JP3855608B2 - 電界放射型電子源およびその製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、半導体材料を用いて電界放射により電子線を放射するようにした電界放射型電子源およびその製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
従来から、特開平8−250766号公報に開示されているようにシリコン基板などの単結晶の半導体基板を用い、その半導体基板の一表面を陽極酸化することにより多孔質半導体層(ポーラスシリコン層)を形成して、その多孔質半導体層上に金属薄膜を形成し、半導体基板と金属薄膜との間に電圧を印加して電子を放射させるように構成した電界放射型電子源(半導体冷電子放出素子)が知られている。
【0003】
上記公報に記載された電界放射型電子源は、単結晶の半導体基板が必須構成であるから大面積化が困難であって、平面ディスプレイ装置のように大面積の電子源を要する用途には適していないものである。
【0004】
これに対して、本願発明者らは、特願平10−272340号、特願平10−272342号などにおいて大面積化の可能な電界放射型電子源を提案した。これらの電子源は、導電性基板と導電性薄膜との間に、多孔質多結晶半導体層(たとえば、多孔質化された多結晶シリコン層)を急速熱酸化(RTO)技術によって急速熱酸化することによって形成した強電界ドリフト層を介在させた構造を有し、導電性基板から強電界ドリフト層に注入された電子が強電界ドリフト層においてドリフトするようになっている。この種の電界放射型電子源は、たとえば図9に示すように、導電性基板としてのn形シリコン基板11の主表面側に、酸化した多孔質多結晶シリコン層よりなる強電界ドリフト層6のドリフト部6a(図示する構成では強電界ドリフト層6の全体がドリフト部6aとして機能する)を介して金属薄膜よりなる導電性薄膜7が積層され、n形シリコン基板11の裏面にオーミック電極2が積層された形状に形成される。
【0005】
図9に示す電界放射型電子源から電子を放出させるには、図10に示すように、導電性薄膜7に対向配置されたコレクタ電極12を設け、導電性薄膜7とコレクタ電極12との間を真空とした状態で、導電性薄膜7がn形シリコン基板11(オーミック電極2)に対して高電位側となるように導電性薄膜7とn形シリコン基板11との間に直流電圧Vpsを印加するとともに、コレクタ電極12が導電性薄膜7に対して高電位側となるようにコレクタ電極12と導電性薄膜7との間に直流電圧Vcを印加する。各直流電圧Vps,Vcを適宜に設定すれば、n形シリコン基板11から注入された電子が強電界ドリフト層6をドリフトし導電性薄膜7を通して放出される(なお、図10中の一点鎖線は導電性薄膜7を通して放出された電子e-
の流れを示す)。導電性薄膜7には仕事関数の小さな材料が採用され、導電性薄膜7の膜厚は10〜15nm程度に設定されている。
【0006】
ここで、強電界ドリフト層6のドリフト部6aは、図11に示すように、柱状の多結晶シリコンからなるグレイン21と、グレイン21の表面に形成された薄いシリコン酸化膜22と、多結晶シリコンのグレイン21の間に介在するナノメータオーダの微結晶シリコン23と、微結晶シリコン23の表面に形成され微結晶シリコン23の結晶粒径よりも小さい膜厚の絶縁膜であるシリコン酸化膜24とを少なくとも含むと考えられる。このドリフト部6aは上述した処理を行う前の多結晶シリコンに含まれていたグレインの表面が多孔質化し、残されたグレイン21で結晶状態が維持されているものと考えられる。したがって、ドリフト部6aに印加された電界の大部分はシリコン酸化膜24を集中的に通り、注入された電子e-はグレイン21の間でシリコン酸化膜24を通る強電界により加速され図10の矢印Aの向き(図11中の上向き)にドリフトする。なお、ドリフト部6aの表面に到達した電子はホットエレクトロンであると考えられ、導電性薄膜7を容易にトンネルし真空中に放出される。
【0007】
上述の構成を有する電界放射型電子源では、導電性薄膜7とオーミック電極2との間に流れる電流をダイオード電流Ipsと呼び、コレクタ電極12と導電性薄膜7との間に流れる電流を放出電子電流Ieと呼ぶことにすれば(図10参照)、ダイオード電流Ipsに対する放出電子電流Ieの比率(=Ie/Ips)が大きいほど電子放出効率が高くなる。なお、この電界放射型電子源では、導電性薄膜7とオーミック電極2との間に印加する直流電圧Vpsを10〜20V程度の低電圧としても電子を放出させることができる。また、この電界放射型電子源は、電子放出特性の真空度依存性が小さく、しかも電子放出時にポッピング現象が発生せず、電子を高い電子放出効率で安定して放出することができる。
【0008】
ところで、上述した構成例では導電性基板としてn形シリコン基板11を用いているが、n形シリコン基板11に代えてガラス基板のような絶縁性基板上にITO膜のような導電体層を形成した基板を用いることもでき、このような構成の導電性基板を用いると、電子源の大面積化および低コスト化が可能になる。このような構成の導電性基板を用いた電界放射型電子源の一例を図12に示す。図12に示す電界放射型電子源は、ガラス基板よりなる絶縁性基板13と、絶縁性基板13の上に形成したITO膜よりなる導電体層8bとで構成した導電性基板を用いており、導電体層8bには強電界ドリフト層6(つまりドリフト層6a)を介して金属薄膜よりなる導電性薄膜7が積層されている。この電界放射型電子源では、強電界ドリフト層6が導電体層8bの上にノンドープの多結晶シリコン層を堆積させた後に、多結晶シリコン層を陽極酸化処理にて多孔質化し、さらに酸化あるいは窒化することにより形成されている。
【0009】
図12に示す電界放射型電子源から電子を放出させるには、図9に示した電界放射型電子源と同様に導電性薄膜7に対向配置されたコレクタ電極12を設ける。つまり、図13に示すように、導電性薄膜7とコレクタ電極12との間を真空とした状態で、導電性薄膜7が導電体層8bに対して高電位側となるように導電性薄膜7と導電体層8bとの間に直流電圧Vpsを印加するとともに、コレクタ電極12が導電性薄膜7に対して高電位側となるようにコレクタ電極12と導電性薄膜7との間に直流電圧Vcを印加する。各直流電圧Vps,Vcを適宜に設定すれば、導電体層8bから注入された電子が強電界ドリフト層6をドリフトし導電性薄膜7を通して放出される(なお、図13中の一点鎖線は導電性薄膜7を通して放出された電子e-の流れを示す)。なお、図12の電界放射型電子源をディスプレイなどへ応用する場合には、導電体層8bをストライプ状にパターニングし、導電性薄膜7を導電体層8bに直交する方向のストライプ状に形成すればよい。
【0010】
【発明が解決しようとする課題】
ところで、上述の強電界ドリフト層6を有する電界放射型電子源では、ドリフト部6aの表面の法線方向へ電子e-が放出されるという特徴を有している。しかしながら、多結晶シリコンを陽極酸化処理によって多孔質化し、窒化あるいは急速熱酸化による酸化を施してドリフト部6aを形成しているものであるから、導電性基板上への多結晶シリコン層の堆積時にグレインの成長により多結晶シリコン層の表面に凹凸が形成されてしまい、結果的に、ドリフト部6aの表面に凹凸が形成されてしまうので、導電性基板と導電性薄膜7との間に電圧を印加した時にドリフト部6aの表面の凹凸にほぼ沿って等電位面が形成され、電子e-の放出方向のばらつきが大きくなってしまい、高精細なディスプレイなど電子e-の放出方向の許容角度範囲が狭いデバイスへの応用が難しいという不具合があった。すなわち、図14(b)に示すようにグレイン21の成長度合が面内で異なる場合には図14(a)に示すように、導電性基板100上に形成されたドリフト部6aの表面に凹凸が形成されるので、図14(b)に示すように電子e-の放出方向が導電性基板100の厚み方向(同図(b)における上方向)から傾いた方向になってしまうという不具合があった。なお、図14(a)には導電性基板100上に形成した多結晶シリコン層3の厚み方向の途中までを多孔質化した場合の例を示してあり、図14(b)において図11と同じ構成要素には同一の符号を付してある。
【0011】
本発明は上記事由に鑑みて為されたものであり、その目的は、電子の放出方向のばらつきが従来に比べて小さな電界放射型電子源およびその製造方法を提供することにある。
【0012】
【課題を解決するための手段】
請求項1の発明は、上記目的を達成するために、導電性基板と、導電性基板の一表面側に形成された強電界ドリフト層と、該強電界ドリフト層上に形成された導電性薄膜とを備え、導電性薄膜を導電性基板に対して正極として電圧を印加することにより導電性基板から注入された電子が強電界ドリフト層をドリフトし導電性薄膜を通して放出される電界放射型電子源であって、強電界ドリフト層は、表面が平滑化された多結晶シリコン層を多孔質化してから酸化若しくは窒化することにより形成された酸化若しくは窒化した多孔質多結晶シリコン層を有することを特徴とするものであり、多孔質多結晶シリコン層の表面が平滑なので、導電性薄膜を導電性基板に対して正極として電圧を印加したときに多孔質多結晶シリコン層の表面近傍に形成される等電位面が導電性基板の一表面にほぼ平行になるから、従来に比べて電子の放出方向のばらつきが小さくなり、高精細なディスプレイなど電子の放出方向の許容角度範囲が狭いデバイスへの応用が可能になる。
【0013】
また、請求項1の発明では、多孔質多結晶シリコン層は、多孔質化された領域の厚みが均一となるように、表面が平滑化された多結晶シリコン層の陽極酸化処理において、導電性基板と対極との間にパルス状の電流を極性を交互に反転して通電することにより形成されてなるので、陽極酸化処理において多孔質化された領域の厚みをほぼ均一にすることができるから、導電性薄膜を導電性基板に対して正極として電圧を印加したときに多孔質化された領域にほぼ均等に電界が作用するから、上記多孔質多結晶シリコン層内の等電位面が導電性基板にほぼ平行になり、電子の放出方向のばらつきおよび電子の放出量のむらを小さくすることができる。
【0017】
請求項2の発明は、請求項1記載の電界放射型電子源の製造方法であって、導電性基板の一表面上に形成した多結晶シリコン層を陽極酸化処理にて多孔質化することにより多孔質多結晶シリコン層を形成する前に、前記多結晶シリコン層の表面を平滑化する平滑化工程を備えることを特徴とし、表面が平滑化された前記多結晶シリコン層を陽極酸化処理にて多孔質化することにより多孔質多結晶シリコン層を形成しているので、従来に比べて強電界ドリフト層の表面を平滑にすることが可能となり、電子の放出方向のばらつきが従来に比べて小さな電界放射型電子源を提供することができる。
【0018】
請求項3の発明は、請求項2の発明において、上記平滑化工程は、電解研磨法により前記多結晶シリコン層の表面を平滑化する工程なので、上記陽極酸化処理に用いる装置を利用して電解研磨法により前記多結晶シリコン層の表面を平滑化するから、平滑化のために別途の装置を用意する必要がなく、低コストで前記多結晶シリコン層の表面を平滑化することができ、結果としてコストアップを抑制することができる。
【0019】
請求項4の発明は、請求項2の発明において、上記平滑化工程は、反応性イオンエッチング法により前記多結晶シリコン層の表面を平滑化する工程なので、たとえば前記多結晶シリコン層上にシリコン酸化膜やシリコン窒化膜などのマスク材料層を堆積し、マスク材料層を反応性イオンエッチング法によりパターニングすることでマスクを形成した後に陽極酸化処理を行うような場合、マスク材料層のパターニング時にマスク材料層のエッチングに連続して前記多結晶シリコン層の表面の平滑化を行うことができるから、平滑化のために別途の装置を用意する必要がなく、低コストで前記多結晶シリコン層の表面を平滑化することができ、結果としてコストアップを抑制することができる。
【0021】
請求項5の発明は、請求項2ないし請求項4の発明において、前記導電性基板として、絶縁性基板の一表面に陽極酸化処理時に用いるフッ酸に対する耐食性を有する導電体層を設けた基板を用い、上記陽極酸化処理は、多孔質化された領域を導電性層に到達させるように前記多結晶シリコン層を多孔質化する処理なので、陽極酸化処理と別途の工程を追加することなしに多孔質化された領域の厚みをほぼ均一にすることができるから、コストアップを防ぐことができる。
【0023】
【発明の実施の形態】
(第1の実施の形態)
本実施形態では、図3に示すように、電界放射型電子源(以下、電子源という)10に対向してガラス基板14を配設し、ガラス基板14における電子源10との対向面にコレクタ電極12および蛍光体層15を設けることによってディスプレイ装置を構成する例を示す。蛍光体層15はコレクタ電極12の表面に塗布されており、電子源10から放射される電子により可視光を発光する。また、ガラス基板14は図示しないスペーサによって電子源10と離間させてあり、ガラス基板14と電子源10との間に形成される気密空間を真空にしてある。
【0024】
本実施形態で用いる電子源10は、図3ないし図5に示すように、p形シリコン基板16の主表面側に導電体層としての複数本のn形領域8aがストライプ状に形成された導電性基板と、各n形領域8aにそれぞれ重なる形でストライプ状に形成された酸化した多孔質半導体層たる多孔質多結晶シリコン層よりなるドリフト部6aおよびドリフト部6aの間を埋めてドリフト部6aとほぼ面一となった多結晶シリコン層よりなる分離部6bを有する強電界ドリフト層6と、強電界ドリフト層6の上でドリフト部6aおよび分離部6bに跨ってn形領域8aに直交する方向のストライプ状に形成された複数本の導電性薄膜(たとえば、金薄膜)よりなる導電性薄膜7とを備えている。
【0025】
上述した電子源10は、ストライプ状に形成されたn形領域8aと、n形領域8aに直交するストライプ状に形成された導電性薄膜7との間に強電界ドリフト層6のドリフト部6aが挟まれているから、導電性薄膜7とn形領域8aとの組を適宜選択して選択した組間に電圧を印加することにより、選択された導電性薄膜7とn形領域8aとの交点に相当する部位のドリフト部6aにのみ強電界が作用して電子が放出される。つまり、導電性薄膜7とn形領域8aとからなる格子の格子点に電子源を配置したことに相当し、電圧を印加する導電性薄膜7とn形領域8aとの組を選択することによって所望の格子点から電子を放出させることが可能になる。なお、n形領域8aへのコンタクトは、図4に示すようにドリフト部6aの端部をエッチングしてn形領域8aの表面の一部を露出させることにより形成され、電線Wを介して外部回路に接続される。なお、n形領域8aは、キャリア濃度を1×1018〜5×1019cm-3としてあり、n形領域8aと導電性薄膜7との間に印加する電圧は10〜30V程度になっている。
【0026】
以下に、本実施形態における電子源10の製造過程について説明する。まず図6(a)に示す構造を得るために、p形シリコン基板16の主表面上に熱拡散用あるいはイオン注入用のマスクを設け、次に熱拡散技術あるいはイオン注入技術によってp形シリコン基板16内の主表面側にリン(P)などのドーパントを導入することによりストライプ状のn形領域8aを形成し、最後にマスクを除去する。
【0027】
次に、n形領域8aを形成したp形シリコン基板16の主表面上にLPCVD法により膜厚が1.5μmのノンドープの多結晶シリコン層3を堆積することにより図6(b)に示す構造が得られる。ただし、多結晶シリコン層3の成膜方法は、LPCVD法に限定されるものではなく、たとえばスパッタ法あるいはプラズマCVD法によってアモルファスシリコン層を形成した後、アモルファスシリコン層に対してアニール処理を行うことにより結晶化させて多結晶シリコン層3を形成する方法でもよい。
【0028】
その後、多結晶シリコン層3の上にマスク層としてのフォトレジスト層を塗布形成し、フォトリソグラフィ技術によってn形領域8aの上方の部位を開孔することにより図6(c)のようにストライプ状にパターニングされたレジスト層9が形成される。
【0029】
さらに、p形シリコン基板16の裏面に図示しないオーミック電極を形成した後、前記レジスト層9をマスクとして利用し半導体層たる多結晶シリコン層3の表面を平滑化する平滑化工程を行い、続いて陽極酸化処理を施すことにより、多結晶シリコン層3に多孔質半導体層たる多孔質多結晶シリコン層を形成する。平滑化工程は、陽極酸化処理にて用いる図7に示す装置を利用して電解研磨法により行われる。すなわち、フッ酸とエタノールと水とを適量混合した電解液を投入した処理槽31を恒温水槽32の中に入れて電解液の温度を制御し、図6(c)のように導電性基板と多結晶シリコン相3とが形成された被処理部30のp形シリコン基板16と白金電極である対極33とを電解液に浸漬してp形シリコン基板16と対極33との間に適宜の通電時間だけ通電する。このときの電流密度を1.5mA/cm2以下の電流密度とする(なお、通電電流の電流値はガルバノスタット36により制御される)ことにより、多結晶シリコン層3が多孔質化されずに多結晶シリコン層3の表面が電解研磨され、多結晶シリコン層3の表面を平滑化することができる。すなわち、多結晶シリコン層3の堆積時におけるグレインの成長に起因した多結晶シリコン層3表面の凹凸による表面ラフネスを小さくすることができる。
【0030】
陽極酸化処理は、フッ酸とエタノールと水とを適量混合したエッチャントを投入した処理槽31を恒温水槽32の中に入れて電解液の温度を制御し、上述の平滑化工程が終了した被処理物30のp形シリコン基板16と白金電極である対極33とを電解液に浸漬してp形シリコン基板16と対極33との間に通電する。この間には多結晶シリコン層3の露出した部分にランプ34からの光照射を行う。p形シリコン基板16と対極33との間に通電する電流パターンは、ファンクションジェネレータ35およびガルバノスタット36により制御される。つまり、ファンクションジェネレータ35では通電電流の極性および通電時間を制御し、ガルバノスタット36では通電電流の電流値を制御する。本実施形態における電流パターンでは、p形シリコン基板16を正極とする期間と負極とする期間を交互に設けてあり、各期間にそれぞれパルス状の電流を通電する。
【0031】
ここに、多孔質化はp形シリコン基板16を正極とする期間に進行し、多孔質化された領域は電流が流れやすくなる。一方、p形シリコン基板16を負極とする期間には電解によるガスが多孔質化された領域付近に発生し、次にp形シリコン基板16を正極とするときの多孔質化を抑制することになる。つまり、p形シリコン基板16を正極とする期間において多孔質化の進行が速い部位は、次回の多孔質化の際には進行が抑制されることになる。このような動作の繰り返しによって、多孔質化された領域はほぼ均一な厚みになるのである。
【0032】
パルス状の電流の1回当たりの通電期間(つまりパルス幅)や1回当たりの電流密度は、エッチャントの組成およびエッチャントの温度によって適宜に設定される。つまり、エッチャントの組成やエッチャントの温度によって陽極酸化処理時の電荷量が調節される。また、上述のようにフッ酸とエタノールと水とを混合したエッチャントを用いる場合には、エッチャントの温度を0℃から室温の温度範囲に制御し、p形シリコン基板16を正極とする期間には電流密度が1〜200mA/cm2、p形シリコン基板16を負極とする期間には電流密度が−2〜−100mA/cm2になるようにパルス状の電流を通電するのが望ましい。また、正極とする期間においてパルス状の電流の時間幅は1秒以下とするのが望ましい。
【0033】
上述のような陽極酸化処理によってストライプ状の多孔質多結晶シリコン層5が形成される。その後、レジスト層9を除去することにより図6(d)に示す構造が得られる。ただし、多孔質化は多結晶シリコン層3の厚み方向の途中までとしてある。また、陽極酸化処理の際の通電方向を交互に変化させるとともに電流をパルス状に通電したことによって、図2に示すように、多孔質の領域Dpの厚みをほぼ均一にすることが可能になる。
【0034】
陽極酸化処理の後には、ランプアニール装置を用い、乾燥酸素雰囲気中で多孔質多結晶シリコン層5を急速熱酸化(RTO)することによって、酸化した多孔質多結晶シリコン層よりなるドリフト部6aが形成され、図6(e)に示す構造が得られる。ただし、ドリフト部6aにおける酸化した多孔質多結晶シリコン層は厚み方向の途中まで形成されている。
【0035】
その後、ドリフト部6aと分離部6bとを有する強電界ドリフト層6上に、ストライプ状の開口パターンを有するメタルマスクを用いて蒸着法によって、金薄膜よりなるストライプ状の導電性薄膜7が形成され、図6(f)に示す構造の電子源10が得られる。導電性薄膜7は膜厚を10nmとしてある。導電性薄膜7のパターニング方法としては、フォトリソグラフィ技術およびエッチング技術を利用してもよいし、フォトリソグラフィ技術およびリフトオフ法を利用してもよい。
【0036】
ところで、上述の従来の電界放射型電子源では、図14に示すように、ドリフト部6aにおいて多孔質化された領域Dpの厚みが不均一になっていた。これは、従来の陽極酸化処理において、導電性基板に多結晶シリコン層を形成した被処理物を対極とともに電解液に浸漬した状態で、導電性基板の導電体層8bを正極として導電性基板と対極との間に定電流を連続的に通電していることに起因していると考えられる。つまり、多結晶シリコンが多孔質化される速度にはばらつきがあり、先に多孔質化された部分に電荷が集中することになるから、定電流を連続的に通電していると電界の集中する部位の周辺の多孔質化が集中的に促進されるからであると考えられる。
【0037】
上述したように、ドリフト部6aでは多孔質化された領域Dpに存在する微結晶シリコン23の表面に形成されたシリコン酸化膜24において電界がもっとも強くなるから、多孔質化された領域Dpの厚みが不均一であると強電界ドリフト層6の各領域での電界強度にばらつきが生じることになる。つまり、導電性薄膜7の全面から一様に電子を放出させることができず、導電性薄膜7から放出される電子のエネルギに場所による分布が生じることになる。
【0038】
その結果、従来の電界放射型電子源をディスプレイ装置の電子源に用いるとすれば、ディスプレイ装置の画面に輝度むらが生じることになる。また、多孔質の領域Dpの厚みが図14に示すような分布であると、ドリフト部6aの内部では電界強度の小さい部分が多くなって、このような部位では極端な場合には電子の放出がなされず、結局は電子源全体としての電子放出効率を十分に高めることができない場合もある。ディスプレイ装置の電子源では電子放出効率の低いと輝度を高めることができず画面が暗くなる。
【0039】
しかしながら、本実施形態では、上述したように、ドリフト部6aを形成する陽極酸化処理においてパルス状の電流を与え、かつ通電時の極性を交互に反転させたことによって、ドリフト部6aにおいて多孔質化された領域Dpの厚みをほぼ均一にすることができる。その結果、n形領域8aと導電性薄膜7との組として選択されたドリフト部6aでは、ほぼ全面から電子を放出させることが可能になり、多孔質化された領域Dpの厚みが不均一である場合に比較すると、電子の放出効率が高まるとともに電子の放出量が多くなる。
【0040】
また、本実施形態では、半導体層たる多結晶シリコン層3を陽極酸化処理にて多孔質化する前に、多結晶シリコン層3の表面を平滑化する平滑化工程を備えているので、ドリフト部6aの表面が平滑となる。したがって、図1(a)に示すように、導電性基板100の一表面側に形成されるドリフト部6aの表面が平滑なので(つまり、酸化した多孔質多結晶シリコン層の表面が平滑なので)、導電性薄膜7を導電性基板100に対して正極として電圧を印加したときにドリフト部6aの表面近傍に形成される等電位面が導電性基板の一表面にほぼ平行になるから、同図(b)に示すように電子e-の放出方向が導電性基板100の厚み方向(同図(b)における上方向)に揃い、従来に比べて電子の放出方向のばらつきが小さくなり、高精細なディスプレイなど電子の放出方向の許容角度範囲が狭いデバイスへの応用が可能になる。しかも、酸化した多孔質多結晶シリコン層は、多孔質化された領域Dpの厚みをほぼ均一としてあるので、導電性薄膜7を導電性基板100に対して正極として電圧を印加したときに多孔質化された領域Dpにほぼ均等に電界が作用するから、ドリフト部6a内の等電位面が導電性基板にほぼ平行になり、電子の放出方向のばらつきおよび電子の放出量のむらを小さくすることができる。
【0041】
ここにおいて、酸化した多孔質多結晶シリコン層は、表面ラフネスを当該多孔質多結晶シリコン層の厚さ以下とすることが望ましい。電子の放出効率を高めるには、ドリフト部6aの厚さを薄くすることが望ましく、ドリフト部6aの厚さを薄くするほど表面ラフネスを小さくする必要がある。要するに、ドリフト部6aの厚さが厚くなると、表面に凹凸があっても表面近傍の等電位面が導電性基板100の表面にほぼ平行となるが、ドリフト部6aの厚さが薄くなると、表面の凹凸に沿って表面近傍の等電位面が形成されるので、ドリフト部6aの厚さが薄くなるほど表面ラフネスの許容値を小さくする必要がある。
【0042】
また、ドリフト部6aのうち酸化した多孔質多結晶シリコン層は、表面の法線と導電性基板100の厚み方向に直交する仮想表面とのなす角度が、放出電子の到達面(本実施形態では、蛍光体層15の表面)で規定される許容角度範囲内に分布している。ここに、許容角度範囲とは、高精細なディスプレイを実現する際に電子の放出方向に関して許容できる角度範囲を意味している。
【0043】
なお、陽極酸化処理時にはマスクとしてレジスト層9を利用したが、マスクとしてストライプ状に形成した酸化シリコン膜や窒化シリコン膜を利用してもよく、酸化シリコン膜や窒化シリコン膜を利用した場合には、陽極酸化処理後にマスクを除去する工程は不要である。また、マスクとしてストライプ状に形成した酸化シリコン膜や窒化シリコン膜を利用する場合には、酸化シリコン膜や窒化シリコン膜よりなるマスク材料層を反応性イオンエッチング法によりパターニングし、連続して多結晶シリコン層3の表面の平滑化を行うことができるから、平滑化のために別途の装置を用意する必要がなく、低コストで陽極酸化処理前の多結晶シリコン層3の表面を平滑化することができ、結果としてコストアップを抑制することができる。
【0044】
また、本実施形態では、導電性基板としてp形シリコン基板16を採用し、導電体層としてn形領域8aを採用しているが、導電性基板はp形シリコン基板に限定されるものではなく、導電体層もn形領域8aに限定されるものではない。たとえば、ガラスのような絶縁性基板にクロムのような金属薄膜からなる導電体層を設けたものを導電性基板として用いてもよい。強電界ドリフト層6は多孔質多結晶シリコン層5を酸化して形成されているが、多孔質多結晶シリコン層5を窒化して形成してもよく、また、単結晶シリコン、アモルファスシリコン、シリコン以外の半導体を多孔質化しても採用することが可能であり、いずれの場合も上述のようなパルス状の電流の極性を交互に反転させるようにした陽極酸化処理によってドリフト部6aを形成することで、ドリフト部6aにおける多孔質化された領域Dpの厚みをほぼ均一にすることができる。導電性薄膜7の材料は仕事関数が小さければよく、金のほかにアルミニウム、クロム、タングステン、ニッケル、白金、あるいはこれらの金属の合金なども使用可能である。さらに、導電性薄膜7の膜厚を10nmとしたが膜厚についても適宜に選択することができる。
【0045】
(第2の実施の形態)
本実施形態では、ガラス基板の一表面に導電体層としての白金薄膜を設けたものを導電性基板として用いる。ガラス基板の材料は製造過程における処理温度に応じて、石英ガラス、無アルカリガラス、低アルカリガラス、ソーダライムガラスから選択される。また、導電体層として白金を選択しているのはフッ酸に対して耐食性を有するからである。
【0046】
しかして、本実施形態では、ガラス基板である絶縁性基板13の一表面にスパッタ法によって0.2μmの白金薄膜を導電体層8bとして形成し、その後、図8(a)のように、イオンミリングによって導電体層8bをストライプ状にパターニングする。
【0047】
次に、図8(b)のように絶縁性基板13および導電体層8bを覆うようにノンドープの多結晶シリコン層3を0.5μmの厚みになるように成膜し、さらに図8(c)のように、導電体層8bの上の多結晶シリコン層3を残すようにしてRIEによるパターニングを行う。このパターンニングにより強電界ドリフト層6におけるドリフト部6aとなる部位のパターンが形成されることになる。そこで、導電体層8bを一方の電極として第1の実施の形態と同様の多結晶シリコン層3の平滑化処理を行った後、陽極酸化処理を行い、多結晶シリコン層3の多孔質化を行う。多孔質化の深さは多結晶シリコン層3の厚みにほぼ等しくし、多孔質化の領域を導電体層8bにほぼ到達させる。ここで、陽極酸化処理の際に電解液がフッ酸を含んでいても導電体層8bはフッ酸に対する耐食性を有するから導電体層8bが腐食されることはない。陽極酸化処理の後には、ランプアニール装置を用い、乾燥酸素雰囲気中で急速熱酸化(RTO)することによって、酸化した多孔質多結晶シリコン層よりなるドリフト部6aが形成される。
【0048】
その後、図8(d)のように、絶縁性基板13およびドリフト部6aを覆うようにEB蒸着によって金薄膜を形成し、パターニングによってストライプ状の導電性薄膜7が形成され、電子源10を形成することができる。
【0049】
ただし、本実施形態では絶縁性基板13に多結晶シリコン層3を設けているから、電子源の周辺部分で多結晶シリコン層3に半導体素子を形成することによって電子源の駆動回路などを絶縁性基板13に一括して形成することができる。
【0050】
本実施形態ではドリフト部6aにおける多孔質化の領域の厚みが多結晶シリコン層3の厚みにほぼ等しいから、ドリフト層6aにおける多孔質化された部分に全電圧が印加されることになり、印加した電圧を無駄なく電子の放出に利用することができて電子の放出量を大きくすることができる。なお、導電性基板として絶縁性基板13に導電体層8bを設けたものを用いているが、フッ酸に対する耐食性を有する材料であれば白金以外でもよく、他の導電性材料を耐食性材料で保護することにより導電体層を形成してもよい。他の構成および動作は第1の実施の形態と同様である。
【0051】
【発明の効果】
請求項1の発明は、導電性基板と、導電性基板の一表面側に形成された強電界ドリフト層と、該強電界ドリフト層上に形成された導電性薄膜とを備え、導電性薄膜を導電性基板に対して正極として電圧を印加することにより導電性基板から注入された電子が強電界ドリフト層をドリフトし導電性薄膜を通して放出される電界放射型電子源であって、強電界ドリフト層は、表面が平滑化された多結晶シリコン層を多孔質化してから酸化若しくは窒化することにより形成された酸化若しくは窒化した多孔質多結晶シリコン層を有するものであり、多孔質多結晶シリコン層の表面が平滑なので、導電性薄膜を導電性基板に対して正極として電圧を印加したときに多孔質多結晶シリコン層の表面近傍に形成される等電位面が導電性基板の一表面にほぼ平行になるから、従来に比べて電子の放出方向のばらつきが小さくなり、高精細なディスプレイなど電子の放出方向の許容角度範囲が狭いデバイスへの応用が可能になるという効果がある。
【0052】
また、請求項1の発明では、多孔質多結晶シリコン層は、多孔質化された領域の厚みが均一となるように、表面が平滑化された多結晶シリコン層の陽極酸化処理において、導電性基板と対極との間にパルス状の電流を極性を交互に反転して通電することにより形成されてなるので、陽極酸化処理において多孔質化された領域の厚みをほぼ均一にすることができるから、導電性薄膜を導電性基板に対して正極として電圧を印加したときに多孔質化された領域にほぼ均等に電界が作用するから、上記多孔質多結晶シリコン層内の等電位面が導電性基板にほぼ平行になり、電子の放出方向のばらつきおよび電子の放出量のむらを小さくすることができるという効果がある。
【0054】
請求項2の発明は、請求項1記載の電界放射型電子源の製造方法であって、導電性基板の一表面上に形成した多結晶シリコン層を陽極酸化処理にて多孔質化することにより多孔質多結晶シリコン層を形成する前に、前記多結晶シリコン層の表面を平滑化する平滑化工程を備えるので、表面が平滑化された前記多結晶シリコン層を陽極酸化処理にて多孔質化することにより多孔質多結晶シリコン層を形成しているから、従来に比べて強電界ドリフト層の表面を平滑にすることが可能となり、電子の放出方向のばらつきが従来に比べて小さな電界放射型電子源を提供することができるという効果がある。
【0055】
請求項3の発明は、請求項2の発明において、上記平滑化工程は、電解研磨法により前記多結晶シリコン層の表面を平滑化する工程なので、上記陽極酸化処理に用いる装置を利用して電解研磨法により前記多結晶シリコン層の表面を平滑化するから、平滑化のために別途の装置を用意する必要がなく、低コストで前記多結晶シリコン層の表面を平滑化することができ、結果としてコストアップを抑制することができるという効果がある。
【0056】
請求項4の発明は、請求項2の発明において、上記平滑化工程は、反応性イオンエッチング法により前記多結晶シリコン層の表面を平滑化する工程なので、たとえば前記多結晶シリコン層上にシリコン酸化膜やシリコン窒化膜などのマスク材料層を堆積し、マスク材料層を反応性イオンエッチング法によりパターニングすることでマスクを形成した後に陽極酸化処理を行うような場合、マスク材料層のパターニング時にマスク材料層のエッチングに連続して前記多結晶シリコン層の表面の平滑化を行うことができるから、平滑化のために別途の装置を用意する必要がなく、低コストで前記多結晶シリコン層の表面を平滑化することができ、結果としてコストアップを抑制することができるという効果がある。
【0058】
請求項5の発明は、請求項2ないし請求項4の発明において、前記導電性基板として、絶縁性基板の一表面に陽極酸化処理時に用いるフッ酸に対する耐食性を有する導電体層を設けた基板を用い、上記陽極酸化処理は、多孔質化された領域を導電性層に到達させるように前記多結晶シリコン層を多孔質化する処理なので、陽極酸化処理と別途の工程を追加することなしに多孔質化された領域の厚みをほぼ均一にすることができるから、コストアップを防ぐことができるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の第1の実施の形態における電子の放出方向の説明図である。
【図2】本発明の第1の実施の形態を示す断面図である。
【図3】同上の概略斜視図である。
【図4】同上の要部斜視図である。
【図5】同上の断面図である。
【図6】同上の製造過程を示す主要部の工程図である。
【図7】同上の製造装置の概略構成図である。
【図8】本発明の第2の実施の形態を示す主要部の工程図である。
【図9】従来例を示す断面図である。
【図10】同上の動作説明図である。
【図11】同上の原理説明図である。
【図12】他の従来例を示す断面図である。
【図13】同上の動作説明図である。
【図14】従来例の問題点の説明図である。
【図15】従来の問題点を示す断面図である。
【符号の説明】
6 強電界ドリフト層
7 導電性薄膜
3 多結晶シリコン層
21 グレイン
22 シリコン酸化膜
23 微結晶シリコン
24 シリコン酸化膜
100 導電性基板
Claims (5)
- 導電性基板と、導電性基板の一表面側に形成された強電界ドリフト層と、該強電界ドリフト層上に形成された導電性薄膜とを備え、導電性薄膜を導電性基板に対して正極として電圧を印加することにより導電性基板から注入された電子が強電界ドリフト層をドリフトし導電性薄膜を通して放出される電界放射型電子源であって、強電界ドリフト層は、表面が平滑化された多結晶シリコン層を多孔質化してから酸化若しくは窒化することにより形成された酸化若しくは窒化した多孔質多結晶シリコン層を有し、多孔質多結晶シリコン層は、多孔質化された領域の厚みが均一となるように、表面が平滑化された多結晶シリコン層の陽極酸化処理において、導電性基板と対極との間にパルス状の電流を極性を交互に反転して通電することにより形成されてなることを特徴とする電界放射型電子源。
- 請求項1記載の電界放射型電子源の製造方法であって、導電性基板の一表面上に形成した多結晶シリコン層を陽極酸化処理にて多孔質化することにより多孔質多結晶シリコン層を形成する前に、前記多結晶シリコン層の表面を平滑化する平滑化工程を備えることを特徴とする電界放射型電子源の製造方法。
- 上記平滑化工程は、電解研磨法により前記多結晶シリコン層の表面を平滑化する工程であることを特徴とする請求項2記載の電界放射型電子源の製造方法。
- 上記平滑化工程は、反応性イオンエッチング法により前記多結晶シリコン層の表面を平滑化する工程であることを特徴とする請求項2記載の電界放射型電子源の製造方法。
- 上記導電性基板として、絶縁性基板の一表面に陽極酸化処理時に用いるフッ酸に対する耐食性を有する導電体層を設けた基板を用い、上記陽極酸化処理は、多孔質化された領域を導電性層に到達させるように前記多結晶シリコン層を多孔質化する処理であることを特徴とする請求項2ないし請求項4のいずれかに記載の電界放射型電子源の製造方法。
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