JP3858453B2 - 中空部を有する熱可塑性樹脂成形体の製造方法 - Google Patents

中空部を有する熱可塑性樹脂成形体の製造方法 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は中空部を有する熱可塑性樹脂成形体の製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来より、高中空部を有する熱可塑性樹脂成形体を製造する方法として、射出成形によるコア後退方式が知られている(特開平4−212822号、特開平7−144336号公報)。
この方法は、所定のキャビティクリアランスにおいて完全に閉鎖されたキャビティ内に溶融状の熱可塑性樹脂を高圧で射出充填し、該溶融状熱可塑性樹脂中に高圧ガスの注入を行いながら可動コアを後退させてキャビティ容積を広げ、中空部を形成させる方法である。
【0003】
しかし、このような射出成形による中空成形方法では、金型キャビティに溶融状の熱可塑性樹脂を高圧で射出し、充填するため、極めて高い型締圧力で金型を保持する必要があり、そのために、型締装置が大掛かりで高価なものとなってしまう。また大型成形品を成形する場合にはさらに大掛かりで高価な装置となるにもかかわらず、得られた成形品は残留応力によって変形やそりが生じるなどの問題があった。
また、金型キャビティに溶融樹脂を高圧で射出するため、スライドブロックにかかる圧力も非常に高圧となり、そのためにスライドブロックを供給される樹脂の高圧力に対抗して所定の位置で保持し、その後スム−ズに可動させるためには、このスライドブロックを保持、可動させるための装置も大掛かりとなってしまうという問題があった。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
本発明者等は、このような設備費が高く、成形品にそりや歪みが生じるという従来方法による問題を解決し、簡単で安価な装置によって容易にそりや歪みのない高品質の中空部を有する熱可塑性樹脂成形体の製造方法を開発すべく検討の結果、本発明に至った。
【0005】
【課題を解決するための手段】
本発明は、開閉自在な雌雄一対の金型からなり、開閉自在な雌雄一対の金型からなり、少なくともいずれか一方の金型の金型面の一部が対向する金型面に対して進退可能なスライドブロック面で構成され、金型に設けた内周壁面が保熱または断熱されたスライドブロック貫挿孔の中を、該スライドブロックを進退させることによって金型閉鎖状態におけるキャビティ容積を変更可能とした金型を用いて、中空部を有する熱可塑性樹脂成形体を製造する方法であって、スライドブロックが対向する金型面に向けて前進位置にある状態で、未閉鎖の雌雄一対の金型間に溶融状熱可塑性樹脂を供給する工程(工程1)、金型を閉じて溶融状熱可塑性樹脂を加圧し、キャビティ内に充満させる工程(工程2)、溶融状熱可塑性樹脂中に加圧流体を注入する工程(工程3)、スライドブロックを対向する金型面に対して後退させる工程(工程4)、金型を開いて製品を取りだす工程(工程5)を含む工程からなる中空部を有する熱可塑性樹脂成形体の製造方法を提供するものである。
【0006】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の方法について説明する。
本発明の方法において使用される金型は図1に示されるように雌雄一対(1、2)からなり、そのいずれか一方の金型の金型面の一部が対向する金型面に対して進退可能なスライドブロック(3)で構成され、該スライドブロックの進退によって金型閉鎖状態におけるキャビティ容積を変更可能とした金型であって、両金型のいずれか一方または両方が開閉方向に移動可能であって開閉自在となっている。
【0007】
スライドブロック(3)は、金型に設けたスライドブロック貫挿孔の内周壁面(12)を金型の開閉方向に摺動するように設けられ、その位置は目的とする中空成形体の形状によって適宜決定され、特に制限されない。その数も1つであることもあるし、2つ以上であってもよく、また、複数設ける場合にその形状は同一であってもよいし異なっていてもよい。
かかるスライドブロック(3)は、雌雄両金型のうちのいずれか一方に設けられることが多いが、成形品の形状によっては、同形状のあるいは異形状のスライドブロックをキャビティ(6)を挟んで対称に、あるいは非対称に雌雄両金型のそれぞれに設けてもよい。
かかるスライドブロックの溶融樹脂と接するキャビティ面の形状は、目的とする成形品の該スライドブロックに対応する位置の外周面の形状に応じて決定され、特に限定されない。
【0008】
スライドブロック(3)は、通常の手段、例えば油圧シリンダ−などの移動手段(4)により金型の開閉方向に制御可能に進退自在とされている。
かかるスライドブロックは、溶融樹脂の供給時にはキャビティ内に所定の溶融樹脂が充満される位置にまで前進している(前進位置)が、この前進位置にあるときのスライドブロックのキャビティ面は金型のキャビティ面と同一面を形成するようになっていてもよいし、金型キャビティ面より上方に突出していてもよく、あるいは金型キャビティ面より下位にあってもよいが、後者のスライドブロックのキャビティ面が金型キャビティ面より下位にあるようにすることが望ましい。このことにより、より大きな中空部を形成させることができると共に、中空形成に伴なって形成される中空側壁の成形性が向上し、成形の安定化が計れる。
もちろん、スライドブロックを複数設ける場合には、そのそれぞれについて最適の前進位置が決定され、必ずしも全てが同一前進位置にある必要はない。
【0009】
このような金型を使用し、スライドブロック(3)が対向する金型面に向けて前進位置にある状態で、未閉鎖の雌雄一対の金型間に溶融状熱可塑性樹脂(5)を供給し(工程1)(図2)、雌金型(1)および/または雄金型(2)を型締方向に移動させることにより金型を閉じて、予め設定された加圧力で型締することにより溶融状熱可塑性樹脂を加圧してキャビティ内に充満させる(工程2)。(図3)
ここで、工程2の型締のタイミングとしては、工程1における溶融状熱可塑性樹脂の供給が完了した後であってもよいし、工程1と工程2を同時的に行い、すなわち、溶融状熱可塑性樹脂の供給中に型締を開始したり、あるいは連続的な型締動作中に溶融状熱可塑性樹脂の供給を開始して金型を閉じる動作と樹脂の供給を並行して行い、型締完了と同時または型締が完了する前に樹脂の供給が完了するように行ってもよい。
溶融状熱可塑性樹脂の金型間への供給方法としては、供給された溶融状熱可塑性樹脂を加圧流体の注入前に不必要に冷却させないためにも、金型内に設けた樹脂通路(10)を経由して直接キャビティ内に射出供給する方法が好ましいが、工程2の型締を工程1の樹脂の供給完了後に行う場合には樹脂供給ノズルなどを備えた外部供給手段によって金型間に供給する方法であってもよく、適宜の方法が採用される。
【0010】
溶融状熱可塑性樹脂中への加圧流体の注入(工程3)開始は、溶融状熱可塑性樹脂の供給開始後溶融状熱可塑性樹脂が加圧流体注入口(7)に達した後であれば特に制限されず、従って工程1、工程2および工程3を、あるいは工程2と工程3を並行的に行ってもよいが、型締により溶融状熱可塑性樹脂がキャビティ内に充満された後、スライドブロックの後退(工程4)が開始されるまでの間に行うのが好ましく、キャビティ内への溶融状熱可塑性樹脂の充満後短時間内、通常15秒以内に加圧流体の注入を開始することが好ましい。
加圧流体の注入は、流体注入の開始後溶融状熱可塑性樹脂が金型内で冷却、固化されるまで連続的に行ってもよいし、断続的に行ってもよく、また、中空部(11)が形成されたのちは樹脂を冷却固化させている途中で注入を停止して圧力を保持するような形態であってもよい。
【0011】
加圧流体の注入にあたっては、加圧流体の注入を開始すると同時または開始したのち、加圧流体を注入しながら金型内の成形品の一部から加圧流体を放出して流体を形成された中空部内で循環させてもよく、これによって、樹脂の冷却が促進されて成形サイクルの短縮を図ることができる。
注入された加圧流体の放出方法としては、多点から加圧流体の注入操作を行い、そのときの流体の注入圧力に差を設けて圧力の低い方から流体を放出してもよいし、放出専用の加圧流体放出口を設けてもよく、あるいは流体を注入した注入口から放出してもよく、この場合には加圧流体の注入と放出を繰り返し行ってもよい。
これら流体の放出方法は適宜選択され、特に限定されない。
流体を放出するタイミングは、加圧流体の注入開始と同時に行ってもよいし、流体の注入開始後一定時間経過した後に行ってもよい。もちろん、流体の注入操作と放出操作を並行して行ってもよいし、交互に行ってもよく、流体の注入終了後に流体の放出操作を継続してもよい。
【0012】
加圧流体として使用される流体は気体であっても液体であってもよいが、一般には気体が使用され、かかる気体としては空気、窒素、炭酸ガスなどが代表的なものとして例示される。
加圧流体は10kgf/cm2 以上の高圧流体であってもよいし、10kgf/cm2 未満の低圧流体であってもよいが、10kgf/cm2 未満の圧縮空気が好ましく用いられる。
かかる加圧流体の流体圧の下限値はそれぞれの成形条件によっても異なるが、通常2kgf/cm2 程度である。
加圧流体の注入圧は注入開始から終了まで一定であってもよいし、途中で任意に変化させてもよい。
【0013】
かかる加圧流体の注入は1ケ所である必要はなく、成形品の形状や大きさなど必要に応じて適宜の複数個所からキャビティ内の溶融状熱可塑性樹脂中に注入される。
例えば、スライドブロックの後退によりその容積が広げられたキャビティ部を中空部とするような場合には、該スライドブロックのキャビティ面に設けた流体注入部口から加圧流体を該スライドブロック部分のキャビティに充満された溶融状熱可塑性樹脂中に注入することにより効率よく中空部が形成でき、しかも外観の良好な成形体を得ることができる。
また、図6の上段に製品の下側から見た平面図を、下段に該平面図においてA−Aで切断したときの側面断面図を示すような、例えばリブなどを製品中に有し、かつこれらがスライドブロク部分に形成される中空部と連結しているとともにリブ部も中空形状とした成形品を目的とする場合には、あるいはガスチャンネルのような中空連通部を有し、かつこれらがスライドブロック部分に形成される中空部と連通しているような場合には、かかる形状に対応して、非スライドブロック部分のキャビティ面にはリブあるいはガスチャンネル部に対応する凹部が設けられ、該凹部のキャビティ部分がスライドブロック部分のキャビティ部分と連続してなる金型が使用されるが、このような場合には、加圧流体をスライドブロック部分のキャビティに充満された溶融状熱可塑性樹脂中に注入してもよいし、非スライドブロック部分のキャビティの凹部に満たされた溶融状熱可塑性樹脂中に注入してもよく、あるいはその両方に注入してもよい。
非スライドブロック部分のキャビティの凹部に満たされた溶融状熱可塑性樹脂中に注入する場合には、該部に注入された加圧流体が該部において中空部を形成せしめつつ、該部における余剰の溶融状熱可塑性樹脂をスライドブロックを後退させることにより形成されるキャビティ部に流動移動させつつ中空部を形成せしめればよい。
この場合、スライドブロックの後退量を調整することにより、同時にスライドブロックの後退部分にも中空部を形成させることができ、スライドブロックが後退したキャビティ部分と非スライドブロック部分とが中空状に連通した成形品を得ることができる。
【0014】
加圧流体の注入は、通常は、キャビティ面に設けた流体注入部材(8)から行われる。この流体注入部材はその先端部が加圧流体注入口(7)としての機能を有し、その後端は流体通路(9)と連通しており、流体通路は加圧流体の供給源と接続され、該通路や加圧流体供給源には加圧流体の供給や停止のための流体流路開閉弁や加圧流体の注入圧力を調整するための圧力調整弁などが適宜設けられている。
流体注入部材は、連通する流体通路から供給される加圧流体をキャビティ内に注入できる構造であれば特にその構造は限定されず、例えば、連続微小気泡を多数有する多孔質基材からなるようなものであってもよい。かかる目的で使用される多孔質基材としては、例えば焼結銅や焼結ステンレス鋼などの焼結金属、焼結フッ素樹脂などの焼結樹脂、発泡アルミ、ポ−ラスセラミックなどが挙げられる。また、丸ピンや角ピンであって、その外周部や内部にその後端部から先端部に連通する流体通路が設けられたピン状物であってもよい。このようなピン状物は、通常、金属やセラミックなどの耐熱性と剛性に優れた材料から形成される。
尚、かかるピン状物における流体通路とは、それが外周部に設けられている場合には、その先端部から後端部までその長さ方向に設けられた溝状物であり、内部に設けられている場合には、その先端部から後端部までその長さ方向に貫通する貫通孔である。
このような流体流路の流体の流通方向に垂直な断面形状は円形、半円形、V字形、U字形など任意である。
【0015】
流体注入部材の先端部は、キャビティ面と同じ高さの位置にあってもよいし、キャビティ面より上位または下位の位置にあってもよく、流体注入部材が摺動可能なピン方式である場合には、加圧流体の供給時にはキャビティ内にその先端部が突出し、加圧流体供給後あるいは成形後の型開き時にはキャビティ内に収納するようになっていてもよい。
また、流体注入部材がスライドブロックに設けられているような場合には、流体通路が進退するスライドブロックの動きに追随できるようなフレキシブルな構造とすることが好ましい。
【0016】
金型キャビティ内の溶融状熱可塑性樹脂中への加圧流体の注入は、加圧流体の流れを分散させて行うことが好ましい。
このため、流体注入部材は多孔質部材から構成されるものであったり、ピン状物である場合にピン状物や貫通孔が複数設けられていることが好ましい。
また、加圧流体の流れを分散させて加圧流体を注入する場合には、流体注入部材がピン状物である場合には各流体通路の先端部の断面積が、また多孔質基材からなる場合には連続微小気泡の断面積がそれぞれ0.03mm2 以下であることが溶融樹脂による目詰まりの防止等の点で好ましい。
【0017】
尚、成形体の材質や金型の大きさなどによっては、流体注入部材が流体通路の延長部であることもあり、この場合の最も単純な例として、流体通路がそのままキャビティ面に直接開口している場合があげられる。この場合には、加圧流体の流れを分散させるために、キャビティ面付近で流体通路を複数の細管により熊手状に分岐させ、各細管がキャビティ面に開口するようにしていてもよい。
上記したいずれの場合であっても、流体注入部材周辺のキャビティ面に断熱部材を配設することは、供給された溶融状熱可塑性樹脂のその部分での固化の進行を遅らせて加圧流体の注入を容易にするために好ましい。
【0018】
このようにして加圧流体の注入を開始した後、加圧流体の注入を継続して中空部を形成せしめ(図4)、溶融樹脂をキャビティ内で冷却、固化させ、その後加圧流体の注入を停止して金型を開き、中空成形体を取り出す。
注入する加圧流体の注入圧力が高い場合には、通常は溶融樹脂が冷却固化した後、金型を開く前に、形成された中空部内に残存する注入流体が放出されるが、放出された注入流体は必要に応じて回収される。
加圧流体が低圧の場合には、流体の種類によっては必ずしも金型を開く前に注入流体を放出する必要はなく、また、流体の種類によっては注入流体の回収が行われることもあるが、特別の場合を除いて通常は行われない。
【0019】
中空部を形成せしめるためには、加圧流体の注入とともにスライドブロックを後退させることが必須となるが、スライドブロックを後退させるタイミングは溶融状熱可塑性樹脂の供給開始後、スライドブロックの後退により中空部の形成が可能であるならその時期は特に制限されず、例えば、溶融状熱可塑性樹脂がキャビティクリアランス内に充満した直後にスライドブロックの後退を開始してもよく、あるいは溶融状熱可塑性樹脂がキャビティクリアランス内に充満した後、一定時間の経過後に後退させてもよい。
その際、スライドブロックの後退に先立って加圧流体の注入を開始してもよいし、加圧流体の注入開始とスライドブロックの後退開始が同時であってもよい。
いずれの場合であっても、通常、スライドブロックの後退中は加圧流体の注入が継続される。
しかし、後退させるタイミングとしては型締により溶融樹脂が金型間に充満され、スライドブロックのキャビティ面に接する溶融樹脂が固化し始めるとき、通常溶融樹脂が金型間に充満されてから1〜15秒以内程度の間に後退を開始することが中空部の形成性、中空側壁の成形性の点で好ましい。
スライドブロックの後退が早すぎると、スライドブロック表面に接する供給樹脂がまだ溶融状態にあるためスライドブロックの後退に樹脂が形状的に追随せず、良好な形状の製品が得られにくく、また、スライドブロックの後退が遅すぎても、中空部の側壁部となるべきスライドブロックと摺動する部分の金型壁の部分の樹脂が固化してスライドブロックを後退させても樹脂が十分に追随せず、所定の形状にならない。
かかるスライドブロック後退のタイミングは、上記観点から、目的とする成形体や成形体中の中空部分の大きさ、加圧流体の注入圧力、金型温度、樹脂の種類や供給時の溶融温度、スライドブロックの大きさ、ストロ−クなどの成形条件によって最適のタイミングが決定される。
【0020】
かかる方法において、キャビティに供給された溶融状熱可塑性樹脂を金型間に充満した後、金型を開くまで両金型は所定の圧力で加圧保持されるが、この加圧力(型締圧)はその間一定である必要はなく、必要に応じて適宜変化させてもよい。
例えば、溶融状熱可塑性樹脂を金型間に供給しつつあるいは供給した後両金型を型締して溶融樹脂をキャビティ内に充満させるまでは比較的高い加圧力で樹脂を加圧し、その後成形完了まで当初圧より減じた加圧力で保持したり、あるいはその途中で再度加圧力を高くしたりすることができる。
加圧力を減じるタイミングとしては、溶融樹脂がキャビティ内に充満された後、溶融樹脂が固化するまでの任意の時期が選択され、溶融樹脂がキャビティ内に充満された直後であってもよいし、溶融樹脂が固化する直前であってもよいが、溶融樹脂がキャビティ内に充満された後1〜15秒の間に減じることが好ましい。加圧力を減じた後、同加圧力を維持しながら溶融樹脂が固化するまで冷却してもよいが、樹脂が固化するまでに加圧力を増加させ、同加圧力を維持しながら溶融樹脂が固化するまで冷却してもよい。後者の加圧力を増加させる場合、その加圧力は最初の加圧力より低くても、それを超えてもよく、具体的には製品形状や成形条件などによって適宜選択されるが、高くても最初の加圧力の3倍以下であることが好ましい。
かかる昇圧により、外観のより優れた成形品を得ることができる。
【0021】
前記したように、成形過程において樹脂への加圧力を減じる場合、加圧力を減じる前にスライドブロックの後退を開始してもよいが、加圧力を減じると同時あるいは減じた後にスライドブロックの後退を開始することが好ましい。
スライドブロックを後退させる方法としては、スライドブロックを油圧や空気圧等を利用するシリンダ−に接続させ、前進位置に移動、保持していた状態から所定のタイミングで該シリンダ−を駆動して後退させてもよいし、スライドブロックに移動式のストッパ−を作用させてスライドブロックを前進位置で保持し、後退時にストッパ−を解除して、注入する加圧流体の注入圧で後退させてもよく、この場合に油圧シリンダ−等を併用してもよい。
スライドブロックを移動式のストッパ−などを用いて前進位置に固定した場合には、スライドブロックの後退開始時に、前述した樹脂にかける加圧力を減じることによりスライドブロックにかかる圧力が緩和されてストッパ−が作動し易くなり、また、樹脂にかかる圧力も低減されるために中空部が形成され易くなる。
【0022】
スライドブロックを後退させる際に、その後退速度を中空を形成するのに最適な速度に制御したり、加圧流体の注入圧力により、または注入圧力と均衡してスライドブロックを後退させることにより、中空部の成形性と生産の安定化を向上させることができる。
すなわち、スライドブロックの後退速度が速すぎる場合には、スライドブロックの後退に伴なってスライドブロックが摺動する金型壁部に沿って形成される中空側壁に極端な薄肉や偏肉が生じたり、新たに形成されるべき中空側壁がスライドブロックの後退に追随せず、破れが生じたり形状が保持できなくなったりする。また、スライドブロックの後退速度が遅すぎる場合には、中空側側壁部を形成せしめるべき溶融樹脂の冷却が進んで樹脂粘度が高くなり、側壁の成形性が悪くなって所定の最終形状にならなかったりする。
このため、目的とする成形体や成形体中の中空部分の大きさ、加圧流体の注入圧力、金型温度、樹脂の種類や溶融温度、スライドブロックの大きさ、後退するストロ−ク量などの成形条件によって最適の後退速度が選択される。
【0023】
かかる方法において、スライドブロックを冷却して、スライドブロックのキャビティ面に接する溶融樹脂をその表面部分で素早く固化させることにより、新たに形成される中空側壁の成形性を向上させることができ、しかも、連続成形における中空形成安定性も向上させることができる。
スライドブロックの冷却方法としては、スライドブロック内に冷却管を配設して冷却水等の冷媒を流す方法が例示でき、この場合、冷却管は可動するスライドブロックの移動に追随できるようにフレキシブル管などを用いて接続することが好ましい。
他の冷却方法としては、スライドブロックのキャビティ面側を取り外し可能なブロックとして、そのブロックを予め冷却しておき、その部分のみを1成形毎、あるいは数成形毎に取り替えて行う方法が例示される。尚、このブロックを用いる方法においては、ブロックの厚みを変えることによって容易に初期のスライドブロック部におけるキャビティクリアランスを変更することができる。
その他、冷却を行う場合にはこれらの方法に限らず、適宜の方法で行えばよい。
【0024】
本発明においては、スライドブロックの後退に際して、金型に設けたスライドブロック貫挿孔の内周壁面(12)を保熱もしくは断熱することが必要であり、これにより、その部分の溶融樹脂の冷却固化を遅くし、新たに形成される中空側壁の成形性を向上させることができる。ここで、保熱または断熱方法としては、スライドブロックを設ける金型のうちのスライドブロック貫挿孔の内周壁面(12)の部分を熱伝導率の低い材質にして、低温に保持されている金型温度の影響を受けにくくしたり、該内周壁面の部分だけ温水を流したり、ヒ−タ−を設けて他の金型部分より高温に保つような方法が例示される。
【0025】
このようにして、加圧流体の注入、スライドブロックの後退を行って、所望の中空部が形成されたならば、キャビティ内の熱可塑性樹脂を冷却、固化させ、金型を開いて製品を取り出す(工程5)。
【0026】
尚、かかる方法において、スライドブロックをどのように設け、どの程度後退させるかは目的とする製品の形状によって適宜選択される。
例えば、前記した図6に示されるような中空成形品を目的とする場合には、図7に示されるように、製品のリブに対応して金型に設けた凹部をスライドブロック部分のキャビティと連続させておき、上記方法に従って、キャビティ内に溶融樹脂を充満させたのちスライドブロックを凹部の底面位置よりさらに下方に後退させれば、スライドブロックの後退部分のキャビティに中空部が形成されると同時に、該中空部と連通するようにリブに対応する金型凹部内も同時に中空部が形成され、目的とする製品を得ることができる。
【0027】
また、主としてガスチャンネルのような、あるいはリブなどの内部に長手方向に中空部を有するような成形体を目的とする場合には、図8のようにキャビティ内に溶融樹脂を充満させたときに、スライドブロックの上面(キャビティ面)がスライドブロックと接する金型凹部の底面よりも上方になるように、すなわち、キャビティ内に入り込むようにスライドブロックを前進させ、加圧流体の注入に伴なって、該スライドブロックの上面が金型凹部の底面と同位置になるまで後退させることにより、スライドブロックの後退量に相当する容積の空間部が金型凹部に対応する樹脂内に形成され、図9に示すような中空成形体を得ることもできる。
この際、スライドブロックや金型凹部の形状や大きさなどによっては図10に示されるような非スライドブロック部分を中心に中空部を形成せしめた中空体を得ることもできる。
【0028】
また、スライドブロックの他の例として、図11に示されるように、中空部を設けるべき位置に、該中空部の側壁厚さに略相当する間隔をもってキャビティ内に埋め込むように前進させ、この状態でキャビティ内に溶融樹脂を充満させた後、スライドブロックを上記側壁部の下端にスライドブロックの上面が一致するように後退させることにより、図12に示されるような中空体を得ることもできる。この際、金型形状によってはスライドブロックをさらに下方にまで後退させることによって、中空部が2段構造となった中空成形体を得ることもできる。
【0029】
かかる方法により、図5の上段に製品の下側から見た平面図を、下段に該平面図においてA−Aで切断したときの側面断面図を示すような中空部を有する熱可塑性樹脂成形体を容易に製造することができる。
このような方法に適用される熱可塑性樹脂としては、一般の射出成形、射出圧縮成形、圧縮成形、押出成形、スタンピング成形などにおいて通常使用される熱可塑性樹脂がそのまま適用され、例えば、ポリエチレンやポリプロピレンなどのポリオレフィン樹脂、ポリスチレン、ポリカ−ボネ−ト、アクリロニトリル・スチレン・ブタジエンブロック共重合体、ナイロンなどの一般的な熱可塑性樹脂や、エチレン・プロピレンブロック共重合体、スチレン・ブタジエンブロック共重合体などの熱可塑性エラストマー、あるいはこれらのポリマ−アロイなどがあげられ、本発明でいう熱可塑性樹脂とはこれらを全て包含するものである。
また、このような熱可塑性樹脂中には、タルクやガラス繊維などの各種の充填材、顔料、滑材、帯電防止剤、酸化防止剤などの通常使用される各種の添加剤が配合されていてもよい。
【0030】
かくして得られる成形体において、加飾やクッション性の付与等の目的で表皮材をその表面に貼合したい場合には、上記方法によって予め中空成形体を製造した後、その表面に所望の表皮材を接着剤等で貼着してもよいが、上記方法において予め所望の表皮材を所望の金型位置に配設し、その後前述したと同様の方法で中空成形体を製造することにより、所望の表面に表皮材が貼着された中空成形体を製造することができる。後者の方法による場合、スライドブロックや流体注入口は通常表皮材が接しない金型側に設けられる。
【0031】
使用される表皮材はそれぞれの使用目的に応じて適宜選択されるが、紙、織布、不織布、編布、金網などの網状物、各種熱可塑性樹脂もしくは熱可塑性エラストマーからなるシ−トもしくはフィルムなどが挙げられる。
これらの表皮材の表面には適宜シボ等の凹凸模様や印刷などの装飾が施されていてもよく、その裏面にもポリプロピレン、ポリエチレン、ポリ塩化ビニル、ポリウレタンなどの発泡シ−トが目的に応じて貼着されていてもよい。
また、溶融樹脂の熱や型締による圧力から表皮材を保護するために、あるいは溶融と表皮材との接着性を向上させるために、熱可塑性エラストマーシ−トなどを裏打ち材として使用してもよい。
【0032】
上記した本発明の方法を実施するにあたり、供給される溶融状の熱可塑性樹脂の温度、溶融樹脂供給時のキャビティクリアランス、圧縮速度(型締速度)、金型温度など本発明に特定されない各種の成形条件は、使用樹脂の種類、金型の形状やその大きさ、表皮材の有無などによって適宜決定され、特に限定されない。
【0033】
【発明の効果】
本発明の方法によれば、簡単で安価な装置により、容易にそりや歪みなどのない高い中空率の中空成形体を得ることができ、かくして得られる中空成形体は自動車内装部品、例えばインストルメントパネル、ドアトリム、シ−トバック、コンソ−ルボックスあるいはデッキボ−ドや各種パネル等に好適に使用することができる。
【0034】
【実施例】
以下実施例により本発明を説明するが、本発明がこの例に限定されるものでないことは言うまでもない。
【0035】
実施例1
断面の概略が図1に示されるような雌雄一対からなる金型装置を使用し、その平面を図2に、図2のA−A部での断面を図3に示すような中空成形体を製造した。
尚、使用した金型のキャビティ寸法は、型締め方向への投影面において縦250mm、横750mmである。
スライドブロックの表面形状は縦100mm、横250mmの長方形であって、前進状態においてその表面(キャビティ面)がこれに隣接する金型のキャビティ面より5mm下方の位置になるように設定され、またその後退ストロ−ク量は30mmとなるように設定され、該スライドブロックは油圧シリンダ−で金型の開閉方向に移動可能となっている。
また、ガス注入部材は直径および長さがそれぞれ10mmの丸棒状の焼結銅を使用し、該部材の先端面がスライドブロックのキャビティ面と同一平面になるようにスライドブロックの中央部に埋め込み、その後端部をガス通路と接続した。
非スライドブロック部分のキャビティクリアランスを30mmとした未閉鎖の雌雄金型間に、溶融したポリプロピレン樹脂(住友化学社製、住友ノ−ブレンBPZ5284、樹脂温度210℃)を雄金型内に設けた樹脂通路から射出供給した。
所定量の溶融ポリプロピレン樹脂の供給完了とほぼ同時に、非スライドブロック部分のキャビティクリアランスが3mmになるまで雌金型を降下させて100トンfの加圧力で型締して溶融ポリプロピレン樹脂を流動させ、キャビティ内を該溶融樹脂で充満させた。
同加圧力で3秒間保持した後、加圧力を30トンfにまで減じると同時に、ガス注入部材から6kgf/cm2 の圧縮空気の注入を開始し、それと同時にスライドブロックの後退を開始した。
加圧力を30トンfに保持しつつ、圧縮空気の注入を行いながら、溶融ポリプロピレン樹脂を40秒間冷却し、固化させた。
その後、圧縮空気の注入を停止し、金型を開いて中空体を取り出した。
得られた中空体は、非スライドブロック部分に対応する部分(平板部)の厚さが3mm、スライドブロック部分に対応する部分(突起部)の厚さが38mmであって、該突起部内には中空率約80%で中空部が形成されていた。
尚、この突起部の中空を形成している天板、底板、中空側壁の厚みは略均一で約3mmであった。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の方法に適用される金型例の断面概略図である。
【図2】本発明の方法の工程を示す金型の断面概略図である。
【図3】本発明の方法の工程を示す金型の断面概略図である。
【図4】本発明の方法の工程を示す金型の断面概略図である。
【図5】本発明の方法により得られる成形体の例を、下側から見た平面図(上段)および該平面図においてA−Aで切断したときの側面断面図(下段)で示したものである。
【図6】本発明の方法により得られる成形体の他の例を、下側から見た平面図(上段)および該平面図においてA−Aで切断したときの側面断面図(下段)で示したものである。
【図7】図6に示す製品を製造する場合の成形開始前のスライドブロックの前進位置を示す概念図である。
【図8】成形開始前のスライドブロックの前進位置を示す他の例の概念図である。
【図9】図8に示す前進位置のスライドブロックを金型凹部の底面まで後退させたときに形成される中空部の形成状態を示す概念図である。
【図10】図8に示す前進位置のスライドブロックを金型凹部の底面まで後退させたときに形成される中空部の形成状態を示す他の例の概念図である。
【図11】成形開始前のスライドブロックの前進位置を示す他の例の概念図である。
【図12】図11に示す前進位置のスライドブロックを後退させたときに形成される中空部の形成状態を示す他の例の概念図である。
【符号の説明】
1:雌金型
2:雄金型
3:スライドブロック
4:移動手段
5:溶融状熱可塑性樹脂
6:キャビティ
7:加圧流体注入口
8:流体注入部材
9:流体通路
10:樹脂通路
11:中空部
12:スライドブロック貫挿孔内周面

Claims (20)

  1. 開閉自在な雌雄一対の金型からなり、少なくともいずれか一方の金型の金型面の一部が対向する金型面に対して進退可能なスライドブロック面で構成され、金型に設けた内周壁面が保熱または断熱されたスライドブロック貫挿孔の中を、該スライドブロックを進退させることによって金型閉鎖状態におけるキャビティ容積を変更可能とした金型を用いて、中空部を有する熱可塑性樹脂成形体を製造する方法であって、
    スライドブロックが対向する金型面に向けて前進位置にある状態で、未閉鎖の雌雄一対の金型間に溶融状熱可塑性樹脂を供給する工程(工程1)、
    金型を閉じて溶融状熱可塑性樹脂を加圧し、キャビティ内に充満させる工程(工程2)、
    溶融状熱可塑性樹脂中に加圧流体を注入する工程(工程3)、
    スライドブロックを対向する金型面に対して後退させる工程(工程4)、
    金型を開いて製品を取りだす工程(工程5)
    を含む工程からなることを特徴とする中空部を有する熱可塑性樹脂成形体の製造方法。
  2. 工程1〜工程5を順次実施する請求項1に記載の方法。
  3. 工程1、工程2、工程4、工程3および工程5の順に実施する請求項1に記載の方法。
  4. 工程1と工程2を同時に行い、金型間に溶融状熱可塑性樹脂を供給しつつ金型を閉じて溶融状熱可塑性樹脂を加圧し、キャビティ内に充満させる請求項1、2、または3に記載の方法。
  5. 工程2と工程3を同時に行い、キャビティ内に溶融状熱可塑性樹脂を充満させつつ、溶融状熱可塑性樹脂中に加圧流体を注入する請求項1または2に記載の方法。
  6. 工程1、工程2および工程3を同時に行い、金型間に溶融状熱可塑性樹脂を供給しつつ金型を閉じて溶融状熱可塑性樹脂を加圧し、キャビティ内に充満させながら、これらと並行してさらに溶融状熱可塑性樹脂中に加圧流体を注入する請求項1または2に記載の方法。
  7. 工程3と工程4を同時に行い、溶融状熱可塑性樹脂中に加圧流体の注入を行いつつスライドブロックを対向する金型面に対して後退させる請求項1、 2または4に記載の方法。
  8. スライドブロック面を金型成形面より低い温度に冷却する請求項1に記載の方法。
  9. スライドブロックが前進位置にある状態において、該スライドブロックのキャビティ面がこれと隣接する金型キャビティ面より下位にある請求項1〜6に記載のいずれかの方法。
  10. 加圧流体の圧力が1kgf/cm2以上10kgf/cm2未満である請求項1〜6に記載のいずれかの方法。
  11. 加圧流体が圧縮空気である請求項1〜6または10に記載の方法
  12. 溶融状熱可塑性樹脂の供給に先立って、予め金型間に表皮材を配設する請求項1〜6に記載のいずれかの方法。
  13. 非スライドブロック部分のキャビティ面に凹部が設けられ、該凹部のキャビティ部分がスライドブロック部分のキャビティ部分と連続してなる金型を用いる請求項1〜6に記載のいずれかの方法。
  14. 加圧流体を、非スライドブロック部分のキャビティの凹部に充満された溶融状熱可塑性樹脂中に注入する請求項1〜6に記載のいずれかの方法。
  15. 加圧流体を、非スライドブロック部分のキャビティの凹部に充満された溶融状熱可塑性樹脂中およびスライドブロック部分のキャビティに充満された溶融状熱可塑性樹脂中に注入する請求項1〜6に記載のいずれかの方法。
  16. 溶融状熱可塑性樹脂中に加圧流体の注入を開始すると同時または開始した後、形成される中空部の一部から流体を放出する請求項1〜6に記載のいずれかの方法。
  17. 工程1の溶融状熱可塑性樹脂を供給しつつまたは供給後、工程5の金型を開いて製品を取り出すまでの工程中、樹脂を加圧する請求項1〜6に記載のいずれかの方法。
  18. 樹脂の加圧力を変化させる請求項17に記載の方法。
  19. 樹脂への加圧力を減少させると同時または減少させた後に、加圧流体の注入を行う請求項18に記載の方法。
  20. 樹脂への加圧力を減少させると同時または減少させた後に、スライドブロックの後退を行う請求項18に記載の方法。
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