JP3859902B2 - 放射線取扱施設の構造部品の化学除染方法及びその装置 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、原子力施設等の放射線取扱施設に設置された構造部品、例えば配管、機器、構造部材等の除染対象物に付着した放射性物質を含む金属酸化物を化学的に溶解し、除染対象物の表面から除去するための放射線取扱施設の構造部品の化学除染方法及びその装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
原子力施設において、放射性物質を含む流体と接触する配管、機器、構造部材等の除染対象物は、運転に伴って流体と接する面に放射性物質を含む酸化皮膜が付着または生成する。そのため、除染対象物の周囲は放射線量が高まり、定期点検作業や原子炉廃止措置時の解体作業において、作業員の放射線被ばくが増大することの原因となる。
【0003】
酸化皮膜を除去するには、酸化皮膜または除染対象物の金属母材を溶解し、酸化皮膜を溶液中に溶解または剥離させる方法等が用いられる。化学的に酸化皮膜を溶解、あるいは除去する化学除染方法は、一部実機において実施されており、被ばく低減に大きな効果を上げている。
【0004】
現在までに原子力施設のステンレス鋼部分を除染対象物とした化学除染方法は種々提示されており、酸化皮膜中のクロム酸化物を酸化剤により酸化溶解する工程と、酸化皮膜中の主要成分である鉄系酸化物を還元剤により還元溶解する工程を組み合わせた方法などが知られている。
【0005】
例えば特公平3−10919 号公報においては、酸化剤として過マンガン酸、還元剤としてジカルボン酸を用いる化学除染方法が記載されている。低濃度で酸化効果の高い過マンガン酸と、CO2 とH2 Oに分解可能なジカルボン酸を使用することにより、それまでの化学除染方法と比較して二次廃棄物発生量の低減が可能である。この方法は原子力発電施設の除染工事において既に実績がある。
【0006】
また、特開昭55−135800号公報には、オゾンガスを溶解させた水溶液を酸化剤とし、それと有機酸及び錯化剤の除染液とを組み合わせて用いる除染方法が記載されている。さらに、特開平9−159798号公報には、オゾンガスを起泡剤を含んだ溶液に吹き込むことで泡液を発生させ、この泡除染液を除染対象物に送り込んで除染を行う方法が記載されている。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、上記の過マンガン酸及びジカルボン酸による化学除染方法においては、過マンガン酸溶液中のマンガン成分をイオン交換樹脂により回収するために、除染剤に起因した二次廃棄物が発生する。オゾンは、強い酸化力を持つ気体であり、また水中では水との反応により分解し、酸化力を持つ各種の活性酸素種を生じる。
【0008】
この酸化力を利用し、オゾンガスを効率的に水に溶解させたオゾン水溶液によって酸化皮膜を溶解できれば、酸化剤に起因した二次廃棄物が最少の除染方法として非常に有効な方法となる。しかし、従来の放電式オゾン発生器から発生するオゾンガスの濃度は数vol %と低く、これを酸性溶液に通気して得られる水溶液中のオゾン濃度は室温で数ppm 以下程度である。
【0009】
このような濃度のオゾン水溶液による酸化処理では、過マンガン酸を用いた従来の化学除染方法と比較すると、酸化皮膜の除去性能が劣るという問題点がある。また、オゾンは水中で分解し減少する。水溶液の温度が高い場合、溶存オゾンの半減期は短く数分間で失われる可能性がある。
【0010】
しかし、化学除染方法においては除染液温度が高い程、酸化皮膜の溶解が促進され除染効果が高いため、全体の作業時間短縮のためには、なるべく高温状態で除染を行う必要がある。水溶液に溶解したオゾンは損耗するため、起泡剤等の薬剤を使用して泡を発生させオゾンガスの状態で除染液中に保持させる方法も可能であるが、起泡剤が二次廃棄物として発生するという課題がある。
【0011】
さらに、従来の酸化、還元溶解による化学除染方法はステンレス鋼材料部分への適用が主であり、炭素鋼などの化学試薬により金属母材が腐食しやすい材料を使用している部分の除染には適用できないという課題がある。
【0012】
本発明は上記の課題を解決するためになされたもので、酸化皮膜の酸化溶解性能が高く、かつ二次廃棄物の発生量の少ない放射線取扱施設の構造部品の化学除染方法及びその装置を提供することにある。また、本発明は除染剤である還元力を有する有機酸、例えばシュウ酸、及びオゾン排ガスの処理し得る放射線取扱施設の構造部品の化学除染方法及びその装置を提供することにある。
【0013】
【課題を解決するための手段】
請求項1に対応する発明は、放射線取扱施設の構造部品を除染対象物とし、この除染対象物に付着した放射性物質を含む酸化皮膜を化学的に溶解して除染する放射線取扱施設の構造部品の化学除染方法において、酸性水溶液に酸化剤であるオゾンガスを接触させることにより得られるpH5以下、温度50℃以上のオゾン水溶液により前記酸化皮膜を酸化溶解する酸化溶解工程と、還元剤である有機酸の水溶液により前記酸化皮膜を溶解する還元溶解工程と、使用後に残留した過剰量の前記有機酸を分解する還元剤分解工程と、溶液中に溶出した金属イオンと前記有機酸をイオン交換樹脂により分離する分離工程とを備えていることを特徴とする。この発明によれば、一連の工程により酸化皮膜の除染効果が高く、試薬に起因する二次廃棄物の発生量を低減し、除染廃液を既設の液体廃棄物系へ排水可能な除染方法を提供することができる。
【0014】
請求項2に対応する発明は、前記オゾンガスが、固体電解質を境界とし、その一方側に陽極室と、前記固体電解質の他方側に陰極室とを有する電気分解装置で、前記陽極室内に触媒金属製陽極を設けて純水を電気分解して前記陽極室からオゾンを発生させる固体電解質電解法によるオゾン発生器から得られるオゾンガスであることを特徴とする。
【0015】
この発明で用いる固体電解質電解法によるオゾン発生器は、原料が純水であるため高純度かつ高濃度のオゾンガスが得られ、従来の空気ガス等を原料とする放電法に比較して最大で約10倍程度の濃度のオゾンガスが発生する。このオゾンガスを酸性溶液にバブリングするとオゾン濃度の高い水溶液が得られる。
【0016】
このような高濃度のオゾンガスは強い酸化力を持ち、高い酸化皮膜除去性能を得ることができる。従って、この発明によれば、酸化皮膜の除去効果が高く、かつ除染剤に起因した二次廃棄物発生量が最少化できる。
【0019】
請求項3に対応する発明は、前記酸性水溶液は、硝酸によりpHが調整されていることを特徴とする。この発明では、高い除染効果が得られる除染方法を提供できる。
【0020】
請求項4に対応する発明は、前記還元溶解工程において、前記オゾン発生器の陰極室から発生する水素ガスが溶解した陰極室水を放射線取扱施設の配管、構造部品等に供給し、前記酸化皮膜を還元溶解することを特徴とする。この発明によれば、請求項2記載の化学除染方法において酸化皮膜を還元溶解する還元性水溶液を生成できる。
【0022】
請求項5に対応する発明は、前記還元剤分解工程において、オゾンガスまたはオゾン水溶液を前記有機酸水溶液に加えるとともに、紫外線または放射線照射あるいは過酸化水素を注入することにより前記有機酸を分解することを特徴とする。この発明によれば、酸化溶解工程に使用したオゾンガスまたはオゾン水溶液をシュウ酸分解に利用できるため、作業、設備上の負担が少ない。また、分解後の溶液は水であるため、二次廃棄物発生量を少なくできる。
【0023】
請求項6に対応する発明は、前記酸化溶解工程後に、使用済みオゾン水溶液中のオゾンを紫外線、または放射線の照射により分解する酸化剤分解工程をさらに含むことを特徴とする。この発明によれば、酸化溶解工程後の残存オゾンが分解されるため、その後の分離工程及び還元溶解工程において、オゾンによるイオン交換樹脂の劣化やシュウ酸の分解、損失が抑制できる。
【0024】
請求項7に対応する発明は、前記酸化剤分解工程と平行して、または酸化剤分解工程後に、イオン交換樹脂による分離工程によりpH調整剤及び溶出金属イオンを分離し、分離後の溶液に前記有機酸を添加することで還元溶解工程に移行することを特徴とする。
【0025】
この発明によれば、酸化剤分解及び分離工程により水溶液は清浄となり直接シュウ酸を添加することが可能であるため、酸化溶解溶液を系外に排出する必要がない。従って作業が簡便であり、かつ二次廃棄物発生量を少なくできる。
【0026】
請求項8に対応する発明は、前記オゾン水溶液の酸化溶解性能を、除染対象物の入口、出口でオゾン濃度または酸化還元電位の測定により監視することを特徴とする。この発明によれば、酸化皮膜除去効果をリアルタイムで監視することで、必要に応じてオゾン供給量を調整でき、効率的な除染処理が可能である。
【0027】
請求項9に対応する発明は、前記還元溶解工程に、前記有機酸と前記有機酸の塩との混合溶液を還元剤として用いることを特徴とする。この発明によれば、炭素鋼材料部分についても少ない金属母材の腐食量で除染を行うことが可能である。
【0028】
請求項10に対応する発明は、前記還元剤分解工程において、光照射とその光により励起される酸化チタン等の光触媒により前記有機酸を分解することを特徴とする。この発明によれば、二次廃棄物となる薬剤を使用することなく除染剤を分解することが可能である。
【0029】
請求項11に対応する発明は、前記還元剤分解工程において、エキシマ光の光照射とオゾンまたは酸素により前記有機酸を分解することを特徴とする。この発明によれば、薬剤を使用することなく、除染剤を分解することが可能であり、二次廃棄物を低減化できる。
【0030】
請求項12に対応する発明は、前記分離工程は、前記有機酸水溶液中の溶出鉄成分を水素により還元し、陽イオン交換樹脂に捕集可能な形態の鉄を多く生成し、捕集すること特徴とする。この発明によれば、溶出金属を効果的に捕集でき、除染作業中の雰囲気線量を低減化できる。
【0031】
請求項13に対応する発明は、除染液を貯留するバッファタンクと、このバッファタンクに接続し前記除染液を除染対象物内に流入し流出するポンプを有する除染液循環系と、前記バッファタンクに接続したポンプ及びオゾン発生器を有するオゾン注入系と、前記バッファタンクに接続したpH調整剤供給装置及び有機酸供給装置と、前記除染液循環系のポンプと前記除染対象物との間の前記除染液循環系の配管に設けた光照射部及びイオン交換部を有する除染液浄化系とを具備し、請求項1記載の放射線取扱施設の構造部品の化学除染方法を実施することを特徴とする。
【0032】
この発明において、除染液循環系は放射線取扱施設の配管、機器、または構造部品等の除染対象物を化学的に除染する系統で、有機酸と除染対象物を接触させ金属酸化物を溶解する。オゾン注入系は硝酸によりpH5以下に調整した溶液にオゾンガスをミキシングポンプにより注入し、得られるオゾン水溶液を除染対象物と接触させる。
【0033】
除染液浄化系は、除染後の有機酸廃液にオゾンガスを注入し、さらに光照射部を通水することでシュウ酸廃液を分解すると共に、溶出金属をイオン交換樹脂により回収する。除染液循環系とオゾン注入系は除染対象部位であり、除染対象部位を満たした溶液により、除染する。オゾンガスを効率的に除染溶液に注入し、また有機酸と組み合わせて除染を行い、少ない二次廃棄物の発生量で高い除染効果を得ることができる。
【0034】
請求項14に対応する発明、容器状物体からなる除染対象物に接続し、前記除染対象物内に貯留する除染液を流入し流出するポンプを有する第1の除染液循環系と、この第1の除染液循環系の配管に設けたオゾン発生器及びポンプを有するオゾン注入系と、このオゾン注入系のポンプの吐出側と前記除染対象物との間の前記第1の除染液循環系の配管に設けた光照射部及びイオン交換部を有する除染液浄化系と、前記除染対象物内の除染液を流出し流入するポンプを有する第2の除染液循環系とを具備し、請求項1記載の放射線取扱施設の構造部品の化学除染方法を実施することを特徴とする。
【0035】
この発明では第1の除染液循環系及び除染液浄化系、または第2の除染液循環系は、仮設の除染装置であり、除染装置内を満たした溶液にオゾンガスを注入しオゾン水溶液としたものを除染対象部位へ供給するか、あるいは除染装置内に除染対象物を浸漬する。これにより、オゾンガスを効率的に除染溶液に注入し、またシュウ酸と組み合わせて除染を行い、少ない二次廃棄物発生量で高い除染効果を得ることができる。
【0036】
請求項15に対応する発明は、前記イオン交換部の出口側と前記オゾン注入系のポンプの吸込側との間から分岐してポンプを有するバイパス系を設けてなることを特徴とする。この発明によれば、バイパス系とバイパス系にポンプを設けることにより除染対象物内の除染液の攪拌効果を高め、除染効率を向上できる。
【0037】
請求項16に対応する発明は、原子炉冷却材再循環ポンプまたは立上り部を有する配管からなる除染対象物に離間して取付けた第1の除染座及び第2の除染座と、前記第1の除染座に接続したオゾン発生器及びポンプを有するオゾン注入系と、前記第2の除染座に接続した光照射部及びイオン交換部を有する浄化系とからなり、前記イオン交換部の出口側を前記オゾン注入系のポンプの吸込側に接続してなり、請求項1記載の放射線取扱施設の構造部品の化学除染方法を実施することを特徴とする。
【0038】
この発明によれば、原子炉に接続している再循環ポンプまたはこのポンプに接続している立上り部を有する配管にオゾン注入系及び除染液浄化系を接続するだけで、再循環ポンプやその配管の除染を容易に行うことができる。
【0039】
請求項17に対応する発明は、除染対象物を除染液中に浸漬するバッファタンクと、このバッファタンクに接続したポンプを有する除染液循環系と、前記バッファタンクに接続したポンプ及びオゾン発生器を有するオゾン注入系と、前記バッファタンクに接続したpH調整剤供給装置及び有機酸供給装置と、前記除染液循環系に設けた光照射部及びイオン交換部を有する除染液浄化系とを具備し、請求項1記載の放射線取扱施設の構造部品の化学除染方法を実施することを特徴とする。この発明によれば、除染対象物が小物部品や除染液を通流できない形状の部品をバッファタンク内に浸漬するだけで除染を容易に行うことができる。
【0040】
請求項18に対応する発明は、前記バッファタンクにオゾン排気系を取付け、このオゾン排気系にオゾン排ガス処理装置を設けてなることを特徴とする。この発明では、オゾン酸化溶解工程または還元剤分解工程において使用したオゾンのうち、消費されなかった未反応のオゾンガスを分解し、酸素とする高濃度では人体に有毒なオゾンガスを処理し、安全に排出することが可能である。
【0041】
請求項19に対応する発明は、前記オゾン排ガス処理装置はオゾンを酸素に分解する活性炭または金属触媒が組込まれたものからなることを特徴とする。この発明によれば、前記オゾン排ガス処理装置では、活性炭または金属触媒によりオゾンを酸素に分解するので、高濃度では人体に有毒なオゾンガスを処理し、安全に排出することが可能である。
【0042】
請求項20に対応する発明は、前記オゾン排ガス処理装置の出口側に酸素ガス導出配管の一端を接続し、この酸素ガス導出配管の他端を結合触媒装置に接続し、この結合触媒装置と前記オゾン発生器の陰極室とを水素ガス導出配管を介して接続してなることを特徴とする。
【0043】
この発明によれば、前記オゾン排ガス処理装置において、オゾン排ガスの分解生成物である酸素と、オゾンガス発生源として用いる固体電解質に区画された水の電気分解装置の陰極室から発生する水素ガスとを、触媒により結合させ、高濃度では人体に有毒であるオゾンガスを処理し、水として安全に排出することができる。
【0044】
請求項21に対応する発明は、前記バッファタンクにオゾン排気系の一端を取付け、このオゾン排気系の他端を前記オゾン注入系のポンプの吸込側に接続してなることを特徴とする。この発明によれば、オゾン排ガスを再びオゾン注入系のポンプにより除染液循環系内に再注入することにより、オゾン排ガスを有効に再利用することができる。
【0045】
【発明の実施の形態】
本発明に係る放射線取扱施設の構造部品の化学除染方法及びその装置の第1〜第18の実施の形態を説明する。
(第1の実施の形態)
この第1の実施の形態は、請求項1に対応する発明に係り、オゾンの酸化力による放射線取扱施設、例えば原子力施設の構造部品に付着した酸化皮膜を溶解する除染方法である。
【0046】
オゾンは酸化力を持つ気体であり、また水中に溶解したオゾンは下式(1) 〜(5) のような反応により分解し、各種の活性酸素種が生成する。
O3 +OH- →HO2 +O2 - …(1)
O3 +HO2 →2O2 +OH …(2)
O3 +OH→O2 +HO2 …(3)
2HO2 →O3 +H2 O …(4)
HO2 +OH→O2 +H2 O …(5)
オゾン及びこれら活性酸素種は、表1に示す酸化還元電位から分かるように、過マンガン酸イオンと比較して強い酸化力を持っている。
【0047】
【表1】
【0048】
放射線取扱施設、例えば原子力発電所の配管、構造部品等の表面に付着または生成する金属酸化皮膜のうち、難溶性のクロム系酸化物は還元的に溶解することは困難であるが、酸化することにより酸化溶解する。オゾンは上述のように強い酸化力を持つため、酸化溶解のための除染剤として適用可能である。
【0049】
しかし、従来から一般的にオゾンガス発生器には、空気または酸素ガスを原料として無声放電を行い、下式(6) 、(7) の反応によりオゾンを発生させる無声放電方式が多く用いられている。
O2 +e- (>5eV)→2O …(6)
O+O2 →O3 …(7)
【0050】
従来の無声放電方式により発生させるオゾンガス濃度は最大で数vol %程度である。汎用的に利用されるこの程度の濃度のオゾンガスを水に溶解したオゾン水溶液で酸化溶解する除染方法では、従来の過マンガン酸によって酸化溶解を行う化学除染方法と比較して酸化皮膜の溶解効果が劣る欠点がある。
【0051】
この欠点を解決するため、酸化皮膜の溶解性能を向上させる方法を検討した。オゾンによる酸化皮膜の溶解は同一温度条件であれば、溶液中のオゾン濃度が高い程効果的であり、オゾンの水溶液への溶解濃度は溶液のpHに依存する。
【0052】
そこで、オゾン水溶液のpHによる酸化皮膜の溶解特性を調べた。酸またはアルカリを500 cm3 の50℃の純水に添加し、pHを3〜9に調整した。この溶液に4vol %のオゾンガス50cm3 ・min -1の流量で通気し、溶液中のオゾンの溶解濃度を測定した。
【0053】
試験片として原子炉構造部品を構成する材料の一種であるSUS304の試験片(2×3cm×0.1cmt)に沸騰水型原子力発電所(BWR)の一次系の流体条件を模擬した高温水に3000時間曝露し、酸化皮膜を付与した物を用いた。
【0054】
この試験片を前記の条件でオゾンを供給しているオゾン水溶液に2時間浸漬した。酸化処理を行うと、酸化溶解する成分の重量は減少するが、その他のさらに高い酸化状態となり得る酸化物は酸素が結合するため、逆に重量が増加する。酸化処理後の試験片重量はこれらの重量増減が複合した結果であり、酸化溶解効果を明確に判別できない。
【0055】
そのため、それに続いて0.2 %、95℃のシュウ酸溶液に試験片を1時間浸漬し、酸化処理及び還元処理において溶解し得る酸化物を全て除去したのち、試験片の重量減量を測定した。また、比較のため同一条件で生成した試験片を、従来法で用いられる過マンガン酸溶液(温度95℃、濃度0.03%)により2時間酸化処理を行い、その後前記のシュウ酸処理と同様の条件により還元溶解し、重量減量を測定した。
【0056】
図1に各pH水溶液中で酸化処理を行った場合の酸化皮膜の溶解量を示す。酸化皮膜の溶解量はpH5以下で急激に上昇し、過マンガン酸法と同等以上の溶解性能を示した。pH5以下のオゾン水溶液は、95℃、0.03%の過マンガン酸溶液の酸化還元電位の測定結果1050mVよりも高い電位であった。
【0057】
水溶液のpHが酸性〜中性の領域で1000mV前後の酸化還元電位では、クロムはHCrO4 - 、CrO4 2-またはこれらが縮合したCr2 O7 2-の化学形が安定である。従って、オゾンによりCr2 O3 は、溶液中で下式のような反応により溶解すると考えられる。
Cr2 O3 +3O3 +2H2 O→2CrO4 2-+4H+ +3O2 …(8)
Cr2 O3 +3O3 +H2 O→Cr2 O7 2-+2H+ +3O2 …(9)
【0058】
本実施の形態では放射線取扱施設の例として原子力施設で説明したが、医療や非破壊検査関係等、放射線や放射性物質を取扱う施設の構造部品に対しても本実施の形態の化学除染方法を適用することができる。
【0059】
(第2の実施の形態)
この第2の実施の形態は、請求項1,2,4, 12の発明に対応するもので、固体電解質電解方式のオゾン発生器を用いた除染方法の例である。
図2に、固体電解質電解方式のオゾン発生器の構成例を示す。
【0060】
オゾンガスは図2に示すオゾン発生器から得られるオゾンガスである。すなわち、オゾン発生器は固体電解質1を境界とし、その一方側に陽極2を備えた陽極室4と、固体電解質1の他方側に陰極3を備えた陰極室5とを有する電気分解装置において、触媒金属製陽極2を用いて純水を電気分解することにより陽極室4からオゾンガス9を発生させるものである。
【0061】
イオン交換膜などからなる固体電解質1を、二酸化鉛などの触媒金属を材料とする陽極2と陰極3ではさみ、区画された陽極室4、陰極室5に純水6を供給する。両電極2,3間に直流電源7から直流電圧を印加する。
【0062】
このような構成の電気分解装置において純水を電気分解すると、陽極2の表面で(10)、(11)式の反応が生じ、酸素8とオゾンガス9が発生する。
2H2 O→O2 ↑+4H+ +4e- …(10)
3H2 O→O3 ↑+6H+ +6e- …(11)
【0063】
このオゾン発生器を用いると、現在は最大で20vol %程度の濃度のオゾンガス9を発生させることが可能である。このオゾンガス9を水に通気することで、高濃度のオゾン水溶液が生成し、その水溶液で酸化処理を行うと高い酸化皮膜除去効果が得られる。
【0064】
また、陽極室4では、オゾンガス9と同時に、純水にオゾンが溶解したオゾン水溶液10も発生する。このオゾン水溶液10を直接放射線取扱施設の配管等に供給することによって、配管表面の酸化皮膜を酸化溶解するが可能である。
【0065】
一方、陰極室5からは、水素ガス11と同時に、純水に水素ガスが溶解した還元性水溶液12が発生する。この還元性水溶液12を放射線取扱施設の除染対象物配管等に供給することにより、酸化皮膜中の還元により溶解可能な鉄酸化物等の成分が溶解される。
【0066】
さらに、陰極室5から発生する水素ガス11により、還元溶解工程において除染液中に溶解した鉄の3価錯体の一部を還元し、陽イオン交換樹脂に捕集されやすい鉄の2価錯体の割合を高めることで、除染液中の放射性物質を陽イオン交換樹脂で効率的に分離,捕集し、除染中の雰囲気線量を低減することが可能である(請求項12の発明に対応)。
【0067】
(第3の実施の形態)
この第3の実施の形態は、請求項1の発明に対応し、図3により本実施の形態を説明する。
【0068】
すなわち、オゾンによる酸化皮膜を酸化溶解する酸化溶解工程14と、シュウ酸等の還元力を有する有機酸水溶液により酸化皮膜を溶解する還元溶解工程16と、使用後に残留した過剰量の還元剤を分解する還元剤分解工程18と、溶液中に溶出した金属イオンと除染剤をイオン交換樹脂により分離する第1〜第3の分離工程15,17,19を備えている。そして、酸化溶解工程14において前記オゾン水溶液の酸化力により酸化皮膜を溶解する。
【0069】
図3において、除染対象機器13は例えば原子力発電施設の系統配管で、この除染対象機器13に、酸化溶解工程14としてオゾン水溶液を供給し、オゾンの酸化力により酸化皮膜中のクロム酸化物を(8) 、(9) 式に示した反応により酸化溶解する。溶解したクロム酸イオン及びpH調整剤である酸は、第1の分離工程15において陰イオン交換樹脂により回収される。
【0070】
次に、還元溶解工程16では、シュウ酸溶液を除染対象機器13に供給し、酸化皮膜の主成分である鉄系酸化物を溶解する。シュウ酸などの有機酸により鉄系酸化物は(12)式の反応により溶解する。
Fe2 O3 +(COOH)2 +4H+ →2Fe2++3H2 O+2CO2 …(12)
【0071】
酸化溶解工程14と還元溶解工程16とを組み合わせることによる酸化皮膜の除去効果は、第1の実施の形態を説明した図1に示した実験により確認されている。溶解したFe2+や放射性核種であるCO2+等の陽イオンを溶出金属の第2の分離工程17では、陽イオン交換樹脂により分離し、除染液中の過剰なシュウ酸は還元剤分解工程18においてCO2 ガスと水に分解される。
【0072】
これらの14〜18の工程は、除染液中の放射能濃度及び空間線量等を測定し、必要に応じて繰り返し行われる。使用済みの除染廃液中のシュウ酸は分解工程18によりほとんどが分解され、わずかに残留したシュウ酸と溶出金属は第3の分離工程19において陽イオン交換樹脂と陰イオン交換樹脂により分離される。
【0073】
従って、廃液はイオン交換水に近い状態であり、排水として既設の液体廃棄物処理系に排出することが可能である。また、酸化皮膜の主成分である鉄系酸化物を先に除去するために、還元溶解,溶出金属分離,還元剤分解工程の16,17,18,19を酸化溶解工程14の前に挿入する方法も効果的である。
【0074】
(第4の実施の形態)
この第4の実施の形態は、酸性水溶液は硝酸によりpHが調整されていることを特徴とし、請求項3の発明に対応しており、オゾン水溶液のpH調整方法について説明する。
【0075】
オゾン水溶液のpH調整剤の検討として、代表的な無機酸、シュウ酸を添加した酸性溶液ついてオゾンの溶解濃度と酸化皮膜の溶解量を測定した。無機酸である硝酸と、硫酸を純水500 cm3 に添加しpH3とした60℃の酸性溶液に、第1の実施の形態で示した実験と同様の条件でオゾンガスを通気した。溶液中のオゾン濃度は硝酸、硫酸どちらの溶液についても同温度の純水の場合の約2倍の濃度が得られた。
【0076】
また、有機酸であるシュウ酸を純水500 cm3に添加しpH2とした50℃の酸性溶液に、無機酸の場合と同様の条件でオゾンガスを通気した。オゾンガス通気初期にはオゾン濃度が約20ppm であったが、オゾンを通気するに従ってpHの上昇とオゾン濃度の低下が見られ、2時間オゾンを通気した後はpHは3.5 に上昇し、オゾン濃度は約3ppm に低下した。
【0077】
これはシュウ酸がオゾンにより分解されるため、液相中のオゾンが分解に消費されるとともに、シュウ酸の減少に伴いpHが上昇しオゾンの溶解量が低下することによると考えられる。これらの無機酸、シュウ酸の酸性オゾン水溶液による酸化皮膜の溶解実験結果を図4に示す。
【0078】
50〜60℃の純水に、硝酸、硫酸、シュウ酸をそれぞれ添加しpHを2または3に調整した後、オゾンを先と同様の条件で通気しながら、酸化皮膜を付与したSUS304試験片を2時間浸漬した。酸化処理後、第1の実施の形態で示した実験と同様の条件でシュウ酸に浸漬し、試験片の重量減量を測定した。
【0079】
硝酸または硫酸を添加したpH3の酸性オゾン水溶液の場合は過マンガン酸処理の場合の約1.5 倍の酸化皮膜の溶解効果があったが、シュウ酸を添加しpHを2に調整した場合は過マンガン酸処理と同等程度であった。このことから硝酸、硫酸等の無機酸を添加することにより酸化皮膜の酸化溶解性能が向上することが分かった。
【0080】
ただし、供用中の原子力施設配管の除染を行う場合には、硫酸や塩酸は金属材料の応力腐食割れや孔食の原因となるため、これらの使用は好ましくない。金属材料への影響が少なくまたそれ自体も酸化力を持つ硝酸が添加剤としては適切である。しかし、硝酸を用いても、強い酸性条件下では金属材料が腐食されるため、酸化処理時のpHは3以上程度であることが望ましい。
【0081】
硝酸を添加したオゾン水溶液を用いる場合、溶出金属イオンの分離工程おいて、硝酸(NO3 - )イオンは金属イオンと共にイオン交換樹脂で回収されるため、二次廃棄物の発生源となる。過マンガン酸による酸化処理の場合は、マンガンがMn2+として陽イオン交換樹脂に捕捉される。
【0082】
原子力発電所において通常用いられているイオン交換樹脂の交換容量(陽イオン交換樹脂:1.9eq /L、陰イオン交換樹脂:1.1eq /L)を基に、0.03%の過マンガン酸溶液と、pH3及びpH4の硝酸溶液を用いた場合の、イオン交換樹脂発生量を比較した結果を図5に示す。なお、図5では過マンガン酸Mn2+を陽イオン交換樹脂で回収し、オゾンNO3 - を陰イオン交換樹脂で回収した。
【0083】
図5から明らかなように、過マンガン酸に起因して発生する樹脂量に対し、オゾン酸化ではpH3の場合で1/3、pH4の場合は1/30の発生量であり、硝酸を添加しても二次廃棄物の発生量を低減可能である。
【0084】
また、pH調整剤として緩衝剤も挙げられる。しかし、pH3〜4の領域に緩衝能力を持つものは酢酸−酢酸ナトリウム等のシュウ酸を含むものが一般的であり、これを添加すると前述のシュウ酸によるpH調整の結果と同様に、シュウ酸の分解にオゾンが消費され、酸化溶解性能は劣ると考えられる。
【0085】
(第5の実施の形態)
この第5の実施の形態は、オゾン水溶液を50℃の温度範囲で使用することにあり、請求項1の発明に対応している。図3に示す酸化溶解工程14及び還元溶解工程16の実施条件について説明する。
【0086】
従来の過マンガン酸を用いた化学除染方法では、酸化処理、還元処理ともに95℃の高温条件で行っているが、第1の実施の形態において述べた通り、50℃の温度条件のpH3〜5の酸性オゾン水溶液は、良好な酸化皮膜溶解性能を持つことが示された。
【0087】
水溶液中に溶解するオゾン濃度は低温ほど高いが、クロム酸化物の酸化反応は高温ほど促進されると考えられる。従って、オゾンの溶解濃度と酸化反応の促進効果がバランスする、酸化皮膜を溶解するのに適正な温度条件が存在すると考えられる。
【0088】
そこで、酸化溶解時の温度による酸化皮膜の溶解特性を調べた。硝酸によりpHを3〜5に調整した各温度の溶液を用いて、前記と同様の手順、条件にて酸化皮膜の溶解量を測定した。測定結果を図6に示す。
【0089】
図6から明らかなように、オゾン濃度は全てのpH溶液において溶液温度が低いほど高く、酸化皮膜の溶解量は低温側の40℃が最も低いことが認められた。これは、低温溶液ではオゾン濃度は高いが、温度が低いためにクロム酸化物の酸化反応が進まなかったと考えられる。
【0090】
酸化皮膜の溶解効果は、pH3,4の溶液で50℃以上の温度範囲であれば過マンガン酸法と同等以上であり、酸化処理条件は50℃以上で行うことが効果的であると考えられる。また、シュウ酸処理時の溶液温度をオゾン酸化処理時と同等の低い温度で行っても、十分な酸化皮膜の溶解効果があれば、除染溶液の温度を上昇させるために必要なエネルギー及び時間を節減できる。
【0091】
図7に、シュウ酸を用いた還元溶解の、溶液温度による酸化皮膜溶解効果への影響を示す。60℃のオゾン水溶液により、前記と同様の手順、条件にて酸化処理を行った試験片を、40〜95℃の各温度の0.2 %シュウ酸に1時間浸漬し、重量減量を測定した。
【0092】
pH3で酸化処理を行った試験片は、シュウ酸の温度に依らず酸化皮膜溶解量はほぼ一定であり、全ての温度領域で従来の過マンガン酸法よりも酸化皮膜の溶解効果が高かった。pH4で酸化処理を行った試験片は、40〜95℃の温度範囲で、シュウ酸温度が低いと溶解量が小さく、50℃以上の条件で過マンガン酸法よりも優れた酸化皮膜溶解効果を示した。
【0093】
従って、pH3〜4の酸性オゾン水溶液を用いて良好な酸化皮膜の溶解効果が示される50℃以上の温度領域で、極力低めの温度条件で除染を実施すれば、その後の溶出金属の分離工程において直接除染液を通水してもイオン交換樹脂の熱による劣化を抑制でき、必要なイオン交換樹脂量を節約できる。また、除染液の昇温に必要な時間、エネルギーも節約可能である。
【0094】
(第6の実施の形態)
この第6の実施の形態は、請求項5の発明に対応しており、使用後除染液中の過剰量の還元剤の分解方法について説明する。
【0095】
本実施の形態は図3に示した還元剤分解工程18において、オゾンまたはオゾン水溶液をシュウ酸溶液に加えるとともに、紫外線または放射線照射あるいは過酸化水素を注入することによりシュウ酸を分解することにある。
【0096】
使用後の除染中の過剰量の還元剤を分解せずに溶出金属の分離工程に移行すると、陰イオン交換樹脂の交換容量の大部分が還元剤により消費されてしまうため樹脂の必要量が非常に多くなる。
【0097】
従って、除染廃液中の還元剤成分は、陰イオン交換樹脂を通す第1の分離工程15の前に廃液中から除去する必要がある。還元剤であるシュウ酸は、オゾンにより酸化分解する。また、オゾンと、紫外線照射あるいは過酸化水素添加などを併用するとさらに分解速度は向上する。
【0098】
図8にオゾンと紫外線照射(O3 +UV照射)によるシュウ酸の分解実験結果を示す。0.2 %のシュウ酸溶液に0.7vol%のオゾンガスを0.8 dm3 ・min -1で供給すると同時に、100 Wの高圧水銀ランプの紫外線を照射した。紫外線照射(UV照射)単独の場合と比較して、オゾンを併用すると分解速度が向上し、有機炭素は4時間で10ppm 以下に減少した。
【0099】
より高濃度のオゾンガスを用いれば、さらに分解時間を短縮することが可能である。オゾンと紫外線照射によりシュウ酸を分解した場合、分解後に残留する溶液は水であり、シュウ酸及びその分解剤に起因した二次廃棄物が発生しない。
【0100】
(第7の実施の形態)
この第7の実施の形態は、請求項6,7の発明に対応しており、酸化剤の分解工程を含む除染方法について説明する。
【0101】
この第3の実施の形態において図3に示した除染方法の実施フロー図において、酸化溶解工程14から第1の分離工程15に移行する際、オゾンが残留している水溶液を直接イオン交換樹脂に通水すると樹脂がオゾンにより劣化する恐れがある。さらに、その後還元溶解工程16に移行する際にオゾンが残留していた場合、直接還元剤を投入すると還元剤がオゾンに分解され消費されるため、その損失分を補うために還元剤を過剰量投入する必要がある。
【0102】
そこで、本実施の形態では図9のフロー図に示すように、酸化溶解工程14の後に、使用済みオゾン水溶液中のオゾンを紫外線または放射線の照射により分解する酸化剤分解工程21を設ける。これによりイオン交換樹脂のオゾンによる劣化を防止することができる(請求項6対応)。
【0103】
図10に、低圧水銀ランプにより発生させた紫外線による溶液中オゾンの分解効果を示す。紫外線によりオゾンは分解され、初期濃度3.6ppmが数分で0.1ppm以下となっている。従って、紫外線照射を行えば、酸化溶解工程14の後にわずかの時間で溶液中のオゾンは分解し、イオン交換樹脂の劣化を抑制できる。
【0104】
また、酸化剤分解工程21と平行して、または酸化剤分解工程21後に、イオン交換樹脂による分離工程によりpH調整剤及び溶出金属イオンを分離し、分離後のシュウ酸試薬を添加することで溶解工程に移行する(請求項7対応)。
【0105】
すなわち、酸化剤分解後、陰イオン交換樹脂によりpH調整剤の酸や溶解したクロム酸イオン等を分離すると処理後の溶液は清浄なイオン交換水となるので、還元溶解工程16に移行する場合、その溶液に直接還元剤試薬を投入することが可能である。
【0106】
さらに、酸化溶解,酸化剤分解,還元溶解,還元剤分解の一連の工程を、50℃以上の同一温度条件で行うと、除染性能が良好で、かつ各工程間で溶液の昇温あるいは降温を行う必要がなく連続的に次の工程に移行できるため作業時間の短縮、エネルギー消費の低減となる。
【0107】
(第8の実施の形態)
この第8の実施の形態は、請求項8の発明に対応しており、オゾン水溶液の酸化溶解性能の監視を除染対象物の除染液の入口または出口でオゾン濃度または酸化還元電位を測定することによって行う方法について説明する。
【0108】
第1の実施の形態において示した図1の実験結果から、酸化皮膜の溶解性能はオゾン濃度に依存している。また、図11に示す溶液中のオゾン濃度と酸化還元電位を測定した結果から、酸化還元電位はオゾン濃度に依存しており、オゾン水溶液の酸化溶解性能は、酸化還元電位により評価されるので、この測定により監視することが可能である。
【0109】
すなわち、オゾン水溶液の酸化溶解性能を、除染対象物の除染液の入口または出口でオゾン濃度、または酸化還元電位を連続的に測定することで、酸化皮膜の溶解効果をリアルタイムに監視できる。オゾンの自己分解や酸化反応での消費による溶解性能の低下の度合を監視することで、必要に応じてオゾン供給量を調整することができ、効率的に除染処理を行うことができる。
【0110】
(第9の実施の形態)
この第9の実施の形態は、請求項9に対応しており、還元溶解工程16に有機酸、例えばシュウ酸とその塩の混合溶液を用いることにあり、原子力施設の構造部品の化学除染方法について説明する。
【0111】
従来、酸化,還元試薬を用いて酸化皮膜を溶解する化学除染方法は、主にステンレス鋼部分を除染対象物としている。原子炉の構造材料としてはステンレス鋼の他に炭素鋼があるが、炭素鋼は金属母材の耐食性が低いため、除染剤である有機酸により母材が腐食されるという問題があった。
【0112】
そこで、本実施の形態ではシュウ酸による還元溶解時にシュウ酸とシュウ酸の塩との混合溶液を添加すると、pHの緩衝作用により同濃度のシュウ酸溶液よりpHが高く維持され、炭素鋼の母材腐食が抑制される。図12には、酸化、還元除染時に20mol /m3 シュウ酸による溶解と、20mol /m3 シュウ酸、20mol /m3 シュウ酸カリウム混合溶液による溶解を行った場合の炭素鋼の腐食量を比較した結果を示す。
【0113】
除染性能はどちらの場合も同程度の効果であり、炭素鋼の腐食量はシュウ酸と比較してシュウ酸/シュウ酸カリウムの場合1/3程度に低減した。従って、シュウ酸/シュウ酸塩の混合溶液を用いることで、炭素鋼部分に対する除染が可能である。
【0114】
(第10の実施の形態)
この第10の実施の形態は請求項10の発明に対応しており、図3及び図9に示す還元剤分解工程18において、光照射とその光により励起される酸化チタンの光触媒によりシュウ酸を分解することにある。
【0115】
以下、有機酸とオゾンを用いた例えば原子力施設構造部品の化学除染方法から発生する有機酸廃液の処理方法について説明する。酸化チタンはn型半導体であり、バンドギャップ以上のエネルギーを持つ光で励起すると内部に電子、正孔対が生成する。この正孔は強い酸化力を持ち、水と接している場合水が正孔により酸化され、酸化力の強いヒドロキシラジカル(・OH)を生成する。
【0116】
従って、光励起された酸化チタンと有機酸溶液を接触させると、酸化チタンの正孔、または正孔と反応して生じたヒドロキシラジカルにより有機酸は酸化され、分解する。酸化チタンのバンドギャップは約3.2eV であり、これは約380nm の波長に相当し、紫外線やエキシマ光等のそれ以下の波長領域の光で酸化力を生じる。
【0117】
図13に、低圧水銀ランプによる紫外線(185nm ,254nm )を照射した光触媒の酸化チタンによる有機酸の分解効果を示す。図13から明らかなように有機炭素濃度は、約5時間で初期濃度の1/10以下に低減することが認められた。また、オゾンを併用すると、さらに効果的に分解できることが確認された。
【0118】
(第11の実施の形態)
この第11の実施の形態は請求項11の発明に対応しており、図3及び図9に示す還元剤分解工程18の光照射はエキシマ光の照射であり、これとオゾンまたは酸素によりシュウ酸を分解することにある。
【0119】
図14により▲1▼エキシマ光とオゾンによる有機物の分解、▲2▼エキシマ光と酸素による有機物の分解、▲3▼エキシマ光による有機物の分解について説明する。
図14はエキシマ光を利用した有機酸の分解原理を示している。すなわち、有機酸の分解には、光照射と酸素またはオゾンの併用法が有効である。照射光としては、O=O、C−C、C−O、C−H等の結合を切断するエネルギーを持つ260 nm以下程度の波長領域の光が利用可能である。
【0120】
紫外線の場合は、185nm の紫外線が酸素に吸収されオゾンを生成し、このオゾンに254nm の紫外線が吸収されると活性な酸素原子が生成する。この活性酸素原子は非常に反応性が高く有機酸を分解する。また、照射光としてエキシマ光が利用可能である。希ガスの2量体や希ガスのハロゲン化物のエキシマ状態から基底状態に戻る際に発生する光(エキシマ発光)は172nm 前後の波長の光を含む。172nm の光により、オゾンは酸素分子と活性な酸素原子を生成し、この酸素原子は有機酸を分解しCO2 ,H2 O等を発生する。
【0121】
また、酸素分子との反応によっても、直接的にあるいはオゾン生成過程を経由して活性酸素を生じ有機酸を分解する。さらに、エキシマ光自身によって直接有機酸の結合を切断し分解する。この場合、185nm の紫外線よりもエネルギーが強く、高効率で有機酸を分解をすることが可能である。
【0122】
(第12の実施の形態)
図15から図18により請求項13の発明に対応する化学除染装置として第12の実施の形態を説明する。
【0123】
本実施の形態は放射線取扱施設の構造部品を化学除染するための化学除染装置に関するもので、除染対象物22は放射線取扱施設、例えば原子炉に付設する配管や炉内機器類等で、一端から他端に向けて除染液24が流れる配管や機器類等を対象としている。
【0124】
すなわち、図15において、符号25は除染液24を貯留するためのバッファタンクで、このバッファタンク25には除染対象物22に除染液24を流入し、流出するための除染液循環系41が接続している。
【0125】
除染液循環系41はバッファタンク25の底部から除染液24を流出する除染液流出配管42と、除染対象物22内を通流して除染し、除染後の除染液をバッファタンク25の上端からバッファタンク25内に戻す除染液戻し配管43とを有し、除染液流出配管42と除染液戻し配管43との間に上流側から下流側へ沿って循環ポンプ32,ヒータ26,光照射部30及びイオン交換部27を備えた除染液浄化系44と、除染対象物22が接続されている。
【0126】
また、バッファタンク25にはオゾン注入系45がオゾン注入配管46を介して接続されている。オゾン注入系45はオゾン発生器28とミキシングポンプ29とからなっている。ミキシングポンプ29の吸込側とバッファタンク25の底部とは連通管47により接続している。さらに、バッファタンク25の上端にはpH調整剤供給装置31と有機酸供給装置23が接続している。
【0127】
次に上記構成における化学除染装置の作用を説明する。
除染対象物22に有機酸供給装置23から有機酸例えばシュウ酸を除染液24としてバッファタンク25内から循環ポンプ32により除染液循環系41を通して供給する。この時、シュウ酸はヒータ26により任意の温度に昇温する。シュウ酸によって、除染対象物22の金属表面に付着した放射性物質を含む酸化皮膜中の鉄酸化物は還元反応や、酸溶解,キレート化によって溶解する。
【0128】
除染液24中に溶出した鉄や、放射性核種であるコバルト等の陽イオンは、イオン交換部27の陽イオン交換樹脂により分離,回収する。オゾン発生器28から発生したオゾンガスをミキシングポンプ29よりシュウ酸に注入し、さらに光照射部30で光照射をすることにより、シュウ酸はCO2 ガスと水に分解し、浄化する。この溶出金属分離及びシュウ酸分解を平行して行うことができる。
【0129】
次に、pH調整剤供給装置31からpH調整剤、例えば硝酸を加えてpH5以下とした酸性溶液に、オゾン発生器28から発生したオゾンガスをミキシングポンプ29からオゾン注入配管46を通してバッファタンク25内に注入してオゾン含有水溶液とし、この水溶液を除染液24とする。この除染液24をバッファタンク25に貯留する。そして、除染液24を除染液流出配管42を通して循環ポンプ32によりヒータ26を介して除染対象物22に供給する。
【0130】
この供給時に除染液24はヒータ26により任意の温度に昇温する。オゾンを含有した除染液24により、除染対象物22の内面表面に付着した放射性物質を含む酸化皮膜中のクロム酸化物は酸化溶解する。オゾンによるクロム酸化物の酸化溶解効果の溶液温度に対する依存性を図16に示す。
【0131】
図16から明らかなように、溶液温度が80℃の条件において、クロムの溶解効果は最も高い。しかし、溶液の温度が80℃と高い場合、溶液中のオゾンの分解は促進され、溶存オゾンは短時間で減少する。そのため、オゾン含有溶液が系統内を循環する間に溶存オゾン濃度は低下し除染効果が低下する恐れがある。
【0132】
図17に示した気相及び液相におけるオゾン濃度の経時変化により、気相中のオゾン濃度は液相中に比して減少速度が小さいことが分かる。従って、オゾンガスをミキシングポンプ29で溶液内に注入し、液中に溶存可能な量より過剰量のオゾンを気泡の形でガス状態のまま溶液と共存させて系統内を循環させると、溶液中のオゾン濃度が減少するのに伴って気泡中のオゾンガスからオゾンが溶解し、溶液中のオゾン濃度の低減が抑制される。
【0133】
図18に、一定濃度のオゾンガスと共存させた水溶液による酸化溶解処理とシュウ酸による還元処理を組み合わせ、沸騰水型原子力発電所の一次系配管から採取した金属試験片の除染を行った結果を示す。
【0134】
図18から明らかなように、有機酸処理,オゾン処理+有機酸処理,オゾン処理+有機酸処理の3サイクルの除染後には、試験片の放射能量は1/100 以下に低下し、過マンガン酸法と同程度の高い除染効果があることが確認された。以上から、オゾンガスと水溶液を共存させたオゾン含有除染液を除染対象部に一定時間接触させることにより、高い除染効果が得られる。
【0135】
以上の還元溶解,浄化,酸化溶解工程を除染液中の放射能濃度及び空間線量等を測定し、必要に応じて繰り返し行う。除染終了後、除染液中に溶出したクロム酸イオン及び、pH調整剤として用いた硝酸(NO3 - )イオンをイオン交換部27の陰イオン交換樹脂により分離,回収することで除染廃液は清浄となり、原子力発電施設に既設の廃液処理系は排水することが可能である。
【0136】
なお、除染対象物を熱交換器とする場合、除染対象物22が熱交換器に相当する。この場合には除染装置であるバッファタンク25内でpH調整し、ミキシングポンプ29からオゾンガスを注入した除染液を循環ポンプ32により除染対象物22に供給する装置である。
【0137】
また、同様に有機酸除染液もバッファタンク25内で調整し、除染対象物22に供給する。有機酸廃液は、バッファタンク25内部でオゾン注入を行うと同時に、外部に備えた浄化系を通水し分解、浄化する。
【0138】
(第13の実施の形態)
図19(a)により請求項14の発明に対応する第13の実施の形態を説明する。本実施の形態での除染対象物は原子炉圧力容器内に設置されているシュラウド33と、このシュラウド33に接続した一次系の冷却材再循環系配管48と、この冷却材再循環系配管48に設けられている再循環ポンプ49を対象としている。シュラウド33は容器状物体であるので、バッファタンクとして兼用する。このシュラウド33内に除染液24を貯留し、再循環ポンプ49を駆動して冷却材再循環系配管48と再循環ポンプ49を同時に除染処理できるように構成する。
【0139】
シュラウド33には第12の実施の形態と同様に除染液循環系41を接続するが、本実施の形態では一次系配管に設けた除染座を利用してシュラウド33に除染液循環系41を接続する。除染液循環系41にヒータ26,オゾン発生器28及びミキシングポンプ29を有するオゾン注入系45と、光照射部30及びイオン交換部27を有する除染液浄化系44を順次接続する。
【0140】
シュラウド33内を満たした除染液24をオゾン注入系45へ導入し、ミキシングポンプ29によりオゾンガスを注入する。この時、除染液24はヒータ26により任意の温度に昇温することが可能である。また、有機酸除染液については、除染対象のシュラウド33内で調整し、再循環ポンプ49により冷却材再循環系配管48内を循環させる。有機酸廃液はオゾン注入系45で分解し、除染液浄化系44で浄化する。
【0141】
図19(b)は図19(a)において、イオン交換部27の出口側とオゾン注入系45のミキシングポンプ29の吸込側に設けたヒータ26の入口側から分岐してバイパス系50を接続し、このバイパス系50にバイパス系ポンプ51を設けた例である。この例は請求項18の発明に対応している。
【0142】
この例ではバイパス系50及びバイパス系ポンプ51を設けることによって、シュラウド33内の除染液24を循環させて流動し、攪拌する作用があり、これにより除染効果を向上させることができる。
【0143】
(第14の実施の形態)
図20により請求項16の発明に対応する第14の実施の形態を説明する。
本実施の形態での除染対象物は沸騰水型原子力発電所の冷却材循環ポンプ34の内部と前記ポンプ34に付設する立上り配管35の内面を対象にしており、これをバッファタンクとして兼用する。
【0144】
すなわち、立上り配管35に離間して第1の除染座36と第2の除染座38を取付け、第1の除染座36にオゾン発生器28及びミキシングポンプ29を有するオゾン注入系45を接続し、第2の除染座38にイオン交換部27及び光照射部30を有する除染液浄化系44を接続する。
【0145】
イオン交換部27の出口側とミキシングポンプ29の吸込側との間にヒータ26を設ける。立上り配管35の両端部内に第1のチューブ37及び第2のチューブ39を挿入し、第1のチューブ37を第1の除染座36に接続し、第2のチューブ39を第2の除染座38に接続する。立上り配管35内には除染液24が流入し、貯留される。
【0146】
上記実施の形態において、第1の除染座36から配管35内部に第1のチューブ37を挿入し、冷却材循環ポンプ34内部に除染液24が満たされる任意の高さまで立ち上げる。第1のチューブ37から除染液24は配管35内部に供給され、ポンプ34内にも満たされる。第2の除染座38から挿入した第2のチューブ39は、第1のチューブ37と同様に立ち上げ、チューブ39から除染液24を排出し、オゾン注入系45へ導入する。
【0147】
除染液24にミキシングポンプ29からオゾンガスを注入する。この時、除染液24はヒータ26により任意の温度に昇温することが可能である。また、有機酸除染液については、除染対象の配管内で調整しオゾン酸化除染液と同様に循環させる。有機酸廃液は、オゾン注入系及び浄化系により分解,浄化する。
【0148】
(第15の実施の形態)
図21により請求項17の発明に対応する第15の実施の形態を説明する。
本実施の形態はバッファタンク25内の除染液24中に除染対象物40を浸漬して除染処理するための装置で、バッファタンク25にオゾン発生器28及びミキシングポンプ29を有するオゾン注入系45と、バッファタンク25に接続したpH調整剤供給装置31及び有機酸供給装置23と、循環ポンプ32を有する除染液循環系41とを接続している。
【0149】
除染液循環系41にはヒータ26と、光照射部30及びイオン交換部27を有する除染液浄化系44が設けられている。除染対象物40としては例えば冷却材再循環ポンプの回転体等の機器,部品等で、除染液を通流できないものである。
【0150】
本実施の形態において、バッファタンク25内でpH調整し、ミキシングポンプ29からオゾンガスを注入した除染液24に除染対象物40を浸漬する。また、同様に有機酸除染液もバッファタンク25内で調整し、除染対象物40を浸漬する。有機酸廃液は、タンク内部でオゾン注入を行うと同時に、外部に備えた除染液浄化系44を通水し、分解,浄化する。
【0151】
(第16の実施の形態)
図22から図25により請求項18 , 19の発明に対応する第16の実施の形態を説明する。
【0152】
本実施の形態はバッファタンク25にオゾン排気系52を取付け、このオゾン排気系52にオゾン排ガス処理装置53を設けるとともに、排気装置54を設けたことにある。また、オゾン排ガス処理装置53はオゾンを酸素に分解する活性炭または金属触媒が組み込まれたもので構成されている。なお、本実施の形態において、その他の構成は図15に示した装置と同様なので、図22中、図15と同一部分には同一符号を付して重複する部分の説明は省略する。
【0153】
本実施の形態では第1から第3の実施の形態で説明した酸化溶解工程または有機酸の分解工程において、反応に消費されなかった余剰のオゾンを排ガスとして排出する場合、日本の作業環境における排オゾン濃度の規制は0.1ppmであるため、排ガス中のオゾン濃度を0.1ppm以下とする必要がある。そのために、化学除染装置系内にガス溜り部分を設け、そのガス溜り部分に滞留するオゾンガスをオゾン排ガス処理装置53を通じて分解し排出する。
【0154】
オゾン排ガス処理装置53としては、活性炭や金属触媒からなるフィルタが有効である。数10ppm 程度の低濃度オゾンガスの場合は、活性炭フィルタが適する。図23にハニカム型活性炭フィルタによる低濃度オゾンガスの分解効果の経時変化を示す。図23から明らかなように、連続3000時間通気を行っても供給オゾンの8割を分解することが可能である。
【0155】
排ガス中のオゾン濃度が1000ppm 以上の高濃度の場合は、活性炭フィルタを使用すると分解反応により発熱し、活性炭フィルタの機能を損なう可能性がある。そのような高濃度オゾンの処理には、金属触媒フィルタが有効である。
【0156】
図24に、金属酸化物触媒フィルタによる高濃度オゾン分解効果の経時変化を示す。貴金属や、その他の金属酸化物をアルミナ等の無機担体に担持させた触媒フィルタの場合、分解効率は高く、4000時間以上通気しても排出オゾンガス濃度は0.01ppm 以下である。
【0157】
また、図25に示すように、処理対象のオゾン濃度が高い程、分解の反応熱が発生するが、金属触媒フィルタの場合、温度上昇により逆に触媒活性が増し、分解効率が向上する。これらのオゾン排ガス処理器を、オゾンガス濃度に応じて設けることで、化学除染装置系内から安全に排気することができる。
【0158】
(第17の実施の形態)
図26により請求項20の発明に対応する第17の実施の形態を説明する。
本実施の形態は第17の実施の形態において、オゾン排ガス処理装置53の出口側に排気装置54を設けることなく、酸素ガス導出配管55を接続し、この酸素ガス導出配管55の他端を結合触媒装置56に接続する。また、オゾン発生器28の陰極室5に水素ガス導出配管58を接続し、この水素ガス導出配管58の他端を結合触媒装置56に接続する。結合触媒装置56の出口側に排水装置57を接続する。
【0159】
なお、本実施の形態において、その他の構成は図15に示した装置と同様なので、図22中、図15と同一部分には同一符号を付して重複する部分の説明は省略する。オゾン発生器28は図2で説明した固体電解質と触媒電極を使用した水電解法で高濃度のオゾンガスを発生させる装置である。
【0160】
図2に示したように、水電解法によるオゾン発生器28では陰極室5から水素ガス11が発生する。化学除染装置系内から発生するオゾン排ガスは、分解処理を行うと酸素ガスとなる。オゾン排ガス処理装置53から排出される酸素ガスと、オゾン発生器28の陰極室5から発生する水素ガス11とを触媒により(13)式の反応により結合させ、
H2 +1/2 O2 →H2 O …(13)
水の形とすることにより、より安全な形でオゾン及び水素ガスを排出することができる。
【0161】
すなわち、オゾン排ガス処理装置53からのオゾンを含む排ガスを酸素ガス導出配管55を通して結合触媒装置56に導入し、陰極室5からの水素ガスを含む排ガスを水素ガス導出配管58を通して結合触媒装置56に導入して触媒作用により水とする。この水を排水装置57を経て排水する。触媒としては、貴金属類をアルミナや活性炭等の担体に担持させたもの等を使用することができる。
【0162】
(第18の実施の形態)
図27により請求項21の発明に対応する第18の実施の形態を説明する。
本実施の形態は図15及び図21に示した第12及び第15の実施の形態において、バッファタンク25の上端部にオゾン排気系52の一端を接続し、このオゾン排気系52の他端をオゾン注入系45のミキシングポンプ29の吸込側に接続したことにある。なお、図27中のその他の部分には図15または図21と同一部分には同一符号を付して重複する部分の説明は省略する。
【0163】
本実施の形態では第1から第3の実施の形態で説明した酸化溶解工程または還元剤分解工程において、オゾン発生器28から発生したオゾンガスをミキシングポンプ29によりオゾン注入配管46を通してバッファタンク25内に注入した場合、未反応のオゾンガスがバッファタンク25,除染液循環系41内に滞留する。
【0164】
そこで、バッファタンク25内の一部にガス溜まり部分を設け、この部分からオゾン排気系52を通して未反応オゾンガスを排出しミキシングポンプ29の上流に戻し、ミキシングポンプ29からバッファタンク25内に再注入する。本実施の形態によれば、オゾンが残留している排ガスを有効に利用することができる。
【0165】
【発明の効果】
本発明によれば、次に述べる効果がある。
(1) 酸化性気体のオゾンを所望の水質条件の水溶液に溶解することにより、放射線取扱施設の配管や機器などの除染対象物表面に付着または生成された酸化皮膜を効果的に溶解除去することができる。
【0166】
(2) 気体であるオゾンと、CO2 とH2 Oに分解可能な還元力を有する有機酸を除染剤として用いることにより、除染剤に由来する二次廃棄物の発生量を低減できる。
【0167】
(3) 上記オゾン酸化除染液と、有機酸とを組み合わせた除染工程、及び溶出金属のイオン交換樹脂による分離工程、光照射とオゾンによる有機酸廃液の分解工程からなる化学除染方法及び装置により、除染効果が高く、二次廃棄物発生量の少ない化学除染を行うことができる。
【0168】
(4) 有機酸として、シュウ酸とその塩の混合溶液を用いることで、腐食されやすい炭素鋼材部分についても化学除染の適用が可能となる。
(5) 反応で消費されなかったオゾン排ガスを、触媒などから成る排ガス処理装置により分解し、酸素ガスまたは水の形で安全に排出することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に係る放射線取扱施設の構造部品の化学除染方法の第1の実施の形態における酸化皮膜の溶解性能のpH依存性を示す特性図。
【図2】本発明に係る化学除染方法の第2の実施の形態における固体電解質電解法によるオゾン発生器の構成を示す模式図。
【図3】本発明に係る化学除染方法の第3の実施の形態における原子力発電施設の構造部品を除染する場合を示すフロー図。
【図4】本発明に係る化学除染方法の第4の実施の形態における各pH添加剤による酸化皮膜溶解効果を示す棒線図。
【図5】図4と同じく、二次廃棄物の発生低減効果を説明するための棒線図。
【図6】本発明に係る化学除染方法の第5の実施の形態における酸性オゾン水溶液による酸化皮膜溶解量の酸化温度依存性を示す特性図。
【図7】図6と同じく、酸性オゾン水溶液による酸化皮膜溶解量の還元温度依存性を示す特性図。
【図8】本発明に係る化学除染方法の第6の実施の形態におけるオゾン及び紫外線によるシュウ酸の分解効果を示す特性図。
【図9】本発明に係る化学除染方法の第7の実施の形態における原子力発電施設の構造部品を除染する場合の、酸化剤分解工程を含んだフロー図。
【図10】図9と同じく、紫外線によるオゾンの分解効果を示す特性図。
【図11】本発明に係る化学除染方法の第8の実施の形態における溶液中のオゾン濃度と酸化還元電位の相関を示す特性図。
【図12】本発明に係る化学除染方法の第9の実施の形態において、炭素鋼の母材腐食量の低減効果を示す棒線図。
【図13】本発明の第10の実施の形態における有機酸の分解効果を示す特性図。
【図14】本発明の第11の実施の形態における有機酸の分解原理を説明するフロー図。
【図15】本発明の第12の実施の形態における化学除染装置を示す系統図。
【図16】本発明の第12の実施の形態における酸化クロムの溶解性能の溶液温度依存性を示す特性図。
【図17】本発明の第12の実施の形態における気相中及び液相中でのオゾン濃度変化を示す特性図。
【図18】本発明の第12の実施の形態において、除染効果を示す特性図。
【図19】(a)は本発明の第12の実施の形態における化学除染装置を示す系統図、(b)は第12の実施の形態の他の例を示す系統図。
【図20】本発明の第13の実施の形態における化学除染装置を示す系統図。
【図21】本発明の第15の実施の形態における化学除染装置を示す系統図。
【図22】本発明の第16の実施の形態における化学除染装置を示す系統図。
【図23】図22と同じく、第16の実施の形態における活性炭によるオゾン分解効果を示す特性図。
【図24】図22と同じく、第16の実施の形態における金属触媒によるオゾン分解効果を示す特性図。
【図25】本発明の第16の実施の形態における金属触媒によるオゾン分解反応の発熱量を示す特性図。
【図26】本発明の第17の実施の形態における化学除染装置を示す系統図。
【図27】本発明の第18の実施の形態における化学除染装置を示す系統図。
【符号の説明】
1…固体電解質、2…陽極、3…陰極、4…陽極室、5…陰極室、6…純水、7…直流電源、8…酸素ガス、9…オゾンガス、10…オゾン水溶液、11…水素ガス、12…水素水溶液、13…除染対象機器、14…酸化溶解工程、15…第1の分離工程、16…還元溶解工程、17…第2の分離工程、18…還元剤分解工程、19…第3の分離工程、20…除染廃液の排水工程、21…酸化剤分解工程、22…除染対象物、23…有機酸供給装置、24…除染液、25…バッファタンク、26…ヒータ、27…イオン交換部、28…オゾン発生器、29…ミキシングポンプ、30…光照射部、31…pH調整剤供給装置、32…循環ポンプ、33…シュラウド、34…冷却材循環ポンプ、35…立上り配管、36…第1の除染座、37…第1のチューブ、38…第2の除染座、39…チューブ、40…除染対象物、41…除染液循環系、42…除染液流出配管、43…除染液戻し配管、44…除染液浄化系、45…オゾン注入系、46…オゾン注入配管、47…連通管、48…冷却材再循環系配管、49…再循環ポンプ、50…バイパス系、51…バイパス系ポンプ、52…オゾン排気系、53…オゾン排ガス処理装置、54…排気装置、55…酸素ガス導出配管、56…結合触媒装置、57…排水装置、58…水素ガス導出配管。
Claims (21)
- 放射線取扱施設の構造部品を除染対象物とし、この除染対象物に付着した放射性物質を含む酸化皮膜を化学的に溶解して除染する放射線取扱施設の構造部品の化学除染方法において、酸性水溶液に酸化剤であるオゾンガスを接触させることにより得られるpH5以下、温度50℃以上のオゾン水溶液により前記酸化皮膜を酸化溶解する酸化溶解工程と、還元剤である有機酸の水溶液により前記酸化皮膜を溶解する還元溶解工程と、使用後に残留した過剰量の前記有機酸を分解する還元剤分解工程と、溶液中に溶出した金属イオンと前記有機酸をイオン交換樹脂により分離する分離工程とを備えていることを特徴とする放射線取扱施設の構造部品の化学除染方法。
- 前記オゾンガスは、固体電解質を境界とし前記固体電解質の一方側に陽極室を有し、他方側に陰極室を有する電気分解装置で、前記陽極室内に触媒金属製陽極を設けて純水を電気分解して前記陽極室からオゾンを発生させる固体電解質電解法によるオゾン発生器から得られるオゾンガスであることを特徴とする請求項1記載の放射線取扱施設の構造部品の化学除染方法。
- 前記酸性水溶液は、硝酸によりpH調整されていることを特徴とする請求項1記載の放射線取扱施設の構造部品の化学除染方法。
- 前記還元溶解工程において、前記オゾン発生器の陰極室から発生する水素ガスが溶解した陰極室水を放射線取扱施設の配管、構造部品等に供給し、前記酸化皮膜を還元溶解することを特徴とする請求項2記載の放射線取扱施設の構造部品の化学除染方法。
- 前記還元剤分解工程において、オゾンガスまたはオゾン水溶液を前記有機酸水溶液に加えるとともに、紫外線または放射線照射あるいは過酸化水素を注入することにより前記有機酸を分解することを特徴とする請求項1記載の放射線取扱施設の構造部品の化学除染方法。
- 前記酸化溶解工程後に、使用済みオゾン水溶液中のオゾンを紫外線、または放射線の照射により分解する酸化剤分解工程を設けることを特徴とする請求項1記載の放射線取扱施設の構造部品の化学除染方法。
- 前記酸化剤分解工程と並行して、または酸化剤分解工程後に、イオン交換樹脂による分離工程によりpH調整剤及び溶出金属イオンを分離し、分離後の溶液に前記有機酸を添加することで還元溶解工程に移行することを特徴とする請求項6記載の放射線取扱施設の構造部品の化学除染方法。
- 前記オゾン水溶液の酸化溶解性能の監視を、除染対象物の除染液入口または出口でオゾン濃度または酸化還元電位を測定することにより行うことを特徴とする請求項1記載の放射線取扱施設の構造部品の化学除染方法。
- 前記還元溶解工程に、前記有機酸と前記有機酸の塩との混合溶液を還元剤として用いることを特徴とする請求項1記載の放射線取扱施設の構造部品の化学除染方法。
- 前記還元剤分解工程において、光照射とその光により励起される酸化チタンの光触媒により前記有機酸を分解することを特徴とする請求項1記載の放射線取扱施設の構造部品の化学除染方法。
- 前記還元剤分解工程において、エキシマ光の光照射とオゾンまたは酸素により前記有機酸を分解することを特徴とする請求項1記載の放射線取扱施設の構造部品の化学除染方法。
- 前記分離工程は、前記有機酸水溶液中の溶出鉄成分を水素により還元し、陽イオン交換樹脂に捕集可能な形態の鉄を多く生成し、捕集すること特徴とする請求項1記載の放射線取扱施設の構造部品の化学除染方法。
- 除染液を貯留するバッファタンクと、このバッファタンクに接続し前記除染液を除染対象物内に流入し流出するポンプを有する除染液循環系と、前記バッファタンクに接続したポンプ及びオゾン発生器を有するオゾン注入系と、前記バッファタンクに接続したpH調整剤供給装置及び有機酸供給装置と、前記除染液循環系のポンプと前記除染対象物との間の前記除染液循環系の配管に設けた光照射部及びイオン交換部を有する除染液浄化系とを具備し、請求項1記載の放射線取扱施設の構造部品の化学除染方法を実施することを特徴とする放射線取扱施設の構造部品の化学除染装置。
- 除染対象物は容器状物体からなり、この除染対象物に接続し、前記除染対象物内に貯留する除染液を流入し流出するポンプを有する第1の除染液循環系と、この第1の除染液循環系の配管に設けたオゾン発生器及びポンプを有するオゾン注入系と、このオゾン注入系のポンプの吐出側と前記除染対象物との間の前記第1の除染液循環系の配管に設けた光照射部及びイオン交換部を有する除染液浄化系と、前記除染対象物内の除染液を流出し流入するポンプを有する第2の除染液循環系とを具備し、請求項1記載の放射線取扱施設の構造部品の化学除染方法を実施することを特徴とする放射線取扱施設の構造部品の化学除染装置。
- 前記イオン交換部の出口側と前記オゾン注入系のポンプの吸込側との間から分岐してポンプを有するバイパス系を設けてなることを特徴とする請求項14記載の放射線取扱施設の構造部品の化学除染装置。
- 原子炉冷却材再循環ポンプまたは立上り部を有する配管からなる除染対象物に離間して取付けた第1の除染座及び第2の除染座と、前記第1の除染座に接続したオゾン発生器及びポンプを有するオゾン注入系と、前記第2の除染座に接続した光照射部及びイオン交換部を有する浄化系とからなり、前記イオン交換部の出口側を前記オゾン注入系のポンプの吸込側に接続してなり、請求項1記載の放射線取扱施設の構造部品の化学除染方法を実施することを特徴とする放射線取扱施設の構造部品の化学除染装置。
- 除染対象物を除染液中に浸漬するバッファタンクと、このバッファタンクに接続したポンプを有する除染液循環系と、前記バッファタンクに接続したポンプ及びオゾン発生器を有するオゾン注入系と、前記バッファタンクに接続したpH調整剤供給装置及び有機酸供給装置と、前記除染液循環系に設けた光照射部及びイオン交換部を有する除染液浄化系とを具備し、請求項1記載の放射線取扱施設の構造部品の化学除染方法を実施することを特徴とする放射線取扱施設の構造部品の化学除染装置。
- 前記バッファタンクにオゾン排気系を取付け、このオゾン排気系にオゾン排ガス処理装置を設けてなることを特徴とする請求項13,14または17記載の放射線取扱施設の構造部品の化学除染装置。
- 前記オゾン排ガス処理装置はオゾンを酸素に分解する活性炭または金属触媒が組込まれたものからなることを特徴とする請求項18記載の放射線取扱施設の構造部品の化学除染装置。
- 前記オゾン排ガス処理装置の出口側に酸素ガス導出配管の一端を接続し、この酸素ガス導出配管の他端を結合触媒装置に接続し、この結合触媒装置と前記オゾン発生器の陰極室とを水素ガス導出配管を介して接続したことを特徴とする請求項18または19記載の放射線取扱施設の構造部品の化学除染装置。
- 前記バッファタンクにオゾン排気系の一端を取付け、このオゾン排気系の他端を前記オゾン注入系のポンプの吸込側に接続したことを特徴とする請求項13または17記載の放射線取扱施設の構造部品の化学除染装置。
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