JP2014019335A - 車体制振制御装置 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】車体制振制御装置は、入力変換部204と、車体振動推定部205と、トルク指令値算出部206と、を備える。この車体制振制御装置において、入力変換部204に、サスペンション・ジオメトリに基づくタイヤ変位特性を用い、車輪速センサ103FR,103FL,103RR,103RLからの車輪速変動に基づいて、路面からタイヤに加わる上下力を算出する上下力算出部304を有する。この上下力算出部304に、車両が走行する路面勾配に応じて車輪速変動に含まれるノイズを除去する補正を行う車輪速変動補正部303を設けた。
【選択図】図3
Description
そして、上下力算出部に、車両が走行する路面勾配に応じて車輪速変動に含まれるノイズを除去する補正を行う車輪速変動補正部を設けた。
ここで、「サスペンション・ジオメトリ」とは、車両の各輪を車体に支持するサスペンションの動きを決めるため設計されたアーム長さや取り付け位置などの幾何学的な形状や相対位置のことをいい、略称表記を「サスジオ」という。
これに対し、サスペンション変位によってサスジオ係数が変化すると共に、サスジオ係数が大きい方が、サスジオ係数が小さいときに比べ、車輪速センサからの車輪速信号にノイズが乗りやすいと知見した。この知見に基づき、車両が走行する路面勾配に応じて車輪速変動に含まれるノイズを除去する補正を行うようにした。したがって、路面勾配によらず、路面からタイヤに加わる上下力の推定精度が確保される。
このように、路面勾配に応じて車輪速変動に含まれるノイズを除去する補正を行うことで、サスペンションが変位する外乱入力走行シーンにおいて、路面勾配によらず車輪速変動に基づいて算出する路面からの上下力推定精度を確保することができる。
実施例1の車体制振制御装置における構成を、[全体システム構成]、[エンジンコントロールモジュールの内部構成]、[入力変換部構成]、[車体振動推定部構成]、[トルク指令値算出部構成]、[車体制振制御の全体処理構成]、[車輪速変動補正による上下力算出構成]に分けて説明する。
図1は、実施例1の車体制振制御装置が適用されたエンジン車を示す全体システム構成図である。以下、図1に基づき、全体システム構成を説明する。
ここで、「車体制振制御」とは、車載アクチュエータ(実施例1では「エンジン106」)による駆動トルクを車体の振動に合わせて適切に制御することにより、車体振動を抑制する機能を持つ制御をいう。実施例1の車体制振制御においては、操舵時のヨー応答向上効果、操舵時のリニアリティ向上効果、ロール挙動の抑制効果も併せて得られる。
車体制振制御装置は、ECM101内に制御プログラムの形で構成されていて、ECM101内部の制御プログラムをあらわすブロック構成を図2に示す。以下、図2に基づき、ECM101の内部構成を説明する。
図3〜図6に基づき、3部構成の車体制振制御装置203のうち、入力変換部204の構成を説明する。
前記駆動トルク変換部301では、ドライバ要求トルク演算部201からのドライバ要求トルクにギア比を積算してエンジン端トルクから駆動軸端トルクTwに変換する。ここで、ギア比は、車輪速(駆動輪の左右平均回転数)とエンジン回転数の比より算出する。このギア比は、MT変速機107とディファレンシャルギア109を合わせた総ギア比となる。
前記車輪速変動判定ゲイン設定部302では、車輪速センサ103FR,103FL,103RR,103RLからの車輪速変動がサスジオノイズ閾値±αより大きいか否かを判定し、その閾値判定結果を閾値判定ゲインとして設定する。サスジオノイズ閾値±αは、勾配推定値SLPにより閾値絶対値|α|が設定される。車輪速変動がサスジオノイズ閾値±αより大きいと判定されると閾値判定ゲインが1とされ、車輪速変動がサスジオノイズ閾値±α以下であると判定されると閾値判定ゲインが0とされる。また、閾値判定には、一定の遅れ時間が持たせられる。
Zf=KgeoF・xtf …(1)
Zr=KgeoR・xtr …(2)
ここで、タイヤの前後位置xtf,xtrは、車輪速変動をあらわす車輪速微分値により推定される。例えば、路面外乱である凹凸路の走行時において、タイヤが凸部へ乗り上げると車輪速が減速し、タイヤは車体に対し車両後方向に変位する。一方、タイヤが凸部へ乗り超えると車輪速が加速し、タイヤは車体に対し車両前方向に変位する。よって、車輪速微分値の正負によりタイヤの加減速を判別すると、車輪速微分値の絶対値の大きさによりタイヤの前後位置xtf,xtrを推定できる。
よって、サスジオ係数KgeoF,KgeoRとタイヤの前後位置xtf,xtrが決まると、両者を掛け合わせる上記(1),(2)式により、前後輪の上下変位Zf,Zrが求められる。
そして、上記(1),(2)式を時間微分すると、タイヤの前後速度とタイヤの上下速度の式となるため、この関係を用いてサスペンションストローク速度とサスペンションストローク量が算出される。
前記旋回挙動推定部305では、従動輪102FR,102FLの車輪速度平均値による車体速度Vと、操舵角センサ111からの操舵角を入力し、操舵角によりタイヤ転舵角δを算出し、周知の線形2輪モデルの式を用いて、ヨーレイトγと車体スリップ角βvを算出する。
前輪タイヤスリップ角βfと後輪タイヤスリップ角βrは、
βf=βv+lf・γ/V−δ
βr=βv−lr・γ/V
の式により計算される。但し、lf及びlrは、車体重心から前後車軸までの距離である。
そして、前後輪のタイヤスリップ角βf,βrと前後輪のコーナリングパワーCpf,Cprの積により、前後輪のタイヤ横力Fyf,Fyrを算出する。さらに、前後輪のタイヤスリップ角βf,βrと前後輪のタイヤ横力Fyf,Fyrの積により、前輪旋回抵抗力Fcfと後輪旋回抵抗力Fcrを算出する。
図3及び図7に基づき、3部構成の車体制振制御装置203のうち、車体振動推定部205の構成を説明する。
図3、図8及び図9に基づき、3部構成の車体制振制御装置203のうち、トルク指令値算出部206の構成を説明する。
前記第1レギュレータ部308は、制御対象である「トルク入力によるばね上挙動」に対し、ばね上挙動を最小に抑えるレギュレータゲインF1,F2を与える。この第1レギュレータ部308は、「トルク入力によるばね上挙動」に対して、図8に示すように、Trq-dZvゲインF1(バウンス速度ゲイン)と、Trq-dSpゲインF2(ピッチ速度ゲイン)と、を与える。これらのレギュレータゲインF1,F2は、図9に示すように、荷重の安定化に寄与するもので、Trq-dZvゲインF1はバウンス速度を抑制し、Trq-dSpゲインF2はピッチ速度を抑制する。
前記リミット処理部311は、加算器320からの補正トルク値に対して、駆動系共振対策として、補正トルク値の絶対値の最大値制限処理を行い、ドライバが前後G変動として感じない範囲のトルクに制限する。
図10は、実施例1のエンジンコントロールモジュール101にて実行される車体制振制御全体処理の流れを示すフローチャートである。以下、図10に基づき、車体制振制御の全体処理構成を説明する。
以上のステップS2〜ステップS14の処理は、入力変換部204においてなされる。
このステップS15の処理は、車体振動推定部205においてなされる。
以上のステップS16〜ステップS25の処理は、トルク指令値算出部206においてなされる。なお、ステップS1からステップS25へと進む車体制振制御の全体処理は、所定の制御周期毎に繰り返される。
図11〜図17に基づき、車輪速変動補正による前後輪上下力Ff,Frの算出構成を説明する。
実施例1の前後輪上下力Ff,Frは、図11に示すように、勾配推定部321と、走行状態検出部322と、サスジオノイズ閾値算出部323と、車輪速変動判定ゲイン設定部302と、車輪速変動補正部303と、上下力算出部304と、のそれぞれで行われる処理により算出される。以下、各処理を詳しく説明する。
図12は、図10のステップS3での勾配推定処理を示すフローチャートであり、勾配推定処理構成をあらわす各ステップについて説明する。
ステップS301では、勾配推定部321において、自車走行路の勾配推定値SLPが、自車加速度の推定値と実際の加速度を比較する下記の式(3)により算出される。
SLP=[{Tw−Rw(Fa+Fr)}/MvRw]−s・V …(3)
但し、Tw:駆動軸端トルク、Rw:タイヤ動半径、Fa:空気抵抗、Fr:転がり抵抗、Mv:車重、s:ラプラス演算子、V:車体速である。
なお、空気抵抗Faと転がり抵抗Frは、下記の式(4),(5)で計算することができる。
Fa=μa・sv・V2 …(4)
Fr=μr・Mv・g …(5)
但し、μa:空気抵抗係数、sv:前面投影面積、μr:転がり抵抗係数、g:重力加速度である。
ステップS302では、ステップS301での勾配推定値SLPの算出に続き、勾配推定値SLPが正の閾値aを超えるか否かを判断し、SLP>aであると判断されると、ステップS303へ進み、勾配フラグfSLP=1(上り勾配)と判定してエンドへ進む。
ステップS304では、ステップS302でのSLP≦aであるとの判断に続き、勾配推定値SLPが負の閾値−aを下回っているか否かを判断し、SLP<−aであると判断されると、ステップS305へ進み、勾配フラグfSLP=2(下り勾配)と判定してエンドへ進む。
ステップS306では、ステップS304でのSLP≧−aであるとの判断に続き、勾配フラグfSLP=0(平坦路)と判定してエンドへ進む。
図13は、図10のステップS4での走行状態検出処理を示すフローチャートであり、走行状態検出処理構成をあらわす各ステップについて説明する。
ステップS401では、走行状態検出部322において、ステップS401では、アクセル開度速度|ΔACC|が加速判定閾値ACC0未満の状態が所定時間Ta継続しているか否かが判断される。また、次のステップS402では、ブレーキ操作速度|ΔBRK|が減速判定閾値BRK0未満の状態が所定時間Tb継続しているか否かが判断される。そして、ステップS401の非加速条件とステップS402の非減速条件が共に成立しているとき、ステップS403へ進み、定常フラグfACC=1(定常走行)と判定してエンドへ進む。一方、ステップS401の非加速条件とステップS402の非減速条件の一方が不成立のとき、ステップS404へ進み、定常フラグfACC=0(非定常走行)と判定してエンドへ進む。
図14は、図10のステップS5でのサスジオノイズ閾値算出処理を示すフローチャートであり、サスジオノイズ閾値算出処理構成をあらわす各ステップについて説明する。
ステップS501では、サスジオノイズ閾値算出部323において、勾配推定値SLPと定常フラグfACCとが信号として取得される。次のステップS502では、定常フラグfACCがfACC=1のとき、勾配推定値SLPからサスジオ係数補正値βを算出する。サスジオ係数補正値βは、フレームF502に示すように、タイヤ変位非線形特性の原点位置(平坦路位置)を、勾配推定値SLPが勾配方向(上り勾配か下り勾配)と勾配の大きさに応じてずらし、ずらした非線形特性における初期位置で線形近似した傾きの値とされる。次のステップS503では、サスジオ係数(平坦路でのサスジオ係数KgeoF,KgeoRと勾配路でのサスジオ係数補正値βを含む)とフレームF503に記載のマップを用い、サスジオノイズ閾値αが算出され、エンドへ進む。サスジオノイズ閾値αは、フレームF502に示すように、(1/サスジオ係数)を横軸としたとき、サスジオ係数補正値βが大きいほど大きな値というように、(1/サスジオ係数)に反比例する値として算出される。
図15は、図10のステップS6での車輪速変動判定ゲイン設定処理(処理A)を示すフローチャートであり、車輪速変動判定ゲイン設定処理構成をあらわす各ステップについて説明する。
ステップS601では、車輪速変動判定ゲイン設定部302において、車輪速センサ103FR,103FL,103RR,103RLからのセンサ信号による車輪速変動と、サスジオノイズ閾値算出部323からのサスジオノイズ閾値±αと、が信号として取得される。次のステップS602では、車輪速変動がサスジオノイズ閾値±αより大きいか否かが判断される。ステップS602でNOと判断されると、ステップS603へ進み、ステップS602でのNOとの判断が所定時間以上継続しているか否かが判断される。つまり、閾値判定は、一定の遅れ時間を持ち、この遅れ時間として、制御中心周波数の半周期程度の時間に設定することで、一連の車輪速変動を連続の波形として認識できるようにしている。
そして、ステップS602でYESと判断されたとき、あるいは、ステップS602でNO判断され次のステップS603でNOと判断されたとき、ステップS604へと進み、ステップS604では、閾値判定ゲインを1に設定し、エンドへ進む。一方、ステップS602でNOと判断され次のステップS603でYESと判断されたとき、ステップS605へと進み、ステップS605では、閾値判定ゲインを0に設定し、エンドへ進む。すなわち、閾値判定ゲインが1のときには、車輪速変動がサスジオノイズ閾値±α以下であると判断されても、閾値判定ゲイン=1の状態が一定の遅れ時間だけ継続される。
図16は、図10のステップS7での車輪速変動補正処理(処理B)を示すフローチャートであり、車輪速変動補正処理構成をあらわす各ステップについて説明する。
ステップS701では、車輪速変動補正部303において、車輪速センサ103FR,103FL,103RR,103RLからのセンサ信号による車輪速変動と、車輪速変動判定ゲイン設定部302からの閾値判定ゲインと、が信号として取得される。次のステップS702では、(車輪速変動*閾値判定ゲイン)の式により車輪速変動に含まれるノイズを除去する補正を行い、エンドへ進む。すなわち、閾値判定ゲインが1のときの補正後の車輪速変動情報は、ノイズ除去無しのセンサ信号そのものの値とされ、閾値判定ゲインが0のときの補正後の車輪速変動情報は、車輪速変動を無くした完全なノイズ除去をあらわすゼロとされる。
図17は、図10のステップS8での上下力算出処理(処理C)を示すフローチャートであり、上下力算出処理構成をあらわす各ステップについて説明する。
ステップS801では、上下力算出部304において、車輪速変動補正部303からのノイズが除去された車輪速情報と、車輪速変動判定ゲイン設定部302により設定された閾値判定ゲインと、勾配推定部321からの勾配推定値SLP及び勾配フラグfSLPと、走行状態検出部322からの定常フラグfACCと、が信号として取得される。次のステップS802では、閾値判定ゲインの前回値が0で、閾値判定ゲインの今回値が1であるか否かが判断される。ステップS802でYESと判断されると、ステップS803へ進み、閾値判定ゲインが0→1になったのに伴い算出される上下力算出値の中間値がリセットされる。また、ステップS802でNOと判断されるとエンドへ進む。すなわち、閾値判定ゲインが0→1になったことで急に発生する上下力算出値の突然値をリセットするようにしている。
なお、前後輪上下力Ff,Frは、定常走行状態(fACC=1)、閾値判定ゲイン=1、かつ、fSLP=0(平坦路)のとき、平坦路基準のサスジオ係数KgeoF,KgeoR(補正無し)を用いて算出される。一方、定常走行状態(fACC=1)、閾値判定ゲイン=1、かつ、fSLP=1(上り勾配)又はfSLP=2(下り勾配)のとき、勾配推定値SLPによるサスジオ係数補正値βを用いて算出される。
実施例1の車体制振制御装置における作用を、[車体制振制御により発揮される走行性能向上作用]、[路面勾配による初期位置変化作用]、[車輪速変動補正による上下力算出作用]に分けて説明する。
上記車体制振制御全体処理を実行することにより、具体的にどのようなメカニズムにより車体のばね上挙動がコントロールされるかの理解を助ける基本作用を、図18に基づき説明する。
以下、車体制振制御を行うことにより発揮される走行性能向上作用を、〈性能向上を狙うシーンと効果〉、〈車体制振制御ロジック〉、〈効果確認作用〉に分けて説明する。
車体制振制御により性能向上を狙うシーンと効果は、
(a)車線変更時やS字路等のシーンで、穏やかなロールとリニアリティの良さにより、安定感のあるリニアな旋回性能を得ること。
(b)高速巡航時等のシーンで、修正操舵の少なさやピッチダンピングの良さにより、車両の安定した巡航性能を得ること。
にある。上記(a)の効果を達成するには、「操舵応答の向上」と「ロール速度の抑制」が必要であり、上記(b)の効果を達成するには、「荷重変動の抑制」が必要である。
上記本制御が狙いとする効果(a),(b)を達成する車体制振制御ロジックを、図20に基づき説明する。
そして、車体のばね上挙動状態量のそれぞれに、図20に示すように、バウンス速度・バウンス量・ピッチ速度・ピッチ角度を適正化するレギュレータゲインF1〜F8を掛け合わせ、さらに、調整代となるチューニングゲインK1〜K8を掛け合わせる。
ここで、各補正トルク値A,B,Cのうち、補正トルク値Cは、操舵時において、前輪荷重を上乗せするように駆動トルクを補正し、左右前輪102FR,102FLに積極的に輪荷重を乗らせるための補正トルク値である。
直進走行から操舵したときの対比特性(制御有りが実線特性、制御無しが点線特性)を時系列であらわした図21に基づき、上記本制御が狙いとする効果(a),(b)が実現されることの確認作用を説明する。
このため、時刻t1までの直進走行域では、図21の矢印Eに示すように、制御無しに比べ、ピッチレイトが抑制され、車両の安定した走行性能により、乗心地の向上が実現されていることが分かる。
そして、時刻t1以降の操舵過渡領域においては、図21の矢印Fに示すように、ピッチレイトの変化が抑制されていて、適切な荷重移動が実現されていることが分かる。操舵過渡領域のうち、旋回初期においては、図21の矢印Gに示すように、制御無しに比べてヨーレイトが早期に立ち上がり、初期応答性が向上していることが分かる。さらに、操舵過渡領域のうち、旋回後期においては、図21の矢印Hに示すように、制御無しに比べてヨーレイトが緩やかに変化し、旋回巻き込みが抑制されていることが分かる。
そして、操舵過渡領域(旋回初期〜旋回後期)においては、ピッチレイトの変化を抑制する制御と、ヨーレイトの変化を抑制する制御と、を同時に行うことで、横Gの急変が抑えられるため、図21の矢印Iに示すように、制御無しに比べてロールレイトが抑制されていることが分かる。
前輪上下力Ffと後輪上下力Frを精度良く算出するには、路面勾配によりタイヤ変位非線形特性のホイールセンター初期位置(原点位置)がどのように変化するかを把握しておく必要がある。以下、図22に基づき、これを反映する路面勾配によるホイールセンター初期位置変化作用を説明する。
上記本制御が狙いとする効果(a),(b)を車種に関係なく実現するには、路面勾配によって初期位置(原点位置)が変化するタイヤ変位非線形特性による上下力推定精度への影響を把握し、精度良く前輪上下力Ffと後輪上下力Frを算出する工夫が必要である。以下、図23に基づき、これを反映する車輪速変動補正による上下力算出作用を説明する。
すなわち、下り坂走行時には、サスジオ係数補正値βが、前輪側で平坦路基準のサスジオ係数KgeoF,KgeoRに比べ、下り勾配が大きいほど小さく補正され、後輪側で平坦路基準のサスジオ係数KgeoF,KgeoRに比べ、下り勾配が大きいほど大きく補正される。一方、上り坂走行時には、サスジオ係数補正値βが、前輪側で平坦路基準のサスジオ係数KgeoF,KgeoRに比べ、上り勾配が大きいほど大きく補正され、後輪側で平坦路基準のサスジオ係数KgeoF,KgeoRに比べ、上り勾配が大きいほど小さく補正される。
そして、ステップS503では、サスジオ係数補正値βとフレームF503に記載のマップを用い、サスジオノイズ閾値αが算出される。このサスジオノイズ閾値αは、サスジオ係数補正値βが大きいほど大きな値というように、(1/サスジオ係数)に反比例する値として算出される。これは、補正後のサスジオ係数補正値βが大きいほどノイズが乗りやすくなることによる。
図23の時刻t0〜時刻t1までの間は、車輪速から算出した車輪速変動特性に示すように、多少の車輪速変動が認められるもののサスジオノイズ閾値±α以下であるため、図15のフローチャートにおいて、ステップS601→ステップS602→ステップS603→ステップS605→エンドへと進む。したがって、図23の処理Aにおける閾値判定・車輪速変動判定ゲインの設定の各特性は何れも“0”の一定値とされる。そして、車輪速変動判定ゲイン=0とされるため、図16のフローチャートにおいて、ステップS701→ステップS702→エンドへと進み、図23の処理Bにおける上下力推定に使用する車輪速変動の特性は“0”の一定値とされる。さらに、車輪速変動判定ゲイン=0とされ、かつ、車輪速変動=0とされるため、図17のフローチャートにおいて、ステップS801→ステップS802→エンドへと進み、図23の処理Cにおける車輪速変動から推定した上下力・車輪速から算出した指令トルクの各特性は何れも“0”の一定値とされる。
車輪速変動に基づいてタイヤに加わる上下力を算出する場合、平坦路を基準としてタイヤ変位特性の傾き係数であるサスジオ係数を決めている。一方、サスペンション・ジオメトリに基づくタイヤ変位特性は、サスペンション変位によってサスジオ係数が変化する非線形特性を示す。このため、上り勾配路や下り勾配路を走行すると、車輪速変動に基づいて算出される路面からタイヤに加わる上下力の推定精度が低下する。
これに対し、サスペンション変位によってサスジオ係数が変化すると共に、サスジオ係数が大きい方が、サスジオ係数が小さいときに比べ、車輪速センサ103FR,103FL,103RR,103RLからの車輪速信号にノイズが乗りやすいと知見した。この知見に基づき、車両が走行する路面勾配に応じて車輪速変動に含まれるノイズを除去する補正を行うようにした。したがって、路面勾配によらず、路面からタイヤに加わる上下力Ff,Frの推定精度が確保される。
このように、路面勾配に応じて車輪速変動に含まれるノイズを除去する補正を行うことで、サスペンションが変位する外乱入力走行シーンにおいて、路面勾配によらず車輪速変動に基づいて算出する路面からの上下力推定精度が確保される。
すなわち、車輪速変動に含まれるノイズを除去する補正を行うに際し、図23の矢印Nに示すように、閾値絶対値|α|が、路面勾配によって変化するサスジオ係数補正値βの大きさを反映する値となる。そして、閾値絶対値|α|の大きさにより、車輪速から算出した車輪速変動のうち、上下力推定に使用しない範囲と、上下力推定に使用する範囲と、が分けて規定されることになる。つまり、上下力推定に使用しない範囲は、サスジオ係数補正値βが大きいほどノイズが乗りやすいことを反映した範囲となり、上下力推定に使用する範囲は、外乱挙動を抑制するのに適切なノイズ影響が抑えられた車輪速変動範囲となる。
このように、勾配路走行時、路面勾配に応じたサスジオ係数補正値βの大きさを反映させた閾値絶対値|α|により切り分けられる上下力推定に使用しない車輪速変動範囲のノイズを除去することで、車輪速から算出した車輪速変動のうち、ノイズ影響が抑えられた車輪速変動範囲が、上下力推定に使用する範囲として取得される。この結果、路面勾配によらず、上下力推定精度が高められる。
すなわち、車輪速変動の閾値判定に一定の遅れ時間を持たせているため、車輪速変動判定ゲインは、図23の矢印Kに示すように、時刻t1〜時刻t7までの間、車輪速変動判定ゲイン=1が維持され、一連の車輪速変動が連続の波形として認識される。
このように、車輪速変動の閾値判定に一定の遅れ時間を持たせたことで、車輪速変動が連続的な入力であるにもかかわらず、車輪速変動判定ゲインが不適切に切り替わることでの不要な演算リセットが防止される。
すなわち、車輪速変動から推定した上下力及び車輪速から算出した指令トルクは、図23の矢印L及び矢印Mに示すように、突然値を持つタイミングである時刻t1にてリセットされる。
このように、突然値を持つタイミングで中間値をリセットすることで、車両挙動の急変を招く上下力推定値や指令トルク値の急変が防止される。
すなわち、一般的に車両に加減速度が発生しているとき(非定常走行状態)、路面勾配の推定精度が落ちる。その状態でサスジオノイズ閾値±αを遷移させると、勾配推定精度が不連続に遷移するため、路面勾配を用いた本ロジックを実行することにより、逆にドライバに対し違和感を与えてしまうおそれがある。
これに対し、一定速走行を判断し、定常状態のときのみ路面勾配に応じたサスジオノイズ閾値±αに遷移することで、ドライバに対して与えるおそれのある違和感が防止される。
実施例1の車体制振制御装置にあっては、下記に列挙する効果を得ることができる。
前記入力変換部204は、サスペンション・ジオメトリに基づくタイヤ変位特性を用い、車輪速センサ103FR,103FL,103RR,103RLからの車輪速変動に基づいて、路面からタイヤに加わる上下力を算出する上下力算出部304を有し、
前記上下力算出部304に、前記車両が走行する路面勾配に応じて車輪速変動に含まれるノイズを除去する補正を行う車輪速変動補正部303を設けた(図3)。
このため、サスペンションが変位する外乱入力走行シーンにおいて、路面勾配によらず車輪速変動に基づいて算出する路面からの上下力推定精度を確保することができる。
前記車輪速変動補正部303は、車輪速変動が前記サスジオノイズ閾値±α以下のとき、前記閾値判定ゲインを用いて前記車輪速センサ103FR,103FL,103RR,103RLからの車輪速変動に含まれるノイズを除去する補正を行う(図15,図16)。
このため、(1)の効果に加え、車輪速から算出した車輪速変動のうち、ノイズ影響が抑えられた車輪速変動範囲が、上下力推定に使用する範囲として取得されることで、路面勾配によらず、上下力推定精度を高めることができる。
このため、(2)の効果に加え、車輪速変動が連続的な入力であるにもかかわらず、車輪速変動判定ゲインが不適切に切り替わることでの不要な演算リセットが防止され、車輪速変動を連続の波形として認識することができる。
前記車輪速変動補正部303は、前記閾値判定ゲインが1のとき、前記車輪速センサ103FR,103FL,103RR,103RLからの車輪速変動を車輪速変動補正値として抽出し、前記上下力算出部304へ入力する(図15,図16)。
このため、(2)又は(3)の効果に加え、ノイズ影響が抑えられた領域における車輪速センサ103FR,103FL,103RR,103RLからの車輪速変動範囲を、上下力推定に使用する車輪速変動情報として抽出することができる。
このため、(4)の効果に加え、車両挙動の急変を招く上下力推定値や指令トルク値の急変を防止することができる。
前記勾配推定部321からの勾配判定に基づいてサスジオ係数補正値βを算出し、算出したサスジオ係数補正値βに基づいて前記車輪速変動判定ゲイン設定部302へ出力するサスジオノイズ閾値±αを算出するサスジオノイズ閾値算出部323と、
を有する(図11)。
このため、(1)〜(5)の効果に加え、上り勾配路であっても下り勾配路であっても、路面外乱入力に対する車体制振制御効果を得ることができる。
前記サスジオノイズ閾値算出部323は、前記勾配推定値SLPに応じて連続的に変更されるサスジオノイズ閾値±αを算出する(図14)。
このため、(6)の効果に加え、路面勾配に応じて連続的にサスジオノイズ閾値±αが変更されることで、路面外乱入力に対する車体制振制御効果を安定して発揮することができる。
このため、(7)の効果に加え、ノイズの乗りやすさをあらわすサスジオ係数に大きさに応じ、適切にサスジオノイズ閾値±αを算出することができる。
前記上下力算出部304は、車両が定常走行状態であるときにのみ、路面勾配に応じたサスジオノイズ閾値±αを遷移して路面からタイヤに加わる上下力Ff,Frを算出する(図11)。
このため、(2)〜(8)の効果に加え、定常状態のときのみ路面勾配に応じたサスジオノイズ閾値±αに遷移することで、ドライバに対して与えるおそれのある違和感を防止することができる。
102FR,102FL 左右前輪(従動輪)
102RR,102RL 左右後輪(駆動輪)
103FR,103FL,103RR,103RL 車輪速センサ
104 ブレーキストロークセンサ
105 アクセル開度センサ
106 エンジン
107 MT変速機
108 シャフト
109 ディファレンシャルギア
110 ステアリングホイール
111 操舵角センサ
201 ドライバ要求トルク演算部
202 トルク指令値演算部
203 車体制振制御装置
204 入力変換部
205 車体振動推定部
206 トルク指令値算出部
301 駆動トルク変換部
302 車輪速変動判定ゲイン設定部
303 車輪速変動補正部
304 上下力算出部
305 旋回挙動推定部
306 旋回抵抗力算出部
307 車両モデル
308 第1レギュレータ部
309 第2レギュレータ部
310 第3レギュレータ部
311 リミット処理部
312 バンドパスフィルタ
313 非線形ゲイン増幅部
314 リミット処理部
315 エンジントルク変換部
316 ハイパスフィルタ
317 第1チューニングゲイン設定部
318 第2チューニングゲイン設定部
319 第3チューニングゲイン設定部
320 加算器
321 勾配推定部
322 走行状態検出部
323 サスジオノイズ閾値算出部
Claims (9)
- 走行中に取得される車両からのセンシング情報を車輪入力に変換する入力変換部と、前記車輪入力と車両モデルを用いて車体のばね上挙動を推定する車体振動推定部と、前記ばね上挙動の推定結果に基づき駆動トルクの補正を行うトルク指令値算出部と、を備えた車体制振制御装置において、
前記入力変換部は、サスペンション・ジオメトリに基づくタイヤ変位特性を用い、車輪速センサからの車輪速変動に基づいて、路面からタイヤに加わる上下力を算出する上下力算出部を有し、
前記上下力算出部に、前記車両が走行する路面勾配に応じて車輪速変動に含まれるノイズを除去する補正を行う車輪速変動補正部を設けた
ことを特徴とする車体制振制御装置。 - 請求項1に記載された車体制振制御装置において、
前記路面勾配によって変化する前記タイヤ変位特性の傾きであるサスジオ係数が大きくなるほど大きな値による車輪速変動のサスジオノイズ閾値を設定し、前記車輪速センサからの車輪速変動が前記サスジオノイズ閾値より大きいか否かを判定し、判定結果を閾値判定ゲインとして設定する車輪速変動判定ゲイン設定部を備え、
前記車輪速変動補正部は、車輪速変動が前記サスジオノイズ閾値以下のとき、前記閾値判定ゲインを用いて前記車輪速センサからの車輪速変動に含まれるノイズを除去する補正を行う
ことを特徴とする車体制振制御装置。 - 請求項2に記載された車体制振制御装置において、
前記車輪速変動判定ゲイン設定部は、車輪速変動の閾値判定を行う際、閾値判定タイミングと判定結果出力タイミングとの間に、制御中心周波数の半周期程度の遅れ時間を持たせた
ことを特徴とする車体制振制御装置。 - 請求項2又は3に記載された車体制振制御装置において、
前記車輪速変動判定ゲイン設定部は、前記車輪速センサからの車輪速変動がサスジオゲイン閾値より大きいと判定されると前記閾値判定ゲインを1とし、前記車輪速センサからの車輪速変動がサスジオゲイン閾値以下であると判定されると前記閾値判定ゲインを0とし、
前記車輪速変動補正部は、前記閾値判定ゲインが1のとき、前記車輪速センサからの車輪速変動を車輪速変動補正値として抽出し、前記上下力算出部へ入力する
ことを特徴とする車体制振制御装置。 - 請求項4に記載された車体制振制御装置において、
前記上下力算出部は、前記車輪速変動判定ゲイン設定部により設定された閾値判定ゲインを入力し、閾値判定ゲインの前回値が0で、閾値判定ゲインの今回値が1であるとき、上下力算出値の中間値をリセットする
ことを特徴とする車体制振制御装置。 - 請求項1から5までの何れか1項に記載された車体制振制御装置において、
前記車両が走行する路面勾配が上り勾配であるか下り勾配であるかを判定する勾配推定部と、
前記勾配推定部からの勾配判定に基づいてサスジオ係数補正値を算出し、算出したサスジオ係数補正値に基づいて前記車輪速変動判定ゲイン設定部へ出力するサスジオノイズ閾値を算出するサスジオノイズ閾値算出部と、
を有することを特徴とする車体制振制御装置。 - 請求項6に記載された車体制振制御装置において、
前記勾配推定部は、前記車両が走行する路面勾配の勾配推定値を算出し、
前記サスジオノイズ閾値算出部は、前記勾配推定値に応じて連続的に変更されるサスジオノイズ閾値を算出する
ことを特徴とする車体制振制御装置。 - 請求項7に記載された車体制振制御装置において、
前記サスジオノイズ閾値算出部は、1/(サスジオ係数)に対するマップを用いてサスジオノイズ閾値を算出する
ことを特徴とする車体制振制御装置。 - 請求項2から8までの何れか1項に記載された車体制振制御装置において、
前記車両が定常走行状態であるか否かを判断する走行状態検出部を設け、
前記上下力算出部は、車両が定常走行状態であるときにのみ、路面勾配に応じたサスジオノイズ閾値を遷移して路面からタイヤに加わる上下力を算出する
ことを特徴とする車体制振制御装置。
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