JP4617575B2 - 防食被覆鋼材の製造方法 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、厳しい腐食環境下で使用されるラインパイプ、海洋構造物等に好適な防食被覆を有する防食被覆鋼材に係り、とくに防食被覆の接着耐久性の向上に関する。本発明でいう鋼材は、鋼管、鋼板、形鋼、棒鋼、線材を含むものとする。
【0002】
【従来の技術】
ガス、水道、電気配線等の配管、光ケーブル保護管、ラインパイプなどの地中埋設管や、港湾、河川などの土木工事において使用される鋼管杭、鋼管矢板、鋼矢板の土木建材や、建築屋根材、壁材などには、鋼材の防食用に有機樹脂の塗装等による防食被覆処理が施される。防食被覆処理としては、耐久性などの要求仕様に応じて様々な種類や膜厚の塗装が施されている。
【0003】
最近では、ライフサイクルコストの観点から、防食被覆処理が施された鋼材には、ますます長い防食寿命を有することが期待されるようになってきた。とくに、地中埋設管や土木建材などは社会的インフラということもあり、数十年以上の防食寿命が望まれている。
従来から、鋼材への防食被覆処理を施すに際しては、予め、酸洗、ブラスト処理などの鋼板表面の酸化被膜除去処理を行ったのちに、防食被覆処理のための下地処理が施されている。
【0004】
鋼材表面に施される防食被覆の寿命は、▲1▼被膜(塗膜)と下地との密着性、▲2▼被覆(塗装)材料自体の劣化、の2点から決定されるといわれている。被膜(塗膜)と下地との密着性が良好であっても、被覆(塗装)材料自体が、例えば、屋外であれば太陽光に起因する紫外線による耐候劣化や、地中埋設管などであれば耐熱劣化などにより、劣化し、被覆の防食性が低下する場合がある。また、被覆(塗装)材料自体の劣化がなく健全であっても、被膜(塗膜)と下地との密着性が低下して鋼材への保護性を失う(防食性の低下)という場合もある。
【0005】
しかしながら、近年、被覆(塗装)材料自体の改良が著しくすすみ、防食被覆の寿命は、被膜(塗膜)と下地との密着性により決定されることが多くなっている。
有機樹脂の塗装による防食被覆では、塗膜と下地との密着性不良により、例えば、端面からの塗膜の剥離、あるいは、全体的な接着強度の低下、ふくれなどの不具合が生じる。このような不具合が発生すると、塗装の補修あるいは塗り直しといった作業が必要になる。これらの作業には莫大な費用を要し、特に社会的インフラの場合には社会的コスト負担も大きくなる。したがって、塗膜と下地との密着性、塗膜と下地との接着耐久性を向上し、防食被覆の寿命を長寿命化して、補修や塗り替えを極力回避することが必要である。
【0006】
鋼材の防食被覆処理のための下地処理としては、従来から例えば、リン酸塩処理、クロメート処理、各種カップリング剤処理、陽極酸化処理、などが知られている。クロメート処理以外の下地処理では、被膜(塗膜)が剥離しやすく防食性が不十分であった。一方、クロメート処理は、十分な防食性を保持するためには塗布量を多くしなければならず、また比較的高い加熱温度を必要とし、生産性が低下するなどの問題があった。
【0007】
このような問題に対し、例えば、特開平9-268374号公報には、ブラスト処理した鋼管の外面に、2〜8重量%のモリブデン酸アンモニウム、0.5 〜2重量%のリン酸、0.1 〜0.5 重量%のエチレンジアミン四酢酸と0.5 〜5重量%のポリビニルアルコールを含む混合水溶液を、被膜乾燥重量が30〜100mg/m2になるように塗布したのち、120 〜180 ℃で加熱焼き付けし、ついで有機樹脂の防食被覆を施す塗覆装鋼管の製造方法が提案されている。特開平9-268374号公報に記載された技術によれば、耐陰極剥離性と経済性を兼ね備えた防食被覆鋼管が得られるとしている。
【0008】
しかしながら、これらの下地処理では、処理に長時間を要するうえ、厳しい腐食環境下では、依然として被膜(塗膜)と下地との密着性が不足し、防食被覆の防食性が不十分であるという問題があった。
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
これら塗膜と下地との密着性不良現象には、塗膜の環境遮断性も関係するが、とくに塗膜と下地との接着界面における接着特性および電気化学的な特性が大きく関係している。このようなことから、塗膜と下地との密着性を向上し、防食被覆の寿命(耐久性)を向上させるためには、適切な下地処理を施すことが肝要となる。
【0010】
本発明は、上記した従来技術の問題を解決し、被膜と下地との密着性、接着耐久性を向上し、耐久性に優れた防食被覆を有する、防食被覆鋼材の製造方法を提供することを目的とする。
【0011】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記した課題を達成するために、防食被覆処理の下地処理方法について鋭意検討した。その結果、鋼材表面にモリブデン酸ナトリウム(Na2MoO4 ・2H2O)、モリブデン酸アンモニウム((NH4)6Mo7O24 ・4H2O)およびリン酸マグネシウム(Mg2PO3・2H2O)の混合水溶液を接触させることにより、下地処理時間を短縮できるとともに、被膜と下地との密着性、接着耐久性が向上し、防食被覆の耐久性が格段に向上することを知見した。
【0012】
本発明は、上記した知見に基づいて、さらに検討を加え完成されたものである。
すなわち、本発明は、鋼材表面に下地処理を施したのち、好ましくは乾燥処理を施し、ついで防食被覆処理を施す防食被覆鋼材の製造方法において、前記下地処理が、前記鋼材表面に、0.01〜1.0mol/lのモリブデン酸ナトリウム、0.01〜1.0mol/lのモリブデン酸アンモニウムおよび0.001 〜1.0mol/lのリン酸マグネシウムを含む混合水溶液を接触させて、Moを含む不動態層を形成させる処理であることを特徴とする防食被覆鋼材の製造方法である。
【0013】
【発明の実施の形態】
本発明は、鋼材表面に防食被覆を施し、鋼材の防食性を向上させた防食被覆鋼材の製造方法である。本発明では、防食被覆処理を施す前に、鋼材表面に下地処理を施す。なお、本発明では、鋼材表面にめっき層が存在しても何ら問題ない。
本発明における下地処理は、鋼材表面に、0.01〜1.0mol/lのモリブデン酸ナトリウム(Na2MoO4 ・2H2O)、0.01〜1.0mol/lのモリブデン酸アンモニウム((NH4)6Mo7O24 ・4H2O)および0.001 〜1.0mol/lのリン酸マグネシウム(Mg2PO3・2H2O)を含む混合水溶液を接触させて、Moを含む不動態層を形成させる処理である。本発明では、モリブデン酸ナトリウム、モリブデン酸アンモニウムおよびリン酸マグネシウムとを混合した水溶液を用いて下地処理を行うことに特徴がある。モリブデン酸ナトリウム単独、あるいはモリブデン酸アンモニウム単独では、被膜と下地との接着耐久性が低く、また、所定の接着強度あるいは接着耐久性を得るためには反応時間が長すぎて生産性が低下する。モリブデン酸ナトリウム、モリブデン酸アンモニウムおよびリン酸マグネシウムとを混合した水溶液を用いることにより、より長期間の接着耐久性が得られるのである。
【0014】
モリブデン酸ナトリウムは、暖房用温水配管のインヒビターとして知られており、鋼材表面を不動態化する。これは、モリブデン酸の鋼材表面への吸着により達成されると考えられているが、メカニズムは現在のところ不明である。
混合水溶液中のモリブデン酸ナトリウムおよびモリブデン酸アンモニウムの濃度はいずれも0.01〜1.0mol/l、リン酸マグネシウムの濃度は0.001 〜1.0mol/lの範囲に限定した。モリブデン酸ナトリウムおよびモリブデン酸アンモニウムの濃度がそれぞれ0.01mol/l 未満、リン酸マグネシウムの濃度が0.001 mol/l 未満では、鋼板板面全体に十分な被膜の生成がなく、被膜と下地との接着耐久性向上効果が少ない。一方、モリブデン酸ナトリウム、モリブデン酸アンモニウム、リン酸マグネシウムの濃度がそれぞれ1.0mol/lを超えると、(1) 反応層が厚くなりすぎ脆くなる、(2) 被膜と下地との接着耐久性向上効果が飽和し、含有量に見合う効果が期待でなくなり、経済的に不利となる。このため、混合水溶液中のモリブデン酸ナトリウムの濃度は0.01〜1.0mol/l、モリブデン酸アンモニウムの濃度は0.01〜1.0mol/l、リン酸マグネシウムの濃度は0.001 〜1.0mol/lに限定した。なお、モリブデン酸ナトリウムの濃度はより好ましくは0.01〜0.2mol/l、モリブデン酸アンモニウムの濃度はより好ましくは0.01〜0.2mol/l、リン酸マグネシウムの濃度はより好ましくは0.01〜0.2mol/lである。
【0015】
混合水溶液に、モリブデン酸ナトリウムとモリブデン酸アンモニウムに加えて、リン酸マグネシウムを含むことにより、鋼材との反応性、塗膜と下地との接着耐久性が顕著に向上し、防食被覆鋼材の防食性が向上する。
上記した混合水溶液を鋼材表面に接触させる方法としては、とくに限定されないが、鋼材表面に混合水溶液を塗布するか、あるいは鋼材を混合水溶液中に浸漬するのが好ましい。混合水溶液と鋼材表面との反応により、鋼材表面にモリブデン(Mo)を含む反応層が形成される。反応層の厚さは、2〜100nm とするのが好ましい。この厚さの反応層を形成するためには、数十秒〜数十分程度の処理時間を必要とする。
【0016】
この反応層の厚さは、オージェ電子分光装置の深さ方向分析によって測定されるMo付着量で評価することができる。
本発明では、下地処理に使用する上記した濃度の混合水溶液の温度はとくに限定されないが、反応を促進する意味から、溶液あるいは鋼材の温度を室温以上、好ましくは20〜40℃に調整して使用してもよい。溶液または鋼材の温度が高すぎると、反応が進行しすぎて反応層が脆弱となる。
【0017】
なお、下地処理を施す前に、表面の汚れ、汚染物質、スケールなどをできる限り除去しておくことが好ましく、ブラスト処理や酸洗などを行うのが好ましい。また、上記した下地処理を施したのちに、カップリング剤処理などの他の下地処理を施しても何ら問題はない。
下地処理を施された鋼材は、ついで水洗してもよい。また、適度な反応時間の後、水分を飛ばす意味で、乾燥処理を行うのが好ましい。乾燥処理の方法は、下地処理後の鋼材を、室温で放置してもよく、また、処理時間を短縮するために、ブローア等により、常温空気吹付け、あるいは温風吹付け、あるいは鋼材を80〜120 ℃に加熱する処理としてもよく、とくに限定されない。
【0018】
下地処理を施され、好ましくは乾燥処理を施された鋼材は、ついで表面に防食被覆処理を施される。防食被覆処理としては、通常の有機樹脂の防食被覆とするのが好ましい。有機樹脂の防食被覆は、例えば、ポリオレフィン樹脂、エポキシ樹脂、アクリル樹脂またはポリエステル樹脂、ウレタン樹脂を含む塗料を、鋼材表面にスプレー塗装、刷毛塗り、ロールコーター等により所定の膜厚を被覆するのが好ましい。
【0019】
また、防食被覆は、有機樹脂のライニングとしてもよい。有機樹脂のライニングは、接着剤を被覆し、その上層としてポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリブテン樹脂等をホットプレス、加熱圧着ロール等により圧着して、所定の厚さに調整して被覆するのが好ましい。
【0020】
【実施例】
以下、本発明を実施例にて詳細に説明する。
鋼材として、軟鋼板を用意した。まず、軟鋼板に、表面汚染物質ならびに酸化層を除去するため、ブラスト処理を施した。その後、表1に示す条件で下地処理を施した。下地処理に用いた混合水溶液は、純水に、工業用試薬である、モリブデン酸ナトリウム(Na2MoO4・2H2O) 、モリブデン酸アンモニウム((NH4)6Mo7O24 ・4H2O) およびリン酸マグネシウム(Mg2PO3・2H2O)を表1に示す濃度になるように、それぞれ所定量溶解し、調整した溶液を用いた。なお、溶液の温度は、表1に示す温度とし、ヒータで加熱保持した。
【0021】
また、下地処理は、上記した混合水溶液を鋼材表面に接触させることにより行い、接触方法としては、
▲1▼混合水溶液をナイロン製刷毛で軟鋼板に塗布する方法(刷毛)、
▲2▼軟鋼板を混合水溶液中に浸漬する方法(浸漬)
を用いた。なお、▲1▼の方法では、混合水溶液を塗布し3min 後純水で軟鋼板表面を洗い流した。また、▲2▼の方法では、浸漬時間を2min とした。なお、いずれの場合でも、軟鋼板は40℃に予熱した。
【0022】
下地処理後、軟鋼板を純水で水洗した。水洗後、200 ℃雰囲気(炉内)中で、約3min 保持する乾燥処理を実施した。
下地処理(乾燥処理)後、軟鋼板に防食被覆処理を行い、防食被覆鋼材とした。防食被覆処理は、有機樹脂の塗装、または有機樹脂のライニングとした。有機樹脂の塗装は、塗料としてエポキシ系樹脂塗料とし、スプレー塗装により所定の膜厚(100 μm )の塗装を行った。また、有機樹脂のライニングは、エポキシ系接着剤を塗装したのち、ポリエチレン樹脂をホットプレスにて圧着し、接着層を介し1.5mm の低密度ポリエチレン層を形成した。
【0023】
得られた防食被覆鋼材から、試験片(大きさ:100 ×100mm )を採取し、塩水噴霧試験、温塩水浸漬試験を実施した。なお、防食被覆として有機樹脂のライニングを施した防食被覆鋼材についてはさらに、陰極剥離試験を実施した。試験方法はつぎの通りとした。
(1)塩水噴霧試験
各試験片の中央部に、50×50mmの大きさのクロスカット(幅 1mm)を導入し、JIS Z 2371の規定に準拠して塩水噴霧試験を90日間実施した。試験後、クロスカットからの防食被覆の剥離幅を測定した。
(2)温塩水浸漬試験
各試験片の端部を2mm 程度研削し端部を揃えたのち、濃度:3質量%NaClの温塩水(液温度:60℃)に、1000時間浸漬した。浸漬後、端部からの防食被覆の剥離距離を測定した。また、ポリエチレン樹脂ライニング材については被覆を、10mm幅で鋼材表面に対し直角方向に約60mm引張り、防食被覆が剥離するときの単位長さ当たりの平均剥離荷重を求め、接着強度(N/mm)と定義し、試験前の接着強度に対する比を求め、接着強度保持率(%)としてを評価した。エポキシ系樹脂塗装材については、断面積が100 mm2 の断面形状が円形の鋼製治具を、接着剤を介して塗装表面に接着し、その後、治具まわりの塗装を強制的に剥離し、治具をつかんで引張試験を実施し、接着部分が破断する最大荷重を求め、接着強度(MPa) と定義し、試験前の接着強度に対する比を求め、接着強度保持率(%)として評価した。
(3)陰極剥離試験
陰極剥離試験は、ASTM G8 の規定に準拠して実施した。各試験片の中央部に、5mmφの人工欠陥を設け、70mmφの円筒を立て中に3質量%NaCl溶液を満たした。また、対極を白金電極として、鋼材面を参照電極(SCE) に対して−1.5Vに保持した。これを60℃の電気炉中に30日間暴露した。試験後、欠陥部から広がった剥離距離を測定した。
【0024】
これらの結果を表1に示す。
【0025】
【表1】
Figure 0004617575
【0026】
本発明例は、いずれも剥離距離は少なく、接着強度保持率も高く、耐塩水噴霧性、耐温塩水浸漬性に優れ、また、有機樹脂のライニングの防食被覆では耐陰極剥離性に優れている。これに対し、本発明の範囲を外れる比較例では、耐塩水噴霧性、耐温塩水浸漬性、耐陰極剥離性が低下していた。
【0027】
【発明の効果】
以上、説明したように、本発明によれば、被膜と下地との接着耐久性が向上し、防食被覆鋼材の防食寿命を長寿命化することができる。また、本発明によれば、長期間にわたり、防食被覆の補修、再被覆等を行う必要がなくなり、経費の節減ができ、産業上格段の効果を奏する。また、厳しい腐食環境においても、長期間の防食が可能になり、腐食および塗装劣化による社会的損失を回避することができるという効果もある。

Claims (1)

  1. 鋼材表面に下地処理を施したのち、防食被覆処理を施す防食被覆鋼材の製造方法において、前記下地処理が、前記鋼材表面に、0.01〜1.0mol/lのモリブデン酸ナトリウム、0.01〜1.0mol/lのモリブデン酸アンモニウムおよび0.001 〜1.0mol/lのリン酸マグネシウムを含む混合水溶液を接触させて、Moを含む不動態層を形成させる処理であることを特徴とする防食被覆鋼材の製造方法。
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