以下、本発明の実施の形態による車両用サスペンション装置を、例えば4輪自動車に適用した場合を例に挙げ、添付図面に従って詳細に説明する。
まず、図1ないし図6は本発明の第1の実施の形態を示している。図中、1は車両のボディを構成する車体で、該車体1の下側には、例えば左,右の前輪と左,右の後輪(以下、総称して車輪2という)が設けられ、該車輪2はタイヤ3を含んで構成されている。このとき、タイヤ3は、路面の細かい凹凸を吸収するばねとして作用する。
4は車体1と車輪2との間に介装して設けられたサスペンション装置で、該サスペンション装置4は、懸架ばね5(以下、ばね5という)と、該ばね5と並列になって車体1と車輪2との間に設けられた減衰力調整式緩衝器(以下、緩衝器6という)とにより構成されている。なお、図1中では1組のサスペンション装置4を、車体1と車輪2との間に設けた場合を例示している。しかし、サスペンション装置4は、例えば4輪の車輪2と車体1との間に個別に独立して合計4組設けられるもので、このうちの1組のみを図1では模式的に図示している。
ここで、サスペンション装置4の緩衝器6は、減衰力調整式の油圧緩衝器を用いて構成される。そして、この緩衝器6には、発生減衰力の特性(減衰力特性)をハードな特性(硬特性)からソフトな特性(軟特性)に連続的に調整するため、減衰力調整バルブ等からなるアクチュエータ7が付設されている。なお、減衰力調整バルブは、減衰力特性を連続的でなくとも、2段階又は複数段階に調整可能なものであってもよい。
8は車体1に設けられたばね上加速度センサで、該ばね上加速度センサ8は、所謂ばね上側となる車体1側で上,下方向の振動加速度を検出するため、例えば緩衝器6の近傍となる位置で車体1に取付けられている。そして、ばね上加速度センサ8は、上,下方向の振動加速度を検出し、その検出信号を後述のコントローラ10に出力する。
9は車両の車輪2側に設けられたばね下加速度センサで、このばね下加速度センサ9は、所謂ばね下側となる車輪2側で上,下方向の振動加速度を検出し、その検出信号を後述のコントローラ10に出力するものである。
10はマイクロコンピュータ等により構成されるコントローラで、該コントローラ10は、その入力側が加速度センサ8,9等に接続され、出力側が緩衝器6のアクチュエータ7等に接続されている。また、コントローラ10は、ROM、RAM等からなる記憶部10Aを有しており、この記憶部10Aには、図3〜5に示す後述の処理プログラムに加えて、後述の閾値K1、閾値K2、ばね上速度V1と目標減衰力Fとの関係を示すゲインマップ、目標減衰力F、補正相対速度V2ofsと電流指令値Iとの関係を示す減衰力マップ等が格納されている。
ここで、コントローラ10は、図2に示すように、積分器11,12、減算器13、目標減衰力算出部14、相対速度補正部15、制御信号出力部16等を備えている。そして、コントローラ10の積分器11は、ばね上加速度センサ8からの検出信号を積分することによって、車体1の上,下方向に対する速度となるばね上速度V1を演算する。このため、ばね上加速度センサ8と積分器11とによって上下速度検出部が構成されると共に、積分器11は、車体側上下速度となるばね上速度V1を出力する。
一方、減算器13は、ばね上加速度センサ8からの検出信号からばね下加速度センサ9からの検出信号を減算し、ばね上加速度とばね下加速度との差分を演算する。このとき、この差分値は、車体1と車輪2との間の相対加速度に対応する。そして、積分器12は、減算器13から出力された相対加速度を積分し、車体1と車輪2との間の上,下方向の相対速度V2を演算する。このため、ばね上加速度センサ8、ばね下加速度センサ9、減算器13および積分器12によって相対速度検出部が構成されると共に、積分器12は、相対速度V2を出力する。
また、目標減衰力算出部14は、ばね上速度V1に基づいて緩衝器6に発生させる目標減衰力Fを算出するものである。ここで、目標減衰力算出部14は、例えば、ばね上速度V1と目標減衰力Fとの関係を示すスカイフック制御理論によるゲインマップ等により構成されている。具体的には、目標減衰力算出部14は、例えば、目標減衰力Fがばね上速度V1に比例して増加または減少するように、ばね上速度V1にゲインを乗算した値を目標減衰力Fとして出力するように構成する。そして、目標減衰力算出部14は、ばね上速度V1を変換して目標減衰力Fを出力すると共に、この目標減衰力Fをばね上速度V1に応じてリアルタイムに変更する。
また、相対速度補正部15は、相対速度V2を入力値として補正相対速度V2ofsを出力するものである。ここで、相対速度補正部15は、例えば図6に示すように、相対速度V2にヒステリシスを設定するためのものであり、相対速度V2を補正相対速度V2ofsに変換して出力する。
このとき、相対速度V2の絶対値が所定の閾値以上の範囲、例えば相対速度V2が閾値K1以上、および、閾値K2以下の範囲では、補正相対速度V2ofsとして相対速度V2が大きくなるに従って大きくなる値を出力するように構成している。すなわち、相対速度V2が閾値K1以上の範囲では、補正相対速度V2ofsとして、例えばそのまま相対速度V2を出力する(補正相対速度V2ofs=相対速度V2)。また、相対速度V2が閾値K2以下の範囲では、補正相対速度V2ofsとして、例えばそのまま相対速度V2を出力する(補正相対速度V2ofs=相対速度V2)。
一方、相対速度V2の絶対値が所定の閾値より小さい範囲、例えば相対速度V2が閾値K1よりも小さく閾値K2よりも大きい範囲では、補正相対速度V2ofsとして正負が反転しない(0を跨がない)値を出力するように構成している。すなわち、例えば直前の(1つ前の制御周期での)相対速度V2が閾値K2よりも大きい値であり、かつ、現時点の(現在の制御周期での)相対速度V2が閾値K2よりも大きく閾値K1よりも小さい値の場合には、補正相対速度V2ofsとして例えば閾値K1を出力する(補正相対速度V2ofs=閾値K1)。また、例えば直前の相対速度V2が閾値K1よりも小さい値であり、かつ、現時点の相対速度V2が閾値K2よりも大きく閾値K1よりも小さい値の場合には、補正相対速度V2ofsとして例えば閾値K2を出力する(補正相対速度V2ofs=閾値K2)。
ここで、閾値K1は例えば0以上の所定の値とし、閾値K2は例えば0以下の所定の値としている。そして、これら閾値K1,K2は、相対速度補正部15から出力される補正相対速度V2ofsにより緩衝器6の発生減衰力がハードとソフトとの間で頻繁に切換るという問題を抑えられるような値に、適宜設定する。
また、制御信号出力部16は、減衰力調整式の緩衝器6をスカイフック理論に適合させるように制御するための制御信号(電流指令値)を出力する。すなわち、制御信号出力部16は、目標減衰力Fと補正相対速度V2ofsとに基づいて緩衝器6の減衰力特性を可変に制御する制御信号としての電流指令値Iを出力する。
ここで、制御信号出力部16は、例えば目標減衰力F、補正相対速度V2ofsと電流指令値Iとの関係を示す減衰力マップ等により構成されている。そして、制御信号出力部16は、目標減衰力Fと電流指令値Iとの関係を補正相対速度V2ofsに従って可変に設定するもので、目標減衰力算出部14からの目標減衰力Fと相対速度補正部15からの補正相対速度V2ofsとに基づいて、緩衝器6のアクチュエータ7に制御信号としての電流指令値Iを出力する。
例えば、補正相対速度V2ofsが正側(伸び側)となる場合に、ばね上速度V1が正側(上向き側)となるときには、目標減衰力Fが大きくなるに従って電流指令値Iを大きくして減衰力特性をハードな特性(硬特性)に設定する。これに対して、ばね上速度V1が負側(下向き側)となるときには、電流指令値Iを小さい値にして減衰力特性をソフトな特性に設定する。
一方、補正相対速度V2ofsが負側(縮み側)となる場合に、ばね上速度V1が正側(上向き側)となるときには、電流指令値Iを小さい値にして減衰力特性をソフトな特性に設定する。これに対して、ばね上速度V1が負側(下向き側)となるときには、目標減衰力Fが小さく(マイナス方向に大きく)なるに従って電流指令値Iを大きくして減衰力特性をハードな特性に設定する。
以上により、緩衝器6の発生減衰力は、アクチュエータ7に供給された電流指令値Iに従ってハードとソフトとの間で連続的、または複数段で可変に制御(調整)される。
本実施の形態による車両用サスペンション制御装置は、上述の如き構成を有するもので、次に、コントローラ10を用いて緩衝器6の減衰力特性を可変に制御する処理について説明する。
まず、図3に示す制御処理が車両のエンジン始動に伴う電力供給を受けて開始されると、ステップ1でコントローラ10の初期設定を行う。そして、ステップ2では、例えば5〜10ms程度の制御周期に達したか否かを判定し、「NO」と判定する間は制御周期に達するまで待機する。一方、ステップ2で「YES」と判定し、制御周期に達したときには、次なるステップ3に移って緩衝器6のアクチュエータ7を駆動する。
次に、ステップ4ではセンサ値を入力するため、ばね上加速度センサ8からばね上(車体1)側の上,下方向の振動加速度(検出信号)を読込むと共に、ばね下加速度センサ9からばね下(車輪2)側の上,下方向の振動加速度(検出信号)を読込む。そして、次のステップ5では、コントローラ10に設けられた積分器11により、ばね上加速度センサ8による振動加速度の検出信号を積分し、車体1の上,下方向の速度をばね上速度V1として算出する。
次に、ステップ6では、コントローラ10に設けられた目標減衰力算出部14により、ステップ5で算出されたばね上速度V1を、例えばゲインマップを用いて目標減衰力Fに変換する(ばね上速度V1に基づいて目標減衰力Fを算出する)。そして、次のステップ7では、後述の図4および図5の相対速度算出処理、相対速度補正処理に基づいて、補正相対速度V2ofsを算出する。すなわち、コントローラ10に設けられた減算器13と積分器12とにより算出された車体1と車輪2との間の上,下方向の相対速度V2を、同じくコントローラ10に設けられた相対速度補正部15で補正することにより、補正相対速度V2ofsを算出する。
そして、ステップ8では、コントローラ10に設けられた制御信号出力部16により、ステップ6で算出された目標減衰力Fとステップ7で算出された補正相対速度V2ofsとに基づいて制御ゲイン(減衰力マップ)の設定を行い、続くステップ9では、制御ゲインの設定値に基づいて、緩衝器6の減衰力特性を可変に制御するための制御信号(電流指令値I)を演算して求める。すなわち、スカイフック理論に基づいて、ばね上速度V1の大きさおよび方向(上向き、下向き)に対応する目標減衰力Fと、補正相対速度V2ofsの大きさおよび方向(伸び、縮み)とから、緩衝器6のアクチュエータ7に出力する制御信号としての電流指令値Iを求める。
そして、ステップ9の制御演算で求められた制御信号(電流指令値I)は、前記ステップ2で「YES」と判定される制御周期に達する度毎に、次なるステップ3の処理で、緩衝器6のアクチュエータ7を駆動制御するために用いられる。これにより、緩衝器6の減衰力特性は、スカイフック理論に基づいて、ハードな特性(硬特性)とソフトな特性(軟特性)との間で可変となって連続的に制御されるものである。
次に、図4に示す相対速度算出処理では、ステップ11で相対速度を算出する。すなわち、コントローラ10に設けられた減算器13により、ばね上加速度センサ8による車体1側の上,下方向の振動加速度の検出信号からばね下加速度センサ9による車輪2側の上,下方向の振動加速度の検出信号を減算することにより、車体1と車輪2との間の相対加速度を算出し、この相対加速度を積分器12により積分して車体1と車輪2との間の上,下方向の相対速度V2を算出する。そして、続くステップ12で相対速度補正処理を、後述の図5に示す如く実行し、ステップ13でメインルーチン(例えば、図3に示すメインの制御処理)にリターンする。
次に、図5に示す相対速度補正処理について説明する。この図5の相対速度補正処理は、図6に示すように相対速度V2を補正相対速度V2ofsに変換して出力するための処理を行うものである。ここで、図5に示す本実施の形態による相対速度補正処理を説明する前に、まず、本実施の形態による相対速度補正処理に先立って考えた、図8に示す比較例による相対速度補正処理について説明する。この図8に示す比較例による相対速度補正処理は、図9に示すように相対速度V2を補正相対速度V2ofs′に変換して出力するための処理を行うものである。
図8に示す比較例による相対速度補正処理では、まず、ステップ101で相対速度V2が0以上であるか否かを判定する。すなわち、ステップ101では、図4に示す相対速度算出処理のステップ11で算出された相対速度V2が0以上であるか否かを判定する。そして、ステップ101で、相対速度が0以上であると判定された場合には、ステップ102に進み、相対速度V2が閾値K1以上であるか否かを判定する。このステップ102で、相対速度V2が閾値K1以上であると判定された場合には、ステップ103に進み、補正相対速度V2ofs′は図4のステップ11で算出された相対速度V2とする(補正相対速度V2ofs′=相対速度V2)。そして、続くステップ104で、メインルーチン(例えば、図4に示すメインの制御処理)にリターンする。これに対して、ステップ102で、相対速度V2が閾値K1未満であると判定された場合には、ステップ105に進み、補正相対速度V2ofs′は閾値K1とする(補正相対速度V2ofs′=閾値K1)。次いで、ステップ104で、メインルーチン(例えば、図4に示すメインの制御処理)にリターンする。
一方、ステップ101で、相対速度が0未満であると判定された場合には、ステップ106に進み、相対速度V2が閾値K2以下であるか否かを判定する。このステップ106で、相対速度V2が閾値K2以下であると判定された場合には、ステップ107に進み、補正相対速度V2ofs′は図4のステップ11で算出された相対速度V2とする(補正相対速度V2ofs′=相対速度V2)。そして、ステップ104で、メインルーチン(例えば、図4に示すメインの制御処理)にリターンする。これに対して、ステップ106で、相対速度V2が閾値K2よりも大きいと判定された場合には、ステップ108に進み、補正相対速度V2ofs′は閾値K2とする(補正相対速度V2ofs′=閾値K2)。次いで、ステップ104で、メインルーチン(例えば、図4に示すメインの制御処理)にリターンする。
ところで、このような図8に示す比較例による相対速度補正処理を行うと、例えば車両の微振動やノイズ等に伴って、相対速度V2が0付近で正の値(プラス)と負(マイナス)の値とに頻繁に切換った場合に、補正相対速度V2ofs′も正の値と負の値との間で頻繁に切換る。そして、このような補正相対速度V2ofs′を用いて、図3のステップ8、9で緩衝器6のアクチュエータ7に出力する制御信号(電流指令値I)を求め、この制御信号(電流指令値I)に基づいて図3のステップ3でアクチュエータ7を駆動すると、緩衝器6の発生減衰力がハードとソフトとの間で頻繁に切換り、振動や異音の発生原因となる。
図10は、図8および図9に示す比較例による相対速度補正処理により相対速度V2を補正した場合の、実車試験の結果(目標減衰力Fと補正相対速度V2ofsと電流指令値Iとの時間変化)を示している。この図10から明らかなように、補正相対速度V2ofs′が0付近で頻繁に変化することに伴って、この補正相対速度V2ofs′と目標減衰力Fとに基づいて算出される電流指令値Iも頻繁に変化(チャタリング)している。このため、緩衝器6の発生減衰力もハードとソフトとの間で頻繁に切換り、振動や異音の発生原因となる。
そこで、本発明者は、このような振動や異音の発生原因となる電流指令値Iのチャタリングを防止すべく、図5に示す本実施の形態による相対速度補正処理を考えた。以下、図5に示す本実施の形態による相対速度補正処理を説明する。なお、図5に示す本実施の形態による相対速度補正処理のステップ21ないしステップ27は、上述の図8に示す比較例による相対速度補正処理のステップ101ないしステップ108(ステップ104を除く)と同様であるため、ステップ21ないしステップ27の説明は省略し、ステップ28以降の処理を中心に説明する。
図5のステップ23、ステップ24、ステップ26、ステップ27の何れかで、補正相対速度V2ofsを求めたら、何れもステップ28に進む。ここで、ステップ28以降の処理を行わずにメインルーチン(例えば、図4に示すメインの制御処理)にリターンすれば、上述の図8に示す比較例による相対速度補正処理となるが、図5に示す本実施の形態の相対速度補正処理の場合には、ステップ28以降の処理(より具体的にはステップ31以降の処理)を行うことにより、相対速度V2が閾値K1よりも小さく閾値K2よりも大きい範囲で、補正相対速度V2ofsとして正負が反転しない値を出力するようにしている。
まず、ステップ28は、閾値K1と閾値K2との少なくとも何れかを0に設定した場合に、そのまま補正相対速度V2ofsが0として出力されることを防止するための処理を行うものである。すなわち、ステップ28では、補正相対速度V2ofsが0であるか否かを判定する。そして、このステップ28で、補正相対速度V2ofsが0であると判定された場合には、ステップ29に進み、ステップ23、ステップ24、ステップ26、ステップ27の何れかで求めた補正相対速度V2ofsを、直前の(1つ前の制御周期の)補正相対速度V2ofs_zに更新する。そして、次のステップ30で、メインルーチン(例えば、図4に示すメインの制御処理)にリターンする。この場合は、図5に示す相対速度補正処理により算出される補正相対速度V2ofsは、直前の(1つ前の制御周期の)補正相対速度V2ofs_zとなる。
一方、ステップ28で、補正相対速度V2ofsが0でない(閾値K1と閾値K2との何れも0でない)と判定された場合には、補正相対速度V2ofsにヒステリシスを新たに設けるための処理、すなわち、補正相対速度V2ofsの正負が反転しないようにするための処理を行うべく、ステップ31以降の処理に進む。
まず、ステップ31では、直前の(1つ前の制御周期の)相対速度V2が閾値K2よりも大きいか否か、または、閾値K1以上であるか否かを判定する。具体的には、ステップ31では、直前の相対速度判定係数S_zが0より大きいか否か(S_zが1か−1かの何れであるか)を判定する。このとき、現在の制御周期が最初の制御周期である(直前の制御周期がない)場合は、直前の相対速度判定係数S_zは、例えば仮の値として1(または−1)とする。このステップ31で、直前の相対速度判定係数S_zが0より大きい、すなわち、相対速度判定係数S_zが1である(直前の相対速度V2が閾値K2よりも大きい、または、閾値K1以上である)と判定された場合には、ステップ32に進み、現時点の(現在の制御周期の)相対速度V2が閾値K2よりも大きいか否かを判定する。
そして、ステップ32で、現時点の相対速度V2が閾値K2よりも大きいと判定された場合には、ステップ33に進み、相対速度判定係数Sを1に設定する(S=1)。これに対して、ステップ32で、現時点の相対速度V2が閾値K2以下であると判定された場合には、ステップ34に進み、相対速度判定係数Sを−1に設定する(S=−1)。
一方、ステップ31で、直前の相対速度判定係数S_zが0以下である、すなわち、相対速度判定係数S_zが−1である(直前の相対速度V2が閾値K2以下である、または、閾値K1よりも小さい)と判定された場合には、ステップ35に進み、現時点の(現在の制御周期の)相対速度V2が閾値K1よりも小さいか否かを判定する。
そして、ステップ35で、現時点の相対速度V2が閾値K1よりも小さいと判定された場合には、ステップ36に進み、相対速度判定係数Sを−1に設定する(S=−1)。これに対して、ステップ35で、現時点の相対速度V2が閾値K1以上であると判定された場合には、ステップ37に進み、相対速度判定係数Sを1に設定する(S=1)。
上述のように、ステップ33、ステップ34、ステップ36、ステップ37の何れかで、相対速度判定係数Sを設定したならば、何れもステップ38に進む。このステップ38では、直前の相対速度判定係数S_zと現時点の相対速度判定係数Sが同じか否かを判定する。そして、このステップ38で、直前の相対速度判定係数S_zと現時点の相対速度判定係数Sが同じであると判定された場合には、ステップ39に進み、上述のステップ23、ステップ24、ステップ26、ステップ27の何れかで求めた現時点の補正相対速度V2ofsに相対速度判定係数Sを乗算することにより、現時点の補正相対速度V2ofsを更新する。
次いで、ステップ40に進み、直前の(1つ前の制御周期の)補正相対速度V2ofs_zを現時点の(現在の制御周期の)補正相対速度V2ofsに更新すると共に、次のステップ30で、メインルーチン(例えば、図4に示すメインの制御処理)にリターンする。この場合は、図5に示す相対速度補正処理により算出される補正相対速度V2ofsは、ステップ39で更新された補正相対速度V2ofsとなる。
一方、ステップ38で、直前の相対速度判定係数S_zと現時点の相対速度判定係数Sが同じでないと判定された場合には、ステップ41に進み、直前の相対速度判定係数S_zを現時点の相対速度判定係数Sに更新する。そして、ステップ39に進み、上述のステップ23、ステップ24、ステップ26、ステップ27の何れかで求めた現時点の補正相対速度V2ofsに相対速度判定係数Sを乗算することにより、現時点の補正相対速度V2ofsを更新する。
以上のように、本実施の形態によれば、コントローラ10の相対速度補正部15で、図5に示す相対速度補正処理が行われることにより、図6に特性線図を示すように、入力値としての相対速度V2が補正相対速度V2ofsに変換されて出力される。すなわち、上述した図5の相対速度補正処理が行われることにより、相対速度V2が0付近で正の値(プラス)と負(マイナス)の値とに頻繁に変化しても、相対速度補正部15からは、この細かい変化が丸められた補正後の補正相対速度V2ofsが出力される。
このため、入力値としての相対速度V2が0付近で頻繁に変化しても、目標減衰力Fと補正相対速度V2ofsとに基づいて制御信号出力部16から出力される緩衝器6の制御信号(電流指令値I)が頻繁に切換る(チャタリングする)ことを抑えられる。
図7は、本実施の形態による相対速度補正処理により相対速度V2を補正した場合の、実車試験の結果(目標減衰力Fと補正相対速度V2ofsと電流指令値Iとの時間変化)を示している。この図7から明らかなように、補正相対速度V2ofsが0付近で頻繁に変化することを低減できるため、この補正相対速度V2ofsと目標減衰力Fとに基づいて制御信号出力部16から出力される緩衝器6の制御信号(電流指令値I)も、頻繁に切換る(チャタリングする)ことを低減できる。
このため、緩衝器6の発生減衰力がハードとソフトとの間で頻繁に切換ることを低減でき、振動や異音の発生を抑えられる。また、緩衝器6の発生減衰力を調節するアクチュエータ7の切換回数を少なくできるため、このアクチュエータ7の耐久性の向上も図ることができる。また、制御信号(電流指令値I)の切換を少なくできるため、電気的なノイズが発生することも抑えられる。
次に、図11ないし図13は本発明の第2の実施の形態を示している。本実施の形態の特徴は、相対速度補正部に入力される相対速度の絶対値が所定の閾値より小さい範囲では、相対速度補正部から補正相対速度として0を出力するように構成すると共に、この補正相対速度が0の場合に、制御信号出力部から予め決められた所定の制御信号を出力するように構成したことにある。なお、本実施の形態では、上述した第1の実施の形態と同一の構成要素に同一符号を付し、その説明を省略するものとする。
図中、21はマイクロコンピュータ等により構成されるコントローラで、該コントローラ21は、積分器11,12、減算器13、目標減衰力算出部14、後述の相対速度補正部22、制御信号出力部23等を備えている。
22は相対速度V2を入力値として補正相対速度V2ofsを出力する相対速度補正部で、該相対速度補正部22は、例えば図13に示すように、相対速度V2に不感帯を設定するためのものであり、相対速度V2を補正相対速度V2ofsに変換して出力する。
このとき、相対速度V2の絶対値が所定の閾値以上の範囲、例えば相対速度V2が閾値K1以上、および、閾値K2以下の範囲では、補正相対速度V2ofsとして相対速度V2が大きくなるに従って大きくなる値を出力するように構成している。すなわち、相対速度V2が閾値K1以上の範囲では、補正相対速度V2ofsとして、例えばそのまま相対速度V2を出力する(補正相対速度V2ofs=相対速度V2)。また、相対速度V2が閾値K2以下の範囲では、補正相対速度V2ofsとして、例えばそのまま相対速度V2を出力する(補正相対速度V2ofs=相対速度V2)。
一方、相対速度V2の絶対値が所定の閾値より小さい範囲、例えば相対速度V2が閾値K1よりも小さく閾値K2よりも大きい範囲では、補正相対速度V2ofsとして0を出力するように構成している(補正相対速度V2ofs=0)。
ここで、閾値K1は例えば0よりも大きい所定の値とし、閾値K2は0よりも小さい所定の値としている。そして、これら閾値K1,K2は、相対速度補正部22から出力される補正相対速度V2ofsにより緩衝器6の発生減衰力がハードとソフトとの間で頻繁に切換るという問題を抑えられるような値に、適宜設定する。
23は減衰力調整式の緩衝器6をスカイフック理論に適合させるように制御するための制御信号(電流指令値)を出力する制御信号出力部で、該制御信号出力部23は、目標減衰力Fと補正相対速度V2ofsとに基づいて緩衝器6の減衰力特性を可変に制御する制御信号としての電流指令値Iを出力するものである。
ここで、制御信号出力部23は、相対速度補正部22から出力される補正相対速度V2ofsが0の場合に、予め決められた所定の制御信号(電流指令値I)を出力するように構成している。すなわち、制御信号出力部23で電流指令値Iの算出を、目標減衰力Fに補正相対速度V2ofsを徐算することにより行う場合、補正相対速度V2ofsとして0をそのまま用いて算出することは好ましくない。そこで、制御信号出力部23は、相対速度補正部22から出力される補正相対速度V2ofsが0の場合に、予め決められた所定の電流指令値I、例えば、直前の(1つ前の制御周期での)電流指令値Iを出力するように構成している。
このような本実施の形態の場合には、相対速度補正部22により、図13に特性線図を示すように、入力値としての相対速度V2が補正相対速度V2ofsに変換されて出力される。
すなわち、検出される相対速度V2が0付近で正の値(プラス)と負(マイナス)の値とに頻繁に変化しても、相対速度補正部22からは、この細かい変化が丸められた補正後の補正相対速度V2ofsとして0が出力される。そして、相対速度補正部22から補正相対速度V2ofsとして0が出力された場合には、制御信号出力部23は、予め決められた所定の電流指令値I、例えば直前の(1つ前の制御周期での)電流指令値Iを出力する。このため、制御信号出力部23から出力される電流指令値Iが頻繁に切換る(チャタリングする)ことを抑えられ、緩衝器6から振動や異音が発生することを低減できる。
本実施の形態による車両用サスペンション制御装置は、上述の如き構成を有するもので、次に、図12に示す相対速度補正処理について説明する。ここで、図12に示す相対速度補正処理は、コントローラ10を用いて緩衝器6の減衰力特性を可変に制御する処理のうちの一部の処理(相対速度補正部22で行われる処理)である。すなわち、図12に示す相対速度補正処理は、上述の第1の実施の形態で説明した図4の相対速度補正処理(ステップ12)のサブルーチンに対応するものである。
図12に示す相対速度補正処理では、まず、ステップ51で相対速度V2が0以上であるか否かを判定する。すなわち、ステップ51では、図4に示す相対速度算出処理のステップ11で算出された相対速度V2が、0以上であるか否かを判定する。
そして、ステップ51で、相対速度が0以上であると判定された場合には、ステップ52に進み、相対速度V2が閾値K1以上であるか否かを判定する。このステップ52で、相対速度V2が閾値K1以上であると判定された場合には、ステップ53に進み、補正相対速度V2ofsは図4のステップ11で算出された相対速度V2とする(補正相対速度V2ofs=相対速度V2)。そして、ステップ58で、メインルーチン(例えば、図4に示すメインの制御処理)にリターンする。
これに対して、ステップ52で、相対速度V2が閾値K1未満であると判定された場合には、ステップ54に進み、補正相対速度V2ofsは0とする(補正相対速度V2ofs=0)。そして、ステップ58で、メインルーチン(例えば、図4に示すメインの制御処理)にリターンする。
一方、ステップ51で、相対速度が0未満であると判定された場合には、ステップ55に進み、相対速度V2が閾値K2以下であるか否かを判定する。このステップ55で、相対速度V2が閾値K2以下であると判定された場合には、ステップ56に進み、補正相対速度V2ofsは図4のステップ11で算出された相対速度V2とする(補正相対速度V2ofs=相対速度V2)。そして、ステップ58で、メインルーチン(例えば、図4に示すメインの制御処理)にリターンする。
これに対して、ステップ55で、相対速度V2が閾値K2よりも大きいと判定された場合には、ステップ57に進み、補正相対速度V2ofsは0とする(補正相対速度V2ofs=0)。そして、ステップ58で、メインルーチン(例えば、図4に示すメインの制御処理)にリターンする。
以上のように、本実施の形態によれば、コントローラ21の相対速度補正部22で、図12に示す相対速度補正処理が行われることにより、図13に特性線図を示すように、入力値としての相対速度V2が補正相対速度V2ofsに変換されて出力される。すなわち、上述した図12の相対速度補正処理が行われることにより、相対速度V2が0付近で正の値(プラス)と負(マイナス)の値とに頻繁に変化しても、相対速度補正部22からは、この細かい変化が丸められた補正後の補正相対速度V2ofsとして0が出力される。そして、相対速度補正部22から補正相対速度V2ofsとして0が出力された場合は、制御信号出力部23は、予め決められた所定の電流指令値I、例えば直前の(1つ前の制御周期での)電流指令値Iを出力する。このため、制御信号出力部23から出力される電流指令値Iが頻繁に切換る(チャタリングする)ことを抑えられ、緩衝器6から振動や異音が発生することを低減できる。
なお、上述した各実施の形態では、ばね上加速度センサ8および積分器11を用いて上下速度検出部を構成したが、本発明はこれに限るものではなく、例えば、車体1側の上,下方向の速度(ばね上速度V1)を直接的に検出するばね上速度センサを用いて上下速度検出部を構成してもよい。
また、上述した各実施の形態では、ばね上加速度センサ8、ばね下加速度センサ9、減算器13および積分器12を用いて相対速度検出部を構成した。しかし、本発明はこれに限るものではなく、例えば、ばね上速度センサ、ばね下速度センサおよび減算器を用いて相対速度検出部を構成してもよく、車体1と車輪2との間の相対速度V2を直接的に検出する速度センサを用いて相対速度検出部を構成してもよく、車体1と車輪2との間の相対変位を検出する変位センサと微分器にて相対速度検出部を構成してもよい。
また、上述した各実施の形態では、ばね上加速度センサ8、ばね下加速度センサ9を用いて車体1の上,下方向の速度(ばね上速度V1)、車体1と車輪2との間の相対速度V2を求める場合を例に挙げて説明した。しかし、本発明はこれに限るものではなく、例えば車体の高さを検出する車高センサ等、他の挙動を検出するセンサを用いて車体の上,下方向の速度(ばね上速度)、車体と車輪との間の相対速度を求める構成としてもよい。
また、上述した各実施の形態では、相対速度の補正を行う閾値K1、閾値K2の値をそれぞれ一定とした(可変でない)場合を例に挙げて説明した。しかし、本発明はこれに限るものではなく、例えば図14に示す第1の変形例のように、相対速度の補正を行う閾値K1、閾値K2を車速に応じて可変としてもよい。
すなわち、異音や振動が目立つ低車速では、閾値の絶対値を大きくし(閾値K1′、2′に設定し)、ヒステリシスの幅を大きくすることにより、アクチュエータの切換え回数をより低減して、異音や振動の発生をより抑えられるようにする。一方、制御効果(制振効果、緩衝効果)が重視される高車速では、閾値の絶対値を小さくし(閾値K1、2に設定し)、ヒステリシスの幅を小さくすることにより、制御効果をより得られるようにする。このような構成を採用した場合には、振動、異音の発生防止と乗り心地性能の向上とを、車両の走行状況に応じて両立させることができる。
また、例えば図15に示す第2の変形例のように、相対速度の補正を行う閾値K1、閾値K2を、路面推定結果等により判定される路面状況に応じて可変としてもよい。すなわち、悪路と判定される場合には、閾値の絶対値を大きくし(閾値K1′、2′に設定し)、ヒステリシスの幅を大きくすることにより、アクチュエータの切換え回数をより低減して、異音や振動の発生をより抑えられるようにする。一方、うねり路と判定される場合には、閾値の絶対値を小さくし(閾値K1、2に設定し)、ヒステリシスの幅を小さくすることにより、制御効果をより得られるようにする。このような構成を採用した場合には、振動、異音の発生防止と乗り心地性能の向上とを、車両が走行する路面状況に応じて両立させることができる。
また、上述した各変形例では、車速や路面状況に応じて閾値を可変とする構成を例に挙げて説明した。しかし、本発明はこれに限るものではなく、例えば車両センサや操舵安定性制御処理から得られる車両に関する他の情報を用いて、相対速度の補正を行う閾値を可変とするように構成してもよい。何れにしても、車速、路面状況等を含む各種車両に関する情報を用いて閾値を可変にする構成を採用した場合には、車両状況、路面状況等に応じた適切な制御効果と振動、異音の低減効果とを得ることができる。
また、上述した各実施の形態では、相対速度V2が閾値K1以上の場合、および、閾値K2以下の場合に、補正相対速度V2ofsとしてそのまま相対速度V2を出力する(補正相対速度V2ofs=相対速度V2)場合を例に挙げて説明した。しかし、本発明はこれに限るものではなく、例えば図16に示す第3の変形例のように、相対速度V2と補正相対速度V2ofsとの関係を、補正相対速度V2ofs=相対速度V2±aとしてもよい。また、例えば図16に二点鎖線で示すように、相対速度V2と補正相対速度V2ofsとの対応関係が曲線になるように構成してもよい。要するに、相対速度V2と補正相対速度V2ofsとの対応関係は、所望の性能を得られるように適宜変更することができる。
また、上述した各実施の形態では、電流指令値Iが小さくなると減衰力特性がソフトになり、電流指令値Iが大きくなると減衰力特性がハードになる場合を例に挙げて説明した。しかし、本発明はこれに限るものではなく、例えば、電流指令値Iが小さくなると減衰力特性がハードになり、電流指令値Iが大きくなると減衰力特性がソフトになる構成としてもよい。
さらに、上述した各実施の形態では、スカイフック理論に基づいてサスペンション装置4の緩衝器6を制御するコントローラ10に適用した場合を例に挙げて説明したが、ロールフィードバック制御やピッチフィードバック制御を行うコントローラに適用する構成としてもよい。
以上の実施の形態で述べたように、請求項1の発明によれば、車体と車輪との間の上,下方向の相対速度の絶対値が所定の閾値より小さい範囲では、相対速度補正部から補正相対速度として正負が反転しない(0を跨がない)値を出力する構成としているから、相対速度が0付近で正の値(プラス)と負(マイナス)の値とに頻繁に変化する場合でも、車両の振動を緩衝することができ、振動や異音の発生を抑えることができる。
すなわち、相対速度が0付近で頻繁に変化しても、相対速度補正部からは、この細かい変化が丸められた補正後の補正相対速度が出力される。このため、この補正相対速度と目標減衰力とに基づいて制御信号出力部から出力される緩衝器の制御信号(電流指令値)がチャタリングすることを低減できる。この結果、緩衝器のアクチュエータがハードを実現する状態とソフトを実現する状態との間で頻繁に切換ることを抑えられ、安定したダンパ制御を確保しつつ、振動や異音の発生を抑えられる。また、アクチュエータの切換回数を少なくできるため、このアクチュエータの耐久性の向上を図ることができる。また、制御信号(電流指令値)の切換を少なくできるため、電気的なノイズが発生することを低減することができる。
請求項2の発明によれば、車体と車輪との間の上,下方向の相対速度の絶対値が所定の閾値より小さい範囲では、相対速度補正部から補正相対速度として0を出力する構成とすると共に、この補正相対速度が0の場合に、制御信号出力部から予め決められた所定の制御信号を出力するように構成しているから、相対速度が0付近で正の値(プラス)と負(マイナス)の値とに頻繁に変化しても、車両の振動を緩衝することができ、振動や異音の発生を抑えることができる。
すなわち、相対速度が0付近で頻繁に変化しても、相対速度補正部からは、この細かい変化が丸められた補正後の補正相対速度として0が出力される。そして、相対速度補正部から補正相対速度として0が出力された場合には、制御信号出力部は、予め決められた所定の制御信号を出力する。このため、制御信号出力部から出力される緩衝器の制御信号(電流指令値)がチャタリングすることを低減でき、安定したダンパ制御を確保しつつ、振動や異音の発生を抑えられる。