JP3858251B2 - 構造物の耐震補強構造 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、主として杭や地下埋設部分を有する構造物の耐震補強構造に関する。
【0002】
【従来の技術】
構造物の基礎形式は、直接基礎、杭基礎、ケーソン基礎等に大別されるが、これらのうち、直接基礎は、フーチング基礎やべた基礎のように構造物の荷重がスラブ底面から地盤に直接伝えられるものであって、表層近傍の地盤強度が構造物の重量に比して相対的に大きい場合に採用される基礎形式である。かかる直接基礎は、通常、表層部分を掘削して良質な地盤を露出させた上で該地盤上に構造物が構築されるので、一定の地下埋設部分を有することが多い。
【0003】
一方、杭基礎は、表層近傍の地盤強度が相対的に小さいため、良質な支持層まで杭を打ち込むことによって構造物の重量を支持する基礎形式である。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
ここで、設計施工時においては、予想される地盤変形に対して杭や地下埋設部分が十分耐えられるように杭や地下埋設部分の構築を行うが、予想に反する巨大地震に見舞われた場合、地震時における地盤変形が過度に大きくなって、構造物の地下埋設部分や杭が不測の損傷を受けるおそれがある。
【0005】
そのため、このような巨大地震が想定されるケースでは、地盤改良、地中連続壁の構築、鋼矢板の打込みといった方法で既設構造物の周囲に拡がる地盤の剛性を高め、該地盤の変形を抑制することが考えられる。
【0006】
しかしながら、かかる方法では、構造物の地下埋設部分や杭に生じる断面力を小さくすることはできても、構造物の地上部分については、地盤剛性と地震波周波数特性との関係あるいは構造物と地盤との相互作用関係いかんにより、構造物への地震入力がかえって大きくなって構造物の応答加速度が大きくなったり、構造物に発生する部材力の分布状況が変化して例えば地表面近傍で応力が集中するといった事態が生じるおそれがあり、さらには地上部分の損傷が地下部分へ及ぶことも考えられるという問題を生じていた。
【0007】
本発明は、上述した事情を考慮してなされたもので、既設構造物の地下埋設部分や杭をその地上部分とともに巨大地震から守ることが可能な構造物の耐震補強構造を提供することを目的とする。
【0008】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するため、本発明に係る構造物の耐震補強構造は請求項1に記載したように、杭で支持されかつ基礎版が地表面より低い位置に設定された構造物の周辺地盤のうち、地下部分には地盤変形を抑制する地盤変形抑制領域を構築するとともに、該地盤変形抑制領域から上方に延びる地表面近傍部分には地盤変形を抑制しない地盤変形非抑制領域を設けた構造物の耐震補強構造であって、前記地盤変形抑制領域を、地盤を掘削しつつセメントと混合攪拌して該地盤を固化させ又は地中連続壁を構築して形成し、前記地盤変形非抑制領域を埋め戻し土で構成したものである。
【0012】
また、本発明に係る構造物の耐震補強構造は、前記地盤変形抑制領域の上端を前記基礎版の下面高さから上面高さまでの範囲内に設定したものである。
【0013】
本発明に係る構造物の耐震補強構造においては、構造物の周囲のうち、地下部分に地盤変形抑制領域を構築してあるので、巨大地震の際にも地盤変形が抑制され、したがって、構造物の杭や基礎版近傍に過大な強制変形が作用することはない。また、該領域から上方に延びる地表面近傍部分に地盤変形を抑制しない地盤変形非抑制領域を設けてあるので、側方からの地震入力が低減され、構造物に過大な部材力が発生することはない。
【0014】
地盤変形抑制領域は、地盤を掘削しつつセメントと混合攪拌して該地盤を固化させるか又は地中連続壁を構築することによって構成する。
【0015】
地盤変形非抑制領域は、地表面近傍の地盤剛性が地下部分ほど高くなく地震時にある程度の変形が許容される構造として、埋め戻し土で構成するものとする。
【0016】
地下部分に構築される地盤変形抑制領域とその上方に延びる形で地表面近傍部分に設けられる地盤変形非抑制領域との境界高さについては、想定される地震規模、地盤条件、地盤変形抑制領域の構築によって期待される地盤剛性の増大の程度、構造物の断面寸法等を考慮しながら適宜設定すればよいが、かかる地盤変形抑制領域の上端を基礎版の下面高さから上面高さまでの範囲内に設定したならば、基礎版の下面にて構造物の荷重を支持する杭に対しては地盤変形抑制領域の作用によって過大な強制変形が作用するのを確実に防止することができるとともに、基礎版の上面から延びる構造物の側壁等に対しては地盤変形非抑制領域の作用によって側方からの地震入力を確実に低減することが可能となる。
【0020】
【発明の実施の形態】
以下、本発明に係る構造物の耐震補強構造の実施の形態について、添付図面を参照して説明する。なお、従来技術と実質的に同一の部品等については同一の符号を付してその説明を省略する。
【0021】
図1は、本実施形態に係る構造物の耐震補強構造を示した断面図である。同図でわかるように、本実施形態に係る構造物の耐震補強構造は、杭5で支持されかつ基礎版8が地表面より低い位置に設定された構造物1の周辺地盤のうち、地下部分には地盤変形を抑制する地盤変形抑制領域としての地中連続壁2を構築するとともに、該地中連続壁から上方に延びる地表面近傍部分には地盤変形を抑制しない地盤変形非抑制領域3を設けてなる。
【0022】
ここで、地盤変形非抑制領域3は、埋め戻し土4で構成してある。また、地中連続壁2の上端を基礎版8の下面高さから上面高さまでの範囲内に設定してある。
【0023】
本実施形態に係る構造物の耐震補強構造を構築するには、図2に示すように、既設の構造物1の周囲に溝11を掘削し、その内部に地中連続壁2を構築する。地中連続壁2の構築にあたっては、従来通り、安定液で孔壁を保護しつつ所定の掘削機で溝を掘削し、しかる後に該溝内に鉄筋篭を吊り込んでコンクリートを打設するようにすればよい。
【0024】
ここで、地中連続壁2のコンクリート天端については、上述したように基礎版8の下面高さから上面高さまでの範囲内に設定する。
【0025】
次に、地中連続壁2の強度が発現した後、該地中連続壁の上方を埋め戻し土4に置換し、地盤変形非抑制領域3とする。
【0026】
本実施形態に係る構造物の耐震補強構造においては、構造物1の周囲のうち、地下部分には地中連続壁2を構築してあるので、巨大地震の際にも地盤変形が抑制され、したがって、構造物1の杭5や基礎版8近傍に過大な強制変形が作用することはない。また、該領域から上方に延びる地表面近傍部分には地盤変形を抑制しない地盤変形非抑制領域3を設けてあるので、側方からの地震入力が低減され、構造物1に過大な部材力が発生することはない。
【0027】
以上説明したように、本実施形態に係る構造物の耐震補強構造によれば、地中連続壁2によって地下部分の地盤剛性を高めるようにしたので、地震時における杭5や基礎版8に作用する強制変形を抑えることが可能となるとともに、地盤変形非抑制領域3によって地表面近傍の地盤の変形を抑制しないようにしたので、地震時における側方からの地震入力を低減することが可能となる。
【0028】
したがって、杭5や基礎版8に生じる断面力が低減し、これらの部材は、破損することなく健全性が維持されるとともに、構造物1にも過大な部材力が発生するおそれがなくなり、かくして構造物全体の耐震性を向上させることが可能となる。
【0029】
ここで、本実施形態の作用効果を確認すべく、動的応答解析を行ったので、その結果を図3に示す。
【0030】
同図に示すグラフは、地中連続壁を構築しない場合(未改良、左端)、地中連続壁を地表面まで構築した場合(中央)、及び本実施形態のように地中連続壁を地下部分に限定した場合(右端)で構造物1に生ずるせん断力がどのように変化するかを示したものである。
【0031】
同図から、地中連続壁2を地表面まで構築すると、構造物1に生ずるせん断力が増加して耐震性に余裕がなくなるが、本実施形態のように地中連続壁2の構築範囲を地下部分に限定し、その上に地盤変形非抑制領域3を設けるようにすれば、構造物1に生ずるせん断力が大幅に減少し、地中連続壁を構築しない場合よりもさらに低減されることがわかる。
【0032】
また、本実施形態によれば、地中連続壁2の上端を基礎版8の下面高さから上面高さまでの範囲内に設定したので、基礎版8の下面にて構造物1の荷重を支持する杭5に対しては地中連続壁2の作用によって過大な強制変形が作用するのを確実に防止することができるとともに、基礎版8の上面から延びる構造物1の側壁6に対しては地盤変形非抑制領域3の作用によって側方からの地震入力を確実に低減することが可能となる。
【0033】
本実施形態では、地盤変形非抑制領域3を埋め戻し土4で形成するようにしたが、これに代えて図4に示すように、ドライエリアのような中空空間を地表面近傍にて構造物1の周囲に設け、これを地盤変形非抑制領域21としてもよい。かかる構成によれば、該領域を設備機器を設置する空間や作業用の空間として有効利用することが可能となる。
【0034】
また、図5に示すように、地表面近傍にて構造物1の周囲に緩衝材32を充填配置し、これを地盤変形非抑制領域31としてもよい。緩衝材32としては、材料自体が変形吸収能に富んだ発泡スチロール等を使用するのが望ましい。かかる構成によれば、地震による構造物1の振動が緩衝材32によって減衰作用を受け、該振動が速やかに収斂するという作用効果が得られる。
【0035】
また、図6に示すように、地表面近傍にて構造物1の側壁6から離間させた状態で砂利、砕石等で構成されたドレーン帯41を設け、これを地盤変形抑制領域とすれば、構造物1の地下水対策が緩和され、側壁6を二重壁とする必要がなくなるといったことも期待できる。
【0036】
また、図7に示すように、地表面近傍にて構造物1の側壁6の周囲に貯水領域51を設け、これを地盤変形非抑制領域とすれば、該貯水領域を防火用貯水池や遊水池として活用することが可能となる。
【0038】
【発明の効果】
以上述べたように、請求項1に係る本発明の構造物の耐震補強構造によれば、地盤変形抑制領域によって地震時における杭や基礎版に作用する強制変形を抑えることが可能となるとともに、地盤変形非抑制領域によって地表面近傍の地盤の変形を抑制しないようにしたので、地震時における側方からの地震入力を低減することが可能となる。したがって、杭や基礎版に生じる断面力が低減し、これらの部材は、破損することなく健全性が維持されるとともに、構造物にも過大な部材力が発生するおそれがなくなり、かくして構造物全体の耐震性を向上させることが可能となる。
【0039】
また、請求項2に係る本発明の構造物の耐震補強構造によれば、基礎版の下面にて構造物の荷重を支持する杭に対しては地盤変形抑制領域の作用によって過大な強制変形が作用するのを確実に防止することができるとともに、基礎版の上面から延びる構造物の側壁に対しては地盤変形非抑制領域の作用によって側方からの地震入力を確実に低減することが可能となるという効果も奏する。
【0043】
【図面の簡単な説明】
【図1】本実施形態に係る構造物の耐震補強構造の図であり、(a)は断面図、(b)はA―A線に沿う水平断面図。
【図2】本実施形態に係る構造物の耐震補強構造を施工している様子を示した断面図。
【図3】本実施形態に係る構造物の耐震補強構造の作用効果を確認するための動的応答解析の結果を示したグラフ。
【図4】変形例に係る構造物の耐震補強構造を示した断面図。
【図5】変形例に係る構造物の耐震補強構造を示した断面図。
【図6】変形例に係る構造物の耐震補強構造を示した断面図。
【図7】変形例に係る構造物の耐震補強構造を示した断面図。
【符号の説明】
1 構造物
2 地中連続壁(地盤変形抑制領域)
3 地盤変形非抑制領域
4 埋め戻し土
5 杭
6 側壁
8 基礎版
21 地盤変形非抑制領域
31 地盤変形非抑制領域
32 緩衝材
41 ドレーン帯(地盤変形非抑制領域)
51 貯水領域(地盤変形非抑制領域)
Claims (2)
- 杭で支持されかつ基礎版が地表面より低い位置に設定された構造物の周辺地盤のうち、地下部分には地盤変形を抑制する地盤変形抑制領域を構築するとともに、該地盤変形抑制領域から上方に延びる地表面近傍部分には地盤変形を抑制しない地盤変形非抑制領域を設けた構造物の耐震補強構造であって、前記地盤変形抑制領域を、地盤を掘削しつつセメントと混合攪拌して該地盤を固化させ又は地中連続壁を構築して形成し、前記地盤変形非抑制領域を埋め戻し土で構成したことを特徴とする構造物の耐震補強構造。
- 前記地盤変形抑制領域の上端を前記基礎版の下面高さから上面高さまでの範囲内に設定した請求項1記載の構造物の耐震補強構造。
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1998
- 1998-03-24 JP JP09537598A patent/JP3858251B2/ja not_active Expired - Fee Related
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