JP3858555B2 - 接着耐久性に優れた重防食被覆鋼材およびその製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、接着耐久性に優れた重防食被覆鋼材およびその製造方法に関し、特に海洋環境等の厳しい腐食環境下においても、長期間にわたって、安定した防食性能を維持しようとするものである。
【0002】
【従来の技術】
鋼管杭、鋼矢板および鋼管矢板等の鋼材は、主として海洋環境下で使用され、 0.1〜 0.5mm/y程度の大きな腐食速度を有する腐食環境に曝される。
そのため、従来から、次のような防食方法が講じられてきた。
1)防食塗装(タールエポキシ樹脂塗装など)、
2)有機ライニング(ポリウレタン被覆、ポリオレフィン被覆)、
3)FRP カバー+防食材、
4)セメントモルタルライニング、
また、最近では、東京湾横断橋などのように、
5)チタンを鋼管杭などに溶接で巻き付ける方法
などが実用化されている(例えば特開平7−166568号公報、特開平8−254949号公報、特開平8−257635号公報等)。
【0003】
しかしながら、上記したような従来技術はいずれも、以下に述べるような問題を残していた。
すなわち、1)や2)の防食塗料、有機ライニングを利用する方法は、比較的安価ではあるものの、海洋環境という厳しい環境下では腐食反応による塗装の接着劣化を起こし、防食寿命が限られるという問題があった。
【0004】
3)のFRP カバー+防食材は、施工費が高く、単位面積あたりの防食コストが高価につく不利があった。
4)のセメントモルタルライニングは、セメント中を海水が拡散し、防食層としての寿命は10年程度にすぎなかった。
5)の金属巻き被覆鋼管は、地鉄と接触する部位のガルバニック腐食の問題に加えて、鋼矢板や鋼管矢板には適用が難しいこと、さらに被覆コストが高価となる等の問題があった。
【0005】
以上述べたように、従来の防食方法はいずれも、防食効果や施工費等の面で、必ずしも満足のいくものではなかった。
通常、港湾や海洋構造物などは、10年を超える寿命で設計され、また公共のインフラでもあることから、安価で長寿命が期待できる防食方法の開発が望まれていた。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、上記の要請に有利に応えるもので、海洋環境等の厳しい腐食環境下においても、長期間にわたり安定して防食性能を維持することができる接着耐久性に優れた重防食被覆鋼材を、その有利な製造方法と共に提案することを目的とする。
【0007】
【課題を解決するための手段】
すなわち、本発明の要旨構成は次のとおりである。
(1)鋼材の表面に、有機樹脂プライマー層を有し、該有機樹脂プライマー層上にポリウレタン樹脂層を有し、さらに該ポリウレタン樹脂層上にシリコン変性エポキシ樹脂層またはキレート変性エポキシ樹脂層を有し、さらに該シリコン変性エポキシ樹脂層またはキレート変性エポキシ樹脂層上にTi層を有することを特徴とする接着耐久性に優れた重防食被覆鋼材。
(2)(1)において、有機樹脂プライマー層が、ポリウレタン樹脂プライマー層であることを特徴とする接着耐久性に優れた重防食被覆鋼材。
(3)清浄化した鋼材の表面に、順次、有機樹脂プライマー層、ポリウレタン樹脂層をスプレー塗布により形成し、ついで該ポリウレタン樹脂層上に、シリコン変性エポキシ樹脂またはキレート変性エポキシ樹脂をスプレー塗布、ロールコータ塗布、刷毛塗布のうちのいずれかにより塗布したのち、さらにTi箔を圧着ロールにて圧着することを特徴とする接着耐久性に優れた重防食被覆鋼材の製造方法。
(4)(3)において、前記シリコン変性エポキシ樹脂またはキレート変性エポキシ樹脂を塗布する前に、前記ポリウレタン樹脂層の表面を研摩加工あるいは研削加工することを特徴とする接着耐久性に優れた重防食被覆鋼材の製造方法。
(5)清浄化した鋼材の表面に、順次、有機樹脂プライマー層、ポリウレタン樹脂層をスプレー塗布により形成し、ついで該ポリウレタン樹脂層上に、ロールコーターにてシリコン変性エポキシ樹脂またはキレート変性エポキシ樹脂を塗布したTi箔を、該Ti箔のシリコン変性エポキシ樹脂またはキレート変性エポキシ樹脂を塗布した面を積層面として圧着ロールにて圧着することを特徴とする接着耐久性に優れた重防食被覆鋼材の製造方法。
(6)(5)において、前記Ti箔を圧着する前に、前記ポリウレタン樹脂層の表面を研摩加工あるいは研削加工することを特徴とする接着耐久性に優れた重防食被覆鋼材の製造方法。
(7)(4)または(6)において、前記ポリウレタン樹脂層表面の研摩加工あるいは研削加工の加工量を厚さ方向で0.1 〜1.0mm とすることを特徴とする接着耐久性に優れた重防食被覆鋼材の製造方法。
(8)(3)ないし(7)のいずれかにおいて、前記シリコン変性エポキシ樹脂またはキレート変性エポキシ樹脂を、エポキシ樹脂層が0.040 〜0.100 mm厚となるように塗布するとともに、前記圧着ロ─ルの押圧力を3.92〜11.77 N/cm(0.4 〜1.2kgf/cm )とすることを特徴とする接着耐久性に優れた重防食被覆鋼材の製造方法。
【0008】
【発明の実施の形態】
以下、本発明を具体的に説明する。
本発明の基本的構成は、図1に示すように、有機樹脂プライマー(接着)層1、有機中間層2、中間接着層3およびTi層4に分類でき、かかる被覆層を順次、清浄化した鋼材5の表面に被覆する。
【0009】
鋼材表面の清浄化処理としては、表面の酸化スケールを完全に取り除くことが好ましい。というのは、酸化スケールは、有機樹脂との密着性が悪いだけでなく、脆いからである。かかる処理としては、表面の汚れや酸化スケールを効果的に除去することができ、また表面に凸凹を与えて有機樹脂プライマー層とより高い密着性を得ることができるブラスト処理が好適である。
【0010】
また、鋼材表面は、清浄化処理を行うだけでなく、クロメート処理やカップリング処理などの表面処理を施しても良い。
有機樹脂プライマー層は、鋼材表面に接着され、該鋼材表面を外界から遮断し、防食性を得るために形成される。かかる有機樹脂プライマー層としては、鋼材表面との密着性が良く、また有機中間層のポリウレタン樹脂層とも密着性が良い、ウレタン系の有機樹脂プライマー層(例えばポリウレタンプライマー)が特に有利に適合する。
【0011】
この有機樹脂プライマー層の厚みは、通常はブラスト処理にて鋼材表面を清浄化するため、10μm未満では接着効果が弱く、一方 100μmを超えると高価となり、また被膜層の残留応力が大きくなるため、10〜 100μm程度とするのが好適である。
有機中間層は、Ti層と鋼材表面との電気的な接触を回避するために設けられるもので、本発明ではポリウレタン樹脂を用いた、ポリウレタン樹脂層とする。というのは、ポリウレタン樹脂は、海水中でも安定なだけでなく、またウレタン結合を有しているため密着性にも優れるからである。
【0012】
この有機中間層(ポリウレタン樹脂層)の厚みは、1mmに満たないと流木などが防食層に打撃を与えた場合、衝撃に対する抵抗が十分でないので、1mm以上好ましくは2mm以上とするのが望ましい。ただし5mmを超えるとコストが上昇するので、上限は5mm程度とするのが好ましい。
また、Ti層は接着性が劣るため、本発明では、ポリウレタン樹脂層とTi層をつなぐ中間接着層として、エポキシ樹脂層を設ける。ここに、かようなエポキシ樹脂としては、シリコン変性エポキシ樹脂やキレート変性エポキシ樹脂とする。
【0013】
かかる中間接着層(エポキシ樹脂層)の厚みとしては、有機樹脂プライマー層と同様に10〜 100μm程度とするのが好ましい。エポキシ樹脂層の厚みが10μm 未満では接着強度が不十分であり、一方、100 μm を超えると接着剤としてのエポキシ樹脂がはみ出し、経済的に不利となる。なお、接着強度の観点からは40μm 以上の厚みとするのがより好ましい。エポキシ樹脂層の厚みが40μm 未満では接着面に気泡が残留しやすくなり接着強度が低下しやすくなる。
【0014】
Ti層は、好ましくはJIS 規定第一種が良い。というのは、この材料は、伸びが大きく、変形能が大きいため、様々な形に接着、張り付け易いからである。
本発明におけるTi層の役割は、有機樹脂層を透過する水、酸素、イオン等の腐食原因物質の遮断にある。従って、Ti層の厚みは、かなり薄くても良い。現在、0.01mm程度が製造限界であるので、これを下限として、 0.1mm程度までで十分である。というのは、厚みが厚くなるとTi材料費が上昇すると共に、圧着する時に変形能が要求されるからである。
【0015】
Ti層の表面処理は特に規定しないが、酸洗処理、クロメート処理、カップリング剤塗布、あるいはこれらを複合化した表面処理を施しても良い。
次に、上記した重防食被覆鋼材の製造方法について説明する。
まず、表面浄化した鋼材の表面に、有機樹脂プライマー層をスプレー塗布により形成する。なお、有機樹脂プライマー層の厚みが、10〜 100μmの範囲となるように、有機樹脂プライマーをスプレー塗布するのが好ましい。有機樹脂プライマーとしては、ポリウレタンプライマーがとくに有利に適用される。なお、鋼材表面の清浄化処理としては、表面の酸化スケールを完全に取り除くことができるブラスト処理を施すのが好適である。
【0016】
ついで、有機樹脂プライマー層の上に、有機中間層としてのポリウレタン樹脂層をスプレー塗布により形成する。なお、ポリウレタン樹脂層の厚みが、1〜5mmの範囲となるようにポリウレタン樹脂をスプレー塗布するのが好ましい。
また、本発明の重防食被覆鋼材を製造する上では、有機樹脂プライマー層を形成するために有利に適用されるポリウレタンプライマーおよび有機中間層を形成するために使用されるポリウレタン樹脂は、通常、2液反応型の樹脂が使用されるが、一般にその架橋反応速度が早いため、スプレーで塗布するのが最も適している。
【0017】
ついで、ポリウレタン樹脂層上に中間接着層(エポキシ樹脂層)を介してTi層を形成する。
なお、ポリウレタン樹脂層に、Ti層を中間接着層(エポキシ樹脂層)を介して接着するためには、圧力の付与が不可欠であるが、これらポリウレタン樹脂層が十分硬化しないうち(硬化率:50%以下)にTi層を積層すると、ポリウレタン樹脂層の変形、ひいては膜厚の減少を生じる。従って、指触により硬化確認後、好ましくは完全硬化に対する硬化度:50%以上でのTi圧着を行うことが好適である。
【0018】
また、ポリウレタン樹脂層上にTi層を形成するためには、ポリウレタン樹脂層上に、中間接着層(エポキシ樹脂層)となるエポキシ樹脂を塗布したのち、Ti箔を圧着ロールにより圧着するのが好ましい。エポキシ樹脂の塗布は、スプレー塗布、ロールコータ塗布、刷毛塗布のうちのいずれかにより塗布するのが好ましい。鋼矢板、鋼管矢板などの異形材料には、スプレー塗布が最も適している。
【0019】
塗布するエポキシ樹脂としては、シリコン変性エポキシ樹脂またはキレート変性エポキシ樹脂とする。なお、この中間接着層(エポキシ樹脂層)形成のための、エポキシ樹脂の塗布は、ポリウレタン樹脂層上に代えて、Ti箔上としてもなんら問題ない。この場合、Ti箔のエポキシ樹脂を塗布した面を積層面として、ポリウレタン樹脂層上に圧着する。なお、Ti箔上にエポキシ樹脂を塗布する場合には、膜厚コントロールのしやすいロールコーターを用いるのが好ましい。
【0020】
また、ポリウレタン樹脂層上、あるいはTi箔上に塗布するエポキシ樹脂である、シリコン変性エポキシ樹脂またはキレート変性エポキシ樹脂は、エポキシ樹脂層の厚みが0.010 〜0.100mm (10〜100 μm )の範囲となるように塗布するのが好ましい。エポキシ樹脂層の厚みと、接着強度の関係を図2に示す。なお、接着強度の測定は、6.0mm 厚×100 mm×100 mm の試験片に被覆層を形成し、最外層のTi層を10mm幅で鋼板表面に対し直角方向に50mm引張りそのときの平均剥離荷重を接着強度(N/cm)と定義した。なお、引張りに際しては、Ti層を20mm程度タガネで剥離し、その先端を引張試験機の治具でつかみ、Ti層(箔)と鋼板の角度が90°をなすように、10mm/min の速度で引張った。
【0021】
図2から、エポキシ樹脂の塗布厚みが増加してエポキシ樹脂層の厚みが増加するにしたがい、接着強度は増加する傾向であり、エポキシ樹脂層の厚みが10μm 未満では接着強度が不十分である。一方、100 μm を超えると接着剤としてのエポキシ樹脂がはみ出し、経済的に不利となる。なお、接着強度の観点からは40μm 以上の厚みとするのがより好ましい。エポキシ樹脂層の厚みが40μm 未満では接着面に気泡が残留しやすくなり接着強度が低下しやすくなる。このことから、エポキシ樹脂は、エポキシ樹脂層の厚みが40〜100 μm (0.040 〜0.100mm )の範囲となるように塗布するのがより好ましい。さらに好ましくは40〜80μm ( 0.040〜0.080mm )である。
【0022】
さらに接着強度を増加させる観点から、エポキシ樹脂を塗布する前に、あるいはエポキシ樹脂を塗布した塗装面を有するTi箔を圧着する前に、ポリウレタン樹脂層の表面を研摩加工あるいは研削加工するのが望ましい。研摩加工あるいは研削加工の加工量は、厚さ方向で0.1 〜1.0mm とするのが好ましい。ポリウレタン樹脂層の加工量(研削量)と接着強度との関係を図3に示す。
【0023】
加工量が0.1 mm未満では、Ti層とポリウレタン樹脂層との接着強度が低く、一方、1.0mm を超えて加工しても、接着強度の増加は認められず、加工時間が増大し効率的でない。
また、Ti箔を中間接着層(エポキシ樹脂層)を介して、ポリウレタン樹脂層に圧着させるには、圧着ロールを用いるのが好ましい。圧着ロールを用いてTi箔を圧着するのは、連続生産の面でも、また中間接着層(エポキシ樹脂層)とTi層、ポリウレタン樹脂層との界面における気泡巻き込みを防止する点でも、有効である。なお、圧着ロ─ルの押圧力は0.98〜294N/cm (0.01〜30kgf/cm)程度が好適である。さらに、気泡形成および接着強度の観点からは圧着ロ─ルの押圧力は3.92〜11.77 N/cm(0.4 〜1.2kgf/cm )とすることが好ましい。圧着ロ─ルの押圧力が3.92N/cm(0.4 kgf/cm )未満では、接着界面に気泡が残留し、接着強度が低下する傾向を示し、一方、11.77 N/cm(1.2kgf/cm )を超えると、接着剤であるエポキシ樹脂がはみ出し、経済的に不利となる。
【0024】
また、接着界面に気泡を残留させないためには、圧着ロールの押圧力と接着剤であるエポキシ樹脂の厚みとを関連づけて調整するのがより好ましい。気泡の発生におよぼす圧着ロールの押圧力とエポキシ樹脂層の厚みとの関係を図4に示す。図4から、圧着ロールの押圧力を3.92〜11.77 N/cm(0.4 〜1.2kgf/cm )の範囲とし、かつエポキシ樹脂層の厚みを40〜100 μm の範囲に調整することによりはじめてエポキシ樹脂のはみ出しもなく気泡の面積率が10%以下となることがわかる。
【0025】
なお、ロール材質としては、プラスチックであっても金属であっても良い。
【0026】
【実施例】
(実施例1)
実施例で使用した鋼材は、次のようにして作製した。
鋼矢板の表面を、ブラスト処理により脱スケールしたのち、エアレススプレーにて所定の厚みになるようにウレタン系プライマー(有機樹脂プライマー)を塗布して、有機樹脂プライマー層を形成した。ついで、指触で硬化したのを確認後、ポリウレタン樹脂を所定の厚みに、同じくエアレススプレーにて塗布し、ポリウレタン樹脂層を形成した。ついで、このポリウレタン樹脂層が硬化したのを指触で確認したのち、エアースプレーにてキレート変性エポキシ樹脂あるいはシリコン変性エポキシ樹脂を所定の厚みになるように塗布した。その後、所定の厚みのチタンシート(Ti箔)をシリコンゴム製のロールを用い押圧力9.8 N/cmとしてチタンシート(Ti箔)側から鋼材(鋼矢板)方向に押し付けるように貼り付け、中間接着層を介しポリウレタン樹脂層に圧着させた。このようにして、所定の各膜厚を有する被覆層を表面に形成した鋼矢板を得た。
【0027】
また、一部の鋼材(鋼矢板)については、Ti箔にキレート変性エポキシ樹脂あるいはシリコン変性エポキシ樹脂をロールコータで塗布し、キレート変性エポキシ樹脂あるいはシリコン変性エポキシ樹脂を塗布した面を積層面として、ポリウレタン樹脂層上に、シリコンゴム製ロールを用い押圧力9.8 N/cmで圧着した。その後、48時間(接着層の硬化反応が終了する時間)待って、防食性能試験および耐衝撃性試験に供した。
【0028】
なお、防食性能試験においては、海洋環境下での防食性を模擬・促進するために、3%NaCl溶液(80℃)中に試験片を浸漬することとし、端面からの剥離距離で評価した。
また、耐衝撃性については、1mの高さから3kgの重りを落とし、被覆の破損状況について調査した。この調査結果については、○:破損・疵なし、△:被膜に疵が生じた、×:鋼面に至る破損が認められた、で評価した。
【0029】
表1に、中間接着層であるエポキシ樹脂層としてシリコン変性エポキシ樹脂を用いた場合の調査結果を、また表2には、同じくキレート変性エポキシ樹脂を用いた場合の調査結果をそれぞれ示す。
【0030】
【表1】
【0031】
【表2】
【0032】
表1、2に示したとおり、本発明に従い、鋼材の表面に順次、有機樹脂プライマー層、ポリウレタン樹脂層、エポキシ樹脂層およびTi層を被覆した場合には、優れた防食性と耐衝撃性が得られている。
(実施例2)
鋼矢板(鋼材)の表面を、ブラスト処理により脱スケールしたのち、エアレススプレーにて所定の厚みになるようにウレタン系プライマー(有機樹脂プライマー)を塗布して、有機樹脂プライマー層を形成した。ついで、指触で硬化したのを確認後、ポリウレタン樹脂を所定の厚みに、同じくエアレススプレーにて塗布し、ポリウレタン樹脂層を形成した。ついで、このポリウレタン樹脂層が硬化したのを指触で確認したのち、ポリウレタン樹脂層の表面を電動サンダーにより厚み方向に表3に示す研削量で研削加工を施し、厚み:0.02mmのTi箔上に、ロールコータにてシリコン変性エポキシ樹脂またはキレート変性エポキシ樹脂を表3に示す厚みになるように塗布し、エポキシ樹脂を塗布した面を積層面とし表3に示す押圧力で押しつけるように貼り付け、ポリウレタン樹脂層に圧着させた。また、一部の試験片では、ポリウレタン樹脂層上に、エアスプレーにて、シリコン変性エポキシ樹脂またはキレート変性エポキシ樹脂を表3に示す厚みとなるように塗布し、その後、厚み:0.02mmのチタンシート(Ti箔)を、シリコンゴム製の圧着ロールにてチタンシート(Ti箔)側から鋼材(鋼矢板)方向に、表3に示す押圧力で押し付けるように貼り付け、ポリウレタン樹脂層に圧着させた。このようにして、鋼材の表面に順次、有機樹脂プライマー層、ポリウレタン樹脂層、エポキシ樹脂層およびTi層を被覆した鋼矢板を得た。
【0033】
その後、48時間(接着層の硬化反応が終了する時間)待って、防食性能試験、接着強度試験および衝撃性試験に供した。
なお、防食性能試験においては、海洋環境下での防食性を模擬・促進するために、3%NaCl溶液(80℃)中に試験片を浸漬することとし、端面からの剥離距離で評価した。
【0034】
また、接着強度試験においては、被覆層を形成した6.0mm 厚×100mm ×100mm の試験片を用いて、最外層のTi層を10mm幅で鋼板表面に対し直角方向に50mm引張り、Ti層が剥離するときの単位長さ当たりの平均剥離荷重を求め、接着強度(N/cm)と定義し、接着強度を評価した。なお、引張りに際しては、Ti層を20mm程度タガネで剥離し、その先端を引張試験機の治具でつかみ、Ti層(箔)と鋼板の角度が90°をなすように、10mm/min の速度で引張った。
【0035】
また、耐衝撃性試験については、1mの高さから3kgの重りを落とし、被覆の破損状況について調査した。この調査結果については、○:破損・疵なし、△:被膜に疵が生じた、×:鋼面に至る破損が認められた、で評価した。
各試験の結果を表3に示す。
【0036】
【表3】
【0037】
表3に示したとおり、本発明の好適範囲内の条件で、鋼材の表面に順次、有機樹脂プライマー層、ポリウレタン樹脂層、エポキシ樹脂層およびTi層を被覆した場合には、とくに高い接着強度を有し、優れた防食性、耐衝撃性を安定して確保できる。
【0038】
【発明の効果】
かくして、本発明によれば、長期間にわたり安定した防食性能を有する被覆鋼材を与えることができ、これにより、海洋環境等の厳しい腐食環境下において、長期間にわたる構造物の構築が可能となり、結果的に安価な構造体を供給することができ、産業上格段の効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の基本的な被覆構造を示した図である。
【図2】接着強度におよぼすエポキシ樹脂層の厚みの影響を示すグラフである。
【図3】接着強度におよぼすポリウレタン樹脂層の研削加工量の影響を示すグラフである。
【図4】接着界面の気泡発生におよぼすエポキシ樹脂層の厚みと圧着ロールの押圧力の関係を示すグラフである。
【符号の説明】
1 有機樹脂プライマー層
2 ポリウレタン中間層
3 中間接着層
4 Ti層
5 鋼材
Claims (8)
- 鋼材の表面に、有機樹脂プライマー層を有し、該有機樹脂プライマー層上にポリウレタン樹脂層を有し、さらに該ポリウレタン樹脂層上にシリコン変性エポキシ樹脂層またはキレート変性エポキシ樹脂層を有し、さらに該シリコン変性エポキシ樹脂層またはキレート変性エポキシ樹脂層上にTi層を有することを特徴とする接着耐久性に優れた重防食被覆鋼材。
- 請求項1において、有機樹脂プライマー層が、ポリウレタン樹脂プライマー層であることを特徴とする接着耐久性に優れた重防食被覆鋼材。
- 清浄化した鋼材の表面に、順次、有機樹脂プライマー層、ポリウレタン樹脂層をスプレー塗布により形成し、ついで該ポリウレタン樹脂層上に、シリコン変性エポキシ樹脂またはキレート変性エポキシ樹脂をスプレー塗布、ロールコータ塗布、刷毛塗布のうちのいずれかにより塗布したのち、さらにTi箔を圧着ロ─ルにて圧着することを特徴とする接着耐久性に優れた重防食被覆鋼材の製造方法。
- 請求項3において、前記シリコン変性エポキシ樹脂またはキレート変性エポキシ樹脂を塗布する前に、前記ポリウレタン樹脂層の表面を研摩加工あるいは研削加工することを特徴とする接着耐久性に優れた重防食被覆鋼材の製造方法。
- 清浄化した鋼材の表面に、順次、有機樹脂プライマー層、ポリウレタン樹脂層をスプレー塗布により形成し、ついで該ポリウレタン樹脂層上に、ロールコーターにてシリコン変性エポキシ樹脂またはキレート変性エポキシ樹脂を塗布したTi箔を、該Ti箔のシリコン変性エポキシ樹脂またはキレート変性エポキシ樹脂を塗布した面を積層面として圧着ロールにて圧着することを特徴とする接着耐久性に優れた重防食被覆鋼材の製造方法。
- 請求項5において、前記Ti箔を圧着する前に、前記ポリウレタン樹脂層の表面を研摩加工あるいは研削加工することを特徴とする接着耐久性に優れた重防食被覆鋼材の製造方法。
- 請求項4または6において、前記ポリウレタン樹脂層表面の研摩加工あるいは研削加工の加工量を厚さ方向で0.1 〜1.0mm とすることを特徴とする接着耐久性に優れた重防食被覆鋼材の製造方法。
- 請求項3ないし7のいずれかにおいて、前記シリコン変性エポキシ樹脂またはキレート変性エポキシ樹脂を、エポキシ樹脂層が0.040 〜0.100 mm厚となるように塗布するとともに、前記圧着ロ─ルの押圧力を3.92〜11.77 N/cm(0.4 〜1.2kgf/cm )とすることを特徴とする接着耐久性に優れた重防食被覆鋼材の製造方法。
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