JP3603698B2 - 熱電材料及び熱電変換素子 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は熱電発電及び熱電冷却等に応用される熱電変換素子及びそれに使用される熱電材料に関し、特に、性能指数を向上させることができる熱電材料及び熱電変換素子に関する。
【0002】
【従来の技術】
熱電材料として、一方向凝固材と焼結材とがある。一方向凝固材は、以下のようにして作製される。先ず、石英管内に原料を挿入し、石英管の端部を溶断して原料を石英管内に封入し、その後、石英管を管状炉内に入れて原料を溶解し、管状炉を揺動して原料融液を撹拌する。次いで、管状炉内に温度勾配を付け、結晶方位を配向させつつ融液を凝固させる。これにより、凝固組織が一方向に延びた一方向凝固材が得られる。
【0003】
また、焼結材は、凝固した材料を粉砕し、ホットプレス等により固化成形する。この場合に、ホットプレスの圧力方向と垂直の方向に低抵抗の結晶方位(a軸)が成長するため、このa軸方向に電流を流すように、電極付けして熱電素子及びこの複数の熱電素子からなる熱電モジュールを組み立てる。
【0004】
図21は固化成形される熱電材料の結晶粒とホットプレス方向を示す模式図である。熱電材料1はホットプレスにより固化成形された場合、ホットプレスの方向に直交する方向に結晶粒2の結晶構造のa軸側が成長し、ホットプレスの方向に平行な方向に結晶粒2の結晶構造のc軸側が成長する。熱電材料は一般的に、構造上異方性を有しているので、図21に示すように、ホットプレスによって、結晶粒2のc軸方向よりもa軸方向に成長が進行する。これにより、この結晶粒2の粒径は数mm程度まで成長し、アスペクト比は5以上になる。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、上述の従来の熱電材料は、結晶粒が数mm以上になり、へき開性があるため、機械的な衝撃に対して脆いという欠点がある。また、従来の熱電材料は、熱伝導率が高い。熱電材料の性能指数Zは、そのゼーベック係数をα(μ・V/K)、比抵抗をρ(Ω・m)、熱伝導率をκ(W/m・K)としたとき、下記数式1に示すように表される。
【0006】
【数1】
Z=α2/(ρ×κ)
この数式1から明らかなように、熱伝導率κが高いと、性能指数Zが低くなる。従って、熱伝導率κが高い場合は、性能の向上に限界がある。
【0007】
また、従来の熱電材料は、粉末の大きさが結晶粒の大きさに等しい。一般的に、結晶粒の粒径が大きくなるほど熱伝導率κは大きくなると共に、比抵抗ρは小さくなり、粒径が小さくなるほど熱伝導率κが小さくなると共に、比抵抗ρは大きくなる。しかし、粒径の影響は熱伝導率よりも比抵抗の方が小さいため、熱伝導率κを小さくするために、結晶粒を微細化することが性能指数Zの向上のために有効であるが、従来、粉末粒径と結晶粒径とが同一であるので、結晶粒の微細化には限界がある。しかも、粉砕時に、粉末表面の酸化及び不純物の混入があり、これにより、比抵抗が増大するため、性能指数が低下してしまう。
【0008】
本発明はかかる問題点に鑑みてなされたものであって、性能指数が極めて高い熱電材料及び熱電変換素子を提供することを目的とする。
【0009】
【課題を解決するための手段】
本願第1発明に係る熱電材料は、Bi及びSbからなる群から選択された少なくとも1種の元素と、Te及びSeからなる群から選択された少なくとも1種の元素とからなる組成を有し、固化成形時の押圧方向に長軸が延びた結晶粒からなる結晶組織を有し、この結晶粒の長軸の平均結晶粒径Dと短軸の平均結晶粒径dとの比であるアスペクト比D/dが1.5以上であり、短軸の平均結晶粒径dが10μm以下、長軸の平均結晶粒径Dが30μm以下であると共に、この押圧方向に垂直の面のX線回折によって得られる(110)面のピーク強度I 0 と(015)面のピーク強度I 1 との比I 0 /I 1 が0.2以上であることを特徴とする。
【0010】
本願第2発明に係る熱電材料は、Bi及びSbからなる群から選択された少なくとも1種の元素と、Te及びSeからなる群から選択された少なくとも1種の元素とからなる組成を有し、固化成形時の押圧方向に長軸が延びた結晶粒からなる結晶組織を有し、この結晶粒の長軸の平均結晶粒径Dと短軸の平均結晶粒径dとの比であるアスペクト比D/dが1.5以上であり、短軸の平均結晶粒径dが10μm以下、長軸の平均結晶粒径Dが30μm以下であると共に、この押圧方向に垂直の面のX線回折によって得られる(110)面のピーク強度I 0 と(1010)面のピーク強度I 2 との比I 0 /I 2 が0.5以上であることを特徴とする。
【0011】
本願第3発明に係る熱電材料は、Bi及びSbからなる群から選択された少なくとも1種の元素と、Te及びSeからなる群から選択された少なくとも1種の元素とからなる組成を有し、固化成形時の押圧方向に長軸が延びた結晶粒からなる結晶組織を有し、この結晶粒の長軸の平均結晶粒径Dと短軸の平均結晶粒径dとの比であるアスペクト比D/dが1.5以上であり、短軸の平均結晶粒径dが10μm以下、長軸の平均結晶粒径Dが30μm以下であると共に、この押圧方向に垂直の面のX線回折によって得られる(110)面のピーク強度I 0 と(205)面のピーク強度I 3 との比I 0 /I 3 が0.5以上であることを特徴とする。
【0012】
前記組成は、更に、I、Cl、Hg、Br、Ag及びCuからなる群から選択された少なくとも1種の元素を含むことができる。また、前記結晶粒は、再結晶粒であることが好ましく、更に、本発明の熱電材料は、液体急冷法によって作製された薄片を粉砕し又は粉砕せずに固化成形するか、又は液体急冷法によって作製された薄片を粉砕し又は粉砕せずに不活性ガス中又は水素ガス中で熱処理した後に固化成形することにより、製造することができる。
【0013】
更にまた、本発明に係る熱電変換素子は、これらの熱電材料に、前記長軸と平行に電流が流れるように電極を取り付けたことを特徴とする。
【0014】
本発明においては、短軸及び長軸の平均結晶粒径を夫々所定値以下に規定し、更に、結晶粒の長軸粒径Dと短軸の結晶粒径dとの比として表されるアスペクト比D/dを1.5以上に規定する。そして、本発明においては、この長軸が固化成形時の押圧方向に延びている。
【0015】
而して、本願発明者等は、本発明と同じ組成系の熱電材料を既に提案した(特開平10−51037号公報)。しかし、この公報に記載された熱電材料は、結晶粒の平均粒径が50μm以下であると共に、平均アスペクト比が1乃至3であることを特徴とするものである。このアスペクト比は、本発明の場合と異なり、固化成形時の押圧方向が短軸である場合のものであり、この公報の図10に示されているように、プレス方向(c軸)よりもそれに直交する方向(a軸)の方が長い。これはこの公報の明細書の段落0032の記載から明らかである。このように、この従来技術は、アスペクト比が1乃至3であるというように、この公報の従来技術の欄に記載された従前の技術よりも等軸粒に近づけたものであるが、しかし、その方位性自体は、従前の技術と同様に、a軸の方がc軸よりも長いものであった。
【0016】
本発明はこの従来の概念から脱皮し、固化成形時の押圧方向が長軸の方向になるように、固化成形及び熱処理等を工夫し、この押圧方向の長軸の結晶粒径Dと短軸の結晶粒径dの比D/dで規定されるアスペクト比を1.5以上と大きくし、かつ、この押圧方向に平行にC面を揃えた結晶構造にしたものである。これにより、性能指数が極めて大きな熱電材料を得ることができる。
【0017】
なお、本発明の熱電材料の結晶構造は、図1に示すように、六方晶であると考えられる。この図1において、ハッチングにて示した六角形の面がC面である。そして、この結晶の固化成形時の押圧方向が図2に示すものであるとすると、図2のハッチングにて示す面がX線を照射してX線回折による解析をする面である。図3はこのX線回折の一例を示すチャートである。
【0018】
【発明の実施の形態】
以下、本発明について更に詳細に説明する。液体急冷法により熱電材料の箔を製造することができ、この作製した箔はそれ自体が粉末のように微細である場合がある。このような微細でない場合は、得られた箔を粉砕し、粉末とする。このようにして、液体急冷法により得られた熱電材料の粉末は、その内部に高密度の歪み及び欠陥が導入されている。この急冷箔においては、水素ガスの還元雰囲気中で熱処理したり、ホットプレス又は押出成形等の固化成形する際に、歪み又は欠陥が核となって微細な再結晶粒が粉末(箔)の内部に析出する。この結晶粒の粒界(界面)は不純物濃度が低いために、比抵抗(ρ)を低く保持したまま、粒界によるフォノン散乱を増加させて熱伝導率(κ)を低減することができる。これにより、性能指数(Z)を著しく向上させることができる。
【0019】
更に、この急冷箔中の歪みを利用した結晶は、固化成形時に加圧方向と平行の方向に長軸が偏倚し、加圧方向と垂直の方向に短軸が偏倚して、アスペクト比が大きな結晶粒として成長し、又は再結晶する特徴を有する。この場合に、長軸方向の比抵抗(ρ)値が短軸方向の比抵抗(ρ)値よりも著しく低下するため、この方向の性能指数が高くなる。また、押圧方向に平行にC面を揃えると、更に比抵抗ρが低下し、性能指数Zが高くなる。従って、熱電変換素子として、熱電モジュールに組み立てる際には、加圧方向と平行の方向、即ち長軸方向に電流が流れるように電極を取り付けることが必要である。
【0020】
本実施例においては、Bi、Sb及びTeからなる組成物にTeを添加して製造された熱電材料を使用しているが、他の種々の組成を有する熱電材料を使用しても、同様の効果を得ることができる。例えば、本発明において、熱電材料としては、Bi及びSbのいずれか一方又は両方と、Te及びSeのいずれか一方又は両方とからなるものを使用することができる。また、熱電材料としては、前記組成の他に、I、Cl、Hg、Br、Ag及びCuからなる群から選択された少なくとも1種の元素が添加されているものも使用することができる。
【0021】
次に、上述の熱電材料の製造方法について説明する。図4は液体急冷法により熱電材料の粉末を製造する方法を示す。銅製ロール12を回転させつつ、その頂部15に、石英ノズル11内に貯留した熱電材料の溶湯13をArガスにより加圧して供給する。これにより、溶湯13が銅製ロール12に接触して急冷され、急冷薄帯14となってロール12の回転により送り出される。
【0022】
図5はガスアトマイズ法により急冷粉末を製造する方法を示す。溶湯保持るつぼ21はその底部に出湯孔27が設けられており、るつぼ21内に貯留した溶湯をこの出湯孔27から流出させるようになっている。このるつぼ21から出湯した溶湯は溶湯細流24となって流下する。そして、るつぼ21の底面には噴霧ノズル23が支架されており、このノズル23から高圧ガスの気流22が溶湯細流24に向けて噴出されるようになっている。これにより、この気流22が溶湯細流24に交差する粉化点25にて溶湯が気流22により冷却されると共に粉砕され、粉末26が生成する。
【0023】
これらの図4に示す液体急冷法により急冷されて得られた急冷薄帯14又は図5に示すガスアトマイズ法により急冷粉末26は、次いで、水素ガス中又はArガス中で熱処理される。この熱処理条件は、例えば、温度が200乃至500℃、時間が2乃至24時間である。
【0024】
その後、薄帯14又は粉末26を必要に応じて粉砕し、分級して粒度を揃える。そして、適度な粒度範囲の粉末を図6に示すように円柱状の型31内に装入し、加熱して円周面を拘束した状態で軸方向に圧力Pを印加し、ホットプレスする。これにより、プレス方向(押圧方向)に長軸が揃い、押圧方向に直交する方向に短軸が揃った結晶粒を有する結晶組織の熱電材料が固化成形される。
【0025】
この場合に、粉末の粒度、熱処理条件等を調整することにより、長軸の平均結晶粒径が30μm以下、短軸の平均結晶粒径が10μm以下であると共に、長軸粒径Dと短軸粒径dとの比D/dが1.5以上である熱電材料を得ることができる。
【0026】
図7は急冷薄片における結晶粒の成長方向を示す模式図である。冷却ロール30の表面に急冷薄片31が形成され、結晶がロール表面から遠ざかる方向に成長し、この方向に長軸Dを有し、ロール表面に平行の方向に短軸dを有する結晶構造が得られる。そして、この急冷薄片31に対し、図8に示すように、長軸に平行の方向に応力を印加すると、六方晶であって、そのC面が押圧方向に平行の結晶構造が得られる。
【0027】
図7のような液体急冷法(単ロール法)の場合を例にとると、熱電材料の溶湯が冷却ロールの表面で冷却され、急冷薄帯が形成されるとき、溶湯は冷却ロールの表面側の部分が先ず冷却され、その後順次冷却ロールから離れる部分が冷却されていく。従って、ロール表面側が低温でそれから離れるに従って高温になる温度勾配が生じる。このため、結晶粒はロール方面から遠ざかる方向に成長し、この方向に長軸Dを有し、ロール表面に平行の方向に短軸dを有するアスペクト比の大きな結晶粒となる。急冷薄帯中にはこのような厚さ方向と平行に長軸が有する結晶粒が多数並ぶ。
【0028】
さらに、この急冷時の溶湯の温度を制御すると、熱電材料の結晶方位を制御することができ、図8のように急冷薄帯の厚さ方向と平行に六方晶のC面も整列する。
【0029】
液体急冷法により製造した急冷薄片には歪み及び欠陥が導入されている。急冷薄片を粉砕し、又は粉砕せずにホットプレス等によって固化成形する際、この歪み又は欠陥が核となって再結晶粒が析出する。この再結晶粒は、固化成形時のプレス方向と平行の方向に長軸を有し、プレス方向と垂直の方向に短軸を有するアスペクト比の大きな結晶粒とすることができる。
【0030】
従って、急冷薄片(粉)を固化成形する際、急冷薄帯の厚さ方向と平行方向に、即ち急冷薄帯中の結晶粒の長軸と平行の方向に押圧し、固化成形時に生成する再結晶粒も長軸が押圧方向に揃うようにすると、結果として、結晶粒の長軸方向が押圧方向に平行の方向に揃った結晶組織を有する熱電材料が得られる。
【0031】
このような熱電材料は、結晶粒の長軸方向即ち押圧方向の比抵抗(ρ)が短軸方向の比抵抗(ρ)よりも著しく低下するため、押圧方向の性能指数(Z)が高くなる。また、結晶のC面も押圧方向に揃っているため、更に比抵抗(ρ)が低下し、性能指数(Z)が高くなる。
【0032】
熱電素子として熱電モジュールに組み立てる際には、押圧方向即ち結晶粒の長軸方向に電流が流れるように電極を取り付ける。
【0033】
次に、製造条件の一例について、具体的に説明する。先ず、所望の組成を有する熱電材料の溶湯を、例えば、単ロール法により、103乃至106(K/秒)で急冷する液体急冷法により薄膜化し、又は粉末状とする。この際、熱電材料の低抵抗結晶方位を制御成長させるために、ロール(例えば、銅製)の表面温度を80℃以下に維持する。また、この薄膜をそのままの状態か、又は粉砕しても片の厚さ以外の部分の平均粉末粒径が50μmを超える粒径となるように分級し、これを固化成形する。固化成形は例えば、圧力を100乃至4000Kgf/cm2、温度を300乃至500℃として、真空又はArガス雰囲気中で15乃至180分間、ホットプレスする。これにより、上述の条件の熱電材料を製造することができる。
【0034】
更に、液体急冷プロセスにおいて、溶湯の温度を1000℃以下に維持することにより、ロール表面でC面が一定の方向に揃うように結晶方位を制御し、この薄膜を使用すると、C面が整列した材料を得ることが可能となる。
【0035】
この急冷条件は、例えば、ロール回転速度(周速)が2〜80m/s、ノズル径が0.1〜10mm、溶湯射出圧力が0.1〜7kg/cm2である。
【0036】
【実施例】
次に、本発明の熱電材料を製造し、その特性を本発明の範囲から外れる比較例と比較した結果について説明する。図9は横軸に長軸の平均結晶粒径をとり、縦軸に比抵抗ρと熱伝導率κとの積(これは性能指数の逆数に比例する)をとって、両者の関係を示すグラフ図である。使用した熱電材料の組成は、Bi0.4Sb1.6Te3に5重量%のTeを添加したP型のものである。この組成の熱電材料を単ロールの液体急冷法により急冷した。ロール回転速度は42m/秒である。得られた薄帯をホットプレスにより380℃に30分間加熱し、4tonf/cm2の圧力を印加して固化成形した。得られた結晶粒のアスペクト比は4であった。なお、性能指数の計算に使用するゼーベック係数αは182〜195μ・V/Kである。
【0037】
この図9から明らかなように、長軸の平均結晶粒径が30μm以下の場合に、ρ×κが低いものであった。図10はこのρ×κの値から性能指数Zを算出したものである。この図10に示すように、性能指数Zは、長軸の平均結晶粒径が30μm以下の場合に、極めて高くなる。
【0038】
図11は横軸に短軸の平均結晶粒径をとり、縦軸にρ×κをとって、両者の関係を示すグラフ図である。この熱電材料の組成は、Bi1.9Sb0.1Te2.85Se0.15に0.06重量%のSbI3を添加したN型のものである。この組成の熱電材料を単ロールの液体急冷法により急冷した。ロール回転速度は2m/秒である。得られた薄帯をホットプレスにより430℃に30分間加熱し、4tonf/cm2の圧力を印加して固化成形した。得られた結晶粒のアスペクト比は3.2であった。なお、性能指数の計算に使用するゼーベック係数αは−175〜−183μ・V/Kである。
【0039】
この図11から明らかなように、短軸の平均結晶粒径が10μm以下の場合に、ρ×κが低いものであった。図12はこのρ×κの値から性能指数Zを算出したものである。この図12に示すように、性能指数Zは、短軸の平均結晶粒径が10μm以下の場合に極めて高くなる。
【0040】
次に、図13を参照して平均結晶粒径のアスペクト比による性能指数の影響について説明する。図13は横軸にアスペクト比をとり、縦軸に加圧平行方向の比抵抗ρをとって、両者の関係を示すグラフ図である。
【0041】
使用した熱電材料は、Bi0.45Sb1.55Te3に1重量%のTeを添加したものである。そして、この材料の平均結晶粒径は長軸が10〜30μm、短軸が3〜10μmである。また、この材料はI0/I1=0.45である。この図13から明らかなように、アスペクト比が1.5以上の場合に、加圧方向に平行の方向の比抵抗ρが大きく低下する。この比抵抗ρが低下するということは、前述の数式1から明らかなように、性能指数Zが向上することを意味する。
【0042】
また、図14は図13に対応する性能指数Zを示すグラフ図である。これらの図9乃至14からわかるように、熱電材料のアスペクト比及び平均結晶粒径を適切に調整することにより、熱電材料の性能指数を向上させることができる。
【0043】
次に、押圧方向に垂直の面のX線回折によって解析される結晶構造について説明する。図15はBi0.5Sb1.5Te3+1重量%Teの組成でD/d=4の熱電材料について、横軸にI0/I1値をとり、縦軸に比抵抗(ρ)をとってその相関関係を示すグラフ図である。また、図16は同じくそのI0/I1値と性能指数Zとの関係を示すグラフ図である。I0は(110)面のピーク強度であり、I1は(015)面のピーク強度である。これらの図15及び16に示すように、I0/I1が0.2以上の場合に、比抵抗が著しく低下し、性能指数Zが極めて高くなる。
【0044】
また、図17はBi0.4Sb1.6Te3+4重量%Teの組成でD/d=5の熱電材料について、横軸にI0/I2値をとり、縦軸に比抵抗(ρ)をとってその相関関係を示すグラフ図である。また、図18は同じくそのI0/I2値と性能指数Zとの関係を示すグラフ図である。I2は(1010)面のピーク強度である。これらの図17及び18に示すように、I0/I2が0.5以上の場合に、比抵抗が著しく低下し、性能指数が極めて高くなる。
【0045】
更に、図19はBi1.9Sb0.1Te2.7Se0.3+0.06重量%SbI3の組成でD/d=3.2の熱電材料について、横軸にI0/I3値をとり、縦軸に比抵抗(ρ)をとってその相関関係を示すグラフ図である。また、図20は同じくそのI0/I3値と性能指数Zとの関係を示すグラフ図である。I3は(205)面のピーク強度である。これらの図19及び20に示すように、I0/I3が0.5以上である場合に、比抵抗が著しく低下し、性能指数Zが極めて高くなる。
【0046】
本件出願人は、本発明に関連する発明を既に出願した(特願平10−204069)。この先行出願の発明に係る熱電材料は、Bi及びSbからなる群から選択された少なくとも1種の元素と、Te及びSeからなる群から選択された少なくとも1種の元素とからなる組成を有し、固化成形時の押圧方向に長軸が延びた結晶粒からなる結晶組織を有し、この結晶粒の長軸の平均結晶粒径Dと短軸の平均結晶粒径dとの比であるアスペクト比D/dが3以上であり、短軸の平均結晶粒径dが10μm以下、長軸の平均結晶粒径Dが30μm以下であるものである。
【0047】
しかしながら、本発明においては、上述の如く、結晶組織にアスペクト比をつけた上に、結晶構造を低抵抗方向に整列させることにより、α(熱起電力)値、κ(熱伝導率)値を維持したまま、更に比抵抗(ρ)を下げて性能指数Zを向上させることができた。これにより、上記先行出願に係る発明では、アスペクト比を3以上とせざるを得なかったのに対し、本発明においては、アスペクト比が1.5以上でも、更に一層高い性能指数を得ることができる。具体的には、本発明によれば、性能指数Zが4.2×10−3(1/K)以上の熱電材料を得ることができる。
【0048】
次に、種々の条件で熱電材料を作製し、その熱電特性を求めた結果について説明する。先ず、種々の組成を有する熱電材料を製造し、平均結晶粒径及び平均アスペクト比を測定した。次いで、これらの実施例及び比較例のサンプルについて、加圧方向に平行の方向について、比抵抗ρ、熱伝導率κ及びゼーベック係数αから性能指数Zを算出した。その結果を下記表1及び表2(実施例)並びに表3及び表4(比較例)に示す。表1は本発明の実施例の特性を示し、表2は同じくその配向性を示す。また、表3はアスペクト比は本発明の条件を満たすが、I0/I1<0.2、I0/I2<0.5及びI0/I3<0.5である場合の比較例である。更に、表4はI0/I1<0.2、I0/I2<0.5及びI0/I3<0.5である場合の比較例である。
【0049】
【表1】
【0050】
【表2】
【0051】
【表3】
【0052】
【表4】
【0053】
上記表1に示すように、本発明の特許請求の範囲の請求項1又は2に規定する条件を満たす実施例1〜10の場合には、性能指数Zが4.21×10−3(1/K)以上であり、極めて高いものであった。これに対し、表2、3に示すように、本発明の範囲から外れる比較例11〜26の場合には、性能指数Zは高々3.96×10−3(1/K)であり、本発明の実施例よりも低いものである。この比較例の中で、平均結晶粒径が長軸及び短軸とも50μm以下の材料は、前述の特開平10−51037号公報に記載の発明の範囲に入るものであるが、これは、本発明のように性能指数Zが4.21×10−3(1/K)以上とまではいかないが、いずれも3.4×10−3(1/K)を超えるものであった。また、アスペクト比が3以上の比較例は、アスペクト比に関しては本発明の範囲に入るものの、性能指数ZはZ=3.96×10−3(l/K)程度までであった。
【0054】
熱電材料を使用してペルチェモジュール(熱電素子)を作製する場合、この素子性能は主として最大温度差(ΔTmax)と最大吸熱量とで表すことができる。例えば、熱電材料の性能指数が3.4×10−3(1/K)であるとき、この熱電材料を使用して得られた熱電素子の最大温度差(ΔTmax)は70(K)以上、最大吸熱量は8(W/cm2)以上の能力となる。これは、室温から10(K)の温度差を設ける場合に、従来の熱電素子と比較して、その消費電力を30%削減することができることを示している。これにより、CCDの冷却、半導体レーザの温度調節及び高集積CPUの冷却等によって誤動作を防止するために応用することができ、消費電力を低減することができる。
【0055】
また、性能指数が3.8×10−3(1/K)を超えると、ΔTmaxは75K以上、最大吸熱量は10W/cm2以上の能力で、室温から10Kの温度差を設ける場合に、従来素子と比較して、消費電力を38乃至40%削減できる。これにより電子冷却式の小型冷凍庫の製造が可能となる。
【0056】
性能指数が4.2×10−3(1/K)を超えると、ΔTmaxは80K以上、最大吸熱量は13W/cm2以上の能力で、室温から10Kの温度差を設ける場合に、従来素子と比較して、消費電力を42乃至45%削減できる。これにより100リットルクラスの容積を持つ電子冷却式の中型冷蔵庫の製造が可能となる。
【0057】
【発明の効果】
以上詳述したように、本発明によれば、熱電材料の結晶粒の長軸及び短軸の平均結晶粒径及びアスペクト比を規定しているので、例えば、本件発明の実施例に示したように、4.21×10−3(1/K)以上の高い性能指数を有する熱電材料を得ることができる。また、この熱電材料に対して長軸の方向に電流が流れるように電極を取り付けたので、本発明の熱電素子は極めて優れた熱電特性を発揮する。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の熱電材料の結晶構造を示す図である。
【図2】押圧方向を示す図である。
【図3】X線回折例を示す図である。
【図4】液体急冷法による熱電材料の製造方法を示す図である。
【図5】ガスアトマイズ法による熱電材料の製造方法を示す図である。
【図6】ホットプレスによる固化成形方法を示す図である。
【図7】急冷薄片の結晶成長方向を示す模式図である。
【図8】押圧方向とC面との関係を示す模式図である。
【図9】横軸に熱電材料の結晶粒の長軸の平均結晶粒径をとり、縦軸にプレス方向のρ×κをとって、長軸の平均結晶粒径とρ×κとの関係を示すグラフ図である。
【図10】横軸に熱電材料の結晶粒の長軸の平均結晶粒径をとり、縦軸にプレス方向の性能指数Zをとって、長軸の平均結晶粒径とρ×κとの関係を示すグラフ図である。
【図11】横軸に熱電材料の結晶粒の短軸の平均結晶粒径をとり、縦軸にプレス方向のρ×κをとって、短軸の平均結晶粒径とρ×κとの関係を示すグラフ図である。
【図12】横軸に熱電材料の結晶粒の短軸の平均結晶粒径をとり、縦軸にプレス方向の性能指数Zをとって、短軸の平均結晶粒径と性能指数Zとの関係を示すグラフ図である。
【図13】横軸に熱電材料の結晶粒径のアスペクト比をとり、縦軸にプレス方向の比抵抗ρとの関係を示すグラフ図である。
【図14】図11に対応する性能指数Zを示すグラフ図である。
【図15】Bi0.5Sb1.5Te3+1重量%Teの組成でD/d=4の熱電材料のI0/I1値と比抵抗(ρ)との相関関係を示すグラフ図である。
【図16】同じくそのI0/I1値と性能指数Zとの関係を示すグラフ図である。
【図17】Bi0.4Sb1.6Te3+4重量%Teの組成でD/d=5の熱電材料のI0/I2値と比抵抗(ρ)との相関関係を示すグラフ図である。
【図18】同じくそのI0/I2値と性能指数Zとの関係を示すグラフ図である。
【図19】Bi1.9Sb0.1Te2.7Se0.3+0.06重量%SbI3の組成でD/d=3.2の熱電材料のI0/I3値と比抵抗(ρ)との相関関係を示すグラフ図である。
【図20】同じくそのI0/I3値と性能指数Zとの関係を示すグラフ図である。
【図21】従来技術において、固化成形される熱電材料の結晶粒とホットプレス方向を示す模式図である。
【符号の説明】
1;熱電材料
2;結晶粒
11;石英ノズル
12;銅製ノズル
13;溶湯
14;急冷薄帯
21;溶湯保持るつぼ
22;高圧ガス
23;噴霧ノズル
24;溶湯細流
25;粉化点
26;粉末
31;型
Claims (9)
- Bi及びSbからなる群から選択された少なくとも1種の元素と、Te及びSeからなる群から選択された少なくとも1種の元素とからなる組成を有し、固化成形時の押圧方向に長軸が延びた結晶粒からなる結晶組織を有し、この結晶粒の長軸の平均結晶粒径Dと短軸の平均結晶粒径dとの比であるアスペクト比D/dが1.5以上であり、短軸の平均結晶粒径dが10μm以下、長軸の平均結晶粒径Dが30μm以下であると共に、この押圧方向に垂直の面のX線回折によって得られる(110)面のピーク強度I 0 と(015)面のピーク強度I 1 との比I 0 /I 1 が0.2以上であることを特徴とする熱電材料。
- Bi及びSbからなる群から選択された少なくとも1種の元素と、Te及びSeからなる群から選択された少なくとも1種の元素とからなる組成を有し、固化成形時の押圧方向に長軸が延びた結晶粒からなる結晶組織を有し、この結晶粒の長軸の平均結晶粒径Dと短軸の平均結晶粒径dとの比であるアスペクト比D/dが1.5以上であり、短軸の平均結晶粒径dが10μm以下、長軸の平均結晶粒径Dが30μm以下であると共に、この押圧方向に垂直の面のX線回折によって得られる(110)面のピーク強度I 0 と(1010)面のピーク強度I 2 との比I 0 /I 2 が0.5以上であることを特徴とする熱電材料。
- Bi及びSbからなる群から選択された少なくとも1種の元素と、Te及びSeからなる群から選択された少なくとも1種の元素とからなる組成を有し、固化成形時の押圧方向に長軸が延びた結晶粒からなる結晶組織を有し、この結晶粒の長軸の平均結晶粒径Dと短軸の平均結晶粒径dとの比であるアスペクト比D/dが1.5以上であり、短軸の平均結晶粒径dが10μm以下、長軸の平均結晶粒径Dが30μm以下であると共に、この押圧方向に垂直の面のX線回折によって得られる(110)面のピーク強度I 0 と(205)面のピーク強度I 3 との比I 0 /I 3 が0.5以上であることを特徴とする熱電材料。
- 前記組成は、更に、I、Cl、Hg、Br、Ag及びCuからなる群から選択された少なくとも1種の元素を含むことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の熱電材料。
- 前記結晶粒は、再結晶粒であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の熱電材料。
- 液体急冷法によって作製された薄片を粉砕し又は粉砕せずに固化成形して得られるものであることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載の熱電材料。
- 液体急冷法によって作製された薄片を粉砕し又は粉砕せずに不活性ガス中又は水素ガス中で熱処理した後に固化成形して得られるものであることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載の熱電材料。
- 液体急冷法によって作製された薄片を分級して粒度が揃った粉末とし、これを加熱して拘束した状態で加圧して得られるものであることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載の熱電材料。
- 前記請求項1乃至8のいずれか1項に記載の熱電材料に、前記長軸と平行に電流が流れるように電極を取り付けたことを特徴とする熱電変換素子。
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