JP3860251B2 - 懸架系の減衰力制御装置 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、減衰力を可変制御できるショックアブソーバとバネとを組み合わせた懸架系において、時々刻々と変化する振動状態に応じて減衰力を的確に制御する装置に関し、特に車両の加減速時におけるタイヤ接地性を十分に保ち、制駆動性能および操縦安定性を良好にするものに関する。
【0002】
【従来の技術】
減衰力が可変なショックアブソーバを利用した懸架系において、振動状態に応じて減衰係数を変化させ、例えばバネ上からの振動の減衰率を高め、かつバネ下からの振動の絶縁効果を改善するようにした提案が、以下の参考文献等によってなされている。
【0003】
参考文献1…D.Karnopp et al.:Vibration Control Using Semi−Active Force Generators,J.E.I.ASME,May,619/626(1974)、参考文献2…藤岡健彦、木戸孝二;可変ダンパの制御方式に関する研究(VSS理論から見た車両振動制御)、自動車技術会学術講演会前刷集862 197/200(1989)、参考文献3…An Introduction to Sliding mode Variable Structure and Lyapunov Control,1/20,Springer(1994)。
【0004】
さらに、本出願人により、特願平7−326169号において、バネ上とバネ下の相対速度、相対変位のように比較的検出が容易な信号を用いて、減衰力可変ショックアブソーバの減衰力を調整することにより、目標どおりの減衰力特性を発揮させられるようにした減衰力制御装置が提案されている。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
ところで、一般に減衰力制御装置においては、サスペンションの減衰特性を柔らかめに設定すると、車体の振動特性は良好になる一方で、タイヤの接地性は悪化する結果、操縦安定性が低下してしまう。またこれとは逆に、減衰特性を硬めに設定すると、操縦安定性は良好になるが、乗り心地が悪化してしまう。
【0006】
このような乗り心地とタイヤ接地性との間のトレードオフの関係は、前述の特願平7−326169号の減衰力制御装置においても生ずる。すなわち、この減衰力制御装置は、路面からの入力により車体振動が励起された場合に制振効果が大きいものではあるが、基本減衰定数目標値c0を乗り心地とタイヤ接地性の両者のバランスを考えて決定するものであり(特願平7−326169号の明細書の第10頁参照)、実際には、乗り心地とタイヤ接地性に関する性能の両方を、必ずしも十分に満足させるものとは言えなかった。
【0007】
本発明は、このような問題点に着目し、車体振動を抑制し乗り心地を高めるとともに、車両の加減速時におけるタイヤ接地性を十分に保ち、制駆動性能および走行安定性を良好にする懸架系の減衰力制御装置を提供することを目的とする。
【0008】
【課題を解決するための手段】
第1の発明は、バネ上とバネの相対速度検出手段と、バネ上とバネ下の相対変位検出手段と、これらから検出された相対速度と相対変位を入力して減衰力可変ショックアブソーバの減衰定数目標値を設定する減衰定数目標値演算手段と、この減衰定数目標値を入力として減衰定数を調節する減衰力可変ショックアブソーバとを備えるとともに、前記減衰力目標値演算手段は、高周波帯域での振動特性から決められる所定の定数である基本減衰定数目標値を設定する目標値設定手段と、Sliding-Mode 制御理論を用いて前記相対速度と相対変位に基づいて演算した理想減衰力を修正した減衰定数修正値を演算する手段とを備え、これら基本減衰定数目標値と減衰定数修正値とを含む減衰定数目標値を出力することを特徴とする懸架系の減衰力制御装置において、車両の前後加速度を検出する前後加速度検出手段を備え、前記目標値設定手段は、高周波帯域での振動特性から決められる基本減衰定数目標値として前後加速度を考慮して大小の所定値を設定する一方、前記前後加速度の絶対値が設定値よりも小さいときには前記基本減衰定数目標値として小さい所定値を選択し、前記前後加速度の絶対値が設定値よりも大きいときには前記基本減衰定数目標値として大きい所定値を選択する。
【0009】
第2の発明は、バネ上とバネの相対速度検出手段と、バネ上とバネ下の相対変位検出手段と、これらから検出された相対速度と相対変位を入力して減衰力可変ショックアブソーバの減衰定数目標値を設定する減衰定数目標値演算手段と、この減衰定数目標値を入力として減衰定数を調節する減衰力可変ショックアブソーバとを備えるとともに、前記減衰力目標値演算手段は、高周波帯域での振動特性から決められる所定の定数である基本減衰定数目標値を設定する目標値設定手段と、Sliding-Mode 制御理論を用いて前記相対速度と相対変位に基づいて演算した理想減衰力を修正した減衰定数修正値を演算する手段とを備え、これら基本減衰定数目標値と減衰定数修正値とを含む減衰定数目標値を出力することを特徴とする懸架系の減衰力制御装置において、車両の加速を指示する加速指示信号と車両の減速を指示する減速指示信号を検出する加減速指示信号検出手段を備え、前記目標値設定手段は、高周波帯域での振動特性から決められる基本減衰定数目標値として前後加速度を考慮して大小の所定値を設定する一方、前記前後加速度信号および減速指示信号と所定の基準値との大小関係にしたがって、前記基本減衰定数目標値として小さい所定値または大きい所定値を選択する。
【0010】
第3の発明は、前記加速指示信号はアクセルペダル角を検出する信号であり、前記減速指示信号はブレーキペダル角を検出する信号であり、前記目標値設定手段は、前記アクセルペダル角およびブレーキペダル角のいずれもが設定値よりも小さなときには前記基本減衰定数目標値として小さい所定値を選択し、前記アクセルペダル角またはブレーキペダル角の少なくともいずれか一方が設定値よりも大きなときには前記基本減衰定数目標値として大きい所定値を選択する。
【0011】
【作用】
第1の発明では、減衰力可変ショックアブソーバに入力される減衰定数目標値は、基本減衰定数目標値と減衰定数修正値から決定されるが、目標値設定手段が、定速走行時、緩制動時、緩加速時など前後加速度の絶対値が設定値よりも小さなときには、基本減衰定数目標値を小さい値とし、急制動時または急加速時など前後加速度の絶対値が設定値よりも大きなときには、基本減衰定数目標値を大きい値とするので、定速走行時などには柔らかめな減衰力特性により良好な乗り心地を保つ一方で、急制動時、急加速時など車両の乗り心地よりも操縦安定性を重視する必要があるときには、減衰力特性を硬めにしてタイヤの接地性を高め、制駆動性能および操縦安定性を高めるようにでき、車両の乗り心地の向上と、制駆動性能および操縦安定性の向上とを同時に最大限に図ることができる。
【0012】
第2の発明では、目標値設定手段が、前記加速指示信号および前記減速指示信号と所定の基準値との大小関係に応じて走行状態を判断し、定速走行時、緩制動時、緩加速時などには、基本減衰定数目標値を小さい値とし、急制動時または急加速時などには、基本減衰定数目標値を大きい値とするので、定速走行時などには柔らかめな減衰力特性により良好な乗り心地を保つ一方で、急制動時、急加速時など車両の乗り心地よりも操縦安定性を重視する必要があるときには、減衰力特性を硬めにしてタイヤの接地性を高め、制駆動性能および操縦安定性を高めるようにでき、車両の乗り心地の向上と、制駆動性能および操縦安定性の向上とを同時に最大限に図ることができる。
【0013】
第3の発明では、加速指示信号としてアクセルペダル角を検出する信号が、また減速指示信号としてブレーキペダル角を検出する信号がそれぞれ検出され、目標値設定手段が、定速走行時、緩制動時、緩加速時など、ブレーキペダル角およびアクセルペダル角のいずれもが設定値よりも小さなときには、基本減衰定数目標値を小さい値とし、急制動時などブレーキペダル角が設定値より大きいか、急加速時などアクセルペダル角が設定値より大きなときには、基本減衰定数目標値を大きい値とするので、定速走行時などには柔らかめな減衰力特性により良好な乗り心地を保つ一方で、急制動時、急加速時など車両の乗り心地よりも操縦安定性を重視する必要があるときには、減衰力特性を硬めにしてタイヤの接地性を高め、制駆動性能および操縦安定性を高めるようにでき、車両の乗り心地の向上と、制駆動性能および操縦安定性の向上とを同時に最大限に図ることができる。
【0014】
【発明の実施の形態】
以下、添付図面に基づいて、本発明の実施の形態について説明する。
【0015】
図1において、1は、減衰力可変ショックアブソーバ4の、バネ上とバネ下の相対変位を検出する相対変位検出手段、2は同じくバネ上とバネ下の相対速度を検出する相対速度検出手段、5は車両の前後加速度Gを検出する前後加速度検出手段、3はこれら相対変位、相対速度および前後加速度に基づいて減衰定数の目標値を演算し、この結果を減衰力可変ショックアブソーバ4に入力して目標とする減衰力を発生させるように制御するための減衰定数目標値演算手段である。
【0016】
図2は減衰定数目標値演算手段3の具体的な構成を示すもので、図示するように、バネ上とバネ下のの相対変位x1(以下単に相対変位という)、バネ上とバネ下の相対速度x2(以下単に相対速度という)、及び後述するフィルタWc(s)13の状態量xcとに基づいて切換入力を演算する切換入力演算手段11と、同じく相対速度、相対変位、フィルタ状態量xcとに基づいて線形入力を演算する線形入力演算手段12と、これらの切換入力と線形入力とを加算する加算器16と、この加算器16の出力である理想入力に基づいて理想減衰力を出力するフィルタWc(s)13と、フィルタWc(s)13から出力される理想減衰力から減衰力定数の修正値を演算する修正値演算手段14と、前後加速度Gから基本減衰定数目標値を設定する目標値設定手段15と、これらの出力を加算して減衰定数目標値として出力する加算器17とから構成される。
【0017】
以下、これをさらに詳しく説明する。なお、以下の説明において、(d/dt)は時間についての一階微分、(d2/dt2)は二階微分を意味する。
【0018】
切換入力演算手段11は相対速度、相対変位、フィルタの状態量xc、所定のゲインN、M、ρ、及び定数δから、次のように切換入力uswを計算する。
【0019】
sw=ρMxe/(‖Nxe‖+δ) …(1)
だだし、xe=[xTC TT、x=[x12Tである。
【0020】
線形入力演算手段12は、制御ゲインLから次のように線形入力ulnを演算する。
【0021】
ln=Lxe …(2)
フィルタWc(s)13は、理想入力uideal=usw+ulnから理想減衰力fidealを次のように演算する。
【0022】
(d/dt)xc=Acc+Bcideal …(3)
ideal=Ccc …(4)
ここでAC、BC、CCはフィルタWc(s)13の減衰特性を表す適当な次元の定数行列である。例えばフィルタWc(s)がカットオフ周波数10[Hz]のローパスフィルタ;
c(s)=2π×10/(s+2π×10)、sはラプラス演算子
であれば、
C=BC=2π×10、CC=1
とすればよい。
【0023】
減衰定数目標値演算手段3は、
c′=−fideal/x2+c0 …(5)
により、減衰定数目標値c′を出力する。ここでc0は高周波帯域の振動特性から決められる所定の定数である。なお、請求項の記載との関係で、c0は基本減衰定数目標値に、−fideal/x2は減衰定数修正値に、それぞれ対応する。
【0024】
減衰力可変ショックアブソーバ4はc′を入力し、その発生減衰力cが、
c=c′ …(6)
となるものとする。
【0025】
以下、各制御ゲインの導き方を説明する。
【0026】
図3に示す懸架系を考える。この系のバネ上の運動方程式は次のように書くことができる。
【0027】
Figure 0003860251
ここで、m1はバネ下質量、k1はバネ下剛性、m2はバネ上質量、k2はバネ剛性、c2はショクアブソーバ減衰定数、(d2/dt2)z2はバネ上の絶対座標に対する上下方向加速度、(d2/dt2)z1はバネ下の絶対座標に対する上下方向加速度、z0は外乱変位、z1はバネ下変位、z2はバネ上変位である。これは自動車のサスペンションを簡略化したモデルであるが、例えばm1→0、k1→∞のようにしても以下の議論は成立する。懸架系の目的は外乱z0の存在下で、バネ上の動きを制振することである。
【0028】
バネ上とバネ下の相対変位をx1=z2−z1、バネ上とバネ下の相対速度をx2=(d/dt)z2−(d/dt)z1とおくと、
【0029】
【数1】
Figure 0003860251
【0030】
が得られる。この式(8)を次のように書き直す。
【0031】
【数2】
Figure 0003860251
【0032】
ただし、
2=c0+cu、u=[0 −cu]x
である。cuは減衰力可変ショックアブソーバ4の減衰係数可変代である。c0は実際のショックアブソーバの可変代と関係なく、後で述べるように、高周波帯域での振動特性および前後加速度検出手段5により検出される前後加速度Gを考慮して決める。
【0033】
uはフィルタWc(s)を介して、
u(s)=Wc(s)uideal …(10)
のように発生させる。このように、例えばWc(s)をローパスフィルタとしておけばu(s)の高周波成分が減衰され、高周波帯域では、
u≒0⇒cu≒0⇒c2≒c0 …(11)
となる。この効果については後に説明する。
【0034】
さて、式(10)のようにuを発生すると、懸架系とフィルタの拡大系は、次のように表すことができる。
【0035】
【数3】
Figure 0003860251
【0036】
また,加速度(d2/dt2)z2は、
(d2/dt2)z2=[CP0c]xe …(13)
となる。ここで、xe=[xTc TTである。
【0037】
以下、Sliding Mode制御理論に基づき制御ゲインを導く。
【0038】
式(12)はT1c=[0 B2 TT、B2は正則行列、となるT1を用いた相似変換;
【0039】
【数4】
Figure 0003860251
【0040】
により、
【0041】
【数5】
Figure 0003860251
【0042】
と書き直せる。
【0043】
後述する式(19)のようにuidealを発生すると、制御を始めてから実用上十分短い時間のうちに、Sliding Modeを切換面;
σ=0、σ=Fy1+y2 …(15)
に発生させることができる。すなわち、拡大系の状態量はσ=0の平面に拘束される[ただし参考文献3を参照]。このとき拡大系の運動は,
Figure 0003860251
すなわち、
(d/dt)y1=(A11−A12F)y1+B11(d2/dt2)z1 …(17)
と表現できる。
【0044】
制御目的を満たすには、望ましい切換面に状態を拘束すればよい。言葉をかえると、式(17)が好ましい振動特性を表すようにすればよい。これは、
(d/dt)y1=A111+A12
で表される系を、状態フィードバックv=−Fy1で制振する問題と等価である。このようなフィードバックゲインF(切換面)を設計するには次の公知の方法を用いればよい。
【0045】
状態が切換面σ=0に拘束されているとき、次の評価関数
【0046】
【数6】
Figure 0003860251
【0047】
が最小になる切換面σ=0、σ=F1+y2は式(16)からH最適化により設計できる。ここで、Qは正定対称な重み行列、y=[y12T、γは懸架系の特性とフィルタの特性によって決まる定数である。あるいは、(d2/dt2)z1をインパルス関数又は白色ノイズと仮定すると、Sliding Modeが発生しているとき次の評価関数;
【0048】
【数7】
Figure 0003860251
【0049】
が最小になる切換面σ2=0、σ2=F21+y2は,H2最適化により設計できる[参考文献3参照]。
【0050】
ここで、例えばバネ上上下加速度(d2/dt2)z2を抑えたいときには、(d2/dt2)z2を評価関数に入れればよく、
(d2/dt2)z2=[CP0c]xe、T2e=y …(18)
となることから、
Figure 0003860251
とすればよい。だだし、xe=[xTc TT、Q0はQの正定対称性を満たすための行列である。
【0051】
Sliding Modeを実現する理想入力uidealは、
ideal=Lxe+ρMxe/(‖Nxe‖+δ) …(19)
と発生すればよい。ここで、制御ゲインL、M、Nは前記参考文献3に示された適当な行列であり、次のように求められる。まず、Σ、Θ、Фを次のように定義する。
【0052】
Σ=A11−A12
Θ=FΣ−A22F+A21
Ф=FA12+A22
これらから、L、M、Nは、
L=−B2 -1(Θ Ф−Ф′)T32
M=−B2 -1(0 P2)T32
N=(0 P2)T32
となる。ここでP2は次のLyapunov方程式の正定対称解とする。
【0053】
2Ф′+Ф′T2=−I
Ф′とρは設計パラメータで、それぞれSliding modeへの収束の速さを決める安定行列、uswの大きさを決める正定数である。また、
【0054】
【数8】
Figure 0003860251
【0055】
である。
【0056】
δ≧0は設計パラメータで、チャタリングを防止する正定数である。減衰定数の応答が十分速く、かつ相対変位、相対速度の検出が十分速く行えるときには、δ=0とするとuswは不連続な切換入力となり、切換面への状態の拘束を確実にすることができる。
【0057】
idealから理想減衰力は前に示したように、
ideal(s)=Wc(s)uideal(s)
と発生される。理想減衰力で、ショックアブソーバで発生可能なfsabs
−fideal/x2=c″≧0、fsabs=−c″x2 …(20)
で−fideal/x2≧0のときに限られる。ここで必ずしも−fideal/x2≧0である保証はないが、フィルタWc(s)や切換面σ=0が適切に設定されていれば実用領域で十分な制御効果を期待することができる。このことから減衰力可変ショックアブソーバの減衰定数の目標値は減衰力の固定分c0を考慮して式(5)に示したように、
c′=cu+c0、cu=−fideal/x2
とすればよい。
【0058】
つぎに基本減衰定数目標値c0の効果について説明する。
【0059】
本発明では、以下に説明するように、この基本減衰定数目標値c0として、例えば大小2種類の所定値を設定しておき、これらを前後加速度Gの絶対値│G│の大小にしたがって切り換えて用いることにより、高周波帯域において、懸架系の減衰力特性を柔らかめにし、主としてバネ上上下加速度を抑制して乗り心地を高めるか、懸架系の減衰力特性を硬めにして、主としてバネ下上下加速度を抑制してタイヤの接地性を高めることにより、制駆動性能および操縦安定性を向上させるかを選択することができる。
【0060】
まず、懸架系の運動方程式(7)を次のように書き換える。
【0061】
Figure 0003860251
ここで、制振すべきはバネ上の振動であると考えれば、z1、(d/dt)z1は外乱であり、k2、c2はそれぞれの入力ゲインになっていることが分かる。このことからc2の値を小さくすれば外乱(d/dt)z1の影響は遮断され、したがって比較的高周波帯域での振動特性は改良されるが、そうすると左辺のダンピングが不足し、共振周波数(k2/m21/2の付近の振動が大きくなる。
【0062】
ところが、以上述べてきた制御方式において、例えばフィルタWc(s)をローパスフィルタとし、c0を十分小さい値としておけば、式(11)で述べたように,高周波ではc2≒c0となり、外乱の遮断性が改良され、かつ低周波帯域ではSliding Mode制御の効果が現れて懸架系のダンピングを改良することができる。
【0063】
したがって、車両の定速走行時、緩制動時、緩加速時など、前後加速度Gの絶対値│G│が所定の設定値G0よりも小さい場合(│G│<G0)には、主としてバネ上上下加速度を抑制し、乗り心地を向上させる必要があるので、基本減衰定数目標値c0を小さいほうの所定値に切り換え、減衰力特性を柔らかめに設定しておけば、図4のグラフ(A)に示すように、高周波帯域におけるバネ上上下加速度特性として良好な特性が得られる。
【0064】
一方、車両の急制動時、急加速時等、操舵速度Gの絶対値│G│が所定の設定値G0よりも大きい場合(│G│>G0)には、基本減衰定数目標値c0を大きいほうの所定値に切り換えることにより、ショックアブソーバ4の減衰力特性を硬めにする。これにより、図5のグラフ(B)に示すように、バネ下上下加速度が抑制され、タイヤ接地性が高められるので、制駆動性能および操縦安定性が向上する。
【0065】
なお、修正演算値設定手段14からの出力である減衰定数可変代cuは変わらないため、このcuが効いて来る低周波帯域での懸架系の振動特性は変化することはない。
【0066】
このように、本発明によれば、比較的検出容易な信号を用いて車体の上下振動を抑制することができるとともに、前後加速度Gによって判断される車両の状態に応じて基本減衰定数目標値c0を切り換えることにより、高周波帯域におけるショックアブソーバの減衰力が切り換えられ、車両の通常の定速走行時などには、バネ上上下加速度を抑制して乗り心地を高める一方、車両の急制動時、急加速時などには、主としてバネ下上下加速度を抑制して操縦安定性を高めることができる。これにより、車両の運転状況に応じて、最も効果のあるサスペンション特性を得ることができるため、車両の乗り心地の向上と、制駆動性能および操縦安定性の向上を、同時に最大限に図ることができる。
【0067】
図6、図7には本発明の他の実施の形態を示す。
【0068】
図6に示すように、この実施の形態では、図1の操舵速度検出手段5の代わりに加速指示信号(本実施の形態ではアクセルペダル角λA)および減速指示信号(本実施の形態ではブレーキペダル角λB)を検出する加減速指示信号検出手段6が設けられ、減衰定数目標値決定手段3は、相対変位検出手段1からのバネ上とバネ下の相対変位、相対速度検出手段2からのバネ上とバネ下の相対速度、加減速指示信号検出手段6からの加速指示信号および減速指示信号に基づいて減衰定数の目標値を演算し、この結果を減衰力可変ショックアブソーバ4に入力して目標とする減衰力を発生させるように制御する。
【0069】
すなわち、図7の減衰定数目標値演算手段3の具体的な構成において示されるように、加速指示信号であるアクセルペダル角λAおよび減速指示信号であるブレーキペダル角λBは目標値設定手段15に入力され、このアクセルペダル角λAおよびブレーキペダル角λBにしたがって、基本減衰定数目標値c0が切り換えられるようになっている。
【0070】
具体的には、例えば定速走行時、緩加速時、緩制動時など、アクセルペダル角λAおよびブレーキペダル角λBのいずれもが、それぞれの設定値λA0,λB0より小さい場合(λA<λA0かつλB<λB0の場合)には、基本減衰定数目標値c0を小さめの所定値として懸架系の減衰力特性を柔らかめとすることにより、主としてバネ上上下加速度を抑制することにより、高周波帯域における車体振動を抑制し、乗り心地を向上させる。
【0071】
一方、急加速、急制動時など、アクセルペダル角λAまたはブレーキペダル角λBの少なくともいずれか一方が、それぞれの設定値λA0,λB0より大きい場合(λA>λA0またはλB>λB0の場合)には、c0を大きめの所定値として懸架系の減衰力特性を硬めとすることにより、主としてバネ下上下加速度を抑制し、高周波帯域においても硬めな減衰力特性によりタイヤ接地性を高め、制駆動性能および操縦安定性を高めるようにする。
【0072】
これにより、本発明によれば、車両の運転状況に応じて、最も効果のあるサスペンション特性を得ることができ、車両の乗り心地の向上と、制駆動性能および操縦安定性の向上とを、同時に最大限に図ることができる。
【0073】
【発明の効果】
第1の発明によれば、減衰力可変ショックアブソーバに入力される減衰定数目標値は、基本減衰定数目標値と減衰定数修正値から決定されるが、目標値設定手段が、定速走行時、緩制動時、緩加速時など前後加速度の絶対値が設定値よりも小さなときには、基本減衰定数目標値を小さい値とし、急制動時または急加速時など前後加速度の絶対値が設定値よりも大きなときには、基本減衰定数目標値を大きい値とするので、定速走行時などには柔らかめな減衰力特性により良好な乗り心地を保つ一方で、急制動時、急加速時など車両の乗り心地よりも操縦安定性を重視する必要があるときには、減衰力特性を硬めにしてタイヤの接地性を高め、制駆動性能および操縦安定性を高めるようにでき、車両の乗り心地の向上と、制駆動性能および操縦安定性の向上とを同時に最大限に図ることができる。
【0074】
第2の発明によれば、目標値設定手段が、前記加速指示信号および前記減速指示信号と所定の基準値との大小関係に応じて走行状態を判断し、定速走行時、緩制動時、緩加速時などには、基本減衰定数目標値を小さい値とし、急制動時または急加速時などには、基本減衰定数目標値を大きい値とするので、定速走行時などには柔らかめな減衰力特性により良好な乗り心地を保つ一方で、急制動時、急加速時など車両の乗り心地よりも操縦安定性を重視する必要があるときには、減衰力特性を硬めにしてタイヤの接地性を高め、制駆動性能および操縦安定性を高めるようにでき、車両の乗り心地の向上と、制駆動性能および操縦安定性の向上とを同時に最大限に図ることができる。
【0075】
第3の発明によれば、加速指示信号としてアクセルペダル角を検出する信号が、また減速指示信号としてブレーキペダル角を検出する信号がそれぞれ検出され、目標値設定手段が、定速走行時、緩制動時、緩加速時など、ブレーキペダル角およびアクセルペダル角のいずれもが設定値よりも小さなときには、基本減衰定数目標値を小さい値とし、急制動時などブレーキペダル角が設定値より大きいか、急加速時などアクセルペダル角が設定値より大きなときには、基本減衰定数目標値を大きい値とするので、定速走行時などには柔らかめな減衰力特性により良好な乗り心地を保つ一方で、急制動時、急加速時など車両の乗り心地よりも操縦安定性を重視する必要があるときには、減衰力特性を硬めにしてタイヤの接地性を高め、制駆動性能および操縦安定性を高めるようにでき、車両の乗り心地の向上と、制駆動性能および操縦安定性の向上とを同時に最大限に図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施の形態を示すブロック図である。
【図2】同じく減衰力演算手段を示すブロック図である。
【図3】同じく懸架系を示すモデル図である。
【図4】同じく制振効果を示す特性図である。
【図5】同じく特性図である。
【図6】本発明の他の実施の形態を示すブロック図である。
【図7】同じく減衰力演算手段を示すブロック図である。
【符号の説明】
1 相対変位検出手段
2 相対速度検出手段
3 減衰定数目標値演算手段
4 ショックアブソーバ
5 前後加速度検出手段
6 加減速指示信号検出手段
11 切換入力演算手段
12 線形入力演算手段
13 フィルタ
14 修正値演算手段
15 目標値設定手段

Claims (3)

  1. バネ上とバネの相対速度検出手段と、
    バネ上とバネ下の相対変位検出手段と、
    これらから検出された相対速度と相対変位を入力して減衰力可変ショックアブソーバの減衰定数目標値を設定する減衰定数目標値演算手段と、
    この減衰定数目標値を入力として減衰定数を調節する減衰力可変ショックアブソーバとを備えるとともに、
    前記減衰力目標値演算手段は、高周波帯域での振動特性から決められる所定の定数である基本減衰定数目標値を設定する目標値設定手段と、Sliding-Mode 制御理論を用いて前記相対速度と相対変位に基づいて演算した理想減衰力を修正した減衰定数修正値を演算する手段とを備え、これら基本減衰定数目標値と減衰定数修正値とを含む減衰定数目標値を出力することを特徴とする懸架系の減衰力制御装置において、
    車両の前後加速度を検出する前後加速度検出手段を備え、
    前記目標値設定手段は、高周波帯域での振動特性から決められる基本減衰定数目標値として前後加速度を考慮して大小の所定値を設定する一方、前記前後加速度の絶対値が設定値よりも小さいときには前記基本減衰定数目標値として小さい所定値を選択し、前記前後加速度の絶対値が設定値よりも大きいときには前記基本減衰定数目標値として大きい所定値を選択することを特徴とする懸架系の減衰力制御装置。
  2. バネ上とバネの相対速度検出手段と、
    バネ上とバネ下の相対変位検出手段と、
    これらから検出された相対速度と相対変位を入力して減衰力可変ショックアブソーバの減衰定数目標値を設定する減衰定数目標値演算手段と、
    この減衰定数目標値を入力として減衰定数を調節する減衰力可変ショックアブソーバとを備えるとともに、
    前記減衰力目標値演算手段は、高周波帯域での振動特性から決められる所定の定数である基本減衰定数目標値を設定する目標値設定手段と、Sliding-Mode 制御理論を用いて前記相対速度と相対変位に基づいて演算した理想減衰力を修正した減衰定数修正値を演算する手段とを備え、これら基本減衰定数目標値と減衰定数修正値とを含む減衰定数目標値を出力することを特徴とする懸架系の減衰力制御装置において、
    車両の加速を指示する加速指示信号と車両の減速を指示する減速指示信号を検出する加減速指示信号検出手段を備え、
    前記目標値設定手段は、高周波帯域での振動特性から決められる基本減衰定数目標値として前後加速度を考慮して大小の所定値を設定する一方、前記前後加速度信号および減速指示信号と所定の基準値との大小関係にしたがって、前記基本減衰定数目標値として小さい所定値または大きい所定値を選択することを特徴とする懸架系の減衰力制御装置。
  3. 前記加速指示信号はアクセルペダル角を検出する信号であり、前記減速指示信号はブレーキペダル角を検出する信号であり、前記目標値設定手段は、前記アクセルペダル角およびブレーキペダル角のいずれもが設定値よりも小さなときには前記基本減衰定数目標値として小さい所定値を選択し、前記アクセルペダル角またはブレーキペダル角の少なくともいずれか一方が設定値よりも大きなときには前記基本減衰定数目標値として大きな所定値を選択することを特徴とする請求項2に記載の懸架系の減衰力制御装置。
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