中のTe原子及びSe原子が粒界拡散によりその表面に偏析するようになる。これは、焼結性の向上、キャリアの移動度の向上に効果がある。
【0032】
その後、薄帯14を必要に応じて粉砕し、分級して粒度を揃える。そして、適度な粒度範囲の薄帯(箔)14を角柱状の型(図示せず)内に積層しながら装入し、加熱した熱間で側面を拘束した状態で軸方向に圧力Pを印加し、ホットプレスする(1次固化成形:ステップS6)。なお、液体急冷により得られた薄帯14においては、図7に示すように、各結晶粒のa軸(C面)が薄帯14の厚さ方向に揃っているため、ホットプレス時の圧力Pはa軸に対して平行に印加されることになる。このホットプレスの結果、プレス方向(押圧方向)に長軸が揃い、押圧方向に直交する方向に短軸が揃った結晶粒を有する結晶組織の角柱状の固化成形体が得られる。
【0033】
液体急冷法により製造した急冷薄片には歪み及び欠陥が導入されている。急冷薄片を粉砕し、又は粉砕せずにホットプレス等によって固化成形する際、結晶粒の粒成長が起こるか、又はこの歪み又は欠陥が核となって再結晶粒が析出する。この再結晶粒は、固化成形時のプレス方向と平行の方向に長軸を有し、プレス方向と垂直の方向に短軸を有するアスペクト比の大きな結晶粒とすることができる。
【0034】
従って、急冷薄片(粉)を固化成形する際、急冷薄帯の厚さ方向と平行方向に、即ち急冷薄帯中の結晶粒の長軸と平行の方向に押圧し、固化成形時に生成する再結晶粒も長軸が押圧方向に揃うようにすると、結果として、結晶粒の長軸方向が押圧方向に平行の方向に揃った結晶組織を有する固化成形体が得られる。
【0035】
また、本実施例においては、前述のように、熱処理により急冷薄帯14の表面にTe原子及びSe原子が偏析しているので、急冷薄帯14間でこれらの原子が互いに拡散し合いやすく、固化成形されやすい。
【0036】
その後、固化成形体に対して、すえ込み鍛造を行う(ステップS7)。図8はすえ込み鍛造の方法を示す模式図である。すえ込み鍛造を行う際には、先ず、図8(a)に示すように、固化成形体61のホットプレス時の圧力印加面61aを拘束し、圧力印加面61aに垂直な面に対して圧力P2で押圧する。この結果、固化成形体61は、圧力印加面61a及び圧力P2が印加された面に平行な方向に展延することになる。
【0037】
図9乃至図11は固化成形体61の展延に伴う結晶粒の配向の変化を示す模式図である。図9乃至図11において、(a)は展延前の状態を示し、(b)及び(c)は展延後の状態を示す。図9(a)において、X軸はすえこみ鍛造の圧力印加方向を、Y軸は展延方向を、Z軸はホットプレス時の圧力印加方向を示す。また、図9は圧力P2の印加方向(X軸方向)に対して傾斜した方向から見たときの変化を示し、図10は圧力P2の印加方向(X軸方向)から見たときの変化を示し、図11は拘束面(圧力印加面61a)に垂直な方向(Z軸方向)から見たときの変化を示す。固化成形体61の展延に伴い、C面が圧力P2の印加方向(X軸方向)に垂直な結晶粒62は、図10(b)及び図11(b)に示すように、圧力P2の印加方向(X軸方向)とC面とが垂直の状態のままで、C面の1辺がY軸と平行になるように回転し、更に展延方向(Y軸方向)にずれる。又は、図10(c)及び図11(c)に示すように、圧力P2の印加方向(X軸方向)とC面とが垂直の状態のままでC面が回転せずに、C面の1辺がZ軸と平行になるように配向し、展延方向(Y軸方向)にずれる。一方、C面が圧力P2の印加方向に平行な結晶粒63は、圧力P2の印加方向とC面とが垂直になるように90゜回転し、更に、図10(b)及び図10(b)に示すように、C面の1辺がY軸と平行になるように回転し、展延方向(Y軸方向)にずれる。又は、図10(c)及び図11(c)に示すように、C面の1辺がZ軸と平行になるように配向し、展延方向(Y軸方向)にずれる。この結果、図9乃至図11に示すように、各結晶粒のC面及びa軸が揃う。
【0038】
そして、このようにして得られた熱電材料においては、すえ込み鍛造時の加圧軸方向にc軸が揃う。即ち、すえ込み鍛造時の展延方向にC面が揃う。C面に平行な方向は比抵抗(ρ)が低い方向であるため、この方向が通電方向となるように、ペルチェ素子(熱電素子)を組み立てることにより、高い性能指数(Z)を得ることができる。また、このような熱電素子は、例えば光通信に使用することができ、高温になるパッケージ内で使用されてもジュール熱が少なく消費電力が低いペルチェ素子として極めて有効である。
【0039】
更に、本実施例においては、熱処理により急冷薄帯14中のチル晶を消失させているので、その結果得られた熱電材料の焼結性が高く機械的強度に優れると共に、配向性がより一層向上する。即ち、従来のように熱処理を行わない場合には、急冷薄帯の表面に存在するチル晶がその後のホットプレス時に不規則に成長する。実際に、このような方法で製造した熱電材料の組織を観察すると、急冷薄帯の界面に、配向性が高い結晶粒ではなく、チル晶の成長により得られた結晶粒が存在し、結晶粒の配向が乱れている。このため、この領域が焼結時の変形抵抗となり、焼結性が低くなっている。これに対し、本実施例のように、熱処理を行うと、急冷時の歪みが緩和されると共に、チル晶が消失し、焼結(ホットプレス)時の変形抵抗が著しく緩和され、焼結性が向上する。また、チル晶の成長もあり得ないので、高い配向性が得られる。更に、前述のように、熱処理時のTe原子及びSe原子の拡散によっても焼結性が向上する。
【0040】
なお、すえ込み鍛造時の雰囲気は、酸素濃度を5000ppm以下とし、露点が−20℃以下となる水分濃度としたものであることが好ましい。
【0041】
また、液体急冷法によって結晶内部に配向を有する箔又は粉末を得る方法としては、例えば単ロール法及びガスアトマイズ法があるが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0042】
更に、すえ込み鍛造における加工の程度については、変化量を50乃至90%程度とすることが好ましい。
【0043】
次に、種々の条件で熱電材料を作製し、その熱電特性を求めた結果について説明する。先ず、種々の組成を有する熱電材料を製造し、最初のホットプレス(1次固化成形)時の押圧方向に平行の方向について、比抵抗ρ、熱伝導率κ及びゼーベック係数αから性能指数Zを算出した。その結果を下記表1乃至表6に示す。表1及び表2は、各熱電材料の組成を示し、表3及び表4は、還元処理を行った場合の比抵抗ρ、熱伝導率κ、ゼーベック係数α及び性能指数Zの値を示し、表5及び表6は、還元処理を行わなかった場合の比抵抗ρ、熱伝導率κ、ゼーベック係数α及び性能指数Zの値を示す。
【0044】
実施例No.1乃至6では、各組成に調合したインゴットから液体急冷法により薄片又は粉末を作製し、水素雰囲気中で400℃、10時間の還元処理を施し、その後箔を積層して箔の厚さ方向(C面に平行な方向)を押圧方向としてホットプレスを行うことにより、固化成形体を作製した。また、還元処理を行わない固化成形体も作製した。更に、固化成形体のホットプレス時の押圧面を拘束しながら、他の1方向から圧力を印加することにより、すえ込み鍛造を行った。ホットプレスでは、超硬ダイスを使用し、雰囲気はAr雰囲気とした。また、固化成形体の形状は各辺の長さが50mmの立方体とし、0.5(t/cm2)の圧力を、P型熱電材料では380℃で1時間、N型熱電材料では450℃で1時間印加し続けた。また、すえ込み鍛造では、超硬ダイスを使用し、0.8(t/cm2)の圧力を400℃で5時間印加し続け、鍛造時押圧方向の変化量は55%とした。また、すえ込み鍛造時の雰囲気について、酸素濃度は5000ppm以下とし、水分濃度については、露点温度を−20℃以下とした。図12は鍛造時押圧方向の変化量を示す模式図である。図12における寸法a及びbに対して、b/a×100により変化量が求められる。
【0045】
【表1】
【0046】
【表2】
【0047】
【表3】
【0048】
【表4】
【0049】
【表5】
【0050】
【表6】
【0051】
これらの結果に示すように、各実施例において、所定のすえ込み鍛造を施すことにより、高い性能指数(Z)を維持したまま比抵抗(ρ)が低下した。即ち、これらの処理により高温での使用に好適な熱電材料が得られた。
【0052】
【発明の効果】
以上詳述したように、本発明によれば、すえ込み鍛造の押圧方向に垂直な方向であって拘束されていない面に垂直な方向に熱電素材が展延し、この展延に伴って、各結晶粒のa軸を含むC面が互いに平行に並ぶようになるため、c軸の配向性が極めて高くなり、特に比抵抗が低い方向を通電方向として熱電素子を組み立てることにより、性能指数を向上させることができる。この結果、高い性能指数を維持したまま高温下での消費電力を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施例に係る熱電材料の製造方法を示すフローチャートである。
【図2】(a)乃至(c)は本発明の実施例におけるインゴットの作製方法を示す図である。
【図3】液体急冷法により熱電材料の粉末を製造する方法を示す。
【図4】急冷薄片における結晶粒の成長方向を示す模式図である。
【図5】押圧方向とC面との関係を示す模式図である。
【図6】(a)は熱処理前の急冷薄帯14の組織を示す断面図、(b)は熱処理後の急冷薄帯14の組織を示す断面図である。
【図7】液体急冷により得られた薄帯14内の結晶粒の配向を示す模式図である。
【図8】すえ込み鍛造の方法を示す模式図である。
【図9】固化成形体61の展延に伴う結晶粒の配向の変化(圧力P2の印加方向に対して傾斜した方向から見たとき)を示す模式図であり、(a)は展延前の状態を示し、(b)及び(c)は展延後の状態を示す模式図である。
【図10】固化成形体61の展延に伴う結晶粒の配向の変化(圧力P2の印加方向から見たとき)を示す模式図であり、(a)は展延前の状態を示し、(b)及び(c)は展延後の状態を示す模式図である。
【図11】固化成形体61の展延に伴う結晶粒の配向の変化(拘束面に垂直な方向から見たとき)を示す模式図でああり、(a)は展延前の状態を示し、(b)及び(c)は展延後の状態を示す模式図である。
【図12】鍛造時押圧方向の変化量を示す模式図であり、(a)は加工前、(b)は加工後である。
【図13】(a)乃至(c)は従来の一方向凝固材の作製方法を工程順に示す模式図である。
【図14】固化成形される熱電材料の結晶粒とホットプレス方向を示す模式図である。
【図15】Bi−Te系熱電材料の結晶構造を示す図である。
【符号の説明】
1;熱電材料、 2;結晶粒、 11;石英ノズル、 12;銅製ロール、 13;溶湯、 14;急冷箔帯、 15;頂部、 30;冷却ロール、 31;急冷薄片、 32、33;結晶構造、 41、101;原料、 42、102;アンプル、 43、103;管状炉、 44、104;スタンド、 51、62、63;結晶粒、 52;チル晶、 61;固化成形体
Claims (3)
- Bi及びSbからなる群から選択された少なくとも1種の元素と、Te及びSeからなる群から選択された少なくとも1種の元素とからなる組成の溶融金属を急冷凝固させることにより製造された結晶粒のa軸が厚さ方向に揃っている急冷箔片を、その厚さ方向に圧力を印加してホットプレスすることにより固化成形して前記結晶粒のa軸が前記圧力の印加方向に平行に配向した熱電素材とし、更に前記圧力を印加した面を拘束しながらこの拘束された面に垂直な方向から圧力を印加するすえ込み鍛造を行って前記熱電素材を展延させることにより、前記結晶粒のC面を回転又はずらして前記結晶粒のC面及びa軸を前記据え込み鍛造時の圧力の印加方向に対して垂直に配向させたものであることを特徴とする熱電材料。
- Bi及びSbからなる群から選択された少なくとも1種の元素と、Te及びSeからなる群から選択された少なくとも1種の元素とからなる組成の溶融金属を急冷凝固させて、結晶粒のa軸が厚さ方向に揃った急冷箔片を得る工程と、前記急冷箔片をその厚さ方向に圧力を印加してホットプレスすることにより固化成形して前記結晶粒のa軸が前記圧力の印加方向に平行に配向した熱電素材を得る工程と、前記圧力を印加した面を拘束しながらこの拘束された面に垂直な方向から圧力を印加するすえ込み鍛造を行って前記熱電素材を展延させることにより、前記結晶粒のC面を回転又はずらして前記結晶粒のC面及びa軸を前記すえこみ鍛造時の圧力の印加方向に垂直になるように配向させる工程と、を有することを特徴とする熱電材料の製造方法。
- 前記急冷箔片を還元ガス又は不活性ガス雰囲気中で熱処理する工程を有することを特徴とする請求項2に記載の熱電材料の製造方法。
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