JP3856524B2 - 木質材への薬液類の含浸方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、機械的強度向上や難燃性・防腐性の付与のような目的で木質材に薬液類を含浸させる際の、改良された薬液類の含浸方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
単板、無垢材のような自然木から製材された板材、あるいは、合板等の木質加工材料(以下、これらを総称して「木質材」という)に対し、機械的強度の向上や難燃性・防腐性の付与の目的から、不飽和ポリエステル樹脂溶液やコロイダルシリカ溶液のような薬液類を含浸させることが行われる。
【0003】
含浸は、通常、被処理木質材を薬液中に浸漬して含浸させる浸漬含浸法、被処理木質材を温かい薬液(温浴)中で加熱した後、冷たい薬液中(冷浴)に急速に移して冷却させることにより該木質材中に薬液類を吸収含浸させるようにした温冷浴含浸法、含浸の妨げとなっている木材中の空気を減圧によって排除して薬液類の含浸をし易くした減圧含浸法、外圧によって薬液類を強制的に押し込める加圧含浸法、さらには、前記した減圧と加圧を組み合わせた注入法、等により行われる。
このようにして薬液類が注入、含浸された木質材は、未処理の木質材と比較して、機械的強度の向上や難燃性・防腐性のような物性の改善がもたらされる。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
木質材へ薬液等を含浸処理する場合、薬液等が短い時間で木質材内部に均一にかつ多量に浸透することが基本的に望まれる。しかし、現実の含浸処理では、そのいずれもが所期どおりに達成されているとは言いがたい。事実、比較的木質材中への浸透が容易な水の場合でも、被処理木材の内部にまで均一に浸透し平衡状態に到達するにはかなりの時間を要する。その理由は、通常、木材内部の空隙部には空気が充満しており、水との置換が容易に行われないため、浸透が困難で含浸が不十分なものとなると考えられる。樹脂溶液等の薬液類の場合には、水の比較してその分子量の大きさや粘性のために、浸透は一層困難となる。
【0005】
これらの浸透性を克服するために、例えば、分子量が低くまた粘度の低い浸透性の高い薬液を用いる等、使用する薬液を制限したり、前記したように、減圧含浸法、加圧含浸法、もしくは減圧と加圧の組み合わせた含浸法、等を用いることが行われる。場合によっては、非常に長時間を要して薬液の浸漬含浸を行っている。しかしながら、所望の含浸結果を得ることができないのが現状であり、特に、短い処理時間での有効処理が望まれている。
【0006】
また、木質材内で細胞間を連絡しているのは壁孔であり、通常、気乾材(含水率12〜14%程度)では壁孔はトールスによって閉塞している。開いている状態でも、壁孔を通過できる薬液の大きさはマルゴを形成するミクロフィブリルの間隔によって制限されるために、前記のような強制的注入方法で強制的に含浸しようとしても、壁孔の大きさ以上の薬液は通過できない。そのために、薬液の種類は制限を受けざるを得ない。
【0007】
うまく含浸できたとしても、含浸処理により引き起こされる膨潤が、含浸の状態や木質材の状態によつて不均一に起こるため、そのままで最終製品として扱うことはできず、結局、含浸後に製材を行うか、研磨やかんながけのような仕上げ工程が必要となる。また、一般に、木口付近は良好な浸透性を示すものの、木口から離れるに従い浸透が困難になっていく。そのために、薬液の含浸処理がなされた場合に、木口付近だけが膨潤してしまうことが避けられない。
【0008】
特に、PB(パーチクルボード)、MDF(中質繊維板)、OSB(配向性ストランドボード)のような圧縮成形された材料に対しては、薬液含浸時に厚さ方向に大きく膨張し、乾燥後に元の厚さに戻らない。
【0009】
さらに、含浸後に薬液成分を木材内で固着させるために乾燥処理をすることが必要となるが、乾燥過程においても、水分又は溶媒が抜けにくいために、溶媒を揮発させる工程や樹脂等を硬化させる工程に長い時間を必要としている。短時間で行おうとすると水分傾斜が大きくなり、処理木材に反りや割れ等が生じる。
【0010】
他の薬液含浸処理法として、低圧水蒸気や圧縮空気を用いた低圧爆砕法が行われる(例えば、特開平5−237812号公報、特開平6−39807号公報等参照)。この方法は、一回当たりの蒸煮条件を緩くした蒸煮処理と瞬時の大気開放とを複数回繰り返し行うことにより、細胞壁孔やその周辺の細胞に小規模の破壊を起こさせ、乾燥性及び含浸性を促進しようとするものであるが、この処理方法は、複数回、処理を反復して行う必要があり、所望の含浸量を得るまでに非常に時間がかかってしまう。
【0011】
本発明の目的は、従来の木質材への薬液類の含浸方法が持つ上記のような不都合を解消することのできる新規な含浸方法を提供することにあり、より具体的には、短い処理時間で、より多くの量の薬液等を、その寸法を変えることなく、内部まで均一に含浸させることのできる木質材への薬液類の含浸方法、及び、該含浸方法により製造された木質材を提供することにある。
【0012】
【課題を解決するための手段】
上記の課題を解決するための本発明による木質材への薬液類の含浸方法は、密閉された空間内に木質材を収容し、木質材を加熱して収容した木質材そのものが有する水分を高圧水蒸気化して当該木質材に加熱水蒸気処理を施し、密閉された空間内を減圧状態とした後に、該減圧状態の空間内に高圧水蒸気を外部から供給し、供給した高圧水蒸気で当該木質材に加熱水蒸気処理を施し、該加熱水蒸気処理を施した木質材に対して薬液類を含浸することを特徴とする。
【0014】
また、高圧水蒸気を外部から供給する場合に、密閉された空間内を減圧状態とした後に供給を行うことは効果的であり、処理時間の短縮が図られる。
その後に行う薬液類を含浸させる方法は、従来行われている任意の方法を適宜用いればよく、浸漬含浸法、温冷浴含浸法、減圧含浸法、加圧含浸法、又は、それらの組合せによる含浸方法、等を利用できる。
【0015】
前記のような加熱水蒸気処理を施すことにより、被処理木質材は高い寸法安定性を持つようになると同時に、その深部にいたるまで壁孔及びその周辺が小規模に破壊され、易浸透性材料となる。そのために、該処理済みの木質材に対して従来法による薬液等の含浸処理を施すことによって、未処理の木質材に施す場合と比較して、より短い処理時間でより多くの量の薬液等が木質材の内部にまで均一に容易にかつ確実に含浸する。
【0016】
本発明において、被処理材としての木質材に特に制限はなく、単板、無垢材、のような自然木から製板された材料、合板、パーチクルボード、MDF、OSB等のような木質加工材料を、単独であるいはそれらの複合材の形で、すべて用いうる。また、処理時での被処理材の含水率も任意である。さらに、自然乾燥状態のものでもよく、処理効率を上げる目的で、予め、例えば熱風循環式ドライヤー、ジェットドライヤー、赤外線(遠赤外線、近赤外線)ドライヤー、熱プレス、あるいはマイクロウェーブを含む高周波加熱等の加熱手段によって加熱乾燥処理を施し、自然状態による含水率より低い含水率とした木質材であってもよい。
【0017】
いずれの場合も、加熱水蒸気処理により壁孔及びその周辺が小規模に破壊されて易浸透性材料となることから、ヤニの多い無垢材のような難浸透性材料も効率よく含浸処理することができる。また、後記するように、加熱水蒸気処理を施した木質材は、その後の薬液等の含浸処理によって膨潤が生じないことから、従来薬液含浸処理が困難であった、パーチクルボード、MDF、OSBのような圧縮成形された材料に対しても本発明の処理方法は有効に機能する。
【0018】
前記密閉された空間は、加熱水蒸気の供給が可能であり、また、真空引きが可能であることを条件に、従来用いられている木質材処理用の耐圧型圧力容器による密封空間であってもよく、また、木質材の圧締や複合材の製造に従来用いられる熱盤プレスに装着される熱盤の間に形成される密封空間であってもよい。
【0019】
前記耐圧型圧力容器又は熱盤プレスは、熱源を有するもの、有しないものいずれであってもよいが、熱源を有するものが特に推奨される。熱源としては、耐圧型圧力容器あるいは熱盤プレスに組み込まれたヒーター、加熱蒸気、バンドヒーター等の電気的加熱手段、マイクロウェーブを含む高周波加熱、等任意であり、該熱源によって前記密封空間は予め昇温状態とされ、そこに、被処理材としての木質材が収容される。昇温温度は、好ましくは加熱水蒸気による寸法安定化処理が進行する温度範囲、すなわち、約180℃〜220℃程度の範囲である。処理すべき木質材を収容後、加熱を継続し、必要に応じて、密封空間内に加熱水蒸気を供給する。それにより、木質材の加熱水蒸気処理は進行し、寸法安定化と同時に、深部にいたるまで壁孔及びその周辺が小規模に破壊され、易浸透性材料となる。
【0020】
加熱水蒸気を密封空間内に供給する場合は、高圧水蒸気、すなわち、飽和水蒸気又は過熱水蒸気(飽和水蒸気より高い温度の水蒸気)を、減圧状態とされた密封空間内に噴出させる。処理条件は対象となる木質材の種類及び寸法等によって実験的に最適値が定められるが、加熱水蒸気の圧力は数kgf/cm2 〜30kgf/cm2 、温度は150℃〜230℃程度が好ましい。
【0021】
密封空間内の真空引きを平行して行う場合には、噴出する加熱水蒸気は、噴出力に加えて吸引力の作用を受け、運動エネルギーが増大する。それにより、従来法よりも短時間で木質材の内部若しくは深部にまで加熱水蒸気が確実に透過し、かつ均一に行き渡る。その結果、寸法安定化処理が速やかにかつ全域にわたり進行し、同時に壁孔及びその周辺の小規模破壊も全域にわたり迅速に進行する。
【0022】
本発明において処理すべき木質材の初期厚さは、所望の最終製品の厚さとほぼ同じ厚さのものであってもよく、それよりも厚いものであってもよい。前者の場合はいわゆる圧密処理は施されないが、後者の場合は圧密処理と共に寸法安定化処理が施される。
【0023】
なお、上記の加熱水蒸気処理は、例えば、特開平6−238616号公報、特開平8−108406号公報等に記載されるような従来公知の方法を適宜用いることができる。
【0024】
上記のようにして加熱水蒸気処理を施した後、解圧バルブを開ける等の適宜の手段により、密封空間内を緩やかに常圧に戻し、密封空間内から被処理材を取り出し、従来法のいずれかによる薬液等の含浸処理を施す。薬液等の含浸処理を施す時期は任意であり、加熱水蒸気処理直後であってもよく、加熱水蒸気処理後に一定時間経過後にあってもよい。好ましくは、加熱水蒸気処理直後であって木質材の温度が60℃以上、さらに好ましくは100℃以上のときに、常圧浸漬処理を短時間(秒・分オーダー)で一回だけ行う。このようにすることにより、加熱水蒸気処理後に一定時間経過し常温近くなった被処理材に減圧含浸等を行ったときと同等の含浸量を容易なやり方でかつ短時間で得ることができる。
【0025】
また、使用する薬液にも特に制限はなく、従来の木質材の薬液含浸処理に用いているものをすべて用いうるが、加熱水蒸気処理によって木質材の壁孔やその周辺が破壊され、薬液含浸の際の通導口が確保されることから、従来使用が困難であった分子量の大きな薬液類も支障なく用いことができる。
【0026】
【実施例】
以下、実施例により本発明を説明する。
〔実施例1〕
前もって200℃に温めておいた内寸12×110×100mmのステンレス製耐圧容器内に、寸法10×100×900mmのスギの板目材を配置させて、15kgf/cm2 で200℃の加熱水蒸気を10分間噴射注入する高圧水蒸気による加熱水蒸気処理を行った。10分間処理後に容器内蒸気を解圧バルブで緩やかに常圧に戻した後、処理材を取り出した。
【0027】
該処理材に対し、不飽和ポリエステル樹脂溶液(不飽和ポリエステル:スチレン:BPO=60:40:5重量%比)を減圧法で1時間、さらに、常圧に戻して1時間含浸を行った。その後、ホットプレスを用いて130℃、5kgf/cm2 の条件で10分間加熱・加圧を行い、樹脂を硬化させた。
【0028】
〔実施例2〕
寸法10×100×900mmのOSBに対して実施例1と同様の処理を行った。
【0029】
〔比較例1〕
加熱水蒸気処理を行っていないスギ材(寸法10×100×900mm)に対し、実施例1と同様の処理を行った。
【0030】
〔比較例2〕
加熱水蒸気処理を行っていないOSB(寸法10×100×900mm)に対し、実施例1と同様の処理を行った。
【0031】
〔実施例3〕
寸法10×100×900mmのスギ板目材に対して実施例1と同様に10分間の水蒸気処理を行った後、数秒以内にコロイダルシリカ溶液(SiO2 として30%)に沈め1分間常圧浸漬処理を行った。1分後溶液中より処理材を取り出し表面の水分をウエスで軽く拭き取った後、80℃乾燥器中で48時間乾燥を行った。
【0032】
〔比較例3〕
加熱水蒸気処理を行っていないスギ材(寸法10×100×900mm)に対し、実施例3と同様の処理を行った。
【0033】
〔評価試験〕
実施例1及び比較例1製品について、重量増加率、繊維方向変化率(L変化率)、放射方向変化率(R変化率)、及び、接線方向変化率(T変化率)を求めた。その結果を表1に示す。また、実施例2と比較例2の製品については、重量増加率、縦変化率、横変化率、及び、厚さ変化率を求めた。その結果を表2に示す。実施例3及び比較例3製品について、重量増加率を求めた。その結果を表3に示す。
【0034】
なお、重量増加率は全乾状態における薬液含浸前後の重量変化を示し、〔(薬液処理後の全乾重量−薬液処理前の全乾重量)/薬液処理前の全乾重量〕×100として計算した。また、それぞれの変化率は全乾状態における薬液含浸前後の寸法変化を示し、〔(薬液処理後の全乾時の寸法−薬液処理前の全乾時の寸法)/薬液処理前の全乾時の寸法〕×100として計算した。
【0035】
【表1】
スギ材に対する処理(不飽和ポリエステル樹脂溶液含浸)
【0036】
【表2】
OSBに対する処理(不飽和ポリエステル樹脂溶液含浸)
【0037】
【表3】
スギ材に対する処理(数秒以内にコロイダルシリカ溶液)
【0038】
〔考察〕
表1、表2からわかるように、本発明による処理を行うことにより、同じ処理時間での薬液含浸量が大きく向上し、また、被処理材の寸法安定性がすでに改善されていることから、薬液含浸による膨潤は全方向において生じない。また、表3から、加熱水蒸気処理後、数秒以内に常圧含浸処理を行うことにより、従来1分間程度の常圧含浸法では考えられなかった含浸量を得ることができた。
【0039】
【発明の効果】
本発明によれば、被処理木質材にあらかじめ加熱水蒸気処理を行うことによって、木質材内の壁孔及びその周辺部は深部まで小規模に破壊され、そこが薬液含浸の際の通導口として機能する。それにより、薬液等の含浸速度が増し、含浸処理時間の短縮が可能となる。さらに、薬液中の物質が従来より大きい(分子量が大きい)ものの場合でも壁孔及びその周辺部を通過できることから、薬液等の選択の幅も広がる。
特に、加熱水蒸気処理直後の数秒以内に短時間の常圧含浸処理を行うだけで、従来同時間では得られなかったような含浸量を得ることができる。
【0040】
また加熱水蒸気処理で寸法安定性がすでに付与されているため、薬液含浸を行っても木質材は膨潤を起こすことはなく、最終製品に含浸処理を行うことが可能となる。そのために、従来薬液含浸処理を行うと膨潤してしまうパーチクルボード、MDF、OSBのような圧縮成形されたボードへの後処理としての薬液含浸処理が可能となる。
また、前記薬液の通導口は、含浸後の乾燥時にも有効に機能することから、被処理材の乾燥を効率的かつ短時間で行うことができる。
Claims (5)
- 密閉された空間内に木質材を収容し、木質材を加熱して収容した木質材そのものが有する水分を高圧水蒸気化して当該木質材に加熱水蒸気処理を施し、密閉された空間内を減圧状態とした後に、該減圧状態の空間内に高圧水蒸気を外部から供給し、供給した高圧水蒸気で当該木質材に加熱水蒸気処理を施し、該加熱水蒸気処理を施した木質材に対して薬液類を含浸することを特徴とする木質材への薬液類含浸方法。
- 密閉された空間内に収容する木質材として、加熱乾燥処理を予め施して自然状態による含水率より低い含水率とした木質材を用いることを特徴とする請求項1記載の木質材への薬液類含浸方法。
- 薬液類の含浸方法が、浸漬含浸法、温冷浴含浸法、減圧含浸法、加圧含浸法、又は、それらの組合せによる含浸方法であることを特徴とする請求項1又は2記載の木質材への薬液類含浸方法。
- 木質材に加熱水蒸気処理を施した後、該木質材の温度が60℃以上の状態で、常圧下浸漬含浸法による薬液類の含浸を行うことを特徴とする請求項1ないし3いずれか記載の木質材への薬液類含浸方法。
- 前記木質材の温度が100℃以上の状態で、常圧下浸漬含浸法による薬液類の含浸を行うことを特徴とする請求項4記載の木質材への薬液類含浸方法。
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